農中総研 調査と情報
2010.9 (第20号)
● 農林水産業 ●
現地に見る水田利活用の状況 化学肥料原料の資源問題と食料安全保障 豪州農家にみる干ばつ対策としての土作り
―不耕起と微生物肥料―● 農漁協・森組 ●
2008 年度の JA 経営の概要
● 経済・金融 ●
電子マネーの動向と今後の展開
中国農業銀行の株式上場と不良債権問題
グリーン・イノベーションの背景にあるもの
―風車、太陽電池の台頭する時代―(東京大学大学院工学系研究科 特任研究員 井上智弘)
行政等と連携した婚活支援の取組み
―島根県雲南市の JA 雲南―きめ細やかに力強く、金融ニーズに対応する遠州中央農協
―山間部での移動金融店舗車の取組み―みかんとレモンの島の Y ショップ
―JA 広島ゆたかの店舗活性化策―当社の定期刊行物に掲載された論文を紹介するコーナー
有機農業へのこだわり
(こだわりの百姓 森井克幸)
本誌において個人名による掲載文のうち意見にわたる部分は,筆者の個人見解である。
■ あぜみち ■
2 4 6
8
10 12
14
16
22 18
24 20
■ レポート ■
■ 現地ルポルタージュ ■
■ 最近の調査研究から ■
■ 寄 稿 ■
1 はじめに
2007 年度からスタートした、自民党農政に よる構造改革路線であった水田・畑作経営所 得安定対策 (以下「経営安定対策」) の実施に ともなって、補助の対象規模から抜け落ちた 農家が小麦二毛作を激減させた地域がある。
一方で、米政策改革によって 04 年に始まっ た、各地域の裁量を組み込んだ産地づくり交 付金が、民主党農政の「水田利活用自給力向 上事業」 (以下「水田利活用事業」 ) において全 国一律の交付単価 (麦は3.5万円/10a) を採 用したことによって従来の体系の変更を余儀 なくされ、農商工連携に水をさされた地域も ある。
筆者は10年6月に、小麦転作の実態を把握 するため、北関東A農協と東北B農協管内の 事例を調査したので、その概況を報告したい。
2 北関東A農協管内a市
北関東A農協は、北関東中部に位置するa市 を管内地域としている。管内の総農家数は 3,000 、うち販売農家数 1,500 、平均耕地面積 1.15ha 、麦類作付経営体数 401 、麦類作付面積 700ha 、二毛作農家 400 戸・ 500ha と、二毛作 による麦作が盛んな地帯である ( 2005 年セン サス) 。
小麦作付面積・農家は、 01 年からの「水田 農業経営確立対策 (麦・大豆の本作化) 」によ る転作奨励金の拡大もあって、 02 年ごろから 急増した。 06 年度には 270ha ・ 220 〜 230 戸だ ったが、 07 年度には経営安定対策への移行に
よって補助の対象外となった農家が生産を中 断したことから 100ha 減少して 170ha ・ 60 戸に 縮小した。
当地の麦作はほとんどが二毛作によるもの で、耕作主体は高齢者が多かったこともあり、
小麦に戸別所得補償制度が適用になったとし て も 、 作 付 面 積 が 回 復 す る の は 3 割 程 度
( 33ha ・ 50 戸) と予想されている。なお、麦作 期間だけ農地を貸す期間借地が増えつつあ り、当地における農地流動化のパターンとし て定着する方向にある。
ここで重要なのは、 06 年度の平均小麦作付 面積 1.2ha が、経営安定対策による「構造改革」
によって 07 年度には 2.8ha へ 2.3 倍に拡大したも のの、a市全体の小麦作付面積が 270ha から
170ha へ4割弱も減少したことである。兼業
農家を含めた多様な担い手を認めて政策的補 助の対象を広く設定しないと、少なくとも短 期的には、個々の農家の作付規模は拡大して も作付面積全体 (生産力) が減少する場合が あるということである。
a市では、市内を流れる一級河川の北側で 米・麦・大豆のブロックローテーションが行 われているが、南側の平坦湿田は大豆生産に 適さず、米の生産調整は一般的に「調整水 田+後作の麦作」で行われてきた。しかし、
調整水田は水田利活用事業の助成対象から外 れることとなった (米所得補償モデル事業では、
生産調整(転作カウント)の経過措置として認 められる。 ) 。
このため、当地では、 10 年度からの転作作
〈レポート〉農林水産業
現地に見る水田利活用の状況
主席研究員 藤野信之
物として新規需要米 (米粉、飼料用米) の作付 けが増加し、 200ha 強 (前年比4倍) に達する 見込みである。内訳は、米粉用米が7割、飼 料米が3割で、いずれも隣接市にある地場製 粉企業の工場と中堅製粉企業の地場工場、お よび農協系統飼料工場へ全農経由で販売され る。また、転作作物として加工用米を選択す る者も多い。これは、経営安定対策対象者が 麦・大豆から新規需要米に転換する場合は、
固定払い (緑ゲタ) を辞退しなければならな いからである。
小麦の販売先は、従来から市内にある製粉 企業である甲製粉であったが、 02 年にイワイ ノダイチ (品種名) が普及したころからは、ほ ぼ全量が甲製粉に販売されている (全農経由) 。 甲製粉では、地産地消や食農連携、農商工連 携が唱えられ始めたころから地場産小麦を原 料とした小麦粉をブランド開発し、現在では イワイノダイチ (うどん用粉) 、麦のかほり
(同) 、タマイズミ (中華めん・パン粉用) を県 産小麦粉 (地粉) として製造・販売している。
食農連携や農商工連携は、販売が完結して始 めて成り立つものであり、加工原料生産の安 定性は加工・販売企業の販売力に依存してい る。この点で、a市における小麦生産は甲製 粉の立地と販売力に恵まれているといえる。
3 東北B農協管内旧b町
東北B農協は、東北地方南東部に位置する 旧b町を管内地域として含んでいる。旧b町 の総農家数は800、うち販売農家数700、平均 耕地面積 2.48ha 、麦類作付経営体数 52 、麦類
作付面積 400ha 、二毛作無しと、稲単作経営主
体の穀倉地帯となっている (2005年センサス) 。 町の合併は 06 年に行われたが、産地づくり
交付金の設計思想が異なっていることから2 つの水田農業推進協議会が並存している。こ れは、旧b町が産地づくり交付金の生産に対 する交付基準に「作物の出荷量に応じた助成 金」を設定していたことによる。
生産量に応じた助成金を設けたのは、捨作 りを防止し、数量・品質の向上インセンティ ブを与えるためのものであり、さらには県内 乙生協のめん・パン類への供給原料 (全農経 由) となる品種である「ゆきちから」への生 産振興を目的としたものであった。「ゆきち から」への助成単価は他品種の2倍に設定さ れていた。乙生協とは、生協の販売促進活動 を共同・一体的に行う関係にある。
「ゆきちから」は他品種に比べて赤カビ病に 弱く、他品種の作付面積が 250ha 程度なのに 対して 60ha 程度にとどまっている。農協への 出荷にともなって支払われる仮払金水準は県 内で一律のため、産地づくり交付金によるイ ンセンティブ付与が必要となっていた。
しかしながら、水田利活用事業の実施にと もない、この補助体系はほごにされた。
「ゆきちから」の生産と乙生協の関係は、農 商工連携の一類型であり、それを本気で進め るには地域の自主性が保障される政策が必要 であった (激変緩和だけでは救済されない。 ) 。
4 日本の水田農業政策のあり方への示唆 補助の対象を規模要件で切り捨てたり、地 域の自主性を切り捨て、農商工連携の推進に 逆行するこれらの政策は、いずれも自給力を そぐ政策である。生産者や現地は、最低限、
政権交代によってブレない農業政策を望んで いる。
(ふじの のぶゆき)
1 はじめに
2006 年末から 08 年半ばにかけて国際穀物価 格が高騰したが、 08 年からは穀物生産にとっ て不可欠な生産資材である化学肥料の原料の リン鉱石、カリ鉱石、尿素の国際価格が高騰 した。その結果、肥料原料の多くを輸入に依 存している日本の化学肥料価格も上昇し、現 在も高止まりしている状況が続いている。
肥料は食料生産にとって必要不可欠な生産 資材であり、近年の肥料価格上昇の背景を探 るとともに今後の見通しを考えてみたい。
2 「肥料」とは何か?
最初に、肥料の基本的知識を整理しておき たい。「肥料」とは植物が生育・成長するの に必要な栄養分のことであり、限られた農地 で継続的に一定量の作物を生産するために は、外部から栄養分 (=肥料) を投入する必 要がある。
その肥料の本質に関して19世紀に多くの論 争が行われたが、リービヒによって植物は栄 養素を無機物として吸収することが解明され
( 無機栄養説 ) 、その後、化学肥料が広く使用 されるようになっていった。
植物が生育・成長するためには様々な養分 が必要であるが、窒素 (N) 、リン (P) 、カリウ ム (K) 、カルシウム (Ca) 、マグネシウム (Mg) 、 鉄 (Fe) などの 16 の元素が必須元素とされてお り、植物はこれらを主に土壌中から摂取して いる。このうち外部から補給すべき養分とし て最も重要なのは、窒素 (N) 、リン (P) 、カリ ウム (K) であり、この3つが肥料の三要素と 呼ばれている。
3 化学肥料の製法とその原料
主な化学肥料 ( 窒素肥料、リン酸肥料、カリ 肥料 ) の合成方法とその原料は、以下の通りで ある。
(1) 窒素肥料
植物は土壌中の窒素成分をアンモニウムイ オン (NH4+) や硝酸イオン (NO3− ) として摂 取しており、窒素肥料は尿素、硫安、硝安等 として使用される。
人類は 1828 年に無機化合物からの尿素合成 に成功し、1909年には水素と窒素から直接ア ンモニアを合成すること ( ハーバー・ボッシュ 法) に成功した。コストを低減させるため、ア ンモニア合成に必要な水素は天然ガス、ナフ サから製造しており ( ガス法 ) 、合成したアン モニアから窒素肥料を製造している。
(2) リン酸肥料
リンは微量であるが海水中に存在し、動物 の糞尿にも含まれており、 19 世紀半ばには海 鳥の糞が堆積・固化したグアノがリン酸肥料 の主要原料であった。しかし、グアノが存在 するのは南米の一部の国や南洋の島に限られ ているため、 40 年ほどで資源が枯渇し、現在、
化学肥料としてのリンは主にリン鉱石に依存
〈レポート〉農林水産業
化学肥料原料の資源問題と食料安全保障
基礎研究部副部長 清水徹朗
資料 農林水産省「農業物価統計」
(注) 無機質肥料平均。
160
指数(05年=100)
140
03年 04 05 06 07 08 09 10
(1〜6月)97 98 100 103 107
149 136
第1図 化学肥料の価格動向
120 100 80 0
133
している。
リン酸肥料は、過リン酸石灰、リン安、熔
リン (リン鉱石と石灰、苦土等のアルカリ分の混
合物 ) として使用されており、これらはリン鉱 石の粉末を硫酸、アンモニア等と反応させて 製造している。
(3) カリ肥料
カリウムは海水中や土壌中に含まれている が (K
2O含有率は海水0.045%、土壌1.4%) 、化学 肥料原料としてのカリウムは9割以上が天然 のカリ鉱石 ( 成分は塩化カリウム KCl) に依存し ている。
カリ肥料は、主に塩化カリ、硫酸カリ、硝 酸カリとして使用されており、硫酸カリはカ リ鉱石と硫酸を反応させて製造される。
4 肥料原料の資源状況
(1) 窒素
窒素肥料に含まれる窒素成分そのものは空 気中の窒素由来であり、その点では資源制約 の問題はない。しかし、窒素肥料を製造する 過程で天然ガス、ナフサ等の化石燃料を使用 するため、窒素肥料のコスト、価格は化石燃 料の資源動向に強く影響される構造になって いる。
(2) リン鉱石
リン酸肥料の原料であるリン鉱石資源を有 する国は、中国、モロッコ、米国、ロシア、
ヨルダン、ベトナムなど一部の国に偏ってお り、リン鉱石の埋蔵量はモロッコ、中国の2 カ国で世界全体の6割を占め、 08 年の生産量 は、中国 (30 % ) 、米国 (19 % ) 、モロッコ (17 % ) の3
か国で全体の3分の2を占めている。特 に、輸出については、モロッコ1国のみで世 界全体の4割を占めている。
リン鉱石の埋蔵量は、現在の年間使用量の 90 年分があり、技術が向上すれば 280 年分の 採掘が可能であると試算されている ( 農林水産 省資料) 。したがって、リン鉱石の資源量自体 は、当面、枯渇する懸念はないが、リン鉱石 の資源国と輸出国が一部の国に偏在している
ため、これらの資源保有国が供給を制限する とリン鉱石価格が高騰するという構造にある。
(3) カリ鉱石
カリ鉱石も、リン鉱石と同様に一部の国に 資源が偏在しており、カナダのみで埋蔵量全 体の 53 %を占めている。 08 年の生産量は、カ ナダ (31 % ) 、ロシア (19 % ) 、ベラルーシ (14 % ) の3
か国で3分の2を占めており、その他の 生産国はドイツ (10 % ) 、イスラエル ( 7% ) 、 中国 ( 6% ) 、ヨルダン ( 3% ) である。
カリ鉱石の埋蔵量は、現在の年間使用量の 230 年分あるとの試算があり、当面、枯渇の 懸念はないが、一部の国に資源が偏在してい ることが問題である。
5 今後の見通しと課題
近年のバイオ燃料ブーム、新興国の食料需 要増大等により 08 年から化学肥料の資源問題 が急浮上し、今後、世界の人口増加が見込ま れるなかで化学肥料の需要量はさらに増大す ることが予想される。化学肥料の原料資源そ のものは、当面、枯渇する懸念はないが、今 後、世界的に肥料資源の争奪戦が激しくなる 可能性がある。
日本では米作付面積の減少等により化学肥 料の生産量、使用量は減少してきたが、日本 国内で安定的な食料生産を維持するためには 今後も化学肥料の安定供給は不可欠である。
日本は化学肥料原料を全面的に輸入に依存し ており、今後、化学肥料の世界的な需給動向 を把握するとともに、原料供給国との関係を 維持・強化していく必要があり、また肥料の 資源循環も考えていく必要があろう。
<参考文献>
・高橋英一(2004)『肥料になった鉱物の物語』研成社
・農林水産省(2010)「肥料原料の安定確保に関する論 点整理」
・(財)肥料経済研究所『季刊肥料時報』
(しみず てつろう)
1 はじめに
豪州の穀物生産はほとんどを天水農業によ っており、降水量が少ないため、土壌水分の 有効利用が大きな課題である。特に干ばつの 続く近年は、水効率の向上につながる土作り への関心が高まっている。以下では NSW 州に おける現地調査 (2009年12月) を元に、広く実 践されている畑の不耕起と、新技術である微 生物肥料の利用について紹介する。
2 不耕起
不耕起とは、作付け前の耕起を行わず、畑 に浅い溝を切ってそこに播種する栽培方法で あり、近年世界各地で利用が増えている。雑 草の防除は除草剤による。CSIRO ( 豪州連邦科 学産業研究機構 ) のサンプル調査 (08 年時点 ) に よれば、豪州各地の穀物産地全体における不 耕起の面積割合は推定71%であり、また不耕 起は燃料・労働コストの削減や、土壌の改善 と小麦単収の安定・増加につながる。
一つ目の調査地である州北東部のリヴァプ ール平原は、豪州としては肥沃な黒い土に恵 まれ、不耕起に適している。 50 年前までは羊 の放牧が中心であったが、やがて農業機械の 発達に伴い穀物を生産するようになった。現 在は平地で耕作 ( 小麦や大麦など ) 、丘陵地で 牛と羊の放牧が行われている。
M農場は農地面積4,735ha ( うち耕地 4,000ha 。 そ れ 以 外 は 放 牧 、 以 下 同 じ ) で 当 地 域 の 平 均 (3,000ha 程度 ) より大きい。
不耕起は 80 年代に導入し、 90 年代には完全
に不耕起へ転換した。また 03 年には農業機械 の「走行制御」を導入した。これは常に圃場 内の同じ箇所を走らせ (GPS で制御 ) 、土壌の 破壊を防ぐ技術である。いずれも同国内では 早期の採用であり、シドニー大学はこの農場 で不耕起による土壌の変化を研究した。
P 農場は農地面積 5,000ha ( 3分の2が耕地 ) で M 農場と同程度の規模である。保全農法の導 入は比較的早いがM農場よりは遅い ( 全作物不 耕起 02 年、走行制御 05 年 ) 。
両農場では、不耕起と走行制御により土壌 の構造を改善し、水の利用効率を高めている。
作物の切り株やミミズにより土壌の有機質が 増え、保水力が向上した結果、少ない雨量で 生産を確保できるようになった。
実際、 P 農場は単位雨量当たり収量のコン テストで優勝した。また 09 年は降雨量不足に もかかわらず、平年並み以上の収量となった。
20年前の生産技術では何も収穫できなかった であろうという。不耕起を続けた畑では土が 団粒構造となっており、土壌構造と環境活性 は今後さらに改善が見込まれる。
M 農場では、土壌の健全性と水分が事業の 基本であり、土壌水分が単収ひいては利益の カギであるという。輪作は土壌水分や作物の 特性と価格に応じて柔軟に見直すようにな り、休耕が減った。
P 農場では、麦の残渣
ざ ん さ
は畑に残して腐らせ るほか、畜産で利用する。さらに今後はわら と農場の牛糞尿で堆肥を作って畑に施す予定 であり、リン肥料の削減と土壌の改善を期待
〈レポート〉農林水産業
豪州農家にみる干ばつ対策としての土作り
―不耕起と微生物肥料―
主任研究員 平澤明彦
している。かつてわらを焼却処分していたの が信じられない、 40 〜 50 年前は土壌が豊かだ ったからそんなことができたのだという。
利点の多い不耕起にも課題はある。 M 農場 では強力な雑草や、除草剤耐性雑草が問題と なっている。両農場とも精密農業の技術によ り除草剤と肥料の使用を削減し ( 圃場内の地点 別施用量を必要度に応じて自動調節) 、コスト削 減とともに除草剤の効力温存を図っている。
また、不耕起では切り株と根を残すので次作 に病気が残りやすい。病害を避けるため、両 農場とも播種は前作の畝間 (実際には不耕起の ため「畝」はない ) にしている。
3 微生物肥料
州南東部ジュニーリーフスにあるS農場は、
農地面積 800ha ( うち耕地 400ha 、ワイン用ブド ウ園2.5ha) と豪州では比較的小規模である。
この農場は全面積で微生物肥料を使用する ほか、販売もしている。微生物肥料は空気中 の窒素を固定し、また土中にあるリンとカル シウムを作物に供給することにより、化学肥 料の効果を高め、代替することができる。
S 農場によれば、この技術は日本の EM (有 用微生物) に由来し、ここ 10 年ほどの間に発 展してQLD州のバナナやサトウキビの病気を 防ぐ目的で使われてきた。 NSW 州の土地利用 型農業での利用は近年のことであり、当農場 のような大規模な例はほかにない。大学から 技術を導入し、気候変動省の支援を受けてい る。
この微生物肥料の最も重要な効果は土壌水 分の充実であり、降雨不足の対策にもなる。
土壌中の炭素量増加による保水力の向上に加 えて、光合成細菌が水を使わずに光合成を行 い、土中で水を生成する。同時に、土壌が健
全となり作物が健康になる。それに対して化 学肥料は微生物を減らし土壌を損なうという。
収穫量は小麦、大麦、カノーラとも近隣の 2倍に達しており、微生物肥料のおかげだと 考えている。小麦の平年単収は1 ha 当たり地 域平均1.4トンに対して当農場は2.5〜3トンで ある。 09 年は乾燥のため 1.5 トンと不作になっ たが、当地のなかでは良い成績である。
ブドウは糖度を維持しながら収量が増え、
品質が向上した。穀物はたんぱく質と糖分が 増え、その結果害虫を防ぐ効果がある。作物 の販売には今のところ通常栽培と差がない が、今後は高い品質に見合った価格を期待し ている。
化学肥料の使用はやめようとしている。ブ ドウには過去5年間使っていない。耕地でも 08 年は全く使わなかったが、近隣の農家にシ ョックを与えすぎて良くなかったため、 09 年 は受け入れてもらうために通常の 15 %だけ化 学肥料を使ったという。
微生物肥料のコストは1 ha 当たり 30 〜 40 豪 ドルであり、化学肥料 (現地調査の時点で65豪 ドル、前年は 150 豪ドル ) より安い。化学肥料が 値上がりすればさらに有利となる。
さらに、土中の炭素 (CO
2由来) 保持量が増え るので、将来は温暖化対策のための炭素取引 も収益源となる可能性がある。
4 おわりに
このように、不安定な気候の下で、水節約 と生産確保のための最も重要な技術は土作り のようである。大型機械や IT 技術による大規 模かつ省力的な実践が印象的であった。日本 とは諸条件が異なるものの、気候変動への対 処における土作りの重要性を認識した。
(ひらさわ あきひこ)
1 はじめに
小稿では農林水産省『2008事業年度総合農 協統計表』に基づき、 2008 事業年度の JA 経営 の概要を解説する。周知のように 08 年9月に は米国のリーマン・ブラザーズ破綻を発端と する世界的な金融危機が発生した。経済環境 の急激な悪化を受けて、 08 年度の JA 経営には 厳しさが浮き彫りにされた。
2 組合員数、役職員数等の動向
08年度の集計組合数は770で、前年度比増 減率は△5.9%であった (第1表) 。組合員数は 949 万4千人で、同増減率は 0.7 %と前年度よ りも 0.5 ポイント低下した。正組合員
数 は 4 8 2 万 8 千 人 で 、 同 増 減 率 は △ 1.2 %、准組合員数は 466 万6千人で、
同増減率は 2.7 %となった。この結果 正組合員比率は 50.9 % (前年度51.8%)
となり、 50 %台は維持したが、前年度 より0.9ポイント低下した。
役員数の前年度比増減率は△5.9%
(うち常勤理事は△ 4.4 %) 、また職員数 の同増減率は△ 0.9 %で、どちらも最 近5年間で連続して減少している。臨 時・パート職員は、前年度は増
加したが、 08 年度は△ 0.4 %と なった。
3 主要事業量の動向
第2表によると、 08年度末 のJA貯金残高は83兆5,418億円 で、前年度比増減率は 1.6 %と 最近5年間で連続して増加して
いる。ただし同増減率は前年度よりも縮小し た。貸出金は 23 兆 2,382 億円で、同増減率は 4.4 %とこちらは最近5年間で最も高い率であ った。また長期共済期末保有契約高は 330 兆 1,902 億円で、同増減率は△ 3.2 %と前年度の減 少幅とほぼ同じであった。
購買事業当期供給・取扱高は3兆 3,003 億円 と前年までの減少から一転して0.7%の増加と なった。とくに生産資材の取扱高は 2.9 %増加 したが、農林水産省「農業物価統計」によれ ば、 08 年の農業生産資材総合価格指数は前年 比で 7.6 %も上昇しており、 08 年度の購買事業 取扱高の増加は生産資材価格高騰による影響
〈レポート〉農漁協・森組
2008年度のJA経営の概要
主事研究員 福田竜一
資料 農林水産省『2008事業年度総合農協統計表』、以下同じ。
(単位 組合,人,%)
実数 08年度
第1表 組合員数、役職員数の推移
集計組合数
組合員
正組合員
准組合員
役員数 うち常勤理事 職員数 臨時・パート職員
770 9,494,334 4,828,192 4,666,142 20,074 2,772 224,063 40,113
- 12,330 6,270 6,060 26 4 291 52
△3.6 0.5
△1.0 2.5
△4.2
△1.3
△3.1 2.2 04
△3.0 0.5
△1.1 2.4
△4.0
△2.7
△3.1
△3.0 05
△4.7 1.5
△1.1 4.5
△3.4
△3.3
△2.3 2.1 06 前年度比増減率
△3.1 1.2
△1.1 3.7
△3.2
△1.9
△0.8 2.5 07
△5.9 0.7
△1.2 2.7
△5.9
△4.4
△0.9
△0.4 08 1組合
当たり 平均値
(単位 億円,%)
実数 08年度
第2表 主要事業量の推移貯金残高
(年度末)貸出金残高
(年度末)長期共済期末保有契約高
購買事業当期供給・取扱高 生産資材
生活資材
販売事業当期販売・取扱高
835,418 232,382 3,301,902 33,003 23,650 9,353 43,786
1組合 当たり 平均値 1,085
302 4,288 43 31 12 57
2.2
△0.8
△2.0
△2.9
△0.9
△6.9
△1.9 04
1.5 0.0
△2.1
△2.0
△0.2
△5.8
△1.9 05
1.6 2.5
△2.4
△4.2
△3.7
△5.3
△0.3 06 前年度比増減率
2.3 2.3
△3.1
△0.9 0.0
△3.1
△3.4 07
1.6 4.4
△3.2 0.7 2.9
△4.5
0.7
08
が大きく、実質的な取扱量はむしろ減少して いた可能性も指摘できる。
販売事業当期販売・取扱高は4兆 3,786 億円 で、前年度比増減率は 0.7 %の増加に転じた。
その主な要因として、第1図によれば、米麦 の取扱高が前年度より 314 億円増加したこと、
また生乳の取扱高も 336 億円増加したことな どがあげられる。これは小麦の輸入価格高騰 でパンやめん類の需要が減少し、その一部が 米の需要に向かったことや、飼料価格高騰で 生乳価格が引き上げられたことなどによるも のである。他方、景気悪化の影響で消費減少 による価格下落に見舞われたのは肉類であ る。 JA の販売取扱高も肉用牛で 405 億円、肉 豚で 10 億円それぞれ前年度よりも減少した。
畜産経営は飼料価格高騰の影響も受けてお り、現在も苦しい状況が続いている。
4 収支の動向
第3表によれば、 08 年度の事業総利益は1 兆 9,167 億円で、前年度比増減率は△ 1.5 %とな った。さらに総利益の部門別の同増減率をみ ると、信用事業は△ 4.0 %となり 04 年度以来の 減少となった。なお 08 年度の信用事業総利益 の変化は地域によって異なっており、大幅に 減少した1県の影響を除いた場合、信用事業 総利益の同増減率は△ 1.5 %である。
共済事業総利益の前年度比増減率は△0.7%
となったが、減少幅は前年度より縮小した。
購買事業の同増減率は 2.0 %、販売事業は 0.6 % でいずれも増加に転じた。
事業管理費は1兆 7,563 億円 (うち人件費1 兆 2,369 億円) で、前年度比増減率は△ 1.2 %と 前年度とほぼ同じであった。
08 年度の事業利益は 1,605 億円、前年度比増 減率は△ 5.1 %、また経常利益は 2,159 億円、同 増減率は△4.0%となり、どちらも2年連続の 減少となった。なお当期剰余金は1,480億円で、
同増減率は 1.2 %となり3年連続で増加した が、増減率は前年度に続き低下した。
5 おわりに
冒頭でも指摘した世界的金融危機発生の影 響を受けて、 JA 経営は事業利益と経常利益が 2年連続で減少する厳しい結果となった。金 融危機発生後の経済はおおむね復調傾向にあ るが、それでも消費低迷や雇用不安は続いて おり、農産物価格低迷も深刻であるなど JA 経 営を巡る環境を楽観視する状況にあるとはい い難いだろう。
(ふくだ りゅういち)
1,500
(億円)
△2,000
△1,000 1,000
△1,500
△500 500 0
△2,500 04年度
第1図 販売・取扱高の前年度比増減額の推移
05 06 07 08
肉用牛 野菜・果実 その他 米麦
花き・花木 肉豚 生乳
(単位 億円,%)
実数 08年度
第3表 収支の推移事業総利益 うち信用事業
共済事業
購買事業
販売事業
事業管理費
うち人件費 事業利益 経常利益
当期剰余金
19,167 7,377 5,094 3,791 1,324 17,563 12,369 1,605 2,159 1,480
1組合 当たり 平均値 24.9
9.6 6.6 4.9 1.7 22.8 16.1 2.1 2.8 1.9
△2.6
△2.3
△1.2
△6.3
△2.0
△2.6
△3.3
△2.8 3.3 19.7
04
△1.2 2.1
△1.5
△6.6
△1.0
△2.5
△2.5 16.3 3.7
△4.3 05
△1.2 1.8
△1.3
△6.4 1.6
△1.9
△1.7 7.2 5.8 19.0
06 前年度比増減率
△1.3 3.2
△5.2
△5.3
△1.5
△1.3
△1.4
△1.3
△0.9 2.7 07
△1.5
△4.0
△0.7 2.0 0.6
△1.2
△1.4
△5.1
△4.0
1.2
08
1 電子決済の分類
近年、小口決済の手段として電子決済が浸 透してきている。電子決済とは、決済を現金 と同じ価値を持つデータの送受で行う仕組み であり、金銭情報などのデータをどこに保存 するかによって、カード型とネットワーク型 に分類される (第1表) 。前者はカードや携帯 電話に埋め込まれた IC チップに金銭情報を記 録し、後者は Web 上のサーバで金銭情報を管 理するが、現在多いのはカード型である。
カード型はさらに、専用のリーダライター に挿入して使用する接触型と、かざして使用 する非接触型に分類される。なお、本稿では 特に断りのない限り、非接触型の小口電子決 済手段を「電子マネー」と呼ぶ。
(注1)2 プリペイド式とポストペイ式の特徴
電子マネーにはプリペイド式とポストペイ 式がある。
プリペイド式はあらかじめ入金 ( チャージ )
して利用する。発行会社は個人に信用供与し ないため、利用に当たって審査が不要である。
そのため誰でも利用可能な点に強みがある。
一方、ポストペイ式はクレジットカードに 付随した電子マネーで、利用代金は後日、ク レジットカードの請求と共に支払うため、チ ャージの手間がない。しかし、発行会社が個 人に信用供与をしているため、審査を受ける 必要がある。
なお、日本銀行 (2009) によれば、プリペイ ド式電子マネーに限るが、2009年3月末時点 で発行枚数1億 503 万枚 ( 前年比 30 %増 ) 、決済 件数1億 300 万件 ( 同 27 %増 ) 、決済金額 771 億 円 ( 同 32 %増 ) と著しい伸びになっている。
3 クレジットカードによるチャージの拡大
なお、プリペイド式電子マネーにはクレジ ットカードに付随したものもある。プリペイ ド式のサービスは 01 年の Edy から開始された が、当初からクレジットカードやデビットカ ードを使って、プリペイド型電 子マネーに入金が可能だった。
しかしながら、入金には専用の 端末に電子マネーを置いたうえ で、接触型の端末にクレジット カードを読み込ませたり、自身 で専用端末を購入し、 Web サイ トにクレジットカード番号を入
〈レポート〉経済・金融
電子マネーの動向と今後の展開
研究員 岡山正雄
資料 磯崎(2006)、日本銀行(2008)
非接触型 接触型
第1表 電子的小口決済手段のサービス例
サービス例
ちょコム BitCash DigiCoin WebMoney 決済タイミング
電子マネー
前払い
(プリペイド式)後払い
(ポストペイ式)即時 カード型
種類 ネットワーク型 Edy Suica ICOCA PASMO
nanaco
WAON QUICPay クレジットカード Visa Touch
iD PiTaPa
J-Debit
力したりする必要があり、現金でのチャージ と手間は変わらなかった。
その後、06年にSuicaでのオートチャージの サービスが開始された。これは、クレジット カードと提携して、一定の金額以下になれば、
専用端末を使用した際に、一定金額を自動的 に入金するサービスである。これによって、
入金の手間がかからなくなり、ポストペイ式 とプリペイド式の垣根は低くなってきてい る。
4 今後の展開
今後の展開として注目されるのは、 10 年4 月 に 施 行 さ れ た 「 資 金 決 済 に 関 す る 法 律 」
(「資金決済法」) にともなう動きである。この 法律によって、小口の為替取引 (資金決済法 施行令第2条で 100 万円以下とされている) につ いては、資金移動業者として登録すれば、銀 行等金融機関以外の者にも認められるように なった。
これによって、電子マネー間の資金決済に ついて、新ビジネスの可能性が見えてきた。
例えば、商品の支払代金を相手の電子マネー にチャージして決済したり、チャージされた 現金の引き出しを可能にしたりするビジネス が考えられる。すでに米国では PayPal 社がネ ットワーク型でこのようなサービスを行って おり、日本での事業開始を検討している。
ただ、日本で主流のプリペイド式は、サー バでの管理は取引履歴やポイントのみで、即 時の残高管理を行っていないものが多い。そ のため、為替取引を可能にするためには、プ リペイド式とネットワーク型を統合したよう なシステム構築が必要であり、現時点では克 服すべき問題が残っている。
5 まとめ
電子マネー発行枚数は 09 年に1億枚を超 え、すでに1人1枚を持つ時代に入った。 IT 面でのさらなる技術進歩と法制面の整備が進 むことによって、より普及していくことにな るだろう。
今後はいかに他社の電子マネーよりも自社 のものを利用させるかが重要となってくると 思われる。そのためには、加盟店を増やすの みならず、他社より高い比率で他の航空会社 や家電量販店のポイントと交換できるなど差 別化を図っていくことが重要だ。
<参考文献>
・鈴木博(2009)「資金決済分野への事業会社の進出と 金融機関の対応」『農林金融』9月号
・磯崎マスミ(2006)『電子マネーの技術とサービス』
技術評論社
・日本銀行(2008)『最近の電子マネーの動向について』
・日本銀行(2009)『最近の電子マネーの動向について (2008年度版)』
(おかやま まさお)
(注1)
電子マネーの定義は一様ではなく、例えば日
本銀行(2008)では、ネットワーク型と後述のプリ
ペイド式電子マネーを電子マネーと呼んでいる。
研究員 王 雷軒
を有するため、他行に比べ県域においての三 農金融業務が強いと見られる。
なお、農銀の自己資本比率は近年高まって おり、 09 年度には 10 %を超え、また純利益は 650 億元 (約 8,500 億円) が計上されるなど、経 営状況はかなり改善してきている。
3 低下した農銀の不良債権比率
ひところ問題になっていた大手銀行の不良 債権問題は、近年解決の方向に向かっている。
中国銀行業監督管理委員会 ( CBRC ) による と、公的資金の注入を契機として、大手銀行 全体の不良債権残高は、 04 年3月末の 1.9 兆元
(約 24.8 兆円) から 10 年6月末の 0.3 兆元 (約 3.9 兆円) にまで減少した。また、不良債権比率 も 04 年3月末の 19.20 %から 10 年6月末の 1.46
%へと大幅に低下した (第1図) 。
一方、公的資金の注入を受け入れる直前の 4大国有商業銀行の不良債権比率をみると、
建設銀行 ( 02 年) が 16.97 %、中国銀行 ( 03 年)
が 16.28 %、工商銀行 ( 04 年) が 21.16 %に対し、
農銀 (07年) は 23.57 %であり、農銀の不良債 1 中国農業銀行の株式上場
中国では、国有企業の経営の非効率性が長 年の懸案であったが、株式会社化して証券取 引所に上場することで、この問題を解決し、
それを成長の支柱として据えたいとの考え方 が有力であった。4大国有商業銀行のうち、
中国建設銀行 (2005年10月) 、中国銀行 (06年 6月) 、中国工商銀行 ( 06 年 10 月) の3行も、
そのような観点から 05 〜 06 年にかけて次々と 株式上場を果たした。そして、未上場であっ た中国農業銀行 (以下「農銀」) も、 10 年7月 に上海、香港の両証券取引所に上場した。
農銀が他の3行に比べてかなり遅れた上場 となった大きな要因としては、不良債権比率
(不良債権残高/貸付残高) が高かったことに あると思われる。その背景には、農銀が農業 分野への融資を義務付けられており、都市部 への融資に比べて資金回収が遅れがちになっ ていたことがあろう。
本稿では、農銀の概況を簡潔に紹介し、中 国の大手銀行 (4大国有商業銀行と交通銀行)
全体の不良債権の状況を考察したうえで、農 銀の不良債権問題を検討してみる。
2 資産規模では3番目の大手銀行
資産規模からみれば、 09 年度の農銀の総資 産は 8.9 兆元 (約116.4兆円) と、中国では3番目 の大手銀行 (工商銀行 11.8 兆元、建設銀行 9.6 兆 元、中国銀行 8.7 兆元、交通銀行 3.3 兆元) である。
また、農銀の 09 年度の貸付金残高は 4 兆元
(約 52.3 兆円) であり、このうち、県域への貸 付が占める比率は 29 %である (第1表) 。農銀 は、県域での金融業務を「三農金融業務」 (農 業・農村・農民向けの金融業務が多いため) と 呼んでおり、 2,048 の県レベルの支店 (本店→
省レベル支店→市レベル支店→県レベル支店)
〈レポート〉経済・金融
中国農業銀行の株式上場と不良債権問題
資料 2010年7月「中国農業銀行2009年度報告」
(単位 億元)
第1表 最近における農銀の概況
総資産 うち県域資産 (全体に占める比率)
預貯金残高
うち県域からの預貯金 (全体に占める比率)
貸付金残高 うち県域への貸付 (全体に占める比率)
不良債権残高 貸倒引当金 自己資本比率
純利益
08年度 09
% % 70,144 27,152
(39%)
60,974 25,143
(41%)
30,150 8,056
(27%)
1,341 852 9.41 515
88,826 32,351
(36%)
74,976 30,346
(40%)
40,115 11,501
(29%)
1,202
1,267
10.07
650
権比率は、ほかの3行に比べて、高いものと なっていた (第2表) 。
前述の通り、その後の公的資金の注入によ り、農銀の不良債権比率は、 08 年度末には 4.3 %へ急低下し、ほかの3行との間にあった 大きな差が縮小した。しかし、 09 年度末の不 良債権比率は他行より依然高い状態にある。
こうした農銀の不良債権比率低下をもたら した公的資金の注入としては、 08 年に財政部
(日本の財務省に相当) と政府全額出資の中 央 金 (国有の大きな投資機関家) が、農銀へ 合計 2,600 億元 (約3.4兆円) の資本注入を行い、
さらに財政部は農銀の 6,651 億元 (約 8.7 兆円)
の不良債権を買い取った (当該不良債権の回収 事務などは農銀が行う) ことがある。さらに、
中国人民銀行 (中央銀行) も農銀の 1,506 億元
(約2.0兆円) の不良債権に見合う無利息貸付を 実施し支援を行った。
また、 08 年末からの政府の景気対策による 資金需要の高まりで農銀の新規貸付額が大き く増加したことも、不良債権比率の低下に貢 献した ( 09 年度末は 2.91 %へ低下) 。
こうした多額の資本注入と不良債権の処理 によって、農銀の株式上場が可能となった。
しかし、第2図に示すように、不良債権の処 理を経て不良債権残高は急激に減少したもの の、09年度の不良債権残高はいまだ1,202億元
(約 1.6 兆円) である。大手銀行の不良債権残高
(3,248億元、約4.3兆円) に占める農銀のシェア は4割弱であり、ほかの大手銀行より農銀の 不良債権残高は依然として大きい (第1図参 照) 。
4 おわりに
長年、足かせとなっていた不良債権問題が ほぼ解消され、農銀の株式上場が実現した。
しかし、農銀は、前記のように、県域で農業 関係の貸出先が多いため与信管理能力の向上 が必要であり、また経営の透明性確保や経営 責任の明確化を含むガバナンスの強化も不可 欠である。これらが整備されないと、不良債 権問題が再び発生する可能性もあることに留 意が必要であろう。
(おう らいけん)
資料 各銀行のHPで公表されている年報から筆者作成
(注) ・・・はHPで公表されていない比率。
(単位 %)
建設銀行
第2表 4大国有商業銀行の不良債権比率の推移
02年度末 03 04 05 06 07 08 09
16.97 4.27 3.92 3.84 3.29 2.60 2.21 1.50
中国銀行
・・・
16.28 5.12 4.62 4.04 3.12 2.65 1.52
工商銀行
・・・
・・・
21.16 4.69 3.79 2.74 2.29 1.54
農銀
・・・
30.62 26.73 26.17 23.43 23.57 4.32 2.91
資料 中国銀行業監督管理委員会(CBRC)資料(注)1 四半期データ。
2 大手銀行は中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行、
中国建設銀行、交通銀行の5行。
3 不良債権の残高は、不良貸款(不良債権)
=次級 (要注意先)+可疑(破綻懸念先)+損失(破綻先)
第1図 中国における大手銀行の不良債権の残高と 第1図 比率の推移
25 20,000
(%) (億元)
20 16,000
15 12,000
10 8,000
5 4,000
0 0
04.3 05.3 06.3 07.3 08.3 09.3 10.3
6月末(3,248)不良債権残高(右目盛)
不良債権比率
資料 中国農業銀行『年度報告』各年
第2図 農銀の不良債権残高と比率
30 10,000
(%) (億元)
20
8,000 25
15
6,000
10 4,000
5 2,000
0 0
04年度末
(6,485)
05
(7,095)
06
(7,509)
07
(8,189)
08 09
(1,202)
不良債権比率 不良債権残高
(右目盛)
(1,341)
1 躍進する再生可能エネルギーの現状 一昔前は、風車といえばオランダの田園風 景を思い浮かべ、太陽電池といえば宇宙船に 想いを馳せる。今ではこれら自然エネルギー によって発電されるグリーン電力達がエコな イメージ戦略を牽引し、さらには新ビジネス を掲げるようになったが、それはここ数年の 話である。
まず、日本の風力発電を見ると、政府目標 値は 2030 年までに現在の約2倍の 6.6GW とな っているが、 NEDO ( 新エネルギー・産業技術 総合開発機構 ) では 20GW のシナリオを描いて いる。次に、太陽光発電を見ると、政府目標 値は 2030 年までに現在の約 40 倍の 53GW の設 備導入をし、事業用電力並みの発電コスト7 円/ kWh を達成するという目標を掲げている。
また、太陽光発電電力全量買い取り制度が世 間をにぎわせ、太陽光発電ブームを巻き起こ している。
世界の流れはさらに躍動的である。 IEA (国 際エネルギー機関) が 2008 年に提示したシナリ オでは、2050年に温室効果ガス半減を達成す るための技術として、再生可能エネルギーに その 21 %の貢献を期待している。 09 年末には 世界の累積設備容量は風力発電が 160GW 、太 陽光発電が 20GW に達した。原子力発電1基
が 100MW 規模であるから、その規模は注目に
値する (1GW=1000MW) 。さらに2020年の導 入 目 標 値 ( 風 力 発 電 、 太 陽 電 池 ) を 、 欧 州 (200GW 、 140GW) 、米国 (150GW 、 60GW) 、中 国 (150GW 、 20GW) 、インド (60GW 、 22GW) な ど、各国が大規模な導入宣言を次々に提示し
ている。グローバル市場はもはや不動のもの となったといえる。
政府の新成長戦略では「グリーン・イノベ ーションによる環境・エネルギー大国戦略」
により 50 兆円超の環境関連新規市場が明示さ れていることに象徴されるように、環境・エ ネルギー分野はビジネスへと展開している。
エネルギーセキュリティ、温暖化対策、とい った文脈で半世紀以上の議論が続いてきた自 然エネルギーに、今、何が起こっているのか。
躍進する風力発電と太陽光発電を比較しなが ら、グリーン・イノベーションを迎える時代 を考察してみたい。
2 市場は群雄割拠
風力発電も太陽光発電も「新エネルギー」
と呼ばれて久しい。技術開発の躍進により、
エネルギー源としての位置づけを確かなもの にしている。技術として成熟してくると、コ スト競争、そして利用する社会との調和を考 慮する段階がやってくる。まず、技術の成熟 過程を見てみたい。
風車は回転のエネルギーを電気に変える機 構で、主に機械工学と電気工学に属する。重 工業、電力産業だけにとどまらず、さらに大 型風車の直径は100mを超えるため、土木業界 が参入する。
1887 年に初めて風力で発電して以降、風車 の翼や発電機などの技術革新により、 80 年代 に米国で本格的に風力発電が始まり、 90 年代 に欧州で開発が進んだ。欧州では 99 年には
「 Wind Force 10 」という、世界の電力消費量
寄 稿
グリーン・イノベーションの背景にあるもの
―風車、太陽電池の台頭する時代―
東京大学大学院工学系研究科 特任研究員 井上智弘
の 10% ( 後に 12 %と訂正 ) を賄う可能性を明示 した青写真を、環境 NGO グリーンピースと風 力産業界が牽引して作成、その実現に政府も 足並みをそろえた。さらに大型化や洋上風車 へと展開させ、いち早くその市場を成熟させ ていった。米国は一時縮小していたものの、
近年大規模導入を続け、 2007 年に一時的に発 電コストがガス発電より下がったことなどが インパクトとなり、3〜5年という短期間で 資金回収可能な投資対象として注目された。
風車は重工業分野の 80 年代以前に設立された 企業がトップシェアを占め、この 10 年で企業 数は半減するなど淘汰の傾向を見せている。
一方、欧州との連携などを背景に、中国、
インドなどで近年の有力企業が台頭してい る。風車の大型化に伴い、 MW 級風車は化石 燃料と競争可能な水準に至っている。
太陽電池は太陽光を化学変化により電気エ ネルギーに変える機構で、主に化学工学に属 する。
1954年に太陽電池が発明され、60年代には 宇宙用、灯台用として普及が広まり、さらに 80 年代には電卓などの小型機器に搭載され産 業として成長を始めた。 2004 年にドイツの再 生可能エネルギーの固定価格買い取り制度が 強化されるなどの制作補助により、欧州を中 心に市場が広がった。そこに目を付けた米国、
中国などの新規企業が介入し、群雄割拠の時 代に入っている。特にアジア諸国が台頭して おり、半導体や液晶ディスプレイ、光ディス クなどの分野で業界構造の水平分業化を推し 進めていった企業が牽引している。日本では 住宅などの屋根置きが主流だが、世界では広 大な敷地に発電所として設置するいわゆるメ ガソーラーが普及してきており、本格的な価 格競争が始まっている。
3 戦略的マネジメントの必要性
技術が成熟してくると、コスト競争の普及 期に突入する。政策支援を得ながら、グリッ ドパリティ (在来型の電力代と同等の発電コス ト) の実現も視野に入ってきた。そのため大規 模導入が進むと期待されるが、自然エネルギ ー発電の出力変動性が導入の問題となってい る。
グリーン・ニューディール政策の柱の一つ の、「スマート・グリッド ( 次世代送電網 ) 」と いう言葉もこの問題を背景に生まれた。これ は出力変動を調整するために、 IT を駆使して、
供給側だけではなく、需要側もコントロール する構想である。例えば、需要側となる家庭 では蓄電池や電気自動車などを用いて変動を 調整する。一つの家庭の1日のエネルギー利 用サイクルだけを見れば、数分〜数時間の変 動を調整できれば良いが、実際は、さらに数 日単位や季節変動などへも対応が必要とな る。これを街単位で考えると、戦略的にイン フラを整え、長期的な視点から数年単位での システムマネジメントが不可欠だ。このよう に、技術も空間も時間も幅広い新システムを 統合的に取り扱うには、今までの専門家が結 集し、より広範な議論ができる専門家の育成 が求められている。
今や、再生可能エネルギーの導入は急務で ある。新しい技術が導入されれば、新たな課 題が生まれる。現在も太陽電池・風車の導入 において、様々な不具合が露呈しており、導 入と運用におけるコンサルティングの信頼性 が問われている。エネルギー供給構造を変え るという大きな社会変革に対し、専門家は俯 瞰的視野に立った戦略的長期シナリオを示 し、社会への十分な説明と透明性を担保する 必要があるだろう。
(いのうえ としひろ)
1 はじめに
晩婚化、未婚化が進むなかで、婚活という 言葉が世間の耳目を集めている。婚活とは、
独身男女が結婚相手を意識的に探す活動のこ とであり、民間の結婚相談業者から行政まで 多様な主体が、婚活をしている人々に異性と の出会いの場を提供する取組みを行ってい る。 JA もまたしかりであり、
(注1)本稿では 2009 年 度から行政等と連携して婚活支援に取り組ん でいる JA 雲南について紹介する。
2 雲南市の未婚率の動向
全国と同様に島根県雲南市でも未婚率の上 昇が進んでいる (第1表) 。雲南市の未婚率は、
20 歳代から 30 歳代のすべての年齢層で、男女 とも 05 年には 95 年よりも上昇しており、男性 よりも女性の未婚率の上昇幅が大きい。特に 30 歳代女性の未婚率は 10 年間で 10 ポイント以 上上昇している。それと軌を一にして初婚年 齢が上昇する晩婚化も進んでいる。
3 JA雲南の夢サポート事業
JA 雲南では、 02 年度から地域活性化を目的 とする夢サポート事業を
(注2)独自に実施してき た。同事業では、 JA 雲南の若手職員が1泊2 日の旅行を
(注3)企画し、JA雲南管内 (雲南市、奥
出雲町、飯南町) の若者と交流を深めている。
組合員だけでなく、員外の若者も旅行に参加 しており、JA雲南では同事業を新しい組合員 を獲得する1つの入り口として位置づけてい る。また、旅行に参加した若者同士が結婚す る等、同事業は着実に成果を挙げている。
4 うんなん恋★伝説
雲南市の未婚率が上昇するなかで、「うん なん婚カツ!応援団 (以下「応援団」 ) 」が JA 雲 南、雲南市役所、雲南病院、雲南市商工会青 年部、島根三洋の独身若手職員等によって結 成された。 JA 雲南の若手職員が応援団に加入 した背景には、 JA 雲南が実施してきた夢サポ ート事業の実績が高く評価されたことがある。
応援団は島根県の「しまねの出会い創出事 業」を
(注4)
活用して、 09 年度に 20 〜 30 歳代を対象 にした出会いイベント「うんなん恋★伝説
(以下「恋伝」 ) 」を開催した (写真) 。以下では 09 年度の恋伝の詳細について述べる。
5 09年度に実施したイベント
応援団は 09 年7月から 09 年度に開催するイ ベントの企画を始めた。応援団全員での数度 の検討を経て、4回のイベントを実施した。
現地ルポルタージュ
行政等と連携した婚活支援の取組み
―島根県雲南市のJA雲南―
研究員 一瀬裕一郎
資料 雲南市地域振興課資料
(単位 %,ポイント)
第1表 雲南市の未婚率の推移(20〜30歳代)
20〜24歳 25〜29 30〜34 35〜39
89.4 68.2 45.2 30.6 05年
a
89.0 63.1 39.7 26.3
95 b
0.4 5.1 5.5 4.3 増減
a-b 84.5 51.5 25.4 16.2
05 c
81.6 44.2 14.9 5.0 95 d
男性 女性
2.9 7.3 10.5 11.2 増減
c-d
「うんなん恋★伝説」のチラシ (雲南市webサイトより抜粋)
1回目は 09 年 10 月 10 日の「バーベキュー&
ビアガーデン」である。気軽に参加できる企 画であったため、当初の募集人数 80 名 (男女 各40名) を大幅に上回る 119 名が参加した。一 方で、参加者数が多過ぎ、全員と交流する時 間が取れないという課題を残した。
2回目は 09 年 11 月 28 日の「クリスマスパー ティー」である。1回目の課題を踏まえ、参 加者同士の交流を十分に深めるため、参加者 を 30 名 (男女各15名) に絞り込んだ。会場の 古民家で生演奏のジャズを流す等、応援団は 雰囲気を盛り上げる演出を仕掛け、参加者同 士の交歓を促した。
(注5)その取組みが奏功し、 11 組のカップルが成立するという大きな成果が 挙がった。
3回目は 10 年1月 30 日の「新年会パーティ ー」である。 36 名 (男女各 18 名) が参加した。
定員を上回る応募があったため、雲南市在住 者を優先した。この企画でのカップル成立は 少なく、傾向として男性が消極的になってい ることがその一因として浮かび上がった。
(注6)4回目は 10 年2月 28 日の「普段よりちょっ
ぴりオシャレをして掴む劇的な恋!」である。
これまでのカジュアル路線から一転し、この 企画はフォーマルかつ高級感を感じさせる内 容とした。松江市の結婚式場による全面協力 を受け、洗練された雰囲気のなかで交流を深 めた。 64 名 (男女各 32 名) が参加し、 12 組の カップルが誕生する結果となった。
6 応援団の特徴と恋伝
この取組みの特徴として以下の3点を指摘 できよう。
第1に、応援団が 20 〜 30 歳代の独身の若者 によって構成されていることである。応援団 は婚活中の若者と同世代であり、独身という 共通項もある。それゆえ、応援団は婚活中の 若者が持つニーズにフィットしたイベントを 企画でき、顕著な成果を挙げられたのである。
第2に、複数の組織に属する若者によって 応援団が構成されていることである。異なる 組織に属する若者が意見を出し合うことによ って、独創的なアイディアが生まれ、企画の 魅力を高める原動力となったのである。
第3に、応援団が所属する組織すべてが地 域に根ざした組織であることである。恋伝の 企画運営を通して生まれた応援団の紐帯
ちゅうたい
は、
婚活支援のみならず、地域の様々な課題に協 同して取り組むことのできる素地を醸成する のではなかろうか。
7 おわりに
10 年度の恋伝についての応援団の初会合 が、10年7月8日に開かれた。10年度には男 性の魅力アップ講座や参加者へのアフターフ ォローの整備等、内容の一層の充実を図る予 定であるという。今後の応援団の取組みにつ いて期待を持って注視したい。
<主要参考文献>
・山田昌弘・白河桃子(2008)『「婚活」時代』
・雲南市(2010)『市報うんなん』No.66
(いちのせ ゆういちろう)
(注1)
JAでは青年部(例:JAみなべいなみ・和歌 山県)、女性部(例:JAよいち・北海道)などの組 合員組織が婚活支援の取組みを行う多くの事例が ある。しかし、JA雲南のようにJA職員が外部の組 織と連携して婚活支援に取り組む事例は珍しい。
(注2)
恋伝が開始されたことを受け、JA雲南では 09年度には夢サポート事業をいったん休止した。
ただし、恋伝は雲南市在住者を主要な対象者とす るものである一方、奥出雲町、飯南町もJA雲南の 管内であり、それら地域の在住者にも交流の機会 を提供することが必要であるとの判断から、JA雲 南では10年度には夢サポート事業を再開する予定 である。
(注3)
これまでの旅行ではユニバーサルスタジオジ ャパン、別府・湯布院、隠岐島など西日本各地を 訪れている。
(注4)
10年度の恋伝では「島根県地域子育て創生事 業」を利用する。
(注5)
詳細は日本農業新聞09年12月25日付を参照。
(注6)
草食系男子という新語が生まれているように、
女性に積極的にアプローチしない男性が増える傾
向にあるとみられる。
1 店舗機能補完のため移動店舗車を運行 郵政民営化の見直しのなかで、全国 遍
あまねく金 融サービスを提供する郵便局の「ユニバーサ ル・サービス」の必要性が改めて強調された。
それが、政府の関与を再び強化する一方、競 争条件は逆に郵貯に有利に緩める方向性を採 ることの大義名分の一つになった。しかし、
郵便局のみが地域金融サービスを支えている わけではない。 JA はじめ地域金融機関は過疎 化・超高齢化する営業基盤のもとで、内部管 理態勢の充実や顧客対応のレベルアップ要求 と、コスト効率化の両面追求を迫られながら、
それに向き合い、地域の金融ニーズに応え利 便性向上に努めている。それは採算性の尺度 だけでははかり切れない社会的責任の発揮の 姿勢に基づくものだ。
以上の状況下、 JA バンクでは地域の金融ニ ーズ・実情をくみ取り、有人店舗の補完手段 として移動金融店舗車を運用する事例が全国 に 20 数
か所存在する。本稿では「ちょきんぎ ょ号」と命名された移動金融店舗車を運用し、
組合員等利用者から評価を得ている静岡県浜 松市の遠州中央農協 (以下「同 JA 」 ) の取組み をお伝えしたい。
2 山手線エリア21個分の広域JA
同 JA は、 92 (平成4 ) 年に 12JA が合併し誕 生した。現在は天竜川東側の磐田市、袋井市、
森町と浜松市・天竜区を管内とする。遠州灘 を臨む太平洋岸から長野県境までの南北約 80km、東西約20kmの管内面積は約1,350km
2。 山手線エリアが 21 個分入る広域であり、太平 洋岸の平野部から天竜区を中心とする山間部 まで特色・地域性を有する (第1図 ) 。
合併以降、経営基盤強化や窓口サービス充
実などのため、金融店舗の統廃合が進められ た。それは厳しい苦渋の決断だったが、理解 が得られ店舗統廃合を進めることができた。
ただし、山間部は平野部に比べ店舗までの距 離や時間の長さや地形の険しさなど物理的に 利用環境はどうしても劣る。店舗統廃合後の 山間部の組合員等利用者への影響を軽減する とともに地域に根ざした活動実践を引き続き 深めていくことを念頭に、同 JA は有人店舗の 補完機能を提供するものとして山間部を回る 移動金融店舗車の導入を決定。 04 年 10 月の運 用開始から今年で7年目を迎えた。
もちろん JA 店舗から渉外担当が出向き、必 要な金融サービスを提供するきめ細やかな態 勢をとっている。また、同JAのATM網に加 え提携 ATM (無料化拡大) の ATM ネットワー ク整備も進みキャッシュ・ポイントは拡充さ れてきた。インターネットバンキング「 JA ネ ットバンク」も利便性向上の一助となろう。
しかし、地域の中心地にいつもの時間、移動 金融店舗車が来て対面で金融サービスをして くれるという安心感は大きい。特に高齢者層 にとっての利用度は高く、満足度向上に役立 っている。
現地ルポルタージュ
きめ細やかに力強く、金融ニーズに対応する遠州中央農協
―山間部での移動金融店舗車の取組み―
理事研究員 渡部喜智
第1図 遠州中央農協の管内地図
管内
浜松市 天竜区
静岡県
袋井市 磐田市
森町