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簿 奄 熟
教示(同答用紙と提示音のマッチング) 評 定
カ テ ゴ リ ー
202 発 達 心 理 学 研 究 第 2 0 巻 第 2 号
対する実験の前に,健常大学生13名に対して予備調査 を行ったところ,全員が100%の正答率を示した。
結果と考察
ここでは,音高識別実験の結果を報告し,評定方法の 妥当性と問題点を検討する。
幼 児 の 課 題 に 対 す る 正 答 率 ま ず , 幼 児 1 3 名 の 音 高 列に対する指差しと評定用提示音との正答数を求め,正 答率を算出した。正答数の平均値は6.54(SD=1.94),
正答率の平均値は54%(SD=0.16)であった。個人別 に見ると,正答率が92%や72%を示す幼児も見られた が,30%に届かない幼児も存在した。全体的にみると 50%前後の正答率を示す幼児が多く,正答数はチャン スレベルと有意差はなかった(t(12)=0.17,〃.s、)。
回答用紙の絵の好みとの一致この本実験に至るまで の予備的調査において,幼児が一定の絵に集中して指差 しする傾向が見られた。そこで,実験時には音刺激と回 答用紙の絵のマッチングの前に,回答用紙の絵の好みを 尋ね,回答用紙の絵の好みと指差しの傾向について検討 した。幼児13名が好みの回答用紙の絵を指差しする確 率の平均値は60%(SD=0.22)であった。中には,好 みの回答用紙の絵を80%以上の確率で指差しした幼児 が31%(4人)存在したことより,視覚的な高低以外で も視覚刺激の特性が回答に影響することが示唆された。
以上より,音響刺激と回答用紙の絵とのマッチングさ せる課題においては,回答用紙の絵の好みが指差しによ
る回答に影響を及ぼすために,幼児の音高識別力を測定
するには望ましい測定方法ではないと考えられた。幼児の指差しの偏りについて本実験では,幼児に音 響刺激と回答用紙の絵とのマッチング後,回答用紙の絵
を指さしすることで回答を得る手法をとった。そのために,常にAの刺激が幼児から見て左側に,Bの刺激が右
側に決まっていた。したがって,幼児の左右への指さし の偏りについて検討した。幼児13名の左右(左がA刺激に対する回答用紙,右 がB刺激に対する回答用紙,以下,左,右とする)の指 さしの割合を算出し,割合の平均値を求めた。左を指差
した割合の平均値が43%(SD=4.08)であった。それ に対し,右を指さした回答率の平均値が57%(SD=0.34)であった。個人別に見ると全て左を指さした幼児 が2名,全て右を指さした幼児が2名と大きく差がある ことがわかる。したがって,音高列と回答用紙の絵とを マッチングさせる評定方法を用いた場合,幼児の中には 楽曲の音高識別をしているのではなく,左右への指差し のパターンで回答している可能性が示唆された。
楽音の記憶について実験lでは提示した音刺激の1 番目の提示音(A)と2番目の提示音(B)とでは測定用 の提示音(X)までの間に約7秒の時間差があり,Aが評 定用提示音であった場合と,Bが評定用提示音であった
場合とでは,その時間差から生じる楽音の記憶が識別結 果に影響を与える可能性が考えられた。そこで,幼児 13名におけるAが測定刺激であった場合(6回)と,B が測定刺激であった場合(6回)の正答数と正答率を算 出 し た 。 幼 児 1 3 名 に お け る , A が 測 定 用 提 示 音 で あ っ た場合の正答率の平均値は47%(SD=0.10)であった。
一方Bが測定用提示音であった場合の正答率の平均値は 62%(SD=0.12)であった。両刺激間において,A刺激 に対する正答とB刺激に対する正答数には幼児の成績に
差がみられた(/(10)=‑3.05,'<、05)。つまり,幼児は
測定用提示音Xを聞く頃には,A刺激が記憶にとどまっ ておらず,B刺激と測定用提示音Xのみを比較・判断し 回答している可能性が示唆された。これまで,用いられ てきた幼児期の音楽能力テスト等では,音記憶テストと あわせて音高識別力が評定されてきたが,B刺激がA刺 激より有意に正答率が高かったことから,音高テストの みで幼児期の音高識別力を評定することの困難さが明ら かとなった。以上,本実験では幼児の楽音の音高識別力を評定手続 きとして,多くの音楽能力テストで用いられている手 法,すなわち回答用紙の絵と提示音とのマッチングを用 いた指さしによるA‑B‑X課題を用いて実験を行った。そ こから明らかになった,評定方法の問題点について以下 に整理する。
まず,3歳児では回答用紙の絵やその左右配置が,回 答に影響することがわかった。この回答用紙の絵と音響 刺激とをマッチングさせる方法は,言語能力が未発達 で,ことばや文字を用いた回答に困難を示す幼児や,障 害児を対象としたテストでは数多く用いられている方法 である。しかし,本実験の結果より,3歳児では回答用 紙の絵の噌好や左右の指さしの偏りによって,楽曲の音 高識別に対する判断を評定することが困難になると考え
られた。つまり,これまで音楽能力テストで用いられてきた方法は,年齢の低い幼児にとって課題自体が困難で
あるために,正しくその音高識別力が評定されていない 可能性が示唆された。さらに,楽曲の音高列の音高識別力を評定する際に
は,刺激とした楽曲の記憶の保持時間や記憶方略が重要
な役割を担っている。本実験で提示音のA刺激とB刺激
とでは正答に有意な差が見られたことからも,3歳幼児 にとっては,楽曲の記憶が困難な提示,課題であったと推測された。これは実験1では,幼児がA刺激とB刺激
を共に一度しか聴取しておらず,回答用紙と楽曲とをマッチングさせ,記憶することが困難であったと考えら
れる。幼児に記憶させる課題であれば,マッチングのた めに数回聴取させ,記憶させる方法も考えられる。しか し,これまでの主な音楽能力テストでは,そのような記憶のための学習試行は設けられておらず,1〜2小節か
幼 児 期 に お け る 楽 音 の 音 高 識 別 力 に つ い て 203
ら な る 楽 曲 に よ る 強 制 二 肢 選 択 課 題 が 用 い ら れ て い る 。 したがって,実験1でもこの方法を採用したが,3歳幼 児 を 対 象 と し た 際 に は 楽 曲 の 記 憶 自 体 に も 困 難 を 示 す こ とが明らかとなった。
以上より,3歳児を含めた年齢の低い幼児の音高識別 力を評定するためには,新たな評定方法の考案が必要と 考えられる。したがって,実験2では幼児期の音高識別 力の新たな評定方法を考案し,その妥当性と問題点につ いて検討することとした。
実験2:音感ベルによる幼児の音高識別実験
目 的
実験1で用いた評定方法で,幼児が最も困難を示した
要因は次の2つに集約されると考えられた。まず第1の 要因として,回答用紙と聴取刺激とのマッチング,強制
二肢選択課題といった評定方法の問題があげられる。さらに第2の要因として,楽曲の記憶保持に起因する識別 刺激の難易度が認められた。これらの問題点に対し,モ
ンテッソーリ教具音感ベルを用いた手法が有効と考えら れる。前述のように,山口(1974,1975)は3歳から6歳の幼児を対象に音感ベルを用いて実験を行い,5歳か
ら6歳にかけての著しい発達的変化を確認している。山口は2音のうち一方には報酬を与え,報酬のある音の同 定判断を行っている。そこで,実験2では音感ベルを用 い,楽音のマッチングによる音高識別実験を実施し,幼 児期の音高識別力を評定するための新たな測定方法の妥 当性について検討した。さらに,この評定方法によって 得られた識別結果から,幼児期の音高識別力の発達の諸
相について検討することを目的とした。方 法
実験協力児埼玉県内の保育所,幼稚園に通園する幼 児97名(年齢2歳4カ月〜6歳7カ月,男児49名,女児 48名)を対象とした。なお各年齢群の人数と平均年齢,
男女別人数は,2歳児5名(2歳4カ月〜2歳11カ月,平 均2歳7カ月,男児3名,女児2名),3歳児27名(3歳 0カ月〜3歳10カ月,平均3歳5カ月,男児10名,女児 17名),4歳児29名(4歳0カ月〜4歳10カ月,平均4歳 6カ月,男児15名,女児14名),5歳児17名(5歳0カ 月〜5歳11カ月,平均5歳4カ月,男児9名,女児8 名),6歳児19名(6歳0カ月〜6歳7カ月,平均6歳4カ
月,男児12名,女児7名)であった。実験期間,実 験環境2004年6月下旬から2006年3 月上旬にかけて実施した。なお実験は,教室より少し離 れた静かな場所(暗騒音40dB(A)以下のキンダールー ム)において個別に行い,幼児一人あたりの測定時間は
集中力を考慮し,10分から15分とした。聴取刺激としたモンテッソーリ教具の音感ベルについ
て音感ベルは雑音筒とともに,音楽教育活動に用いられ る 自 由 な 選 択 と 表 現 が 認 め ら れ た 感 覚 教 具 で あ る 。 モ ンテッソーリは発達の第1段階と定義している0歳〜6 歳期の中でも特に3〜6歳の幼児に感覚の敏感さと整理 付けを獲得させるために感覚教具による教育の必要性を 唱えている。その中でも特に音感ベルは,音の持つ属性 の一つである音高を孤立させ,識別して序列化する感覚 教具であり,ペアリングやマッチングの活動を通じて音 の識別し音階を理解していくことに有用であると考案さ れたものである。モンテッソーリ教具音感ベルは回答用 紙と聴取刺激とのマッチングの必要がなく,さらには選 択肢が増えることになるため,課題として音高識別のみ に焦点を当てることができる。また,楽音の記'億に関し て,古矢(1981)は音高列と単音刺激を用いた実験を行 い,音高列で示されるより,単音で示された方が容易な 判断が可能であることを示唆している。音感ベルは一つ のベルで一つの音高を演奏できるので,音高判断におい ても楽音の記憶負荷が減少し,相対的な比較がしやすい
と考えられる。したがって,年齢の低い幼児にも適応可 能な回答方法として,幼児自身の演奏を通じた,楽音自 体をマッチングする方法を用いることで,課題自体の難
易度を軽減できると考えた。モンテッソーリ教具音感ベルは同一形状で銀色の金属