独禁法における「他の事業者」
著者 稗貫 俊文
出版者 法学志林協会
雑誌名 法学志林
巻 116
号 2・3
ページ 57‑83
発行年 2019‑02‑22
URL http://doi.org/10.15002/00023111
独禁法における「他の事業者」(稗貫)五七
独禁法における「他の事業者」
稗 貫 俊 文 はじめに
独禁法の禁止行為の規定には、「他の事業者」という言葉が、いくつかの箇所で使われている。この言葉の意義と規定上の位置付けは一様ではない。本稿では、それを検討することで、私的独占と不当な取引制限という行為の特徴
と、それらの禁止規定の体系的な連関を明らかにする。共同ボイコットの独禁法三条における位置付けも検討される。
さらに、同じ観点から、企業結合規制に検討を広げ、その独禁法三条との体系的な連関を明らかにし、三条の規制と
比較して企業結合規制の根拠と規制手法、規制基準の特徴を検討する。
法学志林 第一一六巻 第二・三号合併号五八
一 独禁法三条の規制における「他の事業者」
⑴ 私的独占における「他の事業者」
独禁法の禁止行為に標準的な類型があるとすれば、以下の検討のために、二条五項の「私的独占」の定義規定がそれに当たると考えることが有益である
)(
(。「他の事業者」の言葉に注意しつつ、私的独占の定義規定(二条五項)をあ
らためて見てみよう。
「この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、または他の事業者と結合し、通謀し、その他いかな
る手段をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、または支配することにより、公共の利益に反
して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。」(傍線筆者)
この規定において最初に登場する「事業者」は違反行為者である。これを以下では「事業者
(」と呼ぶことにする。
私的独占は、単独の「事業者
(」により行われることも多い。しかし、ここでは「他の事業者」の規定上の位置づけ
と意義を検討することから、複数の事業者が共同して行う私的独占を主として念頭におく。
この規定のなかで最初に現れる「他の事業者」は、前述の「事業者」と共同して排除行為または支配行為を行う事
業者である。このような「他の事業者」も「事業者
(」に該当する。
独禁法における「他の事業者」(稗貫)五九
「事
業者
(」の
間の結びつきが問題になる。独禁法二条五項において、「事業者
(」の
結びつきの態様は、「結合し、
通謀し、その他いかなる手段を以ってするかと問わず」とされている。これを本稿では「主体編成」要件とする。
「結合」とは株式の所有や資産の取得等による結合をいい、「通謀」とは意思の連絡をいう。過去の事件を参照すると、
「結合」や「通謀」による「主体編成」には、同業者だけでなく、異業種の事業者を包摂して「事業者
(」を
構成す
ることも少なくない
)(
(。
本稿では、「事業者
(」の
結びつきの態様を「主体編成」要件に包含し、「行為」要件には含めない
)(
(。「主体編成」
要件は複数の事業者が関与する私的独占で問題になりそうであるが、不当な取引制限と異なり、「主体編成」要件が
争点となったことはない。それはおそらく市場支配的な事業者を含む少数の事業者の主体編成であって、結合や通謀
の存在が争う余地なく明らかであったからであろう
)(
(。しかし、「主体編成」要件に注目することは、私的独占と不当な取引制限の違法行為の態様の差異を明らかにするのに役立つであろう。このことは後述する。
この規定において二番目に登場する「他の事業者」は、「事業者
(」に
よって、その事業活動を排除または支配さ
れる事業者である。このような「他の事業者」を以下では「事業者
(」と呼ぶことにする。
イ 排除・支配行為
排除・支配行為とは、①単独の「事業者
(」がその有する市場支配力を行使し、あるいは、複数の「事業者
(」が
その結集した市場支配力を行使し、②「事業者
(」の事業活動を排除・支配するものである。
排除・支配行為における単独の「事業者
(」は、通
常、「一定の取引分野」において、ある程度の市場支配力を有
している。複数の「事業者
(」も、結合や通謀によってある程度の市場支配力を形成する。このような市場支配力を
法学志林 第一一六巻 第二・三号合併号六〇もとに排除・支配行為が行われる。
排除・支配される「事業者
(」は
どのような存在であるか。第一に、「排除」される「事業者
(」は、通
常、市場
において一定の牽制力を有する競争者であり、かれらの牽制力が市場の「競争圧力」を構成している。私的独占の排
除行為とは、このような「事業者
(」が有する牽制力を排除する目的や効果をもつ行為であり、それによって市場の
「競争圧力」を緩和し、市場支配力の行使を容易にする。
第二に、「支配」される「事業者
(」は、取引相手であることが多い。
「事業者
(」は、卸売、小売などの多数の買
手を包摂することで、販売市場で市場支配力を形成しうる
)(
(。また、納入業者など売手を包摂することで、原材料など
の供給市場で市場支配力を形成しうる。「支配」される「事業者
(」が
競争者であることもある。競争者の株式・資
産を取得して、「事業者
(」の市場支配力を強化することができ
る )(
(。
私的独占の「主体編成」と「排除・支配」行為は、明確に区別することができる。まず主体編成があり、次いで、
排除・支配行為が行われる。これが不当な取引制限の行為要件と異なるところである。これは後述する。
ロ 競争制限効果
排除・支配行為は「競い合い」を排除し抑圧する行為であり、また、それによって競争メカニズムを損なう行為で
ある。「競い合いは具体的なものであり、競争メカニズムは抽象的なものである」という指摘がある
)(
(。それによれば、抽象的なもの(「一定の取引分野における競争の実質的に制限」)は目に見えないので、具体的なもの(「競い合い」
の制限)から推認しなければならないという。すなわち、「事業者
(」の
一定の取引分野における規模と排除行為の
実効性から、市場の競争メカニズムが損なわれていることを推認するということである。このようにして「一定の取
独禁法における「他の事業者」(稗貫)六一 引分野における競争を実質的に制限する」が立証される。 なお、すでに述べたことであるが、私的独占の「支配」は、必ずしも「事業者
(」の
意思に反して、「事業者
(」
の意思を押し付けるという意味をもつだけではない。市場支配的な「事業者
(」が、協力的な卸売・小売の販売業者
たる「事業者
(」を系列化することで、その意思に反することなく再販売価格維持行為を行い、あるいは一店一帳合
制や厳格な地域制限を行う場合がある。同じく、市場支配的な「事業者
(」が「事業者
(」たる競争者の株式・資産
を保有して「支配」するとき、競争者の意思に反することなく行う場合がありうる
)(
(。このとき、「支配」は「包摂」
という言葉が相応しく、「事業者
(」は実質的に「事業者
(」として行動していると言うべき場合である。
もっとも、近時は、販売業者が強くなり、製造業者を逆に「支配」する事例が出てきている。このとき「支配」は、
納入業者を「包摂」するというより、納入業者の意に反して不利益を押し付けるものが少なくない
)(
(。
⑵ 不当な取引制限における「他の事業者」
不当な取引制限の定義規定(二条六項)を、「他の事業者」という言葉に留意しつつ、見てみよう。
「この法律において、
「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わ
ず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、もしくは引き上げ、または数量、技術、製品、設備若しくは
取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、または遂行することにより、公共の利益に反して、一
定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。」(傍線筆者)
法学志林 第一一六巻 第二・三号合併号六二
この規定の「事業者」と「他の事業者」はいずれも「事業者
(」に
該当する。「事業者
(」は
相互に競争関係にあ
る事業者となるのが通例であるが、それ以外の事業者を含むこともある。この規定を、「標準形」たる私的独占の要
件の配置に倣って整理すれば、①「共同して」が「事業者
(」の主観的結びつきを示す「主体編成」要件、②「相互
にその事業活動を拘束し、または遂行する」の要件が、「事業者
(」が
行う行為の要件である。他方、この規定には、
私的独占の「事業者
(」に該当する「他の事業者」は見あたらない。このことが意味するのは、不当な取引制限にお
ける市場支配力の形成が、多くの「事業者
(」の市場
力 )(1
(を統合することによるということである。一方的な排除によるものではないから、「事業者
(」の間の主観のつながりが重要になる。
ハードコア・カルテルを例に、この規定をさらに整理すれば、「共同して」という主体編成と「相互に……拘束し」
という行為は、いずれも主観的行為として不可分であり、私的独占の排除・支配のように外形的に区別することがで
きない。そのため、判例
)((
(、学説
)(1
(は「共同して」という主体編成要件を違法行為の要件に統合し、「共同して……相互
にその事業活動を拘束し」をもって広義の違法行為の要件としている。このようにすることで、不当な取引制限の行
為の要件は、共同性(主体編成)と拘束性(狭義の違法行為)の二つの要素を包含する要件となる。
多摩談合事件最高裁判決は、「共同して……相互にその事業活動を拘束し」の要件を本件入札談合に適用するとき、
まず「拘束性」該当を検討し、次に「共同して……相互に」該当を検討している
)(1
(。二条六項の規定からみて、まず
「相互性」、次に「拘束性」というのが通常の順序であるが、事案における議論の文脈では逆の順の検討もありうるところであろう
)(1
(。
不当な取引制限が抽象的な競争メカニズムを損なうことはいかに示されるか。カルテルにおける競争制限効果の推
認においても、「競い合いは具体的なものであり、競争メカニズムは抽象的なものである」という命題は重要である。
独禁法における「他の事業者」(稗貫)六三 ハードコア・カルテルは、通常、競争の実質的制限をもたらす意図をもって行われ、実際に行われれば、そのような効果をもつ可能性の高い行為である
)(1
(。そのため、合意の実効性が立証されれば、形成された市場支配力が現実に行使
されるのを待つことなく、競争メカニズムが損なわれるということ、すなわち、「一定の取引分野における競争を実
質的に制限する」という市場効果の発生を推認することができる。
カルテルの合意が実効性をもつことの立証は一定の取引分野におけるカルテル参加者の数や市場シェアの総計に依
存する。また入札談合の基本合意の実効性は、基本合意の参加者の割合だけでなく、個別の受注調整や落札予定者の
落札の発注物件の占める割合に依存する。それがある程度の割合を超えないと「一定の取引分野における競争を実質
的に制限する」の要件を充たさないとされる可能性があり、さらに、基本合意の存在さえ疑わしくなる可能性がある
)(1
(。
公取委による価格カルテルの摘発は値上げが行われた後になることが多い。値上げは形成された市場支配力の外部的な徴表とみることができ、これも合意の実効性を表す間接証拠となる。
⑶ 私的独占と不当な取引制限の様々な差異
私的独占と不当な取引制限の異同について、この段階でまとめることができることを述べておこう。
イ 市場支配力の形成方法の違い
私的独占の「排除」と「支配」で力の形成方法は異なる。それに応じて着眼点も異なってくる。「支配」の経済効
果は、包摂された事業者数の「一定の取引分野」における割合の優位性からみる。不当な取引制限の効果の見方も同
じである。他方、「排除」の経済効果は排除行為で無力化された牽制力の有意性をみる。詳しく見てみよう。
法学志林 第一一六巻 第二・三号合併号六四
第一に、私的独占の「排除」において、排除行為が実効的に行われた否かが、競争の実質的制限を推認するカギと
なる。排除行為は、通常、すでに一定の市場支配力をもつ「事業者
(」(単
独ないし少数)が、排除行為で、市場の
競争圧力の一部を無力化するものである。それが「一定の取引分野における競争の実質的制限」をもたらす。
競争の実質的制限を判断する基準は、市場の競争圧力の一部たる「事業者
(」の牽制力が排除行為により排除され
たか否か(現実に排除されなくても、事業活動を困難にすること)である。すでに市場支配力を保有する「事業者
(」がその力を背景に排除行為を行うことは、市場に残される競争圧力が当初から限られているのに、それをさらに
排除することになるのであるから、残された競争圧力が「競争の実質的制限」の推認を覆す可能性はまず無いといえ
よう。
第二に、私的独占の「支配」は、本稿が示したところでは、すでに一定の市場支配力をもつ「事業者
(」が、卸売、
小売などの多数の流通業者を包摂(系列化)して、再販売価格、厳格な地域制限、一店一帳合などの非価格の取引条
件を課すことで、市場支配力を強化するものである。あるいは、すでに一定の市場支配力をもつ事業者一が、株式保
有・資産取得などにより競争者を包摂して、市場支配力を強化するものである。このとき、「支配」は、「事業者
(」
を「事業者
(」と同じものとすることはすでに指摘した通りである。
支配行為に係る競争の実質的制限の効果は、支配の広がりにかかっており、支配の広がりは包摂された事業者の市
場支配力が、包摂されないアウトサイダーの牽制力を上回るかどうか、にかかっている。これは、不当な取引制限における競争の実質的制限の推論法と同じである。包摂された事業者は「事業者
(」に「系列化」された取引事業者で
あるか、「事業者
(」の競争者に当たる事業者である。これらの事業者は、実質的に、
「事業者
(」として行動し、競
争の実質的制限をもたらしうる。
独禁法における「他の事業者」(稗貫)六五 第三に、不当な取引制限においては、相互拘束が実効的に行われたか否かが、競争の実質的制限を推認するカギとなる。すなわち、通常、個々の事業者が市場力を統合して、需要者に対して行使できるだけの市場支配力を形成する。そのためには、アウトサイダーの牽制力によって崩されない強い力を形成することが重要である。それによって「一定の取引分野における競争の実質的制限」が成立する。入札談合では、談合に参加しなかったアウトサイダーの競争圧力が、受注調整の実施率や落札予定者の落札率に如実に現れるので、それが基本合意の実効性を示す指標になる。 ロ 共同ボイコットの位置付け
競争の実質的制限をもたらす共同ボイコットは、私的独占に該当するか、不当な取引制限に該当するかという問題
がある。不当な取引制限の規定(独禁法二条六項)に、「事業者
(」に
該当する「他の事業者」がおかれていないことから、共同ボイコットは私的独占(二条五項)の排除行為に帰属させることが適切であると考えられよう。すなわ
ち、複数の「事業者
(」が
市場力を統合して大きな排除力を形成し(「主体編成」の要件)、「事業者
(」を
実効的に
排除(行為要件)とすれば、私的独占の支配に当たる。これが一つの見方である。
他方で、競争者を排除するだけの目的しかない悪質な共同ボイコットは、実効性のある合意が示されれば、それで
市場支配力が形成されるので、排除行為の実施を待つまでもなく、不当な取引制限が成立するということもできる。
このとき、排除行為の実施は、価格カルテルにおける値上げの実施と同様に、要件事実ではないということになろう。
これがもう一つの見方である。
はたして、どちらが良い解釈適用であろうか。公正取引委員会は、旧い「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の
指針」(公取委事務局、平成三年七月)の第一部・第二「共同ボイコット」において、事業者間の共同ボイコットは、
法学志林 第一一六巻 第二・三号合併号六六それが競争の実質的制限をもたらすならば、不当な取引制限に該当するとしていた。しかし、公取委は、ぱちんこ機
メーカー私的独占事件
)(1
(で、特許連盟と一〇社が共同して行った特許ライセンスのボイコットを、同特許ライセンスの
ライセンシーに対する商号変更、役員変更の届け出義務を課すことと併せて、ぱちんこ機の市場における排除行為と
して、私的独占の「排除」と構成している。さらに、その後、平成二九年に改訂された「流通・取引慣行に関する独
占禁止法上の指針」(公取委事務局、平成二九年六月)は、共同ボイコットを私的独占と不当な取引制限の両方に該
当する行為と整理している
)(1
(。
このような経緯をみれば、公取委は、共同ボイコットに私的独占を適用するのか、不当な取引制限を適用するのか、
あるいは何かの基準により、使い分けようとするのか、明らかとはいえない。
たしかにそれは明確な境界線を引くことが困難な問題である。しかし、相応に有効な方法はあるだろう。それは、
第一に、価格カルテル等が行われており、その実効性を確保するために、並行して共同ボイコットが行われていると
きは、共同ボイコットを私的独占と構成するのが座りよいであろう。第二に、私的独占と不当な取引制限の行為主体
の差異について教科書的な通念に依拠して区別することである。すなわち、私的独占の主体の典型は、単独の市場支
配的事業者の場合以外では、少数の事業者で市場支配力をもつ事業者がそこに含まれる場合である。不当な取引制限
の主体の典型は、市場支配力をもたない多くの事業者の場合である。実際には、それと異なる違反事例が多くあるけ
れども、共同ボイコットを規制する三条の適用を整理するために、このような区分を用いることが有益である。すなわち、共同ボイコットのうち、第一のように並行して行われる場合を除いて、少数の事業者が行い、市場支配的な事
業者(異業種の事業者も含む)を含んで行われる共同ボイコットを私的独占とし、比較的多くの市場支配力のない事
業者が行う共同ボイコットを不当な取引制限とするのである。この整理法は万能ではないが、単純であり、共同ボイ
独禁法における「他の事業者」(稗貫)六七 コットに対する独禁法二条五項と二条六項の適用区分をバランスの取れたものとするであろう。 なお、現行の課徴金制度において、私的独占の排除と不当な取引制限は課徴金の売上額に対する率が六%と一〇%と異なるけれども、それを考慮して体系論を検討しなければならないということはない。それは体系論として本末転倒の議論になる。 ハ 共同ボイコットにおける「相互拘束」
不当な取引制限とされた共同ボイコットでは、意思の連絡の立証が問題になることが多いであろう。不公正な取引
方法(共同の取引拒絶)に係る「着うた提供事業者」の共同ボイコット事件
)(1
(を素材にして、これを検討する。本件に
おいて、複数の当該事業者は、着うたの提供の窓口を一本化すべく、共同出資でレーベルモバイル社を設立する協議をおこなったが、その設立のプロセスで行った情報交換の証拠から、着うたの提供を「他の事業者」たる競争者に対
して共同で提供を拒絶する合意の存在が推認され、不公正な取引方法に該当するとされている。もし着うた提供市場
を「一定の取引分野」として、ボイコット参加者の割合と総計市場シェアの大きさにより競争の実質的制限の効果が
あると推認されれば、その事件は、不当な取引制限の規制の下で、「意思の連絡」の存在が問題とされたであろう。
隠された「意思の連絡」の立証の問題は私的独占の場合には存在しないと断定できないが
)11
(、不当な取引制限のときと
するのが通例であろう。
法学志林 第一一六巻 第二・三号合併号六八
二 企業結合(市場集中)規制について
⑴ 合併における「会社」
ここまでの議論の延長として、合併規制の条文を例に、企業結合規制における市場集中規制を検討してみよう。独禁法一五条一項の規定をみておこう。
「会社は、次の各号のいずれかに該当する場合には、合併をしてはならない。
一 当該合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合
二 当該合併が不公正な取引方法によるものである場合 」
一五条一項一号が企業結合規制である。二号は企業結合に関連した不公正な取引方法の規制である。「他の事業者」、
すなわち、企業結合(市場集中)規制にいう「他の会社」または「他の国内の会社」という言葉は企業結合規制の規定の独禁法一〇条、一一条、一三条、一四条、一六条に存在するが、一五条一項の規定に存在しない。しかし、それ
は以下の議論に影響しない。
合併など企業結合により生まれる会社を、以下では、議論の便宜上、「事業者
(」と
呼ぶことにする。合併など企
独禁法における「他の事業者」(稗貫)六九 業結合の規制は、事後規制が取引の安全を害するおそれがあまりに大きいことから、事前規制を予測で行うことが求められる。 合併規制(一号)の競争法上の関心は、合併により生まれる「事業者
(」(会
社)が、その属する市場の競争機能
を害する影響を与えないか、ということにある。付随して、合併により生まれる「事業者
(」(会
社)が属する企業
グループで、いずれかのグループ企業が、いずれかの市場で、その競争機能を害する影響を与えないか、ということ
にも関心は及ぶ。
合併により「事業者
(」を出現させる当事会社が、合併に向かうプロセスで取った行動が、私的独占や不当な取引
制限の問題(独禁法三条)か、不公正な取引方法の問題(独禁法一五条一項二号ないし一九条)になることがありう
る
)1(
(。そのとき、合併当事会社の双方が「事業者
(」になるか、または一方が「事業者
(」となり、他方ないしそれ以
外の会社が「事業者
(」と
なるだろう。排除命令や課徴金納付命令が下されれば、「事業者
(」が
合併により消滅し
たとしても、事業を引き継ぐ「事業者
(」に、これらの措置が命ぜられることがある(七条二項二号~四号、七条の
二第二四項~二五項)。しかし、これは企業結合規制の課題ではない。
合併規制の真の課題は、合併により生まれる「事業者
(」が何らかの事業活動を開始する前に、その競争への影響
を予測し、規制を行わなければならないことである。このときの独禁法上の関心は、これから出現する「事業者
(」
が、まだ市場で事業活動を始めておらず、独禁法三条違反や一九条違反の行為を行っていないのに、その属する市場
の構造をいかに変動させ、市場の競争にいかなる影響を与えるかを適切に予測することにある。企業結合の規制は、
私的独占(独禁法二条五項)や不当な取引制限(独禁法二条五項)の規制と大きな違いを形成している
)11
(。
法学志林 第一一六巻 第二・三号合併号七〇
⑵ 合併など企業結合の規制根拠
一般に、株式取得、役員兼任、資産取得、合併の目的は多様であり、多くの企業結合の中で、市場支配力の形成を
目的とするような企業結合やその効果をもつ企業結合は少ない
)11
(。しかし、市場支配力を形成する目的や効果をもつ企
業結合はこれまである程度の数で行われてきた。前述のように、企業結合は、「事業者
(」や「事
業者
(」の
ような
会社が登場する場面はなく、独禁法三条違反や一九条(一五条一項二号)違反の行為によって行われる場合は少ないので、違法行為を伴わずに市場支配力を形成する「事業者
(」の出現が問題となる。
このような企業結合は、放置すれば、市場の競争機能を大きく損なうおそれがある。行為規制で不十分であるから、
構造規制により市場の競争機能阻害を防止することは競争政策上必要不可欠である
)11
(。しかし、規制の必要性が認めら
れたとしても、企業結合は、それ自体、違法行為を伴わないのが通例であるから、それを規制することがなぜ許され
るかという競争政策上の問題は残される。違法行為を伴わない企業結合を規制することが、ノン・フォールト独占
(
No-Fault Monopoly
)を規制することと同じではないとすれば)11
(、その根拠が提示されなければならない。
イ
「市場のテスト論」の検討
企業結合の規制の根拠として、「市場のテスト論」が言われることがある
)11
(。会社が、他の会社の持分や営業資産、あるいは会社そのものを買収して成長することは、市場の競争という厳しい試練を通して内部成長したものとは異な
るから、それにより市場支配力を形成、維持、強化すれば、その競争政策上の正当性は乏しく、規制の対象とする理
由があるとするものである。これは比較的に説得力のある議論であると思われる。しかし、これだけを規制の根拠と
独禁法における「他の事業者」(稗貫)七一 するのはまだ説明不足であろう。 市場のテストを経ていないとしても、企業結合により企業を成長させることは相応のリスクを取った行動であり、統合直後から市場のテストが働くから、統合失敗の可能性を免れるわけではない。また、企業結合は、短期的に会社の成長を図ることで、新規参入を可能にしたり、事後的に規模の経済・範囲の経済を実現したり、必ずしも競争政策上非難すべき行為となるとは限らない。 企業結合の特徴は、取引される財が株式・資産・会社という事業経営上の資産であることである。事業経営上の資産の取引は、影響が市場構造に及ぶことがあり、そのときそれは普通の商品や役務の取引が競争に与える影響よりも大きくなろう。株式の取引、会社資産もしくは会社自体の売買は、ときに、それにより出現する「事業者
(」に高い
製造・販売能力を与える。「事業者
(」が規制されるべき理由は、
「事業者
(」の営業資産に注目することで明らかに
することができよう。次にこれをみる。
ロ 営業資産の企業間移動の競争効果
単独の事業者の内部成長は、その事業者の製造・販売能力を増大させるだけでなく、市場全体の製造・販売能力を
増大させるであろう。これに比べて、企業結合は、直ちに結合当事会社の製造・販売能力を増加させるが、市場全体
の製造・販売能力を増加させるものではない
)11
(。
企業結合により生まれる「事業者
(」の産出能力や販売能力の増大は、既存の企業の保有する産出設備や販売設備
の移転の結果に過ぎない。それが統合の後に、規模の経済や範囲の経済をもたらすことがありうるとしても、「事業
者
(」は、その出現の時点では市場全体の製造・販売能力を増大させず、市場における生産や販売の競争を活発にさ
法学志林 第一一六巻 第二・三号合併号七二せるものではない。
これは水平的な企業結合の場合だけではない。垂直的な企業結合であれ混合的な企業結合であれ、商品・役務の市
場で違法行為が行われていないとして放置すれば、独禁法三条や一九条で規制することが難しい状態を招来させるお
それがある。そうなったときは、もう取り返しがつかない。企業結合を規制する競争政策上の根拠は、営業資産の単
なる企業間移動が、競争によらず市場の競争機能を変質させることに求められよう。
⑶ 企業結合の規制手法と基準
イ 構造規制
企業結合は会社の行為であるから、独禁法がこれを規制するのを行為規制ということができる。企業結合規制を構
造規制というのは何に由来するのか。たしかに、企業結合規制に関する排除措置命令の条文(独禁法一七条の二)は、
「……に違反する行為があるときは」「……に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる」(傍
線筆者)と定めるのみである。しかし、企業結合という行為は、営業資産の移転により市場の構造を変化させ市場集
中をもたらす行為でありうることから、その行為の規制は不可避的に市場の構造を規制するものにならざるをえない。
企業結合規制が市場構造規制と言われる所以である。私的独占や不当な取引制限と異なる企業結合の規制手法と基準
について次に検討する。
ロ 構造規制の手法と基準
企業結合は、通常、三条違反や一九条違反の行為を伴わないことから、特定市場の特定行為に競争上のリスクを見
独禁法における「他の事業者」(稗貫)七三 定めることができない。何処かにあるかもしれない市場支配力形成のリスクを見逃さないように、関連する市場を広く見渡さなければならない
)11
(。
このようにして競争上のリスクを発見しても、それを規制すべきか否か正確に予測しようとして、時間、費用、人
員を際限なく投入することはできない。与えられる時間や費用に制約があるなかで、これまでの経験則に即し、また
経済学の成果を利用して、審査基準と手続が形成されてきた。
合併当事会社による合併等の事前届出の制度が確立されている。届出義務を負う統合当事会社の企業規模の基準、
適切な審査期間などが定められる。
審査基準は市場構造の変質に注目する。そのために、まず、仮想独占者による「小幅ではあるが、実質的かつ一時
的ではない価格引上げ」(SSNIP)に対する需要と供給の反応から、「一定の取引分野」が画定されるのが通例である。画定された市場において、構成事業者の市場シェアに基づき、企業の上位三社ないし四社集中度、さらにHH
I(ハーシュマン・ハーフィンダール・インデックス)など市場集中度等の基準を用いて、その市場で競争上のリス
クが存在するか否か検討される。競争上のリスクがない事例はHHIを用いたセーフハーバー基準により除外される。
問題のある市場が特定されても、今日では、それに加えて非構造要因を網羅的に検討することになる。これは市場に
残る事業者の牽制力の有効性を慎重に見るためであり、その判断項目が定式化され、企業結合ガイドライン(公正取
引委員会「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」平成二三年六月一四日)として公表されている。
水平的結合を例にすれば
)11
(、選別された事例で、集中度以外の競争要因(非構造要因)として、競争事業者の産出能
力や稼働率、隣接市場の競争圧力、新規参入の蓋然性や輸入の状態、需要者の競争力、競争事業者の特許権等の技術
力や研究開発能力など、当該市場に存在しうる牽制力が広く検討される。あわせて、効率性の達成可能性も検討され
法学志林 第一一六巻 第二・三号合併号七四るであろう。統合後に、規模の経済や範囲の経済の実現により、産出能力や販売能力を高めるなどの効率性を生む可
能性があるからである。
私的独占や不当な取引制限の規制では、普通、このような網羅的な検討は行わない。企業結合がこのような検証を
行わなければならない理由は、独禁法三条違反や一九条違反の行為が行われていないことにより、市場の競争圧力と
なる事業者の牽制力がいささかも損なわれていないからである。
企業結合においても、「競い合いは具体的なものであり、競争メカニズムは抽象的なものである」という命題は重要である。企業結合は、競争メカニズムを損う原因となる「競い合い」の制限(排除・支配行為)がないので、抽象
的なものが損なわれえたことを推認するのに他の方法が見出されなければならない。現在行われている推論法は、企
業結合により市場支配力が「形成」されるとすれば、それは必ず外部に「行使」されるという前提にたって、当該企
業結合が市場支配力を単独又は協調的に「行使」しうる能力とインセンテイブを有するかを予測するという方法であ
る。当該企業統合が生み出す「事業者
(」が、市場の現在の環境からみて、そのような能力とインセンテイブをもつ
と予想されれば、この因果関係を逆にたどって、それはとりもなおさず市場支配力を形成する蓋然性があるからであ
ると推論する。違法行為が存在しないなかで市場の集中度(構造要因)以外の競争要因(非構造要因)をも加味して
判断することになるから、このような推論法をとるほかないといえよう。
企業結合規制の手法の特徴は排除措置命令の場合にもあらわれる。違法として排除措置を命じることができる場合でも、公取委は、合併当事会社が適切な問題解消措置を提案すれば、排除措置命令によらず、提案を受け入れること
が多い
)11
(。合併当事会社は競争上の問題点を改善方法に精通すると考えられ、また、そのリスクを負うのであるから、
問題解消について合併当事会社の意思を尊重することは合理的である。
独禁法における「他の事業者」(稗貫)七五 今日でも、企業結合規制の手法の改善の課題が増えている。企業結合の事前届出先の国際的広がりが結合当事会社の負担を大きくしており、国際的な制度の調整が求められている。デジタル・エコノミー産業におけるプラットフォーム企業の垂直的な統合や混合結合は、二面市場に直面し、ネットワーク効果が働く場合もあり、予測が難しくなっているだろう
)1(
(。
結論に代えて
本稿では、私的独占の概念(二条五項)を独禁法の禁止規定の標準形として、「他の事業者」の意義と位置付けの
差異から、私的独占と不当な取引制限の概念(独禁法二条六項)の特徴と、市場支配力の形成の方法の違いを示した。あわせて、市場支配力を形成する二つの方法を併せ持つ共同ボイコットの三条違反としての位置付けを検討した。さ
らに、企業結合規制にも議論を広げ、その行為の特徴を私的独占や不当な取引制限と対照しつつ示した。そのうえで、
企業結合が独禁法により規制されるべき根拠、その規制基準と規制手法の特徴を明らかにした。
【注】(
議論は、細部では異なるが、鈴木孝之教授の考えに依拠している。 。本稿の国際化時代の独占禁止法の課題』三八七頁以下、三九二頁(日本評論社、一九九三年)『正田彬教授還暦記念論文集の解釈」 配行為を分離・独立させたものと位置付け、私的独占の規定の原型性を明らかにしている。鈴木孝之「私的独占の行為概念と構成要件 項提前をとこるみとの条般一当定規止禁の法に、不制なの支るあ性」の互「相ち、う為取配」行の「支占独的は、私限独引禁を規定の prototype()法対)」と条型(原の為行象止るの「禁法禁独を占独的私す見禁取独るす止禁を限制引な解当不と占独的る。私三があ
法学志林 第一一六巻 第二・三号合併号七六
(
( んこ機メーカー事件、平成九年八月六日勧告審決、審決集四四巻二三八頁。 成決、審審告勧日八月五年八件(平集るす関に名一かほ会協決三四許ちぱるす連関がループ特療と機こんち、ぱ頁)九〇二巻食医本日 決和審日八二月七年一三審決(昭判審るす対に金中林決、審八集人て、しと例事るす連関が法業殊特時)の省(当生。厚頁)二一巻・農 ()異業種・関連業種の事業者を包摂して「事業者一」を構成した私的独占の事例がいくつかある。農林系金融業者が関連する雪印乳
( ()稿た要件に注目するめ体である。鈴木孝之、前註のに、主で「主し体編成」と「行為」の区別をためのは、以下の議論の本た
()三八九頁、三九一頁に示される「行為主体の形成と行為の形態」という区分を参照している。
(
は北海道バターの株式の約二二%を所有していた。 た。また北信連の会長は雪印乳業の取締役をつとめ、副会長は最近まで北海道バターの代表取締役社長を兼ねていた。さらに、北信連 に、農林中金が、雪印乳業の株式の約四%、北海道バターの株式の約二%を所有し、また両社に対し多額の非所属団体融資を行ってい バ下の解了な全と「完ータ海道、排業、北乳印は、雪連信北びよに」的他行景背のる。それさとたっを資融のき付件条的別・差金、お ()中余たっあでから明くな地うい争が在存の謀通や合結とうて、農(イ)雪いおに件事金中林・農印う。のいを実事なうよの次は林 (ロ)パチンコ機特許プール事件において、パチンコ機の製造に関する特許権及び実用新案権を所有するメーカー九社は、これらの全部または一部について、管理業務を特許連盟に委託していた。すなわち、九社は、その通常実施権の許諾の許否、実施許諾を一年間とする実施許諾契約の締結事務、実施許諾を証する証紙の発行、実施許諾料の徴収等の業務を遊技機特許連盟に委託するとともに、当該特許権等の実施許諾の許否等を実質的に関与してきた。さらに、その背後で、ぱちんこ機メーカー九社は、遊技機特許連盟の発行済株式の過半数を所有するとともに、九社の役員が遊技機特許連盟の取締役の相当数を占めている。途中で一〇社目が加わっている。
(ハ)日本医療食協会事件において、医療用食品加算制度の導入が現実になろうとする時期に、医療食協会は、日清医療食から、医療機関向け医療用食品の販売を一手に行いたい旨の要請を受け、昭和五二年五月に開催した理事会において、医療用食品の価格維持を図り、日本医療食協会の検定料収入を安定的に確保するため、今後、原則として医療機関向け医療用食品の一次販売業者を日清医療食にすることに決定した。(
流通業者の支配と構成すれば、流通業者の意思に反した再販売価格の押し付けとはいえないものがある。 ()田ず接支配論をひとま視七野の外において、「支配」を頁)は、間五醤二油事件(東京高判昭和三年巻一二月二五日、審決集野九 原告会社の野田醤油は、審決取消訴訟において、原告の外務員が五店の小売店に東京都味噌醤油商業協同組合の協定価格を遵守するように希望を述べた事実をもって、東京都内で原告の醤油を販売する五千数百店に及ぶ小売業者の小売価格の競争を完全に抑圧していると断ずるのは公取委の誇大な認定であって実質的証拠に基づかない認定である、とする趣旨の反論をした。これに対して、東京高裁
独禁法における「他の事業者」(稗貫)七七 は、公取委が認定した事実は実質的証拠があるとし、次のような趣旨を述べている。すなわち、当該商業協同組合の協定価格とは野田の指示価格にほかならず、野田の指示価格の励行されないことはきわめてまれであったこと、審決に適示した価格遵守要請の数例は同組合員外の小売業者から例外的に生起する廉売行為に対する取締りの事例であること、指示価格を遵守しないとき「荷止め」をする方針があらかじめ野田から小売業者に伝えられていたことなど、価格が遵守されたのは原告の小売業者に対する支配力によるとした(九巻八三─八八頁)。
この場合、多くの小売業者は原告会社の支配力に屈したのでなく、自己の利益のために指示価格を守っている面があることを看過すべきではないであろう。「支配」と「同意」のどちらの面からも、再販価格維持行為の実効性を見ることができる。今日、「支配」の言葉に「合意」の意味が含まれていることに異論はないであろう。(
(株式の五〇%を東洋製缶が支配)の三社は東洋製缶の経営干渉に抵抗しているように見えない。、「三国金属」保有) 式缶が保有)、「四国製缶」(株七の洋一、五%を東洋製缶が製東かし、配」の意味に相応しい。しを「本州製缶」(株式の八一%の「支 に、北海製缶(株式の二九%を東洋製缶が保有)は東洋製缶の経営干渉に抵抗しており、東洋製缶の北海製缶に対する経営干渉は本来 ()東洋製缶事件(昭和四七年九月一八日勧告審決、審決集一九巻八七頁)の「支配」行為も「合意」と同じ面があるだろう。たしか そもそも、これらの株式を東洋製缶が適法に取得したものであるとすれば、「本州製缶」、「四国製缶」、「三国金属」の三社は、東洋製缶グループに属する企業となっており、同一企業結合グループ内では、本来、私的独占の支配が成立するはずがない。おそらく、違法な手続きによる取得(届け出義務違反)であったからこそ、これを「支配」と構成することが可能となったのであろう。そうだとすれば、株式取得に対する排除措置命令も出すことができたはずである。公取委が、それをしなかったのは、株式の取得がすでに既成事実となっており、措置を命じることによる混乱(取引の安全を害する)を避けたためであろう。いずれにしろ、三社に対する「支配」は、「同意」と同じであるとみてよいだろう。
このような同意に等しい事実関係に「支配」概念を適用した例はほかにもある。日本医療食協会事件(平成八年五月八日、審決集四二巻二〇九頁)の「支配」も、パラマントベッド事件(平成一〇年三月三一日、審決集四四巻三六二頁)の「支配」も、福井県経済農業協同組合連合会事件(平成二七年一月一六日、審決集六一巻一四二頁)の「支配」も、その例となろう。(
「競争メカニズムは抽象的なものであり、競い合いは具体的なものである。()
」とする指摘である。この指摘は、鈴木孝之「独占禁止法における競争の二つの意味と関係」白鴎大学法科大学院紀要第七号八一頁以下、九〇頁(二〇一三年一二月)においてなされている。本文の「競い合い」と「競争メカニズム」の位置は鈴木教授の原文と順序を逆にしたが、筆者の説明の便宜のために過ぎない。鈴木孝之教授は、「競い合い」を具体的、可視的、投入要素とし、「競争メカニズム」を抽象的、不可視、結果・成果として対照している。そ
法学志林 第一一六巻 第二・三号合併号七八
して、後者「競争メカニズム」を阻害することの立証は前者の「競い合い」の制限の具体性と実効性から推認するとする。その趣旨は、同、八四─八九頁に詳しく述べられている。(
()前注(
()と(
()を参照。
(
一一九頁)などがある。 、日本トイザらス事件(平成二七年六月四日審判審決、審決集六二巻(平成二一年六月二二日排除措置命令、審決集五六巻第二冊六頁) ン四五巻一三六頁)、セブレ・イ決ブン・ジャパン事件集決、審件(平成ある。さらに、ローソン事審一一〇年七月三〇日勧告頁)が ()これは自由競争基盤の侵害として取引上の地位の濫用となる。旧くは三越事件(昭和五七年六月一七日勧告審決、審決集二九巻三
本来的意味での「支配」は、今後、ネット通販のプラットフォーム企業の動向においても注目されよう。(
( (0) ここでは、いまだ市場支配力の形成にまでいたらないが、感知可能な事業者の経済力を「市場力」としている。
( 以下、八〇八─八一〇頁。 (() この点で参照すべき判例の該当部分は、多摩談合(新井組)事件最高裁判決、最判平成二四・二・二〇、民集六六巻二号七九六頁
( 二版)四二頁以下を参照。 (()の」経要件〔多摩談合(新井組)事件〕済限法判例・審決百選(第学の制整談理として、和田健夫「入札合引における不当な説取
( (() 民集六六巻二号七九六頁以下、八一〇頁。
Watchう。同旨、泉水文雄「新・判例解説」十一号一九一頁以下、一九三頁。 (() 多摩談合事件最高裁判決が、拘束性の要件を先に検討したのは、東京高裁判決の「拘束」に関する問題に焦点を当てるためであろ
原審は、公取委に認定する基本合意について、「公社の発注するAランク以上の土木工事は受注希望を有する者が受注すればよい、受注希望者が複数いれば当該受注希望者同士で自己の条件等を話し合えばよい、その他の者は受注希望者から工事希望票の提出依頼や入札価格の連絡等がなされた場合にはこれに従い受注希望者の落札を妨害する行為はしない、という共通認識があったという程度のものにすぎず、この程度の認識を建設業者らが有していたことをもって直ちに自由で自主的な事業活動上の意思決定を招来にわたって拘束するほどの合意の成立があったと断ずることはできない。」とした。
これは、これまでの審決・判例の積み重ねで形成されてきた「拘束性」の意義をことごとく否定する判断であった。これを問題視した最高裁は、東京高裁の示した「拘束性」の理解を優先して取り上げたのであろう。次のように述べている。「本件合意は……各社が、話し合いによって入札における落札予定者及び落札予定をあらかじめ決定し、落札予定者の落札に協力するという内容の取決めであり、入札参加者又は入札参加JVのメインとなった各社は、本来的には自由に入札価格をきめることができるはずのところをこのような取