返還期を迎えた事業用定期借地権の実情と課題
土居 博輝
1. 借地権の種類
2. 事業用定期借地権付建物の評価方法 3. 再契約の状況、留意事項など
定期借地権制度は平成4年8月に施行され、なかでも、事業用定期借地権については、
ロードサイド商業店舗を中心に多く活用されており、法施行からおよそ20年を経過した ことから、期間満了を迎えるケースもみられるようになった。さらに、事業用定期借地権 については平成20年1月の法改正により借地権の存続期間が大幅に見直された。
そこで、事業用定期借地権について、法制度、評価方法、留意事項などを検証する。
1.借地権の種類
借地権は法定更新が認められる旧借地権・普通借地権、法定更新制度がない定期借地 権等に大別され、定期借地権は一般定期借地権(借地借家法第22条)、建物譲渡特約付 借地権(同法第24条)、事業用定期借地権(同法第23条)に細分される。
定期借地権とは、目的や借地存続期間の制限等を満たせば、借地人にとって不利な以 下の特約を有効とした借地契約をいい、特約とは
① 契約の更新をしない
② 建物再築による期間の延長をしない
③ 法13条の規定による建物の買取りの請求をしない
であり、これらを公正証書などの書面で契約することで成立する。
事業用定期借地権については、平成20年の法改正までは存続期間が10年以上20年 以下と定められていたものが、法改正により存続期間が30年以上50年未満(法23条 第1項)と、10年以上30年未満(法23条第2項)の2つのタイプに分けられた。
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2.事業用定期借地権付建物の評価方法
事業用定期借地権が設定された不動産の価格評価は、主に事業用定期借地権付建物と 事業用定期借地権が付着した底地とに分けられる。ここでは前者の評価方法について検 証を行うものとする。
事業用定期借地権付建物(建物は貸家)の収益価格を評価する場合、当該借地期間中 の賃料収入(ネットキャッシュフロー)の現在価値の合計から、契約期間満了時におけ る復帰価格の現在価値を加減して求める。事業用定期借地権は既述の通り契約更新を前 提としていないことから、期間満了時における復帰価格は、当該時点における建物解体 費の現在価値、つまりマイナスの経済価値を指すことが一般的である。
一方、再契約を前提とした場合、当初借地期間満了時における復帰価格は再契約後の 借地権付建物としての収益価格の現在価値、つまりプラスの経済価値を指すこととなる。
事業用定期借地権等の法施行以前は普通借地権しかなく、地主による正当事由のない 更新拒絶を認めていなかったため、地主には「土地は一度貸したら戻ってこない」とい うイメージが定着し、結果として借地の円滑な供給を妨げる大きな要因となっていた。
これを解消するため、定期借地権の法施行に当たっては、土地を貸しても「更地で返還 される」という点を強調する必要があった。
また、定期借地権設定当時はバブル経済崩壊後とはいえ、土地価格は更地としての価
■ 借地権の種類
一般定期 借地権
建物譲渡特約 付借地権
改正前 事業用借地権
利用目的 制限なし 制限なし 制限なし 制限なし 事業専用建物の
所有目的に限定
存続期間
堅固建物:30年以上 非堅固建物:20年以上
(当事者による期間の定めが 無い場合は、堅固建物60年、
非堅固建物30年)
30年以上 50年以上 30年以上 10年以上
20年以下
10年以上 30年未満
30年以上 50年未満
契約更新 終了に関する
特約は無効
終了に関する 特約は無効
更新排除の 特約が必要
建物譲渡により
借地権は消滅 なし なし 更新排除の
特約が必要
再築による
期間延長 〃 〃 期間延長しない
旨の特約が必要 〃 なし なし 期間延長しない
旨の特約が必要
更新後 の期間
堅固建物:30年以上 非堅固建物:20年以上
1回目:20年
2回目以降:10年 なし なし なし なし なし
建物買取
請求権 あり あり 買取請求排除
特約が必要 あり なし なし 買取請求排除
特約が必要
設定方式 規定なし 規定なし 書面による 規定なし 公正証書
による
公正証書 による
公正証書 による
終了事由
正当事由 期間満了前の
建物朽廃
正当事由 期間満了 建物譲渡 期間満了 期間満了 期間満了
定期借地権
改正後 事業用定期借地権
事業専用建物の 所有目的に限定 普通
旧借地権 借地権
格が重視される傾向にあったため、「更地で返還される」という点は地主にとって大き な魅力であった。
このような理由もあり、事業用定期借地権等の定期借地権は、原則、契約更新を前提 としない法制度となった。
このように、定期借地権制度は、地主に配慮して契約更新を前提としない制度となっ たが、地主が望むのであれば再契約を否定する法制度ではない点に留意する必要がある。
さらに、当時の時代背景と異なり、現在では更地価格が最も高い土地価格を意味する とは必ずしも限らない。特に昨今の不動産価格の判断基準としては収益性が重視される 傾向にあることから、期間満了後も継続して借地関係を続けることが地主及び借地人双 方にとって最良の選択であるならば、再契約を選択する方がむしろ自然な考え方である。
不動産評価の実務上は、事業用定期借地権付建物の評価に当たって、当初期間満了後 の再契約を前提として評価を行う場合、つまり「想定上の評価条件の設定」を行う場合 は、3つの要件(実現性、合法性、関係当事者及び第三者の利害を害する恐れがないか 等)を満たす必要がある。しかしながら、事業用定期借地権付建物の評価は再契約の有 無により大きく価格が異なることとなるため、再契約の可能性については実務上難しい 判断が要求されることとなる。
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※上図は、「定期借地権及び継続賃料にかかる評価のあり方に関する検討業務」
調査報告書(平成 24 年、(公社)日本不動産鑑定士協会連合会が国土交通省よ り受託)をもとに筆者が一部加筆して作成したものである。
■ 再契約を前提としない場合の事業用定期借地権付建物の収益価格
建物 解体 費
建物解体費の割引率 純収益の現在
価値の合計
建物解体費の 現在価値
価格時点
cash cash cash cash cash
事業用定期借地契約期間 契約期中に借地権付建物から得られる
キャッシュフローの割引率
+
-
■ 再契約を前提とした場合の事業用定期借地権の収益価格
再契約後の 収益価格 現在価値
再契約後の借地権付建物から 求められる収益価格割引率
再契約後の 収益価格
cash cash cash
当初契約に係る 純収益の現在
価値の合計
契約期中に借地権付建物から得られる キャッシュフローの割引率
価格時点
当初契約に係る 事業用定期借地契約期間
再契約に係る 事業用定期借地契約期間
+
再契約を前提とするか否かにより不動 産価格は大きく異なる場合がある
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.再契約の状況、留意事項など
前述のように事業用定期借地権は法施行から 20 年以上が経過しており、期間満了を 迎えた不動産や期間満了が近づいた不動産が多く存在する。また、事業用定期借地権は 当初ロードサイドのコンビニ、スーパー、ガソリンスタンド等の比較的小規模で建築コ ストの掛からない店舗を中心に活用された。その後、アウトレットモール等の大規模商 業施設や物流施設、さらには医療・福祉・介護施設でも事業用定期借地権は活用される ようになった。特にこれら事業用定期借地権が付着した底地は、投資対象としてJ-REIT やプライベートファンド等によって積極的に取引されている。
事業用定期借地権の期間満了後の利用状況については、詳細な統計調査は行われてい ないが、実務精通者からのヒアリングや一部公表資料等によると、必ずしも期間満了時 に建物を取り壊し更地にした上で地主に返還するとは限らないのが実情のようである。
立地条件や建物構造・規模等にもよるが、一般にはロードサイドのコンビニやスーパー 等の比較的簡易な店舗の場合、建物を取り壊し更地返還するケースが多いようである。
一方、最近では契約満了物件や中途解約物件に出店を狙ったレストランや百円ショッ プのテナント出店も増えており、貸主は新たなテナントニーズを、貸主は契約満了時又 は減価償却が終わった建物を安く借りることで、貸主、借主双方にメリットがみられる。
以上を踏まえ、事業用定期借地権について主に留意すべき点として以下が挙げられる。
① 借地期間満了時における再契約の可能性
借地期間満了時に再契約を前提とした価格を求める場合、前述の通り鑑定評価では 想定上の条件設定に関する3つの要件を満たす必要があり、具体的には再契約を約定 した予約契約の締結等が必要と考えられる。
再契約を前提とした場合、借地権付建物の価値は大きく上昇するが、一方、当該借 地の付着した底地は価値が大きく減少するため、これらの判断は慎重に行うべきであ る。
② 契約期間中の中途解約のリスク
昨今の激しいテナントの出店競争、さらに、借地期間が 20~30 年超といった長期 に渡る点等を考慮すると、テナント如何によっては借地期間中の事業デフォルト等に よる中途解約リスクも十分考えられる。このような場合、退去リスクの分析や解約後 の借地権又は借地権付建物の価格をどのように判断するのか、等といった難しい判断 が要求される。
③ 契約残存期間が短くなってきた場合の価格
定期借地権は残存期間が短くなるにつれて価値が低減するため、契約残存期間が例 えば1年や2年といった短い場合、再契約を前提としない場合は、有償での取引が成
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立しない、つまり経済価値がゼロとなる可能性が高い。
④ オペレーショナルアセットの地代・価格
ここ数年、ロードサイド型店舗等について、地域の標準的使用と異なる用途の高収 益の店舗が出店し、周辺相場を大きく超過する地代を支払っているケースが多くみら れる。特に、ホテル、商業施設等といったいわゆるオペレーショナルアセットではこ の傾向が顕著である。
このようなオペレーショナルアセットは、場所的限定性によりピンポイントで高い地 代水準が形成されることがある一方で、同様の競合相手が近くに立地した場合には大 きく価値が毀損する可能性がある。
このような高い地代水準を実現するテナントを前提とした借地権付建物の地代や 価格については、将来的な地代や家賃の減額リスク、テナント入替リスク等を考慮す る必要がある。
以 上