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技術導入 ・組織編成 ・長期雇用

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技術導入 ・組織編成 ・長期雇用

中 村 健 一

1.序

労働経済学の文献 に表れる日本的雇用慣行 に対す る理論的説明は,ほとんど G.Becker[1]の定式化 による特殊人的資本の存在 にその根拠を求めて いる1) 。 私が 中村 [5]で,批判的に検討 したよ うに特殊人的資本理論 は, 労使契約の合理性か ら,長期雇用 と上昇す る賃金プロフィール という日本的雇 用を特徴づける2つの要素を,演緯的に導 くことに成功 してお り, この理論的 整合性が人的資本理論の多用を呼んだと言 って良いだろう しか しこの特殊人 的資本理論の援用は,前提 として特殊人的資本の存在の仮定を受 け入れ る限 り は整合的であるのだが, 日本的雇用慣行を採用 している企業群一般が,何故特 殊人的資本への投資をそれほど需要するのか, という根本に立ち戻 ると議論の 正当性 ははそれほど明確な ものではな くなって くる。

中村 [5]で詳細 に書いた ところだが,仮 に戦後の 日本で観察 されるような 長期雇用を成立 させ るように特殊人的資本が企業に不可欠であったとす ると, 各企業 は技術革新において模倣 という方法をほとんど放棄 してきたと言わざる を得ない, と言 う結論が導かれて しまう これは経験的に知 られている日本の 綾術導入の活発 さを考えるとき矛盾 と言わざるを得ない。つま り古典的な人的 資本理論で想定 されている加工技術のような物的技能に日本的雇用慣行の存在

1)特殊人的資本理論を応用して日本的雇用慣行を説明しようとしたモデルを代表する ものとして以下がある。Chuma [2],Hashimoto [3],Ohashi[6]

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の根拠を求める限 り, 日本的雇用慣行は理論的に解明された とは言えないと言 うことが私の主張であった2) 。

この疑問は潜在的 ・顕在的に多 くの論者 に自覚 はされて きたのであって, 日 本の経験が特殊人的資本の必要 と言 うことと両立す る, とい う多 くの正当化の 努力があることを私 も知 らないわけではない。 しか しそれ ら多 くの議論 は正当 化を求めるあま り暖味であ った り,矛盾をは らむように少な くとも私には思え たのである

このよ うな思潮 に対 し,私 は 「日本的雇用慣行」は確かに普遍性を持つか も しれないが,それは一種,発展.段階論的な普遍性であ り,戦後の該当期間にお いては日本固有の属性 として存在 した と言い うる可能性を示 した。私の この議 論 は,技術導入 に伴 う効率的な組織設計の達成 に関 して長期雇用が要請 され る

と言 う仮説であ り,言 い換 えれば組織編成の情報上 の効率性 の観点 に立っ と き, 日本的雇用 は前 出の矛盾を持たないモデルで説 明可能な ことを示唆 したの である。

そ こで本稿では前掲論文で示唆 した点をより明確 にす るため,2期間モデル および直観的な再説を用いて私の主張をよ り詳細かつ正確 に紹介す ることとし た い。

2.技術導入 における組織編成の効率性

ある国家 ・地域 の技術革新 の能力 はその国の研究開発 に関す る制度や知識, あるいは物的設備などの広義の (知識 に関す る)資本蓄積の程度 によって定 ま ると考え ることが出来 るだろ う ある地域で経済活動を営む企業 は,研究開発 による技術革新の成果を利用 しよ うとす るとき,その地域の研究開発 に関す る

2)ごく単純な疑問としては日本のみに何故特殊人的資本が存在しなければならないの か,と言うものがある。これについては2つの説明が存在する。一つは日本の文化 的特殊性にその原因を求める立場、もう一つは、実は特殊人的資本は日本のみなら ず国際的に普遍的に存在 し使用されている、とする立場である。しかし双方とも説 得力のある根拠を示 し得ているよう、には思われない。

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資本蓄積の程度や他の地域 との技術貿易の交易条件を勘案 して最適な方法を選 ぶ と考えて良い。そのと き相対的に研究開発に関す る資本蓄積が進んだ地域で 描,企業 は様 々な制度的条件などを利用 しつつ 自力で開発を進めることで他社 を リ・'Tドす ることに要す る費用が小 さいと考え られ るのに対 し,相対的な後進 地帯ではR&Dに関す る資本蓄積が進んだ地域で開発済みの成果を特許料など を払 って利用す る方が安価に成果を得 られ ると考えることが出来 る

このような自力での開発か ・模倣か とい う選択 は,企業の人的 ・物的資源の 最適配分の問題を扱 うという点で,何 らかの最適化行動の問題を考えるという 意味で,経済学的問題である。 しか しこのような問題が一般の一,たとえば資本 労働比率の選択の問題 と異なるところは,選択が単 に生産要素の投入水準の選 択でな く,組織の編成のあ り方の差異の問題 に関わ るとい う点であろ う

自力での新製品 ・新技術開発を新薬の開発のよ うなプロダク ト・イノベー ションの場合で考えたとき,そのような開発を進めるためには専門知識を持 っ た研究員の雇用や開発を進めるための設備投資,あるいは特許取得 に関す る法 律の専門家の雇用などを必要 とす るだろう. ところが技術導入に資源を振 り向 けるという場合 は,それ とは異なった事態が生 じて くる。技術導入 はすでに完 成 している技術を用いるという点で,相対的に専門的な科学的知識を持 った専 門家を必要 と しない代わ りに3),導入の過程で 「生産方法」の変更を要請す る。A技術導入集約的」な生産技術 とは,言い換えれば頻繁な生産方法の改編 を行 うと言 うことであ り, このよ うな頻繁な変更を効率的に達成す るために必 要 とされ る資源 は,物的資源 と言 うよりも,組織の編成に関わる技術であると

いえるだろう。つまり投入物の投入水準 と言 うよりは生産関数 自体 に関わるよ うな選択の問題がそ こでは必要 とされるのである。

組織の編成の頻繁な変更 とは,分業 と協業の新規の改編を頻繁 に受け入れる と言 うことであり, このような変更を通 じて効率性を維持す るためには,組織 内の個人間 ・セ クシ ョン間の効率的なコーディネー トが要請 され ることとな

3)応園のために少なからぬ研究員を必要とすると言うことは周知の事実ではあるが。

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る。具体的 ・物的技術 においては不連続なこの過程の効率性を維持す る技術 と はコーディネー トに関わる記述 とい う意味で言語的な技術でなければな らな い。 このような技術 として, しば しば企業文化 と言 った ものがあげ られる。 し か しこれは唆味な言葉である。特定の組織で採用 され る作業のや り方,意思決 定の仕方 というものは,それに関 して も企業が営利を追求す る限 り,効率的な ものが求め られるはずであ り,そのよ うな技術 に関す る模倣の動機が存在す る わけであるか ら,企業毎の差異 とい うものが生 まれることは、 目的合理性の基 準を満た しているとはいいがたいであろう

このような言語的技術に関 して企業間の特殊性が生 まれ るとすれば,それは 次のような事情をその根拠 とす るだろう。つまり, どの企業にも必要 とされる 配置転換のルールや非通常の業務に対する報酬の形式 と言 う意味で共通であ り (それゆえ一般的な)組織編成のためのコー ドとい うものは,たとえ結果 は一 般的な事情 に関わるものであろうとも,組織 に参加す る個々人の特殊な属性を 反映 したものでなければ,組織 における効率性に損失を与えるであろう 組織 の編成のためのルール とい うものは,単 に個々人の持つ技能的特性を反映させ た配置転換によって職種 と個人 との ミスマ ッチを防 ぐ, と言 った直接の生産方 法に関することだけを内容 とすればよいだけではないだろう。組織の暗黙的 ・ 潜在的 コー ドは,指令などに関わる言語的応答関係や,個人の努力に対す る評 価法などの,企業内の公正や指令に関する権威の正当性の維持 に関わる次元で は,個 々人の性格的な特殊性が考慮 された,組織編成 ・運用 と言 った ものがな されなければな らない。 この ことか ら現実の文脈で組織編成を効率的に行 うた めには,今あげたような特殊個人的な属性の知識が組織内で共有 されねばな ら ないことか ら,メンバーの高率の離職 は好 ま しくないと言 うことになるだろう

しか し頻繁な配置転換を経験せねばな らないような職場では,職種 との ミス マ ッチが発生す る可能性 も高 く,従業員の離職の動機 には事欠かないと言 うこ とになる。そ こで企業はこのような離職による組織編成上の非効率性を抑止す るために様 々な制度上の工夫を行 うと考えることが出来 る。つまり企業 は転職 によって頻繁な配置転換を伴 う組織編成の非効率性を抑止す るために賃金政策

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などによって離職率の低下をはかろうとす るだろう。そ してその必要 は技術導 入期に高まる, というのが私の議論の基本的な構成である このような論理が 以下に示すモデルの直観的基礎 となっているわけである。

3. 2期間モデル

3‑1‑1.経済の構造

技術の性格 によって2部門に分割され る経済の2期間モデルを考える。第 1 の部門は,技術導入に当たって組織編成の巧拙が生産性に大 きな影響を与える 部門であ り,戦後 日本経済の大規模企業の部門を想定 している。2の部門は, 小規模であるが故 に組織編成のための取引費用が少な く,組織編成に対する投 資の リターンが相対的に少ない部門である。 これは中小企業部門を想定 してい る。単純化のため第 2部門ではそのような組織編成の効率性に関する賃金政策 か らの利益はゼロであると仮定 しよう。

期間は 2期間を考える。各期間どの企業で働 くか無差別な労働者は,短期的 雇用を選好す る主体であ り,2期間に渡 って同一の企業で働 こうとす る主体 は 長期雇用を選好す る主体である。単純化のために議論の全体に渡 って割引率 は 無視す る。

3‑1‑2.労働者 と労働供給行動

労働者 は, 1単位の労働サー ビスを所有 し,賃金Wと職場で要請 され る努力 水準eの二つの変数か らなる単純な一時的効用関数U‑W‑αeを持ち, この 形状は時間を通 じて不変であると仮定す る。αは労働者の労働強度 に対する忍 耐の度合 いを表す指標であ り,ある連続かつ微分可能 な分布関数 に従 うとす る。 このαeはある努力水準eを補償す る賃金水準を表すか ら,労働者の保留 賃金である。保留賃金を低い方か ら順番 に並べた ものが この経済の一時的(逮) 労働供給関数 となる。労働者は危険中立的と仮定 し,2期間か らの期待効用を 極大化す るよ うに行動す る

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3‑ ll‑ 3.生 産 技 術

第 1部 門は技 術 導 入 に あ た って プ ロセスイノベシ ョンを必 要 とす るが ∴ そ の効 率は,下の式で示す第 2期にお いて全雇 用 に しめ る長 期 雇 用 者 の 割 合

R,

(1‑q)Lo

(1‑q)Lo+LN

に依存する。 た だ しLoは 第 1期 に 雇 用 さ れ た 者 で あ り , Lnは , 第 2 期 に

用された短 期 雇用者であ る 。 q は 第 1期 か ら 雇 用 さ れ た 労 働 者 の 第 2 期 初 ける離職率 を表 している 。 この よ う な 関 係 を 仮 定 す る の は , 先 にも説明したよ うに,長期雇 用者の多寡 は , 組 織 変 換 を 行 う に 当 た ってのミスマッチや内部で

の トラブルを減少させる と 考 え ら れ るからである。また技術導入の,とR

は,補完的関係にあるとする。技術入が活発であるほど,組織改編 度 も

高ま1り長期雇用からの情報共有の益が上昇すると考えているわ である。

これを単純な形で定式化して,2期間に渡る生産関数は次のような 形 状を持っ

と仮定する。

fl(Lo)+A (R,I)・f2((1‑q)Lo,Ln)

flは第 1期 の生産関数であ り, f 2は第 2期の生産関数であ る4'。 1期堪 は じめの期間であるか ら長期雇用か らの利益 は現れ得 ない。従 って第 1項 は単 純な1要素の生産関数 とな っている。第 2期 は,長期雇用者 と新規雇用者の両 者がイ ンプ ッ トとな ってお り,その効率性を左右す る項 目として関数Aが積の 形で入 っている。生産効率 は先に述べたよ うに,長期雇用者の割合Rと,.技術

4)fi.>0,fLL。<0,fB.>0,fZoLo<0,f2n>0,<0,を仮定する。また解の存在 を保証するために,陰関数表示の生産関数F(fl,Af2,Lo,'L'n,W妄)‑ 0は,厳密 に凹であると仮定する。

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導入を表す要素 Iを,変数 としている。 Ⅰは,技術導入に投入 された財 ・サー ビスの何 らかの実質指標を想定 している。各要素の限界生産物 は正かつ逓減的 であィ. また先に述べたようにIRは補完的関係 となる。

3‑2.・職務内容,賃金政策,離職率

各部門,各期間における職務 は一定の労働努力eを要請す る。 どのような雇 用において も,同 じ資格の労働者群で も,完全に同質的な仕事を全員が こなす と言 うことはないだろ う 配置によって多少の労働強度の差異が存在 し,期間 を通 じて異なる労働努力を要請す る職種間で移動が行われ るだろう. 縫 うて労 働者 は単位期間内での平均的な労働強度に関心を持つ と仮定す ることは不 自然 ではない。まず第 1部門の第 1期の職務,及び第 2部門の第 1期 ・第2期の職 務 は3つ とも同質的 と仮定す る。 この労働 はプロセスイノベーションを含 まな いめや,技術導入の有無を01で表 し,e (0)‑里と しよ う 一方第 1部門 め企業の第2期の労働 はプロセスイノベーションの存在を1で表 し,eI(1)‑

eとしよう。eI>里である。 これは配置転換や新 しい作業への馴致を要請す る技 術導入がそれが存在 しなか ったときに比べて大 きな労働強度を与えるという想 定の表現である占あるいは同一の企業で多 くの同一のメンバーとの共同作業を 経た主体が,その知識を利用 してある程度の管理的内容を含む仕事や,就業当 初は求め られなか ったよ うな緊密な連携 ・協調関係を求め られるために平均的 な労働強度が他の短期的雇用形態の下での仕事に勝 っているという考えの反映 である5) 。

さて このモデルでは,生産関数の性格か ら,企業 は賃金政策 によって離職率 をコン トロール しようとす る. ここで問題 となるのは離職率の決定がどのよう に して行われ るか ということであ る。 このモデルでは企業 は個 々の労働者につ いては労働強度 に関する選好パ ラメーターを知 ることは出来ないと言 う仮定を とる。従 って第 2期初 に起 こる労働者の離職 は企業 にとって確率的現象 とな る。

5)本稿で は議論の単純化のため,あ りうべ き労働強度 を2億 に限 っているが これは強 い仮定であ る。本来的には Ⅰの連続関数 と して記述 され るべ きであろ う。

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このよ うな仮定の下で,第 2期初 に,第 1部門を離れ,第 2部門に雇用 され るか,非労働力化す る場合,その順番 は もっとも努力に対す る負の評価の大 き い ものか らと言 うことになるだろう 長期雇用の仕事において労働強度 はそれ 以外の仕事 に対 して高い ものとなるが,相対的に労働努力 についての負の評価 の大 きな労働者 は,賃金 によって努力の負の効用が補償で きな くな る賃金水準 が高 く,第1部門への労働供給か ら得 られ る レン トが 0か らマイナスにな った 時点で離職 してい く。あるいは他の就業機会か ら得 られ るレン トと等 しい レン

トが獲得で きな くな った時点で離職す ると言 って良 いだろ う。

従 って企業が第2期初の離職率を計算 しよ うとす るとき,まず第 2期の第 1 部門の賃金 と等 しい保留賃金を持つ ものを境界 として,それ以上の保留賃金の 所有者が離職者であると予想で きるとい うことになるだろ う あるいは,第 2 部門で もっとも努力 に対す る耐性のない労働者にさえ レン トが発生 しているよ

うな状況だ とすれば, 自社の賃金か らその レン トを,差 し引いた保留賃金の労 働者を境界 としてそれ以上の保留賃金を持つ労働者が離職 してい くと予想す る

ことが出来 るだろ う

そ こで先の もっとも耐性のない労働者を限界労働者 と呼ぶ とす るな ら,第 2 期の限界労働者について均衡下では以下の条件が成 り立 っていなければな らな い。

wf2‑αe‑W昌‑αe‑r2

r2は,限界労働者の レン トを示 している。

ところで第 1期の労働市場 における限界労働者 は,すなわち第 も部門に雇用 され る労働者の内で もっとも努力に対す る忍耐が低 いものであるが,その労働 者が雇用され ることで受 け取 る レン トrlは,当然の ことなが ら,

u)I‑ae‑wi‑ae‑rl

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の関係を満た していることになる。 これ ら均衡下の限界労働者の効用パ ラメー ターを利用 して我 々は,第2期 における第 1部門企業の離職率を計算す ること が出来 る

q(W 妄:e())‑ Jade (a)da LL, W wi‑rl

Eは企業が雇用 している労働者 に関す るaの密度関数で,̲aは第2期 におけ る限界労働者の効用パ ラメーター,Taは第 1期 に雇用 された限界労働者の効用 パ ラメーターである。

3‑3.企業の最適化問題

以上の分析を踏 まえて,第 1部門の (代表的)企業の利潤極大化行動を定式 化す ると,以下のよ うになる

LoTLTFw21 :Plfl(Lo)+p2A(R,I)f2((1‑q)Lo,Ln)

明 Lo‑W妄(11q)LoWLn

pは生産物価格を表 し,下添字 は期間を表す。 この問題の 1階の条件 は,以 下の3式である。

7 T

㌃=Plf+p2ARRLof2()+p2A()f2(i‑q,Lo(1 ‑ q)一 LL,f2(1‑q)‑0

7T

a

Ln‑p2ARRL/f2(・)+p2A()fZr‑0

∂7T

官房 =P2ARR(1l q,(qwf2)・f2()+p2A(・)f2(lW Lo(LoqwJ2)

(11q)Lo‑W盲(‑qw/2)L0‑0

下添字の付いた関数 は,その添字の変数 による偏導関数を表す。上の1階の 条件式を限界原理の等式,すなわち (限界収入)‑ (限界費用)の形式 に書 き 直 し,その直観的意味を探 ってみよ う は じめの式 は以下のように書 き直す こ

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とが出来 る

plfLo+p2ARRLof2()+p2A()f2(I‑q)Lo(1‑q) +wf2(1‑q)

右辺 は雇用の限界費用であ り, 1期の賃金 と在職確率でウェイ ト付けされた 2期の賃金の和 にな ってい る。左辺第 2項 は一人の長期雇用者が増え ること で,企業内の長期雇用者の比率が増大す ることの生産性への貢献であり,第 1 項や第3項のように通常の限界生産物の効果に加えて, このような効果を企業 家が考慮す ることを表 している。長期雇用者が一人増えると言 うことは組織全 体 に生産性 に関す る外部効果を もた らす ということが第 2項の意味である。同 様の効果 は第2期の賃金水準の決定式か らも兄いだす ことが出来 る。

p2ARR(1̲ q,(‑qwJ2)f2()+p2A()・f2(i‑q,L.(‑Loqwf2)

‑(1‑q)Lo+W妄‑qw12)Lo

右辺 は第2期の賃金を1円上げると,組織全体では雇用者の人数分プラス離 職が抑止 された結果増加 した人数分の賃金 コス トの上昇になるとい う関係を示 している。左辺第 1項 は賃金水準の上昇 による離職率の削減により組織内での 長期雇用者の比重が上昇す ることか らの (先の外部効果に関わる)生産性効果 を示 してお り,第2項 は離職率が減少す ることで組織内の労働者の人数が増え ることによる直接的な生産物効果を現 している。 これは賃金上昇が生産性 に影 響を与えるという意味でいわゆる効率賃金仮説の状況であることに注 目してい ただ さい 6)。2期 において競争的に雇用 され る短期労働者数の決定 に もこ れ らの諸特徴 は反映されている。

p2ARRLnf2()+p2A()fZ‑明

6)効率賃金仮説 に関す る代表的論文 は,ShapiroandStigritz [8]である。

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右辺 は単純 に第 2期の競争市場で決定 される賃金だが,左辺第 1項が このモ デルの特徴を表 している 1項は短期労働者が増えることによって,組織内 の長期雇用者の比率が落ちることによる経済的損失を表 してお り,企業家は単 純 に短期労働者 自身 による物的限界生産物のみに関心を持 っているのではない

ことを示 している

ところで我 々が関心を持 ってきたのは長期雇用 と技術導入の関係であった。

2番 目の方程式に注 目してみよう いま Ⅰが増加を見たとす ると,左辺の第 1 項 も第 2項 も増加す る7)。 これによって限界収入が高 ま り,企業 にとっては, 長期雇用者の第 2期の賃金を追加的に引き上げることによって,離職を抑止 し 生産性を向上 させ る追加的動機が生まれることとなる。つまり, ここで兄いだ

されるのは技術導入の活発化に対応 した,離職率の低下 による長期雇用傾向の 強化であり,同時に期間を通 じての賃金上昇の勾配の増加である。 これが,す なわち 「日本的雇用慣行」に他な らない。

4.人的資本理論 との差異

この節では,以上の議論は従来の人的資本理論 とどのような差異を持っかを 論 じてみたい。

財の交換 において特定の主体間での交換関係が意図的に反復 されると言 うこ とはそこに取引特定的資産が関与 しているとい うことと同値であり,その要素 をモデルか ら排除す ることは出来ない。また不慮の事態による一方的な関係の 破棄による不利益を抑止するためのイ ンセ ンティブメカニズム (この場合 は離 職を抑止す る制度)を扱わなければな らないと言 うことも論理の必然である。

この 2点 については本稿 は従来の論文 と異なるところはない。 この論文が異な るのは次の点である。従来の特殊人的資本を前提 とした論文では, (つ とに指 摘 されていたように)雇用されている各々の個人対企業 とい うあり方で各人が

7)AL>0,ALl>0によ る。

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単独で企業 と労使契約を結ぶ, とい う設定 にな らざるを得ず,現実的に組織の 中で労働が行 われ るのに も関わ らず,組織的観点が欠 けていた とい う難点を 持 っていた。 これに対 して明示的な組織の中の労働 とい う視点の下で、 日本的 雇用慣行を説明可能なモデルを示す ことが私の意図なのである。

生産関数で離職率が減少す ることが各労働の限界生産物を上昇 させ るとい う 設定が示 しているように、 この企業のメ ンバーは他のメ ンバ ーの就業行動か ら の外部効果を被 っている。企業に属す る二人の労働者を取 り出 した とき,各人 の生産性 は相手の離職行動 に依存 してお り,相手の在職の意思が上昇す ること が相互の限界生産物ではか ったペイオフを上昇 させ るという意味で, この企業 の労働者 は相互 に戦 略的補完の関係 にあることが見て取れ るだ ろ う8)。 外部 経済 に関す る基本的文献が教え るよ うに,外部効果の存在す る状況では個 々人 は自身の経済行動 に関 して,私的利益のみを勘案 して行動す るため社会的資源 配分 は非効率的な ものにな らざるをえない。効率的資源配分のためには ミッシ

ング ・マーケ ッ トを顕示的な市場 として成立 させ る主体が存在す ることが社会 的に見て望ま しいとい うことになる。本論分の文脈で はこのよ うな相互 の外部 経済を賃金政策 によって内部化す るコーディネーターとして企業が現れている

のである。

5.モデルの含意

この節では本稿のモデルが示唆す る日本的雇用慣行の分析上のイ ンプ リケー シ ョンについて箇条書 き的に記述 してみたい。

5‑1.定年制

定年制の存在 は,経済学的には一つの謎であった。 もっとも通俗的な定年制 の説明は年齢を加えるにつれ労働者の生産性 は低下す るために企業 にとってそ うした人物の存在 は利益を生 まない もの となる 従 って解雇を行 うとい うもの

8)応用経済学的文脈で戦略的補完性 を紹介 した代表的論文 にRussellandJohn[8]

が あ る。

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である。 しか し, これは合理性を持たない,そ もそもマーケ ッ トで取引される ものは労働サー ビスであ り, 1単位の価格が決 まっているのであれば生産性の 低い労働者 とはすなわち労働サービスを少ない単位所有 しているとい うことで あるか ら,賃金の切 り下げによって生産性の低下 は利潤の問題 とは無関係 とな るか らである。それに対 してやLazear [4] は,怠業の可能性のある労働者 に就業上のモラルを与えるイ ンセ ンティブ ・メカニズムとして定年制が存在す ると主張 した。すなわち労働者の生産物の一部を対価 として支払わずに,蓄積 しておき, もし怠業が発見 された場合は,それを支払 うことな く解雇す る れは労働者 に労働規律の徹底を促すが,生産物の支払いの先送 りが上昇す る賃 金プロフィール として設定 され るな らば,ある時点か ら労働者が受 け取 る賃金 は彼の一時点の限界生産物を越えることとなる。 この超過分の総和が,若年期 の未払いの部分の総和 と一致 した時点で,企業 は総額 として労働者の生産物を 全て対価 として支払 ったことにな り, これ以降現状の限界生産物を越えた賃金 を支払 う動機を持たない。限界生産物に均等な賃金 は支払いうるがそのような 賃金政策 は労働者の怠業を抑止で きないため企業 にとって最適な政策 は解雇 と 言 うことになる

しか しこれはいわば労働者のモラルが基本的に低い状況下で,いわば制度的 貯計を設 けて労働規律を強制す ると言 った要素が強 く, 日本の経験的現状 とは 必ず しも相いれるようには思われない。 これに対 して本モデルの文脈で定年制 を解釈すれば次のようになるだろう。

企業 に在職 し続 ける労働者 はグループに対す る知識 を蓄積す ることによっ て,正の外部経済を企業の収益にもた らす。ある一時点を取 ってみた場合,企 業は複数の世代を同時に雇用 している。そのとき各世代 に企業が支払 う在職を 維持するための補償所得部分 は,途中で とぎれ ることのない継続的雇用が意味 を持っ とす るな ら,翌年以降の在職のための必要条件であり,企業にとっての 長期的な所得流列‑の投資 としての意味を持 ところで, この投資の収益率 が加齢に関 して逓減的であった り,高齢 による疾病などを理 由とす る休職,過 職,死亡の確率が相対的に高まるとすると,ある高齢世代 にたいす る 1円あた

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りの投資収益率 は若年世代に対す るものに対 して不利 になるだろう 新規採用 者 はその時点では,今 まで見たような外部経済効果 はゼ ロであるが,効率賃金 による割引現在価値で評価 した投資の限界効率が,加齢 してい く労働者のある 年齢 におけるもの と一致す るとす ると,企業 にとっては今まで継続 して きたそ の年齢の労働者への投資を新規雇用者 に対す るものに代替す ることが合理的行 動であると言 うことになる。すなわち企業 はある時点で効率賃金を前提 とした 長期契約の関係を破棄す る動機 を持つ。このよ うな解釈 は,巨大な組織を持ち, それ故その効率的編成を迫 られ る大規模企業の状況を勘案す るとき,モラルの 達成 とい う説明よ りは説得的であると思われ る。

5‑2.日本的経営の性格

日本的経営の特徴 は家族主義的であると言 うところに求め られて きた。 これ は等価な交換を基礎 とした利益共同体的な関係でな く,む しろ互酬 と言 う言葉 によって特徴づけ られ るよ うな肉親的小集団が社会の枢要な組織である社会で 兄いだ され るような関係が 日本的経営の本質であるとい うことであろ う 互酬 制の特徴 は社会的関係 において,一定期間内に等価な交換が行われ ることを重 視せず,む しろ各人の財の供給 と対価の均等 よりは,共同体成員の必要 に応 じ た資源配分を優先す ることであろう 私が ここで紹介 した限定的モデルはこの よ うな性格 を十分 に表現 しているとはいいが たいが,企業 の投資決定 とい う

必要」に対 して労働者がそれに適応的に努力を供給 した り,労働者間の協調 的関係を企業が政策的に創造 しよ うと介入す るとい う関係 は,先に紹介 した怠 業 とその監視 とい う文脈か らの 日本的雇用慣行 の説 明よ りは,現実 に近 い と 言 って良 いよ うに思 う

5‑3.終身雇用の崩壊

いかなる時代 ・地域 において も日雇 いのよ うな短期雇用が雇用労働の全てで あるということはないだろ う 従 って終身雇用の崩壊 と言 うとき,それは平均 在職期間の相対的短縮 と言 うことにとどまるはずである しか し社会 における

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技術導入 ・組織編成 ・長期雇用 175

知的資本蓄積が進み,技術開発の能力 において最先進地域 に 日本が成 るとす る な らば,それは企業の投資行動がそのよ うな専門的技能に対 して相対的収益率 の増大を兄いだす と言 うことになるのであるか ら,離職率の抑止の動機 は相対 的に低下 していき,その結果 としての短期雇用者の相対的増大を予想す ること は理論的に整合的であると言える

5‑4.学歴社会

大規模企業 は高学歴者を積極的に採用 しよ うとす ることが知 られている。こ れを現在の文脈 に沿 って考えてみよ う。本稿 のモデルで は企業 は労働者の仕事 の強度 に対す る選好上 の評価を知 ることが 出来ず,確率的離職 にさ らされ ると 言 う設定 にな っていた。しか し企業が積極的に組織変革を行い技術革新を行 っ てい こうとす るとき,それに伴 う労働努力の要請 はきわめて大規模の もの とな ることが予測 され るだろ う。そ うした とき企業 は離職率の抑止 のために特 に労 働強度 に耐性の強い ものを選抜す る動機 を持っ ことになる。学歴社会 において 上位に生 き残 った ものが相対的に苦痛 に対す る忍耐 に優れた ものであるとす る な ら,大規模企業 は高学歴者 を選抜 しよ うとす る動機を持つ ことにな るだ ろ

う 9)0

6.

本論分では,従来の特殊人的資本理論 に基礎 を置 く日本的雇用慣行の分析 に 対 し,それを批判的に検討 しなが ら新 しい視点の提 出につ とめて きた。 しか し 本稿は未だ中間報告であ り,取 り組むべ き多 くの論点が残 されている。た とえ ば論文を通 じてパ ラメーターとして扱 って きた技術導入のための投資 は, 自主 的な開発 も選択肢 に含 めた企業の意思決定行動 として記述 されねばな らないで あろ うし,何 よ りも仮説の実証的検証が行われなければな らない。 ここで行 っ

9)この種の応用例 としては他に,2重労働市場おける部門内 ・部門間労働移動のパ ターン,部門間賃金格差の景気に対する反応の性格,内部昇進制や下請け制の経済 学的根拠などを考えることが出来るがここでは割愛する。

(16)

た議論を踏み台 としてそれ らの課題の解明につ とめていきたいと思 う

[1]Becker,G.S.,HuTnanCapital,A Theoretialand ETnPiricalAnalysys, WithSpecialReferancetoEducation,2nded,NBER,1975.

[2]Chum,H."Pensions,WageProfilesand RetirementRules:Specific HumanCapitalApproach",JournalofEcoTWTnicDynaTnicsandCon‑

trole,1987,Vol.ll.

[3]flashimoto,M.,"BonusPayments,"On‑TheJob Training,and Life‑

timeEmploymentin Japan",JournalofPoliticalEconomy,October 1979.

[4] Lazear,E.P.,"Agency,Earnings Profiles,Productivity and Hours Restrictions".AmericanEcoTWTnicReview",Febururary1983.

[5]中村健一,「日本的雇用慣行 と特殊人的資本再考 一新 たな理論‑向けての覚 え書 き」商学討究,第43巻,第3・4合併号.

[6]Ohashi,I.,"Wage Profiles,Layoffs and SpecificTraining",Interna ‑

tionalEconoTnicReview,Feburuary1983.

[7] Russell,C., and A. John, "Coodinating Coodination Failures in KeynsianModel'',QuartaryJournalofEconoZnics103,August1988.

[8] Shapiro,C.,and J.E.Stigritz, "Equiribrium Unemployment as a WorkerDiciplineDevice",American EconomicReview,Vol.74,June, 1984.

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