ホルステライト合成に及ぼす塩化物の影響
(昭和45年5月6日 原稿受理)
金属工学教室岡元敬蔵 金属工学教室植田安昭 金属工学教室野口文男
Effects of Chlorides on Forsterite Synthesis
Keizo OKAMOTO Yasuaki UEDA Fumio NOGUCHI
We have investigated with the effects of chloride on the synthesis of forsterite by solid reaction between pure SiO2 and MgO.
The reaction velocity was measured at the temperature range 800℃〜1200℃
using the pressed mixture of mole ratio MgO/SiO2=2/1. It was found that the reaction velocity showed good agreement with Jander s equation, from which the activation energy of 43.7 Kca1, about 10 Kcal in 2%CaCl2 and 20 Kcal in 10%NaCl was derived.
The reaction products were determined to be forsterite only by X・ray and Infrared absorption spectroscopy analysis.
ト合成にどのような影響を及ぼすかを速度論的な
t緒 言 立場から検討を行なったので,これらの結果につ
ホルステライトは天然に滑石(3MgO・4Sio、・ いて報告する。
H,0),蛇絞岩(3MgO・2SiO,・2H、0),苦土カン
ラソ岩(2Mgo・Sio,)として産出する鉱物を脱 2・実 験 方 法
水か焼することによって得られ・その分解生成機 ホルステライト合成試料としてSio・は,ケィ 構についてはすでに数多くの発表がある1)。ま 酸ゲルをMgOは化学試薬特級のMgOをそれ た,この人工合成については,1500℃以上の高 それ一325メッシュに水ヒし,これを乾燥使用し 温で長時間加熱を,低温加熱では高圧を必要とす た。この場合,ケイ酸ゲルは11.2%の水分を含 るなど非常に合成されにくいものとされている。 んでおり,MgOはMg(OH),に変化した。そこ このように合成困難な鉱物に対して,仲井等2)は で合成試料は,焼成後MgOとSio,のモル比 ムラ・fト(3A1,0、・2SiO,)の合成にCuO等の酸 がホルステライト組成化の2:1になるよう秤量 化物が合成を促進する鉱化剤(mineralizer)と した。これをメノウ乳鉢で十分混合して,一定量
して有効であることを見出しており,合成促進に 2.Og取り,一定圧で円柱状にプレス成型した。
種々の工夫がなされている。 ついで,Ar気圏に置換した移動式管状電気炉中 そこで,筆者等は化学的に純粋なMgO, SiO, に入れ,500℃前後の温度で30分保持脱水後,
を用い固相温度領域内でホルストライト生成速 800℃より1200℃までの各温度でそれぞれ所定 度を検討するとともに,合成を促進する意味で 時間か焼した。
NaCl, CaC1、等の塩化物を加え,ホルステラィ 合成試料にCaCl、, NaC1等の塩化物を添加す
る場合,塩化物が十分混合するよう水溶液にして 固相一固相反応は,一般に不均一系反応の機構 加え,これを乾燥,磨鉱後プレス成型した。これ をもって進行するものとされ,反応生成層におけ を塩化物無添加と同様な条件でか焼すると,合成 る反応物質の拡散を考慮した速度式で反応機構が 成分より放出する水分やケイ酸等によって塩化物 推論されることが多い。そして,速度論的考察に の一部が酸化されるため,500℃以下の温度で は.(a)反応粒子は球状である。(b)反応速度は Arガスを十分流し,試料ならびに気圏中の水分 接触点の数に比例して進む。(c)反応は成分粒子 を完全に除いてから,それぞれの所定条件でか焼 の接触点において起る。(d)一方拡散,あるいは した。 相互拡散である。といった仮定のもとに取扱われ 加熱合成した焼鉱は,磨鉱後その一定量を秤量 ており,Fig.1に示した曲線の形から反応生成層 分取し,未反応の遊離MgOを定量分離するた の厚さに逆比例するとしてFickの拡散式を用い め,抽出処理を行なった・抽出分離には,酷酸メ て導いたJanderの式に適合するものとして実験 チルアルコール,2N HCIなど種々の抽出液が見 結果を整理してみた・)。
出されているが,ここではBrandenbergの安 Janderの式 [1−(1一α)1/3]一危
息香酸法によった3>。そして遊離MgO分離後の αは,反応生成物の生成量(%),τは加熱時 残サ量からホルステライト生成量を計算によって 問,κは反応速度定数を示す。
求めた。なお,ホルステライト生成過程の検討に その結果を図示すると Fig,2のようになり,
は,X線回折,赤外吸収スペクトルなどの装置を αの高い所までよい直線性を示し, Janderの速 用いた。 度式によく適合していることがわかる。
3.実験結果
ユOO (i) 無添加の場合
ず
合成試料を900℃より1200℃までの各温度 9 × 80 で,30分から24時間保持した場合のホルステラ
ワQイト生成量と時間との関係を見るとFig.1のよ うになる。これから加熱温度900℃では殆んど 6°
ヘ ロ ら
反応は進行せず,加熱温度の低いものほど時間の ミ 六 40 経過とともに反応速度は小さくなり早く平衡状態 e l 30 に達するが,温度の高いものほど初期ホルステラ O イト蛾速度曙るしく大きくなる傾向を示すご己il
とが解る。
き5
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10
5
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ユooo℃
< 元,二=左二::二⊆已
0 60 ユ20 240 480 加熱時閥 七。 (Mln。)
50 −
Fig.2〔1−(1一α)1/3〕2と加熱時間tとの関係
_ ユ200C
.二〉° Fig.2から常法にしたがって1・g Kと・/τと
。/ の関係を求めてみるとFig.3のようをこなり,各
.。/ _ 点ともよく直線にのってし、ることがわかる。この
//・一一 ° 直線の耀式麺濠法1こよつて勅その勾
//° =ぴc 配をA「「henlusの式に代入し・活性化エネルギ /。/◎ ° ,。ぴc° 一を計算してみると437Kca1/moleの値を示し
o ____⊥一二?ぞ二旦 た・これに対し速水は5)・ケ・f酸微粉とMgCO・
2 @ 三&時間ユ2(。∴ 2° 24 を熱分解して作ったMgOを用い,ホルステライ Fig.1ホルステライト生成量と加熱時間との関係 ト生成量をX線回折を用いて定量し・その合成の
宮;Fors七θri七e
−4
− 一
一6
ぎ lr −7
ユ蒔間保持
,レ』1\1 FE]̀
活性化エネルギーは70〜80Kca1/moleと発表 8時間保持 している。これに比較して筆者等の測定値が低い
のは,合成試料調整の差異によるものと考えられ る。すなわち,使用したケイ酸ゲルは,X線的に
非常に高温まで非結晶状態を示し,脱水による開 ,一 † 放性の空孔の発生による比表面積の増大など著る
しく活性の大きい状態にある。また,Mg(OH)2 の加熱脱水によって作られたMgOも同様,格子 膨張など格子不整の状態にあるなど活性の増大し
た試料を利用したことによるためと推察される。 五丁 2。
ついで,反応生性物を確認するため,1200℃で 20.
所定時間保持した合成試料を抽出液を用いて遊離 Fig.4合成試料のx線回折図(加熱温度1200℃)
MgOを分離し,その残サのX線回折を行なって
みるとFig,4のようになる。 あり,これが全反応の支配的役割を示しているも これから30分加熱すれば,ホルステライトの回 のと考えられた。また,X線マイクロアナラ・イザ 折線が明確に認められ,保持時間の長くなるにし 一によってもホルステライトの生成が確認でき たがって,そのピークも順次大きくなることがわ た。前述のようにこの合成反応が拡散律速によっ かる。これらの関係はFig.1に示した時間とホ て支配されることから, Mg2+イオンとSi4+イ ルステライト生成量との関係とも非常によく一致 オンの・イオン半径を調べてみると6),0.65と0.41 している。また,図から合成試料中のケイ酸ゲル のようになり,これからSio、側におけるSiの は,保持時間2時間まで殆んど結晶化せず,2θ一 拡散によって反応は進行するものと推論される。
15°より30°の間に非晶質特有のbackground (ii)NaC1添加の場合
の上昇を示すことがわかる。このbackground MgO−SiO,合成試料に, NaC1を2.5,5.0,
もケイ酸ゲルの結晶化につれて減少し,未反応ケ 10.0,15.0%と添加し,無添加の場合と同様,
・イ酸ゲルのα一Sio2化による回折線が順次明白に か焼,遊離MgOの浸出を行ないホルステライト 認められるようになる。ホルステライトを合成す 生成量と時間との関係を調べてみるとFig.5の る際,エンスタタイト(MgO・Sio,)の生成も同 ようになる。これらは,いずれも無添加の場合と 時に考えられるので,この回折線についても同様 同様な傾向を示し,800℃においてすでに可成り に検討を行なったが,これに合致した回折線は全 のホルステライト生成反応の起っていることがわ
く得られず,反応生成物はホルステライトのみで かる。そして,その生成量もNaC1添加量の大 sS
100 90
80
三・・
ゆ
ξ、。
ζ、。
:1,。
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10
NaO1 2。5%
12QO ∠二。
ピづll:
/。!イノz gOO℃
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,〆。\8。ぴc
」___L
NεLG1 5.O%
1竃;…
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NaOl lO.0%
/一 2°ぴC
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NaO1 15。0%
∠。 2°°:C llOOC
戸。
l/
12468 12468
124、6812468
加熱時間 (hr.)
Fig・5ホルステライト生成量と加熱時間の関係(NaCl添加の場合)
きいものほど大きくなり,初期反応速度も著るし 一 く早く,短時間で平衡状態に達するようになる。
.. こ8\. ホルステライト生成量がほぼ平衡状態に達する
_、 ホルステライト生成反応に著るしい促進効果を示 _⊥__一__.L_,_一__ している。さらに,これらの結果を無添加の場合
コ マのむ フほ コ ロゐむ む
・/・×・・ と同様,Janderの速度式に適用し, T−【1−(1−
Fig・6Log Kと1/Tとの関係 α)1/・Pの関係から速度定数んを求め,109瓦と1/τ
(NaC 添加の場合) との関係題てみるとFig.6のようになる。こ れから,いずれの結果もよく直線上にのっている 50 ことがわかり,最小二乗法によって求めた直線の o 勾配から,活性化エネルギーを求め,NaC1添加 40£
§
\ 30
元
§
1 20
窒 管 ミ 避 ・・
\ 量との関係を図示したところ,Fig.7のような結 果が得られた。図から,活性化エネルギーは,添 o\o 加量の増加とともに次第に小さくなることがわか
\。 ;撒ぽ篇ご竃雅1禦L芸
\、 る。このN。C1による鉱化撒につし、ては,本実
o
験結果のみから明らかにすることはできないが,
NaC1の溶融点が800℃であることから溶融 NaC1中にSiO,, MgOの一部が溶解し,塩化物 5 ユ。 エ5 2。 混合溶融塩中でホルステライト化が進行したた N・・ユ添加量(%) め,見掛上の活性化エネルギーは小さくなるな Fig・7NaCl添加量と活性化エネルギーの関係 ど,種々の促進機構が考えられる。
㌫鱗㌶㌘合酬に2%よ, 5°1
16%まで添加し,800℃から1100℃の各温度で 0 8時間保持して調べてみた。その結果を図示する 。 40 とFig.8のようになり,これから加熱温度の高 三 ヨ いものほどホルステライト生成量が大きく,いず \ 30 口 れの場合も添加量12%のところに最大値のある ・ ことがわかる。そこでCaC12添加量を12%まで 図 20とし,加熱時間とホルステライト生成量との関係 1 を求めてみた。添加量2%,4%,8%,12%の ミ それぞれの結果を一括図示するとFig.9のよう 言 1。
になる・これらはN・C1に比べて・少量添加で §
ユoo
go
?0
2 4 6 8 10 12 14 1エρ(fC OaOl2 添加量 (%)
・/°\− Fig・・C・C1,添加量と活性化エネルギーの関係
一 一 」≡ユ ◆古
!O O 。
ご 50
罫 ム ぐ ヘ ノ
X 50〜
ミ 20
ユ0 0
・ Or一 く,初期生成速度の早くなることがわかる。これ
o/°@ らの値を,前述の場合と同様Janderの速度式に 代入し,速度定数κを求め,109丘と1/τの関 係から,各添加量の活性化エネルギーを計算し,
これを図示するとFig.10のようになる。
活性化エネルギー一は無添加のものに比較して非 し
2 4 c。∴漁量㌃) ユ6 常に小さく・ごく少量の2%添加で12Kca1/
Fig.8CaCl,添加量とホルステライト moleと急激に低下する。ついで・4%添加で 生成量との関係 11Kca1/mole,8%で10 Kcal/mole,12%で
、。。 。。G、22% L ,。。、、4%
90 80 ワ〇 三・・
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ユ246812468
加熱時間(hr.)
Fig.9ホルステライト生成量と加熱時間との関係(CaCI2添加の場合)
認を行なったが,ここでは800℃より1100℃ま
での各温度で,CaC1,12%添加8時間保持した ・』七㌻一☆ ㍉㌫……註「 一;;丁{
焼鉱の浸出残サを用い,赤外吸収スペクトル曲線 波 数( 一工om)
から検討を行なってみた。装置は日立製EPI−G3 Fig・11 SiO2・MgOの赤外吸収スペクトル曲線 型及びL型赤外分光光度計を用い,KBr錠剤法
によって測定した。最初吸収曲線の基準として,
合成試料に使用したケ・イ酸ゲル,Mg(OH),を
110ぴC,4時間か焼したものの赤外吸収スペクト /−8°ぴc
ル線をFig.11に示し, CaC1,添加処理したもの
をFig.12に示した。 Sio2の赤外吸収スペクト 。 /一〇〇C
ルは,波数1070cm−1,800 cm−1,455 cm−1に比 エ
較的強い吸収ピークがあり,MgOは吸収帯があ %
蕊歴霊篭く麓票蕊蔑㍑ 1 ≡、。。㏄
の特性吸収ピークの存在することがわかる。赤外 吸収は,結晶構造の類似した組成のものは,その 特性吸収帯も殆んど同じ波数のところに現われる
ため,その確認は非常に困難であるとされてい /一≡1°ぴC る。Fig.12に示した800℃加熱の焼鉱を見る
と,ホルステライトの特性吸収帯である波数1000 1 cm−1,900 cm−1,610 cm−1,520 cm−1の吸収ピ
ークが明白に確認でき,この温度においてもすで 一_
〕.400 ユ200 1000 800 600 400
に生成のおこっていることがわかる。そして,こ 波 数 (°ゴエ)
れらの吸収ピークは加熱温度の上昇とともに大き Fig.12 CaC12(12%)舎成試料の赤外吸収 くなり,Sio、の吸収を示す波数1070 cm−1のピ スペクトル曲線
一クは・反対にホルステライト化の進行につれて については,さきのX線回折結果の場合と同様 順次小さくなっている。これらの傾向は・Fig・8 に,これを確認するまでにいたらなかった。
に示したホルステライト生成量との関係ともよく
一致しており,70%程度ホルステライトが生成し 4 結 論
ている1100℃焼鉱では,いずれもシャープな吸 化学的に純粋なケイ酸ゲル(Sio,),水酸化マグ 収ピークを示している。これらの吸収帯は,ホル ネシュウム(Mg(OH),)を用い, MgO−SiO,に ステライトの赤外吸収スペクトル曲線を示した文 よるホルステラ・イトの合成を速度論的立場から測 献値ともよく一致しているが7),MgO−Sio,化合 定を行ない,その反応機構を種々検討した。つい 物として,その生成が考えられるエンスタクイト で,これにCaCl,, NaC1等の塩化物を加え,ホ
ルステライト生成に及ぼす促進効果を明らかにし し,2%程度でその活性化エネルギーは12Kcal/
たので,これらの結果を総括すると次のように moleと非常に小さく,合成されやすくなること なる。 を示した。
(1). ホルステラ・イトの生成は,拡散律速によ 終りに本研究は,角田志郎(住友金属鉱山株式 って支配されることを示し,Janderの速度式を 会社),栗林伸碩(日本タングステン株式会社)両 利用して,その活性化エネルギーを求めたところ 君が卒業論文として熱心に協力されたことを附記 43.7Kcal/moleの値が得られ, Siの拡散によっ し・厚く感謝する・
て律速されることを考察した・ 文 献 (2).反応生成物は,ホルステライトであるこ
とをX綱折・赤外吸収スペクトル姐・て恥 1)G慧二・B‡;㌫嚇壁;1;還。(19㌫。:12;仁 かにし,エンスタタイトは,ホルステライト生成 neral. Vol. Vo1.42(1g57)p.461.
過程で全く生成しないことを示した。 2)仲井,深見;大口本窯業協会誌,Vo1.47(ユ939)
(3)・一テラ朴合成の際N・C1の添加 3)P°翼工業く誌V。1.4。(、937),.85⑤
はその生成の促進剤,すなわち鉱化剤として有効 H.R. Brandenberg;Mining. J. Vo1,24(1940)
な添加剤であることを見出した。また,その促進 P・2・
効果は・添嶋の増加とともに大きくなり,・5% 1;速水、窯紬会誌V。1.73(ユ965)C.278.
添加で活性化エネルギーは17・5Kca1/moleに 6)L. Pauling;The nature of the chemical bond
なった,, (1950)・
(4).C・C1,は, N・C1砒べ,ごく娼添加 7)(;;;蒜,.Sepect「°ch m ca Acta V°Lユ8
で極めて顕著な促進効果のあることを明らかに