る分析
著者
東海林 克彦
雑誌名
観光学研究
号
11
ページ
51-61
発行年
2012-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00005077/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja1
観 光学 研究 第11 号 2012 年3 月
文 京区 白山 下地区 におけ る大学生の認知 地図 に
関 する分析
A Study on the Cognitive Map of University student in Hakusan-shita Area of Bunkyo City
は じ め に
東 海 林 克 彦*
Katsuhiko Shoji
51 (1 ) 背景 及び 目 的 白 山下 地 区は 文京 区 のほ ぼ中 心に 位置 して お り、江戸 時代 以 来の歴 史 と伝 統 のあ る街 とし て発 展 し てき た 地 区であ る。 東洋 大 学は、 こ の地 に設 立さ れて か ら約100 年 が経っ てお り、 学 生数 は約2 万 数 千人 と 白山地 区 の居住 人 口 の約1 万7 千人 を超 え る数 となっ てい る。 し かし、 地 域 の社 会的・ 経 済的 な お り方を 考 える うえ で東洋 大 生 の数 が看 過で き ない 数に なっ てい る にも か か わらず、 ま た、 高度化 し た都市 にお いて も、 人 と地 域 との 結びっ き は 良好 な地 域 社会 の形 成に とっ て 大事 な 要素 で ある に も かか わらず、 地域 と東 洋大 生 との 交流 及び 交 流 に関す る 参加 意識 は、 は か ばかし く ない 状 況 となっ てい る。 こ の よ うな状 況 を改 善す る一 助 とす るこ と を企 図し て、 平 成22 年 度 には、 白山 前町 町会 は 東洋 大 学や 白 山 地域振 興懇 話会 の 後援 を受 け な がら、「地 域 の底力 −若 者 の論 文 一次世 代 を担 う若 い力 を活 用し た活 力 あ る街づ く り方 策 の発 掘事 業」 と銘 打っ た懸 賞論 文 の募 集事 業 を実 施 してい る 呪 本 事 業は、「 白山 地区 の今 後 の地域 発 展に役 立つ 資料 と な る卒業 論文、 ゼミ 活動 及びサークル 活 動 な どを 広く 近 隣 の大学 生 から募 集 す るこ とに より、 若 者 な らで はの街 づ く りに 関す る斬新 な調 査研 究論 文 や 活 動 事 例等 を収集 す る とと もに、 ま た、 収集 され た各 種論 文及 び活 動等 に 関す る発 表 会 の開催 や 報告 書 の 作成等 を通 じて、 街 づ く 引 こ関す る 知見 の集 積 は もと より、 白 山地 域の魅 力 の 再認 識及 び 街づ く り のお り方 を地 域住 民 自 らが問 題 意識 を 持っ て 考 え始 める契 機 とす るこ と1)」を 目的 として 実施 さ れ たも ので あ る。 そ の成 果 とし て18 本 の優 秀 論 文等 が選 定 されてい るが、 こ れ ら18 本 の論 文 の多 く に共 通し て見 られ た のが「 街 か らの 情報 発信 が少ない」 とい う指 摘 であ る。 現 在、 白 山前 町町 会 で は、 かか る指 摘を受 け て各 種 資源 やイ ベント 等 に 関す る情報 発信 不 足を 解 消す る た めに、 バーチャルリアリティ 技術 と若 者 の視 点 を取 り入 れ たホーム ペー ジ作り に着 手し てい る ところ で あ る。 本 論 は、 こ の よ うな 状況 を踏 ま えて、 効 果 的 な情 報発 信・ 交流 事業 を 進 める た めに は、 まず もって、 学 生 が街 を どの よ うに認知 し てい る かを 定量的・ 客観 的に 明 らかに す るこ と が重 要で あ る と考 え られ たこ と から、ケ ビン・リンチ が使 用 したイメー ジマッ プ2 )とい う手 法を 使っ て、 学 生に よ る 街 の認 知 実態を 客観 的・ 定 量的 に 分析 す るこ と とし た もので あ る。 (2 ) 認知 地図 認 知 地図 とは、 人 がそ れぞ れ の頭 の 中に 描い てい る空 間に 関す る地 図 のこ とで あ る。イメー ジマッ プやシェマ な ど と呼ば れ るこ とも あ る。 人 は、 都 市空 間内 を行 動す る 時は、 自分 の頭 の中 に描 か れた 認知 地図 を 基に して 行動 して い る と考 えら れてい る。 こ のた め、 都 市のイメー ジに 関す る研 究 の第 一人者 で あ る と評 さ れてい るケ ヴィン・リンチ は、 都 市 空間 を整備 し よう とす る場合 は、 こ の 認 知 地図 を頭 の 中に描 きや すい よ うな都 市構 造に す るこ とが望 ま しい とい う趣 旨のこ と を主 唱し て い る。 換 言す れば、 都 市 を整備 し よ うとす る場合 には、イメー ジア ビリティ の高い 空 間構 成 にな る よ うに心 がけ るべ きで あ るとい うこ とであ る。確 かに、人 は あ る空 間の 中で 行動 し よ うとす る時 は、 自 分 の位置 を 定位 でき るこ と、 す な わち 自分 のま わりに あ る空 間の 構成 を容 易 に理 解 でき るこ と が 重 要 とな る。ケ ヴィン・リンチ は、 各 種 の調査研 究 の積 み重 ねの中 か ら、 都 市 のイメー ジを構 成す る要 素 とし て、 パス、エッ ジ、 ディストリクト、ノート、ラン ドマーク の5 つ の要 素(エレメント ) を抽 出 してお り(表1 参照)、これ ら の要 素 がイメー ジし易 い形 態 になっ てい る とと もに、 各 要 素間 表1 都 市空 間イメー ジの構成 要素 要 素 (エレメント ) の 名 称 内 容 パス (path ) 街 路、 散 歩 道、 運 送 路、 運 河、 鉄 道 な ど の 人 が 移 動 で き る 道 筋 の こ と。 こ の パス に 沿 っ て 他 のエレメント が 位 置 付 け ら れ る と い う 意 味 に お い て、5 つ のエレメント の 中 で も 最 も 基 本 的 な も の と さ れ て い る。 エッ ジ (edges ) 海 岸、 鉄 道 線 路、 壁 な ど の2 つ の 異 な る 面 の 間 に 位 置 し て 連 続 性 を 分 断 す る 境 界 の こ と。 パス もエッ ジも線 状 のエレメント で あ る が、 パス と の違 い は、 人 の 移 動 手 段 と し て 機 能 し な い と い う点 に あ る。 ディスト ジクト (districts ) 住 宅 街、 工 業 団 地、 農 地、 公 園 な ど の 広 が り を 持 っ た 同 質 の 領 域 の こ と。 領 域 の 中 で は、 ど の 部 分 に お い て も 各 部 分 に 共 通 し て 見 ら れ る 特 性 を 有 す る こ と に な る。 ノート (nodes ) 交 差 点、 駅、インターチェン ジな ど の 何 ら か の 行 動 判 断 を 伴 う 離 合 集 散 の 場 や 分 岐 点 と し て 機 能 す る 点 的 な 空 間 の こ と。 一 般 的 に は、 パス が 集 中 す る とこ ろ と 考 え る こ と も で き る。 ラン ドマーク (landmarks ) 建 物、 看 板、 商 店、 山 な ど の 目 印 と し て 機 能 す る 点 的 な 対 象 物 の こ と。 人 が 空 間 の 中 を 行 動 す る 際 の 定 位 の 手 掛 か り と し て 重 要 な 機 能 を 果 た す も の で あ る と 考 え ら れ て い る。
東海 林 :文 京 区白 山下地 区に おけ る大 学生 の認知 地 図に 関す る分 析 53 の相 互 関係 を含 め てイメー ジしや すい 位 置に適 切 に配 置 されてい るこ とが、 都 市空 間 全体 のイメー ジア ビリティ の善し 悪し を 左 右す るこ とにな る とし てい る2)。 2 調 査 方 法 (1 )認 知 地図 に 関する 調 査 手法 認知 地 図 に 関し て は、 各 種 の研 究が 実施 され てお り、 ①イメー ジマッ プ法、 ②地 点識 別法、 ③連 想 法 な ど の数 多く の手 法が 使 用 されて きてい る。 い ず れ の手 法 も、 人 が都 市空 間な ど を どのよ うに 理解 してい る のかを 客観 的 に 分析 する た めの手 法で あ るこ とに か わり はない が、 そ れぞ れに 主 眼 と する 分析 目的 や 実施 方 法が 異 なっ てい る。 ① のイメー ジマッ プ法 は、ケ ヴィン・リンチ に よっ て 実用化 され た方 法で あ る2)。 白紙 の紙 の上 に、 様式 にこ だ わ らず に地 図 を 自由に 描かせ て、 都 市空 間 の構成 要素 の有 無や 大き さ、 相互 の位 置 関係、 密 度 (詳 細 さ) な どにつ い て分 析を加 え て行 く方 法で あ る。 被 験者 が認知 し てい ない も のは 描 か れる こ とは なく、 ま た、 認 知密 度 が高い も の は詳細 かつ 大き く 描 かれ る など とい っ た特 性 を利 用し たも の であ る とい える。 ②の 地点識 別 法は、 地 図 と写真 な ど の映 像資 料を 用意 し、 映像 資料 が 示 す 地点 を 地図上 に プロット させ るこ とに より、 当該 地 点 の識別 確 率を 割 り出 すも ので あ る。 ③の 連想 法は、 道 路や 建 築物 な ど の都 市空 間構成 要 素を 自由 に挙 げ させ た り、 街 の中を 歩い て 自由 に写 真 を撮 影 させ た りし て、 都 市空 間構 成 要素 とし て認知 され る要 素を 抽 出す るも ので あ る。 (2 ) 本 論に おけ る 調査 手 法 本論 で は、 認 知 地 図に 関 す る各種 の調 査手 法 の うち、イメー ジマッ プ法 を使用 す るこ と とし た。 こ れ は、 こ の方法 が同 時 に多 数 の被 験者 に対 し て、 比較的 簡 便 な方 法で 効 率 よく 実 施で き る手 法で あ るこ とや、 これ まで に多 数 の研 究 者に よっ て使 用 され て数多 く の知見 が 蓄積 され てき た一 般的 な 手 法で あ るこ と が主 な理 由で あ る。 具 体的な 調 査実施 方 法は、 次 のとお り であ る。 ①被験 者 国際 地 域学部 国 際観 光 学科 の2 年 生 が9 人 (うち男 子 は O人 )、3 年 生 が36 人 (うち男 子 は8 人) の計45 人で あ る。 ②実施 日 時及び 所 要時 間 平成23 年10 月12 日。 所 要時 間 は約20 分 間で あ る。 ③ 自由 描 画に係 る 対象 地 区 予 備 的に 事前 実施 し たヒアリン グ調査 の結 果、 ほ とん どの 学生 は、 通 学 路の 近辺 を利 用し てい る に過 ぎ ない こ とか ら、 三 田線 の 白山駅∼ 東 洋大 学 白山第2キャン パス の一 帯 ( 白山1 丁 目∼2 丁 目) を対 象地 区 とし た (図1 参照)。
1 1 ︱ − − I1 ”T>≫/^^/ゝ●f ≒ 白 山 第2キャン パス ゝ ゝゝ ゝ ゝ・ 4 心 町- 一 -〆 / j 1 1 〆 〆 "l 心 〆 φ φ 脊 %ゝ ゝ ゝ 白 山 齢、
至 後楽園
図1 白 山 通 り に よ っ て 分 節 化 さ れ た 空 間 構 成 ゝ ゝ ゝ ゝ ゝ ゝ X ゝ 1 1 1通 り 商 店 街 ) / y/ φ 11111111 j ④自由 描画 に 当だっ て の 被験者 に 対す る指 示 事項 三 田線 の白 山駅 ∼東 洋 大学 白 山第2キャン パス ま で の経路 及び 沿線 の 見 どこ ろ を第3 者 に簡 潔 に 紹 介 する 地図 を描 く こ とを求 めた。 なお、 絵 の 巧拙 を 問 うも ので はない こ とや、 絵 の様 式 につい て は任 意 とし、 線、イラスト、 文 字 によ るコメント な ど、 自分 の好 き なよ うに 描い て構 わない 旨 の注釈 を付 加 し た。 ま た、 描 画 内容 につい て の一 定以 上 の 丁寧 さを 確保 す るた めに、 描 画結 果 に つい て は記名 式 で の 提出 を求 め るこ ととし た。 3 調 査 結 果 及 び 考 察 45 人 の被 験者 に対 し てイメー ジマッ プの描画 を して も らっ た([ 図2 参 照]。 なお、 回 収し たイメー ジマッ プの うち4 人 のも のにつ い ては 判読 不明 な 内容 の地 図であ っ たこ とか ら分 析対 象 から 除外 し、 残 り の41 人 のイメー ジマッ プを対 象 とし て調 査結果 の分 析を 実施 した。東 海林 :文 京 区白山下 地 区にお け る大 学生 の認知 地 図に 関す る分析 図2 描 画 さ れ たイメー ジマッ プの 例 55 (1 ) 表 現形 態に 関 する 類型 的特 性 イメー ジマッ プの表現形 態 に 関し ては、 藤岡 ら の研 究3) によ り優先 要 素 の違い(線 的 要 素優先or 面 的要 素 優先 )及 び 表現 構成 要 素の違い (経 路構 成 的、エリア 構成 的) に よ り4 類 型 に 区分 され る こ とが 明 ら かに され てい る。 本論 で は、 通学 経 路 とい う限 定 され た狭小 空 間を 主題 とし たイメー ジマッ プの 描画 をし て も らっ たも ので ある こ とか ら、 こ の4 類型 の多 寡を 厳密 に 論じ る こ とはで き な い が、 優 先 要 素につ い て は線的 要 素優先 のも のが41 人 中33 人(80.5%)とほ とん どを 占 めてお り、 白山仲 通 りや 浄 心寺 通 りな どの 通学 路周辺 の情 報に つい て の描 画 は41 人 中8 人(19. 5% )とわず か で あっ た。 ま た、 表 現構 成 要素 につい て は、 経 路構 成的 なも のが すべ てで あ り、 白 山下 地 区を面 的 に捉 えた も のは 皆無 であ り、 学生 の 空間認 知 は、 通 学 路 から 見え るも のや 実 際に 体 験し たも のを 中 心とす る 主観 的 な段 階 に とどまっ てい る 傾向 が 読 み取 れ た。 こ れ は、 街 とい うも のを 自由に 行動 で
き る 面的 な 広 がり を持っ た空 間 とし て認 知し てい ない 現 状や、 学生 の側 か ら街 に対 して 主 体的 に関 わろ うとす る意 識 が乏しい 現状 など を示 唆し てい る 結果 で はない か と考 えら れ る。 (2 ) 構図 41 人 中31 人 (73. 2% ) が、 東 洋大 学 白 山第2キャン パス を上 側に 配置 し たイメー ジマッ プを 描 画 して い た。 こ れは、 第2キャン パス を 目的 地 とし て捉 え てい たこ と及 び 白 山下 の交 差点 から 第2キャン パス に 至 るまで の 区間 が登 り坂 に なっ てい るこ とが影 響 し てい た ので はない かと推 測 され る。 ま た、 通 学経 路を 分断し てい る白 山通 りに つい て は、イメー ジマッ プの中央 付 近 に水 平方 向 に延 び る線 とし て描 画し てい る人 が39 人(95. 1% )と被 験者 のほ とん どを 占 めてい た。 こ れは、 白 山通 り は幅 員 も広 く て交 通量 も多い 道 路で あ るこ と、 ま た、 横 断す る 場合 には 信 号に よ らなけ れ ばな ら な い こ と か ら、 非 常 に明確 な 障害物 とし て 認知 されてい るた めで あ り、 当 該通 学 経路 につい ては、 白 山駅 ∼ 白 山下交 差点 の 区間 と白 山下交 差 点 ∼第2キャン パス の 区間 の2 つ に 分節 化 さ れてい る空 間 構 成 に なっ てい る と考 えら れる (図1 参 照)。 表2 建築物の業種 ゛業態別の出現率 (3 ) 要素 (エレメント ) の出 現率 業 種・ 業 態 出 現 率 幼 稚 園 80. 5% ドラッ グストア 58. 5% コン ビニ 53. 7% 交 番 39. 0% 学 習 塾 31. 7% 飲 食 店 26. 5% 金 融 26. 0% 医 院 24. 4% 総 菜 屋 24. 4% 教 会 12. 2% 不 動 産 7. 3% 薬 局 4. 9% 八 百 屋 4. 9% 花 屋 2. 4% 雑 貨 店 0.0% 靴・ バッ グ 0. 0% 衣 料 品 0.0% 平 均 値 23. 3% イメー ジマッ プに 描 画 さ れ た 建 築 物 や 道 路 な ど の 空 間 構 成 要 素 (エレメント ) の 出 現 率 を 集 計 し、 次 の と お り、 建 築 物 の 用 途 や 路 線 区 間 別 に そ の 出 現 率 の 差 異 な ど に つ い て の 分 析 を 実 施 し た。 ① 建 築 物 O 業 種・ 業 態 別 建 築 物 の 業 種・ 業 態 別 に 出 現 率 を 分 析 し た。 そ の 結 果 は、 表2 に示 し た と お り で あ る。 銀 行、 飲 食 店、 八 百 屋 な ど の 各 種 施 設 が 立 ち 並 ぶ 中 で 出 現 率 が50% を 越 え て い る 建 築 物 は、 多 い 順 に 幼 稚 園(80. 5% )、ドラッ グストア (58. 5% )、コン ビニ (53. 7% ) の3 つ と な っ て い る。 こ れ は、 幼 稚 園 に つ い て は、 多 数 の 園 児 が い る と こ ろ で あ る こ と か ら 学 生 に と っ て 印 象 的 な 施 設 に な っ て い る こ と、 ドラッ グストア やコン ビニ に 関 し て は 他 の 店 舗 等 と 比 べ て 利 用 す る 機 会 が あ る こ と な ど が 影 響 し て い る の で は な い か と 考 え ら れ る。 対 象 施 設 の 種 類 やサン プル 数 は 少 な い こ と か ら 即 断 は で き な い が、 出 現 率 を 高 め る 要 因 と し て は、 日 常 生 活 に お け る 利 用 頻 度、 記 憶 に 残 りや す い 印 象 的 な 特 徴 な ど が あ げ ら れ る と 考 え ら れ る。
東 海 林 : 文 京 区 白 山 下 地 区 に お け る 大 学 生 の 認 知 地 図 に 関 す る 分 析 57 い 立地 別 角 地・ 準角 地に 立 地してい る場 合 とそ れ以 外 の場所 に 立地し てい る場合 に 分け て出 現率 を 分析し た。 そ の結果 は、 角 地や 準角 地 に 立地 する 建築 物 の出 現率 は34. 5% で あ るの に対し て、 そ れ以 外 の 場 所 に立 地す る建 築物 の出 現 率 は21. 6% と低く なっ てい た。サン プル 数 が少 ない こ とか ら即 断は で き ない が、 角 地や 準角 地に 立 地す る 建築 物は 一般 的 に目 立つこ とに なるこ とから、 そ の出 現 率が 高 く な る傾 向を 示す ので はない か と考 え られる。 iii) 通学 経路 と の位置 関係 別 東 洋 大 学 白山第2キャン パス で は 標 準的 な通 学経 路が 指定 され てお り、 す べて の学 生 がこ の経 路 を 使用 し て通 学し てい る。 こ の指 定 され た通 学 経路 との位 置 関係 を、 通 学経 路 と同一 車線 側、 通 学 経路 の反 対 車線側、 通 学経 路 に係 る 車道 と は別 の車道 側 の3 つ に 分け て 出現 率を 分析 し た。 そ の結 果 は、 通 学経 路 と同一 車線 側 の出 現 率は32. 5% であ る のに対 し て、 通学 経 路の反 対 車線 側 の出現 率 は15. 3%、 通 学経 路に 係る 車道 とは別 の 車道 側 の出現 率 は11.7% と相対 的 に低い 値 を示 してい た。 通 学 経路 と同 一車 線側 に位 置し てい る建 築物 につい て は、 近 距離 で 間近 に接 する こ とが多 く なる こ とか ら、 そ の出現 率 が高く な る傾 向 を示 す ので はない か と考 えら れ る。 ②道 路 道 路につ い ては、 白山駅 ∼牛 角、 牛 角∼ 交 番、 牛 角∼ 白山 下交差 点、 白 山仲 通 り( 白山 下商店 街)、 京 華 通り、 白山通 り、 白 山下 交差 点 ∼第2キャン パス、 浄心 寺通 り の8 区 間に 区分 し (図1 参 照)、 そ れぞ れ の 区分ご とに 出現 率 を集 計 した。 結 果 は、 表3 の とお りで あ る。 白山駅 ∼牛 角、 牛 角∼ 白 山下 交差 点、 白 山下交 差点 ∼ 第2キャン パス の3 区 間につ い ては、 通 学 経 路そ のも のに なっ てい る 区間で あ るこ と から、 出現 率 は100 %で あ る。 ま た、 京華 通 引 こつ い て は、 通学 経路 か ら商 店街 の ほと んど が見 渡せ る よ うに なっ てい るた めで あ ると考 え られ るが、 出現 率 は92. 7% (38 人 )と高い 値 を示 し てい る。 その一 方 で、 牛 角∼ 交 番 の区間 につ いて は、 出 現率 は約 半 分 の58.5% (24 人 )に とどま っ てい る。 さ らに、 白 山仲 通 り (白山 下 商店街 ) に至っ て は、 白 山駅 か ら第2キャン パス に 向 か う途 中に ある に もかか わ らず 出 現率 は7.3% (3 人 )と低く、 浄 心寺 通 りの19.5% (8 人) より も低 率 と なっ てい る。 ま た、 京 華 通 りの 出現 率 が他 の枝線 的 な区 間 より も相 対的 に 高い値 を示 し て い る のは、 京華 通 り が路面 の ペイ ブメント や街 灯 の飾 り付 け な どに よっ て 賑や かさ を演 出し てい る こ と から 相対的 に 視認性 が 高く なっ て い るた めで はな い かと考 え ら れる。 なお、 若 干 で はあ る が浄 心 寺通 り が 白山仲 通り (白 山 下商 店街 ) より も出 現率 が 高く なっ てい る の は、 浄 心 寺通 りは 本郷 方 面 に緩 や かな 登り 坂 となっ てお り、 第2キャン パス 方 向 から 白山 駅に 向 かっ て歩い て く る際 には、 視線 入 射角 が高く なるこ と が寄 与 してい るの では ない か と考 えら れ る。
表3 道 路区 間別 の 出 現率 道 路 区 間 出 現 率 白 山 駅 ∼ 牛 角 100% 牛 角 ∼ 交 番 58. 5% 牛 角 ∼ 白 山 下 交 差 点 100% 白 山 仲 通 り 7. 3% 京 華 通 り 92. 7% 白 山 通 り 100% 白 山 下 交 差 点 ∼ 第2キャン パス 100% 浄 心 寺 通 り 19. 5% 平 均 値 72.3% (4 ) 道路 の 位相 幾 何学的 形 態に 関す る特性 ①幅員 表4 は、7 区間 を対 象 として、 全 区 間の道 路 幅員 の総 合 計値 を1 とした 場合 の各 区 間の道 路 幅員 の比 率構 成 を集 計 した も のであ る。 実際 の 幅員 の比 率構 成 よ りも広 く描 かれてい る区間 は、 白山駅 ∼牛 角、 牛 角 ∼ 白山 下交差 点、 白 山通 り ∼ 第2キャン パス、 京 華 通り の4 区間 であ る。 ま た、 実 際の 幅員 よ りも 狭く 描 かれてい る区 間 は、 牛角 ∼ 交番、 白 山仲通 り ( 白山下 商店街 )、 白 山通 り の3 区間 であ る。 慣 れ親し ん だ空 間や 関心 の高 い 空 間につ い て は、 そ の他 の 空間 より も大き く かつ 詳 細 に描 かれ る傾 向に あ ると言 わ れ てい る が、 牛 角∼ 交 番、 白山仲 通 り( 白山 下商店 街) 及び 白 山通 りの3 区 間が 実際 の幅員 の比 率 構成 よ りも 狭く 描 かれ てい る のは、 こ れ らの 区間 が学生 に とっ てあ ま り馴 染 みの ない 関心 の低い 区 間に なっ てい る た めで は ない か と考え られ る。 表4 道 路 幅 員 の 比 率 の 違 し 道 路 区 間 実 測 値 の 比 率 認 知 地 図 上 の 比 率 白 山 駅 ∼ 牛 角 0.15 0. 18 牛 角 ∼ 交 番 0. 13 0.09 牛 角 ∼ 白 山 下 交 差 点 0. 17 0.19 白 山 仲 通 り 0.07 0.01 京 華 通 り 0.05 0.10 白 山 通 り 0.33 0.24 白 山 下 交 差 点 ∼ 第2キャン パス 0.10 0. 19 ②距離 表5 は、3 区間 を対 象 とし て、 全 区間 の総延 長 距離 を1 とし た場 合 の各 区間 の道 路幅員 の比率 構 成 を集 計 した もの であ る。7 区 間中3 区 間 のみを 対象 とし た の は、 他 の4 区間 につい て は、 全 区間 の延 長 距離 を 測定 でき る よ うに描 かれた認 知 地図 の数 が少 な かっ た た めで ある。集 計 結果 であ る が、 実 際 の区 間距 離の 比率 構 成 とほぼ 同 じ か又 は長 く描 かれて い る 区間 は、 白山駅∼ 牛 角、 牛 角∼ 白山 下 交差 点 の2 区間 であ る。 ま た、 実 際 の区 間距離 の 比率構 成 よ り も短く 描 かれて い る区 間は、 白山 下 交差 点∼ 第2キャン パス の1 E 間 であ る。 Byrne の研 究4 )に よれ ばルート 上に 記憶 さ れてい る物 が多 い ほ ど距離 が長 く 推 定さ れ る傾向 のあ ること が明 ら かに さ れてい る が、 白 山駅∼ 牛角 の 区間 に つ い て は各 種 の店舗 が 立 ち並 んだ 商店 街に なっ てい るこ と、 牛 角 ∼ 白山 下交 差点 の 区間に つい て は 商店 以外 に も信 号 の密 度 が高い こ とや 京華 通 りの端 部 を横 断 す るこ とな どに よ る分節 化 され た多 様
東 海林 :文 京 区白 山下地 区にお け る大 学 生 の認 知 地図 に関す る分 析 59 な 空間 がモ ザイク 状 に配置 さ れてい る こ とから、 実際 の 比率 より も認知 地 図上 の比 率 の方 が大 きく なっ た ので は ない か と考え ら れる。 し かし、 白山 駅∼ 牛角 の区間 距離 が実 際 より も長 くイメー ジさ れ てい る傾 向 があ る とい っ て も、 その 差は0. 19 に対し て0.35 に と どまっ てい る。 こ れは、 白山駅 ∼牛 角 の 区間 の商店 街 は地 元住 民等 に は頻繁 に利 用 され てい るも ので ある が、 学生 に とっ ては そ れ ほ どに 関心 の 高い も のでは ない こ とな どが影 響 して い る 結果て は ない か と推 測 され る。 今回 の 調 査 で は、 各 店 舗等 の利 用 率につ い て はデータ を とっ てい ない た めに 即断 する こ とはで きない が、 商店 会 の人達 の 日頃 か らの印 象 であ る「 学 生は通 り 過ぎ る だけ の人 が多い」 とい う実態 を裏 付け る 結果 であ る可 能性 も否定 でき ない と考 えら れる。 表5 道 路距 離 の比 率の 違い 道 路 区 間 実 測 値 の 比 率 認 知 地 図 上 の 比 率 白 山 駅 ∼ 牛 角 0. 19 0.35 牛 角 ∼ 白 山 下 交 差 点 0. 16 0.22 白 山 下 交 差 点 ∼ 第2キャン パス 0.65 0.43 ③角度 白山駅 ∼牛 角 の区 間 と白 山下交 差 点∼ 第2キャン パス の区間 と の角度 を測 定し た とこ ろ、 実 際 の 角 度 は130 度 であ るの に対し て、イメー ジマッ プに 描 画 されてい る角度 の平 均値 は79.2 度 で あっ た。 標準 偏差 は42.0 度 であ る。 Byrne の研 究4) に よれ ば、 実 際の角 度 に かか わらず90 度前 後 で交 わ る と記 憶さ れ る傾向 に ある こ とが 明ら かに され てい る が、 ほぼ同 様 の結果 を示 してい る もの であ る と 考え られ る。 ④5 叉路 の 再現性 白山下 交 差点∼ 京 華通 り∼ 白山仲 通 り( 白山 下商 店街 ) 一 帯の 交差点 は、 非 常に 複雑 な 形状 を 呈 してい る。 今 回 の調 査で は、 ほぼ 正確 に当 該交 差 点 の計 上を 描画 でき た のは、41 人 中2 人 に と どま っ てい た。 対 象 とし た被 験者 は3 年 生 と2 年 生 であ る が、 相 当程度 の期 間 に渡 り通 学 経路 とし て利 用し てい る に もか か わらず、 当該 交 差点 の形 状 につ い て の把握 が 不十 分で あっ た のは 意外 な 結果 で あっ た。 裏 を返せ ば、 交差 点 の形状 の 複雑 さが、 白山 仲通 り (白 山 下商店 街) へ の関 心 を低く し て い る原因 に なっ てい る と推 測 され る。 この よ うな 複雑 な形 状 になっ た原 因 は、 旧 白山 通 りに代 わる 基幹 的 な バイ パス 道 路 とし て現 在 の白 山通 りが 新 規に 開発 された た めであ る が、 この よ うな 開発 に 伴 う残地 や残 路 の発 生 は、 全国 各 地にお い て散 見 され る も のであ り、 街 のイメー ジア ビリティ を低 下 させ る原 因 となっ てい る こ とが少 なく ない。 本 来で あ れ ば、 残 地や 残路 につ い ても、 公 園やロータリー にす る な どの適切 な 再整 備方 策 を検討 す る べき で あ ると考 え られ る。 なお、 こ の よ うな 残地 や残 路 な どにつ い ては、 逆転 の発 想で 資源 的価 値 を 高 めてい る事例 もあ る。「 超 芸術トマソン (意 味 不 明の建 造 物 な ど)')」や「 お 化 け ○○」 な ど とし て街 歩 き の際 の名 物 と した りし てい る事例 で あ
り、 実 際、 当 該地 区 の近く で も、 根津・ 千 駄木 地 区にお ばけ階 段やヘ ビ道 な どがあ り、 名 所 の一つ とし て 観 光 ガイ ドな どで も紹介 さ れてい る。 当該交 差 点につ い て も、 こ の よ うな工 夫 をし て みる の も一 考 の価 値 があ る と考 えら れる。 (5 ) 被験 者 属性 によ る差 異 構 図や 出 現率 に 関し て、2 年 生 と3 年 生 の 間で の顕 著な差 は 見 られな かっ た。 通 学 経路 のイメー ジ形 成 につい て は、1 年 を超 え るよ うな長 期 間 を要 す るも ので はなく、 数力月 単位 の期 間で 形成 さ れる も のであ る の かもし れ ない。 なお、 一 般 的 にいっ て、 認知 地図 の発 展につ い て は、 認知 領 域の 拡 張 と認 知 要素密 度 の逓 増 の2 つ の ベクトル が交 錯し な がら 進 んでい く もの であ る。 こ の場 合 にお い て、 認 知領 域 の拡 張に つい て は積極 的・ 自発的 な 意志 が大 きく 影響 をし、 要素 密度 の逓増 につい て は 体験 時 間の長 さや 印 象 の強 さが大 きく 影 響す る もので あ る。ま た、相対 的 な評 価 に過 ぎない が、 認知 領 域 の拡 張 につい て は初 期段 階で 一定 の 域に 達す るこ と が多い 傾 向に ある。 こ のよ うな こ とを 考 慮す る と、 東 洋 大生 の認 知 地図 をよ り広 範 囲に 渡る も のとし、 ま た、 出 現す るエレメント の数や 頻度 を多 く す る ために は、 白山下 の街 につい ての 情報 を持 ち えてい ない 初 期段 階 (入 学時 の段 階) で の対 処 が重 要で あ り、 こ の段 階 にお い て、 あ えて 主 興味 ポイント を 地区 内に 分 散 させて 紹介 す る な どし て、 地 区内 を広 範 囲に歩 き回 り たい と 思わせ るこ とがで き るよ うな仕 掛 け が必 要に な るの で はな い か と考 えら れる。 4 ま と め 本論 にお い て は、 白 山下地 区を 対象 とし て、 学 生 の認知 地 図に 関す る調 査・ 分 析 を行っ た。 そ の 結果、 主 とし て 次のこ とが明 らか に され た。 ①コン ビニ や ドラッ グストア 等 とい っ た学 生 の利 用機 会 が多 い 施設 ほ ど認知 され る傾 向 が 高い こ と ② 通学 経 路 として 使用 さ れてい る 路線 の建 築物 の方 が認 知 さ れる機 会 が多い こ と ③ 経路 上に 記 憶 されてい る物 が多い ほ ど、 心理 的 距離 は長く 認 知 され る傾 向が あ るこ と ④ 白 山下 の交 差点 の形 状 の複雑 さ が、 空 間認 知 の障 害 になっ てい るお そ れ があ るこ と ⑤ 白山 下交 差点 一帯 の 五叉 路につ い ては、 不可 思議 な施 設 とし て意 図的 に紹 介 す るこ とに よ り、 そ の資 源的 価値 を 創出 で きる 可能 性 かおる こ と ⑥初 期段 階 (入 学時) に、 主 興 味 ポイント を でき る だけ 地区 内 に分散 させ て 紹介 す るこ とが、 認 知 領 域 の拡 張及 びそ の 後 の認知密 度 の向 上 に貢 献す る 可能性 が示 唆 さ れるこ と 最後 に なる が、 調 査に 協力 をし てく れ た東 洋大 学国 際 地域 学部 国際 観光 学科 の学 生達 に深 甚 なる 紺 意を 表し たい。 1 )文 京 区 白山 前 町 町会 (2011 ):地 域 の 底力「 若 者 の 論 文」 集 一 次 世 代 を 担 う若 い 力 を 活 用 し た 活 力 あ る 街づ く り 方 策 の発 掘事 業- ( 平 成22 年 度東 京 都 地 域 の 底力 再 生 事業 助 成 対象 事 業 )、文 京 区 白 山 前 町 町 会
東 海 林 : 文 京 区 白 山 下 地 区 に お け る 大 学 生 の 認 知 地 図 に 関 す る 分 析 61
2 )Lynch K、 丹 下 健 三・ 富 田玲 子 訳 (1968): 都 市 のイメー ジ、 岩 波 書 店
3 ) 藤 岡 瞳、 田上 千 晶、 根 来 宏 典、 大 内宏 友 (2004 ):スケッチマッ プに よ る子 供 の 空 間 認 知 に 関す る研 究、 環 境 情 報 科 学 論 文 集 第18 号、 環 境 情 報 科 学センター
4 )Byrne. R.W. (1979 ):Memory for urban geography、Quarterly Jouma of Experimental Psychology 31, pp. 147-154.5 ) 赤 瀬 川 原 平 編 (1987 ):超 芸 術トマソン、 筑 摩 書 房