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大学生の就職活動支援における 学生相談部門と就職サポート部門の協働

―相談員へのインタビュー調査に基づく期待と課題の探索―

森田慎一郎

問題と目的

就職活動をめぐる大学コミュニティにおける協働の必要性

2014年春卒業の大学生の201451日現在の就職率(卒業者に占め る就職者の割合)は69.8%(男子64.9%、女子75.8%)であり、前年度よ りも2.5ポイント上昇している(文部科学省,2014)。2010年春卒業の大学 生の同年5月時点における就職率が60.8%であったことをふまえても、そ の上昇ぶりは着実といえよう。

しかし、「就職率の上昇に伴って、就職活動を行う大学生の肉体的精神的 負担が軽減しつつある」という指摘はほとんど見られない。本田(2010 は、1993年頃から2004年頃の採用の冷え込みを経た2005年頃以降の就職 と採用に関する活動が、時期における「早期化」と「長期化」、企業側・学 生側双方の「厳選化」、プロセスや手続きにおける「煩雑化」などの特徴を 持ち、学生と企業にとって負担が大きく、効率性も失われていることを示し ている。加えて、そのような就職活動が、学生にとって、Quality of Life

(以下、QOL)を阻害するストレスフルなものになっていることを示してい る。とりわけ、上記のうち、学生側の「厳選化」に関しては、学生の大企業 志向が強いため、規模が大きい企業ほど求人倍率が低くなるという現象が、

学生における求職と求人にみられるミスマッチの問題として注目されている

(厚生労働省,2010)。

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こうした状況を受けて、政府は、2015年度卒業予定者から、就職活動に おける広報活動を3年次の121日から31日、採用選考活動を4年次 41日から81日にそれぞれ後ろ倒しすることを方針として定めた

(内閣府,2013)。しかし、この方針によって効果が期待されるのは、上記 のうちの「早期化」や「長期化」の部分であり、「厳選化」や「煩雑化」へ の効果は期待しがたいと考えられる。さらにいえば、この方針によって採用 選考活動が短期決戦型へ変わることにより新たな問題が生じるおそれもある だろう。したがって、大学においては、今後も、就職活動を行う学生への支 援がいっそう求められるといえる。

大学コミュニティにおいて、特定の学生を対象とする個別支援は学生支援 と呼ばれている(独立行政法人日本学生支援機構,2007)。なかでも就職活 動に関する学生支援については、「キャリアセンター」などと呼ばれる就職 サポート部門が中核を担っていることが多い。しかし、既述のとおり、就職 活動が学生のQOLを阻害することが指摘されている現状をふまえれば、就 職サポート部門だけでは、充分な対応ができない場面があることは想像に難 くない。したがって、QOLのような、就職活動に限定されない個人の生活 全般の事項に関するサポートを行っている学生相談部門との協働が不可欠に なるといえよう。

先行研究の概要

就職サポート部門と学生相談部門との協働に関しては、例えば、名古屋大 学では、20014月に、学生生活支援のための全学連携体制を整備するた めに学内の相談窓口を一本化し、「学生相談機関」「メンタルヘルス」「就職 相談機関」の3部門からなる学生相談総合センターを展開し、相談活動にお いて連携体制がとられており、共同企画や共同研究も行われている(独立行 政法人日本学生支援機構,2007)。また、東北大学では、20034月から、

学生相談カウンセラーが、就職指導の強化を狙って配置された学生支援専門 員との協働により、「キャリアカウンセリング」を開始し(吉武・池田・高 野・佐藤・関谷・山中,2008)、さらに、20064月における「キャリア支

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援センター」設置以降は、センター内で「就職相談」が行われている(千 葉・嶺岸・猪股、2008)。上記の名古屋大学や東北大学における文献から は、就職サポート部門と学生相談部門の協働の実態としては、学生から持ち 込まれた相談の内容をもとに、より適切な部門へリファーを行うことや、両 部門が連携して教職員向けのセミナーを開催することが行われていることが 窺える。また、森田(2012)は、東京大学と武蔵野大学それぞれの就職サ ポート部門を対象に行ったインタビュー調査をもとに、就職サポート部門が 学生相談部門に対して、学生にメンタル面での問題が明らかになったときの アドバイザーとしての役割を期待していることや、協働に際しては個人情報 の保護をめぐる難しさがあると予測していることを示している。

本研究の目的

以上より、就職サポート部門と学生相談部門の協働は、一部において既に 始まってはいるものの、実践に関わる相談員や関係者自身が抱く「協働を行 う上での期待や課題」については、まだ十分に明らかになっておらず、特 に、学生相談部門が就職サポート部門に対して抱いているものを調査形式で 把握したものは、ほとんど見当たらないことが窺える。

そこで、本研究では、学生相談の相談員を対象とするインタビュー調査を 行い、学生相談部門と就職サポート部門との協働を行うと想定した場合、現 場の目線では、どのようなことが期待されるか、あるいは課題視されるか を、探索的に把握することを目的とする。

方法 データの収集

20142月に、関東地方のA大学の学生相談部門に勤める相談員5

(男性1名、女性4名、年齢は30代〜40代、学生相談の経験年数は表1 参照)を対象に半構造化形式のインタビュー(一人当たり60分程度)を 行った。以下の3点を質問したが、質問の順序は固定せず、話の流れに応 じた展開とした。①相談員として、実際に、就職サポート部門とどのような

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内容の協働をしているのか。②相談員として、就職サポート部門に対して

「これまでこのようなサービスを提供してもらって助かっている」あるいは

「これからこのようなサービスを提供してくれるとありがたい」と思うもの はどのようなものか。③学生相談部門が、就職に関して就職サポート部門を サポートするようなサービス、あるいは、就職に関して学生を直接サポート するようなサービスとして、今後提供できそうなものはどのようなものか。

なお、倫理的配慮として、インタビューへの協力については、自由意思で 判断いただくこと、データは調査目的以外に使用しないこと、またデータは 最終的には、学術論文や学会発表、書籍などの形で公表される可能性がある が、個人を特定できる情報は一切公表しないなど、個人情報の保護に努める こと、対象者が業務を行っている職場(大学)についても、大学名が直接記 載されることはないことを文書で説明し、同意書に署名をいただいた。その 上で、本人の了解のもとでインタビュー内容を録音し、録音データを書き起 こした発話データを分析対象とした。

分析の手続

質的研究法の採用

本研究では、学生の就職支援の一環として学生相談部門と就職サポート部 門の協働を、現場からの発想をもとに検討するため、実践が行われている現 場の発想を尊重する姿勢を特徴の1つとして有する質的研究法(能智,

2007)を用いることとし、具体的にはKJ法(川喜田,1967, 1970)を参考 1 インタビュー対象者

対象者 性別 学生相談延経験年数

Info.1 男性 5年未満

Info.2 女性 5年未満

Info.3 女性 510年程度

Info.4 女性 510年程度

Info.5 女性 510年程度

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にした。

切片化

5名の発話データを一つの意味内容ごとの切片に分け、切片ごとにデータ の内容を適切に反映する名称(ラベル)をつけた。その結果、126の切片が 生成された。

グループの作成

まず、切片を、現状についての発話が主であるもの(以下、「協働の現 状」)54個と、今後の期待や課題についての発話が主であるもの(以下、「協 働に関する今後の期待や課題」)67個、いずれにも当てはまらないもの5 に分類した。次に、切片の意味内容の類似性からまとめることにより、複数 の切片で構成される小グループを作り、さらに複数の小グループで構成され る大グループを作った。その際、各小グループと各大グループの意味内容を 表す適切なグループ名をつけた。最終的に、「協働の現状」については9 の小グループと3個の大グループ、「協働に関する今後の期待や課題」につ いては11個の小グループと3個の大グループが作成された。

結果と考察

「協働の現状」と「協働に関する今後の期待や課題」それぞれにおける大 グループと小グループ、さらに小グループを構成する切片(ローデータ)の 一部をまとめたものが、表2と表3である。両表をもとに文章化したもの を以下に記す。なお、ローデータにおけるA大学の就職サポート部門の名 称は、実際の名称の代わりに「就職サポート部門」を用いている。

協働の現状(表2参照)

1つ目の大グループ「I. 情報提供やリファーを中心とする協働」では、ま ず、もっとも多く行われている協働の形態として【①就職サポート部門につ いての情報提供】が挙げられた。これは、厳密には協働とは言い難いかもし れないが、学生相談部門に来談した学生に就職サポート部門の存在と役割を

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2 協働の現状 I. 情報提供やリファーを中心とする協働

①就職サ ポート部門につい ての情報 提供

やはりご本人の(就職に対する)進度に合わせて「自分で(就職サポー ト部門へ)行ってみたら」という感じで(勧める)(Info.3

(学生には)ここ(学生相談部門)では自己理解はできるけど、実際の 就活は就職サポート部門でやってねというふうに紹介している(Info.4

(就活を行おうという)学生の健康度が高いという場合が多いので、そ こまで連携をとらなくてもいい場合が8割、9割だから、ということが

(学生に就職サポート部門に「行ってみたら」という形で勧める)一つ の理由としてあると思いますね(Info.5

②就職サポート部 門へのリ ファー

向こう(=就職サポート部門)の相談員さんの発言によって状態ががく んと変わりそうな学生さんとかだったら(予め、就職サポート部門に

「こんな学生さんが行きます」と)言うし(Info.1

精神的健康度とか、発達的な傾向とか、そういう問題があって、ご自分 で(就職サポート部門に)つないでいくのが難しそうな方については、

「どうしますか」と言うよりも、「こちらからかけましょうか」という感 じで(学生に接して、就職サポート部門につなぐ)(Info.2

③就職サ ポート部 門からの リファー

(就職サポート部門からリファーされてくることは滅多にないが、たま にあるのは)希死念慮を明らかに発している人ですね(Info.1

(メンタル不調者以外に就職サポート部門からリファーされてくれるの は)あとは発達障害っぽいかなと(感じられる学生)(Info.1

④合同の ミーティ ング

(学生相談部門や就職サポート部門が参加した合同のミーティングで)

ああ、えっと、まあ、変な表現かもしれないけれど、(就職サポート部門 の相談員の)お人柄が見えたというか。(Info.1

II. 各部門の役割の現状

⑤学生相 談部門の 役割

その就職活動に関する問題というか相談に関しては、ほんとにとっかか りというか、うん、窓口になる程度で(Info.3

(学生相談部門のクライエントは)そもそも進路を考えること自体が不 安みたいな人が多いので、就職サポート部門を使用できる段階にない

Info.4

とりあえずエントリーシート出してもらって…あるいはその説明会とい うんでしょうか、合同説明会みたいなところに顔出してもらって…とこ ろまでは私やります。(Info.4

(学生相談部門の相談内容は、)時間の使い方であったりとか、就職活動 との両立の仕方であったりとか。(Info.5

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⑥就職サ ポート部門の役割

何か(メンタルの問題等で)通院している学生さんが(就職活動を行う 時に)診断書を会社に出したほうがいいのか(といった特殊な質問に答 えてもらえるのはありがたい)(Info.1

(就職サポート部門の相談員は)いわゆる型どおりのアドバイスではな くて、もう少し、(就職活動が)うまくいかない人のための、選択肢みた いなところを(提示してくれる)。(Info.2

例えばエントリーシートの添削とか、面接の練習とか、あとグループ ディスカッションのワークショップ…合同企業説明会とか、先輩の声を 聞くみたいなミニセミナーみたいなものとか…(就職サポート部門が提 し て い る も の は)メ ニ ュ ー と し て は す ご く豊 富だ と思い ま す。

Info.4

安易にこちら(学生相談部門)のほうが回答ができなくって学生の将来 を左右するようなことに関しては、責任を持ってそちら(就職サポート 部門)にお答えいただけるという場所があるのは心強いなあ(Info.5 III. 異分野ゆえの協働の難しさ

⑦就職サ ポート部 門の相談 員非固定の仕組

(就職サポート部門は)一人の学生さんに同じ人が会ってくださるとい う感じじゃない…それもあってちょっと若干連携しにくい(Info.1

(就職サポート部門は)継続して同じ方が見るというシステムではなく、

基本的に空いてる人に次々入っていくので(学生相談部門からのリ ファーを)やってない(Info.4

健康度の低い方たちはそもそも自分の問題や進路に関して明確ではない し、それ以外のところでも不安定な要素を抱えているのに、人(=就職 サポート部門の相談員)が毎回代わると(相談に行きにくい)。(Info.5

⑧就職相 談におけ る学生相談との違

学生さんによっては、そういうふうなところ(=就職サポート部門)に 行って「おしかりを受けた」みたいな(ことをいう人もいる)(Info.1

「『あいまい過ぎて何を出していいかわからない』と、就職サポート部門 のほうから言われちゃった」という学生さんが何人かいた(Info.3

⑨就職サ ポート部 門の方針の変化

(自分は、その学生と1回だけでなく)回数多く会われてた方(=就職 サポート部門の相談員)とお話しさせていただいたので(担当者が固定 しないことの弊害を)感じなかったんじゃないかな(Info.2

(最近お会いした就職サポート部門の相談員の)名刺に、臨床心理士と 名前を打っているので(就職サポート部門が、就職情報の提供だけでは なく)カウンセリング的な(ものを取り入れて)というか、そこら辺の ものも少しこう、考慮しながら、組織的にも変化をしてきているのでは ないかな(Info.3

2 続き

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教え、行くことを勧めるものである。次に、一部の学生に対して行う【②就 職サポート部門へのリファー】が挙げられた。これは、学生相談部門から就 職サポート部門宛に予めその学生が行くことを連絡するところが①とは異 なっている。次に、【③就職サポート部門からのリファー】が挙げられた。

この典型は、希死念慮を有していたり、発達障害などの疑いがあったりする 学生を学生相談部門に紹介するものである。次に現時点では頻度としては少 ないものの【合同のミーティング】が挙げられた。

2つ目の大グループ「II. 各部門の役割の現状」では、まず【⑤学生相談部 門の役割】が挙げられた。具体的には、本格的な就職活動の前段階における サポートや、就職活動に特化しない生活全般のサポートなどが語られた。次 に【⑥就職サポート部門の役割】が挙げられた。具体的には、エントリー シートや面接やグループディスカッションなどの就職活動における審査材料 に対する諸準備や、就職活動における通り一遍ではない個別対応のアドバイ スなどが語られた。

3つ目の大グループ「III. 異分野ゆえの協働の難しさ」では、まず【⑦就 職サポート部門の相談員非固定の仕組】が挙げられた。具体的には、原則と して相談者を固定する学生相談部門とは対照的に相談員を固定しない仕組ゆ えの協働の難しさが語られた。次に【⑧就職相談における学生相談との違 い】が挙げられた。学生相談部門では相談員によって指向するアプローチ法 は異なるものの、特に導入期においては、クライエントである学生の語りを 傾聴することに重きが置かれることの多いのが特徴である。それに対して、

就職サポート部門では、相談によって就職活動における何かしらの進捗を図 ることが目的となるため、それを阻害するような態度は修正すべきものとな り、学生相談部門と歩調の合わない一因となることが語られた。次に【⑨就 職サポート部門の方針の変化】が挙げられた。具体的には、近年、就職サ ポート部門の相談員には臨床心理士の資格保有者、すなわち、学生相談部門 で行う臨床的面接法の習得者も現れ、⑧のような違いにも変化の兆しが認め られることが語られた。

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協働に関する今後の期待や課題(表3参照)

1つ目の大グループ「I. 協働の発展プロセス」では、まず【①相談員レベ ルの形式ばらない交流】が挙げられた。具体的には、協働を検討する際の第 一段階として、まずはお互いの人間を知ることが重要であり、そのために は、合同カンファレンスの開催などが望ましいということが語られた。次に

【②お互いの業務の不透明さの解消】が挙げられた。具体的には、第二段階 として、お互いの業務の内容や対応可能な範囲を理解しあって、その上で、

役割分担を決めていく必要があることが語られた。次に【③学生相談部門に 期待される役割】が挙げられた。具体的には、その学生の特徴に合う形で、

就職活動のとっかかりを作ることや、就職サポート部門において厳しめのア ドバイスを受けたとしても、それに耐えうる力をつけさせることや、就職サ ポート部門からの心理面に関する支援要請への対応などが語られた。次に

【④就職サポート部門に期待される役割】が挙げられた。具体的は、就職先 がある程度明確になった後の就職活動における審査材料に対する諸準備のサ ポート、さらに、協働を深める上で学生相談部門が知っておくと便利な知識 や情報(例えば、当該年度の就職活動の具体的なスケジュール)の提供など が語られた。次に【⑤協働によって生じるメリット】が挙げられた。具体的 には、上記①〜④のプロセスに見られる協働の進展が、学生にとっては、普 段は高いと感じられていた学生相談部門の敷居を低くしたり、サポートをさ れている感覚の拡充によって安心感につながったりする可能性があることが 語られた。

2つ目の大グループ「II. 相談員もしくは部門レベルでの課題」では、

【⑥就職サポートに関する専門性の低さへの不安】が挙げられた。具体的に は、学生相談部門の相談員としては、やはり就職サポート部門の相談員の知 識は異分野のものであるという感覚があるため、たとえ多少の知識を習得し たとしても、それを駆使することには常に不安がつきまとうことが語られ た。次に【⑦学生相談部門の負荷の問題】が挙げられた。具体的には、近 年、学生相談部門の利用者が増えていることもあり、協働による新たな負荷

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3 協働に関する今後の期待や課題 I. 協働の発展プロセス

①相談員 レベルの 形式ばら ない交流

(協働を検討するということであれば、)まずは(就職サポート部門の相 談員の)お人柄を知りたいよな、みたいな(Info.1

(協働を考える場合)顔知ってるかどうかだけでも全然違うので(Info.2

(就職サポート部門の責任者というよりは、就職サポート部門の相談員 と)直接話すというのは(協働を考える上では)ベストだと(Info.2

(両部門合同の)カンファレンスみたいなものをもっともっとラフに、

できたりするといいんだろうなとも思ったりはします(Info.5

②お互い の業務の不透明さ の解消

(学生相談部門は)ジェネラリスト過ぎて(周囲の部門からは)逆にわ かりにくいのかなという印象がある(それゆえ、協働といっても学生相 談部門に何を期待していいのか周囲は分からない可能性がある)Info.1

(就職サポート部門においては、学生との)関わり方のパターンがどう なっているのかというのは若干見えにくいような気はするんですよね。

例えばどういうふうな感じで面接するのかとか。(そのあたりを知りた い)(Info.1

連携していく中で、その役割を、こうある程度明確化するという。何と いうか、それぞれのですね、同じ就職といっても、役割分担というのが あったほうが、連携はうまくいくかな(Info.2

(協働を検討する上で、就職サポート部門に)どこまでならやってくだ さいますかとか、こういうことはやってくれますかというふうなことも 確認できるのであればありがたいなと思いますね(Info.5

③学生相 談部門に 期待される役割

(具体的になる前の)まだ漠としたところを整理するというのが学生相 談側の役割じゃないかなと思っていて(Info.2

そこ(就職サポート部門)で例えばきついことを言われて…クライアン トさんが来たときも…そこら辺のフォローをしながら、…うまくそのク ライアントさんの免疫力を高めてあげるみたいなことができれば一番い いのかな(Info.3

もし向こう(就職サポート部門)から、この学生さんはこういうところ がちょっと気にかかるんだけど、心理面はどうなんでしょうみたいなこ とは聞かれたら、それは喜んでお手伝いするかなとは思います(Info.4

(精神的に就職準備に至っていない学生に学生相談部門ができそうなこ とは、)そういうの(=Webや質問紙の心理テスト)を少したたき台に しながら、ちっちゃいときになりたかったものとかがどれが近いかなと か言って、何か取っかかりを探すところですかね(Info.4

やっぱり口頭だけでのやりとりが苦手な学生さんには、資料をつくって 視覚化する形でお渡しできるとか、コミュニケーションが苦手という方 には、そこを重点的にちょっと練習をしてみるとかという、わりと個別 対応をしてあげやすいというところは(学生相談部門に)ある(Info.5

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④就職サポート部 門に期待 される役

最初は何かステレオタイプ的な連携をまずやって、その上でもう少しお 人柄が見えたりだとか、実際はこういうふうな感じなのねみたいなこと が見えてきてから、もう少しワンステップ深いような(協働ができると よい)(Info.1

就職サポート部門(の役割)は、ある程度、(目標とする)就職先等が具 体的になったところでの情報提供や面接練習やエントリーシートだとい うふうに思っていて(Info.2

(就職サポート部門にとってはメンタル面、学生相談部門にとっては就 職活動のスケジュールなど)お互いの何か境界みたいなのは確かにやり とりできてれば、それはいいですね(Info.4

(今は)全国の学生相談研修会でやっている就職活動とかの小講義が

(学内の就職サポート部門が主催になって)やってれば喜んでいきます

Info.4

⑤協働に よって生 じ る メ リット

(学生相談部門来談の)きっかけとしては、(学生相談部門が就職サポー ト部門との協働のもとで行う)就職面接の模擬面接ということで来ても らうということも一つの方法かなと…(学生相談部門に相談に来る)敷 居が低くできるというメリットはあるのかなと思います(Info.3 何か自分が(1つの部門だけからではなく)いろんな方向から支えられ ているという(学生側の)安心感にもつながるんじゃないかな(Info.3 II. 相談員もしくは部門レベルでの課題

⑥就職サ ポートに 関する専 門性の低 さへの不

(就職サポートのことを)中途半端に知っても(どうか)。毎年状況も変 わるでしょうし、ちょっとそこを勉強し続けるリソース、自分の中で割 けないなという気はします(Info.4

学生も、(企業等に)勤めていたことがない人(=学生相談部門の相談 員)に、そんなこと(=就職活動に関すること)を聞いても、説得力な いような気もするので(Info.4

やっぱりそこ(=就職サポート)の専門家じゃないので、(協働を通して 就職サポートのようなことをやるならば、)こっちの我流でやってるん じゃないかという不安は常につきまとう(Info.5

⑦学生相 談部門の負荷の問

(学生相談部門は)担当する学生数もかなり多かったりして、それで

(就職サポート部門に紹介したときに、場合によっては)1回しか会って もらえない人(=学生)のために、わざわざ紹介状をすごく丁寧に書い てとか(は、現実的には難しい)(Info.1

枠の問題があって、そこ(23年前までやっていたエントリーシートや 面接の対策)までを私たち(=学生相談部門)がやっていると、回らな くなってくるので(Info.5

3 続き

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増には限界があることが語られた。次に【⑧守秘義務に関する心配】が挙げ られた。具体的には、就職サポート部門の相談員は、学生相談部門が最も頻 繁に協働する医療関係者のようには守秘義務を熟知してはおらず、さらに、

企業の出身者が多いため、則っているルールが大きく異なるように見えて、

その点が協働に際して心配になることが語られた。次に【⑨部門における方 針の不明確さ】が挙げられた。具体的には、学生相談部門にしろ就職サポー ト部門にしろ、協働についての明確な部門としての方針が定められ、かつ、

⑧守秘義務に関す る心配

(医療関係者と協働する場合は守秘義務を知っているという安心感があ るが、)就職サポート部門の相談員は、基本、会社で働いてきて、則っ ているルールが(われわれとは)全然違うかな(と感じるので、心配に 思う)(Info.1

⑨部門における方 針の不明 確さ

(協働については、部門においても明確な方針がないため)積極的な人 はやるだろうし、消極的な人はやらないだろうしということで、ちょっ とばらつきがあるようで(Info.2

やっぱり、(協働について)それを形にしていくというか、制度にしてい くというのがすごく難しいかなというふうには思っていて(Info.2 III. 全学レベルでの課題

⑩協働の推進役の 不明確さ

(協働するとしたら、そういう協働を)コーディネートできる場(機関)

があるといいのかなとは思います(Info.5

ボトムのほうから(協働していく)と言っても、何かこう、何というん でしょうね、なかなかそういう機会をわざわざ日常の煩雑な業務の中で つくっていくというのは(難しいと思う)(Info.5

⑪大学全 体の業務 負荷のバ ランスの 問題

分業がもう少ししっかりしていたら、そんなにお人柄とかは抜きにして も、まだ連携はしやすいのかな(Info.1

大学レベルで仮にイメージしたとした場合、就職サポート部門を使いた い学生数のほうが絶対、学生相談部門などを使いたい学生さんより多 い…(したがって、継続来談が必要な)学生さんは学生相談部門で引き 受けたほうが(例えば、そういう学生はエントリーシートなども学生相 談部門で見てあげるほうが)大学もうまく回るのかなと(そのようなこ とを協働に先立って考えるべきかもしれない)(Info.1

(学生相談部門における協働の相手先は就職サポート部門以外の部門が)

比率としては圧倒的に多い(状況にあるので、全学的視点で見た場合、

学生相談部門と就職サポート部門の協働をどのくらい優先すべきかは分 からない)(Info.4

3 続き

(13)

それが相談員各人に浸透しているという状態になければ、真に有効な協働関 係は築かれないことが語られた。

3つ目の大グループ「III. 全学レベルでの課題」では、まず【⑩協働の推 進役の不明確さ】が挙げられた。具体的には、異なる部門に協働関係を構築 するにあたっては、ボトムアップというのは日頃の煩雑な業務のなかでは実 現しにくいため、第三者としてコーディネートできる者が必要ではないかと いうことが語られた。次に【⑪大学全体の業務負荷のバランスの問題】が挙 げられた。具体的には、大学内での各相談部門の利用者数をふまえたり、各 相談部門の分業の内容を明確化したりすることによって、各部門間の協働の 必要性や優先順位が決まってくるかもしれないため、最初にそれを検討する 必要があるのではないかということが語られた。

総合考察

本研究は、学生相談部門と就職サポート部門との協働を行うことを想定し た場合、現場の目線では、どのようなことが期待されるか、あるいは課題視 されるかを、探索的に把握することを目的とした。関東地方のA大学の学 生相談機関に勤める相談員5名を対象にインタビュー調査を行い、得られ た発話データをもとに質的分析を行った。その結果、「協働の現状」につい ては9個の小グループと3個の大グループ、「協働に関する今後の期待や課 題」については11個の小グループと3個の大グループが作成された。

まず、現状では、学生相談部門と就職サポート部門の協働は、協働とは言 い難いかもしれないレベルの「情報提供」が大半であるが、必要に応じてリ ファーも行われており、ごくまれには合同のミーティングも行われているこ とが明らかになった。また、就職活動に関する学生相談部門の役割として は、本格的な就職活動の前段階におけるサポートなどがあり、一方、就職サ ポート部門の役割としては、エントリーシートや面接やグループディスカッ ションなどの就職活動における審査材料に対する諸準備のサポートなどがあ ることが示された。ただし、協働の難しさの大きな要因として、就職サポー

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ト部門における、相談員を固定しない仕組や、就職活動における何かしらの 進捗を図ることを第一義とする姿勢があげられたが、近年は、就職サポート 部門にも柔軟化の兆しがあることも示された。

今後の期待や課題では、協働の発展プロセスとして、まずは合同カンファ レンスなどでお互いの人間を知ることが重要であり、次に、お互いの業務の 内容や対応可能な範囲を理解しあって、その上で、役割分担を決めていく必 要があり、その際には、学生相談部門には、就職活動のとっかかりを作るこ となど、就職サポート部門には、就職活動における審査材料に対する諸準備 のサポートをすることや、協働を深める上で学生相談部門が知っておくと便 利な知識や情報を提供することなど、が期待されることが明らかになった。

さらに、課題としては、相談員レベルでは、就職サポートに関する専門性の 低さへの不安、部門レベルでは、負荷や守秘義務や方針の不明確さが指摘さ れ、さらに、大学全体のレベルでは、協働の推進役の不明確さや大学全体へ の負荷バランスへの配慮が挙げられた。

以上より、現状において、ごくまれではあるが両部門の合同のミーティン グが行われ、就職サポート部門では、一部であるが、臨床的面接の要素が導 入されるなど、今後の協働に向けた素地が形成されつつあるとは考えられ る。ここで注目すべきは、現場の相談員が抱く協働についての具体的なイ メージは、「学生相談部門(もしくは就職サポート部門)の相談員が、就職 サポート部門(もしくは学生相談部門)の相談員の機能の一部を担うこと」

というよりは、「お互いの部門の業務範囲を明確に把握した上で、自らの範 囲外の業務すなわち専門性の低い業務を、高い専門性を有する部門に依頼し 合うこと」に近いということである。このようなイメージには、一見、セク ショナリズムを思い起こさせるところがある。しかし、本研究の対象者と なった学生相談部門の相談員には、協働先の部門が知っておくと便利な知識 や情報(例えば、就職サポート部門にとってのメンタルヘルスの知識、学生 相談部門にとっての就職活動スケジュールの情報)を教えることや教えても らうことに対しては積極的な姿勢が認められたことからも、その本質は、決

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して排他的なものではないといえる。したがって、本研究の結果に記したと おり、協働体制を構築するにあたっては、まずは、両部門の相談員が気軽に コミュニケーションのできる機会を設け、相談員がお互いの顔を知り、さら には、お互いの業務内容を理解した上で、知っておくと便利な知識や情報を 提供し合うことが望ましいといえよう。

一方で、協働に関する課題としては、相談員、部門、大学全体それぞれの レベルにおける課題が挙げられた。特に注目したいのは、組織の方針の問題 である。各相談員が安心して協働に打ち込めるようになるためには、「協働 を推進する」という方針が部門内で確立される必要がある。さらに、異なる 部門同士が「協働を推進する」ためには、それを支援する上位システムの方 針が不可欠である。したがって、各相談部門が、実際に協働を推進する際に は、大学における上位システムと連携し、相談員すなわち現場からのボトム アップ的な動きを、迅速に異部門間で展開できるような仕組づくりを行うべ きであろう。

最後に、本研究の限界としては、1つの大学の学生相談部門の相談員とい う限定された対象者からのデータを分析対象としていることが挙げられる。

複数の大学の相談員や、相談員以外の学生相談部門関係者などから得られた データを分析することにより、本研究で得られた知見を検証し、議論を発展 させていくことが今後の課題である。

引用文献

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森田慎一郎(2012).キャリア支援と学生相談の協働.下山晴彦・森田慎一郎・榎本 眞理子(編)学生相談必携GUIDEBOOK―大学と協働して学生を支援する―.

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能智正博(2007).質的研究と臨床・社会心理学.能智正博・川野健治(編)はじめ ての質的研究法.東京図書.pp. 3–38

吉武清實・池田忠義・高野明・佐藤静香・関谷佳代・山中亮(2008).東北大学にお ける学生相談―現状と課題―.東北大学高等教育開発推進センター(編)大学に おける学生相談・ハラスメント相談・キャリア相談―学生相談体制・キャリア支 援体制をどう整備・充実させるか―.東北大学出版会.pp. 83–107

【付記】

本研究は、平成25年度科学研究費助成事業における基盤研究(C)(課題番号:

23530924)の交付を受けて実施されました。また、調査にご協力いただいた皆様に心

より感謝を申し上げます。

キーワード

大学生、学生相談、就職活動、協働、キャリアセンター

表 2  協働の現状 I.  情報提供やリファーを中心とする協働 ①就職サ ポート部 門につい ての情報 提供 やはりご本人の(就職に対する)進度に合わせて「自分で(就職サポート部門へ)行ってみたら」という感じで(勧める)(Info.3)(学生には)ここ(学生相談部門)では自己理解はできるけど、実際の就活は就職サポート部門でやってねというふうに紹介している(Info.4 ) (就活を行おうという)学生の健康度が高いという場合が多いので、そ こまで連携をとらなくてもいい場合が 8 割、 9 割だから、というこ
表 3  協働に関する今後の期待や課題 I.  協働の発展プロセス ①相談員 レベルの 形式ばら ない交流 (協働を検討するということであれば、)まずは(就職サポート部門の相談員の)お人柄を知りたいよな、みたいな(Info.1)(協働を考える場合)顔知ってるかどうかだけでも全然違うので(Info.2 ) (就職サポート部門の責任者というよりは、就職サポート部門の相談員 と)直接話すというのは(協働を考える上では)ベストだと( Info.2 ) (両部門合同の)カンファレンスみたいなものをもっともっとラフに、

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