九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
心理学・教育学・社会学分野の研究倫理の現状 : 不 正行為及び調査対象者の権利に着目して
坂巻, 文彩
九州大学大学院人間環境学府
木村, 拓也
九州大学大学院人間環境学研究院
https://doi.org/10.15017/4372201
出版情報:九州大学教育社会学研究集録. 21, pp.15-28, 2021-03-15. 九州大学大学院人間環境学府教育 計画・測定評価論研究室
バージョン:
権利関係:
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心理学・教育学・社会学分野の研究倫理の現状
-不正行為及び調査対象者の権利に着目して
Current Situation of Research Ethics Model in the Field of Psychology, Pedagogy, and Sociology-Focus on Research Misconduct and Survey Respondents’ Right
坂巻 文彩 木村 拓也
1.研究の背景
近年、研究不正が社会的な問題となり、科学への信頼が損なわれかねない状況が生じて いる。例えば、2014 年に、理化学研究所のグループによる「STAP細胞」論文の捏造(朝 日新聞 2014)、2020年に、大阪大学を退職した医師による肺がん研究論文の捏造と改ざん
(朝日新聞 2020)等が、社会的に大きく取上げられた。このような研究不正が誘発されや すい原因として、研究現場を取り巻く現状(競争の激化と性急な成果主義、研究者の任期 付任用の増加等)、研究組織、研究者の問題点(研究そのものに対する使命感の薄れ、不十 分な研究者倫理教育、研究組織での不十分な自浄作用等)等が挙げられる(科学技術・学 術審議会研究活動の不正行為に関する特別委員会 2006)(1)。
文部科学省では、ガイドラインを設定する等、研究不正に対する措置を講じてきた。例 えば、文部科学省は、2006 年に、「研究活動における不正行為対応ガイドライン(科学技 術・学術審議会研究活動の不正行為に関する特別委員会 2006)」を制定し、研究不正の防 止、研究不正が生じた場合の対応策等を講じ た。また、2014 年に、同ガイドラインを修正 し、大学等の研究機関が責任体制を確立する必要性(文部科学省 2014)を示している。
このような現状に対応すべく、各大学や各学会等も、研究倫理規範の整備を進めてきて いる。特に、研究者の研究成果の発表の場である学会では、研究倫理規定を設定しており、
倫理規程、倫理綱領、倫理宣言等、多様な形態が存在している。これらの研究倫理規定は、
専門分野の文脈に沿った内容であることが想定されるが、 各学会が、どのような行為を不 正行為として捉えているのか、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言間で規定内容に差異がある のかどうかは、明らかではない。
九州大学教育社会学研究集録 第 21 号 2020 年度
2.研究における不正行為と専門分野別の不正行為の特徴
研究者は、不正行為に該当しない研究を行わなければならない。では、どのような行為 が、研究での不正行為として捉えられているのか。科学技術・学術審議会研究活動の不正 行為に関する特別委員会(2006)は、研究における不正行為として、下記の 3つを挙げて いる。
1)捏造 (Fabrication):存在しないデータ、研究結果等を作成すること
2)改ざん(Falsification): 研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究
活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること
3)盗用(Plagiarism): 他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、
論文又は用語を、当該研究者の了解もしくは適切な表示なく流用すること
上記 3 つの研究における不正行為の発生率は、専門分野によって異なるという指摘が、
松澤(2013a、2013b)等にある。松澤(2013a、2013b)は、1977年~2012年 10 月 31日ま でに研究不正と判断された 114件の事案を対象とし、専門分野別に、研究不正行為の傾向 を比較検討している。その検討によると、 自然科学系分野では捏造・改ざん型が多いのに 対し、人文・社会科学系分野の場合、盗用型が多いという。
自然科学系分野の場合、実験を通じてデータを生産することが中心 であるため、その過 程 で 捏 造 ・ 改 ざ ん 型 の 不 正 等 が 発 生 する リ ス ク が 生 じ る こ と が 要 因 と し て ある ( 松 澤
2013a、2013b)。また、東北大学高度教養教育・学生支援機構(2017)が指摘するように、
自然科学系分野は、現象の因果関係を明らかにして、法則 化を目指すため、再現性が争点 になることも要因として考えられる。
人文・社会科学系分野の場合、研究方法として比較研究など他の文献を参照すること が 多く、引用の際にミスなどが発生しやすいこと や、実験データに基づく定量的な議論が難 しく、調査により得られた概念やアイディアを自らが考えたものと思い込んでしまう 可能
性(松澤2013a、2013b)が、要因として考えられる。
専門分野を問わず、科学技術・学術審議会研究活動の不正行為に関する特別委員会(2006) では、上記 3つの場合を不正行為と捉えているが、二重投稿、サラミ出版、不適切なオー サーシップ等不正行為に準ずる行為も、不正行為に含めるべきか否かについては、議論が あり、学会等によっても、見解が分かれている(2)。東北大学高度教養教育・学生支援機構
(2015)が実施した学会・日本学術会議連携会員等を対象とした調査によると、学会は、
不正行為に関して、明確なスタンスをとることに消極的、日本学術会議連携会員は 、不正 行為の範囲を拡大して考える傾向にあるという。
2.研究における不正行為と専門分野別の不正行為の特徴
研究者は、不正行為に該当しない研究を行わなければならない。では、どのような行為 が、研究での不正行為として捉えられているのか。科学技術・学術審議会研究活動の不正 行為に関する特別委員会(2006)は、研究における不正行為として、下記の 3つを挙げて いる。
1)捏造 (Fabrication):存在しないデータ、研究結果等を作成すること
2)改ざん(Falsification): 研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究
活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること
3)盗用(Plagiarism): 他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、
論文又は用語を、当該研究者の了解もしくは適切な表示なく流用すること
上記 3 つの研究における不正行為の発生率は、専門分野によって異なるという指摘が、
松澤(2013a、2013b)等にある。松澤(2013a、2013b)は、1977年~2012年10 月 31日ま でに研究不正と判断された 114件の事案を対象とし、専門分野別に、研究不正行為の傾向 を比較検討している。その検討によると、 自然科学系分野では捏造・改ざん型が多いのに 対し、人文・社会科学系分野の場合、盗用型が多いという。
自然科学系分野の場合、実験を通じてデータを生産することが中心 であるため、その過 程 で 捏 造 ・ 改 ざ ん 型 の 不 正 等 が 発 生 する リ ス ク が 生 じ る こ と が 要 因 と し て ある ( 松 澤
2013a、2013b)。また、東北大学高度教養教育・学生支援機構(2017)が指摘するように、
自然科学系分野は、現象の因果関係を明らかにして、法則 化を目指すため、再現性が争点 になることも要因として考えられる。
人文・社会科学系分野の場合、研究方法として比較研究など他の文献を参照すること が 多く、引用の際にミスなどが発生しやすいこと や、実験データに基づく定量的な議論が難 しく、調査により得られた概念やアイディアを自らが考えたものと思い込んでしまう 可能
性(松澤 2013a、2013b)が、要因として考えられる。
専門分野を問わず、科学技術・学術審議会研究活動の不正行為に関する特別委員会(2006) では、上記 3つの場合を不正行為と捉えているが、二重投稿、サラミ出版、不適切なオー サーシップ等不正行為に準ずる行為も、不正行為に含めるべきか否かについては、議論が あり、学会等によっても、見解が分かれている(2)。東北大学高度教養教育・学生支援機構
(2015)が実施した学会・日本学術会議連携会員等を対象とした調査によると、学会は、
不正行為に関して、明確なスタンスをとることに消極的、日本学術会議連携会員は 、不正 行為の範囲を拡大して考える傾向にあるという。
3.人文・社会科学系分野の学会の研究倫理規定に関する先行研究
先述のように、自然科学系分野の研究倫理に注目が集まっている。人文・社会科学系 分野の研究倫理についても、松澤(2013a、2013b)が検討しているように、近年、着目さ れつつある。例えば、人文・社会科学系分野の学会で規定している倫理規程、倫理綱領、
倫理宣言の区分について示した検討や、研究倫理の設定状況や研究倫理の特徴に関する研 究等が挙げられる。
前者の文献として、日本教育社会学会ワークグループ(2001)、長谷川(2007)等が、
ある。日本教育社会学会ワークグループ(2001)は、研究倫理規定の段階として、3段 階、あることを示している。3段階とは、①倫理規程のレベル:研究活動を遂行する上で の具体的な行動基準を「規定」として定めるレベル 、②倫理綱領のレベル:当該研究分野 についての一般的な倫理を、「綱領」として定めるレベル 、③倫理宣言のレベル:当該の 研究分野を超えた抽象的・普遍的な倫理を提示し、それを“尊重すること”を学会として 宣言するレベル、である。同様に、長谷川(2007)も、研究倫理規定には、具体的な行動 指針としての「倫理規程」、職業倫理のミニマム的なものを定めた「倫理綱領」、抽象的・
理念的な「倫理宣言」の3段階があることを示している。
後者に関する研究として、田代(2014)、東北大学高度教養教育・学生支援機構
(2017)、眞嶋・奥田・河野(2015)等がある。田代(2014)(3)によると、人文・社 会科学系分野では、1991 年に、日本心理学会が倫理綱領を制定したのが嚆矢であり、
2000年代以降、国が研究倫理を政策上の課題として取上げるようになって以来、 多くの 学会が研究倫理問題に取組むようになったという。 また、様々な学会で倫理綱領の策定と 倫理委員会の設立が進められ、その過程で研究対象者の人権や福祉の確保についても論じ られていると示している。
東北大学高度教養教育・学生支援機構(2017)では、代表的な人文・社会科学系分野 の学会(23学会)の研究倫理綱領等の設定状況について検討し、 心理学、文化人類学、
教育学、社会学のような個人を対象に調査を行う分野では、研究倫理規定の策定が進展し ているが、心理学・教育学分野では、倫理綱領の内容が、一般的理念的であり、人権を守 る枠組みが明確ではないと指摘している。さらに、人文・社会科学分野の研究倫理につい て検討した眞嶋・奥田・河野(2015)も、調査対象者である個人は、究極的には、目標を 達成するための手段とならざるを得ず、他人の利益のために何らかのリスクや負担を背負 う可能性があると示している。
先行研究では、日本教育社会学会等は、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言を区分して使用 していることや、人文・社会科学系分野でも研究倫理規定の策定 を推進し、研究対象者の 人権の保護の必要性があることを示している。もっとも、各学会の倫理規程、倫理綱領、
倫理宣言では、どのような行為を不正行為として捉えているのか、調査対象者の権利の保
護について規定しているのか、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言間に差異があるのかどうか 明らかではない。人文・社会科学系分野の中でも、特に、心理学・教育学・社会学分野で は、個人の内面や行動といったプライバシー関わる問題、ジェンダー等のアイデンティテ ィに関わる問題を取り扱い、アンケート調査、インタビュー調査等の社会調査を行うた め、研究倫理が重要であるものと思われる。
4.本研究の課題設定
4.1. 本研究での検討事項
本研究の目的は、心理学・教育学・社会学分野の学会の 倫理規程、倫理綱領、倫理宣言 間で、不正行為、調査対象者の権利の規定状況に差異があるかどうかを検討することであ る。この検討を通じて、心理学・教育学・社会学分野 の倫理規程、倫理綱領、倫理宣言で 規定されている不正行為、調査対象者の権利 保護の現状を把握する。
具体的には、心理学・教育学・社会学分野の学会の研究倫理では、①どのような行為 を不正行為として捉えているのか、科学技術・学術審議会研究活動の不正行為に関する特 別委員会(2006)同様に、捏造、改ざん、盗用を不正行為と理解しているのかどうか、② 調査対象者個人を保護する規定があるのかどうか、について検討する。①②の検討を通じ て、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言の比較を行う。
本研究で行うような検討が、今後、各学会や各大学等で研究倫理規定を策定する際 に、示唆を与えることに繋がると思われる。
4.2. 本研究での分析対象
本研究で対象となる心理学・教育学・社会学分野の学会と は、2020 年9月の時点で、
「学会名鑑(日本学術会議、日本学術協力財団、科学技術振興機構が連携して実施するデ ータベース)」に登録された心理・教育学・社会学分野の学会534団体である。本研究で 倫理規程、倫理綱領、倫理宣言を制定しているというのは、ウェブ上で公開している場合 を指す。
「学会名鑑」に登録された心理・教育学・社会学分野の学会の倫理規程、倫理綱領、
倫理宣言の制定状況は、表 1の通りである。すなわち、「学会名鑑」に登録された心理・
教育学・社会学分野の学会のうち、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言のいずれかを制定して いる学会は、21.0%(112団体)であった。もっとも制定が多い倫理綱領でも 14.0%(75 団体)であり、倫理規程は 6.0%(32団体)、倫理宣言は 5.6%(30団体)と、制定して いる学会は少数である。これ以外にも、研究倫理に関する課題を対処する手続き等につい て制定している学会や、倫理規定委員会規程 (2.4%)、倫理問題処理手続き規程
(0.7%)等を制定している学会もあった。
護について規定しているのか、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言間に差異があるのかどうか 明らかではない。人文・社会科学系分野の中でも、特に、心理学・教育学・社会学分野で は、個人の内面や行動といったプライバシー関わる問題、ジェンダー等のアイデンティテ ィに関わる問題を取り扱い、アンケート調査、インタビュー調査等の社会調査を行うた め、研究倫理が重要であるものと思われる。
4.本研究の課題設定
4.1. 本研究での検討事項
本研究の目的は、心理学・教育学・社会学分野の学会の 倫理規程、倫理綱領、倫理宣言 間で、不正行為、調査対象者の権利の規定状況に差異があるかどうかを検討することであ る。この検討を通じて、心理学・教育学・社会学分野 の倫理規程、倫理綱領、倫理宣言で 規定されている不正行為、調査対象者の権利 保護の現状を把握する。
具体的には、心理学・教育学・社会学分野の学会の研究倫理では、①どのような行為 を不正行為として捉えているのか、科学技術・学術審議会研究活動の不正行為に関する特 別委員会(2006)同様に、捏造、改ざん、盗用を不正行為と理解しているのかどうか、② 調査対象者個人を保護する規定があるのかどうか、について検討する。①②の検討を通じ て、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言の比較を行う。
本研究で行うような検討が、今後、各学会や各大学等で研究倫理規定を策定する際 に、示唆を与えることに繋がると思われる。
4.2. 本研究での分析対象
本研究で対象となる心理学・教育学・社会学分野の学会と は、2020年9月の時点で、
「学会名鑑(日本学術会議、日本学術協力財団、科学技術振興機構が連携して実施するデ ータベース)」に登録された心理・教育学・社会学分野の学会534団体である。本研究で 倫理規程、倫理綱領、倫理宣言を制定しているというのは、ウェブ上で公開している場合 を指す。
「学会名鑑」に登録された心理・教育学・社会学分野の学会の倫理規程、倫理綱領、
倫理宣言の制定状況は、表 1の通りである。すなわち、「学会名鑑」に登録された心理・
教育学・社会学分野の学会のうち、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言のいずれかを制定して いる学会は、21.0%(112 団体)であった。もっとも制定が多い倫理綱領でも14.0%(75 団体)であり、倫理規程は 6.0%(32団体)、倫理宣言は5.6%(30団体)と、制定して いる学会は少数である。これ以外にも、研究倫理に関する課題を対処する手続き等につい て制定している学会や、倫理規定委員会規程 (2.4%)、倫理問題処理手続き規程
(0.7%)等を制定している学会もあった。
本研究では、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言(4)のいずれかを制定している学会 112団 体を対象に検討を進める。
表 1 心理・教育学、社会学分野の学会の倫理規程、
倫理綱領、倫理宣言の制定状況(N=534)
さらに、この研究の対象である学会 112 団体の倫理規程、倫理綱領、倫理宣言の制定状 況も示す。結果は、表 2 の通りであり、51.8%の学会が、倫理綱領のみを制定している。
倫理規程、倫理綱領、倫理宣言全てを制定している学会は、3.6%にすぎない。
表2 心理・教育学、社会学分野の学会の倫理規程、
倫理綱領、倫理宣言の制定状況(N=112)
4.3. 本研究での分析事項
本研究では、研究対象である学会 112団体の倫理規程、倫理綱領、倫理宣言間で、不正 行為及び調査対象者の権利保護に関する制定状況の比較を行う。すなわち、倫理規程、倫 理綱領、倫理宣言では、不正行為及び調査対象者の権利について規定しているかどうか検 討する。
不正行為に関して、関連する事項として、 不正行為に準ずる行為、研究のマネジメン トも存在する。そこで、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言上での 捏造、改ざん/偽造、剽窃/ 盗用/盗作、二重投稿、サラミ出版、オーサーシップ 、研究費、差別、利益相反行為、倫 理委員会に関する規定の有無について検討する。
調査対象者の権利保護については、プラバシー/人権尊重、同意/インフォームド・コン セント、守秘義務/秘密保持/匿名等の規定の有無について検討する。心理学・教育学・社 会学分野でも、プライバシーに対して配慮する必要性は、研究領域によって異なることが 想定される。そこで、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言では、 具体的に、調査対象の権利保 護に関して、どのように、規定しているのかを例示する。
以上の分析事項を設定するにあたって、東北大学高度教養教育・学生支援機構
倫理綱領 倫理規程 倫理宣言 左記のいず
れかを制定
14.0 6.0 5.6 21.0
(単位%)
(2017、2018)等を参考にした。
5.検討結果
5.1. 不正行為、研究実施に関連する事項の記載状況
少数でありながら、心理・教育学、社会学分野の学会が倫理規程、倫理綱領、倫理宣 言を制定している。では、心理・教育学、社会学分野の学会が有する倫理規程、倫理綱 領、倫理宣言には、不正行為について規定があり、 倫理規程、倫理綱領、倫理宣言間で規 定状況に違いがあるのだろうか。学会で制定した倫理規程、倫理綱領、倫理宣言に、捏 造、改ざん/偽造、窃盗/盗用/盗作といった不正行為のほか、二重投稿、サラミ出版、(不 適切な)オーサーシップ、研究費、差別、利益相反、倫理委員会といった 不正行為に準ず る行為、研究実施に関連する用語が記載されているかどうかについて検討する。結果は、
表3の通りである。
不正行為については、剽窃/盗用/盗作に関して、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言全て で、記載率が 50.0%を超えている。また、剽窃/盗用/盗作よりも記載率が低い捏造、改ざ ん/偽造であっても、不正行為に準ずる行為である二重投稿 (倫理宣言を除く)、サラミ出 版、(不適切な)オーサーシップの記載率と比較すると、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言 で記載されている傾向にある。剽窃/盗用/盗作、捏造、改ざん/偽造に関して、倫理規程、
倫理綱領、倫理宣言間の記載率の差は、10.0 ポイント程度である。
研究実施に関連する事項に関して、倫理委員会については、倫理規程で、記載が、も っとも多く(53.1%)、倫理綱領、倫理宣言よりも、20.0%ポイント、記載率が高い
(5)(6)(7)。
表3 倫理規程、倫理綱領、倫理宣言での不正行為、研究実施に関連する事項の記載状況
捏造 改ざん /偽造
剽窃/盗用
/盗作 二重投稿 サラミ出版 オーサー
シップ 研究費 差別 利益相反 委員会倫理 倫理規程
(N=32) 46.9 50.0 53.1 28.1 0.0 18.8 21.9 46.9 21.9 53.1 倫理綱領
(N=75) 41.3 52.0 56.0 28.0 0.0 28.0 21.3 34.7 13.3 30.7 倫理宣言
(N=30) 36.7 43.3 60.0 36.7 3.3 30.0 23.3 46.7 13.3 23.3
(単位:%) 注)捏造、改ざん/偽造、剽窃/盗用/盗作のいずれかの記載状況:倫理規程53.1%、倫理綱領61.3%、倫理宣言63.3%
(2017、2018)等を参考にした。
5.検討結果
5.1. 不正行為、研究実施に関連する事項の記載状況
少数でありながら、心理・教育学、社会学分野の学会が倫理規程、倫理綱領、倫理宣 言を制定している。では、心理・教育学、社会学分野の学会が有する倫理規程、倫理綱 領、倫理宣言には、不正行為について規定があり、 倫理規程、倫理綱領、倫理宣言間で規 定状況に違いがあるのだろうか。学会で制定した倫理規程、倫理綱領、倫理宣言に、捏 造、改ざん/偽造、窃盗/盗用/盗作といった不正行為のほか、二重投稿、サラミ出版、(不 適切な)オーサーシップ、研究費、差別、利益相反、倫理委員会といった 不正行為に準ず る行為、研究実施に関連する用語が記載されているかどうかについて検討する。結果は、
表 3の通りである。
不正行為については、剽窃/盗用/盗作に関して、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言全て で、記載率が 50.0%を超えている。また、剽窃/盗用/盗作よりも記載率が低い捏造、改ざ ん/偽造であっても、不正行為に準ずる行為である二重投稿 (倫理宣言を除く)、サラミ出 版、(不適切な)オーサーシップの記載率と比較すると、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言 で記載されている傾向にある。剽窃/盗用/盗作、捏造、改ざん/偽造に関して、倫理規程、
倫理綱領、倫理宣言間の記載率の差は、10.0 ポイント程度である。
研究実施に関連する事項に関して、倫理委員会については、倫理規程で、記載が、も っとも多く(53.1%)、倫理綱領、倫理宣言よりも、20.0%ポイント、記載率が高い
(5)(6)(7)。
表 3 倫理規程、倫理綱領、倫理宣言での不正行為、研究実施に関連する事項の記載状況
捏造 改ざん /偽造
剽窃/盗用
/盗作 二重投稿 サラミ出版 オーサー
シップ 研究費 差別 利益相反 委員会倫理 倫理規程
(N=32) 46.9 50.0 53.1 28.1 0.0 18.8 21.9 46.9 21.9 53.1 倫理綱領
(N=75) 41.3 52.0 56.0 28.0 0.0 28.0 21.3 34.7 13.3 30.7 倫理宣言
(N=30) 36.7 43.3 60.0 36.7 3.3 30.0 23.3 46.7 13.3 23.3
(単位:%) 注)捏造、改ざん/偽造、剽窃/盗用/盗作のいずれかの記載状況:倫理規程53.1%、倫理綱領61.3%、倫理宣言63.3%
5.2. 調査対象者の権利の保護に関する事項の記載状況と具体的な記載例
近年、調査対象者の権利の保護が重要視されている。では、倫理規程、倫理綱領、倫理 宣言では、調査対象者の権利の保護に関して規定があり、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言 の間で規定状況に違いがあるのだろうか。調査対象者の人権、調査者と調査対象者の信頼 関係の観点から、プライバシー/人権尊重、同意/インフォームド・コンセント、守秘義務/ 秘密保持という用語が、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言に記載されているかについて検討 する(保存/保管/管理については、紙幅の関係上、記載のみ)。さらに、倫理綱領を中心 に、具体的に、調査対象者の権利保護に関して、どのように、規定されているのか 、例示 する。
以下、プライバシー/人権尊重、同意/インフォームド・コンセント、守秘義務/秘密保持 ごとに、検討する(表 4参照)。
(1)プライバシー/人権尊重(8)
表 4の通り、プライバシー/人権尊重については、倫理綱領が制定されている場合、全 ての学会で記載がある。また、倫理規程が制定されている場合、62.5%、倫理宣言が制定 されている場合、76.5%の学会が、プライバシー/人権尊重について記載している。
倫理規程と倫理綱領の記載率の差は、約 40.0ポイントと大きい。
では、プライバシー/人権尊重について、具体的に、どのように規定されているのだろ うか。まず、日本教育学会(2009)、日本社会学会(2005)の倫理綱領をみてみよう。
第 5条 一般社団法人日本教育学会会員は、情報提供者(ないしその保護責任者)の人格 とプライバシーに配慮し、これらの人々の名誉や社会的地位を損なうことがあってはな らない。(日本教育学会(2009)の倫理綱領)
第 1条2項 会員は、その業務の遂行に際しては、対象者の人権尊重を第一義と心得て、 人的、組織的及び政治的な目的のためにこれを行ってはならない。(日本心理臨床学会
(2016)の倫理綱領)
第3条 社会調査を実施するにあたって、また社会調査に関する教育を行うにあたって、
会員は、調査対象者のプライバシーの保護と人権の尊重に最大限留意しなければならな い。(日本社会学会(2005)の倫理綱領)
上記のいずれの学会の倫理綱領においても、調査を実施するにあたって、調査対象者の プライバシーや人 権を考慮す る必要性 を示している。倫 理規程でも 、日本教 育社会学会
(2019)が、第 1条にて、「日本教育社会学会および会員は、基本的人権を尊重し、人間の
幸福および社会の福祉への貢献を目指して、研究、教育その他社会活動に努めなければな らない。」、第 3条2項にて、「会員は、研究活動において知り得た情報を不当に利用しては ならず、また、とりわけ調査対象者のプライバシーの保護および基本的人権の尊重に最大 限努めなければならない。」と規定している。倫理宣言については省略するが、上記の例か らも、学会で、調査対象者のプライバシーや人権の尊重が重要視されつつある現状 が分か る。
(2)同意/インフォームド・コンセント
同意/インフォームド・コンセントに関する研究倫理規定での記載状況は、表 4の通りで ある。倫理規程が制定されている場合、40.6%、倫理綱領が制定されている場合、58.7%、
倫理宣言が制定されている場合、80.0%の学会が、同意/インフォームド・コンセントにつ いて記載している。倫理規程と倫理宣言の記載率の差は、約 40.0ポイントと、大きい。
同意/インフォームド・コンセントの記載率は、倫理 宣言が最も高いが、記載数は、倫理 綱領が、もっとも多いため、倫理綱領を中心に、どのような記載があるか みてみよう。
まず、日本教育学会(2009)、日本心理学会(2012)、日本犯罪社会学会(2016)の倫理 綱領である。
第 4条 一般社団法人日本教育学会会員は、情報提供者を得て研究を行う場合には、あ らかじめ当該者(ないしその保護責任者)に対して、研究目的、研究内容などを十分に 説明し、同意・了解を得ることが必要である。(日本教育学会(2009)の倫理綱領)
3.説明と同意 本学会の会員は、心理学にかかわる活動を行うとき、協力者に対してそ の活動について十分な説明を行い、原則として文書で同意を得なければならない。協力 者から研究内容について十分な理解と了解(インフォームド・コンセント)が得ること が困難な場合には、協力者の代理人(近親者等)の判断と同意を得なければならない。
(日本心理学会(2012)の倫理綱領)
第 3条 調査研究を実施するに際して、会員は、当該調査の一切に関する説明責任を負 うとともに、調査対象者から協力の合意を得た上で、調査対象者のプライバシーの保護 と人権の尊重に最大限留意しなければならない。
第 9条 (省略)個人情報の公表について調査対象者の承諾を得ている場合には、その 旨を明記した上で、承諾を得た範囲に限定して公表しなければならない。
(日本犯罪社会学会(2016)の倫理綱領)
調査対象者のプライバシーや人権尊重の観点から、学会では、調査対象者 等の同意が求
幸福および社会の福祉への貢献を目指して、研究、教育その他社会活動に努めなければな らない。」、第 3条2項にて、「会員は、研究活動において知り得た情報を不当に利用しては ならず、また、とりわけ調査対象者のプライバシーの保護および基本的人権の尊重に最大 限努めなければならない。」と規定している。倫理宣言については省略するが、上記の例か らも、学会で、調査対象者のプライバシーや人権の尊重が重要視されつつある現状 が分か る。
(2)同意/インフォームド・コンセント
同意/インフォームド・コンセントに関する研究倫理規定での記載状況は、表 4の通りで ある。倫理規程が制定されている場合、40.6%、倫理綱領が制定されている場合、58.7%、
倫理宣言が制定されている場合、80.0%の学会が、同意/インフォームド・コンセントにつ いて記載している。倫理規程と倫理宣言の記載率の差は、約 40.0ポイントと、大きい。
同意/インフォームド・コンセントの記載率は、倫理 宣言が最も高いが、記載数は、倫理 綱領が、もっとも多いため、倫理綱領を中心に、どのような記載があるか みてみよう。
まず、日本教育学会(2009)、日本心理学会(2012)、日本犯罪社会学会(2016)の倫理 綱領である。
第 4条 一般社団法人日本教育学会会員は、情報提供者を得て研究を行う場合には、あ らかじめ当該者(ないしその保護責任者)に対して、研究目的、研究内容などを十分に 説明し、同意・了解を得ることが必要である。(日本教育学会(2009)の倫理綱領)
3.説明と同意 本学会の会員は、心理学にかかわる活動を行うとき、協力者に対してそ の活動について十分な説明を行い、原則として文書で同意を得なければならない。協力 者から研究内容について十分な理解と了解(インフォームド・コンセント)が得ること が困難な場合には、協力者の代理人(近親者等)の判断と同意を得なければならない。
(日本心理学会(2012)の倫理綱領)
第 3条 調査研究を実施するに際して、会員は、当該調査の一切に関する説明責任を負 うとともに、調査対象者から協力の合意を得た上で、調査対象者のプライバシーの保護 と人権の尊重に最大限留意しなければならない。
第 9条 (省略)個人情報の公表について調査対象者の承諾を得ている場合には、その 旨を明記した上で、承諾を得た範囲に限定して公表しなければならない。
(日本犯罪社会学会(2016)の倫理綱領)
調査対象者のプライバシーや人権尊重の観点から、学会では、調査対象者 等の同意が求
められていると思われるが、同意の条件は、日本教育学会(2009)のように、調査対象者 等の同意があれば良い場合や、日本心理学会 (2012)のように、文書での調査対象者の同 意が求められる場合など、多様である。
倫理規定でも、日本教育社会学会(2019)の倫理規程の第 3条3項で、「会員は、研究に あたっては、別に定める例外によらないかぎり、その目的、過程全般、成果の公表方法、
終了後の対応等をあらかじめ調査対象者・その保護者等に対して十分に説明し、調査対象 者あるいはその保護者等から調査に対する同意を得なければならない。」という規定があ る。
他にも、日本特殊教育学会(2018)の倫理規程2-1-4 で、「会員は、実験研究、調査・面 接研究、実践研究を行うに当たり、研究協力者および必要に応じては代諾者に対し、研究 の目的・方法、予想される苦痛、研究成果の公表、研究期間終了後の対応について十分な 説明を行うとともに、研究への同意を文書により得なければならない。」という規定があ る。倫理綱領同様に、同意の条件は、調査対象者等の同意があれば良い場合や、文書で調 査対象者等の同意が求められる場合など、多様である。なお、先述した倫理綱領、倫理規 程に共通することであるが、調査者は、調査対象者に対して調査内容を説明する責任があ るとしながらも、リスクの危険性等に関する説明義務の記載は少ない。
(3)守秘義務/秘密保持/匿名
守秘義務/秘密保持/匿名に関する研究倫理規定での記載状況は、表 4の通りである。
倫理綱領、倫理宣言が制定されている場合、60.0%以上、倫理規程が制定されている場合で
も、50.0%以上の学会が、守秘義務/秘密保持/匿名について記載している。この状況を、プ
ライバシー/人権尊重、同意/インフォームド・コンセントの規定状況と比較すると、倫理規 程、倫理綱領、倫理宣言間での記載率の差は 10.0ポイント程度で小さい注(9)。
さらに、守秘義務/秘密保持についても、具体的にどのような規定があるかみてみよう。
まず、日本教育学会(2009)、日本心理学会(2012)の倫理綱領についてである。
第 6条 一般社団法人日本教育学会会員は、研究によって得られた情報の管理に留意し、
その機密性を保持しなければならない。(日本教育学会(2009)の倫理綱領)
4.守秘義務
(省略)また、研究・教育・実践活動から得られた情報については、他者に漏らさない よう厳重に保管・管理しなければならないと同時に、原則として目的以外に使用しては ならない。(日本心理学会(2012)の倫理綱領)
日本教育学会(2009)、日本心理学会(2012)ともに、調査者の義務として、情報管理の
必要性とともに、守秘義務/秘密保持の義務が規定されている。
日本高等教育学会(2012)の倫理規程の中でも、「3.活動領域における倫理」の「(3) 実践活動」の中で、「業務上知り得た秘密について、守秘義務をまもること。」という規定 がある。倫理綱領、倫理規程ともに、調査者の義務として、守秘義務/秘密保持が定められ ているものと思われる。
表 4 調査対象者の権利の保護に関連する用語の記載状況
6.結論
本研究では、心理学・教育学・社会学分野の倫理規程、倫理綱領、倫理宣言で規定さ れている不正行為、調査対象者の権利の保護の現状を把握した。
主に、明らかになった点として、3点挙げられる。
第一に、心理学・教育学・社会学分野の学会 では、政策側と不正行為の捉え方で類似 性が高い。剽窃/盗用/盗作に関して、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言全てで、記載率が 50.0%を超えていた。剽窃/盗用/盗作よりも記載率が低い捏造、改ざん/偽造であっても、
不正行為に準ずる行為である二重投稿(倫理宣言を除く)、サラミ出版、オーサーシップ と比較すると、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言での記載率が高い傾向にあった。このこと から、心理学・教育学・社会学分野の学会は、 科学技術・学術審議会 研究活動の不正行 為に関する特別委員会(2006)と同様に、捏造、改ざん、盗用を不正行為として捉えてい る可能性がある。
第二に、心理学・教育学・社会学分野の学会は、 調査対象者の権利保護への指向が強 いようである。プライバシー/人権尊重について、不正行為と比較すると、 倫理規程、倫 理綱領、倫理宣言で、比較的、記載率が高い傾向にあった。 特に、学会が倫理綱領を有し ている場合、プライバシー/人権尊重について規定していた。さらに、同意/インフォーム ド・コンセントに関して、学会によって、同意の条件に差異が見受けられた。日本心理学 会(2012)や日本特殊教育学会(2018)のように、特に、調査対象者の権利保護に対して 配慮が求められている場合、調査対象者の同意の条件が厳格となる可能性がある。 また、
日本心理学会(2012)、日本犯罪社会学会(2016)のように、調査者は、調査対象者に対
プライバシー /人権尊重
同意/イン フォームド・
コンセント
守秘義務 /秘密保持
/匿名
保存/保管 /管理 倫理規程
(N=32) 62.5 40.6 53.1 37.5 倫理綱領
(N=75) 100.0 58.7 64.0 62.7 倫理宣言
(N=30) 76.7 80.0 60.0 73.3
(単位:%)
必要性とともに、守秘義務/秘密保持の義務が規定されている。
日本高等教育学会(2012)の倫理規程の中でも、「3.活動領域における倫理」の「(3) 実践活動」の中で、「業務上知り得た秘密について、守秘義務をまもること。」という規定 がある。倫理綱領、倫理規程ともに、調査者の義務として、守秘義務/秘密保持が定められ ているものと思われる。
表 4 調査対象者の権利の保護に関連する用語の記載状況
6.結論
本研究では、心理学・教育学・社会学分野の倫理規程、倫理綱領、倫理宣言で規定さ れている不正行為、調査対象者の権利の保護の現状を把握した。
主に、明らかになった点として、3点挙げられる。
第一に、心理学・教育学・社会学分野の学会 では、政策側と不正行為の捉え方で類似 性が高い。剽窃/盗用/盗作に関して、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言全てで、記載率が 50.0%を超えていた。剽窃/盗用/盗作よりも記載率が低い捏造、改ざん/偽造であっても、
不正行為に準ずる行為である二重投稿(倫理宣言を除く)、サラミ出版、オーサーシップ と比較すると、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言での記載率が高い傾向にあった。このこと から、心理学・教育学・社会学分野の学会は、 科学技術・学術審議会 研究活動の不正行 為に関する特別委員会(2006)と同様に、捏造、改ざん、盗用を不正行為として捉えてい る可能性がある。
第二に、心理学・教育学・社会学分野の学会は、 調査対象者の権利保護への指向が強 いようである。プライバシー/人権尊重について、不正行為と比較すると、 倫理規程、倫 理綱領、倫理宣言で、比較的、記載率が高い傾向にあった。 特に、学会が倫理綱領を有し ている場合、プライバシー/人権尊重について規定していた。さらに、同意/インフォーム ド・コンセントに関して、学会によって、同意の条件に差異が見受けられた。日本心理学 会(2012)や日本特殊教育学会(2018)のように、特に、調査対象者の権利保護に対して 配慮が求められている場合、調査対象者の同意の条件が厳格となる可能性がある。 また、
日本心理学会(2012)、日本犯罪社会学会(2016)のように、調査者は、調査対象者に対
プライバシー /人権尊重
同意/イン フォームド・
コンセント
守秘義務 /秘密保持
/匿名
保存/保管 /管理 倫理規程
(N=32) 62.5 40.6 53.1 37.5 倫理綱領
(N=75) 100.0 58.7 64.0 62.7 倫理宣言
(N=30) 76.7 80.0 60.0 73.3
(単位:%)
して調査内容を説明する責任があるとしながらも、リスクの危険性等の 説明義務の記載は 多くはない。東北大学高度教養教育・学生支援機構(2017)が指摘するように、人権を守 る枠組みが明確ではないようである。
第三に、心理学・教育学・社会学分野の学会では、 倫理規程が倫理綱領、倫理宣言と 異なる趣旨を有している可能性がある。倫理委員会について、倫理規程で、もっとも、記 載が多く、倫理綱領、倫理宣言の記載率より、20.0 ポイント以上も高い。また、倫理規 程は、同意/インフォームド・コンセントに関する記載率 が、40.0%と、特に低い。不正 行為に関しては、倫理規程、倫理綱領、倫理宣言間での記載率の差は、10.0 ポイント程 度であった。
以上の結果から、心理学・教育学・社会学分野の学会の倫理規程、倫理綱領、倫理宣言 間で規定状況に差異があるかどうかは、不正行為については不明瞭であるが、調査対象者 の権利については、差異がある可能性がある。
今後の課題であるが、本研究では、心理学・教育学・社会学分野の学会が 有する倫理 規程、倫理綱領、倫理宣言の区分(具体的な規定内容、文言の差異等)や調査対象者の権 利をどの程度、保護しているのか明らかになっていない。また、医学分野等他分野との比 較を行っていないため、心理学・教育学・社会学分野の研究倫理の特徴が 不明瞭である。
今後、このような課題について検討していきたい。
<注>
(1)日本の研究不正ルールの成立過程と研究不正事件については、小林(2014)で、検討 している。
(2) 九州大学(2015a)では、捏造・改ざん、盗用が不正行為として規定されている。
九州大学(2015b)では、「不適切なオーサーシップ」「二重投稿」も不正行為となり得る。
(3)田代(2014)は、特に、心理学で研究倫理の研究が蓄積されている理由として、人文 社会科学分野のなかでも最も国際化が進んでおり、倫理審査を求める海外の学術誌等の影 響を受けやすいこと、医学系研究との距離の近さ、実験研究を行うこと等を挙げている。
(4)倫理宣言には、倫理指針、倫理基準、ガイドライン等も含む。
(5)学会の HP 上で、倫理委員会の委員長、委員の選出条件を規定している学会として、
22団体の情報を収集した(倫理規程、倫理綱領、倫理宣言のほか、倫理委員会規定や倫理 問題の処理手続の規定も含む)。 倫理委員会の委員長・倫理委員の選出条件は、表5の通 りである。委員長は、理事会等で互選される場合が、半数近くを占め、倫理委員について は、倫理委員は、理事のみに限定する場合は、3団体のみであった。
表5 倫理委員会の委員長・倫理委員の選出条件
(6)(5)同様に、学会のHP上で、倫理委員の任期について規定している学会として、
19団体の情報を収集した。倫理委員は、全ての団体で任期があり、再任可能である場合 が、14 団体あった(表6)。
表 6 倫理委員会の委員の条件
(7)(5) (6)同様に、学会のHP上で、倫理委員会の審議条件について規定している 学会として、12団体の情報を収集した(表7)。倫理委員会の定数については、多様であ るほか、倫理委員会の成立条件については、出席委員の3分の 2以上という場合が、8団 体あったほか、倫理委員会の採決の条件を定める場合もあった。また、倫理委員会の審議 結果の理事会の承認が必要であるという学会は、11団体あり、そのうち 6団体が理事会 の承認条件を定めていた。また、迅速な審議や倫理委員会の中の下部組織として、調査委 員会を設置している場合もあった。
表 7 倫理委員会の審議条件
理事長または 代表理事が指名
理事会等で互選
(または推薦、理 事の互選)
倫理委員会
で互選 常任理事 委員は理事のみ 委員は理事を 含む
委員は、会員
であればよい 協力員の導入
8 10 3 1 3 8 8 8
委員長の選出条件 倫理委員の選出条件
*1団体のみ、編集委員会で審査する場合があった
委員任期あり 再任可能 再任回数の制限
19 14 6
2年:8 3年:10 4年:1
倫理委員会の定数 委員会の成立条件 倫理委員会の採決 の条件
倫理委員会の審議 結果の理事会の承 認条件
迅速な審議 調査委員会の設置
12 12 12 11 9 9
1名+若干名:1 2名+若干名:1 3名:2 4名+若干名:2 5名:2 6名:2 7名(以内):2
出席委員3分の2以 上:8
出席委員の過半数 /2分の1以上:4
*上記の条件の他、
委員長または副委 員長の出席や法律・
生命倫理または人 文・社会科学の専門 家または一般の立 場を代表とすると考 えられる者の参加も 含む場合もあり
出席委員の過半数 /2分の1以上:4 出席委員3分の2以 上
:3
出席委員の5分の4:
4
多数決による:1
11団体のうち、6団 体のみ記載 出席理事3分の2以 上:2
理事3分の2以上:3 評議員会で、評議員 3分の2以上:1
→厳重注意処分の 場合、理事会の3分 の2以上
3ヶ月以内:6 2ヶ月以内:1 6ヶ月以内:1
*迅速審査制度の設 置:1
表5 倫理委員会の委員長・倫理委員の選出条件
(6)(5)同様に、学会のHP上で、倫理委員の任期について規定している学会として、
19団体の情報を収集した。倫理委員は、全ての団体で任期があり、再任可能である場合 が、14 団体あった(表6)。
表 6 倫理委員会の委員の条件
(7)(5) (6)同様に、学会のHP上で、倫理委員会の審議条件について規定している 学会として、12団体の情報を収集した(表7)。倫理委員会の定数については、多様であ るほか、倫理委員会の成立条件については、出席委員の 3分の2以上という場合が、8団 体あったほか、倫理委員会の採決の条件を定める場合もあった。また、倫理委員会の審議 結果の理事会の承認が必要であるという学会は、11団体あり、そのうち 6団体が理事会 の承認条件を定めていた。また、迅速な審議や倫理委員会の中の下部組織として、調査委 員会を設置している場合もあった。
表 7 倫理委員会の審議条件
理事長または 代表理事が指名
理事会等で互選
(または推薦、理 事の互選)
倫理委員会
で互選 常任理事 委員は理事のみ 委員は理事を 含む
委員は、会員
であればよい 協力員の導入
8 10 3 1 3 8 8 8
委員長の選出条件 倫理委員の選出条件
*1団体のみ、編集委員会で審査する場合があった
委員任期あり 再任可能 再任回数の制限
19 14 6
2年:8 3年:10 4年:1
倫理委員会の定数 委員会の成立条件 倫理委員会の採決 の条件
倫理委員会の審議 結果の理事会の承 認条件
迅速な審議 調査委員会の設置
12 12 12 11 9 9
1名+若干名:1 2名+若干名:1 3名:2 4名+若干名:2 5名:2 6名:2 7名(以内):2
出席委員3分の2以 上:8
出席委員の過半数 /2分の1以上:4
*上記の条件の他、
委員長または副委 員長の出席や法律・
生命倫理または人 文・社会科学の専門 家または一般の立 場を代表とすると考 えられる者の参加も 含む場合もあり
出席委員の過半数 /2分の1以上:4 出席委員3分の2以 上
:3
出席委員の5分の4:
4
多数決による:1
11団体のうち、6団 体のみ記載 出席理事3分の2以 上:2
理事3分の2以上:3 評議員会で、評議員 3分の2以上:1
→厳重注意処分の 場合、理事会の3分 の2以上
3ヶ月以内:6 2ヶ月以内:1 6ヶ月以内:1
*迅速審査制度の設 置:1
(8)プライバシー/人権尊重についは、「人権への配慮」「人権を(の)尊重」「自己決定の 尊重」等も含む。
(9) 日本社会学会倫理綱領にもとづく研究指針(日本社会学会 2006)では、「(2)匿名性 への配慮」で、「プライバシー保護のために、個人名や地域名を匿名化する必要がある場合 があります。」とある。
<参考文献>
朝日新聞,2014,「万能性示す画像『捏造』小保方氏の不正認定、別の画像も改ざん STAP 論文、理研最終報告(2014 年4月1日付)」)
朝日新聞,2020,「肺がん巡る論文、捏造 臨床研究の安全性根拠 阪大退職の医師(2020 年 8月 19日付)」)
科学技術・学術審議会 研究活動の不正行為に関する特別委員会,2006,「研究活動におけ る不正行為対応ガイドライン」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu12/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2013/05 /07/1213547_001.pdf(最終確認日:2020 年11月20日)
長谷川公一,2007,「社会調査と倫理:日本社会学会の対応と今後の課題」『先端社会研究』
第 6号,pp.189-212
小林信一,2014,「我々は研究不正を適切に扱っているのだろうか(上)―研究不正規律の 反省的検証―」『レファレンス』,No.764,pp.25-45
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https://www.kyushu-u.ac.jp/f/1462/2009syuki014.pdf(最終確認日:2020 年11月20日)
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慶應義塾大学出版会
松沢孝明,2013a,「わが国における研究不正 公開情報に基づくマクロ分析(1)」『情報管 理』vol.56 no.3,pp.156-165
松沢孝明,2013b,「わが国における研究不正 公開情報に基づくマクロ分析(2)」『情報管 理』vol.56 no.4,pp.222-235
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https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/__icsFiles/afieldfile/2014/08/26/1351568_02_1.
pdf (最終確認日:2020年 11月 20日)
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(最終確認日:2020年11月20日)
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http://www.gakkai.ne.jp/jaher/about/ethicalcode.php(最終確認日:2020年11月 20日)
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http://www.gakkai.ne.jp/jses/rules/ethicalcode.php(最終確認日:2020年 11月 20日)
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https://jss-sociology.org/about/ethicalcodes/ (最終確認日:2020年11月20日)
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https://jss-sociology.org/about/researchpolicy/(最終確認日:2020 年11月20日)
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日本心理臨床学会,2016,「倫理綱領」
https://www.ajcp.info/pdf/rules/0501_rules.pdf (最終確認日:2020年11月20 日)
日本特殊教育学会,2018,「一般社団法人日本特殊教育学会倫理規定」
https://www.jase.jp/about/pdf/rinri_rule.pdf (最終確認日:2020年11月20日)
田代志門,2014,「研究規制政策のなかの社会調査-『研究者自治』から『行政指導』へ?
-」『社会と調査』,第12 号,pp.5-12
東北大学高度教養教育・学生支援機構,2015,『研究倫理の確立を目指して』東北大学出版 会
東北大学高度教養教育・学生支援機構,2017,『責任ある研究のための発表倫理を考える』
東北大学出版会
東北大学高度教養教育・学生支援機構,2018,『研究倫理マネジメントの手引き』東北大学 出版会
<注記> 本研究は、2020 年度人間環境学研究院教育学系研究プロジェクト「研究倫理を 踏まえた社会調査教育の開発研究」(代表者:木村拓也)の研究成果の一部である。