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僻地の理科教育 ― 小学校理科授業での問題点 ―

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

僻地の理科教育 ― 小学校理科授業での問題点 ―

著者 永田 四郎

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 17

ページ 155‑160

発行年 1981‑03‑23

その他のタイトル Science Education of Elementary School in the Remote Village

URL http://hdl.handle.net/10105/6507

(2)

      業

僻 地 の 理 科 教 育

   一小学校理科授業での問題点一

永  田  四  郎

(理科教育教室)

   は じ め に

 前に、僻地での理科教育の積極的な取組みの一例として、奈良県吉野郡野迫川村の北設小学校 での理科教育の現状を紹介した。また、僻地の特色を活かした理科学習指導の一例として、奈良 県宇陀郡室生寺境内での局地気象の共同観測の実施例をあげ、また僻地の子供たちの自然認識の 特徴を探るために、奈良県吉野酬11上村川上第三小学校児童についての調査結果を報告した。

 今回は、僻地において小学校理科の授業、学習指導を実施する時の問題点を捉え、その改善策 や進め方などを考える資料を得たいと思い、奈良県内の指定されている僻地校全部と準僻地校の 一部、合計57の小学校と分校に対し、ω教師(学校)と12〕児童(4,5,6年生)全員とを対象 にして、調査用紙を配布しそれぞれに回答を求めた。調査用紙の配布が10月中旬であり、各小学 校で学校行事が重なっていることや、交通不便等の僻地の特殊事情もあって、現在までに41校か

ら回答を得ていて、なお今後幾らか得られそうである。

 当初、この調査結果の全容について報告したいと思っていたのであるが、上述の様に回答の入 手が遅れていることと、全児童を対象としたものは回答紙数だけでも約1,500枚で、しかも予想

していたより細こまど記入されていて、短時日では整理検討することが困難であることが分った ので、ここには教師(学校)に対して行った調査内容の・一部1こついて、現在までに得ている回答 を中心として検討してみたい。

  調 査 項 日

教師(学校)に対して行った調査項目は次の様なものである。

  (児童に対して行ったものは、ここにはあげない)

1.現在、理科の授業でどうしても欲しいと思っておられるものにどんなものがありますか。

ω設備では     12〕器具・機械では    131消耗品では

2.理科の授業で使う必要な器具、薬品、材料などはどんなにして求めておられますか。

3.理科の授業のために1年間にどれくらいの費用を使っておられますか。その金は何処から出

 ていますか。

4.今までに僻地の特色を活かした理科の学習活動をされた良い例がありましたらお教えくださ

 い。

^ Science Education of Elementary School in the Remote Vi11age

 Shiro Nagata(Department of Science Education,Nara University of

  Education,Nara)

(3)

5.僻地なればこそという理科学習に使える設備や自然環境がありましたらご紹介ください。

6.理科教材で、どうもやりにくいと思っておられるものにどんなものがありますか。できれば  そのわけもお示しください。

 。1年生では    。2年生では    。3年生では    。4年生では  。5年生では    。6年生では

7. r教科書のままではやれない」とかr平地とは条件が違う」とかいうことで、何か特別な年  間計画や栽培・観察・実験のし方などを工夫しておられましたらお教えください。

8.僻地の理科教育を良くするのには、どんなことが必要だとお考えですか。できるだけ具体的  に、率直にお書きください。(困っておられる現状もお知らせください。)

9.先生方は今、理科(科学)でどんなことをもっと勉強したいと思っておられますか。

 。A生先一・・   。B先生・…・・   。C先生…・…    D先生・…

10先生方で、理科(科学)の研究をつづけておられましたら、その題目とお名前とをお教えく

 たさい。

学校名

ご連絡の先生名

所在地

   理科の授業で欲しいもの

 設備で最も欲しいものとしては理科教室が多い。これに付随して準備室や薬品庫があけられて いる。水道やガスの設備も要望が多い。天体学習設備が欲しいというのが数校あるが、具体的に は天体望遠鏡や天体投映機などを指していると思われる。

 器具機械では、最も多いのが人体模型である。これはいささか意外であった。生物の採集用具 や飼育栽培装置という類も多い。また、天体観測用具も多いが、前述の天体学習設備というのと 合わせると、最も要望の多い器機である。

 光学器機の要望も多い。小は虫メガネから、顕微鏡、レンズ類、光源装置、プロセクターなど であるが、これに前述の天体望遠鏡や投映機を加えるとかなりの数になる。

 上皿天秤、自記気象観測器、送風機、V T Rなどもある。

 消耗晶では、ビーカーの要望が最も多い。化学実験用品、化学薬品も多い。試験管もこの中に 入るのであろうが、特に試験管と単独に要望しているのも2,3ある。

 ガラス管、ゴム管、アルコール、塩酸、石灰石、磁石などもあるが、その他にあけてある竹ひ ごや飼育箱は自給できるのではなかろうか。

 全般的に見て、理科室を設けるのは現状では困難であるとしても、基本的な水道やガス、照明 等の設備は最少限整えられたら、と感じるし、また要望の多い天体観察学習のための器材や人体 模型、生物や岩石採集用具、各種光学器機、視聴覚器機などは、各校毎には無理としても、適当

なグループ数枚毎にでも整備活用できる様になればと願う。この場合、どの様な器材を、どんな

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グループで持ち、どの様に活用したらよいかなど具体的に研究できたら改善に役立つだろうと思

っている。

   僻地の特色を活かした学習活動

 僻地の豊富な自然環境を学習活動に採り入れている例が多く報告されたが、そのうちの幾つか

を紹介する。

 。一人一鉢運動をおこなっている。鉢にはアケビ、カラスウリなど野生の実の成る植物を植え   て育てさせている。

 。シイタケ栽培で、シイタケの蔵入れから生産まで、児童の手でやらせている。

 。親子共同作業で、稲の植付けから刈入れまで行い、山菜採りも行っている。

 。クワガタの人工飼育を行い、その成長を観察させている。

 。学校の裏山を利用して、r探険の森」を作り、学校付近にある樹木や草花などを集め、名札   をつけ、その育ちの様子を観察させている。また、大木と大木とに0一プを張って、これを   使ってすべったり、大木の上からぷらさげた層を登り降りしたりして、体育的にも利用して

  いる。

 。森林学習で、木の種類、育ち方などの学習。林間学校も開く。日当りの違いでの植物の育ち   方の違いの観察など。 (学校林でないため、自由にできないとの不満もある)

 。特に低学年の理科学習にはよい。川原での石ころ集めや草花などを使った遊びをしている。

 。川で魚つりをして、その後で魚の解剖を行う。魚の体のつくりの勉強をする。

 。道を歩きながら、谷川の観察や流水の働きなどを見る。

 。自然の材料を使って、空気でっぽうや水でっぽうなどの製作活動を行う。また身近にある廃   材などを使って教材や教具を作らせている。

 。地域の自然を観察さ甘、季節の移り変わりをとらえさせている。

 。川原でいろいろな石を集めたり、川の流れや地形 の観察、堆積岩の観察を行う。

 など各様である。上には似通った内容のものは一項 目にまとめてあ乱何れにしても恵まれた自然環境を どの様に学習に採り入れるかが僻地の理科教育でのポ イントであり、これの具体的な研究が必要であろう。

 ここで配慮したいことは、僻地といっても自然環境 は一様ではなく、例えば谷川や渓谷の多い所や、森林、

樹木の多い所、広い川原のある所などがあって、この 違いに応じた活用のし方が考えられねばならないとい

うことである。

(5)

  小学校理科教材でやりにくいもの

。1年生の教材で最も多いのは アサガオの観察 である。これは僻地校の大部分が山間で高い 場所が多いため、気候が冷涼でそれだけ植物の成長が平地に比べて遅れるので、アサガオの花 の咲くのも夏休みに入って、指導がしにくいという理由である。また、学校や家庭が山林や樹 木に囲まれて日当りが悪いので、植物の生育が悪いという理由もあげている。

   ウサギやニワトリなど小動物の飼育観察 が困難であるというのも多い。その理由の一つ は校地や校舎が狭く、小動物を飼う適当な場所が無いというのである。日当りが良く風通しの 良い場所が得にくいことと、管理も難しいといっている。教職員数が少なく、若い新任教官の 多くは小動物飼育に経験が乏しく、興味すらない人が多いと訴えている。子供に世話させるに  も家が散在し遠い者があり、これも思う様にはいかない様である。

 案外なのは、 石ころ、石あつめ、川のようす の指導がむつかしいというのがある。理由 は述べてないが、これと類似して子どもが自然に対して無関心で困るというのもあるので、一 つには子供を石や川に関心を向けさせるポイント、指導法が難しいということであろう。ある いは、近くに川や石ころが無いというのかも知れない。

。2年生の教材では ヒマワリの観察 が難しいとするのが最も多い。これも前のアサガオの場 合と同じ理由で、花の咲く時期が夏休みになり指導しにくいというのである。

   水の中の生き物 もやりにくいというのが多い。これは近くに池や水たまり、小川が無く、

適当な生き物がいないという理由である。近くに川が育っても、谷川の清流であったりして、

子どもに手ごろな生き物が棲んでいないという。

。3年生の教材では、 ヘチマの栽培 がむつかしいとするのが多い。理由は、アサガオやヒマ  ワリの場合と同じで、生育の主な時期が夏休みに入るからである。また 季節と生き物 では

例えばツバメが居ないなど、平地では普通に見られる身近な動物が僻地では見られないものが 多いので指導に困るといっている。 雲や空の様子の観察 や 天気の継続観察 がやりにく  いというのが幾つがあり、その理由として、空が狭いというのを主としてあげてある。

。4年生の教材では 太陽と月 の指導が難しいというのが圧倒的に多い。これは一つには山岳 地帯の特色である天気の移り変わりが激しいことと、もう一つの理由は周囲の山林樹木のため、

空が狭くなっているという理由である。 イモの育ち方 では、ジャガイモの育ちが悪いこと や適当な学級園が無いこと、日当りも悪いことなどで指導しにくいといっている。

   海の生物 も指導困難としているのは、海が近くにないのだから当然のことで、その対策 が考えられねばならない。

。5年生教材では、 星の動き が断然多い。その理由は前の太陽と月の場合と同様に、空が狭  いこと、天候が変わりやすいことになっている。これらは僻地としてはもっともなことで、致  し方ないことともいえるが、一般的に僻地に限らず 天文教材は指導がむつかしい との声は 多いので、一つの大きな理由として教師の教材研究の不足が考えられる。僻地でも太陽、月、

星はある程度は見られるのであるから、指導法や教材内容の研究がなされるなら、幾らかでも

解決できそうに思われる。又、星の観察では児童の集合がむつかしいという理由もある。学校

(6)

と家庭との結びつき、連絡がむつかしいという回答もある。これも僻地ほどではなくても、一 般的にいわれていることであるので、夜間の天体観測の実施方法について積極的に解決策が考 えられねばならない。

   メダカの飼育観察 も多い。十数校が困難としてある。理由のおもなことは、メダカが居 ないというのである。清流、急流で水温も冷たく、メダカが接めないので、苦心して平地から 採って来て飼ったが長くは生きていなかったといっている。メダカの代りの魚を探しているが、

まだ適当なものが見つからない、 魚が卵からかえって大きく育ってゆく様子を観察 させた いが、それができないそうである。

。6年生教材では 地層の観察 がやりにくいというのが最も多い。理由は近くに適当な場所が 見あたらないというのである。簡単に考えると、僻地は山間の地形の変化の多い所だから、地 層もいろいろ見られて指導がしやすい様であるので、これもいささか意外であ乱しかし良く 考えてみると、今まで僻地の各所で見てきた経験からも 適当な場所がない という理由もう

なづける様である。前にも述べた如く、同じく僻地といっても地形は種々であるからである。

   太陽高度の変化 の指導がしにくいというのが数校あった。空が狭く、日の出、日の入り やその近くの時刻での観察ができないからだといっている。

 以上が、小学校教材で指導しにくいとする項目とその理由の大要であるが、春期の気温が低い ことなどで、植物の生育が遅れ、開花期が夏休み期問中にずれこむという問題が最も多く見られ る。適当な品種の選択や生育初期の保温などによって、この問題もある程度解決できるのではな いかと考えられる。平地に見られるツバメやメダカが居ないというのも、代りの適当な教材が見 つからないものだろうか。

 太陽、月、星の観察がしにくいのは、なるほど僻地の地形や天候の悪条件があるが、何とか解 決法を考えたいものである。その為にはどうしても教師自身の教材研究が必要であろう。着し適 当な指導法が考えられるなら、僻地ならではの美しい月や星に子ども達はあらためて感動し、学 習の意欲を燃やすのではなかろうか。当然、天体望遠鏡など欲しいものである。地層観察につい ても、教師自身の教材研究が必要の様に思われる。

   お わ り に

 ここには僻地の理科教育を考えるための調査結果の一部について報告した。僻地は一般的に自 然環境に恵まれていて、これを活かした理科学習が進められているが、一方ではその地形や気候 等が学習に不利な条件にもなっていて、指導困難な教材も多い様である。特に後者についてはそ の解決策の研究とともに教師自身の教材研究のための努力が必要であると考えられる。

 前に述べた如く、この調査は教師と児童全員に対して行ったのであるが、ここには教師に対し て行ったものの一部だけを報告した。何れ、全般に亙って整理検討し、要すれば更に追加調査も 加えて、それらの結果と検討を報告したい所在である。

 最後に、本調査にご協力いただいた奈良県下の僻地小学校・分校に対し厚く謝意を表する次第

である。

(7)

       参 考 文 就

(1j永田四郎 へき地における理科指導11〕、奈良教育大学教育研究所紀要、第9号(1973)

(21永田四郎:へき地における理科指導121、奈良教育大学教育研究所紀要、第11号(1975)

13〕永田四郎:へき地の理科教育一北設小学校の場合一、奈良教育大学教育研究所紀要、第        15号(1979)

14〕北設小学校:自然を生かし、ひとりひとりを高め合う理科指導の創造、奈良県へき地教育研

        究振興大会研究紀要、(1980)

参照

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