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研究論文
I
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ジミリストイルフォスファチジルコリンとレチノイン酸の複合薄膜の光吸収特性
辻 内 裕,*伊藤 学,**後 藤 研 滋**
Light Absorption Property of the Thin Film Constituted from Dimyristoyl−Phosphatidylcoline and Retinoie Acid
Yutaka TsuJlucHI†,Manabu ITo††,and Kenji GoTo†
To determine the adequate condition for construction of the thin film constituted from lipid and color pigment,hybrid films of dimyristoy1−phosphatidylcoline(DMPC)and retinoic acid
(retA)in several molecular ratios(9:1,4:1,1:1,1:4,119)were prepared by means of Langmuir Blodgett method.The result was th&t in the ratio of retA and DMPC by4:1,the film showed rela−
tively large absorption of light at the wavelength of360nm.The result indicates the molecular ratio of retA and DMPC is important factor for construction of hybrid film structure in that retA functions efficiently as a color pigment.
取y吻7躍5:dimyristoy1.phosphatidylcoline,retinoic acid,lipid,color pigment,thin film
1序論
ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)とは Figure1のような構造になっているリン脂質の一種である。
DPPC1),soya−PC2)など類縁物質も多いQホスファチジルコリ ン(PC)は一般に生体内で膜蛋白質を安定化させる働きのあ る脂質の一種として知られ,種々の膜蛋白質の研究などに使わ れている。 膜蛋白質はPCの類縁物質のリン脂質で構成され た生体膜中に存在し,エネルギー変換やイオンチャンネル,イ オンポンプといった生体反応に欠かすことのできない重要な働 きを担っていることが多い。しかし,その重要な機能をもっに も拘わらず水に不溶な性質のため,これまで3次元構造が解明 されてきた蛋白質数が全体で数干を超える中で膜蛋白質はわず か100種類程度しか明らかになっていない。構造解析が進んだ 蛋白質の大部分は結晶化が容易な水溶性蛋白質である。このよ
うに解明するに難しいのが実情ではあるが,近年薄膜化して構
O li
O CH20C−CH2C(CH2)12COOH 目 1 −
HOOC(CH2)12CH2C−COCH O
l I
CH、0−P−OCH、CH、威CH,),
δH
造一機能相関を探る研究が行われているa4・5)。われわれは,異な るアプローチとして,その膜蛋白質の優れた機能を模倣して,
より単純な分子から成る,複数の分子を組み合わせた集合系を 構築することを考えている。人工的にではあっても有意な機能 をもつ有機材料を作る7)ことができれば,機能性有機材料とし て間接的に応用可能となりうると考えられる・われわれは,ま ず,リン脂質と色素分子の2種類のみから成る単純な組み合わ せによる人工系を作製し,将来本格的に人工の有機分子複合膜 の作製に応用する可能性を探るため,膜構造における物理化学 的特性を探ることにした。本研究では,リン脂質にはDMPC,
色素分子にはFigure2に示すようなレチノイン酸(retA)を 選び,それらの複合薄膜を作製し,光吸収特性を調べる実験を 行った・レチノイン酸を用いた理由は,二っあり,一っは高度 の機能を有する光受容蛋白質ロドプシンや光駆動プロトンポン プ蛋白質バクテリオロドプシン3)等の発色団分子であるレチナー ルと近い光吸収特性をもっていて,膜蛋白質への応用への伏線 となること。もう一っは,ビタミンAのアルデヒド型である レチナール6)に比してカルボキシル型のレチノイン酸は界面活 性が高く,複合薄膜形成に適していることである。本論文では,
DMPCとレチノイン酸の複合化比率と光吸収特性の相関を調 べた結果について報告する。
Figure1 Chemical structure of dimyristoyl−
phosphatidylcoline 平成16年6月22日受付;平成17年2月14日受理
*秋田大学工学資源学部材料工学科 〒010−8502秋田市手形学園町1−1
**秋田大学工学資源学研究科・大学院生
†Faculty of Engineering and Resource Science,Akita University,1−l Tegata Gakuen−cho,Akita O10−8502,Akita prefecture Japan E−mai1:ucchan@ipc.akita−u,ac,jp
††Graduate Student,Akita University
CH3 CH3 C、C/C、C/C、C/〜C/H1 1 i l
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C猛H H HH/〜。
Figure2 Chemical structure of Retinoic acid
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ジミリストイルフォスファチジルコリンとレチノイン酸の複合薄膜の光吸収特性 43
2実験方法
2.1実験材料
溶媒として使用したクロロホルムはナカライテスク社より購 入し,DMPCとレチノイン酸はシグマ社より購入して使用し た。また基板にはセラテック社より10mm×15mm×1mmの 形状の透明石英板を購入して使用した。
2.2 混合溶液の調製
まず,クロロホルムを溶媒として,DMPCとレチノイン酸 合わせて2mMの濃度になるように,また混合溶液をレチノ イン酸対DMPCの分子数比retA:DMPC=9:1,4:1,1:1,1:4,
1:9となるように秤量して5種類の溶液を調製し用いた。溶媒 は揮発を防ぐ為,氷上0℃にて保存して用いた。
2.3薄膜作製の方法
DMPCとレチノイン酸の複合薄膜の作製には垂直浸漬法を 用いた。垂直浸漬法を行うにあたってFigure3に示すような 製膜装置を製作して用いた。われわれが製作した装置では 0.001mm/sec(1秒当たり50〜60分子数を基板に結合させるこ とに相当)という速度以上で基板の上下動を可変的に制御でき る。薄膜作製実験を行うにあたって,最も適した条件を決める 目的で予め,水面上の有機分子膜にかかる荷重(Weight)と表 面積(Area)の関係を求め,(Weight−Area曲線)として解析 し至適荷重を決定する。実験手順は,水槽に張った水の洗浄後,
基板を10mm液相に浸漬した状態で,室温にて2mMレチノ イン酸一DMPCクロロホルム溶液20μLを水面に展開し,20分 放置してクロロホルムを蒸発させた後,上昇,下降,上昇,下 降,上昇の5回,0.01mm/secの速度で動かし,薄膜を作製し
た。
2.4 薄膜の紫外可視光吸収スペクトル測定
次に,DMPC:レチノイン酸複合薄膜の紫外可視光吸収スペ クトルを測定した。フリーのレチノイン酸からは波長360nm に吸収ピークをもっ光吸収スペクトルが得られることが知られ ているQランベルトーべ一ルの法則によれば,光吸収の値と濃 度は比例するため,薄膜の光吸収値を測定することで薄膜中に
存在するレチノイン酸の量を知ることができる。測定には島津 製作所社製のUVl200を使用し,基板に対応したセルホルダー は自作して使用した。
3 実験結果と考察
3.1Weight−Area曲線と製膜時の荷重の決定
Figure4〜8にレチノイン酸・DMPC混合溶液のWeight−
Area曲線を示す。横軸は荷重で縦軸は水面に展開した混合溶 液を囲むテフロン製の枠と発泡性塩化ビニール製の浮子の位置 で決まるラングミュアー(L)膜の面積である。荷重0.109より も小さい値については浮子の重量と水の表面張力の関係で測定 限界であるが,成膜分子が疎らに存在する気体膜の状態である。
全ての混合比で荷重約0.10g以上0.18g近傍までは,わずかに 面積の減少がみられるもののほぼ階段状に一定の面積値を示し ていた。Figure4〜8の図中破線で示すように約0.18gに達す ると減少が著しくなることが分かった。さらに0.22g近傍で減 少が緩やかになり次の階段状の一定の面積値を示した。この 0.18g〜0.22gの変化過程では凝縮膜と呼ばれる二次元固体状 態であると考えられる。これは,9:1の比率の変化で顕著にわ かることであるが荷重と面積の比例関係が成り立っているから であるQ特に,Figure9に示すように,荷重0.18〜0.22gの範
160 140
120
け窪100
り
、 80器
そ60
40 20
O O。05 0。1
0
retA:DMPC 9:1
Figure4
O.15 0.2 0。25 0.3 0.35 0.4
Weight!9
Weight−Area plot of retA and DMPC mixed solu−
tion.Molecular ratio of retA and DMPC is9:L
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Figure3 Apparatus for preparation of LB film
retA:DMPC 4:1
Figure5
O O.05 0.1 0.15 0.2 0,25 0.3 0.35 0.4
Weigh重19 0
Weight−Area plot of retA and DMPC mixed solu−
tion.Molecular ratio of retA and DMPC is4:1,
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44 辻内裕・伊藤学・後藤研滋 囲において9:1,4:1,1:1の比率における面積の変化を拡大し
て比較してみると,0,19〜0.21gの範囲でいずれも荷重に比例 して面積が減少(4:1の場合一定に保たれているが比例関係に 包含される)している・この結果から荷重0・19〜0.21gの範囲 ではレチノイン酸:DMPC濃度比が高い9:1の場合よりも濃 度比が低い4:1の場合のほうが面積変化率が低く(一定値),
160 140
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40 20
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0
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1:1
O.15 0。2 0.25 0.3 0。35 0。4
Weig血重!9
さらに濃度比が低い1:1の場合は9:1の場合よりも大きな減少 率を示した。この減少率の不規則性の原因にっいては未だ不明 であるがレチノイン酸とDMPC分子の分子数比が複合化した 分子集団としてのコンフォーメーションや結合力に影響を与え ていることを示している・0.22g以上になるとどの分子数比の 場合も2回以上さらに複雑な状態変化を経て面積が減少する変 化が観られた。以上の結果から垂直浸漬実験によるラングミュ
アーブロジェット(LB)膜の作製に,われわれは最初の凝縮膜 の状態の変化の中央にあたる0.20g近傍の荷重を採用し,以後 この荷重値で製膜を行った。
3.2 複合薄膜の紫外可視光吸収スペクトル
次にDMPC一レチノイン酸複合薄膜の紫外可視光吸収スペク トルを測定した。Figure10にその結果を示す。360nm近傍の 吸収はレチノイン酸に起因するものである。複合薄膜のスペク
トルは溶媒の影響のないスペクトルになっている。分子数比の 影響をみるとDMPC:レチノイン酸比1:4の場合にもっとも吸 収値は大きく,DMPC:レチノイン酸比1:9の場合よりも大き
く約2倍の値を示した。
Figure6 Weight−Area plot of retA and DMPC mixed solu−
tion.Molecular ratio of retA and DMPC is1:1.
N目9︑閥㊤﹄︿
140
retA=DMPC 1:4
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100
90 0.18
Figure7
0.185 0,19 0.195 0.2 0.205 0,2真 0.215 0。22
Weigh重/9
retA:DMPC
一(〉9:1
{:}4=1
杏1=1
Weight−Area plot of retA and DMPC mixed solu−
tion.Molecular ratio of retA and DMPC is1:4,
Figure9 Comparison of weight−Area plot of three solu−
tion.Molecular ratio of retA and DMPC is9:1,
4;1,1;1.
160 140 120
0 0 00 8 6
四目ミ塁﹄︽ 1
40 20
retA:DMPC l:9
0 0。05 0づ1 0.15 0・2 0,25
Weight19
0
OO慕﹄旨Oの﹄<
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、
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retA:DMPC
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4一哨、L.ロ..
Figure8
0。3 0.35 0.4
Weight−Area plot of retA and DMPC mixed solu.
tion.Molecular ratio of retA and DMPC is1:9.
200 300 400 500 600 700 800
Wavelength/nm
Figure10Diffemce absorption spectrums of LB mm con−
stituted from DMPC and retA in several molecu−
1ar ratios(9:1,4:1,1:1,1:4,1:9)
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ジミリストイルフォスファチジルコリンとレチノイン酸の複合薄膜の光吸収特性 45
3.3分子数比と複合薄膜の特性について
Figure10で観られたようにretA:DMPC=4:1における光吸 収値が他の条件に比して最も大きい値となる現象は,量比でみ ると,薄膜中の光吸収を起こしたレチノイン酸数密度がretA:
DMPC=9:1の場合よりも4:1の場合のほうが約2倍にまでな ることを示している。このことを前述のWeight−Area曲線の 結果と合わせて考察してみる。特に注目したい点はFigure9 でみた荷重0.18〜0.22gの範囲にみられる変化との関連性であ る。retA:DMPC二4:1の場合の面積の減少率が小さくほぼ一 定であり他のどの分子数比の場合よりも0。2g近傍で面積が大
きく保っている。このことは最初に発生した凝縮膜の特性とし て,5つの分子数比の中ではretA:DMPC二4:1が荷重に対し て複合化した分子集団として比較的最も安定な状態となると考 えられる。分子数比9:1の場合,水面上の状態ではレチノイン 酸を多く含むが基板上への膜形成に少数ではあるが含まれる DMPCがレチノイン酸の基板上への堆積過程を妨げる効果を もたらしているのではないかと考えられる。その詳細な機構に ついては現段階では不明である。従来,レチナールとDPPC を混合してリポソームを調製した例1)があるが,その例では分 子数比は8:6が採用されている。脂質分子より色素分子の比 率が大きい点では共通しているがL1よりわずかに大きい程度 である。本研究では使用した脂質,色素の分子の組み合わせは 5つの組み合わせでだけであり,構造特性上の物理量の極大点 を詳しく見積もることはできないがWeight−Area曲線の結果 と照合できる関連性があることを明らかにできた。
4結論
レチノイン酸とDMPCの複合薄膜を作製し,Weight−Area 曲線の結果と複合薄膜の光吸収スペクトルの解析を行った。そ の結果,retA:DMPCの分子数比9:1,4:1,1:1,1:4,1:9で比 較した場合,最初に凝縮膜が発生する条件下で比較すると retA:DMPC;4:1において複合薄膜の荷重に対する面積値の 減少率が最も小さく,光吸収の値が分子数比9:1の場合よりも 約2倍大きかった・よって,複合薄膜を形成する過程ではレチ ノイン酸とDMPCの分子数を変化させると特異的な結合状態 を経ることが予想された。
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