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遺伝子解析により表現促進を解明した筋強直性ジストロフィーの1母児例

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Academic year: 2021

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遺伝子解析により表現促進を解明した

筋強直性ジストロフィーの1母子例

   1)東京女子医科大学 小児科学教室(主任:福山幸夫教授)    2)大阪大学医学部老年病医学構座    3)水戸赤十字病院小児科 ムトウ  アヤコ    オオサワマ キ コ    シンクラ  ケイコ    スズキ  ハルコ 武藤 順子1)・大澤真木子1)・宍倉 啓子1)・鈴木 陽子1) イマイズミ トモイチ   ヤナガキ  シゲル   フクヤマ  ユキオ    ミ キ  テツロウ

今泉友一)・半群 繁1)・福山幸夫1)・三木哲郎2)

ヤマガタ  ヒデピサ    ナガタ  ミチコ 山縣 英久2)・永田 道子3) (受付 平成5年6月22日)          緒  雷  筋強直性ジストロフィー(myotonic dystro− phy;MyD)は,筋強直・筋萎縮の他全身の症状を 合併する常染色体優性の遺伝病で,臨床的に本症 母親から先天性MyD(congenital myotonic dys・ trophy;CMyD)が出生したり,世代を重ねる度 に症状が悪化する表現促進現象が認められること が注目されてきた.MyDの原因遺伝子が第19番 染色体上にあることは判明していたが,近年原因

遺伝子と考えられるcDNAを含む不安定領域が

単離され1)∼3),患者におけるDNA異常の実態が 解明された.これまでの遺伝子診断は,多型性 DNAマーカーを使って家系を連鎖分析により診 断する間接的なものであったが,いまや原因遺伝 子そのものを標的とする直接診断が可能となり, 表現促進現象の説明も可能となった4圃.今回 我々は,本症母児例を経験し,遺伝子分析結果か らも本現象を確認し得たので報告する.      症 月齢8ヵ月, 例  症例:      女児.  主訴:首がすおらないこと.  家族歴:母に流産2回,子宮外妊娠1回の既往 あり(図1).母は甲唄の当科初診時,偶然MyD の特徴的な臨床症状に気付かれ,諸検査の結果 MyDと診断された.母の父に禿頭,母の姉と父方 叔父に自内障がある.  現病歴:出生時母30歳,父37歳.妊娠26週より

SSA

m

Q白内障 0禿頭 0ミオトニー 図1 家族歴 Ayako MUTO, Makiko OSAWA, K:eiko SHISHIKURA, Haruko SUZUKI, Tomoichi IMAIZUMI, Shigeru YANAGAKI, Yukio FUKUYAMA〔Department of Pediatrics(Director:Prof. Yukio FU− KUYAMA), Tokyo Women’s Medical Collage〕Tetsuro MIKI, Hidehisa YAMAGATA〔Department of Geriatric Medicine, Osaka University School of Medicine〕and Michiko NAGATA〔Department of Pediatrics, Mito Red−Cross Hospital〕:Amother and baby with myotonic dystrophy(MyD):increase in size of an unstable DNA fragment speci丘。 to MyD through generations

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a b          図 2 a:患児8ヵ月と母の顔面像 患児は側頭筋の萎縮,テント円上口唇が見られ,母も 側頭筋の萎縮が認められる. b:嬰児8ヵ月の全身像 pithed frog postureを呈している. c:叩打した後の母の舌のミオトニー クローバー状になっている. 高位破水のため母は入院し,羊水過多症,胎児水 腫疑いにて在胎34週,吸引分娩で出生.体重2,224 g,Apgar score 1→4点.自発呼吸が弱いため同日 より気管内挿管し,人工呼吸器療法を10日間施行, 約ユヵ月後に再び約1週間施行された.その後抜 管し酸素投与され,生後約4ヵ月,体重3,260gに て退院した.その後哺乳力弱く,体重増加不良, 8ヵ月検診で定難なく,当科に紹介入院となった.  現症:身長64.8cm(一1.2SD),体重4,622g(一 3.9SD),頭囲41cm(一1.5SD),胸囲37.6cm(一 2.9SD)と成長障害があり,呼吸は不整で陥没呼吸 を認めた.顔貌には側頭筋萎縮があり,口を常に 開口し上口唇はテント状,高口蓋を認めた(図2 a).筋緊張低下があり,且oppy infantの像を呈し たが(図2b),自発運動は良好で,四肢には重力に 抗した動作が認められた.深部反射は正常ないし C 1俘

囚1瀞

馨   図3 患児8ヵ月時の胸部レントゲン写真 右横隔膜の挙上がみられる,     図4 患児8ヵ月時の頭部CT 軽度脳萎縮がみられる. 軽度充離し,Babinski反射は陽性であった.白内 障は認められなかった.  検査所見:血清CK(クレアチンキナーゼ)444 mU/ml,アルドラーゼ17.9U/1と軽度上昇.胸部 X線上右横隔膜挙上を認め,CTR 65%,心電図上 二次性肺高血圧による軽度の右室肥大があった (図3).脳波,ABR, VER,運動神経伝導速度は 正常,筋電図では刺入ミオトニー発射を認めず. DQは津守・稲毛式で60であった.頭部CT(図4) 一E339一

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1 2

4

5

6

1

2

4

5

6

      図5 骨格筋CT大腿筋中央部 下:甲唄8ヵ月時,筋全体の萎縮がみられる. 右:母,一部に筋の萎縮が見られる. 1:大腿四頭筋,2:縫工筋,3:薄筋,4:大内転筋,5:半膜様筋・半腱様筋, 6:大腿二頭筋. では軽度脳萎縮を,またmagnetic resonance imaging(MRI)ではTl強調像でmyelinationの 遅延が広範に認められた.骨格筋CTでは筋全体 の軽度萎縮が認められた(図5).  母の所見:母は患児当科受診まで健康と考えら れていたが,歩行開始時に足先が突っ張る,茶碗 をテーブルに置く時に手が充分開かないなどの症 状があり,把握ミオトニー,母指球・舌の叩打ミ オトニー(図2c)が認められた.検査上後嚢白内 障があり,筋電図でミオトニー性放電,骨格筋CT で筋内に低吸収域の部分が認められた(図5).  筋生検所見:大腿四頭筋の開放筋生検(図6a) では,筋線維間隙への結合織の浸潤を経度に認め るが,筋線維束の基本構築は良く保たれていた. 筋線維は中等度の大小不同を示し,散在性に小角 化線維を認めた.中心核線維や中心核の鎖状配列, その他の変性所見や再生所見に乏しく,各種酵素 染色でも酵素活性の低下は認められなかった.特 徴的な所見としては人別筋線維の分布の違いを呈 したことである.ある線維束では1型線維優位 (59.2%)を(図6b),他の線維束では1型線維萎 縮(平均直径8.2μm)を(図6c),また別の線維束 では1型線維優位(90。0%)とII型線維萎縮(平 均直径6,5μm)を認めた(図6d).すなわち筋線維 束毎に筋線維型別分布の所見の違いを認めた.し かも,分布の異なる線維束は離れた部位ではなく, 隣接していた.しかし1,800本計測による全体のヒ ストグラムでは1型線維優位(61.4%)を示すの みであった(図6e).  遺伝子解析:第19番染色体長腕13.3上の筋強直 性ジストロフィー遺伝子のcDNAをプローブと して,EcoRIで消化したDNAとサザン・・イブリ

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b 。 4ン堕一冴三…一・・㍉_ 5   10  15  20  25  30  35  4b  45  50(μm) 250

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割合(%) 径(μm) 200 線150 維 数  可oo

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0 【 皿a   Eb la l: 3器 マ 男:l l:; 17.5±2.ア 6,5±2.0 8.1±3,9 17,3 0   5  10  15  20  25  30  35  40  45  50 (μm)         径  180  160  140    り 線100 維 数 80  60  40   ロ C o

1 .la

    l: 数 甥 4; 割合〔%) 1::l l:1 径(μm) ㌧虹a 一、L去茎ミき』 8,2±2.5 13.5±4.0 14.5±6【0 10.8±3.4

。510152G

@2

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35   40   45   鉛 (μm)        図6 筋生検とヒストグラム al大腿四頭筋開放筋生検.×40, ATPase染色pH 11.2 b:1型線維優位が認められる線維束のヒストグラム C:1型線維萎縮が認められる線維束のヒストグラム d:1型線維優位とII型線維の萎縮が認められる線維束のヒストグラム e:全体のヒストグラム ダイゼーションを行った.父は9.8kbと8。6kbの 正常対照と同じバンドが出現したが,母では9.8 kbのバンドと11kbのバンドが出現した.患児で は父由来の8.6kbの・ミソドと母由来のさらに拡大 したと思われる12.5kbのバンドが認められた(図 7).以上母児共に正常よりサイズの大ぎいパソド が出現していることにより,MyDと遺伝子診断 された.さらに,臨床症状がより重篤で発症年齢 の早い児で不安定領域のサイズが大きいことが確 認された.          考  案  MyDはミオトニー,筋萎縮および他の多彩な 病態を主徴とする常染色体性優性遺伝性疾患であ る.実際の家系では,同世代のみの発症や孤発例 一E341一

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 C

kb

12.5 11 9.8 8.6 図7 患児の家系における不安定DNA領域の拡大  父は正常バンドが出現しているが母と患児は正常よ  り大きいバンドが出現している.c:コントロール. も少なくなく,その症状の程度は様々であること から,MyDの遺伝子の浸透度は比較的低く,表現 度にも多様性があると考えられている.発症年齢 は平均30∼40歳ごろである.臨床的には,代を重 ねるごとに発症年齢が低下し,また症状が重症化 するという表現促進現象が認められている.有病 率は10万人に1人程度とされている8).  MyDは従来成人になって発症する疾患と考え られていたが,1960年Vanierによって新生児期 発症例(CMyD)が最初に報告された9).主な症状 は筋緊張低下,ミオパチー顔貌,筋萎縮,呼吸障 害,哺乳障害で,小症状としては羊水過多,骨格 の変形(内反足),横隔膜挙上,肋骨の非薄化,浮 腫,血腫,肛門解約筋不全などがある10). く大小不同があり,時に中心に核を持つmyotube 様の構造を示す.ATP ase染色で1型線維萎縮を 認め,筋線維分化の遅延を示唆すると考えられる 未分化なIIc型線維が10%前後から数10%に増加 しているといわれる.そして年齢と共に1型線維 の萎縮と優位性が顕著となってくる.MyDでは 筋線維の著明な大小不同,多核化,ring丘ber,筋 形質の空胞化など多彩な所見がある12).本症例で は全体を平均すると1型線維萎縮が認められる が,ある線維束では1型線維萎縮があり,他の線 維束ではII型線維萎縮と著明な1型線維優位を呈 するというような線維束毎の違いが認められた. このような線維束毎の筋線維型別分布の違いは, 著者らが調べた範囲ではCMyDでは報告された ことがない.その意義については,今後の解明が 待たれる.

 CMyDの診断には症状だけでなく,母親が

MyDに罹患していることが重要であるが,母親 は先天型の児が生まれるまで無自覚であることも 多い.しかし近年原因遺伝子の発見に伴い,遺伝 子検査による正確な診断が可能となった.本症例 の母親も患児が当科受診の際初めて本症と診断さ れたが,遺伝子検査により診断が確定した.  本症の原因遺伝子については,1990年代になり CKMM  ERCC2   ERCCI  pEXO.8 p37.1 pXア5B D19S51 ←動原体

N日7 τ5   ロニ pBE・・8ilP36・1 D19S6311 r一一一一」L鱒一一一■ 1       ■ I      l   CTGCTG...(CTG)n D19S62 末端部→ O非罹患者 n=5 ∼  30 ・罹患者

ュ:』::野饗欝

図8 筋強直性ジストロフィー遺伝子

(6)

人ではその繰り返し単位が5∼30回であるのに対 し,患者では50回以上2,000回まで拡大している (図9)14)一16).そして繰り返しが多いほど臨床症状 が重いことが明らかにされた.  従来本症では,世代を重ねるたびに症状が悪化 する表現促進現象anticipationなどが見られる ことが謎とされてきた.またさらに父親でなく母 親が患者の場合に先天型の児が産まれることも大 きな謎であった.責任遺伝子の解明によって表現 促進現象についてはかなり説明可能になったが, 母親が患者の場合のみに先天型の児が生まれる機 構についてはなお不明である.  しかし,そのひとつの仮説として,母親の子宮 内因子の影響が考慮されている.その証拠として は,臨床症状が生下時に最も強くその後改善する という事実,突然変異により先天型が発症した報 告が無いこと,両親のうち罹患しているのは母親 であることが挙げられる.さらに患児の発症に際 し,母親の子宮内因子の影響に加え,その個体が P q 13.3 13.2 13.1 マ  胴 12 13.1 13.2 13.3 13.4   健常 @ (CTG)n @ 最低n=5 @ (  最高n=30 謔P9染色体 MyD患者 iCTG)n ナ低n=50 i最高n置2000 図9 筋強直性ジストロフィーにおける遺伝子異常 (genomic imprinting)が関与している可能性であ る.遺伝子が父親由来の場合に症状が軽くなると いう本症においては,paternal imprintingの可能 性も考えられる.これらの点は,今後患者の遺伝 子が母親由来の場合と父親由来の場合とで各症例 の遺伝子の長さを比較し,遺伝子の長さの異常が 同じでも母親由来の場合の方が症状がより重篤で あるか杏かなどを検討する必要があろう17)18).       文  献  1)Harley HG, Brook JD, Rundle SA et al:   Expansioロof an unstable DNA region and   phenotypic variatlon in myotonic dystrophy.   Nature 355:545−546,1992.  2) Buxton J, Shelbourne P, 1)avies J et a1:   Detection of an unstable fragment of DNA   specific to individuals with myotonic dystro−   phy. Nature 355:547−548,1992  3)Aslanidis C, Jansen G, Amemiya C et a藍:   Cloning of the essential myotonic dystrophy   region and mapping of the putative defect.   Nature 355:548−551,1992  4)山縣英久,三木哲郎,Johnson Kほか:筋緊張性    ジストロフィー症のDNA診断.医のあゆみ    161 :947−948, 1992  5)山縣英久,三木哲郎,荻原俊男:筋緊張性ジスト    ロフィー症の分子遺伝学.医のあゆみ 162:   637−641, 1992  6)荒畑喜一:筋ジストロフィーの遺伝子診断.医の    あゆみ 161:630−636,1992  7)辻 省次,五十嵐修一,田中 一:神経系疾患の   遺伝子学.最新医学 47:1795−1807,1992  8)大澤真木子:筋疾患の遺伝子学.「小児運動器病学    1 新小児科学体系 15A」(小林 登,多田哲也,   藪内百治責編),pp120−162,中山書店,東京(1986)  9)Vanier TM:Dystrophia myotonica in child・   hood. Br Med J 2:1284−1288,1960  10)満留昭久:筋緊張症候群。小児医学 25:85−103,    1992  11)若井周治:先天性筋緊張性ジストPフィー症の筋    組織像と臨床像との関連についての経時的検討,    札幌医誌 59:447−459,1990  12)檜澤一夫,埜中征哉,小沢鎭二郎編:筋病理学.   pp196−443,文光堂,東京(1989)

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Myotonic dystrophy mutation: An unstable

CTG repeat in the 3' untranslated tegion of the gene. Science 255: 1235-1255, 1992

15) Fu YH, Pizzuti A, Fenwick RG et al: An

unstable triplet repeat ip a gene related to myotonic muscular dystrophy. Science '255 l

1256-1258, 1992

kinase family member. Cell 68 l 799-808, 1992 17) Monk K : Genomic imprinting. Genes Dev 2 :

921-925, 1988

18) Holl JG: Genomic imprinting. Review and relevance to human diseases. Am J Hum Genet 46:847-873, 1990

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参照

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