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先天性筋緊張性ジストロフィーの心病変と遺伝子診断 徳島大学小児科

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Academic year: 2021

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<Editorial Comment>

先天性筋緊張性ジストロフィーの心病変と遺伝子診断

徳島大学小児科 森 一博

近年の分子遺伝学の発展により,遺伝性神経筋疾患の中に triple repeat 病と呼ばれる疾患群が存在すること が明らかとなった.この triple repeart 病は従来のメンデル遺伝学では理解しがたい臨床遺伝学的特徴を備えて いる.現在,Fragile X 症候群,ハンチントン舞踏病など 10 以上の疾患が知られているが,筋緊張性ジストロ フィー(MD)は triple repeat 病の中でもっとも頻度が高く,心臓合併症を高率に認めるため,小児循環器医が 診療に関与することが多い.本稿では MD の臨床症状(特に心臓合併症)を分子遺伝学研究の成果と併せて概 説したい.

筋緊張性ジストロフィーの分子遺伝学

1.CTG repeat

Triple repeat 病とはゲノム DNA 上に存在する CTG-CTG―などの 3 塩基の繰り返し配列が,ある範囲を超 えて増大した時に発症する疾患である.MD の原因遺伝子は第 19 番染色体長腕 13.3 に存在する DMPK(myo- tonic dystrophy protein kinase)であり,その下流の非翻訳領域(3 non-coding exon)での CTG repeat の増加 により発症する1)2).正常人ではこの繰り返しが 35 回以下であるのに対して,患者では 50 から 4000 回に増加す る.CTG repeat 数は臓器により異なり(somatic instability),同一組織内でも repeat 数の異なる細胞が存在す る.

先天性 MD のほとんどは母親からの遺伝である.世代を経るごとに症状発現は若年化し,多くの場合重症化 する(anticipation).一方では世代間で繰り返し配列が縮小し臨床症状も軽減する例があり,この場合は父親か らの遺伝のことが多い(ゲノム刷り込み現象).先天性 MD は成人型に比して CTG repeat の繰り返し数が多い が,両者間には repeat 数に重なりがあり,重症度は必ずしも CTG の繰り返し数のみで規定されない.

2.DMPK

MD の原因遺伝子である DMPK は 1992 年に単離された1)2).本症では各組織における DMPK 蛋白が減少し ている.近年,DMPK 遺伝子の mRNA の CUG repeat と結合する蛋白の存在が明らかになった3).この CUG 結合蛋白が CUG repeat と結合して複合体を形成し, DMPK の転写産物のプロセッシング, 核内での安定化,

細胞質内への輸送を妨げ,細胞質内での DMPK の mRNA 量が減少し,蛋白質量の低下をきたすと考えられて いる.

DMPK は心筋では介在板,プルキンエ線維,筋小胞体に局在する4).DMPK は心筋での糖代謝や糖のリン酸 化に関与し,その障害により心筋細胞の機能低下をきたし,線維化や伝導障害を生じると推察される(図 1)5)6).DMPK ノックアウトマウスの培養骨格筋細胞の検討から,DMPK が細胞内のカルシウムの平衡状態を 動的に調節している蛋白であるとの指摘もある7).最近,Berul らは DMPK ノックアウトマウスで心電図異常 を生じることを証明し,心筋細胞におけるカルシウム電流が発症に関与する可能性を指摘した8)

本症における症状発現の機序に関しては DMPK の蛋白量の低下以外の説も提唱されている.pregressive fa- milial heart block type 1(PF-HB 1)遺伝子は DMPK 遺伝子の近傍に位置する.この遺伝子の障害により MD 類似の伝導障害をきたすことから,triple repeat が PF-HB 1 遺伝子の発現を阻害する可能性も考えられる9)

先天性筋緊張性ジストロフィーの心病変

1.不整脈

成人型 MD では,刺激伝導系のいずれの部位も障害され,洞性徐脈,I 度房室ブロックから,心室内伝導障害,

完全房室ブロックまで多彩である.病理学的には洞結節,房室結節,左脚の線維化,His 束の脂肪浸潤などを認 める6).DMPK ノックアウトマウスでも房室伝導障害を生じるが,その心内心電図では AH 時間よりも HV 時 間の延長が著明で,ヒトの MD の所見と類似している10).CTG repeat 数はこれらの伝導障害や加算平均心電図 日本小児循環器学会雑誌 16巻 6 号 887〜890頁(2000年)

(2)

での late potential と相関し,突然死などのハイリスク群の予測に有用であるとの報告がある11).逆に CTG re- peat 数と心電図異常は相関を有さないとの指摘もある12)

先天性の場合も成人型と同様に房室ブロック・心室内伝導障害を高頻度に認める.黒 論文が報告した QRS 電気軸上方偏位と QT 延長(心筋障害と関係か)は従来あまり強調されいないが,先天性 MD で重要な所見と 考えられる13)

2.心筋障害

本症では心筋障害は比較的稀である.成人型では心筋の肥大,左室拡大と収縮力低下を 10〜20% の例で認め る6).Child らはドプラ法による左室流入血流の検討で,心収縮能が正常の例でも高率に拡張障害( myocardial myotonia )を伴うと指摘している14).また,乳頭筋機能不全に伴う僧帽弁逸脱の報告もある.しかし,これらの 所見は先天性の場合には少ない.黒 論文が報告した肥大型心筋症の合併は極めて稀である13)

Reardon らは先天性 MD 44 例の死亡原因を検討し,不整脈死は 2 例で,原因不明の突然死が 6 名であったと 報告した15).黒 論文が指摘した心電図の QRS 電気軸上方偏位,QT 延長,心エコー図の非対称性心筋肥厚な どの所見13)と突然死の関連に関しては,今後症例を重ねる必要がある.

先天性筋緊張性ジストロフィーの遺伝子診断

先天性の場合,新生児期には血清の CPK は正常で,筋生検でも特異的所見を認めることが少なく,診断は遺 伝子解析が主体である16).現在,遺伝子診断は repeat を含む DNA をプローブとして Southern 法で行われる.

repeat 数によっては 20 Kb 以上の長い DNA 断片を電気泳動するためパルスフィールドゲル泳動を行う.上述 のように somatic instability があるため,末梢血白血球の DNA 分析の結果が必ずしも心筋 DNA の所見と一致 しない.また,Southern 法では必要な DNA 量が多く,羊水穿刺による胎児診断は困難である.

PCR 法は簡便であるが,繰り返しの大きな CTG repeat を増幅するとスメア状となり,うまく増幅されない.

そのため,バンドが 1 本の場合,ホモ接合体で正常を示しているのか,異常対立遺伝子の CTG repeat が大きす ぎて PCR の増幅できず正常対立遺伝子由来の PCR 産物のみ検出されているのかの区別が出来ない危険があ 日小循誌 16( 6 ),2000

図 1 筋緊張性ジストロフィーにおける心電図異常の発症機序(文献 6 を一部改)

888―(60)

(3)

る.

先天性筋緊張性ジストロフィーと周産期医療

軽症例の MD 合併の妊婦では無症状のため,MD と診断されていない例が多い.しかし,MD 合併妊婦では 妊娠中に症状の悪化を認める例や,麻酔剤や子宮収縮抑制剤(塩酸リトドリン)の使用で重大な合併症をきた すことがあり注意を要する.先天性 MD では胎児期の羊水過多および体動微弱,切迫早産,出生後の呼吸不全,

筋緊張低下など,成人型とは大きく異なる臨床症状を有する.

原因不明の羊水過多症例では,妊婦の顔貌に注意し,妊婦血清の CPK を測定し,MD が疑われる例では妊婦 のみならず胎児の遺伝子診断を施行する必要がある.出生前診断に関しては,妊娠 9−11 週では絨毛を採取し サザン法を,16 週以降では羊水細胞から LA-PCR 施行後サザン法を併用することで診断される.出生前に先天 性 MD が診断されれば,新生児科医,産科医,小児循環器科医が協力して,分娩方針や出生後の児の治療方針 をあらかじめ決定することが可能となる.

本疾患は常染色体優性の遺伝形式をとり,母親が MD である場合その子供は 1

2 は正常者,1

3 が MD とな り,先天性 MD となるのは約 20%(その半数は流産死)とされている.先天性 MD の患児では,同胞の新生児 死亡例や,母親の流産歴や死産歴を認める場合が多く,詳細な家族歴の検討と遺伝相談が不可欠である.

1)Buxton J, Shelbourne P, Davies J, Jones C, Van Tongeren T, Aslanidis C, de Jong P, Jansen G, Anvret M, Riley B:

Detection of an unstable fragment of DNA specific to individuals with myotonic dystrophy. Nature 1992;355:

547―548

2)Brook JD, McCurrach ME, Harley HG, Buckler AJ, Church D, Aburatani H, Hunter K, Stanton VP, Thirion JP, Hud- son T:Molecular basis of myotonic dystrophy:expansion of a trinucleotide(CTG)repeat at the 3' end of a tran- script encoding a protein kinase family member. Cell 1992;68:799―808

3)Timchenko LT, Miller JW, Timchenko NA, DeVore DR, Datar KV, Lin L, Roberts R, Caskey CT, Swanson MS:

Identification of a(CUG)n triple repeat RNA-binding protein and its expression in myotonic dystrophy. Nucleic Ac- ids Res 1996;24:4407―4414

4)Maeda M, Taft CS, Bush EW, Holder E, Bailey WM, Neville H, Perryman MB, Bies RD:Identification, tissue-specific expression, and subcellular localization of the 80-and 71-kDa forms of myotonic dystrophy kinase protein. J Biol Chem 1995;270:20246―20249

5)Annane D, Duboc D, Mazoyer B, Merlet P, Fiorelli M, Eymard B, Radvanyi H, Junien C, Fardeau M, Gajdos P:Cor- relation between decreased myocardial glucose phosphorylation and the DNA mutation size in myotonic dystrophy.

Circulation 1994;90:2629―2634

6)Phillips MF, Harper PS:Cardiac disease in myotonic dystrophy. Cardiovasc Res 1997;33:14―22

7)Benders AGM, Groenen PJTA, Oerlemans F, Veekamp JH, Wieringa B:Myotonic dystrophy protein kinase is in- volved in the modulation of the Ca++homeostasis in skeletal muscle cells. J Clin Invest 1997;100:1440―1447 8)Berul CI, Maguire CT, Aronovitz MJ, Greenwood J, Miller C, Gehrmann J, Housman D, Mendelsohn ME, Reddy S:

DMPK dosage alterations result in atrioventricular conduction abonormalities in a mouse myotonic dystrophy model. J Clin Invest 1999;103:R1―R7

9)Brink PA, Ferreirn A, Moolman JC, Weymar HW, van der Merwe PL, Corfield VA:Gene for progressive familial heart block type I maps to choromosome 19 q 13. Circulation 1995;91:1633―1640

10)Saba S, Vanderbrink BA, Luciano B, Aronovitz MJ, Berul CI, Beddy S, Housman D, Mendelsohn ME, Estes III NAM, Wang PJ:Localization of the sites of conduction abnormalities in a mouse model of myotonic dystrophy. J Cardio- vasc Electrophysiol 1999;10:1214―1220

11)Melacini P, Villanova C, Menegazzo E, Novelli G, Danieli G, Rizzoli G, Fasoli G, Angelini C, Buja G, Miorelli M, Dal- lapiccola B, Volta SD:Correlation between cardiac involvement and CTG trinucleotide repeat length in myotonic dystrophy. J Am Coll Cardiol 1995;25:239―245

12)Lazarus A, Varin J, Ounnoughene Z, Radvanyi H, Junien C, Coste J, Laforet P, Eymard B, Becane HM, Weber S, Duboc D:Relationships among electrophysiological findings and clinical status, heart funciton, and extent of DNA mutation in myotonic dystrophy. Circulation 1999;99:1041―1046

13)黒 健一,天野実華,満下紀恵,福岡哲哉,田中靖彦,斎藤彰博:小児期の先天性筋緊張性ジストロフィーにおける

心病変と突然死.日小循誌 2000;16:879―886

889―(61)

平成12年12月 1 日

(4)

14)Child JS, Perloff JK:Myocardial myotonia in myotonic muscular dystrophy. Am Heart J 1995;129:982―990 15)Reardon W, Newcombe R, Fenton I, Sibert J, Harper PS:The natural history of congenital myotonic dystrophy:

mortality and long term clinical aspects. Arch Dis Child 1993;68:177―181

16)山懸英久,三木哲朗,萩原俊男:筋緊張ジストロフィー,古庄敏行,井村裕夫編:臨床 DNA 診断.東京,金原出版,

1995, pp 633―636

890―(62) 日本小児循環器学会雑誌 第16巻 第 6 号

参照

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