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ユーロ経済国とグローバル経済

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(1)

‑ 9 7‑

(特集) グローバ リゼー ションは世界 に何 をもた らすか

ユーロ経済国とグローバル経済

石 井 伸 一

目次 1 は じめに

2 ドル危機 とユ ー ロの導入

3

ユ ーロ経済 圏の東方拡大

4

金融危機 と

E

U の対応 5 おわ りに

1.

は じめに

戦後 の ヨーロッパ に,仏独 の和解 を基 に,強い政治的意志 に より地域経済共 同体 が誕生 した。統合 に よ るこの経済共 同体 は,史上初 めての通貨統合,市場統合, 旧東欧諸 国の迎 え入れ とい う点で画期 的で また 先駆的 な地域統合 とい える。本稿 はこの うち通貨統合 の象徴 で ある 「ユ ーロ」 の経済圏 を中心 に取 り上 げ る。 また

,1 98 9

年 の冷戦 の終悪 で本格化 す るグローバ リゼ ーシ ョンの経済面 との関係 につい て考察 し, 合 わせて, アメ リカ発 の金融危機下 での対応,変革 に触れ る。

第一次大戦後,廃嘘 と化 した西欧 に, シュペ ングラーが著 した 『西洋 の没落』 の懸念が広 まった

。1 9 2 3

午, オース トリアの リヒャル ト・クーデ ンホ‑7‑カ レル ギ ー伯 が 『パ ンヨーロッパ』 を刊行 し,仏独 の 和解 に基づ く欧州 の統合 を提唱 した。 この欧州統合論 は多 くの共感 を呼んだ。統合 の構想 は

,1 9 30

年代 の世界大恐慌, ヒッ トラーの登場 に続 く第二次大戦 の勃発で一時挫折す るが,戦後 フランスの ジャン ・モ ネが独仏 国境地帯 の石炭 と鉄鉱 資源 を欧州 の共 同管理下 に置 き,戦争 の脅威 のない平和 な欧州 を構築す る 憩 を練 った。 この構想 に基づ きフラ ンスの ロベ ール ・シューマ ン外相 が

1 95 0

年 に これ を提唱,仏独伊, ベネル ックス

3

ヵ国の

6

ヵ国が欧州石炭鉄鋼共 同体 の創設 に合意,条約 に調 印 し,統合 の一歩 を踏 み出 し た

。1 95 7

,6

ヵ国は経済 と原子力 を統合す る ローマ条約 に調 印, この うち経済 の分野で

EEC

‑欧州経 済共同体‑が発足 した。

欧州 に史上初 めて平和 と経済的繁栄 を目指す地域統合 圏が誕生 したので ある

。EEC

(後 に

EC)

は,経 済分野で は超 国家的 な共通農業政策 を導入

,1 9 71

年 の ドル危枚 に直面す る とその 中か ら共通 の単一通貨 を創 出 し, 同時 に,欧州 の グローバノレ市場 と言 える,財,労働力,資本, サ ー ビスが域 内 を自由に移動す る単一市場 の創設へ と深化 してい く。貯余 曲折 を経 て一つの通貨,一つの市場 の統合 に漕 ぎつ け るので あ る。単一通貨

,

「ユ ーロは一 日に して成 らず」で

,EC,E

U は統合発足後,厳 しい グ ローバ リゼ ーシ ョン の波 に一時 は翻弄 されなが らも知恵 を出 し合い なが ら初心 を貫徹 してい く。欧州の統合 は 「深化」 と 「拡 大」 の方針 に立 って進展 して きた。拡大 について は

6

ヵ国 に よる

1 95 8

年 の

EEC

発足後

,6 7

年 に

EC

に 発展

,7 3

年 のイギ リス, デ ンマ ーク, アイル ラン ドの加盟 と続 く。拡大で特記 で きるのは

,1 9 8 9

年 の冷

(2)

‑ 9 8‑

ユ ー ロ経 済 圏 とグ ローバ ル経 済

戦 の終 意 で体制 転換 した東 欧 (現在 は 中 ・東 欧‑

Ce nt r a la ndEa s t e r nEur o pe )

諸 国 の

E

U加盟 申請 で,

20 0 8

1 2

月末現在 で

,1 0

ヵ国が加盟 した (ブル ガ リア,チ ェコ,エス トニア, ラ トゲ ィア, リ トアニ ア,

‑ ンガ リー, ポ ー ラ ン ド, ル ーマニア, ス ログ ェエ ア, ス ログ ァキア)。 この 中 ・東欧

1 0

ヵ国 は

E

U の新 興 国 に位 置 づ け られ よ う

。EC

1 9 93

1

1月に

E

U に発展 したが,現在

E

U は,地 中海 の キ プ ロス, マ ル タを含 めて,加 盟

2 7

ヵ国,人 口

4

93 0 0

万 人

,GDP 1

1兆

5 8 6 0

億 ユ ーロの地域 統 合 圏 に発展

。2 0 06

年 時 の

E

U の数値 に よる と

,GDP

で は アメ リカの

1 0

5 0 9 0

億 ユ ーロを上 回 ってい る (金 融危機 以前 の 情勢)。

焦 り続 けてい た アメ リカのサ ブプライム ・ロー ンは

2 0 0 8

9

1 5

日の アメ リカ証券大手 の リーマ ン ・ ブラザ ーズの経 営破綻 を きっか けに急速 に また連鎖 的 に グ ローバル金融危機 に発展 したO この金融危機 は 世 界 同時株 安,不 況 へ と連鎖 し,欧 州景気 が停 滞 局面 に入 る とい う実体経 済 に波及 した。欧州委 員会 が

2 0 0 9

1

1 9

,EU2 7

ヵ国全 体 の

0 9

年 の経 済成 長 率 を プ ラス

0. 2%

か らマ イ ナス

1 . 8%

へ と大 き く下 方修 正 した

。E

U は

2 0 0 8

1

1月の ワシ ン トンの世 界金 融 サ ミッ ト

( G2 0)

で,統 合 を発展 させ で きた経 験 を踏 まえ,共通 政策 を案 出 し

,I MF

に各 国 の金融機 関や 当局 に対 して規 制 ・監督 の権 限 を付 与 すべ き だ とい う権 限強化 を提案 。一方で域 内で は,欧州委 員会 が

1

1月

2 6

,E

U の

GDP

1 . 5%

に当た る

2 0 0 0

億 ‑ ‑ロの景気刺激 策 な ど総合 的 な 「欧州経済 回復策」 を加盟 国 に提示 してい る。

欧州経済 回復 プ ランと銘打 った景気対策 は

,1 0

項 目にわた る。職業 の集 中訓練,高い 資格取得 の研修 , 労働集約 サ ー ビス業 に対 す る付加価値税 の引 き下 げ とい った雇用促進策 か ら, 中小企業対策費 の増額 ,環 境 に優 しい輸送 モデル,高速情報通信 ネ ッ トワークな どに対 す る投 資 の促進 も含 まれ, グ ローバ ルなマ ク

ロ経済 の挑戦 と位 置づ け られ る。

世界 を襲 った グ ローバ ル金融危機 は

,2 0 0 9

4

月末 までに第二 回世界金融 サ ミッ ト

( G20 )

で具体 的 な 金融改革 の実施案 が検討 され る予定 で あ るが,本稿 で は事態 は進行 中のため今後 の発展 を見 守 りたい。 た だ, ここで は単 にIMFとか金融 の改革 とか に止 まらず

,

「中国が国内での支 出増,通貨元高 の容認 に よっ て世界 のデ フ レ圧力 に対抗 で き, それ に よって,今緊急 に必要 とされ る欧州 とアメ リカの成長 を手助 けす るこ とがで きる」 とイギ リスの経済誌 「ェ コノ ミス ト

」( 20 0 8

1 0

1

1日付) が述べ てい る よ うに新 興 国に期待す る声 が上 が ってい る点 に も注 目 したい。 この こ とは世界経済 の成長 の分野 で は新興 国の影響力 が増大 してい る証左 で,金融 の グ ローバル破綻 が発 生す る以前 には, ゴール ドマ ン ・サ ックス

( 2 0 05

年) に よる と, 中国 は ドノレベ ースで

2 0 35

年 頃 には アメ リカ を抜い て世界最大 の経済 国 に イ ン ドはそれ まで に

3

番 目の経済大 国にな る とい う見通 しを出 してい た (欧州委 員会 「ヨー ロッパ経済

」2 0 06

年)0

一方 で

,2 0 08

年度 ノーベル経 済学賞受賞者 で プ リンス トン大学教授 の ポ ール ・クル ーグマ ン氏 は

,

「ア メ リカは世界 か ら資金 を吸い上 げバ ブル を支 えて数年 間 「世界 同時好況」 を演 出 したが, これ は世界 が歴 史上 経験 した こ とのない 巨大 な不 均衡 で あ り

,1 9 2 9

年 に始 ま った世 界恐慌 前夜 に似 てい る として,住 宅 バ ブノレを再 三警 告 してい た」 (朝 日新 聞

,2 0 0 8

1

0月

1 5

日付)。 また,現代 世界 の代 表 的 な知識 人, ス ーザ ン ・ジ ョージは,「金融 市場 に内在 す る不 安定性 が市場経 済 に対 す る重大 な脅威 で あ る。複数 の危機 が一度 に システ ムに襲 い かか れ ば, システ ム全体 が臨界 状態 に陥 る。 そ して地滑 り効 果 に よって,『地球 的規模 の ア クシデ ン ト』 が発生す る」 と警告 してい た (ジ ョージ ・ソ ロス,毛利 良一監訳 『ル ガ ノ秘密報 告 グ ローバ ル市場経 済 生 き残 り戦 略』,朝 日新 聞社

,2 0 0 0

年)。 フ リー ドリヒ ・ノ、イエ クの貨 幣,金融 を重視 す る貨幣的景気理論 な どの新 自由主義 の市場経済 が招 いた金融 資本主義 の破綻 とな るのだ ろ うか。

さて,春稿 は, こ うした グ ローバル経 済 の負 の面 を考慮 に入 れ なが ら, グ ローバ ル経済 の中の ヨー ロッ パ経済 を取 り上 げ る。先 ず は ヨー ロッパ が基軸通 貨 ドルで欧州通貨 が動揺 した時代 に如何 に して通貨危機

を克服 し,独 自の,共通 の通 貨 を立 ち上 げたか を考察す る。

(3)

ユ ー ロ経 済 圏 とグ ローパ ノレ経 済

‑ 9 9‑

2

ドル危機 とユーロ導入

オ ランダのノ、‑グで

1 9 6 9

1 2

月,欧州統合発足 か らの

1 2

年 を総括す る

EC

首脳会議 が開かれ, この ノ、‑グ首脳会議で経済通貨同盟 (通貨統合)が

7 0

年代 におけ る最大 の課題 に位置づ け られた

。1 96 7

1 1

月の ポ ン ドの平価切下 げ を契機 に国際通貨情勢 が大 き く動揺す る当時

,EC

加盟 国には通貨政策 の協調体 制 が確立 してい なか った こ とか ら通貨面 の域 内協調 の重要性 が痛感 された。先ず

,1 9 7 0

1 0

月,ル クセ ンブノレクの首相 だ った ウェル ナーか ら通貨同盟 を段 階的 に

1 0

年間で達成 す る とい う報告 が提示 された。

この レポー トは

,EC

が最終 的 に単一通 貨 を創 出す る意思 を初 めて表 明 した点で重視 されたが, イ ンフ レ と経済 の停滞,主要 国仏独 の立場 の相違 な どか らレポー トは実施 の局面 には至 らなか った。実現 の機 は熟 してい なか ったので ある。

1 9 7

1年

8

月, アメ リカのニ クソ ン大統領 が金 と ドルの交換停止 を発表,国定相場制 が変換相場制 へ移 行 し, ドル危機 が発生 した

。EC

加盟 国の通貨 は,共通性 を欠 き深刻 さの度合 は国に よって異 な る ものの 通貨危機 に見舞 われ,欧州通貨体制 の弱体が露呈 された。

この結果

,EC

加盟 国の間 に共 同歩調 を取 るこ とが重要で ある とい う認識 が高 ま り,共通 の単一通貨 を 創 出 しよ うとい う重要 な契機 とな った。 グ ローバル危機 を乗 り越 える リージ ョナルな統合 の共同体 として

の試 みが始 まったので ある。

単一通貨創 出の試 み

その後,欧州通 貨 は ドル にペ ッグ (連動)す る制度 が機能 しな くな り

,1 9 79

年,独仏が共 同で提案 し た欧州通貨制度

‑ EMS ( Eur o pe a nMo ne t a r yS ys t e m)

‑ が,実体面 で通貨統合 を軌道 に乗せ る目標 で発 足 した。 この段 階で の

EC

加盟 国 は

9

ヵ国で

,EMS

は① 中心相場 にエ キ ュー

ECU ( Eur o pe a nCur r e nc y U

山t) を据 え, それに対す る上下

2. 25%

の枠 に収 まる縮小変動相場制,実質的な固定相場制 を指 向 した。

一方 で制度面 で は,欧州委 員会 の ドローJL,委 員長 が経済通 貨同盟実現 の三段 階案 を提唱 した。 それ を 踏 まえて

1 9 93

年発効 のマ ース トリヒ ト条約 (EU設 立条約) に単一通貨 を導入す る経済通 貨 同盟 が共通 政策 として採択 され,単一通貨創 出の道筋 をつ けた. しか し,単一通貨創 出には幾 多の困難 が付 きま とっ た

。EMS

発足時 の

7 9

年 の第二次石油危機 に伴 う

8 0

年代初期 の景気後退 で ある。景気後退 を乗 り切 った 後,金融 の グ ローバ ル化 が進展 す る最 中

,1 9 92

年 に欧州通貨 は大規模 な売 り操作 の‑ ッジファン ド攻勢 を受 ける。 イギ リス ・ポ ン ド, イタ リア ・リラは縮小変動相場 の枠 に収 まらな くな り,為替相場 メカニズ ムか らの離脱 を余儀 な くされた。 この時点で,変動幅 は上下

2. 25%

か ら上下

1 5%

へ と拡大 され,通貨体 制 の安定性 が懸念 されたが

,9 4‑95

年 に多 くの通貨 は現実には縮小変動 の

2. 25%

以 内に収 ま り,実現 に向 けて明 るい見通 しが 出て きた

。95

年 にオ ース トリア, フィンラ ン ド, スウェーデ ンが加盟

LEU

の構成 国は

1 5

ヵ国に拡大 した。 この段階 までほ西欧諸 国の加盟。

「ユ ーロは一 日に して成 らず」。 ユ ーロ導入 には,厳 しい財政規律 が求 め られ,加盟 の条件 に

4

つの収欽 基準

( c on ve r ge nc ec r i t e r i a )

が設 け られ た。① 財 政赤字 が

GDP

3%

以 内で政府 債務 戎高 が

GDP

6 0

0

/.以 内,(参イ ンフ レ率,(彰長期金利,④通貨 の安定度 の四基準で, この うち最 も重要 な基準 は 「財政赤字 が対

GDP 3%

以 内」で あ った。参加 資格判定 の基準 は

,1 9 9 7

年 の収蝕 の基準 と

98

年 の予測値 で, この 基準 を満 た した

1

1ヵ国が

1 9 9 9

1

1

日か らユ ーロを導入 した。史上初 めての共通 の地域通貨 の誕生で ある。 イギ リス, デ ンマ ーク, スウェーデ ンは不参加, ギ リシャは加盟 の条件 を満 た していない と判定 さ れた。 デ ンマ ークは国民投票が通貨統合 を共通政策 として導入 したマ ース トリヒ ト条約 を否決 した こ とか

ら,適用除外 の扱い とな り不参加 とな った。

(4)

100‑ ユーロ経済圏とグローバル経済

ユ ー ロは物価 の安定 を最重要 な 目的 として創 出 されたが, ユ ー ロ導入 国は金融 と為替政策 を一元的 に運 営す る欧州 中央銀行‑

ECB ( Eu r o p e a nCe nt r a lBa nk)

の手 に委 ねた

。ECB

は加盟 国が介入で きない独立 機 関。一方財政政策 は各加盟 国の主権 の手 に委 ね られてい るが, ユ ー ロに関 して は財政赤字 の問題 な ど財 政 の規律 を取 り決 めた 「安定成長協定」 の遵守 が求 め られ る。

ユ ーロは2002年1月1日か ら紙 幣,硬 貨 の市 中流通 が開始 された.両替 の手 間 とコス トが省 か れ,為 替 リス クか ら免 れ る単一 の安定 した通 貨 が 出現 した ので あ る。 その結果,域 内貿易 ,投 資 の活発化 を促 す。 ユ ー ロ建 ての国債 が発行 され ドノレ建 て国債 を上 回 り, また,各 国か ら外貨準備高 として採用 され, そ の割合 が次第 に高 ま り, ドル を追 うも う一 つ の基軸通貨 としての風格 を備 えて くる (表2‑1参照)0

表2‑1 国保有の外貨準備構成比 (%)

忘、 ‑讐

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

米 ド ル 71.0 71.1 71.5 67.0 65.9 65.8 66.7 64.7

‑ ロ 17.9 18.3 19.2 23.8 25.2 24.9 24.2 25.8 円 6.4 6.1 5.1 4.4 3.9 3.9 3.6 3.2 英 ポ ン ド 2.9 2.8 2.7 2.8 2.8 3.4 3.6 4.4 スイスフラン 0.2 0.3 0.3 0.4 0.2 0.2 0.1 0.2

注 :外貨準備高の報告に基づいて構成比 を算出。

出所:IM F2007年報告。

近 年, ユ ー ロ圏内部 にユ ー ロ導 入後 ,財 政 の規 律 に違反 す る事 態 が発 生,2001年 ボル トガノレが財 政赤 字 が4.1%とな り,欧州委 員会 か ら改善 の勧告 を受 けた。主要 国 フラ ンス, ドイ ツが2002年 か ら04年 に か け3年連続 して財 政赤字 違 反 の見通 し とな り,更 に04年 には, オ ラ ンダ, イ タ リアな ど4ヵ国が3%

を上 回 る と予測 された。 フランス, ドイツの場合 は,手厚 い社会福祉 の負担, ドイツは ドイツ統一 の コス トが経済成長 や雇用創 出 を削 ぐ作用 を し始 めた。 その結果,両 国で は医療 の構造改革 に乗 り出す一方で, 景気浮揚 のための所得税減税 を実施 し, これが財政赤字増 につ なが ってい った。

このため,財政赤字 の問題 は

E

U が直面 す る重要 な課題 に浮上 し,政 治的判 断 が下 され る

。E

U財務相 理事会 は,2005年3月,安定成長協 定 の緩和 に踏 み切 った。3%以下 の枠組 みは維持 す る ものの, ドイツ 統一 な ど欧州統合 の コス ト,研究 開発,雇用促進 の経済改革 コス ト,年金改革 な ど社会保 障改革 の コス ト

は財政赤字 か ら除外す るこ とを決 めた。 ユ ー ロ導入 の条件 で あ る収数 の基準 について は,金融 ・財政政策 に重点 を置 き過 ぎ,経済政 策 の観 点が欠落 してい る とい う批判 が あ った。理事会 の政策決定 は収敦 の基準 を一部修正 した こ とにな る。今 回の決定 は経済改革 の円滑化 の他,今後 の中 ・東欧諸 国 に対 す るユ ー ロ参 加 へ の配慮 もあ ろ う。 ス ログ ェニ アは2007年1月, 中 ・東 欧加盟 国 の一番手 として ユ ーロ圏加盟 を果 た

した。次いで, ス ログ ァキアが2009年1月に加盟 した。

ユ ー ロを国内通貨 としてい る地域 を

E

U は

Eur

o

Ar e a

と呼 び 日本語 で は 「ユ ー ロ域」 の使用 が あ るが, 報 道 で も使用 してい る 「ユ ー ロ圏」 が一 般 に分 か り易 い と考 え この表 現 を採 った。 ユ ーロ使 用 につい て は,導入 国以 外 に, 旧 フラ ンス領 ア フ リカ諸 国 が ユ ーロにペ ッグ (連動),南東 欧 (バ ル カ ン) の モ ンテ ネ グ ロ, ア ン ドラ, コソヴ ォは,一方的 に国内通 貨 として使用 , フラ ン圏だ った モナ コ, リラ圏だ った ヴ ァチカ ン, サ ンマ リーノは フラ ンス, イ タ リアのユ ー ロ導入 に伴 い ユ ー ロを使用。 また, ル ーマニ ア, ポ ーラ ン ド, チ ェコを除 く中 ・東欧 の

E

U加盟諸 国 は, ユ ーロを為替相場 の基準 とな るア ンカ ー通貨 に採用 し,通 貨使用地域 が拡大 して きてい る.使用 圏の拡 大 の他 ,財 や資本 の移動 を促進 し,単一通 貨 ユ ー ロは 単一市場 と車 の両輪 とな り

E

U域 内の経済 の活性化 の役割 を果 た してい る。

(5)

ユーロ経済圏とグローバル経済

図表1‑1 ユーロ ・ドル相場の推移

ドル

1 . 6

1.5 1.4 1.3 1.2

1.1

1

0.9 0.8

1.6 1,5 1.4

1.3 1.2 1.1 1 0.9 0.8

ドル

10 1 ‑

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 (注 :ユ ーロの対 ドル レー トが最 も下落 した相場 は,1ユ ーロ‑0.8252ドJL, (2000年10月26日),最 も上昇 した相場 は,1‑‑p‑1.5990(2008年7月 15日)0

出所 :

ECBr e f e r e n c ee x c ha n g er a t e , USd o u a r/Eu r o .

ユ ー ロ と ドル との関係

ユ ーロ創 出時 の1999年1月の対 ドル レー トは,1ユ ー ロ‑1.17ドル程度 だ った。 その後2年 間下落 し 続 け,2000年10月26日,1ユ ー ロ‑0.825ドル と凡 そ30%下 落。 その後2004年12月23日現在 で1‑

‑ロ‑1.35ドル と大 幅 に上 昇 す るな ど乱高下 した。30%の下落 は経 済成 長率 の格差 な どを背景 とす るユ ー ロ圏 か らア メ リカ‑ の資本 移 動 に よる こ とが分 か った (坂 田豊光 『欧 州通 貨統 合 の ゆ くへ』, 中公新 香)。 ユ ー ロは2000年末 か ら上 昇 に転 じてい るが, それ に よる と,2001年 の9.11米 同時 多発 テ ロや2003 年3月のイ ラク戦争 で アメ リカ経済 が先行 き不透 明 とな り, ドル, アメ リカ証券 の信認 の失墜 を招 く。対 米投 資資本 が ヨー ロッパ に回帰 す る動 きが起 き, ユ ー ロの買戻 しを誘 発 した。 その結果,03年 中頃 まで に, ユ ー ロの対 ドル レー トは発足時点 を上 回 った. こ うしてユ ーロは曲折 を経 なが らも,基軸通貨 ドル に 連動 しなが らも う一つ の基軸通 貨 と しての軌道 に乗 り始 めた よ うにみ える。

その後 , ユ ー ロの対 ドル レー トは2005年 に下 降局 面 に入 った が,2006,7年 にユ ー ロ高, ドル安 の推 移 が鮮 明 とな る。 この背景 には,景気 の拡大 が続 くユ ー ロ圏 と景気 の先行 き不透 明感 の アメ リカの金利 の 動 向,外 貨準備 の ドルか らユ ー ロ‑ の シフ トの動 きが絡 む と伝 え られ る.EUの ユ ーロ圏財務相理事会 は ここに至 って2007年10月,対 ドル,対 円で最 高値 圏 にあ るユ ー ロ相場 の牽制 に動 き出す. ユ ー ロ圏財務 相理事会 は

9

,

「為相 市場 の動 向 を緊密 に監視 す る」 との共 同声 明 を発表 し, 日米 中や金 融市場 にユ ー ロ高 の是正 を求 めた (日本経済新 聞 07年10月10目付)。 しか し, ユ ーロ高 の基調 は変 わ らず, ユ ーロ の対 ドル レー トは,2008年7月15日,1‑ ‑ ロ‑1.5990の最高値 をつ けた (図表1‑1を参 照)。 その後, ユ ー ロの対 ドル レー トは2008年9月15日の リーマ ン ・ブ ラザ ーズの破綻 を契機 に急落 し,1.2ドル台 に 推移 す るが今 回 は この辺 りの言及 に止 め る。

欧州委 員会 の‑ル ヴ ェ ・カル レ上級顧 問 は

,

「ユ ー ロ

,1

0年後 の現在

( THEEURO, ′ Ⅰ ℃NYE ARSON)

(6)

102 ユ ー ロ経済 圏 とグ ローバ ル経済

と題 す る講演 の 中で

,

「重要 な統合 の努力 のおかげで, ユ ーロ圏は

2 0 0 7

年 に財政赤字 を平均で

0 . 6%

へ何 とか減 らす こ とがで きた。 これは

1 9 7 3

年来 の最優 良値 で ある

。2 0 0 5

年 に改革 された,財政 を規律す る安 定成長協 定 が財政 を健 全化 す る とい う通 貨 同盟加盟 国の公約 を確 固た る ものに したのは明 らか だ

。2 0 0 2

年以来, ユ ーロ圏加盟 国で過度 の財政赤字 の状態 にあ る国はない」 と述べ

,1 0

年間 のEU の マ クロ経済 政策 の成果 を報告 した。 カル レ上級顧 問 は また, ユ ーロが経済統合 を促進 し, それに よって効率 の よい市 場 が形成 され,ビジネスに対 して大 きな機会 とな ってい る としてユ ーロ導入

1 0

年間の成果 を強調 した (吹 州委 員会上級顧 問の講演

,2 0 0 8

9

1 6

日,慶慮義塾大学三 田 キャンパ ス)0

単一市場 の形成

欧州統合 を立 ち上 げた ローマ条約 は, ヒ ト (労働力), サ ー ビス,財,資本 が 自由に移動す る市場統合 の形成 を取 り決 めてい る。 モノ (財) については関税 同盟 の完成 と共通農業政策 に基づ く農業 の共同市場 で実現 してい った。 しか しその後

,1 9 7 0

年代 の

2

度 の石油危機 でEU加盟 国が景気後退 の局面 に入 った 結果, 国境 のない単一市場 を創設 し,経済 の活性化 を図 ろ うとい う考 えが浮上 したO「市場 の共通化」 と い う目標 は,石油危機 に よる影響 だけで はな く, ヨーロッパが, アメ リカ, 日本 に比べて技術革新 の分野 で立 ち遅 れ, グローバル競争 の面で劣勢 に立 った面 も否定で きない。

具体 的 な市場統合 をめ ざす動 きは

,1 9 8 5

年 に欧州委 員会 が発表 した 「域 内市場 白書」が契機 とな る。

①物理 的障壁 の撤廃,(参技術的障壁 の撤廃,(勤財政的障壁 の撤廃 の分野 の法令化 を提案 した。 この年, ヒ トの 自由移動 を取 り決 めた政府 間協定

( E

U の枠外) で あるシェンゲ ン協定 が調 印 されてい る。 この白書 の提案 に基づい て

1 9 8 6

年 に

EC

の政府 間会議 が開かれ,域 内市場 の統合 を目指す単一欧州議定書 が採択 され,翌

8 7

年発効 した。域 内市場 の統合 で ある単一市場 の完成 は

,1 9 9 2

1 2

3 1

日に発足 と決定 され たが, これは経済 の グローバル化 に伴 う市場 の グローバノレ化 とい う構 図の中で,い ち早 く域 内市場統合 の 達成 を決定 した点で も重要 であ った。議定書 は単一市場 の完成 に関わ る法令 の敏速 な採択 のため,全会一 致 ではな く特定 多数決制度 の適用 を決 めた こ とも制度改 革 の面 か ら大 きな前進 であ った

。1 9 9 3

年 に発足 した

EU ( 1

1月発効 のマ ース トリヒ ト条約 で

EC

か ら

E

Uへ発展) の市場統合 は,基準 の認証, サ ー ビス 規制 な ど共通化 の システムが築 かれた こ と,経済格差 は限定的で,水平 に拡 が る経済統合で ある ところか ら,地域市場統合 として機能す る体制 が敷 かれてい る とい えそ うだ。EU の単一市場 が 円滑 に機能す るに は歳 月 を要す る と考 え られ るが,単一市場 とい う構想 は,他 の地域共 同体 に とって先駆的な例 にな るで あ ろ う。

3

ユ ーロ経済圏の東方拡大

米 ソ両首脳 は

,1 9 8 9

1 2

月のマル タで冷戦終結 を宣言 し,すでに 自由化希求の市民革命 が進行 してい た東欧 (旧東欧 とバノレト諸 国 を合 わせて中 ・東欧。バル ト諸 国 を別扱い の場合 は中東欧 ・バノレト諸 国。バ ル カ ンは南東欧 と呼ぶ こ とにす る)諸 国が体制転換 し,多数 国が

E

U加盟

,NATO

加盟 を申請 した。

中 ・東欧諸 国 は

1 9 9 4

3

月の‑ ンガ リーの加盟 申請 を端緒 に, ポ ーラン ド, ス ログァキア, ス ログ ェ ニア, チ ェコ, エス トニア, ラ トゲィア, リ トアニ ア, ブルガ リア,ル ーマニアが加盟 申請 した。① 民主 主義,②法 の支配,(彰機能す る市場経済 な ど加盟 の条件 であるコペ ンノ、‑ゲ ンの基準 を達成 し

,2 0 0 4

5

月,地 中海 の キプロス,マノレタを含 む

8

ヵ国が

,0 7

1

月に ブルガ リア,ル ーマニアの加盟が認 め られ, 統合 に よる東西両 ヨー ロッパの統一 が実現 した。冷戦 の終結 に よって東西間の壁 が取 り払われ,空 自地帯 が無 くな った こ ともグローバ リゼ ーシ ョンの大 きな要素であ る。分断 されていた東西両 ヨーロッパ の統一 が地平 の彼方 に現 われ,統合 に よる統‑ に よ り, ヨーロッパ に平和 と安定,繁栄 の道 が拓かれた。

(7)

ユーロ経済圏とグローバル経済

表2‑1 中 ・東欧諸国への海外直接投資 (FDト) (2001年‑2008年 単位100万ユーロ)

‑ 103‑

2001 2002 2003 2004 2050 2006 2007 2008(予測) チェコ

ノ、ンガ リー ポーランド スログァキア スログェニア ブルガ リア ノレ‑マニア

000000000000000500550633248日H

49433917439704608001164221671

7884210929216674135904553591

427232377157513139412968135

7331563035463806446714302251

387411668617548809289114111

251720218792810133792934411

61282349976109233749264611

注:2009年 は,金融危機 の 影響でFDIの流入減 の予測 も。wiiwはウィーン国際 (比 較)経済研究所。

出所:wiiwDatabaseonForeignDirectInvestmentinCentral,EastandSoutheastEurope,Vienna,June2008.

EU はそれ まで西欧諸 国の加盟 に よって統 合 の輪 が広 が って きたが, 中 ・東 欧諸 国が機 能す る市場経済 の条件 を満すべ く鋭得努力 した結果 ,低 コス トの生産市場 ,潜在 的 な需要 の一大 マ ーケ ッ トが新 た に急浮 上 した。 国営企業 の民営化 ,価格 の 自由化,貿易 ・外 国為替制度 の整備 な ど市場経済化へ の移行 の進展 と

ともに,直接投 資が 中 ・東 欧地域 へ集 中 してい く。

これ ら新興 国へ の国際 資本 の流入 は,市場経 済化 に とって重要 で,潜在 的 な成 長 に大 き く貢献 で きる。

国内の財政制度 は,投 資家 を支援 で きる力 は未 だつい てお らず,FDI‑海外直接投 資‑ は増大す る投 資需 要 に応 え る出資源 とな る。低賃 金 の生産基 地 へ は欧州以外 に 日本, ア メ リカの多国籍企業 の進 出が相 次 ぐ。 グ ローバ ル な市場競 争 の 中で は, 中国, イ ン ド, ブ ラジル な どBRICsと呼 ばれ る新興 国へ の直接 投 資が加 速 し, これ ら新 興 国 は高 い巌 済成 長率 と海 外 へ の輸 出増 で世界 の成 長 の極 と して注 目 され るに至 る。 ヨーロッパ で は,加盟 した 中 ・東 欧諸 国に加 えて, ウクライナ, ロシア,バル カ ンを含 めた地域 が新 興市場 に登場 してい る。 チ ェコには トヨタ自動車, ドイツの フォル クス ワーゲ ンの子会社 が, ス ログ ァキ アには フラ ンスの プジ ョー ・シ トローユ ングル ープが生産拠 点 を立 ち上 げた。 ジェ トロ (日本貿易振興機 構) が2004年,欧州 と tJレコ進 出の 日系 メ ーカ ーを対象 に調 査 した ところに よる と, 日系 メ ーカ ーは, 通 関手続 きの簡素化 で物流 の効率化 が今後 も見込 め る と予測 してい る0

海外直接投 資 を部 門別 にみ る と,何 れ の国で も製造業 が最 も高 く,業種別 で は,自動車 の シェアが高 く, 次いで電気 ・電子機器,化学 と続 く。製造業 で は海外直接投 資 に 占め る多国籍企業 の割合 が高 く, 中 ・東 欧諸 国に生産 力,経 営 の ノウノ、ウ,雇用,貿易 の増大 を もた ら した。例 えば, チ ェコの場合,海外直接投 資 に よる進 出企業 は,1999年 のチ ェコの輸 出全体 の60%を占め,進 出に よって同年 だけで1万9000人 の 雇用 が創 出 された。

一方 で, 中 ・東 欧諸 国 はEU加盟後 ,国 内企業 の役割 が増大 し,新 しい生長 の芽 が吹 き出 した. ポ ー ラ ン ドを例 に とる と,個人 消費 の高 ま りと設備 投 資 の拡 大 が景気 を牽 引 し,2006年 は GDP成 長率 が6.1%

を記 録 した。1997年 以来,約10年 ぶ りの高 い水準。 ユ ーロ加盟 の収赦 基準 の一 つ財政赤字 の GDP比率 は30/o以下 の見通 し。 ジ ェ トロに よる と,個人消費 の拡 大 には大 き く二 つ の要 因が あ り,一 つ は,都 市部 の購買力 が増加 した こ とで,年収200万 円前後 の層 が全体 の10‑ 20%を占め るまで にな り,西欧 と価格 水準 が余 り変 わ らない家電製 品 な ども買 う余裕 が出て きた。二 つ 目は,農村 部 の底上 げ。EU加 盟 に よっ て西欧 ・ロシア向けの輸 出の好調 に加 えて,共通農業政策 に よる補助金 の支給 で, これ まで非常 に低所得 者層 だ った145万戸 の農 家 が都 市部 の水準 に及 ばない まで も年収136万 円程度 に まで底上 げ された (ポ ー

ラ ン ドの項 は,週刊 ダイヤモ ン ド 『新 しいEU』,2007年11月3日号)0

EU域 内は市場統合 で労働 力 の移 動 が 自由で あ るが, 中 ・東欧諸 国 の加盟 時 には,国 に よって は,移動 に最高7年 間 の 自粛 を要求す るこ とがで きる。 しか し,現実 には, ポ ーラ ン ドか らイギ リスな どへ の出稼

(8)

104 ‑ ユ ー ロ経 済 圏 とグ ローバ ル経 済

ぎ移動 が起 き,逆 にポーラン ドで は労働者不足 の状況 にな ってい る。 同 じこ とが,製造業へ の投資が集 中 した チ ェコ,‑ ンガ リーで も起 き,逆 に スログ ァキア,ル ーマニア

,E

U未加盟 の ウクライナか らの出稼 ぎ労働者 が増 えてい る とい う。外 資系企業 の進 出先 が東へ進む と同時 に人材供給先 はその更 に東 に生れ る (前掲 ダイヤモ ン ド)。 中 ・東 欧諸 国の

E

U加盟後 には,多様 で新 らしい産業 の波が発生 してお り

,E

U経 済圏の動 向か らは 目を離せ ない。

グローバル化 を生 き抜 くリスボ ン戦略

ところで

,1 99 0

年代後半 に アメ リカは,情報通信技術

( I CT)

の‑ ‑ ド, ソフ ト部門の開発,生産 とい う情報技術 で地歩 を築 き

,E

U には経済 の グ ローバ ル化で アメ リカに立 ち遅 れ る とい う懸念が高 まった。

グローバル化 の影響 で ヨーロッパ型 資本主義 が欧州統合 の中で どの よ うに定着す るかは

E

U の東方へ の拡 大 の未来 に とって も重要 な要素 と考 え られた。

2 0 00

3

月, リスボ ンの

E

U首脳会議 で

,

「グローバル化 の影響 で失業者 が

1 5 0 0

万人 を超 えた。女性, 高齢者 の労働市場へ の参入 は不十分 で, また情報技術分野で立 ち遅 れ,格差が拡大 してい る」 とい う現状 が報告 された。 リスボ ン首脳会議 はこの反省 の上 に立 って

,E

U全域 が グローバ ル化 時代 に即 した戦略 を 樹 て る必要 があ る として

,「 201 0

年 までに世界 で最高 の競争力 と活力 を備 えた知識 に基づ く経済 を構築 す る」とい うリスボ ン戦略 を立 ち上 げた。市場統合,通貨統合 に次 ぐ経済活性化戦略 とみ るこ ともで きよ う。

しか し,欧州経済 は

,2 00 0

年 に実質経済成長率

3. 5%

を記録 した ものの, それ以降 はユ ーロ高 な どで低 迷 し

,03

年 に入 る と一時部 門別 で反転上 向 く兆 しがみ えたが

,0 4

1

月,欧州委 員会 は

,

「市場統合が停 滞 し

,2 01 0

年 まで に

E

U を世界 で最 も競争力 のあ る知識 に基づ く経済 にす る とい う リスボ ン戦 略 は軌道 に乗 ってい ない」 と警告 を発 した。理念 が先行す るのは よいが

,I

T (情報技術)革命 で躍進す るアメ リカ に対す る立 ち遅 れ を取 り戻 すぺ く, デ ジタル ・デ ヴ ァイ ド (情報格差) をな くすため欧州電子化計画 (e

Eur o pe )

な ども盛 り込 ん だ対応 を促 した。 しか し,短期 間での計画 の完 了は困難祝 され,欧州委 員会 の

ロマ ‑ノ ・ブ ローデ ィ委 員長 は

,2 0 0 2

7

月の段 階で, ブ リュッセル 自由大学教授 で欧州統合論専 門家 のア ン ドレ ・サ ピール氏 が委 員長 の研究 グル ープにこの野心的な戦略 の分析 と見直 しを依頼 した。新規加 盟 国に対 しもっ とチ ャンスを与 え,研究 開発 と高等教育 に対す る財政支 出 を増 やす こ とな どが必要 とし て,(》単一市場 の活性化,②知識 に対す る投資増,(丑単一通貨 に対す るマ クロ経済政策 の改革,(

彰E

U予 算 の見直 し,6)効果的 な政策決定 と規制,⑥安定成長協定 の見直 しな ど六項 目にわた るサ ピール ・リポー

トを提 出 した。

この提 言 が具体 的 に ど う生か されたか は明確 で ないが,財政 を規律 す る安定成長協定 の見直 しについ て

,E

U財務相理事会 は,財政規律 に関 して,財政赤字 の対

GDP3%

以 内の基準 は維持 しなが らも,社会 保 障費や ドイツ統一 な ど統一経費 を赤字枠 か ら除外 した こ とは改革 と受 け止 め られ る。 また, リスボ ン戦 略 は中間年度 の

2 0 05

年 に大規模 な修正 を行い, これ まで知識基盤 の経済 や競争力 とい った多様 な 目標 を 整理 し, リスボ ン戦略 の 目標 を 「成長 と雇用」 の二点で あるこ とを明確 に した。従来別々に行 われて きた 雇用政策分野 の政策協調 が, リスボ ン戦略 の中に組 み込 まれたのは効果的 な政策決定 と言 えるで あろ う。

4 金融危機 と EUの対応

2 0 08

9

月に発生 した アメ リカを震源 とす る金融危機 は, ヨーロッパ に も波及 し,経済危機 に発展 し てい った

。E

U は

2 0 08

9

1 2

日の財務相理事会で, ユ ーロ圏全体 の景気対策 を協議 した結果, ユ ーロ の財政規律 で あ る安定成長協定 は維持 す るが,財政 出動 な どの景気対策 には否定 的 な見方が多数で あ っ た。 しか し,具体 的 な

9

1 6

日の リーマ ンブラザ ーズ破綻 に端 を発す る, グローバ ル金融危機 へ の発展

(9)

ユーロ経済圏とグローバル経済 10 5 ‑

は, こ うした ユ ーロ圏の見 方 を呑 み込 み, その影響 は実体経済 に波及 し,財政 出動 に否定的 だ った ドイツ も国内銀行 に加 え,経営難 に陥 った外 資系銀行 に対 して も公 的資金 の注入 な ど,信用不安 の拡大 を防 ぐ方 針 に切 り替 えた。 ユ ー ロ不 参加 のEU加盟 国 イギ リスはい ち早 く,2008年度 内 に大手3銀 行 へ370億 ポ ン ドの公 的資金注入 の方針 を決 めた。 こ うした矢継 ぎ早 の措置 は非常事態 を乗 り切 る緊急対策 とみて とれ る (表3‑1参 照)0

特記 で きるのは,非EU加盟 国で人 口30万人 の アイス ラ ン ドで,金融危機 が ヨーロ ッパ で最初 に表 面 化 した ケ ースで あ る。高金利 の アイス ラン ドの銀行 か ら貸 し手 が資金 の回収 に動 き出 し,短期 資金 の流 出 が止 ま らな くな り通 貨危機 に陥 った。 このた め アイ ス ラ ン ド政府 は カ ウブ シ ング銀行 を事 実上 国有化 し た。 カ ウブシ ング銀行 につい て は, 日本 で発行 した 円建 て債権 (サ ム ライ債) の債務不履行 も明 らか とな った (日本 経済新 聞,2008年10月27日付)。独 立 を重視 し,漁 業 へ の規制 に対 す る警 戒感 な どか らEU 加盟 を希望 しなか った アイス ラ ン ドは, グ ローバ ル化 時代 の国家 の非力 を見 せつ け られ る事 態 とな った。

また,EU加 盟 国 デ ンマ ークの通貨 ク ローネが急落 し, ユ ーロ不参加 国が深刻 な影響 に見舞 われたO この 点後 に触 れ る。

こ うした 中で,欧州地域統合 圏 のEU として金融危機 に ど う対応 してい るか に触 れてお きたい。先 ず欧 州 中央銀 行‑ ECB‑,米連 邦準備 制度理事 会‑ FRB な ど米 欧, 中国 な ど世界10ヵ国 ・地域 の 中央 銀行 が同時利 下 げ に踏 み切 った。金 融危機 が実体経済 に悪影 響 を及 ぼす との判 断か らで,米欧で は2008年10 月政策金利 を0.5%下 げた (表3‑2参 照)0

表3‑1 欧州の危機対策

①英国

公的資金注入 を約9兆円 (さフランス

公的資金注入 を約5.6兆円

③ ドイツ

公的資金注入 を約 11兆円○個人預金 を全額保護

④ オランダ

ⅠNGに約1.4兆円の公的資金注入

⑤ イタリア

政府による銀行業界‑の支援表明 (むスペイン

銀行の資金融通 を助ける政府保証 を約14兆円 伝)スウェーデン

公的資金注入 を約2千億 円 檀)スイス

UBSに約5300億円の公的資金注入

@ベルギー⑩ルクセンブルク④ オランダ 大手銀行 を国有化

⑪アイルラン ド⑫ ギ リシャ 預金全額保護

⑱アイスラン ド⑭ ウクライナ⑯ハンガリー

出所 :朝 日新聞2008・10・22

表3‑2 10月8日に利下げを実施 ・発表 した国 ・地域 国 .地域 政策金利(%)

米欧6中銀協調 米国 1.5 (0.5) ユーロ圏 3.75(0.5) 英国 4.5 (0.5) カナダ 2.5 (0.5) スウェーデ ン 4.25(0.5) スイス 2.5 (0.5) 6中銀と同時に発表 中国 6.93(0.27)

アラブ首長国連邦 1.5 (0.5) 6中銀の前に発表 香港 2.5 (1.0) (注)単位%, カッコ内は下げ幅。 中国は期間 1年の貸

出金利

出所 :日本経済新聞2008年10月9日付 ii) 2009年35日現在

イングランド銀行 0.5(0.5%引下げ) 欧州中央銀行 (ECB) 1.5(0.5%引下げ) (注)・イ ングラン ド銀行の1%の政策金利 は1694年設

立以来最低の金利。

・FRB 0.0‑0.25%

(2008年12月16日)

・日本銀行 0.1% (0.3%か ら) (2008年12月20日)

(10)

1 0 6 ‑ ユ ー ロ経済 圏 とグ ローバ ル経済

一 方

E

U は

,1

1月, ワシ ン トンの世界 金融 サ ミッ ト

( G20 )

を前 に

1

1月

7

日,首脳 会議 を開 き, 国際 金融制度改革 の対応 を協議 し,新 しい 国際金融制度 を構築 す るための

E

U としての方針 を決 めた。

① すべ ての金融機 関, 国 の機 関 も規制 と監督 の対象 とす る。規制 は格付 け会社 に, ‑ ッジファン ドには監 督 が適用 され る。

⑦債券 の証券化 や報酬制度 な ど,過度 な リス クに向か わせ る仕組 み を見直す。

③ 金融危機 を未然 に防 ぐ任 務 は

,I MF

一 国際通 貨基 金一 に 中心 的 な役割 を託す

。I MF

は新 しい 国際金融 制度 の基軸 とな る。

(参会計基準 の収赦化 を求 め る.

E

U の方針 は,規制 ・監督 の強化,金融危機 を未然 に防 ぐ中心的 な役割 をIMFに託す考 えが特徴 で, 自 由な市場

,I MF

の権 限強化 に消極 的 な アメ リカの考 え方 とは相違 してい る

。1 1

1 5

日の世界金融 サ ミッ

トについ て は今 回は本稿 の主 旨で はない ので割愛す る。

おわ りに

今 回の金融危機 で ヨー ロッパ に新 た な胎動 が起 きてい るので それ に触 れ る。今 回の グ ローバル金融危機 で 中小 国 の通 貨 も大 き く動揺 した。 デ ンマ ークの ラス ムセ ン首相 は

1 1

1 5

,201

1年 まで にユ ー ロ導 入 の承認 を求 め る国民投票 を行 う意 向 を表 明 した。 ユ ー ロ圏外 に とどまる コス トが大 き くな ってい るのは 明 らか だ と説 明 (日本経済新 聞

,20 0 8

1 0

1 6

目付)0

デ ンマ ークは ユ ー ロ参 加 の収 欽 基準 は十 分満 た してい たが, デ ンマ ークの通 貨 ク ローネが発展,定着 してお り,小 国 に とって は通 貨 の動 向 とか投機 に影響 されやすい として参加 しない意 向 を明確 に表 明 して い た

( 1 9 95

8

月 ミケイル ・デ ィッ トマ ‑経済事務 次官 が筆者 との会見 で表 明 してい た)。 その後,情勢 の変化 で

2 0 0 0

9

月, ユ ー ロ導入 の可否 を問 う国民投 票 を実施 したが, ユ ーロ導入 を否決 してい た。 ま た ユ ー ロ不 参加 の ス ウ ェーデ ンもデ ンマ ークに追 随す る可能性 もあ る とみ られ る

。20 03

9

月の国民投 票 で はユ ーロ導入 を香決 してい る。金融危機 の荒波 は

E

U加盟 の 中 ・東欧諸 国 に押 し寄 せた。 フラ ンス紙

「ル ・モ ン ド」 に よる と,先 ず‑ ンガ リーが

1 99 0

年代 , イギ リス, イ タ リア, スペ イ ン, ポル トガルが被 ったの に比肩す る深刻 な金融市場 の打撃 を受 け,為替相場 の変動 や投機 か ら身 を守 る必要性 を痛感 し, ユ ー ロ圏加盟 の緊急性 を実感 した。 ジ ュノレチ ャー二 ・フ ェ レ首相 は

,

「金融危機 に よって速 やか にユ ー ロ圏 加 盟 の必要 性 に直面 した」 と述 べ てい る。ノ、ンガ リーの通過 フォ リン トは,対 ドノレ比 で

1 7%

下 落

,I MF

の金 融支援 を受 けた。 また, ポ ーラ ン ドは,金 融危機 で 自国通 貨 ズ ロチの対 ドル レー トが

1 5%

下落 し, ユ ー ロ圏加 盟 が重要 な課題 に浮上 した。 ドナル ド ・トゥス ク首相 は

,2 01 2

年 にユ ー ロ導入 の意 向 を表 明

した. チ ェコで もユ ー ロ導入 の課題 は持 ち上 が ってい るO

金融 ・経済危機 で ユ ー ロ導入 に至 ってい ない 中 ・東 欧 の

E

U加盟 国 は,通貨,株式,債権 の下落 に加 え, 海外 か らの直接投 資の縮 小,輸 出の落 ち込 みで実体経 済 は極度 に悪化 してい る。 こ うした情勢 の下

,2 00 9

3

1

日,緊急 に開かれた

E

U特別 首脳会議 で は, ユ ー ロ加盟 に有利 な救済策 は具体 的 に何 ひ とつ決 ま

らなか ったが, 中 ・東 欧加盟 国の安定 のた めユ ーロ圏加盟 を容易 にす るた めの模 索 の考 えが幾 つか表 明 さ れた (ル ・モ ン ド

2 0 0 9

3

3

日付)。 多数 国 のユ ー ロ加盟 は,財政規律 に リンクす るだ けにユ ー ロ圏 の運用 は困難 が増 す で あ ろ う。 しか し, ドル基軸体制 が揺 ら ぐ中, ヨー ロッパで はユ ー ロ体制へ の傾斜 を 深 めた こ とは確 かで,金融 の規制,監督 の必要性 を説 くユ ーロ体制 が, 国際金融体制 の新 しい秩序 の構築 に どの よ うな影響力 を及 ぼすか は一 つ の注 目点 に思 える。

( 20 0 9

3

5

日)

(11)

ユーロ経済圏 とグローバノレ経済

ー 1 0 7‑

参考文献

llj 'Globalisation:Trends,IssuesandMacrolm plicationsfortheEU;EuropeanEconomy',EuropeanCommission,July 2006.

[2] 'Internationlreserves',IMFAn nualReport2007.

〔3〕An dr占Saph・̀sapirReport:AnAgendaforaGrowingEurope',High‑levelS山dyGroupestablishedon血einitiativeof払e PresidentofmeEuropeanCommission,July2003.

(4) 'Referenceexchangerate,USdonar/Euro',ECB,Dec.1,2008.

〔5〕 EEl中素香 『拡大す るユ ーロ経済圏』, 日本経済新聞出版社,2007年。

〔6〕 石井伸一 『現代欧州統合論』, 白桃書房,2005年。

〔7〕 清水嘉治 ・石井伸一 『新EU論』,新評論,2008年o

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