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民法と信義誠実の原則(3)(完) : 最近の判例を中心として 利用統計を見る

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民法と信義誠実の原則(3)(完) : 最近の判例を

中心として

著者名(日)

鈴木 重信

雑誌名

東洋法学

38

2

ページ

129-166

発行年

1995-03-10

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000530/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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民法と信義誠実の原則日

   −最近の判例を中心として

  目  次    契約締結準備段階における信義則の適用    弁済の提供と信義則︵以上三六巻二号︶    同時履行と信義則    留置権と信義則    契約解除と信義則    相殺と信義則    時効の援用と信義則 ㈹  因  ㈲  四  日  口  e 一 はじめに 二 最近の判例の検討 東 洋 法 学 一二九

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民法と信義誠実の原則日   の 継続的契約と信義則︵以上三七巻二号︶   σ0 請求権の減額と信義則   ω その他の場合における信義則の適用  三 信義則を適用する判例の展開に対する私の見解  四 まとめ︵以上本号︶ 一三〇  α◎ 請求権の減額と信義則  継続的契約関係から生ずる債務を減額する方法としては、信義則による方法と身元保証二関スル法律の類推適用に よる方法とがあることは前述した。身元保証二関スル法律五条が保証人の保証責任の限度を所定の事項その他一切の 事情を斜酌して画しようとするのは、身元保証人の責任が使用者のいうままに無制限に拡大するのを食い止めようと するものである。その制限に関する事項等は、公平の原則ないし信義則に基礎をおくものであることは疑いない。そ の意味で、継続的契約関係から生ずる債務を減額する方法として右の二つの方法があるといっても、その実質を見れ ば、その基礎は信義則によるものであるといえよう。  そこで、この欄では、継続的契約関係から生ずる債務以外の債務︵債権者から見れば債権ないし請求権︶の減額が 問題となった事例について見ることにしよう。  ⑳ 東京地判平成2・10・26金融・商事判例八七二号一四頁  この事件は、Yが多額の債務を整理するため、その所有土地を売却することにし、その売却の斡旋を不動産仲介業

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者Aに依頼した。当時地価が急騰していたので、ビルの賃貸等を業とするXは、転売目的で、Aの仲介のもとに買い 受けることにした。そして、YとX間に昭和六一年一一月二日代金二億三五〇〇万円として売買契約が成立した が、その時、Yは、隣地の地主Bの所有建物が売買対象地に越境しているので、売買物件引渡しまでに、越境建物を 取り壊し境界線から建物を後退させるとのBの承諾書を取得し、これをXに交付するとの特約条項を定め、契約︵特 約条項を含む︶に違背して相手方より売買契約を解除されたときは、その相手方に対し売買代金の二割相当額を支払 うとの内容の違約条項が定められ、手付金二億二七〇〇万円が支払われた。ところが、Yは、約定した物件引渡時期 である昭和六二年四月三〇日を過ぎても、Bの承諾書を取得してXに交付することができなかった。そこで、Xは昭 和六二年六月一七日Yの債務不履行を理由として売買契約を解除し、手付金の返還と違約金二億二七〇〇万円等の支 払を請求する。  判決は、Xは本件土地の履行期である昭和六二年四月三〇日に残代金をYに提供して本件承諾書の交付を求めたが、 Yはこれを交付せず、Yは本件土地を右越境部分を除去して引き渡すことができず、その後同年五月二度にわたって Yに履行を催告したが、Yは履行しなかった。Xは同年六月一七日Yの債務不履行を理由に本件売買契約を解除し、 手付金二億二七〇〇万円の返還と本件違約条項に基づく違約金二億二七〇〇万円の支払を請求したものである。そし て、この違約金二億二七〇〇万円の支払請求について検討するに、本件違約条項は賠償額の予定と解するのが相当で あるところ︵眠雑到麗︶、裁判所は約定された違約金の額︵損害賠償の額︶を増減することができない︵紙融期に齢︶とされ ている。しかしながら、賠償額の予定に関する約定も、法律上の他の要請を免れるものでない。約定の内容が当事者

    東洋法学       

=三

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    民法と信義誠実の原則国       一三二 にとって著しく苛酷であったり、約定の損害賠償の額が不当に過大である等のときは、公序良俗に反するものとして、 その効力に影響が及ぶこともあるし、また、約定の損害賠償の額を請求する者が損害の発生等につき過失があり、こ れを斜酌しなければ不公平であるときは、過失相殺により、その効力の一部が否定され、その額が減額されることも あり、さらに、約定の内容、約定がなされるに至った経緯、当事者の関与の状況等の個々の事案の事情において、約 定の効力をそのまま認めることが不当であるときは、信義誠実の原則により、その約定を全部無効とし、又はその約 定の一部を無効とし、その額を減額することができるものと解するのが相当である。  これを本件について見ると、本件違約条項で合意された違約金は売買代金の二割相当額である金二億二七〇〇万円 であるところ、そもそもXが本件土地を購入しようとした目的は、当時本件土地周辺の土地の価格が急騰し、それに 乗じて本件土地を他に転売して利益を得ようとしたというものであり、そのために、Xは、不動産取引の専門業者で ありながら、本件土地の境界等本件土地の状況も事前に十分確認することもなく、短時日のうちに急遽本件売買契約 を締結するに至ったものであり、本件土地、建物のような高額な不動産の売買に当る不動産業者としては通常有すべ き慎重さを著しく欠いていたこと、Xは本件土地の価格が値下り気味になると、本件売買契約の履行期前であるにも 拘らず、本件売買契約の解除あるいは合意解除を前提とした言動をとっていたこと、Xは本件売買契約の履行期前、 本件手付金の返還のほか、これに対する金利分と利益分︵本件手付金の約二〇パーセント︶を支払えば本件売買契約 を白紙撤回してもよい旨をYに明らかにしていたこと、他方、Yは本件土地、建物を売却せざるを得ない状況の下で、 十分な配慮もないまま本件売買契約を締結するに至ったものであるが、その後本件承諾書を取得することができない

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など売主としての義務をすべて履行することができなかったものの、その履行に向けて努力をしているし、本件売買 契約の解除の理由となったYの不履行の程度は前記の程度のものであったこと等、XとYの本件売買契約締結の目的、 経緯、その後の履行の状況、Yの債務不履行の程度、本件売買契約を巡るXとYの利害関係等右認定の諸事情に照ら すと、XがYに対し、本件違約条項に基づき、違約金として約定の金二億二七〇〇万円全額を請求することができる とすることは、XとYとの間の衡平を著しく損ない、不当であり、本件売買契約を巡る信義誠実の原則に反するもの といわざるを得ないから、許されないというべきであって、右認定の諸事情を考慮すると、XはYに対し、本件違約 条項に基づく違約金としては、右約定の範囲の違約金のうち三割に相当する金六八一〇万円の支払を請求することが できるものと解するのが相当であり、衡平の理念に適うものというべきであると判示し、Xの本件違約条項に基づく 違約金二億二七〇〇万円の請求中その三割に当る金六八一〇万円等の支払を命じた。  契約当事者が約定した予定賠償額を裁判所は増減することができない︵眠雑到麗︶。その額が実際の損害と著しく異な っていても増減を許さないというのが民法起草者の見解であった。しかし、現在の判例・学説は、不相当に過大な予 定賠償額を公序良俗違反ないし暴利行為を理由として、予定賠償額を一部無効とすることによって、その減額を認め ている︵既槻膳畝ル駐鰍︶。本判決は、右違約条項に基づく違約金の請求が約定の三割を超える範囲においては信義誠実の 原則に反するものとして許されないとし、右三割の範囲において請求を認容したものである。  継続的供給契約に基づいて発生する不確定な債務について保証がなされた場合には、その保証責任は合理的な範囲 に制限されると解すべきことについては、前述した。そうすると、本件のような場合において、予定された賠償額が

    東洋法学      一三三

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    民法と信義誠実の原則日       二二四 実際の損害に比して著しく過大であるときは、それを実損害にまで減額すべきことになろう。本件の場合はそれが三 割ということなのであろう。  ⑳名古屋地判昭和59・2・24判例時報二一八号一九五頁  この事件は、Yは、昭和五三年九月一日X会社に雇傭され、自動車運転手として運送業務に従事してきた者である が、昭和五三年一一月二五日岐阜県多治見市大沢町内県道において運転中のX所有の大型トラックを過失により路肩 から落輪させて車を転倒し、車両損傷、積荷のアスファルト流出等の損害が生じた。XはYに対し、右車両損傷につ いては民法七〇九条により損害賠償として、アスファルト流出については荷主に対する損害賠償を履行したことに基 づき民法七一五条三項により求償権行使として、請求する。  判決は、使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての 損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用 者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配 慮の程度、その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、 被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるにとどまるものと解すべきである。  ところで、eXは、運輸大臣の免許を受けた一般区域貨物自動車運送事業を営む株式会社であって、アスファルト ローリi車五台︵稼働していたもの︶を含み一〇台の業務用車両を保有し、アスファルトローリー車の運転手として 四人を使用していたが、経費節減のため、アスファルトローリー車が大変高価な車であるにも拘らず、これにつき自

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動車損害賠償責任保険には加入していたが、任意の対物賠償責任保険及び車両保険には加入していなかったこと、口 Yは二週間の試用期間の後、昭和五三年八月末から正規に運転手としてXに採用され、アスファルトローリi車︵本 件車両︶の運転業務に従事していたが、早い時は午前二時とか三時に、通常でも六時ないし七時半ころに出勤し、概 ね夕方まで会社にいて翌日の指示を受けるという勤務形態であり、本件事故後の昭和五三年一二月を例に取れば、時 間外勤務二四時間四〇分、休日勤務一五時間三〇分という勤務状態であったこと、◎Xは、本件車両により事故前約 三か月間︵昭和五三年九月一日から同年一一月二五日まで︶で約三九〇万円の売上げを得ており、他方Yは本件車両 を運転してアスファルトを運搬する業務に従事して、一か月当り手取り額で約一六万円ないし一九万円の給与︵税込 みでは平均約二〇万円︶を支給されており、その勤務成績は普通であったこと、四本件事故の前後に他にもX会社で は時々従業員の過失による事故があったが、Xは他の件では従業員に対して損害賠償請求をしていない︵但し、今ま での事故では本件事故が損害は一番大きかった︶ことが認められる。右の各事実に本件の事故態様︵特にYの過失が 軽過失にとどまること︶を総合して考えると、Xが直接被った損害及び第三者に対する損害賠償義務の履行により被 った損害合計金二四〇万二〇四〇円のうち、XがYに対して賠償及び求償を請求しうる範囲は、信義則上右損害額の 二割である金四八万〇四〇八円にとどまるものと認めるのが相当であると判示し、XのYに対する請求中右金員等の 支払を求める部分を認容し、その余の支払を求める部分を棄却した。  民法七一五条三項の求償権の法的性質については、現在の多数説は、使用者と被用者の間に雇用、委任等の契約関 係が存在するときは債務不履行、それらの契約関係が存在しないときは不法行為に基づく損害賠償請求権であるとさ

    東洋法学       

二二五

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    民法と信義誠実の原則日       一三六 れている︵謙鵜蒔騨イ砿桁賄︶。そうすると、求償権は、使用者が直接損害を被ったことに基づく被用者に対する損害賠償 請求権と同一の性質のものと解すべきことになる。そして、古くは使用者貢任の認められる場合には、被用者自身も 被害者に対し常に直接かつ全面的に損害賠償責任を負うのであるから、使用者によって被害者に賠償がされたときは、 使用者は究極の賠償義務者である被用者に対し全額求償できるとされていた。しかし、近時は、使用者は被用者の活 動によって利益を得ているのであるから、使用者の被用者に対する求償権については制限を設けるべきであるとの考 え方が拾頭し、これが近時の通説となっている︵騒玖縮儲響融鯉灘塑耐尋赫礪即制︶。右の求償制限の理論構成については、 いろいろの考え方が試みられている︵鵬軸凱蹴杣璽曝艶漸倒例照説︶。  最判昭和五一・七・八民集三〇巻七号六八九頁は、石油等の輸送及び販売を業とする使用者が、業務上タンクロー リーを運転中の被用者の惹起した自動車事故により、直接損害を被り、かつ、第三者に対する損害賠償義務を履行し たことに基づき損害を被った場合において、使用者が業務用車両を多数保有しながら対物賠償責任保険及び車両保険 に加入せず、また、右事故は被用者が特命により臨時に乗務中生じたものであり、被用者の勤務成績は普通以上であ るなどの事実関係の下では、使用者は、信義則上、右損害のうち四分の一を限度として、被用者に対し、賠償及び求 償を請求しうるにすぎないと判示したが、本判決は、この最高裁判例に依拠したものであり、求償制限の根拠を信義 則に求めたものである。  民法七〇九条、七一五条一項の関係については、不法行為につき被用者は究極の賠償義務者であるから、使用者が

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賠償した場合には、その全額を被用者に求償することができるとの古い考え方も納得できないわけではない。しかし、 社会生活の共存性、特に使用者は被用者の活動を利用して利益を得ている場合には、それによって社会的に生ずる損 害ないし不利益を使用者自身も具体的事情に応じて相当程度負担すべきであるとの考え方が、今日の一般市民に受け 入れられるものと思う。その根拠として、民法一条二項の一般条項である信義則を根拠に使用者の被用者に対する求 償権の範囲を画することに私は賛成する。  ⑳ 大阪高判昭和56・2・10判例タイムズ四四六号=二七頁  この事件は、Xはスポーツ用品の卸売を業とする会社であるが、昭和四七年一〇月三一日Aとの間で、同商品の継 続的取引契約を締結し、Aに対して同商品を売り渡すこととし、AがXに対し右契約により負担する債務につき、A の妻の父であるYが連帯保証した。XはAに対し、右契約に基づき昭和五二年入月一コ日から同五三年九月二]日ま での間に、計一三八一万二壬二五円相当の商品を売り渡し、これに対し、Aは計三六八万七八八七円を支払い、昭和 五三年九旦二日現在の売掛代金残債権は一〇一二万三四四八円である。そこで、XはYに対し、連帯保証債務の履 行として同額の金員の支払を請求する。  これに対し、Yは、連帯保証人の責任の範囲を相当な限度に減縮すべきことを主張した。第一審判決は、Yの右減 縮の主張を容れず、Xの請求全額を認容した。  本判決は、Yは住居地町役場の税務課長をしていたものであって、本件契約が問屋との継続的取引のためのもので あることや連帯保証の意味も十分理解して本件売買契約書の連帯保証人欄に署名押印したものであるが、娘の当時の

    東洋法学      一三七

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    民法と信義誠実の原則日       一三八 夫Aからの依頼ということもあってXとの具体的取引内容につきなんら説明を求めず、また契約文言にさしたる注意 も払わずに気やすくこれに応じたこと、XとA間の取引は当初順調であったが、その後昭和五三年二月ころから経営 が悪化して次第に同人の支払状況が悪くなり、同年一一月二〇日不渡手形を出すに至ったこと、Aは同年春店名を旭 スポーツと改め、代表者もB名としたが、このころから未払額が急速に増加していったこと、Xは取引停止等の措置 をとるとAが直ちに手形の不渡を出し、売掛金の回収もできなくなってしまうことから、Aの求めるまま商品を納品 し取引額も増えていったこと、その間XはYに対し取引状況、未払額の増加等を連絡することもなく、一方、この間 の事情を知らないままYは当然のことながらXに対し解約の申入等の措置を講じないまま経過し、仮差押命令を受け てはじめてAが多額の債務を負っていることを知ったことが認められる。右のとおり、継続的取引につき五年余を経 過した後買主の信用状態が相互の信頼を破る程度に悪化し、売主側は取引を続けるか否かの自由を有しているにも拘 らず、保証人に更に多額の負担を被らせる結果を招来するに至るような取引を継続するには、あらかじめ保証人の意 向を打診する等の措置をとるべき信義則上の義務があるというべきで、これを怠り漫然取引を継続して多額の売掛金 を発生させるに至った等本件に現われた諸般の事情を斜酌すると、Yの保証債務の範囲は、信義則上、Aの負担する 売買残代金債務一〇二一万三四四八円のうちその二割を控除した八〇九万八七五八円を限度とするものと認めるのが 相当であると判示し、Xの請求を全額認容した第一審判決を右の限度で認容すると変更した。  前記㈹継続的契約と信義則の欄で取り扱った継続的契約の場合は、本件に則していえば、XとAとの契約に基づい てXがAに対して請求する範疇の事件を取り扱ったのであり、本件のように他人の債務を無限定に保証した保証人の

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保証責任の範囲を問題にしたものではなかった。しかし、保証されている債務が継続的取引に基づく債務であり、そ の継続的取引が基になっている点において、右㈹の場合の主債務者の責任を限定する場合と似通った考え方が基礎と なることは否定できないであろう。  本件のような保証は、いわば継続的保証ともいうべきもので、身元保証人の保証責任と共通するものがある。継続

的保証責任については、そこにおのずから合理的な限度があるというのが学説の見解であり

︵撮憾喋新繍儲儲雛鞭調批配百ハ︶、判例の見解もこの方向で確定している︵撮期昭賄鐸−σM墾.譲瑚簸裁︶。本判決はこのような見 解に基づいてなされたものであり、その理由として挙げるところは全面的には支持できないが、大筋においては正当 といえよう。  この範疇に属する判例としては、大阪地判昭和59・12・24金融法務事情一〇九九号四五頁があり、信用金庫取引契 約に関するが、その要旨は、期間の定めのない根保証契約においては、契約締結後に主債務者の資産状態が極度に悪 化し危殆に瀕するなどの事情の変更があった場合には、債権者が債務者に新たに融資するには、あらかじめ保証人に 右事情を通知するとともに、新規貸付について保証意思の有無を確認することが必要であり、債権者がこれを怠った ため、保証人において右の事情の変更を知らず、これを知っておれば当然になし得たはずの保証契約の解約権行使の 機会を失わせた場合には、債権者は信義則上右事情変更後の新規貸付につき保証人の責任を追求することができない ︵判決要旨︶としたもの、神戸地判平成元・2・9判例時報二三八号一一〇頁は、包括根保証については、保証契 約が締結されるに至った事情、債権者と債務者との取引の態様・経過、取引にあたっての債権者の債権確保のための

    東洋法学       

=二九

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    民法と信義誠実の原則口       一四〇 注意義務の程度、その他の一切の事情を斜酌して、信義則に照らし、合理的な範囲に保証人の責任を制限すべきであ る︵判決要旨︶としている。しかし、次のようなものもある。        ︵8︶  ⑳大阪地判昭和58・1・28判例タイムズ四九八号一六四頁  この事件は、X︵全国農業協同組合連合会︶がAとの間で、昭和三八年乾椎茸の継続的売買契約を締結し、Yは右 契約に基づきAがXに対して負う債務につき保証限度の定めなく連帯保証した。その保証期間は一か年と定められて いたが、当事者の一方からなんらの意思表示がなされない限り更新されると定められていた。そして、XからもYか らも事実、なんらの意思表示がされず、連帯保証契約は何度も更新され、実質的には期間の定めのない継続的保証と 同様になった。そして、昭和五四年九月一二日現在において、XのAに対する売掛債権は合計九四九一万四三二六円 となり、これに対し、Aから三九九六万五〇四五円の弁済があり、売掛債権残額は五四九四万九二八一円である。そ こで、Xは連帯保証人Yに対し右金員の支払を請求する。  これに対し、Yは、信義則によりYの保証責任は減額されるべきであると抗弁したものである。  判決は、XはAとの取引額を三五〇〇万円から七〇〇〇万円に、更に九〇〇〇万円に増額する際、増担保をしてお らず、その点ルーズと言わざるをえないが、他方Yは昭和五二年七月には取引限度が三五〇〇万円に増額されたこと を知りながらXに対し連帯保証契約の更新拒絶をしなかったうえ、YがA会社の取締役であり、YはA会社の創業以 来の取締役であり、その資力、信用が十分であった。またYとAとの関係、関与の内容、程度がY主張のとおりであ るが、XにおいてYが取引の実情を把握できなかったことを知っていたと認めるに足りる証拠はないから、Xが取引

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額の増額の際ルーズな取扱いをしており、またYに取引が拡大されたことを通知しなかったとしても、それを責める ことはできないものと解されると判示し、Yの抗弁を排斥し、Xの請求を全部認容した。  この判決の結論は前述の各判例が具体的な事件において出した結論とは反対のものであるが、信義則の適用等一般 条項の場合には、具体的な事実関係が問題となるのであり、事実が異なれば結論が逆になることがあるのは当然とい えよう。そういう意味で、この判決は参考になろう。  ㈲ その他の場合における信義則の適用  以下には、請求権の存否ないし請求の可否につき、信義則が適用されて裁判の結論が導き出された事例を見ること にする。  ⑳ 大阪地判平成元・4・20判例時報二二二六号一三九頁  この事件は、予備的請求原因に基づく請求が問題とされ、それが認容されたものであるので、その部分に限定して 述べる。Xの二女AはYと昭和五二年二月一三日婚姻し、当時Yは歯科技工師であったが、歯科医師となる志望が捨 て難く、二回目の受験で大学歯学部に入学し、昭和六〇年に歯学部を卒業し、同年歯科医師国家試験に合格し、歯科 医師となった。XはYの依頼により、同人に対し、大学受験のための費用、大学入学後は在学中の生活費、学費、小 遣い等の生活援助金として八五八万一〇〇〇円を贈与した。しかし、この贈与は、YがXの娘Aの夫であるという親 族関係に基づき、Yに対する特別な愛情とYが歯科医師となって娘Aを幸せにしてくれることへの強い期待からなさ

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一四一

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    民法と信義誠実の原則日       一四二 れたものであるのに、Yはこの愛情と期待を裏切り、昭和五五年六月ごろから大学の同級生と情交関係をもつように なり、歯科医師国家試験に合格した直後の同六〇年五月二七日にAに対し右事実を告げ、相手の女性が妊娠三か月と なったから別れてほしいと離婚意思を明確にし、一方的に婚姻関係を破綻させた。Xは、右贈与等をした結果、無収 入のうえに貯えを使い果たし病気療養中である。これに対し、Yは相手の女性と同棲を続け、その間に二児をもうけ、 同六三年から東京都において歯科診療所を開業し、月四〇〇万円以上の収入をあげている。Yの現在あるのは、Xの 前記贈与のおかげであり、この贈与による利益を右背信行為にも拘らずYに維持させることは社会正義に反し、著し く信義則に反する。Xは昭和六三年一〇月二一日付をもって本件贈与契約を撤回する意思表示をし、その意思表示は 同月二七日Yに到達した。このような事実関係のもとに、XはYを相手に、不当利得返還請求として八五八万一〇〇 〇円等の支払を請求する。  判決は、贈与が親族間の情誼関係に基づきなされたにも拘らず、右情誼関係が贈与者の責に帰すべき事由によらず して破綻消滅し、右贈与の効果をそのまま維持存続させることが諸般の事情から見て信義則上不当と認められる場合 には、贈与の撤回ができると解するのが相当である。これを本件について見るに、前記贈与の基礎となっていた情誼 関係が、Yの一方的な背信行為によって完全に破綻消滅し、しかも、大学在学中の六年間にわたり贈与を受けていた Yは、歯科医師試験に合格し、Xの経済的援助が不要になるや否や、不貞の事実を明らかにしAに対し離婚を申し出 て娘の幸福のためYの合格を待ち望んでいたXとの間の右情誼関係を破壊したものであることなど諸般の事情を考慮 すれば、本件贈与の効力をそのまま存続せしめることは信義則上認めることができず、Xに贈与の撤回権を与えるべ

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きである。それゆえ、Yは現存利益を不当に利得するものであって、本件で贈与された金員はいずれも生活費ないし 学費に費消されたものであるから、その全額が現存利益であると考えられるので、Yは、本件贈与を受けた七五八万 一〇〇〇円及びこれに対する撤回権行使の日の翌日である昭和六三年一〇月二八日から支払済まで民法所定年五分の 割合による遅延損害金を支払うべき義務があると判示し、YがXに対し右金員を支払うべきことを命じた︵請求中一 〇〇万円分は棄却︶。  民法五五〇条によれば、本件のように書面によらざる贈与は、各当事者が自由に取り消す︵撤回の意味︶ことがで きるが、その贈与が履行されてしまうと、履行の終った部分については贈与の取消はできないとされている。そうす ると、この条文どおりに解釈すると、XのYに対する本件贈与は履行を終っているので、Xの請求するその全部につ き取消︵撤回︶ができないかのようである。  ドイツ民法五三〇条は、贈与は受贈者が重大な過誤により贈与者又はその近親に対し重大な忘恩の責に任ずべきと きは、これを撤回することができると規定し、フランス民法九五三条は、生存者間の贈与は、その下に贈与を行った 条件の不履行を事由として、忘恩一畠声江9号を事由として、及び子の事後出生を事由としてでなければ、撤回するこ とができないと規定している。本件のYの行為は右各規定に該当し贈与の撤回のできる場合であることは明らかであ るので、ドイツやフランスではXのYに対する贈与を撤回し、その贈与履行部分を不当利得として返還請求できるこ とは疑いない︵升列”規賊瀬尼⊥螺紅項、︶。  右の日本の民法規定と独仏の民法規定を本件事案に則して対比した場合には、おそらく何人も、XのYに対する本

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一四三

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    民法と信義誠実の原則日       一四四 件請求を認容すべきであると考えるのではないかと思う。確かに、日本民法五五〇条の規定上は、既に履行の終った XのYに対する贈与の撤回を認めることは困難であろう。しかし、本件の具体的事情の下では、右の撤回を認め、贈 与した金員を不当利得として返還請求を認めるべきであろう。本判決は、その理論的根拠を民法一条二項に求めたも のである。権利行使と信義則との関係は、権利行使をチェックし、それが濫用にならないようにするのが多くの場合 であるといえる.これに対し、本件の場合は、履行済の贈与の撤回権及び贈与した金員の不当利得返還請求権を信義 則によって認めたものであり、裁判官の役割を一般条項によって拡張しようとするもので、注目に値するといえる。  ⑳東京地判昭和63・8・30金融・商事判例八一六号三頁  この事件は、Xは、自動車音響部品の製造・販売、住宅整備機器・厨房設備機器の製造・販売等を営む株式会社で あるが、訴外Aに対し、昭和六一年二月一三日から同年五月七日までの間に、合計九四八万一九〇〇円相当の厨房設 備機器を売り渡し、売掛代金残額は七五八万五五二〇円である。Aは昭和六一年六月一〇日及び同年七月一〇日の二 回にわたって手形の不渡を出し、事実上倒産した。YはAに対し、昭和六一年五月現在一七四〇万円を超える貸金債 権を有していたところ、一回目の手形で不渡を出す直前の同年六月七日、Aと通謀のうえ、右貸金債権の弁済に代え て、Aが訴外Bに対して有していた工事代金債権一七四〇万円の債権譲渡を受け、同年七月ころBから右一七四〇万 円の弁済を受けた。右債権譲渡が代物弁済ではなく、YのAに対する貸金債権の譲渡担保としてなれたものであると しても、いずれにしても、債権譲渡はAの債権者を害する詐害行為である。このような事実関係の下に、XはYを相 手に、詐害行為取消権に基づき、右債権譲渡契約をXの債権額七五八万五五二〇円の限度で取り消し、Yに対し右取

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消額相当の金員の支払を請求する。  これに対し、Yは、右債権譲渡がなされた当時、A及びYは他の債権者を害することの認識を有していなかった。 そして、Aの債権者集会では、右譲渡債権額一七四〇万円のうち、一一四〇万円をYが受領し、六〇〇万円は配当財 源とすることで話がつき、Xも右集会に出席して異議を述べず、債権者集会からの配当金を受領しているから、Xの 詐害行為取消権の行使は信義則に反し許されないと抗弁したものである。  判決は、1 Yは、Xの詐害行為取消権の行使が信義則に反し許されない旨主張し、Xも出席したAの第一回の債 権者集会においてAから提出された債権者一覧表には既にYの名前は記載されていなかったこと、本件債権譲渡のう ち六〇〇万円は配当原資に回され、YはBから二四〇万円の支払を受けたにすぎないこと及び本件譲渡債権から右 六〇〇万円だけを配当原資に回したのはAの弁護士及び債権者委員長と称する者とYとの交渉結果に基づくものであ ることは、前記認定のとおりであり、Xが配当金を受領していることは当事者間に争いがない。2 そして、Xは、 本件債権譲渡がされたことが記載された昭和六一年九月九日付のA作成の﹄般債権整理貸借対照表﹂と題する書面 を取得しているのであり、Yが本件譲渡債権の支払を受けた昭和六一年二月四日付で、債権者委員長と称する者か らYに対し、本件債権譲渡契約を正当と認め、以後これにつきなんら異議を述べない旨記載した誓約書が交付されて いる。3 しかし、Xが右債権者委員長と称する者を債権者委員長に選出し、あるいはその者やAの弁護士に本件債 権譲渡についての処理を委任したと認めるに足りる証拠も、本件債権譲渡契約について異議を放棄したと認めるに足 りる証拠もなんら存在せず、かえって①Xは、売掛代金について全く支払を受けないうちにAが倒産してしまったの

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    民法と信義誠実の原則日       一四六 で、昭和六一年七月二四日Aの財産のうちで最も回収可能性が高いと判断した本件譲渡債権につき債権仮差押決定を 得たが、第三債務者であるBからは同年八月五日付で本件譲渡債権は存在せず、弁済の意思もないという陳述書が提 出されたこと、②昭和六一年七月末ごろ、XはAを被告として売掛代金等請求の本訴を提起したが、Aは、XからA に対する厨房設備機器等の売渡の日時及び残代金額を争ったため、証人尋問が実施され、昭和六一年二月一三日に X全部勝訴の判決が言い渡されたこと、③Xは、昭和六一年八月中旬ころ開催されたAの第一回の債権者集会に本件 におけるX訴訟代理人の弁護士とともに出席したが、右債権者集会は、Aの経営状態及び今後の整理方鉢についての Aの弁護士からの説明で終始し、整理についての具体的な決定はされなかったこと、④その後、Xは、Aの債権者集 会には出席せず、Aに対する前記訴訟を追行していたが、右訴訟でXが勝訴判決を得た後の昭和六一年一二月ころ、 右判決の認容額︵元本︶である九四八万一九〇〇円の二〇パーセントである一八九万六三八O円が配当金としてAの 債権者委員会からXの振込口座に振り込まれたこと、⑤Xは、二〇パーセントの配当で了承する旨の意思を表明した こともなく、右振込口座を債権者委員会に知らせたこともなかったが、債権者委員会は、XがAに対して発行してい た請求書に記載されていたXの振込口座に右配当金を振り込んだものであること、以上のとおりであるから、右1、 2の事実が存在するからといって、Xの詐害行為取消権の行使が信義則に反するものということはできず、抗弁は理 由がないと判示し、Xの請求を認容した。  債務超過におちいった株式会社Aがその債権者の︸人であるYに対し、その所有財産を弁済のために譲渡すること は、他の債権者の共同担保を減少させるものであるから、右譲渡は詐害行為として許されない。従って、Aがその債

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権者の一人であるYのために、その有するBに対する工事代金債権を譲渡することは、他の債権者を害する詐害行為 として許されない。ところで、Aは倒産し、その債務整理の方法として、私的整理が行われた。この場合、私的整理 のための債権者委員会の決議は、その表決に加わらなかった債権者を当然に拘束する効力を有するものではない︵撮 鯛湘鳳事コヨ撮號臓幽噺購判︶。しかし、本件のように、第一回の債権者集会にはXが出席したが、そこでは、Aの経営状態 及び今後の整理方針についてAの弁護士からの説明がされたのみで、次回からの債権者集会にはXは欠席を続け、第 二回以後の債権者集会で配分が決められ銀行口座に振り込まれて来た配当金をXが受領していながら、右債権者集会 でYがAに対する貸金債権につき、AのBに対する前記工事代金を弁済のため譲渡したことを正当と認めたうえで、 その工事代金の残余が配当されたものである場合に、XはYを相手に、右弁済のためになされた債権譲渡契約につき 詐害行為取消権を行使することが信義則に反しないかが問題になったものである。  私的整理が行われた場合に、これに参加しなかった者については、そこでなされた合意の効力は及ばないのが原則 であり、右参加はしなかったが、その合意を前提とする行為をしたり︵甑鴛避譲旺鞍肋︶、後日詐害行為取消権を行使する ことが従前の行為と矛盾し、到底許されるべきでないと考えられ事情のある場合は、右原則の例外となろう。しかし、 本件の場合は、判決の認定した事実関係の下では、Xの詐害行為取消請求は、Xが銀行振込された配当金を受領して いたとしても、信義則違反として許されないとはいえないと考える。  ⑳ 東京地判昭和59・12・26判例タイムズ五五四号二二八頁  この事件は、右の雑誌からではその内容が必ずしも明らかでないが、次のようなものと思われる。Y株式会社は昭

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    民法と信義誠実の原則日       一四八 和五五年三月二七日から訴外株式会社Aと取引を開始したが、この取引を開始するについては、X所有の本件不動産 に根抵当権を設定してもらうことになった。そこで、Xの妻BとXの親族CがXを同伴して同年九月上旬と一〇月下 旬にYのところを訪れた。そして、同年一一月一三日本件不動産について根抵当権設定契約書が作成され、設定者の X名をCが代筆し、Bがその名下にXの実印を押捺した。昭和五六年一月二八日右根抵当権設定の変更契約書が作成 され、CがX名を記入し、Bがその名下にXの実印を押捺した。ところで、Xは昭和五五年一月一日脳硬塞を発症し、 一月二日から練馬総合病院に入院し、同年三月一五日武蔵野療園病院に転院し、同年七月九日から昭和五六年四月四 日まで石和温泉病院に入院した。練馬総合病院に入院当時は意識レベルは低下していたが昏睡ではない状態にあり、 武蔵野療園病院に入院当時は植物人間状態ではないが右半身麻痺、歩行不能、言語不明瞭、自己の意思表示はできな い状態にあり、石和温泉病院入院中に外泊したのは、昭和五五年九月五日から同月七日まで、九月二〇日から同月二 五日まで、一〇月︼九日から同月二二日まで、一一月二二日から同月二五日まで、一二月二七日から昭和五六年一月 四日までであり、いずれもBが同伴した。Xは脳硬塞に罹患し言葉が喋れず周囲の状況がよく理解できず右半身麻痺 し、自身の名前住所も答えられない状態で四年余を経過しているとして、昭和五九年二月一四日心神喪失の常況にあ ると鑑定され、Bが妻として事実上後見人としての役割を果たし、Xの実印、権利証等を所持して財産の管理にあた り、これに対して何人からも異議が出なかった。  このような事実関係の下に、XはYを相手に、右根抵当権設定契約及び根抵当権設定変更契約は無効な授権行為に よる無権代理人Bによってなされたもので無効であると主張し、その抹消登記手続を請求する。

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 判決は、右事実によれば、本件根抵当権設定契約、同変更契約が締結された当時、Xは心神喪失の常況にあったも のというべく、Xの包括的授権の意思表示は無効であってBはXの無権代理人であったといわざるをえない。ところ で、BはXの実印や権利証を所持して財産の管理にあたり、Xの名で本件根抵当権設定契約、同変更契約をなすなど 事実上後見人としての役割を果たし、これに対し何人からも異議がでなかったこと、本件根抵当権設定契約、同変更 契約をするについてXと利益相反になるとは認められないこと、Yは善意無過失であること等を考慮すると、Bが後 見人に就職し法定代理人の資格を取得するに至った以上、もはや信義則上自己がした無権代理行為の追認を拒絶する ことは許されないと解すべきであると判示し、Xの請求を棄却した。  この判決は、最判昭和47・2・18民集二六巻一号四六頁に則ってなされたものと思うが、右最判は、甲が未成年者 乙の後見人に就職する以前に後見人と称して売買契約をした場合において、甲は右就職前から乙のため事実上後見人 の立場でその財産の管理にあたっており、これに対しては何人からも異議がなく、右売買をなすについて甲乙間に利 益相反の関係がないときは、右売買契約は、甲が後見人に就職するとともに、乙に対して効力を生ずるものと解すべ きであるというものである。右最判についていえば、甲は未成年者乙の後見人に就職する前に事実上後見人として乙 の財産管理にあたったのは無権代理行為であり、後見制度が無能力者︵乙未成年者︶の保護のための制度であること を考えると、甲が後見人に就職した後、右無権代理行為を追認しないのは信義則に反するとは当然には言えないであ ろう。しかし、右最判においては、甲が事実上の後見人の立場で財産管理をしていたことに対し、乙の親族等何人か らも異議が出ず、甲が事実上の後見人︵無権代理人︶として乙の不動産を売却したにつき、その売買については甲乙

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    民法と信義誠実の原則日      一五〇 間に利益相反関係がなかったというのであるから、この事実関係の下においては、右無権代理行為︵事実上の後見人 としてした売買契約︶は取引の安全と未成年者の保護を考慮して、甲が後見人に就職後右無権代理行為の追認を拒絶 することは信義則上許されないというべきであろう︵総旧蜘評ヨ調鼎︶。私は、その意味で右最判の見解を支持し、従っ て、本判決も正当であると考える。しかし、本判決についても、信義則の適用により無権代理の追認を拒絶すること は許されないとの結論を導き出すにあたっては、取引の安全と禁治産者の保護との比較考量できる事実関係の細かい 認定が必要で︵例えば、AがXの後見人に選定される前、YはXの判断能力等についてどう考えていたのか、戸籍謄 本等を取ったのか等︶、そういうことを判決文できちんと認定して欲しかったように思う。そういう認定した事実関係 の下においてXの請求につきどう判断すべきかは、法律の解釈の問題であり、信義則によって前記のような結論を出 すべきものであろう。        ︵9︶  ⑫ 福岡高判昭和59・4・26判例時報一一四三号九三頁  この事件は、X信用保証協会は、訴外AがL協の連帯保証の下に訴外B保険会社から三〇〇〇万円を借用するにあ たり、Aとの信用保証委託契約に基づきAの右貸金債務の支払を連帯保証し、㌔協はXが右保証債務の履行によりA に対し将来取得することのありうべき求償金債権につき、Aのため連帯保証した。Aは昭和五一年一一月九日までの 利息と元本の内金二二万円を支払っただけで、その余の支払をなさず、期限の利益放棄の特約により期限の利益を 失った。XはBの請求により、保証人として昭和五二年一一月二九日、残元本二入八八万円とこれに対する昭和五一 年一一月一〇日から昭和五二年二月二九日まで年一〇・六パーセントの割合による利息三二二万九〇二一円の合計

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三二一〇万九〇一二円を支払った。このような事実関係に基づき、Xは昭協に対し、前記信用保証委託契約により、 各三二一〇万九〇二一円とこれに対する昭和五二年一一月三〇日から支払済まで約定の年一四・六パーセントの割合 による遅延損害金の支払を請求する。そして、後期Yらの抗弁に対し、担保保存義務免除の特約があったものである と主張する。 ヒれに対し、Yらは、XはAのBに対する保証債務を履行したときに取得する求償権につき、A所有の甲山林に根 抵当権を設定したところ、Xは根抵当権設定契約を解約し、解約を原因として昭和五一年九月二八日根抵当権設定登 記は抹消された。これは、Xが故意又は解怠により担保を喪失したものにほかならず、Yらは本件連帯保証債務全額 につき弁済しても、Aから償還を受けることができなくなった。Yらは、右担保喪失と同時にXに対する連帯保証に よる債務の全額につき免責されると抗弁したものである。  判決は、債権者の担保保存義務を免除する特約があっても、連帯保証人が物的担保があることが動機となって連帯 保証したような場合にあっては、債権者が故意又は重大な過失により担保を喪失し、又は担保の価値を減少させたよ うなときには、債権者は、信義則上、右特約の効果を主張することはできないものと解するのが相当である。ところ で、協はAから、Xとの間の本件保証委託契約については不動産を担保に供していて迷惑はかけないから連帯保証し てくれと持ちかけられ、甲不動産を見分して充分の担保価値があるものと信じて連帯保証することを承諾した。甲山 林については、後にAが約四〇〇〇万円を投じて宅地として造成し一億一〇〇〇万円で他に売却したものであり、従 東 洋 法 学 一五一

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    民法と信義誠実の原則日       一五二 って客観的にも充分担保価値のあるものであった。Xの担当者であるCは、保証委託契約後の昭和五一年九月二〇日 ごろ、Aから担保に供している甲山林は造成したので売却し、代金をXから保証を受けている銀行からの借受債務の 弁済に充当したいから、根抵当権設定登記を抹消してもらいたいとの要請を受けるや、代替の担保を供することを条 件にこれを承諾し、昭所有の乙山林を代替に供する旨申し出たので、現地を見分し、銀行にその評価額を尋ね、付近 の分譲地の地価を考慮に入れて八七七八万六〇〇〇円と評価し︵因みに差替前の甲山林の評価額は九四二一万円であ った︶、担保の差替えに応じたが、右差替えについては協の承諾を得ていない。ところが、Aは甲山林の売却代金は 銀行からの借受債務の弁済にではなく、他の債務の弁済に充て、同年一二月下旬には倒産状態になって行方をくらま した。Xは、右山林の売却代金の支払先につき全く関心を示さなかったが、その後福岡地方裁判所直方支部に乙山林 の競売を申し立て、最低競売価額を二二二万円と評価されて手続が進んだが、競落人がないため最低競売価額は八 五八万八OOO円まで逓減され、それでも競落人がないため、Xにおいて競売申立を取り下げたまま現在に至ってい る。以上によれば、XはAから担保の差替えの要請を受け、代替担保物件を、客観的価格の四倍もの評価をするとい う粗雑な評価しかしないまま、右評価額が被担保債権額を超えるということのみで、Aの要請を安易に承認したもの であって、右のような場合担保保存義務につき重大な過失があったものとみるのが相当であり、従って担保保存義務 免除の特約があったとしても、連帯保証人として弁済すべき立場にある協は右担保差替えによってA又は他の保証人 である昭から償還を受けることができなくなる限度において免責されるものというべきである。そして、右の差替え

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後の担保物件の所有者は昭であり、脇は昭に対してはXに対する債務弁済額の二分の一を求償しうるに止まるもの であるから、協は右二分の一又は右の差替え後の担保物件の価額の低額の方以上の債務額については責を免れるもの というべきところ、協のXに対する現在の元利債務金額と右担保物件の相当価額であると認められる前記最低競売価 額とは後者の方が低額であることが明らかであるので、脇は後者の価額以上の債務額については、その責を免れるも のというべきであると判示し、第一審判決の地に関する部分を変更して、﹁﹂はXに対し二二一一万円を支払え。X のその余の請求を棄却する﹂︵第一審判決は、YらはXに対し、各自三二二〇万九〇二一円とこれに対する昭和五二年 一一月三〇日から支払済まで年一四・六パーセントの割合による金員を支払えというものである︶。﹁昭の控訴を棄却 する﹂との判決を言い渡した。  担保保存義務を定めた規定は、専ら法定代位をなしうべき者の利益を保護することを目的とするもので、公益的意 義を有するものでないから、法定代位をなしうべき者がその利益を放棄し、担保保存義務を免除する特約をすること は有効であることは、今日の通説・判例において異論を見ない。しかし、このような特約が、金融機関等社会的に力 のあるものによって事実上の圧力によって締結されるおそれなしとしない。そこに、特約の合理的な意思解釈により その許される限界を定めなければならない必要があるといえよう︵駈鋼禧融蛛盤眠㎜薯一礎顛ぢ購︶。この点につき、本判決 は、Xに対する協の保証債務は特約の合理的な意思解釈において、信義則上特約の効力を制限し、Xに対する協の 保証債務は一部免責されると判断し、前記のとおり第一審判決を変更してXの請求を一部棄却した。しかし、濫につ 東 洋 法 学 一五三

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    民法と信義誠実の原則口       一五四 いては、具体的に甲山林から乙山林への担保差替えの承諾があるとして、控訴を棄却した。  この判決は、担保保存義務免除の特約がされた場合でも、その特約の効力は合理的な意思解釈によって制限される 場合のあることを明らかにしたものであり、その制限される場合として担保の喪失につき債権者に重過失のあること を挙げている。ひとつの参考になるものと思う。       ︵−o︶  ⑳ 最一判昭和58・3・24金融・商事判例六八四号二九頁  本件は、Xの夫が土地所有者である訴外財団法人から本件土地を賃借したが、この土地を昭和二七年ごろ訴外Aに 転貸し、Aは財団法人の承諾を得て、本件土地上に本件建物を所有していた。しかし、Xの夫が死亡し昭和五二年四 月一日以降その相続人であるXが本件土地の賃借人兼転貸人となった。その後本件建物は、本件土地の転借権ととも に転々譲渡され、昭和五三年八月二九日昭が本件建物の所有者兼本件土地の転借権者となった。昭は本件土地の転借 権の譲受についてXの承諾を得ないまま、同年九月ごろ本件建物に入居し、その後Xの承諾を得ないで朽廃に近かっ た本件建物について、土間を落し天井もとる等の大改造の工事をはじめた。これに対しXは異議を申し入れたが、㌔ が聞き入れないため、昭和五四年六月一二日京都簡易裁判所から本件建物の改築工事を続行してはならない旨を命じ た仮処分決定を得、これを昭に送達したが、㌔は右仮処分決定を無視して改造工事を完成させた。昭は、昭和五六 年五月二五日ごろ到達の書面でX及び本件土地所有者である財団法人に対し、借地法一〇条に基づき右改造後の本件 建物をその時価相当額で買い取ることを求めたが、その後本件第二審口頭弁論期日において、右買取請求権の行使が 否定されるとすれば、右改造工事による増加価格を放棄し本件建物を譲り受けた当時の価格により買取請求権を行使

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する旨の意思表示をした。本件建物は、その後脇が競落して登記を経由したので、第二審裁判所はLに本訴を引き 受けるよう命じた。このような事実関係の下に、Xは土地所有者である財団法人に代位して、建物の所有者である昭 及び引受参加人協に対し、建物収去土地明渡を請求する。  これに対し、昭は、前記のとおり建物の買取の請求をしたものである。  判決は、右事実関係の下においては、名がした本件建物の改造工事は不信行為の著しいものであって、たとえ昭が 右改造工事による本件建物の増加価格を放棄し、その譲受当時の価格による買取を求めたとしても、その買取請求権 の行使は信義則に反するものとしてその効力を生じないと判示し、Xの請求を認容した第二審判決を維持し、協︵ヱ は上告審の当事者から外れた︶の上告を棄却した。  土地賃借権を賃貸人︵土地所有者︶の承諾なしに賃借人から譲り受けた場合、その譲受人はその建物に施行した増 築工事を譲受当時の原状に回復したうえでなければ、買取請求権を行使できないのが原則であり、これについては、 右工事が建物等の維持・保存に必要であるとき、又は些細なものであって、建物等の価格を著しく増大せしめること なく賃貸人をして予想外の出損を余儀なくせしめるものでないときは、建物の現状における買取請求を否定すべきで なく、また第三者が、工事による増加価格を放棄し、該建物の譲受当時の状態における価格による買取請求をした場 合も買取請求を否定すべきでないというのが判例の見解である︵蝦渕翻御脚.酌醜顛集︶。この最高裁判所判例の見解に対 しては異論もないわけではない︵辮淋編賜⋮砒樵賑舜筆︶。また、判例は、借地人の債務不履行による土地賃貸借契約解除の 東 洋 法 学 一五五

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    民法と信義誠実の原則◎       一五六 場合には、借地人は建物買取請求権を有しないとしている︵報渕醐齢商号辺ひ畑賊︶。この最高裁判所判例の見解に対しても 異論がないわけではない︵耀醐謹σ賭馳借︶。しかし、右二つの判例は実務上確定した見解であり、判例の理論は十分納 得できるところのものである。  本件の場合についていえば、本件は昭和四二年の最判の例外とする最後の場合にあたるといえよう。すなわち、㌔ は改造工事による増加価格を放棄し、建物の譲受当時の状態における価格による買取請求をするというのであるから、 右最判によれば、この買取請求を否定すべきでないということになりそうである。しかし、昭がした本件建物の改造 工事は改築工事禁止の仮処分命令を無視して強行したものであり、不信行為の著しいものであり、転貸借契約解除の 事由ともなり得たものであるから、譲受当時の価格による買取を求めたとしても、その買取請求権の行使は信義則に 反し効力を生じないとした判断は、一般的には買取請求権を行使することができるのであるが、より高次元の信義則 の一般条項の適用によりその行使ができないとしたもので、その認定された具体的事実関係の下では納得できると考 える。 ︵8︶この判決については、判例批評として、次のものがある。    上野雅和・判例評論三七五号四二頁    横田勝羊・判例タイムズ臨時増刊七三五号八四頁    岡本詔治・法律時報六二巻一一号一〇〇頁 ︵9︶この判決については、判例批評として、次のものがある。

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    椿寿夫−松野民雄・法律時報五八巻七号一二一頁     野田宏・金融法務事情二四五号一八頁  ︵10︶この判決については、判例批評として、滝沢幸代・判例タイムズ五二九号一六九頁がある。    三 信義則を適用する判例の展開に対する私の見解  最高裁判所は、二つの大法廷判例を出して、従前の判例を変更した。その一は、昭和四九・九・四民集二八巻六号 一一六九頁である。この判例の要旨は、他人の権利の売主をその権利者が相続し売主としての履行義務を承継した場 合でも、権利者は、信義則に反すると認められるような特別の事情のない限り、右履行義務を拒否することができる とし、従来の二小昭和三八・一二・二七民集一七巻二一号一八五四頁︵この判例は売主としての義務の履行を拒みえ ないとした︶を変更した。  この大法廷と小法廷の判例において信義則に反すると認められる特別の事情の存否については、そういう事情はど ちらにも存在していない。私は、相続は本人の追認を拒絶することを否定すべきでないとの見解で大法廷判例を支持 するが、ここでは、私は、同判例が権利者が信義則に反すると認められるような特別の事情のない限り、履行義務を 拒否することができるとし、﹁信義則に反すると認められるような特別の事情のない限り﹂を明示したことに注目した い。右の場合の履行義務は所有権そのものの履行義務︵所有権移転義務︶を意昧するが、大法廷判例は、相続人は信 義則に反すると認められるような特別の事情のない限り、この履行義務を負わないというものであり︵追認拒否権と 東 洋 法 学 一五七

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    民法と信義誠実の原則口       一五八 もいえようか︶、他人の権利の売主をその権利者が相続した場合、その相続人の義務を相続というものの性質上、右の ように履行義務︵追認義務︶を拒否できると考えれば、右の権利者︵相続人︶が権利そのものの移転義務︵履行義務︶ を負わないのは当然である。ただその場合でも、追認拒否につき信義則に反する特別の事情の存するときは、追認拒 否はできず、追認したと同一の取扱いを受けることはあり得よう。それは民法一条二項の規定上当然である。それだ けだったら、私は右大法廷判例において、あえてこのことを記載する必要はないのではないかと思う。それにも拘ら ず、右大法廷判例がこのことを明記したことに注目したい。他人の権利の売主とその権利者が特別の関係︵相続の関 係︶にあり、そこには一般的に言えば、信義則の働く余地が十分にあると人々は考えるからではなかろうか。つまり 結果の妥当を招来するためには信義則という一般条項があることを指示したのではないかと考える。  その二は、昭和六二・九・二民集四一巻六号一四二一二頁である。この判例の要旨は、有責配偶者からされた離婚請 求であっても、夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の長期間別居し、その間に未成熟子がいない場合には、 相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著 しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許され ないとすることはできない。有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦が三六年間別居し、その間に未成熟子 がいないときには、相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求 を認容することが著しく社会正義に反するというような特段の事情のない限り、認容すべきであるとし、その判文に おいて、﹁離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則に照らしても容認されうるもので

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あることを要する﹂と判示した。  この大法廷判例は、従来、有責配偶者からの離婚請求については、その請求を認容しないというのが最高裁判所判 例の見解であった。例えば、三小昭和二九・一二二四民集八巻一二号一二四三頁は、﹁何人も自己の背徳行為により 勝手に夫婦生活破綻の原因をつくりながらそれのみを理由として相手方がなお夫婦関係の継続を望むに拘らず民法七 七〇条一項五号により離婚を強制するが如きことは吾人の道徳観念の到底許さない処であって、かかる請求を許容す ることは法の認めない処と解せざるを得ない﹂といっている。この判例変更は、民法七七〇条一項五号の解釈として なされているから、その限りではここでは触れない。問題は、右大法廷判例が、離婚請求は信義誠実の原則に照らし ても容認されうるものであることを要すると明記した点である。民法総則の規定は、そのままでは親族法相続法︵特 に親族法︶には適用されないが、性質の許される限り適用されるというのが一般的な見解である。最高裁判所判例も これを基礎としている。そうすれば、信義則によって離婚請求の可否をきめる場合でなければ、あえて信義則の文言 を持ち出す必要はないのではないかと思う。しかし、判文はこの文言を明確に記載した。離婚原因︵恨磁勉︶の中で、特 に五号の場合は、原告被告とも、相手に婚姻を継続し難い事由があると主張するのが普通であり、一方だけに一〇〇 パーセントの婚姻を継続し難い事由があるという場合は極めて稀なように思う。双方に相当程度の事由があり、それ を比較考量して結論を出すことが少なくないように思う。それは従来の土地明渡請求訴訟の場合の正当事由の判断に 類似するものがある。そう考えれば、この判断には信義則という衡平の感覚ないしバランス感覚が必要である。私は 右大法廷判例が信義則を明記したことをこのような意味から注目したい。

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一五九

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    民法と信義誠実の原則日       一六〇  さて、﹁二 最近の判例の検討﹂で三三件以上の判決をとりあげた。そのうち﹁e 契約締結準備段階における信義 則の適用﹂に属する①ないし⑨は、おそらく戦前だったら、その多くは、まだ契約が締結されていないのだから、原 告︵賠償請求者︶は早合点して準備したのだから、その損害は自己の負担となるものであり、被告に対して請求でき ないということになったのではないかと思う。しかし、現在の社会では、正式に契約が締結される前にいろいろな準 備が将来契約当事者となる者の間になされなければならず、その準備がされることが右の者の間で暗黙のうちに了解 されていることが少なくない。それは社会生活関係が複雑化し、その準備が行われたことを前提に取引が行われるか らである。債権総論・各論の規定そのものによっては解決できない問題が生じているというべきであろう。そういう 社会に起きた事実関係を法律的にどう捕えるべきか。これは法の解釈の問題であり、裁判官の職務である.右①ない し⑨の事件においては、Yに自己矛盾の態度<①巳お8旨寅貯。9ヨ虞・震ご日があるのであり、Yの言を信頼して準 備に入ったXが金銭的負担をし、Yはそれを知っているのであるから、その負担︵損害︶を拒否することは、信義則 に反し許されないといえよう。つまり民法一条二項を適用し損害の分担の衡平を図らなければならないであろう。  信義則は、債権法から出発した。法律及び契約によって法律関係を確定し、法的安定を確保することは近代法の基 本理念である。しかし、右の法律には明確な規定がなかったり、あるいは契約内容が当事者の一方によって定められ ていて、それによって法律関係を確定することは結果の不当を生ぜしめる場合がある。その場合、信義則によって契 約内容を修正して解釈し、あるいは法律の内容を信義則によって補い、個々の裁判を具体的妥当な結果に導かねばな らないことがある。社会生活関係が複雑多岐化すれば、そのような必要が一層生じてくる。判例⑩ないし⑱はこれに

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関する。嘗ては、弁済の提供があったか、同時履行の抗弁が主張できる場合であるか、契約解除の事由にあたり解除 ができるか、相殺の主張ができる場合であるか等につき、そんなに難しい問題がなかったが、右の判例においては、 社会の複雑多岐化の故に、具体的な事実関係において、それぞれ考えるべき問題を抱えたものである。  時効に関する規定は強行規定であるから、権利を行使しうる時から一〇年を経過すれば、その権利は消滅時効にか かり、時効を援用されれば、権利者はその権利を裁判上行使しえない。消滅時効制度の趣旨から、右の事実関係が明 らかになれば、この結論は左右しえない。しかしそういう場合であっても、時効の援用は権利行使の一態様であるか ら、その権利行使は信義則に従わなければならず、それが信義則に違反するときは、適法な権利行使とはいえない。 適法な権利行使といえない以上、時効援用の対象となった権利は消滅しない.⑳⑳はこのような内容の判例であり、 ⑲は具体的事実関係のもとにおいては消滅時効の援用が信義則に違反するものではないと判断したものである。  継続的契約関係においてはその間に事情の変更することが多く、継続的契約をどのように解釈し、その間の権利義 務を確定すべきかについては問題がある。当初の契約内容がそのまま当事者を拘束すると解釈することは、当事者を とりまく事情の変更との関係で無理であることがある。いわゆる事情変更の原則の適用である。この原則はその根本 は信義則であるといえる。その変更された事情を加味して契約を修正して解釈し、妥当な結果を導き出すべきである。 それは身元保証二関スル法律五条等からもうかがえる。  ⑳は、このような見解に基づくものである。⑳は継続的契約がなされた場合に、当事者の事情の変更した場合その 契約内容は信義則により変更して解釈されるべきであるとしたものであり、⑳は継続的契約がなされ、その契約関係

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一六一

参照

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