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欧州委員会の改革についての一考察 : ローマ条約 からリスボン条約まで

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欧州委員会の改革についての一考察 : ローマ条約 からリスボン条約まで

著者 鷲江 義勝

雑誌名 同志社法學

巻 63

号 1

ページ 295‑330

発行年 2011‑06‑30

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013790

(2)

欧州委員会の改革についての一考察 二九五同志社法学六三巻

欧州委員会の改革についての一考察

ローマ条約からリスボン条約まで

鷲 江 義 勝

︵二九五︶ はじめに

  欧州委員会は︑欧州経済共同体設立条約︵以下EEC条約

︶発効以来︑EUにおける行政︵執行︶機関として︑欧州 1

統合過程の中で中核的役割を担ってきた︒この欧州委員会に対してもこれまでの度重なる条約改定によって︑様々な改

革が行われてきた︒本稿では︑これまでの欧州委員会の改革の軌跡に焦点を当て︑EEC条約から最新の改革条約であ

るリスボン条約までの様々な条約による欧州委員会の改革を検証する︒また︑事例研究として最新のバローゾ委員会の

任命過程を考察し︑欧州委員会が実際にどのように任命されているのかを明らかにした上で︑その特徴を検討する︒そ

の上で︑欧州委員会がどのように改革されてきたのかを明らかにし︑その改革の方向性を含めてEUにおける欧州委員

会の位置付けを行いたい︒

(3)

欧州委員会の改革についての一考察 二九六同志社法学六三巻一号︵二九六︶

1

章 欧州委員会の任命及び補充手続き   EEC条約においては︑欧州委員会の委員は︑委員長も含めて︑加盟国政府の合意により任命されることが規定され

ていた

︒そのため︑初代EEC委員会であるハルシュタイン委員会︵一九五八年就任︶からドロール欧州委員会︵一 2

九八五年就任︶までの歴代の欧州委員会は︑いずれも加盟国政府︑より具体的には︑当時の加盟国首脳たちの合議で任

命されてきたのである

︒しかしながら︑全体としての欧州委員会あるいは︑その長としての委員長の任命に関しては︑ 3

二つの側面から問題が存在していた︒第一には︑欧州委員会の民主的正当性に関する課題である︒EUは︑民主主義国

家により構成される共同体であり︑各加盟国内においては︑議院内閣制であれ︑大統領制であれ︑行政府の民主的正当

性は︑最低限確保されている︒他方で︑EUレベルの行政府である欧州委員会は︑その任命︑特に委員長の任命に関し

ては︑EUレベルの議会である欧州議会が指名するわけではなく︑ましてやEU市民が直接選挙で選出しているわけで

もない︒欧州委員会委員長を含め︑欧州委員会全体は︑加盟国政府の首脳によって任命されてきたのである︒そのため︑

欧州委員会の民主的正当性には︑常に疑問が生じることになる︒EUの発展によりEUの管轄領域が増大し︑EU市民

の生活にEUがより深く関係することになればなるほど︑EUの行政府である欧州委員会の民主的正当性の必要性は︑

より強く要請されることになっていったのである︒別の言い方をすれば︑EUが通常の国際組織であれば︑こうした問

題は存在しなかった︒そもそも︑他の国際組織においては︑事務局は存在するものの︑行政府と考えられるような機関

は存在しないため︑同種の問題は発生しない︒たとえ︑行政的な役割を担う機関が仮に存在するとしても︑その権限が

加盟国国民に対して直接行使されることはない︒通常の国際機関では加盟国の主権は尊重され︑国際機関の直接介入は

国家主権によって阻止することが可能となっており︑国民に直接影響を与えることはない︒そのため︑国際組織レベル

(4)

欧州委員会の改革についての一考察 二九七同志社法学六三巻︵二九七︶ における民主主義や民主的正当性が課題となることはないのである︒それに対してEUは︑特異な超国家的国際組織で

あり︑加盟国の主権は制限され︑EUの管轄権の範囲内では︑EUが直接EU市民に対して︑国家に代わって︑立法や

行政を行っている︒そのため︑EUレベルでの民主主義や民主的正当性が当然の課題となるのである︒

  第二の問題は︑加盟国の拡大に伴うものである︒当初六カ国で発足したEUは︑一九八〇年代には倍の一二カ国まで

拡大し︑一九九〇年代には冷戦体制の崩壊によりさらなる拡大の可能性も生じていた︒加盟国数の増大は︑合意形成を

より一層困難にし︑欧州委員会の人事︑特に委員長の選任に関する加盟国政府間の合意も次第に困難にならざるを得な

い状況に直面することになったのである︒

  以上のような状況に対して︑マーストリヒト条約以降の条約改定は︑欧州委員会の任命及びその補充に関して︑様々

な対策を講じたのである︒

1

節 マーストリヒト条約による欧州委員会の任命及び補充手続き   マーストリヒト条約では︑EEC条約一五八条一六一条を改訂し︑欧州委員会の任命と補充の手続きを大幅に変更 することになった︒欧州委員会の任命に関しては︑EC条約一五八条一項で

︑欧州委員会の任期を四年から五年に変更 4︶

したうえで︑同条二項以下で以下のような任命手続きを新たに定めている︵以下図

1

を参照

︶ ︒ 5︶

⑴ 加盟国政府は︑欧州議会と協議した後︑共通の合意により︑欧州委員会の委員長として任命しようとする人物を

指名する︒

⑵ 加盟国政府は︑委員長候補と協議したうえで︑他の委員候補を指名する︒

⑶ 指名された欧州委員会は全体として︑欧州議会による承認を受ける︒

(5)

欧州委員会の改革についての一考察 二九八同志社法学六三巻一号︵二九八︶

図 1 .欧州委員会の任命手続き

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(6)

欧州委員会の改革についての一考察 二九九同志社法学六三巻 ⑷ 欧州議会による承認の後︑欧州委員会は︑加盟国政府の共通の合意により任命される︒

  また︑欧州委員会の総辞職︑委員の個別の辞職あるいは罷免の際の補充手続きに関しても同時に改定が行われている︒

まず︑欧州委員会に対する欧州議会の非難決議によって総辞職した欧州委員会に代わる後任委員の任期に関しては︑条

約上の明文規定は存在しなかったが︑EC条約一五九条に合わせる形で︑新たにEC条約一四四条二段に規定が追加さ

れ︑その任期は辞職した委員の残りの任期と明確に示されることになった︒その他の場合︑すなわち︑司法裁判所によ

る個々の委員の罷免︵EC条約一六〇条︶︑個別の辞職及び死亡の場合には︑補充された委員の期間は︑従来通り︑辞

職した委員の残りの任期ではあるが︑委員長と他の委員の任命は明確に区別されることとなった︒欧州委員会委員長の

補充手続きは︑加盟国政府が︑欧州議会と協議した後︑共通の合意により任命される︵EC条約一五八条二項を援用︶︒

他方で︑委員長以外の欧州委員会委員の補充手続きは︑従来どおり加盟国政府の共通の合意により任命されることが定

められている︒

  以上のようなマーストリヒト条約による改革は︑以下のようにまとめることができよう︒

  第一に︑欧州委員会任命過程への欧州議会の参加は︑欧州委員会への民主的正当性の付与の観点からは︑画期的な改

革であった︒欧州議会に与えられた欧州委員会委員長に関する事前協議権及び欧州委員会全体の任命に関する承認権が

付与されたことによって︑欧州委員会委員長の人事及び欧州委員会全体に関する人事に欧州議会が正式に関与する権限

が明文規定として正式に定められたのである︒特に︑欧州議会に欧州委員会全体に対する承認権を付与したことは︑E

Uレベルで唯一の民主的正当性を持つとされる欧州議会が欧州委員会の任命に関して︑加盟国とともに責任を共有する

ことで︑欧州委員会にEUレベルでの民主的正当性を与えるものともなっている︒また︑欧州委員会の任期を欧州議会

の五年と同期させることによって︑欧州議会とのさらなる有機的連携が模索されたのであった︒すなわち︑五年に一度

︵二九九︶

(7)

欧州委員会の改革についての一考察 三〇〇同志社法学六三巻一号

実施される直接選挙によって新たに選出された欧州議会が︑新たに任命される欧州委員会の選出に関与するという方式

が導入されたのであった︒直接選挙によりEU市民の民意を反映した欧州議会が︑新たなEUの行政府の任命に参加す

ることで︑EUの行政府にも間接的ながら民意が反映されるようになったのである︒より具体的には︑マーストリヒト

条約では︑EC条約一五八条三項によって︑一九九五年一月七日より任期の始まる欧州委員会の任命手続きから︑この

新たな任命手続きが適用され︑その審議に参加するのは︑一九九四年に改選された新しい欧州議会ということが想定さ

れていたのである︒EEC条約発効以来︑続けられていた加盟国政府が独占的に欧州委員会を任命するという方式は︑

一九八五に就任したドロール委員会の任命までで終了し︑その後継であるサンテール委員会に関しては︑マーストリヒ

ト条約によって導入された新たな手続きが適用されたのであった︒

  第二に︑この改革によって︑欧州委員会委員長と他の委員の任命及び補充手続きが分離され︑欧州委員会委員長の権

威の向上と他の委員の任命過程における欧州員会委員長の発言力あるいは影響力の増大が図られている点が注目され

る︒欧州委員会委員長の任命あるいは補充に関しては︑任命に欧州議会の同意が必要条件となり︑欧州議会の権限の向

上とともに︑欧州委員会委員長が他の委員とは別格であることが明示されたのである︒他方で︑他の委員の補充につい

ては︑従来通り︑加盟国政府の合意によって任命されるため︑欧州議会が制度的に関与することはできず︑補充された

欧州委員会委員の民主的正当性については︑依然として疑問が残ることになった︒

  第三に︑欧州委員会任命過程への欧州議会の参画は︑欧州議会が従来から有していた欧州委員会に対する罷免権との

関係でも重要である︒欧州議会は︑EEC設立当初から︑EEC条約一四四条を根拠とし︑非難動議を可決することに

よって︑欧州委員会全体を罷免させる権限を有しており︑それによって︑欧州委員会に対する監督権を有しているとさ

れてきた

︒しかしながら︑欧州委員会の任命過程に欧州議会が関与できなかったため︑理論上は︑欧州議会は欧州委員 6︶ ︵三〇〇︶

(8)

欧州委員会の改革についての一考察 三〇一同志社法学六三巻 会を罷免できても︑同一メンバーによる欧州委員会を任命することを阻止できないという制度上の欠陥を持っていたのである︒マーストリヒト条約による改革によって︑欧州議会は欧州委員会の任命と罷免の両方に関与できるようになり︑

欧州議会による欧州委員会に対する民主的統制権に関しても実質を伴ったものとなったのである︒

  マーストリヒト条約による改訂は︑上記のような改革をもたらしたが︑その改革は︑依然として十分なものではなか

った︒欧州委員会の任命過程に欧州議会は参画することにはなったが︑欧州委員会を任命する主体は︑依然として加盟

国政府であった︒欧州委員会委員長の指名については︑欧州議会は協議に預かるだけであり︑欧州議会が主体的に委員

長候補者を擁立するわけではない︒さらに︑欧州委員会の他の委員の人選に関しては︑加盟国政府と欧州委員会委員長

のみが具体的に人事を協議して決定できる︒欧州議会は︑最終的に欧州委員会を全体として︑承認するか否かの投票を

行い︑欧州委員会は欧州議会の承認を得なければ任命されないが︑これはあくまで︑欧州委員会全体としてであり︑個

別の委員のみを不承認とすることはできないのである︒欧州議会の承認を前提とするものの︑欧州委員会を最終的に任

命する主体も依然として加盟国政府であることも明記されている︒そのため︑個別の欧州委員会に関する欧州議会の人

事権も含めて︑欧州議会の関与は依然として限定されていたといえよう︒

2

節 アムステルダム条約及びニース条約による欧州委員会の任命手続きの改革   マーストリヒト条約に続くEUの改革条約であるアムステルダム条約及びニース条約においても欧州委員会の任命及

び補充に関する改革は︑継続して行われてきた︒

  アムステルダム条約における︑欧州委員会の任命手続きに関しては︑アムステルダム条約版EC条約二一四条により︑

以下の二点の変更が行われている︒

︵三〇一︶

(9)

欧州委員会の改革についての一考察 三〇二同志社法学六三巻一号

⑴ 加盟国政府によって指名された委員長候補は︑欧州議会による承認を受ける︒

⑵ 加盟国政府は委員長候補者との合意の下で︑委員候補者を指名する︒

  欧州委員会の委員長の指名に関しては︑﹁欧州議会が加盟国政府から事前協議を受ける﹂という方式が︑﹁加盟国政府

が合意した人物に対して欧州議会が承認を与える﹂という方式に変更されている︒事前協議は︑基本的には協議をすれ

ば足りるだけであり︑欧州議会の意向が加盟国政府による人選に必ずしも反映されるとは限らない︒手続き的には︑加

盟国政府は︑欧州議会に相談するだけであり︑最終的な人選は加盟国政府間の合意に委ねられているのである︒それに

対して︑欧州議会の承認が必要とされる今回の改革では︑欧州委員会委員長の指名主体は依然として加盟国政府ではあ

るが︑欧州議会の承認を得ない限り︑欧州委員会委員長となることはできない︒欧州議会は︑欧州委員会の委員長の人

選について拒否権を獲得することになったのである︒加盟国政府が指名するとはいえ︑欧州議会が受け入れられる候補

者のみが︑欧州委員会委員長に指名されることになる︒これにより︑従来は加盟国の首脳の意向が大きく反映されてき

た委員長の人選についても︑欧州議会がより大きな影響力を持つことになったのである︒欧州議会がすでに有している

全体としての欧州委員会の選出に関する承認権および罷免権と併せて︑欧州議会の欧州委員会に対する民主的統制がよ

り一層強化されているといえよう︒また︑特に欧州委員会委員長に対しては個別に欧州議会が承認を与えており︑他の

委員と別格の存在として欧州委員会委員長に対する民主的正当性の付与が一層図られていることにも注目できる︒

  また︑欧州委員会委員長は︑加盟国政府との合意の上で︑他の委員候補を指名することになり︑欧州委員会委員長の

他の委員の人選に関する発言力が一層強化されることになった︒欧州委員会委員長が他の委員の人事に一定の発言力を

持つことで︑他の委員に対する一層の権威の強化が図られるとともに︑欧州委員会委員長の下で実際活動する委員の人

事について︑加盟国政府と任命責任を共有するという立場になったのであった︒ ︵三〇二︶

(10)

欧州委員会の改革についての一考察 三〇三同志社法学六三巻   アムステルダム条約に続くニース条約による欧州委員会の任命過程の改革の特徴は︑それまで改革された任命過程の枠組みを維持しつつ︑任命主体と決定方式を変更したことである︒具体的には︑以下の諸点に関する改革が行われている︒

⑴ 欧州委員会委員長の指名主体の変更︵加盟国政府  ↓ 首脳理事会︶

⑵ 欧州委員会委員長の指名手続きの変更︵全会一致  ↓ 特定多数決︶

⑶ 他の委員の指名主体と指名手続きの変更︵加盟国政府の合意  ↓ 理事会の特定多数決︶

⑷ 欧州委員会の任命主体と任命手続きの変更︵加盟国政府の合意  ↓ 理事会の特定多数決︶

⑸ 欧州委員会委員長以外の委員の補充主体と任命手続きの変更︵加盟国政府の合意  ↓ 理事会の特定多数決︶

  このニース条約による一連の改革によって︑欧州委員会委員長及び他の委員の指名︑任命あるいは補充主体が加盟国

政府からEUの機関である首脳理事会及び理事会に変更された︒欧州委員会の指名主体は︑加盟国政府であったが︑実

際には︑従来から加盟国の首脳による合議で行われてきた︒そのため︑より実質的な内容を反映させることとEUの機

関としての首脳理事会がEUの機関である欧州委員会の任命に直接関わることによって︑制度的整合性が図られたとい

えよう

7︶

  また︑欧州委員会の委員長と他の委員の指名主体をあえて分けることによって︑欧州委員会委員長の政治的権威を他

の委員の上に明確に位置づけている︒すなわち欧州委員会委員長は︑首脳理事会によって指名され︑他の委員は欧州委

員会委員長候補と理事会の合意によって指名されることになったのである︒

  さらに︑決定方式に関しては︑従来の理事会での合意すなわち全会一致方式を改め︑特定多数決方式が全面的に導入

されている︒アムステルダム条約及びニース条約は︑中東欧への大規模な拡大を想定した条約であった︒加盟国の増大

︵三〇三︶

(11)

欧州委員会の改革についての一考察 三〇四同志社法学六三巻一号

は︑加盟国間の合意形成が一層困難になることを意味している︒そのため︑特に欧州委員会の任命のように︑人事など

時間的制約のある決定に関しては︑決定不能という状態を回避するために︑理事会での特定多数決を大幅に導入したの

であった

︒その結果︑欧州委員会の指名および任命過程の決定方式を合意という全会一致方式から︑特定多数決方式へ 8

と全面的に変更したのであった︒EUの拡大によって︑欧州委員会人事︑特に委員長に関する全会一致での決定が困難

になることは明白であり︑EUの行政府の長として︑強力な政治的リーダーシップを発揮できる欧州委員会委員長の人

選は︑難航を極めることは想像に難くない︒実際︑ニース条約発効以前︑EUの加盟国が一五カ国であった一九九四年

の新規の欧州委員会の任命の際には︑当時のメージャー英国首相が︑最有力候補であったオランダのデハーネ元首相の

欧州委員会委員長への指名に強硬に反対したため︑人選が難航し︑結局︑ルクセンブルグのサンテール元首相が︑欧州

委員会委員長に指名されるという事態も生じていたのである

︒EU行政の中心的機関である欧州委員会委員長の指名が 9

できない事態が生ずれば︑それはそのままEU全体の機能麻痺に直結する問題となるのである︒そのため︑今回の特定

多数決による指名への決定方式の変更は︑加盟国にとっては︑一旦任命されれば加盟国の影響力から独立して行動する

ように求められているEUの行政機関の長の指名に関して︑自国の主張が無視される可能性があるという深刻な主権の

侵害となるにもかかわらず︑現実的問題から考えれば︑受け入れざるをえない選択肢であった︒EUの行政府である欧

州委員会の人事という非常に重要な案件についても︑加盟国の国家主権の制限を伴う可能性のある特定多数決が導入さ

れたことは︑欧州委員会の任命のみならず︑EUレベルでの国家主権の制限の一層の進展という面でも注目される改革

である︒  欧州委員会委員長以外の欠員の補充に関しても︑任命主体が︑加盟国から理事会に変更され︑その決定方式も全会一

致から特定多数決に変更されている︒しかしながら︑欧州委員会委員長の任命過程とは︑依然として異なり︑新しい委 ︵三〇四︶

(12)

欧州委員会の改革についての一考察 三〇五同志社法学六三巻 員の補充に関しては︑欧州議会による承認は不要である︒また︑欧州委員会委員長の合意も条約上は明記されていない︒

そのため︑補充される委員に対する民主的正当性の付与と欧州委員会委員長の関与に関する問題が依然として残された

ままであった︒

3

節 リスボン条約による欧州委員会の任命及び補充手続きの改革   現時点で最新の改革条約であるリスボン条約においては︑欧州委員会の任命及び補充に関しては︑以下のような改革 がなされている︵リスボン版EU条約一七条七項

︶︒なお︑太字が主な変更点である︒ 10

⑴ 欧州委員会委員長の選考の際に︑﹁欧州議会の選挙結果を考慮すること﹂を追記

⑵ 欧州委員会委員長の選考母体を首脳理事会から欧州理事会に変更

⑶ 欧州委員会の選出主体を欧州議会へ変更︵欧州理事会は提案者︶

⑷ 欧州委員会の任命主体を理事会から欧州理事会へ変更

⑸  EU外務・安全保障担当上級代表を副委員長として別途任命︵欧州理事会の特定多数決による任免︶

  また︑補充手続きに関しては︑新たに以下のような改定がなされている︵EU運営条約二四六条︶︒

⑴ 委員の補充は︑理事会が特定多数決で︑欧州議会に諮問した後︑欧州委員会委員長との共通の合意によって任命

⑵ 補充される委員は︑失職した委員と同一国籍

⑶ 欧州委員会委員長については︑従来通り任命手続きと同様の手順

  マーストリヒト条約による改革によって始まった欧州議会と欧州委員会の連携の強化の潮流は︑リスボン条約によっ

てさらに推し進められた︒リスボン版EU条約一七条七項では︑欧州理事会が︑欧州委員会委員長を選考する際には︑

︵三〇五︶

(13)

欧州委員会の改革についての一考察 三〇六同志社法学六三巻一号

直近の欧州議会選挙結果を考慮することが明記され︑欧州委員会の選出と欧州議会の選挙結果との連動を強調する文言

が追加されることとなった︒また︑同条約一七条八項では︑﹁委員会は全体として欧州議会に責任を負う﹂との規定が

盛り込まれ︑欧州委員会が責任を負うべき主体が欧州議会であることが明記された︒さらには︑欧州議会との関連で言

えば︑欧州委員会委員長の選出主体が欧州議会となったことも︑大きな改革である︒欧州委員会委員長の指名主体は︑

従来は︑加盟国政府あるいは加盟国政府首脳であった︒そのため︑加盟国政府あるいはその首脳による欧州委員会委員

長の指名に︑欧州議会が参画するあるいは承認するという形式であった︒しかしながら︑リスボン条約では︑欧州議会

が欧州理事会の提案を受けて︑欧州委員会委員長を選出するという過程に変更され︑選出主体は欧州議会となったので

ある︒時間的制約のある人事であり︑具体的な人物を選定するのは提案主体である欧州理事会であるため︑欧州理事会

の権限が依然として大きいのは言うまでもないが︑欧州議会が欧州委員会の選出主体となった意味は大きい︒この改革

によって︑欧州委員会委員長は︑欧州議会が責任を持って選出した人物であり︑欧州委員会委員長の民主的正当性は︑

さらに一層向上したといえるとともに︑指名責任者としての欧州議会に対する欧州委員会委員長の責任の所在も一層明

確なものとなっている︒これらをもってEUにおける欧州議会と欧州委員会による議院内閣制の導入と言うには︑あま

りにも早計ではあるが︑その可能性の萌芽あるいは︑その方向性の兆候としては一定の評価を与えることは可能と思わ

れる︒  ニース条約では︑首脳理事会が︑欧州委員会の任命過程に関与することになったが︑リスボン条約では︑それにかわ

って︑欧州理事会が︑委員長候補の提案と全体としての欧州委員会の任命について正式に関与することとなっている︒

リスボン条約では︑従来の方針を転換して︑欧州理事会をEUの政策決定過程をはじめとする様々な局面で積極的に関

与させている

︒欧州委員会の任命過程に関しても︑欧州理事会をEU機関として︑積極的に活用する一環として︑欧州 11 ︵三〇六︶

(14)

欧州委員会の改革についての一考察 三〇七同志社法学六三巻 委員会委員長候補の提案主体及び欧州委員会全体の任命主体となったのである︒リスボン条約における欧州理事会のE

Uにおける位置付けとも関連するが︑欧州理事会がEUにおける事実上の最高意思決定機関として︑欧州委員会の任命

過程にも責任を持つという体制が確立されたのである︒

  リスボン条約で導入された﹁EU外務・安全保障担当上級代表︵以下︑上級代表︶﹂は同時に欧州委員会副委員長を

兼務することとなった︒そのため︑従来の欧州委員会の任命過程に加えて︑上級代表を兼任する副委員長は︑欧州理事

会の特定多数決により別途任命されることになった︵リスボン版EU条約一八条︶︒また︑上級代表は︑同様の特定多

数決によって解任されうる︒他方で︑任免の際には︑欧州委員会委員長の同意が必要であり︑欧州委員会の副委員長と

して就任する際には︑最終的に欧州委員会の一員として︑欧州議会の承認投票に付される︒そのため︑上級代表を兼任

する副委員長の任免に関しては︑他の委員とは異なった特殊なものと位置づけられる︒上級代表による副委員長の兼務

は︑その職務において外務理事会議長と外務担当の欧州委員会副委員長の二つの役割を同一の人物が行うことになって

いる︒副委員長としての任免過程の複雑化も含めて︑実際に職務の遂行の上からも様々な問題が生じる可能性があり︑

今後その実際の運用が注目される︒

  リスボン条約では︑欧州委員会の他の委員の補充についても欧州委員会委員長と欧州議会が関与することが可能とな

った︒欧州議会は︑補充される委員に関して理事会により諮問を受けるという手続きが追加され︑一定の影響力を持つ

ことになった︒また︑理事会によって任命される際には︑欧州委員会委員長の同意も必要となった︒もっとも︑欧州議

会は諮問を受けるだけであり︑その意見が拘束力を持つわけではない︒そのため︑欧州議会の影響力は依然として限定

的ではあるが︑欧州議会が関与できるようになったことは︑補充される委員の個別の民主的正当性の観点からは︑一定

の前進と考えられる︒また︑補充される委員に関しては︑欧州委員会委員長の同意が必要とされたことで︑欧州委員会

︵三〇七︶

(15)

欧州委員会の改革についての一考察 三〇八同志社法学六三巻一号

委員長の人事に関する発言力と政治的権威が確保されることになったのである︒ただし︑委員が補充される場合には︑

同一国籍の保証が明記され︑導入予定の輪番制︵後述︶の関連もあり︑欧州委員会が持つ最大の課題とも言える委員の

国別配分という大原則は維持されるものとなっている︒

2

章 欧州委員会委員長のリーダーシップの強化   EEC条約の中には︑欧州委員会における委員長の政治的なリーダーシップに関する具体的な記述はなかった︒その

ため︑欧州委員会における委員長は︑選ばれた人物がどのように実質的に欧州委員会を率いていくかという個人的なリ

ーダーシップの発揮に委ねられていたのである︒しかしながら︑欧州委員会が次第に肥大化していく中で︑欧州委員会

を個人的なリーダーシップによって統括することは次第に困難になり︑委員長の権限の強化が模索されることになった

のである︒

1

節 アムステルダム条約及びニース条約よる欧州委員会委員長のリーダーシップの強化   アムステルダム条約によって改訂されたEC条約二一九条には︑﹁欧州委員会は委員長の政治的指導の下で活動する﹂

という一文が挿入されることになった︵以下表

1

を参照︶︒すでに述べたマーストリヒト条約以降の欧州委員会任命過

程の改革によって︑欧州委員会の委員長の任命と他の委員の任命過程は︑明確に区別され︑欧州委員会委員長の権威付

け及び民主的正当性の付与が図られてきた︒欧州委員会委員長以外の委員の指名に際しても︑マーストリヒト条約では︑

委員長候補者と協議した後︑加盟国政府が指名することになっていたが︑アムステルダム条約の改定により︑加盟国政 ︵三〇八︶

(16)

欧州委員会の改革についての一考察 三〇九同志社法学六三巻 表1.欧州委員会委員長の権限強化一覧

アムステルダム条約 EC条約219条)ニース条約(EC条約217条)リスボン条約(EU条約17条及びEU運営条約248条)

欧州委員会は委員長の政治的指導の下で活動欧州委員会は、委員長の政治的指針の下で活動

・委員会の内部組織を決定(1

・副委員長の任命(ただし、全委員の承認が必要) (3項

・委員長が要請した場合には、各委員は個別に辞任       

   (ただし、全委員の承認が必要)(4項)       

・ 委員長が、委員会の職務を体系化し、各委員へ配

(2項

・委員会の任期内での各委員への職務の再配分 (2項 6.欧州委員会の委員長は、 ⒜ 委員会が職務を遂行すべき範囲内での指針の策定

 ⒝ 委員会の内部組織を決定

 ⒞ EU外務・安全保障担当上級代表以外の副委員長の任命

  (他の委員の承認不要)

 委員長が要請した場合には、委員会の委員は、個別に辞任

  (他の委員の承認は不要)

委員長が要請した場合には、EU外務・安全保障担当上級代

表は辞任(ただし、欧州理事会の特定多数決が必要)

EU運営条約248条

 委員長が、委員会の職務を体系化し、各委員へ配分

  (ただし、EU外務・安全保障担当上級代表は例外)

 委員会の任期内での各委員への職務の再配分

  (ただし、EU外務・安全保障担当上級代表は例外)

注:ゴチックは主な変更点 府は委員長候補者との合意の下で︑委員候補者を指名することとなった︒これら一連の改革によって︑委員の人選についての委員長の発言力が次第に強化され︑委員長の政治的権威は強化されてきたのである︒こうした欧州委員会の任命過程の改革と連動して︑アムステルダム条約では︑欧州委員会の委員長の政治的リーダーシップが条約においても明記

︵三〇九︶

(17)

欧州委員会の改革についての一考察 三一〇同志社法学六三巻一号

されることとなった︒これにより︑欧州委員会発足後も︑委員長が制度的にも政治的リーダーシップを発揮することが

可能となったのである︒

  アムステルダム条約に明記されることになった欧州委員会委員長のリーダーシップは︑ニース条約によってさらに細

かく規定されることになった︒ニース版EC条約二一七条は︑欧州委員会委員長の権限として以下のものを規定してい

る︒  欧州委員会は︑委員長の政治的指針の下で活動し︑

1)

委員会の内部組織を決定する︒︵一項︶

2)

委員長は︑委員会の職務を体系化し︑それを各委員に配分する︒︵二項︶

3)

一旦配分した職務でも︑委員会の任期中に各委員に職務を再配分することができる︒︵二項︶

4)

副委員長を任命する︵ただし︑全委員の承認が必要︶︒︵三項︶

5)

委員長が要請した場合には︑各委員は個別に辞任させられる︵ただし︑全委員の承認が必要︶︒︵四項︶

  ニース条約による改定によって︑欧州委員会委員長はかなり広範かつ強力な権限を獲得することになった︒欧州委員

会委員長と他の委員の任命過程の差別化と相まって︑委員長の政治的権威は︑大幅に増大することとなった︒すなわち︑

どの委員をどの職務に就けるかという職務配分権と一旦配分した職務を任期中はいつでも再配分できるという︑限定的

ながらもいわゆる﹁内閣改造﹂権を獲得したのである︒また︑他の委員全員の同意という前提条件付きながら︑副委員

長の任命権と個別の委員の罷免権を獲得したのである︒

  マーストリヒト条約以前の欧州委員会の委員長に関しては︑その権限についての明確な規定が存在しなかったことを

考えれば︑ニース条約による一連の規定は︑かなり画期的なものである︒しかしながら︑このような改革にもいくつか ︵三一〇︶

(18)

欧州委員会の改革についての一考察 三一一同志社法学六三巻 の課題は残されている︒欧州委員会委員長の職務配分及び再配分権に関しても︑加盟国の意向に反してまで︑職務の配分が行えるのか︑さらには︑任期中に委員長が実際に再配分を行えるのかは︑欧州委員会委員長と加盟国との関係次第であり︑実際にどの程度リーダーシップを発揮できるかは︑委員長自身の持つリーダーシップ次第という面もある︒また︑職務の再配分は︑現職の委員のみを対象にするものであり︑新たに委員の人選を行えるわけではない︒そのため︑﹁内

閣改造﹂もまさに職務の再配分という︑いわゆる横滑り人事のみが可能であるため︑自ずと限界もあると思われる︒

  また︑副委員長の任命と個別の委員の罷免に関しては︑欧州委員会の全委員の承認を必要とするため︑実際に委員長

の政治的判断が優先されるかどうかも不明確である︒さらに︑委員の辞任による新委員の補充に関しては︑理事会が特

定多数決で決定するため︵ニース版EC条約二一五条︶︑委員長が直接関与できるわけではない︒そのため︑個別の委

員の罷免に起因する新委員の任命に関する委員長のリーダーシップがどこまで発揮できるかは︑依然として不明確なま

まである︒ニース条約による改革によって︑欧州委員会委員長の権限︑特に人事権が明記され︑議院内閣制における首

相の人事権に一歩近づいたようにも見えるが︑それは依然として︑改革途上の状態と位置づけられるものであったと言

えよう︒

2

節 リスボン条約による欧州委員会委員長の政治的リーダーシップの強化   リスボン条約では︑EU条約一七条六項︑EU運営条約二四六条及び二四八条によって︑欧州委員会委員長の権限が

規定されている︒それらを整理すると以下のようになる︵太字が主な変更点︶︒

⑴ EU条約一七条六項

委員会の委員長は︑

︵三一一︶

(19)

欧州委員会の改革についての一考察 三一二同志社法学六三巻一号

1)

委員会が職務を遂行すべき範囲内での指針を策定する︒

2)

委員会の内部組織を決定する︒

3)

EU外務・安全保障担当上級代表以外の副委員長を任命する︵他の委員の承認は不要︶︒  

4)

委員長が要請した場合には︑委員会の委員は︑個別に辞任する︵他の委員の承認は不要︶︒  

5)

委員長が要請した場合には︑EU外務・安全保障担当上級代表は辞任︵ただし︑欧州理事会の特定多数決が必

要︶︒

⑵ EU運営条約二四八条

1)

委員長が︑欧州委員会の職務を体系化し︑各委員へ配分する︵ただし︑EU外務・安全保障担当上級代表は例

外︶︒

2)

欧州委員会の任期内で各委員への職務を再配分する︵ただし︑EU外務・安全保障担当上級代表は例外︶︒   リスボン条約では︑欧州委員会委員長の新たな権限として︑政策指針の策定が追加されている︒欧州委員会を率いる

委員長として︑政策の方針を確定し︑それを欧州委員会全体で実行していくという姿勢が強く打ち出されたのである︒

また︑以前は︑他の全委員の承認を前提としていたため︑大きな制約があった副委員長の任命と個別の委員の罷免に関

する権限については︑他の委員の承認が不要となり︑欧州委員会委員長の独占的権限となった︒すなわち︑欧州委員会

委員長のみが︑独自の裁量で自由に副委員長を任命し︑個別に委員を解任することができるようになったのである︒さ

らに︑これまで辞任した委員の補充の際には︑理事会の特定多数決によって行われることになっていたが︑既に述べた

ようにリスボン条約によって改定されたEU運営条約二四六条によって︑理事会が決定する際の条件として︑欧州議会

への諮問と欧州委員会委員長との合意を必要とする規定に変更された︒欧州議会への諮問は︑補充される委員に一定の ︵三一二︶

(20)

欧州委員会の改革についての一考察 三一三同志社法学六三巻 民主的正当性を付与するという観点から重要改革であった︒それにも増して︑欧州委員会委員長の合意を必要とする点は︑欧州委員会委員長の罷免権を含む人事権との関連で︑注目すべき改定である︒罷免した委員の後任についても欧州委員会委員長が一定の発言権を有したことは︑罷免権をより実質的なものとしたという意味で重要である︒この新たな欧州委員会委員長の権限の追加によって︑委員長の人事権はより実質なものとなったのである︒  ただし︑これらの人事権にもいくつかの制約はある︒国籍制限と上級代表が務める副代表に関する特別規定である︒

第一に︑委員の補充に関しては︑辞職あるいは解任された委員と同一の国籍を持つ国民が任命されるという条件が付さ

れている︒この条項は︑後述する欧州委員会委員の定数が加盟国数を下回った場合を想定してもうけられた規定である︒

欧州委員会委員定数と加盟国数が同じである現在の状況では︑各国から一名ずつの委員が選ばれるため︑辞任した委員

の後任には︑当然のごとく同じ国籍の委員が選出されることになる︒しかしながら︑欧州委員会委員の定数が加盟国の

数を下回った場合には︑特定の任期中に委員を出していない加盟国が存在することになる︒そのため︑委員の補充を行

う際に︑その任期中に委員を出していない加盟国からの委員補充の可能性を除去するために同一国籍条項を規定してい

るのである︒第二に︑上級代表が兼務する副委員長に対しては︑他の委員とは別格に扱われ︑欧州委員会委員長の人事

権は︑大幅に制約されている︒上級代表は︑欧州委員会委員長の合意の下で︑欧州理事会が特定多数決によって選任し︑

同時に欧州委員会副委員長となり︑解任される際も同様の手続きが用いられる︵リスボン版EU条約一八条︶︒そのため︑

解任のためには︑欧州委員会委員長の意向だけでなく︑欧州理事会の特定多数決による決定が必要とされているのであ

る︒条約上の規定では︑副委員長と上級代表の解任主体が異なるため︑一方のみが解任しても他方が解任しないという

事態も想定されるため︑実際解任される場合には︑混乱が生じることも考えられる︒また︑職務の配分権及び再配分権

に関しても上級代表の兼務する副委員長に関しては︑例外扱いとなり︑副委員長の地位と対外関係の職務を変更するこ

︵三一三︶

(21)

欧州委員会の改革についての一考察 三一四同志社法学六三巻一号

とはできない︒

  以上のような欧州委員会委員長の政治的リーダシップの強化は︑欧州委員会委員長の首相化とも言うべき非常に大き

な改革である︒しかしながら︑加盟国の意思に関わりなく︑実際に内閣改造を行えるかどうか︒あるいは︑この委員長

のリーダーシップの強化が︑加盟国の増大に伴う委員会の肥大化による効率性の低下を相殺することができるかどうか

は依然として不透明である︒

3

章 欧州委員会の定数に関する改革   EEC設立条約では︑一五七条

において︑欧州委員会の定数︑資質と資格及び定数の変更方法が規定されてきた︒す 12

なわち︑EEC設立時の欧州委員会の定数は九名であり︑全般的能力と独立性を持つ加盟国の国民が選ばれる︒加盟国

からは少なくとも一人以上の委員が選ばれるが︑最多でも二名までである︒なお︑委員会の定数は︑理事会が全会一致

により︑変更することが可能であった︒実際には︑理事会による定数の変更は︑これまで行われたことはなく︑ニース

条約発効以前の欧州委員会の定数の変更はEUの拡大による加盟国の増大によってのみなされてきた︒すなわち︑委員

会の定数は︑いわゆる大国から二名︑その他の加盟国からは一名ずつとなるように拡大の度に改定されてきたのである︒

しかしながら︑EUの急速な拡大が想定される状況となった一九九〇年代以降︑欧州委員会定数に関するこの決定方式

は︑欧州委員会の無限の肥大化を予想させるものとなった︒すなわち加盟国の増大は︑欧州委員会の肥大化に直結し︑

中東欧への拡大が実現した場合の二七カ国のEUでは︑欧州委員会の定数は︑三三名にもふくれあがることが懸念され

たのである︒欧州委員会は︑EUの行政府であり︑内閣の役割を果たすものである︒根本的問題としては︑内閣の大臣 ︵三一四︶

(22)

欧州委員会の改革についての一考察 三一五同志社法学六三巻 の定数は︑職務の数によって規定されるべきものであり︑人数によって︑職務が作り出されるわけではない︒ところが︑欧州委員会の場合には︑加盟国の数によって委員の定数が決定されるという本末転倒の結果となっているのである︒そのため︑大規模な拡大が想定されていたEUにおいては︑欧州委員会の定数の抑制

が重要課題として浮上してきたのであった︒

1

節 アムステルダム条約及びニース条約による欧州委員会の定数改定   EUの拡大を想定して行われたアムステルダム条約の交渉時には︑欧州委員会

の定数に関しても当然︑協議が行われた︒その際︑それまでの大国から二名とそ

の他の加盟国から一名というそれまでの制度を改め︑すべての加盟国から一名ず

つを原則とする方向性は確認され︑その結果︑﹁EUの拡大を想定した機関に関

する議定書﹂がアムステルダム条約の中に盛り込まれることとなった︵以下表

2

を参照

︶︒しかしながら︑最終的な合意には至らず︑実際にEUの拡大が行われ 13

る前までに解決されるように先送りされたのであった︒

  それを受けて︑ニース条約では︑より具体的な内容が規定されることになった

14

ニース条約では︑二段階に分けて欧州委員会の定数削減が行われることになった

のである︒第一段階として︑EUの加盟国が二六カ国以内の場合には︑二〇〇五

年以降に任命される欧州委員会の定数は︑加盟国と同数とすることが合意され

︵三一五︶

表 2 .欧州委員会の定数一覧

アムステルダム条約 ニース条約 リスボン条約

各加盟国 1 人を想定

(理事会の特定多数決の 票数の再配分 もしくは 2 重多数決の 導入が条件)

27カ国に拡大した場合

委員会の委員数は、加盟国の数より少 なく

加盟国間の厳格な平等な輪番制

(加盟国間の在職期間の差が 1 期を超 えない)

加盟国の人口分布及び地理的な広がり 理事会が全会一致で、輪番制の実施協 定を制定

2014年11月 1 日以降 加盟国数の 3 分の 2

加盟国間の厳格な平等な輪番制

(加盟国間の在職期間の差が 1 期を超 えない)

加盟国の人口分布及び地理的な広がり 欧州理事会が全会一致で人数を変更す る決定を行わない限り実施

注:ゴチックは主な変更点

(23)

欧州委員会の改革についての一考察 三一六同志社法学六三巻一号

た︒大国が委員の一名削減に応じ︑各国一名ずつの委員によって欧州委員会は構成されることになったのである

︒第二 15

段階としては︑二七カ国以上に拡大した場合には︑拡大以降に新たに任命される欧州委員会の定数は︑加盟国数未満と

し︑加盟国間の平等な輪番制

に基づき選出される委員により構成されることになった︒しかしながらこの輪番制の具体 16

的な実施内容および欧州委員会の定数は︑条約上は明記されておらず︑実際に二七カ国に拡大した後に︑改めて理事会

が全会一致によって採択するように規定されたのであった︒そのため︑原則部分には合意したもの︑内容の最終決定は

理事会による全会一致の決定にゆだねられており︑具体的な定数と順番については︑実質的に先送りとなったのであっ

17

2

節 リスボン条約による欧州委員会の定数改定   リスボン条約では︑EU条約一七条四項︑五項及びEU運営条約二四四条において︑欧州委員会の定数と輪番制につ

いての規定がなされている︒リスボン条約においてもニース条約と同じように二段階に分けた改革が予定されている︒

二〇一四年一〇月三一日以前と以後に分け︑当該日以前に任命される欧州委員会の場合は︑定数は加盟国数と同じとさ

れ︑これまで通り︑欧州委員会は各加盟国一名の委員によって構成される︒当該日以降に任命される欧州委員会の定数

は︑加盟国数の三分の二となり︑輪番制が導入されることになった︒定数に関して︑ニース条約が規定した加盟国数未

満とする規定は︑すでに二七カ国の拡大EUになっていたにもかかわらず︑先送りとされ︑結局二〇一四年一〇月まで

は︑加盟国数=欧州委員会委員数という方式が維持されることになったのである︒二〇一四年一月以降に任命される委

員に関しては︑定数は加盟国の三分の二となり︑一応の定数は確定された︒しかしながら︑ニース条約同様︑輪番制に

ついては︑①すべての加盟国の人口および地理的な範囲を反映しつつ︑加盟国間の厳格な意味での公平な輪番制に基づ ︵三一六︶

(24)

欧州委員会の改革についての一考察 三一七同志社法学六三巻 いて︑加盟国の国民の中から選出される︒②各加盟国は二期連続で選出されないことはない︵EU運営条約二四四条︶

という原則が掲げられただけであった︒具体的な輪番制は︑EU運営条約二四四条に従って︑欧州理事会が全会一致で

決定するとされており︑依然として先送りされたままの状態となっている︒

  さらに実際の欧州委員会の定数に関しては︑二〇〇八年一二月一一︱一二日開催の欧州理事会議長総括において︑二

〇一四年以降も各加盟国一名の委員とすることが確認され

︑さらには︑二〇〇九年六月の欧州理事会の議長総括でもリ 18

スボン条約発効以降も欧州委員会委員は︑加盟各国から一名ずつ選出することがあらためて合意されることになった

19

そのため︑欧州理事会が新たに欧州委員会の定数削減について合意しない限り︑二〇一四年以降も現状通り︑各加盟国

から一名の欧州委員会委員を出す状況が続いていくことになる︒このため︑欧州委員会に関する輪番制の導入は︑事実

上凍結されることになったのである︒

  欧州委員会の定数削減の過程で︑﹁大国二名と他の加盟国一名﹂という体制から﹁各加盟国一名﹂体制へと移行した

場合に生じる大国の影響力の低下という問題は︑理事会で各加盟国に与えられる加重票数や欧州議会の国別議員割当数

を大国に有利に変更することによって︑ある程度緩和することは可能であった︒すなわち︑大国の欧州委員会における

影響力の相対的低下を他の主要機関における大国の影響力の相対的増大によって相殺することを前提条件として︑加盟

国間での一応の合意形成が可能であった︒しかしながら︑輪番制になった場合には︑欧州委員会の委員を出せる加盟国

と出せない加盟国の影響力の格差は︑決定的なものになることが予想される︒しかも︑欧州委員会委員の任期は︑五年

という長期にわたるものであり︑このことは︑問題をより一層深刻なものにしている︒また︑人口によって影響力に厳

然たる格差をもうけられている理事会や欧州議会と比して︑欧州委員会は︑すべての加盟国から一名ずつという加盟国

間の主権の平等原則が現在は貫かれている︒中小の加盟国でも欧州委員会委員を選出できる権利を有することは︑国家

︵三一七︶

(25)

欧州委員会の改革についての一考察 三一八同志社法学六三巻一号

として非常に重要な権利であり︑その影響力の確保の点からも重要視されているのである︒そのため︑輪番制の導入に

より委員を出せない中小の加盟国にとっては︑その影響力の点からは死活的問題となるのである︒欧州委員会の定数削

減問題は︑理論的には削減すべきであるという合意は形成されたものの︑実際には︑EUレベルにおける加盟国間の権

力闘争の対象となるため︑実際の削減はかなり困難とならざるを得ないのである︒

4

章 バローゾ委員会の任命過程   本稿では︑マーストリヒト条約からリスボン条約までの欧州委員会に関する改革を検証してきた︒最終章として︑実

際の欧州委員会の任命に際して提起されたいくつかの課題や特徴的なものを取り上げ︑その意味するところを明らかに

した上で︑欧州委員会の改革についての考察を締めくくるものとしたい︒なお︑紙面の都合上︑今回取り上げるのは最

も新しい欧州委員会であるジョゼ・マヌエル・バローゾ︵

José Manuel Barroso

︶委員会についてに限定するものとし

たい︒バローゾ委員会は二〇〇四年に発足し︑その後二〇一〇年にバローゾが委員長に再任され︑現在在職中の欧州委

員会である︒そのため︑便宜的に二〇〇四年発足のバローゾ委員会を第一次バローゾ委員会とし︑現職のバローゾ委員

会を第二次バローゾ委員会として論を進めていきたい︒

1

節 第一次バローゾ委員会の任命   二〇〇四年にプロディ委員会

の後継として任命された欧州委員会がバローゾ委員会である︒この第一次バローゾ委員 20

会は︑二〇〇三年二月一日に発効したニース条約の規定に従って実施された欧州委員会の任命手続きによって発足し ︵三一八︶

(26)

欧州委員会の改革についての一考察 三一九同志社法学六三巻 た︒当時ポルトガル首相であったバローゾは︑二〇〇四年六月二九日に開催された首脳理事会

において二〇〇四年一一 21

月一日から二〇〇九年一〇月三一日の任期で欧州委員会委員長候補として指名された

︒これを受けて欧州議会は︑七月 22

二二日の本会議において︑バローゾを欧州委員会委員長とすることを承認した

︒欧州議会の承認を受けたバローゾは︑ 23

他の委員の人選を行い九月一三日には︑欧州委員会の名簿が理事会により採択された

︒欧州委員会委員候補に対する欧 24

州議会の承認ための事前審査として︑九月二七日から一〇月一一日までの期間︑欧州議会の所管議会内委員会において

聴聞会が開催された

︒この聴聞会においては︑複数の委員候補に対して問題点が指摘された︒農業担当のマリアン・フ 25

ィッシャー・ボエル︵

Mariann Fischer Boel

デンマーク︶︑競争政策担当のネリー・クルース︵

Neelie Kroes

オラン ダ︶︑税制担当のイングリーダ・ウードレ︵

Ingrida Udre

ラトビア︶︑域内市場担当のチャーリー・マクリービー︵

Charlie McCreevy

アイルランド︶︑通商担当のピーター・マンデルソン︵

Peter Mandelson

イギリス︶︑エネルギー担当のラ ー ス ロ ー・ コ バ ー チ︵

Laszlo Kovacs

ハ ン ガ リ ー︶ 及 び 司 法

・ 内 務 担 当 の ロ ッ コ

・ ブ テ ィ グ リ オ ー ネ

Rocco

Buttiglione

イタリア︶などであった

︒この中でも特に問題とされたのは︑イタリアから選出予定のロッコ・ブティグ 26

リオーネ委員候補であった︒女性の権利軽視や宗教観などが問題視され︑欧州議会は︑彼の委員就任に反対の姿勢をと

ったのであった

︒欧州議会と委員長候補であるバローゾとの人事をめぐる対立は長引いたが︑最終的には︑バローゾは 27

委員会名簿を再考し︑ブティグリオーネを委員候補から外すことに同意したのであった

︒この想定外の事態により︑バ 28

ローゾは︑欧州理事会の本会議における欧州委員会の全体としての承認投票の延期を要請したのであった

︒︒最終的に 29

バローゾは︑ブティグリオーネに代えてフランコ・フラティーニ︵

Franco Frattini

︶を︑ラトヴィアからの委員候補で あり税制

・関税同盟担当を予定していたイングリーダ

・ ウードレに代えてアンドリス

・ピエバルグス

Andris

PIEBALGS

︶を委員候補とする新たな委員名簿を作成した︒

︵三一九︶

参照

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