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看護学とあるべき看護学教育についての私見

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Academic year: 2021

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−3 20164月,三重大学では大学院医学系研究科に博 士後期課程 (看護学) が開設され, 学部, 博士前期・

後期課程の一貫した看護学教育が可能となった. 看護 学専攻に所属する教員は, 看護学の発展を目指し, 今 まで以上に教育・研究に取り組んでいくことが求めら れている. 一方,平成294月現在,日本の看護系大 学は241校, 看護系大学院は117校を数えるまでにな り, 今なお新設が続いている. 高度な看護学教育を受 けることが可能な定員数は増加し続け, 必要となる教 員数の増加も著しい. この躍進する看護学分野におい て, 一貫した教育体制を発展させることに課題は多い.

以下は, 看護学と看護学教育の課題と期待についての 私見である.

I .学問としての看護

看護学は実践の科学であると言われている. なぜな ら, 看護実践の中から疑問や課題を見出し, それを研 究により明らかにして理論を導き, その理論を生かし て看護実践を行うという循環しながら発展する関係が 不可欠だからである. 看護実践の積み重ねは重要であ り, 看護現場にはたくさんの埋もれているノウハウや 知識がある.

近代看護確立の功労者であるナイチンゲールは, 善 意や思いつきではなく, 科学的根拠をもって実践する ことが看護であると説明し,「看護覚え書」(1859) に おいて, 何が看護であり, 何が看護ではないのかを明 確に示した.

その後, ナイチンゲールの思想に基づく看護教育を 受けた看護職者の中から, 次々に看護の理論家が生ま れた. ヘンダーソンは生理学を基礎に, 人間の欲求が 人間の健康に深く関連するということを前提として,14 項目からなる看護の構成要素を示し,病をかかえる人々 が, それらのニーズを自立的に満たすための体力・知 力・ 意 志 力 を 持 て る よ う 援 助 す る こ と を 理 論 化 し た

(1960). 他にも, 多くの看護理論が生まれ, それらの 理論をもとに看護の対象者を捉え, 健康課題を見出し,

援助し, 評価することを繰り返している.

現在多くの看護系大学が設立されているものの, 看

護学の学問的歴史は浅く, 学問としての熟成は十分で あるとは言えない.その一因として考えられるのは,看 護学にはまず実践が求められるという特性があること である. 命題に対する議論をあらゆる方向から考え,納 得いくまで深めた上で, 援助として対象者に看護を届 けることが第一義となる. そのため, 実験による検証 を行うよりも, 対象者への看護による成果を出すこと が優先されてきた. また, 看護は人間の反応を診断し て援助するものであるため, 科学的に厳密な実験を行 うことも難しい.やはり,看護は実践の科学であり,こ れからも看護の対象者の傍らにありながら学問として の深まりを目指していくことになる. つまり, あらゆ る看護の実践家が, 同時に研究者でもあるべきである と言える.

II.学部における看護学教育の課題と期待

看護基礎教育において,4年間という限られた時間 の中で, あらゆる看護現象に対応可能な知識・技術を 修得させることは極めて難しい. さらに, 医療は日々 進歩しており, 看護者に必要な知識は増加し, 求めら れる看護能力も拡大するばかりである. そこで, 看護 を学ぶ学生には精選された内容を基礎力として身につ けさせ, 足りない部分を自己学習できるようにする教 育が求められる.

看護は多様な患者個々に応じて実践される行為であ り, 単に知識を獲得したり,1つの技術を覚え込んだ り, 機械的に反復すればよいというものではない. 国 家試験合格のためだけに教科書を暗記させたり, ある 技 術 を “ う ま く で き る よ う に ” 練 習 さ せ た り す る の で はなく, 看護場面において看護の基本を押さえた上で,

対象者に合わせて適用する力をつけられるよう学ばせ なければならない. 田島は,「看護行為は人と人とのか かわり合いで成り立っている」としている(2002).さ らに,「看護教育の目標を具体化するには,看護を構成 する教授−学修内容を, 実践場面を想定して考えるこ とが前提となる. そのためには, 当面の課題に向かっ て実施する行為が, クライエント・患者と看護職者の 関係で成り立つ過程を想定し, その実践過程と学修過

看護学とあるべき看護学教育についての私見

三重大学大学院 医学系研究科 看護学専攻長  畑 下 博 世 

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程に必要な内容を分析した上で教授−学修内容を精選 し,目標化する必要がある」と述べている(1989).つ まり, 看護学が実践を前提にした科学であることを学 生に意識づけ,看護のためのimaginationの力を育てる ような教育内容を設定することが重要となる. 看護行 為の原理・原則, その根拠, 患者の問題解決のために どのように応用するかを知識として学ばせ, 基本動作 1つひとつを修得しつつそれらを連続的に滑らかに 実施できるようにし, なおかつ看護行為を行う際の患 者の思いを想像し, 関係をいかに築くかをも考えさせ るような学習を可能とする教育内容である.

しかし, 教育年限の中ですべてを網羅することは難 しく, 何をどこまで学ばせるのか, 教育内容を更に絞 ることが課題となる. そこで, どのような能力の育成 を期待するかという教育目標を具体化し, その構造を 整理することが必要である. 鎌田は 「学習内容の性質 に応じた分類としては, その単元の本質的で必須な内 容に対応した『中核目標』,中核目標を支える下位レベ ルの基礎的内容となる『基礎目標』,その単元の学習の 前提となる内容に対応する『前提目標』,そして,前提 目標・基礎目標・中核目標をマスターし, さらにそれ らを用いて学習を深化・発展させていく際の 『発展目 標』が含まれる」と述べた(2001). 例えば,皮下注射 の技術を教授するとすれば, 前提となるのは既習の知 識としての皮膚の解剖, 無菌操作, 薬剤の作用および 副作用などである. そして, 基礎となるのは注射技術,

注射器および注射針の特徴であり, 中核には皮下注射 の準備から実施の方法が含まれる. これをより発展さ せるには, 痛みの少ない注射法や神経損傷などのアク シデントへの対処法などが考えられる. このように段 階的に進むカリキュラムの進捗を加味し, 前提となる 内容を想起させながら基礎目標, 中核目標を達成でき るように教授内容を絞り込み, 学習や体験が進むにつ れて発展的内容へ深めていけるようにすることが必要 となる. これらは複数の科目における学習内容の積み 重ねによって実現するものであり, こうした考え方を 教員間で共有して統一的に教育内容を整理すれば, 教 授する事柄の重複や欠落も防ぐことになり, 教育評価 もクリアになる.

また, 学生の自己学習能力を育むには, 看護の場の 状況を考慮し, 患者に提供できる看護実践を創造する 教育がなされるとよい. 香川らは「固定的な知識を『教 える授業』 から, 学生がより自由に物品に触れ, 学生 や教員とのアンサンブルの中で, 看護をより楽しみな がら看護師や患者を演じ, 自ら技術を創造的に考え出 していく 『パフォーマティヴな』 学習への転換」 を提 案している(2015). 看護の場における創造的な思考は,

よ り 質 の 高 い 看 護 を 生 み 出 す. 看 護 の た め のcreation の力を育てるためには, 創造的思考が当たり前と考え る価値観, それを自らしようとする意欲, 創造的思考 の成功体験, これらが必要となる.

つまり, 学部学生が看護に興味を抱き, 看護の対象 となる人たちの健康状態や生活, 思いを想像し, 対象 者のために自分に何ができるかを創造的に考え, その 過程を周囲の者 (同級生, 教員, 臨地実習指導者, 対 象者) と共有するとき, 更なる学習が発動する. それ を刺激できるような教育を目指したい.

III.大学院における看護学教育の課題と期待

看護の学問体系化のためには, 学部教育だけでなく,

大学院教育も今後益々発展させなければならない. 看 護系大学院の場合, スペシャリスト育成と研究者育成 2つの道がある. 現場での専門性をより発揮するス ペシャリスト育成の重要性はさることながら, 看護学 の発展を支える優れた研究者の育成をより一層充実さ せることが求められる. このような状況の中, 本学も 平 成28年 度 よ り 医 学 系 研 究 科 看 護 学 専 攻 に 博 士 後 期 課程を開設した. 博士前期課程において研究の基礎を 学び, 後期課程でより自立的, 継続的な研究姿勢を身 につけることとなる. それに加え, 研究者としてスキ ルアップするために, 海外ジャーナルへの論文投稿お よび国際学会参加を経験することが重要である. しか し, 英語による研究論文作成・発表・討論が壁となり,

躊躇する場合が多い.

平 成20年 度 に 採 択 さ れ た 東 京 医 科 歯 科 大 学 の 大 学 院教育改革支援プログラムの成果として,「看護系国際 学会におけるプレゼンテーション技法」「大学院生のた め の 英 語 コ ミ ュ ケ ー シ ョ ン ス キ ル 」 を 作 成 し て い る

(2010). これは, 現在の看護系大学院教育において必 要性が認められながらも十分ではなかった内容を強化 するものである. 世界の共通言語である英語による論 文執筆および学会発表を積極的に行い, 日本の看護学 を世界に向けて発信していくこと, 海外の動向に敏感 となり世界の研究者と看護を論じる力をつけていくこ とが日本の若手研究者に課せられている. 余は 「チー ムサイエンス (各研究者が独自の研究を推し進めてい きながら,かつ学際的チームでお互いに刺激し合い,共 同しながら研究を進めていくこと) に国際レベルで取 り組んでいくことが, 今後の看護研究には必要」 であ り,「英語で論文を書き,投稿することは,相手の言っ ていることを理解し, 自分の言いたいことを効果的に 伝えることを進める必須の努力」 であると述べている

(2016). 大学院教育では, カリキュラムや教授方法に

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英語力を活用する内容を盛り込み, 学生に海外の研究 者との交流, 国際共同研究などを経験させることが重 要である. また, これらの取り組みを指導教員個々の 努力に頼ることなく, 教育課程全体の組織的な教育目 的に据え, 指導側のファカルティ・デベロップメント の充実も推進すべきであると考える.

今後の看護学の発展と日本の看護学教育のさらなる 質の向上を期待したい.

引用文献

フロレンス・ナイチンゲール (1859) /小林章夫, 竹内喜

(1998):看護覚え書, うぶすな書院, 東京.

ヴァージニア・ヘンダーソン (1960) /湯槇ます, 小玉香 津子(2006):看護の基本となるもの,日本看護協会出版 会, 東京.

田 島 桂 子 (2002): 看 護 実 践 能 力 育 成 に 向 け た 教 育 の 基 礎

(第1版), 32, 医学書院, 東京.

田島桂子(1989):看護教育ブックス 看護教育評価の基礎

と実際, 83, 医学書院, 東京.

鎌田美智子 (2001):〔教育の達成度がわかる・教育効果を 高める 評価の視点と方法〕看護教育に活用する教育評価 の考え方と方法, ナースエデュケーション,2(4), 9-16.

香川秀太,澁谷幸,鈴木ひとみ(2015):第6章 看護教育と 臨床実践をつなぐ知識創造コミュニティ−看護エデュケ ア研究会の取り組み, 香川秀太, 青山征彦, 越境する対 話と学び−異質な人・組織・コミュニティをつなぐ,137- 158, 新曜社, 東京.

東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科総合保健看護学 専攻(2010)English Communication Skills for Graduate Students of Nursing(DVD)

東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科総合保健看護学 専攻(2010):English Presentation Skills for Graduate Students of Nursing −看護系国際学会におけるプレゼンテーション 技法− (DVD).

余 善 愛(2016): 英 語 論 文 を 書 く と い う こ と (8)  日 米 の 看 護 の は ざ ま で: 英 語 論 文 を 書 く こ と の 意 味, 看 護 研 究,

49(7), 618-623.

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