91号 1997.6
流通段階におけるブラン ド内競争 とブラン ド間競争
並 河 永
キーワー ド:流通,シミュレーション,ブランド内競争,ブランド間競争
1. この論文の位置づけ
1.1 は じめに‑ シミュレー ション分析の意義 この論文 は,複数 ブラン ド・複数流通業者 の状 況下で, ブラン ド内競争 とブラン ド間競争 の相互 関係 を, コンピュータ ・シ ミュ レーシ ョンにより 分析す るものである。 この論文 の主眼 は, ブラン ド間競争 とブラン ド内競争が並行 して行われ る状 況下で,同時 に観察 されるい くつかの現象を整理
し,相互関係を解 きほ ぐす ことにある。
こうした主題 は, 従来, 理論 的 にモデルを解 くことによ って分析 されて きた。 丸 山 [1988] [1992],成生 [1994] といった文献が この流れを 代表す る。 あえて この主題 を, それ自身問題 を多 く含む コンピュータ ・シ ミュ レーシ ョンにおいて 行 う意義 について,最初 に述べ ることとしたい。
1.2理論 モデルにおけるブラ ン ド内競争 複数 のメーカー (ブラン ド)が存在す るときの 流通業者間の ブラン ド内競争 は,理論分析上,甚 だ困難な問題である。消費者 に対 してまった く等 距離 にある流通業者 どうLが ブラン ド内競争 をす れば,価格以外 に競争 の手段 はない ことにな り, ベル トラン競争が起 きると考 え られ る。一方, ブ ランド内競争が (厳格 なテ リトリー制 などによっ て) まった く起 きないとすれば,継起的独 占の起 こることが予測で きる。 このふたっの比較 は,丸 山 [1992] によって行われている。
しか し, いわゆる流通系列化 の程度が進んだと 見 られている産業で も, テ リトリー制は卸 (販社)
レベルに留 まって,消費者 に接す る小売段階まで は徹底 しないことがよ くある。 こうした産業では, ブラン ド内競争が実際 には幾分か生 じてお り, そ の抑止がメーカーの (あるいは,系列小売店 の) 大 きなテーマとな っている。 しか し明 らかに, ベ ル トラン競争 は一時的に,一部の地域でみ られる にす ぎない。価格競争 は多 くの場合,直 ちには業 者 の退 出を引 き起 こさない水準で留まって しまい, 観察 される価格 はば らつ きを持っ。 こうした中間 的な状況 は, ブラン ド内競争 としてベル トラン競 争 しか考えることが出来ない,従来のモデルか ら 予測 され るもので はない。
っま り, ブラン ド内競争 について,従来 の理論 モデル時 (価格 とい う尺度で見て,限界費用 と独 占価格 とい う)両極端 の状況 しか扱 うことが出来 ない。 そ していずれの極端 において も, ブラン ド 内価格差 は生 じない ことが予想で きる。 これは明
らかに,現実 のあま りに も多 くの部分 を捨象 しな ければ支持 されない結果である。
1.3 理論 モデルにおけるブラ ン ド間競争 ブラン ド内競争 のみに注意 を絞 った として も, 小売店 の立地 の影響 と, アフターサー ビスの必要 性 などの財 の性質 は,価格競争が貿徹 されない理 由 を幾 分 か説 明 す るで あ ろ う。 並 河 [1993] [1994]で論 じたように, なん らかの意 味 での固 定客や固定商圏が存在す ることは,価格分布 の存 在 を理論的に説明す る上で決定的である。実際, 特定のブラン ドのみが複数 の小売店 を通 じて流通 していて,小売価格がば らつ きを持っ状況を説明 す るだけな ら, こうしたモデルで十分であろう。
29
社会科学論集 第91号 しか し先 に述べたような,小売 レベルのテ リト
リー制が徹底 しない産業では,小売店 の専売化 も また徹底 していないのが現状である。 ブラン ド内 競争 とブラン ド間競争 は同時に進行 している。 と すれば, ブラン ド内競争 とブラン ド間競争 におけ る小売店 の選択 を ワンセ ッ トと して考え る必要が あろう。
ブラン ド内競争 のケースと異な り, ブラン ド間 競争 の理論 モデルにおいては,中間的な状況 を扱 うことが出来 る。少 な くとも, そ う考え られて き た。 そのための簡便 なツールは, ゲーム理論 の教 科書であるFriedman [1986] によって導入 され た,次 のような線形 の需要関数である。 ここでxl
はブラン ドiの需要量,piはブラン ドiの価格 で ある。
xi‑ a‑bpl+cPj
(i≠ j,a,b,Cはいずれ も正,b≧ C)
この関数 を用 いて,2ブラン ドまたはnブラ ン ドの ブラン ド間競争 を分析す る論文がい くっか存 在す る。 ところが,例 えば2ブラン ドのケースに ついて,市場需要 ∬を導 出 してみ ると, この関 数型 の問題点 が判然 とす る。∬‑∬1+∬2で あ る か ら,上 の式 よ り,
x‑2a‑(b‑C)(pl+92)
ふたっの財 の代替性が高いほど,Cはbに近 づ くと考え られ る。 ところが この とき,ふたっの財 の価格低下が これ らの代替財への需要 を増大 させ る効果 は次第 に小 さくな っていき, ブラン ド間競 争 は固定化 された/ヾイの奪 い合 いに近づ く。
代替性が高 まって互 いの市場が結合 され, よ り 広 い需要 を相手 に した競争が起 こるところまでは よいであろう。 しか しその場合,価格 を引 き下 げ れば, より多 くの需要者が これに反応す るのだか ら,dx/dplは大 きくな りこそすれ, 小 さ くな っ てほな らないと患われ る。
Friedman型需要関数 は,消費者 の反応 を簡便 に定式化す ることで,企業間の反応 を分析 しやす くす る利点があったが,上記 のよ うに簡便化 のた めの無理 を内包 している。関数型 を簡単 な ものに す ると論理的な無理が生 C, それを避 けると関数 型が複雑化 して解 きに くくなる。 これが第一の問
題である。
では補論で取 り上 げたい くつかのモデルのよう に,製品差別化が行われていることを前提 とした 独 占的競争 モデルを使 って, ブラン ド内競争 とブ ラン ド間競争 の分析を試 みた場合, どうい う問題 が生 じるであろうか。
流通業者間のブラン ド内競争 について, それぞ れの扱 う財を (異 なる流通 サービスの付加 された) 相異 なる財 として定式化す る場合, その 「相異 な
る」程度が ブラン ド内価格差を説明す ることは自 明であるか ら,価格差 に主な関心 を置いた分析 と しては適切 とは思えない。言 い換えれば, こうし たモデルではブラン ド内競争 とブラン ド問競争 を うま く区別で きない。 これが第二 の問題である。
メーカー間の一段 目の競争 と流通業者間の二段 日の競争 に異 な った競争 メカニズムを割 り当てる 方法 も考え られる。実際,補論で取 り上 げるよ う に, メーカーが リベー トなどの報酬体系をデザイ ンす ることで流通業者 を コン トロール して ブラン ド間競争 を行 う, とい う筋書 きの理論分析 はひと つの文脈 を成すまでに発展 している。 ところが こ の場合,Fershtman,Judd&Kalai[1991] が 提示 した強力な (困 った)結果 をどうク リアす る かが問題 となる。 この論文 は非常 に広 いクラスの 問題 について, メーカーが流通業者 に与 える報酬 体系を自由にコ ミッ トで きるとすれば,技術的に 達成可能 な限 りでパ レー ト効率的なすべての市場 成果 (互 いの生産量) を均衡 として得 られること を証明 している。つ まり,観察 され る市場 シェア はどんな数字 であれ, これ以上変化 させないのが メーカーに取 って合理的か も知れない, とい うこ とである。 この非決定性が第三 の問題である。
これ らの問題 は,言 うまで もな く,採用す るモ デルによって悪影響 を及ぼす程度が異なっている。
しか し, どの問題か らも安全圏にあるようなモデ ルを筆者 は知 らない。
1.4 非決定性問題 と数値例 による分析 ブラン ド間競争 とブラン ド内競争 を扱 う理論 モ デルは, モデルが複雑化 して定性的な結論が一般 的に導 けないため,具体的な関数型 を与えて,パ
ラメータに依存す る結論 を得 ようとす る傾向が強 い。 しか し, これによって得 た結論が何 らかの測 度で一般性 を持っ といえ るか どうかは,分析が困 難である。
モデルの複雑化 は, プ レゼ ンテーシ ョンの困難 さという別 の問題 も生 じさせている。結論 の一般 性 も,理解 の簡明 さも理論分析 に求めに くいので あれば,次善の策 と して繰 り返 しシ ミュ レーショ
ンによるアプローチが考え られ る。
繰 り返 しシ ミュ レーシ ョンは,次のような利点 を備えている。
(1) 取引ルールを自由に定式化 し,計算 の難易 を問わず,多数 のルールを同時 に適用す るこ とがで きる。
(2)もちろんその結果をもたらした枠組みはチェッ クす る必要があるとして も,聞 き手 は特定 の 出力結果 に注意を集中で きる。
(3)任意 の切 り口で, モデルか ら経過出力を取 り出せ る。
(4)パ ラメータの変化 に対す る感応分析が広 く 行え る。
欠点 は次の通 りである。
(1) 取引ルールは多 くの場合ア ドホックであり, 個 々の主体 に取 っての最適化 は不十分である。
(2)現在 のバージ ョンにおいて は, シ ミュレー シ ョンの結果 を視覚化す る手段が用意 されて お らず,解説 な しに出力の意味を理解す るこ とはで きない。
(3) シ ミュ レーション ・プログラムが巨大化 し た結果,取引ルール全体 を理解す ることはや はり困難である。 また,追試験 はきわめて困 難であ り,第三者が プログラムの誤 りを簡便
にチェックす る実用的な手段 はない。
(4)繰 り返 しの結果 は初期値 に依存す ることが 避 け られない。 また,現在 のところ定常状態 を定義 していないので,「十分 と思 われ る多 数回繰 り返 した後 の結果」 を提示で きるに過
ぎない。
(5)結果 の一般性を主張す ることは困難である。
最後の欠点 は特 に大 きな ものである。 しか し同 じ主題 を扱 う理論分析が一般性 を主張す ることが 困難 にな って きている現在, この欠点 は相対的に 小 さくな って きた と考え るべ きではなか ろうか。
景気問題 に関す る雑誌記事 などで,「シナ リオ」
とい う表現 をよ く目にす る。 それ はほとん どの場 合,因果関係 のそれほど長 くない連鎖である。 そ れぞれの シナ リオが何 らかの経済変数 に与え る影 響の大 きさについて, この種 の記事 は根拠 のある 定量的な表現 を避 けることが多 い。 それは (その シナ リオを前提 と した)実証分析 のテーマた りう るであろう。
理論 モデルはある経済変数や制度の変化 の影響 について,例えば比較静学 による定性的な結果 を 提供で きないとして も, シナ リオを提供す ること はで きるはずである。 シナ リオを提供す ることに よって,理論分析 は計量的 ・制度的な実証分析 と の リンクを保つ ことがで きる。
この点で, シ ミュレーションは理論 モデルに対 して大 きな利点を持 っている。理論 モデルでは, 実証分析の課題 と して興味深 いか どうか以前 に, そのモデルが解 けるか解 けないかに注意 を払わざ るを得 ない。 シ ミュレーションにおいては, その 問題がモデル上で定式化で きる限 り,「とにか く 走 らせてみる」 ことが可能である。 この結果, と もか くひとつのパ ラメータか らひとつの シナ リオ を得 ることがで きる。 この 「表現力の豊かさ」が, 筆者 を このアプローチ採用 に踏み切 らせた最大 の 要因である。
2. モデルの基本構造
シ ミュ レー シ ョン ・プ ロ グ ラム はMicrosoft QuickBasicで書かれているが,全体で約800行 に及んでいる。 そ こで シ ミュ レーシ ョンの詳細 を 解説す る前 に, モデルの基本的な構造 について, 直観的な解説 を してお きたい。
このモデルには, ブラン ド (メJカー), 小売 店,消費者が存在す る。卸段階が完全 にメーカー によって コ ン トロール されて い るが, 小売店 は (取引高 の大小 はあるとして も)すべてのメーカー 31
社会科学論集 第91号 表1 プレイヤー,目的関数,選択肢
行 動 原 理 決定する変数/選択する行動 (ブランド)3 (外生的に与える) 出荷価格,数量割引 小売店 50 今期利潤最大化+慣性 小売価格,参入/退出
*各消費者は右下がりの需要曲線を持っと仮定するので,最も安い価格を求めることが消費 者余剰最大化にはかならない。
と取 引の可能性が あるよ うな業界,例 えば化粧 品 業界や家電業界が,最 もこのイメー ジに近 いで あ ろ う。
このモデルは,消費者 が毎期 ごとに小売店 とブ ラン ドを選択 す る,一種 のサーチモデルである。
モデルに登場す る主体 につ いて は,表1にまとめ られている。
消費者 は一定数 (総数 1に標準化 し,小数 と し て表す) で,毎期 の購入時点 ではひとっの小売店, ひとっの ブラン ドだけを選択す る。毎期 ごとに必 ず どこかで買 い物 をす るけれ ど も,消費者 の一部 が小売店 を移動 し, また一部 は前期 と違 うブラン
ドを購入す る。前期 に購入 した小売店 や ブラン ド はい くぶん消費者 に選 ばれやす くな ってお り, そ の意味で ブラン ド‑ロイヤ リテ ィとス トア‑ロイ ヤ リテ ィの両方が存在す る。
このモデルではメーカーは卸売価格体系 を小売 店 に提示す るだけで, シ ミュ レー シ ョンが始 ま っ た後 はま った く内生的な意志決定 を しない。小売 店 は,今期 の小売価格分布 が来期 も続 くとい う適 応的な期待 の もとに,来期 の期待利潤 を最大 にす るよ うに,各 ブラン ドの価格 を決 め る。 この とき 小売店 が直面す る トレー ドオ フは,表2にまとめ
られている。
小売店 は, ブ ラ ン ドaの価格 を低 め に設 定 す るほど, 他店 で い ま ブ ラ ン ドaを買 って い る顧
表2 小売店の価格設定の トレー ドオフ 小売店 iがブランドaの価格を引き下げることの‑‑
メリット
他店か らブラン ドaの 消費者が来店 (浮動客を 含む)
デメリット
自店の他ブランド固定客 がブラン ドaにスイ ッ
チ
客 を引 きっ けるチャンスが増す。 しか しそれによっ て, 自店舗 で前 期 に ブ ラ ン ドbや ブ ラ ン ドCを 買 った消費 者 は, ブ ラ ン ドaにス イ ッチす る割 合が高 くな る。 ブ ラ ン ドaが市場 で の シ ェアの 高 い ブラン ドであれば,失 うものよ り得 る ものの ほうが大 きいが, ブ ラ ン ドaの シェアが低 けれ ば, ブラ ン ドaの シェアを高 め る ことは小売 店 の利益 にな らない。 こうして,新規参入 メーカー はよほど出荷価格 を引 き下 げないと,小売店 に低 い価格 を付 けて もらえず,既存 メーカーへの ブラ ン ド‑ ロイヤ リテ ィを打破 で きない。
小売店 は,取 り扱 うブラン ドのそれぞれ につ い て,3種類 の小売価格 のいずれかを選ぶ。 在 庫 の 制約 はないが,一定量以上 の取引があったときは, メーカーか ら数量割 引が事後 的 に受 け られ る場合 があ る。3種類 の価格 とその意味 につ いて は, の ちに説 明す る点 も含 め,表3にまとめてあ る。
すで に述べたよ うに,小売店 の意志決定 は今期 の利益 を最大化 す る近視 眼的な もので,価格分布 は前期 のそれ と同 じだ と仮定 す るとい う,二重 に ア ド‑ホ ックな ものであ るが,数量割 引のルール につ いて は利益計算 に折 り込 まれて いる。大量販 売 の見込 み (前期 に低価格 をつ けた小売店が少 な い状況) があれば,数量割引の存在 によ って,小 売店 がそ うでなければつ けない低価格 をつ けるこ
とは考 え られ る。
このモデルを小売店 の側 か ら見 た場合,小売店 の基本的な意志決定 は,低価格 をっ けて多 くの消 費者 を他 の店か ら引 きつ けるか,現在 自分 の店 に 集 まっている消費者か ら最大限 の利益 を引 き出す ために高価格 をつ けるかであ る。過去 の低価格 で 多 くの消費者 が集 ま って いるほど,高価格 をっ け る誘因 は強 くなる。並河 [1995] で は, これをよ
表3卸売価格と小売価格
名 称 で の値シミユレ‑シヨン 意 味 付 け
PHPL
WL 310...500 設定 した需要関数の下で,限界費用PLに対応 する独占価格
PHを定めるための標準 小売店の参入 .退出の判断基準 既存ブランド (1,2)の出荷価格+α 新規ブランド(3)の出荷価格+α
既存ブランド(1,2)の数量割引出荷価格+α
ただ しαは小 さな正定数
く知 られ る 「小売 の輪」現象 のひ とつの説 明 と し
た 。
しか し小売店が複数 ブラン ドを扱 っている場合, さきに述 べたよ うに, もうひ とっの要素 が関連 し て くる。 ブ ラ ン ドaに極 端 な安値 をつ けれ ば, その小売店で いまブラ ン ドbや ブラン ドCを買 っ ている消費者 もブ ラ ン ドaを買 うよ うにな る。
逆 に, ブラ ン ドaに高価 格 をっ けて も, 消費 者 は別 の ブラン ドを買 って店 に残 って くれ るか もし れない。 もしこうした動 きをす る消費者 が多 いな ら, ブラ ン ドaを安売 りブ ラ ン ドと して店 に残 しておけば, ブ ラ ン ドbやCは高 く売 りやす く な る。
このモデルで は, メーカーはさきに述べ たよ う に内生的な意志決定 を しないが,後 にメーカー と 小売店 の結合利潤 の増減 を検討す るさいに, メー カーの費用関数 が問題 とな る。 そ こで, メーカー の限界費用 と固定費用 はいずれ も 0であ ると仮定 す る。
このモデルで は,数量割引 も導入 されている。
数量割引を受 けるためには,低 い小売価格 をっ け て多 くの消費者 を引 きつ けなければな らないのは もちろんであ るが, もうひ とつ重要な要素がある。
その ブラン ドが,市場 で大 きな シェアを占めてい なければ,他 か ら流 れて くる消費者 が少 な く,敬 量割引を受 け られ る見込 み も少な くなるのである。
メーカーと小売店 の数 は, わずか にプログラム を変更す ることで 自由に設定で きるが, この論文 では 3ブラン ド (メーカー),50小売店 というケー スを扱 う。 そ して,初期 にはブランド1と2が シェ
アを等分 して いるところへ, ブラン ド3が参入 し て くる状況 を分析す る。
3. モ デ ル
3.1 タイムテー ブル
消費者数 は全体 で1に標準化 してあ り,移動 に 関す るルールは, すべて移動確率 のかたちで書 か れている。従 って,各小売店 の各 ブラン ドの消費 者 は小数 で と らえ られ る。
シ ミュ レー シ ョンの進行 は,図1に示 した通 り であ る。
(1)初期 には,すべての小売店が同数ずつ,前 期 にその小売店 で買 い物 を した消費者 (固定客) を持 っている。 ブラン ド1とブラン ド2の固定客 数 は各店舗 とも同一 だが, ブラン ド3はまった く 固定客 を持 って いない。 それ以外 の消費者 (浮動 客) は, ブラ ン ド1と2に同数ずつ結 び付 け られ て いる。
初期 には,50の小売 店 ス ロ ッ トのすべ てが埋 ま っている。 このあ との シ ミュ レー シ ョン中,刺 潤 の低 い小売店 は退 出す る可能性 があ り,逆 に小 売店 の平均利潤が上がると,ある確率で空 きスロッ
トに対 し小売店 の参入が起 きる。
メーカーは, 出荷価格 と数量割 引の有無 を, こ の時点 で設定 している。数量割引 は,売上高 ノル マを達成 で きた場 合 とで きなか った場合 の2段階 であ り, ノルマは消費者数 を ブランド数× (潜在) 小売店数 で割 った ものであ る。今回 の設定で は,
33
社会科学論集 第91号
第 1図 タイムテー ブル と消費者 の移動例 (1)初期 の消費者分布
日 日 小売店 1 1 日 1小売店 2
(2)小売価格が設定 され る (ブラン ド3はすべての小売 店 で PH がつ いた ことに注意)
ブランド3浮動客
小売店 3のブラン ド2固定客
各 ブランドの最低価格 (丸で囲んだ各小売店の価格)
L
pL1
‑歪 肇 客
pH @ @ @ pH@
日 日 小売店 1 1州 小売店 2
PII PH@
廿 仁 JJ、売店3
(6) 退 出が起 こる
浮動客
日 日 小売店 1 「 し = 小売店 2
ブランド1とブランド2は数量割引を適用 してお り, ブラン ド3は数量 に関わ らず低い (他のブラ ンドが数量割引を適用 したのと同 じ)出荷価格を 適用す る。
(2)各小売店が,前期の価格分布 と現在の自分 の固定客数,現在の各 ブラン ドの浮動客数を参照 して,各 ブランドについて今期の小売価格を決定 する。 この種のサーチモデルでの標準的な仮定 と
して,前期に最低価格をっけた店の数が参照でき るが, どの店がそうであるかば小売店 と消費者 に は分か らないものとす る。小売価格 は,PH,PL, wL (PH>PL>WL) のいずれか しかつ けるこ
とが出来ないと仮定 されているので,各小売店 は 3×3×3‑27通 りの価格設定 について今期 の期待 利潤を計算 し,最 も期待利潤の高 い価格設定をす
る。
消費者 は,全 ブランドについて直ちに,今期の 価格分布を知 る。
なお,小売店へのメーカー出荷価格 は,次の通 りである。
ブラン ド1と2
数量割引ノルマ達成 WL‑(小 さな正定数) 数量割引ノルマに達 しない
PL‑(小 さな正定数) ブラン ド3
常 に WL一(小 さな正定数) 小 さな正定数 を引 いた意味 は, 小売価格WL での取引が (仕入価格 がWLな ら) 正 の利潤 を
もた らすように, ということである。 もし利潤が 厳密 にゼロだ と, 全小売店 がWLか ら出発 しな い限 り,PLをっければ期待利潤 は厳密 に正 にな るので,WLは決 して選択 されな くなる。ただ し これは,小売店 に取 って,販売数量の大 きい選択 肢をより魅力的にす る副作用のある仮定である。
第0期にはブラン ド1と2の価格 はすべての小 売店でPHであったとす る。
4.4節で取 り上げる特別な設定のシミュレーショ ンを除 き,小売店 は特定 ブランドの取扱を拒否す ることはない。ただ し,PHをつけ続 けることで, あるブランドのイ ンス トア ・シェアを限 りな くゼ ロに近づけることはある。
(3)固定客 は,外生的なある確率で,前 に買 っ たブランドの浮動客 になる。 この確率 は,今期の 価格分布 に依存 しない。つまり,前期 に取引 した 小売店が今期 にいちばん安 い小売店であろうとな かろうと,固定客の一定比率 は価格比較のために 店を離れ,浮動客 となる。
(4)浮動客 は,ある確率で,他のブラン ドにス イ ッチす る。前期の価格分布において,自分の買 っ たブラン ドに付 いた最低価格が高 く,他のブラン ドの最低価格が安 いほど, ブランド・スイッチす る消費者の比率が高 くなる。
小売店 に残 っている (任意のブランドの)固定 客 は,浮動客 と同 じスイ ッチ ング ・ルールを使 っ て,小売店の中でブラン ドをスイ ッチする。
ブランド・スイ ッチ ング ・ルールについての詳 細 は,付録 に述べている。
(5) それぞれのブラン ドの浮動客 は,それぞれ のブラン ドで最低価格をっけた小売店 に (一時的 に)等分 される。
取引が行われ,小売店の利潤が計算 される。各 消費者 は右下が り (直線)の需要曲線を持 ってい て,選んだ小売店 とブラン ドが高価格だと取引数 量が下がる。
もtL小売店が特定 ブラン ド (メーカー) につい て数量割引の売上高ノルマを満たしていれば,メー カー出荷価格 に関す る数量割引が (事後的に)過 用 される。
浮動客 は,外生的な一定の確率で,今期 に取引 した小売店の (取引 したブラン ドの)固定客 とな る。
(6)小売店 は, (5)で得た利潤がある一定値を下 回 ると, ある外生的な確率で 「退出」 し, スロッ
トは空 く。退出 した小売店の固定客 は,そのブラ ンドの浮動客 となる。
(7) (5)で計算 した全小売店の平均利潤がある一 定値を上回 った場合,空 きスロットのそれぞれに っいて, ある外生的な確率で 「参入」が起 こる。
参入 した小売店 は,最初の期 において固定客を持 たない。参入 と退出のルールに付 いての詳細 は, 付録 に述べている。
ただ し(6)(7)の判定 は互 いに独立に行われるため, 35
社会科学論集 第91号 固定客 の少 な くな った小売店が退 出す る一方で,
新規参入が起 こることも,十分 に考え られ る。
(8)(2)に戻 る。
3.2 3種類の価格
3種類 の価格 のみをっ け られる, と したことは, もちろん議論 の余地 はあろう。
この種 のサーチモデルの世界では,多 くの理論 モデルが,混合戦略均衡 の存在 を指摘 している。
連続 な価格分布が生 じるモデル も報告 されている が, この シ ミュ レー シ ョンはSalop&Stiglitz
[1977] にな らって,小売店 間 の価格比較 が行 わ れ るときは,すべての小売店 の価格 をそれぞれの 消費者が比較す ると仮定 した。Salop&Stiglitz
[1977] では,小売店 は価格比較 を行 わな い消費 者か ら独 占価格 を徴収す るか,価格比較 を行 う消 費者 を巡 って期待利潤ゼ ロになるまで (彼 らのモ デルでは固定費用が小売店 にかか るので,価格が 小売店 の限界費用 まで下落す るよ うな ら小売店 は 退出す る)競争す る。 この シ ミュ レーションで は メーカーの出荷価格が2種類想定 されているので, 期待利潤がゼ ロになる水準 もその数 だけ考 え られ る。
3つの価格 の うち最 も高 い ものは,消費者 が短 期的には他店へ動 きづ らいことを当て込んだ独 占 価格 (小売店 の限界費用 をPLと して,仮定 した 線形 の需要曲線q‑3‑0.59か ら教科書通 りに導 いた独 占価格) である。 中 くらいの価格 は,既存 ブラン ドの出荷価格 にほぼ等 しく,小売店が平均 的な消費者 を得 たときに,その価格での売上 を確 保で きるかど うかが退出の判断材料 となる価格で ある。最 も低 い価格 は, (参入 ブ ラ ン ドの, また は数量割引を適用 した既存 ブラン ドの) メーカー の出荷価格 にほぼ等 しい。
すでに述べたとお り, メーカーの内生的な意志 決定 はモデルに折 り込 まれていない。
3.3 「平均」価格 と 「平均」販売量
このシ ミュ レーションは前期の状態を所与 と し た繰 り返 しであ り, そ こか ら得 られ るすべての内 生変数 の値 は内生変数の初期値 に依存す る。 そ こ
36
蓑4ふたつの平均価格概念 :数量ベースと頻度ベース 刺 :3つの小売店が次のような価格をつけ,それぞ
れの販売量を達成 したとする。
ブランドiの価格 ブランドiの販売量 小売店 1 3.5 1.5 小売店2 1.0 4.5 小売店 3 3.5 0.0
ブランドiの数量ベース平均価格 :
(3.5X1.5+1.OX4.5)+(1.5+4.5)‑1.625 ブランドiの頻度ベース平均価格 :
(3.5+1.0+3.5)÷3‑2.67
で,今回報告す るすべての シ ミュレーションでは, ある外生変数 の値 の組み合わせに対 して150期 シ
ミュ レー シ ョンを繰 り返 して, その うち最後 の 30期の平均価格や平均販売数量 を取 る ことに し た。
また,結果を表記す る方法 と して,「平均」 価
格 のベースを数量で取 るか頻度 で取 るか, という 問題 がある。消費者が手 に入れ るときの平均価格 とい う意味では, それぞれの価格での販売数量 を 記録 して, それをウェイ トとして平均価格 を計算 すべ きである。 しか し,現実 の全国物価統計調査 などのアナロジーか ら言えば,店頭で観察 される 価格 のウェイ トは, その小売店 での販売量 に関わ
らず等 しくす るべ きである。
以下では,前者を数量 ベース平均価格,後者を 頻度 ベース平均価格 と呼 び, どち らも表示す るこ とにす る。読者の理解 を助 けるため,表4にふた つの 「平均」概念での平均価格 の算出例 を挙 げて お く。
4. シミュレー シ ョン結果
4.1 ブラ ン ド間の差別化
このシ ミュ レーションの初期のバージョンでは, 3つの ブラン ドは全 く同質的 ・代替的であ った。
この場合, きわめて短期間に3つのブランドのシェ アはな らされて しまい,すべての ブラン ドが一斉 に値動 きす るようになった。 ブラン ド間競争があ る意味で対称均衡 に達 して しまい,小売店同士の ブラン ド内競争, あるいは全 ブラン ド競争 のみが
見 られ るようにな った。つ まり,参入 して くる小 売店が全 ブラ ン ドにWLを設定 してすべての浮 動客 を奪 う, とい う繰 り返 しにな ったのである。
これは,主 に観察 したい状況ではない。 そ こで 価格差への反応係数 を操作 し,既存 ブラン ドであ るブラン ド1とブラン ド2は,価格で同等 または 割高で も消費者が他 のブラン ドへ スイ ッチす る率 が低 くなるよう設定値 を変えた。詳細 については 付録 に示 した通 りである。 この仮定変更 により, 繰 り返 し期間が十分長 い場合で も, ブラン ド3は ブラン ド1,2に数量 シェアが決 して及 ばな いよ うにな った。 また,WLをっける小売店 はどのブ ラン ドで も見 られな くな った。
既存 ブラン ドか ら他 ブラン ドへのスイ ッチが起 こりに くくなると, ブラン ド1と2の販売数量 は 上昇 し, ブラン ド3の販売数量 は低下す る。 とこ ろが,数量 ベースで も頻度 ベースで も,平均価格 への影響 は単調ではない。 また予想 に反 して, ブ ラン ド3の (ふたっのベースの)平均価格 はほと ん ど常 に, ブラン ド1と2のそれを上回 った。か な りの頻度で ブラン ド1と2の小売価格 はPLに 低下 してお り, む しろブラン ド3にはかな りの頻 度でPHがついた。
3ブラン ド合計 の販売数量 もまた,単調 に は変 化 しない。
ブラン ド3の平均価格 は何故高 いのだろうか。
ブラン ド1,2の初期 シェアが高 く, 価格競争 に よってスイ ッチを誘 うことも困難 になると, ブラ ンド3で価格競争す ることのメ リッ トは小 さ くな る。一方, ブラン ド3に高価格 をっ けたとき,す でに獲得 したブラン ド3の消費者か らそれぞれの 小売店が得 られ る利潤 は, スイ ッチの起 こりやす さか らほとん ど影響 を受 けない。 こうした ことか ら,多 くの小売店 はブラン ド3で価格競争 を仕掛 けな くなるもの と思 われ る。
つまり,特定 のブラン ドがすべての小売店で安 売 りされ る状況 はこの シ ミュ レーションで は現れ に くい。 これに対 し, シ ミュ レーション結果を細 か く出力 させて検討 したところでは,すべてのブ
ラン ドを (WLあるいはPLで)安売 りす る小売 店 はよ く見 られ る。 こうした小売店 は,比較的固
定客の少 ない小売店であ り,例えば新規 に参入 し た小売店である。
4.2 浮動客への遷移率
4.1で検討 したように,価格競争 を仕掛 けた と きに新 たに獲得で きる消費者 (需要,売上) の大 きさは,小売店 の価格決定 に大 きく影響す る。で は,浮動客 の比率を大 きくす るようパ ラメータを 変更 した ら, どうい う変化が起 きるだろうか。浮 動客が多 くなれば,低価格 を付 けたときによ り多 くの消費者が小売店 を訪れ るので,価格競争への 誘因が増す はずである。 これを確かめるために, 固定客が浮動客 に変化する比率 (3.1のタイムテー
ブル(3))を変化 させてみた。
この比率が増大す ると, ある程度 までは予想通 りすべてのブラン ドの平均価格が低下 し,すべて のブラン ドの取引数量が増大す る。 そ して,数量 ベースでのブラン ド3の平均価格 は,単調 に差が 開いて行 くわけで はないが,明確 に他 のブラン ド を下回 るよ うになる。 ただ し,頻度 ベースの平均 価格 は相変わ らず ブラン ド3のほうが他のブラン
ドより高 い。 これは, ブラン ド3の多 くがPLの 小売店で (PLのついた ときに)取 り引 きされて いることを示 してお り,予想 と矛盾 していない。
ところが, この比率があまりにも高 くなると, ブラン ド間の平均価格 はほぼ同一 にな り,かつ上 昇 を始 め, それ と同時に取引数量 も減少す る。
シ ミュ レーション結果 を細か く出力 させ ると, この とき,全小売店が全 ブラン ドでPL一全小売 店が全 ブラン ドでPHとい うパ ター ンが繰 り返 さ れていることが判明 した。 これは次のメカニズム による。前期 に多 くの浮動客を得 た小売店 は, そ の多 くを浮動客 として失 って しまう (ことを正 し く予想 している)場合,固定客 の少 ない小売店 と 同様 に振 る舞 う。 いっぽ う浮動客があまりに も多 いため,すべての小売店 に,全 ブラン ドにPLを つ けるイ ンセ ンテ ィブが強 く働 く。 これによって, 全小売店がPLをっけて,かっ小売店 それぞれの 固定客数が ほとん ど同 じであるような状況が生 じ やすい。 いったん この状態 になると,次期 にはす べての小売店 は,前期 と同 じよ うにすべての小売
社会科学論集 第91号 店がPLをっ けると予想 す るので,PLをっ けて
もほとん ど浮動客 を呼べないと判断する。そこで, すべての小売店がすべてのブラン ドにつ いてPH をっ ける。 その次の期 には,今度 はすべての小売 店が,「自分 だけ」 PHをっ けるチ ャ ンスが来 た と判断す る。 こうして,パ ター ンは繰 り返 され る のである。
逆 に,固定客が浮動客 にな る比率を低 くすると, 価格競争が ときお り起 こるパ ター ンが得 られ る。
この とき,時系列的に観察 して行 くと, ブラン ド 3が価格競争 の引 き金 を引 く (一部 の小売店 が ブ ラン ド3のみをPLで販売 して, それ以後 しば ら く,PLをっける小売店がすべての ブ ラ ン ドで増 加す る) ケースが しば しば観察 される。中間のパ ラメータでは, これに対 して, ブラン ド1か2の
PLが価格競争 を引 き起 こすケースが増加 す る。
ブラン ド3の売上数量 シェアは,中間のパ ラメー タの とき最高 になる。
おそ らくこれは,数量割引の存在 によって起 こ る現象である。浮動客の多 いときは期待売上数量 が高 くな り, ブラン ド1や2について数量割引を 受 け られ るチ ャンスが増大す るので, これ らのブ ラン ドで価格競争 を仕掛 ける誘因が増す.逆 に浮 動客が少 ないと, 確実 にWL以下 で仕入 ので き るブラン ド3以外で価格競争 を仕掛 けることは, どの小売店 に取 って も引 き合わな くなるのである。
一方,固定客が浮動客 になる比率が上昇す ると 共 に, (固定客の一部が浮動客 に変 わ る寸前 の) 固定客 と浮動客 の比率 も上昇す る。つ まり,浮動 客の比率 と参入 ブラン ドのシェアは逆方向に変化 す る区間がある。
4.3 小売価格維持 の効果
次 に,全小売店で ブラン ド1, 2の小売価格 を 高価格 に固定 したケ ース と, 固定 しないケース (他のパ ラメータは等 しく, ブ ラ ン ド1と2につ いて数量割引が行われる) を比較す る。 なお表中 の 「平均価格」 は数量 ベース平均価格である. ま たブラン ドをBと略記 している。
Bl〜 B3 の売上数
量 合 計 B3量シェアの 数 B3価 格平均 平均価格B1,B2 価格維持 42.5 62.8% 2.3 3.5 制限無 し 48.7 22.8% 2.5 2.4 価格維持が行われ ると取引数量 は全体 と して減 少す る。 しか し参入 ブランドはむ しろ,これによっ て価格競争 に勝っチ ャンスが増え, シェアを増加 させ る。
既存 ブラン ドは,む しろ価格競争 を行 ったほう が,小売価格 ×売上数量が増大 している。メーカー の限界費用 と固定費用 は2節で0と仮定 したので, この数字 はメーカーと小売店 の結合利潤に等 しい。
そ こで この数字 を,「チ ャネル利潤」 と呼ぶ。
このように,価格維持を行わない方が, チ ャネ ル利潤 は増大す るという結果が出ている。ただ し,
この数字 はメーカーの費用関数 の形状 と標準化の 方法 に依存す るので, デ リケー トな ものと考え ら れ る。
4.4 専売店 と数量割引
次 に,一部の小売店が系列店 または直営店 とし て囲い込 まれ,参入 ブラン ドが これ らの小売店か ら締 め出されているケースと,制限のない (価格 維持 は行わない) ケースを比較の対象 に加え る。
今回 は,50の小売店 スロ ッ トの うち特定の 20は, 常 にブラン ド3をいっさい扱わないものとした。
結果 は次の通 りであった。
Blのチ ャネル利潤 (売上数量一部再掲)Bl〜B3 系列店なし,価格維持 27.7 42.5 系列店なし,制限なし 35.0 48.7 一部系列店,価格維持 33.6 39.7 一部系列店,制限なし 39.2 49.6
数量割引の存在 は, どのような影響 を与えてい るのであろうか。既存 ブラン ドのチ ャネル利潤が
最 も高 い 「一部系列店,制限無 し」 のケースにつ いて,数量割引を廃 し,常 にメーカー出荷価格が PLとなるよう設定 した結果が,次 の表である。
B1ネル利潤のチャ (売上数量一部再掲)B1‑B3 数量割引あり 39.2 49.6
価格維持が行 われている場合 と, ほぼ同 じ結果 とな った。
5. トレー ドオフ :観察結果 よ り
5.1価格低下 と参入 ・退出の トレー ドオフ 4.1節で触れたように,流通業者 の利益性 が低 下 して退 出が頻繁 にな り,固定客 を持たない流通 業者が頻繁 に参入 して くることは,消費者 により 多 く (集客のための)低価格 に接す る機会を与え るので, その限 りで は効率性 を高める。 これはシ ミュレーションのルールに折 り込 まれていたメカ ニズムである。
しか し,今回のモデルには折 り込 まれていない 要素であるが,流通業者 の経営が不安定 になるこ とは,それ自体が社会的な コス トを生 む。事業の 立 ち上 げに掛か るサ ンクコス トが重複投資 となる はか,並河 [1996] のデータが示唆す るように, 開店当初 の設備利用率 は低 くなるようである. トー タルで効率性が上昇す るかどうか,社会全体での コス トとベネフィッ トを比較する研究が望まれる。
5.2参入イ ンセ ンテ ィブの トレー ドオフ 4.3および4.4節の結果 は,次 のよ うにま とめ ることがで きる。
参入 メーカーは,既存 メーカー製品に高値がつ いているほど, よ り多 くの シェアを得 ることが出 来 るので,参入の利益が大 きくなる。 しか し既存 メーカーが価格戦争 を仕掛 けてきた場合のほうが, 消費者 はより多 くの消費者余剰を得 ることが出来
る。言 い換えれば,参入 メーカーが結果的に報 わ れる市場 は,既存 メーカーが参入者 に対 して激 し い競争を挑 まない市場であ り,消費者 に取 っては
望 ま しくない市場成果 を生ず る。
5.3数量割引の トレー ドオフ
(ブラ ン ド闘競争 とブラン ド内競争) 4.4節後半 の結果か ら,次の ことが言える。
数量割引 は, ス トア‑ロイヤ リテ ィを消費者が 持 っている場合 には,小売店 の持っパ イを食 うこ
とで ブラン ド間競争 に勝つ有力 な手段である。 し か しその反面,競争がそれほど激 しくない場合で
も, ブラン ド内競争を誘発 して しまう。
小売店 に取 って,価格競争 の主 な利潤 は,浮動 客 あるいは他店 の固定客 を奪 うことか ら生 じると 考え られ る。 こうした消費者 の移動 を もた らす力 は,すでにブラン ドロイヤ リテ ィの確立 した既存 ブラン ドのほうが,単 に出荷価格の低 い新規 ブラ
ン ドよ り優れている面がある。
数量割引 はブラン ド内競争を誘発 して消費者 に 特定 のブラン ド品を安 く届 けるという点で効率性 を高めるが,参入者に対する (既存メーカーにとっ てだけ有効 な)武器 となる点で競争促進的でない。
6. 結 論
1980年代以降のゲ ーム理論 の広範 な適用 の結 果,経済学 の多 くの分野 において,一般的な理論 モデルに予測力を求 めることは困難 にな った。極 言すれば,理論 モデルは多様性を記述す る言語 に 過 ぎな くな って きたように思え る。
しか し,少数 の要素 を使 った (たとえ限 られた ものであって も)一貫 した説明は,常 に求 め られ ている。 この論文 は, シ ミュレーションプログラ ムに複数 のシナ リオを語 らせ,部分的な トレー ド オフを浮 き彫 りにさせ ることを目指 した。
残念 なが ら,完成 したモデルは,当初 目指 して いた分か りやす さか らはほど遠 いものとな った。
経過 ・結果の視覚化, ウイ ン ドウシステムか らの 操作 といった,広義 のユーザイ ンタフェースの改 良 に取 り組 む ことが, このアプローチの趣 旨か ら 最 も適切 な発展方向だ と考えている。
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