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「ものな ら」 について考 える
増 倉 洋 子
はじめに
1. 日本真吾にお ける条件表現
日常言語の中には、人間の外界 に対す る認識のプロセスを示す様 々な複合 表現が存在する。 その中で も特 に条件表現 (注 1)は身の回 りに生起する外 界の事が らを話者が どう認識 したかを反映する複合表現の一つ として、 もっ
とも頻繁 に使われ、がゆえに注 目に値す るもの といえる。 以下の ものは川端康成 r雪国
」
の一節である。① 「国境の長い トンネルを抜 けると、雪国であった。」 これ を試みに別種の条件表現 を用いて書 き直 してみる。
(む 「国境の長い トンネルを抜けた ら、雪国であった。」
(参の表現は もちろん 日本語 として間違った ものではない。 しか し読者が文か ら受ける印象は、かな り違 った ものになるであろう。 (参の場合、読者は トン ネルを通 り、そ こに雪国を見る語 り手の体験的視線 を感 じるであろう。 それ
と比べ て① の場合、その ような語 り手の存在は意識 されない。この文では、
あたか も眼前 に広が る風景の展開が カメラレンズの 目を通 して見るように追 体験 される。語 り手の存在 は展開す る風景の後方に押 しや られて しまう。読 者 に印象付 けられるのは、 トンネルを抜 けるとともに眼前 に広がる雪国の風 景である。
「
〜た ら」ではな く、「
〜と」 を用いた場合 にのみ、 この ような表現 上 の 効果 を生むことがで きるのはどうしてであろうか。 これは「
〜と」 を用いた 条件表現の持つ性質によるところが大 きい。「春が来る と、花 が咲 く。 」 「梅
雨 になると、雨が降る。」の文 に見 られるような「
〜 と」条件表現は、前件 ・ 後件の因果関係 に対 して主体の主観的な認識 ・判断が投影 されていない。つま り
、「
〜 と」 を用いた条件表現の機能は、前件 (注2
) と後件 の因果 関係 が表現主体の判断か ら独立 して、よ り客観的に成立す ると認識された場合に、多 く用い られる ものである。r雪国」の文 に見 られた外界 の客観描写 の よう な表現効果は、 この ような
「
〜 と」 を用いた条件文の機能によって生み出された もの と言えるのではないか。
次 に
「
〜なら」 を用いた条件表現 をみる。(卦 「きたな くなった年数の多い者 を先輩 と呼ぶならば、私 はた しかにあなた よ り先輩で しょう
。 」 ( 夏 目淑石 ・ r
こころ」 )
(む 「一一もし本当にあなたのいのちより他の人間のいのちが大切だ と思って たのなら、それだけの手だてをとるべ きではなかったのか
。
」(大江健三郎 ・ r救い主が殴 られるまでJ)
この二つの文が明 らかに
「
〜 と」 を用いた条件文 と違 うのは、まず後件 に 話者の意志表現が きているとい うことであろう。 (参に関 しては娩曲な断定表 現 ・④ に関 しては勧告の表現 をとっている。 この意志 ・意向の前提 となるも のは、前件 に述べ られている。 ③では 「きたな くなった年数の多い ものを先 輩 と呼ぶ」 こと、(彰では 「本当にあなたのいのちよ り他の人の命がたいせつ だ と思 っていた」 ことである。 この判断を前提 として話者 は後件の結論 を導 き出 している。 しか しこの前件の判断は話者 自らが下 した ものなのであろう か。答 は否である。
「きたな くなった年数の多い ものを先輩 と呼ぶ」 とい う 判断は、聞 き手あるいは、世間一般の ものであろうし、「あ なた (聞 き手 ) のいのちより他の人の命がたいせつだ」 とい う判断は聞 き手の判断である。 話者は自己の判断の不在 なままに、聞 き手の判断を前提 にして自己の意向を 述べているといえる。このことを話者の認識 とい う点か ら捉 え直す と、 どうい うことになるので あろう。話者 は、後件 を述べ るに際 しての基準 ・前提 となる外界の認識 を自 らの責任で行 っていない。つ ま り聞 き手の認識に基づき ・聞き手の判断に依っ て自己の意向を述べている。 「〜なら」 を用いた条件表現 は、以上のような 表現機能をもつ ものである。
最後 に 「〜たら
」
「〜ば」 による条件表現 を考えてみる。(9 「現地に着いた ら、連絡 します.」 (む 「現地に着けば、連絡 します。」
この二つ を述べ るときの話者の状況認識の違いはいかなるものであろうか。
まず、⑤の
「
〜たら」 を用いた条件形式の場合、話者は現地に着 くことをあ る程度確信 していることが伺 える。英語 に訳せ ば [whe n]
が使 えそ うな状 況の もとでの発言であろう.それに対 して(むの場合 は現地に着 くことに対 し てそのような確信 をもっていない。何かの事情で 「着 くか着かないか」が危長崎大学外 国人留学生指導セ ンター紀要 第
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年1 2 1
ぶ まれるとい う仮定の もとでの発言であろう。2
.条件表現習得の困難 さ以上のように日本語 における条件表現 は、話者が状況 をどの ように認識 ・ 判断す るかによって他の言語 には見 られない、多様 な類義表現 を有す る。 今
まで見て きたように、条件表現の前件 を表す節が
「
〜と」「
〜なら」「
〜ば」「
〜た ら」のように多様 な形式で表 され、 しか もこれ らの形式 の間 には、 ど れを用いて も大差のない もの、別の表現 を使 うと誤用 になる もの等、微妙 な 使い分けが存在する。このような実態 を有する条件表現の習得は外国人学習 者 によって容易 なものではない。以下 に中国語 との比較 を用いて実態 を述べ てみる。 中島悦子 (注3
)は、川端康成 r雪国」を用いた「
〜 と」 を中心 とした 日中条件表現の対称研究の中で以下のような事例 を挙げている。
・(
②
(
③
(
・(
・「温泉場 に下 りて くると、芸者 を呼 んで くれ と言 った
。 」
I
r‑到温泉浴場、就譲人去給他叫芸妓。」・「ここへ来ると、急 に酔いが出る。」
・
「‑来到逆里 就酔了。」・「女 はふいにあちらを向 くと、杉林の中にゆっ くりはいった。」
・
「女子突然転辻身子、慢歩走逆杉村仇中」・「書 き出せば どうして も長 くなることがある
。 」
・
「‑下篭就写的根長」① ・② ・③ の事例 を見 ると、同 じように、人物の連続的動作 を表す ような
「
〜 と」の事例 において も、対応す る中国語表現が異な ってい る こ とに気づ く。逆か ら考えると中国語 においては異 なる表現 に対 して、 日本語では同 じ「
〜と」条件形式 を用いることを意味する。④ の場合 も併せて考えると事態は もっと複雑 になる。 日本語では
「
〜ば」であ り
、「
〜と」 とは違 う表現形式 に関 して も中国語では 「‑ 〜就 」 とい う 同一の表現形式で表す とい うことである。 見方 をかえれば、 「‑ 〜就」 とい うひ とつの表現形式 を、ある場合 には「
〜 と」 の条件形式 に、あ る場合 は「
〜ば」の条件形式 に使いわけなければならない ようである。他の言語 を母語 とす る学習者が 日本語条件表現 を習得する際の困難の一端 が伺 える。
以上の ような背景の もとに条件表現の研究 は日本語教育の分野で も盛 んに
論 じられてきた。
「ものなら」に関する拙稿は、その条件表現
「
〜のなら ・〜なら」
と「 〜
なら」 を含む文中表現
「
〜 ものなら」の関係 を探 り、併せて 「ものなら」 を 使用する際の話者の状況認識の実態 を明 らかにしようとするものである。Ⅰ.
「ものな ら」 をめぐる問題意識<接続助詞 > 1形式名詞 「もの」 に指定の助動詞 「だ」の仮定形 「なら」
がついて一語の助詞化 した もの【
① 1意志 ・推量 を表す助動詞 「う
」
「よう」の連体形につ く。rそれがひと たび成立すると、ことの成 り行 きが大変なことになる。そういう仮定条件 を表すのに用いる。 もし万一、〜ならば② 1原則 として可能を表す動詞あるいは助動詞の連体形につ くt順接 の仮 定条件 を表すのに用いる。多 く不可能であると思われるような条件 を示す
ときに用いる。r学研国語大辞典」
① 「う ・よう」形について、それが きっかけでな りゆきが大変なことにな る、 という仮定の順接条件
②実現が難 しい事が らを仮定 した順凄条件 r新明解国語辞典」
(∋仮 にある事が らを言って、本当にそうなれば、その結果はよくないこと になるとい うような二つの文 を結ぶ。
②
「
〜で きる」 とい う可能の言葉について、「で きない と思 うが、 したけ れば してみなさい」 という意味を表す。r
基本語用例辞典J上記の ものは、主な辞書の中にみ られる 「ものなら」の説明である
。
「の」も 「もの」 も同 じく形式名詞の働 きをする品詞であるにも関わ らず、 「もの なら
」
は、前件に動詞の 「う ・よう」
形 ・可能の表現 を用いるとい うような 制約 をもち、且つ文全体が表現で きるニュアンス も限定 された もの となって いる。
「のなら」
と 「ものなら」 には、なぜ このような形式上 ・表現上 の違 いが生 じるのであろうか。両者の比較 を試みる中で、「ものな ら」
と 「のな ら ・なら」 との関係 を探 り、併せて上記辞書記述 にあるような表現上のニュ アンスがなぜ生ずるかについて、考察 してみようと思 う。(以下、辞書中の(丑の説明に該当するものをモノナラ文① と呼び、辞書中の
②の説明に該当するものをモノナラ文⑧ と呼ぶ。また、辞書の記述 にはない ものであるが、動詞の 「う ・よう」形及び可能表現以外の形に付 く 「ものな
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年1 23 ら」 をモ ノナラ文③ と呼ぶ。そ して、条件文 を形成す る 「な ら」 をナ ラ文、
「の な ら」 をノナラ文 と記述す る。)
Ⅱ. モノナ ラ文( かに関 して 1 .用例 ( 注 4)
( D 「官員 の口て ツた ッてチ ョックラチ ョイ ッ ト有 りや よ し無 か らうものな ら また何 時かのや うな憂 い思 ひを しな くッちゃアな らないヤネ 。 」
( 二葉亭四迷 ・r 浮雲 」)
② 「一一阿父の前 で這慶事 一寸 で も言 は うものな ら それ こそ甚塵 に叱 ら れ るか しれ ませ しねえが、黙 って居 て下せ えま し。 」
( 川上眉 山 ・ r 観音岩 J)
③ 「ポチが捉 とを追 う。 うッか り出 ようものな ら、何処迄 も何処迄 も随 いて きて逐 ったって如何 した って帰 らない 。 」
( 学研 国語大辞典 ・二葉亭 四迷 r 平凡 」)
④ 「しか も吾輩 の ほ うで少 しで も手 出 しを しようもの な ら家 内絵がか りで追 い回 して迫害 を加 える。 」 ( 夏 目軟石 ・ r 吾輩 は猫 であ る 」)
⑤ 「みだ りに我物 と心得 て、私用 に費そ うものな ら、いつか 「 天道」 に壮 れ 聞 こえる時が くる 。 」 ( 現代 国語例解辞典 島崎藤村 ・r 夜 明 け前 」 )
⑥ 「このあいだ こ しらえた旦那様 の外套 で もとられ よう ものな ら、それ こそ 騒 ぎで ござい ま したね 。 」 ( 夏 目軟石 ・r門 J )
⑦ 「その話 も、 もっ ともな ことだ し、 うっか りことわろ うもの な ら相手 をお こらして しまいそ うな意気 ごみ なので、北見 のお じさんはこころ よ く、そ の厚意 を うけ とったのであ った。 」
( r 現代語 の助詞 ・助動詞 一用例 と実例
j昭和 2 4・ 1 2 r 少女 クラ ブJ)
⑧ 「うちの子供が外へ 出て、下 の階級 の言葉 を覚 えて来 ようもの な ら、お母 さんが喧 しく訂正 してい る。 」
( 「 現代語 の助詞 ・助動詞 一用例 と実例
」昭和 2 4・ 1 2 r 文芸春秋 」)
⑨ 「うっか り克己 さんに口 を きこう ものな ら後で梅 ちゃんにひ どい 目に逢 う か ら、気 を付 けな さい よ。 」
( r 現代語 の助詞 ・助動詞 一用例 と実例
」昭和 2 5・ 2 r 主婦 と生活 ])
⑬ 「あなたが若 し、彼 らに向 って、新 しい戦争 のお こる可 能性 で も語 りで も
しようもの な ら、あなたの 目玉 を呉れんず勢 いでい き り立つ のですか ら、
不 思議です 。 」 (r 現代語の助詞 ・助動詞 一用例 と実例
」昭和 2 5・ 2 r 新潮 」 )
⑪ 「電車 の二停留所 もあろうものな ら、 まず 「 お車 」 」
( 婦人朝 日 昭和 3 1・ 1 2 「 現代雑誌九十種 の用語用字
(3)J)⑲小 さい路地 まで草が遠慮 もな くはいって くるのだか ら、小説 の ことな ど考 えて歩いてい ようものな ら、事故 をお こして しまう。 」
(大原富枝
・ r 柊 の花 J)
⑬ 「‑一地方か ら東京 の私大へ入 れて下宿 させ ようものな ら、大学 の 4 年 間 だけで 8 0 0 万 円か ら 9 0 0 万 円かか る 。 」 ( 1 9 8 5・ 4・ 3 0 r 朝 日新 聞
J天声人語 )
⑭ 「そんな事 を言お うものな ら、 ひ ど くお こるだろう 。 」 (r 岩波 国語辞典 J )
⑮ 「それ を、言お うものな ら、事 だ 。 」 ( r日本語大辞典 J )
⑲ 「そんな ことを しようものな ら、たいへ んだ 。 」 ( r 基本語用例辞典 J )
⑫ 「うそ をつ こうものな ら、二度 と口をきかない 。 」
(同上 )⑲ 「わた しにだ まって、か ってなことを しようもんな ら決 してゆる しませ ん
よ 。 」
(同上 )⑲ 「だ まそ うものな ら、ただで はおかない 。 」 ( 「 詳解 国語辞典 」 )
㊨ 「雨がふ ろ うものな ら、一面水 びた しになる 。 」 ( 「 現代 国語例解辞典 J )
2. 用例 に見 られるモノナ ラ文( むの特徴
(1)前件 に見 られ る特徴
例示 の 「で も 」 「な ど 」 との共起 文例( 宣× 互X亘溜 ⑳ ・五例
(2)後件 に見 られ る特徴
A. 予想 される事態の描写 と思 われる もの
② 「どんなに叱 られるか しれ ませ んがねえ」
( 参 「 何処 まで も何処 まで も随いて きて‑1」
④ 「 家 内総がか りで追い回 して迫害 を加 える。 」 ( 9 「いつか r 天道」 に壮れ聞 こえる時が来 る」
⑥ 「それ こそ騒 ぎで ござい ま した ・」
⑦ 「 相手 をお こ らして しまいそ うな意気 ごみ なので 一一 」
⑧ 「お母 さんが喧 しく訂正 している。 」
⑨ 「 梅 ちゃんにひ どい 目に逢 うか ら気 を付 けな さい よ。 」
⑬ 「あなたの 目玉 を呉 れず勢 いでい きり立つ 一一一。 」
⑪ 「まずお車 」
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⑫ 「事故 を起 こして しまう。」
⑲ 「大学の
4
年間だけで8 0 0
万か ら9 0 0
万かかる。 」
⑯ 「ひどくお こるだろう。」
⑮ 「事だ」
⑯ 「たい‑ んだ。」
⑳
「一面水 びた しになる。」B.
話者の意志 ・意向を表す と思われるもの① 「また何時かのや うな憂い思 ひをしな くッちゃアならないヤネ」
⑰ 「二度 と口をきかない。」 ⑲ 「決 してゆる しませんよ。」
⑲ 「ただではおかない。」
以上のことか ら後件 に くるものは、
A
「予想 される状態」 を述べ る文 と、B 「話者の意志等」 を述べ るものの二つのグループに分けられるようである そ して調べた用例の限 りでは
A
のほうが多い とい うことが言 える。3
.次に 「な ら」
「のな ら」 との関係 を見るために用例 を 「な ら」 と 「の な ら」
で置 き換 えてみた。(∋ 「官員の口て ツた ッてチ ョックラチ ョイット有 りや よし無か らうものな ら (無いなら/無いのなら)また何時かのや うな憂い思 ひを しな くッちゃア ならないヤネ。」
② 「一一阿父の前で這塵な事一寸で も言はうものなら (言 うなら
/
?言 うの なら)それ こそ どんなに叱 られるか しれませ しねえが、黙 って居て下せ え まし。 」
③ 「ポチが限 とを追 う。 うッか り出ようものなら (出るなら
/
?出るのな ら 何処迄 も何処迄 も随いて きて逐 ったって如何 したって帰 らない。」(彰 「しか も吾輩のほうで少 しで も手出 しをしようものなら (するなら
/
?す るのなら)、家内総がか りで追い回 して迫害 を加 える。」⑤ 「みだ りに我物 と心得て、私用 に費そ うものなら (費すなら/ ?費すのな ら)、いつか 「天道」に壮れ聞こえる時が くる。」
⑥ 「このあいだこしらえた旦那様の外套で もとられようもの な ら、 (とられ るな ら
/
?とられるのなら)それこそ騒 ぎでございましたね。」⑦ 「その話 も、 もっ ともなことだ し、 うっか りことわろうものなら (ことわ
るな ら / ?ことわるのな ら)相手 をお こらして しまいそ うな意気 ごみなの で、北見 のお じさんはこころよ くその厚意 をうけ とったのであった。 」
⑧ 「うちの子供が外へ 出て、下の階級 の言葉 を覚 えて来 ようものな ら ( 来 る な ら / ?来 るのな ら) 、お母 さんが喧 しく訂正 している 。 」
⑨ 「うっか り克己 さんにロをきこうものなら (きくな ら / ?きくのな ら)級 で梅 ちゃんにひ どい 目に逢 うか ら、気 を付 けなさい よ。 」
⑳ 「あなたが若 し、彼 らに向って、新 しい戦争のお こる可能性で も語 りで も しようものな ら ( す るなら / ?す るのなら) 、あなたの 目玉 を呉 れ んず勢 いでい きり立つのですか ら不思議です。 」
⑪ 「 電車 の二停留所 もあ ろ う もの な ら (あ るな ら / ?あ るの な ら)、 まず r お 草山
⑲ 「 小 さい路地 まで車が遠慮 もな くはいって くるのだか ら、小説の ことな ど 考 えて歩いてい ようものな ら ( いるな ら/ ?いるのな ら)、事 故 をお こ し て しまう。 」
⑬ 「‑一地方か ら東京の私大‑入れて下宿 させ ようものなら (させるなら/ ? させ るのな ら) 、大学 の
4年間だけで
800万 円か ら
900万円かかる。
⑭ 「そんな事 を言お うものな ら ( 言 うなら/ ?言 うのなら)、 ひ ど くお こる だろう。 」
⑮ 「それ を、言お うものな ら ( 言 うな ら / ?言 うのな ら) 、事 だ。 」
⑯ 「そんなことを しようものな ら ( す るなら / ?す るのなら) 、たいへんだ。 」
⑩ 「うそ をつ こうものな ら、(うそをつ くなら/ うそ をつ くの な ら)二度 と 口をきかない。 」
⑲ 「わた しにだまってかってなことを しょうもんな ら ( す るな ら/す るのな ら)決 してゆる しませ んよ。 」
⑲ 「だまそ うものな ら (だます な ら/ だますのなら) 、ただはおか ない。 」 ( r 詳解 国語辞典J)
㊨ 「 雨がふ ろうものな ら ( ふるなら / ?ふ るのなら)一面水 びた しになる。
( r 現代 国語例解辞典 」)
以上の ようにモノナラ文① は多 くの場合 にナラ文での言い換 えが可能であ るが、ノナラ文での言い換 えは① 夏 場 ⑳ を除いては不 自然 と思 える
。これ ら
4 例 は後件 に話者 の意志 を表す場合であ り、それ以外 の 1 6 例 は予想 される事
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態 を述べ る文であった。検索 された用例の8 0%
以上が、後件で予想 される事 態 を述べ る文であるといえる。この ように 「う ・よう形 +モノナラ」のモノナラ文① には、後件 に 「予想 される事態 を述べ るもの‑
「
「のなら」での言い換 えの困難なもの、・ r
なら」でのみ言い換 え られるもの」、後件 に 「話者の意志等 を表す もの
‑
「のなら ・ならJで言い換 えられるもの」 という対応関係が見 られるようである。
次 に分類 された各々に関 して発話者の視点か ら考察 を加 えてみたい。 (以 下モノナラ文(丑で 「後件 に予想 される事態 を述べ るもの」 を 「モノナラ文① の
a
」、モノナラ文① で 「後件 に話者の意志等 を表す もの をモ ノナ ラ文① のb
と呼ぶ。)まず用例の少 ない 「モノナラ文① の
b」
か ら検討 して行 く。⑫ 「うそをつ こうものな ら、二度 と口をきかない
。 」
⑲ 「わた しにだ まっ てかってなことをしようものな ら、決 してゆる しませんよ」の ような文例の 場合、話者 は現在、個別具体的な状況 に直面 していると考え られる。例 えば⑰ の場合は聞 き手 に嘘 をつかれそ うな気配に、⑲ の場合 は、勝手なことをさ れそ うな事態 に直面 している。 この状況は、あ くまで も実現 されそ うな気配 であ り、実の ところが どうであるかわか らない。 しか し、話者 はこの ように 前件 を仮定 し、 この直面す る状況 に対 して、 どのような意志や判断 をもって 対処するかを述べている。 これが 「モノナラ文①の
b」
である。話者 は現在 の発話時点 にたって、未来に起 こりそ うな事態 を想定 し、それに対する自己 の意志 を述べているといえる。(図示すると以下の ようになる)話者の意志 ・意向の表白 胆 医書
では、「モノナラ文①の
a」
の場合はどうか。この場合 、話者 はその よう な位置にいないと思われる。
「モノナラ文①のa」
の前件 も具体 的に実現 さ れた ものではない。 しか し前件 に くる状況は、話者が直面 している個別具体 的なものではない と思える。た とえば、⑪ 「電車の二停留所 もあろうものならまずお車」の文を例にとれば、前件の二停留所 は二停留所 に限った もので はない。それ ぐらいの距離 とい う意味であろう。話者はここに語 られている 人物が 「その ぐらいの距離のあるときには、いつ もそう言った
」
とい う場面 に何度 も遭遇 しているのであろう。 その蓄積 された経験 をもとに 「前件の状 況のあるときには、多 くの場合、後件の事態 になる」 ということをいってい る。ここでは、前件 と後件の結びつ きは不可分であ り、「前件 の状況 の成立 を前提 として後件の事態が起 こる」
ということを経験的に想定 した文 といえ る。つ まり前件のみを想定する 「モノナラ文①のb」
と違って話者の想定は 文全体 に及んでいる。邑∃岳召
Ⅲ.
モノナラ文②に関 してモノナラ文(参に関 して も、モノナラ文(むと同様 に 「なら」 と 「のなら」で の置 き換 えを試みてみる。(ここでは、用例 と 「なら ・のな ら」 で置 き換 え た用例 を別個 に提示する煩雑 さを避けるために、初めか ら 「なら ・のなら」
で置 き換 えた ものを列挙する。)
1.用例及び 「なら ・のなら
」
での置 き換 え(∋ 「出来るものなら (なら/ ?のなら)三毛の代わ りに一一あの教師の所の 野良が死ぬ とおあつ らえ通 りに参ったんで御座いますがね。」
(学研国語大辞典 ・夏 目軟石 ・r我が輩は猫である
J)
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年1 29 ( 参 「肉体の老いが操作可能 な ものな らば ( 可能 なら/可能なのな ら)精神 の
老いは尚更、 自在 に操作 出来な くてはなるまい と思 う 。 」
( 大原富枝 ・ r 柊 の花 」)
③ 「 女御の君 に、 もしおつかえで きる ものな ら (な ら/のなら)あた し水 く みだって便所掃除だって しますわ 。 」 (田辺聖子 ・ r 源氏物語 ・男 の世界 J )
㊨ 「 行 ける ものな ら (な ら/のなら)行 ってみたい 」 ( r 新明解国語辞典 」 )
( 9 「で きる ものなら (なら/のな ら)私 もアメ リカへついて行 きたいO 」
( r 現代 国語例解辞典 」)
( む 「 やれる ものな ら (な ら/のなら)や ってみろ 。 」( r 現代国語例解辞典 」 )
⑦ 「 信 じられる ものな ら (な ら/のなら) 、信 じたい 。 」 ( r 詳解国語辞典 J )
⑧ 「ひ とりで行 ける ものな ら (なら/のな ら)行 ってみなさい 。 」
( r 基本語用例辞典 」)
⑨ 「 お まえにやれる ものな ら (なら/のな ら)やってみなさい。 」
( r 基本語用例辞典 」)
⑲ 「そんなにた くさん食べ られ るものな ら (な ら/のな ら) 、食べ てごらん
( r 基本語用例辞典 J)
⑪ 「それです ませ られる ものな ら (なら/のな ら) 、事 は簡単 だ 。 」
( r 三省堂国語辞典」)
㊨ 「 誰 しも不幸や苦境 に陥 ることが避け られる ものな ら (な ら/のな ら)避 けたい と思 うだろ う 。 」)
(注5)
㊨ 「 一人で暮 らせ る ものなら (なら/のなら) 、暮 らして ごらん 。」
⑲ 「 子供時代 にかえれる ものな ら (な ら/のな ら) 、 もう一度 か えってみ た い。 」
⑮ 「 逃 げ られる ものな ら (な ら/のなら) 、逃 げてみろ。 」
⑯ 「 私の力で助 け られる ものな ら (な ら/のな ら) 、助 けて もやるのだが。 」
2. 前件 に見 られる特徴
モ ノナラ文① の場合、例示の 「で も 」 「など」等 と共起 す る とい うよ うな 特徴 が見 られたが、モノナラ文② の場合 は際立 った特徴 はない。 」
3 .後件 に見 られる特徴
自分の願望 ・意志 を述べ るもの
「
〜てはなるまい」「
〜たい」「
〜ます。」「
〜てやる」他人に対する要求 ・命令等の働 きかけをするもの
「
〜てみろ」「
〜てみなさい」「
〜てごらん」以上のように、話者が発話する時点で何 らかの情報や発言を受け、それに 対する見解 を述べるもの、また聞き手の行動 を促す働 きかけをするものが大 多数である。そ して大部分の ものが 「なら ・のなら」で置 き換 えることがで
きるといえる。
Ⅳ.
モノナラ文① とモノナラ文②以外の用法モノナラ文 には、辞書 に表記 されている 「う ・よう形+モ ノナラ
」
「可能 の表現 +モノナラ」
の他に以下のような用法 もかな り多 く存在する。① 「くっついて痛がる物なら (なら/のなら)狼の生 まれ変わ りだろう。取 りついて離れねえなら狐 さま
」
(式亭三馬 ・r浮世風呂」 )
② 「耳で きくものなら (なら/のなら)香 をきくといふが能いけれ ど、鼻だ か らか ぐ方がよかろうぜ
。 」
(式亭三馬・
r浮世床」 )
③ 「此場 に成 って然 うとぼけな くッて も宜いぢゃ有 りませんか。寧そ別れる ものなら‑ (なら/のなら)一掃策に一一別れや うじゃ一一一有 りません
か
。 」
(二葉亭四迷・ 「 浮雲 J )
㊨ 「そんなことでいい ものなら (なら/のなら)、だれにで も出来るよ。
(
「岩波国語辞典」)
⑤ 「二三度干物で も遭った ものなら (なら/のなら)、可 ことに して、 まつ はって、か らむ も可けれ ど
」
(日本国語大辞典 ・泉鏡花 r化銀杏」 )
このモノナラ文③ に関 しては、用例で挙げた範囲のすべての ものに付いて ほぼ完全 に 「なら ・のなら」でお きかえることがで きる。
以上めようなモノナラ文① ・モノナラ文② ・モノナラ文③の考察 を通 じて 以下の点 を指摘 してお きたい。
1
.モノナラ文① とモノナラ文②の中には、「のなら」 で置 き換 え られる も の と置 き換 えられない ものが両者 ともに存在する.モノナラ文(釦 こ関 して は、ほほ 「のなら」
に置 き換 えられるとい うことが言える。長崎大学外国人留学生指導セ ンター紀要 第
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号 研究論文編1 9 9 6
年1 3 1 ( 1)
モノナラ文① の中で、後件 に 「予想 され る事態 の描写」 の来 る文 は「のなら」で置 き換 えることが困難である。 後件 に話者 の意志 を表す も のは置 き換 えが可能である。
(2) モノナラ文② は多 くの場合 「のなら」に置 き換 えることが可能である。
(3) モノナラ文③ は、ほぼ全部、「のなら」での置 き換 えが可能 といえる。
2.
「のなら」で置 き換 えられない ものの比率は、モノナ ラ文① のほ うが高 く、モノナラ文② のほうが低い。つま りモノナラ文②の方が より多 く 「のな ら」での置 き換 えが可能である。 以上のことか ら、モノナラ文①の場合、用 法の中心 を占めるのは 「なら」でのみ置 き換 えることので きるものであ り、モノナラ文② の場合は 「なら ・のなら」の双方で置 き換 え可能な用法が中心 的なもの と言えるようである。
最後 にモノナラ文③ の場合 は、すべての場合 に 「のなら」での置 き換 えが 可能であ り 「のなら」 に書 き換 えて も表現上の差異はほとんどない ように思
える
。V.
ノナラに関 してそれでは次 に 「のなら」 に関 して、「のなら」 とは何 なのか。「の」のつか ない単なる 「なら」 との違いはいかなる点にあるのかを考察 してみたい。
両者の違いに対 し、これ までの研究 を整理 し、筆者の立場 を明 らかに しよ うと思 う
。
「なら」 に特徴的なもの としては、1 9 7 3
年 に久野が 「な ら」 に与 えた 「聞 き手の断定」(注6
) とい う性質が挙 げられる。久野 は 「な ら」 の 成立条件 として、後件が話 し手の判断 ・意志 ・決定 ・要求 ・命令 を表す もの であること、話 し手が前件 を、聞 き手 (あるいはの人一般)の断定 として、それに完全 に同意 しないまま (すなわち自分 自身はその成否 に対す る判断を くだきないまま)、提出する ものであることを挙げている。 しか し、すべ て の 「なら」 に同 じひとつの性質があてまるのか という点から研究は進展 した。
これに対 し蓮沼 (注
7
)はナラをⅠ.
前件 に他者の意向 ・主張の関与する 場合 とⅡ.
前件 に他者の意向 ・主張の関与 しない場合に分け、まとめの部分で次のようにのべている。
Ⅰ.ナラは他者 (典型的には聞 き手)の意向 ・主張 と、それを根拠 とする 話 し手の発話意図 との (決断 ・判断 ・要求など)の関係づけを行 うのを
その原形的な用法にもつ。(ナラⅠ)
Ⅱ.
ナラには他者の意向 ・主張が関与 しない用法がある。 (ナラ Ⅱ) これ はある事態の真偽や実現可能性などに関 してとりあえず可能な事態 とし て話 し手が前件 を設定 し、それを土台にして後件 を導 くといった共通の 特徴 をもつ ものである。網浜 (注
8
)もナラとカラに関 しての論を述べるなかで ナラb
‑事態成立の条件ナラC‑話 し手の結論 を導 くための根拠
とナラを二つに分類 している。 ナラ
b
が蓮沼の Ⅱに当た り、ナラCが Ⅰに 当たる見解であろう。また鈴木 (注
9
)も 「ナラ条件文の意味」の中でナラをノナラに置 き換 え られるものだけをナラ条件文 として特立 し、「ナラ条件文の条件旬は、主文のモダリティー対する条件 となるものと、
後旬事態の成立に対する条件になるものとがある。前者が絶対テンスのナ ラ条件文であ り、後者が相対テンスのナラ条件文である。」 としてい る。
主文のモダリティーに対する条件 となるものが蓮沼の Ⅰに該当 し、後旬 事態成立の条件 となるものが Ⅱに該当するであろう。
このような考えは田野村 (注
1 0)
にも共通 している。 田野村は 「なら」 を「実情仮定の ・なら」 と 「状況設定の ・なら」に分類 して以下の ように述べ ている
「実情仮定の ・なら」
「なら」 という言い方事態が、ある実情が どうであるか ということについ ての仮定を表現することを中心的な用法 とするものである。つ まり 「実の ところが〜であれば」 といった意味を表すわけである。このため 「なら」
がそうした意味を表す ときには、「なら
」
と 「のなら」 は結果的にほとん ど同義の表現 になる。「そんなに、気にい らないなら/気 にい らないのなら、よせばいいのに。」
「状況設定の ・なら」
ある事態が実現 した状況を仮 に設定 して、その状況のもとでのことが らを 表現 しているのであって、実のところが現にどうであるのかを問題にして いるのではない。ここでは 「なら」は可能であるが 「のなら
」
とするのは ほとんど不可能である。長崎大学外 国人留学生指導 セ ンター紀要 第
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号 研 究論文編1 9 9 6
年1 3 3
「道 に迷 ったなら/ ?迷 ったのなら、誰かに尋ねなさい
。 」
筆者 も、従来は 「他者の意向 ・主張が関与す る用法」の特徴が強調 された きらいがあった との感想 をもつので、この四者の区分 には賛成である。 また 田野村 は 「実情仮定の ・な ら」 と 「状況設定の ・な ら」 を形の上で も区分 し 前者 をノナラで言い換 えられるもの、後者 を言い換 えられない ものに大別 し た。鈴木 も 「主文のモダリテ一に対 して働 くもの‑ノナラでの置 き換 えが可 能な もの
」
「後句事態成立の条件 となるもの‑ノナラでの置 き換 えの不可 能 な もの」 と田野村 と同様 に形の上での対応 をうちだ している。 しか し、 ここ で鈴木が田野村 と違 う点は、鈴木はノナラで置 き換 えられない ものをナラ条 件文 とは認めていない とい う点にある。 しか し、それでは、ナラ条件文でな い ものが、なぜ ナラ形式の表現 をとるのか とい う疑問は依然 として残 るので 筆者 としては以下、田野村の分類 に沿 って考察 を加 えてみたい。ま と め
1.モノナラ文① に関 して
モ ノナラ文① は 「う ・よう形 +ものなら」 とい う同一の形 をとっているが、
実は後件 に 「予想 される事態の描写」 を述べ るもの と、「話手 の積極 的意志 を述べ るもの」の二つに分類す ることがで きる
。
「予想 され る事態 の描写」を述べ る文の多 くは、「のなら」で置 き換 えることがで きず、「話手の積極的 意志 を述べ るもの」の大部分は 「のなら」で置 き換 えることがで きる、 とい
うことを
P1 2 7
のまとめで指摘 した。モノナラ文① の
a
「予想 される事態の描写」 を述べ る ものは、「先月、生命保険文化セ ンターは、幼稚園か ら大学 まで出す と、
1
人の子 供 に1 0 0 0
万円必要だ と、発表 した。地方か ら東京の私大へ入れて下宿 させ ようものな ら、大学 の
4
年 間だけで、8 0 0
万 か ら9 0 0
万かか る。 」( 8 5:4:3 0
朝 日新 聞
天声人語)の文に見 られるように、「地方か ら東京 の私大‑入 れ て下宿 させ る」
とい う事態 を仮 に設定 して、 この状況の下では 「大学の4
年 間だけで、8 0 0
万か ら9 0 0
万かかる」 とい う必然性 を述べている。 このことか ら、田野村言 うところの 「状況設定の ・なら」、つ まり、 あ る事態 が実現 し た状況 を仮 に設定 して、その状況の もとでの ことが らを問題 に している 「なら」であるといえよう。辞書 にみ られ る 「な りゆ きが大変 な ことにな る」
「結果が よ くないことになる」 とい うニュアンスはこの前件 を前提 とした後
件の発生の意外性 (800万か ら900万かかるという意外性)か ら生 じるで もの であろう。
それに対 してモノナラ文①の
b (
「うそをつこうものな ら、二度 と口を き かない。 」)
は、「うそをつ くのなら二度 と口をきかない。」 とも 「うそをつ く なら二度 と口をきかない。」 とも言える文である。 この文 は前件 の状 況の も とではいつ も後件のようになるという必然性 を述べた文ではない。前件 と後 件の結びつ きも話者の経験や知識に裏づけられた ものではない。つ ま り田野 村言 うところの 「状況設定の ・なら」ではな く 「実のところが〜であれば」という意味を表す 「実情仮定の ・なら」 にかな り近い用法 になっているとい える。また、この 「ものなら
」
がなぜ辞書記述のようなニュアンスを帯びる か というと、それは前件 を前提 とした後件の発生の意外性にあるのではなく、聞 き手に訴える話者の意志性の強 さにあると考えられる。 しか し、前述 した 通 り、モノナラ文①の中では、あまり多 くない存在であ り周辺的な用法であ
ると思われる。
2.
モノナラ文② に関 してモノナラ文② は先の
P1 3 0
で も述べたように、ほとんどの場合 に 「のな ら」での言い換 えが可能である。文例 をみて も
、「 r
実のところが〜であれば」
と い う、ある実情が どうであるか ということについての仮定 を表現す ることを 中心的な用法 とする」 もので、「ある事態が実現 した状況 を仮 に設定 してそ の状況の もとでの事柄 を表現 している」
のではな く、 田野村言 うところの「実情仮定の ・なら」に近い用法であることがわかる。 さらに 「で きる もの なら
」
「やれるものなら」
のように、前件に可能の表現 を とることか ら、話 者は、聞 き手あるいは話題上の人物がある行為 を実現する可能性 について、強い疑念 をもっているといえよう。 つ まり話者の考えは、 「実の ところは〜
ではない」 というところにあ り、その前件の想定のもとに後件で自分の願望 ・ 意志、相手への要求 ・命令等 を言い表 しているといえる。前件の成立が否定 的な状況の もとで、なおかつ前件成立 に対する自己の願望 ・相手への要求を 述べ るというところに、この文の表現か ら感 じられる強さの原因があるので
はないか。
長崎大学外 国人留学生指導 セ ンター紀要 第
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号 研 究論文第1 9 9 6
年1 3 5
以上のモノナラ文の考察及び、「のなら ・な ら」
との関係 に関 して以下 の ことを論のまとめ としたい。1.モノナラ文①
‑
「う ・よう形 +モノナラ」は、主 に田野村言 うところ の 「状況設定の ・な ら」の用法 を中心的な用法 として担 うものである。しか しそれのみでははな く、「実情仮定の ・なら」 の用法 も周辺 的 な も の として存在 している。
モノナラ文② ‑ 「可能の表現 +モノナラ」 は 「実情仮定の ・な ら
」
の用 法 を中心的用法 として担 うものである。モノナラ文③ は 「実情仮定の ・なら
」
の用法 とほぼ同 じもの と言 えるのではないか。2.モノナラ文① は 「状況設定の ・なら」の用法 を、モノナラ文② は 「実 情仮定の ・なら」の用法 を各々強調する役割 をもって存在 していると言 えるのではないか。なぜ な らば先 に考察の ところで述べたように、モノ ナラ文① の
a
の場合 は、前件 と後件の緊密 な結 びつ きを前提 として導か れる後件 における意外性が、「大変なことになる」 とい う表現 上 の効果を生み出 している。
また、モノナラ文(むの場合、前件の成立 に関 して疑い をもった (実の ところが〜ではないのではないか という)状況の もとでの願望や欲求の 表現が、話者の願望 ・意志 ・要求 ・命令の度合いを強めるもの となって いる といえる。
<
注 >(注
1
)条件表現 ‑ある条件 を仮定 し、 その条件 の下 で行 われ る帰 結 を述べ る もの (r日本語 の文法 (3)」 よ り ・アルク出版 )(注
2
)前件 一条件 を表す節( r
日本語の文法」 よ り ・国立 国語研 究所 )後件 ‑帰 結 をあ らわす節 ・主節(注
3
)中島 悦子( 1 9 9 4)
「日中条件表現の対照」r
日本語学jvol . 1 3
(注
4
) ・用例のい くつかに関 しては( 1 9 8 4)
玉村 禎郎「
‑ もの な ら」r
日本語 学特集 複合辞」の用例 を参考 に原典 に当た らせていただいたO
・用例 に古い ものが多いのは、古 い作 品の中に、このモノナラ文が比 較 的多 く用い られているか らである。
(注
5
)モ ノナラ文② の用例 はかな り見つか りに くく、モノナラ文① の用例 との量 的 バ ランスを保つために、作例 した。(注
6
)久野 嘩( 1 97 3) r
日本文法研究」大修館書店(注
7
)蓮沼 昭子( 1 9 8 5)
「ナラと トス レバ」r
日本語教育15 6
(注
8
)網浜 信乃( 1 9 9 0)
「条件節 と理由節 ‑ナラとカラの対比 を中心 に‑」r
待 兼山論叢 日本語学甫
」2 4
(注
9
)鈴木義和( 1 99 3)
「ナラ条件文の用法 一聞 き手 との関係 を中心 に r園 田語文J7
(注1
0)
田野相思温( 1 9 9 0) r
現代 日本語の文法日
和泉選書(外 国語留学生指導セ ンター 日本語 コース委託講師 ・ 筑紫女学園大学非常勤講師)