西松建設技報∨O」.12
∪.D.C.624.078.8+.137.5
鉄筋挿入による切土斜面の補強
Cut−SlopeStabilitybyEarthReinforcementTechnique
鳥居 雅之**
Masayuki Torii 池田 久人=**
Hisato Ikeda 塩月 知道*
Tomomichishiotsuki 平野 孝行*
Takayuki Hirano
藤井 利借***
Toshiyuki Fujii
林 諌介=
Kensuke Hayashi
要 約
近年,新しい材料や工法による地盤改良工法の開発が盛んに行われている.鉄筋を用い た斜面の安定工法もその一つであり,補強土工法として土木施工法の一分野を確立しつつ ある.
本文では,土質工学的に体系化され始めた本工法の設計法についてその特徴と,数ある 設計法の利用上の注意事項を整理するとともに国内外での2件の事例報告をする.掘削深 さ11m,1分勾配の山留めに利用した国内事例では,掘削中の計測結果と,FEM解析結果 の比較に重点を置き,変位および補強材軸力について良好な結果が得られたことを報告す る.また,マサ土地常における切土斜面へのトンネル坑口づけに際して,その周辺斜面の 補強に利用した海外の事例では,設計手法と,施工概要について述べる.
−ト等の構造物によって,半ば強制的に地盤の変形を抑 制するものであり,言わば土が本来持つ強度・変形特性
を積極的に利用するものではない.
これに対して,近年脚光を浴び,急速に普及し始めた 工法に補強土工法とよばれる,方法がある.これは,Table
1に示すように,不織布や樹脂ネット,鉄筋等を用いて,
土構造物,抗土庄構造物を構築するものである.土の圧 縮・せん断・引張変形に対して追随できる材料を用い,
土と補強材との相互作用によって,土塊が本来有する強 度以上の抵抗を付与することを目的としている.土の強
度を十分に引き出すための方策として補強材を利用する
点が,本工法の基本理念であり,土が本来有する強度を 積極的に活用しようという観点から,能動的な対応策と
いうことができる.
補強土工法は,古代ローマの軟弱地盤上の敷丸太工法 による道路建設時や,我が国の奈良時代から現代に至る
まで使用されている粗だ・什材等による沼地の埋立て・
盛土等に見ることができる.
このように,土中に補強材を入れることによって地盤
59 目 次
§1.はじめに
§2.鉄筋挿入による補強土工法
§3.施工事例−1
§4.施工事例t2
§5.あとがき
§1.はじめに
土構造物の安定性を確保するために,これまで一般に 行われてきた方法は,土構造物(盛土,切土)そのもの や基礎地盤を強化したり,抗土庄構造物(擁壁等)を構 築する方法であった.
これらの方法は,土そのものの強度や変形特性を変え ることによって安定性を高めたり,開催の高いコンクリ
*土木設計部
■*香港(支)工事部設計課
♯♯*土木設計部副課長
*−**東関東(支)習志野立体(作)
鉄筋挿入による切土斜面の補強 西松迂、」〕fユ妄正∨OL−12
Tablel補強土工法の分類
分 類 模 式 図 例
・テールアルメ工法
仏)壁面をもつ ・ポリマーグリッドによる
u 垂直補強土擁壁
工法 ・ヨーク式盛土工法
\補強材 ・多数アンカー式擁壁など 基礎コンクリート
盛土 補強材 ル%ククク′軟弱地盤棚 ・シート,ネットなどによ
(B)地盤・盛土 る表層地盤処理工法
の補強工法 ・シート.ネットなどによ
る盛土補強工法
_二二二∵㌧\ノ′二=二_  ̄ ̄t ̄ 補強材  ̄ ̄ ̄ ̄
(C)切土斜面,
自然地山の 補強工法
補強材・鉄筋頬挿入工法
・網状鉄筋挿入(ルートパ イル)工法など
強化を図る補強土工法は,それ自体,新しいもので古 まな い.しかし,近年,新しい材料の開発と補強メカニズム
に対する土質力学の面からの研究が進められ,土木施工 法の一分野としての立場が確立されてきているものであ
る.
本報文では,Tablelに示した補強土工法のうち,鉄 筋挿入による切土斜面の補強土工法について概説し,併 せて,国内外の施工事例について報告するものである.
現在までに考えられている補強効果の基本的な考え方
には,補強領域にすべり面を考え,補強材の走者をすべ り面外の安定な地山に行った後,補強材の引張力または せん断力を期待する方法と,重力式擁壁のように補強領
域が同作村ヒして土庄に抵抗すると考える2つの方法があ
る.補強材の引張力やせん断力に期待する前者の考え方 は,従来から行われているアースアンカー工法と同じよ
うに土塊のすべり面外への定着力が必要となることか ら,必ずしも純粋な補強土工法とはいえないとする意見 もある.
2−2 設計法の種類と概要
鉄筋挿入による補強土工法の設計手法には,現在まで のところいわゆるオーソライズされた方法というのはま だない.ここでは,現在までに提案されている主な手法
(Table2)についてその概要を示すとともに,その利用 方法の目安について概説する.
(1)簡便法
日本道路公団がすべりブロックと基岩の一附ヒ もし くは不連続面を境界とした数層を一附ヒすることを目的 として,設計要領第一集参考資料8−2に示す手法であ る3).
本手法はTable2(a)に示す土塊のすべりに対して,
§2.鉄筋挿入による補強土工法
2−1 概要
鉄筋挿入による補強土工法は補強材としての鉄筋を地
中に打設して,鉄筋がもつ引張力やせん断力を土に付与 することによって,地山強度の弱点を補い,地盤と補強
材とが個々に有する強度を相互に有効活用させて地山全
体(切土面)の安定化を図る工法である.
木工法は,地山が本来有する強度を有効に活用するこ とが基本であるため,掘削に伴う地山の緩みや,強度低 下を極力抑える施工法としなくてはならない.このため,
切土を一度に行わずに,段階的な切土と引き続いた切土 面の補強を連続的に行うことを要求される.
60
重松建喜云技輔∨OL.12 鉄筋挿入による切土斜面の補強
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鉄筋挿入による切土斜面の補強 匹は娃昌是投報∨O」.12
方を取り入れることは危険側の要素をはらんでいること
になる.龍岡らが,今後の研究成果を併せ考えることに よって,十分な検討をしなくてはいけないとする理由も
このあたりにあると考えられる.(4)複合すべり極限釣り合い法
Gudehus(グデウス)ら6)は補強土工法を施した切土背
面への載荷実験の結果より,Table2(d)に示すような補 強土塊のすべりを想定し,図中の仇。,β1♭を変化させた
極限釣り合い法によって力の釣り合いを解き,これによって安定性を照査する方法を示した.さらにGudehus
らは上界定理による極限解析を行って,想定したすべり
面形状が解析的にも評価できることを示した.
本手法は補強土壁背面に外力が作用する場合には,実
験的にも理論的にもほぼ妥当な結果を与えているようで
あるが,背面に外力が作用しないいわゆる土塊内部の内 力問題に対してはまだ検討の余地があると考えられる.
本手法について,Gudehusらは補強材の配置を簡便
に求めるための計算図表を提示している.Fig.1は彼らの示す計算図表の1例である.また,本手法はBauer(バ
ウアー)システムとして国内にも導入されている.この システムでは部分安全係数による限界状態設計が行われ
ているが,この部分安全係数のとらえ方について,国内
では十分な検証が行われているとはいえず,過大な設計となることが多いようである.
(5)設計手法の選定とその利用
今のところ,ここに示した四つの設計手法のどれを採 用すべきかについての定説はない.奥原らは,想定され
る地山の崩壊パターンと土質に応じた設計手法の選定の 目安として,Table3を示している1).
しかしながら,この表はあくまで一つの目安にすぎず,
それぞれの設計方法に未解明な問題を多く内包している 現状では補強土塊の内的・外的安定の照査を行うのみな
らず,数種の設計方法による照査を行って技術者として の総合判断を行う必要があると考える.
これまで述べてきたいくつかの解析手法の違いを知る
ために,一例として,Fig.2の補強土工法によって補強
された切土断面について,仮想壁体法と複合すべり極限釣り合い法の2手法で安全率の計算を行ってみた.仮想
壁体法の場合,仮想壁御岳2.20m,安全率は2.30となるのに対して,Fig.1を参考とした複合すべり極限釣り合
い法の場合には安全率は1.22と非常に小さくなっている.これは後者の設計方法がひとえにすべり面外への定
着によって安全性を議論していることによるものであ
り,従来のアースアンカー工法の域を脱しきれないとい
われるゆえんである.しかし,この結果からだけで仮想
補強材のせん断力と安定地山に対する補強材の定着力に
よって安定化を図る方法である.
この設計手法には,補強材の純せん断に期待している
こと,また,補強材の抜け出し方向と定着方向が一致し ないことなどの問題点が含まれている.しかし,亀裂や
節理あるいは層理の発達した岩盤のすべりのように単一
すべりが形成される斜面の補強には,本手法のような補
強材のせん断照査が必要になる場合もある.(2)仮想壁体法
現在までに経験的に実証されてきた設計方法であると
いえる.この設計法の基本的な考え方は,TabLe2(b)に
示すように補強領域は完全に一耐ヒして重力式コンクリ
ート擁壁のような挙軌をするというものである.したが
って,設計そのものは,仮想の一肘ヒ領域に対する滑勤・
幸雄い支持力といった安定計算で照査することが基本と
なる.これと同時に,個々の鉄筋の抜け出しと地山の一 体化の可能性についても照査が必要となる.
山本ら4)は,種々の模型実験の結果をもとに,Table2
(b)のすべり線bocを仮定した滑動に対する安定計算手
法を示している.山本らは,支持力に対する検言寸の必要
性は示しているものの,特に地盤が良い場合は省略も可能との判断をしている.また転倒に対する検討は全く不 要であるとしており,この理由として,鉄筋で一附ヒさ
れた仮想壁体(山本らはこれを擬似擁壁と呼んでいる)
は,土嚢を積み重ねた構造物と同じように壁体にモーメ ントを生じさせるような力が作用しても,これを上下の
ブロック間のせん断変形に変えてしまうことをあげてい る.
この設計方法の場合に大きく問題となるのが仮想壁体
幅をどのように見積るかということである.山本らも,
理論的にはTabLe2(b沖Leminの式中tan(7T/4−¢/
2)はtan(方/4+¢/2)でよいのではないかと考えられ
るものの,実験結果を考えればTable2(b)中に示した
式を用いるのが現状では安全側であるとしている.(3)円弧すべり極限釣り合い法
龍岡らは簡易Bishop(ビショップ)法を修正した円弧
すべり極限釣り合い法によって力の釣り合いを解き,こ
れによって安定性を照査する方法を示し!:上で,Table 2(C)のように解析法を簡単にした分割法による設計手 法を提案した1).本手法の採用にあたって,特に留意すべき点は鉄筋の 引張力Tの決定方法と,rのすべり面法線方向分力を すべり面の摩擦抵抗分に付与している点である.鉄筋挿 入による補強土工法の場合,アースアンカー工法と違っ
てプレストレスの導入が不可能なことから,後者の考え62
鉄筋挿入による切土斜面の補強 堕し.淳_;三i・九VCL_12
minf;1.6
「ノし=0.6
】。=100
㌔
ご=100
(3)地山を削孔す る,
15 20 25 30 35 匝]40 45βl。
Fig.1複合すべり極限釣り合い法による
補強土工法設計計算図表6)
補強材鉛直間隔 補強材水平間隔 他山の単佗体績重量 地山のせん斬抵抗角 補強材定着強度 補強土塊幅・高さ比 2.5
〃一−
r 元話1.8×1.5×Ⅲ=0朋
Fig.2 補強土工法設言仰j
Table3 崩壊パターンと設計法1) Fig.3 補強土工法の施工方法1)
崩 壊 パ タ ー ン 運 用 設 計 法 土 質
H弧すべりで近似される崩壊 円弧すべり極限釣り合い設計法 相性t
接い秒賀.i二 崖錐
′ト規模な層すべりによる崩壊簡便設計法 崖錐
㌫璧の崩壊 風化岩
‖ 川 較岩
ヒ戟荷重が作用した場合の崩壊 円弧すべり権限釣り合い設計法 締まった粘性t二 持合すべり極限釣り合い設計法 締まっJご砂賀土
のり高が8.Omu下で大きい円 仮想壁体法 比較的締まっ′ご粘性ヒ 孤すべりがない場合
円弧すべり極限釣り合い設計法 複合すべり極限釣り合い設計法
補強土工法とは,地山強度をいかに有効に活用できる かが重要な課題となる工法であることは先に述べた.こ のため,掘削に伴う地山の緩みや,強度低下を極力少な くするような施刀去が要求される.このため,一般的に は次のような手順で施工が行われる(Fig.3参照).①計 画勾配で自立する高さを掘削する.②掘削直後に法面防 護の意味で溶接金網をはり,一次吹付けを行う.③所定 の高さにレツグドリル等で所定の長さを削孔する.④削 孔した孔にダラウト材を注入し,補強材(鉄筋)を挿入 する.⑤プレートとナットで補強材頭部の処理を行う.
⑥二次吹付けによって補強材(鉄筋)と表面吹付けを一 体化し,一段階の作業を終える.
一段階の掘削高さは地形・地質によって異なるが,施
占3
壁体法を採用すると判断するのは早計であり,あくまで 地山の自立性や地質年代,施工条件等を加味した工学的 判断のもとで総合的に結論付けなくてはいけない.
2−3 施工法の概要
西松建設提議VOL.12 鉄筋挿入による切土斜面の補強
施工断面と掘削ステップの関係をFig.4に示す.な お,施工手順は2−3施工法の概要に準じた.
3−3 動態観測
本工事は鉄筋挿入による土砂地山への補強土工法とし
Table4 土質定数
工能率等を考慮した場合1.5m前後が∵般的な値とされている.また,吹付厚さは,地質や構造物の耐用期間等
によって異なるが,法面防護工で用いられている値を参 考にして決定されている.
§3.施工事例−1
3−1地形・地質の概要
現場は千葉県市川市付近の下総台地に位置し,地下水 位はGL−15m以探と深い.関東ローム(Lm)を最上位
とし,以下常総粘土(Dc),成田砂層(Su,S)と続いて いる.対象地盤の土質柱状図と掘削断面の関係をFig.4
に,また,設計に用いた土質定数をTable4に示す.3−2 設計手法と施工断面
本施工例では,対象層がN値は低いものの,自立性の 高いローム層や洪積の成田砂層であることから,設計手
法として複合すべり極限釣り合い法と仮想壁体法の2種 類を採用した.
設計の結果,補強材長さは仮想壁体法を用いた場合よ
りも5()ml程度長い複合すべり極限釣り合い法によって
決定された値を採用した.これは今回工事が掘削探さ11 m切土勾配1分の土砂地山の掘削工事であったため,過
去の施工事例に乏しいことから安全側に対処したもので ある.
r C ¢ 且
(tf/m8) (tf/mz) (deg.) (tf/m丑)
Lm,Dc 1.3 3.4 1000 Su 1.7 0.0 35 2400
S且 1.7 0.0 35 4200
Table5 計測項目と計測計器
計 測 項 目 計 測 機 器
地滑り計
地表面変位
変位杭
内 空 変 位 スチールテープ
地 中 変 位 挿入式傾斜計
ロックボルト(歪ゲージ)
挿入鉄筋軸力
センターホール荷重計
Fig.4 設計および計測断面
d4
鉄筋挿入による切土斜面の補強 匹転建設枝報∨OL.12
ており,補強背面が前例れ変位を示していることから,
補強土塊が一一軒ヒしたことがうかがえる.さらにその
変位は,ローム層掘削中はほとんど出現せず,成田砂
層の掘削に入ってから1ステップ毎に生じている.こ のことはFig.5(b)からも明らかである.変位の出現 は掘削直後にのみ生じ,次段掘削までにはほぼ安定していることも読み取れる.なお,同図中33日以降の変 位の急増は,補強土塊上部で躯体構築のために資機材
搬入の目的で行ったトラッククレーン(20tf)等の重機
ては上捷如勺大規模な工事であったため,工事の安全管理
や設討法へのフィードバックを目的として計測管理を行 った.計測項目と討j則計器の配置をそれぞれTable5,
Fig.4に示す.
3−4 動態観測結果と数値解析結果
(1)地中変位 i)計測結果
各段掘削終了時における地中変位の計測結果を Fig.5に示す.補強領域が水平の滑り出し変位を示し
変位(mm) 変位(mm)
1510 5 0 15 10 5 O
i貝11定深度
5 0 5 0 1 2
︵∈︶
正二コ車達
(b)各深度における時系列変位
(a)深度方向変位
Fig.5 地中変位(実測値)
変位(mm) 変位(mm)
1510 5 0 1510 5 0
変位(mm) 変位(mm)
1510 5 0 1510 5 0
③
』
u
r
(b)無補強の場合
(a)補強材を考慮しナご場合
Fig.6 地中変位(解析値)
d5
西松達誌抜舐∨⊂JL .一コ 鉄筋挿入による切土斜面の補強
1次掘削 2次掘削 3次掘削 4次掘削 5次掘削 6次掘削 7次掘削
0 軸距(m) 4・5
(b)解 析 Fig.7 鉄筋軸力
(a)実 測
る.頭部は,吹付コンクリートとの結合のため,1tf以 下の軸力が発生しており,吹付コンクリートが,地山の
拘束に関与している事実がはっきりする.実測値および 解析結果とも,掘削の進行に伴って最大軸力の発現点が ほとんど変化しないことも地山の拘束,ひいては一体化 の事実を裏付けているといえる.この発現傾向は数値解 析の結果にもはっきりと現れており,更にその絶村値も,
ほぼ一致した値となっている.
(3)地山の応力経路
地山の応力経路についての実測結果はないので,数値 解析の結果によって,補強土と無補強土とを比較する.
Fig.8に,数値解析の結果を示す.補強土塊の中間部に
ついて,要素を抽出し,その応力状態を掘削ステップに応じて表現してみた.Gエー7.1m以下の点(図中丸印よ
り右の3本の線)が砂層の要素を示す.無補強の場合,
明らかにせん断成分qのみが卓越して破壊基準を超え るのに対して,補強された場合,せん断成分の発現が抑
えられるだけでなく,拘束成分〆の増加もか、まって破
壊基準を超えにくくなっている.
3−5 原設計との比較
実測結果に基づく変位モードから,補強土塊はほぼ水 平に滑勤していると考えられる.したがって,補強後の 安定チェックは,山本らの言うように滑動の照査で十分 な安全率が得られるようしておけば,転倒に対する照査 は不要であると考えられる.
これに対して,鉄筋軸力は,設計値が7tf程度である のに対し,実測結果は2−3tf程度しかなく,設計値の
悠程度となっている.過大な安全性を有しているともい
えるが,この原因は,掘削直後のある程度の変位による
応力解放によって,その後挿入された鉄筋への軸力転嫁
施工の影響とみられる.変位出現が,補強材挿入によって抑制されるのか,
吹付けによって抑制されるのかは,この計測結果だけ
から明らかにすることはできないものの,筆者らは,
数値解析に対するパラメトリック・スタディの結果や
他の文献1等の実験結果から,早期吹付けが変位抑制
に大きく影響しているものと考える.ii)数値解析結果との比較
数値解析は,線形弾性FEM解析を用いて行った.
その際,地山掘削による解放力は,各段毎に掘削面に 100%発生するとしている.吹付コンクリートと補強材 は,梁要素とし,地山要素と密着したモデルを採用し ている.現在各方面から発表される論文には,補強材
と地山をジョイント要素でつなぐ例が多い.しかし,
本解析では,補強材の抜け出しまでは対象とせず,あ くまで弾性領域の問題としてとらえているため,密着
モデルで検討することにした.検討の結果をFig.6に示す.(a)は補強材を考慮した場合の図で,補強土塊内
の変位は実測値の変位モードによく似ていることがわ かる.変位の絶対値は,重機施工の影響がないと思わ
れる値の70%程度である.(b)は補強を行わない場合の 結果であるが,壁面のはらみ出しが顕著な変位モード
となっている.(a)と(b)を比べると補強材による土塊の
一体化の効果が変位モードによく現れていることがわ かる.
(2)鉄筋軸力
Fig.7には,鉄筋軸力と頭部荷重計の実測結果および 数値解析結果を示す.軸力は補強鉄筋にはり付けた歪ゲ ージによって測定している.測定結果はボルト先端部で
ゼロに,また,鉄筋中間部で最大となる分布を示しているd
鉄筋挿入による切土斜面の補強
匡一二建圭宝′技錆しノ0」12
0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.O Pr(kgf/cm2)
0.1 0.2 0.3 0.4
Fig.8 解析結果による地山応力経路
現在までの香港におけるソイルネイル適用斜面の設計
手法としては,ソイルネイルの効果により,切土法面の
すべりの安全率を増加させるという手法が政府の土工事
管理部門であるGeotechnicalControlOffice(以下G.
C.0.)によって認められている.この設計手法によると,
2−2に示した仮想壁体法に比べ,ソイルネイルの全長 が長くなるなど,多少不経済になることが予想された.
しかし,香港でのソイルネイル工法導入の歴史の浅さ,
また限られた工事設計工程の中で,香港では「般的では
ない新設計法の妥当性,安全性を前述のG.C.0.に論証す ることが困難であることから,既に承認されていた設計 手法を通関することに決めた.実際の設計に当たっては,
当該トンネルの設計コンサルタントであり,香港でのソ イルネイル工法の実績を持つMaunse11Geotechnical ServiceLtd.との共同設計という形で行った.
以下,設計法の詳細について報告する.
当該トンネル坑口に適用されたソイルネイルの設計手
順は,以下①−⑤に示すとおりである(F癌.10参照).
当該設計手法の検討対象項目は,2−2に分類される設 計法のうちの,簡便法に同じであるが,項目①に説明す
るとおり検討すべり面の採用法および荷重の考え方等が 異なる.
(丑 検討すべり面の決定と安全率
ソイルネイル挿入前の任意のすべり面に対する安全 率をJanbu(ヤンブー)の分割法IO)によって求め,
以下③,④に述べる検討を行うためのすべり面を決
る7
分が少なくなったものと考えている.
地山の変位を最小限に抑えようとすれば,早期に法面 の吹付けやボルトの挿入が必要となり,地山の応力解放 分が全て軸力に転嫁されることになると思われる.この
ため,今回の実測結果のみをもとに,鉄筋の軸力や定着
力を低成できるとすることは時期尚早であると考えてい る.
§4.施工事例−2
4−1概要
本節は,香港・テーツケントンネルプロジェクトのう ちダイヤモンドヒル坑口部にて,仮設切土法面の補強工 として採用された鉄筋による補強土工法(以下ソイルネ イル工法)の設計法と施工実績について概説するもので
ある.
当工区のトンネル坑口付近の地質は,おおむね地表よ り数m厚の崩積土に引き続き,最終掘削盤以下まで層厚 約20mに及ぶ完全風化花崗岩(C.D.G.層)から成ってい
る.その坑口付け用切土掘削は,自然斜面に沿って上部 より,1割5分,8分,5分の勾配で高さはそれぞれ約
10m,7.5mlO.5mの合計28mの合成切土斜面で計画
された(Fig.9参月臥 当該斜面を,香港の土工設計・施 工規準9)に従って所定の安全率を得るために,最下投斜 面(5分勾配)にソイルネイル工法の適用が計画された.
4−2 設計方法
鉄筋挿入による切土斜面の補強 西松建設技謙∨OJ12
/
/
/
Fig.9 TATE S CAIRN TUNNEL DIAMOND HILL PORTALGEOLOGICALPROFILE
F=主k旦±⊥1し二王㍉二。昼二⊥坦昼n卓L坦
∑=l−しキr尺.lL))tanα Where 岨=COS良一l古レ
川′=C…れ=+ldnn畢・
Q:FOR REQUIREL)HORJZONTALFORCE……③ C:FOR REQUIRED SOILCOHESlON……… 雀)
GO BACKTO②
Fig.10 ANALYSIS FLOWDIAGRAM FOR SOIL NAIL DESIGN
68
鉄筋挿入による切土斜面の補強 医王建設技報∨O」.12
ネイル各段の支点反力による地盤反力とする.
上記③〜⑤の検討を,種々のソイルネイル間隔に対し
て行い,経済性,施工性,信頼性の面から比較検討し,
最終的に,ソイルネイルの水平,鉛直間隔を決定する.
また,トンネル掘削部分については,ソイルネイルをト
ンネル断面外に配置して,「般断面と同様の検討智行っ
た.検討の結果,ソイルネイルはFig.11−Fig.13に示すとおり異形棒鋼Y−25にて水平,鉛直間隔ともに,
2mで配置された.
ヰー3 施工実績
当該工事におけるソイルネイルは,Fig.12に示すと おりの,段階掘削に従って施工された.そのサイクルは,
掘削→肯好L→鉄筋挿入→ダラウト→金網張り→コンクリ
ート吹付け,で表され,ソイルネイルの延べ工程当たり
の施工実績は;5.7本/日と記録された.1989年1月現在,当現場は,Fig.11に示されるトン ネル上半掘削用床付け盤(+30mPD)まで掘削を完了し
(ソイルネイル3段),トンネル坑口付けの後,無事上半断 面を掘削中である.
左する(Fig.10参照).
② ソイルネイルの水平,鉛直間隔の設定
③ ソイルネイルの定着長の検討
項目①で検討したすべり面が,所定の安全率を得ら
れるような仮想水平抑止力を算定し,それを想定土
庄分布および分担幅に従って,各段のソイルネイル
に配分する.ソイルネイルの定着長は,すべり面外
にあるソイルネイルのダラウト材と地山との付着な らびに摩擦による抵抗力が配分された水平抑止力に 釣り合うように決定する.
④ ソイルネイルの径の検討
項目①で求められた最小安全率を与えるすべり面に 対し所定の安全率が得られるような土の仮想粘着力 を算定する.こうして求めた仮想粘着力のうちの不 足分は,ソイルネイルのせん断抵抗力によって与え
られるものとし,ソイルネイルの必要径を決定する.
⑤ 吹付コンクリートに対する検討
吹付コンクリートは,ソイルネイルによって支持さ れる鉄筋コンクリート版として照査する.なお,そ の際の荷重としては,②によって求められるソイル
⑥ ⑦ ⑧③ ⑲ ⑪
15,300 l 2・0002,0002−000.2,0002・000
荒朋02朋0.2・0002,0002−000
⑲ ⑮ ⑲ ⑫ ⑲ ⑲ l l 】 l l l 十 十 + + +
l l l
+ + + + 一十 十 + 十 0 0 0 0 0 0 0
+ + + + + + + +
+ + + + +
0 0 0 0 NORTH BOt
′ TUNNEL EYE
一十 一十 + + 0 0 0
十 + + + 13p + + + + + + + +
+十 +十 +寸 +†
+十 + 寸 +†
+
l ﹂l +一 d工く 一国NコHU↑<害
+ + + 十
+ + +
⑳ ⑪㊧ ⑮ ㊧ ⑮
LEGEND
+ SOIL NAIL O wEEP HOLE
▽+37う
4d∴国ZコH︺↑く∑
+31.O TOP LEVELOF THEEND BERM SLOPE
+30.O FORMATION LEVEL FOR TUNNEL HEADING EXCAmTION
+27.O FINAL FORMATION LEVEL
Fig.11REINFORCED SLOPEWITH SOIL NAIL−ELEVATION
d9
鉄筋挿入による切土斜面の補強 西松建設抜議VOL.12
︵UNl凸凹凹S日出ロトH︶ ︵EEニ爪 − ︵∈2爪ト= HS些言H道Ⅰき十2国出U↑書S︶ 茎爪−ト ⊃︶︶h︶一 含OJ毒筆N茎qN≡コーN葺○−N
SOIL NAIL−ROⅥT A(L=9.Om)
FOR SOIL NAIL・ROⅥ「A
_ヱjTm与AVATIO㌍
SOIL NAILrROW B(L=8.Om)
FOR SOIL NAIL・ROW B
_正.ヱ∑AGEEX甲叩
SOIL NAIL・ROWC(L=7.Om)
迎撃退嬰些竺王旦㌍三竺_望!LNAIL華甲
SOIL NAIL−ROW D(L=6.Om)
SOIL NAIL−ROWE(L=6.Om)
EXCAVATION FOR STAGE
FINAL EXCAVATlON LEVEL 上土㌘ユー−−−−丁−−−
「帯封−一一
Fig.12 REINFORCED SLOPE WITH SOIL NAILTYPICAL SECTION AND EXCAVATION PROCEDURE
70
鉄偏挿入による切土斜面の補強 西㌦建設提議VOJ12
§5.あとがき
本工法はこれまで現場実績だけが先行し,現在理論的 な裏付けが急がれている状況である.しかし,現在の研 究は,補強土塊に外力を加えて破壊させているものであ
り,切土面のような,地山の応力解放による自重破壊を 忠実に表現した内力問題を扱っているものとはいえな い.したがって,より経済的かつ安全な設計法・施工法 の確立のためには,今回施工例−1で示したような実測 データの蓄積とともに,解析手法や計算パラメータの精 度向上のための一層の改良を一じ堀卜ることが必要と考えて いる.
参考文献
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8)平野,藤井,塩月:鉄筋挿入による補強土工法を用 いた山留めの挙軌第23回土質工学研究発表会講演概
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