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自他動詞の獲得 : コーパス分析による一考察

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Academic year: 2021

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自他動詞の獲得

―コーパス分析による一考察

1.はじめに

言語獲得研究において,Bowerman(1974)が英語を母語とする子ども が他動詞の代わりに自動詞を用いる誤用を指摘して以来,動詞の他動性に 関する誤用について,日本語を含む多くの言語で報告されてきた(Berman 1993;Figueira 1984;伊藤 1990;大津 2002;Pye 1994;Tsujimura 2008

他)。例えば,Bowerman(1974)は(1)に示したような英語児による誤

用を挙げている。

(1)a.Daddy go me around.(2;8)1

(= make me go around) b.I’m gonna fall this on her.(2;9) (= drop this on her) c.Don’t eat her yet.(3;8) (= feed her)

(1a)では自動詞 go が他動詞であるかのように目的語 me を伴って使われ

ている。(1b)も同様に,自動詞 fall を他動詞として用いた誤用である。(1c)

でも,本来 eat には使役の意味は含まれないが,make someone eat の意 味で eat が使われている。英語や他の欧米言語には,open や break,sink などのように接辞の変化を伴わずに自動詞としても他動詞としても使われ

*専修大学文学部准教授

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る動詞が存在するため,その類推から(1)のような動詞の他動性に関す る誤用が見られると考えられる。 一方,日本語にはこのようなゼロ派生で自他交替をする動詞は,一部の 動詞(開(ひら)く,閉じる,増す,等)を除き存在しない。それでも, 日本語児による自他交替の誤用は(2)のように自他動詞の接辞の間違い として観察され,多くの報告がなされてきた。 (2)a.(ブランコ)止まって(3;11) (=止めて) (伊藤 1990:69) b.熱いから,冷めるんだ(3;0) (=冷ます) (伊藤 1990:69) c.お父ちゃん,窓,開いて(3;11)(=開けて)(大津 2002:185) d.紙飛行機を,飛ぶ,です(3;0) (=飛ばす) (2a)では自動詞「止まる」が他動詞「止める」の意味で用いられ,(2b) の「冷める」は「冷ます」,(2c)の「開く」は「開ける」,(2d)の「飛ぶ」 は「飛ばす」の意味でそれぞれ間違って用いられている例である。この日 本語の例では自動詞の他動詞への過剰拡張が見られ,英語の誤用との平行 性を指摘することもできる。 しかし,日本語の自他動詞の獲得過程やその誤用の要因について様々な 自然発話データや実験結果を基に議論される中で,(2)の例とは逆に他動

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(3) Jacobsen(1992)による自動詞/他動詞の分類

1.-e- / -Ø- kireru/ kiru, kudakeru / kudaku, oreru / oru 他(全30ペア) 2.-Ø- / -e- aku/ akeru, doku / dokeru, narabu / naraberu 他(全44ペア) 3.-ar- / -e- agaru/ ageru, hiromaru / hiromeru, tomaru / tomeru 他

(全71ペア) 4.-ar- / -Ø- husagaru/ husagu, togaru / togu, tunagaru / tunageru 他

(全8ペア) 5.-r- / -s- hitaru/ hitasu, kieru / kesu, uturu / utusu 他(全27ペア) 6.-re- / -s- arawareru/ arawasu, midareru / midasu, yogoreru / yogosu

他(全18ペア)

7.-ri- / -s- kariru / kasu, tariru / tasu(全2ペア)

8.-Ø- / -as- hekomu / hekomas, soru / sorasu, teru / terasu 他(全38ペア) 9.-e- / -as- areru / arasu, kogeru / kogasu, nigeru / nigasu 他(全45ペア) 10.-i- / -as- ikiru / ikasu, mitiru / mitasu, toziru / tozasu 他(全8ペア)

11.-i- / -os- horobiru / horobosu, okiru / okosu, otiru / otosu 他(全6ペア) 12.-Ø- / -se- abiru / abiseru, kiru / kiseru, yoru / yoseru 他(全6ペア)

3.-e- / -akas- amaeru / amayakasu, obieru / obiyakasu 他(全4ペア) 14.-or- / -e- komoru / komeru, nukumoru / nukumeru(全2ペア)

15.-are- / -e- sutareru / suteru, wakareru / wakeru 他(全3ペア)

16.Miscellaneous affix pairs

koeru / kosu, oyobu / oyobosu, uruou / uruosu 他 (全25ペア)

一見すると複雑で不規則であるように見える中,Jacobsen は「(…)there

is at least one clear pattern discernible in the transitive morphology of Japanese, and that is in the similarity exhibited by transitive and intransi-tive suffixes to the causaintransi-tive morpheme sase and the passive morpheme

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自動詞を使用する傾向が強いとする Intransitivity Bias Hypothesis(Fukuda & Choi2009:621)にあると結論づけている。

一方,1人の日本語児(Sumihare,1;11―2;4)の自然発話を分析し, その子どもによる自他動詞の誤用が,自動詞を他動詞の意味で用いるだけ でなくその逆のパターンを持つ誤用も観察されることを報告したのが Nomura & Shirai(1997)である。Nomura & Shirai(1997)は,データの 初期段階において Sumihare が発話する動詞の大多数は自動詞であり,自 動詞がトークン数においてもタイプ数においても他動詞を上回っているこ とは確認しつつ,新たな知見として以下の3つを挙げている。まず,「抜 く」が「抜ける」の意味で用いられたり「固める」が「固まる」の意味で 使われたりするような,他動詞が自動詞の意味を表わす誤用も観察される こと。2つ目に,「開く/開ける」の自他動詞について双方向で誤用が見 られること。そして,誤用が観察される前にすでにそれらの動詞が正しく 使われていることを示す発話もあること,である。これらの分析結果を踏 まえ,Nomura & Shirai(1997)は誤用が起こる要因として,獲得されて いない語彙の代用として誤用が起こるのではなく,すでに獲得されている 語彙をレキシコンから引き出し活性化することの難しさ(retrieval and

ac-tivation difficulty)によるものであると指摘している。さらにその理由を

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に用いられた有対自他動詞は非能格(unergative)自動詞とそれに対応す る他動詞のペア,非対格(unaccusative)自動詞とそれに対応する他動詞 のペアという2種類に分類されている。

(5) a.Unergative pairs b.Unaccusative pairs Intr. verbs Tr. verbs Intr. verbs Tr. verbs

ok-ir-u ok-os-u ot-ir-u ot-os-u

nak-Ø-u nak-as-u koroga-r-u koroga-s-u

kaku-rer-u kaku-s-u sizum-Ø-u sizum-er-u

no-Ø-ru no-se-ru ak-Ø-u ak-er-u

or-ir-u or-os-u sim-ar-u sim-er-u

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また,他に実験的手法を用いて有対自他動詞の獲得を調査した研究とし て Yamakoshi & Jorinbo(2013)がある。Yamakoshi & Jorinbo(2013)は,2

才から6才までの日本語児33人を対象に有対自他動詞の理解を調査する実 験を実施している。「回る/回す」「倒れる/倒す」「温まる/温める」「転 がる/転がす」の4ペアを刺激文に用いて,動作主と被動作主を含んだ状 況(例えば,一方がもう一方を倒す,等)を提示した後,「倒れたのはどっ ちかな?」や「倒したのはどっちかな?」という発問をし子どもに回答を 促すという方法で,子どもがこれらの有対自他動詞の意味を正しく理解し ているかを調査したものである。2∼4才児において他動詞の方が自動詞 よりも正答率が低いという結果を示し,自動詞よりも他動詞の方が獲得が 遅いと主張した。この結果に対しては,Harley(2008)などで示されてい る自他動詞の構造の複雑さの違いに起因するのではないかと推察している。 2.3 先行研究のまとめと課題 ここまで,子どもによる有対自他動詞の獲得に関する先行研究を概観し てきた。これまでの研究成果を踏まえつつ,未だに解決されていない課題 を大きく分けて2つ指摘したい。1つは有対自他動詞の誤用の方向性(di-rectionality)の問題である。先行研究の中には,自動詞を他動詞の意味で 用いる誤用が多いことを指摘するものもあれば(Bowerman 1974;伊藤

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! -Ø- / -er-(6ペア) 開く(あく)/開ける(あける) どく/どける 並ぶ/並べる 立つ/立てる 届く/届ける 付く/付ける " -ar- / -er-(16ペア) 上がる/上げる 集まる/集める あったまる/あっためる ぶつかる/ぶつける 始まる/始める 広がる/広げる 固まる/固める 変わる/変える 曲がる/曲げる 混ざる/混ぜる 見つかる/見つける 下がる/下げる 閉まる/閉める 止まる/止める つながる/つなげる 埋まる/埋める # -ar- / -Ø-(2ペア) 挟まる/挟む つながる/つなぐ $ -r- / -s-(6ペア) 転がる/転がす 回る/回す 戻る/戻す 直る/直す 残る/残す 通る 通す % -rer- / -s-(8ペア) 離れる/離す 外れる/外す 隠れる/隠す こぼれる/こぼす 壊れる/壊す 崩れる/崩す 倒れる/倒す つぶれる/つぶす & -Ø- / -as-(6ペア) 減る/減らす 膨らむ/膨らます 乾く/乾かす 飛ぶ/飛ばす 動く/動かす どく/どかす ' -er- / -as-(5ペア) 出る/出す 冷える/冷やす 増える/増やす 燃える/燃やす 揺れる/揺らす

( -ir- / -as- & -os-(4ペア)

伸びる/伸ばす 起きる/起こす 下りる/下ろす

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動詞については,子どもは自動詞「開く」「どく」「付く」を他動詞の意味 で用いることが観察されており,これは自動詞の接辞の方が単純であるか ら,という説明が成り立つ。同様の説明がタイプ$の「乗る/乗せる」「捕 まる/捕まえる」にも当てはまる。自動詞化接辞の方が他動詞化接辞より も単純であることから,自動詞を他動詞の意味で用いる誤用が見られるの である。 ところが,誤用が多く観察された接辞タイプ!や",#については,自 他動詞のどちらの接辞がより単純であるか,という判断が付きにくい。特 にタイプ!(-r-/-s-)には誤用の多い「直る/直す」「回る/回す」が属し ているが,(13)からはどちらの方向で誤用が現れるのか予測できない。 そこで,(13)の仮説を次の(14)のように修正する。 (14)子どもは,有対自他動詞の獲得がまだ完全ではない時期には,発話 する自他動詞を選択する際に,語幹に付加する接辞が形態的に単純な 方を選択する傾向にある。形態的複雑性が同程度である場合は,使役 の接辞(-s-,-as-,-os-)がより複雑であると捉えられる。 これにより,タイプ"や#についても誤用の方向性が予測可能となる。た だ,なぜ使役の接辞の方がより複雑であると捉えられるのか,という疑問 にはまだ議論の余地が多く残されている。それが,伊藤(1990)でも指摘 されているように子どもにとって使役という概念自体が難しいからなのか, Miyagawa(1998)で提案されているように CAUSE と BECOME という 異なる主要部があり,より高い位置に CAUSE が現れるという動詞の内部 構造に起因しているのか,他の可能性も含め今後より詳細な検討が必要に なる。

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自他動詞の獲得も含め,子どもの言語獲得の実態解明に迫ることは可能で あろうと考える。 1 本稿では言語獲得研究の慣例に従い,子どもの年齢を「2;8」のように表記する。 例えば「2;8」は「2才8ヶ月」を意味する。また以降,更に月齢を詳細に記す場合 には「2;11.20」のように表し,この場合「2才11ヶ月20日」を意味する。 2 本稿ではどのような理論の枠組みを採用するかという議論には立ち入らないが,語 幹と接辞が異なる句を投射している限り,どのような道具立てを用いても本稿での議 論には影響はないと考える。 3 Jacobsen(1992)の分類の仕方と多少異なっている箇所がある。例えば,Jacobsen は16種類に分類しているが,本研究では!の中に他動詞化接辞 -as- と -os- を1つのタ イプとして含めたり,動詞の数が少ないタイプを削除したりし,10種類に再分類した。 4 (7)∼(11)の中で「X(←Y)」と表記したものは,子どもが「Y の意味で X を発話 した」ことを示し,X や Y に続く Vi や Vt はそれぞれ自動詞,他動詞を意味している。 5 他動詞を自動詞の意味で用いた誤用を,(7)の中で下線を施し他の例と区別して記 した。 引用文献

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参照

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