算数・数学教育における問題解決学習の研究(5)
−コンピュータ活用による数学学習における「探 究活動」について−
著者 重松 敬一, 岩田 晴行
雑誌名 教育実践研究指導センター研究紀要
巻 8
ページ 89‑99
発行年 1999‑03‑31
その他のタイトル Research on Problem‑Solving in Mathematics Education(5) −Exploring Activities in Problem‑Solving Using Computer−
URL http://hdl.handle.net/10105/4238
−コンピュータ活用による数学学習における「探究活動」について−
重 松 敬 一
(数学教育学教室)
岩 田 時 行
(大学院数学教育専攻)
Researchon Problem−SoIvinginMathematicsEducation(5)
−ExplorlngActivitiesinProblemLSoIvingUsingComputer−
KeiichiSHIGEMATSU
(DepartmentofMathematicsEducation)
HaruyukiIWATA
(GraduateStudentofMathematicsEducation)
要旨:平成10年末、新学習指導要領が告示された。この教育課程では、特に「創造性の基礎を培 う」ことを謳っている。それだけに算数・数学の実践においては、今後一層問題解決が志向され、
その過程において、子どもが主体的に、創意工夫しながら自らの課題に取り組んでいくことが重 視されよう。そして、その創造性の基礎の育成の1つとして、子どもによる探究活動が大切とな
る。
本稿は、中学校数学におけるコンピュータを活用した実践に注目し、生徒の「探究活動」に対 する意識をアンケートを用いて調査するとともに、授業観察、及びビデオによる授業記録も行っ た。結果として、生徒はどのような単元で探究活動をしたと自覚しているのか、そして、その理 由、また、どのような事がきっかけとなって探究活動が進むのかを明らかにした。その中で、教 師の支援(発言・発間)が、生徒の探究活動を大きく誘発することが確認された。
キーワード:問題解決、探究活動
1.はじめに
平成10年12月14日、新学習指導要領が告示された。中学校数学では、約36%という大幅な教育 内容の厳選による改定となっている。これは、週5日制の完全実施や「総合的な学習の時間」の 創設、ゆとりの確保など、数学の体系的・持続的・科学的である教科中心主義から脱し、総合と 分化の学習活動のバランスを図ろうとされたものといえる。
その中で特に、創造性の基礎を培うことが一層強調された。教育課程審議会の答申によると、
「教育内容を厳選し、もっぱら覚えることに追われていると指摘されるような状況をなくして、
子ども達がゆとりの中で、繰り返し学習したり、作業的・体験的な活動、問題解決的な学習や自
分の興味・関心等に応じた学習にじっくりと創意工夫しながら取り組めるようにすることに努め た。」と創造性の基礎を培うことを謳っている。そして、「解決する能力を育成し、創造性の基礎 を培い、社会の変化に主体的に対応し行動できるようにすることを重視した教育活動を積極的に 展開していく必要がある。」と創造性育成のねらいを述べている。
このような動向は、今までの、≪すべての子どもが、できるだけ多くのことを同じ方法で学ぶ≫
という算数・数学教育から、≪できるだけ多くの子どもが、その子どもなりの内容を、その子に あった方法で学ぶ≫算数・数学教育へと変わり、先生が作った課題だけではなく、子どもが自ら 作った課題、自分の興味・関心等に応じた問題を設定し、主体的に創意工夫しながら取り組む教 育パラダイムへの転換を志向していると考えられる。
それだけに、子どもの主体的な学習活動が一層求められると言える。中でも本稿は、創造性の 基礎として大切な、生徒による探究活動に焦点をあてて研究したものである。特にコンピュータ 活用による学習活動に注目した。1)
1.1.現在の中学校数学教育の問題点
新指導要領によると、中学校数学は36%という大幅な教育内容を厳選した。もともと生徒の数 学嫌い、数学離れがひどくなってきており、以前からよく7,5,3と言われていた。7,5,
3とは、小学校、中学校、高校で、それぞれ7割、5割、3割の生徒しか、数学を理解していな い現状を表した数字である。最近、文部省が初調査した結果からは、さらに、このひどさが増し、
本当に授業が分かっている生徒の数は、どんどん減り、中学校2年生で4.7%、高校2年生でたっ たの3.5%であることも報告されている。この原因はいったい何なのか。そこには、数学の授業 に問題があると思われる。
今までの教師は、自分が決めた答えを決められた方法で求めることを生徒に強要し、結果とし て、生徒は学習内容を知っているが、自分には関係ない知識として学習意識し、使える作れる知 識となって来なかったといえよう。「他に、答えはないかな。」といっても、多様な思考を促すの ではなく、教師の期待する答えを当てるような『当てもの的授業』が展開されているように思う。
ここでは、創造性を培うどころか、『創造性をくじく授業』をしてきたといえなくもない。
また、生徒も、数学を学習する意義はと聞くと、多くは「入試のため」と試験のためだけに数 学を学習している実態が伺える。これでは、本来の数学のもつ数学のよさ(生活に役立っ、便利 さ、生きる力となる)など理解されず、ただ点を取るためだけの教科となってしまっている。も はや、ここからは、無味乾燥した数学しか生まれてこない。この点を反省し、1日も早く本来の 数学を学習する意義へともっていく必要がある。
1.2.コンピュータ活用の問題点
中学校では、平成元年の学習指導要領の中で、電卓・コンピュータという言葉が初めて表れ、
時代と共に電卓・グラフ電卓・コンピュータ等の学習支援道具を学習の中で活用していくことを 推し進める傾向にある。これに伴って、中学校学習指導要領も基本的な考え方は一貫して変わら ないにしても、情報化の進展及び社会の変化によりよく適応できるように改善されてきている。
しかし、一方、教師自身の考え方には、初めから積極的に電卓やコンピュータを採り入れてい こうという前向きな姿勢は少なかった。というのも、そこには、少なくとも4つの問題点が考え
られる。2)
①高校入試
高校入試要項には、入学試験当日の持ち込み可能物に、「三角定規とコンパス以外の物は 持ち込み不可。」と記されている。すなわち、入学試験で電卓・コンピュータ等は使えない。
②教師自身の意識
教師も何か新しいことにチャレンジするときは、誰しも億劫になってしまったり、新しい ことになかなかとけ込めなかったり、マスターできなかったりするものである。これに加え、
①で述べたように、普段の授業で電卓・コンピュータが使えたとしても、いざ入試となると、
結局そのものが使えないなど、「苦労して使っても、役に立たないではないか。」という批判 的意識が強い。
③生徒の意識
生徒も電卓・コンピュータを授業で使っていても、今まで学習してきたことを試す入試で は使えない。それだけに、「やっても無駄」とさえ思ってしまう。まして、②で述べたよう に、教師自身使うことに前向きでないと生徒にもその意識が乗り移ってしまう。
④機器やソフトの充実
電卓・コンピュータといった機器を取りそろえるのに費用がかなり掛かる。また、こういっ た設備が入ったとしても、電子産業は進歩が速い。あっと言う間に苦労して取りそろえた設 備が古くなって使えなくなってしまう。それに、教師の授業スタイルに合った適切な学習指 導のソフトがないことも大きな要因である。
2.研究の枠組み
2.1.研究の概要
数学における、一般的な問題解決による学習のステップは図1のようになるが、特に、[計画]
から[解決]に至る過程の中での探究活動に注目してみたい。
ここでは、図2のように、生徒は情意面で 楽しい〝 と感じたら、自らその事柄に対して考 えていくことを積極的に行い、また、何とかして解決していこうと行動を起こすものである。こ の「何とかして解決していこうとする行動」に、すでに探究活動の一面が見られる。この探究活 動の後、生徒はそこから得た結果をその生徒なりの表情・言葉に表していく。
図1 問題解決のプロセス
(表現力)
Fどもの∃
: 亡: yこr t¶ : =:
しき,当
図2 探究活動と生徒の情意
本研究は、探究活動を促す問題解決学習のプロセスを次のように考えた。
生徒は初めに情意面で 楽しい′′ と感じたら、自分でその事柄を解決していこうと、自ら学習
に入る(探究活動を含む)。また、この中で探究活動を行うプロセスの後、今までは、、教師の指 導〝が入ってきて、学習していく上での指針を受け、問題が解けたとき表す、子どもの表現があ
り、さらに成績向上へとつながっていったと考えられてきた。しかし、これからは探究活動の前 段階での教師のもっているよい学習のモデルをもとにした働きかけが重要視されてきており、そ の段階での教師による支援が、次の段階の探究活動を誘発させるために大切になる。このプロセ スを示したのが図3である。
図3のプロセスから分かるように、今までは、教師の指示により、生徒は探究活動を行ってき た。よって、最初の情意で、あまりやりたいとは思っていなくても、指示されたこととして、あ る意味では、いやいや問題解決をしていたため、解けてもあまり人に解けたという感情(表現力)
を外に出さなかった。しかし、これからの教師は、教師の指示により、問題解決させるのではな く、生徒自ら、「解きたい」、「やりたい」というニーズを起こさせ(この部分で教師による支援 が大きい)、そして、探究活動を誘発させ、自ら計画して解決させていくことが大切となる。
したがって、そうした形で解決したときの喜びは、人一倍大きくなり、人に解けたことの喜び、
または、どのようにして解けたのかの説明をしたいと、以前より思うようになり、それが、表現 力となって、表れてくるはずである。最近の子どもは、あまり喜びを表さないとか、発言しない とか、よく言われているが、冷静になってよく考えてみると、それは、ごく自然なことで、今ま では常に教師の指示があって、出された問題を好む、好まないに関わらず解いてきたので、解け てもあまりうれしいとか、楽しいとか、やり上げたという達成感が湧いてこなかったのではない か。だから、その部分にメスを入れ、生徒がやりたいと根本的に思うかどうかの部分から見直す 必要が生じてきたといえる。
本研究は、図3の『これからの教師の支援』に焦点をあて、探究活動が進むきっかけとなる 教師の支援′′ とは、どんな事があるのかを、また、生徒はどの単元で探究活動をしたと自覚して
いるのかを、アンケートと授業観察、及びビデオによる授業記録を通して明らかにしている。
図3 探求活動と生徒の情意
2.2.探究活動について
国立教育研究所・数学教育研究室発行(平成9(1997)年9月)の「算数・数学科カリキュラ ムの改善に関する研究」に、次のようなことを、「数学的探究活動」(仮称)と呼ぶと定義づけら れている3)。
すなわち、「数学的探究活動」とは、次の4項目など数学の価値を子どもらに実感させる活動 をいう。
・数学が創造的・発展的であること。
・数学が有用であること。
・数学が文化の形成に関わっていること。
・数学には面白い側面や美しい側面があること。
また、提言として「数学的探究活動を算数・数学の学習内容として捉えるようにする」をあげ、
その数学的探究活動の学習内容としては、おおむね次の内容が考えられるとしてア〜クの8項目 があげられている。
ア.さまざまな場面で、自ら進んで課題を見出すことができる。
ィ.見出した課題を数学的に定式化する事ができる。
ウ.帰納や類比などを使って、一般化したり、特殊化したりすることができる。
工.演繹的に証明したり、体系化したりすることができる。
オ.見積もりや近似的な扱いをすることができる。
カ.電卓・グラフ電卓・コンピュータを活用することができる。
キ.得られた結果をもとに場面に照らして検証することができる。
ク.他の人とのコミュニケーション活動を課題の探究に積極的に生かすことができる。
また、岡山大学教育学部附属中学校の川上氏と東京家政学院筑波女子大学の垣花氏・国立教育 研究所の清水氏は、平成9年度大阪教育大学での論文発表会で、それぞれ探究活動(川上氏は、
探求活動)を次のように述べている4)5)。
川上氏は、CabriqGeometryを使用して、仮説や論説を最初から示さず、図を描き、それを 動かしたり、さまざまな検討をくわえることを通して、図形の中にある、今まで気づかなかった 条件や性質を見つけ出す活動を示し、このような活動を探求活動と定義している。
また、垣花・清水氏は、図形ソフトを利用し、図をインターラクティブに動的に連続的に変形 することや、変形の際、画面に表示される角の大きさや線分の長さの測定を使った発見などの探 究活動に…と、図を動的に連続的に変形することや、図を動かして、角の大きさや線分の長さの 測定による発見等の活動を探究活動と定義している。その中で、コンピュータは実験・観察を行 う環境を提供してくれる遺貝として考えている。
これらのことを含め、筆者らは、探究活動を次のように考えている。
「〜であれば、どうなるか」、「〜でなければ、どうなるか」6)などと創造的に数学を考えていっ たとき、数学的な見方・考え方が深まった活動や、さらにより深く考えようと自ら発展させよう とした活動、または、発展させることができた活動を、探究活動と考える。
3.研究方法(調査方法)
3.1.調査対象
(1)国立N女子大学文学部附属中・高等学校
中学3年生2クラス〔A組(男19、女20)、B組(男20、女20)〕
(2)中学3年生A、B組について
A、B組は、中学2年生から数学の時間、コンピュータ室で作図ツールソフトのGSP
(ジオメターズ・スケッチ・パッド)を利用してきている。中学3年生になってからも、1 学期の間は、数学(図形)の時間は全てコンピュータ室で授業が行われ、GSPを使ってき ている。こういった同じ環境下で昨年・今年と授業が進められてきた。
また、昨年11月、コンピュータを使った公開研究授業が行われ、アンケートを取られた。7)
3.2.調査期間、調査対象単元名
(1)調査期間:平成10年4月初旬〜12月下旬
(2)調査対象単元:中学3年生図形・統計分野
(使用教科書 大阪書籍中学3年「第5章円p.94」〜最後まで)
3.3.調査方法
授業は、N女子大附属中学校独自の教材プリントを基本とし、教科書は大阪書籍(「中学数学 3」平成10年度用)を使用した。
(1)アンケート調査
調査は、1学期の最後( 98.7.7実施)にA、B組2クラスの生徒に調査した。(無記 名方式で41問出題)
(2)授業記録(ビデオ撮り)
中学3年生の最初の数学の授業から、継続して過2日(火曜と水曜)A、B組2クラスの 授業をビデオ撮りした。
(3)生徒の記録ノート
1学期の配布プリントの中に、毎回一言感想を書く欄をもうけており、そこに毎時間終わ る度に記入してもらった。
4.調査結果と考察
4.1.探究活動の表れた授業例とあまり表れなかった授業例
ビデオ記録とアンケート分析、及び授業観察より、次のような探究活動の授業事例を考えてみ たい。
4.1.1N女子大附属中の授業(探究活動が表れた場面)
アンケート問題「あなたは、コンピュータを使って、「これはどうしてかな?おかしいな」、
「なるほど。こんな関係になっていそうだなぁ」と自分で考えたことは、どんな項目のところで したか。次の①〜⑦の中から選びなさい。(複数回答可能)ただし、⑦を選んだ人は、その内容 も書いて下さい。
回答 ①円の中心の求め方(21.5%) ②2点、3点を通る円の作図(32.9%)
③4点を通る円が描ける条件(48.1%) ④円周角と中心角の関係(38.0%)
⑤等しい弧に対する円周角(38.0%) (砂円の接線の作図(44、3%)
⑦その他(内容:五心,接線が描ける条件)(3.8%)
アンケートによるN女子大附属中の授業で、③の「4点を通る円が措ける条件」(48.1%)が 最も多かった。なぜ、この項目を探究活動が進んだと回答しているのだろうか。
授業記録によると、この授業では、教師による生徒への次のような指示があった。授業が始まっ てしばらくして、生徒はコンピュータに電源を入れ、「4点を通る円が描けるか?」という問題 に取り組んでいたときのことである。前時までに「3点を通る円の描き方」を終え、その続きと して、生徒も本時は「4点を…」という生き生きとした問題意識も持っていた。ところが、コン ピュータ画面上には、4点を通る円が描けているにもかかわらず、多くの生徒はその画面をただ
眺めているだけであった。その時、教師が「点を動かしてみなさい。」と発言したのであった。
この言葉が終わるやいなや、生徒達は図形の性質を発見しようとして、今までただ眺めているだ けであった画面上の点を動かし始めたのである。
この授業は、生徒がどうしたらよいか迷っているとき、「点を動かしてみなさい。」という教師 によるたった一言の言葉がけ(支援)によって、生徒は一層生き生きと探究活動をし始め、4点 を通る円が措ける条件を次々に見つけていったのである。
4.1.2.N女子大附属中の授業のプロセス
N女子大附属中の授業は、図4のような流れができている。
生徒のニーズ 鉛筆と紙による試行錯誤
コンピュータによる探究活動
鉛筆と紙(プリント)による振り返りとまとめ
図4 探究活動とその前後のプロセス
図4のそれぞれについて、具体的な活動を表すと、次の表1のようになる。
表1「4点を通る円が描ける条件」での生徒の行動分析
ニ ー ズ 4 点 を通 る 円 を措 い て、 円 にお け る図 形 の 性 質 を 発 見 した い。
鉛 筆 と紙 に よ る試 行 錯 誤 ど う した ら描 け るか ? 〜 な らば … とな る。
イ メ ー ジ 4 点 を通 る 円 が描 け た ら こ うな る。
コ ン ピ ュー タに よ る探 究 活動 よ し、 も っ と色 々 な 円を 描 か せ て み よ う。 そ の 上 で 点 を動 か してみ よ う。
発 見 点 を動 か して も変 わ らな い性 質 は〜 だ 。
鉛 筆 と紙 今 まで 分 か っ た こ と を ま とめ て 整 理 しよ う。
4.1.3.N女子大附属中で探究活動が表れにくかった授業例
N女子大附属中でも探究できたと恩う生徒が少なかった授業がある。「円の中心の求め方」
(21.5%)である。この授業はどうしてこんなに探究できたと思う生徒が少なかったのだろうか。
まず、問題そのものが考えにくい点がある。先ほどの4点を通る円の作図では、3点を円周上 に取って、4点目の位置を動かすことによって、どんな条件があるのかを求めることは、生徒に 自然な流れがある。しかし、この課題はコンピュータ画面上に単に円があるだけで、その円の中 心を求めるのに、(実際は2本の弦を引き、それぞれの垂直二等分線を引き、交点を求めるので あるが、)この円の弦の垂直二等分線を引くことに気づくことは容易ではない。(何か画面上のも の〔直線、点etc.〕を動かすのであれば、動かすことによって探究できるが、)教師による言葉 がけ(支援)があったとしても、課題によってはコンピュータのよさが導き出せない場合もある。
そこで、N女子大附属中の授業では、いきなりコンピュータは使わず、まず円形の紙を生徒に 配り、その紙を用いて中心を求めさせる活動を入れた。ここでは、A、B組2クラス共、生徒か
ら、「円を真二つに折ると中心が求まる。」と出てきた。これは、2回違った方向から繰り返し折 ると、2本の折り線(直径)が求まり、それらの交点が円の中心であるという理由からである。
ここでは、生徒がコンピュータを使っておらず、円形の紙という具体物を使って、生徒に探究 活動をさせ、それを確認するのにコンピュータを使った。よって、コンピュータで探究活動した とあまり感じていないからである。
この事から、教師が、コンピュータを使った授業をする場合には、単元・教材等も充分検討し た上で、コンピュータで探究させたいならば、コンピュータのよさを生かせる課題を設定しなけ ればならない。そして、1時限の授業の中で、生徒にどの部分をコンピュータを活用して探究さ せるのかを明らかにしておくと共に、生徒はコンピュータをどのように活用していくかも予想し ておく必要がある。
4.2.その他のアンケート諷査結果
4.2.1.アンケート結果(中学3年A、B組)
問題「あなたは、数学の授業を受ける場所は教室とコンピュータ室とでは、どちらがよいです か。」
75.9%の者が教室よりコンピュータ室の方が良いと答えている。生徒は、数学の授業は教室よ りコンピュータ室の方が良いと感じていることがうかがえる。また、その理由は、次のようにな る。
コンピュータ室を選んだ生徒(60人・のベ65人)の理由 1.(17人)涼しい
2.(16人)図が動く・色々な図形から定理などを見つけることが出来る・色々作業をする、
分かりやすい・把握しやすい・納得がいきやすい・作図がすぐ作れる・間違っ た時消すのが楽
(16人)楽しい・面白い・ゲーム感覚で授業が受けられる、パソコンがいじれるから・
パソコンが好き
4.(4人)開放的な気分・ゆったりした感じ・自由になった気がする・気分転換でやる気 が出る
5.(8人)ばらばらの意見 その他、4人が無回答であった。
「涼しい」と単純に答えているものもいるが、53.3%もの生徒はコンピュータ自身のよさを挙 げている点に注目したい。その内訳は、「楽しい・面白い、パソコンがいじれる・パソコンが好
き、ゲーム感覚で」が26.7%いるが、一方、「図を動かせる・分かりやすい・把担しやすい・納 得がいきやすい」と、本来のコンピュータのよさを挙げている生徒も26.7%いる。また、コンピュー
タ室自身の開放的な雰囲気がよいと6.7%が答えている。
以上から、生徒は、環境を変える事によって、この教室に入れば勉強するのだと言う意識が芽 生えることが想定できる。教室とコンピュータ室とを比較すると、コンピュータ室だからこそ勉 強をしたいと恩うのである。教室は、ホームルームであり、勉強する場所ではないと考えている 生徒が多いのかも知れない。
コンピュータは図を動かせることが、最大のよい点である。ところが、この事が分かっている
生徒が、犯7%とまだ少ない。それは、コンピュータはマスターするのに時間がかかる、放課後 等の時間を有効に使いたいなどに見ることができるように、コンピュータを生徒自身のものにす
るには、日々の継続した活用が必要である。
4.2.2.昨年と今年の同じ問題による比較
N女子大附属中でのアンケート結果を、昨年(平成9年)11月に発表されているアンケート結 果と比較検討した。比較したのは、同じ生徒による中学2年、中学3年での結果であり、昨年
(生徒が中学2年)からGSPを毎時間使っており、同じ環境下でGSPを使った授業を生徒は受 けてきているからである。
(1)問題「コンビュT夕(Sketchpad)は、数学を考える手段として有効だと思いますか。」
回答 ①思う (昨年 72.1% → 今年 31.6%)
②少し思う ( 19.0% → 60.0%)
③あまり思わない( 8.9% → 10.1%)
④思わない ( 0.0% → 6.3%)
昨年では、①を選んだ者が1番多く、今年は②が1番多い。①から②へ傾いたことを示してい るが、①②総和の比較では、昨年91.1%、今年83.6%と大半の生徒はコンピュータは数学を考え る手段として有効だと答えている。
また、次の間題は、今年のみ出題したアンケート問題である。
問題「コンピュータ(Sketchpad)は、使わないときと比べて、使ったときの方が、自分として は深く考えられた(探究できた)と思いますか。」
回答 ①思う(22.7%) ②少し思う(54.6%)
③あまり思わない(14.7%) ④思わない(8.0%)
ここでも、①+②が77.3%と大半の生徒がコンピュータを使って探究できたと答えている。コン ピュータは探究できる道具という意識はアンケート上でも確認できた。
(2)問題「コンピュータ(Sketchpad)による学習が、中間や期末テストに役立つと思いま すか。」
回答 ①恩う (昨年19.0% → 今年16.5%)
②少し思う ( 38.0% → 29.1%)
③あまり思わない( 35.4% → 37.9%)
④恩わない ( 7.6% → 16.5%)
全体の傾向は変わらないが、最も多くの生徒が選んだのは、昨年②、今年③と変わり、全体的 にも①から②③④へ順次移っている。この事は、コンピュータはテストに役立たないと思う層が 増えたことを意味する。また、③+④が今年は54.4%と半数以上に達している。その理由として、
17名の生徒が「コンピュータはテストに出ないから。使えないから。」と答えている。これは、
現在の校内で行われている定期テストではコンピュータが使えない・出ない、から無意味と生徒 は患っており、すでに述べた通り入試では電卓・コンピュータが使えないという現在の入試制度 と深く関係していることが分かる。
しかし、その中でも「頭の中でコンピュータを動かして考える。」と答えた興味深いデータが あった。このことは、試験では直接コンピュータが使えないとしても、ある生徒には目前にコン ピュータを活用するがごとく、頭の中にコンピュータの画面が動的に写るようになり、探究活動
が生き生きとできることを示している。このことは、そろばんが、やがて頑の中で玉をはじいて 計算することができた「メンタル・アバカス」と言われてきたように、コンピュータも生徒の数 学的探究活動を補助する道具となり、コンピュータの画面をイメージしながら、念頭で操作でき るような『メンタル・コンピュータ』になると期待できるのではないか。
5.おわりに
本稿は、中学校数学におけるコンピュータを活用した実践に注目し、生徒はどのような単元で 探究活動をしたと自覚しているか、そして、その理由、また、どのようなことがきっかけとなっ て探究活動が進むのかを明らかにするため、アンケート、授業観察、及びビデオによる授業記録 を実施した。
その結果、次の点を明らかにすることができた。
・中学3年生の図形では、「4点を通る円が描ける条件」をコンピュータを使って考えるとき、
生徒は最も探究活動が進むと自覚している。
・数学的活動の中の探究活動には、教師の支援(発言・発問)が大きな役割を果たしていること。
・その言葉には、「何がしたいの?」「問題を自分の言葉で言ってごらん。」「自分で考えてみよう。」
「どんなやり方でもいいから答えを出してごらん。」「この考えは今までとどこが違う?」「他の 方法はありませんか?」「別の考えはない?」「分かったことを自分の言葉でまとめてみよう。」
「他の人と比較をしてみよう。」「もっとよい考えはない?」「他の問題は作れないか?」などが あり、コンピュータ活用においては、「動かしてごらん」という言葉がけが特に重要であった。
・授業でコンピュータを使う場合には、コンピュータのよさを生かせる課題の設定が必要である こと。
・試験ではコンピュータは使えないが、コンピュータを用いる授業を日頃行うことによって、試 験でコンピュータが使えなくても、あたかも目の前に画面が浮かび上がり、頑の中で探究活動 を行えるようになること。(メンタル・コンピュータ)
・「メンタル・コンピュータ」が体得できた生徒が、少ないがいること。
・コンピュータは数学を考えていく上での、1つの学習支援道具であるが、メンタル・コンピュー タも同じ役割を果たしていること。
コンピュータ設備は、どの学校でも徐々に整いっつあり、それは、文部省が2002年には全国の 小・中学校を、さらに、2003年には全国の高等学校もインターネットでつなぐ計画を立てている
ことからも伺える。しかし、しばらくは、設備の整備・充実に時間がかかる。
コンピュータは、一方で、試験に使えないから授業で使ってもしかたがないという考えもある が、探究活動をしていく上で、コンピュータは動かして考えれるといった、鉛筆と紙とだけでは できない画期的な特徴を持っていることを認識し、また、実際に使った生徒の声からも、コンピュー
タは、探究するための道具になりえることをもっと広くアピールしていきたい。
さらに今後は、電卓やコンピュータを活用した探究活動のプロセスのより一層の解明や、電卓・
コンピュータを活用して探究活動できる課題を模索していきたい。また、『メンタル・コンピュー タ』の内面化の解明もしていきたい。
謝 辞
本論文作成にあたり、授業をご提供いただきました数学科の先生、生徒の皆さんに深く感謝申 し上げます。
引用・参考文献
1)重松敬一、『創造性の基礎を培う』「シンポジウム〔提案〕」、新しい算数研究会セミナー、
1998
2)岩田晴行、『コンピュータ等活用による中学校数学学習の研究』、日本数学教育学会第31回数 学教育論文発表会論文集、1998(P.475−476)。
3)国立教育研究所・数学教育研究室、『算数・数学科カリキュラムの改善に関する研究』、1997
(P.6−8).
4)川上公一、『数学的探求活動を支援するCabri−Geometryの利用』、日本数学教育学会第30回 数学教育論文発表会論文集、1997(P.373−378).
5)垣花京子、清水克彦、『コンピュータ環境下での証明の機能の変化に伴う学習活動の具体的 な検討』、日本数学教育学会第30回数学教育論文発表会論文集、1997(P.379−384).
6)磯田正美『創意工夫を生む恩考パターン』「新しい算数・数学教育法」、1998 7)奈良女子大学文学部附属中・高等学校公開研究会研究発表資料、1997.