細胞培養技術を用いたインフルエンザワクチンの研究
2009年3月
熊本大学大学院自然科学研究科 牧角啓一
目次
要旨
第1章 緒言
1−1インフルエンザとインフルエンザワクチン 1−2鶏卵を用いたワクチン製造法の問題・課題
1−3培養細胞によるインフルエンザワクチンの利点と課題 1−4 参考文献
第2章 無血清培地馴化浮遊MDCK細胞の作製 2−1 はじめに
2−2インフルエンザワクチン製造用細胞の作出のための目標 2−3基本戦略
2−4 材料と方法
2−4−1無血清培地馴化細胞の調製の材料
2−4−2 無血清培地馴化細胞の調製のための施設および装置 2−4−3 無血清培地馴化細胞の調製の方法
2−4−4 無血清順化浮遊MDCK細胞の作出(1)
2−4−5無血清順化浮遊MDCK細胞の作出(2)
2−4−634W4−4v細胞のインフルエンザウイルスに対する感受性試験 2−4−7無血清馴化完全浮遊MDCK細胞の作出
2−4−8B−702細胞バンクの無菌試験、マイコプラズマ否定試験 2−4−9樹立した無血清培地馴化浮遊MDCK、 B−702細胞の増殖性検討 2−4−10B−702の各種ウイルスに対する感受性の検討
2−4−10−1B−702細胞の単純ヘルペス1,2型ウイルスに対する増殖性試験 2−4−10−2B−702の麻疹、風疹、おたふくかぜウイルスに対する増殖性試験 2−4−10−3B−702のインフルエンザウイルスに対する増殖性の検討
2−5結果
2−5−1無血清培地馴化MDCK細胞の作出 2−5−1−1MDCK−CCL34のバンク作製
2−5−1−2 無血清培地馴化MDCK細胞の作出 2−5−2 無血清培地順化浮遊MDCK細胞の作出(1)
2−5−3界面活性剤を用いた検討
2−5−4無血清培地順化浮遊MDCK細胞の作出(2)
2−5−4−1検討用の無血清培地馴化MDCKの調製結果 2−5−4−2Cytodex 1を用いた浮遊培養の結果
1
2−5−4−3Cytodex 1を用いた浮遊MDCK細胞の大量培養の結果 2−5−4−434W4−4v細胞のインフルエンザウイルス感受性試験 2−5−5無血清培地馴化完全浮遊MDCK細胞の作製
2−5−6B−702細胞バンクの無菌試験、マイコプラズマ否定試験 2−5−7B−702細胞の増殖性検討
2−5−8B−702の各種ウイルスに対する感受性の検討
2−5−8−1B−702細胞の単純ヘルペス1,2型ウイルスに対する増殖性試験 2−5−8−2B−702の麻疹、風疹、おたふくかぜウイルスに対する増殖性試験 2−5−8−3B−702のインフルエンザウイルスに対する増殖性の検討
2−6 考察
2−7参考文献
第3章無血清培地順化浮遊MDCK細胞を用いたウイルスバンクの構築
3−1 はじめに 3−2 材料と方法
3−2−1 3−2−2 3−2−3 3−2−4 3−2−4−1 3−2−4−1−1 3−2−4−1−2 3−2−4−1−3 3−2−4−1−4 3−2−4−1−5 3−2−4−1−6 3−2−4−2 3−2−4−2−1 3−2−4−2−2 3−2−4−2−3 3−2−4−2−4 3−2−4−2−5 3−2−4−2−6 3−2−4−2−7 3−2−4−2−8 3−2−4−2−9 3−2−4−2−10
MDCK−33016細胞でのワクチン株の増殖性の検討 実際の製造を想定したウイルスバンク作製
ウイルスバンクの無菌試験とマイコプラズマ否定試験 ウイルスバンクの今入ウイルス検出系の構築
細胞接種による迷入ウイルス否定試験系の構築 HA遺伝子のクm一ニング
HA遺伝子免疫による抗血清調製
細胞接種試験に用いる細胞のバンクの構築 モデルウイルスの選択とバンク調製
細胞接種試験系の検出限界計測
ウイルスバンクの細胞接種法による迷入ウイルス検出試験 記入ウイルス核酸検出試験
単純ヘルペスウイルス核酸検出系 アデノウイルス核酸検出系
エンテロウイルス核酸検出系 麻疹ウイルス核酸検出系
おたふく風邪ウイルス核酸検出系 風疹ウイルス核酸検出系
パラインフルエンザウイルス核酸検出系 Respiratory Syncytical Virus核酸検出系 コロナウイルス核酸検出系
ライノウイルス核酸検出系
3−2−4−2−11 ウイルスバンクの安全性の検証一外注試験 3−3 結果
3−3結果
3−3−1MDCK−33016細胞でのワクチン株の増殖性の検討 3−3−2実際の製造を想定したウイルスバンク作製
3−3−3 ウイルスバンクの無菌試験とマイコプラズマ否定試験 3−3−4 ウイルスバンクの迷入ウイルス検出試験
3−3−4−1細胞接種による迷入ウイルス否定試験 3−3−4−H HA遺伝子のクローニング
3−3−4−1−2HA遺伝子免疫による抗血清調製 3−3−4−1−3 細胞バンクの構ii築
3−3−4−1−4 モデルウイルスのウイルスバンク調製 3−3−4−1−5 細胞接種試験系の検出限界計測
3−3+1−6 ウイルスバンクの細胞接種法による迷入ウイルス検出試験 3「3−4−2迷入ウイルス核酸検出試験
3−3+2−1単純ヘルペスウイルス核酸検出試験 3−3−4−2−2アデノウイルス核酸検出試験 3−3−4−2−3エンテロウイルス核酸検出試験 3−3−4−2−4麻疹ウイルス核酸検出試験
3−3−4−2−5おたふく風邪ウイルス核酸検出試験 3−3−4−2−6風疹ウイルス核酸検出試験
3−3−4−2−7パラインフルエンザウイルス核酸検出試験 3一3+2−8Respiratory Syncytical Virus核酸検出試験 3−3−4−2−9 コロナウイルス核酸検出試験
3−3−4−2−10 ライノウイルス核酸検出試験
3−3−4−3 ウイルスバンクの安全性の検証一外注試験
3−4考察 3−5参考文献
第4章 MDCK細胞を用いたワクチンの優位性の検証 4−1 はじめに
4−2材料と方法
4−2−1 ウイルスと、ウイルス培養 4−2−2 HA 1遺伝子配列解析
4−2−3免疫学的解析 4−3 結果
4−3−1発育鶏卵と培養細胞を用いたウイルスの増殖性とHA産生量の比較
111
4−3−2 HA 1遺伝子配列解析の結果 4−3−3 免疫学的解析の結果
4−4 考察 4−5 参考文献
第5章 総括
5−1 無血清培地馴化浮遊MDCK細胞の作製(第2章総括)
5−2 無血清順化浮遊MDCK細胞を用いたウイルスバンクの構…築(第3章総括)
5−3MDCK細胞を用いたワクチンの優位性の検証(第4章総括)
謝辞
略語表
ATCC : American Type Culture Collection MDCK: Madin Darby Canine Kidney
PFU:Plaque−Forming Unitプラーク形成単位
TCID50:Tissue Culture Infectious Dose、50%感染価 CPE:cytopathic effect細胞変性効果
GMO:Genetically Modified Organism遺伝子組み換え生物 M.0.1.:Multiplicity of Infection接種感染価
v
要旨
現行のインフルエンザワクチンでは、鶏の受精卵を約11日間ふ卵器の中で飼い、
胎児が発育した発育鶏卵ヘウイルスを接種し、ウイルス培養を行う。インフルエンザ ワクチンの製造法は、動物愛護、環境、発育鶏卵への感染因子混入の危険性等の面か ら、ウイルス培養基質を発育鶏卵から培養細胞へ変更することが世界的潮流である。
本研究は、インフルエンザウイルスの培養基質をイヌ腎臓由来の細胞、
MDCK(Madin−Darby canine kidney)へ変更したワクチンの研究に関して実施した。まず 製造用MDCK細胞の作出法を検討し実際に無血清培地馴化浮遊細胞を作出した。次いで 製造用MDCK細胞でのウイルスの増殖性と、製造用ウイルスバンクの安全性について検 証した。最後にM〕CK細胞を用いたワクチン製造の有益性について検証した。
まず、インフルエンザウイルスが最も効率よく増殖するイヌ腎由来M)CK細胞を出発 材料とし、動物由来成分を含まない無血清培地で増殖可能な細胞を作出した。次にこ
の無血清培地に馴化した細胞から、浮遊環境下でも増殖可能な細胞を作出した。浮遊 環境下に馴らすため、細胞は回転培養装置内で浮遊する微小のビーズの表面に付着さ せ、ビーズごと回転培養する方法により、浮遊環境下でも増殖する細胞を作出した。
その後、細胞をビーズ無しで無血清培地中に浮遊させ、細胞単独で増殖する細胞を作
出した。
インフルエンザワクチンは毎年ワクチン株が変更される可能性がある。従ってウ イルスを培養する細胞にはどのようなワクチン株でもウイルスが増殖する性能が必須 となる。日本で過去19年間に使用されたワクチン株のうち、A,B型あわせて16株に ついて無血清培地馴化浮遊㎜CK細胞での増殖性を検討した。その結果、全ての株が培 養2代目では良く増殖していることが明らかとなった。さらに、もう1代継代しても
その増殖性は維持されることも明らかとなった。
次に、実際のワクチン製造を想定し、大量培養の際に接種するウイルスバンクの 調製について検討した。実際の製造用として想定している方法で調製したウイルスバ ンクについて、感染性因子が混入していないか検証した。ウイルスは過去19年に使用 された株での検討と同様に、A一ソ連型株(HINI)、 A一香港型(H3N2)、 B型惑いずれも高 い感染価のウイルスバンクが調製できた。ウイルスバンクについて、無菌試験とマイ コプラズマ否定試験を実施し、糸状菌、細菌、マイコプラズマは迷吝していないこと を確認した。また、インフルエンザ以外のウイルスがウイルスバンクに迷入していな いことを検証するため、細胞接種試験系、各種の迷入ウイルス核酸検出系(PCR)を構築
し、ウイノレスバンクを試験した。その結果、全ての試験で迷入ウイルスは検出されな かった。更に、このウイルスバンクについて3株の混合液を調製し、国外の専門機関 に迷入ウイルス否定試験を委託した。その結果も、全ての試験で迷入ウイルスは否定 された。これらの結果より、無血清培地馴化浮遊MDCK細胞がワクチン製造用基材とし て適しており、この細胞を用いたウイルスバンク調製法は、迷入する因子の混入の危 険性が低いことが示唆された。
次に、無血清培地馴化浮遊MDCK細胞を用いてワクチンを製造すれば、現行の発育 鶏卵を用いた場合より早期に大量のワクチンの製造が可能であることをA/Kumamoto 株を用いて検証した。2004年冬季は、その前年に引き続きA/Fuj ian株(H3N2)と抗 原性が類似した株が流行の主体であった。発育鶏卵で良く増殖するワクチン用ウイル ス株は2003年冬季には調達されず、2004年になりようやく世界中に配布された。
A/K㎜amoto株は2002年に既に分離され翌年にはA/Fujian株と抗原性が同じことが判 明していた。発育鶏卵では増殖が極めて劣るこのウイルスがMDCK細胞では非常に良く 増殖し、培養上清からワクチン抗原の本態であるm抗原も大量に精製することができ
2
た。更に、MDCK細胞での継代は鶏卵での継代と異なりHA遺伝子に変異の蓄積は一切 観察されなかった。MDCK細胞由来ウイルス抗原と発育鶏卵で継代されHA1遺伝子が変 異したウイルス抗原では抗原性に若干の差が認められることが示唆された。これらの 結果より、2003年冬季のように鶏卵で良く増殖するウイルスが得られない場合でも、
A/Kumamoto株とMDCK細胞を用いた製造であれば1年早く流行株によりマソチしたワ クチンの製造が可能であったと言える。これらの結果は、発育鶏卵よりMDCK細胞の方 がインフルエンザワクチンの培養基材として適していることを示唆する。
第1章 緒言
1−1インフルエンザとインフルエンザワクチン
インフルエンザは国内だけでも年間推定1500万人が感染する1)人類最大の疫病とも 言われる2)。インフルエンザウイルスは現在、A/ソ連型(HINI型)、A/香港型(H3N2)、
B型の3種の抗原性が異なる型のウイルスが流行を起こしている。インフルエンザの流 行は、ほぼ冬季に起こるが、その年により流行の主流となる型は異なる。更に、流行 の発生時期は地域によって異なるし、その地域で発生した小さな流行株が、主流の流 行株と異なることも多々ある。ウイルス株の抗原性の変化は、各型のインフルエンザ
ウイルスがそれぞれ変異を頻繁に起こし、ヒトの免疫系から逃れるためとも言われて いる。過去に複数回のインフルエンザウイルスの世界的大流行(パンデミック)を経 験した。これは、連続的に変異を起こしてヒトの免疫系から逃れてきた一連のウイル スとは全く抗原性が異なったウイルス株が突如として世に出現し、世界的な大流行を 引き起こしたためと言われる3)。過去のパンデミックの発生を顧みると、ほぼ40年に 1度の頻度でパンデミックが発生している。この年数に現時点で科学的な根拠は認め
られていないが、1977年のソ熱型ウイルスによりパンデミック発生から既に30年以 上を経ているのも事実である。
更に、1997年の香港でのトリインフルエンザウイルスのヒトへの感染事例4)以後、
特に2003年以降にそれまれ宿主域が異なりヒトには感染しないと言われたH5N1型の 高病原性トリインフルエンザウイルスが直接ヒトに感染する事例の報告が相次いてい
る5 6)。高病原性トリインフルエンザH5N1型ウイルスは世界中に拡散し始めており、
ヒト〜ヒト間での感染能を持ったH5N1型変異ウイルスが出現すれば、過去に人類が経 験したことのない正に新型インフルエンザウイルスのパンデミックが発生することが 危惧される事態となっている。
4
通常期のインフルエンザワクチンは上に述べたように毎年変異するウイルス株に対 して、流行株を予測して作製する。この30年にわたり、インフルエンザワクチンは、
発育鶏卵中にインフルエンザウイルスを接種、ウイルス培養後、ウイルスを精製し、
不活化処理、脂質成分除去処理を行いワクチンとする製法で作製されてきた7)。
近年、ウイルス培養基材を発育鶏卵から培養細胞に替えた培養細胞不活化インフル エンザワクチンが実用化されつつある。培養細胞を用いる理由は、①予め安全性が確 認された培養基材で製造が可能なこと、②短期間でワクチンが製造可能であること、
③コストの低減が可能なこと④パンデミック発生時にウイルス培養基質となる発育鶏 卵の入手が困難になる場合が想定される等が挙げられる。
1−2鶏卵を用いたワクチン製造法の問題・課題
現行のインフルエンザワクチンはニワトリの発育鶏卵にウイルスを接種し、そのし ょう尿醐空弾中に放出されたウイルスを回収し精製後、得られた精製ウイルスをエー テルでスプリット化したものである。ウイルスは高度に精製されており、卵白アルブ
ミン量、総タンパク量、エンドトキシン量販が厳密にコントロールされ安全性の高い ワクチンであるが、まれに発生するアレルギー反応において、卵アレルギーとの関連 性は否定できていない。
卵由来ワクチンは、ウイルスの培養基材となる発育鶏卵を生む若鶏から準備する必 要があり、製造の前年からの計画的育雛が必要であることから、製造に長期間を要す る。わが国でもインフルエンザの流行状況などを基に、毎年春期にその年のワクチン 株が独自に決定される。従ってワクチンの製造期間は約半年と非常に制限される。更
にA型インフルエンザウイルスでは、推奨されたワクチン株がそのままでは発育鶏卵 で十分な増殖能を示さない場合がある。この場合、抗原性が類似し、かつ卵で増殖性
の良い株で代替するか、Hemagglut inin(ma)とNeuraminidase(NA)遺伝子だけを残し、
他の遺伝子は鶏卵で良く増殖するウイルスと入れ替えたウイルス(リアソータント)
を作製し、このウイルスでワクチン製造を行う必要がある。これらの検討が必要な場 合、ワクチンの製造期間は更に制限されてくる8)。
また、新型インフルエンザの世界宏大流行(パンデミック)を想定した場合、発育鶏 卵で短期間に大量のワクチンを製造することは前述の事情から非常に困難である。パ
ンデミック時に、日本では最低限の社会的機能を維持するためには、少なくとも2000 万〜4000万本のワクチンが必要とされる。近年、現行ワクチンの製造量は伸びてはい
るが、2008年〜20009年冬季シーズンの製造量は2500万本前後である9)。パンデミッ クワクチンは単味であることを考慮しても(現行の卵由来ワクチンは、2つのA株と1 つのB株を混ぜて作られる)、単純計算で2500万本×3=7500万本となり現在の製造体 制で最低限の必要量は供給可能であるが、全国民への供給には時間を要するのが現実 である。パンデミックの発生が通常のワクチン製造時期とずれた場合には、発育鶏卵 の確保の点から、きわめて深刻な事態が危惧される。
80余年ぶりに国内で発生した高病原性トリインフルエンザは、もう1つの深刻な 事態の危険性をもたらした。すなわち、発育鶏卵を生産する施設の近くでトリインフ ルエンザが発生した場合、移動制限措置によりワクチン製造用の発育鶏卵の供給が停 止し、ヒトのインフルエンザワクチン製造に大きな支障がでることとなる。我国では 幸い一過性で終息したが、東南アジアでは高病原性トリインフルエンザの流行が繰り 返し起こっており、再度の発生が懸念される。さらに同ウイルスによるヒトへの感染 例も報告されており、パンデミックウイルスの出現が憂慮される。
1−3培養細胞によるインフルエンザワクチンの利点と課題
6
ウイルス学の分野において広くウイルス培養に用いられるVero細胞やMDCK細胞な どは、インフルエンザウイルスに対して卵より高い感受性を持つ。これらの細胞を用 いてワクチン製造をおこなう場合、ワクチン株として推奨された株の直接培養が可能 で、卵で必要となるワクチン推奨株の代替株やリアソータント株の作製は不要となる。
このことは、流行が予想される株と抗原性がより一致したワクチンが製造できるため ワクチンの有効性を増すことが期待できると共に、凍結しておいた細胞を融解し、継 代・拡張することで製造できることから、いつでもワクチンを製造することが可能に なる。さらに細胞の培養タンクを大きくしさえすれば、理論上、ワクチンの製造量に 制限はなくなる。
現在認可されている培養細胞インフルエンザワクチンには、Vero細胞(アフリカミド リサルの腎臓由来)を用いたワクチン10)と、MDCK細胞(イヌの腎臓由来)を用いたワクチ
ン11)がある。
Vero細胞は、もともとポリオワクチン研究のためポリオウイルスをより良く試験管 内で増殖させることを目的として、1962年に安村によって樹立された12)。Vero細胞は、
その後ポリオウイルス以外にも多くのウイルスの増殖が可能なことが分かり広くウイ ルスの研究に用いられてきた。Vero細胞で多種のウイルス増殖が可能な理由の1つは、
この細胞はインターフェロンを産生しないためとされている。
MDCK細胞は、1950年代にMadinとDarbyによってイヌ(コソカスパニエル)の腎臓か ら樹立された細胞である13)。Vero細胞と同様に多種のウイルスの増殖が可能で、世界 的にウイルス学の研究において使用されてきた。特にインフルエンザウイルスの培養 基質としては、1968年にGuashとSmithによって報告14)され、更に1975年に培地にト リプシンを添加することにより効率良くインフルエンザウイルスが培養可能であるこ とが報告されて以降15)、インフルエンザウイルスの分離、培養の際に標準的に使用さ
れる基質となった。
培養細胞を用いたワクチン製造を想定した場合、トン単位の規模での大量培養技術 と無血清条件下でのウイルス培養が重要である。無血清条件下での培養には2つの意 味がある。1っは、医薬品の安全性の観点から製造原料として動物由来材料を用いな いということである。すなわち、一般に細胞培養において栄養源として用いられる牛 由来成分(血清)を用いることは基本的にできない。2つ目は、インフルエンザウイ ルスの特性に由来する。インフルエンザウイルスが宿主細胞に進入する際には、プロ テアーゼによるHA分子の開裂が必須である。従って、培養液中にトリプシン様のプロ テアーゼの添加が必須となる。牛血清中には、トリプシンの阻害物質が存在するため
ウイルス培養時に血清成分が残っていると効率的なウイルス増殖が期待できなくなる。
これらの理由のため無血清条件下でも増殖可能な細胞が必要となる。
一般に、MDCK細胞やVero細胞は付着性であり、大量培養の際は、微小なビーズに 接着させて培養する方法が比較的容易と想像される。細胞が充分に増殖した段階でウ イルスが接種され、培養上清中に放出されたウイルスを精製して不活化ワクチンを製 造する手順となる。
Vero細胞はMDCK細胞に比べ、培養上清中にトリプシンインヒビターを多く分泌する。
これは、インフルエンザウイルス培養には非常に大きな負の要因となる。ウイルス培 養期間中にトリプシンの複数回の添加が必要となる16)。世界中でインフルエンザウイ ルスの分離がほとんどMDCK細胞で実施されている現実を考えても、 MDCK細胞の方がイ
ンフルエンザウイルス培養の基質としては適していると言える。
これらの前提条件を満たす、無血清細胞で単独で浮遊するMDCK細胞を作出し、これ を培養基材として工業レベルでウイルス培養iを行い、ワクチンを製造することが最も 理論的と考えられる。
8
本研究の最初に、American Tissue Culture Co!lection(ATCC)に寄託されたMDCK 細胞(CCL−34)を出発材料とし、実用化、工業化を可能にするため無血清培地で増殖可 能であり、且つ細胞自身が培地中で浮遊しながら増殖できる性質を持った特殊なMDCK 細胞を作出した。
次ぎにインフルエンザワクチンを細胞で製造する場合、毎年のように変わるワクチ ン株に対し恒常的にウイルス培養が可能であることを証明することが必須である。こ の検証を実施した。加えて調製した種ウイルス液中に、インフルエンザウイルス以外 のウイルスの迷入がないことを検証した。
最後に、流行が予測された株でのワクチン製造ができなかった2003年のエピソード について、浮遊M)CK細胞を用いてワクチン製造が可能であったなら、流行予測株と同 じ抗原性を持つワクチン製造が可能であったことを実証したことを成果とする。
卑一4参考文献
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2700一一2703.
第2章 無血清培地馴化浮遊M)CK細胞の作製 2−1はじめに
一般に発育鶏卵を用いてインフルエンザワクチンの製造がされているが、この場合 ウイルス培養の基質となる発育鶏卵を生む親鶏の飼育管理から製造は始まっている。
卵を産む寸話から、必要な鶏病に対するワクチンの接種と健康の維持が求められる。
このように、インフルエンザワクチンは製造の前年から計画生産されており、緊急の 大量製造は困難である。
次ぎに、ワクチンの製造時期に合わせた受精卵の管理作業を経て、受精した発育鶏 卵が製造に供給される。ワクチン製造においては卵蛋白由来の成分を完全に除去する ための徹底した精製行程等の煩雑な作業が必要である。
また、動物愛護の観点から、胎児が中にある発育鶏卵ヘウイルス液を接種し、培養 されたウイルスを含むしょう尿膜腔液を採取後に、この胎児を含む鶏卵は廃棄される ことに対しては、問題を含んでいる。更に、このウイルスを含んだ胎児等の廃棄処理 には大量のエネルギーを消費し、環境保護の観点からも問題は小さくない。
このような問題点を解決する方策として、発育鶏卵を用いないウイルス培養方法と して、長期間にわたり培養が可能な幻化細胞を用いたウイルス培養を工業化すること は世界的な潮流である。
2−2インフルエンザワクチン製造用細胞の作出のための目標
株化細胞は通常、細胞増殖因子として牛胎児血清を培地へ添加する必要がある。こ の血清は品質のばらつきや、マイコプラズマ、ウイルスあるいはプリオンなどの感染 性蛋白の混入の危険性を伴うことから、厳重な品質管理が要求されるなどの問題があ
る。次善の策として、ニュージーランド産の牛胎児血清のような高品質の血清の使用
12
が考えられるが、この血清は非常に高価で、工業レベルでの製造に適当とは言えない。
従って、真に工業化を目指す場合には無血清培地、特に全て化学合成された成分で構 成される無血清培地(Chemical Defined;CD medi㎜)で発育する細胞を作製して、ワ
クチンを製造するのが妥当である。
多種のウイルスが増殖可能な株化細胞として、実験室レベルではMadin Darby Canine Kidney(以下MDCK)細胞が広く用いられている1)。しかしながら、この細胞は壁付着 性が非常に強いため、現状のままMDCK細胞を工業レベルでの大規模培養に応用するこ
とは、大量の培地、広大な面積の培養容器を必要とし、実験室レベルでは可能なウイ ルス培養も工業レベルでは現実的でない。これを解決する方法としてポリスチレン製 の微細なビS一一・一一ズを担体として細胞を接着させ担体ごと浮遊させる浮遊培養系が考えら れる。しかし、ビーズ(担体)を用いた培養には、①設備や担体などの多大なコストが かかる、②担体から付着した細胞をはがす行程が必要であるとともに、細胞の回収ロ スも生じる、③培養条件によっては担体(ビーズ)同士がこすれ合うことにより細胞 が障害を受ける、などの欠点がある。
本研究では先ず、インフルエンザワクチン製造用細胞の作出を目指した。作出する 細胞は、牛胎児血清を使用しないで無血清培地で増殖可能(無血清順化)であり且つ 製造スケールである1tタンクといった巨大規模の培養を可能である浮遊1ヒした細胞
で、さらに浮遊状態においては何の担体も必要としない新規な細胞株担体に頼らず、
自己で浮遊し増殖し得るMDCK細胞の作出を最終目標とした。
2−3基本戦略
本研究では以下の戦略で細胞の作出と作製した細胞の検証を行った。
一般に入手できるMDCK細胞より無血清順化細胞を作出し、次にその細胞の浮遊1ヒを
目指した。無血清順化細胞の浮遊化には以下の2通りの方法で試みた。
1)工業用無血清培地として市販されているVP−SFM培地に順化したMDCK細胞を調製し、
そのMDCK細胞を、直接スピナーフラスコ内の培地中へ入れ、回転培養を行い、浮遊し たまま増殖可能な細胞を作出する。
2)無血清順化したM)CK細胞を一旦、細胞培養用担体(ビーズ, Cytodex1)へi接着さ せ、スピナーフラスコ内での回転培養条件で増殖可能な細胞を選択し、最終的に担体 無しで増殖可能な細胞を作出する。
更に、細胞が調製できた場合には、その細胞の特性、特にウイルスに対する感受性 について元のMDCK細胞と同様に多様なウイルスに対して感受性を持つか検証する。
2−4材料と方法
2−4−1無血塩培地馴化細胞の調製の材料
材料とするMDCK細胞はAmerican Type Culture Collection(ATCC)より入手した。
入手した細胞ラベル名は「34℃CL MDCK*017773*」と明記されていた。
入手したmCK−CCL34を先ず培養するための培地は、 D−MEM(GIBCO社11965−092)を 用いた。D−MEMに添加する非必須アミノ酸はGIBC社11140−050。添加するウシ胎児血 清は、ニュージーランド産(GIBCO社10091−148)を使用。将来実用化するためには、
細胞の経歴も重要となる。無血清培地に馴化するまでに用いる血清培地中に添加する ウシ胎児血清も、プリオン病の発生が報告されていないニュージーランド産を用いた。
さらに、用いた血清のロットについて採取された農場までの遡及調査も実施し、問題 のないことを確認した。
細胞を馴化させる培地は、GIBCO社:から販売されている無血清培地VP−SFM培地
(GIBCO社11681−020)を用いた。
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2−4−2 無血清培地馴化細胞の調製のための施設および装置
細胞を作出するにあたり、細胞を操作する施設は、無菌空調等が管理された施設で 実施した。細胞の取扱は、基本的に安全キャビネット(日立:SCV−1801 H c)内で実施し た。細胞の培養は、炭酸ガス培養装置¢NAPCO:6300)内で実施した。炭酸ガス濃度は 5%で維持した。
2−4−3 無血清培地馴化細胞の調製の方法 細胞の無血清培地馴化は以下の手順で実施した。
①細胞を10%ウシ胎児血清含有D−MEM培地で、25 c㎡の培養フラスコで培養器の底面に 隙間なく細胞が増殖し細胞進展阻止が起きた状態(コンフルエント)になるまで単層 培養する。培地は25c㎡フラスコ当たり10mしとした。
②25c㎡でコンフルエントになった細胞を、トリプシンで消化、回収し、25c㎡の培養フ ラスコ3個へ播種し、拡張した。
③細胞がコンフルエントになった25c㎡フラスコ3個の内1個のフラスコの細胞をトリ プシンで消化、回収し、25%VP−SFM培地含有10%ウシ胎児血清D−MEM培地10mL(2.5mL のVP−SFM、7.5mしの10%ウシ胎児血清含有D−MEM)で25 c㎡フラスコ培養を行った。
④細胞がコンフルエントになれば、フラスコの細胞をトリプシンで消化、回収し、
50%VP−SFM培地含有、10%ウシ胎児血清D−MEM培地10mL(5mしのVP−SFM、5mしの10%
ウシ胎児血清含有D−MEM)で25 c㎡フラスコ培養を行った。
⑤細胞がコンフルエントになれば、フラスコの細胞をトリプシンで消化、回収し、
75%VP−SFM培地含有、10%ウシ胎児血清DTMEM培地10mL(7.5mしのVP−SFM、2.5mしの 10%ウシ胎児血清含有D−MEM)で25 c㎡フラスコ培養を行った。
⑥細胞がコンフルエントになれば、フラスコの細胞をトリプシンで消化、回収し、
VP−SFM培地で25 c㎡フラスコ培養を行った。
⑦コンフルエントになった細胞はVP−SFM培地で75 c㎡フラスコ、125 c㎡フラスコ、225 c㎡フラスコとし、順調に増殖することを確認し、細胞を保存した。
2−4−4 無血清順化浮遊M)CK細胞の作出(1)
本研究で試みた二通りの方法のうち、無血清培地VP−SFM馴化MDCK細胞を直接浮遊 化させる方法について以下に材料と方法を述べる。
細胞は、無血清培地であるVP−SFM馴化MDCK細胞バンクの細胞。
培養機材は、以下のとおり。
スピナーフラスコ:スピンナーフラスココンプリート(BELLCO社、1965−0000)
スターラーは和研薬1104型、炭酸ガス培養装置はNAPCO社6400型、安全キャビネ ットは日立製SCV−186111 cを使用した。
培養に用いた培地は、VP−SFM(GIBCO社:11681−020)培地で、これにし−Glutamine(GIBCO
社25030−089)を添加して使用した。その他、PBS(GIBCO BRL社10010−023)、トリプシ ン(GIBCOBRL社25200−072)を培養時に使用した。培養フラスコ25 c㎡はCORNING社 製430639を、75c㎡はCORNING社430641を使用した。
方法は、VP−SFM馴化MDCK細胞を液体窒素タンクから起こし、培養フラスコで継代 拡張を行った。一定の細胞数が得られるまで拡張した細胞を、スピナーフラスコ内へ 入れ、回転培養条件下で培養した。
2−4−5無血清順化浮遊MDCK細胞の作出(2)
一旦、担体に細胞を付着させ、浮遊環境下に細胞を馴化させ、更に担体を除き、自
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己で浮遊増殖するMDCK細胞を作製する方法での浮遊MDCK細胞の作製をおこなった際 の材料と方法は以下のとおり。
検討に用いた細胞、培養機材、培地はすべて2−4−4と同じである。
ただし、細胞一旦付着させる担体として、Cytodex 1(Amersham Biosciences
17−0448−02)を用いた。
方法は、無血清培地VP−SFM培地に馴化したMDCK細胞をバンクより起こして使用した。
以後、浮遊化の検討を開始するまでは、2−4−4と同じ手法で継代拡張を実施した。
浮遊環境下で細胞を付着させる担体のCytodex 1は、0.5gを分取し50mLファルコ ンチューブへ入れ、PBS40mLを添加した。1時間室温で静置し、充分に膨潤させたのち、
上清のPBSを除去した。 PBSを再度40mL添加し、以後4回同じ操作を実施した。最後 に、40mしのPBSを添加し、 pHが7.0〜7.5であることを確認し、オートクレーブによ る滅菌を行った。滅菌後、PBSが冷えるまで安全キャビネット内に静置し、 PSBを除去 した。除去後、VP−SFM培地を40mL添加し、使用するまで4℃で保存した。
培養したMDCK細胞1×107cellsの細胞浮遊液13mLをスピナーフラスコへ移し、79mし のVP−SFMを追加した。
さらに、予め調製していたCytodex 1液8mLを添加した。 Cytodex 1は0.1g/100mし
となる。
このスピナーフラスコを37℃,5%炭酸ガス培養装置内のスターラー上に設置し、5 分間40rpmで回転培養しその後20分回転を止めた。この操作を計3回実施し、Cytodex 1の表面上に細胞を吸着させた。
その後は、40rpmで回転培養を実施した。
最終的にCytodex 1の表面上に吸着し、回転培養の環境下で良好に増殖した細胞を得 た(細胞名:34W4−4v)。培養スケールを拡大し、細胞を回収して細胞バンクを調整した。
2+634W4−4v細胞のインフルエンザウイルスに対する感受性試験
ウイルスはワクチン製造用に発育鶏卵で継代、増殖されたA/Beijing/262/95(HlN1)、
A/Wuhan/359/95(H3N2)、 B/Mie/1/93を用いた。
培養の機材としてスピナーフラスコはスピンナーフラスココンプリートBELLCO社、
1965−0000)を、培養器は炭酸ガス培養装置(NAPCO 6900)、スターラーは和研薬1104 型を使用した。
培地はVP−SFM培地(無血清培地)で細胞、ウイルスを培養し、力価試験には、 D−MEM 培地、ウシ胎児血清で培養したM)CK−CCL34を使用した。
ウイルスの培養は以下の方法で実施した。スピナーフラスコ内にVP−SFM培地100mL を満たし、その中に1×105cells/mL濃度となるように無血清順化浮遊MDCK細胞を浮遊 させ、更に1g/mL濃度でCytodex 1を添加した。
37℃,5%炭酸ガス培養装置内のスターラー上に置き、40rpmで回転培養を3日間実施し た。全く同様の手順で、VP−SFM培地の変わりに1%ウシ胎児含有D−MEMIOOmLでも培養 を実施した。
3日間培養を行い、Cytodex 1表面上を細胞が覆ったことを確認した後、一旦安全キ ャビネット内に静置し、上清の培地を抜き取り、新たに100mしとなるように培地を添
加した。
特に血清培地で培養したスピナーフラスコは、新鮮な培地を添加する前に、100mし のPBSを添加し、細胞が覆ったCytodex 1を2回洗浄した。
さらに、添加した新鮮な培地は、ウシ胎児血清を含まないD−MEMとした。
100mしの培地に浮遊させたCytodex 1浮遊液それぞれ1mL分取し、先述した方法と 同様にトリプシンによりCytodex 1表面から細胞を剥離させ細胞をカウントし、スピ ナーフラスコ内の細胞濃度を計測した。
18
これらの細胞浮遊液に、Cytodex 1を最終濃度が0.5μg/mしとなるよう添加した後、
インフルエンザウイルスを接種した。
接種感染価(Multiplicity。f Infection;M. O. 1.)はA/Beijing株とB/Mie株は 0.00015、A/Wuhan株は0.000025とレた。
接種後、34℃の炭酸ガス培養装置内で、40rpmの回転数で培養を実施した。ウイル ス接種後第3日でCytodex 1表面から細胞が完全に剥離したことを確認し、培養i上清 を回収した。
回収したウイルス液について、ウイルス力価をプラーク計測法2)で、更に赤血球凝 集(HA)価を、ニワトリ赤血球を用いて計測した。
2−4−7無血清馴化完全浮遊mCK細胞の作出
34W4−4v細胞を材料とし、 Cytodex 1という支持体無しで増殖可能なMDCK細胞の作出 を継続した。培養に用いた機材は2−4−6と同じ。VP−SFM培地中へ、34W4−4v細胞を1×
105cells/mL,100mしの培養スケールで100mしのスピナーフラスコへ入れ、40〜60rpmで回 転培養を継続した。最終的にこの条件下で増殖可能な細胞を樹立(B−702)、培養規模
を拡大し、細胞バンクを調製した。
2−4−8B−702細胞バンクの無菌試験、マイコプラズマ否定試験
両試験は、生物学的製剤基準の一般試験法に記載されている方法3)に準じて、化学 及血清療法研究所品質管理部において実施された。
無菌使用用検体の調製は、保存しているB−702細胞バンクより20本を融解後、
PBS20mしに浮遊させ一旦遠沈操作を実施し、再度等量のPBSに浮遊させたものを調製 し、無菌試験用検体とした。試験は、液状チオグリコール酸培地1と、ソイビーン・
カゼイン・ダイジェスト培地を用いた直接法で実施された。
マイコプラズマ否定試験用検体は、保存しているB−702細胞バンクより10本を融解 後、遠沈操作し10rnLのPBSに再浮遊させる。この細胞浮遊液を一80℃の極低温フリー ザー内に静置し、完全に凍結させた後、37℃の恒温槽で融解する。この操作を計2回 繰り返し、細胞を完全に破砕する。2回の凍結融解操作後、遠沈操作し、その上清を 回収してマイコプラズマ否定用検体とした。マイコプラズマ否定試験は、平板培地、
同試験用液体培地1及びHを用いた直接塗抹培養法、増菌培養法で試験された。
2−4−9樹立した無血清培地馴化浮遊MDCK、 B−702細胞の増殖性検討 培地はVP−SFMを使用。
スピナーフラスコはスピンナーフラスココンプリートBELLCO社製
1965−OIOO (IOOmL), BELLCO, 1965−00500 (500mL), BELLCO, 1965−O IOOO (1000mL),
BELLCO,1965−03000(3000mL)を使用した。
方法は以下の通りに実施した。
①100mしのスピナーフラスコへ、 B−702細胞を1×105cells/mしに調製し、100mL培養し
た。
培養は37℃の炭酸ガス培養装置内に設置したスターラ口上で行った。スピナーフラス コの回転数は40rpmで実施した。対照として、 MDCK−CCL34も同じ条件で培養した。
②細胞が1×106cells/mしの濃度に到達すると、細胞を一旦遠沈操作で回収し、新鮮な 培地(250mL)に再浮遊させた。再浮細胞液の細胞密度は1×105cells/mしに調製した。
再浮遊細胞液(250mL)を500mしのスピナーフラスコへ入れ、①と同じ条件で培養を行
つた。
③細胞が1×106cells/mしの濃度に到達すると、細胞を一旦遠沈操作で回収し、新鮮な
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培地(500mL)に再浮遊させる。再製細胞液の細胞密度は1×105cells/mしに調製した。
再浮遊細胞液(500mL)を1000mしのスピナーフラスコへ入れ、①と同じ条件で培養を 行った。
④1×106cells/mhの濃度に到達すると、細胞を一旦遠沈操作で回収し、新鮮な培地 (1000mL)に再浮遊させる。再浮細胞液の細胞密度は1×105cells/mしに調製した。
再浮遊細胞液(1000mL)を3000mしのスピナーフラスコへ入れ、①と同じ条件で培養を 行った。
2−4−10B−702の各種ウイルスに対する感受性の検討
2−4−10−1B−702細胞の単純ヘルペス1,2型ウイルスに対する増殖性試験 B−702.細胞は細胞バンクより起こし、試験に用いた。
培地は前述のVP−SFMを使用した。
スピナーフラスコはBELLCO社製スピンナーフラスココンプリート
1965−0100(100mL)を使用した。
ウイルスは駆血研に保存されている実験室株HSV−1KOS株及びHSV−2 mU株を使用し
た。
方法は以下の手順で実施した。
①100mしのスピナーフラスコへ、 B−702細胞を1×106cells/mしに調製し、100mL培養し
た。
②細胞浮遊液に、M. O.1.=10 3でウイルスを接種した。
③ウイルス接種後、37℃,5%炭酸ガス培養装置内に5日間置き、培養上清を回収した。
④ウイルス力価を計測した。
ウイルス力価は、回収した培養上清を1000倍希釈し、6wellプレートに培養したVero
細胞へ0.1mL接種した。
単層の細胞上へ、アガロースを添加し、37℃,5%炭酸ガス培養装置内で、5日間培養i
した。
⑤培養後、ホルマリンを添加し細胞を固定、トリパンブルーで染色し、プラーク数を カウントして、ウイルス力価を算出した。
2−4−10−2B−702の麻疹、風疹、おたふくかぜウイルスに対する増殖性試験 細胞と培養基材は2−4−7−1と同様,
ウイルスは化血研に保存されている実験室株、麻疹ウイルIchinose株、おたふくか ぜウイルスEnders株、風疹ウイルスM33株を使用した。
方法は以下の手順で実施した。
①100mしのスピナーフラスコへ、 B−702細胞を1×106cells/mしに調製し、100mL培養し
た。
②細胞浮遊液に、M.・O.・1.=10 3でウイルスを接種した。
③ウイルス接種後、37℃,5%炭酸ガス培養装置内に5日間置き、培養上清を回収した。
④ウイルス力価を計測する。
ウイルス力価の測定はVero細胞を24穴培養プレートへ培養し、各ウイルスの培養上 清を1000倍、10000倍、100000万倍希釈して上記の培養プレートへ6穴ずつ接種し、
炭酸ガス培養器の中に静置して培養した。2週間静置培養した後に、各希釈段階に おいてウイルスにより細胞が変成したもの、即ちCPEが出現した穴の数を数え、ケル バー法により50%感染価(TCID50)を算出した2)。
2−4−10−3B−702のインフルエンザウイルスに対する増殖性の検討
22
試験に用いた基材、B−702調製法は2−4−7−1と同様、
培地はVP−SFMを用いるが、ウイルス接種時に1μg/mしの濃度でトリプシンを添加し
た。
検討に使用したウイルスはA/Beijing/262/95(HlNl)株、 A/Wuhan/359/95(H3N2)
株、B/Mie/1/93株の3株である。
方法は以下の手順で実施した。
①100mしのスピナーフラスコへ、 B−702細胞を1×106cells/mしに調製し、100mL培養し
た。
②ウイルスは実際のワクチン製造時のウイルス接種量から推定し、A/Beijing/262/95 株はM.・O.1.=0.001、A/Wuhan/359/95株はM.・O.1.=0.0003、 B/Mie/1/93株は M. O.1.=0.0002で接種した。
③培養は、34℃の炭酸ガス培養装置内に設置したスターラー上で実施した。
④培養第3日目に培養液を回収し、ウイルスカ価を計測した。
ウイルス力価は、プラークカウント法で実施した2)。すなわち、6well培養プレート に一般に使用されているMDCK細胞(CCL−34)を培養し、上記のウイルス培養上清を 100万倍希釈したものを接種した。接種後、この単層の細胞上ヘアガロースを重層 し、炭酸ガス培養畦塗で4日間静置培養した。培養後、ホルマリンを添加して細胞 を固定化した後にアガロース層を除去、トリパンブルー色素で細胞を染色し、ウイ ルスにより形成されたプラーク数を計測した。
2−5結果
2−5−1無血清培地馴化MDCK細胞の作出 2−5−1−1MDCK−CCL34のバンク作製
ATCCから分与される細胞はアンプル1本(約1×106cells)である。研究の出発材 料を確保するため、この細胞のバンクを先ず調製した。
ATCCより入手したMDCK−CCL34細胞を融解後、素早く10%ウシ胎児血清含有D−MEM培 地中に浮遊させた。その後、細胞保存液を除去する目的で一度細胞を遠心操作で沈殿
させ(以下遠沈)(条件3908×10min)、沈殿させた細胞を再び10%ウシ胎児含有D−MEM 培地に浮遊させた。浮遊細胞には1×106cellsの細胞が含まれており、生細胞率は80%
以上であった。これらの細胞を25c㎡培養フラスコへ移し、370Cの5%炭酸ガス培養装 置内に静置し培養を行った。
培養第1日目に培地の交換を実施した。培養第3日目に観察した結果細胞は、25c㎡
フラスコ底面に均一に接着、増殖し進展阻止状態(コンフルエント)になった。
25c㎡フラスコ内の培地を除去し、細胞をトリプシンで消化し消化後の細胞を10mし の10%ウシ胎児含有D−MEM培地で回収した。
回収した細胞は2×106cellsの細胞があり、生細胞率も90%と良好であった。回収し た細胞をlO%ウシ胎児含有D−MEM培地30mしに浮遊させ、10mしつつ25 cfi培養フラスコ3 個に分注した。以後は同じ手順で細胞の継代拡張を3代実施し、最終的に225c㎡培養 フラスコ3個まで拡張した。拡張した細胞はトリプシン消化し、細胞カウント後、細 胞保存用液セルバンカーに1×106cells/mh7R度に再浮遊させ、1mしつつ保存用チューブ
に小分けし細胞バンクとして液体窒素タンクへ保存した。
次の無血清順化MDCKはこの細胞バンクの細胞から調製した。
2−5−1−2 無血清培地馴化MDCK細胞の作出
調製したMDCK−CCL34の細胞バンクより、無血清培地VP−SFM馴化細胞を作出した。
MDCK−CCL34細胞を融解後、素早く10%ウシ胎児血清含有D−MEM培地中に浮遊させた。
24
その後、細胞保存液を除去する目的で一度細胞を遠沈(390g×10min)、沈殿させた細 胞を再び10%ウシ胎児含有D−MEM培地に浮遊させた。浮遊細胞には1×106cellsの細胞
が含まれており、生細胞率は90%以上であった。 これらの細胞を25c㎡培養フラスコ へ移し、炭酸ガス培養装置(37℃、5%CO2)内に静置し、培養を行った。培養第1日目に 培地の交i換を実施した。培養第3日目に観察した結果細胞は、25c㎡フラスコ底面に均 一に接着、増殖し進展阻止状態(コンフルエント)になった。
25c㎡フラスコ内の培地を除去し、細胞をトリプシンで消化し消化後の細胞を10mしの 10%ウシ胎児含有D−MEM培地で回収した。
回収した細胞浮遊液を5mしつつ、2個の25 c㎡フラスコに播き、1個の25 c㎡フラスコ には、10%ウシ胎児含有D−MEM培地を10mL添加し、炭酸ガス培養i装置で培養を行った。
もう1方の25c㎡フラスコには2.5mしのVP−SFMと7.5mしの10%ウシ胎児含有D−MEMを 混合した培地10mLを添加し、炭酸ガス培養装置で培養した。
培養第3日目に観察した結果、いずれの25c㎡フラスコの細胞もコンフルエントにな っていた。
10%ウシ胎児含有D−MEMで培養された細胞は、トリプシン消化後に、細胞保存液(セ ルバンカー)に浮遊させ、液体窒素で保存した。
25%VP−SFMを含有する培地で培養された細胞は、PBSリンス後、トリプシン消化(37℃
×10min)、消化された細胞を少量のPBSで回収し遠沈操作(390 g×10min)により沈 殿させ、細胞を回収した。
回収した細胞を10mしのPBSに再浮遊させ細胞数を計測した。細胞は、1×106cells、
生細胞率は95%であった。
3×105cellsつつ2個の25 c㎡フラスコに細胞を移し、1フラスコ当たりそれぞれに 5mL VP−SFMと5mしの10%ウシ胎児含有D−MEMを混合した培地10mLを添加し、炭酸ガス培
養装置で培養した。
培養第3日目に観察した結果、いずれの25c㎡フラスコの細胞もコンフルエントにな っていた。
50%VP−SFMを含有する培地で培養された細胞は、PBSリンス後、トリプシン消化(37℃
×10min)、消化された細胞を少量のPBSで回収し遠沈操作(390 g×10min)により沈 殿させ、細胞を回収した。
細胞は、25c㎡フラスコ当たり1×106cells、癌細胞率は95%であった。
2個分の細胞は細胞保存液(セルバンカ・一・ll)を用いて液体窒素中で保存した。残り 1個分の細胞を用い3×105cellsつつ2個の25 c㎡フラスコに細胞を移し、それぞれに 7.5mL VP−SFMと2.5mしの10%ウシ胎児含葡一MEMを混合した培地10mLを添加し、炭酸ガ ス培養装置で培養した。
培養第3日目に観察した結果、いずれの25c㎡フラスコの細胞もコンフルエントにな っていた。
75%VP−SFMを含有する培地で培養された細胞は、 PBSリンス後、トリプシン消化(37℃
×10min)、消化した細胞をPBSに浮遊させ回収し遠沈(390 g×10min)操作により細 胞を回収した。
細胞は、1×106cells、生細胞率は95%であった。
2個分の細胞は細胞保存液(セルバンカーH)を用いて液体窒素中で保存した。
残り1個分の細胞を用い3×105cellsつつ3個の25 c㎡フラスコに細胞を移し、それ ぞれに10mしのVP−SFMを添加し、炭酸ガス培養装置で培養した。
培養第3日目に観察した結果、いずれの25c㎡フラスコの細胞もコンフルエントにな っていた。
75%VP−SFMを含有する培地で培養された細胞は、 PBSリンス後、トリプシン消化(37℃
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×10min)、遠沈(390 g×10min)操作により、細胞を回収した。
細胞は、1×106cells、生細胞率は95%であった。
2個分の細胞は細胞保存液(セルバンカーH)を用いて液体窒素中で保存した。
残り1個分の細胞を用い3×105cellsつつ3個の25 c㎡フラスコに細胞を移し、それ ぞれに10mしのVP−SFMを添加し、炭酸ガス培養装置で培養した。
培養第3日目に観察した結果、いずれの25c㎡フラスコの細胞もコンフルエントに なっていた。それぞれの培養フラスコの細胞をトリプシン消化し、3倍に即ち、25c㎡
培養フラスコから75c㎡培養フラスコへ拡張した。培地はVP−SFMを用いた。同じ手順 で、培養第3日目に3倍に即ち225c㎡培養フラスコへ拡張を行った。
最終的に、225c㎡培養フラスコ3個から、3×107cellsの細胞が得られた。1×
106cells/mしのセルバンカーllに浮遊させた細胞保存液を調製し、1mLづっ細胞を液体 窒素タンクへ保存した。
これまでの細胞調製の流れを図2−1.に示す。
t
ATCC由来MDCK(CCL−34)
冒一s−
250m2培養フラスコ 10%FCS含有D・一MEM
鑑一
亀
︐
1
225cm2培養フラスコ 1096FCS含有D−MEM
_冒闘
細胞バンク (Master Cell Bank)
ローレ亀一嚇
250m2培養フラスコ
10mL: 1096FCS,D−MEM
冒闘
無血清培地馴化細胞バンク (Master Cell Bank)
25cm2培養フラスコ 2.5mL; VP−SFM
一レ
25cm2培養フラスコ 5.OmLi VP−SFM
一ゆ〔籟
7.5mL;10%FCS,D−MEM s.OmL・1096FCS,D−MEM
<・・開開
︐
225cm2培養フラスコ VP−SFM
〈_
亀
図2−1.無血清順化MDCK細胞の調製フローチャート 上段:ATCC由来細胞のバンク調製
中段:無血清培地馴化工程
下段:無血清培地順化細胞のバンク調製
25cm2培養フラスコ 2.5mL; 1096FCS,D−MEM 7.5mL; VP−SFM
←一一〔勧
25cm2培養フラスコ 10mL; VP−SFM
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