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(東女医大誌 第51巻 第10号頁1472〜1480昭和56年10月)
〔臨床報告〕
化膿性脊椎炎の3例
東京女子医科大学第二病院 整形外科(指導1菅原幸子教授)
中村 省司・教授 菅原 幸子・講師 大野 博子
ナカムラ セイ ジ スカワラ サチコ オオ ノ ヒロ コ
講師 上田 禮子・石上 宮子・若林 伸之
ウエダ
レイ コ イシガミ ミヤコ 1フカバヤシ ノ7ユキ(受付 昭和56年8月1日)
緒 言
化膿性脊椎炎は,かつては急性に発症し,死亡 率の高い疾患とされていたが,抗生物質の普及に 伴い予後良好な疾患となってきた.一方,診断の 遅延や不適当な治療による慢性化などが臨床像を 複雑にしている面もみのがせない.
我々は,最近3例の化膿性脊椎炎を経験したの で,いささかな文献的考察を加えて報告する.
症 例
症例1.32歳,男性,木○秀○,機械運送業.:
主訴:発熱,腰痛.
既往歴:特記すべきことなし.
家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:昭和43年頃より,仕事で重い物を持つ ことが多いため,常に腰痛が存在した。昭和53年
9月2日,作業中に腰部を捻り,発熱,腰痛が出 現した.近医を受診し,外来治療を行なったが,
軽快せず,11月2日当科に紹介され入院となる.
来院時所見ならびに経過:脊椎はやや前屈位を とり不挽性著明で,第4腰椎棘突起に圧痛があ り,ラセーグ徴候陽1生,左長母趾伸筋々力の低下,
左L4,5領域に知覚鈍麻などの根症状を認めた.
腰椎X線像では,第4,5腰椎にSchmor1結節
様の二二像を認めた(写真1).赤沈値1mm/h,
CRP陰性,白血球数8,600/mm3,髄液検査では 著変を認めず,髄液の一般細菌検査で陰性であっ た(表1).11月17日第4腰椎々体の生検を施行し た(写真2).骨小片の一般細菌は陰性であった が,組織学的検査にて椎体炎が疑われたので,ギ プス床装用,抗生剤投与を開始した.昭和54年2 月18日,フレームコルセット装着にて,歩行練習 開始,3月30日症状軽快につき退院した.6月再 び腰痛出現し,第2回目入院となる(表1).安静 及び抗生剤投与にて軽快し,9月より外来治療と した.10月.中旬より,再び腰痛増強,第4,5 腰椎棘突起に圧痛を認めたため脊椎炎の再燃を疑
い,12月1日,第3回目入院となる(表1).12月 12日病巣掻爬術および第3,4腰椎固定術を施行 した.術後約6ヵ月症状改善,X線上,第3,4 腰椎固定状態もよく退院となる(写真3).現在腰 痛はなく,他覚的所見も認めない.
症例2.56歳,男性,高○賢,会社員.
主訴:発熱,腰痛.
既往歴:42歳時,胃潰瘍.
家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:昭和55年1月9日,41℃の発熱と腰痛
Seiji NAKAMURA, M。D., SacMko SUGムWムRA, M・D., Hifoko OONO, M.D., Reiko UE1)A, M.D.,
Miyako ISHIGムM1, M。D. and Nobuy服ki WAKABAYASH1, M.D. Dept, of Orthopedic Surgery(Director:Pro乱 Sachiko SUGAWARA)The 2nd Hospital, Tokyo Women s Medical College:Three Cases of Spondylitis purulenta
写真1 症例1の腰椎X線引(初診時)
表1 症例1臨床検査所見 昭和53年
P1月3日 昭和54年
R月26日 昭和54年
U月23日 昭和54年
W月4日 昭和54年P2月1日 昭和55年 T月28日
RBC(×104) 467 413 481 502 509 468
Hb(9/d1) 15.2 13.6 15.4 15.0 16.0 14.2
Ht(%)幽 46 41 46 46 46 42
WBC
8600 6900 8100 8000翻
8㎜St 19 豊5 9 11 5 18
N
Seg 41 45 57 46 63 53TP(9/d1) 7.4 7.0 6.8 7.4 7.6 6.5
A/G 2.20 2.22 2.01 1.27 2.35 2.18
BUN(㎎/dD
20 19 17 14 15 17GOT(KU) ・18
58 21 37 25 17GPT(KU)
12 100 15 43 23 10Al−P(KAU) 6.4 9.5 7.0 9.3 7.3 ユ0.2
LDH(坦/L) 105 163 107 169 138
m
1.3 0.8 1.0ZTT
5.6 6.0 7.0CCLF (一) (一) (一)
Ca(㎎/dl) 10.2 10.1 9.5 9.9 9.2 8.4
P(mg/d1) 4.0 3.7 3.3 4.1 3.0 4.0
ESR(mm/h) 1 4 9 4 3 4
CRP (一) (一) (一) (一) (一) (一)
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戴1
写真2 症例1の病理組織像(HE染色×100)
が出現したので,近医を受診.その後も38℃台の 発熱が持続したため,1月17日近医に入院.風邪 のための発熱といわれる.解熱したので2月9日 退院自宅療養をしていた.2月15日頃より,再び 発熱,3月3日当院内科受診,X線にて脊椎の変 形を指摘され,3月14日当科に紹介される.
来院時所見ならびに経過:脊推懇懇は軽度であ るが,不焼性は著明で,第2,3,4腰椎棘突起圧 痛も強く,ラセーグ徴候は両側ともに陽性,両側
長母趾伸筋々力が低下を示し,両側の膝蓋腱反射 およびアキレス腱反射も低下していた.X線縁 で,第2腰椎骨破壊像および第3,4腰椎々間板 狭少を認めた(写真4).赤沈値59mm/h, CRP 2+,白血球数7200/mm3,ツ反陰性,髄液検査で は著変を認めず,髄液の一般細菌,結核菌検査で は共に陰性であった(表2).5月8日,第3腰 椎々体生検を施行した(写真5).採取組織の一 般細菌,結核菌検査は共に陰性であり,組織学的 検査でも骨髄の線維化を認めたが確定診断は得ら れなかった.臨床経過により化膿性脊椎炎が疑わ れ当科に転科となり,ギプス床装用,抗生剤投与 を開始した.昭和56年5月には,腰痛はなく,臨 床検査所見にも異常を認めなくなった(表2).
X線上第1,2椎体間の骨硬化,骨新生が著明で,
第3,4腰椎骨癒合も良好となり退院となる(写 真6),7月現在,自他覚的に問題はない.
症例3.53歳,男性,塚○信○,鉄工所勤務 主訴:発熱,腰痛
既往歴:特記すべきことなし
写真3 症例1の腰椎X線像(退院時)
写真4 症例2の腰椎X線像(初診時)
輔繭臨 ぎ
灘臨、
写真5
ず1∫
「
「 .
家族歴:特記すべきことなし 現病歴=昭和55年7月上旬,
、鋼,
璽霧勲
璽㌔翻一
症例2の病理組織{象(HE染色,×100)
誘因なく38℃台の
発熱と腰痛が出現.近医を受診し,腰椎x線上異 常なしと言われた(写真7).7月26日約40kgの 物を持ち上げた後より腰痛が増強した.その後も 37℃台の発熱が持続し,9月18日当科を受診す
る.
来院時所見ならびに経過:脊椎轟轟性著明,ラ セーグ徴候陰性,右長母趾伸筋々力の低下および 右下肢の軽度の筋力低下,右正4領域に知覚鈍麻
などの根症状を認めた.X線像では,第3,4腰 椎間狭少および骨破壊像を認めた(写真8).赤 沈値72mm/h, cRP 4+,白血球数11900!mm3,ま た尿素窒素60.7mg/d1,クレアチニン1.4等mgld1 異常値を認めたので内科併診となる(表3,表4).
10月2日,第4腰椎々体生検施行(写真9),採 取組織の一般細菌検査で黄色ブドウ球菌が検出さ れ,組織学的にも椎体炎が疑がわれたため,ギプ ス床装用,抗生剤投与を開始した.昭和56年7月 現在,X線上,第3,4腰椎間に骨硬化,骨癒合
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写真6 症例2の胸腰椎X線像(退院時)
写真7 症例3の腰椎X線像(他院初診時)
表2 症例2臨床検査所見
昭和55年3月12日
昭和56年5月6日
RBC(×104) 394 471
Hb(9/dl) 11 14.4
Ht(%) 33 40
WBC
7200 5000St 8 8
N Seg 51 44
TP(9/dl) 8.3 6.1
AIG 0.75 1.44
BUN(mg/d1) 20 16.3
GOT(KU)
15 16GPT(KU)
12u
Al二P(KAU) n.5 9.0
LDH(IU/L) 118
TTT
4.1ZTT
18.6 CCLF (十)Ca(mg/dl) 9.1 9.0
P(mg/d1) 3.6 2.4
ESR(mm/h)
59 5CRP (2+) (一)
表3 症例3臨床検査所見
昭和55年9月18日 昭和56年6月12日
RBC(×104) 323 505
Hb(9/d1) 9.8 14.4
Ht(%) 29 42
WBC
11900 6000St 4 3
『N
Seg
78 48TP(9/dD 6.3 6.9
A/G 0.8 1.46
BUN(mg/d1) 60.7 17.6
GOT(KU)
13 噛 15GPT(KU)
18 19AトP(KAU)
8.0LDH(IU/L) 239 288
TTT
0.8ZTT
8.1CCLF (一)
Ca(mg/dl) 9.5 9.3
P(mg/dl) 3.1 4.1
ESR(mm/b) 72 8
CRP (4+) (一)
表4 症例3尿検査所見 像を認め(写真10),硬性コルセット装着にて坐
位の状態まで改善した.
考察および総括
化膿性脊椎炎:は,一般に男性に好発し1)耐,発 症年齢は,骨髄血行動態が成人化する16歳以上の 報告例が多い7).罹患部位は腰椎,特に下部腰椎 に好発する8).我々の症例でも同様の傾向がみら れる.誘因としては,先行する化膿性疾患,外傷
等が考えられているが1)2)9),症例1に腰椎捻挫,
症例2に敗血症様発熱,.症例3に腎尿路感染を認 める.臨床症状を下出ら8)10)の化膿性脊椎炎と結 核性脊椎炎との比較表をもとに,我々なりに分類
してみると,表5に示すごとく,我々の症例は化 膿性脊椎炎の特徴を明らかに示していることがう かがわれる.X線上,国分らは,骨破壊像は,急 性型症例あるいは,成人例で著しく,反応性骨硬
昭和55年9月18日 昭和56年6月12日
尿検査 反 応 酸 酸
比 重 1,026 1,022
蛋白定性 (柵) (一)
糖定性 (一) (一)
ウロビリノーゲン N N
潜血反応 (冊 (一)
沈渣RBC 多 数 1〜2/1
WBC 5〜6/1 1/3〜5
扁平上皮 1/10』 1/5〜6
円 柱 レ10硝子円柱
P/2−3穎粒円柱 (一)
化は十分な化学療法を受けずに経過した成人例に 著しいと述べている1 ).すなわち,我々の症例1 は亜急性例で,他院で腰痛の治療をうけるも軽快 せず来院,臨床検査所見では異常を認めず,保存
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i:墾叢
写真8 症例3の腰椎X線像(初診時)
写真9 症例3の病理組織像(HE染色×100)
的治療後退院,再燃した症例で,X線上も,漸 次,反応性骨硬化像を示すようになった.また Pr五tchardらは, X線上,骨新生と骨硬化像をも つて治癒期としているが12),本症例では,硬化骨 に囲まれた中心病巣は,活動性を有していたと考 えられ,従って再燃は当然予測できたと反省して いる.本四で血液検査値が活動性を示さなかった のは,中心病巣は硬化骨によって健常骨から隔離
されているため,血流が妨げられ活動性を示さな かったものと考える.この様な症例では,椎体病 巣掻爬,骨移植術の適応があると考え,症例1 は,外科的療法を行った.症例2は急性例で,高 熱の治療を内科にて行ない,発症5ヵ月後,当科 受診,初診時X線像に椎間板狭少を認めていた.
本例は,適切な治療が行なえたなら,比較的早期 に離床させ得たと考える.症例3は,亜急性例で
義鑛、
購
麟
、鍵
灘難讐一
写真10 症例3の胸腰椎X線像(昭和56年7月〉
表 5
症例一1 症例一2
症例一3
化膿性脊椎炎 結核性脊椎炎性 ♂ ♂ ♂ ♂に好発 性差なし
発病年齢
32歳 56歳 53歳 全年齢層 全年齢層好発罹患部位 L4,5 Ll,2,3,4 L3,4 下部腰椎 胸腰椎移行部
発 熱 軽 度 高 度 中等度 高度・中等度 軽度・無
癒 痛 激 痛 激 痛 激 痛 激 痛 鈍痛,安静時無痛
白血球数
8600 7200 11900 増 加 正 常血 沈 1 59 72 著明充進 中等度元進
骨破壊像 中等度に停止 急速に進行 急速に進行 急速,中等度にて停止 緩徐,しばしば高度
骨硬化像 (十) (一) (一) 早期:なし
。癒期:著明
あっても軽度X 線 像
骨新生像 (一) 漸次認める 漸次認める 骨硬化出現後著明となる ま れ
骨萎縮像 (一) (一) (一) 早期に軽度あり 多 い
石灰沈着 (一) (一) (一) ま れ 多 い
腐骨形成 (一) (一) (一) ま れ 多 い
治 療 法 保存的+
O科的
保存的 保存的 原則として保存的療法 外科的療法を併用発症2ヵ月で本院受診,生検において,起炎菌で
最も多い黄色ブドウ球菌1)4)6)13)が検出され,早期
に抗生剤投与およびギプス床装用がなされ比較的経過良好な症例である.
以上の結果を総括してみると,我々の症例は,
3例ともに男性成人例で諸家の報告傾向に一致し
一1479一
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た臨床像を示した.診断法として重要な手技とさ れる骨生検においては14)15),3例ともに非特異的 炎症所見を認め,1例に起炎菌が証明されたにす
ぎない.治療は,原則的にはギプス床装用,抗生 剤投与を行ない,亜急性の1例に外科的療法を行 なった.我々は,化膿性脊椎炎の治療法として,
早期離床可能な保存的療法を最良の治療と考えて おり,また的確なx線読影と臨床像を大切にした 早期診断,早期治療が当然のことながら良好な経 過と治癒にみちびくために,重要であると考え
る.
結 語
最近3例の化膿性脊椎炎を経験したので,臨床 経過に,いささかの文献的考察を加えて報告す
る.
(本稿の要旨は昭和56年2月27日東京女子医科大学 学会第237回例会において発表した).
文 献
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