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平成 29 年度厚生労働科学研究費補助金(食品の安全確保推進研究事業)
「畜産食品の生物学的ハザードとその低減手法に関する研究」
分担研究報告
牛肝臓の冷蔵保管中の温度変化と牛胆汁の細菌動態に関する研究
研究分担者 研究分担者 研究代表者
佐々木貴正 朝倉 宏 岡田由美子
国立医薬品食品衛生研究所 国立医薬品食品衛生研究所 国立医薬品食品衛生研究所
研究要旨
現在、牛肝臓については、生食用としての提供が禁止されている。しかし、
生食(レバ刺し)の解禁に対する要望は依然として存在し、その可能性を検 討するためには、摘出後の肝臓内部の細菌汚染実態及び保管・流通段階にお ける細菌挙動を解明し、リスクに応じたリスク管理措置を行う必要がある。
そこで、摘出直後の肝臓の表面及び内部に温度ロガーを取り付け、と畜場か らの出荷(翌日)までの温度変化を計測した。また、肝臓内部の高濃度細菌 汚染の実態は、肝臓内部に存在する胆管内の細菌の存在であると考えられて おり、カンピロバクターや志賀毒素産生大腸菌と同様に、肝臓内部を汚染す る可能性が指摘されているサルモネラについて、胆汁中での増殖可能性を検 討した。肝臓丸ごとでは、肝臓内部の温度低下はあまり見込めず、5℃まで低 下するのに 20 時間を要した。一方、10 ㎝角にカットした場合には 5 時間で 5℃
まで低下した。サルモネラは、ミューラー・ヒントン培地と同程度に胆汁中 で増殖した。以上のことから、肝臓摘出後に肝臓丸ごとで保管・流通する場 合には、例え、低温かつ低濃度の細菌汚染であっても、肝臓内部の細菌汚染 は速やかに拡大すると考えられた。
A. 研究目的
現在、牛肝臓は生食用としての提供が 禁止されている。しかし、生食に対する 要望は依然として存在し、その可能性を 検討するためには、肝臓内部の細菌汚染 実態を解明するとともに、摘出後おける 肝臓内部の細菌挙動を把握し、適切な殺 菌及び増殖防止策を行う必要がある。
一般的に、腹腔から摘出された肝臓は、
と畜検査員による検査終了後、内臓取扱 業者に渡り、胆嚢を切除後、一定時間(半 日〜翌日)冷蔵庫で保管された後、と畜 場から出荷される。この間、肝臓に病変 等が見られないものについては、肝臓丸 ごとのまま冷蔵保管されることが多い。
摘出直後の肝臓の温度は約 40℃であるが、
重量約 6kg、厚み約 10 ㎝もあるため、丸 ごと冷蔵室に入れても、肝臓内部の温度
42 を急激に下げることは困難であり、細菌 が増殖している可能性は高いと考えられ るものの具体的なデータがないのが現状 である。
そこで、今回、1内臓取扱業者の協力 の下、摘出直後の肝臓の表面及び内部に 温度ロガーを取り付け、と畜場からの出 荷(翌日)までの温度変化を計測した。
また、肝臓内部における細菌の高濃度汚 染は、胆嚢内胆汁の細菌汚染と関連性が 高いこと、さらに、志賀毒素産生大腸菌 やカンピロバクターは胆汁で増殖できる ことが知られており、肝臓内部の高濃度 細菌汚染の実態は、肝臓内部に存在する 胆管内の細菌の存在であると考えられて いる。そこで、カンピロバクターや志賀 毒素産生大腸菌と同様に、肝臓内部を汚 染する可能性が指摘されているサルモネ ラについて、胆汁中での増殖可能性につ いて検討した。
B. 研究方法
1. 材料(肝臓及び胆汁)
1と畜場でと殺・解体された黒毛和種 又は交雑種の肝臓及び胆嚢内胆汁。当該 と畜場では、肝臓摘出後、と畜検査員に よると畜検査後に、フックに掛けられ、
内臓取扱業者の加工室に運ばれる。そこ で、洗浄されたステンレス製作業台に置 かれ、胆嚢切除後に次亜塩素酸水で表面 を洗浄後、ビニール袋に入れられ、氷水 中に約 10 分間浸漬される。その後、プラ スチック製のトレイに他の臓器(心臓、
尾、舌などの赤物と呼ばれる臓器)とも に入れられ、冷蔵室(設定値 4℃)で翌日 まで保管される。その後、翌日午前に加
工販売業者に運ばれる。胆汁の採取につ いては、肝臓から切除された胆嚢を作業 員から受け取り、その場で、19G 注射針を 取り付けた 50mL シリンジを用いて胆汁を 約 50mL 採取した。なお、注射針を突刺す る部位はアル綿で予め消毒した。採取し た胆汁は保冷剤を入れたクーラーボック スに入れ、当研究所に持ち帰り、3 時間以 内に試験に供した。
2. 肝臓の表面及び内部の温度変化 上述のビニール袋に肝臓を入れる 際に、左葉の中央の表面(漿膜下)及 び深さ 4 ㎝の部分に温度ロガー(おん どとり)を取り付け、翌日の出荷まで の間の温度を経時的に計測した(丸ご との場合)。また、出荷時の肝臓を当 研究所に持ち帰り、10cm 角の大きさ に切断し、ウォーターバスで 39℃ま で温めたのち、深さ 4 ㎝の部分に同様 に温度ロガーを取り付けて温度変化 を計測した。
3. 胆嚢内胆汁における腸内細菌科菌群 濃度
胆汁を、PBS を用いて 10 倍段階希 釈し、3M 社製のペトリフィルム(EB プレート)を、各濃度 2 枚を用いて 計測した。
4. 胆汁中におけるサルモネラ増殖 採取した各胆汁 100μL について、
ミューラー・ヒントン寒天培地、GAM 培地に塗沫し、37℃で好気培養及び嫌 気培養、さらに、各 100μL をmCCDA に塗抹し、30℃及び 42℃で微好気培 養を行い、すべての培地で菌の発育が 認められなかった胆汁を使用した。
これら胆汁に、ミューラー・ヒント
43 ン寒天培地又はミューラー・ヒントン 液体培地で 1 夜培養(37℃)したサル モネラ株(LT2 株)を終濃度約 2〜3 log cfu/mL となるように胆汁に懸濁し、
20℃、30℃及び 38℃で 5 時間まで培 養した。なお、対照としてミューラ ー・ヒントン液体培地でも培養した
(38℃のみ)。
(倫理面への配慮)
本研究では、特定の研究対象者は存在 せず、倫理面への配慮は不要である。
C. 結果
1. 肝臓表面及び内部の温度変化
摘出直後の肝臓の温度は表面内部 ともに 39℃前後あるが、氷水中に 10 分間浸漬することで表面は 20℃前後 まで低下がみられた。しかし、氷水か ら取り出すと急速に約 25℃まで上昇 し、その後は、内部の温度変化と同様 に徐々に低下していった。この変化は、
3 検体のすべてで同じ傾向であり、内 部の温度が 5℃となったのは、約 20 時間後であった。一方、10 ㎝角にし た場合には、2 時間で 20℃以下、5 時 間で 5℃にまで低下した。 (図 1)
2. 胆嚢内胆汁における腸内細菌科菌群 濃度
胆汁 41 検体中 5 検体(12%)から 腸内細菌科菌群が分離され、その濃 度は、6.4〜7.4 log cfu/mL と高濃度 であった。供試された牛は、7 都道府 県に所在する農場から出荷されてい たが、腸内細菌科菌群の有無と、牛
個体の出荷地域、性別、去勢の有無 との間に関連性は見られなかった
(表 1)。
3.胆汁中におけるサルモネラ増殖 ミューラー・ヒントン寒天培地で発 育させたサルモネラを添加した場合で も、ミューラー・ヒントン培地で発育 させたサルモネラを添加した場合でも、
胆汁とミューラー・ヒントン培地にお ける増殖曲線は同じであった(38℃)。
一方、20℃で培養すると、5 時間後も菌 数増加は 10 倍未満であった(図 2 及び 3)。
D. まとめ
現在、多くの内臓取扱業者では、摘出 後の肝臓を丸ごと冷蔵室に保管している が、丸ごとでは、内部温度を急激に下げ ることができず、肝臓内部に細菌汚染が あった場合、20℃以下に下がるまでの間 に汚染細菌が増殖してしまう可能性が高 いことが判明した。また、当該施設では、
氷水中に 10 分間浸漬しているが、それも 表面温度を一時的に下げる効果しかない ことが判明した。
今回の調査でも、1 割強では胆汁に高濃 度(6.4 log cfu/mL 以上)の腸内細菌科 菌群の汚染が認められ、これら腸内細菌 科菌群によって肝臓内部が汚染されてい ると考えられる。
以上のことから、生食用として牛肝臓 を提供するためには、原料となる牛肝臓 内部の細菌汚染状態を摘出直後から悪化 させないようにする必要があり、摘出後 は丸ごとではなく、なるべく早く、カッ トし、急冷する必要があると考えられた。
44 今後は、カットの大きさ及び適切な急冷 方法について検討を行う必要がある。
E. 研究発表 1. 論文発表:なし 2. 学会発表:なし
F. 知的財産権の出願・登録状況 1. 特許取得:なし
2. 実用新案登録:なし 3. その他:なし
45 図 1:肝臓内部の温度変化
表 1:胆汁から腸内細菌科菌群が分離された個体情報
8 北海道 黒毛和種 去勢 2015/6/11 2.5 x 106 11 群馬 黒毛和種 去勢 2015/5/23 7.9 x 106 17 北海道 交雑種 去勢 2015/2/4 1.4 x 107 19 岩手 黒毛和種 去勢 2015/7/30 2.6 x 107 29 北海道 黒毛和種 雌 2015/3/28 3.6 x 106
出荷都
道府県 品種 性別等 生年月日 腸内細菌科菌群
(cfu/mL) 検体
番号
46
図 2:胆汁中におけるサルモネラ(S.Typhimurium LT2)の増殖能(ミューラー・ヒン トン寒天培地で前培養)
図 3:胆汁中におけるサルモネラの増殖能(ミューラー・ヒントン液体培地で前培養)