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第第第第3333章章章章

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第 第

第 第3 3 3 3章 章 章 章

LCC

に に基 に に 基 基 基づく づく づく づく設計合理化 設計合理化 設計合理化 設計合理化

3.1 はじめに

近年,土木設備のコスト縮減と安全性の確保という二律背反の要求をバランスさせなが ら設計を行うことが土木技術者の大きな役割の一つとなりつつある.このような設計ニー ズに応えるための設計概念が「性能設計」である.

港湾施設の設計は,通常,港湾設備基準に準拠して行われるが,2000 年の基準改訂によ り性能設計が標準となった1), 2).港湾施設のうち,ケーソン式防波堤は比較的単純な構造を もつ設備であり,性能設計の適用により上述の経済性と安全性のトレードオフを考慮した 設計が可能と考えられる.そこで,本検討ではケーソン式防波堤を対象として,経済性と 安全性に基づく性能設計の適用性評価を行う.

従来用いられてきたケーソン式防波堤の設計法は,破壊安全率に基づいており,ケーソ ンがわずかでも変形した,すなわち動いた場合には「被災」とみなす.防波堤の詳細な挙 動が十分に解明されていない時代においては,その変形挙動の不確定性が大きいため変形 領域に入ることを許さないとすることは,十分な安全裕度を確保するための妥当な設計法 だったと考えられる.すなわち,経済性よりも安全性をより重視する必要があった.しか し実際は,たとえケーソンが変形しても,防波堤の性能が即座に損なわれるわけではない.

また,変形の程度が小さければ防波堤の性能に何ら影響しない場合も多い.一方,最近で はコンピュータ技術の目覚しい発展や解析技術の進展に伴い,これまで以上に構造物の挙 動の把握が容易になってきている.このため,これらの技術により,従来不確定性の高か った挙動がより明らかになり,その分不必要な安全裕度が取り除け,これまで以上に高い 経済性の実現が可能となってきている.

このような潮流の中で,再び設計の原点に立ち戻り,港湾および港湾施設の機能に基づ き,防波堤の本来必要な機能・性能を明確にし,設計耐用期間中の滑動,沈下等の変形挙 動を精度よく評価できれば,経済性と安全性の確保という二律背反の両立が可能となり,

従来設計に比べ構造物の実挙動を反映したより合理的な設計体系を確立することができる.

そこで本検討では,ケーソン式防波堤を対象に,設計上クリティカルとなる滑動および 沈下という2つの破壊モードを考慮したモンテカルロシミュレーション(以降MCSという)

を基に, LCCという経済指標を用いることによって,設計合理化を可能とする確率論的な

設計法を提案する3)

(2)

3.2 防波堤の従来設計と性能設計の違い

防波堤(堤体)の概要図を図-3.1に示す.

従来の防波堤の設計は破壊安全率を用いて行われており,計算上の物性値等の設計条件 は確定値として付与され,外力および構造耐力に関するばらつき,推定誤差などの不確定 要因に対する安全裕度は許容安全率を 1.0 より大きな値とすることで経験的に対処してい た.このとき考慮した主な破壊モードは,「滑動」,「転倒」および「基礎の支持力」の3つ である.これら3つの破壊モードに対して各々安全率を定義し,各々の許容安全率(例え ば「滑動」に対しては1.2)すべてを満足するように堤体の断面を決定していた.安全率は,

堤体という剛体が動かないことを確実に保証できるように定義しており,本来の限界状態 に対し大きめの安全裕度を予め確保していることとなるが,設計では安全側に考え,安全 率の不足そのものを被災とみなしていた.

上述のような方法は,設計上簡便であり同じ品質をもつ構造物を多数建設する際には,

非常に有用である.しかし一方で,このような安全率による設計法は,構造物の損傷また は破壊のメカニズムに基づいた設計法とは言えず,その安全裕度を正確かつ定量的に判断 しているとは言い難い.また安全率の不足がすぐに構造物の被災につながるとは考えにく

図-3.1 防波堤断面に作用する様々な外力

堤体

波浪 〔滑動〕

波 力

自 重

摩擦力 揚圧力

マウンド

〔沈下〕

(3)

く,実際に防波堤が滑動したにもかかわらず設備として機能を維持している例が見られる.

以上のように,従来設計法に則って設計の合理化すなわちコストダウンを実施すること は困難であり,本検討では性能設計を活用することによって防波堤の破壊メカニズムに基 づき,設計合理化の可能性を検証する.なお,図-3.2に防波堤の設計法に関する発展の経緯 を示す4).本検討では,性能設計体系のもと,滑動および沈下という変形量に基づいた信頼 性設計法を活用するものとする.

さらに,性能設計を行うに当たっては,図-1.9に示すように,①性能の設定,②限界状態 の設定,③外力の設定,④解析,⑤性能照査という5つのキーとなる項目に分けて考える とわかりやすい.この5つの項目別に,防波堤に関する従来設計と性能設計との違いを整 理すると表-3.1のようになる.

図-3.2 防波堤の設計法の発展4) 従来設計法

従来設計法 従来設計法 従来設計法

力の釣り合い式 (変形=被災)

確定論的設計法 (設計波一波)

変形 変形変形

変形をををを許容許容許容許容したしたしたした設計法設計法設計法設計法

・外力と変形の関係 (許容変形量)

信頼性設計法 信頼性設計法 信頼性設計法 信頼性設計法

・確率論的な設計法 (被災遭遇確率)

変形を考慮した信頼性設計法 外力と変形の関係

(許容変形量)

確率論的な設計法 変形の確率 耐用年数全体

(4)

表-3.1 防波堤に関する従来設計と性能設計との比較

項目別 従来設計 性能設計

性能設定 明確に設定しない,概念的 明確に設定

(例えば3段階)

限界状態 「堤体が動かない」ことが前提

堤体が動くことを考慮 例えば上記の性能の

段階に応じて設定

外力

外力レベル1段階 50年確率波相当だが

明確な定義なし

外力レベル3段階 例えば,上記性能の段階に

応じて30,50,100年確率波

解析 剛体の釣合い式 運動方程式

性能照査 安全率による確定評価 滑動量による確定評価 超過確率,LCC等による確率評価 註)性能設計では,性能マトリックスを用いた多段階耐震設計法5)に見られるように,各性能に

対応した外力レベルを設定することが多い.

(5)

3.3 防波堤の性能設計の考え方

3.3.1 防波堤の機能

ここでは,防波堤の機能(役割または働き)を考える.最初に,防波堤も一つの構成要 素である港湾全体の機能を考えてみる.

港湾というのは,物流と生産という二つの機能を備えている.物流面から考えると,港 湾は陸上から海上または海上から陸上への人間・物資等の橋渡しを行い,円滑かつ効率的 にこれらの流れを保つための重要な基地と言える.一方,生産という面から捉えると,港 湾は海上から陸上へ原材料(燃料や原料等)を受け入れるとともに,陸上から海上へ生産 物(製品や加工品等)の払い出しを行うための工業およびエネルギーの基地としての重要 な役割を担っている.

次に港湾を構成する港湾施設の機能を考える.港湾施設としては水域施設である航路・

泊地,外郭施設である護岸,係留施設であるバース・岸壁など様々な種類の設備があるが,

これら設備に共通する機能としては,港湾内における物質や人間などの海上輸送を安全に 行うとともに円滑かつ効率的に行えるようにすることである.港湾施設の一つである防波 堤の機能は,港湾を利用する船舶が安全に係留し,荷物の積降ろしおよび人の乗降が円滑 にできる水域を確保することと言える.このように,機能面に関する検討の結果,港湾,

港湾施設および防波堤の機能を整理すると,図-3.3のようになる.

(6)

3.3.2 防波堤の性能の設定

3.3.1 で設定した防波堤の機能に基づいて,防波堤が保有すべき性能を整理してみる.こ

こでは,性能として要求性能と目標性能を定義する.なお,「要求性能」とは構造物の用途,

周辺環境および機能等から,所有者・管理責任者が求める性能のことであり,一般的な表 現で記述される.また「目標性能」とは要求性能を満足させるために構造物の設計で実現 しようとする性能をいい,工学的な表現で記述される性能である6)

また高波来襲時など外力に応じて設定すべき性能は「耐波性能」とする.防波堤の耐波 性能を設定するにあたっては,いかなる大きさの外力レベルに対しても常に同じ性能を保 つように設計することは過大な初期建設費用を要し,必ずしも合理的とは言えない.この ため,性能マトリックスによる多段階耐震設計法5)に示されるように,外力レベルの違いに 応じて保有すべき耐波性能レベル,すなわち,損傷の許容度が異なるように設定するほう が現実的かつ合理的である.このことから,耐波性能は,表-3.2に示すような評価視点,例 えば,各被災レベル(性能の超過)による第三者を含む人命への影響度合いや復旧難易度 などを参考にしながら,設定する必要がある.

物流機能

物流基地として海上交通と陸上交通の連携を図り,物資等を円滑に流通させる.

生産機能

工業基地,エネルギー基地として燃料・原料の受入れと製品等の払出しを行う.

港湾の機能

港湾内での海上輸送を円滑にし,物資や人を安全に保護する.

港湾施設の機能

港湾を利用する船舶が安全に係留し,荷物の積降ろしおよ び人の乗降ができる水域を確保する.

防波堤の機能

図-3.3 港湾,港湾施設および防波堤の機能

(7)

表-3.2 各被災レベルにおける影響度に関する評価7) 不具合の評価(影響の大きさによる評価) 評価の視点 被災レベル2

[耐波性能1超過]

被災レベル3

[耐波性能2超過]

被災レベル4

[耐波性能3超過]

取り返しはつくか 取り返しはつくが若干 の修復作業が必要とな る

取り返しはつくが短期 間の修復作業が必要と なる

取 り 返 し は つ く が 撤 去・再構築作業が必要と なる

構造影響は限定的か 1函程度と非常に限定的 第三者には影響ない

影響しない

関係者への影響もまず ない

影響しない

関係者に影響する可能 性も非常に低い

影響しない

関係者に影響する可能 性も低い

修復は容易か 期間・費用的にも容易 数週間程度要するが費 用は小さい

撤去・再構築が必要であ り長期間要するが比較 的容易

性能低下は穏やかか 事後の性能低下は穏や か

事後の性能低下は穏や か

事後の性能低下は穏や か

前兆があるか 気象・海象情報による予知可能

関係者は我慢できる か

やむを得ないと許容 やむを得ないと許容 耐用期間内に起こる頻 度が低いことからやむ を得ないと許容 註)被災レベル1は特段不具合は発生しないレベルと想定し,上記の評価からは省いている.

本検討では,性能超過による人命への影響は小さいと考えられるため,防波堤の耐波性 能は,主に復旧難易度と復旧費を考慮して,「健全」,「機能保持」,「長期機能喪失回避」と いう被災レベル1~3とも対応する3段階とした.性能マトリックス 5)に基づく設計では,

この3段階に設定区分された性能に対応して外力レベルも3段階に設定し多段階設計を行 うこととなる.以上のように,防波堤の性能は,要求性能から目標性能というように,よ り詳細に性能を表現するにつれて表の中で言えば縦軸下方に示される一方,耐波性能1か ら耐波性能3というように外力レベルが大きくなるにつれて表中横軸右方向に示される.

具体的に防波堤の性能を設定するにあたって,要求性能は設備の所有者あるいは管理責 任者が設定すべきもので,防波堤単体というよりも港湾全体に対する性能と位置付け,性 能の形態としては「安全性」および「使用性」に着目して設定することとした.また目標 性能は設計者が設定すべきもので,防波堤単体に対する性能と位置付け,性能の形態とし ては「静穏性能」および耐荷性能の一種である「変形性能」に着目して設定することとし た.

要求性能設定における耐波性能の区分は,港湾内の諸作業および設備・人身に与える影

(8)

響度合いの違いを考慮して,耐波性能1~3を設定した.すなわち,耐波性能1では「諸 作業および設備・人身への影響度は全くなく,使用性および安全性ともに全く問題がない」

状態とした.耐波性能2では,「諸作業への影響はなく人身への危険性もないが,設備は軽 微な損傷が認められ短期間で復旧可能な」状態とした.耐波性能3では,「人身への安全面 での影響はないが,設備の損傷により復旧作業が必要,作業・活動面で長期的な支障とな らない」状態とした.

目標性能設定における耐波性能の区分は,上述の要求性能における耐波性能区分1~3 に基づき,静穏性能と変形性能に分けて設定した.静穏性能については各々の耐波性能を 満足するために必要な防波堤配置とその延長という点で整理した.また変形性能について は,供用期間における船舶の操船・荷役・乗降に影響を及ぼすような防波堤の滑動・沈下など の変形程度を熟考することによって各耐波性能のレベルを設定した.なお,本検討では防 波堤の構造設計上は静穏性能から設計変数(堤体幅)は決まらない.

目標性能(例えば「変形性能」)の満足度を確認(性能照査)するためには,さらに適切 な工学的指標(ここでは「照査項目」と呼ぶ)とその許容値を決める必要がある.例えば,

防波堤の滑動という破壊モードに対しては,照査項目として「滑動量」とその「許容滑動 量」を用いたり,基礎の支持力モードに対しては「沈下量」とその「許容沈下量」を用い ることが考えられる.

以上より,上述の性能に関する検討結果を表-3.3に整理して示す.なお,ここで設定した 耐波性能区分は,後述する被災レベルおよび災害復旧費と密接に関係するものである.

(9)

表-3.3 高波浪来襲時における港湾および防波堤の性能の設定例

性能設定の分類 耐波性能1

(健全)

耐波性能2

(機能保持)

耐波性能3

(長期機能喪失せず)

港 湾 内 港 湾 内 港 湾 内

港 湾 内 のの 諸 作 業諸 作 業諸 作 業 お よ び諸 作 業お よ びお よ びお よ び 人 身人 身

人 身人 身 とと 設 備設 備設 備 に設 備に 対対 し てし てし てし て 全

く影響影響影響を影響を与与えないえないえないえない

港 湾 内 港 湾 内港 湾 内

港 湾 内 のの 諸 作 業諸 作 業諸 作 業諸 作 業 にに 影 響影 響影 響影 響

を与与えないえないえない.えない 設 備

設 備設 備

設 備 にに 対対 す るす るす るす る 影 響影 響影 響影 響 はは 軽

微でで運用上問題運用上問題運用上問題ない運用上問題ないないない

港湾内 港湾内 港湾内

港湾内のの諸作業諸作業諸作業が諸作業が長期長期長期に長期 影響受影響受影響受

影響受けるようなけるようなけるようなけるような被災被災被災被災を

生じないじないじないじない

使

港湾内での日常の諸作 業に支障を与えない.

工業施設,発電所等の 稼 働 に 支 障 を 与 え な い.

港湾内での日常の諸作 業に支障を与えるよう な被災を生じない.

・ 工業施設,発電所等の 稼働に重大な支障を与 えない(短期間で復旧 可能)

港湾内での諸作業への 支障は復旧作業により 除去することが可能で ある.

工業施設,発電所等の 稼働への支障は補強に より除去可能.

・ 港湾内の人身と設備の 安全を損なわない.

・ 港湾内での諸活動が制 約されるような危険を 生じない.

・ 港湾内の人身と設備の 安全を損なわない.

・ 港湾内での諸活動が制 約されるような危険を 生じない.

・ 港湾内の人身の安全を 損なわない.

・ 港湾内での諸活動が長 期に制約されるような 被災を生じない.

・ 高波浪後の港内静穏度 が船舶の操船・荷役・乗 降に影響を及ぼさない ような防波堤配置・延 長とする.

港湾内での波浪によっ て岸壁等の港湾施設の 安全性に影響を与えな い.

・ 港湾内での波浪によっ て岸壁等の港湾施設の 安全性に影響を与えな い.

・ 高波浪時に船舶係留限 界以下となる水域を確 保できる防波堤配置・

延長とする.

・ 港湾内での波浪によっ て岸壁等の港湾施設の 安全性に影響を与えな い.

・ 高波浪時に船舶係留限 界以下となる水域を確 保できる防波堤配置・

延長とする.

・ 供用期間において,船 舶の操船・荷役・乗降に 影響を及ぼすような防 波堤の滑動・沈下・変形 を生じない.

・ 供用期間において,船 舶の操船・荷役・乗降に 有害

有害有害

有害なな影響を及ぼすよ うな防波堤の顕著な滑 動・沈下・変形を生じな い.

・ 高波浪後に港内諸施設 に有害有害有害有害なな変形変形変形を発生さ変形 せるような防波堤の滑 動・沈下・変形を生じな い.

(10)

3.4

防波堤の性能設計の手順

防波堤の性能設計の手順を図-3.4 に示す.まず,設計地点の自然条件や港湾の利用状況,

制約条件等の社会条件を考慮して防波堤の機能・要求性能を設定し,気象・海象条件,地 形・地盤条件,材料特性や外力条件などを明確にする.そして,これらの条件に基づき,

適切な解析手法を用いて応答値を算定し,応答値と限界値(許容値)の比較により性能を 直接照査する.この解析手法や照査方法には簡便な方法から詳細な方法まで複数の手法が あるが,今回の解析では,安全率ではなく,運動方程式によって防波堤の滑動量および沈 下量を算定するとともに,MCS を用いてこれら変形量の確率分布も算定する.確率分布は 安全性および経済性を評価する際に用いられる.

このように,性能設計は従来設計の破壊安全率による確定的な評価と異なり,設計耐用 年数間に来襲する波浪に対して滑動量および沈下量という変形量の確率分布を用いる評価 を可能とする.なお,本検討では応答値が限界値以下となるように設計変数の値を試行錯 誤的に変えて性能を満足する設計値を探すが,この変数としては堤体幅を用いることとす る.

図-3.4 防波堤の性能設計の手順 防波堤の機能および性能の設定

断面諸元(堤体幅)の仮定

外力条件の設定

解析(応答値の算定)

性能照査(応答値と限界値の比較)

終 了

応答値≦限界値 NG OK

(11)

3.4.1 防波堤の変形量算定方法

前述のごとく,考慮すべき防波堤の変形量は滑動量と沈下量とする.防波堤の滑動量の 算定方法は,堤体滑動時の運動方程式に基づく谷本ら8)の滑動量算定モデル(1波あたりの 滑動量算定モデル)を用いることとする.すなわち,(3.1)式に示す堤体の加速度x&&Gを2回 数値積分することにより堤体の変位を求める.

(

W/g+Ma

)

⋅&x&G=PFRFD (3.1)

ここに,Wは堤体の空中重量,gは重力加速度,Maは付加質量,FRは摩擦抵抗力,FDは 流体抵抗力である.また,Pは水平波力で,その時間変化は砕波力を対象とした三角形近 似の波力モデルと重複波圧のような作用時間が長い正弦波近似の波力モデルを組み合わせ たモデルを用いる8)

一方,沈下量の算定方法は,円弧すべり解析法に基づく土田ら9)による沈下量算定モデル

(1波あたりの沈下量算定モデル)を用いることとする.すなわち,(3.2)式に示す円弧すべ りの回転角加速度θ&&を2回数値積分して回転角度∆θを求め,(3.3)式にて鉛直移動量(沈下 量)を求める.ただし,1波あたりの波力の時間変化は,滑動量の算定方法と同様に,三 角形近似と正弦波近似の組み合わせモデルとする8)

g M

I⋅θ&&= ⋅ (3.2)

θ θ⋅ ⋅sin

= R

S (3.3)

ここに,Iはケーソンを含めた円弧すべり原点に関する円弧すべり体の形状二次モーメント,

Mは円弧すべりの起動モーメントと抵抗モーメントの差分で水平波力Pの関数,gは重力 加速度,Rは円弧すべり体の半径,Sは沈下量である.

3.4.2 外力

防波堤の設計で考慮すべき外力は波力であるが,この波力をもたらすのは高波である.

高波の大きさは沖波波高によって表されるが,設計上用いる沖波の高さは対象とする構造 物が設置される地点における高波の出現特性を考えて設定する必要がある.

谷本ら8)の滑動量算定モデルおよび土田ら9)の沈下量算定モデルは1波あたりの変形量を 算定するモデルであるが,設計耐用期間中の総変形量を算定するためには,異常時波浪の 発生特性を考慮し,変形に寄与する高波浪の出現頻度とその経時変化を適切に評価するモ

(12)

デル(「時化モデル」という)を構築する必要がある.

防波堤の被災に寄与する高波浪の設計耐用期間中における出現回数とそれぞれの極大波 高との関係については,太平洋岸の代表地点の波浪観測データをもとに極値統計分布(ワ イブル分布)に従って発生するものとした.また設計耐用期間中の時化そのものの発生回 数は,下迫・高橋10)と同様に,年1回とし,極大有義波高は4.0m以上とした.

さらに,防波堤の滑動量および沈下量算定のための,高波浪来襲時の有義波高および有 義波周期の経時変化については,阿部ら 11)が太平洋岸の代表3地点における波浪観測の高 波浪データに基づいて設定した極大波高と時化の継続時間の関係式を用いることとした.

なお,高波以外にも防波堤に影響を及ぼす外力として地震が考えられるが,地震の発生 頻度は時化の発生頻度よりも低いこと,および設計上は地震よりも高波がクリティカルと なることから,地震による外力は設計上考慮しないこととする.

3.4.3 MCS による変形量の確率分布算定方法

本検討では,防波堤の変形挙動を把握するために,設計耐用期間における防波堤の総滑 動量および総沈下量を推定することとする.ただし,変形量の算定にあたっては,沖波波 高,潮位,波の屈折・浅水等の波浪変形解析上の推定誤差,波力算定式の推定誤差,堤体 と基礎マウンドの間の摩擦係数,時化の継続時間およびその有義波周期という不確定性が 大きいため,変形量自体を確定的に算定することには無理がある.このため,防波堤の変 形挙動の把握にあたっては,図-3.5に示すように設計条件の推定誤差やばらつきを考慮した MCS4)を用いて,設計耐用期間における防波堤の滑動量と沈下量を確率分布として求め,堤 体の安全性および経済性の評価に役立てることとする.

実際の変形量の算定にあたっては,1回の沖波波高から堤体位置での波高および波力を 決め,1波ごとの滑動量および沈下量を同時に求める.次に時化モデルによって決まる1 波群の変形量,すなわち年あたりの変形量を求める.最後に,設計耐用期間中の総変形量 を求めるため,耐用期間中に発生するすべての時化に対する変形量を求めなくてはならな い.ここでは1年に1回の頻度で時化が発生するものと仮定し,1回の時化による変形量 の計算を耐用年数分繰り返し,これらを耐用年数分積算することによって耐用期間中の総 変形量を求める.前述のように,変形量算定にあたって考慮すべきいくつかのばらつきを 取り込むために,乱数を用いて何回も前述の計算を繰り返し,耐用期間中の総滑動量およ び総沈下量の組み合わせデータを蓄積し,両者の確率分布を算定する.

(13)

沖波波高の設定

堤体位置での波高の算定

時化モデルの設定

1波による波力の算定

沈下量算定解析

1波当たりの沈下量

1時化当たりの沈下量 沈下モデル 滑動量算定解析

1波当たりの滑動量

1時化当たりの滑動量 滑動モデル

耐用期間中の総滑動量および総沈下量(1回の試行)

滑動量および沈下量の確率分布

時化の出現回数分の繰返し

(設計耐用期間分)

乱数を変えて繰返し

図-3.5 MCSによる変形量の確率分布算定フロー

(14)

3.5 防波堤の経済性評価

3.5.1 防波堤の設計上考慮すべき費用

2章で述べたとおり,土木構造物の経済性を評価するには,設計上検討すべき耐用期間 内に生じるすべての費用(LCC)を用いる必要がある.新規に建設する防波堤に関して,そ の設計耐用期間内に生じる費用は一般的に,初期建設費用と期待損失費用を考えればよい.

なお,ここでは期待損失費用をリスクとする.防波堤は,一般的に顕著な経年劣化がなく 定期的な補修・補強が必要のない構造物であることから維持管理費用CMは非常に小さく一 定としても差し支えない.また,防波堤という一土木設備が生み出す便益を定義すること は困難であるとともに,現段階で,それを客観的に定量化しうる方法が存在しないことか ら,本検討では便益Bは設計耐用期間にわたり一定とする.撤去費用CDについても同様に 一定とした.

以上より,防波堤の初期建設費用の合理化検討の中で用いる費用項目のうち,LCC に影 響するのは,初期建設費用CIと性能超過による期待損失費用CRのみである.なお,一定と したCM,CDおよびBは,本検討では対象外とする.よって本検討では,CIとCRのトレー ドオフ問題に帰着し,LCC の最小化を図るための最も基本的な考え方を用いる.なお,こ こでの設計変数は堤体幅であり,これにより初期建設費用の大きさも決まる.

R

I C

C

LCC= + (3.4)

(15)

3.5.2 防波堤変形量の確率分布の算定

図-3.5に示したMCSに基づき,滑動量および沈下量データの蓄積が可能であり,これら が離散的に算定できることから,この二つの変形量に関する同時確率関数を求めることが できる12).滑動量および沈下量の同時確率関数の概要図を図-3.6に示す.

滑動量をX,沈下量をYとすると,滑動量X=xかつ沈下量Y=yの発生確率は下記のよう に定義できる.

(

x y

)

P

(

X xY y

)

pX,Y , = = , =

(3.5)

またこの場合,分布関数は次の形をとる.

( ) ∑ ( )

=

y y x x

i i Y X Y

X

i i

y x p y

x F

, ,

, , , (3.6) 図-3.6 滑動量および沈下量の同時確率関数の概要図

滑動量x 沈下量y

確率pX,Y(x,y)

(

,

)

1.0

,

, =

y x

Y

X x y

p

(16)

3.5.3 LCC による評価

3.5.1で示したように,防波堤の LCCは初期建設費 CIと被災が生じた場合のコスト増分

である期待災害復旧費(期待損失費用)CRという二つの費用の和により算定するものとし,

LCC による設計とはこれを最小化する堤体幅を求めることである.本検討では,表-3.2 に 示すように,荷役の停止や資産・人命の損失など,堤体の破壊によりもたらされる間接的 な被害による費用は小さいと考えられるので,これらを試算の対象としないこととする.

またLCCの算定では,社会的割引率は考慮しない.

LCC を構成する費用である期待災害復旧費は,高波浪の来襲によって引き起こされるが 沖波波高による波力などいくつかの設計条件のばらつきにより変形量(滑動量および沈下 量)の大きさも確率的に変動すること,および復旧費の程度も変形量のレベルにより異な ることから,確率統計的手法に基づき算定する必要がある.

滑動量,沈下量それぞれの大きさと災害復旧費との関係は,図-3.7に示すとおりとする.

図-3.6および図-3.7より,期待災害復旧費は下記のように求めることができる.

期待災害復旧費CR

) , (xy All

{[滑動量xかつ沈下量yが発生する確率]

×[滑動量xかつ沈下量yが生じたときの災害復旧費]} = p

(

x y

)

fXY

(

x y

)

y x All

Y

X , , ,

) , (

, ×

(3.7) 滑動量x

沈下量y 災害復旧費z

滑動および沈下により生じる災害復旧費曲面

0

図-3.7 滑動および沈下による災害復旧費用の概要図

z = fX,Y (x,y)

(17)

ここに,pX,Y (x,y)は滑動量X=xかつ沈下量Y=yが発生する確率,fX,Y (x,y)は滑動量X=xかつ沈 下量Y=yが生じたときの災害復旧費である.

以上より,(3.4)式に(3.7)式を代入し,LCCは(3.8)式のように表すことができる.

(

x y

)

f

(

x y

)

p C

LCC XY

y x All

Y X

I , , ,

) , (

,

+

=

(3.8)

3.5.4 直立ケーソン堤への適用 (1) 計算条件

3.5.1~3.5.3に示したLCC評価手法を基に,直立ケーソン堤の試設計を行う.検討対象と

する防波堤モデルは図-3.8に示すとおりとする.ここでは,設置水深がD.L-20.0m,設計 沖波波高:(H1/3)0=8.24m,有義波周期:(T1/3)0=14.0secとし,従来の破壊安全率による設 計法で言えば,滑動許容安全率で1.2,支持力許容安全率で1.0程度を堤体幅の設計の目安 とする.

堤体幅WBを設計変数とし,検討ケースは19.2m,18.5m,18.0m,17.5m,17.0mの5ケ ースとする.なお,従来設計による堤体幅は 19.2m である.滑動量および沈下量の計算で は設計耐用年数は 50 年,高波浪の出現回数は 50 回(1回/年)とする.MCSで考慮する設 計条件のばらつきおよび推定誤差については以下のように取り扱うこととする.

○ コンクリートと中詰材の単位体積重量は常陸那珂火力発電所護岸工事の施工実績等 による分析結果から確定値とする.

○ 潮位は福島第一原子力発電所での潮位観測データより平均潮位を中央値とする正規 分布で近似する.

○ 時化の継続時間と有義波周期は,太平洋岸3地点の波浪観測データによる阿部ら 11) の考え方を用いる.

○ 沖波極大波高,波浪変形係数,波力算定,摩擦係数の平均値の偏りと変動係数は下迫 ら4)の提案値を用いる.

○ 基礎マウンドと海底地盤の単位体積重量およびその他物性値については長尾ら 13)の 提案値を用いる.

(18)

なお,確率変数の分布形状はすべて正規分布とし,確率変数の上下限値は±2σとする.

また初期建設費用CIは防波堤断面(堤体幅)によって決まるものとする.すなわち,費 用算定上検討すべき各工種(基礎マウンド工,被覆・根固工,ケーソン本体工,中詰工お よび上部工)に必要な数量を防波堤断面から求め,これに施工単価・材料単価を乗じて積 算して求める.

(2) 変形量と被災レベル・耐波性能との関係

図-3.5に示すMCSにより,滑動量および沈下量の同時確率密度関数(結合確率分布)を 算定することができるが,性能設計体系のもとでは,これら変形量の大きさと被災レベル すなわち耐波性能との関係を明確にしておくことが重要である.被災レベルは,過去の被 災実績や解析手法の精度ならびに被災時の変形挙動評価などにより評価すべきものである のと同時に,設定する耐波性能レベルとの整合も考慮しながら総合的に判断して設定する 必要がある.

本検討では,表-3.2および表-3.3 に示すように,「健全」,「機能保持」および「長期機能 喪失回避」という3段階の耐波性能に応じて,滑動・沈下の変形量と,変形量の程度から 決まる各耐波性能に対する復旧費用の違いを考慮して被災レベルを設定した.表-3.4 に滑

図-3.8 検討対象の防波堤断面

(19)

動・沈下の変形量とそれに応じた被災レベルおよび耐波性能との関係を示す.被災レベル 4は防波堤の機能喪失レベルとし,滑動による機能喪失レベルとは捨石マウンドから堤体 が転倒する限界として 10.0m以上,沈下による機能喪失レベルとは沈下による防波堤の転 倒の有無や港内静穏度の悪化などを考慮して2.0m以上とした.

表-3.4 防波堤の滑動および沈下による被災レベルと耐波性能との関係 滑動被災

被災レベル1 被災レベル2 被災レベル3 被災レベル4 滑動量

沈下量 0.0~0.1m 0.1~0.3m 0.3~10.0m 10.0m以上

被災レベル1 0.0~0.3m 耐波性能1

[健全]

被災レベル2 0.3~0.5m 耐波性能2

[機能維持]

被災レベル3 0.5~2.0m

耐波性能3

[長期機能喪 失せず]

沈 下 被 災

被災レベル4 2.0m以上 機能喪失

(3) 被災レベルと復旧費との関係

表-3.4に示すように,被災レベルと滑動および沈下の変形量の大きさとの関係が設定され たことにより,防波堤の被災レベルと災害復旧費の対応が設定できれば,変形量の大きさ と災害復旧費との関係を設定することができる.災害復旧費は,表-3.2を参考にして,表-3.5 に示すように,各被災レベルでの変形量の大きさにより想定される一般的な復旧方法を基 に推定した.

リスクあるいはLCCの評価では,社会への影響度も含め構造物が破壊に至った場合の貨 幣価値での損失の算定が困難であると従来から指摘されている 14).しかし,防波堤という 港湾設備のクリティカルとなる破壊とは滑動によるマウンド部からの転倒であり,これに より防波堤が機能喪失に至ると想定される.このとき,通常防波堤上には点検員を含む人 間はいないこと,また静穏性能という点でも長期に渡り港内静穏度が低下することはなく 船舶への影響が少ないことを考えると,防波堤の破壊が人命損失および過度の社会的影響

(20)

につながるとは考えられない.したがって,機能喪失時の復旧費用としては,最大でも撤 去費用および再構築費用を見込めばよいとした.

なお,設定した被災レベルと復旧費の関係は一つの例であり,本検討では性能設計体系 のもと,客観的かつ定量的に,耐波性能,被災レベルそして災害復旧費との関係を順次構 築し,算定される変形の大きさからLCC算定を可能とする評価手法の構築に重点があるこ とを付け加えておく.

表-3.5 防波堤の滑動および沈下による被災レベルと災害復旧費との関係 被災レベル1 被災レベル2 被災レベル3 被災レベル4

耐波性能1 耐波性能2 耐波性能3 機能喪失レベル

被災状況

被 災 な し / 本 体 に は 異 常 が な い が,若干の供用上 の 不 具 合 が 生 じ る

堤 体 に 変 状 が 起 こり,機能上の不 具 合 が 生 じ る が 短 期 間 で 復 旧 可 能

堤体および基礎マウ ンドにかなりの変 状が起こり復旧費 用が嵩むが機能復 旧可能

防波堤の機能が 失われる

滑動量 0~0.1m 0.1~0.3m 0.3~10.0m 10.0m以上

費用算定

根拠 復旧しない

根固工・

被覆工追加

ケーソン 据え直し

ケーソン撤去・

再製作・据付け 滑

動 被

復旧費

(千円/m) 0 1751 3,1851 29,0002

沈下量 0~0.3m 0.3~0.5m 0.5~2.0m 2.0m以上

費用算定

根拠 復旧しない 上部工嵩上げ

上部工嵩上げ・

背面被覆工復旧

ケーソン撤去・

再製作・据付け 沈

下 被

復旧費

(千円/m) 0 2401 2,4501 29,0002

1)堤体の幅に関係しない工事であるため,費用は単位幅当たりではない.

2)堤体幅に応じて復旧費に若干の差があるが,ここでは平均的な額を示している.

表-3.5を基に,滑動および沈下による被災レベルと災害復旧費との関係を構築した結果を 表-3.6に示す.なお,滑動および沈下による被災レベルがともに1~3にあるときは,滑動 被災レベルに対応する復旧費と沈下被災レベルに対応する復旧費の和が防波堤の復旧費と なる.また,滑動と沈下の被災レベルの両方またはどちらか一方が4であるときは,防波 堤の復旧費はケーソン撤去,再製作および据付け費用となる.

(21)

表-3.6 防波堤の滑動および沈下による被災レベルと復旧費との関係 滑動被災

被災レベル1 被災レベル2 被災レベル3 被災レベル4

被災レベル1

0千円 費用なし

175千円 上部工嵩上げ

3,185千円 上部工嵩上げ+

背面被覆工復旧

29,000千円/m ケーソン撤去・

再製作・据付け

被災レベル2

240千円 被覆石投入

(175+240)千円 被覆石投入+

上部工嵩上げ

(3,185+240)千円 被覆石投入+

上部工嵩上げ+

背面被覆工復旧

29,000千円/m ケーソン撤去・

再製作・据付け

被災レベル3

2,450千円 ケーソン再据付

(175+2,450)千円 ケーソン再据付+ 上部工嵩上げ

(3,185+2,450)千円 ケーソン再据付+ 上部工嵩上げ+ 背面被覆工復旧

29,000千円/m ケーソン撤去・

再製作・据付け 沈

下 被 災

被災レベル4

29,000千円/m ケーソン撤去・

再製作・据付け

29,000千円/m ケーソン撤去・

再製作・据付け

29,000千円/m ケーソン撤去・

再製作・据付け

29,000千円/m ケーソン撤去・

再製作・据付け

(22)

(4) LCC の算定と考察

3.5.3では(3.8)式に示すように,LCCの算定方法を定式化した.ここでは,前述のような

変形量の大きさと被災レベルおよび耐波性能との関係から,より実用的かつ具体的な LCC の算定評価式を示すこととする.

滑動量および沈下量の同時確率密度関数(結合確率分布)は,前述の被災レベルを基に 図-3.9に示すように算定される.図-3.5に示すように,滑動と沈下の両事象は解析上個別に 扱っているが,MCS による1回のシミュレーションで1組の滑動量と沈下量が求まり,こ れを何回も繰り返すことにより図-3.9に例示するような結合確率分布が算定できる.

LCCは,(3.8)式を基本とし,表-3.6の被災レベルに応じた復旧費と図-3.9に示す滑動と沈

下の結合確率に基づいて(3.9)式により算定することとする.

レベル1 レベル2

レベル3 レベル4

レベル1 レベル2 レベル3 レベル4

92.21

0.92

2.49

0.46 1.07

0.15 0.46 0.51 0.00

0.15

1.32

0.00 0.15

0.00 0.05 0.00 0.05

1.00 2.00 3.00 4.00

複合確率(%)

滑動による被災 沈下による被災 100.00

図-3.9 滑動および沈下による被災レベルに関する結合確率分布(WB=18.0mの場合)

結合確率(%)

(23)

=

=

⋅ +

=

4 , 4

1 , 1

, ,

j i

F F

I C ij Pij

C

LCC (3.9)

ここに,CIは初期建設費,

j

Fi

C , は滑動の被災レベルがiかつ沈下の被災レベルが jであると きの復旧費用,

j Fi

P , は滑動の被災レベルがiかつ沈下の被災レベルがjであるときの結合確 率を表す.なお,1≤i≤4, 1≤ j≤4である.

LCCの算定結果は,図-3.10に示すとおり下に凸な曲線であり,これによりLCCが最小と なるのは堤体幅WB=18.0mのケースで,従来設計による堤体幅19.2mよりも1.2mの縮減と なる.ただし,図-3.10からもわかるようにLCCは堤体幅が17.5m~18.5mの間で大きな違 いはない.

14.0 14.5 15.0 15.5

19.2 18.5

18.0 17.5

17.0

堤体幅 W

B

(m)

初 期 建 設 費 o r L C C ( 百 万 円 )

0.0 0.5 1.0 1.5

災 害 復 旧 費 ( 百 万 円 )

総工事費 初期建設費 災害復旧費

図-3.10 LCC曲線

このとき,従来設計との比較によるコストダウンは初期建設費で4%程度,LCC で2%

程度となる.

LCC

(24)

なお実務設計では,LCC による設計法に加え,破壊確率も補完的に用いて防波堤の安全 性を総合的に評価することが重要である 15).そこで,安全評価の手法として機能喪失確率 に着目し,許容機能喪失確率設定のための基本的考え方について触れる.

性能設計体系において設計合理化を実現するためには,従来設計の破壊安全率に代わり 要求性能および目標性能を明確に設定し,より直接的な照査を行うための安全指標を用い るとともに,その許容値を適切に設定することが重要である.防波堤の安全性評価として は,算定される滑動量および沈下量などの変形量に関する確率分布を用いて,防波堤の機 能喪失確率が許容確率以内であることを確認するのが性能設計における代表的な方法の一 つと言える.また,鉄筋コンクリート構造物の限界状態設計法 16)における,作用応力度が 設計強度以下であること,あるいは構造物の応答塑性率が靭性率以下であることなど,応 答値が限界値を下回ることを確認することによる安全性評価方法もある.しかし,設計上 必要なパラメータの不確定性が大きい場合は,補完的かつ確率的に安全裕度に対する信頼 性評価を行うのがより適切である.

本検討における確率による評価方法は,港湾の長期機能喪失の回避という観点から防波 堤の機能喪失確率を設定し,機能喪失確率の許容値との比較により評価する方法で,終局 限界としての限界変形量を超過することにより復旧費用が急激に増大するリスクを極力回 避したいという考え方に基づくものである.そこで,安全性評価は被災レベル4に至る確 率を基に,(3.10)式により行うものとする.

Fa F j

F i

F

F P P P P

P =

i +

j + ≤

<

<

4 , 4 , 4 4

,

4 4

(3.10)

ここに,PFは滑動と沈下の両破壊モードを考慮した機能喪失確率,

j

Fi

P, は滑動の被災レベル がiで沈下の被災レベルがjであるときの結合確率,PFaは許容機能喪失確率である.

一般的に,許容機能喪失確率の設定については様々な考え方が存在する 15)17).しかし,

長尾18)による日本の防波堤の許容破壊確率は約5×10-2~2×10-3程度であるとの報告がある ことから,「これら報告例の被災=機能喪失」と仮定し,滑動と沈下の両破壊モードによる 許容値を平均的な10-2と考えるのも一案である.

ちなみに,本検討における機能喪失確率は表-3.7 に示すとおりで,許容機能喪失確率を 10-2とすると,(3.10)式を満足するのは堤体幅18.0mもしくは 17.5mのケースであり,LCC による評価と同程度の堤体幅となる.

(25)

表-3.7 各ケースにおける機能喪失確率の算定結果 検討ケース(堤体幅WB) 機能喪失確率

WB =19.2 m 5.0×10-4

WB =18.5 m 3.5×10-3

WB =18.0 m 7.1×10-3

WB =17.5 m 1.2×10-2

WB =17.0 m 2.5×10-2

(26)

3.6 まとめ

本検討では,高波浪による構造物の損傷リスクの顕在化を防止するために,設計および 初期建設の段階で構造物の耐力レベルを適切に設定することによって,事前に性能の確保 を図るリスクコントロール手法の適用事例を示している.主な結論は以下のとおりである.

(1) ケーソン式防波堤という比較的構造が単純な土木構造物に着目し,港湾全体および港湾 施設から防波堤単体へと階層的に機能を分析するとともに,高波浪来襲時における被災 レベルおよび災害復旧費を基に,耐波性能を3段階に区分する考え方を提案した.

(2) 滑動と沈下という2つの重要な破壊モードに対して,両変形量からなる同時確率密度関 数(結合確率)をMCSにより算定するとともに,被災レベルすなわち耐波性能に応じ た確率の算定方法を提案した.またこれらの確率を用いることによって,設定した被災 レベルに応じた LCC の評価手法を提案した.さらに,補完的な安全評価法の一つとし て,機能喪失確率を用いた信頼性評価の考え方を提案した.

(3) ケーソン式防波堤に性能設計を適用し,LCC評価手法を用いて設計の中に直接経済性評 価を取り込むことにより,従来設計法と比較し設計の合理化が図れることを示した.

本検討は,防波堤の変形を許容した設計法の実務への展開の一環として実施したもので あり,今後,実設計への適用に当たり,より簡易な設計法を構築する必要がある.このう ち,防波堤の滑動破壊に着目し,性能マトリックス活用を前提とした直立ケーソン堤の滑 動量による確定論的な簡便設計法については赤石沢ら 19)20)が既に基本検討を行っている.

この中では,MCS による確率論的手法を基にした確定的な滑動量算定手法を提案,沖波波 高を外力としたフラジリティ曲線を用いることによって,波浪レベルと性能レベルに対応 した目標信頼度の設定の考え方を示すとともに,重要度を考慮した安全係数設定手法につ いても検討例を示している.

本検討では,設計耐用期間にわたり防波堤構造物の経年劣化は起こらないという前提で,

LCC 評価を行っており,本研究の中でも基本検討と位置付けられる.このように経年劣化 を考える必要のない場合,初期建設費用と期待損失費用のトレードオフの関係に基づく,

LCC最小化による最適設計変数の選択問題として捉えることができる.

(27)

【参考文献】

1)運輸省港湾局監修:港湾の施設の技術上の基準・同解説改訂版,社団法人日本港湾協会,

1989.

2)運輸省港湾局監修:港湾の施設の技術上の基準・同解説改訂版,社団法人日本港湾協会,

1999.

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4)下迫健一郎,高橋重雄:期待滑動量を用いた混成防波堤直立部の信頼性設計法,港湾技術 研究所報告,第37巻,第3号,pp.1-30.,1998.9.

5)SEAOC VISION2000:Performance Based Seismic Engineering of Buildings,1995.4.

6)土木学会:LNG 地下タンク躯体の構造性能照査指針,コンクリートライブラリー98,

1999.12.

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海岸工学論文集,第43巻,pp.846-850.,1996.

9)土田孝,湯怡新:港湾構造物の円弧すべり解析における最適な安全率,港湾技術研究所報 告,第35巻,第1号,pp.117-145.,1996.

10)下迫健一郎,高橋重雄:モンテカルロ法を用いた混成防波堤の期待滑動量の計算,海岸工 学論文集,第44巻,pp.831-835.,1997.

11)阿部光信,興野俊也,長舩徹,貝沼憲男:防波堤の信頼性設計法における時化のモデル化 について,海岸工学論文集,第46巻,pp.916-920.,1999.

12)A.H-S Ang,W.H.Tang:土木・建築のための確率・統計の基礎,伊藤学・亀田弘行訳,丸 善株式会社,1986.5.

13)長尾毅,門脇陽治,土田孝,寺内潔:信頼性設計法による防波堤の全体系安全性(第2報)

~支持力安全性に関する検討~,港湾技術研究所報告,第36巻,第1号,pp.25-57.,1997.

14)長 尚:基礎知識としての構造信頼設計,山海堂,1993.

15)星谷勝,石井清:構造物の信頼性設計法,鹿島出版会,1986.

16)吉川弘道:鉄筋コンクリートの設計・限界状態設計法と許容応力度設計法,丸善,1997.12

17)ISO/TC98/SC2:General Principles on Reliability for Structures,ISO/FDIS2394,1998.

(28)

18)長尾毅:防波堤の全体系安全性のレベル1,レベル2の信頼性設計,港湾構造物設計事例 集,第3編,pp.15-36.,1999.

19)赤石沢総光,長舩徹,興野俊也,阿部光信:安全係数を用いた防波堤滑動量算定手法の構 築に関する検討,海岸工学論文集,第49巻,pp.946-920.,2002.

20)興野俊也,赤石沢総光,吉田郁政,鈴木修一,長舩徹:ケーソン堤の滑動破壊モードに着 目した効率的な損傷確率算定方法について,海岸工学論文集,第50巻,pp.896-900.,2003.

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