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主催旅行の内容に関する不当表示の規制(吉田龍恵教授退官記念論文集)

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主催旅行の内容に関する不当表示の規制

田  耕  作

1 はじめに  景品表示法4条は,商品にかかる不当表示とならんで,役務にかかる不当表 示をその規制対象としている。しかし,従来,役務にかかる不当表示が問題に されることはあまりなかったように思われる。とりわけ,役務の内容に関する        1)不当表示に対して排除命令が出されることは稀であった。  しかし,今日,経済のサービス化の進展とともに,役務の内容に関する不当       2) 表示も目立つようになってきた。  こういつた状況にあって,1990年6月8日,旅行会社6社(日本交通公社, 近畿日本ツーリスト,日本旅行,東急観光,日本通運,名鉄観光サービス)に       3) 対して排除命令が出されるに到った。  そこで,本稿で,主催旅行の内容に関する不当表示を手がかりとすることに よって,役務の内容に関する不当表示の規制がかかえている問題点の解明を図 るとともに,主催旅行の内容に関する不当表示の規制について考えてみること 1)従来のものとしては,富士重機工業事件(昭和44・1・7,排除命令集3巻309頁),教 学出版事件(昭和47・1・11,排除命令集6巻78頁)があるにすぎない。  なお,役務の取引条件に関する不当表示事件としては,富士重機工業事件(前出),ボア  ・シャポー事件(昭和45・2・24,排除命令集4巻185頁),東京信用販売事件(昭和46・ 7・7,排除命令集6巻4頁),東京トラベルセンターおよびグランプリ社事件(昭和46・ 7・13,排除命令集6巻14頁),ジャンボトラベルサービス事件(昭和46・12・27,排除命 令集6巻65頁),富士重機工業事件(昭和48・4・18,排除命令集8巻11頁)がある。 2)公正取引委貝会事務局取引部景品表示監視課「昭和63年度における景品表示法違反事件 の処理状況」公正取引466号52,53頁(1989年)参照。 3)なお,5社は排除命令を受け入れた。しかし,日本交通公社は排除命令を受け入れなか ったので,現在,審判か行われている。

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90  吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号) にする。  さて,景品表示法4条1号は,事業者が,「商品又は役務の品質,規格その他 の内容について,実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係 るものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるため,不当に顧客を 誘引し,公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」を行ってはな らない旨定めている。  この点,主催旅行の内容が不当表示となるかいなかに関しては,、とりわけ, 次のことが問題になるように思われる。すなわち,第1は,「実際のもの」とは 何かということであり,第2は,「著しく優良である」とはどういうことである のかということである。また,違反の成立時期をめぐっても,検討しておかな ければならない若干の問題があるように思われる。そこで,以下,それぞれに ついて検討を加えることにする。 II 「実際のもの」  役務に関しては,何が「実際のもの」となるかについて具体的な言及を行っ       4) た文献はほとんどみうけられない。そこで,以下,主催旅行を念頭におきなが ら私見の展開を図るとともに,排除命令においてどういつだ捉え方がなされて いるのかを明らかにすることにする。叙述は,次の順序による。すなわち,① 表示対象となる役務の分類,②役務内容の確定とその時点,③「実際のもの」 にかかる私見,④従来の排除命令における「実際のもの」の捉え方,⑤旅行会 社に対する排除命令における「実際のもの」の捉え方,である。なお,付随的 に,「実際のもの」とのかかわりで問題になる日程変更をめぐる問題点について も検討を加えておくことにする。  (1)表示対象となる役務の分類  表示対象となる役務がどういうものであるのかということから,考察をはじ めることにする。それは,およそ,次の3つに分けることができる。すなわち,  4)散見した限りでは,「取引しようとしている商品や役務のこと」(糸田省吾・事例独占禁  止法(1988年>378頁)という言及が唯一のものである。

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      主催旅行の内容に関する不当表示の規制  91 ①過去に供給された役務(実績),②現に供給されている役務,③将来供給され ることが予定されている役務,である。  このうち,①は,単独の表示対象とされることはないということができる。 つまり,それは,②または③に随伴する形で表示対象とされるにすぎないとい        5) うことである。そこで,①は,とりたてて検討の対象とする必要はない。  (2)役務内容の確定とその時点  過去に供給された役務の内容を除いて,供給される役務の内容は,必ずしも        6) 表示時に確定しているわけではない。  この点,役務が現に供給されている場合には,一般に,表示対象となる役務 内容は表示の時点で確定しているとみることができる。役務が規格的な性質の ものであり,また継続的に供給されているものであればあるほど,そのように いっことができる。  それに対し,役務が将来供給されることが予定されている場合には,表示対 象となる役務内容は一般に,当該役務が現実に提供される時点で確定するとい       7) うことができる。しかし,役務が現実に提供される時点よりも前の時点で,表 示対象となる役務内容が確定する場合がありうる。  すなわち,1つは,表示の時点で確定する場合である。「一流ホテル宿泊」と 表示されているが,当該宿泊地には一流ホテルは存在しないという場合を例に とろう。このような場合,表示の時点で,当該役務は表示どおりには提供され ないことが客観的に明らかになる。確かに,どういつだ役務が実際に提供され るかは現実の提供をみるまではわからないが,表示されている役務の提供があ りえないということだけは,確実に,表示の時点で確定するということができ る。 5)なお,学習塾の合格実績にかかる不当表示について,山田昭雄ほか・やさしい景表法講 座(1987年)231頁(平林英勝執筆)参照。 6)商品の場合にも,同様の問題が生じうる。たとえば,青田売りのマンションを想起され たい。 7)「一流ホテル宿泊」と表示されている揚合,本当に一流ホテルに宿泊するかどうかは, 当地で宿泊するまでわからない。

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92  吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号)  そして,もう1つは,表示の時点と役務が現実に提供される時点の間のある 時点で確定する場合である。「一流ホテル宿泊」と表示されており,しかも当該 宿泊地に一流ホテルが存在するが,もともとの表示が行われた後に,一流ホテ ル以外の宿泊場所に宿泊する旨の変更通知がなされた場合を例にとろう。この ような場合,変更通知がなされた時点で,当該役務はもともとの表示どおりに は提供されないということが明らかになる。確かに,どういつだ役務が実際に 提供されるかは現実の提供をみるまでわからないともいえるが,もともと表示 された役務の提供が行われないということは,変更通知がなされた時点で確定 するといってよい。  (3) 「実際のもの」にかかる私見  以.ヒの検討に基づけば,役務に関しては,次のものが「実際のもの」となる。  第1に,役務が現に供給されている場合は,現実に提供されている役務が「実 際のもの」となる。  第2に,役務が将来供給されることが予定されている場合であって,しかも, 当該役務の内容が,役務が現実に提供される時点で確定する場合は,将来にお いて現実に提供される役務が「実際のもの」となる。  第3に,役務が将来供給されることが予定されている場合であって,しかも, 当該役務の内容が表示の時点で確定する場合は,当初の予定どおりに提供され ると仮定して実際に推移することが合理的に予期されうる役務が「実際のもの」 になる。  第4に,役務が将来供給されることが予定されている場合であって,しかも, 当該役務の内容が,表示の時点と役務が現実に提供される時点の問のある時点 で確定する場合は,変更された予定のとおりに提供されると仮定して実際に推 移することが合理的に予期されうる役務が「実際のもの」になる。  (4)従来の排除命令における「実際のもの」の捉え方  ここでは,富士重機工業事件および教学出版事件を取り上げ,どういつだ捉 え方がなされているのか紹介することにする。       8)  (a)富士重機工業事件  本件は,富士重機工業が,コンシューマー・エー  8)昭和44・1・7,排除命令集3巻309頁。

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      主催旅行の内容に関する不当表示の規制  93 ジェンシー・システムと称する会員制度の会員(CA会貝)の募集に関し,同会 員に提供する役務の内容について実際のものよりも著しく優良であると一般消 費者に誤認される表示をしたこと等が,問題とされたものである。ここでかか わりがあるのは,次のような不当表示である。  すなわち,第1は,「一流家具店,美容院,理髪店,靴,服飾専門店,デパー トなどあらゆる業種にわたり設置される消費者代理店連盟加盟店が格安にて希 望品をお求めいただけます」と表示されていたが,実際には,消費者代理店連 盟に加入している店舗は総計36店であって,二院院,理髪店およびデパートは なく,また,加盟店の大部分が東京都内にあり,CA会員でこれを利用できるの は主として東京都周辺に居住するCA会貝に限られていたというものである。  第2は,「全国一流旅館の半額近い割引宿泊サービス,中高大学進学指導教育 で超一流講師による特別個別進学指導,……などの特別提供サービスが得られ ます(5年間有効)」と表示されていたが,実際には,「全国一流旅館の半額近 い割引宿泊サービス」については,事前に富士重機工業に連絡した上,宿泊が できるものであり,また,宿泊できるのは原則として閑散期とみられる期間内 で,かつ,日曜,祝日の前日および日曜日は除かれ,さらに室割は原則として 一室4人となっていたというものであり,「超一流講師による特別個別進学指 導」については,CA会員個別の通信教育の受付を準備中であって,実施してい るものではなかったというものである。  第3は,「全国民芸品の特別提供,世界の有名輸入商品が特別廉価で提供され ます(5年間有効)」と表示されていたが,「全国民芸品の特別提供」は現在計 画中であって実施しているものではなく,また,「世界の有名輸入商品」の提供 は,台湾産の蝶の飾りもの等を輸入して販売することを計画している段階であ り,現在,実施しているものではなかったというものである。  そこで,本件においては,会員募集に関する不当表示が問題にされているこ ともあり,表示の時点で現に提供されている役務が,「実際のもの」として捉え られているとみることができる。         9)  (b)教学出版事件  本件は,教学出版が,その大学受験通信教育指導の内 9)昭和47・1・11,排除命令集6巻78頁。

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94  吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号) 容について,実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表 示をしたことが,問題とされたものである。ここでかかわりがあるのは,次の ような不当表示である。  すなわち,第1は,入学案内に,同社に所属している受講生のうちから,あ たかも多数の合格者が出たかのように表示していたが,それは架空の事実であ ったということである。  第2は,入学案内に,同社があたかも最古の伝統を有するかのように表示し ていたが,同社は,最古のものではなく,また,通信教育をいち早く日本にと り入れたものでもなかったということである。  第3は,入学案内に,大学生のアルバイトが添削するようなことは全くない 旨記載することにより,ことさら,同社の添削の内容が優良であるかのような 表示をしていたが,同社は,大学生のアルバイトをも雇用して,添削を行って いるものであったということである。  そこで,本件においては,大学受験通信教育指導の内容についての不当表示 が問題にされていることもあり,表示の時点で現に提供されている役務が,「実 際のもの」として捉えられているとみることができる。  (5)旅行会社に対する排除命令における「実際のもの」の捉え方  旅行会社に対する排除命令においては,従来の排除命令における「実際のも の」の捉え方とは異なった捉え方がなされている。そこで,以下,改めて,ど ういつだ捉え方がなされているのかを紹介することにする。  事件は,それぞれの旅行会社が,主催旅行の内容について,実際のものより も著しく優良であると一般消費者に誤認される表示をしたことが,問題とされ たものである。問題とされた不当表示の代表的なものは,具体的には,次のよ        le) うなものであった。

 ①「北欧の旅白夜の北欧4ヶ国周遊13日間」と称する主催旅行につい

て,あたかもバルト海クルーズ途上において「いつまでも沈まない“真夜中の 太陽”」を見ることができるかのように表示していたが,実際には,このような 10)なお,日本交通公社事件は,現在審判中であるので,取り上げないことにする。

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      主催旅行の内容に関する不当表示の規制   g5       11) 現象は本バルト海クルーズ途上においては見ることができないものであった (近畿日本ツーリスト事件)。

 ②「北欧の旅バルト海クルーズと北欧4ヶ国周遊11日間」と称する主

催旅行について,あたかも「ゲイランガーフィヨルド」および「ブリクスダー ル氷河」の自然景観をも観光することができるかのように表示していたが,実        12> 際には,これらの自然景観を観光することはできないものであった(近畿日本 ツーリスト事件)。  ③「ゴールドコースト・シドニー7日」と称する主催旅行について,あ たかもゴールドコーストにおいて気温の低い時期に当たる5月ないし9月にお いても東京の6月または9月と同等の気温の下でマリンスポーツを行うことが できるかのように表示していたが,実際には,同等の気温の下でマリンスポー ツを行うことはできないものであった(日本旅行事件)。  ④「ル・ハート’89・10>’90・4日本旅行創業85周年記念特別企画大 感謝の旅 ヨーロッパ10日間」と称する主催旅行について,あたかも2日目に プラド美術館を見学することができるかのように表示していたが,実際には, 全23回のいずれの実施予定コースにおいても,2日目は同美術館の定期休館日 に当たるため,日程表どおり同美術館を見学することはできず,見学するため        13) には旅行参加者にとって不利な日程変更を余儀なくされるものであった(日本 旅行事件)。  ⑤「音楽の故郷と古城巡り9日間」と称する主催旅行について,あたか も同日中にウィーンからザルッブルグまで移動した後,所定の市内観光を行う ことができるかのように表示していたが,実際には,行程どおりにザルッブル グ市内観光を行うことはほとんど不可能であった(東急観光事件)。  問題は,どういつだ役務が「実際のもの」として捉えられているかである。 11)同様の不当表示は,日本旅行事件,東急観光事件,日本通運事件,名鉄観光サービス事  件でも問題にされている。 12)同種の不当表示は,名鉄観光サービス事件でも問題にされている。 13)同種の不当表示は,日本通運事件,東急観光事件でも問題にされている。

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96  吉田広量教授退官記念論文集(第270・271号) この点,予定どおりに提供されると仮定して実際に推移することが合理的に予 期されうる役務が,「実際のもの」として捉えられているように思われる。な お,④に関しては,日程を変更すればプラド美術館を見学することが可能であ り,これをどのように評価するかが付随的な問題として残る。そこで,改めて 次々で,この点についての検討を行うことにする。  (6)日程変更をめぐる問題点  日程変更の仕方・程度によっては,他の訪問地等での日程に大きくしわよせ が生じることがある。以下,こういつた事態が発生することを前提として,議 論を進めることにする。  こういつた日程変更をめぐる問題点は2つある。すなわち,1つは,日程変 更によって,当該訪問地での役務の提供にかかる当初の不当表示が治癒されう るかいなかということである。そして,もう1つは,日程変更によって,大き くしわよせが生じる他の訪問地等での役務の提供にかかる表示が新たに不当表 示となるかいなかということである。  この点,前者に関しては,日程変更によって当初の不当表示が治癒されるこ とはないということができる。というのは,ある表示が不当表示となるかいな かは,本来的に,当該表示がなければ他の事業者の役務の提供を受けていたか もしれない消費者を,当該表示によって自己のもとに誘引することになるかど うかによって決まるからである。換言すれば,ある表示が不当表示となるかど うかは,当該訪問地での役務の提供がないということが当初からわかっておれ ば,一般消費者が当該旅行業者の役務の供給を受けず,他の旅行業者の役務の 供給を受けていたかもしれないということができるかいなかによって決まるか らである。  それゆえ,日程変更によって当該訪問地での役務の提供が可能となったとい うこと,または,日程変更の結果,旅行参加者が満足したということは,表示 が不当表示となるかいなかの問題とは本来関係がないということができる。  他方,後者に関しては,次のようにいうことができる。すなわち,日程変更 によって,大きくしわよせが生じる他の訪問地等での役務の提供にかかる表示

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      主催旅行の内容に関する不当表示の規制   g7       14) が新たに不当表示となるとみることも可能ではある。しかし,それは,一般に は,日程変更によって別の訪問二等での役務の提供を可能としょうとしたこと に随伴して生じる事態とみることの方が穏当である。  そこで,次のことがここでの結論となる。すなわち,第1は,日程変更によ ってプラド美術館を見学することができたとしても,当初の不当表示が治癒さ れるわけではないということである。.第2は,日程変更によって大きくしわよ せが生じる他の訪問地歩での役務の提供にかかる表示は,新たに不当表示とな るとみる必要はないであろうということである。  この点,日本旅行に対する排除命令では,プラド美術館を見学することがで きるかのように表示していたが,実際には,同美術館が定期休館日に当たるた め,「日程表どおり同美術館を見学することはできず,見学するためには旅行参 加者にとって不利な日程変更を余儀なくされるものである」との認定が行われ ている。  しかし,「見学するためには旅行参加者にとって不利な日程変更を余儀なくさ れるものである」との記述は,私見によれば本来不必要であり,付随的な意味 しかない。というのは,日程表どおりでは美術館の見学が不可能であるという ことだけで,不当表示は成立しうるものであるからである。  もっとも,当該認定に異論があるわけではない。というのは,プラド美術館 を見学するために日程変更をすれば,他の訪問地等での日程に大きくしわよせ が生じ,予定されていた見学等が困難になるように思われるからである。とり わけ目的志向の旅行(たとえば各訪問地での美術館見学,小旅行)にあっては, 日程変更は,旅行参加者にとって不利となるということができる。というのは, 旅行参加者は,数多くの主催旅行の企画の中から,自己の目的に最も適つた企 画を選んでいるのであり,日程表どおりに旅行することができなければ,旅行 14)このように,独立した不当表示が発生するとみると,当該不当表示に関しては,次の役  務が「実際のもの」となる。すなわち,事前に通知して日程を変更した場合は,「変更され  た予定のとおりに提供されると仮定して実際に推移することが合理的に予期されうる役  務」であり,事前の通知なしに日程を変更した場合は,「現実に提供さている役務」であ  る。

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98  吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号) によって期待している目的をすべて達成するということはできなくなるからで ある。  なお,「旅行参加者にとって不利な日程変更」であったかいなかは,本件が不 当表示規制にかかるものであることにかんがみれば,旅行参加者が結果として, 主観的に満足したかどうかによって決定されるべき性格のものではない。それ は,日程変更によって大きくしわよせが生じる他の訪問地等での見学等ができ ないということが当初からわかっておれば,当該主催旅行には参加せず,別の 主催旅行に参加していたかもしれない可能性があるかいなかによって決定され るべき性格のものである。 III 「著しく優良である」  まず,解説書を手がかりとしながら,「著しく優良である」とはどういうこと か,まお,その判断に際してどういつだ要素が考慮されうるのかを明らかにす ることにする。そして,その後,主催旅行の内容が実際のものより「著しく優 良である」かどうかを判断するに際して,どういつだ要素がどのように考慮さ れうるのかをより具体的に明らかにすることにする。  (1)一般論としての展開  実際のものよりも「優良である」とは,字義どおりの意味であるが,それは, 一般消費者にとっての利用価値・市場価値の高低などを基準として決められる     15) ことになる。なお,純粋に個人の趣味・主観に基づくものが優良かどうかは定 めがたいが,趣味商品であっても,市場価格のあるものであれば,その価格が 判断の基準となる。また,味覚の場合には,おいしいかまずいか,好きか嫌い かということではなく,その商品が本来もっていると一般消費者に了解されて いる味があるかどうかが判断の基準となる。  このことを主催旅行とのかかわりで敷桁すれば,次のようにいうことができ る。すなわち,主催旅行の効用・価値は個人の主観的基準で判定されるので, 15)なお,本節の解説部分の叙述は,ほぼ全面的に,黒田武=本城昇(編著)・事例詳解景品  表示法(1987年)111−13頁に依拠している。

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       主催旅行の内容に関する不当表示の規制   99       16) 判定の客観的基準は存在しないと断言することはできないということである。 換言すれば,主催旅行の効用・価値も,客観的基準によって判定することがで きるということである。  判定基準となるのは,1つは,旅行費用である。その高低によって主催旅行 の効用・価値を判定することが可能になってくる。というのは,一般消費者は, 他社の同種の主催旅行の費用と比較することによって,当該主催旅行がどの程 度の効用・価値をもちうるかを評価しているように思われるからである。  そして,もう1つは,当該主催旅行の「見所」としてパンフレット等に記載 されている内容である。それがどういつだものであるのかによって,主催旅行 の効用・価値を判定することが可能になってくる。というのは,一般消費者は, それを見ることによって,当該主催旅行から得ることができる効用・価値を評        17) 価しているように思われるからである。  他方,「著しく」とは,数量的な「多・少」の問題ではなく,誘引効果が客観 的に認められる程度に到れば虚偽・誇大は「著しく」ということになる。換言 すれば,「著しく」かどうかは,虚偽・誇張が一般に許容される限度内のもので あるかどうかによって決められるということである。なお,一般に許容される かどうかは,その時々の経済社会によって変化するものであり,一般消費者が より適正な表示を求めるようになれば,許容限度もそれだけ厳しくなる。  結局のところ,実際のものよりも「著しく優良である」と誤認される表示で あるかいなかは,商品・役務の性質,一般消費者の知識水準,取引の実態,表 示の方法,表示の対象となる内容等を考慮した上で,判断されることになる。  (2)主催旅行に即した展開 16)一般に,旅行の効用・価値は個人の主観的な基準で判定されるところが大きく,客観的  な基準では判定されがたいと考えられている。たとえば,皆川愼吾(編著)・旅行業界(1988  年)109−10頁。 17)一般消費者は,旅行業者の店頭においてあるパンフレットやチラシ,新聞広告,通信販  売のダイレクトメール等における表示内容を見ることによって,主催旅行の選択を行って  いると考えられている。中川浩志二末藤育史「国内の主催旅行(パック旅行)に係る取引  実態調査結果について1公正取引459号45,48頁(1989年)参照。

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100 吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号)  以下では,主催旅行の内容が実際のものよりも「著しく優良である」かどう かを判断するに際して,主催旅行の性質,主催旅行参加者の知識水準,主催旅 行の取引実態,主催旅行の表示媒体,表示対象となる主催旅行の内容といった       18) 要素がどのように考慮されうるのかについて考察を加えることにする。       19)  (a)主催旅行の性質  主催旅行は,次のような性質をもっている。すなわ ち,①通常の商品とは異なり,実物や見本を見たり,あるいは試用したりして, 選択決定を行うことができない,②主催旅行の内容は,結局のところ,実際に 旅行に参加してみなければわからない,③主催旅行の内容に不満足であっても, 返品や交換をすることができない,ということである。  それゆえ,表示が著しく優良であると誤認されるものであるかいなかの判断 に際しては,こういつた主催旅行がもつその性質が十分に考慮に入れられなけ ればならない。この考慮は,次のことを示唆するように思われる。すなわち, ①主催旅行の表示の真偽は判明しにくい,②主催旅行参加者は表示に依存せざ るをえない,③表示の誘引力は大きい,④表示の真実性が強く要請される,と いうことである。  (b)主催旅行参加者の知識水準  主催旅行参加者の知識水準に関しては,       20) 次のようにいうことができる。すなわち,主催旅行参加者は,①素人の一般大 衆である,②手配旅行を行う者に比べて依頼心が強い,ということである。  そこで,表示が著しく優良であると誤認されるものであるかいなかの判断に 際しては,こういつた主催旅行参加者の知識水準が十分に考慮に入れられなけ ればならない。この考慮は,次のことを示唆するように思われる。すなわち, ①主催旅行参加者は,表示を信頼する傾向にある,②表示の誘引力は大きい, ③表示の真実性が強く要請される,ということである。  (c)主催旅行の取引実態  主催旅行の内容は,旅行業者が一方的に決定す 18)なお,利部脩二「実務家のための景品表示法基礎講座  十三」公正取引479号58,61頁  (1990年)をも参照。 19)皆川・前掲(注16)109頁,旅行業法制研究会・旅行業法解説(1988年)2頂参照。 20)旅行業法制研究会・前掲(注19)11頁参照。

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      主催旅行の内容に関する不当表示の規制  101 る。それに対し,一般消費者は,ある面で,旅行業者の名声を信用して主催旅       21) 行に参加するかどうかを決定している。  また,旅行業者は,役務の長所は十分に強調するが,不確実性(時間の経過,       22) 地理的移動,天候等)についてはあまり情報を提供しない傾向にある。それに 対し,一般消費者は,旅行業者の店頭においてあるパンフレット等の表示内容 を見ることによって,主催旅行に参加するかどうかの選択を行っている。  こういつた主催旅行の取引実態も,主催旅行の内容が実際のものよりも著し く優良であると誤認されるものであるかいなかの判断に際して考慮されなけれ ばならない。この考慮は,次のことを示唆するように思われる。すなわち,主 催旅行の内容に関しては,①表示の真実性が強く要請される,②長所について       23) の表示のみならず,短所についての表示も強く要請される,ということである。  (d)主催旅行の表示媒体  虚偽・誇張の許容度は,一般に,表示媒体によ       24) って異なっているということができる。というのは,一般消費者が,各々の媒 体に対して予見をもっているからである。  この点,広告は一般に,表示に比べて虚偽・誇張の許容度が高いということ ができる。しかし,仔細にみれば,広告の中でも,虚偽・誇張の許容度は媒体 によって異なっているということができる。すなわち,様々な情報を書き込も うと思えば書き込める媒体であればあるほど,虚偽・誇張の許容度は低いとい うことができる。たとえば,パンフレットやリーフレットがそうである。        25)  他方,役務に関しては,広告中の内容説明は表示ともいえる。とくにバンプ レットやリーフレットの内容説明はそのようにいうことができる。 21)藤井教子「パックツアー110番から 旅行業約款を考える 」消費者法ニュース5号  32,32頁(1990年)参照。 22)川村芳郎「海外パッケージツアーと消費者保護(下)」レファレンス475号84,88頁(1990  年)参照。 23)なお,龍田節「不実表示の規制と消費者保護」加藤一郎=竹内昭夫(編)・消費老法講座  第4巻(1988年)ユ3頁をも参照。 24)なお,正田彬・独占禁止法(1966年)1013−14頁,渋谷達紀「景品表示の規制(2>一一広  告・表示の規制」加藤=竹内・前掲(注23)60頁をも参照。 25)渋谷・前掲(注24)62頁注(3)参照。

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102  吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号)  それゆえ,役務が問題となる場合,広告であっても,虚偽・誇張の許容度は 極めて低いということができる。このことは,パンフレットやリーフレットが 問題になる:場合にはとくに当てはまる。  そこで,主催旅行の内容が実際のものよりも著しく優良であると誤認される ものであるかいなかの判断に際しては,主催旅行の表示媒体がどういつだもの であるかも,十分に考慮に入れられなければならないということになる。  この点,旅行会社に対して排除命令が出された事件では,多くは,パンフレ ット,リーフレットが問題にされている。なお,パンフレット,リーフレット 以外では海外旅行情報誌に掲載された広告が問題にされているが,それは,「海 外旅行情報」の部に掲載されており,しかも,その広告紙面は大きく,様々な 情報が書き込まれたものであった。  (e)表示対象となる主催旅行の内容  表示の対象が役務の本質的な部分に 関するものであればあるほど,虚偽・誇張は許容されないということができる。 というのは,それが,役務選択のポイントとなる事項となるからである。  この点を具体的な事件に即してみれば,次のようにいうことができる。すな わち,「北欧の旅 白夜の北欧4一国周遊 13日間」と称する主催旅行について は,「いつまでも沈まない“真夜中の太陽”」を見ることが旅行の主目的の1つ とされており,「北欧の旅バルト海クルーズと北欧4ヶ国周遊11日間」と称 する主催旅行については,フィヨルド観光がノルウェー観光のいわば最大のハ イライトとされており,「ゴールドコースト・シドニー 7日」と称する主催旅 行については,マリンスポーツがゴールドコースト滞在の目玉の1つとされて おり,「ル・ハート ’S9・10レ’90・4 日本旅行創業85周年記念特別企画 大 感謝の旅 ヨーロッパ10日間」と称する主催旅行については,プラド美術館が マドリッドにおける主たる見所の1つとされており,「音楽の故郷と古城巡り 9日間」と称する主催旅行については,ザルツブルグ市内観光が旅行目的の1 つとされている,ということである。そこで,これらの点についての虚偽・誇 張の許容度は,極めて低いということができる。  ところで,今日,旅行内容としては,旅行の多様化・個性化という需要構造

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       主催旅行の内容に関する不当表示の規制  103 の変化を反映して,リゾート滞在,音楽,スポーツ,グルメ,美術,語学研修        26) といった特定の目的を志向するものが増えつつある。こういつた目的志向が強 まれば強まるほど,当該の旅行目的にかかる虚偽・誇張は許容されなくなって くる。  (f)まとめ  以上にみてきたところの主催旅行の性質,主催旅行参加者の 知識水準,主催旅行の取引実態,主催旅行の表示媒体,表示対象となる主催旅 行の内容を総合的に考慮すれば,少なくとも,旅行選択のポイントとなる事項 についての虚偽・誇張は,ほとんど許容される余地がないということができる。  したがって,旅行会社に対する排除命令で問題とされたような表示は,いず れも,一般消費者にとっての効用・価値からみて,誘引効果が客観的に認めら れるものであり,実際のものよりも「著しく優良である」と誤認される表示で あるということができるように思われる。 IV 違反成立時期をめぐる問題点  違反の成立時期は,「商品や役務が一般消費者の取引しうる状態におかれてお        27) り,かつ,誤認される表示が一般消費者に伝達されたとき」とされている。そ こで,商品や役務が一般消費者の取引しうる状態におかれている限りで,一般 消費者に誤認される表示は,一般消費者に伝達されれば直ちに規制することが できるということになる。というのは,誤認によって一般消費者の合理的な選 択が妨げられ,公正な競争が阻害されるおそれがあるからである。規制のため には,一般消費者が現実に商品を購入したり,役務の提供をうけたりするのを 待つ必要はない。換言すれば,現実の被害の発生を待つことは必要ではない。  主催旅行に関しても,役務が一般消費者の取引しうる状態におかれており, かつ,誤認される表示が一般消費者に伝達されたときに,不当表示は成立する ということができる。しかし,ここでは,役務の内容の確定時期とのかかわり 26)このことについては,川村芳郎「海外パッケージツアーと消費者保護(上)」レフアレン  ス472号62,64−65頁(1990年)参照。 27)吉田文剛(編)・景品表示法の実務(1970年)234頁参照。

(16)

104  吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号) で,若干の検討が必要になってくる。  まず,役務が将来供給されることが予定されている場合であって,しかも, 役務の内容が表示の時点で確定する場合には,表示時に表示の虚偽性が明らか となる。そこで,この場合,表示時に違反が成立するとすることには何ら問題   28) はない。  それに対し,役務が将来供給されることが予定されている場合であって,し かも,役務が現実に提供される時点で役務の内容が確定するか,または,表示 の時点と役務が現実に提供される時点の間のある時点で役務の内容が確定する 場合には,表示の後の時点で表示の虚偽性が明らかになる。そこで,これらの       29) 場合,表示時に違反が成立するとすることには疑念が生じるかもしれない。し かし,表示時に一般消費者の合理的な選択が妨げられ,公正な競争が阻害され るおそれが生じるということを考慮に入れれば,表示時に違反が成立するとみ ることには何ら問題はないように思われる。  なお,旅行会社に対する排除命令で問題となった不当表示は,いずれも,役 務が将来供給されることが予定されている場合であって,しかも,表示の時点 でその内容が確定する役務にかかるものであり,表示時に表示の虚偽性が明ら かとなるものである。それゆえ,表示時に不当表示が成立するとすることには 何ら問題はない。 28)ちなみに,主催旅行に関しては問題にならないが,役務が現に供給されている場合には,  表示の時点で役務の内容は確定しているとみることができるので,表示時に表示の虚偽性  が明らかとなる。そこで,この場合,表示時に違反が成立するとすることには何ら問題は  ない。 29)なお,こういつた疑念が生じるのは,この場合に限られたことではない。おとり広告な  どの場合にも生じうる。

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