発 達 心 理 学 研 究
2009,第20巻,第2号,99‑111 原 著
幼児を育てている親の子育てに関する省察の3層モデルの検討
朴 信 永 杉 村 伸 一 郎
( 宇 部 フ ロ ン テ ィ ア 大 学 短 期 大 学 部 ) ( 広 島 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 )
本研究の目的は3〜5歳児の親を対象に子育てにおける認知過程の構造を明らかにすることであった。
特に本研究では,従来メタ認知や内省的注意力などと呼ばれてきたものも含めて省察という概念で統一 し,その省察が3つの階層と3つの領域(親自身に関する省察(PR),子どもに関する省察(CR),他者 をとおした省察(OR))から構成されるモデルを子育てにおける認知過程として仮定した。先の3つの領
域別に親の省察に関する尺度を作成し,自己意識・自己内省,親子関係,母性意識,養育態度を測定す る尺度とともに質問紙調査を実施し,259人の親から回答を得た。親の省察尺度について因子分析の結 果,PRとORにおいてはそれぞれ2因子,CRにおいては3因子を得た。これらの因子に基づいた低次の 省察が高次の省察に影響を及ぼす3層モデルを構築し,共分散構造分析によってその妥当性を確かめた。
また,省察尺度の3つの下位尺度(PR,CROR)すべてにおいて信頼 性は十分高く,親の省察尺度とその
他の尺度の相関からも省察尺度の信頼性と妥当性が確認された。【キー・ワード】子育て,親の認知,親の省察,幼児
問 題 と 目 的
近年,子育ての労力を軽減するためだけの子育て支援 が見直され,「親としての成長」をめざす「親も共に育 つ」子育て支援の重要性が唱えられている(太田,2007;
大日向,2005)。友定・山口大学教育学部附属幼稚園 (2004)は,幼稚園における親の成長について,親自身 のあり方,幼児理解,保育者理解の3つを軸にしたモデ ルを紹介し,その頂点には自分なりの子育て観をもつこ と,幼稚園の生活に自分らしく関わること,子どもにふ さわしい関わりをすることを位置づけた。また,親の成 長の内容として子ども理解を広げ深めること,保育を理 解すること,自身をふり返ることを挙げている。しか し,現時点では,親としての成長の問題を具体的にとり あげ親育ち支援に直接つながるような研究が極めて少な く,その基礎的な知見となる子育てにおける親の認知過 程に関する研究も,用語や概念が整理されていないため
に,知見を統合することが困難な状況にある。最近,親の子育てに関する認知に注目した研究では,
親のモニタリング(Hayes,Hudson,&Matthews,2004;
Peterson,Ewigman,&Kivlahan,1993)や,子どもの心的理 解の発達を支えるものとして養育者の敏感性(Ainsworth,
Blehar;Waters,&Wall,1978),mind‑mindedness(Meins eta1.,2002),メタ認知(Mai、,1991),内省的注意力
(Fbnagyウ1996)などがある。これらは,親子間に安定し た愛着関係を形成する要因として共通している。しか し,モニタリングや,敏感性,mind‑mindednessに関す る研究と,メタ認知や内省的注意力に関する研究との間
には,認知の次元における相違があるように思われる。
高い敏感性とは,子どものシグナルに感度よく気づ き,その意味を正確に読み取り,適切かつ敏速に応答す ることである(Ainswortheta1.,1978)。また,養育者の
mind‑mindednessとは,発達早期から子どもをすでに心的世界を有した独立した存在として捉え,子どもの言動 を背後に存在する心的観点から理解しようとする傾向と 定義されている(Meins,1997)。これらは両方とも安定 した愛着関係を築き,子どもの心的理解の発達を促進す る過程に注目した点(篠原,2005)だけではなく,親の
モニタリングと同様に子どもと関わっているその場に焦 点を合わせている点も共通している。一方,親研究におけるメタ認知は,親が日々の子育て とそれに伴う自分の認知や感情に関する表象的特性の理 解を指しており,子どもと安定的な愛着関係を築く要因 とされている(Mai、,1991)。そして,この理論的枠組み に臨床的価値を加えようとしたのがRmagy(1996)の研
究である。彼は成人愛着インタビュー(AAI:Adult Attachmentlnterview)を通して,自分自身はもちろん 他者の内的状態に関する内省的注意力を探ることによって,親のメタ認知による乳幼児の安定感が正しく予測で きることを示した。これらの研究の特徴は,子どもと接
しているその場から一歩離れ,養育者自身の思考様式な いしは内的な問題に焦点を合わせているところである。上で述べた研究は,親がメタ認知や内省的注意力を通
して適切な育児態度をとることができ,子どもと安定的
な関係を築いていくことを示した点において意義があると考えられる。メタ認知や内省的注意力,敏感』性,
見 100
れる養育者のモニタリングや,敏感性,mind‑minded‐
nessと,高次の省察に該当すると思われる養育者のメ タ認知や内省的注意力を,省察という概念に位置づけ整 理 す る 。 こ の よ う に 省 察 の 概 念 を 定 義 す る こ と に よ っ て,育児支援の現場が求めている親の内面からの成長に 役立てるよう,省察過程を具体的に示すことが可能にな るであろう。
と こ ろ で , 授 業 に お け る 教 師 の 省 察 に 関 し て は , Grimmett(1988)が3つのレベルに区別している。第一 レベルの省察は,行動についての思慮深さを指し,意識 的で熟慮的な働きがある。第二レベルは,良い教え方を めぐる考察,様々な活動から生じる結果を予想すること が含まれる。そして,第三レベルでは,今までの経験を 再構成し,行為する状況に新たな意味を与えたり,新た な理解を形成する。
しかし,子育てに関する研究では,認知のレベルとい う観点から省察の過程を整理しモデルを提示している研 究は見当たらない。そこで,朴・杉村(2006)は,省察
の3層モデル(Figurel参照)を提案し,子育ての認知
過程における用語や概念を整理した。そのモデルでは,以下のような点が明確に区別されている。
第一は,省察の認知のレベルと,省察が及ぶ時間の範 囲である。保育の省察に関する研究では,保育当日の省 察と日が経ってからの省察が区別され,時間の経過とと もに思考がより抽象化・一般化されていくと考えられて
いる(吉村・吉岡・岩上・田代,1997)。しかし,子育
てにおける省察研究ではこのような点が十分考慮されて いない。そこで省察の3層モデルでは,Sch6n(1983/2001)の「行為の中の省察」も含め子どもと向き合って mind‑mindedness,モニタリングといった概念は,子育
てに関する多くの実証的な研究を刺激し,また国内外の 臨床心理学,発達心理学などの領域で応用的な研究を生 み出している。しかし,必ずしも,それが育児の現場に より適用されやすい示唆を与える研究として足りえてい るかという点では,疑念がある。実際,これらの親の認 知面にかかわる概念は混用されていて系統的な定義づけ が不十分である。すなわち,メタ認知の下位概念である 認知のレベルからの位置づけを十分行わず,研究テーマ や領域により恋意的に使われてきた。そのために子育て に お け る 親 の 認 知 過 程 の 全 体 像 を 把 握 す る こ と が 難 し く,それぞれの研究結果を比較・検討することが困難で ある。また,親自身や親の心理面から子育てを支援する 者も,具体的にどのようにすればよいかわかりにくい。
そこで本研究では,親の子育てに関する認知過程を包 括する概念として,中身の体系的な議論が行われつつあ るreflection(宮内,1998;高橋,1998;安見・秋田・烏 井・小林・寺田,1997;吉村・吉岡・尾形・田代,
1996)を援用し,子育てにおける様々な認知過程をその 対象と次元において整理することにした。Reflectionは,
日本語訳で省察あるいは内省と訳されている。本研究で は,保育や親に関する先行研究で省察という用語がすで に使われていること,今後,自己改善という親育ち支援 の現場でのわかりやすさを念頭に入れ,従来メタ認知や メタ認知的モニタリング,内省的注意力などとよばれて きたものを省察という概念で統一して記述する。実際,
省察は高次の思考活動だけを指し示す概念ではなく,行 為の中の知(Sch6n'1983/2001)が含まれてこそ意味を 成す概念である。そこで,低次の省察に該当すると思わ
2次的情報 2次的省察
一 般 的 認 識
イモ壬 他Ⅱ者Ⅱとの交州流
3次的情報
3次的省察 洞察・抽象化 通し・具体化
発 達 心 理 学 研 究 第 2 0 巻 第 2 号
個 別 的 認 識
1次的省察 知覚
計画・予測 分析・評価
気づき 1次的情報
報 注意・制御
外 的 情 報 、 宅 夢 ' 〆 # 羅 鰯 :
情報る情Figurel省察の3層モテル(朴・杉村,2006を一部改変)
幼児を育てている親の子育てに関する省察の3層モデルの検討 101
いる場での気づきとよべるような省察を1次的省察,比 較的短期間(当日や翌日など)にかけて分析・評価する 省察を2次的省察,より長い間蓄積され価値観が変わる ような深い省察を3次的省察とよび,省察のレベルを区 別している。
第二は,省察の対象の分離である。子育てにおいて日 常の出来事は,親と子どもの相互作用において起きるの で,親だけに関する 情報と,子どもだけに関する 情報と い う よ う に 分 離 す る こ と は 難 し い 。 ま た , 今 ま で は 省 察 における判断材料として自分自身に関するもの,子ども に関するもの,他者からの 情報などが混在しており,問 題 点 を 特 定 す る こ と が 難 し く , よ り 細 か い 検 討 が 困 難 で あ っ た 。 し か し , 概 念 的 に は 明 確 に 区 別 す る こ と が で き,実際これまでの研究においても,親のメタ認知に関 する研究(Mai、,1991)では親に関する 情報を中心に,
親のモニタリングに関する研究(Hayeseta1.,2004)で
は子どもに関する'情報を中心に扱ってきた。一方,省察 の3層モデルでは省察に用いる情報を,親自身の態度や 言動など「親自身に関する'情報」,自分の子どもの情報 や行動など「自分の子どもに関する'情報」,他の親の子 どもへの接し方や他の子どもの様子など「他の親や子ど もに関する情報」の3つに分けている。この3つの側面 は,「外的情報」とそれに対する「1次的省察」のレベル だけでなく,より上のレベルにおいても区別することは できるが,レベルが高くなるにつれて3つの側面は統合 されていくと考えられている。第三は,他者をとおして行われる省察の明確な位置づ けである。子育てにおいては,育児書や雑誌から 情報を 得たり,直接他の親子の行為を目にし,会話を聞くこと によって,自分の育児に活かすことがある。また,子ど もを育てている親同士の交流を通して,子育てに関する 有用な情報を交換したり,子育てにおける様々な問題の 解決を模索することもある。前者は,他の親や子どもに 関する外的情報の参照,後者は,積極的な交流を通して 自分の子育ての長所・短所に気づいたり,自分自身の子 育てをふり返り自己評価することといえる。外的参照や 他者との交流など他者をとおした省察は,子どもとの相 互作用だけに注意を払い孤立してしまいがちな現代の親 において特に重要であり,親の省察において欠かせない 要素と考えられる。
以上のような省察の3層モデルを想定することによ り,親子の直接的な関わりの場面における「1次的省察」
とその結果を基にした「2次的省察」の違い,さらに「2 次的省察」とその結果を基にした「3次的省察」の違いを 明らかにすることができる。特に,「1次的省察」では日 常の経験を基盤にモニタリングすることが前提とされて いるので,モニタリングを通した省察から高次の省察ま での段階的な過程を記述することができ,親の子育てに
お け る 認 知 過 程 の 状 況 や 場 面 に よ る 質 的 ・ 量 的 な 違 い を 明示することができる。また,以前あまりとりあげられ てこなかった「他の親や子どもに関する'情報」と「他者 との交流」を設定することによって,子育ての日常場面 をより忠実に再現したといえる。
しかし,省察の3層モデルは文献研究や事例を基にし たモデルであるので,子育てをしている親を対象に調査 を 行 い , そ の 妥 当 性 や 有 効 性 を 検 討 し な く て は な ら な い 。 さ ら に , 省 察 の 個 人 差 を 把 握 す る た め に は 省 察 の 程 度を測定する尺度が必要になる。省察尺度を開発するこ とにより,今まで親を支援する側や研究者が具体的に指 摘 す る こ と が 難 し か っ た , 親 の 認 知 面 の 問 題 を よ り 明 確 に 示 す こ と が で き る と 考 え ら れ る 。 ま た , 親 の 認 知 す る 対象を「親自身」「自分の子ども」「他の親や子ども」とい う省察の対象別や「1次的省察」「2次的省察」「3次的省 察」という省察のレベルに分けることによって,支援や 研修を受ける親たちも理解するべき対象を明確に認識す
ることができると考えられる。
そこで本研究では,子育てにおける省察の3層モデル に基づき,親の省察の個人差を測定する尺度を作成し,
構成概念的妥当性の検証をとおして,親の省察の構造を 検 討 す る と と も に , そ の 尺 度 の 信 頼 性 と 妥 当 性 を 確 認 す る こ と を 目 的 と す る 。 特 に , 妥 当 ′ 性 に つ い て は , 辻 (2005)の自己意識・自己内省尺度の中の自己内省に関 する尺度との相関を用い,基準関連妥当性を検証する。
彼は私的自己意識を分化したMittal&Balasubramanian (1987)の研究に基づき,自己の内的な心的過程に注意 を向ける「内的状態の意識」と,意識やイメージによっ て 自 己 を 回 想 ・ 内 省 す る 「 自 己 内 省 」 を は っ き り 分 別 で きるような尺度を作成した。さらに,不安や抑うつなど の病理を理解するために「内的状態の意識」「自己内省」
とも区別される「自己反謁」尺度を作成した。親の省察 尺度が妥当であれば「内的状態の意識」「自己反調」との 相関より「自己内省」との相関の方が高くなるであろう。
また,省察の3層モデルに基づき,その過程を明らか にすることを目的とする。具体的には,3層モデルにお いては,高次の省察のためには下位情報が必要であり下 位'情報が多いほど次のレベルの省察が豊かになる過程 と,豊富な高次の省察と'情報により下位の省察が促進さ れる過程の二通りの方向が描かれている。現時点では,
省察の基本的要件とされる1次的省察,すなわち子ども と接するその場でのモニタリングが行われてこそ次の段 階の省察が可能になり,2次的省察が行われてこそ3次 的省察が可能になると想定しているが,反対の方向も含 め,どちらの方向がより親の省察の実状に当てはまるの か,省察の諸変数の因果モデルを構成し,検証する。さ ら に , 一 般 的 に 省 察 を 行 う 親 は 肯 定 的 な 母 性 意 識 を も ち,親子関係が良好で,望ましい養育態度をとると予想
102 発 達 心 理 学 研 究 第 2 0 巻 第 2 号
されるが,実際に,親の省察の各要素との間にどのよう な関係があるか検討する。
本研究では,3歳から5歳の幼児を育てている親を調 査の対象とする。そもそも育児の営みは言語に置き換え られない部分が多い。子どもが幼ければ幼いほど,子ど もを目の前にし世話をしながら自分の行為の意識化され ていないところを概念化することは難しい。特に,子ど もは3歳の前後に,自分の気持ちを前面に押し出して自 己主張が目立つようになる。そこで,親の内面では,子 どもの気持ちになってその気持ちを受け止めるという面 と,禁止や制止をする面とが桔抗し,対応が両義的にな らざるを得なくなり,子育ての難しさが生じる(鯨岡,
2002)。この時期の親の内面の揺れ動きを単なる子ども へ の 対 応 の 難 し さ や ス ト レ ッ サ ー と し て 扱 う の で は な く,より能動的な育児における省察行為に転換させるこ とは,親子のコミュニケーション問題を親自らとりあげ ることにつながるだけでなく,様々な年齢層の子どもを 育てる親を対象にする研究に多くの示唆を与えるであろ う。
方 法
予 備 調 査
対象者と実施時期2006年11月,A市のB幼稚園で 3〜5歳の子どもを育てる親95人を対象に質問紙を配 布し,1週間後に回収した。分析の対象となった親の総 数は55人(回収率57.9%)であり,平均年齢は,35.7歳 (範囲:26‑43歳,SD=3.44)であった。また,子ども の数が1人である家庭は21.2%,2人である家庭は 50.0%,3人以上である家庭は28.8%であった。
質問紙の内容子育てにおける親の省察を測定するた めに,まず,子育てを対象にした省察に関する質問項目 をできるだけ多く作成した後,親自身に関する省察,子 どもに関する省察,他者をとおした省察の各領域に分け る作業を行った。全領域において170以上の項目が集め られ,さらに,行動や,認知,感情に関する省察に分類 したり,行為前や,行為中,行為後の省察に関して分類 することによって項目作成が特定の心理的過程に偏ら ず,多様な省察過程がくまなく含まれるようにした。例 えば,親自身と子どもを対象にした省察項目では,それ ぞれの行動,感'情,認知を対象にした行為前の予想,行 為途中の判断,行為後の自己評価,および子育て観,子 ども観に関する省察が含まれている。また,他者との交 流をとおした省察項目は,他者や情報に接し,得られた 気づき,改善点に関する熟慮,および子育てにおける他 者との対話,情報の有用'性に関する判断が含まれてい る。
その後,省察の3層モデルの各レベルと対象に基づ き,3つの領域のレベルごとに4つの項目を選んだ。た
だ し , 他 者 を と お し た 省 察 項 目 に お い て は , 交 流 自 体 が 情報源として扱われるため細かい分類はせず8つの項目 を選ぶことにした。最終的に,親自身に関する省察12 項目,子どもに関する省察12項目,他者をとおした省 察8項目を作成した。回答については,「1.まれに」「2.
たまに」「3.ときどき」「4.よく」「5.いつも」の5段階評 定であった。
また,親の省察の妥当性を確認し,関連要因との関係 を調べるために,辻(2005)の自己意識・自己内省尺度 の中から自己内省に関する6項目,内的状態の意識に関 する4項目,自己反謁に関する5項目,新井ほか(1993)
の 親 子 の 認 知 面 か ら の 親 子 関 係 尺 度 を 幼 児 用 に 変 え た 10項目,大日向(1988)の母性意識尺度から積極的・肯 定的母性意識に関する6項目,消極的・否定的母性意識 に関する6項目,戸田(2000)の養育態度尺度の中から 権威ある養育態度に関する6項目,権威主義的養育態度 に関する6項目を加え,質問項目は全部で81項目であっ た。また,各対象者へ結果のフィードバックが行えるよ うに回答の控え用紙を配布し,各々の親が結果を確認し 全体の平均と対照できるように配慮した。
結 果 と 考 察 3 〜 5 歳 の 子 ど も を 育 て る 親 5 5 人 を 対 象に,省察の対象毎に因子分析を行った。その結果,各 領域とも1因子構造が妥当であると考えられた。一方で,
各尺度を2因子構造と仮定して因子分析を行った結果で は,いずれも第2因子に負荷の高い項目は2項目前後と 少なかったが,短い時間の範囲を対象にして行われる省 察と,長い時間の範囲を対象にして行われる省察とに分 かれる可能性が見出された。また,省察に関する3つの 下位尺度(親自身に関する省察(PR),子どもに関する 省察(CR),他者をとおした省察(OR))を構成し,自 己意識・自己内省尺度や子育てにおける関連概念と相関 係数を算出したところ,部分的に強い相関が示されたに とどまった。親の自由記述と各項目の因子負荷量等を検 討したところ,いくつかの項目の作成の仕方に問題が あったために以上のような結果になったと考えられた。
そこで,後述するように問題のあった項目を改善し,本 調査を実施することにした。予備調査の結果の詳細は,
紙幅の関係から本稿では割愛するので,朴・杉村(2007)
を参照されたい。
本調査
対象者と実施時期3〜5歳の子どもを育てている親 を対象に,2007年1月C県内のD保育園の195人,2007 年2月E県内のF幼稚園の294人に質問紙を配布し,1 週間後に回収した。分析の対象となった親の総数は259 人(回収率は順に,32.3%,66.7%,合わせて53.0%)で あり,平均年齢は,35.3歳(範囲:24‑47歳,SD=4.52)
で あ っ た 。 ま た , 子 ど も の 数 が 1 人 で あ る 家 庭 は 22.9%,2人である家庭は61.3%,3人以上である家庭は
16
103
15.8%であった。各家庭内の子ども数と3歳から5歳の 子どもの出生順を'Ihblelに示す。
質 問 紙 の 内 容 予 備 調 査 で 用 い た 質 問 紙 の 省 察 に 関 す る32項目を加筆・修正したものを除いて予備調査と同 じ内容であった。省察に関する項目は全体的には,想定 した省察のレベルの項目としてより適切なものになるよ うに改善した。さらに,C市D保育園の子育て支援セン タ ー を 訪 れ た 保 護 者 と 子 育 て 支 援 者 3 名 の 意 見 を 参 考 に , 親 が イ メ ー ジ し や す い 表 現 に 修 正 し た 。 具 体 的 に は,まず,親自身に関する省察では,抽象度が高かった た め わ か り に く い と 指 摘 さ れ た 「 子 ど も に 何 か 言 っ て い るとき,ふと我に返ることがある」を削除し,「子ども と話すとき,自分の言動や態度を意識することがある」
を加えた。また,3次的省察項目として作成した「自分 の長所・短所を踏まえながら,子育てをしている」が,
そ の 他 の レ ベ ル に も 関 連 し て い る よ う で あ っ た の で ,
「親としての信念について考えることがある」に変更し た。
子どもに関する省察の場合,ほめたり,叱ったりする 場面のように特定のしつけに関する項目は,独自の因子 を形成する傾向があったので,「子どもをほめたり叱っ たりした後,子どもの気持ちを考えることがある」を
「子どもと話した後,子どもがどのように受けとめたか 考えることがある」に修正したりした。また,3次的省 察項目として作成した「子どもの将来を見通して育てて いる」が,人によって解釈される意味が多様であったの
で,「子どもにとって,将来何が必要か考えながら育て
ている」に変更した。他者をとおした省察では,省察の次元に沿って明確に 分けることが困難であるので,他の親や子どもを直に見 る項目をレベル1に,それらを参考に子ども観などを見 直す項目をレベル2に設定し,それぞれ6項目ずつ作成
した。
質問紙の配布に先立ち,幼稚園長および保育園長に,
研究の目的や意義,方法,守秘義務,対象者の協力拒否 が可能であることを説明し,研究の協力への承諾を得た 後,園長より保護者へ書面で依頼した。質問紙資料の最 初のページには,「親である皆様の日常の思考や行動に
ついてお尋ねするものであり,回答は無記名で行ってい ただき,結果は全て統計的に処理され,個人が特定され ることはない」等を明記するとともに「複数のお子様が いらっしやる場合は,幼稚園に通う一番上のお子様につ いて回答する」よう求めた。
結 果
まず,子育てにおける省察に関する質問項目の選択肢
「まれに」−「いつも」に対して1点−5点を与え,36項 目の回答の平均値と標準偏差を算出した('、able2,3,4 参照)。平均値±lSDを基準に項目分析を行ったところ,
天 井 効 果 や フ ロ ア 効 果 は み ら れ な か っ た 。 ま た , 関 連 要 因の各項目を含めた全ての質問項目において,地域や園 に よ る 違 い が あ る か を 調 べ る た め , 2 つ の 園 で 実 施 さ れ た質問紙の全項目に対して多変量分散分析を行ったとこ ろ,いずれの得点についても有意差はみられなかった。
そこで,2つの園のデータを込みにして省察に関する全 ての項目を用いゾ下記のように,親自身に関する省察,
子どもに関する省察,他者をとおした省察に分けて主因 子法による因子分析を行った。
1.尺度の構成
親自身に関する省察(PR)の12項目に対して主因子 法による因子分析を行った結果,固有値は5.45,1.01, 0.69,…と変化していたので2因子構造が妥当であると 考えられた。そこで,因子間に相関があることが予想さ れたため因子軸の回転には斜交回転(直接オブリミン 法)を用い,結果の解釈には因子パターン行列を適用し た。回転前の2因子で12項目の全分散を説明する割合
は64.58%であった。次に,項目を精選するため,いず
れかの因子について負荷量が.40未満の項目2つを削除 し,残った項目について再び同一方法で因子分析を行っ たところ,′hble2に示すような因子パターンが得られ た。第1因子では「自分の子育ての方針をふり返り改善す べきところを考えることがある」「親としての自分の長
所・短所を考えることがある」など,自己の子育てをふ
り返り内省する内容の項目が高い負荷量を示していた。そこで「子育てに関する内省(以下,子育て内省)」因子 と命名した。第2因子では「子どもに何か伝える前に,
自分の伝え方について考えることがある」「子どもに対 する自分の言動に気をつけることがある」など,子ども と向き合う前やその場での自己の子育てを意識する内容
の項目が高い負荷量を示していた。そこで,「対場面的
省察」因子と命名した。M様に,子どもに関する省察(CR)の12項目に対し て主因子法による因子分析を行った結果,固有値は5.12, 1.16,1.03,0.73,…と変化していたので3因子構造が妥 当であると考えられた。そこで,因子間に相関があるこ Tablel対象音の子ども数と3‑5歳の一子どもの出生順
106 子 ど も の 数
0
1 人 2 人 3 人 以 上
0
第 1 子 5 8 48 4
出生順
第 3 子
幼児を育てている親の子育てに関する省察の3層モデルの検討
第 2 子
0
0 1
17 0
第 4 子
mle3子どもに関する省察(CRノの'因子分1臓裸値接オブリミン回転蟹の因'子パター〃
104
Table2親自身に閲する省察(PRノの因子分析j結果値接オブリミン回転後の因子パターンノ
レ ベ ル 番 号
I Ⅱ 平 均 値 S D
レ ベ ル 番 号 項目
I Ⅱ Ⅲ 平 均 値 S D 自 分 の 子 育 て の 方 針 を ふ り 返 り 改 善 す べ き と こ ろ を 考 え る こ と が あ る
親としての自分の長所・短所を考えることがある
「子どもを育てる」とはどういうことか考えることがある
子どもに何か言った後,そのときの自分の感情について考えることがある 子どもと話した後,自分の言い方が適切かどうか考えることがある 親としての信念について考えることがある
子どもに何か伝える前に,自分の伝え方について考えることがある 子どもに対する自分の言動に気をつけることがある
子どもと話すとき,自分の言動や態度を意識することがある 子どもに何か言う前に,自分の言動の影響を考えることがある
PR12 PR5 PR9 PR8 PR11 PR4 PR3 P R 1 PR10 PR6
040693877655 ●●■●●● 000000 753362000022 ●●●●●● 000000 02471475463205390110 ●●●●●●●●●● 3333323333 01388723480018900999 ●●●●●●●●●● 1110011000
3332232112
0.04
‑0.09 0.30 0.16 因 子 間 相 関 I Ⅱ
I − − 0 . 7 2
76920184123
111RRRRRRRRRRR CCCCCCCCCCC
とが予想されたため因子軸の回転には斜交回転(直接オ
ブリミン法)を用い,結果の解釈には因子パターン行列
を適用した。回転前の3因子で12項目の全分散を説明 する割合は66.44%であった。次に,項目を精選するため,いずれかの因子について負荷量が.40未満の項目1 つを削除し,残った項目について再び同一方法で因子分
析を行ったところ,′Elble3に示すような因子パターン が得られた。第1因子では「子どもがどう変わってきたか考えるこ とがある」「子どもに関する長期的見通しについて考え
ることがある」など,長期的な視点から子どもに関して ふり返り,見通しをもつ内容の項目が高い負荷量を示していた。そこで「子どもに関する長期的見通し(以下,
子ども見通し)」因子と命名した。第2因子では「子ども と一緒にいるとき子どもの行動に注意を向けることが
ある」など,子どもと向き合っているその場での子ども への注意や気づきに関する内容の項目が高い負荷量を示 していた。そこで,「子どもに対するモニタリング(以 下,子どもモニタリング)」因子と命名した。第3因子
では,「子どもと話した後,子どもがどのように受けと
めたか考えることがある」など,子どもの個別的な反応 について考えをめぐらす内容の項目が高い負荷量を示していた。そこで「子どもに関する考慮(以下,子ども考
慮)」因子と命名した。次に,他者をとおした省察(OR)の12項目に対して 主因子法による因子分析を行った結果,固有値は5.47,
1.28,0.85,…と変化していたので2因子構造が妥当であると考えられた。そこで,因子間に相関があることが予 想されたため因子軸の回転には斜交回転(直接オブリミ ン法)を用い,結果の解釈には因子パターン行列を適用
発 達 心 理 学 研 究 第 2 0 巻 第 2 号
1398561801023000 ●●●●●●●● 00000000 −一一一一 9129298132729560878207 ●●●●●●●●●●● 32333333332
項目
6364194576580891788990 ●●●●●●●●●●● 01001000001
I Ⅱ 0.50 子どもがどう変わってきたか考えることがある
子どもに関する長期的見通しについて考えることがある
子どもの普段の行動から,子どもの長所・短所を考えることがある 子どものこれからの成長について考えることがある
子どもにとって,将来何が必要か考えながら育てている
子どもと一緒にいるとき,子どもの行動に注意を向けることがある 子どもと話しているとき,子どもの表情や態度に注意することがある 子どもの言動に気をつけている
子どもと話した後,子どもがどのように受けとめたか考えることがある 子どもと話す前に,子どもの受けとめ方について考えることがある 子育ての出来事から「子ども」の本質について考えることがある
23333111223
Ⅲ
‑0.58
‑0.56 0.06
‑0.12 0.32 0.16 0.07
0.04 0.12
‑0.04 因 子 間 相 関
I
Ⅱ
562161010001 ■●●︑●■ 000000
36215278049
11RRRRRRRRRRR OOO00OO00OO
105
Thble4他者をとおした省察(ORノの因子分析結果値接オブリミン回転後の因子パターンノ
367348100012 ●●●●●● 000000
レ ベ ル 番 号 項目 I Ⅱ 平 均 値 S D
5418388503390192899009 ●●●●●●●●●●● 01101000110
他 人 の 子 ど も の 言 動 を 注 意 深 く 見 る こ と が あ る 他の子どもが親と話す様子に注意を向けることがある 他の子どもが親とかかわる様子を注意深く見ることがある 他の人が子どもにどのように接しているか注意深く見ることがある 他の親の子どもに対する話し方に注意することがある
他人と子どもの話をすることで,自分の子どもの特徴に気づくことがある 他の人と子育ての話をして,自分の子育ての方針を改めることがある 他の人の育て方をみて,今の自分の子育てに必要なことに気づくことがある いろいろな話を聞いて,自分の子ども観を見直すことがある
他の人と話しているうちに,子育てに関する疑問が解決することがある 他の子ども達と話をすることで,自分の子どもの特徴に気づくことがある
11111222222
幼児を育てている親の子育てに関する省察の3層モデルの検討
699074877744 ●●●●●● 000000 1490810012 ●●●●● 00000 0566028704818727247808 ●●●●●●●●●●● 32232322232
した。回転前の2因子で12項目の全分散を説明する割 合は69.09%であった。次に,項目を精選するため,い ずれかの因子について負荷量が.40未満の項目1つを削
除し,残った項目について再び同一方法で因子分析を 行ったところ,′mable4に示すような因子パターンが得
られた。
第1因子では「他人の子どもの言動を注意深く見るこ
とがある」「他の子どもが親と話す様子に注意を向ける ことがある」など,他の親や子どもの言動を注意深く見
たり話す内容の項目が高い負荷量を示していた。そこで「他者の育児や子どもに関するモニタリング(以下,他 者モニタリング)」因子と命名した。第2因子では「他の 人と子育ての話をして,自分の子育ての方針を改めるこ とがある」「他の人の育て方をみて,今の自分の子育て に必要なことに気づくことがある」など,他者の育児を とおして自己の育児を見直したり方針を改める内容の項 目が高い負荷量を示していた。そこで,「他者をとおし
た内省」因子と命名した。最後に,探索的因子分析の結果,得られた因子構造が 妥当であるかを確かめるために,Amos16.0を用いて確 認的因子分析を行った。親自身に関する省察の2因子,
子どもに関する省察の3因子,他者をとおした省察の2 因子からそれぞれ該当する項目が影響を受け,すべての 因子間に共分散を仮定したモデルで分析を行った。その 結果,適合度指標は,親自身に関する省察ではGFI
=、973,AGFI=、949,RMSEA=.032,子どもに関する省 察ではGFI=.971,AGFI=、945,RMSEA=、028,他者を
とおした省察ではGFI=.966,AGFI=、931,RMSEA=、047であり,全体的にデータに適合した結果が得られ
た。そして,内的整合性を検討するためにα係数を算出 した結果,いずれも.80前後であり十分信頼できる尺度
であると考えられた('Elble6参照)。因 子 間 相 関 I Ⅱ 1 0 . 6 4
2.尺度間相関と基準関連妥当性の検討および省察過程 の検討
幼児の子育てにおける省察の下位尺度間の相関係数を Table5に示す。まず,省察の対象が同じ尺度間では,
親自身に関する省察の下位尺度の間に強い相関が示され (以下,相関の程度の表現に関しては,小塩(2004)の
判断基準に基づく),子どもに関する省察の尺度間,他 者をとおした省察の尺度間でいずれも比較的強い相関で
あった。また,省察のレベルが高次である尺度間では,「子育て内省」と「子ども見通し」「他者をとおした内省」
の間,「子ども見通し」と「他者をとおした内省」の間に は比較的強い相関があり,省察のレベルが低次である尺 度間では,「対場面的省察」と「子どもモニタリング」「他 者モニタリング」の間,「子どもモニタリング」と「他者
モニタリング」の間にいずれも比較的強い相関がみられた。一方,異なる省察対象の異なるレベルとの関連を検 討したところ,「対場面的省察」と「子ども考慮」の間に 強い相関が示され,「対場面的省察」と「子ども見通し」
「他者をとおした内省」との間,「子育て内省」と「他者 モニタリング」との間,「子ども見通し」と「他者モニタ リング」「他者をとおした内省」との間は比較的強い相関
であった。しかし,「子育て内省」と「子どもモニタリング」の間,「子どもモニタリング」と「他者をとおした内 省」の間,「子ども考慮」と「他者をとおした内省」の間
は弱い相関であった。また,親の省察尺度の妥当性を検討するために,辻
(2005)の自己内省尺度(以下,「自己内省」),内的状態 の意識尺度(以下,「内的意識」),自己反調尺度(以下,
「自己反謁」)との相関係数を算出したところ,′I1able5の
ようにそれぞれ「内的意識」「自己反謁」よりは「自己内
省」との間の相関係数が高かった。本研究の特色の一つは,省察の過程を考慮したモデル
106 発 達 心 理 学 研 究 第 2 0 巻 第 2 号
Table5子育て省察の各尺度間および子育て省察の各尺度と自己意識・自己内省尺度との#腔潤関係
対 場 面 的 省 察 子 育 て 内 省
対 場 面 的 省 察
子育て 内省
子どもモニ タリング 0.71**0.47**
0.30**
子ども識鰐房樵曽お自己内省内的意識自己反謁
考慮0.72**
0.61**
0.51** 0.53**
0.49**
0.48**
0.40**
0.44**
0.46**
0.48**
0.30**
0.29**
0.28**
0.39**
子どもモニタリング 子 ど も 考 慮 子 ど も 見 通 し
0.52**0.55**
0.60**
0.42**
0.50**
0.48**
0.30**
0.38**
0.45**
0.16**
0.44**
0.35**
0.08 0.27**
0.25**
0.03 0.18**
0.21**
他 者 モ ニ タ リ ン グ 他 者 を と お し た 内 省 自己内省
内 的 意 識
*やく.01
に基づき各項目を作成した点にある。そこで,省察の3 つの領域を合わせてAmos16.0を用い共分散構造分析に よるパス解析を行った。各省察過程間の関係を包括的に 検討するにあたって,次のような省察の方向性を中心に 因果モデルを設定した。まず,省察の対象が同一である 場合には,低次の省察から高次の省察への方向,あるい
は高次の省察から低次の省察への方向である。次に,対 象やレベルの違う省察間の影響である。すなわち,親自 身に関する省察によって,子どもに関する省察や他者を
とおした内省が行われるようになるのか,あるいは子ど もに関する省察をすることによって親自身に関する省察 や他者をとおした内省が始まるのか,である。まず,省察の対象ごとにそれぞれ高次の省察から低次 の省察に影響するという方向と,その逆の方向を想定 し,両方の因果モデルを共分散構造分析により適合度を 比較検討した。その結果,高次の省察から低次の省察に 影響するモデルの適合度指標はGFI=.986,AGFI=、867,
AIC=63.643,RMSEA=、118であり,AGFIがGFIに較べて著しく低くRMSEAが0.1以上だったので,データ への当てはまりがよくないと判断した。一方,低次の省 察から高次の省察に影響するモデルの適合度指標は,
0.64**0.33**
0.25**
−
0.29**
0.26**
0.26**
0.26**
0.62**0.56**
0.66**
GFI=、981,AGFI=、910,AIC=61.941,RMSEA=、089で あり,データへの当てはまりが向上した。そこで,省察 の各対象間の同レベル間,あるいは異なるレベル間の相
関に基づき,両方向の因果関係に対して共分散構造分析 を実施した結果をFigure2に示す。因果係数は全て0.1%
水準で統計的に有意なもののみ示した。
3.子育ての関連要因との相関
親の省察の下位尺度と子育ての関連要因との相関およ び自己意識・自己内省尺度と子育ての関連要因との相関
をTable6に示す。省察尺度との間で強い相関がみられたのは「権威ある養育態度」で,「子どもモニタリング」
との間に比較的強い正の相関,「対場面的省察」「子ども
考慮」「子ども見通し」との間に弱い正の相関を示した。
また,「親子関係」は,「子どもモニタリング」との間に 弱い正の相関を示した。「消極的・否定的母性意識」と
「権威主義的養育態度」は「他者モニタリング」「他者を とおした内省」との間に正の相関を示した。さらに,自 己意識・自己内省尺度に関しては,「自己反謁」が「消極 的・否定的母性意識」と比較的強い正の相関,「権威主 義的養育態度」と弱い正の相関であり,「内的意識」が
「消極的・否定的母性意識」と弱い正の相関であった。
注.ノr2=18.835,0if=8,p<、05
GFI=、979,AGFI=、927,CFI=、987,AIC=58.835,RMSEA=、073 因果係数はすべて0.1%水準で統計的に有意である。
Figure2共分散構造分析による吉察過程のパス解析の詰果
‑0.08
‑0.03 0.00
107
Table6子育て省察の各尺度と子育ての関連要)因iとの栢関関係
他者モニタリング 他者をとおした内省
α 係 数 積 極 肯 定 母 消 極 否 定 母 親 子 関 係 権 威 あ る 権 威 主 義
0.20**
0.18** 対 場 面 的 省 察
子育て内省
0.19**
0.10
0.16**
0.02
0.37**
0.16*
、84 .87
0.00 0.05
‑0.06 0.12
‑0.05
−0.02 子どもモニタリング
子 ど も 考 慮 子 ど も 見 通 し
0.31**
0.16*
0.17**
0.40**
0.36**
0.34**
、79
.80
.81
0.07 0.12 0.04
0.04 0.02 0.07
幼児を育てている親の子育てに関する省察の3層モデルの検討
0.21**
0.33**
0.47**
自己内省 内的意識 自己反謁
4.自由記述の分析
親の意見や感想を書いてもらった自由記述では,質問 紙の統計的な分析結果を裏づける言及が見られた。分析 の対象となった259人の親の中19名(7.34%)が自由記 述欄に記入してくれた。その中には, 質問に答えるだ けでも普段の自分自身の子育てや子どもについて考える いい機会であった', 子どもとの関わりについて考え,
自分の子育てに関する気持ちに気づくいい機会であっ た,という,ふり返りと気づきに関する意見(10名)と,
質問の内容を見てドキッとしたところが何か所かあり ました。親としてそこはいいかげんに接していたと思う ところもあり,考えさせられました,という,項目内容 に関する意見(6名)があった。
考 察
親は自分自身や子育てを見つめ直すことにより,子ど もとの関係を改善し子どもの変化を生み出していく(藤 崎,2002)。しかし,これらに関する実証的な研究はあ まり見当たらず,自分自身や子育てを 見つめ直す,と いう言葉の指し示す意味はつかみがたいところがある。
親の支援に活かそうとする側も,親の意識の深いところ まで迫り適切なアドバイスをすることが難しく,支援の ための手がかりや原因を特定しにくい面がある。そこで 本研究の第一の目的は,幼児を育てる親の省察の構造を 明らかにするとともに,親の省察の対象やレベル別にそ の程度を明確に測定できる尺度を作成することであっ た。
省察尺度の作成および3層モデルの検討
子育てにおける省察に関する質問項目を,自分自身,
子ども,他者という省察の対象別に探索的因子分析を 行ったところ,親自身に関する省察では,子どもと向き 合っている場での意識に関する「対場面的省察」と,自 己の子育てをふり返り内省する「子育てに関する内省」
0.15*
0.10
0.19**
0.17**
、86 .84
487878
●●●0.08 0.01 0.03
−0.11
−0.17**
の 2 因 子 に 分 か れ た 。 子 ど も に 関 す る 省 察 で は , 親 の 省 察の3層モデルの1次的省察に相当する「子どもに対す るモニタリング」,2次的省察に相当する「子どもに関す る考慮」,3次的省察に相当する「子どもに関する長期的 見通し」の3因子に分かれた。また,他者をとおした省 察では,他の親子に注意を向けたり話すなどの「他者の 育児や子どもに関するモニタリング」と,他者の育児を とおして自分の育児をふり返ったり見直すなどの「他者 をとおした内省」の2因子に分かれた。
省 察 の 3 層 モ デ ル に 基 づ い て 想 定 さ れ た レ ベ ル 付 け と,データの因子分析結果によるレベル分けを対照して みると,親自身に関する省察の場合、モデル通りの3因 子構造ではなかった。2因子構造であったことに関して は,他者ではない自分自身を対象に省察を行う場合,2 次的省察(レベル2)と3次的省察(レベル3)を明確に 区別することがより難しい側面を内包しているためとい える。しかし,レベル2の項目が2つずつ分かれ,その 中でも子どもと接する前に計画したり予測を行う内容の 2つの項目が「対場面的省察」の方へ,子どもと接した 後にふり返る内容の2項目は「子育て内省」の方へ分か れたことは納得のいく結果だと考えられる。また,除外 されたレベル1の2項目「子どもと話すとき,自分の態 度に注意を向けることがある」,「子育てにおいて自分の 振る舞いに目を向けることがある」については,自分自 身に焦点付けられた 行為の中の省察(Sch6n,1983/
2001),の難しさ,あるいは 態度に注意を向ける こと や 振る舞いに目を向ける ことの意味の解釈に難しさ を感じた親が多かった可能性も考えられた。
子どもに関する省察については,省察モデルで仮定さ れた通り3因子構造であったが,レベル2と想定してい た項HCR7が3次的省察の「子ども見通し」因子の方へ,
レベル3と想定していた項HCR3が2次的省察の「子ど も考慮」因子の方へ分かれた。CR7は当初短い期間を想
0.14*
0.07
‑0.04
0.09 0.17**
0.28**
0.01
‑0.04
‑0.21**
やく.05,*:紗く.01
108 発 達 心 理 学 研 究 第 2 0 巻 第 2 号
定 し て 作 成 し た 項 目 で あ る が , む し ろ 長 期 的 見 通 し に も 読みとれた。また,CR3の場合は, 子どもの本質,とい うところに注目する以前にまず,項目の前半である 子 育ての出来事,に注目する必要があったため,2次的省 察に該当する「子ども考慮」因子の方へ分かれた可能性 がある。そして,除外されたレベル2の「あらかじめ子 どもの行動や態度を予想しておくことがある」について は,他の項目に較べるとやや抽象度の高い項目であった と思われる。
他者をとおした省察の場合は,省察のレベルを明確に 区別しにくいため,他者に直接注意を向けたり見たりす るレベルと,他者と話をしたり他者の話を聞いたりする レベルの項目を作成したが,OR2以外は想定通りの結果 であった。OR2は,内容をみると前半が 他人と子ども の話をする,になっており,他者の子どもに直接注意を 向けることも必要であったため,「他者モニタリング」
因子の方へ分かれた可能性がある。また,除外されたレ ベル2の「子育てに関する本や雑誌を読み,自分の子育 て観と照らし合わせることがある」については,普段育 児情報誌を購読している親であっても,子育て観まで思 いをめぐらせたりする経験は少ない可能性が考えられ た。親の省察の面まで触れられる,内容的に深みのある 育児情報誌が求められているのかもしれない。
親の省察尺度の妥当性の検討においては,辻(2005)
の自己意識・自己内省尺度の下位尺度を用いた。予想通 り,省察の各尺度は,内的状態の意識尺度,自己反謁尺 度との相関より,自己内省尺度との相関係数が高く,特 に,親自身の「対場面的省察」,「子育て内省」ならびに
「子ども考慮」と自己内省尺度との間に比較的強い相関 がみられたことは,省察尺度の妥当性を示しているとい えるであろう。また,「子どもモニタリング」の方はほ とんど相関がみられなく,「子ども見通し」,「他者モニ タリング」「他者をとおした内省」も弱い相関であった。
その理由としてこれら4つの尺度は,純粋な 自己内省,
そのものではなく,自己の意識の中でも子育て特有の事 柄が多く反映されていることが挙げられる。さらに,
「自己反調」に関しては,「子どもモニタリング」と「子 ども考慮」以外は弱い相関を示していた。可能性は低い とはいえ自己について同じことを反謁的に考えたり,自 分のしたことが気になって頭から離れないといったこと が行き過ぎた省察の中に入り込んでしまったことによる のかも知れない。今後,省察の有用性を論じるときはこ の点にも注意する必要があると思われる。
ところで,親の省察に関する7つの下位尺度間の相関 を検討した結果,部分的に弱い相関のところもあった が,省察の対象それぞれの高次の尺度間や,低次の尺度 間,異なる省察対象の異なるレベル間でも比較的強い相 関が示された。しかし,相関関係だけで親の省察の過程
を検討することは難しい。そこでFigurelの省察の3層 モデルのように,低次から高次の省察と,高次から低次 の 省 察 , ど ち ら が 妥 当 で , 各 省 察 が ど の よ う に 影 響 し あっているか共分散構造分析によるパス解析を行った。
その結果,低次の省察は高次の省察に影響を及ぼし,全 体 的 に 子 ど も に 関 す る 省 察 か ら 親 自 身 に 関 す る 省 察 ・ 他 者をとおした省察への影響が認められた。また,「他者 モニタリング」から「子ども考慮」と親自身の「対場面的 省察」へ向かう因果関係はとても興味深い。もともと他 者 を と お し た 省 察 を 親 の 省 察 構 造 の 中 に 位 置 づ け た 理 由 は,親同士のかかわりが少ないことが懸念されている現 代の親の状況を反映し,その必要性を確認するためで あった。′mable4に見られるように,親自身に関する省 察や子どもに関する省察に較べて全体的に平均値が低い ことは,現代の親の孤立しがちな状況を如実に表し,さ らにFigure2のパス解析の結果は他者の育児や子どもを 身近に見ることが子どもや自分自身の子育てに関する省 察につながることを示唆しているといえる。
子育て関連要因と親の省察尺度との関係
一方,子育てにおける関連要因と省察尺度との相関を みてみると,一般的に自分の子育てをふり返り考え直す など省察を行う親の子育てはうまくいっているという認 識を部分的に確認することができた。例えば, 子ども の感情や要求に応える ことや 子どもが間違った行動 をした時,子どもと話し合い,理由を聞いたりする,な どの「権威ある養育態度」は,「子どもモニタリング」と 比較的強い相関を示し,親自身の「対場面的省察」や「子 ども考慮」「子ども見通し」と弱い相関を示した。また,
子どもに適切な注意と関心を向け,関係を良好に保とう とする傾向である「親子関係」は「子どもモニタリング」
と弱い相関を示した。子どもに やることを命ずる,あ るいは 自分の怒りをぶつける,などの「権威主義的養育 態度」や「消極的・否定的母性意識」とほとんど相関が なかったことは納得のいく結果であるといえるが,その 他とも強い相関を示したものはなかった。これらは,子 育てにおける親の省察概念の複雑性を物語っているとい える。
Table5からわかるように省察尺度は,「自己内省」と 比較的強い相関を示しながらも「自己反鍔」と無相関で はなかった。その理由として,省察をよく行っている親 は,自己がもっている問題と理想的な親としての自己と の矛盾に気がつきやすく,そのことについて悩みやすい ネガティブな側面と,現実的な状況と照合しながら前向 きに対処していくポジテイブな側面の両方をもっている 点が考えられる。しかしながら,「他者モニタリング」
や「他者をとおした内省」が相関係数は低いものの「消 極的・否定的母性意識」と正の有意な相関を示している ことは注目に値するであろう。すなわち,他者をとおし
幼児を育てている親の子育てに関する省察の3層モデルの検討 109
た省察には,子育てに関する'情報を利用したり,子育て における問題を他者との対話をとおして解決を模索する というポジティブな面だけではなく,自分の子どものこ と以上に他者の子どもの発育や他者の子育てに注目する こ と に よ り , 子 ど も を 育 て る こ と が 負 担 に 感 じ ら れ た り,自分は母親として不適格なのではないかと思うネガ ティブな面も含まれていることを示した結果と考えられ る。このような他者をとおした省察のネガティブな面 は,「子どもにやることを命ずる」「子どもに自分の怒り をぶつける」などの権威主義的な養育態度につながり,
他者をとおした省察だけが「権威主義的養育態度」と正 の相関を示すこととなったと考えられる。
加えて,自己意識・自己内省尺度と子育ての関連要因 との相関をみると,「消極的・否定的母性意識」と「自己 内省」「内的意識」は弱い相関を,「自己反謁」とは比較 的強い相関を示していた。もともと自己意識・自己内省 尺度は,自己意識や自己内省の諸因子が神経症の患者群 と健常対照群がどのように異なるかを明らかにする目的 で作成され,比較調査の結果,「自己反謁」において最 も明瞭な有意差が認められた(辻,2005)。今回の結果 においても対象者が親であることから相関係数は低いも のの,「自己反謁」は「積極的・肯定的母性意識」や「親 子関係」と負の相関を示し,「権威主義的養育態度」と弱 い正の相関を示していた。自己反調は,自己について同 じことを繰り返し考え,悩みや心配を増幅し,不安や抑 うつなどネガテイブな情動を強めていく(辻,2005)こ とから,「子どもを育てることが負担に感じられる」な どの「消極的・否定的母性意識」と相関が高くなったと 考えられる。そのような消極的意識に拘泥し,子どもの 反応に応じて柔軟に対処法を変えることができず,子ど もが自分に従うことを高圧的に要求する権威主義的養育 態度(小嶋,1991)をとる可能性が高いといえるであろ
う。 今 後 の 課 題
さらに,親の自由記述では,質問紙の統計的な分析結 果を裏づける言及が多く見られた。質問紙に答えるだけ でも自分自身や子育てのことをふり返ることによって,
親自身の考えを確かめ子どもとの関係を考えるよい機会 であったという記述は,今後省察尺度が子育て支援に有 用に使える可能性を示唆しているといえる。また,複数 の子どもがいる場合,出生順位によっても回答が異なっ てくる可能性があるという内容の記述もあったので,今 後は対象者の属性を幅広くとってその違いを分析する必 要があると思われる。
輿石(2005)は,育児不安を軽減するための第一の方 略として,親自身が自己の行動パターンを省察すること をとりあげ,各親が自分の育児行動パターンを知り理解 することが認知的に必要であり,それが適切な育児行動
へ の 修 正 へ と つ な が っ て い く と 述 べ て い る 。 本 研 究 の 意 義はそのような親の実質的な支援につながるよう,子育 て に お け る 省 察 尺 度 を 作 成 し た こ と に あ る 。 親 の 省 察 尺 度 の 各 下 位 尺 度 と 自 己 意 識 ・ 自 己 内 省 尺 度 と の 間 に 示 さ れ た 有 意 な 相 関 は 尺 度 の 妥 当 性 を 裏 付 け て い る と い え る 。 親 自 身 に 関 す る 省 察 の 尺 度 は 当 初 想 定 し た 3 つ の レ ベ ル に は 分 か れ な か っ た が , 親 の 省 察 に お い て も 行 為 の 中の省察(Sch6n,1983/2001)と行為後の省察が含まれ,
養育態度,親子関係,母性意識との関係から2つないし 3 つ の レ ベ ル の 省 察 の 機 能 が 異 な る こ と が 明 ら か に な っ た。
今後,以上のような省察尺度を有用に使える場を模索 しつつ,子育てにおける親の省察過程を支えるような条 件についてさらに検討していくとともに,省察のモデル を修正していく必要がある。それによって,省察の構造 や機能をより明らかにしていくことが可能になり,今後 の子育て支援に役立つ知見が得られるであろう。また,
親自身も省察尺度を用いることによって,客観的に自己 の省察スタイルを把握することができ,子育ての改善が 促進されると思われる。
文 献
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付記
調査の実施にご協力くださいました幼稚園と保育園の 保護者の皆様ならびに園の先生方に深く感謝の意を表し ます。また,質問項目の作成および修正段階で呉大学若 林紀乃先生,川崎医療短期大学樟本千里先生,園の先生 方から貴重なコメントを頂きました。記して感謝の意を 表します。