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池 間 誠 著 『国 際 貿 易 の理 論 』

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池 間 誠 著

『国 際 貿 易 の理 論 』

、(ダ イ ヤ モ ン ド社 、1979年)190ペ ー ジ

佐 竹 正 夫

本 書 は 一 橋 大 学 で の 講 義 を も と に した 国 際 貿 易 論 の テキ ス トで あ る。 国 際 経 済 学 の教 科 書 は 内外 に 数 多 くあ るが,本 書 は そ の 中 で もき わ め て 異 色の テ キ ス トで あ る。 今 日 出版 され て い る テキ ス トの 多 くは,ヘ ク シ ャ ー ・オ リー ン ・サ ミュ エル ソ ン流 の 新 古典 派理 論 に 立 脚 して い る。 生 産 面 で は二 つ の 生 産 要 素 (労 働 と資 本)で 二 種 類 の財 が生 産 され る経 済 が 想 定 され る。 他 方 需 要 面 で は 社 会 的 無 差 別 曲線 が 採 用 され る。 本 書 で は こ の よ うな 経 済 は想 定 さ れ て い な い 。 も っ と単 純 な 経 済 が 仮定 され る。 そ れ は む しろ 古典 派 に近 い経 済 で あ る。

特 に 需 要 面 で は 従 来 あ ま り と り上 げ られ る こ との な か ったJ.S.ミ ル の 仮 定 を 採 用 して い る点 が 特 徴 的 で あ る。

ま た 従 来 の テ キ ス トで は,代 数 と幾 何 学,あ る い は 一 般 均 衡 分析 と部 分均 衡 分 析 が,分 析 の 目的 に 応 じて そ の都 度 利 用 され て い る。 両 者 の 問 の関 係 が そ れ ほ ど問 題 に な る わ け で は ない 。 しか し本 書 で はそ の よ うな 使 い 分 け は行 な わ れ て い な い。 一 つ の 一 般 均 衡 的 な モ デ ル が代 数 と幾 何 学 で 表 現 され,段 階 的 に 複 雑 に な りなが ら も,最 後 ま で採 用 され る と い う形 を と っ てい る。

本 書 の 分 析 の 内容 は 書 名 が 示 す よ うに 国 際 貿 易 に 関 して い るが,国 際 収 支 (貿 易 収 支)も 議 論 さ れ て い る。 しか しそ れ は 通 常 行 なわ れ る方 法 論 上 の 「 分 法 」 に よ る の で は な く,実 物 経 済 モ デ ル の 延 長 線 上 で 分 析 され てい る。 この 点 も本 書 の 大 きな 特 色 とい え る。

こ の よ うに 本 書 は従 来 の テ キ ス トとか な り異 な っ た ス タ イ ルを 採 って い る。

そ の た め,例 え ば新 古 典 派 理 論 や 国 際 経 済 学 の 「二 分 法 」 に慣 れ た 人 々は 本 書

(2)

120 第32巻 第1号

を 奇 異 に感 じるか も しれ な い 。 しか し他 方 で斬 新 な 印 象 を 受 け る こ と も事 実 で あ る だ ろ う。

(1}

本 書 に 対 して は,す で に 小 田正 雄 氏 と大 山道 広 氏 の 丁 寧 な 書 評 が あ る。 した が っ て 本 稿 で は,各 章 ご との 順 序 だ うた 内 容 紹 介 と コ メ ン トは 省略 した い。 む し ろ本 書 の 核 と な る経 済 モデ ル を 詳 し く検 討 して み た い 。 そ して特 に 貿 易 収 支 の 不 均 衡 に 関 す る問 題 を と りあ げ て み た い 。

2 本 書 の 構 成 は 次 の 通 りで あ るσ 第1章 序 論

第2章 最 も単 純 な モ デル 第3章 均 衡 化 過 程 第4章 支 出政 策 第5章 関 税

第6章 経 済 成 長 お よび トラ ンス フ ァー問 題 第7章 単 純 な モ デ ル

第8章 特 化 パ タ ー ン と貿 易 利 益 第9章 貿 易 利 益再 説

第10章 貿 易 利 益 の 国際 間 分 配

付 録 」.S.ミ ル の 国 際価 値 法 則 の 検 討

最 後 の 付 録 は ミル の仮 定 の 吟 味 と チ ップ マ ン(J.S.Chipma皿)の ミル 解 釈 に 対 す る批 判 を 含 ん だ 著 者 の学 説 史 上 の貢 献 で あ る。

本 書 で は 前 述 した よ うに きわ め て 単 純 な モ デ ル が 採 用 され る。 需 要 面 で は 一 貫 して ミル の 仮 定 が使 わ れ る。 そ れ は 財 に 対 す る支 出 額 が 所 得 額 の一 定 割 合 と い う もの で あ る。 他 方 生 産 面 は三 つ の 段 階 的 な 仮 定 が 採 られ る。 は じめ に各 国 が 一 種 類 の 財 しか 生 産 し な い とい う世 界 が 想 定 され る。 しか も生 産 量 は 一 定 で

原稿受領 日1981年5月6日

{1)小 田正雄氏 の書評は関西大学 『経済論集』第30巻第1号(1980年),大 山道広氏の それは 「国際経 済」第32号世 界経済研究協会(1980年)に 掲載 されている。

(3)

あ る。 こ 国 は生 産 す る唯 一 の財 を お互 い に 交 換 す る とい う形 で貿 易 を 行 う。 こ の世 界 は 第6章 ま で 続 く。 貿 易 均 衡 や 関税,経 済成 長 の 効 果 とい っ た 貿 易論 の 主 要 な分 析 が,こ の 仮 定 の下 で行 な わ れ る。 次 に 各 国 は二 種 類 の 財 を 生 産 す るが,生 産 量 は あい か わ らず 一定 と され る。 これ は 第7章 の 「単 純 な モ デ ル」

に 相 当す る。 最 後 に 生 産 量 一 定 の 仮定 が 緩 め られ,相 対 価 格 の 変 化 に 伴 っ て生 産 の 特 化 が 行 な わ れ る。 この時 産 業 間 の 資 源 の 転 換 は不 変 費 用 の 下 で行 なわ れ る。 これ は第8章 以下 で採 用 され る仮 定 で あ るが,周 知 の よ うに リカ ー ドの想 定 した経 済 で あ り,ほ と ん どの テ キ ス トが は じめ に と りあ げ る モ デル であ る。

この よ うに 本 書 は,通 常 の テ キス トが 議論 を しな い(あ る い は 見 逃 し て い る) 単 純 な経 済 か ら議 論 を と きお こ し てい る。 しか もそ の 単 純 な世 界 で,ど れ ほ ど

の こ とが い い うるか を 試 そ うと し てい る よ うに もみ え る。

各 国 が 自国 に 存 在 しな い 財 を輸 入 しあ う とい う第 一 の 仮定 が 想定 す る貿 易 の 世 界 は,そ の 単 純 さ に もか か わ らず 現 実 の 貿 易 で は 多 くみ られ る 。 工 業 国 と資 源 豊 富 国 との 間 の 垂 直 貿 易 な どは,典 型的 で あ るだ ろ う(機 械 と原 油)。 しか し二 国 間 で何 故 貿 易 が 発 生 す るの か,と い う設 問 に対 して,こ の モ デ ル を 設 定 す る こ とは あ ま り意 味 の あ る こ とで は な い よ うに思 わ れ る。 もち ろ ん 著者 は,

この モデ ル の 下 で は貿 易 の 原 因 に つ い て は触 れ て は い な い 。 む し ろ貿 易 後 の状 況 に 焦点 が 当 て られ て い る。

本 書 の 分 析 の上 で の 他 の特 徴 と し ては,「 小 国」 モ デ ル が 取 り上 げ られ てい な い こ とが あ る。 も っ と も小 国 の 意 味 に つ い て は,第10章 で 国 の 相対 的 規 模 と 交 易 条 件 の関 係 を 議論 し て い る と ころ で 明 らか に さ れ る が,陽 表 的 に 仮 定 され る こ とは な い 。 「小 国 」 経 済 モデ ル は か な り多 くの経 済 に 妥 当す る と思 わ れ る の で,も っ と積 極 的 に 分 析 に 取 り入 れ られ る ぺ き で は な か っ たか と思 う。

3

本 節 で は 第2章 「最 も単 純 な モ デ ル 」 の実 物 面 を 検 討 す る。 そ の 基 本 的 体系

は 次 の二 式 で 示 さ れ る 。

(2)以 下 のモ デ ルは 必 ず しも本 書 の そ れ を忠 実 に再 現 して い ない 。異 な る もの につ い て は註 に記 す こ とに す る。

(4)

122 第32巻 第1号

Pzコr̀=c̀Ỳ=1・2(1) Y自P且X1 ,(2)

こ こ で は 窮 は 第,財 価 格,鰹 は 消 費 量,c̀は 消 費 性 向(一 定),Yは 所 得,瓦 は 第1財 生 産 量(一 定)で あ る 。(1)式 は ミル の 仮 定 を 示 し て い る。(2)式 を(1)式 に 代 入 す る こ と に よ っ て

σ:=clX、(3) θ2=ρc2X1(4)

を 得 る 。 第1財 の 消 費 量 は 実 質 所 得 の 一 定 割 合 で 価 格 に 依 存 しな い 。 他 方(4)式 に お い て ρ は 第1財 の 相 対 価 格 ρゾ ρ2で,第2財 の 消 費 量(輸 入 量)は 価 格 に 依 存 し,し か も そ の 弾 力 性 は1で あ る こ と が 示 さ れ て い る 。

外 国 に つ い て も 同 様 に 両 財 の 消 費 量 は,

ゴ ー参・需(・)・

ノ=cノ 瓦勢(4)*

で 表 わ され る。*は 外 国 を 示 す 記 号 で あ る。 外 国 は第2財 を 国 内 で生 産 し,そ の財 の 消 費 量 は所 与 であ る。 また 外 国 の所 得 は,

Y竃=ρ2Xl*(2)*

であ る。 これ ら の モ デ ル の特 徴 は,各(3) 国 内 で生 産 され る財 の消 費量 が 価 格 に依 存 しな い 点 で あ る。 これ は か な り特殊 な 消 費 行 動 と考 え られ るが,各 国 が 一 種 類 の財 しか 生 産 しな い と い う仮定 と ミル の 仮 定 か ら導 出 され る。 また 両 国 内 で 予 算 制 約 が 仮 定 され る。 した が っ て両 財 に 対 す る 消 費性 向 の和 は1に な る。

貿 易 の 均 衡 は世 界 的 な 財 市 場 で の均 衡 に よ っ て示 され る。 す な わ ち σ1十コσ野=X1(5‑1)

げ2十コo穿=澄(5‑2)

(4) で あ る 。 い う ま で も な く(5‑1),(5‑2)式 の 一 つ は 独 立 で は な い 。 (31本 書 で は外 国 の 価格 は,自 国 の それ と は区 別 され,両 者 は為 替 レー トに よ っ て連

繕 き れて い る。 し かし ここ で は実 物 モ デ ルの 伝 統 に従 っ て,同 一 の符 号 を用 い た。

(4)こ れは 両 国 の予 算 制約 式Y=Σ ρ、コ3、,Y*=ΣP拙 まを加 え る こ と によ って 導 か れ る。

(5)

¢・¢ ・辺麓Pの 変 数 が(3),ω,(3)・,(4)・,(5‑1)な い し(5‑2)式

決 定 され る。(3)と(3)*式を(5‑1)式 に 代 入 して,均 衡 相対 価 格(交 易 条 件) を 求 め る と,

ず 澄 ρ=す 烹7(6)

が 得 られ る。(6)式は 均 衡 交 易 条 件 が,両 国 の 輸 入 性 向 の 比 と 生産 量 の 比 に依 存 す る こ とを 示 して い る。 外 国 の 輸 入 性 向 が 高 け れ ば 高 い ほ ど,ま た 外 国 の 成 長 率 が 自 国 の そ れ を 上 回 れ ぽ,自 国 の 交 易 条 件 は 有 利 に な る。 この 結論 は常 識 的 で あ る 。

しか しそ れ が 単 純 な パ ラ メ ー ター に よ っ て 表 わ され て い る点 が,こ の モ デ ル の特 色 で あ り,ま た 長 所 で あ る と思 わ れ る。 著 者 が 述 べ て い る よ うに 「微 細 な 一 般 的 模 型 に も とつ い て 暖 昧模 糊 と した 雰 囲 気 の 中 に身 を お くこ と」(5ペ ジ)は 避 け られ て い る。 第5章 と第6章 で 議 論 され て い る よ うに 関 税 や 経 済 成 長 の 効 果 も簡 単 な パ ラ メ ー ター で 表 現 され る。

B 0噛

o,.EE

ODD・A

第1図

以 上 モ デ ル の 代 数 に よ る 描 写 は,幾 何 図 形 に よ っ て 一 層 鮮 明 に な る 。 第1図 は 賜 均 衡 を 示 して 、、る(§)自国 の 第1財 生 産 量X、 はOA,外 国 の 第2財 生 産 量 ズ 穿はO*Aで 表 わ さ れ る 。 両 国 の 国 内 生 産 物 の 消 費 は,実 質 所 得 の 一 定 割 合 だ か ら,そ れ は そ れ ぞ れODとO*E*で 示 さ れ る 。 輸 入 量 は 相 対 価 格 に 依 存 し そ

(5)第1図 は本 書 の 第2.3図 な い し第3.1図 と同 じで あ る。

(6)

124 第32巻 第1号

の 弾 力 性 は1だ か ら,両 国 の オ ッ プア ー ・ヵ 一 ブは 直 線 に な り,そ れ ぞれDF とE*F*で あ る。 均 衡 はい うま で もな くQ点 で 成 立 す る。 均 衡 交 易 条 件 はAQ の傾 きで 示 さ れ る 。

第7章 の 「単 純 な モ デ ル 」 で は,各 国 は二 種 類 の財 を生 産 す る と仮 定 され る か ら,両 国 の所 得 は

Y=ρ1×1十jP2×2(2)' Y』P、 爵+ρ,澄(2)*'

とな る。 こ こで 文2と 脅 はそ れ ぞ れ 各 国 の輸 入 財 の 国 内 生 産 量 で あ る。(2)弐を (1)式に 代 入 す れ ぽ,自 国 の消 費量 は,

一・・瓦+参C1瓦(・)' コ02=pc2×1十c2×2(4)'

と な る。 自 国 の輸 出 財 の 国 内消 費 は 今 度 は相 対 価 格 に依 存 す る ノー マル な消 費 (需 要)関 数 に な る。 ま た 貿 易 前 に も第2財 を 生 産 して い るか ら閉 鎖 経 済 下 で の均 衡 価 格 が 得 られ る。絢=X1と お い て解 くと,

c、 π Pニ 二 三(7)

c・X

とな る。 この 式 は比 較 生 産 費 の 原 因 が 両 財 の消 費 性 向 と生 産 量 に分 解 で き る こ とを 示 して い る。 さ ら に生 産 量 は 投 入 係 数 と資 源 賦 存 量 に 分 け られ,結 局 各 国 の 比 較 優 位 を 決 定 す る 三 つ の要 素 が 導 出 され てい る 。 貿 易 後 の均 衡 価 格 は,

c、 瓦+c誉X才P

=

。、瓦+。 無(81

とな る。 「最 も単 純 な モ デ ル」 の 均 衡 交 易 条 件 ⑥ 式 に比 べ る と,こ の 式 は輸 出 財 に 対 す る 消 費 性 向 と輸 入財 国 内 生 産 量 が 加 わ っ て い るだ け 複 雑 で あ る。(も

っ と も消 費 性 向 の和 は1だ か ら,実 質 的 な 複 雑 化 は生 産 面 だ け であ る)。 した が って 例 え ば 経 済 成 長 と交 易条 件 の関 係 を 考 え れ ぽ,(8)式 で輸 入 財 生 産ズ 塁の増 加 は(他 の事 情 を 一 定 に す れ ば)自 国 の交 易 条 件 を 有 利 に す る。 これ は(6)式か ら は 得 られ な い 結 論 で あ る。 この 点 で⑧ 式 は 一 般 的 な モ デ ル に 近 づ い て い る。

第8章 で は リカ ー ド流 の 特 化 モ デ ル と ミル の 消 費 モ デル で,古 典 派 の 体 系 が

(7)

完 成 され る。 この 場 合 比 較 優 位 財 に完 全 特 化 す れ ぽ,は じめ の モ デ ル と 同 じ よ うに ・ 国 民 所 得 は 輸 出 財 の生 産 額 に 等 し くな る。 そ こ で オ ッ フ ァ ー ・ カ ー ブは 再 び 直 線 に な る 。 この た め 貿 易 利 益 は輸 入 量 だ け で 表 わ さ れ る。 し た が って 交 易 条 件 の 有 利 化 は利 益 の 増 加 を 直 接 的 に 意 昧 す る。 さ ら に この 章 で は 特 化 パ ター ン の条 件 や 貿 易 利 益 の 大 き さ が厳 密 に 定 式 化 され 数 量 化 され る 。 第9 章 で は交 換(消 費)利 益 と特 化(生 産)利 益 の概 念 が 説 明 され る。 また 特 化 に よ る交 易 条 件 悪 化 の効 果 が 検 討 さ れ る。 第10章 で は所 与 と さ れ た パ ラ メ ー タ ー (消 費 性 向 や 生産 技 術)を 動 か し,交 易 条件 や 貿 易 利 益 に 与 え る効 果 が 議 論 さ れ る。

4

以 上 の 実 物 モ デ ル に 基 ず く分 析 の 途 中 に,貿 易 収 支 の問 題 が 考 察 され る。 上 述 の実 物 モ デル に沿 っ て 貿 易 収 支 の 不 均 衡 を説 明 す る た め,著 者 は 在 庫 を導 入 す る。 例 え ば 第1図 で交 易条 件 がARSで あ る時,自 国 の 意 図 す る輸 入DSは 外 国 の 今 期 の輸 出AE*に 加 え て,在 庫 の取 り くず しE*E*'に よ って 実 現 さ れ

る。 他 方 外 国 の第1財 の 輸 入RE*が 実 現 す るた め に 自 国 で はDD'の 在 庫 が 生 じる。 自国 の輸 入量DSは 第1財 で 測 れ ぽDAだ か ら,輸 出量D/Aを 上 回 り 自 国 は赤 字 に 陥 る。 この 貿 易 収 支 の 不 均 衡 は,(1)価 格 調 整,(2)為 替 レー ト調 整,(3)数 量 調 整 の 三 つ の方 法 に よ っ て 調 整 され る。 前 の 二 つ は 交 易 条 件 をAQ に戻 す た め の 手段 で あ り,最 後 は生 産 量 の 調 整 に よる 手 段 であ る。 い ず れ の方 法 も政 府 の 積 極 的 な介 入 に 声 る調 整 で は な く,ど ち らか とい え ぱ 自 動的 な 調 整 メ カ ニズ ム の 議論 で あ るσ

第 一 の 価 格 調 整 で は 金 本 位 制 度 の 調 整 作 用 が 説 明 され る 。 自国 は赤 字 だ か ら 金 が 流 出 し貨 幣 量 が減 少 す る。 こ こで 著 者 は貨 幣 面 の モ デ ル と して貨 幣 数量 説 を 次 の よ うな 形 で提 示 す る。

MV=ρ1ズ1、(9)

こ こでMは 貨 幣供 給 量,Vは 流 通 速 度 で 一 定 と され る 。 外 国 も同 様 の 関 係 が 成 立 す る と想 定 され て い る。 す な わ ち

(8)

126商 第32巻 第1号

さ ゆ MV=ρ 才Xぎ(9)*

で あ る。 盛 は 外 国 通 貨 表 示 の 第2財 価 格 で あ る。 これ らの 式 か ら 自 国 で は 自 国 通 貨 表 示 の 第1財 価 格 が 下 落 し,外 国 では 外 国 通 貨 表 示 の第2財 価 格 が 上 昇 す る。 両 国 の 輸 入財 価 格 は 一 定 の為 替 レー トで 結 ば れ て い るか ら,相 対 価 格,

‑rは鉢pf とも に下 落 す る。 そ こで 第1図 の交 易 条 件ARSはAQの 方 に P2

近 づ き,貿 易 収 支 の不 均 衡 が 調 整 され る と説 明 され る 。

この 議 論 に従 え ぽ,貿 易 収 支 の 不 均 衡 の原 因 も貨 幣 数 量 説 に 帰 す こ とが で き る。 は じめ に 交 易条 件 が 均 衡 のAQで あ った と し よ う。 こ の時 自国 で金 の 生 産 増 加 が あ り貨 幣 量 が 増 加 した とす る。 自国 の 輸 出品 価 格 は 上 昇 し,し た が って 第1財 の 相対 価 格(交 易 条 件)も 上 昇 す る。 自 国 の 輸 出量 は 一定 で あ る が,輸 入 は 増 加 す る。 他 方 外 国 の 輸 入 は 減 少 す る。 こ こ で も在 庫 を 想 定 す れ ば,自 は 赤 字 に な る。 また 自国 の 経 済 成 長(X1の 増 加)は,輸 出 品価 格 を 下 落 させ 交 易 条 件 を 悪 化 さ せ て,貿 易 収 支 を黒 字 に す る。 換 言す れ ぽ 貨 幣 供 給 量 の増 加 率 と経 済 成 長 率 が 貿易 収 支 を 規 定 す る こ とに な る 。 しか し この メ カ ニ ズ ムは 貨 幣 数 量 説 と,そ れ に よる交 易 条 件 の 変 化,そ して 在 庫 の 存 在 に依 存 して い る。

著 者 の こ の価 格 調 整 メ カ ニズ ムは,金 本 位 制 度 の 自動 調 整 作 用 を 一 般 均 衡 モ デ ル で説 明 して い る よ うに み え るが,次 の よ うな難 点 を 持 っ て い る。 第 一 に 財 市 場 で は 在 庫 の 存 在 を 仮 定 す る の で,両 国 の 意 図 す る翰 入 は 常 に満 た さ れ る こ と に な る。 この こ と は逆 に い え ぽ,財 市 場 は何 の 役 割 も果 さず,モ デル は実 質 的 に は 部 分 均 衡 論 に 近 くな る。 第 二 に こ の モ デ ル で は交 易 条 件 は財 市 場 で決 ま る の か,両 国 の 貨 幣 数 量 説 に よ っ て 決 ま るの か は っき り しな い。 第 三 に 各 国 が 両財 を 生 産 す る 「単 純 な モデ ル 」 の 下 で は,上 の メ カ ニズ ム は働 か な い とい う 大 山 氏 の 批 判 が あ る『}本書 で は 「鞭 な モ デ ル 」 の 下 で賜 収 支 調 整 問 題 は と り上 げ ら れ て い な い が,こ の 点 を こ こ で 検 討 し て み よ う。

貨 幣 数 量 説 は 今 度 は,

MV=PIXご 十 ρ3X』(9)' と な る で あ ろ う。 こ れ は ま た

(6)書 評 、216ペ ー ジ。

(9)

MV一 銑 ほ+静)

と書 け る。 古 典 派 の二 分法 に 従 っ て相 対 価 格 は実 物 モ デ ル か ら決 定 され る と考 え る と,財 市 場 が 均 衡 して い れ ぽ 相 対 価 格 は 変 化 しな い。 そ こで 貨 幣 量 の増 加 は 両 財 の価 格 を 同 じ割 合 で増 加 させ る だ け で あ る。 した が って金 本 位制 度 の 下 で 金 産 出量 増 加 の 効 果 は,イ ン フ レ ー シ ョンを 発 生 させ る だ け で,相 対 価 格 に は 何 ら影 響 を 及 ぼ さな い 。 そ こで 貿 易量 は 変 化 せ ず 貿 易収 支 の 不 均 衡 もお こ ら な い 。 ここ で は 「最 も単 純 な モ デ ル 」 で生 じた 調 整 メ カ ニ ズ ムは 作 用 しな い。

この 意 味 に お い て 大 由氏 の 指 摘 は 正 しい よ うに 思 わ れ る。 しか し一 方 で ヒ ュー ム の 調 整 メ カ ニ ズ ム で は,こ の よ うな 場 合 自国 の 輸 出減 少,輸 入 増 加 を 生 じさ せ 赤 字 が 発 生 す る こ とを 想 定 して い る。 そ れ は貿 易 量 が 各 国 の物 価 水 準 の 差 異 に 依 存 す る と考 え て い る か らで あ ろ う。

最 も単 純 な モ デ ル」 で は 自 国 の輸 入 財 価 格 は,外 国 価 格 に為 替 レー トを 乗 じた もの で あ る ・ そ こで 自国 の交 易 条 件 は 弼P1 で表 わ され る・ 醐 の 輸 出財 価 格P1,鱒 が 何 らか の理 由 で 固 定 さ れ て い る場 合 に は,為 替 レー トの 変 化 が 交 易 条件 を 変 え て,均 衡 を 回復 す る と議 論 され る。 変 動 相場 制 度 の 下 で は,

自 国 が 赤 字 であ れ ば 為 替 市 場 が超 過 需 要 とな り,し た が っ て 自国 通 貨 建 相場e が 上 昇 して 交 易 条 件 を 下 げ る と説 明 され る。 これ が 「為 替 レー ト調 整 」 で あ

る。 「数 量 調 整 」 は 在 庫 の増 加 を 被 っ て い る赤 字 国 の生 産 者 が,生 産 数 量 を 縮 少 す る こ とに よ っ て お こる 調 整 作 用 で あ る。 両 財 の 消 費 は第1財 生 産 量 の 関 数 だ か ら,生 産 量 の減 少 に よ っ て消 費 量 は 減 少 す る 。 しか しこ の た め 失 業 が 発 生 す る こ とが 指 摘 され る。

上 の 三 つ の調 整 の 中 で は,第 三 の 数 量 調 整 が 最 も 自 然 な 調 整 メ カ ニズ ムで あ る よ うに思 わ れ る。 しか し この メ カ ニズ ム よ りも も っ と素 朴 な調 整 作 用 は,外 国 で 在 庫 が 不 足 す れ ば 交 易 条 件 が 自然 に 下 落 す る と考 え られ る点 で あ る。 また 生 産 者 が 在 庫 を 考 慮 に入 れ て 財 を 供 給 す れ ぽ,不 均 衡 交 易 条 件ARSは 均 衡 の そ れ に な る か も しれ な い。 第 二 に こ こ で は政 府 の 存 在 は 明示 的 で は な い。 しか

し第1図 の 貿 易 収 支 の赤 字 が 獲 得 され た 所 得OD+D'A以 上 に支 出OA(OD

(10)

128 第32巻 第1男

+OA)を 行 な って い る こ とを 考 え れ ば,政 府 に よ る支 出 削 減 政 策 も有 効 な 調 整 方 法 で あ る だ ろ う。

第4章 で は,数 量 調 整 に よっ て発 生 した 失 業 を 政 府 の支 出 制 策 に よ っ て解 決 す るた め の 条 件 が 議 論 され る。 そ して 失 業 の解 消 は 新 た な 貿 易 収 支 の不 均 衡 を 生 ぜ しめ るの で,最 終 的 に は 為 替 レー トの 調整 が 必 要 で あ る と結 論 され る。 し か し例 え ば 本 書 第4.1図 に み られ る赤 字 は,為 替 レー ト調 整 だ け で な く支 出

削減 政 策 も同 時 に使 う必 要 が あ る よ うに 思 わ れ る。

以 上 本 書 の第3章 と第4章 で は,貿 易収 支 の 調 整 や 対 外 均 衡 と対 内均 衡 とい っ た 通 常 マ ク ロ的 な フ レー ム ワ ー ク の 中 で 分 析 され る 問 題 が,駆 足 で 議 論 さ れ て い る。 これ らは もち ろ ん本 書 の 中 で は 副 次 的 で,主 要 な 目的 は実 物 理 論 の 解 説 で あ る だ ろ う。 しか し通 常 の テキ ス トが貨 幣 の 存 在 しな い 貿 易 論 か ら,貨 幣 が 直 接 財 の 需 要 に 影 響 を 与 え る 国 際 収 支 の 「一 般 均 衡 分 析 」 にjampす る のに 対 し,こ の 試 み は 実 物 面 と貨 幣 面 を 連 続 的 に 連 結 す る ス タ イル へ の 手 が か りに

な る よ うに も 思 わ れ る 。 著 者 の この方 面 で の 今後 の 研 究 に期 待 した い 。

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