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ドイツ及びヨーロッパにおける 組織犯罪対策の概観

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講 演

ドイツ及びヨーロッパにおける 組織犯罪対策の概観

Combatting Organized Crime in Germany and Europe: An Overview

アルントゥ・ジン

訳 四  方   光**

    目   次   訳者はしがき  A .イントロダクション  B .組織犯罪:その定義の必要性  C .今日のドイツにおける組織犯罪  D .刑法典129条(犯罪組織)改正  E .EUにおける組織犯罪  F .結   語

訳者はしがき

 本稿は,2019年 ₃ 月26日,中央大学日本比較法研究所において,英語に より行われた講演を,中央大学法科大学院の滝沢誠教授の協力のもとに四 方(中央大学法学部教授)が日本語に訳したものである。なお,ジン教授 は,本講演の英文の原稿の作成に当たっては,Christopher Schuller氏の 協力を得たとのことである。

 講演者のアルントゥ・ジン教授は,既に,比較法雑誌誌49巻 ₁ 号43頁に

 オスナブリュック大学法学部教授  Arndt Sinn

 Prof. Dr. Prof. h. c., School of Law at Osnarbueck University

** 所員・中央大学法学部教授

(2)

おいて紹介されているところではあるが,同教授は,1971年,ドイツ連邦 共和国に生まれ,ライプチッヒ大学において法律学を学んだ後,1999年に 司法試験に合格し,その後,2000年には,ギーゼン大学において博士号 を,2006年には,同大学において,教授資格をそれぞれ取得し,現在は,

オスナブリュック大学法学部教授である。同教授の研究領域は,ドイツ刑 法及び刑事訴訟法の解釈適用にとどまらず,EU法とドイツ法との比較法,

さらに,ドイツ法とわが国,中国,台湾等との比較法にも関心が及んでお り,その具体的なテーマは,犯罪論のみならず組織犯罪,サイバー犯罪等 にも及んでおり2016年には『組織犯罪3.0』を刊行している。なお,ジン教 授は,台湾国立高雄大学より名誉教授の称号も授与されている。

 本講演は,近時に行われたドイツにおける組織犯罪に対する刑事実体法 上の対応策を紹介したものであり,ドイツ刑法典の強い影響を受けたわが 国の実体刑法の今後の在り方について示唆を与えるものと考えられること から,ここに翻訳を掲載する。なお,本翻訳中に指摘されている

Walter

Gropp

教授は,ジン教授の指導教授であるところ,両教授が編まれた『Or-

ganisierte Kriminalität und kriminelle Organisationen. Präventive und re- pressive Maßnahmen vor dem Hintergrund des 11. September 2001(組織

犯罪と犯罪組織─2001年 ₉ 月11日以降の予防的抑圧的措置)』の書評は,

比較法雑誌43巻 ₁ 号283頁以下に掲載されている。

A.イントロダクション

 「組織犯罪」という言葉は最近の発明ではないが,立法において登場し たのはわずか30年前に過ぎない現象である。 ₂ つの外的な事情の展開が,

この変化に貢献した。 ₁ つは,薬物犯罪に関連する行為の活発化に対する 懸念, ₂ つには,薬物犯罪その他の犯罪が行われた顕著に組織的な方法で ある1)

1) Eser in Gropp (ed.), Besondere Ermittlungsmaßnahmen gegen die organisierte

(3)

 このように,「組織犯罪」は,非常に新しい?若い研究領域である。犯 罪者集団の特定の構造や彼らの犯行方法は,犯罪学者の関心対象となって きたが,刑事法学者の反応はずっと遅かった。刑訴法において,組織犯罪 に対処する目的の条項が採用されたのは,ようやく1980年代からである。

その進展の契機となったのは,憲法裁判所が1983年に出した「国勢調査判 決」である。すなわち,同裁判所は,ドイツ基本法 ₂ 条 ₁ 項及び ₁ 条 ₁ 項 に基づき,私人の個人情報の開示と利用に対する強いコントロール権を確 立したのであった2)。この「情報の自己決定権」は,無制限なものではな いが,制限するためには具体的な法律の根拠を要求するものである3)。こ の判決を受けて,法律家の見解は,秘密捜査官や技術的傍受等の一定の捜 査手法は,この権利を侵害するものであり,したがって制定法による根拠 が必要であるとの考えにシフトしていった。そうして,「違法薬物の取引 その他の組織犯罪の出現形態に対処するための法律(以下「組織犯罪対策 法」という。)」が,1992年 ₇ 月に成立した4)。同法は,組織犯罪の起訴に 法的根拠を与えるよう立法されたものである。

 組織犯罪対策法は,いくつかの特定の捜査手法を規定している。「ラス ター捜査」(刑訴法98条

a),警察による監視(刑訴法163条 e),技術手段

を用いた住居内の会話傍受(刑訴法100条

c),及び秘密捜査官の投入(刑

訴法110条

a)が,すべて刑訴法に条文として加えられた。組織犯罪の登

場とそれへの対策が始まるはるか以前から行われてきたものではあるが,

電話傍受についても言及しておかなければならない。テレコミュニケーシ ョンの監視の法律上の根拠(刑訴法100条

a) は,1968年 ₈ 月13日に, 信

書,郵便及び通信の秘密を制限する法律によって加えられたものである が,組織犯罪対策法によって対象罪種が大幅に拡大された。マネーロンダ リングも拡大され,以後しばしば改正がなされてきた。この条項は,ドイ

Kriminalität, Freiburg i.Br. 1993, p. 4.

2) BVerfGE 65, 43.

3) BVerfGE 65, 44.

4) BGBl. 1992 I, 1302 et seq.

(4)

ツにおいて最も頻繁に改正されている法律の一つである。

 2017年夏,技術的変化に対応した新しい捜査手法が刑訴法に導入され た。それは,「源泉電話傍受」と「IT機器に対するオンライン捜索」であ る。

 実体法的には,組織犯罪の訴追は,伝統的な領域と親和的になされてき た。多数の行為者の参加やこれら多数の犯罪者の階層的構造といった組織 犯罪の特徴に対処するため,「犯罪者」や「共謀」といった既存の概念な ど,刑法典総則の既存の仕組が巧妙に活用されてきた。したがって,ドイ ツ刑法典各則の特定の犯罪で組織犯罪を訴追することは,それほど複雑な ものではない。「組織犯罪」という用語は犯罪の構成要件の中には見られ ず,「組織犯罪の罪」と呼ばれるような犯罪も規定されていない。もっと も,「犯罪組織参加罪」という罪はあって,組織犯罪対策にとって有効で あり,新たな犯罪が「犯罪組織全体の刑事責任の基礎となるように」規定 されている5)。そこで刑法上問題となるのは,犯罪組織とテロ集団や極右 民族主義集団等との区別である。組織犯罪対策法制にとっての難題は,次 の疑問に答えられるかということになる。

₁ .組織犯罪とは何か。

₂ .法的にどのようにして組織犯罪やその出現形態を定義するのか。

₃ .いかなる手続法的な手段を利用可能とするのか。

₄ .これらの手段をどのように制限するのか。

 これらは,組織犯罪を取り扱う上で最も基本的な論点である。以下での 議論では,組織犯罪の訴追における実務上及び法律上の課題を概観する。

ここでは,すべての問題の詳細について議論することはできないが,今後 の議論の基礎になるであろう。

5) Wörner and Wörner in Gropp and Sinn (eds.), Organisierte Kriminalität und kriminelle Organisationen. Präventive und repressive Maßnahmen vor dem Hinter- grund des 11. September 2001, Baden-Baden 2007, p. 88.

(5)

B.組織犯罪:その定義の必要性

 最初に,「組織犯罪」とは何なのかを知る必要があるのかということを 明確にする必要がある。このことは,単なる学問の方法論上の問題ではな い。ドイツ法に見られるように,刑法体系は総則と各則に分かれており,

犯罪は,総則に規定される原則に従いつつも各則に定められて訴追の対象 となるものであるから,組織犯罪の定義について検討する必要はないよう に見える。密輸時の自動車の運転者など薬物に係る犯罪組織の参加者は,

既存の薬物犯罪の共謀者,教唆者,あるいは共犯者として訴追され得る。

しかしこれらはすべて,ドイツ刑法典129条に規定する犯罪組織参加罪と して訴追できるのである。犯罪学研究上の関心は別として,組織犯罪の定 義については,刑法上のドグマの観点からは,問題とならないのである

(pointless)。しかし,ドイツの立法者は,特定の犯罪の構造を,ドイツ刑 法典や刑訴法の改正時において処罰可能な行為の範囲を広げる改正の正当 化のガイドとして見ることが多い点を見過ごしてはならない。組織犯罪に ついても,実体法及び手続法上の分類学上の位置付けが,捜査や訴追によ って権利が侵害されることの法律上の正当化となるものである6)。したが って,組織犯罪という用語は,限られた機能しか持たないのである。この ことは,捜査手法の分野において明白である。しかし,立法者は,組織犯 罪という用語がこのような限られた機能しかないことを必ずしも重視しな い。組織犯罪の定義上の要素は,犯罪構成要件の一部とはならない。各犯 罪は,組織犯罪の定義によって限界付けられるものではない7)。その結果 は,法の支配にとって問題を生ずることとなる。2001年の初めころ,ヴァ ルター・クロップ(Walter Gropp)は「組織犯罪との闘いは,組織犯罪と 闘うためにも使えるが実際にもっと広範囲な重大犯罪の手段にされている 6) Gropp in Gropp and Huber (eds.), Rechtliche Initiativen gegen organisierte

Kriminalität. edition iuscrim Vol. S. 84, Freiburg i.Br., p. 86.

7) Cf. ibid.

(6)

新たな捜査手法導入の正当化根拠となっている。」と指摘している8)。彼 はさらに,このアプローチは,「個人の自由,とりわけ情報の自己決定権 の侵害の問題を,批判を招くことなく扱うことができる」という利点があ ると述べている。このような展開は,ドイツの刑事実体法においても見ら れる。それは,国際的な計画のもとに,組織犯罪の典型的な活動領域であ る薬物取引を明確に意図した犯罪としてのマネーロンダリングの犯罪化と して最初に登場した。しかし,ドイツの犯罪類型を国際的なモデルに合わ せようとする増加し続ける圧力とさらなる改正によって,ドイツの立法者 は,ドイツ刑法典261条を,当初の組織犯罪対策という条項の特徴が認識 できないほど変化させてしまった。ヨーロッパにおいても,国連の枠組み においても,組織犯罪という用語は,訴追戦略の形成において最重要な部 分を演じている。

 組織犯罪との闘いに向けた国際戦略を論じることなくして,組織犯罪が 何を意味するのか明確にすることの必要性に到達することができない。各 国の文化的財産や法体系や文化の相違は,当然に刑事実体法の相違をもた らす。D. において後述するように,このことは,必然的に組織犯罪とい う概念の相違をもたらすのである。もっとも,このことは,将来の活動に 向けた共通の出発点を見つけようとする比較法分析を妨げるものではな い。

C.今日のドイツにおける組織犯罪

 連邦刑事庁(BKA)は,ドイツにおける組織犯罪の状況に関する統計 を毎年公表している9)。最後の報告は2018年に公表されたもので,1990年

₅ 月に警察と司法のワーキンググループによって策定された組織犯罪の定 義を用いている。この報告は,各州の刑事警察局(Criminal Police Offices),

8) Ibid., p. 88.

9) Bundeslagebild Organisierte Kriminalität, the latest in 2008.

(7)

関税警察局(Customs Criminal Police Office) 及び連邦警察長官会議

(Federal Police Presidium)との共同で作成されている。統一的なデータ が,組織犯罪に対するすべての捜査活動について収集されている。

Ⅰ.組織犯罪の定義

 1990年 ₅ 月に警察と司法のワーキンググループによって策定された組織 犯罪の定義は,関連統計の収集の基準として用いられ,組織犯罪の状況に 関する年次報告を構成している。それは,犯罪構成要件と犯罪の実行に関 する犯罪学的な知見に対応している。

 組織犯罪は,「収益又は権益を集積する目的を有する犯罪行為の計画的 犯行であって,次に掲げる態様によって,二人以上の犯罪者が継続的に又 は無期限に責任を共有し,協力するもの

a)会社や会社類似の構造を用いて行われるもの b)暴力その他脅迫的な手段によって行われるもの

c)影響力のある政治家,マスメディア,行政機関,司法機関又は経済主

体によって行われるもの」

と定義されている。

 組織犯罪に当たるとするためには,犯罪行為が柱書のすべての要件を満 たすとともに,各号のうちの少なくとも一つに該当する必要がある。この 定義は,特にテロを除外している。

 留意しておくべきことは,2008年の組織犯罪対策の大半は,上記の会社 や会社類似の構造を用いて行われるものに対するものであって,影響力の あるマスメディアや公的機関に対するものは,極めて少ないということで ある。この定義は,使用が開始された当初から,厳しい批判にさらされて きた。最も批判されたのは,この組織犯罪の定義が,実際に生じている組 織犯罪の現象だけをカバーするものであるかという点に関してである。さ らに,概念的なあいまいさやテロの除外なども批判の理由となった。

(8)

Ⅱ.組織犯罪とテロとの結びつき

 ここ10年で,ハイブリッドな集団構成がなされ,もはや収益志向の集団 か破壊志向の集団かを明確に区別することはできないことが明らかになっ ている。一定のグループは複合化しており,それが組織犯罪3.0の一面で あることは確実である。安全保障当局は,ISやアルカイダのようなイス ラム集団は,国際的なたばこの密輸によって資金を獲得しており,数百万 ユーロがたばこの密輸によって生まれ,スイスの銀行を通じて資金洗浄が 行われ,おそらく渡航認証(ETA)にも用いられていると指摘している。

2015年末,ケルン地方裁判所において,その犯罪収益がシリアにおける聖 戦支援のために用いられた学校や教会における犯罪に関する裁判が開始さ れた。ユーロポールの最新の報告

SOCTA2017でも,このような進化事例

がいくつか取り上げられている。

Ⅲ.組織犯罪に対する捜査

 上記の定義は,2015年の566事件,2016年の563事件,2017年の572事件 において用いられている。最近10年間では,捜査の数と刑事裁判の数は安 定している。

Ⅳ.組織犯罪活動の典型的な領域

 組織犯罪は,いくつかの犯罪活動の領域にまたがっている。統計では,

薬物取引,汚職,財産犯,税法違反,人身売買,風俗犯罪,偽造,粗暴 犯,武器密輸,環境犯罪及びその他の犯罪に分かれる10)

 これらの犯罪の中で明確に多いのは,薬物犯罪及び薬物密輸である。

2017年,組織犯罪捜査の36.2%は薬物取引に関連するものであった。第 ₂ 位は財産犯の16.4%,これに続いて経済活動に関連する犯罪が11%である。

武器密輸は,ドイツの組織犯罪では些末なもので(0.5%),環境犯罪はさ らに少なく0.2%である。

10) ibid.

(9)

 2017年のドイツの全国統計を見るとき,組織犯罪の分野においては,統 計に計上されていない数が相当あるという仮説を考慮に入れる必要があ る。これらの統計は,組織犯罪集団の活動のごく限定された範囲を示すに 過ぎない。もっとも,薬物取引が組織犯罪活動の中心を占めることは明ら かであり,そのことは違法な薬物取引によって収益を得る可能性が大きい ことからも疑いの余地はない。

Ⅴ.組織犯罪による損害

 2017年中の組織犯罪による損害の合計額は,およそ ₂ 億900万ユーロで あった。このことは,2013年以降減少傾向にあるといえるが,それはもっ ぱら2016年からの減少に起因する。2016年の10億 ₁ 万ユーロから2017年の

₂ 億900万ユーロへの減少は,同年の見直しにおいて大きな損害額に対す る組織犯罪に対する手続への適用が少なかったからである。

Ⅵ.組織犯罪による収益

 違法取引の経済規模を計測するのは,難しい問題である。国際組織犯罪 は,毎年約8700億

US

ドル,世界の

GDP

の1.5%を産出していると推計さ れている。2016年の研究では,OECDは,海賊版だけで国際貿易の2.5%,

4610億

US

ドルに相当すると推計している。2017年の別の推計によれば,

国際犯罪組織による違法取引は,より大きく, ₁ 兆6000億から ₂ 兆2000億

US

ドルに上るとされる。海賊版と偽造製品だけで,9230億から ₁ 兆1300

US

ドルに上る。ドイツでは,国税局が組織犯罪の第一次的被害者で,

2015年に ₂ 億6800万ユーロの損害を受けている。

D.刑法典129条(犯罪組織)改正

 ドイツにおける最近の刑事実体法の進展を若干紹介しておきたい。なぜ なら,2017年半ばまでは,ドイツ刑法は,EUや国際法に対して不十分な だけでなく反していたからである。

(10)

 背景は,以下のとおりである。2000年11月にいわゆる国連パレルモ条約

(UNTOC)が,組織犯罪を認識し,訴追する国際法上の基礎を築いた。

ドイツは,この条約に加盟し,2005年に批准した。しかし,立法者はドイ ツ刑法典129条の犯罪組織規定を改正する必要性を感じなかった。欧州理 事会の2008年10月24日付け組織犯罪対策の枠組み決定は,ドイツを刑法典 129条の犯罪組織規定をそれと適合するように義務付けるもう一つの法的 枠組みであった。この枠組み決定は,明確に組織犯罪を目的としたもの で,EU内における犯罪組織の訴追及び処罰の法的基礎が形成されるはず のものであった。にもかかわらず,ドイツでは,それに対応するための立 法が行われなかった。

 結局,裁判所が反応し,刑法典129条の解釈を国際法や

EU

法に適合す るようにしようとしたが,失敗に終わった。ドイツ刑法典129条を

EU

支配的な犯罪組織の類型に対応させるための暫定的な解釈は,2009年12月 のドイツ連邦裁判所(BGH)判決によって出された。この判決では,組 織犯罪に対する

EU

枠組み決定をも扱っている。この判決で,ドイツ連邦 裁判所は,犯罪組織に関する任意条項について,狭い解釈をとり,それに より国際的な指針に反することとなった。犯罪組織の性質について,構成 員は,全員を拘束する組織的な意思決定過程に関与するものとされた。国 際的指針には,このような性質は含まれていない。ドイツ連邦裁判所は,

このような狭い解釈の理由として,このように解釈しなければ,非行集団 への参加と区別することができないことを挙げた。組織性には,これら ₂ つの集団を区別する十分な基準がなければならなかったからである。連邦 政府は,ドイツ刑法典129条改正の重要性を認識しながら,組織犯罪に関 する

EU

の枠組み決定にも

UNTOC

にも反するにもかかわらず,2015年ま でその必要性を否定してきた。

 EUがドイツに対して違反手続を開始したため,司法省は,結局2016年

₆ 月に,枠組み決定との整合性をとるための法案を提出した。立法過程で は短期間の議論と若干の修正の上,新法は採択され,2017年 ₈ 月から施行 され,国際法と

EU

法に適合することとなった。問題の大きい法的状態は

(11)

解消され,犯罪組織に関する枠組み決定(2008/841/JHA)第 ₁ 条に基づ く「参加(association)」の定義は,以下のとおりドイツ刑法典129条 ₂ 項 に含まれることとなった。

「第 ₂ 項 参加とは,共通の利益を追求するため,一定期間組織され,参 加者の役割,参加の継続及び参加者の組織構造に関する決定に基づき, ₂ 人以上の者が参加することをいう。」

E.EU

における組織犯罪

 ユーロポールの「EUにおける重大犯罪及び組織犯罪の脅威評価書」

(SOCTA)は,EUにおける組織犯罪の基本的状況を表している。重大犯 罪及び組織犯罪に関する本報告は,最初に2013年にユーロポールによって 出版されたもので,2017年までの犯罪対策の ₉ つの優先課題を示してい る。最新の

SOCTA

は2017年に発行されている。この報告の出発点であり 統計収集の基準となったのは,2008年10月24日付け組織犯罪対策の

EU

事会枠組み決定であり,この決定は犯罪組織の定義を含むものであった。

SOCTA

には,EU域内で知られている5000の組織犯罪集団(OCGs)が登

録されている。これらの集団の特徴は,利益追求,多国籍性,移動性,高 い柔軟性,国境を超えた活動及びインターネットの利用である。この柔軟 性と国際性の傾向は,英国の研究によって論証されている。英国,ドイ ツ,オランダ及びパキスタンを経由するネットワークが,薬物売買から違 法なタバコの輸入に商売替えをしている。SOCTAは,また,階層的な組 織犯罪の構造に言及しているが,犯罪者のネットワークがますます焦点と なってきており,知識と技能を有する専門家が「サービスとしての犯罪」

を提供していることも焦点となっている。犯罪者集団がアライアンスを組 み,影響力を及ぼす市場を分け合っている。組織犯罪集団の70%は,国際 的な活動を行っている。違法薬物市場は,いまだに組織犯罪が最も活発な 領域である。もっとも,組織犯罪集団の45%は,様々な市場で活動してい る(犯罪の多角化)。

(12)

 ホワイトカラー犯罪や詐欺が顕著に増大しており,よりよいコミュニケ ーションのテクニカル・ツールを用いることによって促進された詐欺的行 為が特に増大している。合成薬物やサイバー犯罪などの脅威が,国家レベ ル,EUレベル,国際レベルでの対策にもかかわらず増大している。人身 取引やコカイン等の脅威は,それほど増加はしていないが,EUにおける 当面の重大な脅威であり続けるであろう。組織犯罪集団とテロリストの融 合に対しては,2017年版

SOCTA

に基づいて初めて強力な取組がなされる であろう。

 組織犯罪への国際的取組を推進しているのは,EUである。国別報告は,

各国の立法府が

EU

から発出される指令に従って行動していることを明確 に表している。EUは,組織犯罪とテロリストを予防し,訴追するための 国際的なアプローチに従っているが,それは組織犯罪の特徴に対処しよう とするものである。ユーロポールは,捜査活動において捜査機関をますま す支援し, 調整するようになっている。EU域内の組織犯罪の脅威は,

EU

の領域が東方に拡大して以降,特に深刻になっている。

F.結   語

 法の支配に基づく法体系においては,組織犯罪対策は極めて難しい課題 である。組織犯罪現象に対処するために刑法を利用するためには,伝統的 な訴追のための武器庫にはない新たな道具を必要とする。組織犯罪とその ネットワークの隠れた活動は公共部門と私的部門に浸透しているが,民主 主義国家は,犯罪者を市民・国民であり続けさせている。しかし,組織犯 罪の特殊性から,覆面捜査による証拠収集のような通常の方法とは異なる 手続的アプローチが必要とされる。そして,このような方法は,より高度 な正当性と制限とが要求される。新たな権限が与えられ,法改正により新 たな犯罪が戧設されても,適切な人権保障が行われるための審査が求めら れる。他方,テロ対策が議論されている今日でも,組織犯罪の重大性が減 少するものではないといえる。

(13)

 ドイツにおける犯罪組織に対する新たな規制が犯罪者訴追の新たな段階 を切り開くものであるかどうかは,今後の展開を注視する必要がある。い ずれにせよ,ドイツ法が国際法と整合性のあるものとなったことは歓迎す べきことである。

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