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第二言語文処理における意味役割情報の関わり

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第二言語文処理における意味役割情報の関わり

第二言語文処理における意味役割情報の関わり

須田 孝司

(工学部教養教育) 本研究では,日本人英語学習者を対象として,習熟度の異なる第二言語(L2)学習者がそれぞれどのような 言語情報を元に文処理を行っているのか検証する.これまでの L2 文処理研究では,学習者は意味役割等の語彙 情報は母語話者と同じように扱うことができると提案されているが,本研究の結果からは全ての L2 学習者が意 味役割の情報に依存した文処理を行っているわけではなく,英語の習熟度により異なった文処理方略を利用し ている可能性が示唆された. キーワード:第二言語,文処理,意味役割,習熟度

1. はじめに

日本で生まれ育った人であれば,たいてい日本語で話さ れている内容や日本語で書かれた文章を難なく理解する ことができる.しかし,多くの日本人は,英語で話されて いる内容や英語で書かれた文章を理解することに困難を 感じており,英語を日本語と同じように扱うことはなかな かできない.このような第二言語(L2)に対する問題につ いて,生成文法理論を元にした L2 習得研究では,人間の 言語能力という面から研究を行っている.生成文法理論で は,人間の脳内に言語獲得装置(Language Acquisition Device: LAD)があると仮定しており,その LAD が母語(L1) 習得の際に機能することにより,人間は異なった言語刺激 が与えられたとしても,同じ言葉を話す人であれば,ある 一定の言語能力を持つことができるようになると考えて いる[1]. 生成文法理論を元にした L2 習得研究では,この L1 習得 には作用する LAD が,L2 の場合も L1 と同じように働く かどうか研究が行われている[2, 3].そして,L2 習得は L1 習得とは全く別の能力を使うという立場から,L2 学習者 でも L1 話者と同じように抽象的な文法要素を習得するこ とは出来るが,音声化する際に失敗し,正しく産出するこ とができないだけであるという立場まで,様々な提案が行 われている[4, 5].また,最近では,抽象的な文法要素が習 得されるかどうかという議論以外に,耳や目から入力され た語句が脳内でどのように処理されるのか,人間はどのよ うな情報を利用し文を理解しているのか,という人間の言 語処理能力について議論が行われている.例えば,坂本で は,人間が扱う言語情報には,図 1 のような処理過程が関 わっていると説明している[6]. 言語入力 ↓ ↓ 出力(理解) 図 1 言語情報処理のモデル 話されている言葉が耳から入力される場合,その入力さ れた音のつながりをまず単語として認識する(①音声処理) ことから処理が始まる.次に,その単語を脳内の心的辞書 に保存された情報と照合し(②単語処理),単語と単語の 関係を計算して文構造を作る(③文処理).その後,その 作られた文構造に対応する意味解釈を文に与え(④意味処 理),さらに語用論的知識や世界に関する知識などを用い て最も適切な解釈を導き出す(⑤文脈処理),という 5 段 階の処理が仮定されている.このような言語情報の処理過 程の中で,本研究では文処理過程を研究対象とする. これまでの L1 文処理研究では,その処理過程において, 文構造やイントネーションやポーズ,意味役割の付与とい った情報が重要な役割を果たすと指摘されている[7, 8, 9]. また,L2 文処理においても L1 文処理と同様に,文構造, ① 音声(文字)処理 ↓ ② 単語処理 ↓ ③ 文処理 ↓ ④ 意味処理 ↓ ⑤ 文脈処理

(2)

イントネーションやポーズ,意味役割の付与について研究 が行われている[10, 11, 12].

L2文処理研究の中で,最近特に注目を集めている提案 の 1 つに,Clahsen & Felser の Shallow Structure Hypothesis (SSH)がある[13].SSH では,L2 学習者は意味役割等の 語彙情報は L1 話者と同じように処理することができるが, 統語情報については,たとえ上級学習者であったとしても, L1話者と同じように処理することはできないと主張して いる.そこで,本研究では,この SSH の主張の妥当性を 確かめるため,初期段階の L2 学習者がどのような情報を 扱い,文処理を行っているのか検証する.もし SSH が正 しいのであれば,L2 学習者は意味役割の情報に依存し, 文処理を行うことが予想される. 本稿の構成は以下の通りである.第 2 節では,意味役割 と文処理研究の関係について見る.第 3 節では,本実験に ついて説明し,続く第 4 節ではその実験結果を示す.第 5 節では,本実験のデータを元に日本人英語学習者の文処理 過程について議論した上で,SSH の妥当性を検証する.第 6節は本稿のまとめとする.

2. 意味役割と文処理の関わり

図 1 に示したように,人は音・構造・意味の情報を扱い ながら文を理解する.また,その情報の他に,各文を構成 する単語にもそれぞれ音・構造・意味の情報があり,それ ら単語が持っている情報も文処理には必要である.例えば, put という動詞は,/put/という音と『置く』という意味を 持っている.では,put が持っている構造とは何であろう か.put が使われている英文をいくつか見てみよう.

(1)

John put the book on the desk.

(2)

a. *John put on the desk.

b. *John put the book.

c.

*John

put.

(1)は,『ジョンは机の上に本を置いた』という意味を表 す文であり,put の後に目的語名詞句 the book と場所を示 す前置詞句 on the desk が置かれている.しかし,(2)のよ うに目的語がない文(2a)や前置詞句がない文(2b),そ の両方がない文(2c)は非文と判断される.つまり,put に は目的語名詞句と前置詞句が必要であり,put は put [名詞 句, 前置詞句]という下位範疇の情報を持っていると言わ れている[14]. しかし,単語が持っている情報はこれだけではない.例 えば,(3)では put の後に目的語名詞句と前置詞句が置か れているが,非文となっている.

(3)

*The desk put the book on the table.

これは,put の主語としてどんな名詞句でも使うことが できるわけではなく,『何かを置く行為をする人/物』を意 味する名詞句が必要であることを示している.つまり,put は下位範疇の情報だけではなく,構造の意味情報(=意味 役割)が必要となる.この put の場合,(4)のように主語 に動作主(Agent),目的語に対象を示す主題(Theme),さ らに主題の存在する場所を示す(Location)という意味役 割を持つ要素が要求される.

(4)

put (Agent, Theme, Location)

このような意味役割の情報が文処理にどのような影響 を与えているのか様々な研究が行われているが,ここでは, そのうち 2 つの分野の研究を紹介する.1 つ目は,関係節 が修飾する名詞句について検証している研究である. 関係節修飾研究では(5)のような曖昧な関係節文がよ く使われている[10, 15, 16].

(5)

a. The woman saw the psychiatrist of the actress

who was having a glass of wine.

b. The woman saw the psychiatrist with the

actress who was having a glass of wine.

(5)では,関係節 who was having a glass of wine の前に 2 つの名詞句(the psychiatrist(NP1)と the actress(NP2)) が置かれており,関係節がそのどちらの名詞句を修飾して いるか曖昧な文である. 英語話者やL2学習者に対してこのような曖昧な関係節 文を提示すると,英語話者はofとwithのどちらが使われた 場合であっても関係節はNP2を修飾すると判断するが,L2 学習者の場合は,ofとwithにより異なった判断をすること が報告されている.(5b)のようにwithが使われた文の場 合は,L2学習者も英語話者と同じようにNP2を修飾すると 判断することができるが,(5a)のようにofが使われた文 では,NP1とNP2の選択に差がないことが報告されている. ここでの違いは,ofとwithという異なった前置詞が使わ れているということである.Frazier & Cliftonによると,with はその直前の名詞句に対する付加部になることができ,ま たwithに続く名詞句は,意味役割が付与される局所領域を 構築することができるが,ofの場合はその直前の名詞句の 付加部にならず,意味役割が付与される局所領域を構築す ることができないと主張されている[17].したがって,こ のようなofとwithの違いにより,曖昧な関係節修飾の判断 に差が生じるのであれば,L2学習者の文処理に意味役割の

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影響があると考えることができる.つまり,withの場合は 意味役割の情報が利用できるため,L2学習者も英語話者と 同じように判断することができるが,ofの場合はその処理 過程において意味役割の情報が利用できないため,英語話 者と同じように判断することができないと考えられる. 2 つ目の研究分野は,filler(埋語)と gap(空所)の依 存関係を対象とした研究である.例えば,(6)のような関 係代名詞文を理解する際,読み(聞き)手は,filler(The actress)を gap と関連付ける必要がある.

(6)

Tom saw the actress who <gap> was having a

glass of wine.

Marinisらの研究[17]では(7)のような gap が 2 つある かなり複雑な文を使い,L2 学習者の filler と gap の依存関 係の処理方略について調査を行った.

(7)

The nurse who the doctor argued <gap

1

> that the

rude patient had angered <gap

2

> is refusing to

work late.

そして,L2 学習者も英語話者と同じように文を正しく解 釈することができるが,その処理過程は英語話者とは異な っていると説明している.彼らによると,L2 学習者と英 語話者の文処理過程の大きな違いは that 位置の読み時間 (Reading Time: RT)に見られる.英語話者の場合は that の RT が長くなるが,L2学習者はその RT が長くならない. したがって,L2 学習者は<gap1>を作り出しておらず,英 語話者と同じ文構造を作っていない,つまり L2 学習者は 英語話者と同じような統語情報を扱っていないと Marinis らは主張している. さらに SSH では,L2 学習者はこのような filler と gap の 依存関係の構築においても,(8)のように意味役割の情報 を利用し文を理解しているため,L2 学習者も英語話者と 同じように文を解釈することができると説明している.

(8)

The nurse who the doctor argued [CP that

<Agent> <Theme>

[TP the rude patient had angered <gap

2

> is

<Theme> <Experiencer>

refusing to work late.

まず,L2 学習者は関係節内の動詞 argued が入力された 時点で,その主語 the doctor に Agent の意味役割を与え,that

以下の補文標識句(CP)全体に Theme を与える.そして, 時制辞句(TP)内において動詞 angered が入力されると, その動詞は,主語 the rude patient に Agent の意味役割を与 える.さらに,その補部に<gap2>を作り出し,その gap

位置にあった主節の主語 The nurse に経験主(Experiencer) の意味役割を与え,その<gap2>位置で filler と gap の統合

を行うことができる.このように L2 学習者が意味役割の 情報を利用することができれば,英語話者と同じ文構造を 作ることができないとしても,かなり複雑な文を理解する ことができると考えられる. そこで,本研究では,初期段階の L2 学習者も意味役割 の情報を利用し文処理を行うかどうか検証するため,以下 のような実験を行った.

3. 実験

3.1. 参加者 実験の参加者は 32 名の大学生(平均年齢 19 歳 5 ヶ月) である.英語学習期間は 6 年間から 10 年間であり,数名 の海外旅行経験者はいたが,海外留学経験者は 1 人もいな かった. 実験を行う際,富山県立大学「人を対象とする実験」の 倫理審査部会規定に従い,実験の概要説明を行い,同意書 を提出してもらった.実験は,概要説明や実験終了後の確 認を含め約 30 分で終了し,実験終了後に薄謝を渡した.

また,実験を始める前に Oxford Quick Placement Test を 受けてもらい,そのスコアに基づき 2 つの習熟度グループ (Elementary(E)レベル: 21 名,Lower Intermediate(LI) レベル: 11 名)に分けた.

3.2. 実験文

本研究では,3 タイプの英文(各 5 文)を使い,初期段 階の日本人英語学習者がどのような情報に依存し文処理 を行うのか調査した.

(9)

a. It was the card that the actor had dropped in

the train.

b. ?It was the card that the actor had called in

the train.

c. *It was the card that the actor was dropped

in the train.

調査対象となる文は,全て It was thatの強調文で提示 され,(9a)は他動詞を使った能動文,(9b)は他動詞を使 った能動文であるが文の意味が通らない意味逸脱文(非

(4)

文),(9c)は(9a)と同じ動詞が使われているが had の代 わりに was が挿入されている疑似受動文(非文)である. (9c)の疑似受動文の非文法性は,(10)のように動詞領 域 was dropped から主語 the actor に Theme の意味役割が付 与できないために生じている.

(10)

It was the card that the actor was dropped in the

train.

×

<Theme>

もし,SSH が主張しているように,L2 学習者が意味役 割の情報を利用し文処理を行っているのであれば,(9c) を非文と判断するのは容易なはずである. 実験で使用した単語は,中学生用の単語集[18]より,難 易度と音素数を考慮して選んだ.主語には,5 音節からな る有生名詞(actor・author・lawyer・singer・seller),目的 語には 5 音節からなる無生名詞(cards・chicken・pencil・ pizza・plant)を使用した.これらの名詞の認識時間を本実 験とは別に測り,有生名詞間や無生名詞間,及び全ての名 詞間の文字認識時間に差がないことを確認した(有生名詞 (平均認識時間 638ms): F(4, 204)=0.73, p>0.5 ns.; 無生名 詞(平均認識時間 593ms): F(4, 204)=1.99, p>0.09 ns.; 全て の名詞(平均認識時間 616ms): F(9, 459)=1.08, p>0.3 ns.). 動詞は,過去分詞形にした際に 5 音節になる動詞の内,主 語と目的語の関係を考慮し,(9a & c)で使うことのできる 5つの他動詞(baked・crashed・dropped・fried・grown)と, (9b)の意味逸脱文に使用する 5 つの他動詞(annoyed・ called・helped・liked・married)を選んだ.これらの動詞に ついても本実験とは別に文字認識時間を測り,(9a & c)で 使うことのできる動詞間や(9b)の意味逸脱文に使用する 動詞間,及び全ての動詞間の文字認識時間に差がないこと を確認した((9a & c)で使用する動詞(平均認識時間 605ms): F(4, 204)=0.52, p>0.7 ns.; (9b)で使用する動詞(平 均認識時間 572ms): F(4, 204)=1.64, p>0.1 ns.; 全ての動詞 (平均認識時間 589ms): F(9, 459)=0.73, p>0.6 ns.). また,文字認識時間を測った後,実験参加者に知らない 単語がないか確認し,実験の途中で単語の意味がわからな いため文の RT が不自然に長くなる可能性を避けた.最終 的に,意味の通じる文法的な文と非文の数が同じになるよ うにダミー文を 45 文(文法的な文 25 文,非文 20 文)作 成し,計 60 文で実験を行った. 3.3. 実験方法 実験では,E-PRIME と SR-Box を使い,自己ペース読文 法により実験参加者の RT を測定した.各領域は(11)の ように 6 つに区切り,それぞれの領域がモニター画面中央 に現れるように設定した. (11) P6 領域の後には,アスタリスク(*)が現れるブロック を用意し,*がモニター画面に提示された際,実験参加者 にその文が英文として意味を成す文であるか判断するこ とを全ての文に求めた.また,練習用の文を 16 文用意し, その文を使って練習した後,本実験を行った. 通常,RT を測定する実験では,実験参加者が正しく判 断できなかった(つまり,正しい文を正しいと判断し,文 法的,または意味的に逸脱している文を誤りと判断するこ とができなかった)場合,その実験参加者のデータや誤っ て判断されたデータをその後の分析より除くのが一般的 である.しかし,今回の実験では,意味逸脱文や疑似受動 文を調査の対象としているため,実験参加者の正答・誤答 に関わらず全ての文の RT を分析の対象とした.また,デ ータ分析の際は,各領域の RT が 200 ms 以下,もしくは 5000 ms以上のデータはあらかじめ取り除き,残ったデー タの中で各領域の平均値から標準偏差±2.5 倍よりも外れ た値は,境界値(M±2.5SD)で置き換え,分析を行った.

4. 結果

4.1. 文判断の結果 各文タイプの正答率を表 1 に示す. 表 1 各文タイプの正答率 正答数/全体 % レベル別 % 能動文 146/160 91 LI E 93 90 意味逸脱文 126/160 79 LI E 80 78 疑似受動文 42/160 26 LI E 24 28 他動詞を使った能動文(9a)の正答率は 91%(LI(93%), E(90%)),意味逸脱文(9b)を正しく非文と判断できた 割合は 79%(LI(80%),E(78%)),疑似受動文(9c)を 非文と判断できた割合は 26%(LI(24%),E(28%))で あった.正答数について 2×3(習熟度×文タイプ)の分 散分析を行うと,習熟度と交互作用については有意差はな かったが,文タイプには有意差があった(レベル: F(1, 30)=0.00, p>0.9 ns.; 文タイプ: F(2, 60)=55.05, **p<0.00; 交 互作用: F(2, 60)=0.14, p>0.8 ns.).Scheffé 法による多重比較 検定を行うと,IL と E グループ共に,疑似受動文の正答 P1 P2 P3 P4 P5 P6

(5)

数と能動文と意味逸脱文の正答数に有意差(**p<0.01)が あった. 次に,英文の正誤判断に要した時間を表 2 に示す. 表 2 英文の正誤判断時間 文タイプ 平均(ms) レベル別 平均(ms) 能動文 1074 LI E 1046 1089 意味逸脱文 1045 LI E 864 1140 疑似受動文 1125 LI E 1132 1121 能 動 文 を 判 断 す る た め に 要 し た 時 間 は 1074ms ( LI (1046ms),E(1089ms)),非文である意味逸脱文の場合 は 1045ms(LI(864ms),E(1140ms)),同じく非文であ る疑似受動文では 1125ms(LI(1132ms),E(1121ms))で あった.この判断時間について 2×3(習熟度×文タイプ) の分散分析を行うと,習熟度,文タイプ,交互作用の全て において,被験者と項目の両分析に有意差はなかった(レ ベル: F1(1, 30)=0.59, p>0.4 ns., F2(1, 24)=1.72, p>0.2 ns.;タイプ: F1(2, 60)=0.54, p>0.5 ns., F2(2, 24)=0.83, p>0.4 ns.; 交互作用: F1(2, 60)=0.81, p>0.4 ns., F2(2, 24)=1.26, p>0.3 ns.). 4.2. 読み時間の結果 実験文は,全ての文タイプにおいて It was で始まる強調 文が使われ,強調されるものも元々は目的語位置にあった 無生名詞句である.つまり,P1 から P4 領域までの文構造 や単語は同じものが使われている.しかし,P5 の動詞領 域に置かれた要素は,(9a)と(9b)では同じ構造(had + 過 去完了形)で提示されてはいるものの異なる動詞が使われ ており,また(9a)と(9c)では同じ動詞が使われてはい るものの異なる構造が使われ,(9c)では had の代わりに wasが使われている.したがって,異なった構造や単語が 使われている文の RT を比較することはあまり意味がない と思われるかもしれないが,本実験の前に行われた文字認 識実験において動詞の認識時間に差がなく,また各タイプ で使われている単語は全て同じであるため,ここでは,P5 領域を含めた RT の比較は可能であると仮定し,RT の分析 を行う. まず,P2 から P5 領域までの平均 RT を図 2 に示す. この P2 から P5 領域までの平均 RT について 2×3(習熟度× 文タイプ)の分散分析を行うと,習熟度,文タイプ,交互 作用において,被験者と項目の両分析に有意差はなかった (習熟度: F1(1, 30)=0.00, p>0.9 ns., F2(1, 8)=0.01, p>0.9 ns.,文 タイプ: F1(2, 60)=0.00, p>0.9 ns., F2(2, 16)=0.00, p>0.9 ns.,交 互作用: F1(2, 60)=1.37, p>0.2 ns., F2(2, 16)=0.97, p>0.4 ns.). 図 2 では,習熟度により各文タイプの RT に差があるよ うに思えるが,分散分析を行うと RT に差は見られなかっ た.これは被験者間や各英文間の RT の差が大きかったこ とが影響していると思われる. 次に,目的語名詞句(P2)と主語名詞句(P4)と動詞域 (P5)の RT をそれぞれ習熟度別に比較する. 図 3 は P2 領域の平均 RT である.P2 領域には,強調さ れる要素である無生名詞句が置かれており,この RT につ いても 2×3(習熟度×文タイプ)の分散分析を行うと,習 熟度,文タイプ,交互作用において,被験者と項目の両分 析に有意差はなかった (習熟度: F1(1, 30)=0.00, p>0.9 ns., F2(1, 8)=0.00, p>0.9 ns.,文タイプ: F1(2, 60)=1.38, p>0.2 ns., F2(2, 16)=1.12, p>0.3 ns.,交互作用: F1(2, 60)=0.69, p>0.5 ns., F2(2, 16)=0.56, p>0.5 ns.). 図 3 を見ると,LI グループは文タイプの RT に差がある ように見えるが,分散分析を行うと差はなかった.この領 域では,各タイプの文に同じ文構造や意味役割を持つもの 4400 4500 4600 4700 4800 4900 5000 能動文 意味逸脱分 擬似受動文 図2 P2-P5領域の読み時間 LI E 1000 1100 1200 1300 1400 能動文 意味逸脱分 擬似受動文 図3 P2領域の読み時間 LI E

(6)

が使われ,また使われている単語も全て同じであるため, 当然,文タイプの RT に差はない. 図 4 は,有生名詞が主語として使われている P4 領域の 平均 RT である. この領域の RT についても 2×3(習熟度×文タイプ)の分散 分析を行うと,習熟度,文タイプ,交互作用において,被 験者と項目の両分析に有意差はなかった (習熟度: F1(1, 30)=0.02, p>0.8 ns., F2(1, 8)=0.06, p>0.8 ns.,文タイプ: F1(2, 60)=1.99, p>0.1 ns., F2(2, 16)=1.74, p>0.2 ns.,交互作用: F1(2, 60)=2.31, p>0.1 ns., F2(2, 16)=2.01, p>0.1 ns.). この領域においても,P2 と同様,各タイプの文に使わ れている文構造や意味役割,単語の意味情報は全て同じも のであるため,文タイプの RT に差は見られない. 最後は,P5 領域の RT である.今回の実験では,P5 領 域は,それまでの領域とは異なり,各タイプの文において 違いがあるように作られている.(9a)の能動文は,文法 的にも意味的にも正しい文であるが,(9b)は動詞の意味 に,(9c)は意味役割の情報に誤りがあるため非文となっ ており,P5領域では,RTに差が現れることが期待できる. この領域の RT についても 2×3(習熟度×文タイプ)の分散 分析を行うと,習熟度と交互作用では,被験者と項目の両 分析に有意差はなかった (習熟度: F1(1, 30)=0.04, p>0.8 ns., F2(1, 8)=0.15, p>0.7 ns., 交互作用: F1(2, 60)=1.24, p>0.2 ns., F2(2, 16)=0.78, p>0.4 ns.).しかし,文タイプには,被験者 分析において有意差があった(F1(2, 60)=3.65, *p<0.05, F2(2, 16)=2.30, p>0.1 ns.). 文タイプの RT について Scheffé 法による多重比較検定を 行うと,E グループでは,能動文と意味逸脱文の RT に有 意差(**p<0.01)があり,意味逸脱文の RT が有意に長く なることが明らかになった.また,IL グループにおいても 能動文と疑似受動文の RT に有意傾向(† p<0.07)が観察さ れ,意味役割の情報が関連している疑似受動文の RT が長 くなる傾向が見られた.

5. 議論

文判断の正答率では,日本人英語学習者は英語の習熟度 に関係なく,(9b)の意味逸脱文を非文と判断することが できたが,(9c)の疑似受動文についてはその英文を非文 と判断することができず,誤って正しい文であると判断し ていた.また,文の RT に関しては,P2 から P4 領域では, 習熟度や文タイプによる差は見られなかったが,動詞が置 かれている P5 領域では,文タイプの RT に差が見られ,E グループでは能動文と比較して意味逸脱文の RT が,IL グ ループでは疑似受動文の RT が長くなっていた. この文判断と RT の結果から,より習熟度の低い E グル ープの学習者は,意味役割の情報よりも動詞や文の意味に 依存して文処理を行っている可能性が考えられる.疑似受 動文は,主語に正しい意味役割が付与できないため非文と なる文であり,E グループの学習者がこの文を正しく非文 と判断できないということは,この段階の L2 学習者にと っては,意味役割の情報がその判断にあまり影響を与えて いないと考えられる.むしろ,P5 領域において意味逸脱 文の RT が長くなるという実験結果が示しているように, 動詞の意味に依存し文処理を行っていると考える方が適 当であろう.一方,IL グループの場合は,P5 領域におい て疑似受動文の RT が長くなることから,その文処理過程 において,意味役割の情報が何らかの影響を与えている可 能性が考えられる. したがって,L2 学習者は意味役割等の語彙情報を使い ながら文処理を行っているという SSH では,本研究から 得られた日本人英語学習者のデータを上手く説明するこ とはできず,全ての L2 学習者が意味役割の情報を利用し ながら文処理を行っているわけではないと結論づけるこ とができる.

6. 終わりに

本研究では,初級・下位中級の日本人英語学習者を対象 1000 1100 1200 1300 1400 1500 能動文 意味逸脱分 擬似受動文 図4 P4領域の読み時間 LI E 1000 1100 1200 1300 1400 1500 1600 能動文 意味逸脱分 擬似受動文 図5 P5領域の読み時間 LI E ** †

(7)

として,習熟度の異なる L2 学習者がそれぞれどのような 情報を元に文処理を行っているのか検証した.文判断実験 の結果,意味逸脱文については正しく誤りであると判断す ることができるが,疑似受動文になるとその英文が誤りで あると判断することができない.また,P2 から P5 領域ま での RT を検証すると,意味逸脱文や意味役割の情報が誤 りを引き起こす P5 の動詞領域の RT に差が見られ,より 習熟度の低い E グループの学習者は,能動文と比較して意 味逸脱文の RT が長くなり,ILグループの学習者の場合は, 疑似受動文の RT が長くなることが明らかになった.した がって,より習熟度の低い L2 学習者の文処理では,動詞 や文の意味が大きな影響を与えており,意味役割は影響を あまり与えていないと考えられる. SSH は,L2 学習者は意味役割の情報に基づいて文処理 を行うと主張しているが,その主張は本実験の結果を全て 説明できるわけではなく,L2 学習者は習熟度により異な った文処理方略を用いている可能性が示唆された. 本研究では,これまでの文処理研究では扱われていなか った非文に対する反応や本来であれば破棄されてしまう 学習者が誤って正しいと判断したデータを分析の対象と したが,様々な課題が見つかった.学習者の誤りについて 検証することはそれ自体価値がある研究テーマであると 思われるが,データ収集方法やそのデータ分析方法につい て,今後更なる検討が必要であろう. 謝辞 本研究は,2010 年 9 月にバルセロナで開催された 6th International Conference on Language Acquisitionにおいて発 表したものを元にしています.発表の際に貴重な助言を与 えて下さった皆様に感謝の意を表します.

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(8)

The Role of Thematic Information in L2 Sentence Processing

Koji SUDA

Department of Liberal Arts and Sciences, Faculty of Engineering

This study examines what kinds of information are used during second language (L2) sentence processing by

Japanese learners of English at different proficiency levels. In previous studies, it has been proposed that L2

learners rely on lexical information, such as thematic relations, in the same way as native speakers of the target

language. The results reported in this study show that thematic information cannot be used uniformly by all L2

learners and that it may be the case that L2 learners at different levels of proficiency make use of distinct processing

strategies.

参照

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