コミュニケーションとしての
会計ディスクロージャー(2)
嶺輝子
〔目次〕
1.はじめに
2.コミュニケーションのプロセスおよび構造
(1)社会的コミュニケーション・プロセスの構成要素とモデル
(2)社会的コミュニケーションの構造(以上,前号)
3.会計コミュニケーション・プロセスの分析
(1)会計コミュニケーションの構成要素および構造
(2)会計コミュニケーションの各プロセスの検討
(A)利用者の認知プロセス
(B)経済事象の認知プロセス(以上,本号)
(C)会計報告書の作成プロセス(以下,次号)
(D)自己フィードバック・プロセス
(E)会計報告書の伝達プロセス
(F)経済事象を認知させるプロセス
(G)フィードバック・プロセス 4.現行のディスクロージャー制度の現状 5.ディスクロージャーの拡張の展望 6.おわりに
3.会計コミュニケーション・プロセスの分析
本節は,社会での一般的なコミュニケーションのプロセスおよび構造に㌘
いての分析結果を,会計とL、う特殊な領域のコミュニケーションに適用し,
会計行為全体を会計コミュニケーション・プロセスとして再検討することを 目的としている。コミュニケーション理論を会計に適用した最初のものは,
ベッドフォードおよびパラドウニの1962年 の 論 文 で あ る 。 以 下 , こ の 論 文 を手掛かりに,会計コミュニケーションに不可欠な要素および要素間の相互 関係の組み合わせによる構造を図示し,そして,その要素間の各関係をプロ セスとして把握し,各プロセスについて検討することにする。
(1) 会計コミュニケーションの構成要素および構造
a 構成要素
会計行為を説明する際に取り上げられなければならない要素としては,次 のようなものが考えられる。
① 企業 (businessenterprise)
① 会計担当者 (anaccounting staff)
① 会計責任者 (achief accour.tant)
① 内部監査人および外部監査人 (internaland external auditors)
① 会計機器 (accountingmachines),例えばEDP装置 (electronicdata processing equipment)
① 仕訳帳および元帳(journalsand ledgers)
同 NortonM. Bedford & Vahe Baladouni,A Communication Theory Approach to Ac‑ countancy, " The Accounting Review, October 1962, pp.650‑659.このベッドフォー
ドおよびパラドウニの論文を紹介・検討したものとしては,次のようなものがある。
美馬武千代「会計へのコミュニケーション・アプローチ」会計108巻2号および3号 (1975年 8月および9月 村 上 仁 一 郎 「 会 計 と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ・ ア プ ロ ー チ 」 龍谷大学経済経営論集20巻4号(1981年3月)。
側要素聞の関係をプロセスとして把握するということは,要素の関係を相互に影響し 合う相互作用関係として把握するとともに,そこで生ずる諸事象を動態的に解釈する
ことを意味する。
(
刈 NortonM. Bedford & Vahe Baladouni, op. cit., p. 651.ただし,彼等が列挙したも のに若干,追加・補足している。
コミュニケーションとしての会計ディスクロージャー(2 ) 35
① 会計ルールおよび会計概念 (accountingrules and concepts)
① 株主,債権者およびその他の利害関係者 (stockholders,creditors and other interested parties)
① 諸取引およびインプットされるコスト (varioustransactions and in‑ puted costs)
⑪ 会計報告書 (accountingstatements)
上記のうち,①は会計(行為)の行われる場所を,①と①は会計の行為者 および判断者を,①は会計行為およびその成果である会計報告書について検 査,助言し,その信頼性を証明する者を,① ⑦は会計データの処理・記録 に必要な用具を,①は会計(情報=報告書)の利用者を,①4工会計の対象を,
そして,⑬は会計処理行為の成果としてアウトプットされるものを,示す要 素である。しかし会計は,これらの諸要素を単に総計(結合)したもので はなく,諸要素の動的な相互作用を内在するプロセスの組み合わせによって 成り立っている。会計の良否は,その組み合わされるプロセスの質に依存す ることになる。複数のプロセスによって構成される会計コミュニケーション (会計コミュニケーション・プロセス)の構成要素としていかなるものを取 り入れるかは,当然,モデルを使って検討しようとする目的ないし説明しよ うとする観点の違いによって異なる。ここでは,会計行為をコミュニケーシ ョン・プロセスとして把握し,分析・検討しようとするのであるから,かか る目的に照らして有用な要素が選択されることになる。
コミュニケーションにとって必要不可欠な構成要素は,送り手, メッセー ジおよび受け手の三つである。送り手および受け手は,言語記号を用いて思 考し,その思考内容を外在的に表現し,メッセージにするのも言語記号であ る。したがって,コミュニケーションのプロセスや構造の分析には,記号論 的分析が有効である。記号論では,指示対象,思考および記号の三つが,不 可欠な基本的要素である(図2‑10参照)。このうち,思考は送り手と受け 手と考えることができ,記号はメッセージ(記号の組み合わせ)と考えるこ とができるので,コミュニケーション・プロセスを記号論的に分析するため には,送り手, メッセージ,および受け手に,指示対象を加えた四つが,必
要 不 可 欠 な 基 本 的 要 素 と い う こ と に な る 。 ベ ッ ド フ ォ ー ド お よ ひ 、 パ ラ ド ウ ニ 会 計 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ・ プ ロ セ ス の 基 本 的 構 成 要 素 と し て , 経 済 事 象 会 計 担 当 者 ( 送 り 手 ), 会 計 報 告 書 ( メ ッ セ ー ジ ) お よ び 利 用 の 四 つ を 挙 げ て お り , 妥 当 な も の で あ る と い え る 。
(指示対象), も,
者 ( 受 け 手 )
会 計 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 構 造 b
ベ ッ ド フ ォ ー ド お よ び パ ラ ド ウ ニ は , 先 に 述 べ た 会 計 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 四 つ の 基 本 的 要 素 の 相 互 関 係 を 構 造 的 に 図 示 し た 次 の よ う な モ デ 、 ル ( 図3
‑ 1 ) を提示している。
ベッドフォードおよびバラドウニのモデル 図3‑1
コミュニケーションのマトリックス
EEの観察
メッセージの利用
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令令//¥¥タ
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ASの入手
AS
の作成
EE:企業の経済事象 A:企業の会計担当者 AS:企業の会計報告書
U:会計報告書の利用者
コミュニケーションとしての会言十ディスクロージャー (2) 37
図3ー1に示された各構成要素の位置は図2‑9のそれと同じであり, E E, AおよびASを結ぶ三角形と, AS, UおよびEEを結ぶ三角形には,
図2‑10の三角形の関係がみられ,適切なものといえる。
次に,四つの基本的要素間の相互関係について,簡単に触れておこう(ベ ッドフォードおよびパラドウニは,会計コミュニケーションを,基本的には 会計担当者と利用者との間のコミュニケーションとして理解し,会計担当者 または利用者の観点から,相互関係を把握する)。
(i) EEとAとの相互関係は,主としてAの観点から, A→EEの関係と して捉えられる。それは, AがE Eを知覚・解釈し,会計の対象となる
EEを選択(識別)する関係である。このAとEEとの相互関係は,認 知主体と認知されるものとのそれであり, AによるEEの認知プロセス
として理解することができる。
(ii) AとASとの相互関係は,主としてAの観点から, A→ASの関係と して捉えられる。それは,Aが選択したE Eを会計データとしてメッセー ジに変換し, ASを作成する関係である。このAとASとの相互関係は,
作成主体と作成されるものとのそれであり, AによるAS作成プロセス として理解することができる。
(iii) ASとUとの相互関係は,主としてUの観点から, U→ASの関係と して捉えられる。それは, Uが利用のために,チャンネルを通じてAS
を受け取る関係である。このUとASとの相互関係は,入手主体(利用 主体)と入手されるもの(利用されるもの)とのそれであり, Uによる
ASの入手プロセスとして理解することができる。しかし, Aの観点か ら会計コミュニケーション・プロセスを一貫して説明しようとすれば,
この関係は, AによるUへのASの伝達プロセスとして理解する必要が
。
1)ある。Norton M. Bedford & Vahe Baladoun ,iOp. cit., p. 654.なお,ベッドフォードおよびパラドウニは会計担当者」に,内部監査人のみならず外部監査人をも含めてい る。
(功 NortonM. Bedford & Vahe Baladouni, op. cit., p. 653.
(iv) UとEEとの相互関係は,主としてUの観点から, U→EEの関係と して捉えられる。それは, Uが受け取ったAS(正確には, ASに盛り 込まれているメッセージ)を解釈し,それに基づいてEEを認知する関 係である。このUとEEとの相互関係は,認知主体と認知されるものと のそれであり, UによるEEの認知プロセスとして理解することができ る。ここで注意すべきことは,同じく認知プロセスといっても, Aによ るEEの認知プロセスとUによるEEの認知プロセスとは,その作用の 方向が逆であるということである。すなわち,前者においては,直接E
Eに向けての作用(知覚・解釈)であるのに対し,後者においては, A Sに向けての作用(つまり, UによるASの知覚・解釈)を通じて,推 測的にEEを認知するのである。いうなれば,インプットとしての認知 と,アウトプットとしての認知の相違である。なお,アウトプットとし てのEEの認知では, EEを個別的に認知することはできない。認知で きるのは, ASから解釈され,イメージされる,一定期間の,全体的に 抽象化‑要約されたE E(経営成績および財政状態)である。
Uは, ASを解釈しEEを認知した後,それを評価し,将来EEとな って生起することになる(つまり,積極的な経済活動を伴う,例えば,
投資家が株式とか社債を買増すかまたは売却するというような,あるい は,増資や社債の公募に応じるというような)意思決定や,単に知識の 蓄積に終わるような(つまり,現状のままで新しい行動を伴わない,例 えば,投資家が株式とか社債をそのまま保有しつづけるというような,
あるいは,増資や社債の公募に応じないというような)意思決定を行う。
このUの意思決定およびそれに基づく行動は, Aの立場からすれば,コ ミュニケーションの効果である。 Aのコミュニケーションの目的ないし 意図は,単に, Uに事実としてのE Eをあるがままに伝えることではな く, UによるEEの認知,評価をコントロールすることであり,さらに は,それに基づく意思決定,行動をコントロールすることである。 Aは,
E Eの単なる観察者ではなく,積極的な動機や意図をもった行為主体で あり,説得主体であると性格づけられる。このことから必然的に, AS
コミュニケーションとしての会言十ディスクロージャー(2 ) 39
は,事実として生起したEEをあるがままに表現したものではなく, A
がUをある方向へコントロールしようとする意図を反映したものであ り,いうなれば, Aのかかる意図をもった思考内容をあるがままに表現 したものということになる。それはともあれ, Aの観点からすれば, U とEEとの相互関係に基づくプロセスは, (AがASを介して) UにE Eを認知させるプロセスとして理解することができる。
(v) ベッドフォードおよびパラドウニによれば, AとUとの対角線上での 関係では,忠実性 (fidelity)が問題になるとL、う。ここでし、う忠実性と は, Uが理解する意味内容と, AがASで表現しようとするメッセージ の意味内容との一致,つまり, UがASに盛り込まれているメッセージ の意味内容を忠実に解釈することの要請である。筆者は, AとUとの 相互関係も,他の要素聞の相互関係と同じように,プロセスとして理解 しようと考える。前節でみてきたように, AとUとの相互関係は, Aの 観点からもUの観点からも,すなわち, A→Uの関係としてもU→Aの 関係としても把握可能な,対人認知プロセスとして理解することができ る。しかし, Aの立場から,会計コミュニケーション・プロセスを一貫 して説明しようとすれば, AによるU (立場,状況,要請など)の認知 プロセスとして捉えることができる。 AとUとの相互関係は,認知主体 と認知客体のそれである。しかし Aは,自己のおかれている立場,状 況,役割,あるいは目的や意図についても,認知しなければならない(認 知主体の客体化が必要である)。このようなAによる,自己についてお よびUについての認知プロセスは, コミュニケーション・プロセスの出 発点であり,その後のプロセスに重要な影響を与えることに留意すべき である。
なお,ベッドフォードおよびパラドウニのモデルでは, UからAへの フィードパック関係が示されていないが,フィード・パック・プロセス が存在することにも留意すべきである。
(vi) ベッドフォードおよびパラドウニによれば, EEとASとの対角線上 での関係では,有意味性 (significance)が問題になるとL、う。ここでい
う有意味性とは, ASが,それが表示するEEとの関係での目的適合性 と十分性の程度のことであり, ASがEEを目的適合的にかつ十分に表 示することの要請である。筆者は, EEとASとの関係についても,
プロセスとして理解しようと考えるのであるが,図2‑10からも明らか なように, EEとASとの関係は,間接的な想定関係であるにすぎない。
人間(思考)を介さなければ, EEとASは, EE →ASにせよAS→ EEにせよ,直接には結びつかない。 EE→ASは,一応, Aを介して の抽象化プロセスと理解することができるが,このプロセスは, Aによ るEEの認知プロセスと, AによるASの作成プロセスに依存して(つ まり,結果的に)成り立つものであって,直接的・独立的なプロセスで はない。 AS→EEについても, Uの介在が必要であり,同じことがし、
える。したがって,本論文では, EEとASの相互関係は,独立的なプ ロセスとしては取り上げないことにする。
かu) AとASとの聞には, ASからAへのフィードパック (feedback)の 関係がみられる。このASからAへのフィードパックとは, Aが,自己 の作成した,そしていまだ手元にあるASを,自分自身でもう一度解釈
・検討し必要であれば訂正することである。いわゆる, Aによる自己 フィードパックである。ここでいう Aに,狭義の会計担当者のほかに内 部監査人を含ませた場合には,自己フィードパック・プロセスで、は,内 部監査人が貢献することになる。
以上の各構成要素間の相互関係についての検討結果を踏まえて,ベッドフ ォードおよびパラドウニのモデル(図3‑ 1 )を修正すれば,次頁のように なる(図3‑2 )
(2) 会計コミュニケーションの各プロセスの検討 (A) 利用者の認知プロセス
会計コミュニケーションは,会計の目的を達成するために行われるコミュ ニケーションである。会計の目的は,企業の利害関係者(現在,企業に何ら
。
功。4) Norton M. Bedford & Vahe Baladoun ,iOp. cit.. p. 654.
41 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン と し て の 会 計 デ ィ ス ク ロ ー ジ ャ ー (2 )
会計コミュニケーションの構造 図3‑2
①
E Eを 認 知 さ せ る プ ロ セ ス
① EEの 認 知 プ ロ セ ス コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 場
ふ。/¥。
。 /
¥守人F主 / ¥ 』
q J /
① ASの 伝 達 プ ロ セ ス
L一一一一一一一一一一一一一一一一一ー一一一一一一一一J
⑦ フ ィ ー ド パ ッ ク ・ プ ロ セ ス
三者間の会計コミュニケーションの構造 もしも外部監査人(externa1auditors)
との関係も分析対象に含め,三者間の
①
A Sの作成プロセス
一﹁Ill1111lill1111111111111Lr
① 自 己 フ ィ ー ド バ ッ ク
・ プ ロ セ ス
(35)
b
会計コミュニケーションを考えるなら ば,このモデルは,次のように若干複 雑なものとなる。
EA:外部監査人 AR:監査報告書
かの利害関係を持っているか,または,これから持とうとしている人々)の 意思決定に有用な情報を提供することである。この企業の利害関係者が,会 計情報(メッセージ)の利用者であると考えられる。利用者には,企業の内 部の利用者と外部の利用者がし、る。内部利用者は,企業の経営者および管理 者と呼ばれる人々であり,彼等は,企業の経営管理に役立つ情報を必要とし ている。経営者および管理者は,会計情報の利用者であると同時に,作成者 でもある。というのは,会計情報の送り手としての会計担当者には,記帳と か計算とし、う技術的な会計業務に従事している社員のほかに,彼等に,会計 上の基本的政策や判断の指針を与え,また問題が生じた場合には,最終的な 責任を負う経営者(経理部長とか財務担当副社長というような会計担当責任 者)も含まれるからである。本論文では,ディスクロージャーの問題として 会計コミュニケーションを取り上げているのであるから,経営者の,内部利 用者としての側面については,検討しないことにする。経営者は,会計情報 の送り手として, しかも,会計上の最終的な判断者であり,責任者として位 置づけられる。
会計上の最終的な意思決定者であり責任者である経営者を含む会計担当者 の役割について,ベッドフォードおよびパラドウニは,次のように説明して いる。すなわち, Iコミュニケーションの一つの構成単位として,会計担当 者(情報源)は,会計報告書の利用者(受信地)に有益なメッセージを伝え る会計報告書(言語上のコード)を作成する責任を担っている。この責任を 果たすためには,会計担当者は,まず第一に,利用者によって要請されるメ
ッセージのタイプを決定しなければならない」 と。このことからも明らか なように,会計担当者は,いかなる利用者から,いかなる種類の情報の作成
・伝達が期待されているかを明確にし,この利用者の期待に応えることが,
会計担当者の第一の役割であるといえる。
また,ベッドフォードおよびパラドウニによれば, I人間的コミュニケー ションの構成単位としての会計担当者は,シャノンの機械的コミュニケーシ
(36) Norton M. Bedford & Vahe Baladoun ,iOp. cit., p. 654.
コミュニケーションとしての会計ディスクロージャー(2 ) 43
ョン・モデル(図2‑3参 照 一 引 用 者 注 ) の 構 成 要 素 ( 情 報 源 一 一 送 信 機 一 一 チ ャ ン ネ ル 一 一 受 信 機 一 一 受 信 地 ) の す べ て を , サ ブ シ ス テ ムとして自分自身の中に内蔵している。換言すれば,会計担当者は,さまざ まなフィードパック機構を通じて,多かれ少なかれ,情報源(メッセージの 選択者),送信機(メッセージの作成者),受信機(メッセージの解釈者)お よび受信地(メッセージの利用者)としての機能を,同時に果たす」 の で ある。このことは,図2‑6をみれば明白である。すなわち,会計担当者は メッセージの送り手であると同時に,自己フィードパックを通して受け手と なり,送り手としての二つの機能と,受け手としてのこつの機能を果たすの である。なお,この場合の受け手は,自分自身の作成したメッセージが誤解 のないように解釈されうるかどうか,そして,メッセージを訂正する必要が あるかどうかを判断するとし、う利用目的を持った受け手で ある。また,会計 担当者が,サブシステムとして,自分自身の中に内蔵しているこれら四つの 機能を果たす際,会計担当者の主観性が,多かれ少なかれ反映されること になるのである。
会計コミュニケーションの構成要素としての,会計担当者の役割および機 能についての検討はこれぐらいにして,次に,外部利用者について検討する ことにしよう。会計コミュニケーションの外部利用者として誰を想定するか については,意見が分かれている。株主や債権者などの資金提供者を想定す る見解から,消費者や地域住民などを含めた,企業活動によって影響を受け ると考えられるすべての人々を想定する見解まである。利用者の範囲は,会 計の場である企業をとりまく環境や企業の性格を,どのように認識するかに
よって変化する。
大 量 生 産 ・ 大 量 販 売 の 主 役 を 演 じ 大 量 消 費 の 豊 か な 社 会 の 実 現 に 貢 献 し
。
7) Norton M. Bedford & Vahe Baladouni, Op. cit., p. 655.仰) 主観性については,拙稿「コミュニケーションとしての会計ディスクロージャー(1)J 経営と経済68巻1号 (1988年6月), 55頁を参照していただきたし、。なお,会計の場合,
会計担当者の主観性は,大幅ないし全面的に発揮されるのではなく,会計原則や法規 等の会計規約によって制限されることに注意すべきである。
てきた,今日の大規模化した企業は,それ以前のような,単なる株主(出資 者)の私的所有物(単なる株主の利益追求の場としての経済的存在)ではな く,社会のさまざまな種類の構成員に関係する社会的制度(広く社会的に承 認された存在)と考えられている。資本主義経済の成立以来,自由競争市場 あるいは自由企業体制は,それぞれの企業が最大の利潤の獲得を目的として 競争することによって,資源の適正配分を実現し,同時に,これによって最 適の商品およびサービスの生産を可能にすると考えられてきた。事実,物質 的に乏しく,かつ所得水準も低い工業化途上社会では,社会が必要とする商 品およびサービスを効率的に提供するとともに,社会の人々の収入を増大さ せる企業は,社会のなかで中心的地位を占めることができたし,また,利潤 を追求し,競争相手を倒し,大きく成長したとしても,それは社会から支持 されたので、ある。しかし 工業化が進み 物質的に豊かで経済的に安定した 生活が実現した社会で は,企業は,従来のように,社会の必要とする商品お よびサービスを効率的に提供するだけでは 必ずしも社会の支持は得られな くなってきた。というのは 企業がもっぱら最大利潤の獲得と自らの成長を 目的として活動してきたため,産業公害や環境破壊,あるいは不当な管理価 格などのマイナス要因を,社会に与えてきたからである。企業の利潤・成長 を最優先した経済活動に付随して生ずる,このような社会へのマイナス効果 は,国民生活の質の低下を意味する。人間尊重および平等が重視される今日 の社会で,企業がもっぱら利潤=株主の利益のみを重視し,社会の利益を無 視し続けるならば,企業は,社会から批判され,その成長はおろか,存続す
ることさえできなくなるであろう。
こういった,企業をとりまく環境の変化を正しく認識するならば,現在の 制度会計のように,会計情報の利用者として株主(出資者)と債権者を想定 することは,もはや今日の時代ないし環境に合致しないといわなければなら ない。広く,社会とのコミュニケーションが不可欠である。ここでいう,企 業とのコミュニケーションの相手(受け手)として想定される社会とは,企 業の存続・成長に,換言すれば,企業の財務,購買,生産,販売などの職能 に,直接にかかわりあって影響を及ぼす,一次的環境主体たる利害関係者集
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン と し て の 会 計 デ ィ ス ク ロ ー ジ ャ ー (2 ) 45
団と,それ以外の二次的環境主体たる利害関係者集団である。前者には,企 業と直接,取引関係ないし競争関係にある株主,債権者,取引先(仕入先),
消費者(顧客),従業員が含まれ,後者には,企業の経済活動そのものとは 直接には無関係であるが,企業が活動して行く上で,あるいは存続・発展し て行く上で,無視できない関係にある政府 地域住民 一般大衆(国民)が 含まれる。かかる企業と利害関係者との関係を図示すると,次のようになる
(図3‑3)。
これら利害関係者集団は,企業(経営者)にとって,さまざまな意味に解 釈される。すなわち,各利害関係者集団は,企業をとりまき,企業活動(企 業の自由な意思決定)を外部的に条件づける,またば規制する企業環境主体 として捉えることもできる。さらには,企業実体を構成している本質的要素,
図3‑3 企業の利害関係者と環境
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/ / 消費者
つまり参加者として捉えることもできるのである。いずれにせよ,経営者 は,利害関係者との対立や緊張を緩和するために,あるいは受託者としての 責任遂行の結果を伝えるために,または参加・協力を維持・促進するために,
利害関係者との聞で,コミュニケーションが必要である。しかし,コミュニ ケーションにおいて,各利害関係者集団が要求する情報は異なる。また,要 求される情報も,会計情報に限られない。各利害関係者集団別に,誘因,貢 献,会計情報要求,その他の情報要求(会計報告書以外の媒体によるコーポ レート・コミュニケーションによって要求される情報)を一覧表にして示す と,次頁のようになる(表3‑ 1 。)
前記の表から明らかなように,各利害関係者によって要求される会計情報
(39) ここでしづ参加者とは,自らが企業に提供する貢献と,企業から提供される誘因と を判断して,企業に参加・協力する人々のことである。参加者の貢献とは,企業目的 の達成に役立つ何らかの給付を企業に提供することであり,誘因とは,その代わりに 企業から受け取る,参加者の動機(欲求)を満足させるための反対給付のことである。
企業は,参加者の連合体として把握される。「①資金を出すものがし、ない企業などとい うものはありえるはずがないし,①働くもののいない企業は存在しなL、。同じように,
①買い手のいない企業が存在することはないし,①企業活動に必要な商品やサービス を提供してくれる相手がなくては企業は存立しない。①地域社会が喜んで受け入れて くれなければ企業は存在しえなくなっている。①資金を供給してくれる機関ないし個 人がなければ,企業活動に大きな支障をきたす。国家の権力によって秩序が守られて いなければ,企業活動を安全に遂行することは難しい。以上のようにみてくれば,そ れらは単なる利害関係者J(辻本興慰「企業の社会的責任理念の検討」日本経営学会編
『企業の社会的責任』千倉書房, 1975年所収, 220頁)ではなし、。彼等の企業への貢献 を積極的に解すれば,単に企業に対して利害関係を持っている者というよりも,企業 への協力者ないし参加者と考える方が妥当であるかもしれない。一般に,参加者は,
企業から提供される誘因が,要求される貢献と同一程度か,または大きい場合に限り,
企業への参加を考え,また,参加者として留まるという行動をとるのである。かかる 参加の理論を会計ディスクロージャーの基礎理論に据えて展開した文献として,若杉 明「企業内容開示制度に関する基礎的考察J(会計121巻2号, 1982年2月, 37~52頁) がある。
叫んいい守 lu¥凶て什﹁パδゆ叫十刈 4uph可司lU寸l(N)
必』 h司
利害関係者集団別の主要な誘因・貢献と情報要求
出竺
l次的環境主体2次的環境主体 株主(投資家)債権者取引先(供給業者)従業員消費者(顧客)地域住民政府一般大衆 ‑利株益価配当利息‑売取上代関金福賃金収入 安価消全費格財でで良のの適取質正得の地活域社境会の生‑租税収入 ‑豊実福か現祉なの(増社社進会会的) の 誘因の上昇に引係の発不リ環の向上 よるキャピタ展 ノレ・ヤJイン ‑危金険の提を供伴う資‑危金険のを伴供う(資信ー臣桔要信官な活要動素にの必供労働力の提供‑購払入代金の支‑経の提営活供動の場‑公共提サービス‑社会の一員けと 只献用供提与)の供しての受入 れ 用供与 受託!綴A責凶4 任遂行将来の支払能有価判来格の適正性‑配報付加に価関値すのる情分‑消適す費財の価判有格 療地化瞳,福教上社育祉会,のな文医害理的的関ど定法人の基報税礎等のと算な報社出に会的関す活動る情支 の評情決及び投用力のな予情報測にの断およびの正性を 資に有用 将用力のな予情の支報測払に能有断るのにる情 な用な情情原報価報(つ 防境のと止保動向す,全やを自公酷会計情報要求まりに関 する) る社会目 す活る情支報出に │¥ / 雇訓業用練員政のの策教実従対管情消策理費報財及にのび関安品す全質る ー度協措公題勢境況発害定に基,対対公準公のの害遵環す策害研の達防守防究境る(状問環成止止姿 政の府協すに業必の力活る政要状情動策報況へに企の瞳f案要業青及び営関業す
‑状社況関会的及活び動計情の 企る況報のな将に影来響究に記ないし施計計育プ状画・関企の情監にする固報 ‑諸給付画保退‑アフター→ナー督報な 重与闇発える研計情を開 陣職職報閏菩(グル一
ピスの実す施状情 ,金年制l報) に報況苦に関る 要そ求の他の情報及び画報に する す場に環関る情金度壇すのる情改情処理対情策報に術体閉瞳話制すなる情ど開) 報に関する 地対住の状民と及の ぴ地先域的関住雇す民用況のな 優どにる情 報 」
表3‑1
は多様である。これら多様な情報要求(会計の利用目的)をすべて一組の会 計報告書で平等に満たすことは,現実問題として非常に困難である。そのた め,調整が必要とされる。この調整に当たっては,企業と各利害関係者集団 との関係の重要性の程度や社会的圧力,それに,経営者の意向が考慮される。
資本主義体制および株式会社制度の成立以来,今日まで,会計制度上では,
資本(=資金)提供者である株主(投資家)および債権者の利用目的が,第 一次的に重視されてきている。それというのも,企業の経済的動向に最も強 く,かつ継続的に関心を持っているのが,資金提供者としての株主(投資家) および債権者であったからである。また,経営者の立場からしても,経営者 の地位を左右する力のある利害関係者集団としての動向に,最大の関心を払 っていかなければならなかったからである。このことは,経営者の会計報告 書を介しての操作も,ほとんどが,株価,利益配当,支払能力に関するも のであり,株主や債権者に向けられたものであったことからも明白である。
しかし,今日の社会では,その他の利害関係者集団も,企業の行動に強い 関心を絶えず持つようになってきている。こういったことが経営者にも認識 されるようになり,その他の利害関係者集団の利用目的をも重視しようとす る傾向がみられるようになってきた。それは,その他の利害関係者の利用目 的に有用な情報を含むように,現行の会計報告書を拡張するとか,さらには,
会計報告書とは別個に社会報告書を作成するという形での具体化が考えられ ている。とはし、うものの,いずれの形にせよ,これが一般的な実務として普 及するには,まだかなりの時間を要するであろう。この問題については節を 改めて検討することにして,会計コミュニケーション・プロセスの検討では,
現行の会計制度上,会計報告書の利用者と考えられている株主(投資家)お よび債権者を主要な利用者とし,その他の利害関係者を副次的な利用者とし て,想定することにする。その場合,彼等は,会計報告書を主として,経営 者の受託責任遂行の評価,投資決定,および将来の支払能力の予測を行う際 の判断資料として利用するだろうo これに対して,経営者は,経営管理目的 のほかに,企業にとって,または自分自身にとって,望ましい意思決定や行 動をするように利用者を誘導するために,会計報告書を利用するだろう。と
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン と し て の 会 計 デ ィ ス ク ロ ー ジ ャ ー (2 ) 49
いうよりも,これらの目的のために,作成するだろうということができる。
経営者の作成目的と,利用者の利用目的との調整が必要となるが,一般的に,
作成目的が優先されることになる。そのため,利用者保護の立場から,会計 に対する規制が必要となるのである。今日,利用者保護や利用者指向的会 計が強調されるのも,一つには,かかる理由からであると考えられる。
(B) 経済事象の認知プロセス
一連の企業活動によって生起する無数の事象のうち,会計担当者が関心を
(40) この点に関して,美馬助教授は,次のように説明しておられる。すなわち, I会計の 利用目的は,このように二つの観点(利用者側と作成者側)から把握され,最終的な 情報を作成するためには,これらの調整をする必要がある。この調整をする者は,作 成者側の一員である企業内の会計士である。このことから考えて,調整は両者の公平 な調整ではなく,作成者側の意向を強く受けるものであることが容易に予想される。
ただ,これに対する歯止めとしては,①会計に対する法的規制,①法的規制の届かな L 、分野においても,社会的あるいは共同体的な無言の圧力,①利用者の積極的な協同 意思 (good‑wil1)を獲得する必要性等があげられよう。また作成者からの要請も単に 利用者を操作するという目的だけでなく,情報作成における経済性,企業機密保持等 が指摘されているJ(美馬武千代「コミュニケーション・アプローチによる会計プロセ スの再検討(二) 一 一 会 計 士 の 観 察 プ ロ セ ス の 検 討 一 一 」 商 学 論 集45巻4号(1977 年3月), 183~184 頁)と。また,嶋教授は, I経済的利害関係が対立する者同士の聞 のコミュニケーションの場で機能する情報は,送り手の意図する行動を受け手にとら せるべく操作され,コントロールされる傾向が強くなる。すなわち,送り手は受け手 の行動を自己に有利なものとすべく,それを促進する意図をもってそのための情報は 積極的に伝達する。他方,自己の不利な行動をとらせるであろうような情報は好んで 伝達しようとはしなL、。むしろ,そうL、う情報は隠蔽しようとする。……企業と企業 をとりまく利害関係者(情報利用者)とのコミュニケーションの場においてディスク ローズされる会計情報は,基本的にこの性格をもっJ(嶋和重「会計情報とディスク ロ ー ジ ャ ー 一 一 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 観 点 か ら ー ー 」 経 営 経 理 研 究31号 (1983年 11月), 29頁)と説明しておられる。以上の説明から明らかなように,会計情報は,経 営者の作成目的を必然的に反映したものになるが,経営者の作成目的が,一般に認め られた会計規約の枠を超えて反映されると,いわゆる「粉飾」や「不正操作」という ことになる。