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登校拒否の身体的要因に関する研究 補遺

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Academic year: 2021

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3 特別講演

〔書幣樽74謙卑63撰言〕

登校拒否の身体的要因に関する研究 補遺

東京女子医科大学第二病院 小児科 クサ カワ サン ジ

草 川 三 治

(受付 昭和62年10月30日)

Physical Factors in Sckool RefusaレSupplement一 Sanji KUSAKAWA

Department of Pediatrics, Tokyo Women’s Modical College Daini Hospital The number of children showing school refusal has increased remarkably in recent years. Many teachers, psychologists, and psychiatrists have attached importance to the family envi− ronment of these children and their relationship with the teachers and friends at school as well as noted immaturity of the children themselves, and regarded school refusal as a psychogenetic responce induced by these factors. But I consider that school refusal is caused by a problem inherent to these children, more speci丘cally, a disturbance in their circadian rhythm. From this causative hypothesis and various associated findings in school refusers including clinical symp− toms, I propose to de且ne school refusal as a endogenous disease and a symptom of depression of children. The results of our studies on the abnormalities in the circadian rhythrn are presented with my interpretations of our findings.

はじめに この度東京女子医科大学学会第53回総会におい て特別講演をする光栄に浴した.その講演の内容 を本誌に投稿するようにとの命を受けたが,実は 私の教室が昭和62年で20周年を迎えたため,その 記念号をこの雑誌に出版させて頂き,その中にや はりこの登校拒否児の生体リズムについて投稿, 掲載させて頂き,研究成績そのものについては私 も述べたし,また個々の研究は夫々原著として本 誌を始め,他の雑誌に投稿,あるいは掲載ずみで あるので,ここでは個々の成績については殆どふ れず,主としてこの症状,研究成績に対する考え 方を述べさせて頂き,講演で十分述べられなかっ た所を補わさせて頂き,その責を果させて頂く. 登校拒否児の示す症状,性格, および児をとりまく環境 登校拒否を示す児童生徒の大半は,最初の頃は 不眠,腹痛,頭痛,気持ちが悪い,だるい,肩こ 一171 り,立ちくらみなど不定愁訴を訴え,さらに素目 が覚めない.覚めても起きると上記の症状があっ て起きられないということが多い.ところがさら によく1日の生活状況を聞くと,これらの症状は 10時,11時を過ぎる頃になると次第によくなり, 登校拒否に対して理解がないと,往々にしてずる 休み,怠け者のように見える.また学校のある日 はこのような症状があるのに,学校のない日曜日 とか,夏休み中,あるいは平日でも学校に行かな くてよいと決まると,いずれの場合にも症状は消 え失せ,一見別人のようになる.これは単にリズ ムの乱れと身体症状が直接連なっている問題では なく,リズムの乱れ,身体症状,精神症状が微妙 に関連しているとしかいいようがない.この機構 はまだ充分解明されていない.さて外見上全く正 常に見える時でも,よく話を聞き,観察すると分 離不安があったり,友人や教師,他人との出会い に対する不安,勉強そのものに対する不安あるい

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4 は嫌悪感があり,また何をするにも決断がつかず, そのくせわがままで自分の主張を通そうとし,社 会的,情緒的な未熟を示す.これらの症状は「う つ病」の症状と極めて類似しており,リズムの点 と併せて,後に述べるごとく著者はこの登校拒否 という現象は小児のうつ病の一症状と考えてい る.一方において登校拒否のように心理的,精神 的な問題はないが,同じような不定愁訴があり, しかも日内変動もあるものに起立性調節障害(以 後0,D.と略)というものがある.筆者はこの0.D. も精神,心理的な問題は隠れていて,身体症状だ けが前面に出ているうつ病の一種と考えている し,身体症状,精神症状が共に存在する普通の登 校拒否,さらに精神症状が強くなり,逆に身体症 状が殆ど隠れてしまったような精神病に近い状態 まであると思う. さて登校拒否を示す児童の家庭環境の問題につ いてふれておきたい.いろいろな報告があるが, 筆者も教室の田代らと共に調査を行った.それに よると,家庭の状況は特別のものはなく,父親の 職業,家族構成なども,特に何かあるというわけ でもない.しかし文部省の資料によると,両親の 性格としては,父親が社会性に乏しく,無口で内 向的であり,男らしさや積極性に欠け,自信欠如 であるといった場合には,子供の成長過程で御手 本になる父親像を子供に示してやることができな いと述べ,逆に専制的で,仕事中心で子供と接触 のない場合にも,モデルとなる父親像を子供に与 えられないことが多いと述べている.さらに,母 親が不安傾向を持ち,自信欠如,情緒未成熟,依 存的,内気であるといった場合には,一般に子供 に対する態度が過保護なものにな:り易く,以上に 述べた両親の性格傾向と過保護的養育は,登校拒 否の重要な背景の一つと考えられると記載してい る.これには親子共にうつ的な遺伝因子の存在が 示されているとも思われるし,これらの環境が遺 伝的素因と相まって,リズムの異常を惹き起こす 引き金になるとも考えられる. 登校拒否児に見られる概日 リズムの乱れとずれ 0.D.の研究班ができた昭和30年代の終わり頃, 尿中塩類の排泄リズムの異常が0.D.に見られる ことを報告して以来,他にもいろいろリズムの乱 れがあるはずだと思い続け,また登校拒否が問題 になってからも,これにはリズムの乱れが根源に あるはずだと思い続けて来た.漸く文部省科学研 究費補助金も得ることができたし,教室の研究ス タヅフも揃ったこともあり,この3∼4年間いろ いろの成績を出すことができた.本篇は原著では なく,講演内容の記述であるので,1つ1つの成 績は省略させて頂くが,次の点について24時間の 重日リズム,あるいは睡眠との関連を研究した. 項目は次のとおりである. 1.尿量および尿中塩類排泄量 2.尿中カテコールアミン排泄量 3.終夜脳波 4.皮膚電位水準 5.夜間睡眠時の深部体温 6.血中βエンドルフィン,およびコルチゾー ルの濃度 7.心拍数 以上どの項目を見ても,登校拒否児にはリズム の異常,つまり24時間±4時間のリズムがなく, もっと長い周期になっているとか,ピークが正常 と異なった時刻にあり,1日の中で後へずれてい るといった異常を示すものが非常に多く見られ た.対照としては採血を必要とするようなものは ボランティアの高校生,大学生について行ったが, 他の場合は,ある疾患で入院し,それが治癒して 退院の直前,その既往歴を聞いて不定愁訴の殆ど ない児童を選んだ.この点では正常というものを 選ぶことは大変難しく,比較的症状の少ない者と しか言えない.いずれにしても,睡眠の脳波にし ても,深部体温にしても,登校拒否児には正常児 と明らかに異なるものがあり,また治癒して登校 できるような:状態になった時それらの成績が正常 になることも判明した. 登校拒否児におけるリズム異常の意義 以上のように,登校拒否児はいろいろの点から その概日リズムが乱れ,ピークが後へ数時間以上 遅れたり,24時間+4時間以上の長い周期になっ てしまっていることがわかった.他のホルモンの 一172一

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5 検索や,いろいろな生理的な現象は,どのリズム を調べても恐らく同じ現象が見られると思う.こ こでこのリズムの乱れは何故起こり,またどうい う意味を持っているのであろうかP 生体のリズ ムに関する研究は最近目覚ましいものがあり,定 日リズムの中枢も視交叉上瞼にあることは動物で 確認されている.さらに松果体も無縁ではなぐ, 殊に鳥類ではこの松果体がリズムの中枢であるこ ともわかった.生理的な問題として摂食,生殖, 睡眠,エンケファリン,エンドルフィン分泌,ゴ ナドトロピン分泌,甲状腺ホルモン,成長ホルモ ン,副腎皮質ホルモンなど,広範囲にわたって概 日リズムに関する研究が行われている.しかしこ れらの研究は大部分生理的な観点であり,病態生 理学的なものは少なく,うつ病を中心とした精神 医学,高血圧や不整脈,心筋梗塞などと旗日リズ ムの関連,小児においては夜尿症や起立性調節障 害との関連などが述べられているに過ぎない.う つ病と概日リズムの問題は古くから論ぜられ,う つ病においてはその症状に日内変動があり,いろ いろな点でその概日リズムの乱れやずれがあると 言われている.筆老は既に述べたごとく,症状か ら言っても,このリズムの点からも,登校拒否と いう現象はうつ病の症状の一つと考えたいのであ る.うつ病という概念は人によって色々な見解が あり,心身医学という立場の方,心理学者,精神 病学者の一部の方は,どちらかと言えばこのうつ 病というものを狭く考え,またこの言葉の使用を なるべく避けていられるように思われる.しかし 筆者はこのうつ病という概念は非常に広範囲なも ので,病気というより,体調とそれに伴う意欲や 感情などの精神状態,しかもそれを単に一面的に 捕らえることなく,ある期間これは時に何年とい う長期間のことも,数週間という短期間のことも あるが,その間を全人的に捕えたすべての状態を, 躁とうつと,その中江というような分け方として 捕えた概念と考えたく,内因的なものとしてリズ ムが乱れ易く,あるいは乱れたりズムがすぐ1日 置2日で戻らず,ある期間続く時に表面化する状 態と考えたいのである.したがって,生活の中で リズムが普通なら確立,固定してくる幼児期以後 に発現する問題であり,正常と異常というように はっきり区別できるものではなく,連続的なもの でその境はないと考えたい.ただ内因という考え 方から見ると,遺伝的な素因によって,リズムが 乱れ易いものとそうでないものがあり,そこへ環 境因子,これは心理的なものだけでなく,感染症 その他の普通の病気,さらに季節や気候など,物 理的な因子が加わってうつ的な状態に陥っていく というのが筆者の考えである. 登校拒否の治療と予防 今まで述べたとおり,登校拒否というのは身体 の調子,環境の問題が重なり合って発現して来た うつ病の一症状と考えるので,治療は当然抗うつ 剤を用いることになる.しかし環境因子として親 子の問題や学校内での問題などがあり,それによ る心因反応的な要素も無視はできないので,それ ぞれ各個人の状態に応じたカウンセリングも必要 であろう.しかし基本的には内因があり,2年も すれぽ自然に治癒に向かうものが多いと思う.た だその間の勉学の遅れ,社会への適応の遅れなど があるので,体調が元に戻るまでその点に留意し た対応が必要と思う.無理をする必要はないが, 例えば学校に行けなくても,本人が望むなら塾に は行かせる(夕方から夜の塾には行く子供が多い) とか,登校拒否の状態が固定してしまって昼の学 校への復帰が難しいと判断した時は,夜間の学校 に行かせるのもよいし,家で勉強が少しでもでき るようなら家庭教師によって遅れを防ぐなど何等 かの手を打つことも必要と思っている.日常の会 話や朝起き,食欲など家庭内の生活の様子から体 調,精神状態を判断し,多少無理にひっぱってで も学校に行かせることが良い結果を招く病態もあ るし,逆に何もせずそっと好きなままにさせてお く方がよい時期もある.もちろん投薬量を加減し, 患者のいうこともよく聞いてやり,あせらずじっ くり対応することが必要である.抗うつ薬として は,私はトリブタノールを第一に,次いでヒルナ ミン,プロチアデン,トフラニール,アナフラニー ル等を用いていることを加えておく. 最後に予防という点についてふれておきたい. リズムの乱れが基本にあるので,その同調因子で 一173一

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6 ある食事とか,家庭の生活習慣は治療や予防に重 大な意味を持つ.殊に日常の規則正しい生活習慣 の確立は極めて重要で,育児指導の中で母親をよ く教育し,また心理的な面では幼児期から何か1 つの点でもよいから長所を見つけて褒めてやり, 自信を持たせることが非常に大切だと思ってい る.その上で何か少しでもうつ的な症状が出れば, 早い目に投薬をすれぽ投薬期間も短くてすむし, それ以上悪くならず,身体症状だけで終わってく れることもあると思う.重ねて言うが,乳児期か らの生活習慣が予防に充分役立つと考えている. おわりに 登校拒否について,概日リズムの異常という点 から私の考え方を述べた.色々な御批判は当然あ ると思う.御教示頂けれぽ幸甚である.教室員各 位の御協力に感謝する. 文 献 1)草川三治,丸田桂子,大塚貞子:小児における24 時間リズムに関する考察.東女医大誌36: 683−689, 1966 2)丸田桂子:起立性調節障害における尿中塩類排泄 リズムに関する研究。東女医大誌 39:480−493, 1969 3)山崎とよ:深部体温計による身体各部深部温の連 続監視法とその臨床的評価一臨床編.東女医大誌 51:262−268, 1981 4)文部省:生徒指導資料第18集,生徒指導研究資料 第12集,生徒健全育成をめぐる諸問題一登校拒否 問題を中心に一.昭和58年12月 5)千谷七郎:そう欝病の病態学,精神経誌 60: 1164−1174, 1958 6)高坂睦年,川上正澄編:生体リズムの発現機構. 「体内時計の医学への応用」理工学社,東京(1984) 7)梅津亮二,草川三治:登校拒否児の生体リズムに 関する研究.病態生理 6:230−232,1987 8)草川三治:登校拒否の生体リズムに関する研究. 昭和61年度科学研究費補助金(一般研究B)研究 成果報告書(59480240),昭和62年3月 9)草川三治:登校拒否の生体リズム.東女医大誌 57 :1108−1114, 1987 一174一

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