序言 摂 論 学 派 は 真 諦 訳 の ﹃ 摂 大 乗 論 釈 ﹄︵ 以 下 、﹃ 摂 大 乗 論 ﹄ と 略 称 す る ︶ を 受 容 す る に あ た り 、 そ の 心 識 説 を 如 来 蔵 思 想 に 引 き つ け て 解 釈 す る 傾 向 に あ っ た ︵ 1 ︶ 。 小 稿 は 、 こ れ と 同 様 の 傾 向 が 、 彼 ら の 三 性 三 無 性 説 の 解 釈 に も み ら れ る か ど う か を 検 証 するものである 。 摂 論 学 派 に お け る 三 性 三 無 性 説 の 解 釈 に つ い て は 、 従 来 ほ と ん ど 研 究 さ れ て い な い 。 そ れ は 、 彼 ら の 三 性 三 無 性 説 に 関 す る 資 料 が 、 ま と ま っ た 形 で は 残 さ れ て い な い か ら で あ る 。 し か し 、 摂 論 学 派 の 道 奘 ・ 道 基 ・ 霊 潤 ら の 三 性 三 無 性 説 に 関 す る 議 論 は 、 そ の 逸 文 が わ ず か に 存 在 す る 。 ま た 、 彼 ら の 三 性 三 無 性 説 に 対 す る 理 解 は 、 円 測 の ﹃ 解 深 密 経 疏 ﹄ や 道 倫 の ﹃ 瑜伽論記 ﹄ の 中 で 、 唯識学派 の 立場 から 批判 もされている 。 そ こ で 、 こ れ ら の 資 料 か ら 摂 論 学 派 の 三 性 三 無 性 説 を 復 元 し 、 そ こ に み ら れ る 解 釈 の 特 徴 に つ い て 考 察 す る こ と に し た い 。 一、道奘の三性説 初 期 の 摂 論 学 者 に 青 州 道 蔵 寺 の 道 奘 が い る 。 道 奘 は 、 道 宗 ︵ 五 六 三 ― 六 二 三 ︶ や 霊 潤 ︵ ― 六 五 〇 ― ︶ に ﹃ 摂 大 乗 論 ﹄ を 教 示 し て い る こ と か ら 、 隋 代 を 中 心 に 活 躍 し た 人 物 で あ る と 推 定 さ れ る ︵ 2 ︶ 。 道 奘 の 三 性 説 に 関 す る 解 釈 は 、﹃ 瑜 伽 論 記 ﹄ の 次 の 記事 から 窺 える 。 三性之義 、古来大徳種種解釈 、乃有多塗 。 且如 ︹ 道 ︺奘法師 、 出 三 性 義 章 、 最 明 為 好 。 彼 立 三 性 以 三 門 分 別 。 一 情 事 理 門 、二 塵識理 門 、三 染浄通 門 。 執有人法定性之境名遍計執 、 因縁之事名依他 、無 -- --相等理名円成実 。 是故 ﹃︹ 摂大乗 ︺ 論 ﹄ 云 、 迷 藤 執 蛇 名 遍 計 所 執 。 四 塵 藤 体 是 依 他 。 藤 蛇 空 理 名 円 成 実 。 第 二 門 中 、 境 名 遍 計 所 執 、 識 為 依 他 、 無 相 無 生 是 円 成 実 。 是 故 論 主 、 不 取 識 為 遍 計 所 執 、 取 識 変 異 為 我 等塵 、名遍計所執 。 第三門中 、染為遍計所執 、浄為円成実 、 三 五 駒澤大學佛 學部論集第四十號 成二十一年十二月
摂論学派の三性三無性説
吉
村
誠
摂論学派の三性三無性説︵吉村︶ 三 六 依他性者即通染浄 。 故 ﹃︹ 摂大乗 ︺ 論 ﹄ 云 、若縁遍計所執 、 此識応成染 。若縁円成実 、此識応成浄 。 是故染為遍計所執 、 浄為円成実 、 能染依他即通染 浄 ︵ 3 ︶ 。 三 性 の 義 は 、 古 来 大 徳 に 種 種 の 解 釈 あ れ ば 、 乃 ち 多 塗 有 り 。 且 つ ︹ 道 ︺ 奘 法 師 の 如 き は 、 三 性 義 章 を 出 し 、 最 も 明 に し て 好 と 為 す 。 彼 三 性 を 立 つ に 三 門 を 以 て 分 別 す 。 一 には 情事理 門 、 二 には 塵識理 門 、 三 には 染浄通 門 なり 。 人 法 定 性 の 境 有 り と 執 す る を 遍 計 執 と 名 け 、 因 縁 の 事 を 依他 と 名 け 、 無 - -相等 の 理 を 円成実 と 名 く 。 是 の 故 に ﹃︹ 摂 大 乗 ︺ 論 ﹄ に 云 く 、 藤 に 迷 ひ て 蛇 に 執 す る を 遍 計 所 執 と 名 く 。 四 塵 の 藤 の 体 は 是 れ 依 他 な り 。 藤 蛇 の 空 理 を 円 成 実 と 名 く と 。 第 二 門 中 、 境 を 遍 計 所 執 と 名 け 、 識 を 依 他 と 為 し 、 無 --相 ・ 無 生 は 是 れ 円 成 実 と す 。 是 の 故 に 論 主 、 識 を 取 り て 遍 計 所 執 と 為 さ ず 、 識 の 変 異 を 取 り て 我 等 の 塵 と 為 す を 、 遍 計 所 執 と 名 く 。 第 三 門 中 、 染 を 遍 計 所 執 と 為 し 、 浄 を 円 成 実 と 為 す 。 依 他 性 は 即 ち 染 浄 に 通 ず 。 故 に ﹃︹ 摂 大 乗 ︺ 論 ﹄ に 云 く 、 若 し 遍 計 所 執 を 縁 ず れ ば 、 此 の 識 は 応 に 染 と 成 る べ し 。 若 し 円 成 実 を 縁 ず れ ば 、 此 の 識 は 応 に 浄 と 成 る べ し と 。 是 の 故 に 染 を 遍 計 所 執 と 為 し 、 浄 を 円 成 実 と 為 し 、 能 染 の 依 他 は 即 ち 染 浄 に 通 ず と す 。 道 奘 の ﹁ 三 性 義 章 ﹂ な る 著 作 に は 、 三 性 説 に 関 す る ﹁ 情 事 理 ﹂﹁ 塵識理 ﹂﹁ 染浄通 ﹂ という 三説 があげられているという 。 三 性 の 名 称 は 、 真 諦 訳 ︵ 分 別 性 ・ 依 他 性 ・ 真 実 性 ︶ で は な く 玄 奘 訳 ︵ 遍 計 所 執 性 ・ 依 他 起 性 ・ 円 成 実 性 ︶ で あ る が 、 こ れ は 後 か ら 変 更 さ れ た も の で あ ろ う 。﹁ 蛇 縄 麻 ﹂ の 譬 喩 の ﹁ 縄 ﹂ が 真諦訳 の ﹁ 藤 ﹂ であること 、また 、証文 の ﹁ 論 ﹂ がすべて ﹃ 摂 大 乗 論 ﹄ を 指 し て い る こ と な ど か ら 、 道 奘 の ﹁ 三 性 義 章 ﹂ は 真 諦 訳 ﹃ 摂 大 乗 論 ﹄ の 三 性 説 に 対 す る 注 疏 で あ っ た こ と が 推 測 さ れ る 。 遁 倫 は こ れ を 摂 論 学 派 に お け る 三 性 説 の 様 々 な 解 釈 を あ げ た も の と し て い る が 、 む し ろ 道 奘 が ﹃ 摂 大 乗 論 ﹄ の 三 性 説 を 三 つ の 観 点 か ら 分 類 整 理 し た も の と 理 解 す べ き で あ ろう 。 ここでは 、 依他性 と 真実性 の 解釈 に 注目 しておきたい 。 道奘 は 依他性 について 、﹁ 事 ﹂︵ 現象 ︶ は 因縁所生 のもので 、 ﹁ 識 ﹂ の 変 化 で あ り 、 染 浄 に ﹁ 通 ﹂ じ る と 解 釈 し て い る 。 こ れ は 、 依 他 性 を 中 心 と し て 三 性 が 互 換 的 な 関 係 に あ る こ と を 説 明 す る も の で あ る 。 特 に 、 第 三 門 の 説 明 に は ﹁ 依 他 性 は 即 ち 染 浄 に 通 ず ﹂ あ る い は ﹁ 能 染 の 依 他 は 即 ち 染 浄 に 通 ず ﹂ と あ り 、 依 他 性 は 分 別 性 ︵ 染 ︶ と 真 実 性 ︵ 浄 ︶ の 双 方 に 関 係 を 持 つ と い う 解 釈 が 明 示 さ れ て い る 。 ま た 、 そ の 典 拠 は ﹃ 摂 大 乗 論 ﹄ の 釈 応 知 勝 相 品 ︵ 以 下 、 相 品 と 略 称 す る ︶ に 求 め ら れ て い る 。 こ の 依 他 性 が 分 別 性 と 真 実 性 の 双 方 と 関 係 を 持 つ と い う 考 え ︵ 二 分 依 他 説 ︶ は 、 後 の 摂 論 学 派 の 解 釈 に も み ら れ
摂論学派の三性三無性説︵吉村︶ 三 七 るので 注意 を 要 する 。 一 方 、 真 実 性 に つ い て は ﹁ 理 ﹂ な い し ﹁ 浄 ﹂ で あ る と 観 念 さ れ て い る 。 第 二 門 の 説 明 に よ れ ば 、﹁ 理 ﹂ と は ﹁ 無 相 ・ 無 生 は 是 れ 円 成 実 と す ﹂ と い う こ と で あ る と い う 。 こ れ は 、 分 別 性 の 無 相 と 依 他 性 の 無 生 と が 即 ち 真 実 性 ︵ 円 成 実 性 ︶ で あ る 、 と い う 意 味 で あ る 。 こ れ も 典 拠 と し て ﹃ 摂 大 乗 論 ﹄ が 引 用 さ れ て い る が 、 こ の 考 え の 直 接 の 典 拠 と な る の は ﹃ 摂 大 乗 論 ﹄ の 相品 にある 、 次 の 記述 である 。 論 曰 、 如 取 不 有 故 、 三 性 成 無 性 。 釈 曰 、 由 分 別 性 所 顕 現 実無所有故 、 無相性 。 分別性無体相故 。 依他無所依止故 、 無 生 性 。 此-- -二 無 性 無 無 性 故 、 真 --実 無 性 性 。 此 三 無 性 、 但 大乗中有 、 余乗則 無 ︵ 4 ︶ 。 論 に 曰 く 、 取 る が 如 く 有 な ら ざ る が 故 に 、 三 性 は 無 性 を 成 ず 。 釈 し て 曰 く 、 分 別 性 の 顕 現 す る 所 は 実 に は 有 る 所 無 き に 由 る が 故 に 、 無 相 性 な り 。 分 別 性 は 体 相 無 き が 故 に 。 依 他 は 依 止 す る 所 無 き が 故 に 、 無 生 性 な り 。 此 --の 二 --の 無 性 は 無-- --無 性 な る が 故 に 、 真 --実 無 性 性 な り 。 ----此 の 三 無性 は 、 但 だ 大乗中 のみに 有 りて 、 余乗 には 則 ち 無 し 。 即 ち 、 分 別 の 無 相 性 と 依 他 の 無 生 性 と い う 二 つ の 無 性 が 、 即 ち 真 実 の 無 性 性 で あ る と い う 説 明 で あ る 。 こ れ は 真 諦 訳 の み に 存 在 す る ︵ 5 ︶ 三 無 性 説 に 関 す る 注 釈 で あ る 。 道 奘 の ﹁ 三 性 義 章 ﹂ で は 、 こ の 考 え が 三 無 性 説 で は な く 三 性 説 の 説 明 に 用 い ら れ て い る の で 、 こ こ に は 三 性 説 と 三 無 性 説 の 混 同 が あ る と い え る 。 し か し 、 分 別 性 の 無 相 と 依 他 性 の 無 生 と が 真 実 性 で あ る と い う 解 釈 ︵ 境 識 倶 泯 説 ︶ は 、 後 述 す る よ う に 、 摂 論 学 派 の 三性三無性説 を 代表 する 学説 となってゆくのである 。 二、道基の三性説 1、道基の三性義 隋 末 唐 初 の 摂 論 学 者 に 益 州 福 成 寺 の 道 基 ︵ 五 七 七 ― 六 三 七 ︶ が い る 。 道 基 は ﹃ 摂 大 乗 論 ﹄ の 講 義 で 名 を 馳 せ た 人 物 で 、 渡天以前 の 玄奘 が 師事 したことでも 知 られている 。 道 基 の 著 作 に 比 定 さ れ る ﹃ 摂 大 乗 義 章 ﹄ 巻 四 ︵ 6 ︶ に は 三 性 義 が あ る の で 、 そ こ か ら 彼 の 三 性 説 に 対 す る 考 え を 窺 う こ と が で き る 。 三 性 義 は 七 門 に 分 か れ る が 、 そ の う ち 現 存 し て い る の は ﹁ 第一釈名 ﹂ と ﹁ 第二体性 ﹂ の 二門 である 。 先 ず 、﹁ 第 一 釈 名 ﹂ で は 、﹃ 摂 大 乗 論 ﹄ 相 品 の 記 述 に 基 づ い て 、 三 性 の 異 名 が 分 類 整 理 さ れ る 。 そ こ で は 傍 証 と し て 諸 経 論 の 文 句 が 引 用 さ れ 、 そ の 一 々 が 会 通 さ れ て い る 。 議 論 の 骨 格 は 次 のようである 。 ① 分 別 性 者 、 此 有 三 名 。 a 一 曰 分 別 性 。 釈 有 両 義 。 一 虚 妄 境 生 虚 妄 心 。 説 彼 境 界 名 分 別 性 。 ・・ ・ 二 能 取 妄 心 顛 倒 分 別 。 説 彼 妄 心 名 分 別 性 。 ⋮ 中 略 ⋮ b 二 名 妄 想 自 性 。 釈 有 両 義 。 一 約 妄 境 能 生 妄 心 、 名 妄 想 自 性 。 二 者 妄 心 顛 倒
摂論学派の三性三無性説︵吉村︶ 三 八 分別 、不称実義故 、目妄想自性 。 ⋮ 中略 ⋮ c 三名思惟分別 。 亦 有 二 義 。 一 境 界 而 生 思 惟 、 名 思 惟 分 別 相 。 二 妄 心 顛 倒 思惟 、 此以妄心思惟諸塵故 、 名思惟分別相 。⋮ 中略 ⋮ ② 二 依 他 性 者 、 此 有 両 名 。 a 一 名 依 他 性 。 釈 有 両 義 。 一 繋 属 種 子 。 謂 根 塵 識 、 現 行 生 起 、 繋 属 本 識 熏 習 種 子 。 故 曰 依 他 。 ⋮ 中 略 ⋮ 二 繋 属 根 塵 、 名 曰 依 他 。 謂 識 現 起 、 依 他根塵 、 方乃得生 、 名依他性 。⋮ 中略 ⋮ b 二名縁起自性 。 一切諸識 、 依根縁塵 、 而得生起 、 名縁起自在 。⋮ 中略 ⋮ ③ 三 真 実 性 者 、 此 有 三 名 。 a 一 名 真 実 ︹ 性 ︺。 亦 有 両 義 。 一 理 体 不 変 、 二 功 徳 無 倒 。 言 理 体 不 変 者 、 謂 - -有 垢 無 垢 二 無 - -所 有 、 不 可 破 壊 、 名 真 実 性 。 ⋮ 中 略 ⋮ ﹃ -無 相 論 ﹄ 云 、 真 --実 性 者 、 ----謂 --法 如 如 。 ----即 --是 二 性 無 変 異 義 、 ----名-- --為 真 実 。 此 乃 就 体 以 指 其 諱 。 二 功 徳 無 倒 者 、 道 及 正 教 、 称 理 無 倒 。 故 名 真 実 。 ⋮ 中 略 ⋮ b 二 名 成 自 性 。 ⋮ 中 略 ⋮ 皆 是 真 体 、 不 可 破 壊 、 名 成 自 性 。 c 三 名 第 一 義 性 。 ⋮ 中 略 ⋮ 斯 乃 成 名 、 約義以挙其号 。 第一義者 、 形対立 目 ︵ 7 ︶ 。 ① 分 別 性 は 、 此 れ 三 名 有 り 。 a 一 に は 分 別 性 と 曰 ふ 。 釈 に 両 義 有 り 。 一 に は 虚 妄 の 境 虚 妄 の 心 を 生 ず 。 彼 の 境 界 を 説 き て 分 別 性 と 名 く 。 ⋮ 中 略 ⋮ 二 に は 能 取 の 妄 心 顛 倒 し て 分 別 す 。 彼 の 妄 心 を 説 き て 分 別 性 と 名 く 。 ⋮ 中 略 ⋮ b 二 に は 妄 想 自 性 と 名 く 。 釈 に 両 義 有 り 。 一 に は 妄 境 の 能 く 妄 心 を 生 ず る に 約 し 、 妄 想 自 性 と 名 く 。 二 に は 妄 心 顛 倒 し て 分 別 す れ ば 、 実 義 と 称 せ ざ る が 故 に 、 妄 想 自 性 と 目 く 。 ⋮ 中 略 ⋮ c 三 に は 思 惟 分 別 ︹ 相 ︺ と 名 く 。 亦 た 二 義 有 り 。 一 に は 境 界 あ り て 思 惟 を 生 ず る を 、 思 惟 分 別 相 と 名 く 。 二 に は 妄 心 顛 倒 し て 思 惟 す れ ば 、 此 れ 妄 心 の 諸 塵 を 思 惟 す る を 以 て の 故 に 、 思 惟 分 別 相 と 名 く 。 ⋮ 中 略 ⋮ ②二 に 依他性 は 、 此 れ 両名有 り 。 a 一 には 依他性 と 名 く 。 釈 に 両 義 有 り 。 一 に は 種 子 を 繋 属 す 。 謂 く 根 ・ 塵 ・ 識 、 現 行 生 起 し て 、 本 識 の 熏 習 種 子 に 繋 属 す 。 故 に 依 他 と 曰 ふ 。 ⋮ 中 略 ⋮ 二 に は 根 ・ 塵 に 繋 属 す る を 、 名 け て 依 他 と 曰 ふ 。 謂 く 識 の 現 起 す る は 、 他 の 根 ・ 塵 に 依 り て 、 方 に 乃 ち 生 ず る を 得 る を 、 依 他 性 と 名 く 。 ⋮ 中 略 ⋮ b 二 に は 縁 起 自 性 と 名 く 。 一 切 諸 識 、 根 に 依 り 塵 に 縁 り て 、 生 起 するを 得 るを 、 縁起自在 と 名 く 。⋮ 中略 ⋮ ③ 三 に 真 実 性 は 、 此 れ 三 名 有 り 。 a 一 に は 真 実 ︹ 性 ︺ と 名 く 。 亦 た 両 義 有 り 。 一 に は 理 体 不 変 、 二 に は 功 徳 無 倒 な り 。 理 体 不 変 と 言 ふ は 、 --謂 く 有 垢 ・ ----無-- --垢 の 二 の 無 所 有 の - -、 破 壊 す べ か ら ざ る を 、 ----真 --実 性 と 名 く 。 ⋮ 中 略 ⋮ ﹃ - -無 相 --論 ﹄ に 云 く 、 真 実 性 は 、 ----謂-- --く 法 の 如 如 な り と 。 --即 ち 是 の --二 性 変 異 の 義 無 き を 、 --名 け て 真 実 と 為 す 。 此 れ 乃 ち 体 に 就 き 以 て 其 の 諱 を 指 す な り 。 二 の 功 徳 無 倒 と は 、 道 及 び 正 教 は 、 理 無 倒 と 称 す 。 故 に 真 実 と 名 く 。 ⋮ 中 略 ⋮ b
摂論学派の三性三無性説︵吉村︶ 三 九 心 為 体 。 別 而 為 論 亦 有 二 種 。 一 染 濁 依 他 。 二 清 浄 依 他 。 亦 是 世 間 出 世 間 二 果 報 也 。 言 染 濁 依 他 者 、 三 界 果 報 従 業 煩 悩 熏 習 種 子 生 、 名 為 染 分 。 言 清 浄 依 他 者 、 無 流 功 徳 依 聞 熏 習 種 子 生 、 名 為 浄 分 。 ⋮ 中 略 ⋮ ③ 三 真 実 性 者 、 真 実 体性亦有二種 。 一者有為 、 二者無為 。 言有為者道及聖教 。 道 謂 二 智 具 生 、 教 謂 無 等 聖 教 。 言 無 為 者 、 有 垢 無 垢 二 種 真 如 。 ⋮ 中 略 ⋮ 真 実 性 中 根 塵 識 者 、 是 仏 菩 薩 報 身 功 徳 、 陰 界 入 法 二 智 種 子 而 生 。 又 是 法 界 所 流 、 証 実 無 倒 。 譬 如 真 金 称 両 等 住 。 此 中 所 説 之 種 十 八 界 、 前 一 凡 夫 境 界 、 後 二聖智境界 。 復次 、 前一染分 、 第二二分 、 第三唯 浄 ︵ 8 ︶ 。 ① 分 別 性 は 体 性 に 二 有 り 。 一 は 妄 塵 、 二 は 妄 心 な り 。 妄 塵 と 言 ふ は 六 塵 の 境 界 な り 。 彼 の 妄 心 に 従 ひ て 塵 に 似 て 起 こ る 。 体 は 無 所 有 な る も 顕 現 す れ ば 塵 に 似 る 。 即 ち 此 の 塵 を 説 きて 分別性 と 為 す 。 ⋮ 中略 ⋮ ②二 に 依他 を 弁 ず 。 総 じ て 之 を 説 か ば 、 但 だ 有 為 色 心 を 体 と 為 す の み 。 別 し て 論 を 為 せ ば 亦 た 二 種 有 り 。 一 に は 染 濁 依 他 。 二 に は 清 浄 依 他 。 亦 た 是 れ 世 間 ・ 出 世 間 の 二 の 果 報 な り 。 染 濁 依 他 と 言 ふ は 、 三 界 の 果 報 、 業 煩 悩 熏 習 の 種 子 に 従 ひ て 生 ず る を 、 名 け て 染 分 と 為 す 。 清 浄 依 他 と 言 ふ は 、 無 漏 功 徳 の 聞熏習 の 種子 に 依 りて 生 ずるを 、 名 けて 浄分 と 為 す 。 ⋮ 中 略 ⋮ ③ 三 に 真 実 性 は 、 真 実 の 体 性 も 亦 た 二 種 有 り 。 一 に は 有 為 、 二 に は 無 為 な り 。 有 為 と 言 ふ は 道 及 び 聖 教 二 に は 成 自 性 と 名 く 。 ⋮ 中 略 ⋮ 皆 是 れ 真 体 に し て 、 破 壊 す べ か ら ざ る を 、 成 自 性 と 名 く 。 c 三 に は 第 一 義 性 と 名 く 。 ⋮ 中 略 ⋮ 斯 れ 乃 ち 名 を 成 ず る に 、 義 に 約 し て 以 て 其 の 号 を 挙 ぐ 。 第一義 とは 、 形対 して 目 を 立 つなり 。 ここでは 、①分別性 が ﹁ 分別性 ﹂﹁ 妄想自性 ﹂﹁ 思惟分別 ︹ 相 ︺﹂ の 三名 に 分 けて 解釈 されている 。 また 、 ②依他性 は ﹁ 依他性 ﹂ と ﹁ 縁 起 自 性 ﹂ の 二 名 が あ げ ら れ 、 心 識 説 の 観 点 か ら 説 明 さ れ て い る 。﹁ 依 他 性 ﹂ は 現 行 が 種 子 に 熏 じ 、 種 子 が 現 行 を 生 じ る こ と 、﹁ 縁 起 自 性 ﹂ は 諸 識 が 現 行 を 生 起 す る こ と で あ る という 。 さらに 、③真実性 が ﹁ 真実 ︹ 性 ︺﹂﹁ 成自性 ﹂﹁ 第一義性 ﹂ の 三 名 に 分 け て 解 釈 さ れ る 。 そ の う ち ﹁ 真 実 性 ﹂ の 理 体 不 変 の 説 明 に は ﹁ 有 垢 ・ 無 垢 の 二 の 無 所 有 の 、 破 壊 す べ か ら ざ る を 、 真 実 性 と 名 く ﹂ と あ る が 、 こ れ は 分 別 性 の 無 相 と 依 他 性 の 無 生 が 真 実 性 で あ る と い う 考 え ︵ 境 識 倶 泯 説 ︶ に 基 づ く 解 釈 で あ る 。 そ の 論 証 と し て ﹃ 無 相 論 ﹄ の ﹁ 真 実 性 は 、 謂 く 法 の 如 如 な り ﹂ と い う 一 節 を 引 用 す る と こ ろ に 、 道 基 の 独 自 性 がみられる 。 次 に 、﹁ 第 二 体 性 ﹂ で は 、 三 性 の 体 性 が 有 為 ・ 無 為 、 染 ・ 浄 の 観点 から 解説 されている 。 ① 分 別 性 者 体 性 有 二 。 一 者 妄 塵 、 二 者 妄 心 。 言 妄 塵 者 六 塵 境 界 。 従 彼 妄 心 似 塵 而 起 。 体 無 所 有 顕 現 似 塵 。 即 説 此 塵 為 分 別 性 。 ⋮ 中 略 ⋮ ② 二 弁 依 他 。 総 而 説 之 、 但 有 為 色
摂論学派の三性三無性説︵吉村︶ 四 〇 な り 。 道 は 二 智 の 具 に 生 ず る を 謂 ひ 、 教 は 無 等 の 聖 教 を 謂 ふ 。 無 為 と 言 ふ は 、 有 垢 ・ 無 垢 の 二 種 の 真 如 な り 。 ⋮ 中 略 ⋮ 真 実 性 の 中 の 根 ・ 塵 ・ 識 は 、 是 れ 仏 菩 薩 の 報 身 功 徳 に し て 、 陰 界 ・ 入 法 の 二 智 の 種 子 あ り て 生 ず 。 又 是 れ 法 界 の 流 る る 所 に し て 、 実 に は 無 倒 な る を 証 す 。 譬 へ ば 真 金 の 両 等 に 住 む を 称 す る が 如 し 。 ④ 此 の 中 に 説 く 所 の 種 の 十 八 界 、 前 の 一 は 凡 夫 の 境 界 に し て 、 後 の 二 は 聖 智 の 境 界 な り 。 復 た 次 に 、 前 の 一 は 染 分 、 第 二 は 二 分 、 第 三 は 唯浄 なり 。 こ こ で は 三 性 の 体 性 が 、 ① 分 別 性 は ﹁ 妄 塵 ﹂ と ﹁ 妄 心 ﹂、 ②依他性 は ﹁ 有為色心 ﹂、 ③真実性 は ﹁ 有為 ︵ 道 ・ 聖教 ︶﹂ ﹁ 無 為 ︵ 有 垢 ・ 無 垢 二 種 真 如 ︶﹂ で あ る と 説 明 さ れ て い る 。 注 目 す べ き は 、 依 他 性 が さ ら に ﹁ 染 濁 ﹂ と ﹁ 清 浄 ﹂ に 二 分 し て 説 明 さ れ て い る と こ ろ で あ る 。 依 他 性 に 染 分 と 浄 分 が あ り 、 分 別 性 ︵ 染 ︶ と 真 実 性 ︵ 浄 ︶ を 媒 介 す る と い う 考 え は 、 ④ で 三 性 が ﹁ 前 の 一 は 染 分 、 第 二 は 二 分 、 第 三 は 唯 浄 ﹂ と 説 明 さ れ て い る と こ ろ に も 表 れ て い る 。 ま た 、 ④ で 分 別 性 が ﹁ 凡 夫 の 境 界 ﹂ で あ る の に 対 し 、 依 他 性 と 真 実 性 は ﹁ 聖 智 の 境 界 ﹂ で あ る と 説 明 さ れ る の も 、 依 他 性 の ﹁ 浄 ﹂ と 関 わ る 側 面 が 考 え ら れ て の こ と で あ ろ う 。 こ れ ら の 解 釈 は 、 依 他 性 が 分 別 性 と 真 実 性 の 双 方 と 関 係 を 持 つ と い う 考 え ︵ 二 分 依 他 説 ︶ に 支 え ら れ て い る 。 こ れ を 種 子 説 と 連 関 さ せ 、﹁ 業 煩 悩 熏 習 種 子 ﹂ が 染 分 を 生 じ 、﹁ 聞 熏 習 種 子 ﹂ が 浄 分 を 生 じ る と 説 明 す る と ころは 、 道基独自 の 解釈 であろ う ︵ 9 ︶ 。 さ ら に 、 真 実 性 を ﹁ 有 為 ﹂ と ﹁ 無 為 ﹂ に 二 分 し て い る と こ ろ に も 、 道 基 の 工 夫 が あ る よ う に 思 わ れ る 。﹁ 有 為 ﹂ は ﹁ 道 及 び 聖教 ﹂ であると 説明 されているが 、修行者 は ﹁ 聖教 ﹂ の ﹁ 聞 熏 習 ﹂ に よ っ て ﹁ 道 ﹂ を 得 る の で あ る か ら 、 こ れ は 依 他 性 と 連 絡 し て い る こ と に な る 。 ま た 、﹁ 無 為 ﹂ は ﹁ 有 垢 ・ 無 垢 の 二種真如 ﹂ であると 説明 されており 、 仏菩薩 の 悟 りの 智慧 と 、 衆生済度 のための 智慧 との 二種 が 考 えられている 。 ここでは 、 ﹁ 聖 智 の 境 界 ﹂ で あ る 真 実 性 と ﹁ 凡 夫 の 境 界 ﹂ で あ る 分 別 性 との 連絡 が 意図 されているようである 。 こ の よ う に 、 道 基 は 三 性 に 区 別 を 立 て る 一 方 で 、 三 者 を そ れ ぞ れ に 関 連 づ け る 緻 密 な 議 論 を 展 開 し て い た 。 そ の 解 釈 に は 、 三 性 説 に よ っ て ﹃ 摂 大 乗 論 ﹄ の 所 説 を 整 合 し よ う と す る 態度 が 窺 える 。 2、 三性同一説 道 基 が 三 性 説 を 分 析 的 に 解 釈 し た 背 景 に は 、 当 時 行 な わ れ ていた 三性 を 同一視 する 説 への 批判 があった 。 有 法 師 言 、 三 性 法 体 具 無 寛 狭 。 分 別 性 体 通 摂 有 為 及 与 無 為 。 依 他 真 実 亦 復 如 是 。 此 義 不 然 。 妄 心 妄 境 可 是 分 別 。 二 - -空 真 如 、 体 是 無 為 不 可 変 異 。 云 何 亦 説 是 分 別 性 。 設 復
摂論学派の三性三無性説︵吉村︶ 四 一 経 論 、 彼 無 為 為 分 別 性 、 蓋 是 変 異 之 無 為 、 非 真 理 之 無 為 也 。 有 為 諸 法 従 因 縁 所 生 、 是 依 他 。 二-- --空 無 為 、 体 是 常 住 非因縁生 。 云何乃説是依他性 ︵ 10︶ 。 有 る 法 師 言 く 、 三 性 の 法 体 は 具 に 寛 狭 無 し 。 分 別 性 の 体 は 有 為 及 び 無 為 と を 通 摂 す 。 依 他 ・ 真 実 も 亦 た 復 た 是 く の 如 しと 。 此 の 義然 らず 。 妄心 ・ 妄境 は 是 を 分別 すべし 。 二 空 真 如 は 、 体 は 是 れ 無 為 に し て 変 異 す べ か ら ず 。 云 何 が 亦 た 是 れ を 分 別 性 と 説 か ん や 。 設 し 復 た 経 論 の 、 彼 の 無 為 を 分 別 性 と 為 す は 、 蓋 し 是 れ 変 異 の 無 為 に し て 、 真 理 の 無 為 に 非 ざ る な り 。 有 為 の 諸 法 は 因 縁 よ り 生 ず る 所 に し て 、 是 れ 依 他 な り 。 二 空 無 為 は 、 体 は 是 れ 常 住 に し て 因縁 の 生 に 非 ず 。 云何 が 乃 ち 是 を 依他性 と 説 くや 。 こ こ で 道 基 は 、 あ る 法 師 の ﹁ 三 性 の 法 体 は 無 限 定 な も の で あ り 、 そ れ ぞ れ が 有 為 ・ 無 為 に 通 じ て い る ﹂ と い う 説 を あ げ た 上 で 、 こ れ を 明 確 に 否 定 し て い る 。 先 ず 、 依 他 性 ︵ 染 分 ︶ で あ る 妄 心 と 、 分 別 性 で あ る 妄 境 は 区 別 さ れ な け れ ば な ら な い 。 次 に 、 真 実 性 は 無 為 で あ り 変 異 し な い と い う 点 で 、 分 別 性 と 区 別 さ れ る 。 さ ら に 、 依 他 性 は 有 為 の 諸 法 を 因 縁 生 起 す る が 、 真 実 性 は 本 性 と し て 常 住 で あ り 因 縁 所 生 の も の で は な い 。 つ ま り 、 三 性 は そ れ ぞ れ 区 別 さ れ る べ き で あ る 、 と い う のが 道基 の 主張 である 。 文中 の ﹁ 二空真如 ﹂ と ﹁ 二空無為 ﹂ は 、 分別性 の 無相 と 依他性 の 無生 ︵ 二空 ︶ によって 真実性 ︵ 真如 、 無為 ︶ を 表現 したものであろう 。 こ の よ う な 批 判 が 存 在 す る と い う こ と は 、 隋 末 唐 初 の 摂 論 学 派 で 、 三 性 を 無 限 定 に 同 一 視 す る 解 釈 が 現 実 に 行 な わ れ て い た こ と を 意 味 し て い る 。 道 基 は こ の 解 釈 を 認 め ず に 、 三 性 に は あ く ま で も 区 別 が な け れ ば な ら な い と 考 え て い た の で あ る 。 道 基 が 批 判 し た 三 性 を 同 一 視 す る 説 は 、 そ の 根 拠 が 全 く な いというわけではなかった 。 この 説 の 典拠 と 思 われるものは 、 真諦訳 の ﹃ 転識論 ﹄ にある 次 の 一節 である 。 如 是 如 是 分 別 、 若 分 別 如 是 如 是 類 。 此 類 名 分 別 性 。 此 但 唯有名 、名所顕体実無 。 此所顕体実無 、此分別者因他起故 、 立 名 依 他 性 。 此 --前 後 両 性 未 曾 相 離 、 --即 是 真 実 性 。 若 相 離 者 、 唯識義不成 。 有境識異故 。 由不相離故 、 唯識無境界 。 無 境 界 故 、 識 亦 成 無 。 由 境 --無 識 無 故 、 立 唯 識 義 。 是 乃 成 立 。 是故 前-- --性於後性不一不異 ︵ 11︶ 。 ---如 是 に 如 是 に 分 別 す と は 、 分 別 し て 如 是 に 如 是 に す る が 若 き 類 な り 。 此 の 類 を 分 別 性 と 名 く 。 此 れ 但 唯 名 有 る の み に し て 、 名 の 顕 す 所 の 体 は 実 に は 無 し 。 此 の 顕 す 所 の 体 は 実 に は 無 し と は 、 此 の 分 別 は 他 に 因 り て 起 こ る が 故 に 、 依 他 性 と 名 く る を 立 つ 。 此 - -の 前 後 両 性 の 未 だ 曾 て 相 離-- --れ ざ る が 、 即-- --ち 是 れ 真 実 性 な り 。 若 し 相 離 る れ ば 、 唯 識 の 義 成 ぜ ず 。 境 ・ 識 の 異 有 る が 故 に 。 相 離 れ ざ る に 由