台湾における社区営造研究の課題
― コミュニティ形成・まちづくりの日台比較研究のために ― 和田 清美 1 本稿の目的と限定
2000 年以降、わが国のみならず世界において「コミュニティ」に関する 著作が立て続けに発表され、コミュニティ研究は隆盛をきわめている
1
。こ れは「コミュニティ」の再認識の現れに他ならず、この背景には、グローバ リゼーション―G. デランティの言う世界的大変動― による社会の不安定さ の増大という現実的基盤が存在する2
。わが国では、グローバリゼーション に加え、人口減少、少子高齢化、莫大な財政赤字、さらには経済の低迷や環 境問題、頻発する自然災害など解決すべき問題が山積するきわめて不安定な 社会状況が、2000 年代に入り顕著になる。高齢者の孤独死や自殺が問題化 され、「無縁社会」として取り沙汰されるようにもなったことは記憶に新しい。こうした中、2011 年 3 月、東日本大震災が発生したのである。これを契機に、
「コミュニティ」への希求が年々増し、現在に至っている。これは、筆者か ら言えば、「コミュニティ形成・まちづくり」に他ならない。
わが国のコミュニティ形成・まちづくりは 1960 年代に入ってから登場し たが
3
、日本の地域自治・分権の歴史において、それは画期的な意義がある。1 Z. バウマン、2002=2009『コミュニティ―安心と自由の戦場』筑摩書房、G. デ ランティ、2003=2006『コミュニティ―グローバリゼーションと社会理論の 変容』NTT 出版、R. D. パットナム、2000=2006『孤独なボウリング―米国コ ミュニティの崩壊と再生』柏書房、山崎亮、2011『コミュニティデザイン―
人がつながるしくみをつくる』学芸出版社、
2 和田清美、 2009 「世界的大変動の中のコミュニティ研究に求められるもの」
(『日本地域社会学会年報』第 21 集、ハーベスト社)
3 和田清美、2011「コミュニティ形成・まちづくりの系譜と現代的位相」(水島司・
和田清美編著『地域・生活・国家』日本経済評論社)
この背景には、1960 年代の急速な高度経済成長と都市化によってもたらさ れた地域解体、環境破壊に対する「意義申し立て」を目的とした、「住民・
市民運動」の全国的展開とそのうねりがあった。コミュニティ形成・まちづ くりは、この 1960 年代に吹き荒れた「住民・市民運動」の理念をその根底 にもち、コミュニティ形成・まちづくり運動へと収斂していったといえよう。
それ故、コミュニティ形成・まちづくりとは、住民の自発的意思に基づく「地 域」への主体的参加と自治の実践の絶え間ない営みといえる。1970 年代に 入り政府ならびに地方自治体においてコミュニティ政策が開始されると、「運 動」というよりも、むしろ地域での参加と自治の日常的なとりくみである「活 動」へと展開していく。以降、担い手や活動の内容は変化しつつも、その活 動内容は、安心・安全、災害、福祉、見守り、子育て、環境、景観など、実 に多様であるし、現段階においては、過剰期待ともいえる状況にある。そう した中、これら多様な活動を地域で統括し調整することを目的とした「地域 協働体」なる新しいコミュニティ政策が提案されてもいる
4
。さて、本稿の主題とする台湾の社区営造は、日本の「コミュニティ形成・
まちづくり」ときわめて似ている。否、むしろ、政策形成にあたっては、日 本をモデルにしたとも言われている
5
。筆者はこの点に関心を持ち、筆者の 専門とする「コミュニティ形成・まちづくり」をテーマとする日台比較研究 を構想するに至った。その予備調査として、ここ数年台湾の社区営造の文献 調査ならびに資料収集のための現地調査を進めてきた。その一つに成果とし て、台北市の社区発展協会を中心とする論文をまとめている6
。本稿は、今後予定している「コミュニティ形成・まちづくりの日台比較研 究」を行うための予備的作業として、主に日本を中心に台湾の社区営造に関
4 総務省、2009『新しいコミュニティのあり方に関する研究会報告書』
5 佐々木孝子、星野敏、九鬼康彰、橋本禅、2011『台湾における原住民による 社区営造の課題』(『農村計画学会』第 30 巻)
6 和田清美、2014「台湾における『社区営造』の社会学的研究―日本のコミュ ニティ形成・まちづくりとの比較の視点から」(『知性と創造(日中人文社会 科学学会年報)』第 5 号)
7 簡子晏、2007「民主化の担い手としての社区運動―歴史的発展の分析と諸類型」
西川潤・蕭新煌編『東アジアの市民社会と民主化―日本、台湾、韓国にみる』
明石書店、p132
する先行研究を整理し、課題を抽出することを目的とする。そこで、本稿は、
以下のように構成される。第一に、台湾の社区営造の歴史的展開を概観する。
その上で、第二に、日本における台湾の社区営造研究の動向を整理し、コミュ ニティ形成、まちづくりの視点から、2 つの先行研究をとりあげ、その研究 成果を紹介する。これらを踏まえ、最後にコミュニティ形成・まちづくりの 日台比較研究を実施するための研究課題について述べることとする。
2 台湾における社区営造の歴史的展開
(1)社区営造とは何か
現在台湾において進められているコミュニティ形成・まちづくりは、「社 区営造」もしくは「社区総体営造」と呼ばれ、1994 年に発表された「社区 総体営造計画」以降のとりくみを指している。これは、1960 年代に国民 党政権の下で進められた「社区発展計画」を脱したものとされ、その大き な違いは、1970 年代の環境保護・反公害運動等の激しい社会運動を経た 後、「社区を中心とした地域の住民運動が持続的に各地で展開されるように なった」
7
ことにあるという。つまり、1980 年代以降、従来の「社区発展計画」に基づく「社区制度」が、住民の主体的参加を得て「社区運動」として展開 し、こうした動きを背景に、1994 年の「社区総体営造計画」が立案・実施 されたのである。
では、この「社区総体営造計画」とは何か。「社区総体営造計画」は行政 院文化建設委員会によって提案されたものであるが、簡子晏の整理によれば、
以下のような内容をもつ。「社区の仕組みは、従来のトップダウン型の『社 区発展』から脱して、住民参加という下から上への運営様式を導入した。『社 区』とは社会の単位、『営造』とは文字通り、経営と創造、『総体』とは単一
の目標ではなく、総合化、体系化するための方法論という意味の新しい造語 である。また、『総体』とは、従来の環境保護のみならず、伝統、文化、芸術、
景観、美学、地方色の再発見・再創造、地場産業の振興等、多方面にわたる 考えを意味する。その基本的インスピレーションは日本の『まちづくり』の 概念から借用した面が多い」と指摘されている
8
。このように「社区営造」は行政、社区住民と専門家の相互協力・連携が特 徴とされている。つまり、台湾の社区営造は行政政策として提起されながら も、住民の自発的参加を理念としており、制度としても、任意の住民組織と して位置付けられているのである。なお、行政院文化建設委員会が公表した
「社区営造条例」草案における「社区」の定義は、「直轄市、県(市)の行政 区内で、特定の公共的議題をもち、一定の手続きでこれを住民が確認した共 同空間と社会的群集の範囲」となっている。
(2)社区営造の歴史的展開
では、詳しく「社区営造」の歴史的展開をみていこう。垂水英司は、台湾 のまちづくりの視点から、①その源流、②「社区総体営造」政策と推進、③ 集集大地震後の復興まちづくり、④社区営造の普及、一般化へ、の 4 つの時 期に区分している
9
。また、簡子晏は、民主化運動形成の視点から、①社区 経営の初期段階―60 ~ 70 年代、UNDP・国民党政権による「社区発展政策」、②社会運動の興隆―70 ~ 80 年代、住民の反公害環境闘争を中心とする社会 運動、③社区運動の本格化と展開―80 年代、社区の自己変革、社会運動か ら社区運動へ、④社区運動の拡大期―90 年代、行政による提携の参入と「社 区総体営造」理念の提起、の 4 つに時期区分をしている
10
。両者の関連をみ ると、垂水氏の①その源流には、簡氏の①~③までが含まれており、垂水氏 の②~④は、簡氏の④社区運動の拡大期を詳細に区分していることがわかる。8 簡子晏、2007、前掲論文、p132
9 垂水英司、2009「台湾のまちづくり」『まちづくり百科事典』丸善株式会社 10 簡子晏、2007、前掲論文、p134 ~ 152
11 簡子晏、2007、前掲論文、p137 12 簡子晏、2007、前掲論文、p139
両者の時期区分を参考にしながらも、以下では 3 つの時期区分を設定し、台 湾の「社区営造」の展開をみていくこととしよう。なお、全体の流れは、垂 水氏作成の「図 1」を参考にされたい。
(2)-1 社区発展政策の導入から社区運動へ(=前史)―1960 年~ 1993 年代 1964 年、台湾省政府は、「現段階社会政策要綱」において、これまで実施 してきた地方自治政策としての「国民義務労働」政策、及び「基層民生建設」
とあわせて「社区発展政策」として改定することを決め、翌 1965 年に「民 主主義現段階社会政策」の一つとして行政院より公表された。1968 年には
「社区発展工作綱要」を頒布し、同年 9 月政府は「台湾省社区発展 8 年計画」
を公表した。1969 年には、正式に UNDP(国連開発計画)の補助金、及び 技術提携を受け、実施される
11
。UNDP の補助金は 1972 年打ち切られたが、1983 年には「社区発展工作綱要」が「社区発展要綱」に改定される。ピー ク時の 1980 年代初頭には 4000 あまりに拡大したが、「そのほとんどの業務 及び窓口は、村・里長等の基層行政に委ねられ、『村・里公辨公室』という 形式的な存在は置かれたものの、社区の動員はおおむね地方行政主導の下で 行われた。そこには、自発的住民参加の実態はなかった」
12
という。戒厳令 解除後、「社区発展要綱」は 1991 年に再改定され、社区組織は新たに民間団 体の「社区発展協会」として認定され、当該住民の申請によって設立される ようになり、法的に社区活動は住民の自主的運営の下で可能になったことに なる。こうした「社区発展」政策の展開の背景には、1970 年代から 80 年代、各 地で環境闘争運動が相次いで発生し、以降台湾は社会運動の時代へと突入し ていく。とくに 80 年代中期、社会運動は全盛期を迎える。この時期の社会 運動の代表的事例をいくつか挙げると、例えば、新竹市偉功里の新竹建設反 対運動、屏東県の台湾糖業屏東紙パルプ工場反対運動、高雄県美濃郷のダム
建設反対運動、彰化県鹿港鎮に起こった反デュポン社運動(=化学工場建設 運動)等である。
1980 年代に入ると、こうした環境団体等の社会運動の「在地化」が社区 運動への展開していく。この点について、徐世栄と蕭新煌は、「環境運動は 後に、台湾における新しい発展の道に必要なアクターとしてのコミュニティ、
『社区』の目覚めに大きく貢献したと認められている」
13
と述べ、「主婦連盟 環境保護基金会」の社区運動を紹介している。また、簡氏は、この時期の注 目すべき社区運動として、各地の社区で始まった「文史工作室」(社区文化 歴史研究会)の取り組みをあげ、次のように述べている。「この仕事に従事 した人々の多くは社会運動から地元に帰還した「回帰者」だったり、あるい は彼らに刺激を受けた地元の伝統文化、歴史等の再発見・保存にコミットす る有志であった」14
(2)-2 社区総体営造政策の提起と推進 ― 1994 年~ 2001 年
前述のような社会運動から社区運動への展開を背景に、1994 年(中華民国 83 年)行政院文化建設委員会(以下、文建会)によって「社区総体営造計 画」が提案され、施策としてスタートした。文建会によれば、「社区とは固 有の地理的名称であり、それは英語のコミュニティと日本語の地域共同体を 併せ持つ概念として考案されたと説明している。また、地理的意味に限定せ ず、共通する価値観をもつ自発的組織団体も社区の概念に含まれている」
15
。 また、「社区の課題は、単一ではなく、建築景観、生活環境、文化芸術、地 方産業、または住民共同体の定める課題等、様々な事業を包含する」16
もの である。「社区総体営造」政策の窓口は文建会であり、文建会は政府内の各 関係部門と社区の間の仲介役の役割を果たすと同時に、総括部門ともなった。13 徐世栄・蕭新煌、 2007「新社会運動―NPO と社区の発展」(西川潤・蕭新煌編
『東アジアの社会運動と民主化』p106 14 簡子晏、2007、前掲論文、p147 15 簡子晏、2007、同上、p150 16 簡子晏、2007、同上、p150
「図 1 社区営造のあゆみ」
1960年 1970年
『社区発展』導入(64) 「健康社区六星計画」(05)
「社区総体営造政策」(94) 「社区営造条例」草案(03)
宣蘭で博覧会(97) 県単位に社区営造センター(03)
「環境総体改造計画」(97)
「優良商圏形成計画」経済部(97)
「地場産業協力・指導計画」経済部(95)
「社会福祉社区化及福祉優先計画」社会司(96)
「台北市地区環境改造計画」(97)
「社区大学」始まる(98)
文史工作室盛ん 「社区」ブーム
新港文教基金会(87)
荒野保護協会(84) 企業も社区参助の動き 主婦連盟(87)
専業者都市改革組織(89)
鹿港で「反デュポン運動」(86) 中華民国社区営造学会(96)
福林河川公園(91) 三重市後竹園(92)
被災地に4社区映像センター(02)
「災後重建計画工作綱領」(99)
民進党結成(86) 集集大地震(99)
「挑戦2008国家発展重点計画」(02)
(新故郷社区営造)
1980年 1990年 2000年
戒厳令解除(87)
(出典)速水英司、2006「台湾のまちづくり」p410
「図 1 社区営造のあゆみ」に示されるように、「社区総体営造計画」発表後、
4 年ほどの間に、中央政府では、環境保護署の「環境総体改造計画」(1997 年)、
経済部の「地場産業協力・指導計画」(1995 年)、「優良商圏形成計画」(1997 年)、内政部(社会司)の「社会福祉社区化及福祉優先計画」(1996 年)など が実施されている。また、台北市では、社区が自ら進める計画に基づいて支 援する「地区環境改造計画」が 1997 年からスタートしている。また、2001 年 には、「社区文化再造計画実施要点」が策定され、中央政府の地方政府に対し て一定額の補助予算が与えられ、さらに公募により各社区団体、または個人 公募により各社区団体、または個人の申請案を受け付けることとなった。
このような政府部門での取り組みの一方で、民間部門での動きも顕著に なっていく。社区営造学会の設立(1996 年)、「社区大学」(1998 年)の開設 などがみられ、文建会の政策がストートしてから 5 年経過した時点で、100 を超える社区営造の取り組みが確認されている
17
。こうした中、1999 年 9 月 21 日、集集大地震が発生する。中部台湾の都市部、
17 垂水英司、2009 , 前掲論文、p408
農村部、山岳部の広い地域に大きな被害をもたらし、その復興は住宅、農業、
産業、福祉など広い課題であった。政府は、震災後まもなくの 11 月 9 日、「災 後重建計画工作綱領」を発表した。計画は、公共建設、産業建設、生活建設 の 3 部門から構成され、これらを横つなぎする形で社区単位での再建計画を 策定するという内容であった。社区が策定した再建計画を基に、文建会をは じめいくつかの行政機関により補助や支援をするまちづくり制度が制定され た。また、文建会は被災地に 4 つのまちづくりセンター(社区営造中心)を 設置し、同時に 60 の社区を選定し、重点的に専門家を派遣し支援する仕組 みも作られた。その結果、農村部を中心に 100 以上の社区で復興まちづくり が取り組まれた。なお、復興まちづくりの取り組みとして、垂水氏は、南投 県桃米村と同県中寮郷龍眼林社区の事例を紹介している
18
。(2)-3 社区営造の普及、拡大へ ― 2002 年~現在
1994 年(中華民国 83 年)の文建会による「社区総体営造」政策の提起と 施策の展開、その 5 年後の 1999 年 9 月 21 日の集集大地震による復興まちづ くりの推進を経て、政府は 2002 年に新たな国家計画として、「挑戦 2008―
国家発展重点計画」を発表する。本計画において、社区営造は 10 大重点投 資計画の一つとして位置づけられ(=新故郷社区営造計画)、これを実現す る方策として「健康社区六星計画」が打ち出された。「健康社区六星計画」
では、産業発展、社区福祉医療、社区治安、人文教育、環境景観、環境保護 の 6 つのテーマ別方向性を打ち出している。2013 年現在、「新故郷社区営造」
は第二期計画の下で推進されている。
一方、社区営造の担い手とされる社区発展協会に関して政府行政院は、
1968 年(中華民国 57 年)に公布した「社区発展工作綱要」を、ほぼ 30 年 ぶりの 1996 年(中華民国 85 年)に改訂するが、2004 年には、「社区営造条例」
草案が作成された。この草案は、1. 本条例立法の目的、 2. 社区の定義、3. 主 管機関の構成、4. 中央主管機関の権利及び責任、5. 県・直轄市における主管 18 垂水英司、2009、前掲論文、p408
機構の権利及び責任、6. 社区建設の促進計画及び規則、7. 社区公共業務につ いて本条例に従い社区住民による自主的な意義の建設、8. 社区建設内容の分 類、9. 範囲の分類、10. 社区建設についての提案、11. 審査の規則、12. 社区 業務について審査を通過した上の仕方、13. 主管機構は社区業務を定期的に 審査、14. 社区建設についてよい成績をとれる社区に対しての表彰などが規 定されている。
公募により各社区団体、または個人の申請案を受け付けることとなった。
垂水氏によれば、台湾の社区営造は、「先駆的活動から施策化へ、そして先 進事例から一般化へと、我が国との類似点や相違点を抱えながら、より速足 で次ぎの段階を目指そうとしているようにみえる」と指摘している
19
。3 台湾の社区営造研究の動向と成果
前述した台湾の社区営造の歴史的展開を踏まえて、本章では、現段階にお けるわが国の台湾の社区営造研究の検討を行いたい。まず、台湾の社区営造 研究の整理を試み、その中から行政院文建会の「社区営造事業」の詳細な検 討を行なった王忠融、九鬼康彰、星野敏、橋本禅の共著論文、ならびに「社 区運動」の類型化を行った簡子晏の単著論文をとりあげ、その成果を詳しく 引用して紹介する。
(1)台湾の社区営造研究の概要
日本における台湾の「社区営造研究」をみると、大別すると、第一は、住 民参加型まちづくりの研究および災害復興まちづくり研究、第二は、社区営 造政策・事業に関する研究、第三は、社区運動の研究、第四は、地域社会(づ くり)研究の 4 つに整理することができよう。
第一の参加型まちづくりの研究および災害復興まちづくり研究には、921 震災からの地域再生を扱かった台湾の復興まちづくりの研究(人と防災未来 19 垂水英司、2009 , 前掲論文、p409
のセンター・こうべまちづくりセンター、2006)、復興社区である桃米里の 復興まちづくりの事例研究(服部、2004)(若村、2012)などがある。
第二の社区営造政策・事業に関する研究では、台北市を事例とした社区 総体営造事業の研究(長野基、2002)、陳其南氏の「市民社会」論とその政 策的実践から公共性を検討した研究(河口、2010)、文建会の社区総体営造 政策の事業とその推進体制の研究(王忠融、九鬼康彰、星野敏、橋本禅、
2011)を挙げることができる。
第三の社区運動の研究では、台湾における新社会運動として NPO と社区 を取り上げ論じた研究(徐世栄・簫新煌、2007)、台湾民主化の担い手の視 点から社区運動を分析した研究(簡、2007)、また、高雄県美濃鎮を事例と したコミュニティ運動の研究(星、2013)を挙げることができる。
第四の地域社会(づくり)研究として、原住民(アミ族)を対象とした社 区営造研究(佐々木孝子、星野敏、九鬼康彰、橋本禅、2011)、客家人の郷 を対象とした住民主導の地域づくりの研究(劉、2013)、健康的な社会環境 づくりの事例研究(高橋和文・小室達章・後藤昌人・岩崎公弥子・時岡新・
中田平、2011)などを挙げることができる。
以上の研究業績から、以下では、文建会の社区総体営造事業の展開を扱っ た王らの研究と、社区運動の類型化を試みている簡の研究をとりあげ、その 成果を紹介していくこととしよう。
(2)研究成果の紹介
①文建会の社区総体営造政策の研究 王忠融、九鬼康彰、星野敏、橋本禅、
2011「台湾における社区総体営造政策の事業実施体制の変化と特徴」から―
本論文は、文建会の事業を事例として、社区総体営造政策の事業実施体制 の変化と特徴を分析している。筆者がこの論文をここで紹介する理由は、文 建会が「社区総体営造計画」を提案した翌年の 1995 年から 2013 年までのす べて事業内容について網羅していることである。もちろん文建会のみで全体 がすべて把握できるわけではないが、その中心にある文建会の事業内容の分 析は、資料的価値があると考えた。「図 2 19 事業の分類と各事業の実施
「図 2 19 事業の分類と各事業の実施期間」
複 合 計 画
ソ フ ト 中 心 型
支 援 対 象 の 事 業
支 援 計 画
年 1995 1996 1997 1998 1999 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2009 2010 2013 第1期
総統 事 業 の 対 象
ハー ド 中 心 社 型 区 を 対 象 と す る 事 業
2012
扇英九(国民党)
2000
李壁輝(国民党)
事 実 の 性
質 第Ⅱ-A期 第Ⅱ-B期
2008 第Ⅱ-C期
2011 第Ⅲ期 2
4 3
12
5
15 10
1 14
11
8 6
9
13 7
15
18 19 17
(出典)王忠融、他、2011「台湾における社区総体営造政策の事業実施体制の変化 と特徴」p364
期間」
20
に示した 1 から 19 の数字の事業内容は、以下のとおりである。やや長くなるが、上述の理由から、王氏らの論文に掲載されている「表 1 本研究で対象とする19事業の概要」
21
から引用し、紹介することとする。なお、以下の 1 ~ 19 までの[事業名]にある( )内の表記は日本語訳である。
【1 社区総体営造奨須知補助計画(=まちづくり補助金計画)】
文建会から社区あたり 20 万元が支給され、計画を実行する流れになって いる。毎年各社区は最大 3 つの計画を申請できる。計画の種類は社区営造記 録や地域文化と歴史、地域の文学と伝記、社区の学習活動、地域の手工芸、
表現芸術と音楽、環境と生態保全活動、文化財保護、地域の産業振興など様々 である。
【2 充実郷鎮展演設施計画(=地域文化芸術施設建設計画)】
事業の目的は都市化に伴う農村地域の文化芸術の施設不足の解決である。
毎年、県や市が一つか二つの現有建造物を候補として文建会に通報し、現地 視察後、郷や鎮公所と協力しつつ現有建物を改造する事業である。また、芸 20 王忠融、九鬼康彰、星野敏、橋本禅、2011、前掲論文、p364
21 王忠融、九鬼康彰、星野敏、橋本禅、2011、前掲論文、p365
術や文化活動に必要な設備(照明、音響システムなど)と維持費用なども含 めている。
【3 輔道美化地方伝統文化建築空間計画(=歴史的建造物の保存維持計画)】
背景には重要文化財とは認定されない伝統建築が廃棄された事例が多いと いう問題がある。事業目的は社区内の伝統文化建築物と空間への住民の関心 を高めることである。事業では文建会が地方自治体と協力し、社区内の伝統 文化空間と既存建物を整備、修復する。1 年目は特に住民参画の期間で、組 織と共同意識を醸成する。
【4 輔道県市主題展示館之設立及文物館蔵充実計画(=テーマ博物館建設 と館蔵充実計画)】
既存のあるいは未利用の建物を地域の産業や文化、人物、歴史などをテー マに改築し、地域博物館のような施設を作るものである。施設の展示内容と 展示品の充実含む。事業目的は地域の産業と文化をアピールし、住民が地域 アイデンティティを感じることである。約 38 地域でテーマ展示館が整備さ れた。
【5 社区文化活動発展計画(=地域文化活動発展計画)】
主な内容は社区総体営造の基本概念をアピールし、全国で講演会やフォー ラムなどを行い、社区総体営造に携わる人材を養成する。対象は地方文化工 作室の役員、地方自治体の行政職員、社区住民、学生などで、初心者向けか らプロフェッショナルまでの 3 つのレベルに分けて行われた。
【6 地方文化産業振興計画(=地方伝統文化産業振興計画)】
「文化を産業化する、産業を文化化する」という社区総体営造の政策をア ピールするため、地域産業と地域特有の文化を結び付け、地域の特産品のイ メージアップを図る事業である。具体的には、文化センターあるいは文化局 が地域の特色ある産業を選び、新たな特産品を創出あるいは既存特産品のイ メージアップを図る。
【7 文化服務替代役之訓練及運用計画(=まちづくり、文化財保護代替兵 役訓練と運用計画)】
社区の人材不足、高齢化を背景に、ボランティア活動に熱意を抱く後備役
の軍人たちを 2 週間社区総体営造に関する訓練を施した後で各地の社区に送 りこんだ事業である。彼らは建築、環境、文化財、博物館学、農学などを修 めた大学生で、社区の計画のサポートや様々な地域活動への参加を行った。
これを通して社区総体営造の理念のアピールや社区の人材養成、各社区の資 源の整合などが期待された。
【8 社区文化再造計画(=地域文化再建計画)】
事業目的は社区文化活動発展計画(5)と同じく社区総体営造の理念をア ピールすることで、内容は社区総体営造の人材養成、社区営造の経験知を交 流させることである。実施は社区文化活動発展計画と違って県、市を単位に 行い、文建会が各県、市をサポートしながら指導する。人材養成事業には「自 治体の行政職員と社区の行政担当人材養成」「大学生対象の社区総体営造ワー クショップ」など 4 種類あり、約 1900 人が受講した。
【9 文化産業之発展及振興計画(=伝統文化産業の発展と復興計画)】
事業内容と目的は地方文化産業振興計画(6)とほぼ同じ。地域の文化を 再認識し、地域の特産品を新たに作り出すあるいは既存特産品のイメージ アップを図る事業である。約 40 地域で実施した。
【10 社区環境改造計画(=地域環境改善計画)】
内容は社区内の公共空間の活性化、地域の景観改善、地域特色の発見、社 区のガイドシステム(案内図、案内標識等)の作成、空間改善の人材養成と 経験交流などである。住民参加で課題を話し合い、空間と景観改善、活性化 などの計画を立てた。合計 23 の社区が本事業を実施した。
【11 行政院社区総体営造計画心点子創意微選活動(=まちづくり新発想募 集計画)】
社区総体営造は中央省庁が別々に行う体制だったが、資源の整合と社区の 複数機関の申請を避けるため、この事業から社区総体営造の担当行政機関を 整合し、社区は単一の窓口に申請し、計画を行う体制になった。事業は「1 年目計画、3 年間実行」という 4 年計画で 1 年目は社区の生活環境や景観に ついて計画を立て、2 年目から 3 年間は工事、活動、イベントなどを行う。
1年目の費用は文建会が負担し、2~4年目の費用は内政部営建署が負担した。
2001 年は 69 社区が申請、50 社区が採択され、48 社区が計画を策定、実行 期前の審査により 14 社区が 3 年間の実施を認められた。
【12 地方文化館計画(=地域博物館計画)】
社区内で未利用のあるいは歴史的価値のある建物を再利用するため、各自 治体や NGO などをサポートし、地域博物館を作る事業。充実郷鎮展演設施 計画(2)と輔道県市主題展示館之設立及文物館蔵充実計画、(4)を基に再 計画されたものである。2006 年まで約 259 地域博物館が補助金を得て事業 を行った。
【13 専業工作団隊人才培力計画 ― 分区社造中心(=支援団体による人材育 成計画 ― まちづくりセンター計画)】
この事業は集集大地震の被災地と非被災地をそれぞれ 4 つに分けて、各区 に「被災地社区営造センター」と「非被災地社区営造センター」を設けた。
8 つの社区営造センターがコミュニティ再生の核となる社区及び社区営造員 をそれぞれ 15(合計 120)選出し、育成することによって、周辺地域のまち づくり活動を活性化させることを目的としている。またまちづくり活動を 行っている専門家の支援、地域文化や資源を活用するネットワークの構築な ども行い、持続的なまちづくりの展開を目指している。76 社区が事業に参 加した。
【14 三合一社区総体営造計画(=三事業統合まちづくり計画)】
社区文化再造計画(8)と社区環境改造計画(9)、文化産業之発展及振興 計画(10)を合併したもので、事業内容は上記 3 つの事業と同じ。
【15 新故郷社区営造計画(=新しいふるさとまちづくり計画)】
2008 年の国家計画の中で社区営造が新たな時代に向かって推進する 10 大 重点投資計画の 1 つに位置づけられたのを受け、7 つの方向を目的とする事 業。第 1 は「台湾社区営造の推進組織」で、社区営造に関する人材養成、社 区組織の強化とモデルチェンジ、ボトムアップ政策に関する行政システム改 革である。第 2 は「内発的地域産業活性化」、第 3 は「社区景観営造」、第 4 は「文化資源の活性化」で地域文化館の充実や地方文化資源等の開発、人材 養成を行った。第 5 は「先住民新部落運動」で先住民の文化の保存と持続的
な発展を行い、第 6 は「新客家運動」で客家民族の文化振興と保存を行った。
第 7 は「健康と福祉計画」である。
【16 健康社区六星計画(= 6 つのテーマ別計画)】
新故郷社区営造計画の体制(15)を基に、産業発展、社会福祉医療、社区 治安、人文教育、環境景観、環境保護生態の 6 つの方向を目的とする大型事業。
社区の多元的な発展を促進するため、社区の自己診断を奨励し、社区の将来 像を作成させた。担当したのは 12 の政府機関で 62 の事業が含まれた。新故 郷社区営造計画の内容と比べると、社区治安と社会福祉医療が追加された分 野である。
【17 新故郷社区営造第二期計画(=新しいふるさとまちづくり計画―第二期)】
2008 年文建会が打ち出した事業の一つ。中には 3 つの計画がある。一つ はボトムアップ政策に関する行政システム改革で、各県、市に社区営造セン ターと地方自治体の社区営造推進委員会を作り、モデル社区営造活動、行政 職員と社区組織の人材養成訓練、社区営造に関する出版物の作成を行った。
次は社区文化振興計画で、社区に関する歴史、映像記録、社区をテーマにす る劇団、伝統技術の保存が行われた。最後は社区新機軸実験計画で、社区の 観光振興、地域特産品の向上、地域文化の発展などが目指された。
【18 地方文化館第二期計画(=地域博物館計画 ― 第二期)】
地方文化館計画(12)の継続事業。異なるのは、第一期は点としての博物 館に着目していたのに対し地域文化生活圏という面に着目したことである。
事業は 5 つに分かれ、一つは第一期の地方博物館の整備、二つは各県や市の 文化施設を中心として地域文化生活圏を作ること、三つは各地域の同じテー マの文化施設でナットワークを作る計画である。四つは博物館経営人材養成 で、最後は宣伝とマーケット戦略である。
【19 社区組織重建計画 専業団隊及社区陪伴計画(=地域組織再建計画と 支援組織計画)】
2009 年 8 月 8 日に台風 8 号にもたらされた台湾南部で過去 50 年間で最悪 と言われる災害(八八水害)の被災地域での災害復興を目指す事業。「社区 再建計画」と「社区営造員」からなり、「社区再建計画」は社区組織の整備、
社区文化と歴史の再建と保存、再建に関する出版物、宣伝物などの製作、地 域特性の景観美化、再建過程の映像記録、被害後の社区地図作成などを行っ ている。「社区営造員」とは地元住民が社区営造員として社区総体営造の人 材養成を受けながら地区再建計画のサポーターになるものである。
以上、引用が長くなったが、今後「社区営造政策」の研究を進めていく上 で、上記の事業内容とその推移はきわめて重要であることが、あらためて確 認された。
(3) 社区運動の諸類型の研究ー簡子晏、2011「民主化の担い手としての社 区運動 ― 歴史的発展の分析と諸類型」から―
本論文は、台湾の民主化の担い手として社区運動を位置づけ、社区運動の 歴史的発展と運動の諸類型を主に論じている。社区運動の歴史的発展の分析 については、本稿第 2 章で引用して紹介しているが、ここでは社区運動の諸 類型に関する研究成果を紹介していきたい。これは、これまでの台湾の社区 営造活動の到達点とも言える。
簡氏は、社区運動の類型化にあたって、先にみた文建会の『台湾健康社区 六星計画』における 6 つの異なるテーマーすなわち産業発展、福祉医療、社 区治安、人文教育、環境景観、環境・生態保護―を考慮に入れつつ、著者は、
1. 文史工作室、2. 公害、環境汚染抗争型、3. 生活環境改善型、4. 住民の環境 設計への参加型、5. 産業発展型、6. 社区発展協会 7. 社区大学、社区 NGO、
社区専業者(企業、その他の調整役)の 7 つに分類している。では、以下 7 分類について紹介していくこととしたい
22
。【1 文史工作室(社区文化歴史研究会)】
「主に人文教育のテーマとして分類される」としている。先述の「社区営 造の歴史的展開」の章でもふれたように、文史工作室は、各地の社区で始ま 22 簡子晏、2007、前掲論文、p153 ~ 155
り、文史工作室の従事者の主な任務は、「郷土の人文発展過程、歴史伝統、ルー ツ等の文化資産を人々の記憶の中から掘り起し、記録・保存し、また出版す るという一連の作業」であり、「彼らは過去から現在に至る社区の全貌を明 らかにすることによって、社区における未来の理想的生活空間を描きだすこ とをめざした。さらに、社区を設計し、住民に社区意識をアピールしてその 興味を惹き、社区公共事業への参加を喚起することに努めた。社区独自の風 格、文化を発展させることにより、地域社会のアイデンティティを創出する ことを目的」
23
としている。著者が具体的な取り組みとして挙げている社区工作室をそのまま列記する と、地方の歴史、地理、人文環境の整理保存に取り組む「滬尾文史工作室」
「赤嵌文史工作室」「三角湧文史工作室(三峡)」「水返脚文史工作室(汐止)」、
高雄の「橋仔頭文史工作室」、また嘉義県新港社区の「新港文教基金会」等、
地方の環境保護、生態系回復をテーマとする高雄氏の「柴山自然公園促進会」、
ダム建設反対、地域特色の保存を結集した「美濃愛郷協進会」、原住民文化、
意識振興のために組織された『原報』及び「西拉雅文史工作室」等、そして 筆者が民族アイデンティティ、歴史・文化保存型の事例報告として紹介して いるのが「平埔西拉雅文化―吉貝 文史工作室」である。
【2 公害、環境汚染抗争型】
1970 年代から続く社区運動の最初の典型であり、「主に地域内に発生する 公害や汚染の事前反対、或いは事後抗議、改善要求の類型」としている。例 示として、宣蘭県「蘇澳港辺社区」の火力発電所反対運動、彰化県鹿港郷の 化学工場反対運動、高雄美濃愛嬌協進会のダム建設反対運動、台北市の慶城 社区の風俗店の社区侵入及び駐車場を公園内に設置することに対する反対運 動等の事例があげられている。
【3 生活環境改善型】
「環境景観、街並みの改善、衛生環境、生態保護、社区福祉、社区治安等、
それぞれの取り組みによって分類される」としている。例示として、嘉義県 23 簡子晏、2007、前掲論文、p147 ~ 149
の「新港文教基金会」の全方位環境改善運動、嘉義県土溝村の「土溝農村 文化営造協会」による社区環境整備、植樹、公園づくり、手づくり社区活動 センターがあげられている。
【4 住民の環境設計への参加型】
「地域の住民が自主的に、または行政の企画に携わって住民の意向を反映 させつつ社区のデザインを行う類型」としている。例示として、台北市士林 区の「福林社区」と同市文山区の「萬芳社区」をあげている。前者は大学教 授、研究所、住民らとの協働による社区公園、社区ハウス、道路、街並みの 設計参加、及びアドバイスを提供した事例であり、後者は住民による住宅地 の企画、公園建設、社区大学との提携した事例である。
【5 産業発展型】
「地域産業の振興を主要目的とする取り組み、また文建会が『産業の文化化』
と名付けた地域物産に付加価値をつけ加えたり、文化価値を視野に産業を再 考・育成する取り組み等がその例である」としている。例示としては、南投 県「桃米社区」における生態系回復運動、生態観光事業振興運動、また嘉義 県白河鎮の「蓮潭社区」における蓮の栽培・加工・販売事業や観光・レスト ラン等の取り組みを挙げている。
【6 社区発展協会】
社区発展協会は、戒厳令解除後の 1991 年に、従来の政府主導の社区政策「社 区発展綱領」が改定され、社区組織ははじめて民間団体と認定され、住民組 織が「社区発展協会」として申請できるようになった。しかし、簡によれば、「民 主化後の国民党は基層選挙での勝利をもくろんで草の根民衆の支持を得るた めに、基層における基盤、すなわち村・里長等を通して多くの「社区発展協 会」をつくらせていた。そのためこれらの社区発展協会は地域の民間組織で あるが、本来の住民自発型の社区運動とは性質上異なるところがある」
24
と 指摘している。24 簡子晏、2007、前掲論文、p148 25 簡子晏、2007、同上、P154
【7 社区大学、社区 NGO、社区専業者(企業、その他の調整役)】
この三者を、著者は「社区運動周辺の協力的な諸機構」
25
としている。社 区大学は 1994 年に提案され、1998 年 3 月、教育改革に関心のある民間有識 者で結成した「社区大学準備委員会」の下、全国に広まった計画である。社 区大学では、一般市民に、生涯学習、公共事業、公民社会、社区理念、経営、組織等のテーマを中心としたカリキュラムが提供されえている。社区 NGO は、社区に携わる非営利団体である。例示としてあげているのは、中華民国 社区営造学会、新故郷文教基金会、台湾環保護連盟、台湾主婦連盟、高雄市 緑色協会、中華民国建築学会等である。社区専業者とは、社区事業に携わる 専門的知識、または技術をもつ企業や個人を含んでいる。
以上、社区運動の 7 類型をみてきたが、3 の(1)でみてきた研究には、
ここで例示として挙げられている事例が多く含まれていた。今後、研究を進 めていく上で、本論文で提起された社区運動の 7 類型は一つの参考となるで あろう。
4 まとめ:コミュニティ形成・まちづくりの日台比較研究に向けて
以上のように、台湾の社区営造の歴史的展開と研究成果をみてきたが、こ れを踏まえて、最後にコミュニティ形成・まちづくりの日台比較研究に向け ての課題を述べ、本論を終えるとしよう。
まず、台湾の「社区営造」の歴史的展開を見ると、日本の「コミュニティ政策」
が 1960 年代の激しい公害運動や住民・市民運動の経験を経た後、提起され たことと重なる。もちろん両国の政治状況の違いを考慮に入れねばならない が、共通にそこで強調されたのは住民の自発的意思に基づく「参加」であった。
また、2000 年に入って台湾の「社区営造」は、国家政策の中に明確に位置 づけられ、垂水氏の言うように普及・拡大の一途を辿っている。日本におい ては、2000 年代後半以降新たなコミュニティ政策が提案されている。これ は正に本稿冒頭に述べたように日本のコミュニティ形成・まちづくりの展開
と同様の動きを、台湾においても辿っていることがわかる。
この現実の動きを踏まえて、社区営造に関する先行研究を、(1)住民参加 のまちづくり(復興まちづくり含む)に関する研究、(2)社区営造政策(=
事業)に関する研究、(3)社区運動に関する研究、(4)地域社会(づくり)
に関する研究の 4 つに整理した。その中から、文建会による「社区営造政策」
の詳細な資料分析及び社区運動の類型化を試みた論文をとりあげ、研究の成 果を詳細に引用して紹介した。その研究成果から、筆者は、今後のコミュニ ティ形成・まちづくりの日台比較の研究実施に向け、有益な理論的インプリ ケーションを得た。それは、以下のとおりである。
第一は、台湾の社区営造政策の詳細な事業内容と時系列分析の成果はきわ めて示唆深く、このような検討を日本のコミュニティ政策についても行うべ きであることを実感した。その上で、両国のコミュニティ形成・まちづくり 政策・制度の共通性と相違点を明確にすべきであるという研究課題が導き出 される。日本のコミュニティ政策の特徴として、コミュニティ施設の建設や コミュニティ協議会の設置があげられるが、こうした視点からの政策の内容 の検討と同時に、台湾社区営造の現場での取り組みの実態把握がなされる必 要があると考える。そのためには、綿密なフィールドワーク調査が不可欠で あることは言うまでもない。
この点と関わって、第二は、台湾の社区営造の研究成果を見ると、丹念な フィールドワークに基づく台湾社区営造の多様な活動実態が浮かびあがって きた。それを簡氏は社区運動の点から 7 つの類型を提示した。しかし、この 類型化は、活動内容と主体が混ざっていて、統一した分析規準によって類型 化したとは言い難い。とりわけ、筆者にとっては、この中の「社区発展協会」
がいかに社区営造の担い手として機能していくかを問うことはきわめて大き な関心事である。この問いは日本のコミュニティ形成・まちづくりにおける 地縁組織の役割とも重なる研究課題である。今後コミュニティ形成・まちづ くりの日台比較研究の実施に向け、本稿での知見を組み入れた研究枠組みの 構築と課題の設定を早急に着手することとしたい。
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