This paper focuses on Sentential Subject Construction in English. The first half of this paper clarifies peculiar properties of sentential subjects in comparison with nominal subjects and topicalized elements. It is demonstrated that sentential subjects have not only subject properties but also topic properties. The second half of this paper points out problems of previous studies. It is argued that previous studies fail to provide convincing accounts for why sentential subjects are required to undergo topic movement. Finally, implications are given for how sentential subjects should be treated within the latest framework of generative syntax.
1.はじめに
(1a, b) に例示する英語の文主語構文は、古くは、
Rosenbaum (1967) やRoss (1967) から議論されている 構文である。
(1) a. That John won the first prize is true.
b. For John to win the first prize is impossible.
この構文に古くから焦点が当てられてきた理由の一つ は、この構文の多くが、(2a, b) に示すように、虚辞 it を用いた it 外置構文と交替可能であるためだと考えら れる。(2a, b) は、(1a, b) が it 外置構文に交替したも のである。
(2) a. It is true that John won the first prize.
b. It is impossible for John to win the first prize.
文主語構文に焦点が当てられる理由としては、上記の交 替以外にもう一つ理由があると思われる。それは、文主 語の統語特性が、名詞句主語のそれと比べて、特異であ るという点である。文主語構文は、その名が指し示す通 り、that 節や to 不定詞節等の節・文が主語として機能 するような構文で、実際のところ、文主語は、名詞句主 語と同様の主語特性を持つ。ただし、文主語には、主語 特性だけでなく、名詞句主語には見られない特異な統語
特性もある。本稿は、文主語が持つ主語性と特異性の両 方について整理した上で、それらを生成統語論の観点か ら分析してきた先行研究の問題点について指摘し、その 捉え直しを模索することで、今後の研究に向けた足がか りを作ることを目的とする。
本稿の構成は、以下の通りである。まず、2節では、
文主語構文の統語特性を示す。名詞句主語構文や話題化 構文との比較を行いながら、文主語には、主語として の特性と話題としてのA’ 特性の両方があることを示す。
次に、3節では、2節で示した議論を踏まえた上で、文 主語構文に対する代表的な先行研究としてCP基底生成 分析とCP移動分析の2つを概説する。そして、この2 つの分析の問題点を理論と事実の両側面から指摘する。
最後に、4節では、3節までのまとめを行った上で、
Chomsky (2013, 2014) の枠組みに言及しながら、CP移 動分析に沿った今後の研究の方向性について示す。
2.文主語構文の特性
2節では、文主語構文の統語特性を示す。2.1節では、
名詞句主語との比較を行いながら、文主語の主語として の特性を示す。2.2節では、名詞句主語と話題要素との 比較を行いながら、文主語の話題としての特性を示す。
2.1. 主語特性
1節で述べたように、文主語構文の多くが、虚辞 itを 用いた it 外置構文と交替可能である。ここで関連する 例文を再掲しておくと、it 外置構文 (3a) と文主語構文
(3b) は、交替関係にある。
(3) a. It is true that John won the first prize.
b. That John won the first prize is true.
it 外置構文では、(4a) に示すように、名詞句である虚 辞 it が主語位置とみなされるT指定部を占めていると 考えられており、この点については、異論の余地はない と言える。
(4) a. [TP it is [vP true that-clause ]]
b. [TP that-clause is [vP true ]]
英語の文主語構文:文主語の特異性と先行研究の問題点
谷 川 晋 一
it 外置構文の虚辞 it がT指定部を占めているとした場 合、文主語も、(4b) に示すように、虚辞と同様にT指 定部を占めていると考えるのは、線形順序の観点から見 ても、全くもって不自然ではない。2.1節では、名詞句 主語との比較を行いながら、線形順序以外の観点から、
文主語の主語特性を示す。
2.1節では、まず、繰り上げに関する事実を示すこと で、名詞句主語と同様に、文主語にも主語位置とみなさ れるT指定部への移動が関与することを示す。名詞句主 語は、動詞 seem が用いられる繰り上げ構文において、
(5b) に示すような過程で、主節のT指定部に繰り上げ 移動すると考えられている。
(5) a. The rumor seems to be true.
b. [TP the rumor [vP seem [TP t to [vP t be true ]]]]
動詞句 vP 内に基底生成された名詞句主語が、一旦、埋 め込み節のT指定部に移動し、そこから主節のT指定部 に移動することで、結果的に、繰り上げ構文 (5a) が得 られる。これを踏まえた上で、文主語構文を見ると、(6a)
に示すように、文主語も繰り上げ構文と整合可能であ る。この場合、文主語にも、名詞句主語と同様に、(6b)
に示すような繰り上げ移動が適用されていると考えられ る。
(6) a. That John won the first prize seems to be true.
b. [TP that-clause [vP seem [TP t to [vP t be true ]]]]
文主語もvP 内に基底生成されると仮定すると、文主語 も埋め込み節のT指定部を経由して主節のT指定部に移 動すると考えられる。文主語が繰り上げ構文と整合可能 である事実は、文主語にT指定部への移動が関与するこ とを示唆する。
次に、動詞との一致において、文主語が名詞句主語と 平行的な特性を持つことを示す。2つの名詞句主語が等 位接続される場合、動詞が複数形の一致になるのは、(7a, b) の対比にも示されるように、明らかである。
(7) a. Rain and snow are equally likely at this point.
b. * Rain and snow is equally likely at this point.
名詞句主語と同様に、文主語が等位接続される場合にも、
動詞は、複数形の一致を受けることができる。(8a, b)
は適格な文であるが、(8a) では、be 動詞として are が 用いられ、(8b) では、助動詞 have の形式が have であ
ることに注意されたい。
(8) a. That the president will be elected and that he will be preached are equally likely at this point.
(McCloskey (1991:564))
b. That the march should go ahead and that it should be canceled have been argued by the same people at different times.
(McCloskey (1991:564))
McCloskey (1991) は、(8) のように、2つの文主語が 別個の出来事を表す場合には、動詞が複数の一致になる 一方で、(9) のように、単一の出来事を表す場合には、
単数の一致になると指摘している。McCloskey (1991)
によれば、(9a, b) では、be 動詞として are を用いるよ りも is を用いる方が高い容認度になる。
(9) a. That UNO will be elected and that sanctions will be lifted is now likely.
(McCloskey (1991:565))
b. ?? That UNO will be elected and that sanctions will be lifted are now likely.
(McCloskey (1991:565))
出来事が別個か単一かという状況によって、動詞の一致 が異なる事実を統語的にどのように扱うかは、非常に難 解な問題である。しかし、等位接続された文主語におい て、動詞が複数形の一致を許すという事実は、理論的に 捉えると、名詞句と同様に、文主語にも一致に関わる素 性が存在することを示唆する。生成文法理論では、一致 に関わる素性として、人称、数、性に関わるφ素性が仮 定されている。Chomsky (1995) の枠組みから現行の枠 組みに至るまで、名詞句主語構文の場合には、名詞句主 語が解釈可能な φ 素性 [φ] を持ち、機能主要部Tが解 釈不可能な φ 素性 [uφ] を持つと仮定されてきた。素性 照合の結果、Tの [uφ] は、名詞句主語の [φ] から人称、
数、性に関わる値を譲り受け、英語の場合には、人称と 数に関わる値が動詞の一致に影響を与えると考えられ る。文主語における動詞の複数一致に関する事実は、文 主語にも解釈可能な φ 素性 [φ] が存在し、Tの [uφ] と の一致がなされることを示唆していると言える。
以上、2.1節では、繰り上げと動詞の一致の観点から、
文主語の主語特性を示した。理論的観点からここでの 主語特性を捉えると、文主語は、解釈可能な φ 素性 [φ]
を持ち、主語位置とみなされるT指定部に移動すること が示唆される。
2.2. 文主語の特異性: 話題としてのA’ 特性
1 節 で 述 べ た よ う に、 文 主 語 構 文 は、 古 く は、
Rosenbaum (1967) やRoss (1967) から議論されてお り、この構文に焦点が当てられる理由の一つは、その特 異な統語特性にあると言える。2.2節では、文主語が名 詞句主語では見られない特異な統語特性を持つことを示 す。具体的には、Emonds (1970) やKuno (1973) をは じめ、古くから提示されている事実を中心に考察しなが ら、話題化構文において文頭にA’ 移動している話題要 素等と同等の話題としてのA’ 特性を持つことを示す。
文主語構文は、(10) に示すように、疑問文と整合不 可能である。(10a, b) は、主語・助動詞倒置を適用し、
文主語構文を Yes/No 疑問文化したものであり、(10c)
は、それに加えて、疑問詞を付けて、Wh 疑問文化した ものであるが、いずれも不適格な文である。
(10) a. * Is that the earth is round obvious to you?
(Kuno (1973 : 363))
b. * Did that John showed up please you?
(Kuno (1973 : 363))
c. * How likely is that John will win the election?
(Iwakura (1976 : 646))
また、文主語構文は、多くの埋め込み節内に生起する ことができない。(11a) は、関係節、(11b) は、文主語 that 節、(11c) は、ECM 構文の例であり、それらの埋 め込み節内に文主語構文が生起した場合には、いずれも 不適格な文となる。
(11) a. * I went out with a girl who that John showed up pleased. (Kuno (1973 : 363))
b. * That that John showed up pleased her was obvious. (Kuno (1973 : 363))
c. * I believe that the earth is round to be obvious to everyone. (Kuno (1973 : 370))
(10) と (11) の文主語の例は、すべて that 節を用いた ものであるが、to 不定詞節を用いたものでも、(12) と
(13) のように、同様の事実が観察される。
(12) a. * Is for Mary to do it important?
(Kuno (1973:374))
b. * How easy is to please your boss?
(Iwakura (1976:646))
(13) a. * That for Bill to smoke bothers the teacher is quiet possible. (Emonds (1970:105))
b. * I believe for Mary to do it to be important.
(Kuno (1973:374))
ここで上記の環境に名詞句主語構文が生起可能かを見 ていく。1節と2.1節でも述べたように、文主語構文の
多くは、名詞句である虚辞 it が主語位置を占める it 外 置構文と交替可能である。上の (10) と (11) に挙げた 文主語構文は、すべて it 外置構文と交替可能なもので あるが、それらが交替した it 外置構文は、(14) に示す ように、疑問文とも整合可能であるし、(15) に示すよ うに、当該の埋め込み節内にも生起可能である。
(14) a. Is it obvious to you that the earth is round?
(Kuno (1973 : 363))
b. Did it please you that John showed up?
(Kuno (1973 : 363))
c. How likely is it that John will win the election? (Iwakura (1976 : 646))
(15) a. I went out with a girl who it pleased that John showed up. (Kuno (1973 : 363))
b. That it pleased her that John showed up was obvious. (Kuno (1973 : 363))
c. I believe it to be obvious to everyone that the earth is round.
文主語構文が通常の名詞句主語構文と完全に同じ派生を 持つ構文であるとすると、この相違点は、説明するのが 非常に困難である。
(10) と (11) に挙げるような文主語構文の特異な統 語特性は、多くの先行研究において、文主語が持つ A’ 特性に起因すると考えられている。例えば、Emonds
(1970) は、文主語構文に見られる統語特性が根変形
(Root Transformation) と呼ばれる操作を受ける構文の 特性と同一であると指摘している。根変形とは、現在で 言うところのA’ 移動と同等で、ある要素を主語位置よ りも上位にある機能範疇 CP の領域に移動させる操作で ある。(16a) は、根変形の典型例とされる話題化構文で あるが、この例では、もともと目的語であった名詞句が 話題要素となり文頭の C 指定部へA’ 移動している。
(16) a. That picture, John gave to Mary.
b. [CP that picture C [TP John gave t to Mary ]]
Emonds (1970) の議論を現在の理論的枠組みから捉え 直すと、文主語は、話題要素等と同様にA’ 特性を持つ ことになるが、実際に、(10) と (11) で見た文主語構文 が生起できない環境には、(17) と (18) に示すように、
話題化構文も生起できない。
(17) a. * The picture, is John giving to Mary?
b. * The picture, did John give to Mary?
c. * The picture, to whom did John give?
(18) a. * This is the picture which to Mary, John gave.
1 (17) に挙げるような例文を適格な文として提示するDelahunty (1983) 等の先行研究もある。しかしながら、筆者がインフォーマント調 査を行った限りにおいて、これらの例文は、非常に逸脱性が高い。これらの例文の容認性に関する詳細な議論については、Haegeman (2000)
やTanigawa (2009, 2011) を参照されたい。
2 Hooper and Thompson (1973:476) によれば、it 外置構文は、文主語構文と異なる特性を持つ。it 外置構文では、文末に生起する that 節 や to 不定詞節を、新情報を担う要素として、断定的に用いることができる。
b. * That the picture, John gave to Mary is obvious.
c. * I believe the picture, John to give to Mary.
(17) のように、話題化構文が疑問文と整合不可能であ るのは、文頭の CP 領域を既に疑問詞や助動詞が占めて いるため、話題要素がその位置に移動できない、もしく は、移動できたとしても疑問に関わる C 及びその素性と は整合できないことに起因すると言える。1また、話題 化構文が (18) のような埋め込み節に生起することがで きないのは、これらの埋め込み節には、CP が欠如して おり、話題要素が移動する位置が存在しないことに起因 すると言える。この筋での説明を鑑みると、文主語構文 と話題化構文に統語的共通性があるという事実は、(19)
に示すように、文主語も CP 領域を占めること、すなわ ち、A’ 特性を持つことを示唆していると言える。
(19) a. That John won the first prize is true.
b. [CP that-clause C [TP is true ]]
文主語にA’ 特性があることを示すもう一つの根拠とし て、(20b) が挙げられる。(20b) は、文主語構文 (20a)
の埋め込み節内にある目的語 fish が主節文頭に話題化 移動した文であるが、不適格な文である。
(20) a. That Sam eats raw fish implies that he likes fish.
b. * Fish, that Sam eats raw fish implies that he likes. (Iwakura (1976 : 648, fn.3))
(20b) の非文法性は、CP 領域を既に文主語が占めてい るために、話題要素が移動できる位置がないと考えれば、
すんなりと説明がつく。
以上、ここまでは、文主語に話題要素と同様のA’ 特 性があることを見た。このA’ 特性であるが、情報構造 の観点から見ると、実際のところ、もう少し踏み込ん で、話題要素としてのA’ 特性として捉えてよいものだ と考えられる。Hooper and Thompson (1973 : 475–476)
では、文主語は、前提的 (presupposed) 要素であって、
断定的 (assertive) に用いることができないと述べられ ている。これを情報構造の観点から捉え直すと、文主語 は、旧情報を担う要素であって、新情報を表すことが できないということになる。2 この情報構造上の特性は、
話題化構文の特性と共通していることに気付かれたい。
話題化構文では、文頭に移動する話題要素が常に旧情報
を担う要素であるため、文主語と話題要素は、前提的で、
旧情報を担う要素である点で共通している。また、この 前提的で、旧情報を担うという点にも関連しているが、
文主語と話題要素は、日本語で解釈する場合にも、共通 性が見られる。例えば、英語の話題化構文 (16a) を日 本語で解釈すると、「その写真は、John が Mary にあげ たよ」のようになる。この解釈からも明らかなように、
話題要素は、旧情報として話題を表す助詞「は」で標示 される。これと同様に、英語の文主語構文 (19a) を日 本語で解釈すると、「John が優勝したのは、事実だ」の ように、文主語も話題を表す助詞「は」で標示するのが 典型的である。このように、情報構造の観点から見るこ とによって、文主語には、話題としてのA’ 特性がある と言うことができよう。
情報構造と統語論の関連性については、Rizzi (1997)
をはじめとするカートグラフィー研究において盛んに議 論がなされている。Rizzi (1997) の枠組みでは、CP 領 域が ForceP, TopP, FocP, FinPといった複数の範疇に細 分化されるが、話題要素は、その中の話題位置 TopP を 占めていると考えられている。上で示した文主語の話題 としてのA’ 特性を考慮に入れると、文主語もTopP のよ うに話題位置として定義される CP 領域内の機能範疇を 占めると考えられる。また、話題としての特性を統語的 な素性という形で具現化するならば、文主語は、話題要 素と同様に、話題素性を持ち、その照合に伴って、CP 領域に移動すると考えることもできる。
以上、2.2節では、名詞句主語や話題要素との比較を 行うことで、文主語に話題としてのA’ 特性があること を示した。理論的観点から話題としてのA’ 特性を捉え ると、文主語は、話題素性を持ち、話題位置とみなされ る CP 領域を占めることが示唆される。
3.文主語構文の先行研究の概説と問題点 2節で示したように、文主語は、主語特性と話題特性 の両方を持つ。3節では、これらの特性を踏まえた上で、
文主語構文を分析している先行研究を概説した上で、そ の問題点を指摘する。文主語構文の先行研究では、大き く分けて、CP 基底生成分析とCP 移動分析の2つが提案 されている。3.1節では、CP 基底生成分析を、3.2節では、
CP 移動分析を概説し、その問題点を指摘する。
3.1. CP基底生成分析の概説と問題点
3.1節では、文主語が C 指定部に基底生成し、それに
3 文主語と空要素が対応関係を持つことは、(21b) に示すように、便宜上、インデックス i の付与によって表される。また、空演算子のよ うな要素が最終的にCP領域に移動するという仮定は、Chomsky (1977) の話題化構文の分析に基づくものである
対応する非可視的な要素がT指定部を占めるというCP 基底生成分析を概説した上で、その問題点を理論面と事 実面の両面から指摘する。
文主語構文に CP 基底生成分析を提案した代表的な先 行研究は、Koster (1978) である。Koster (1978) のCP 基底生成分析は、近年、Alrenga (2005) によって精緻 化されており、その分析に従うと、文主語構文 (21a)
は (21b) に示す派生を持つ。
(21) a. That John won the first prize is true.
b. [CP that-clause OP C [TP t T [vP t is true ]]]
この分析では、(21b) に示すように、文主語が話題要素 としてC指定部に基底生成され、文主語自体には、移動 が関与しない。移動するのは、文主語に対応している非 可視的な要素である。Koster (1978) は、この要素を音 韻的に空の名詞句 (phonologically zero NP) と仮定し ているが、Alrenga (2005) は、この要素を空演算子 (null operator: OP) と捉え直している。Alrenga (2005) の分 析では、この空演算子がT指定部に移動し、最終的には、
CP領域に移動することになる。3
2.1節では、文主語にT指定部への移動が関与してい る根拠として、(22a) に再掲する繰り上げに関する事実 を示した。
(22) a. That John won the first prize seems to be true.
b. [CP that-clause [TP OP seem [TP t to [vP t be true ]]]]
CP 基底生成分析にとって、この事実は、反例とはなら ない。CP 基底生成分析の場合には、(22b) に示すよう に、文主語自体ではなく、対応関係を持つ空演算子が埋 め込み節のT指定部を経由して、主節のT指定部へ移動 することになる。
繰り上げに関する事実は、問題にならないものの、
CP 基底生成分析には、理論面と事実面の両面において、
2つの問題点がある。理論面に関する問題点は、英語に おいて、空演算子のような空要素が主語位置であるT指 定部を時制節において占めることができるかという点で ある。よく知られているように、言語の中には、イタリ ア語のように、時制節においても主語の省略を許す pro 脱落言語と呼ばれるものがある。pro 脱落言語では、主 語が省略されるような場合に、主語位置であるT指定部
i i
i i
を pro のような音韻的に空の代名詞が占めるという分析 がなされる。その一方で、時制節において主語の省略を 許さない英語は、pro 脱落言語ではないため、基本的に、
T指定部では pro のような空要素が認可されない言語と みなされている。したがって、文主語構文の CP 基底生 成分析は、英語の主語に関する一般化及び pro 脱落に関 する分析と矛盾することになる。CP 基底生成分析を妥 当化するには、なぜ文主語構文においてのみ例外的に主 語位置への空演算子の移動が許されるかについて、pro 脱落の観点から説得力のある根拠や理由を提示する必要 がある。しかしながら、これまでのところ、そのような 根拠や理由は、提示されていない。
事実面に関する問題点は、CP 基底生成分析では、文 主語自体に移動が関わっているという事実を説明できな い点である。文主語に移動が関与している事実として、
Takahashi (2010) で用いられている束縛代名詞に関す る事実を挙げることができる。束縛代名詞とは、(23)
に示すように、数量詞を含む先行詞によって束縛される ような代名詞である。
(23) Every professori praised his i students.
例えば、(23) において、5人の教授を前提としている 場合には、その5人の教授それぞれが、自分の学生を褒 めたという解釈になる。束縛代名詞がこのような解釈を 受けるには、少なくとも派生のいずれかの時点において、
束縛代名詞が先行詞によって c 統御される必要がある。
(23) では、目的語に含まれる束縛代名詞が先行詞であ る主語によって c 統御されるため、束縛代名詞の解釈が 得られる。他方、(24) のように、束縛代名詞が主語に 含まれ、先行詞が目的語である場合には、派生のどの時 点においても、束縛代名詞が先行詞に c 統御されないた め、束縛代名詞の解釈が得られない。
(24)* Hisi professor praised every studenti.
この束縛代名詞に関する事実を踏まえた上で、文主語 構文で束縛代名詞が容認されるかについて見てみよう。
(25) は、文主語の中に束縛代名詞が含まれ、主節の動 詞句内に先行詞を含む付加詞がある例文であるが、束縛 代名詞の解釈が容認される。
(25) That a student in hisi class won the scholarship seems to every professori to be natural.
CP 基底生成分析に従って、(25) の構造を示したものが
(26) である。
(26) [CP that-clause OP [TP tOP [vP seem to every professor to be tOP … ]]]
(26) では、束縛代名詞を含む文主語が主節の C 指定部 に基底生成されている一方で、先行詞を含む付加詞は、
主節の vP 内に位置している。この構造において、文主 語及びそれが含む束縛代名詞は、派生のどの時点におい ても、先行詞によって c 統御されない。よって、CP 基 底生成分析は、事実に反して、束縛代名詞の解釈が容認 されないと予測されてしまう。
以上、3.1節では、文主語が C 指定部に基底生成し、
それに対応する非可視的な要素がT指定部を占めるとい うCP 基底生成分析を概説した上で、その問題点を非可 視的要素の認可に関する理論的な側面と束縛代名詞に関 する事実の側面から指摘した。
3.2. CP移動分析の概説と問題点
3.2節では、文主語が動詞句内に基底生成し、T指定 部を経由して C 指定部に移動するというCP 移動分析を 概説した上で、その問題点を理論的な側面から指摘する。
文主語に CP 移動が適用されることを示唆している最初 の先行研究は、上述の Emonds (1970) である。ただし、
Emonds (1970) の分析は、現行の理論的枠組みとは大 きく異なる枠組みに基づいているため、厳密な意味で の CP 移動分析とは言い難い。この点を鑑みると、文主 語構文に明確な形で CP 移動分析を提案している最初の 先行研究は、Stowell (1981) であると言える。Stowell
(1981) は、Emonds (1970) の分析や2.2節で示した文主 語の話題特性を踏まえた上で、(27a) に (27b) のよう な分析を提案している。
(27) a. That John won the first prize is true.
b. [CP that-clause C [TP t T [vP t is true ]]]
Stowell (1981) のCP移動分析では、動詞句内に基底生 成される文主語がT指定部に移動する。そして、さらに、
文主語は、T指定部から C 指定部に移動する。Stowell
(1981:146) は、(28) に 示 す Case Resistance Principle
(格抵抗原理) を提案した上で、文主語がT指定部から C 指定部に移動しなければならない理由を格付与に関連 付けて論じている。
(28) Case may not be assigned to a category bearing a Case-assigning feature.
英語の that 節や to 不定詞節は、格を付与する能力を持
つ要素であるために、(28) の原理に従うと、格を付与 されない要素になる。格を付与されない要素がT指定部 のような格を付与される位置に残留すると、(28) の原 理への違反が生じる。(27b) に示すように、文主語がT 指定部から C 指定部に移動するのは、この移動によっ て、(28) の原理の違反を回避するためである。
また、Takahashi (2010) も、Stowell (1981) の分析 には言及していないものの、動詞句内に基底生成される 文主語がT指定部を経由して C 指定部に移動するという 点で (27b) と同等の CP 移動分析を提案している。(29a)
の派生として、(29b) を参照されたい。
(29) a. That John won the first prize is true.
b. [TopP that-clause[φ][uF] Top [TP t T [vP t is true ]]]
Takahashi (2010) は、文主語をDPと仮定しているため、
文主語は、A移動に関わる φ 素性を持つと考えられる。
この仮定によって、文主語は、一般的な名詞句主語と同 様に、T指定部に移動する。この分析において、最も重 要な点は、文主語が解釈不可能なF素性 [uF] を持つ点 である。この [uF] は CP 領域にある話題位置 TopP に 移動しなければ削除されない素性と仮定されている。換 言すれば、この F 素性は、話題素性と同等の素性であり、
Takahashi (2010) は、文主語がT指定部から CP 領域に 移動しなければならないA’ 移動の義務性をこの話題素 性の存在に還元している。
この CP 移動分析は、(30) として再掲する束縛代名詞 の事実を適切に説明できる。
(30) That a student in hisi class won the scholarship seems to every professori to be natural.
CP 移動分析に従って、(30) の構造を示したものが (31)
である。
(31) [vP seem to every professor [TP that-clause to be [vP t natural ]]]
(31) では、束縛代名詞を含む文主語が埋め込み節の vP 内に基底生成されており、ここから埋め込み節のT指定 部を経由して、循環的に主節へと移動していく。この構 造で重要なのは、埋め込み節内にある文主語が主節の vP 内に位置している先行詞によって c 統御される点で ある。束縛代名詞の解釈が、派生のいずれかの時点にお いて、束縛代名詞が先行詞によって c 統御される場合に 得られると仮定すると、CP 移動分析は、束縛代名詞に 関する事実に適切な説明を与えることができる。
上記のように、CP 移動分析には、束縛代名詞の事実 を適切に説明できるという点において利点があるが、理 論面において問題点がある。まず、Stowell (1981) の分 析であるが、格を付与されない要素である文主語は、T 指定部のような格付与が行われるような位置に残留する ことができないと仮定している。この仮定によって、文 主語がT指定部から C 指定部に移動することになる。こ こで問題になるのは、格を付与されない要素が格を付与 される位置にあってはならないという制約をいかにして 現行の理論的枠組みで捉え直すことができるかという点 である。現行の理論的枠組みにおいて、格素性を持つの はT指定部に移動する主語要素であって、機能主要部T は、格素性を持たないとするのが一般的である。仮に文 主語のように格素性を持たないと仮定される要素がT指 定部に残留したとしても、必ずしもそれで何かしらの問 題が生じ、派生が破綻するわけではない。Stowell (1981)
の分析を妥当化する上では、上記の制約を現行の理論的 枠組みにおいて最定式化する必要性がある。
次に、Takahashi (2010) の分析であるが、話題とし ての特性を踏まえ、文主語に話題素性と同等の [uF] を 仮定し、この素性が文主語の CP 領域への移動を誘発す ると主張している。ここで問題になるのは、なぜ文主語 が義務的に話題素性を持たなければならないのかという 点である。2.2節で示したように、文主語に話題として の特性があることは明らかな事実であるが、純粋に理論 面的側面のみから CP 移動分析を見た場合、文主語は、
T指定部に移動した後に、そのままその位置に残留して も問題はないはずである。特に、Takahashi (2010) は、
文主語をDPと仮定しているため、文主語には φ 素性が あり、この点において、文主語は、一般的な名詞句主語 と同等のはずである。文主語が義務的に話題素性を持た なければならないというのは、あくまでも、理論上の想 定に過ぎない。文主語に話題素性を付与しなければこの 構文の派生が収束しないというような必然性がない限り において、この想定は、妥当性に欠けることになる。
以上、3.2節では、文主語が動詞句内に基底生成し、
T指定部を経由して C 指定部に移動するという CP 移動 分析を概説した上で、その問題点を理論的な側面から指 摘した。
4.まとめと今後の研究の方向性
以上、本稿では、2節において、名詞句主語構文や話 題化構文との比較を行いながら、文主語には、主語特性 と話題としてのA’ 特性の両方の特性があることを示し た。3節では、2節での議論を踏まえた上で、文主語構 文の代表的先行研究である CP 基底生成分析と CP 移動 分析の2つを取り上げ、その問題点を理論と事実の両側 面から指摘した。
本稿では、最後に、今後の研究の方向性を示すことに する。3節で論じたように、文主語構文には、CP 基底 生成分析とCP移動分析という2つの分析が提案されて きたが、その両方に問題点がある。筆者としては、この 2つの分析のうち、理論的な側面から妥当な捉え直しが できるのは、後者の CP 移動分析であると考えている。3.2 節で論じたように、Stowell (1981) は、文主語を格付与 されない要素と仮定している。この仮定を現行の理論的 枠組みに当てはめると、文主語は、主語名詞句と異なり、
解釈不可能素性と位置付けられている格素性 [uCase]
を持たないと換言することができる。Chomsky (2000, 2001) の枠組みから現行の枠組みに至るまで、A移動に おける素性照合に関与する素性として、主語名詞句と機 能主要部Tの両方に φ 素性が仮定されてきた。この2つ
の φ 素性は、解釈可能性が異なり、主語名詞句が持つ φ
素性は、解釈可能素性 [φ] である一方で、機能主要部T
が持つ φ 素性は、解釈不可能素性 [uφ] であると仮定さ
れている。主語名詞句は、[φ] と [uCase] の2つを持 つと仮定されているが、Stowell (1981) の議論に従うと、
文主語は、[φ] のみを持ち、[uCase]を欠くことが示 唆される。
筆者は、[uCase] が欠如している文主語がT指定部 に残留すると、素性照合の面において問題が生じるの ではないかという見解を持っている。そして、この素性 照合の問題を検討する上では、Chomsky (2013, 2014)
で提唱されているラベル付けアルゴリズム (Labeling Algorithm) という新しい理論上の操作が有用だと考え ている。ラベル付けアルゴリズムでは、 2 つの要素が併 合し、適切な素性照合が行われた場合にのみ、適切なラ ベル付けが行われる。例えば、名詞句主語構文では動詞 句 v*P 内から DP がT指定部に移動するが、その場合に は、(32) に示すような素性照合とラベル付けが行われる。
(32) α = < φ , φ >
DP[φ] TP[φ] DP = higher copy
T v*P
DP = lower copy
主語となる名詞句 DP が v*P 内から移動して、TPと併合 すると、便宜的に、{α DP, TP} と表記するDP-TP 構造が 得られる。DPとTP は、φ 素性を共通して持つため、こ の素性照合により、{α DP, TP} に < φ , φ > のラベルが付 与される。適切な素性照合の結果、ラベル付けが行われ た場合には、その文の派生は、収束するが、逆に、適切 な素性照合が行われずに、ラベル付けが行われなかった 場合には、その文の派生に破綻が生じることになる。
DP
Chomsky (2013, 2014) は、ラベル付けに必要な素性 照合を素性の agreement と呼び、素性の matching とは 区別されなければならないと述べているものの、素性の agreement や matching に関する仕組みを詳細に議論し ていないのが残念なところである。ただし、裏を返せば、
素 性 の agreement や matching の 観 点 か ら、Chomsky
(2013, 2014) のラベル付けアルゴリズムを精緻化するこ とによって、文主語がT指定部に残留すると、適切な ラベル付けが行われないという形での議論ができる可 能性がある。実際、筆者は、この筋での議論を考えて おり、適切なラベル付けを行うための最終手段として、
Takahashi (2010) が仮定する話題素性が必要になって くるのではないかという見解を持っている。Chomsky
(2013, 2014) では、Chomsky (2008) で打ち出した素性 継承 (feature-inheritance) という操作を引き続き仮定 している。(33) を参照されたい。
(33) a. John read a book.
b. [CP C[uφ] [TP T[uφ] [vP John[φ] read a book ]]]
素性継承は、もともと、機能主要部が持つ [uφ] に仮 定されてきたものである。旧来の枠組みでは、[uφ]
は、本質的に機能主要部Tにあると仮定されてきたが、
Chomsky (2008, 2013, 2014) の素性継承に従うと、[uφ]
は、本質的に、機能主要部Cにあり、それがTへと継承 されることになる。また、Chomsky (2008, 2013, 2014)
では、この [uφ] の継承に付随して、他の素性の継承が 生じる可能性があることも示唆されている。この示唆に 従うと、機能主要部Cにある疑問や話題、焦点に関わる 素性がTに継承される可能性も十分にある。もし文主語 構文 (34a) で、解釈不可能な話題素性 [uTop] が、[uφ]
に付随して、 C からTに継承された場合には、(34b) の ような派生になるはずである。
(34) a. That John won the first prize is true.
b. [CP C[uφ][uTop] [TP T[uφ][uTop] [vP that-clause[φ][Top]
is true ]]]
筆者は、[uCase] の欠如により、文主語が TP に併合す ると、φ 素性によるラベル付けができないが、もう一つ の話題素性によるラベル付けができるのではないかとい う見解を持っている。この見解に従うと、話題素性によ るラベル付けを行うためには、機能主要部Tが継承され た話題素性 [uTop] を持つだけでなく、文主語も対応 する話題素性 [Top] を持つ必要性が出てくることにな る。また、文主語は、CP 領域に移動しないことになる が、文主語が [Top] を持ち、本質的に [uTop] を持つ
C の併合が義務的であることによって、文主語のA’ 特 性が保障されることになる。
筆者は、以上のような方向性で今後の研究を進めよう と考えている。ここで示した見解を具体的に議論化する 上では、Chomsky (2013, 2014) を中心とした理論的枠 組みを精緻化する必要がある。今後は、本稿での議論を 足がかりにして、生成文法理論の進展に寄与しつつ、文 主語に関わる事実を適切に説明できるような分析を提示 したい。
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