「アフターコロナ」人事に関わる管理職が押さえておきたい 3 つのポイント
概要
アメリカ全体のCOVID-19(新型コロナウィルス感染症)のワクチン接種率が50%を超え、各州で規制が緩和され、い よいよアフターコロナといえる状況が近づいてきました。今回は長かった新型コロナウィルスの影響下から通常モード に戻るにあたり、管理職が押さえておきたい人事・労務管理上のポイントを3つ取り上げてみました。
アメリカ全体のCOVID-19(新型コロナウィルス感染症)のワクチン接種率が50%を超え*、各州で規制が緩和され通 常モードに戻りつつあり、いよいよアフターコロナといえる状況が近づいてきました。今回は長かった新型コロナウィル
ス感染症の影響下から通常モードに戻るにあたり、管理職が押さえておきたい人事・労務管理上のポイントを3つ取 り上げてみました。
*2021年8月4日現在、全米で1回以上ワクチンを接種した人は58.7%、最も接種率が高い州はバーモントで64.5%、最も低いのはアラバ マで34.6%(出所:Our World in Data)。
1. マスク着用とワクチン接種
小生が利用するスーパーマーケットでもマスク着用者は激減しており、各店舗の店頭には「Fully Vaccinated*であれ ばマスク着用は任意」と表示されていることがほとんどです。しかし、通りすがりの人としか会わないスーパーマーケッ トと異なり、これが職場となるとさほど簡単な問題ではありません。
*Fully Vaccinated:2回接種が必要なワクチンは2回目の接種後、それ以外のワクチンは接種後2週間が経過した状態(出所:米国疾病管 理予防センター(CDC))。
まずはマスク問題。元々アメリカではマスクをする習慣があまりないため、早くこの規制から逃れたいと思っていた人 が多いことは想像に難くありません。しかし、ワクチンを接種した人としていない人が混在する現在、雇用主は適切な ルールを策定して職場内の不要なトラブルを回避する必要があります。
下記は2021年7月30日現在の主な州のマスク着用規定です。着用義務が解除されても従業員へのマスク対応は 各企業の任意となっており、頭を悩ませている方も多いようです。一日あたりの感染者数が減少しているとはいえ、社 内でクラスターが発生する可能性も皆無ではなく、集団感染時の企業リスクを考えマスク着用義務を残すという企業も あります。他にもワクチン接種完了書類を提示した従業員のみ着用義務を免除、全従業員の80%がワクチン接種し た時点で解除、職場ごとに接種状況を確認し、エリアの従業員全員が接種を完了した場合は当該エリアのみ着用義 務を解除、というようにさまざまな対応が取られています。また一方で、マスク着用義務は継続するが非着用でも注意 しない、といった曖昧な対応を取る企業もあるようですが、このような対応は社内モラルの低下にもつながるため、ル ールを制定したら運用を徹底する必要があります。
次にワクチン接種ですが、雇用主は従業員の健康対策や感染リスク軽減を考え、できるだけ早く全員がワクチン接種 を完了してほしいと考えていると思います。しかしここで「雇用主は従業員に接種を強制できるのか?」という疑問が生 まれます。結論として法的問題はありませんが、必要性の立証と万一の訴訟リスクを考えた場合、顧客と頻繁に接触 する職種などを除いては推奨しないというのが模範解答といえるでしょう。
CDCは従業員へワクチン接種を働きかけるために、雇用主が適切な情報を提供し、接種をサポートする仕組みを作 ることを推奨しています。ワクチン接種を躊躇している従業員が知りたいことは、主に下記の3点といわれています。
・副反応の有無など安全性と接種効果
・接種場所と予約方法
・接種後の体調不良に関する有給休暇対応
CDCの推奨にもある通り、まずは人事部の主導によりワクチン接種に関する適切な基本情報を発信することが最重 要です。特に接種時と接種後の体調不良による有給休暇取得については、ファミリー・ファースト新型コロナウィルス 対策法(Families First Coronavirus Response Act(FFCRA))のガイドラインに沿って通達することを忘れないで下さ い。
既に1回以上の接種率が50%を超えた現在、ワクチン接種に関するさまざまな情報がウェブサイトやSNSから簡単 に得られるようになり、今まで接種を躊躇していた従業員も「否定的要素が少なければ接種した方が良さそう」という考 えに傾き始めているようです。
しかし注意が必要なのは、接種促進に向けた情報の一環として、接種後の従業員に情報提供を依頼する場合です。
情報提供者を匿名にして体験談やFAQをSNSやイントラネットなどで広く発信する、直接個人へ質問をせず人事経 由でコンタクトするなど、法的リスクの回避はもちろん社内トラブル回避のための工夫は不可欠です。また医療知識の ない情報提供者が、不適切な医学的アドバイスなどをしないよう徹底することも重要です。
もう1点、今後さらにワクチン接種率が上昇した際に、個人の健康状態や信条などで接種しない従業員が社内で不適 切な扱いを受けないよう、雇用主は十分に配慮して下さい。例えば、ある部署で全員接種が完了しマスク不要となって も、他部署では全員が接種していないためマスク着用を義務付ける場合、マスクを着用したくない従業員によるワクチ ン未接種従業員への非難などのトラブルは回避しなくてはなりません。人事部が主導して部門ごとのマネジャーやス ーパーバイザーに対し、このような問題への防止策を事前にトレーニングすると効果的です。
2. リモートワークの継続
弊社にも非常に多くの問い合わせをいただく「リモートワーク問題」。今回は雇用主の意向とは関係なく始まったため、
開始後にさまざまな問題が発生した企業も少なくありません。
リモートワークの実施によって、「従業員からは好評で業務効率も向上し、結果としてオフィスをダウンサイズできて良 いことづくめだった」という企業もあるかもしれません。一方で「通勤がなくなり楽になった」「家族との時間が増えた」と いったリモートワークに好意的な従業員側の意見が多く、本来のオフィス勤務に戻すことが難しい状況になってしまっ た企業も少なくありません。
いずれにせよ、今後も継続してリモートワークを実施するか否か、企業からの相談に対して状況別に下記のような対 応をお勧めしています。
・リモートワーク制度が存在、または制度の実施を予定していた場合
パンデミック中のリモートワークが、制度に則り運用されていたかを確認して下さい。ルールが拡大解釈され本来の目 的から外れないよう、パンデミック前後での運用状況の違いを確認して下さい。ルールと異なる運用については元に 戻す、あるいはパンデミック後の運用で必要性が認められた点や、より効果的な運用方法などがあれば、それらを追 記・修正した上で、改訂版または新規リモートワーク規定として従業員へ周知します。
・過去にリモートワーク制度がなかった場合
まずは今回のリモートワーク実施期間中の状況を総括し、十分な検討を経て継続の可否を決定します。継続する場合 は、対象職種や実施頻度(フルリモートまたは出社とのハイブリッド)、リモートワークの基本ルール策定などを行って 下さい。
特に確認が必要なのは、リモートワーク実施中の職務遂行クオリティ、社内コミュニケーション、顧客サービスなどに問 題が発生していなかったか、職種の特性上対象でなかった従業員とリモートワーク対象だった従業員の間に不公平感 が出ていないか、実施環境によって心身の健康が損なわれるような予兆がないかといった点です。
リモートワークによって社内コミュニケーションに問題が発生したケースは、日系企業だけでなく全米の企業で取り沙 汰されています。全社員出社日や定期ミーティング予定をあらかじめ定める、出社と併せたハイブリッドスタイルで実 施する、パイロット運用を経てメリット・デメリットを理解し、継続の可否や内容の改定を判断するといったオプションは、
長い目で見た際に従業員・雇用主双方のリスク軽減に効果的です。また、顧客に関連する問題は、一定の時間が経 過してから表面化する場合があることにも注意して下さい。
最後に、リモートワーク対象職種と対象外職種を分類し、その理由を明確にしておくことは大変重要です。製造現場な どの職種がリモート対象とならないことは誰にでもわかりますが、守秘義務や顧客対応などの問題が理由である場合 は、従業員からの疑問に回答できるよう適切な理由を準備して下さい。また、同じ職種であっても一定の勤続期間や、
勤務評価などを対象条件に含めることで、リモートワークでのパフォーマンスへの不安を軽減することも可能です。
3. 退職した従業員の再雇用
多くの企業が実感されていると思いますが、急激な景気回復によって必要なスキルを持った人材の採用が極めて難し くなっています。メディアでも報道されている通り、理由の一因として連邦政府による失業保険追加給付(1週間で通常 給付に加え300ドル)を挙げる方も少なくありません。ちなみにこの失業保険追加給付は2021年9月6日が期限で すが、景気回復などを理由に早期終了する州が相次いでおり、その数は下記の通り全体の半数に上ります。
失業保険追加給付の終了により求職者の動きが活発化するという予測もありますが、一方で雇用のミスマッチやコロ ナ後に自身のキャリアを見直す人(特に若年層)の増加による人材難を指摘する声も多く、現在の売り手市場が一朝 一夕に改善するとは考えづらい状況です。
そこで多くの企業が、自己都合退職やレイオフ(一時帰休)などで一度職場を離れた人材の再雇用を検討しています。
アメリカと異なり日本では馴染みのない制度ですが、無秩序に誰でも呼び戻すと新たなトラブルが発生する可能性も あるため、適切な基準が必要です。一般的な基準として、下記のような例が挙げられます。
・懲戒や能力不足などの理由で解雇されていないこと
・人事考課で一定以上の評価を得ていたこと
・懲戒処分を受けていないこと
また、元従業員へは決められた担当者(一般的には人事部)だけがコンタクトすることをお勧めします。元上司や仲の 良かった同僚など、さまざまな人が関係すると基準が守られず、再雇用の話だけが独り歩きしてしまう可能性がある からです。
次に、レイオフからの呼び戻しについては別途注意が必要です。労働組合がある場合は、Collective Bargaining
Agreement(CBA/労使協定)*に従いSeniority(社歴順)に沿って実施することはもちろん、非組合企業であっても
呼び戻し順序に公平性が保たれるルールの設定が必要です。
*Collective Bargaining Agreement(CBA/労使協定):雇用主と従業員を代表する組合間で交わされる書面による法的契約。CBAには賃金 や労働時間、雇用条件などに関する当事者間の広範囲な交渉プロセスの結果が反映される。
他にも再雇用後の給与設定基準、有給休暇付与日数、保険など福利厚生の待機期間の扱いも重要な要素となりま す。また、再雇用であってもバックグラウンドチェックやドラッグスクリーニングについては、就業規則に則って実施する 必要があることを忘れないで下さい。
(2021年6月24日作成)
三菱UFJ銀行会員制情報サイトMUFG BizBuddyより転載
※一部データを最新情報に更新(2021年8月5日)