オパリナス粘土の微視的構造と分子動力学によるモデル化について
(株)大林組 正会員 ○志村 友行,武内 邦文 名古屋大学 正会員 市川 康明 東京工業大学 河村 雄行 NAGRA Peter Blümling
1.はじめに
放射性廃棄物の地層処分において,母岩の長期にわたる力学的挙動の予測は,安全評価信頼性向上や施設の 合理的設計等の観点から重要な課題の一つである.オパリナス粘土は,モン・テリ岩盤研究所(スイス)で研 究されている堆積岩で,スイスの高レベル放射性廃棄物処分の有力な候補母岩の一つである.オパリナス粘土 は,微視的レベルで見た場合,粘土鉱物等の微細粒子,水,空隙等から構成されるミクロ非均質材料であり,
材料の長期挙動は本来,原子・分子レベルの現象に起因している.このような材料の長期挙動評価のためには,
分子・鉱物レベルの特性に基づく微視的挙動を解明し,それを均質化手法へ展開していく手法(MD/HA手法)
が有効である1).筆者らは,モン・テリ岩盤研究所における国際共同研究の一環として,オパリナス粘土の熱
−水−応力−化学(THMC)連成挙動を評価することを目的に,MD/HA 手法のオパリナス粘土への適用可能 性についての研究を実施中である.
本論文では,MD/HA手法の適用性検討のうち,オパリナス粘土の微視的構造と分子動力学によるモデル化 について,その概要を報告する.
2.MD/HA手法の概要2),3)
MD/HA 手法は,巨視的な弾性体,粘弾性体,弾塑性
体,流体やそれらの混合物体について,分子シミュレー ション(MD)により導出された構成化合物や境界の物 性を用いて均質化解析(HA)を行い,その応答により,
必要に応じて分子シミュレーション法で局所物性を修正 して,巨視的な系の長時間挙動を解析する方法である(図
−1).実際の検討手順は,1)微視的構造の特徴づけ,2)
MD解析による局所材料特性の確認,3)HAによる微視 的特性の巨視的挙動への関連付けと展開,の3段階とな り,適用に際しては,分子運動により直接影響を受ける 構成要素の微視的特性を適切に評価し,どのように巨視的特性 と結びつけるかが重要なポイントとなる.
3.オパリナス粘土の顕微鏡観察
微視的構造の特徴づけのため,モン・テリ岩盤研究所におい て採取された2種類のコア試料(Type-A, B)を用いて共焦点レ ーザー顕微鏡(CLSM),鉱物顕微鏡,および走査型電子顕微鏡
(SEM)による観察を実施した.2 種類のコア試料は見かけ上 非常に異なっており,Type-Aは黒っぽく強い片理構造を示して いるのに対して,Type-Bは灰色の塊状で片理構造は弱い.
SEMによる観察の結果,2種類の試料の粘土鉱物構造は非常
マクロ連続体 ミクロ非均質体 原子・分子
分子動力学法(MD)
•原子・分子挙動評価
•構成材料の物性評価 均質化解析(HA)
ミクロ・マクロ挙動評価
材料物性
ミクロ場の環境条件
(時間と共に変化)
初期ミクロ構造
マクロ連続体 ミクロ非均質体 原子・分子
分子動力学法(MD)
•原子・分子挙動評価
•構成材料の物性評価 均質化解析(HA)
ミクロ・マクロ挙動評価
材料物性
ミクロ場の環境条件
(時間と共に変化)
初期ミクロ構造
図−1 MD/HA手法の概念
キーワード: 放射性廃棄物,地層処分,堆積岩,分子動力学法,長期挙動 連絡先: 〒108-8502 東京都港区港南2-15-2 TEL 03-5769-1309, FAX 03-5769-1977
Framboidal Pyrite Framboidal Pyrite
図−2 SEM観察結果(Type-A)
土木学会第60回年次学術講演会(平成17年9月)
-85- 3-043
に似ていることが判明した.このことより,Type-A に見られる鏡肌は,微視的な粘土鉱物構造に影響 をおよぼさないことが示唆される.図−2は,SEM 観察結果の一例であるが,試料中には化学的特性 に重要な役割を果たす Framboidal pyrite の存在が 確認できた.
図−3は,両試料に対するXRD分析の結果であ る.分析により同定された鉱物は,石英(Q),カオ リン(K),マイカ・イライト(M),カルサイト(C),
スメクタイトまたは緑泥石等である.X 線パターンより推定さ れる主要鉱物は,石英とカオリナイトであり,マイカ・イライ ト,カルサイト,スメクタイト・緑泥石は少量である.
4.MD解析
カオリナイトがオパリナス粘土の力学挙動を支配する主要鉱 物であるとの知見に基づき,カオリナイト単結晶MDモデルに よる,一連のMD 解析を実施した.図−5 は,図−4 に示すカ オリナイトモデルによるせん断挙動の解析結果の一例である.
解析は,カオリナイトの応力−ひずみ特性および降伏強度を算 定するため,応力一定の条件下で実施した.MD 解析の結果,
カオリナイト単結晶は,y-z 方向のせん断強度が最小であるこ とが判明した.また,図にも示されているように,カオリナイ トの降伏後の構造変化は,非常に複雑であることが予見される.
5.まとめ
微視的構造の同定は,MD/HA 手法において非常に重要な部 分であり,本研究においても最初に,各種顕微鏡による試料の 観察を実施した.観察の結果,カオリナイトは,オパリナス粘 土を構成する主要鉱物の1つであることが判明した.この知見 に基づき,カオリナイトのMDモデルを作成し,一連のMD解 析を実施した結果,カオリナイトの力学的特性に関する知見を 取得した.
今後は,MD により得られたオパリナス粘土の微視的物性値 に基づきHAを実施し,MD/HA手法に基づくオパリナス粘土の 物理・化学モデルを作成して,長期の力学挙動予測解析への適 用性を検討していく予定である.
このような微視的なアプローチを用いて粘土岩の挙動を解明
するプロセスは,今後の日本の放射性廃棄物処分技術の研究開発にも寄与するものであると考える.
参考文献
1) 市川, 河村, 中野, 北山 (1999):分子シミュレーション法と均質化法の結合解析:高レベル放射性廃棄物 の地層処分における緩衝材挙動への適用, 日本原子力学会誌, 1999, Vol. 41, No.2, pp 88-97.
2) 中岡他:緩衝材の長期廃棄体支持性能に関する研究(その3),土木学会第59回年次講演会, 2004年.
3) 中岡他:ベントナイト緩衝材のミクロ構造に基づいた長期力学的挙動評価の研究, 土木学会第56回年次講 演会, 2001年.
Oxygen Aluminum Silica Hydrogen
:酸素
:アルミニウム
:シリカ
:水素 Oxygen Aluminum Silica Hydrogen
:酸素
:アルミニウム
:シリカ
:水素
:酸素
:アルミニウム
:シリカ
:水素
図−4 カオリナイト単結晶モデル
Pxy-gamma
Yield strength Pxy=3.1 GPa 0.0
1.0 2.0 3.0 4.0
Stress / GPa
0 2 4 6
Strain / %
Pxy-gamma
Yield strength Pxy=3.1 GPa
Pxy-gamma
Yield strength Pxy=3.1 GPa 0.0
1.0 2.0 3.0 4.0
Stress / GPa
0 2 4 6
Strain / %
図−5 カオリナイトのせん断応答
:Type-A :Type-B
M M M K MK
K
K K
Q Q Q Q Q
Q Q
Q C Q
Q
M :Type-A
:Type-B
M M M K MK
K
K K
Q Q Q Q Q
Q Q
Q C Q
Q
M :Type-A
:Type-B
M M M K MK
K
K K
Q Q Q Q Q
Q Q
Q C Q
Q M
図−3 XRD試験結果 土木学会第60回年次学術講演会(平成17年9月)
-86- 3-043