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日常会話における助詞の省略
前 田 昭 彦
キー ワー ド:省略、復元、格 、共起制限、必須成分
1
.はじめに
外 国人学習者 に 日本語習得上 の困難 を尋ね る と、大半が助詞 の学習 を挙 げ る。学習者 の助詞 の誤用 には、 「学校こ 日本語 ガ習 う。」 とい った誤使用、
「明 日こ買い物 に行 く
。」 とい った過剰使用、 「ここ¢友達 ¢会 います。」
とい った不 自然な省略な どがある。 日本語学習者が抱 える助詞習得の困難 は 正確 な助詞使 用に関す る ものだけではな く、正確 な助詞不使 用に関す るもの
もある。
助詞を学習す るに際 して学習者を とまどわせ るのは、 日本語母語話者 が助詞 を しば しば省略するとい う現象である。実際、気をつけていると、あ らたまっ た会話 の場合 を除 き、母語話者 は書 き言葉 であれば助詞が使用 され るはずの 所 でかな り頻繁 に助詞を落 と して発話 を行 っている
。ところが、外国人学習 者が同様のことを行 うと、往 々に して不 自然 に聞 こえた り、意味が不明にな っ た りす る
。これはなぜであろうか。
談話の文法が注 目され、省略の研究がなされ るようにな って久 しいが、 この よ うな助詞 の省略 はさほ ど問題 にされて こなか った。本稿 は助詞 に関 して省 略の可能 、不可能 を吟味 し、助詞省略の法則性 を探 り、 さらに助詞省略の も つ意味を考察 しようとす るものであ る。
2
.助詞の省略 と復元可能性
助詞の中には会話 において省略可能な ものと不可能な ものがある。省略の可
否 を決め る ものは第一 に意味である。言語的、非言語的文脈 において助詞 を
省 略 して も文意 が紛れな く伝達 で きる場合 にのみ助詞 の省略が許 され るとい
う点には議論 の余地 はあるまい。第二 に久野
(1978)で指摘 されているように
復元可能性 である
。この点 に関 しては多少問題 があるので、それについては
後述す る
。近年助詞分類の再構築の試みが さまざまになされている。 しか し、従来の学 校文法 にかわる確立 した分類 はまだ見 当た らない。 したが って文法上 の呼称 については基本的には学校文法の分類 に従 うことにす る。 しか し、それはあ くまで も便宜的な ものであ り、筆者がそれを全面的に肯定 してい るわけでは
ない。
どのよ うな助詞が省略 にな じみ、 どのような助詞が省略 にな じまないのか 検討す るにあた り、当該部分 の記号 は次 のように用いる。 ?はやや不 自然 な もの、 *は文意不明 または不 自然 とな り不適格、 ¢は書 き言葉 であれば助詞 が現れ ると考え られ る個所、すなわ ち助詞の省略がな されている可能性 のあ る個所、括弧内の助詞 は省略 されたと考え られるもの、 (め) は助詞の省略、
(0
)は本来助詞不使用すなわち助詞ゼ ロの可能性 が高 い個所 を示す。
久野 ( 前掲)では 「省略の根本原則」 と して <省略 され るべ き要素 は、言 語的、或 いは非言語的文脈か ら、復元可能 (
recoverable)でなければな ら ない >ことを挙 げている
。しか し、 ここではイ ンフォメー ションの新 旧か ら 文の 自立的要素 に関す る省略か問題 にされているのであ って、非 自立的要素 である助詞 は考察の対象 にされていない。 したが って、上記の省略 について の記述 は助詞 の省略にそのまま借用す ることはできない。助詞の省略 におい ては、復元可能 であ って も、復元すべ き助詞 を一義的に決定できない ことが ある。 やや誇張 していえば、省略は したが、省略 した当人です らどの助詞 を 復元 した らいいのか迷わざるをえないという事態が出来 しさえす るのである。
さらに、省略 されたとおぼ しきものがあるのに、それが直 ちに助詞の省略を 意味 しない こともある。
例えば、次の対話ではどうだろう。なお、文頭の
A,
Bは以下話者を示す。
(1 )
A :君 ()中国語 できる ?
B:
いいえ、英語 な らできますが、中国語 はちょっと。
(2) A
:博多 ( )広島 ( )は新幹線 で
1時間で行 けるだろうか。
B:
行 けるか もしれないよ。
(3) A :あの レス トランはおい しそ うだ (
)0
B :そ うだね。 あそこで食べよ う () 0
(1 )では ( )に、‑が復元できる。 しか し、無助詞のままで もなん ら不
都合 はない。 また、Aが Bに多少の軽視を含意 して発話す るとい う言語外 の
長崎大学留学生セ ンター紀要
第
6号
1998年 45
文脈 が あれば、( )にはこか復元 で きる。 この よ うに本来無助詞 で あ るべ きか復元可能 か に関 して は憤 重 な吟味 が必要 とな る。
(2)
の
2つの ( )には
a.( か ら)(まで)
b.( か ら)(へ )
C.(と)( の 問 )
d.(0)(間 )
e.(0)(0)な どの可能性 が考 え られ る。 このように慣 用 的 に用い られて いて、 しか も復元 を試 み ると、助詞 や助詞以 外 の語 が多様 に 考 え られ る もの は、本稿 で助詞 の省略 と して扱 わない。
(3)A
の ( )は ( ね/ 吃/ よ) 、
Bは ( か/ よ/ な/ね )な どを補 うこ とがで きる。 だが、 この種 の終助詞 は本来感情 の表 出のため に使 用 され るの で、終助詞 を使 用 していない とい うことは、 その終助詞 に託 して表現 したい 感情 が無 い ことを意 味 して い るのだか ら、 この よ うな もの も助詞 省 略 と して
は扱 わない。
3.
助詞 省 略の実態調査
助 詞 の省 略 な い し脱落 は 日常会話 においてか な り頻繁 に見 られ るが 、会話 をテ ープに と って調査 す る ことは さほ ど実際 的 な方法 とは思 われ ないので、
テ レビを利 用す ることに した。初 め は NHK の トー クシ ョウで試 みたが、 た また ま出演者 が年配 の人 で もあ り、 またか な りフ ォーマルな意識 が働 いて い たせ いか、思 った ほ ど助 詞 の省 略 は拾 えなか った。 そ こで、 い くつ か の ドラ マを材料 に使 うことに した。 ドラマ は家族 や友 人を中心 に した もので、 くだ けた会話 が 多 く、 日常 的 な会話 を反映 してい る と思 われ る ものを選 ん だ。題 名、原作者 ない し脚本家 、長崎での放送 日、放送 開始時間、放送所要時間 (コ マ ー シ ャルを含 む )は次 の とお りで あ る。
① 日曜劇場 『まかせて ダー リン』、林 誠 人脚本
、3月
22日 (日曜 日)
、21:00、
1時間
②
DAYS『夢 を追 いか けて ‑・ 旅立 ちの 日』、大 石 静脚本
、3月
23日 (月曜 日)
、21:00、1時間
24分
③ 『熱 中家族 』 、国沢真 理子脚本
、3月
24日 (火曜 日)
、13:00、30分
④ 『車椅子 の金 メダル』、高橋幸春原作 ・杉原邦彦脚本
、3月
24日 ( 火曜 日) 、
13:30、30分⑤ 『熱 中家族 』 、国沢真 理子脚本
、3月
26日 ( 木曜 日)
、13:00、30分
⑥ 『車椅子 の金 メダル』、高橋幸春原作 ・杉原邦彦脚本
、3月
26日 ( 木 曜 日)、
13:30、30
分
⑦ 『番茶 も出花「みんな家族 です
」』、橋 田寿賀子脚本 、3月 26 日 ( 木曜 日)、
21:00、1
時間
以下 、必要 に応 じて① は (まかせて)、② ( 夢 )、③ ( 熱 中( ∋)、④ ( 車椅 子① )、⑤ ( 熱 中② )、⑥ ( 車椅子② )、⑦ ( 番茶) と略す。
収集 は ドラマを録画 して、 2 ない し 3 回聞 き返 しなが ら行 った。 ただ し気 が付か ないで聞 き落 と した もの も多少 あ ると思 われ るが、統計 的 に有意 なだ けの収集 はで きた もの と確信 している。数値 は絶対数 ではな く、相対 的な比 を示 してい ると解釈 していただいたほ うが
いいか も しれないが、 それで も、
かな りの程度 まで実数 に近 い とい うことがで きる
。下 は上記 ドラマで収集 した助詞省略 と考 え られ る部分 の数 を表 に した もの であ る。
表 1 テ レビ ドラマにおける助詞省略の瀕度数
ノヽ
ラガ ‑/ // ヲ カ ハ/ ?/ 刀 ノヽ
0/ 0 0刀
/まかせて
ll 8 1 21
50 1
110
夢
8 10 5 40
11
1 700
熱 中 ①
5 12 80110
0 100
熱 中 ②
17 23 311101210
車椅子①
8 5 5011011
11
車椅 子②
12 7 200
0000
20
番 茶
31 54 13 60
3110
10
表中の‑/ヲ、‑/ガ、‑/二、ヲ/ガはそれぞれ助詞‑とヲ、‑とガ、‑とこ、
ヲとガのいずれ も入る可能性があることを示 し
、0/ハ、0/ガはそれぞれ助詞 0か
‑ 、0 かガのどちらがより適切か決め兼ねるものを示す 。 0は無助詞が最 も適切 と考 え られるものを示 している。
4.テ レビ ドラマ における助詞省略の傾 向
表 1で分 か るよ うに、全体 と しては助詞‑ とヲの省略が多 く、次 いで助詞 ガの省略が多 い といえ る。‑ とヲの省略が多 い ことは予想通 りであ ったが、
ガの省略が比較 的少 ないのは予想外 であ った。助詞 この省略 は特 に問題 があ
るところなので省略例が集 まることを期待 していたが、思 ったほ ど収集 で き
なか った。 なお、二の省略のい くつかは助詞 への省略 とみな して もいい とこ
ろであ る。 これ については後 で触れ る。助詞 デの省略 は皆無 だ ったので、表
長崎大学留学生センター紀要 第6 号
1998年
47に示 さなか った。当然であるが、 フォーマルな場面や シ リアスな場面、 また、
ゆ っ くり した 口調 で話す場面 では助詞 の省略 は ほとん どなか った。 これ も予 想 された ことで はあるが、助詞省略 ない し無助詞 とい う現 象 は、家族 間、友 人間のテ ンポの速 い イ ンフォーマルな会話 や発話 の中で頻繁 に見 られ た。
5.
肋詞ハの省略
5. 1
助詞ハ 省略の条件
野 田
(1996)は助詞‑に関す る学説 を以下のよ うに手際 よ くまとめている。
①主韻 の用法 を基本 と し、対比 の用法 を派生 とす る対比派生説。②対比 を基 本 と し、主題 を派生 とす る主題派生説。③尾上圭介
(1981)の 「 二分結合」な ど、構造 的 な面 を本質 とす る構造本質説。④ 「とりたて」 な ど意 味的 な面 を 本質 とす る意 味本質説。⑤典型 的な主題 と典型 的な対比が連続す るとみ るプ ロ トタイプ説。 この よ うに学説 を 5 つ に分類 し、 さ らに第 6 の説 と して、本 質説 の長所 とプ ロ トタイプ説 の長所 を と りいれ た複合説 を提唱 してい る
。筆者 は前 田
(1995)で述べたように複合説であ る。 しか し、主題 と対比はハ が同時 に合 わせ持 つ基本 的な機能 であ る点 と、 と りたて的 な意味 を重視す る 点 に関 して は同 じであ るが、次 の よ うに‑の焦点形成 の強弱 を問題 にす る点 において野 田の複合説 と異 な ってい る
。‑ は本来焦点 を形成す る力 を もつ。一般 に言 われ る対比 は一文 に主題 が檀 数存在す るために焦点が分散 し、焦点が分散 した分だけ主題性 が薄れた もの、
一般 に言 われ る主題 の‑ は文脈 によ って規定 され る範噂を全体集合 と し、‑
に よ って取 り出 された ものの残 余を補集合 と した両者 の対比 であ るが、対比 の相手 が明示 されない分 だけ焦点を形成す る力 が強 い。以上 が野 田の複合説
と異 な る筆者 の考 えの概 略である。
この よ うな機能 を持つ助詞 ‑ と会話 における‑の省略 は との よ うな関係 を もつ のであ ろ うか。無助詞 による主題 の提示 は松下大三郎 が既 に 『 改撰標準 日本文法 』
(1928)においてハを使用 しない [ 一 、‑]を項 目語 のなかの単説 と して分類 しているl
'。それ と現代 口語会話で頻 用 され る‑の省略は どのよう な関係 があ るのだろ うか。
助詞省略全般 に関す る先行研究 は さほ ど見当 た らないが、助詞 ‑ に関す る
ものは多少ある。入手 で きた ものでは筒井通雄
(1984)、丹羽哲也
(1989)甲
斐 ますみ
(1991 )、長谷 川ユ リ
(1993)、野 田尚史
(1996)がある。 この うち
丹羽では助詞省略全般 が考察 の対象 とされてい る。筒井 は助詞ハ省略の条件 について、丹羽 は助詞 の省略 に関 して主題 と格 と語順 について、甲斐 は助詞
‑省略に関わる
2つの条件 について、長谷川は無助詞の特別な機能 について、
野 田はハ とガを比較 しなが ら無助詞 の性質 や機能 についてそれぞれ論 じてい る。諸説 を概括す ると、会話 における助詞‑の省略は、身近 にある ものが強 い対比的意味を持 たない主題 とな った ときに生 じる現象 であるとい うことに な る。以下 に今回の収集例か ら該 当す る ものの一部 をあげる。以後 引用例の 人名 は漢字 が分か らない場合 ひ らがなで表記す る。
(1) 今 日のて っちゃん
¢ (‑)、へん。 ( 夢)
(2)
あなた
¢ (‑)、そんなに大変 なの。 ( 熱 中① ) ( 3) これ
¢ (‑)、 ちょっと固いん じゃない。 (同)
(4)
わた し
¢ (‑)、 もうどう した らいいか分かんない。 (まかせて) ( 5) そ うい うこと分か ってないんだ もん、竹下家
¢ (‑)
0( 番茶 ) 確かに収集 した‑の省略例 はほぼ総てこのように身近 な ものが主題 とな り、
直接対比がな されていない場合 である。 だか らとい って、助詞ハの省略をそ の ような もの と して結論づ けていい ものだろ うか。例えば、次 のよ うな会話 は どうであろ う
。(6) A :三角形の面積¢ (
‑)、 どうや って出すんだ ったかな。
B:
三角形の面積 ¢ ( ‑)、簡単 だよ、底辺かける高 さ割 る
2じゃ ないか。
数学が普通 の人の会話 にのぼるとき、身近な話題であるとはいいがたい。そ れで も、無助詞 にな りうるのであ る。三角形 の面積 を円や台形 のそれに変え て も同 じであ る。三角錐 の体積 に置 き換えて も助詞‑の省略が不可能 とは考 え られない。
さらに、収集例 のなかで も、次 のように身近 とは言えないやや観念的な も のが無助詞 にな った例 もある。
(7)
お母 さんの経験 、主婦の感覚
¢ (‑)、普通の家の引越 しには大事 です。 ( 番茶)
これまでの大半の説 は‑が無助詞化する条件 と して次の ものをあげている
。主題が身近 な ものであること。心理 的に話 し手、聞 き手 に近 い ものであるこ
と。既知 の情報 であること
。しか し、 このよ うな条件 は助詞ハ省略 にとって
本質的な ものではない と考え られ る。 これは、‑の無助詞化の条件 とい うよ
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第
6号 1998年
49り、助詞 ‑ に付随 した問題 、すなわ ち‑使 用の条件 に関わ る問題 であ り、そ の よ うな もの と しては現在 では既 に語 り尽 くされ た感 のあ る事柄 であ る。
甲斐 ( 前掲 ) では、‑省略 の要件 と して上記 の要素 が関 わ ることをあげた 上 で、 さ らに、話者 が強 い確信 を抱 き、強 く主張す る場合 は、‑ は省 略 しに くい と述 べ、例 の
1つ に 「 私
‑ (*¢)若 い。」 をあげてい る
。甲斐 は この よ うな場合 も、 「 私 ¢ ( ‑)若 いみたいだ。 この前 の検査 で
20代 の体 力が あ る といわれた。」の よ うに、文末表現 を変 え、確定の度合 いを変 えた り、
「よ
」「じゃないか
」 「ね」 「〜なんか じゃな
い」「のだ」の よ うな聞 き手 への配慮を示す形式を付け加えれば‑省略の容認度 はあがると説明 している。
上 の例、 「 私 ‑若 い。」 については、筆者 は これだけで も文末 に終助詞 を 加 え るだけで次 の よ うに‑の省略が不 自然 ではな くな ると考 え る。
(8) 私 ¢、若 いの よ (/若 いわ よ) 。
この よ うに‑の省略 は‑ がマー クす る ものに関す る要件 よ り、文体 の レベ ルに大 き く関係 してい ると考 えたほ うが よ くはないだろ うか。
(9) a
父‑ (
*¢)喜んで賛成す る。
b 父 さん ¢ (‑)喜 んで賛成 な さるわ よ。 ( 番茶 )
C
おや じ¢ (‑ )、喜 んで賛成す るさ。
上 の
a、
b、 Cの違 いは文体 ない し語嚢 の違 いだけであ る
。この よ うに‑
の省 略 は使 用語垂 を含 む文体 に大 き く依存 して い るといえ る。
甲斐 ( 前掲 )では さ らに、 「 三角形 は辺 が三本 ある。」 の よ うな論理 的、
普遍 的判断 を述 べ る場合 には 「は」 は絶対 に落 とせない とされてい るが、 こ れ も、文体 の レベルを多少変 え、会話 の中に組 み込 む と省 略不可能 で はな く な る。
(10) A:
おい、三角形 ¢ (‑)、辺 ¢何本 あ ったかな。
B:
今 ごろ何言 ってるんだ。三角形 ¢ ( ‑)辺 ¢三本 あるに決 ま っ て る じゃないか。
この よ うに‑省略の条件 はまず第一 に、 くだ けた文体 を使 用 したいかに も 会話 的な文 であ ることといえ る。 これは通常省 略で きない といわれて い る強 い対 比 を表 す‑ において も可能 にな る2 ) 。次 の例 がそ うであ る。
(ll)
aあのケーキは、僕ハ
(?¢)食べ ま したが、山田君ハ
(?¢)負 べ ませんで した。
b
あのケーキ、おれ ¢食 ったけど、山田のや つ ¢、食わなか った
ぞ。
この ことは、筒井 ( 前掲)で省略が不 自然 とされる例 「 太郎‑来 たけど、花 子‑来 なか った。」 も同様 である
。次 のような状況では‑の省略が必ず しも不
自然 とはいえない。
(12) A:
昨 日のパ ーテ ィー、太郎 も花子 も来 たかい。
B:
太郎‑
(?め)来 たけど、花子 ¢来 なか ったよ。
B は さらに、 「 太郎 のや つ ¢来 たけど、花子 のや つ ¢来 なか ったよ。」 と 一 層 くだけた会話調 にす ると省略が 自然 にな って しまう。 しか し、実際 に収 集 した例 の中には一例 も強 い対比 における‑省略の例が見 られなか った。 こ
の ことか らも、典型的な対比の‑ は通常省略 にな じまないと考えた方が無難 であるか も しれない。 それで も、上 に見たよ うに不可能 とは言えないのであ る。
このよ うに、‑省略の条件 はまず文体 にあ るといえ る。 ただ し、文体が ど のように会話的にな って も、ハの省略が不可能 な場合がある。筒井 で 「 「 Ⅹ‑」
の対応部分 が省略 され た時。」 と規定 されている以下の ような ものである。
(13) A :
これ ¢、何 ?
B:
それ ¢、友達 か らのプ レゼ ン ト。
A :
あれ‑ ( *¢)
?最後 の 「あれ‑」の後 ろに 「 何 ?」や 「何 ですか」が省略 されているので
‑の省略は不可能 とされ る。 これは文体や使用語糞 に関係 な く 、 いかなる場 合 に も該 当す る。
しか し、筒井 で他 にハの省略を極めて不 自然 と している
「「Ⅹ‑」が焦点
であ る時
」 「「Ⅹ‑」の対応部分 が強調 され る時」 とい う要件 は助詞‑の機 能 に密接 に関わることが らであ り、省略の可能、不可能 と してよ り、む しろ
‑ を省略 した場合 と省略 しない場合 の意味論 的差違 と して考察すべ き問題 と 考 え る。 それについては次項 で述べ る。
最後 に否定文 について も簡単 に触れておきたい。筒井 では 「 否定 のスコー
プを表 わす 「ハ」の例 も対照 の 「‑」の好例」、すなわ ち省略できない例 と
して、 「 僕はきの う‑ (
*¢)泳がなか った
。」「 花子 は次郎 と‑ (
'¢)踊 ら
なか ったよ。」があげ られている。 これは‑の意味論的な問題 なので、次項
にゆず り、 ここでは否定文 におけるハの省略の実例を一部 あげるに とどめて
お く。 ただ し、筒井 の文例 ほど強 い対比の例 ではない。
長崎大学留学生 セ ンター紀要 第6
号
1998年
51(14)
自分 の 自由な時 間 ¢ (‑ )ないの よね。 ( 番茶 )
(1 5) が っか りす るこ と¢ (‑ )ないわ よ。 ( 車椅子 Ⅰ② ) (16) やめ ること ¢ (‑ )ないの よ。 ( 車椅子 ② ) (17) なん だ、お まえ ¢ (‑ )、知 らないのか。 ( 夢 )
(18) よ うこ ¢ ( ‑ )ゆ うべ もき ょうもいなか った し
。( 熱 中① )
(19)
お金 ¢ ( ‑ ) もう返 って こないん です か。 ( 車椅子① )
(20)
おれ ¢ ( ‑ ) うま くいえな いです け と (同)
ここで助 詞 ‑ の省 略 に関す る規 則 を ま とめ る と以下 の よ うにな る。 間投助 詞 を多 用す るよ うな くだ けた文体 、終助詞 その他会話 的文末表現 を使 用 した くだけた会話調文体 ない し抑揚等 による会話的発話 においては以下 の① ,②,
③ の場合 を除 き、助詞 ‑ は省 略 で きる。 ただ し、‑省略 と‑使 用 は意 味論 的 に等価 ではない
省 略不可能 な い し省略 にな じまない助詞 ‑ は以下 の場合 で あ る。
① 助 詞 ‑ で マー クされ た主題 に対す る述部 が省略 されてい る時。
② 強 い対 比 を表 わす ‑の時。
③ ハが部 分否定 を形成 し、 また、ハが最大 値、最小値 をマー クす る時。
③ につ いて は後述 す る。
上 の‑省 略 の条件 、 「抑揚 等 によ る会話 的発話 」 の中には敬語 使 用 も含 ま れ る。次 の
(21 )は既 に使 用 した例
、(23)は小料理 屋の女将 とおぼ しき中年の女 性 か常連客 を客 の 自宅 まで送 って、その家族 に向か って発話 した もので ある。
いず れ も敬 語 が使 用 され てい る。
(2
1 ) 父 さん
¢ (‑ )喜 んで賛成 な さるわ よ。 ( 番茶 )
(22)
お父様 ¢ (‑)気持 ちよ く許 して下 さったわ よ。 (同 )
(23)
丸 田 さん ¢ (ハ )よほ ど嬉 しい ことがおあ りにな った よ うで‑
(同 )
この よ うに会話調 であ ることと敬語使 用 は矛 盾す る もの ではない。
5.2
助 詞ハ 省略の意味
形式 が異 なれ ば意 味 も異 な るとい う言語学 の原則 は、助 詞 ‑の使 用 と省 略 の間 に も存在す る。長谷川
(1993)は無助詞 の機能 の一 つ に、対比性 や排 他性 を 不 問 に して 中立 的 に取 り出す 「やわ らげ」 を認 めてい る。筆者 も基本 的 には 同意 であ るが、やや異 な る見解 を もつのでそれ につ いて述 べ てみ たい。
拙論
(1995)で述 べたよ うに、助詞 ‑は取 りたての機能 を有 し、文の焦点 を
形成す る。否定文 においてはハの焦点形成 の機能が否定 のスコープを焦点 に 引き寄せ、‑でマー クされた ものだけを否定 し、‑が含 み と して背後 に有 し ている もの に否定の力 が及ばないように作用す る
3'。
(1 ) 今 日‑買 い物 に行かない。
( 2) 今 日買い物 に行 かない。
( 1 )は 「買 い物 に行 くが、それは今 日ではない」 とほぼ同意である。そ こに は 「きの う買い物 に行 った こと
」「 来週買 い物 に行 くこと」な どの含 みまで は否定 しないとい う含意がある。 これに対 し 、 ( 2) は単 に 「 今 日買 い物 に行 く
こと」のみを否定 していて、 ほか に何 ら含みはない。
これ一 つ を とって も‑の省略が‑を復元 した文 と同意 になるとは考え られ ない。 さらに分か りやすい例 を挙 げてみよう。
(3) a
ここか ら駅 まで
10分ハかか らない。
b
ここか ら駅 まで
10分かか らない。
(4) a
明 日のパ ーテ ィーに留学生が
8人‑来 るよ。
b
明 日のパ ーテ ィーに留学生が
8人来 るよ。
( 5)
aこのケーキは全部 ‑食べない。
b このケーキは全部食べない。
(3)(4)(5)
ともそれぞれ‑のあるな しで意味が異な っている
。(3)aは最大値
10
分を否定 して
10分未満であることを暗示 しているのに対 し、
bにはそのよう な含みがな く単 に
「10分かかること」を否定 しているにす ぎない
。(4)aは最 小値が
8人 でそれ以上 の可能性 を暗示 しているのに対 し、
bはただ
8人来 る
と言 ってい るだけである 。 (5)
aは部分否定 であ り、 b は全否定 である。
このような意味の違 いは、‑ に内在す る主題提示、対比、焦点形成、焦点 による否定 の引き寄せ とい う機能 の作用である。 したが って、‑ が省略 され るとこのよ うな機能 が‑使用時 に比べて十分 に作動 しない ことになる。 しか し、‑が省 略 されて も、松下大三郎が指摘 した無助詞 による主題提示の機能 は残 る
。だが、主題 を提示す る力 は‑で提示す る場合 に比べ ると弱 くなる。
さ らに、‑ の消滅 とと もに焦点形成 の力 は減少 し、否定 引き寄せ の力 も、明 示 された対象 と直接 あ るいは暗示 された含み との間接的な対比の力 も消滅 な い し消滅 に近 い状態 になる。実例 を見てみよ う。
(6)
けいぞ うさん ¢ (ハ)、 どう して そんな歯 の浮 くよ うな こといえ
ちゃうのか しら。 (まかせて)
長崎大学 留学 生 セ ンター紀要 第
6号
1998年 (7) なん だ、お まえ ¢ ( ‑ )知 らないのか。 ( 夢 )
(8)
お まえ ¢ ( ‑ )や っぱ今 日ち ょっとおか しいわ。
(9)
あな た ¢ (‑ )そんなに大変 なの
。( 熱 中① )
(10)おまえ ¢ ( ‑ )まだ願書見 て るのか。 (同 )
(ll) あん た ¢ (‑ )何や って るの
。( 番茶 )
(同 )
5j
以上 は呼 びかけ とも主題提示 と もとれ る悩 ま しい例の ご く一部 であ る。 ‑ の省略 には この種 の ものが非常 に多い。 ‑の省 略の持 つ意 味 の一 つ は この よ うな唆昧化で ある。長谷 川 ( 前掲 )は このよ うな無助詞 による提示 は聞 き手 の注意 を喚起 す るために使 用 され ると して、 これを 「信号性」 と呼 ひ、信号 性 が呼びか けに近接す ること も指摘 してい る。
次 の収集例 は助詞 を復元す るとき‑か ヲ、‑か ガの どち らがいいか迷 うも のであ る。 なか には無助詞 が最 も適切 か もしれ ない と思 われ る もの もあ る。
(1 2) これ ¢ ( ‑/′ ガ)私 の連絡先 です。 ( 熱 中① ) (13) あん たの顔 ¢ ( ハ/ / /ヲ)見た くない。 (同 )
(14)
奥 歯 ¢ ( ‑/ / / ノガ )がたがたの くせ に。 (まかせて )
(15)
ご主 人 ¢ (‑/ /ガ )喜 ばれたん じゃないですか。 (同 ) (16) その心意気 ¢ ( ‑/ ヲ) しか と見 とどけま した
。(同 )
(17
) お宅 の社宅 ¢ ( ‑/ ガ )売 りに出 され ま した。 な くな るんです、
お宅 の社宅 ¢ ( ‑/ /ガ )
。(同 )
(1 8) まる君 ¢ ( ハ/ガ)自身 の ことね、さゆ りさんやみんなに迷惑のか け っぱな しで情 けない って言 ってた。 (同 )
(19) ひ との娘、横取 りしやが って、あの マザ コン男 ¢ (‑/
刀/0)。 ( 番茶 )
(20)
模擬面接 ¢ ( ‑/ ラ)や っとかない と本番で き っと失敗 しちゃう。
( 熱 中② )
(21)
き ょうね、 リレーの練習 で、ま り
¢ (‑/ガ) 、一等 にな ったんだ よ
。 (同 )(22) おかあ ちゃん ¢ ( ‑/ ガ )どう してそんな ものを。 ( 車椅子① ) 助詞 の脱落 と考 え られ る個所 は、録画 を繰 り返 し見 なか ら、文脈 によ って 復元 してい った
。それで もこの よ うに決定困難 な ものが多い。 だが、復元時 の この種 の決定困難 こそ、助詞省略 ない し脱落 の機能 ではあ るまいか。
助詞 の省略 ・脱落 は単 な る言葉 の効率性 、経 済性 のみの問題 ではな く、文
体 によるある種の感情表 出の問題 である。換言すれば、意味 に関わ る問題 で あ る。すなわ ち、間投助詞の使用、終助詞 の使 用、会話 的な文末表現 の使用 とあいま って、助詞 の省略 は助詞使 用による分析性、論理性 を回避 し、発話 の フォーマル度を下 げる役割 を担 い、発話 を情的な ものにす る働 きを もつ と 考 え られ る。
(12)
は‑を使用す ると、 [ あんたの顔ハ] [ 見た くない] と二分 され、‑
使 用によ って、 「 他 で もないあんたの顔 について述べ る」 とな って焦点化 と 暗示的対比が生 じる。 ヲが使用 され ると、二分 され ることな く、 したが って 焦点化や暗示的対比が生 じない。無助詞の場合 は両者の中間的な ものになる。
そ こでは、‑の もつ主題提示 は残 るが、焦点化 の力 は弱 ま り, ヲ使 用の時 と 同様対比の意 味を失 うことになる。 ヲと して見れば ヲに無 い主題提示の機能
と、それに伴 うかすかな焦点化が生 じることになる。 これは
(17)のように省 略 された ものが‑かガか分か りに くい ものの場合 も同様 である。他 に例 を挙 げ ると次 の よ うな ものがある
。(23)
まゆ ¢ (ハ/ ガ)そ っち行 ってない ? ( 夢 )
(24)りえ
¢ (ハ/ ガ)来てます ? (まかせて)
(23)
は電話 で発話 された もの
、 (24)は妻 を訪ねてきた夫の発話 である。
(23)
が もしハであれば [ 他で もない 「まゆ」] について情報を求めるという意 味 にな り、ガであれば [まゆがそ っちへ行 っていること] について情報 を求 めていることになる。
(24)も同様 である。 ¢はその中間 とな り、ガの もつ一 体 と しての情報ではな く、主題性 はあるが、ハが有する焦点形成力は薄 らぎ、
暗示的対比の力は消失す るといえ る。一方 ガの方か ら見れば、ガの もつ選択 特定 の機能 が うす らぐことになる。台詞 と して発話 された上 の例 は、いずれ もポーズがあ るようで無 いよ うで どち らとも決めかね る ものであ った。 これ らの例 に見 られ る無助詞 は、復元可能性 を もつ 2 つの助詞 の各機能 の融合作 用を果 た し、多少の唆味化の効果 を もた らしているともいえ る。 このような 論理性 、分析性 の回避 によるい くぶんの唆昧化 は、‑の省略だけに限 らず、
他 の助詞 の省略 に もある程度該 当す ると考え られ る。
無助詞 の一 つの機能 と考え られ る唆昧化 は‑ に関 して次 のような例 に一層 よ く現れてい る。
(25)
おれ ¢ ( ?ハ
/0)、 うま くいえないんです けど
。( 車椅子①)
( 26) 僕 ¢ (?ハ/ 0)、 もう一つ回んな くちゃ。 (まかせて)
長崎大学留学生セ ンター紀要 第6
号
1998年 55 (25)(26)の 「おれ
」「ぼ く」は独 り言 のような感 じで発話 され、 しか もそこ には ¢による主題提示 の機能 も充分 に感 じられ る ものであ る
。6.
肋詞 ヲ、ガ、二の省略
日本語 は古代 か ら現代 へ と下 るにつれて、述部 中心 の情意 的表現 か ら、論 理 的分析 的表現 へ と変化 し、格助詞 が発達 した といわれてい る
4㌦ したが っ
て、現代語 における助詞 の省略 ない し無助詞 が たんな る先祖返 りであ るとは 考 え に く
い 5‑。 そ こには何 らかの意 味かあ るはず であ る.
助詞 の省 略 は言 うまで もな くそれを省略 して も意味関係 が損 なわれない こ とを前提 に してい る。格助詞 は格関係 を示す ことによ って文 や句 の意 味関係 の成立 に参与 す る ものであ る。 したが って、省 略が許 され るのは、格 関係 が 損 なわれない場合 のみであ ることは 自明である。 どの よ うな場合 に格助詞 が 省略 で き、 どの よ うな条件下 で省略で きないのであろ うか。換言 すれ ば、格 助詞 の省略 と格 関係 の成立 との間 に どの よ うな相関関係 があ るのだ ろ うか。
また、代表 的な格助詞 と もいえ る ヲとガを比較 す ると、上記表 1が示す よ う に、 ガの省略 が比較 的 に少 ないのに対 しヲの省 略が圧倒的 に多 いの はなぜで あ ろ うか。格助詞 と して掴 み に くさを有す る二 につ いては どうであ ろ うか。
また、現代語 における格助詞 の省略 が単 な る先祖返 りでない とすれ ば、それ は何 を意 味 してい るのだ ろ うか。
6. 1
助詞 ヲの省略
助詞 ヲは通 常直接 目的語 を示す格助詞 とされ てい る。 「水 ヲ飲 ん だ。」 の よ うな文では、直接 目的語 を表示 していることは疑問の余地 はない。 しか し、
助詞 ヲに も 「部屋 ヲ出 る
。」「 道 ヲ渡 る
。」「公園 ヲ散歩 す る
。」「烏が空 ヲ飛んでい る。」 の よ うに機能 を異 にす る ものがあ る。
仁 田
(1993)は文の中核 は述語 であることを前提 と して、動詞述語 に支配 さ れ る従要素 を、動詞 が文 を生成す る際 に必須的 ・選択 的 に要求す る成分 であ る ( 共演成分) と、動詞 の表す働 き ・状態 ・関係 の実現 ・完成 に とって非必 須 ・付加 的 な ( 付加成分) とに二分 して格 を規 定 しようとす る。 さ らに、共 演成分の中に も動詞か らの必須度 ・要求度の違 いに応 じて、 ( 主要共演成分) と ( 副次 的共 演成分) とい うタイプの異 な りが あ り、 しか も、共演成分 と付 加成分 との間 には連続 が あ って、違 いが裁然 と しない ところがあ ると して、
格規定 の難 しさを述 べてい る
6、。
主要共演成分 と副次 的共演成分 の違 いの微妙 さの例 と して、仁 田は ヲに関 して、次 の ものを挙 げている。 「子供 たちが吊 り橋 ヲ渡 った。」 と 「 子供 た ちが運動場 ヲ走 ってい る。」の ヲである。 これは ともに経過域 を表す点では 同 じであるが、前者 は 「 子供 たちが渡 った」では意味的 に不充足感 があるの に対 し、後者 は 「 子供 たちが走 っている」で充足 しているので必須度 の関係 において、前者 の ヲは主要共演成分をマー ク し、後者 の ヲは副次 的共演成分 をマー ク していると考 えている。
一方、城 田
(1993)は 日本語の格助詞 には
「1つのフォームに多数の意味 ・ 機能 が混在 している」 という複雑 さがあ り、その複雑 さを解 きほ ぐすために、
助詞の機能を分 けることを提唱 している
7) 。その うえで格助詞 ヲを次 のように
1次機能 と
2次機能 に分類す る。
1次機能 は他動詞 の 目的 とい うゆるい限定 の もとに直接補語 と しての名詞 をマー クす る ヲである。城 田は これを意味論 的意味を持 たず、文論 的機能 だけを有す るので文法格助詞 と してい る
0 2次 機能 は動詞 もそれ と共起する名詞 も意味論的に強い規定を うけるものである。
これ に属す るのは 「家 ヲ出ル」や 「道 ヲ行 ク」 のように起点や道筋 な どを表 わ して用言 を修飾す る ヲで、 これを副詞格 と している。
このような機能を持つ格助詞 ヲは会話 においてどのような場合 に省略でき、
どのような場合 に省略 できないのであろうか。実例 に当た りなが ら検証 して み よう。 ヲ省略の実例 の一部 に次 のよ うな ものがあ った。
(1 ) 早速、名前
¢ (ヲ)考えな くちゃな。 (まかせて)
(2)
これ ¢ (ヲ)貸 して くれない。 (同) (3) め し
¢ (ヲ) くって もいいかな。 (同)
(4)
電話 ¢ (ヲ) くれ るって言 ってたんだけど。 ( 車椅子② ) (5) おや じの仕事
¢ (ヲ)手伝 いたいん だ。 ( 番茶)
上記 ( 1 )か ら ( 5) はいずれ も‑の復元は無理である。 これ らの例を見て言える ことが
2つあ る。
1つは構文論 の面で ヲの省略が動詞 の直前で行 われている ことである
。他の
1つは、意味論 的な もので、文頭 ない し文頭近 くで ヲの省 略が行 われ るとヲでマー クされ るはずであ った ものにかすかな提題性す なわ ち主題提示 の影が感 じられ るようになることである。
目的語 と動詞 との間に他の要素 が割 り込 んで きた場合 は どうであろうか。
( 6) そ うい う生 き方
¢ (ラ)一度 は してみたいの よ。 ( 車椅子②)
( 7) 仕事
ゅ (ヲ) 山ほど抱 えて。 ( 番茶)
長 崎大学留学生 セ ンタ‑紀要 第
6号 1998年
57( 8) 今で もね、あなたの こと ¢ ( ヲ)娘 の ように思 って るの よ。 (同)
(9)お尻 ¢ ( ヲ) ぴ しゃぴ しゃとや られ るの。 (同)
いずれ も副詞 ない し短 い副詞句が名詞 と述語 の間 に介在 してい るが、 ヲ省 略 に とって何 も問題無 い。 この場合 も文頭付近 に ヲでマー クされ るはずの語 句 があ ると、 その語句がかすか に主題性 を帯 びていること も変 わ らない。
文 中深 い位置 の場合 は どうであろ うか。
(10) こないだおまえ、なんであんな こと ¢ ( ラ)言 ったんだ、かず と石 塚君 の こと。 ( 車椅子② )
(ll ) あんな嬉 しそ うな母 さんの顔
¢ (ラ)見てた ら、もも
¢ (ラ)取 り あげ る気 になれ ないの よ。 ( 熱 中② )
これ もヲの省略に問題 はなさそうである。 ヲ省略の場合 の主題性 については とうであろ うか。 いずれ もハ復元 の可能性 はない ところである。 この よ うに 明 らか に ヲが省略 された と考 え られ るところで も、 もし¢にポーズを置 けば 程度 の差 こそあれ主題性 が感 じられ るのではあ るまいか
。( ll )は さらに興味深い問題 を提供 している。複文の従属節 におけるヲ省略の 問題 であ る。前 の ヲは条件節、後 の ヲは連体 節 で省略が な されてい る。 この ことか ら、助詞 ヲは複文 の従属節 において も省略で きる と考 えて よ さそ うで あ る。下 の例
(12)が これ を裏付 けて くれ る。
(12) 母 さんガもも¢ (ヲ)あや しているときの顔
¢(ヲ)見たこと
¢(ガ) ある ? ( 熱 中② )
前 の ヲは連体節 のなかで省略 されてい る。 この ように ヲ省略 は構文的 にほ とん ど制約 を受 けない といえそ うである
。(12)の例 は助詞 ヲとガ省略の優先順 位 を示 して もい る。 ガが残 り、
2つの ヲが消 え、後方 の (ガ)が省 略 されて い ることは ヲとガを省略す る場合 、それ ぞれの動詞 に近 い ものが優 先的 に省 略 され ること、 したが ってガよ りも述語 に近 い ヲのほ うが省略 され やす い こ
とを物語 ってい る。
以上 の ことか ら助詞 ヲは、動詞 か らさほど離 れていない限 り主文 の中であ れ、従属節 の中であれ省略可能 で あるといえ る。では、動詞 か ら多少 の隔 た
りがあ る時 は どうだろ うか。
(13)
aきの う駅 で会 ったイギ リス人、 日本語
¢ (ヲ) 日本人 みたいに ベ ラベ ラ話 したよ。
b きの う駅 で会 ったイギ リス人、 日本人みたいにベ ラベ ラ日本語
¢ (ヲ)話 したよ
。上 の例 では文 と しては bの方が 自然 であるが
、aにおけるヲ省略 も不 自然 な感 じを与 えない。 したが って助詞 ヲは格関係 が損 なわれない限 り動詞 とヲ でマー クす るはずの名詞 との間に多少長 い語句 が介在 して も省略で きると言 えそ うであ る。
ヲ省略の許容度 は高 い といえそ うであるが、仁 田 ( 前掲 )で経過域 を表す ヲの うちの副次的共演成分 とされた次 の
(14)の ヲ、城 田 ( 前掲)で ヲの
2次機 能 、副詞格 とされた (1 5) 道筋の ヲ 、(16) 起点の ヲは省略 にな じむだろ うか。
(14) 子供 たち、運動場
¢ (ヲ)走 って るよ。
(15) 駅 へはどの道 ¢ (ヲ)行 った ら一番早 いだろうか。
(16) 今 日は何時 に家
¢ (ラ) 出たの。
いずれ も省略 して何 ら不都合 はない。 このよ うに、助詞 ヲはかな り自由に 省 略を許す といえ る。 これは述語動詞 とヲでマー クされ るもの ( 大半が 目的 語 であるが、城 田の副詞格 において も同 じ) との共起制限が強 く、 ヲを省略 して も紛 れが生 じに くいか らと考え られ る。 このように ヲが省略 にな じみや す い ことは、表
1に見 られ るように助詞‑同様 、あるいはハ以上 に ヲの省略 が多 い ことに も窺 え る。
6.2
助詞ガの省略
野 田
(1996)は、助詞 ガの機能を 「 基本的には文の主題 にな っていない主格 を表す助詞 だが、場合 によっては、単 にそれだけでな く、排他的な意味が強 く感 じられ ることがある」 と してい る。 ここでい う排他的な意味 とは、
「〜ガいちばん ・・・・
・」「〜のほうガ ・・・・・」 に典型的に表れ るガで、
「こうであ るのは これだけであ り、 ほかの ものは該当 しない」 とい うような 意味 としている。筆者 は前 田
(1996)で、 日本語 にヨーロッパ型言語 にある主 語 は存在 しない ことを前提 に、ガの主 な機能 は述語 の主体 ない しそれ に準ず る ものの選択 的特定、明瞭化 であ り、主格 は述語の補語 と して本来存在 して い るのだか ら、 ガはその ような主格 を特定 し、明瞭化す る並助 をす るにす ぎ ない と した。すなわ ち、 ガは本来選択、特定の機能 を もつ もので、比較 の よ うに選択特定 の対象が明示的に限定 され るときはこの機能 が強 く前面 に現れ ると考 えてい る
。筆者 の論 であれば、 「ここに赤 いペ ン
¢ (ガ)あるよ
。」や 「きの う久 し
ぶ りに山田 ¢ (ガ) うちに来 たよ。」のような通常 の主格提示 のガは省略 に
長崎大学留学生セ ンター紀要 第6
号
1998年 59な じみ やす く、 「野球 よ りサ ッカーの ほ うガ (* ¢) お も しろい。 」 の よ う に強 い選択 特 定作 用 とい う機能 を担 わ され た ガ は省 略 しに くい こ とが予想 さ れ る。次 の (1) 、 (2) も筆 者 が ガの強 い特 定機能 と した もの で あ る。
(1 ) 釣 りは海 で ガ ( *¢) お も しろい。
( 2) 招 待 客 は福 岡 か らガ
(¢ )まだ来 て いない。
と もに ガを省 略す る と不適 格 な文 にな って しま うか、強 い選 択 ・特 定 の意 味 が消失 して しま うことにな る。 ガの在 る無 しに よ って意 味 の相違 が生 じて くるの で、 この種 の ガは省 略 で きに くい とい う予想 の正 しさが証 明 され る。
こ こで ガ省 略 の実 際 を見 てみ よ う
。(3)
や ぎ した は るお、 や ぎ した あや
¢ (ガ)涙 を こ らえ て歌 い ます 。 (まか せ て )
(4) お まえ ¢ (ガ )か けよ。 ( 熱 中① )
(5) ち ょっと調整 ¢ ( ガ)狂 った け ど、うま く取 り戻 せ た言 って たか ら。
( 車椅子② )
(6) トイ レの ドア ¢ (ガ)開 か な い。 ( 番茶 ) (7) お しっこ
¢ (ガ)で きな い よ。 (同)
以 上 の例 か ら
2つ の こ とが言 え よ う
。1つ はガが マー クす る名詞 が述語 の直 前 か近 くにあ って、省 略 して も格 関 係 に紛 れ が ない場合省 略 が行 わ れ て い る
こ とであ る。他 の
1つ は意 味論上 の問題 であ る。文頭近 くでガの省略 が行 われ る と、 多少 ‑省 略 の持 つ主題 性 、す なわ ち、 そ の語 に聞 き手 の関心 を向 けた い とい う心理 が感 じられ る ことで あ る
。(4)の ガは野 田 ( 前 掲 )で は排 他 の範 噂 に入 る と思 われ るが 、筆者 は ガが本質 的 に有 す る選択 ・特 定機 能 が や や強 く出現 した もの と捉 えて い る。 その よ うな ガが省 略 され た ( 4) で さえ‑省 暗 の 場 合 同様 多少 呼 びか けの感 じもはい り、ガ本来 の意 味 がや や薄 め られ て い る。
この よ うに ガの省 略 にお いて も‑省 略 との融 合 や多少 の唆 昧化 が生 じて い る といえ る。 ‑省 略 の項 で述 べ た よ うに、復 元 時 に‑ の省 略 か ガの省 略 か分 か りに くい ものが 多 いの は ここに起 因す る と考 え られ る。 次 の よ うな例 が その 典 型 といえ よ う。
(8) おや じとおふ くろ
¢ (‑ / ガ) もう車 で待 って るよ。 ( 番 茶 ) これ は文脈 を考慮 して もどち らと も決 めかね た ものであ る。 ‑が使 われ ると
[
「おや じとおふ くろ」 につ いて] の情報 を伝 え る ことにな り、 ガであれ ば、
[ おや じとおふ くろが もう車 で待 って い る こと] を
1つ の情報 と して伝 え よ
うと してい る ことにな る。 ¢の場合 、両者 の中間的な意 味 になる と考 え られ る。
さらに この種 の唆 昧化 が進 む と次 の よ うに無助詞 とガの混交 と もとれ る現 象 が生 じる。
(9)
あの、おれ
¢ (ガ
/ 0)お くりま しょうか。 ( 車椅子① )
文頭 の 「あの」 で、ため らいの気持 ちが表現 され、 さらに ¢の部 分 にガを 使 用 しない ことで唆昧化 を図 り、唆味 にす ることによ って押 し付 けが ま しさ を避 けよ うとい う発話者 の配慮 が表現 され る。長谷川 ( 前掲 )でい う無助詞 の 「やわ らげ」機能 であ る。
次 に構文 的 な省 略可能性 をみ ることに しよ う。 まず、文 の後方 での省 略 を み ることに しよ う。
(10) 今 まゆみか ら電話
¢ (ガ) あ った よ。 ( 夢 )
(ll
) じゃあね、 もうす ぐ飛行機
¢ (ガ)出 るか ら。 (同)
(12) 結婚式 出なか った ら、あ っちゃん
¢ (ガ)かわいそ う じゃないの。
( 番茶)
(13) おれだ って、 はめて もらうこと
¢ (ガ) あ るよ。 (同) (14) 母 さんが ももあや して る ときの顔見 た こと
¢ (ガ) あ る ?
( 熱 中②)
上 の例か らガの省略は文頭近 くにあ るか文尾近 くにあるか とい う文 中での位 置 には関係 ない といえ る。次 の よ うに倒置 されて文尾 でガの省略が行 われて い る例 もあ る。
(15) 気 に入 って るんです よ、 ここ
¢ (ガ)
。( 車椅子② ) 複文 の従属節 で は どうだろ うか。
(16) 言 いたい こと¢ (ガ)あ るんな ら、言 ってみればいい じゃないか。
( 熱 中① )
(17)
夫婦
¢ (ガ)うま くや っていこうと思 った ら、お しゅうとめ さん と 仲良 くす るのか一 番大事 だ し、 ( 番茶)
(18) その椅子 にあー ちゃんの姿 ¢ (ガ) な くな ると思 うとさ。 ( 番茶) 条件節
(16)や引用の名詞節
(17)(18)でガの省略 は何 も問題 ない といえ る。
ガ省略 は全般 に少 なか ったが、 なかで も連体節 ( 形容詞節) 中の ガ省 略 の実 例 を拾 うことはで きなか った。 ここで連体節 で ガの省 略が認 め られ るか検討
してみ よ う
。長崎大学留学生セ ンター紀要 第6号 1998年 61 (19)
先週 山本 ガ
(*¢)食 べ た レス トラ ンとて も高 か ったん だ って。
(20)
きの う山本 ガ
(*¢)ケーキ買 った店 とて もおい しい って評 判 なん だ よ。
(2
1)きの う友達 ガ
(?¢)行 った店安 くなか った そ うだ よ。
連体節 におけ るガの省略 は極 めて困難 ない し不可能 といえそ うな例であ る
。上 の
3例 と も一 見述語 の直前 にあ って格 関係 に紛 れが少 な く、省 略 で きそ う
で あ る
。と ころが、 そ うな らないの は どう して だ ろ うか。 おそ ら くこれ は節 を越 えて支配 力 を及ぼす ハを省略 した場合 との混 同を避 けたい とい う意識 が 働 くためで はあ るまいか。 ガの影響 力 は小 さ く、節 内で消滅 す るの に対 し、
‑ は節 を越 え て述語 まで支配 力 を及 ぼ し、
(19)で は、 [ 山本高 か ったん だ っ て]
(20)で は [ 山本評判 なん だ よ] とな りかね ないか らで あ る。
動詞述語文 の連体節 におけるガ省略 の難 しさに対 し、形容詞 ( /形容動詞 ) 述語 文 の場 合 、省 略 は不 自然 でな くな る。
(22)
魚料理 ¢ (ガ ) うまい店知 らないか。
(23) 足 ¢ ( ガ )す ご く丈夫 なやつ しか そんな距離歩 けない よ。
形 容詞 、形 容動詞 が述 語 の場合 、動詞述語文 の場合 と違 って、 ガに よ って マ ‑ クされ る もの との共 起制 限が強 く、 それだ け他 の助詞 省略 との紛 れが少 ないか らと考 え られ る 。 ( 22) の連体節 であれば、 「魚料理] と 「うまい」の間 に‑ の混 入 を許 さない ほ ど、述語 「うま
い」 が ガでマー ク して要 求す る もの との共起制 限 が強 い といえ る
。この よ うな共起 制 限の強 さと助詞省 略 の容 易 さの関係 は次 の よ うに、動詞 が多少形容詞 的性 格 を帯 び る可能動詞 の場合 に も現 れ て くる。
(24) この中 に英語 ¢ ( ガ )話 せ る もの何 人 い るだ ろ うか。
(25)
このへんで きれ いな海 ¢ ( ガ)見 え る とこ知 って るよ。
上記 ( 24) の例 は ヲの省 略 と して も構 わない。省略が ガで あ るか ヲで あ るか 迷 う所 は、 ガか‑かで迷 うときの よ うな複雑 な問題 は含 ん でいない。以下 の ガない しヲ省 略 の実例 で は可能 の意 味 が入 る場 合 か、受 け身 また は動 詞 に タ イか付 く場合 のようにガ とヲの両者 を とる可能性 があるときに限 られていた。
( 26) そん な ことよ り、走 るの ¢ ( ガ/ ヲ) 速 くな りたいよ。 ( 熱 中 ② )
(27)
おれ、首 にな ったんだ よ。 そんな もん (ガ/ ヲ)受 け取 れ るか よ
。(夢 )
(28)
このお金 ¢ (ガ/ ヲ)持 ち逃 げ され たんです か。 ( 車椅子① )
以上 の ことか ら、助詞 ガの省略 については以下 のよ うにまとめ られそ うで ある。
① 単文 においては文頭近 くであ って も文尾近 くであ って も、 ガの省略 は 可能 である
。ただ し、単文の文頭近 くでガの省略が行 われた とき、ハ省 略 と区別 しに くくな ることがあ る。 その場合 は‑省略 との融合 に似 た現 象が生 じる。
② 複文 の主節 では文尾近 くで もガの省略が起 こりやすい。
③ 複文 の条件節では述語 か らさほど離 れない限 り、ガの省略 に強 い制限 はない。
④ 複文 の連体節の中では動詞述語文の場合 、省略が難 しく、形容詞 、形 容動詞述語文 においては省略が容易である。
⑤ 比較 のように明示 的な選択特定の対象が考 え られ るときガの省鳴 は不 可能 である。
ガの省略が予想 ほど多 くなか ったのは、前述 のように述語 に近 い ヲの ほ う が省略 されやす く、その分前方 にあるガが残 されやす い こと、上記④、⑤ の ように‑や ヲの省略 に比べて省略 に関す る制限がやや強 い ことのため と考 え られ る。
6. 3
助詞二の省略
助詞 二は捉えかたの難 しい助詞である
。例えば、 「 本 を友達 こ あげた。」
「本 を友達 こ もらった。」では、本 にとって逆方 向の移動 が同 じ助詞二を使 用 して表現 されている
。いわば着点 と起点 とい う相反す る意 味を同 じ助詞 で 表現 してい るわけである。 このように助詞 二は複雑 で、それ ゆえ に 「 格 のゆ
らぎ」 の例 と して よ く取 り上 げ られている
8)0
この もつ捉え ところのな さはこの省略に も反映 され るのか、省 略 とい う視 点か らも複雑 であ り、収集 で きた省略の実例 も少 ない。 まず、実例 を総 てあ げてみよう。助詞へに置 き換え可能 な ものがあるが ( へ)は略す ことにす る。
(1)
医者 ¢ (ニ)行 けよ、おれ、バ イ トだか ら。 (まかせ て)
(2)ねえ、お風
呂¢ (こ)入 ろ うよ、みんなで。 (同 )
(3)
模擬面接 ¢ (ニ)行 きます。 ( 熱 中②)
(4)