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適格組織再編に対する課税繰延べは 税制を中立にするか

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(1)

適格組織再編に対する課税繰延べは 税制を中立にするか

―少ない負担で多くの税収を得るための条件―

芳 賀 真 一

.序論

( )論文の目的

この論文では、企業組織再編成税制 における課税繰延べを正当化できる かを、中立性の観点だけから考察する。

適格組織再編に対する課税繰延べは、企業の行動に租税が与える歪みを小 さくし、租税によって生み出される超過負担を小さくするのだろうか。

この論文では、具体的には、次の二つのことを試みる。一つは、課税繰延 べが企業行動に影響を与えるメカニズムを特定することである。もう一つは、

それらのメカニズムを合わせて考え、課税繰延べが超過負担を小さくする条 件を特定することである。

福岡大学法学部講師

企業組織再編成税制については、水野忠恒『租税法(第 版)』 頁( )を参照。

アメリカの組織変更税制については、同『アメリカ法人税の法的構造』( )を参照。

(2)

( )租税の中立性

租税は、中立であること、すなわち、できるだけ個人や企業の経済活動に おける選択に影響を与えないようにすることが望ましいとされる 。

なぜなら、中立ではない税制は、個人や企業の選択を歪めてしまい、市場 による効率的な資源配分を損なってしまうからである。その結果、得られる 税収より大きい負担、すなわち超過負担 を社会に負わせてしまう。

超過負担が生じる理由は、人々が税負担を逃れるために行動を変更してし まうことにある。租税は、人々に二つの費用を負わせる。一つは、租税を支 払う費用である。しかし、この費用は、その大きさの分だけ税収を増加させ る。もう一つは、税負担を逃れるために行動を変更する費用である。この費 用は、行動を変更した人にとっては負担であるけれども、税収を増加させな い。つまり、税収の増加につながらない、純粋な社会的な費用となる。この ように、租税が人々に行動を変更させる費用を負わせるとき、租税による負 担はその費用の大きさの分だけ税収よりも大きくなる。

中立ではない税制、すなわち個人や企業の行動を歪めてしまう税制におい ては、大きい負担で小さい税収しか得ることができない。一方で、中立な税 制、すなわち個人や企業の行動を歪めない税制においては、相対的に、小さ

税制調査会「わが国税制の現状と課題− 世紀に向けた国民の参加と選択」 頁( )。

Richard A. Musgarave, Peggy B. Musgrave, Public Finance in Theory and Practice, 5thed. at 216 (1989). Michael J. Graetz, Deborah H. Schenk, Federal Income Taxation, 5thed. at 27 (2005).

Boris I. Bittker, Lawrence Lokken, Federal Taxation of Income, Estates and Gifts, 2nded. vol.1, at 3-13 (1981). Joseph E. Stiglitz, Economics of the Public Sector, 3rded. at 458 (2000). J・E・ス ティグリッツ(藪下史郎訳)『公共経済学(第 版)』下巻 頁。

超過負担(excess burden)、あるいは、死重損失・死荷重(deadweight-loss)とも呼ばれる。

N・グレゴリー・マンキュー(足立英之他訳)『マンキュー経済学Ⅰミクロ編(第 版)』

頁。租税が超過負担を生み出すことについての分かりやすい例は、ポール・クルーグマン、

ロビン・ウェルス(大山道弘他・訳)『ミクロ経済学』 頁( )にある。

(3)

い負担で大きい税収を得ることができる 。

( )適格組織再編に対する課税繰延べ

適格組織再編を行うときには、資産を移転しているにもかかわらず、移転 した資産に対する課税が繰延べられる。

資産を移転したときには、移転した資産の値上がり益に対して課税される のが原則である。売買等によって資産を移転するときには、その資産の値上 がり益が実現し、課税される 。組織再編 によって資産を移転するときも、

その資産の値上がり益が実現し、課税される 。

しかし、一定の要件を満たした適格組織再編 については、移転した資産 の値上がり益に対する課税が延期される。

適格組織再編に対して課税が繰延べられる理由は、利益の継続性にあると 説明される 。この説明によると、一定の組織再編においては、もとの所有 者あるいはその株主が資産を受け取った法人に対する利益を継続しており、

中立の原則は、租税の効率性を実現するための原則の一つである。中立の原則と公平の原則 は混同されることが多いが、この二つは全く異なるものである。Graetz & Schenk, supra note 2, at 27.

所得税法 条 項、 条 項、法人税法 条 項。

ここで、組織再編とは、合併・分割・現物出資・現物分配・株式交換・株式移転のことをい うものとする。法人税法 条。

法人税法 条・ 条、 条 項・ 項。

適格組織再編に該当するためには、「企業グループ内の組織再編成」と「共同事業を行うた めの組織再編成」のどちらかに該当し、かつ、移転資産の対価がすべて資産の移転を受ける 法人の株式であることが条件となる。法人税法 条 号の の から 号の を参照。

水野・前掲注 )『租税法』 頁。

水野・前掲注 )『アメリカ法人税の法的構造』 頁。Cortland Speciality Co. v. Commis- sioner, 60 F2d 937 (2d cir. 1932), Pinellas Ice & Cold Shortage Co. v. Commissioner, 287 U.S.

462. 税制調査会法人課税小委員会「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本 的考え方」( ) 頁。

(4)

資産の移転が形式的なものにすぎないと見ることができる 。したがって、

そのような場合に課税するのは適切ではないとされる 。

( )課税繰延べに期待されていること

適格組織再編について課税を繰延べることについては、組織再編を租税が 阻害してしまうという歪みを解消することが期待されている 。つまり、課 税繰延べには、租税を中立にすることが期待されている。

組織再編によって資産を移転するときに課税されるならば、企業は組織再 編を控えるようになってしまうかもしれない。つまり、組織再編に対する課 税は、企業の行動を歪めてしまい、税制を中立ではなくしてしまう。

そこで、適格組織再編に対して課税を繰延べることで、組織再編を租税が 抑制してしまうという歪みを部分的に解消することが期待されている。つま り、課税繰延べには、企業の行動に租税が与える歪みを部分的に解消し、税 制を中立に近づけることが期待されている。

この利益の継続性に基づく説明は、十分に説得的なものではないかもしれない。なぜなら、

利益の継続性のある取引に対する課税を繰延べることによって得られるメリットを具体的に 説明していないからである。利益の継続性という概念は抽象的であるかもしれない。実際に、

どのような取引について利益の継続性が認められるのかという問題は、多くの紛争を生み出 してきた。課税を繰延べるべき取引と課税を繰延べるべきではない取引とを区別する基準と しても、十分に機能しているとは言えないかもしれない。Milton Sandberg, The Income Tax Subsidy to “Reorganization”, 38 Colum. L. Rev. 98, 100 (1938), Steven A. Bank, Mergers Taxes, and Historical Realism, 75 Tul. L. Rev.1, 14 (2000).

水野・前掲注 )『租税法』 頁。金子宏『租税法(第 版)』 頁( )。ジョン・K・

マクナルティ(赤松晃訳)「米国における企業組織再編に係る連邦所得税の基礎理論」租税 研究 号 頁( )。国際的組織再編における課税繰延べについても、吉村政穂「国際的 組織再編をめぐる課税問題−日米比較を中心に−」租税法研究 号 頁。同種の資産の交換 における課税繰延べについて、Klein, Bankman, Shaviro, Federal Income Taxation, 12thed. at 224 (2003).

(5)

( )問題提起

資産を移転する取引のうち適格組織再編についてのみ課税を繰延べること は、本当に税制を中立にするのだろうか。適格組織再編に対する課税繰延べ は、企業行動に租税が与える歪みを小さくするのだろうか。そして、租税に よる超過負担を小さくするのだろうか。

確かに、適格組織再編について課税を繰延べることには、組織再編を租税 が阻害してしまうという歪みを解消する効果がある。組織再編によって資産 を移転するときに課税されるならば、企業は組織再編を控えるようになって しまう。つまり、組織再編に対する課税には、企業の行動を歪めてしまい、

税制を中立ではなくしてしまう効果がある。ここで、適格組織再編に対して 課税を繰延べれば、組織再編を租税が抑制してしまうという歪みを部分的に 解消できる。つまり、課税繰延べには、企業の行動に税制が与える歪みを部 分的に解消し、税制を中立に近づける効果がある。

一方で、適格組織再編に対する課税繰延べは、資産を移転する他の取引か ら適格組織再編へと取引を変更させ、かえって租税を中立ではないものにす るかもしれない 。資産を移転したときには、その資産の値上がり益が実現 したものとされ、課税される。ここで、適格組織再編によって資産を移転す るときに課税が延期されるならば、いくつかの企業は他の形式で行おうと 思っていた取引を適格組織再編に変更しようとするかもしれない。そうであ るならば、適格組織再編に対する課税繰延べは、企業の行動を歪めてしまい、

超過負担を生み出してしまう。

つまり、適格組織再編に対する課税繰延べは、適格組織再編を租税が抑制 するという歪みを解消するものの、他の課税される取引から適格組織再編へ 水野・前掲注 )『アメリカ法人税の法的構造』 頁。Jerome R. Hellerstein, Mergers, Taxes, and Realism, 71 Harv. L. Rev. 254, 279 (1957)

(6)

と取引を変更させるという歪みを生み出してしまう 。

では、適格組織再編に対する課税繰延べは、本当に税制を中立にするのだ ろうか。課税繰延べが解消する歪みと課税繰延べが生み出す歪みとでは、ど ちらが大きいのだろうか。課税繰延べは、どのような場合に、租税による歪 みを小さくするのだろうか。

( )この論文で行うこと

この論文では、中立性の観点のみから考察する。

公平の観点・簡素の観点・効率の観点も大事であるが、本論文では中立性 の観点に絞ることにする。

すなわち、課税繰延べが、租税による歪みを小さくし、超過負担を小さく し、税制を少ない負担で多くの税収を得ることのできるものに近づけるか、

という観点から検討する。

第一に、この論文では、課税繰延べが企業行動に与える影響を特定する。

まず、これまで指摘されてきた影響について説明する。

同じ問題は、ビールと発泡酒に対する課税においても見ることができる。ビールと発泡酒に 対する課税は、ビールと発泡酒の消費を抑制することで、超過負担を生み出してしまう。で は、このうち発泡酒だけ課税を免除することによって、租税による歪みは小さくなるのだろ うか。確かに、課税のために発泡酒を飲まなかった人が発泡酒を飲むようになるので、租税 による歪みを小さくする効果があるといえる。一方で、発泡酒だけ免税することによって、

これまでビールを飲んでいた人が発泡酒を飲むようになるかもしれない。そうであるならば、

租税による歪みを新たに生み出してしまうことになるのかもしれない。つまり、発泡酒だけ 税金を安くすれば、発泡酒の消費を租税が抑制するという歪みを解消できる。一方で、発泡 酒だけ税金を安くすれば、ビールから発泡酒へ消費を変更させるという歪みを生み出してし まう。

ビールと発泡酒の課税においては、ビールから発泡酒への代替効果が問題にされることが 多い。一方で、組織再編税制においては、非適格組織再編から適格組織再編への代替効果が 問題とされることがほとんどない。

(7)

次に、これまで指摘されてこなかった影響、あるいは、これまで重要視さ れてこなかった影響も明らかにする。一つは、課税繰延べによる税収の減少 を補おうとすれば新たな歪みを生じさせてしまうというものである。もう一 つは、適格組織再編に対する課税繰延べによって、ある適格組織再編から他 の組織再編へと取引の変更を税制が促してしまう効果を解消できるというも のである。さらに、含み損のある資産を移転することに対する影響のいくつ かも示す。

第二に、この論文では、課税繰延べが企業行動に与える影響を踏まえて、

組織再編に対する課税繰延べがトータルとして超過負担を小さくするかどう かを考察する。

まず、これまでの課税繰延べを中立性の観点から正当化しようとする試み を紹介し、その問題点を示す。Shaviro による課税弾力性の違いに基づく説 明 と Weisbach による取引相互間の代替効果に基づく説明 を紹介する。そ して、それぞれの問題点を指摘し、反証となる例を示す。

次に、少ない負担で多くの税収を得るためには、課税対象となる取引がど のくらいの割合で減少するかに注目して課税方法を決定すべきであることを 示す。すなわち、課税繰延べをやめることによって、超過負担がどのくらい 増加し、税収がどのくらい増加するか、が大事であることを示す。超過負担 の増加量を推計するには、適格組織再編に課税することによる「適格組織再 編の減少数」から「他の資産を移転する取引の増加数」を引いた数が指標と なる。税収の増加量を推計するには、「適格組織再編に課税しないときの適 格組織再編の数」から適格組織再編に課税することによる「適格組織再編の 減少数」を引き「他の資産を移転する取引の増加数」を加えた数が指標とな

Daniel N. Shaviro, An Efficiency Analysis of Realization and Recognition Rules under the Federal Income Tax, 48 Tax L. Rev. 1 (1992)

Weisbach, An Efficiency Analysis of Line Drawing in the Tax Law, 24 J. L. Stud. 71 (2000).

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る。この二つの数の比が、適格組織再編を中立性の観点から正当化するため に重要になる。

.課税繰延べは企業行動にどのような影響を与えるのか。

( )租税が超過負担を生み出すメカニズム

① 租税による歪みと超過負担

租税は、個人や企業の経済活動における選択に影響を与えるとき、超過負 担を生み出してしまう 。すなわち、租税は、中立ではないとき、税収を超 える負担を社会に負わせてしまう。その結果、大きい負担で小さい税収しか 得られなくなってしまう。

超過負担が生じる理由は、人々が税負担を逃れるために行動を変更してし まうことにある。租税は、人々に二つの費用を負わせる。一つは、租税を支 払う費用である。もう一つは、租税を免れるために行動を変更する費用であ る。このうち、後者の費用が、税収を超える負担、つまり超過負担となる。

租税を支払う費用は、超過負担とはならない。なぜなら、租税の支払いは、

その分だけ税収を増加させるからである。租税の支払いは、納税者から政府 へのお金の移動に過ぎず、社会全体としては費用ではない。

この租税を免れるために行動を変更する費用は、超過負担となる。なぜな ら、人々が租税を免れるために行動を変更することにかかる費用を負担した としても、税収は増えないからである。租税を免れるために行動を変更する

Stiglitz, supra note 2, at 458. Harvey S. Rosen, Ted Gayer, Public Finance, 9thed. at 329 (2010).

スティグリッツ・前掲注 ) 頁。マンキュー・前掲注 ) 頁。

See, R. A. Musgrave, A Brief History of Fiscal Doctrine, in Handbook of Public Economics, at 26 (1985), Arnord C. Harberger, The measurement of Waste, 54 Am. Econ. Rev. 58 (1964).

(9)

費用は、人々の負担であっても税収の増加にはつながらない、純粋な社会的 費用となる。

租税を免れるために行動を変更する費用とは、行動を変更することにかか る費用であることもあれば、行動の変更の結果として生じる費用であること もある 。いずれにしても、人々が租税によって行動を変更するときには、

たとえ租税を支払っていなくても、租税によって不幸せになっている。なぜ なら、租税がない場合にとっていた行動、つまり最も好ましかった行動をあ きらめ、それよりも劣る行動をとらされているからである。

このように、租税は、個人や企業の行動を変更させてしまうとき、超過負 担を生み出してしまう。

このことは、以下のように表わすことができる。

租税による負担( )は、租税の支払い( )と行動を変更する費用( ) との和である。

= +

ここで、租税の支払い( )と税収( )は等しい。

ゆえに、租税による負担( )は、税収( )と行動を変更する費用( ) との和となる。

= +

したがって、租税による負担( )は、税収( )より大きくなる。

なお、租税による負担( )と税収( )との差は、行動を変更する費用

( )となる。

例えば、租税を免れるために海外に移住するケースを考えてみよう。このとき、海外に移住 する費用は二種類が考えられる。一つは、海外への引っ越しにかかる費用である。もう一つ は、海外での生活費の増加である。あるいは、生活の不便さである。

(10)

− =

② 超過負担の大きさの推定

(ⅰ)租税による超過負担の大きさは、租税を免れるために行動を変更する 費用の総和である 。

(ⅱ)超過負担の大きさは、行動の変更 件当たりの費用に、変更された行 動の数を乗じた額で表わされる。

超過負担の大きさ( )は、行動の変更 件当たりの費用( )に、変 更された行動の数(Δ )を乗じた額で表わされる 。

×Δ

(ⅲ)超過負担の大きさは、税額の 分の に、変更された行動の数を乗じ た額で表わされる。

超過負担の大きさ( )は、税額( )の 分の に、変更された行動の 数(Δ )を乗じた額で表わされる 。

例えば、ビールへの課税による超過負担の大きさは、ビールを飲むのをやめたり、ビール以 外のものを飲むことで我慢したりすることによって生じる費用の総和である。こうした行動 をとった人は、租税は支払っていないけれども、もとの価格でビールを飲むことができない ことによる不利益を被っている。

例えば、ビールへの課税による超過負担の大きさは、ビールの消費を 本あきらめることに よって生じる費用に、課税によるビールの消費の減少数との積で表わされる。ビールの消費 を 本あきらめることによる費用が 円で、ビールの消費の減少が 万本であるならば、

超過負担の大きさは 億円となる。

Stiglitz, supra note 2, at 525. Rosen, supra note 15, at 343. スティグリッツ・前掲注 ) 頁。

貝塚啓明『財政学(第 版)』 頁( )。

(11)

×Δ

なぜならば、租税を免れるための行動変更 件あたりの費用の平均( を、税額( )の 分の で表わすことができるからである。

課税されたときに行動を変更するということは、行動を変更することによ る費用が 円以上・税額以下であるということになる。行動を変更する費用 が 円未満であるならば、課税される前から行動を変更しているはずである。

また、費用が税額よりも大きいならば、課税後も行動を変更しないはずであ る。

行動を変更する費用が 円以上・税額以下の範囲に均等に分布すると仮定 すれば、行動変更 件あたりの費用の平均( )は税額( )の 分の となる。

これを、(ⅰ)の超過負担の大きさの式に代入する。

×Δ ×Δ

したがって、超過負担の大きさは、税額( )の 分の に、変更された 行動の数(Δ )を乗じた額で表わされる 。

例えば、ビール 本に 円の税金をかけてビールの需要が 万本減ったとすると、この税 金による超過負担の額は 億円になる。

ビールの消費を 本あきらめることによって生じる費用は、 円から 円までの間に分 布する。なぜなら、ビールをあきらめる費用が 円未満であるならば課税前もビールを飲ん でいなかったはずであるし、 円以上であるならば課税後もビールを飲むはずであるから である。

もし費用が 円と 円の間に均等に分布するならば、その平均は 円ということになる。

つまり、税額の 分の となる。

これに需要の減少量 万本を乗じて、 億円が超過負担の額ということになる。

(12)

( )従来から指摘されている課税繰延べの影響

① 適格組織再編を租税が抑制するという歪みを解消できる。

(ⅰ)歪みを解消するメカニズム

適格組織再編に対する課税繰延べは、適格組織再編を租税が抑制するとい う歪みを解消する 。

組織再編に対する課税は、組織再編を抑制するという形で、企業の行動を 歪めてしまう。組織再編によって資産を移転するときに課税すると、ある企 業は組織再編を行わなくなるだろう。また、別のある企業は、組織再編にか えて他の取引を行うことで、資産を移転するだろう。このように、組織再編 に対する課税は、企業行動を歪めてしまう。

その結果、組織再編に対する課税は、超過負担を生み出してしまう。租税 を逃れるために組織再編をやめるときには、その企業は行動を変更する費用 を負うことになる。租税がない場合にとっていた行動、つまり最も好ましかっ た行動をあきらめ、それよりも劣る行動をとらされているからである。組織 再編をやめることによる費用は、その企業の負担ではあるけれども、税収に はならない。つまり、超過負担となる。

適格組織再編に対して課税を繰延べるならば、組織再編を租税が阻害して しまうという歪みの一部を解消できる。なぜなら、適格組織再編について課 税を繰延べるならば、適格組織再編については租税のためにやめることはな くなるからである。したがって、租税が適格組織再編を抑制することで生じ ていた超過負担を解消できる。

このように、適格組織再編に対する課税繰延べには、企業の行動に租税が 与える歪みを部分的に解消し、税制を中立に近づける効果がある。

水野・前掲注 )『租税法』 頁。金子宏・前掲注 ) 頁。ジョン・K・マクナルティ・

前掲注 ) 頁。

(13)

(ⅱ)解消する超過負担の大きさ

適格組織再編に対する課税による超過負担の大きさは、税額 ( )の 分の に、変更された行動の数(Δ )を乗じた額で表わすことができる。

つまり、適格組織再編に対する課税が適格組織再編を抑制することで生じる 超過負担の大きさは、適格組織再編にかかる税額( )の 分の に、適格 組織再編が減少する数(Δ )を乗じることで、推計することができる。

×Δ

仮に、適格組織再編をした場合に 億円の税負担が発生し、この税金を避 けるために 件の適格組織再編が行われなかったとする。このとき、超過 負担の額は、 億円であると推測される。

しかしながら、適格組織再編が解消する超過負担の大きさを正確に算定す るのは、困難である。なぜなら、組織再編において課される税額は、移転す る資産の含み益の大きさによって、まちまちであるからである。

② 他の課税される取引から適格組織再編へと取引を変更させるという歪 みを生み出してしまう。

(ⅰ)歪みを生み出すメカニズム

適格組織再編に対する課税繰延べは、他の課税される取引から適格組織再 編へと取引を変更させるという歪みを生み出してしまう 。非適格組織再編 から適格組織再編へと取引を変更させるという歪みも、これに含まれる。

適格組織再編に対する課税繰延べは、資産を移転する他の取引から適格組 本来は、「税額」ではなく、「課税されることによって追加的に増える負担」でなくてはなら ない。ここでは、説明の簡略化のため、「税額」と表現しておく。

水野・前掲注 )『アメリカ法人税の法的構造』 頁。Hellerstein, supra note 13, 279. Ulysses S. Crocket, Jr., Federal Taxation of Unifications: A Review of Legislative policy, 15 Duq. L.

Rev. 1, 19 (1976).

(14)

織再編へと取引を変更させるという形で、企業行動を歪めてしまう。資産を 移転したときには、その資産の値上がり益が実現したものとされ、課税され る。ここで、適格組織再編によって資産を移転するときに課税が延期される ならば、いくつかの企業は他の形式で行おうと思っていた取引を適格組織再 編に変更しようとするかもしれない。そうであるならば、適格組織再編に対 する課税繰延べは、企業の行動を歪めてしまうことになる。

その結果、適格組織再編に対する課税繰延べは、超過負担を生み出してし まう。租税を逃れるために組織再編を行うときには、その企業は行動を変更 する費用を負うことになる。租税がない場合にとっていた行動、つまり最も 好ましかった行動をあきらめ、それよりも劣る行動をとらされているからで ある。組織再編を行うことによる費用は、その企業の負担ではあるけれども、

税収にはならない。つまり、超過負担となる。

このように、適格組織再編に対する課税繰延べは、企業の行動を歪めてし まい、超過負担を生み出してしまう。

(ⅱ)歪みの大きさの推定

適格組織再編に対する課税繰延べがもたらす超過負担の大きさは、税額

( )の 分の に、変更された行動の数(Δ )を乗じた額で表わすこと ができる。つまり、他の資産を移転する取引に課される税額( )の 分の

に、適格組織再編が増加する数(Δ )を乗じることで、推計できる。

×Δ

仮に、他の資産を移転する取引を行った場合に 億円の税負担が発生し、

新たに 件の適格組織再編が行われたとする。このとき、超過負担の額は、

億円であると推測される。

しかしながら、ここでも、適格組織再編に対する課税繰延べが生み出す超

(15)

過負担の大きさを正確に算定するのは、困難である。なぜなら、資産を移転 する取引において課される税額は、移転する資産の含み益の大きさによって、

まちまちだからである。

③ 適格組織再編に対する課税の繰延べは、企業組織への投資を促進する という歪みを生み出してしまう。

適格組織再編に対する課税の繰延べは、企業組織への投資を促進するとい う歪みを生み出してしまう 。

資産に対する投資は、他の投資よりも税負担が軽くなっている。資産から の所得は、所得が発生した時点ではなく、資産を移転した時点で課税される。

したがって、課税が延期される分だけ、資産への投資は、他の投資よりも有 利になっている。

適格組織再編による資産の移転について課税が繰延べられるならば、企業 組織への投資は他の投資よりも、有利になるだろう。なぜなら、企業組織へ の投資から生じる所得に対する課税が、より延期されやすくなるからである。

そうであるならば、適格組織再編に対する課税の繰延べは、企業組織への 投資を促進するという形で、企業行動を歪めてしまう。その結果、超過負担 を生じさせてしまう。

④ 適格組織再編に対する課税の繰延べは、含み損のある資産を組織再編 を通じて移転することを租税が促進してしまうという歪みを解消する。

適格組織再編に対する課税の繰延べは、含み損のある資産を組織再編に よって移転することを租税が促進してしまうという歪みを解消する。

組織再編に対する課税、すなわち組織再編時の損益の認識は、含み損のあ

Shaviro, supra note 15, 5.

(16)

る資産を組織再編によって移転することを促進させてしまう。なぜなら、損 失を早期に認識し計上することができれば、現在の税負担を減らし、課税の タイミングを遅らせることができるからである。

したがって、組織再編時の損失の認識は、含み損のある資産を組織再編に よって移転することを促進するという形で、企業行動を歪めてしまう。その 結果、超過負担が生み出してしまう。

適格組織再編に対する課税の繰延べ、すなわち組織再編時の損失の計上の 繰延べは、その歪みを解消する。

つまり、租税が含み損のある資産を組織再編によって移転することを促進 することによって生み出される超過負担を解消できる。

( )これまで重要視されてこなかった課税繰延べの影響

① 適格組織再編に対する課税の繰延べは税収を減少させ、その税収の減 少を補うために他に課税すれば新たな歪みを生み出す。

適格組織再編に対する課税の繰延べは税収を減少させ、その税収の減少を 補うために他に課税すれば新たな歪みを生み出す。

中立性について考える際には、同時に税収への影響についても考えなくて はならない。

もし税収への影響を考えないならば、超過負担を小さくする最も簡単な方 法は、税金を減らすこと、極端にいえば税金をゼロにすることになってしま う。なぜなら、あらゆる税金は何らかの形で人々の選択に歪みを与えるから である。それでは税金の目的は達成されない。

中立の原則の意味することは、同じ税収を集めるのにより歪みの少ない方 法があるならば、その方法をとるべきであるということである。中立性につ いて検討する際には、税収を減らさずに超過負担を小さくする方法を考えな くてはならない。

(17)

そうであるならば、課税繰延べによる税収の減少を他の税で補うときに生 ずる超過負担を、考慮に入れなくてはならない。

② 適格組織再編に対する課税の繰延べは、ある適格組織再編から他の資 産を移転する取引へと租税が取引を変更させるという歪みを解消する。

適格組織再編に対する課税の繰延べは、ある適格組織再編から他の資産を 移転する取引へと租税が取引を変更させるという歪みを解消する。ある適格 組織再編から別の適格組織再編へと取引を変更させるという歪みを解消する ことも、ここに含まれている。ある適格組織再編から別の組織再編へと取引 を変更させるという歪みを解消することも、ここに含まれている。

組織再編に対する課税は、課税される取引を抑制する歪みをもたらすだけ でなく、課税される取引から別の課税される取引へと取引を変更させる歪み ももたらす。

組織再編に対する課税は、ある組織再編から他の資産を移転させる取引へ と取引を変更させてしまう。ある適格組織再編から他の組織再編へと取引を 変更させてしまうことも、ある適格組織再編から別の適格組織再編へと取引 を変更させるという歪みも、ここに含まれている。組織再編を行うときの税 負担は、移転する資産の含み益の大きさによって決まる。そうであるならば、

組織再編のなかでも、税負担が大きい組織再編と税負担が小さい組織再編と があることになる。そうであるならば、組織再編に課税されるときには、大 きい税負担が課される組織再編にかえて小さい税負担しか課されない組織再 編へと行動を変更する企業があるかもしれない。このように、組織再編に対 する課税は、ある組織再編から他の組織再編へと取引を変更させてしまうと いう形で、企業行動を歪めてしまう。その結果、超過負担を生み出してしま う。

組織再編に対する課税を繰延べれば、ある適格組織再編から他の組織再編

(18)

へと租税が取引を変更させるという歪みを解消することができる。なぜなら、

どの適格組織再編を行ってもその時点においては課税されないため、どの取 引を行うかについて租税が企業行動に影響を与えなくなるからである。

③ 適格組織再編に対する課税は、含み損のある資産の移転について、様々 な影響を与える。

適格組織再編に対する課税繰延べ、組織再編時の損失の計上の繰延べは、

含み損のある資産の移転について、様々な影響を与える。

第一に、すでに述べたように、含み損のある資産を組織再編によって移転 することを租税が促進してしまうという歪みを解消する。

第二に、適格組織再編における損失の計上の繰延べは、含み損のある資産 を移転する際に、適格組織再編ではなく他の取引を行わせるという歪みを生 み出してしまう。適格組織再編において損失の計上が繰延べられるならば、

含み損のある資産を移転するときには、適格組織再編を使うよりも、他の損 失の計上ができる取引を選択したほうが、租税の支払いを延期できる。そう であるならば、適格組織再編における損失の計上の繰延べは、含み損のある 資産を移転する際の取引を変更させるという形で、企業行動を歪めることに なる。その結果、超過負担を生み出してしまう。

第三に、適格組織再編における損失の計上の繰延べは、企業組織への投資 を抑制してしまう。企業組織へ投資をして損失を出したとしても、その損失 を認識し計上する機会が少ないのであれば、企業組織への投資は他の投資よ りも不利になってしまう。適格組織再編における損失の計上の繰延べは、損 失の計上をする機会を減らすので、企業組織への投資を抑制してしまう。そ の結果、超過負担を生み出してしまう。

第四に、適格組織再編における損失の計上の繰延べは税収を増加させ、そ の分だけ何らかの減税を行えば、租税による歪みを減少させることができる。

(19)

中立性について考える際には、同時に税収への影響についても考えなくては ならない。

第五に、適格組織再編における損失の計上の繰延べは、含み損のある資産 を移転するときに、ある適格組織再編から他の適格組織再編へと取引を変更 させる歪みを解消できる。組織再編において損失の計上がなされる場合に、

その損失の計上額は移転する資産の含み損の大きさによって決まる。した がって、組織再編のなかでも、大きい損失を計上できる組織再編と小さい損 失しか計上できない組織再編とがあることになる。そうであるならば、組織 再編における損失の計上は、小さい損失を計上できる組織再編と大きい損失 しか計上できない組織再編へと取引を変更させるという形で、企業行動を歪 ませる。組織再編において損失の計上を繰延べることで、この歪みを解消す ることができる。

.課税繰延べが超過負担を小さくするのはどのようなときか。

( )小さい負担で必要な税収を得る方法

① 超過負担の大きさに影響を与えるもの

(ⅰ)超過負担の大きさ

超過負担の大きさは、税額( )の 分の に、変更された行動の数(Δ を乗じた額で表わされる。

×Δ

すでに述べたように、租税による超過負担の大きさは、租税を免れるため に行動を変更する費用の総和である。

すると、超過負担の大きさ( )は、行動の変更 件当たりの費用(

(20)

に、変更された行動の数(Δ )を乗じた額で表わされる。

×Δ

ここで、行動の変更 件当たりの費用( )は、税額( )の 分の と推定することができる。

なぜなら、課税されたときに行動を変更するということは、行動を変更す ることによる費用が 円以上・税額以下であることを意味するからである。

すると、行動を変更する費用が 円以上・税額以下の範囲に均等に分布する と仮定すれば、行動変更 件あたりの費用の平均は税額の 分の となる。

以上から、超過負担の大きさは、税額( )の 分の に、変更された行 動の数(Δ )を乗じた額で表わすことができる。

×Δ

(ⅱ)超過負担の大きさは、需要の減少量に比例する。

超過負担の大きさは、需要の減少量(Δ )に比例する。つまり、課税に よって需要を減少させてしまうほど、すなわち個人や企業の行動を歪めてし まうほど、超過負担は大きくなる。

超過負担の大きさは、税額( )の 分の に、需要の減少量(Δ )を 乗じた額で表わされる 。

×Δ

したがって、超過負担の大きさは、需要の減少量(Δ )に比例する。

例えば、ビール 本に 円の税金をかけてビールの需要が 万本減ったとする。このとき、

この税金による超過負担の額は 億円になる。

(21)

つまり、需要の減少量が 倍になれば、超過負担の大きさも 倍になる 。

(ⅲ)超過負担の大きさは、税額の 乗に比例し、課税 円あたりの需要の 減少量に比例する。

超過負担の大きさ( )は、税額( )の 乗に比例し、課税 円あたり の需要の減少量( )に比例する。

超過負担の大きさ( )は、税額( )の 乗に、課税 円あたりの需要 の減少量( )を乗じて、さらに 分の を乗じた額で表される 。

なぜなら、課税による需要の減少量(Δ )は、税額( )と課税 円あ たりの需要の減少量( )との積で表わされるからである。

Δ = ×

これを、(ⅱ)の式に代入する。

×Δ

したがって、超過負担の大きさ( )は、税額( )の 乗に比例し、課 税 円あたりの需要の減少量( )に比例する。

つまり、税額が 倍になると、超過負担の大きさは 倍になる。同様に、

例えば、グレープフルーツジュース 本に 円の税金をかけてグレープフルーツジュース の需要が 万本減ったとする。このとき、この税金による超過負担の額は 億円になる。

上のビールへの課税と比較して、需要の減少量が 倍になり、超過負担の大きさも 倍になっ ている。

例えば、ビールについては、価格が 円上昇するごとに、需要が 万本減少するとする。こ のとき、ビール 本に 円の税金をかけると、超過負担の大きさは 億円となる。

(22)

税額が 倍になると、超過負担の大きさは 倍になる 。

また、課税 円あたりの需要の減少量が 倍になると、超過負担の大きさ も 倍になる 。

(ⅳ)超過負担の大きさは、税率の 乗に比例し、価格弾力性に比例する。

超過負担の大きさ( )は、税率( )の 乗に比例し、価格弾力性(η に比例する。

ここで、価格弾力性(η)とは、価格( )が パーセント上昇した時に、

需要量( )が何パーセント変化するかを表わしたものである。需要量の変 化率(Δ / )を価格の変化率(Δ / )で割って求めることができる。

η=Δ Δ

超過負担の大きさ( )は、税率( )の 乗に、価格弾力性(η)を乗じ、

分の を乗じ、課税前の価格( )を乗じ、課税前の需要量( )を乗じ た額で表わされる 。

例えば、上の例と同じビールの税金を 円とすると、超過負担の大きさは 億円となる。

つまり、税額が 倍になると、超過負担の大きさは 倍になる。同様に、税額を 倍にすれ ば、超過負担の大きさは 倍になる。

また、例えば、グレープフルーツジュースについては、価格が 円上昇するごとに、需要が 万本減少するとする。このとき、グレープフルーツジュース 本に 円の税金をかける と、超過負担の大きさは 億円となる。つまり、課税 円あたりの需要の減少量が 倍にな れば、超過負担の大きさも 倍になる。

Rosen, supra note 17, 337. Stiglitz, supra note 2, 528. 貝塚・前掲注 ) 頁。スティグリッ ツ・前掲注 ) 頁。

ここでも、例として、ビールに対する課税で考えてみよう。もともとのビールの価格が 円、ビールの需要量が 万本、税率 %、ビールの価格弾力性が .(つまり税率が パー セント変化すると、需要量が パーセント変化する)であるとする。このときの超過負担の 大きさは 億円である。

(23)

η

このことは、以下のように説明できる。

(ⅱ)より、超過負担の大きさは、税額( )の 分の に、需要の減少 量(Δ )を乗じた額で表わされる。

×Δ

ここで、税率( )は、価格の変化率(Δ / )である。

Δ

価格弾力性(η)は、需要量の変化率(Δ / )を価格の変化率(Δ / ) で割って求めたものである。

η=Δ Δ

上の 式より、価格弾力性(η)に税率( )を乗じると、需要量の変化率

Δ / )が求められる。

η× =Δ

Δ ×Δ Δ

需要量の変化率(Δ / )に、課税前の需要量( )を乗じれば、需要の 減少量(Δ )になる。

Δ × =Δ

したがって、需要の減少量(Δ )は、課税前の需要量( )に、価格弾 力性(η)と税率( )を乗じた量であることになる。

Δ Δ × =(η× )×

(24)

また、税額( )は、課税前の価格( )に税率( )を乗じたものである。

= × これを(ⅱ)式に代入する。

Δ = ×( × )×(η× × )== η

以上から、超過負担の大きさ( )は、税率( )の 乗に、価格弾力性

(η)を乗じ、 分の を乗じ、課税前の価格( )を乗じ、課税前の需要量

( )を乗じた額で表わされる。

したがって、超過負担の大きさ( )は、税率( )の 乗に比例し、価 格弾力性(μ)に比例する。

つまり、税額が 倍になると、超過負担の大きさは 倍になる。同様に、

税額が 倍になると、超過負担の大きさは 倍になる 。

また、価格弾力性が 倍になると、超過負担の大きさも 倍になる。価格 の上昇 パーセントあたりの需要の減少割合が 倍になれば、超過負担の大 きさも 倍になる 。

② 課税によって需要が減少しにくい財に課税する。(価格弾力性の低い 財に課税する。)

価格弾力性の低い財に課税するほうが、価格弾力性の高い財に課税するよ 例えば、上のビールに %の税率で課税すると、超過負担の大きさは 億円となる。つま り、税率が 倍になると、超過負担の大きさは 倍になる。同様に、税率を 倍にすれば、

超過負担の大きさは 倍になる。

例えば、グレープフルーツジュースの価格弾力性が 倍であるとする。もともとのグレープ フルーツジュースの価格が 円、グレープフルーツジュースの需要量が 万本、税率 %、

グレープフルーツジュースの価格弾力性が .(つまり税率が パーセント変化すると、需 要量が パーセント変化する)であるとする。このとき、超過負担の大きさは 億円となる。

つまり、価格弾力性が 倍であると、超過負担の大きさも 倍になる。

(25)

りも、小さい負担で必要な税収を集めることができる。すなわち、課税によっ て需要が減少しにくい財に課税するほうが、課税によって需要が減少しにく い財に課税するよりも、効率的である 。

なぜなら、価格弾力性の低い財への課税は、超過負担が小さくなるからで ある。価格弾力性の高い財に対する課税は、大きな需要の減少につながる。

つまり、個人や企業の行動を歪めてしまう。したがって、超過負担を大きく する。これに対して、価格弾力性の低い財への課税は、相対的に、小さな需 要の減少にしかつながらない。つまり、個人や企業の行動に与える歪みが小 さい。したがって、超過負担を小さくする。

③ 薄く広く課税する。

薄く広く課税することによって、小さい負担で必要な税収を集めることが できる。すなわち、少ない財に高い税金を課すよりも、たくさんの財に低い 税金を課すほうが、小さい負担で多くの税収を得ることができる。

なぜなら、超過負担の大きさは、税額の 乗、あるいは税率の 乗に比例

例えば、ビールとグレープフルーツジュースに対する課税で考えてみよう。

もともとのビールの価格が 円、ビールの需要量が 万本、ビールの価格弾力性が .

(つまり税率が パーセント変化すると、需要量が パーセント変化する)であるとする。

一方、もともとのグレープフルーツジュースの価格が 円、グレープフルーツジュース の需要量が 万本、グレープフルーツジュースの価格弾力性が .(つまり税率が パー セント変化すると、需要量が パーセント変化する)であるとする。

このとき、グレープフルーツジュースに %の課税をすると、 億円の負担で 億円の 税収しか得られない。需要が、 万本減少し、 万本になる。税収は、 万本に 円を 乗じて 億円となる。負担は、租税を支払う負担 億円に超過負担 億円を加えた 億円と なる。

これに対して、ビールに %で課税をすれば、 億 万円の税収をたった 億 万円 の負担で集めることができる。

ビールへの課税は、それほど需要を減少させないので、相対的に低い税率で必要な税収を 集めることができる。需要への影響が小さいこと、税率が低いことから、超過負担が小さく なる。

(26)

するからである。その一方で、需要の減少量、あるいは価格弾力性には、単 に比例するだけであるからである。

例えば、税収を 倍にする二つの方法を考えてみよう。

一つの方法は、課税の対象となる財を 倍にすることである。価格弾力性 が等しいと仮定すると、課税対象を 倍にすることによって、需要の減少量 も 倍になる。その結果、超過負担の大きさも 倍になる。

もう一つの方法は、税額、あるいは税率を 倍にすることである。税額を 倍にすると、先に見たように、超過負担の大きさは 倍となる。

以上から、税収を 倍にするときには、課税対象を 倍にするほうが、税 額を 倍にするよりも、超過負担を小さくすることができる 。

例えば、ビールとワインに対する課税で考えてみよう。ビールだけに高い税率課税するので はなく、ワインにも課税することで、少ない負担で大きな税収を得ることができることを示 す。

仮に、もともとのビールの価格が 円、ビールの需要量が 万本、ビールの価格弾力 性が .(つまり価格が パーセント上昇すると、需要量が パーセント減少する)である とする。

ここでビールに %の税を課せば、 億円の負担で、 億円の税収を得ることになる。

ビールを 本あきらめる費用の平均は税額 円の半額 円であり、需要量は 万本減少 する。このとき、税収は需要量 万本に 円を乗じて 億円であり、超過負担は 本あき らめたときの費用 円に需要の減少 万本を乗じて 億円となる。税金を支払う費用と超 過負担を合わせた 億円の負担で、 億円の税収を得ることになる。

ここで、ビールの税率を %に下げて、ワインにも %で課税するようにすれば、少ない 負担でより多くの税収を得ることができる。

仮に、もともとのワインの価格が 円、ワインの需要量が 万本、ワインの価格弾力 性が .(つまり価格が パーセント上昇すると、需要量が パーセント減少する)である とする。

ここで、ビールに税率 %で課税する。すると、ビールを 本あきらめる費用の平均は税 額 円の半額 円であり、需要量は 万本減少する。このとき、ビールからの税収は需要 万本に 円を乗じて . 億円となる。超過負担は 本あきらめたときの費用 円に需 要の減少 万本を乗じて 万円となる。

一方、ワインについても同様に計算でき、税収が . 億円となり、超過負担が 万円と なる。

(27)

④ 課税によって需要が減少しにくい財に相対的に高い税率で、課税に よって需要が減少しやすい財に相対的に低い税率で、課税する。(価格 弾力性の逆比にしたがって課税する。)

(ⅰ)Ramsey の逆弾力性の法則による課税

課税によって需要が減少しにくい財に相対的に高い税率で課税し、課税に よって需要が減少しやすい財に相対的に低い税率で課税することで、小さい 負担で必要な税収を集めることができる 。

すると、ビールとワインを合わせて、税収 . 億円を、 . 億円の超過負担で集めるこ とができる。つまり、税金を支払う費用と超過負担を合わせた . 億円の負担で、 . 億 円の税収を得ることになる。

ワインにも課税することで、ビールだけに %の課税をしたときと比べて、 . 億円少 ない負担で . 億円多い税収を得ることができる。「広く薄く」課税する方針により、 億 円以上の費用を節約することができている。

例えば、ビールとグレープフルーツジュースに課税するときに、等しい税率で課税するより も逆弾力性の法則にしたがって差別的に課税したほうが好ましい場合がある。つまり、ビー ルとグレープフルーツジュースに同じ税率で課税するよりも、ビールの税率を少し高くした ほうが小さい負担で多くの税収を得ることができる場合がある。

グレープフルーツジュースの弾力性は、ビールの 倍になっているとする。もともとのグ レープフルーツジュースの価格が 円、グレープフルーツジュースの需要量が 万本、

グレープフルーツジュースの価格弾力性が .(つまり価格が パーセント上昇すると、需 要量が パーセント減少する)であるとする。

このとき、ビールに %で課税しグレープフルーツジュースに %で課税すると、どち らにも同じ税率で %の課税をするときと比べて、少ない負担で多くの税収を得ることが できる。

ビールとグレープフルーツの両方に %で課税すると、税収は 億円となり、超過負担 は 億円となる。つまり、税金を支払う費用と超過負担を合わせた 億円の負担で、 億円 の税収を得ることができる。

ビールに %で課税すると、需要が 万本減少し、 万本となる。 万本に税額 円を乗じて、税収が 億円となる。ビールをあきらめる費用は税額の 分の の 円であ り、これに需要の減少 万本を乗じて、超過負担が 億円となる。

グレープフルーツジュースに %で課税すると、需要が 万本減少し、 万本となる。

万本に税額 円を乗じて、税収が 億円となる。グレープフルーツジュースをあきらめ る費用は税額の 分の の 円であり、これに需要の減少 万本を乗じて、超過負担が 億円となる。

(28)

すなわち、一定の税収を異なる複数の財への課税で調達するためには、各 財の税率をその財の弾力性の逆数に比例するようにすべきであるとされる

(ラムゼイの逆弾力性の法則) 。

価格弾力性の逆比にしたがって課税することが、最も小さい負担で必要な 税収を集める方法、すなわち最適な課税方法になる。すでに述べたように、

価格弾力性の低い財に課税するほうが、価格弾力性の高い財に課税するより も、小さい負担で必要な税収を集めることができる。一方で、少ない財に高 い税金を課すよりも、たくさんの財に低い税金を課すほうが、小さい負担で 多くの税収を得ることができる。つまり、価格弾力性の低い財にも高い財に も等しく広く薄く課税することが必ずしも効率的ではないけれども、価格弾 力性の低い財にだけ課税することもまた効率的ではない。そこで、価格弾力 性の逆比にしたがって課税することが最適な課税方法となるというのがラム ゼイの法則である。

例えば、χ財と 財への 財への課税から税収を調達する場合で考えてみ よう。χ財への税率(χ)と 財への税率( )の比が、χ財の価格弾力性(ηχ の逆数と 財の価格弾力性(η)の逆数との比に等しいとき、最も少ない超

ビールに %の税率で課税し、グレープフルーツジュースに %の税率で課税すれば、

税収は . 億円となり、超過負担は . 億円となる。つまり、税金を支払う費用と超過負 担を合わせた . 億円の負担で、 . 億円の税収を得ることができる。

グレープフルーツジュースに %で課税すると、需要が 万本減少し、 万本となる。

万本に税額 円を乗じて、税収が . 億円となる。グレープフルーツジュースをあきら める費用は税額の 分の の 円であり、これに需要の減少 万本を乗じて、超過負担が

. 億円となる。

二つに異なる税率を用いることによって、同じ税率を用いたときと比べて、 万円少な い負担で . 億円多い税収を得ている。 億円以上の節約となっている。

Gareth D. Myles, Public Economics, at 101 (1988), Rosen, supra note 17, 353. Stiglitz, supra note 2, 563. スティグリッツ・前掲注 ) 頁。貝塚・前掲注 ) 頁。See, F. Ramsey, A Contribution to the Theory of Taxation, Economic Journal 37 (1927).

参照

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