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国際取引法における LexMercatoria の理論 (2)

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(1)

国際取引法 における LexMe rcat ori a の理論 ( 2)

Bonell氏の所説を対象 として ‑

桑 原 康 行

ところで,仲裁人が友誼仲裁人 Lとて判断す る権限を付与 されていない場合 や,国家裁判官が紛争 を解決す ることとなる場合 に も,前述の解決方法を主張 す る者 も少な くない。

国際私法学説上 において,伝統的解決方法の問題性 はつ とに指摘 されて きた ところである。その問題性が明 らか となるのは,事案が複数国の法秩序 と関連 性を もつが,その うちのいずれかが他の ものよ りも優越す ると考え られない場 合である。そ して国際取引においては,かか る場合が一般的なのである 以上 述べたところか ら,次の結論が必然的に導 き出され る。すなわち,国際取引に ついて は,仲裁人だけでな く国家裁判官 も,‑ 当事者が異 なる意思を表示 し ていない限 り‑ 抵触規則 によるいずれかの国家‑の位置づけを,アプ リオ

リかつ原則 として拒絶 し,適切な トランスナシ ョナル ・ローの形成 ・適用にそ のつ ど努力 しなければな らない。

かか る主張 は,Wenglerの論文 67'にまで さかのぼ ることがで きるが,今 日 までの多 くの論者 ‑ Jessup68',Steindorff69),Neuhaus70',Yntem a71', 67)DieAnkntipfungdeszwingendenSchuldrechtsim internationalen Pri vatrecht,ZVglRW (1940)S.168ff.;DieFunktionderrichterlichenEntsc‑

heidungtiberintrnationaleRechtsverhaltnisse,RabelsZ(1951)S.Iff.な

お,彼の強行法規の特別連絡理論については,例えば,桑田三郎 「強行的債務法の連

絡 問題 『国際私法研究 (昭和41年)235頁以下,参照。

68)前掲注34)0 69)前掲注24)0

111

(2)

zweigert72',KGtz73',Yon Hoffm ann74),Langen75'‑ によ ってな され て きている。

敷桁すれば,以下の とお りである。国家裁判官 は,当該事件 につ き実際に何 らかの関連性を有す る諸国家の詳細 な比較法的検討か らスター トしなければな らない。諸国法が,係争点 について,実質的 に同 じ解決を与えている場合 には, 問題 は生 じない。 というのは, この場合 には,裁判官 は,形式的には自国法を 適用すればよいか らである これに対 して,諸国法が,類似の,あるいは矛盾 す ると思われ る解決を与えている場合 には,‑ もうそれ以上接近 させ ること がで きない ところまで到達 したな らば ‑ 国家裁判官 は,選択 し,次のいず れかの (すなわち,第 1または第2の)解決方法を優先 されなければな らない と言えよ う。第 1に,当該事件の最 も合理的 と思われ る解決 または当該事件の 要請を最 もよ く満たす と思われ る解決 (〈betterrule‑approach》)2に, 多数の国で採用 されている解決 または国際条約 ・統一法 ・それ らの草案のいず れかにおいて与え られている解決方法 (《m odeleffect》)0

betterrule‑approachを主張す る K6tzは,次のよ うに述べてい る。《・・・こ の場合 に,裁判官 は,問題 とされている法規 について関連法秩序を統一 しよ う 70)DieGrzLndbegriNedesinternationalenPriuatrechts(1962)ss.9ff.174ff.

なお,本書第二版(1976)の翻訳 と して,バ ウル・‑ イ ン リッヒ・ノイ‑ ウス著 桜 田嘉 章訳 「国際私法 の基礎理論」第二版 (‑ )〜 (八)北大法学論集第30巻 (昭和54年)455 ,583頁 ,第33巻 (昭和58年)1327,1637頁 ,第34巻 (昭和58‑59年)185,421 ,685,919頁。

7D TheComityDoctrine,inVom deutschenzum europaischenRecht‑Fes‑

tschrtftftirH.D∂lle(1963)Ⅲ P.65 72)前掲注36)0

73)AllgemeineRechtsgrtindsatzealsErsatzrecht,RabelsZ(1970)S.663ff.

74)InternationaleHandelsschiedsgerichtbarheit(1970)S.43ff.;Uberden Schutzdes Schwacheren beiinternationalen Schuldvertragen,RabeleZ

(1974)S.396rr.

75)Somethoughtsabout Transnational Commercial Law fortheuseby JudgesandArbitrators,SchriftenreihederDeLLtSChenGruppederA.A.

A.Bd.III(1968)S.31ff.;Vom lnternationalenPrivatrechtzum transnation‑

alen Handelsrecht,NJW 1969S.358ff.;TransnationalesHandelsrecht, NJW1969S.2229ff.;TransnationalCommercialLaw (1973)なお,Trans‑

nationalesRecht(1981) も参照。

(3)

国際取引法におけるLexMercatoriaの理論2)‑Bonell氏の所説を対象として1 118 としたな ら,国際的立法者 として定立 したであろう規則 に基づいて判決す るこ とを,授権 されなければな らない。その さい,彼 は,それ らの法秩序を相互 に 批判的に比較 しなければな らない ;彼 は,‑諸般の事情を考慮 して,関連法秩 序全体 にとって最 も説得力があると思われ る解決を,結局の ところ,採用 しな

ければな らないのである 76)》

次に,modeleffectを主張するLangenは,特定の国際条約のmodeleffect が, その批 准 国数 だ けでな く, その 内容 に も依存 す る ことを,適切 に も強 調 してい る77) 0

極端な場合 にのみ,すなわち, これ らの解決方法を とりえない場合 にのみ, 対立す る諸国法を何 らかの方法で調整 し,中間的解決を探究す ることがで きよ

(〈strikingabalance≫)0

裁判官が,トランスナショナルなアプローチを断念 し,国家法を適用する前 に, 最後 の手段 として,このよ うな解決方法 を とることを,Steindorff,Langen

は主張 している78)

国家法規範 にかわ る, トラ ンスナ シ ョナル な原則 ・規範 は,任 意法 の領 域 ‑ あいまいな契約条項を解釈 ・補充す ることが問題 とされ る場合だけで な く,強行法の領域 ‑ 各国法上,強行法規 によって規制 されている問題 に ついて も,適用 され る。かか る強行法規の多 くが国際関係 に適用 されない こと を各国は認めているし,商事 に関 し国際的公序 に属す るとされ る若干の法規 も, よ く検討 してみ ると, さ したる困難 もな く,共通の公分母 とな しうるほど類似 性を示 しているのである。

例 えば,Yon Hoffmam は,かか る意 味で, 《高度 の機能 的交換可能性》

とい うことを述べている79) 0

さ らに,特 に最近 になって,国家立法者 は,単独で,あるいは他国 と協力 し 76)前掲注73)S.674なお,この見解に賛成する者として,Zweigert,Neuhaus,Yon

Hoffmannが挙げられている。Bonell,op.°it.p.238nota (34). 77)Bonell,op.°it.p.238 nota (35).

78)Bonell,op.°it.p.239 nota (36). 79)Bonell,op.°it.p.239 nota (37).

(4)

て,国際取引を規制す る特別法を制定 している。

各国家が単独で行 った試みのなかで,最 も重要なのは,チェコスロバキアの 国際取引法典 80)であろ う 同法典 は,その適用範囲を国際取引のみに限定 し ているが,その理由は,国際取引が,国家法 とは異なる法的規制を必然的に不 可欠の もの とす る性質 ・要請を示 していることにある

次に,国家間の協定 としては, この数十年来,特 に商事 において,地域的 ・ 世界的 レベルで各国法の統一 ・調和を試みている多数の国際条約 ・統一法を挙

げることがで きる。

これ らの条約 は,渉外的事案すなわち複数の国家 と関連性を有す る事案のみ 杏,その適用範囲におさめている。商事に限定 してみて も,各種運送 (航空 ・ 海上 ・鉄道 ・道路) さ らには,売買 ・仲裁の分野 における諸条約81)82)が,か

ような定めを している。

国際取引関係の特質 ・要請 にこたえる規範を作成 しようとの意図が存在す る のは事実であるが, このような意図の背後 にあるのは,統一の試みは,当初か ら国際関係のみに限定 しなければ成功 しないであろうとい う認識なのである。

いずれにせよ,統一法が作成されている分野において,かつ,その統一法を国 内法化 した国家に限 ってではあるけれども,伝統的抵触規則 さらには各国法の 適用を克服 し,国際的 レベルで統一 された特別な実質規範を直接 に適用 しよう

との傾向が存在 していると言える。

このように言 って も,少な くとも形式的には,仲裁人または国家裁判官が, 具体的事件 において形成 ・適用 しうる トランスナショナルな原則 ・規範 と,多 数の国家が批准 し,国内法化 した統一法 との間に存在す る差異を完全に否定 し 80)Bonell,op.°it.p.240nota(40)参照。

81)主だ った ものを挙 げてみ ると,以下 の とお りで あ る。 「船荷証券 に関す るある規則 の統一 のための国際条約」(1924以下,船荷証 券統一条約 と略称),「国際航空運送 に つ いてある規則の統一 に関す る条約」(1929ワル ソー条約),「国際動産売買統一法 (1964ULIS),外 国仲裁判 断の承認及 び執行 に関す る条約」(1958 ニ ュー ヨー ク 条約)0

82)船荷証券統一条約 の,特 に成立 までの事情 につ いて は, 田中‑吉 田 『コ ンメ ンター ル国際海上物品運送法』(昭和39年)1頁以下,戸 田修三 『海商法 〔新訂第 5版〕』( 2年)93亘以下,参照。

(5)

国際取引法におけるLeⅩMercatoriaの理論(2)‑Bonell氏の所説を対象として‑ 115 よ うとい うのではない。 ここで強調 され るべ きことは,形式的には異なるアプ ローチを とりつつ も,それによって各 々達成 しよ うとしている目的が,実質的 には同 じであることである。統一法の作成 において も,通常 よ り一般的に遵守 されている解決あるいは国際取 引関係固有の要請をよ りよ く満たす と思われ る 解決を選択す るために,現存す る主要法秩序の詳細な比較法的検討がなされて い るので あ る83) 。 それ ゆえ,統一法 は,それ を国 内法化 した国以外 の国 に とって も,実際上重要性を有す ると言えよう 換言すれば,統一法が新たな万 民法 nouveauiusgentium》,すなわち,当初か ら,国際的 レベルで,各国 による批准を要せずに普遍的効力を有す る法であると主張す るつ もりもない し, その適用を免れるためには,各国が特別法を制定 しなければな らない84)と主張 す るつ もりもないけれども,一つだけ疑問の余地がないよ うに思われ る。すな わち,国際取引関係 について,仲裁人および国家裁判官が, 自国に特別法が存 在 しない場合 には, トラ ンスナ シ ョナルな原則 ・規範を形成 ・適用 しなければ な らない との考えが受 け入れ られ るな らば,彼 らは,当該事項 に関 して存在 し ている国際条約 ・統一法を考慮に入れざるを得ない, ということである。

国際取引に関す る国際私法上 の学説 ・判例の検討か ら明 らかなように, 当事者 自身が明示的に国家法を指定 しない限 り‑ 国際取引は,国際的統一 法が存在 しない場合 には, 《トラ ンスナ シ ョナルな》法秩序,すなわち,現存 す る全国家法秩序 に共通す るとは言わないまで も,少な くとも直接関連性を有 す る法秩序 に共通す る原則 ・規範 (かか る原則 ・規範 は,詳細な比較法的検討

によって得 られ る)か ら成 る特別法 (秩序)に服す るのである。

この トランスナ シ ョナル ・ローは,私人問の法律関係 に国家がますます介入 しようとしているとい う事実を無視す ることな く,国際取引の国際的広が りを 83)例えば,ULISを想起せ よ。

84)この点 に関連 して,Davidの 「共通法連合」構想 につ いて は,高桑 昭 「国際商取 引法統一の努力」 ジュ リス ト第681号 (昭和54年)122頁,参照。

(6)

正当に考慮す ることを可能 とす るものである。

次 に,国際的約款 ・統一規則の法的性質 ・個別契約 における効力 とい う問題 自体を検討す る前 に, トラ ンスナ シ ョナル ・ローに対 して しば しばなされてい る若干の批判 について反論 してお くべ きであろ う

第一の批判 は,契約の分野 に限定 してみて も,現在の ところ,普遍的価値を 有す る原則 ・規範 とか各国法を越えて妥当す る原則 ・規範が存在 しているとは 言えないのではないか, とい うことである

なるほど,い くつかの基本的な, きわめて一般的かつあいまいな原則 一 例えば,合意 は遵守 さるべ Lとの原則,事情変更の原則,不 当利得禁止 の原則, 禁反言則,権利濫用禁止の原則, さ らには,国際法学説 ・判例 によって,国際 司法裁判所規程第38条 にい う 《文明諸国によって認 め られた法の一般原則》 と みなされている諸原則 ‑ を別 にすれば,当事者の能力,合意の環症等のよ うな個別的問題 について,普遍的に遵守 ・適用 されている原則 ・規範 は,現在 の ところ,存在 していない。 この点 に関 しては,各国法間に,理論上 ・体系上 の差異だけでな く,イデオ ロギー上 ・政治上の差異 も存在 していよ う

ところで,よ く検討 してみ ると, このよ うな批判 はあてはま らない ことがわ か る。それ は何 よ りも以下の理 由か らである。 ここで,各国法問に今 日存在 し ている差異を否定す るつ もりは全 くないけれども,忘れてはな らない ことは, かか る差異 は,形式上 ・構造上の ものであ って,本質 にかかわ るものではない とい うことである。これが,少 な くとも,特 に最近行われた比較法的研究 によっ て得 られた結論 なのであ る。 このよ うな研究 は,Gorla教授 の著書 を は じめ

として,少な くない85) 。

もちろん,各国法を検討す るさいのアプローチ如何 によって,結論 は異 なる であろう 伝統的方法を とり,各国の法概念 ・原則 ・制度を抽象的に問題 とす

る限 り,全 く克服す ることので きない差異が存在す ることは避 け られない。 こ れに対 して,いわゆ る機能的方法を とる場合,すなわち,具体的問題か らスター 85)かか る文献 としていかな るものが あるかについて は,Bonell,op.°it.p.249nota

(55),参照。

(7)

国際取引法におけるLexMercatoriaの理論(2)‑Bonell氏の所説を対象として‑ 117 トし,各国法が採用 している法的解決が どのような ものであるかを決定 しよ う とす る場合 (law inthebooksではな く,law in actionを問題 とす る場合) には,存在す る差異の背後 に, 《共通の核心》が隠れていることが少な くない のである。

このような機能的比較法を提唱 した初期の代表的学者 として,Ascarelliを 挙げることがで きるが, この機能的比較法 は, ごく最近,展開 されているとこ

ろである86) 0

次に,社会主義諸国法 とその他の諸国法 との問に差異が存在 しているとの主 張 は,社会主義諸国 自体が,国営企業間の関係か, 自由主義諸国企業 との関係 かで,異な る取扱 いを していることを正当に考慮 していないためになされた批 判であるといえよ う

現 に,国営企業間の関係 においては,純国内関係か,他の社会主義諸国 との 関係かによって多少異なるとはいえ,各国の経済政策を反映 した経済法が適用 されている。これに対 して,社会主義諸国以外の国の企業 との関係 において は, 各当事者が所属す る国の政治的 ・経済的構造 と,国際敢 引の規制 とは別問題で あるとの考えに基づ き,大陸法系諸国の規制 と何 ら異なるところのない国内立 法 による規制が行われているのである

最後 に,忘れてはな らないことは,国際取 引契約の法的基礎 としての 《トラ ンスナ シ ョナルな》原則 ・規範 と言 って も,全現存主要法秩序 において実際に 遵守 ・適用 されている原則 ・規範についてのみ言及 しているわけではない こと である。例えば,時効期間のよ うに,特 に技術的 ・手続的性格の問題 について は,普遍的に認め られている解決を兄い出す ことは,不可能 とは言わないまで も,かな り困難であろう もっとも,かか る問題 について も,特 に最近,各国 法問に存在す る差異 を克服 しよ うとの試みがな されてい る。UNCITRAL86)機能的比較法 については,Bonell,op.°it.p.250nota(56)に掲げ られた諸文献の 他,次の邦語文献参照。五十嵐清 『比較法入門』(昭和43年)31頁以下,同 「ドイツ における比較法の発展」『比較法学の歴史 と理論』(昭和52年)所収56頁以下,同 『 法 と比較法』(昭和59年)28頁以下,193頁以下 ;ツヴィゲル トニケ ッツ 『比較法概論 原論上』(昭和49年)43貢以下。

(8)

よ って作成 され,1974年採択 された,国際的動産売買 に関す る時効条約 87)杏 挙げることがで きる。

技術的 ・手続的問題を解決す るためには,各国の裁判官 ・仲裁人 は,まず, 当該事案 に直接関連性を有す る諸国法秩序を調和 させ るよう試みなければな ら ない。次 に,それ らの法秩序 間に共通の規制が存在 していない場合 には,‑

国際条約,統一法,各国の立法 ・学説 ・判例の発展度合, さ らには,具体的事 案の特徴 ・要請を も考慮 した上で ‑ 最適な,最 も満足 しうる解決を与えな

ければな らない。

ここで特 に注 目すべ きなのが,前述の諸文献 88'の他,Kramerの Topik undRechtsvergleichung89)とい う題 の論文である。彼 によれば, 〔各国法 秩序 間の比較 における〕いわゆる機能的比較法 は,さまざまな可能な解決を提 供す るだけでな く,解決 さるべ き具体的問題 に関 して,かか る解決の現実的分 析 と仮定的予測 とを結合す ることによって,最 も適切 または機能的な解決を示 す こともで きるのである。

このよ うな解決方法が,国際取 引の不可欠の前提をなす,法的安定性,判決 の予見可能性を犠牲 に して しま う, との批判 もあてはま らない。かか る解決方 法が,一見 した ところ,法的安定性の欠如を もらたす ことは認めるとして も, 伝統的抵触規範 とい う 《迷路》が もた らす困難 ほど,その困難 は大 き くないの である。

しか し,現在の ところ,普遍的原則 ・規範を発見す ることが不可能ない しは 困難であるとの批判だけが,国際取引契約を トラ ンスナ シ ョナルな原則 ・規範 に服 させ るべ きもの とす る説 に対す る批判なので はない。た とえ,ある程度 ま で,その存在を証明す ることがで きることを認めるとして も,そのよ うな原則 87)本条約 につ いて は,道 田信一郎 「国際動産売買 に関す る時効条約」国際商事法務第 211号 (昭和49年)3頁 ;高桑昭 「動産 の国際的売買 における債権の 『期間制限』

条約 につ いて」 ジュ リス ト第576号 (昭和49年)109頁,等参照。

88)前掲注67)〜75),参照。

89)RabelsZ (1969)S.1ff.なお,本論文 の翻訳 と して,桑 田三郎訳 「エ ァンス ト・

A・クラマー トピクと比較法西 ドイツ比較法学の諸問題』(昭和63年)所収,13 1貢がある。

(9)

国際取引法におけるLexMercatoriaの理論(2)‑Bonell氏の所説を対象として‑ 119

・規範 は,独 自の, 自己完結的法秩序 とな るほどの,論理的 ・形式的一体性, 完全性を備えて はいないのである。

この批判 に答え るためには, トラ ンスナ シ ョナルな原則 ・規範が,時の経過 とともに,特 に学説 ・判例 の助 けによって,完全性 を備え るに至 るであろ うと の意見のみで満足す るわけにはいかない。

第二 の批判 に答 え るためには, その前提 とされてい る法 (秩序)概念 90)冒 体 をよ り詳細 に検討す る必要があ る。 ほとん どの具体 的問題 に対 して,全 く公 理的 ・演鐸方法 によって,ただ一つの決定的解答 を与え られ るよ うな構造を し た,多少 とも一般的 ・抽象的原則 ・規範 の総体 と しての法概念 は,17・18世紀 の 自然主義 ・合理主義の時代 にまで さかのぼる。かか る概念がその頂点 に達 し たの は,特 にヨー ロッパ大陸 における法典編纂の時代であ った。

ここで は, このよ うな概念の基礎 にあ るイデオ ロギー上 ・政治上の理 由につ いて検討す るわけで もない し,かか る概念が現実 にどの程度 まで妥 当 しえたか につ いて検討す るわけで もない91)0

指摘 され るべ きなの は,む しろ, このよ うな概念が以前か ら批判 にさ らされ てい ることであ る。かか る批判 は, コモ ン ・ロー諸国においてだけでな く,大 陸法諸国において もなされてい る。

この点 に関 して,法のいかなる体系化の試みを も否定 し, いわゆる決疑論的 法を とるべ Lと主張す る者 も存在 している 特 に,Viehweg92)を挙 ることが で きる。彼 は, さまざまな決疑論 を紹介 ・検討 し,次の ことを証 明 しよ うとし た。すなわ ち,過去 において も,現在 にお いて も,判例および法律学一般が、

その時々に正 しい調整, またその時 々に人 間的に正当な るものへの この永遠の 問いに答 え るとい う基本 的任務 を果 た しうる唯一 の方法 は,決疑論 によ る も の,すなわち,問題 ごとに考察 してい く方法である。 これに対 して,いわゆ る 90)この点 については,例えば,加藤新平『法哲学概論』(昭和51年)287頁以下,参照。

91) これ らの問題に関す る包括的文献 として,ヴィ‑ア ッカー著 鈴木禄弥訳 『近世私 法史』(昭和36年)がある。

92)TopikandJzLrisprudenz(1974)なお,本書第 5版の翻訳 として,植松秀雄訳

『トビクと法律学』(昭和55年)がある。

(10)

体系的 ・公理的 ・演縛的方法 は,全 く支持 しえない ものである, と。

しか し, このよ うな極端な結論を とらず に,論理的に完全かつ形式的に 《閉 じた法》秩序概念 を否定 し,未知 の問題 に対処 しうる新 たな解決 に《開かれた》

注秩序,永遠的発展 ・適応可能な法秩序を肯定す る傾向がみ られる。

法 とい う性質を決定す るのは,その抽象的完全性で はな くして,学説 ・判例 の助 けを借 りて,具体的 ・継続的に完成 されてい く能力であることが,国家法 に関 して認め られ るな らば, ここで論 じている トラ ンスナ ショナル ・ローにつ いて,かか る性質がなぜ否定 されなければな らないのかを理解す ることはで き ない。

た しかに, トラ ンスナ シ ョナル ・ローは, これまで, もっぱ ら国際商事仲裁 と各国の判例 によって形成 されて きたので,具体的問題 に関 して展開 されて き た,それゆえせいぜい指導的意義を有す るにす ぎない一連の原則 ・規範か ら成

るのである 上述の,今 日疑 い もな く普遍的に認め られ,適用 されていると考 え られ る一般的性格の若干の原則 は, よ く検討 してみると,それだけでは直接 的規範的効力を欠 き,それゆえ判例 によって展開 され具体化 され る必要のある 哲学的原則 ・基準であることがわか る。

しか し, この ことは,次の事実を確認す るにす ぎない。すなわち, トラ ンス ナショナル ・ローは,各原則 ・規範が,すべての者 に対 し権威的に課 され るわ けで はな く,基本的に決疑論的方法 によって, しだいに発見 され,展開されて い くものであるとい う意味において,最初か ら, 《開かれた》法秩序 として現 れ ることであ る。Esserの言 を借 りれば, 《すべての法文化 において,問題 発見,原則樹立,体系強化 とい う循環が繰 り返 され るのである。93)》そ こで, トラ ンスナシ ョナル ・ローに関 して も,ひ とたび国際取引固有の諸問題の認識 とい う第一段階が克服 され ると,有機的かつ本質的に完全な体系が形成 され る 最終段階に到達す る前 に,新たな,よ り適切な原則 ・規範の発見 ・形成を 目指 す第二段階を経なければな らないのである。

93)前掲注62)S.7.

(11)

国際取引法におけるIJeXMercatoriaの理論(2)‑Bonell氏の所説を対象として‑ 121

このよ うに して,国際取引契約に適用 され るべ き法秩序が決定 され ると,吹 に,かか る契約 に含 まれ る諸規則 ・約款の効力を, この法秩序 に基づいて,検 討 しなければな らない。

ところで,前述の理論的立場を とる限 り,何が トランスナ シ ョナルな原則 ・ 規範であるかを完全 に明 らかにす ることは不可能であろ う。そ こで,以下で は, 一応の検討が試み られ るにす ぎない。

まず,規則等が具体的関係 において有す る効力の問題か ら検討す ることにす る。その適用が両当事者 によって明示的に合意 されていた場合 には,何 らの問 題 は生 じない。 とい うのは,私的自治の原則 によ り,その淵源 または性質がい かなるものであれ,既存の規則を使用す ることがで きることは,普通的に認め られた原則だか らである 当該規則が両当事者 によって署名 された契約書上 に 記載 されているか,当事者がそれを援用 してい るにす ぎないか は,重要でない。

いずれの場合 に も,規則 は,契約内容の一部 とな り,他の契約条項 と同 じよ う に当事者を拘束す るのである。

困難が生 じうるのは,せいぜい, このよ うに して採用または援用 された約款 が,その有効性 に関 して国内法上,特別 な方式上 の要件が課 されている条項を, 含む場合である かか る条項 としては,仲裁条項 ・裁判管轄条項 ・イタ リア民 法第1341条 2項の意味における過酷条項を挙げることがで きる。

仲裁条項 に関 しては,西 ドイツ ・フラ ンスのよ うに,特別な方式上の要件を 課 していない国 もあるし,イタ リア ・イギ リスのよ うに書面 によることを要件

としている国 もある。

しか し,この点 に関 して,同一の解決 に達す ることがで きるよ うに思われ る

仲裁条項 ・裁判管轄条項 について,最近の国際条約 は,書面 によるべ きことを 明示的に規定 している。仲裁条項については,例えば,ニ ュー ヨーク条約第 2 条,国際商事仲裁 に関す る欧州条約 (1961)第 1条が,裁判管轄条項 につ い ては,欧州経済共同体諸国間の民事および商事に関す る裁判管轄な らび判決の

(12)

執行に関す る条約 (1968)第17条が, この趣 旨の規定である。

また,仲裁条項等が個別契約 中に含 まれていな くとも,かかる条項を含む約 款を,当事者が明示的に援用 していれば,十分であるとみなす学説 ・判例 ・仲 裁判断が数多 く存在 している94).

これ に対 して,過酷条項一般 に関 して は,イタ リア民法95)によって規定 さ れている書面 による特別な承認 とい う要件 は,国際取引契約 には課せ られない よ うに思われ る。その理 由は,第一 に,すでに有力な学説 ・判例 によって指摘 されているように,国内関係 において も,かか る要件が課せ られ るのは,一方 当事者が一方的に作成 した約款 に限定 されていること,第二 に, この種の要件 が他国法 には存在せず,国際取引契約 に適用 され る トラ ンスナシ ョナルな原則 であると考え られない こと, にある。

さ らに, このよ うな結論 は,間接的にではあるが,イタ リアの判例か らも導 き出され よ う 《わが国の ‑民法典第1341条 の規定 は,数年前 に施行 された ものであるが,・・・かか る規定を他国法 ‑ 高度 に発展 し,高度の文化を有 して いるにも拘 らず,付合契約を類似の規制 に服せ しめる必要性を感 じていない国 の法 ‑ において兄い出す ことはで きない96)。》

もっとデ リケー トなのは,規則が,契約書 に記載 されていないだけでな く, 当事者 によって明示的に援用 されて もいない場合である。

この場合 に関 して は,各国法上,一見 しただけで は,一致す る原則 ・規範 は 存在 していないので,結局の ところ,現存す る差異を克服 し,国際的 レベルで 実質的に同一の解決 に到達す ることがで きるのか否かが問題 とされ る。

ところで,国際取引上発展 して きた諸規則 に関 しては,‑ 個別契約 に含 ま れた条項の意義 ・適用範囲を明確 にす るためであれ,国際取 引固有の法的諸問 題を規律す るためであれ ‑ 明示的援用がない場合 に も,その適用可能性 につ いて疑問は存在 しないよ うに思われ る。あいまいな不完全な契約条項の解釈 ・ 94)具体例 について は,Bonell,op.°it.p.264nota (75),参照。

95)イ タ リア民法第1341・1342条 に関 して は,大 島俊之 「イタ リアにお ける附合契約 の規制」大阪府立大経済研究第26 3‑ 4号 (昭和56年)115頁。

96)Bonell,op.°it.p.266nota (77)に掲 げ られた諸判例,参照。

(13)

国際取引法におけるLeⅩMercatoriaの理論(2)‑Bonell氏の所説を対象として‑ 123 補充 にあた って,特 に商人間である取引分野において一般的に理解 され,慣行

されていることを考慮すべ きことは,今 日広 く認 め られた原則をなす と言 って よいか らである。 さ らに,かか る原則 は,今 日,アメ リカ統一商法典第 1編20

53項 97),チ ェコスロバキア国際取引法典第117・118条 のよ うに,国内法上 認 め られてい るだ けでな く,ULIS9条 98)のよ うに,統一法上 も認 め られ ているのである。

これ らの規定の うち,特 に我 々の関心をひ くのは,ULIS9条である と いうのは,ULISはすでに発効 し,イタ リアを含 めたい くつかの ヨーロッパ諸 国において適用 されているか らである99) 。

国際的組織によって作成 された規則が多いことを理 由として,かか る規則が,

Handelsbrauche》《trade usages〉《usages》《pratiche generaliinter‑

pretativeclausoled'uso》であるとみなされないと反論す ることもできない であろう。

国内関係 において も,当初,ある分野の特定の者 によって作成 され,使用 さ れていた契約条項が,時の経過 とともに,当該分野の大多数の人 々によって使 97)本項 は,次のよ うに規定 している。

両当事者間の商談の経過,および両当事者が従事 している特定 の職業 もしくは取 引 における取引慣行,または当事者が知 り, もしくは知 るべか りし取引慣行 は,合意 の 条項 に対 して特定 の意味を与え,その条項 に補い,または限定す る。

アメ リカ統一商事法典研究会 「アメ リカ統一商事法典 の翻訳(1)」法学協会雑誌第82 号巻4号 (昭和41年)509貢 による。

98)ULIS 9

1 当事者 は, 自ら明示的又 は黙示的にその契約 に適用 され るもの とした一切の慣 行及 び当事者 間に確立 された慣例 により拘束 され る。

2 当事者 はまた,当事者 と同様の地位 にある思慮 ある者で,同様 な立場 に置かれ た ものが,その契約 に適用 され るべ きだ と考え るのが通常であるよ うな慣行 によって 拘束 され る。(慣行が)本法 と抵触す る場合 には,当事者が別段の合意 を しない限 り, 慣行が優先す る。

3 商取引において共通 に使用 され る契約の用語,条項又 は様式が用い られ る場合 には,それ らは,当該取引において通常与え られ る意味に従 って解釈 されなければな らない。谷川久訳 (仮訳)有体動産の国際的売買 についての統一法」国際商事法務第 2巻 (昭和49)430貢 による。

99)ULISに関連 して,小樽商科大学 ヨーロッパ法研究会 「ヨーロッパ における法の統 (3)」商学討究第36 2号 (昭和60年)93亘以下,参照。

(14)

用 されるよ うになったために,慣習 となることは,珍 しいことではない。

そ うな らば,同 じ可能性が,国際取 引契約 において使用 され る規則 につ いて, なぜ承認 され るべ きでないのか,その理 由を理解す ることはで きない。かか る 規則 は,国際法協会 ・

Ⅰ . C. C.

のよ うな,明 らか に中立的組織 によ って作成 さ れた ものが多 い もっとも, このよ うに言 って も,Raiserの以下の指摘 を否 定す るつ もりはない。 《忘れ るべ きでないのは,かか る組織の中立性 は,純利 益団体の立場 とは異 な り,相対的な ものにす ぎないと考え られ ることである。

その諸処置 において も,経済団体の力関係が反映 しているのである100)

。 》

実際に生 じる可能性があるのは,同一の条項 ・用語 について,世界各地で異 なる解釈が存在 した り,同種の取引関係 について,異 なる慣習が存在す る場合 である。 ここで問題 となるのは,両当事者が同一地域 に属 していない場合 に必 然的に生ず る対立をどのように解決す るのか とい うことである。各国法の この 点 に関す る解決 は,さまざまであ って,契約締結地主義,意思表示地主義か ら, 製品 ・サー ビス提供企業の所在地主義,給付履行地主義 にまでわた っている。

この うち,契約締結地主義 は,フラ ンス民法第1159条, イタ リア民法第1368 秦, さ らに,‑ 取引所,市場で締結 され る契約 に限定すれば ‑ ドイツ法に よって採用 されている。次 に,意思表示地主義 は, ドイツ判例が,履行地主義 とともに採用 している基準である。 さ らに,企業の所在地主義 は,スイスの学 説 ・判例 によって採用 されている。また,イタ リア民法第13682項 も,一方 当事者が企業である場合 に, この主義を採用 していると言え る。最後 に,給付 履行地主義 は,アメ リカ統一商法典第 1編205条5項 によって採用 されている。

しか し,実定法規問の対立が問題なのではな く,基本的には解釈上の問題な のであるか ら,少な くとも国際取引関係 については, この問題を,厳格かつ形 式的基準 によ って,抽象的に解決す ることはで きないよ うに思われ る。例えば, 各種の条項等の解釈に関 しては,かか る条項が当初か ら世界中の当事者 によっ て一般的に採用 されていたのか,今 日世界的 レベルで利用 されてい るけれ ど 100)DasRechtderAllgeTneinenGeschaftsbedingungen(1935)S.44.

(15)

国際取引法におけるLexMercatoriaの理論(2)‑Bonell氏の所説を対象として1 125 も,や は り特定市場 ・取 引所固有 の用語であ るのか によ って,区別 しなければ な らない。

第一 の場合 には,地域的 に異 な る解釈 ・慣習間の対立 は,その さいに絶対的 優位 にあ る国際的統一‑規則 を援用す る101)ことがで きなければ,各 国法上一般 的に遵守 されている基準の一つ によって解決す ることも許 されよ う このよ う な解決 は,ULIS 92項 によ って援用 されているとも言え る。

これ に対 して,第二 の場合102)には,個別契約が他 の場所で締結 され履行 さ れ るべ きであ り,そ こで異 な る解釈規則が発展 して きていて も, その ことを考 慮す ることな く,その起源国において妥 当す る解釈を優先すべ きよ うに思われ る。 この ことは,各国の判例 において, これまで必ず しも正当に考慮 されて き た とはいえない103)0

次 に,国際取 引契約 において使用 され る約款104)に関 して,契約書上 に記載 されていない場合や明示的援用がない場合 に も,かか る約款が適用 され るのか を決定す ることので きる普遍的原則 ・基準を発見す ることは困難でないよ うに 思われ る

例えば, ドイツ法やイタ リア法のよ うに,‑ これ らの国 々で は,約款が法 規範であ って,それゆえ,客観的かつ一般的効力を有す るとは考えないけれ ど も‑ その適用のためには,約款付合者が通常 の注意 を もってすれば,相手方 当事者が 自己の顧客 と契約を締結す るにあた り,約款 を使用す ることを知 り, または知 るべか りしことで十分であると考え る法体系 も存在 している。他方,

101)インコタームス,信用状統一規則,取立統一規則のような,統一規則が存在 して いる場合には,かかる規則が,各取引分野において,いまだ国際的統一規則と言えるほ ど普及 していなくとも,適用されることになる。学説でこのことを指摘 したものとし ,YonHoffmann,ZurAuslegungYonFormularbedingungendesinter‑

nationalenHandelsverkehrs,AWD1970SS.247‑253(但 し,インコタームの み)同旨と思われる判例 ・仲裁判断については,Bonell,op.cit.p.273nota (88), 参照。

102)第二の場合に該当する条項・用語例として,以下のものを挙げることができよう。《all averagetobeforseller'saccount》《wetherinberthornot》《including breakage》《UsualLeningradIceclause》

103)かかる判例については,Bonell,op.°it.p.275nota (89),参照。

104)約款論については,さしあたり,河上正二 『約款規制の法理』(昭和63年)参照。

(16)

英米法やフラ ンス法のよ うな法体系においては,原則 として,約款作成者がそ の存在 についてだけでな く,その内容 について も認識 していなければな らない

もの とされている

しか し, ここで検討の対象 としているケースについては,至 るところで,莱 質的に同一の解決 に達す ることがで きよ う。

一企業ない し複数の企業 によって作成 され使用 されているが,その企業 と取 引関係 に入 るほとん どの ビジネスマ ンが知 っていることを正当に主張 しうるほ ど普及 していない約款が問題 とされ る場合 には, ドイツにおいて も,いわゆる 典型的承認の可能性 は排除 され,個別契約 に採用 され るためには,やは り,約 款作成者が,相手方 当事者 に正当に通知 した ことを証明す ることが要件 とされ ているのである。

これに対 して,同業組合,証券取引所その他の組織 によって,そのメ ンバ ー のため作成 され,その採用が,今 日では,各取引分野 において一般的慣行 と言 え る約款の場合には,英米法, フランス法 において も,具体的ケースにおいて 当事者の一方がその存在を知 らな くて も,その効力を承認 しているのである

‑ 国際取 引においてはよ く見 られ るところであるが ‑ 電話 または電幸削こ よってすでに締結 された契約を確認 した り,その正確 さを期す るため,約款が 一方 当事者か ら他方 当事者 に送付す る書面 に援用 されていた場合 に も,結論 は 異な らない。この場合 に も,結局の ところ,このよ うに して援用 された約款が, これまで明示的に当事者 によって合意 されて きたのか,各取 引分野 においてい つ も採用 されて きたのかを検討す ることが重要 なので ある。 これ らの場合 に は,相手方 当事者 によるすみやかな異議がなされない限 り,その約款が適用 さ れ ることは,今 日至 る所で承認 され る傾向にある。 これに対 して,約款がその 時まで相手方当事者 に知 られていない場合やすでになされた口頭の合意を明 ら かに変更す る内容を有 している場合 には,各宛人側の沈黙が原則 として黙示の 承認 とみなされ る諸国において も,かか る約款 は適用 されない105)0

105)なお,ULIS 7 1 2項 も参照。

(17)

国際取引法におけるLexMercatoriaの理論(2)‑Bonell氏の所説を対象として‑ 127

V

最後に検討すべ き問題 は,ひ とたび個別契約の内容 になった場合 に,国際的 約款 ・規則がその有効性 につ きいかな る制限を うけるのか, とい うことであ

る。

ここで我 々に直接関心のある事項 について,国家法が私人の 自己規制権 に対 して課 している制限は少ない とはいえ,それ らの制限は,公分母 とな しえない と思われ るほどの相異を示 しているのである。

しか し,この点 に関 して忘れて はな らない ことは,国際取 引関係固有 の特徴, かか る関係 を純国内関係を基準 として考察 ・評価す ることが不可能ない し不適 切であることを,すでに証明 した ことである。 この ことか ら,各国法が現在そ の領域内で課 しているさまざまの制限は,そのすべてが,国際取 引関係 に も適 用 されると考え る必要 はない ことが導 き出され る。

約款 に含 まれ る規律が,いわゆる内国強行法規 に反す るわけではないが,覗 実 には,約款付合者 にとって明 らかに不公平であるとか, きわめて過酷な もの であるといった事態を避 けるため,今 日ほとん ど至 る所で約款 に関 して規定 さ れている行政的 ・司法的 コン トロールについて, この ことはあてはまる。

この点 に関す る各国の規制を詳細 に分析す ると,その適用範囲が,一般的に, 一方 は企業,他方 は,消費者である関係 に限定 されていることを認め ることが で きる106) 。 かか る関係 において は,企業が,消費者 に対 して, 自 らがそのメ ンバーである同業組合あるいは自分 自身が作成 した約款を課そ うと しているの である。 この種の コン トロールが,通常完全 に優越的地位 にある企業の横暴か ら消費者を保護す ることを,主 として 目的 としているな らば,国際取 引関係 に はかか るコン トロールが及ばない107)ことが理解 されよ う その理 由は,第一 に,国際取引関係が,取引上の観点か ら対等な主体問で展開されること,第二 106)立法例 と して, スウェーデ ンの 「不 当契約条件禁止法」(1971) 1条,学説 ・

判例上認め られている国 と して,西 ドイ ツ,英米およびイタ リアがあげ られ る。

107)イギ リス動産売買 (黙示条項)法 (1973),イスラエル標準契約法 (1964),西 ド イツ約款規制法草案 (1975)に, この趣 旨の規定がおかれている。

(18)

に,そ こで使用 され る約款が,少 な くとも,原則 として,完全 に中立的な組織 ない し多種多様 な利害関係者を十分 に代表 している組織 によって作成 されてい ること,にある。

さ らに,そ うでない として も,すなわち,約款が一方 当事者 あるいは同業組 合のために作成 され る場合 に も,結論 は異な らない。その理 由は,やは り商人 問の関係が問題 とされているか らであ り,取引にあた り,特定の約款 を承諾す る前に, しか るべ き注意を払い,その経済的利益を評価す ることが期待 されて いると言えよ う

約款作成者が特定の市場 において 占めている絶対的優越的地位のため,約款 が付合者 にとって明白に過酷 な内容を示 しているに も拘わ らず,付合者が承諾 して しま った場合 にのみ,各国法 は,かか る約款 に介入 しようとしている。換 言すれば,大切 なのは,その客観的内容なのではな くて,一方 当事者が他方当 事者に課す方法如何である このように問題を設定す ると,その解決 は,約款 の規制 につ き定め られている特別な原則によるのではな く,一般的に権利濫用 禁止 の原則 108),契約 自由概念 と関連性 を もち,普遍 的効力 を有 す る原則 に よって与え られよう

一般的性格の制限,すなわち,各国法上,私人による契約を規制す るために 課 され る,いわゆる強行的原則 ・規範 による制限 も,国際取 引関係 には適用 さ れない ことを証明す ることはさほど困難ではないであろ う

この点 に関 してまず想起 され るべ きは,国家立法者が,かか る強行法規109)

の適用範囲を,明 らかに国内関係 に限定 しようとしていることである

次に忘れてはな らないことは,よ り一般的には,純国内関係が問題なのか, それ とも,各国法にとって異質な要素を示す関係が問題なのかによって,今 日 ほ とん ど至 る所で契約 自由の原則が有す る意義 ・適用範囲が異 な ることであ る 後者の関係 においては,当事者が, 自 らの関係のさまざまな側面 ‑ 国内 108)想起 され るの は, ヨーロ ッパ経済共同体設立条約第86条が,市場支配的地位 の濫

用禁止を国際的レベルで承認 していることである。

109)金約款や為替管理などの制度 に関す るものが考 え られ る。

(19)

国際取引法におけるLexMercatoriaの理論(2)‑Bonell氏の所説を対象として‑ 129 関係 においては,私人が決定の 自由を有せず,強行法規 によって規制 され る側 面 も含 めて ‑ を規制すべ き法秩序 を 自 ら決定す ることがで きるので,学説 上,国内関係 においてのみ強行的性質を有 し,いわゆる国際関係 においては, 結局,全 く適用 されない実定法規,すなわち 《内国強行法規〉(intern zwing‑

endeRechtssatze)について論 じられ ることになる

ところで,よ く検討 してみ ると,国家 自体が,今 日,絶対 に違反す ることが で きず,それゆえほとん どのケースに必ず適用 され るとみな している原則 ・規範 とい うの は,《必要 的適用規範》《直接適用境範》ない しいわ ゆ る国際的公序 110)と一般 に呼ばれている原則 ・規範 にす ぎない。

ここでは疑 い もな く, きわめて異質な範噂の規範が問題 とされているのであ り,一般的に,行政的 ・財政的 ・刑法的性質の法規 111)が該当す る。 これ らの 法規 は,原則 としてその適用が属地内に制限 されているだけでな く, ここで検 討 している各規則 ・約款 に含 まれ る規律を対象 とす る側面 ・問題 とは関連性が

ない ものである。

各種契約のまさに私法的側面 に限定 して,上述の範噂に含 まれ る原則 ・規範 が何であるかを決定す るために,各国法を詳細に検討す ることはここでは行わ ない。 この点 に関す る国際私法上の学説 ・判例 も,一般的説明を しているにす

ぎない。

ここでむ しろ強調 してお く必要があるのは,次の ことである 各国法が,覗 荏,いわゆ る国際契約 において も尊重 させ ようとしている制限が,結局の とこ

ろ,国際的公序の原則 ・規範 に他な らない とい うことを承認す るな らば,その 間に現存す る差異を克服 し, この点 に関 して も, トランスナシ ョナルな原則 ・ 規範の存在を肯定す ることはそ う困難な ことではないであろう

このような問題 は生 じないことが多 い。 とい うのは,諸事項 について,国家 立法者 は,共通の協定 によ って,各国内法上固有の原則の代わ りに採用すべ き, 110)国際的公序概念 の多義性 につ いて は,Bonell,op.°it.p.286nota(105)参照。

111)金融上 ・関税上 ・財政上の法規,競争上の諸措置,特定物品の輸出入承認,敵国 通商禁止などが考えられる。

参照

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