Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
Ⅵ-2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
【要約】
ASEAN
各国では、人口・所得の増加とともに消費支出が拡大し、小売市場の成長が続
いていく。業態別では、コンビニをはじめとする食品小売業態の伸びが期待される。専門 店・百貨店は国・業態ごとに成長のステージが異なるものの、各国の小売市場の伸びに 概ね連動して市場拡大が続いている。EC は、現在の市場規模はまだ小さいものの、そ の成長性はきわめて高く、市場の急拡大が予想される。
ASEAN
の小売市場では、コングロマリットを中心とする域内企業の競争力が高まってい
る。コングロマリットは、①グループシナジーの創出、②複数の小売業態の展開、③欧州 企業の撤退案件の買収、④EC 事業への新規投資、といった取り組みを通じて、域内に おける事業規模・領域をより一層拡大している。
これまで域外企業は、近代的な小売業態を先行導入することで、ASEAN 市場の獲得に 成功してきた。しかしながら、域内企業の競争力の向上に伴い、近年は域外企業が市場 獲得に苦戦し始めており、欧州のグローバルリテイラーは
ASEAN市場から相次いで撤 退している。一方、EC においては、Alibaba が本格参入し、域内企業との新たな競争が 始まっている。
市場獲得の難易度が高まる中、域外企業が
ASEAN市場を攻略するためには、上位企 業が固定化していない市場を厳選して参入することが必要である。そのうえで、①オリジ ナル商品、②新たな販売ノウハウの導入、による域内企業との差別化が求められる。ま た、特にオリジナル商品を持つ企業であれば、EC チャネルの活用によって新たな販売 機会を獲得することが可能となるだろう。
1. はじめに
先進国の小売市場が徐々に成熟化する一方で、ASEAN の小売市場は今も 拡大が続いている。伸びゆく消費需要を獲得すべく、これまで数多くの域外
企業が ASEANに進出している。その一方で、ASEANの市場環境に適応で
きず、あるいはその後の環境変化に対応できず、撤退を決断したグローバルリ テイラーも数多い。
拡大を続ける ASEAN 小売市場では、この先どのような変化が起こり、競争環 境はどうなっていくのであろうか。そして、域外企業がASEANに参入し、市場 を獲得するためには、いったいどうすればよいのだろうか。
本稿では、まずASEAN小売市場を俯瞰し、市場環境と競争環境について確 認していく。そのうえで、域外企業の市場獲得の方策について考察する。なお、
各国の小売市場の規模、取得可能なデータの豊富さという観点から、分析・
考察の主な対象国は、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピ ン、ベトナムの6カ国とする。
ASEAN に参入し た企業は多いが、
撤退も多い
ASEAN 市場はど う変化するのか
域外企業の戦略 方向性を考察
Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
2. ASEAN 小売市場の動向と展望
(1)消費者の状況
①人口・所得
ASEAN6カ国の総人口は、2016年に5.6億人に達しており、2021年には6.0 億人へと増加する見通しである。また、各国の経済成長も続いている。シンガ ポールを除くASEAN5カ国の1人あたりGDPは、今後5 年間も年平均5%
~9%の成長が予想されている(【図表1】)。
【図表 1】 ASEAN 各国の人口と 1 人あたり GDP
(出所)IMFよりみずほ銀行産業調査部作成
世帯所得も増加が続いている。ASEAN6 カ国における中間層・富裕層1の世 帯数は、2016年までの5年間で16百万世帯増加しており、さらに今後5年 間では24百万世帯の増加が見込まれる(【図表2、3】)。
【図表 2】 所得階層別 世帯数の推移 【図表 3】 中間層・富裕層の世帯数の推移
(出所)Euromonitorよりみずほ銀行産業調査部作成
(出所)Euromonitorより
みずほ銀行産業調査部作成
1中間層世帯は年間可処分所得5,000米ドル以上35,000米ドル未満、富裕層世帯は35,000米ドル以上 Indonesia
Malaysia Philippines
Singapore Thailand
Vietnam 0
50 100 150 200 250 300
0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000
人口(百万人)
1人あたりGDP(USD)
●2016 ■2021e
Malaysia Philippines
Thailand Vietnam
0 50 100 150
0 5,000 10,000 15,000
人口(百万人)
1人あたりGDP(USD)
0 10 20 30 40 50 60 70 80
2011 2016 2021e 2011 2016 2021e 2011 2016 2021e 2011 2016 2021e 2011 2016 2021e 2011 2016 2021e
シンガポール マレーシア タイ インドネシア フィリピン ベトナム
(百万世帯)
(CY) 富裕層:可処分所得年間35,000米ドル以上
中間層:可処分所得年間5,000以上35,000米ドル未満 低所得者層:可処分所得年間5,000米ドル未満
0 20 40 60 80 100 120 140
2011 2016 2021e
(百万世帯)
(CY) シンガポール マレーシア
タイ インドネシア
フィリピン ベトナム
+16百万
+24百万 人口増加と経済
成長が続く
中 間 層 ・ 富 裕 層 世帯が増加
拡大
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②消費支出
購買力を持つ中間層が厚みを増すことで、消費支出も拡大が続いている。各 国の1 人あたり消費支出額は、過去5年間、シンガポールを除き年平均 4~
10%の増加が続いている。国別では、特にベトナムとインドネシアが高い伸び を見せている。今後も所得増加に伴い、各国の消費支出の拡大が見込まれる
(【図表4】)。
各国の支出構成を比較すると、特に食料品の構成比に違いが見られる。シン ガポールでは全体の1割未満であるが、経済成長の途上にあるインドネシア、
フィリピン、ベトナムでは 4割前後を構成している。また、2011年と2016 年の 各国の支出構成を比較すると、食料品、衣料・靴、家庭用品・家電の構成比 は概ね同水準で推移している(【図表5】)。
【図表 4】 1 人あたり消費支出の推移 【図表 5】 消費支出の構成
(出所)Euromonitorよりみずほ銀行産業調査部作成
(出所)Euromonitorよりみずほ銀行産業調査部作成
③消費者ニーズ・購買行動
一般的に、購買力の向上とともに、生活必需品から嗜好品、ぜいたく品、ある いは耐久消費財へと買い物の幅が広がっていく。ASEAN 各国においても、
「食」で言えば、より品質が高く、安全で安心な食品へのニーズが高まり、「衣」
では、実用衣料から、より洗練されたファッション性の高い衣料品へと需要が シフトしていくだろう。また、「住」では、各国の経済成長のステージに応じて、
冷蔵庫、電子レンジ、乗用車、スマートフォン等、日々の生活を便利で快適に する耐久消費財が普及していく(【図表 6】)。各国の経済発展とともに消費者 の生活水準は向上しており、これに伴って消費者ニーズはより高度化していく だろう。
110 141
124 155
138 161
90 100 110 120 130 140 150 160 170
2011 2012 2013 2014 2015 2016 (CY)
シンガポール マレーシア タイ インドネシア フィリピン ベトナム
(2011年=100)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
2011 2016 2011 2016 2011 2016 2011 2016 2011 2016 2011 2016
シンガポール マレーシア タイ インドネシア フィリピン ベトナム (CY)
食料品 衣料・靴 家庭用品・家電
健康・医療 交通(自動車含む) 住宅・通信・サービス等
消 費 支 出 の 伸 び が続く
衣・食・住への支 出拡大
所得向上に伴い、
「買うもの」が変化
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【図表 6】 耐久消費財の普及状況
(出所)Euromonitor、WCISよりみずほ銀行産業調査部作成
生活が豊かになると、「買う場所」も変わっていく。例えば、これまで自宅近くの 個人商店や市場(TT2)で生活必需品を日々購入していた消費者が、冷蔵庫 や車を持つことによって、スーパーマーケットやハイパーマーケット3で食品や 日用品をまとめ買いすることが可能となる。また、忙しい都市生活者が増えれ ば、コンビニエンスストア(コンビニ)の利用ニーズも高まっていく。消費者ニー ズの変化とともに、ASEANの食品小売市場では、TT からスーパー、コンビニ 等の近代的小売(MT4)へのチャネルシフトが続いている(【図表7】)。
【図表 7】 MT・TT の推移
(出所)Euromonitorよりみずほ銀行産業調査部作成
2 Traditional Tradeの略。所謂パパママストアのような、伝統的流通形態の小売
3 食品、非食品など多様な商品を販売する大型スーパーのこと
4 Modern Tradeの略。スーパー・コンビニエンスストアといった、近代的流通形態の小売。本稿では、食品小売業態における流通
形態を TT・MT として区分する
(CY)
2011 2016 2011 2016 2011 2016 2011 2016 2011 2016 2011 2016
冷蔵庫 98.3% 98.2% 95.6% 98.6% 84.6% 85.1% 36.8% 48.1% 40.0% 40.1% 45.3% 63.5%
電子レンジ 66.5% 72.3% 26.5% 38.0% 40.0% 42.8% 3.7% 9.8% 11.3% 21.5% 7.1% 16.0%
自動車 38.5% 34.8% 75.7% 85.1% 14.0% 22.3% 8.2% 11.2% 9.3% 8.8% 1.5% 3.5%
スマートフォン - 79.0% - 66.0% - 44.0% - 44.0% - 47.0% - 31.0%
ベトナム
シンガポール マレーシア タイ インドネシア フィリピン
68%
72%
73%
40%42%42%
41%
46%51%
13%17%19% 24%30%35%
4% 5% 6%
0%
50%
100%
2011 2016 2021e 2011 2016 2021e 2011 2016 2021e 2011 2016 2021e 2011 2016 2021e 2011 2016 2021e
シンガポール マレーシア タイ インドネシア フィリピン ベトナム (CY) MT TT
消費ニーズの変 化に伴い、「買う 場所」が変化
Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
(2)小売市場の動向
①ASEAN 小売市場の概観
ASEAN6カ国の小売市場は、2016年時点で4,740億ドルの規模に達してい る。他国との比較感としては、中国の2割程度、日本の半分以下、インドよりも やや小さい水準である。人口増加・経済成長が続く ASEAN では、小売市場 も成長を持続し、2021年の市場規模は6,560億ドルへと拡大する見通しであ る。既に成熟している日本の小売市場との規模の格差は、年々縮小していくと 考えられる(【図表8、9】)。
【図表 8】 小売市場規模比較(2016 年) 【図表 9】 ASEAN6 カ国の小売市場の推移
(出所)Euromonitor、商業動態統計より
みずほ銀行産業調査部作成 (出所)Euromonitorよりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2021年はみずほ銀行産業調査部による予測値
国ごとの市場規模を見ると、域内で最大のインドネシアが 1,500 億米ドルを超 えており、次いでベトナムとタイが 900億米ドル前後、フィリピンが約700億米 ドルという規模である。成長性の観点では、ベトナムが約 12%、インドネシアも
約9%の高成長を遂げている。他方、マレーシアとシンガポールの成長性は低
位にあり、相対的に市場の成熟度が高まっている(【図表10】)。
小売市場の構成を比較すると、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムは食品 小売(MT・TT)の割合が大きいという特徴が見られる。中でも、インドネシア、
フィリピン、ベトナムの 3 カ国はTT の割合が高く、小売市場が質的発展の途 上にあると言える。一方で、シンガポールやマレーシアでは専門店の構成割 合が高く、ここにも市場の成熟度の高さが表れている。なお、EC を含む無店 舗販売の割合は、各国とも未だ低い(【図表11】)。
2,135
1,017
534 474
0 500 1,000 1,500 2,000 2,500
中国 日本 インド ASEAN6カ国
(USD bil)
228
338
474
656
0 100 200 300 400 500 600 700
2006 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2021e (USD bil)
(CY)
シンガポール マレーシア タイ インドネシア フィリピン ベトナム 2006-2011
CAGR 8.4%
2011-2016 CAGR 7.0%
2016-2021 CAGR 6.7%
小 売 市 場 は 成 長 が続く
ベトナムとインド ネ シ ア が 高成 長 を持続
小売市場の構成 は国ごとに相違
Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
【図表 10】 各国の市場規模・成長性(2016 年) 【図表 11】 小売市場の構成(2016 年)
(出所)Euromonitorよりみずほ銀行産業調査部作成 (出所)Euromonitorよりみずほ銀行産業調査部作成
(注)MT=スーパー、コンビニ等の近代的小売、
TT=個人商店等の伝統的小売
②国別・業態別の動向
続いて、国別・業態別の動向について確認する。小売市場を食品小売(MT)、
専門店、百貨店、ECの4つに区分し、さらにその内訳として、食品小売(MT)
はスーパーマーケット・ハイパーマーケット・コンビニの3業態、専門店はドラッ グストア5を採り上げ、各国の状況を比較する(【図表12】)。
【図表 12】 各国の小売市場における業態別の規模・成長性
(出所)Euromonitorよりみずほ銀行産業調査部作成
(注1)市場規模は2016年、CAGRは2011年~2016年
(注2)各国の小売市場全体よりも5%以上高い成長率を網掛け
5 このほか、アパレル、家電、家具・ホームセンター、レジャー用品等の専門店があるが、取得可能なデータが少なく、域外企業の 進出事例も限定的であることから、本稿では考察の対象外とする
インドネシア
マレーシア フィリピン
シンガポール
タイ ベトナム
0.0%
2.0%
4.0%
6.0%
8.0%
10.0%
12.0%
14.0%
0 50 100 150 200
(USD bil) CAGR(2011-2016)
0 40 80 120 160
シンガポール マレーシア タイ インドネシア フィリピン ベトナム
(USD bil) MT TT 専門店 百貨店 無店舗販売
(単位:USD mil)
6カ国 市場規模 CAGR 市場規模 CAGR 市場規模 CAGR 市場規模 CAGR 市場規模 CAGR 市場規模 CAGR CAGR 小売市場全体 23,045 2.7% 45,260 3.4% 88,794 4.2% 151,163 8.9% 71,937 5.4% 93,705 11.8% 7.0%
食品小売(MT) 4,342 4.1% 6,283 3.9% 24,172 6.6% 17,398 15.1% 12,994 10.1% 3,256 17.8% 9.1%
うちスーパーマーケット 3,183 4.2% 2,067 5.3% 4,717 6.1% 5,197 9.8% 9,660 8.8% 1,958 14.1% 7.9%
うちハイパーマーケット 696 7.8% 2,828 0.4% 7,969 3.8% 2,976 8.2% 2,472 12.7% 1,070 22.6% 5.8%
うちコンビニ 386 -0.6% 831 13.4% 9,863 10.2% 9,180 22.5% 761 20.0% 228 48.2% 15.0%
専門店 13,217 1.7% 23,978 2.5% 27,198 3.8% 42,470 8.4% 22,381 5.0% 25,650 5.6% 5.0%
うちドラッグストア 1,538 4.0% 2,148 2.7% 4,312 5.1% 5,604 9.0% 4,645 5.3% 4,212 10.9% 6.7%
百貨店 2,029 0.7% 3,548 9.0% 4,333 7.9% 3,042 7.8% 4,323 6.8% 406 29.5% 7.1%
1,103 21.7% 586 18.5% 1,505 17.1% 2,652 44.7% 601 19.2% 865 46.5% 27.8%
ベトナム
EC
シンガポール マレーシア タイ インドネシア フィリピン
Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
各国にほぼ共通した事象として、コンビニと EC の成長性の高さが挙げられる。
コンビニはシンガポールを除く5カ国において高い成長を続けている。所得が 高く、忙しい都市生活者の増加とともに、「近さ」や「利便性」に対する消費者 ニーズの高まりがその要因だと考えられる。EC の市場規模はまだ小さいもの の、6 カ国全てにおいて非常に高い成長を続けている。インターネットやスマ ートフォンの普及、消費者の購買力の向上に伴い、EC 市場が成長期を迎え たと考えられる。なお、ドラッグストアは、各国とも小売市場全体の伸びと概ね 同水準の成長を続けている。
シンガポールでは、食品小売(MT)市場におけるスーパーマーケットの割合 が大きく、市場全体を上回る成長を続けている。また、規模は小さいながらも、
ハイパーマーケットの成長率はスーパーマーケットを上回っている。一方、コ ンビニはマイナス成長、百貨店も低成長となっており、他の 5 カ国とは異なる 傾向を示している。
マレーシアでは、ハイパーマーケットの規模が大きいものの、その成長率は鈍 化している。スーパーマーケットは、ハイパーマーケットの 7 割程度の規模な がら、市場全体を上回る成長を続けている。コンビニの市場規模はまだ小さい ものの、その成長率は高く、成長期を迎えていると考えられる。百貨店は市場 全体を上回る成長が続いており、ショッピングセンターの活況が窺える6。
タイの食品小売(MT)市場では、コンビニの規模が最も大きく、かつ高成長を 持続している。次いでハイパーマーケットの規模が大きいものの、マレーシア 同様、成長率は鈍化している。また、百貨店もマレーシアと同じく、市場全体 を上回る成長を続けている。
インドネシアにおいても、タイと同様、コンビニの市場規模が大きく、また、その
成長率は 22.5%と突出して高い。その他の市場は、高成長の EC を除き、小
売市場全体の伸びと概ね同水準の成長を続けている。
フィリピンでは、スーパーマーケットが食品小売(MT)市場の4 分の 3 を占め ており、かつ、市場全体を上回る伸びを続けている。ハイパーマーケットとコン ビニは、市場規模はまだ小さいものの、その成長率はスーパーマーケットを大 きく上回っている。その他の市場は、インドネシア同様、ECを除いて小売全体 とほぼ同水準の成長を持続している。
ベトナムでも、スーパーマーケットの市場規模が大きい。成長性の観点では、
ハイパーマーケットとコンビニが非常に高い伸びを続けている。また、ベトナム 固有の特徴として、他国と比して百貨店の伸びが突出して高いことが挙げら れる。所得の高まりとともに、百貨店市場が形成期を迎えたことがその理由だ と考えられる。
このように、各国の小売市場を概観すると、業態毎の規模や成長性は国によ って大きく異なることがわかる。続いて、食品小売(MT)の3業態と、ドラッグス トア、百貨店の計5業態について、業態毎に各国の市場規模と成長性を比較 し、その特徴を確認する(【図表13】)。
6 ASEANでは、百貨店はショッピングモールの核テナントとして入居することが多い
コンビニと EC の 成長性が高い
シ ン ガ ポ ー ル の 特徴
マ レ ー シ ア の 特 徴
タイの特徴
インドネシアの特 徴
フィリピンの特徴
ベトナムの特徴
Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
【図表 13】 業態別の市場規模・成長性(6 カ国比較)
(出所)Euromonitorよりみずほ銀行産業調査部作成
(注)食品小売を白色、非食品を黒色で表示 インドネシア
ベトナム
タイ マレーシア
フィリピン シンガポール
0.0%
5.0%
10.0%
15.0%
20.0%
25.0%
30.0%
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000
市場規模(USD mil)
インドネシア ベトナム
タイ マレーシア
フィリピン
シンガポール 0.0%
5.0%
10.0%
15.0%
20.0%
25.0%
30.0%
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000
市場規模(USD mil)
インドネシア ベトナム
タイ マレーシア
フィリピン
シンガポール 0.0%
5.0%
10.0%
15.0%
20.0%
25.0%
30.0%
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000
市場規模(USD mil)
ハイパーマーケット スーパーマーケット
ドラッグストア
インドネシア ベトナム
タイ マレーシア
フィリピン
シンガポール -10.0%
0.0%
10.0%
20.0%
30.0%
40.0%
50.0%
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000
市場規模(USD mil)
2011-2016CAGR(CY)
コンビニ
百貨店
インドネシア ベトナム
タイ
マレーシア
フィリピン シンガポール
0.0%
5.0%
10.0%
15.0%
20.0%
25.0%
30.0%
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000
市場規模(USD mil)
2011-2016CAGR(CY)
2011-2016CAGR(CY)
2011-2016CAGR(CY)
2011-2016CAGR(CY)
▲10.0%
Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
スーパーマーケットは、フィリピンの市場規模が突出して大きく、次いでインド ネシア、タイの順となっている。フィリピンとインドネシアは年率 10%前後の成 長を持続しており、更なる市場拡大が予想される。ベトナムはまだ市場規模が 小さいものの、6 カ国で最も高い成長を遂げており、今後も高成長が見込まれ る。
ハイパーマーケットでは、タイの市場規模が突出しており、インドネシア、マレ ーシア、フィリピンがそれに続いている。このうち、タイとマレーシアは成長率が 鈍化しているものの、相対的に高い成長を維持しているインドネシアとフィリピ ンは今後も市場拡大が見込まれる。また、ベトナムは年率20%を越える成長を 遂げており、今後も市場が急拡大を続ける可能性が高い。
コンビニでは、タイとインドネシアの規模が突出して大きく、かつ成長性も高い。
それ以外の 4 カ国は、市場規模は未だ小さいものの、シンガポールを除いて 高成長を持続している。今後、タイ、インドネシアの市場規模は更に拡大し、
年率50%近い成長を続けているベトナムをはじめ、フィリピン、マレーシアにお
いても、市場が成長期を迎えると予想する。
ドラッグストアの市場規模・成長率は、各国の小売市場全体の規模・成長率に 概ね連動した状況となっている。百貨店では、シンガポールが成熟化する一 方、ベトナムが市場形成期を迎えている。
③EC 市場の動向
既述の通り、各国のEC市場は未だ小規模であるが、その成長性は非常に高 い。先行きを見ても、消費者の購買力向上、通信ネットワーク環境の整備、ス マホの普及という状況を考慮すれば、EC 市場拡大の要件は徐々に整いつつ あると言えるだろう。2021年にかけて、EC市場は年平均2割以上の高成長が 続くと予想する(【図表14、15】)。
【図表 14】 ASEAN 各国の EC 市場 【図表 15】 ASEAN6 カ国の EC 市場
(出所)Euromonitorよりみずほ銀行産業調査部作成
(出所)Euromonitorよりみずほ銀行産業調査部作成
(注)2021年はみずほ銀行産業調査部による予測値 0.0%
2.0%
4.0%
6.0%
0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000
2011 2016 2011 2016 2011 2016 2011 2016 2011 2016 2011 2016
シンガ ポール
マレーシ ア
タイ インドネ シア
フィリピン ベトナ ム (USD mil)
(CY)
EC市場規模(左軸) EC化率(右軸)
800 2,158
7,439
20,605
1.6%
3.1%
0.0%
2.0%
4.0%
6.0%
8.0%
10.0%
0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000
2006 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2021e (USD mil)
(CY)
6カ国合計 EC化率(右軸)
2016-2021 CAGR 22.6%
2006-2011 CAGR22.0%
2011-2016 CAGR 28.1%
ス ー パ ー マ ー ケ ットの動向
ハイパーマーケッ トの動向
コンビニの動向
ドラッグストア・百 貨店の動向
EC 市 場 の 成 長 性は高い
シンガポール マレーシア タイ インドネシア フィリピン ベトナム
Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
但し、EC普及の阻害要因も残存している。知名度があり、信頼できるEC事業 者の不在、クレジットカードや銀行口座の保有率の低さによる決済手段の不 足、宅配ネットワークの未整備が EC市場の拡大を阻む主な課題である。この うち決済手段に関しては、既に代引きによる決済が浸透していることに加えて、
電子マネーやモバイル決済を手がける事業者も増えてきていることから、比較 的早く課題が解消されると考えられる。
今後、信頼できる EC事業者が登場し、物流ネットワークが整備されれば、EC 普及のボトルネックが解消されることになる。特に物流面の課題は、短期的に は解決が難しいと考えられるものの、中長期的には物流インフラの整備や宅 配事業者の育成が期待される。宅配ネットワークの整備とともに、ECの潜在需 要が一気に顕在化し、EC 市場の成長スピードが更に加速することも考えられ る。
(3)ASEAN 小売市場の展望
ここまで、ASEAN 各国における市場動向について確認してきた。「食」に関し ては、シンガポールを除き、コンビニの成長性が突出して高い。ドラッグストア は、各国の小売市場全体の伸びと概ね連動した成長が続いている。百貨店 は、国ごとに成長ステージが異なっている。EC は、各国において非常に高い 成長を持続している。
スーパーマーケットは、TT から MT へのチャネルシフトの進行とともに、各国 で市場拡大が続くと見る。ハイパーマーケットは、タイ・マレーシアの成長が鈍 化するものの、インドネシア・フィリピンでは引き続き市場拡大を見込む。ベト ナムでは、小売近代化とともに、スーパーマーケットとハイパーマーケット、い ずれも高成長の持続が予想される。
コンビニは、都市部における高所得者の増加とともに、今後も高い成長を持続 すると考えられる。既に市場規模が大きいタイ・インドネシアでは更なる規模の 拡大、現在の市場規模が小さいマレーシア、フィリピン、ベトナムにおいても、
市場が成長期に突入し、各国の食品小売(MT)におけるコンビニの存在感が より高まると予想する。
ドラッグストアは、小売市場全体の伸びと連動して成長が続いており、今後も 同様の傾向が続くと考える。百貨店は、国ごとに成長ステージが異なっている が、各国における中間層・富裕層の拡大とともに、今後も市場拡大が期待され、
特にベトナムは引き続き高成長が見込まれる。但し、今後のEC市場の拡大に は留意が必要である。特に、アパレルは EC との親和性が高い。ASEAN の EC 市場が拡大する過程において、百貨店等のアパレル需要が EC へシフト し、その結果、百貨店等の成長が停滞する、というリスクシナリオも想定されよ う。
EC は成長性が非常に高く、本格的な普及期を迎えている。今後、ECの利用 者数はさらに増加を続け、店舗型小売業態からの需要シフトも伴いながら、市 場の急拡大が見込まれる(【図表16】)。
EC 普及を阻害す る要因が残存
課題解消により、
EC 市 場 急 成 長 の可能性
コンビニと EC の 成長性が高い
ス ー パ ー マ ー ケ ッ ト ・ ハ イ パ ー マ ーケットの展望
コンビニの展望
ドラッグストア・百 貨店の展望
EC は引き続き高 い成長を持続
Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
【図表 16】 ASEAN 小売市場の現状と展望
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
(注)Drg=ドラッグストア、AP=アパレル
3. ASEAN 小売市場の競争環境
(1)各国上位プレイヤーの顔ぶれ
ASEAN の小売市場においては、タイのCharoen Pokphand(CP)、Central、イ ンドネシアのSalim、フィリピンのSM等、地場コングロマリットの存在感が非常 に大きい。TT を除く各国の小売市場におけるシェアは、CP、SM は 13%、
Central、Salimは7~8%となっており、米国小売市場におけるWalmartのシェ アが10%程度、日本におけるイオン、セブン&アイのシェアが7~8%7であるこ とを考慮すれば、十分に高いと言えよう。また、各国の上位 5 社のシェアの合 計を見ると、タイでは4 割、フィリピンでは3割に達しており、特に上位集中が 進んでいる状態にある。
そのような状況の中、高いシェアを持つ域外企業も存在する。特に、マレーシ アの小売市場では、Daily Farm(香港)、イオン、Tesco(英)という域外企業が 上位3 社を占めている。また、Daily Farmはシンガポールとインドネシアにお いても、それぞれ2位と5位にランクインしている(【図表17】)。
7 各種公表資料、IR、Euromonitorより推計(いずれもTT市場を除く)
ハイパーマーケット
コンビニ
ドラッグストア
百貨店 スーパーマーケット
EC
現状 今後の展望
• フィリピン、インドネシア、タイの市場規模が大きい
• ベトナムは市場規模は小さいが、成長性は高い
• 各国では市場拡大が続く
• ベトナムは高成長を持続
• タイの市場規模が突出しており、インドネシア、マ レーシア、フィリピンの規模も大きい
• ベトナムは年率20%を超える成長を持続
• インドネシア、フィリピンは市場拡大が続く
• タイ、マレーシアは成長が鈍化
• ベトナムは市場の急拡大を予想
• タイ、インドネシアの市場規模が大きい
• ベトナム、フィリピン、マレーシアは市場規模は小さい ものの、高成長を持続
• タイ、インドネシアでは更なる市場拡大が続く
• ベトナム、フィリピン、マレーシアは成長期に突入
• 各国の小売市場の伸びに連動して市場拡大が続く • 小売市場の伸びとともに市場拡大が続く
• マレーシアとタイでは、小売市場全体の伸びを上回 る成長を継続
• ベトナムは市場形成期に突入した可能性
• 特にベトナムは高成長を持続
• EC市場拡大に伴い、店舗からECにチャネルシフト が発生する懸念
• 市場規模はまだ小さく、EC化率も低い
• 各国の市場は年平均15%~50%の高成長を持続
• 本格的な普及期に突入し、市場が急拡大
• 店舗型小売業態から需要がシフト
コ ン グ ロ マ リ ッ ト の存在感が大き い
高いシェアを有す る 域 外 企 業 も 存 在
Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
【図表 17】 各国の小売市場における上位企業
(出所)Euromonitorよりみずほ銀行産業調査部作成
(注1)SM=スーパーマーケット、HM=ハイパーマーケット、CVS=コンビニ、DgS=ドラッグストア、DP=百貨店
(注2)網掛けは国外企業
(2)ASEAN コングロマリットの戦略
ASEAN のコングロマリットが手がける事業は、大規模かつ広範である。食品
製造・加工を中心に、原料調達、流通、小売に至るまで、フルラインの事業を 展開する企業グループも存在している。流通構造が複雑であり、かつ物流網 が整備されていないASEANにおいて、重要商材である食品について原料調 達から小売に至るまでの強固なサプライチェーンをグループ内で構築できる 点は、競合他社に対する大きな強みとなる。また、不動産事業を手がけるコン グロマリットであれば、グループ会社が開発した商業施設等に優先出店するこ とで、立地優位性を獲得することが可能となる。
タイのCPは、飼料、畜産、水産、加工食品の製造等の食品事業を中核とする コングロマリットである。傘下のCP Allは、タイ国内でセブン-イレブン約9,500 店舗を展開する同国トップの小売プレイヤーである。また、同じく食品を主力と するインドネシアのSalimは、同国内で1万4,000店舗近くのミニマート8を展 開するIndoritelを傘下に抱えている。食品関連事業としては、パームのプラン テーションから、製糖、製粉といった原料製造、麺、菓子等の食品製造を行っ ている。強大なバイイングパワーと強固なサプライチェーンによって、価格競 争力、商品調達力、物流ネットワークにおける優位性を構築できる点は、コン グロマリット特有の強みである。
コングロマリットは、近代的な小売業態を幅広く展開し、ノウハウの蓄積を進め ている。新たな業態の自国市場への導入方法としては、自前で展開するケー スもあれば、域外企業との提携を活用するケースもある。
8 主に食品・日用雑貨を販売する売場面積が400㎡以下の小型スーパーのこと。本稿ではコンビニに分類する
企業名・グループ名 主要業態 販売額
(USD mil)
シェア
(除くTT) 企業名・グループ名 主要業態 販売額
(USD mil)
シェア
(除くTT) 企業名・グループ名 主要業態 販売額
(USD mil)
シェア
(除くTT)
1 NTUC FairPrice SM 2,141 10.0% 1 Dairy Farm(香港) HM/SM/Drg 1,771 4.9% 1 CPグループ CVS 7,978 13.2%
2 Dairy Farm(香港) HM/SM/Drg/CVS 1,649 7.7% 2イオン HM/SM 1,202 3.3% 2 TESCO(英) HM/SM 6,230 10.3%
3 Sheng Siong SM 565 2.6% 3 TESCO(英) HM/SM 1,058 2.9% 3 Centralグループ SM/DP/CVS 4,775 7.9%
4髙島屋 DP 419 2.0% 4 Berjyayaグループ CVS 557 1.5% 4 Big C(TCCグループ) HM/SM 3,609 6.0%
5 Mustafa Holdings DP 381 1.8% 5 Lionグループ SM/DP 486 1.3% 5 Home Product Center 専門店 1,499 2.5%
5,154 24.1% 5,074 13.9% 24,091 39.9%
企業名 主要業態 販売額
(USD mil)
シェア
(除くTT) 企業名 主要業態 販売額
(USD mil)
シェア
(除くTT) 企業名・グループ名 主要業態 販売額
(USD mil)
シェア
(除くTT)
1 Salimグループ CVS 4,725 7.0% 1 SMグループ SM/HM/DP 5,589 13.3% 1 Mobile World JSC 専門店 1,598 5.2%
2 Alfaグループ CVS 4,176 6.2% 2 Mercury Drug Corp Drg 2,253 5.4% 2 Saigon Union of Trading SM 1,248 4.1%
3 Rippoグループ DP 1,242 1.8% 3 Puregold Price Club SM/HM 1,977 4.7% 3 Centralグループ(タイ) DP 723 2.4%
4 CTグループ HM 1,181 1.8% 4 JG Summitグループ DP 1,879 4.5% 4 FPT Corp 専門店 526 1.7%
5 Dairy Farm(香港) HM/SM/Drg 1,022 1.5% 5 Rustanグループ DP 1,107 2.6% 5 Nguyen Kim Trading JSC 専門店 510 1.7%
12,346 18.3% 12,805 30.5% 上位5社合計 4,606 15.1%
ベトナム タイ
上位5社合計
マレーシア
上位5社合計 上位5社合計
上位5社合計 上位5社合計
シンガポール
インドネシア フィリピン
① グ ル ー プ シ ナ ジ ー に よ る 優 位 性
CP と Salim の事 例
②近代的な小売 業態を複数展開
Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
タイの Central は、ショッピングモール、百貨店、スーパーマーケット、コンビニ、
各種専門店まで幅広い小売業態を展開するコングロマリットである。Centralは、
業態多角化の手段として、域外企業との提携を積極活用しており、コンビニは ファミリーマート、ドラッグストアはWatson’s(香港)、雑貨は無印良品と提携し、
各ブランドを展開している。同様に、フィリピンの SM グループも、ショッピング モール、百貨店、スーパーマーケット、ハイパーマーケット等を自社で手がけ るほか、Watson’s、ユニクロ、Forever21(米)等のブランドを提携によって展開 している(【図表18】)。
コングロマリットは、その豊富な資金力を活かして、欧州企業の撤退案件を数 多く買収している。中には、タイのTCCのように買収によって新たに小売事業 に参入するケースもある。また、一部のコングロマリットは、買収によって自国 外への広域展開を加速している。Central は、Casino(仏)のベトナム事業、
TCCはMetro(独)のベトナム事業を買収している(【図表19】)。
【図表 18】 Central、SM が展開する外資ブランド 【図表 19】 コングロマリットによる欧州企業の買収
(出所)各種公表資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(出所)各種公表資料よりみずほ銀行産業調査部作成
コングロマリットは、EC 事業への先行投資も開始している。タイのCentralは、
投資会社 Rocket Internet(独)傘下のファッション EC サイト「Zalora」のタイ事 業を買収し、EC 事業の強化を図っている。また、フィリピンでは Ayalaが同国 のZaloraに出資している。インドネシアでは、SalimがLotte(韓)と合弁会社を 立ち上げ、EC事業に本格参入している。
加えて、EC関連事業への投資も進めている。フィリピンのSMグループは、同 国の物流最大手「2GO」の親会社に出資し、物流事業の強化を目指している。
小売に加えて、不動産や金融事業も手がけるインドネシアの Lippo グループ は、EC 事業に加えて、電子マネー事業も手がけている。EC 市場の拡大を見 据えて、ASEAN 域内の有力企業は、早くも EC 事業への布石を打ち始めて いる。
以上の取り組みを通じて、コングロマリットは事業規模と事業領域を拡大し、
ASEAN小売市場におけるプレゼンスをより一層高めている(【図表20】)。
業態 外資ブランド
スーパーマーケット Tops
コンビニ ファミリーマート
生活雑貨 無印良品
ドラッグストア Watson's
アパレル ユニクロ
アパレル Forever21
ドラッグストア Watson's ホームセンター Ace Hardware Central
(タイ)
SM
(フィリピン)
実施時期 被買収企業 対象事業
2004年 Ahold(蘭) タイ 2016年 Casino(仏) ベトナム
SM(フィリピン) 2007年 Makro(蘭) フィリピン
CT Corp(インドネシア) 2012年 Carrefour(仏) インドネシア
CP(タイ) 2013年 Makro(蘭) タイ
2016年 Metro(独) ベトナム 2016年 Casino(仏) タイ Central(タイ)
TCC(タイ)
Central、SM の業 態多角化戦略
③欧州企業の撤 退案件を買収
④ EC 事 業 へ の 先行投資
物流・金融事業も 強化
Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
【図表 20】 コングロマリットの戦略
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
(3)食品小売(MT)市場の競争環境
ASEAN 各国の食品小売(MT)市場は、上位寡占度がきわめて高いという特
徴がある。6 カ国における上位 5 社の合計シェアは、最も寡占度が低いフィリ
ピンでも55%、シンガポールに至っては96%に達している。米国、英国におけ
る上位5社のシェアが約6割9であることを考慮すれば、ASEAN6カ国の食品 小売市場は、きわめて強い寡占状態にあると言えよう。さらに、各国トッププレ イヤーは、食品小売(MT)市場の 2 割~5 割を占有しており、強い市場支配 力を有している(【図表21】)。
さらに、マレーシアとベトナムを除く4 カ国において、過去 5年間で上位寡占 度が上昇していることが確認できる。つまり、ASEANの食品小売(MT)市場は 拡大しているが、その需要の多くを限られた上位企業が獲得していることにな る。その結果、上位企業のバイイングパワーやサプライチェーンの効率性が向 上し、下位企業との格差が拡大しているものと推察される。
9各種公表資料、IR、Euromonitorより推計(いずれもTT市場を除く)。なお、日本は上位5社で約3割、中国では約 15%と推計される
グループシナジー 製造・配送・店舗立地等において、グループ内の各事業とのシナジーを創出
原料調達・食品製造・加工・配送・小売まで、フルラインの事業を展開するコングロマリットも存在 業態多角化
1
買収による 規模拡大
EC事業への 取組み
2
3
4
スーパー、コンビニ、百貨店、ショッピングモール、専門店等、幅広い業態を展開
新たな業態・ブランドを自国内に導入する手段として、域外企業と協業するケースも
豊富な資金力を背景に、欧州企業の撤退案件を買収し、事業規模をさらに拡大
買収を活用し、自国外への広域展開を進めるコングロマリットも存在
自社サイトの開設に加えて、EC企業の買収・出資等を通じてEC事業を強化
物流、金融といった周辺事業への投資も開始
食品小売(MT)市 場は寡占度がき わめて高い
上位 5 社の寡占 度は高まる傾向
Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
【図表 21】 各国の食品小売(MT)市場における企業シェア(2016 年)
(出所)Euromonitorよりみずほ銀行産業調査部作成
(注)白抜きは国外企業。円グラフ中心の( )内の数値は、上位5社シェアの2011年対比の増減値
①スーパーマーケット・ハイパーマーケット
欧州企業を中心に、これまで多数の域外企業が ASEAN に参入したものの、
現在までにそのほとんどが撤退している。撤退理由としては、各国における厳 しい競争環境が主要因だと考えられる。具体的には、①現地ニーズへの適応 力不足、立地選定の失敗等の理由から、事業の黒字化が実現できなかった、
②一定程度のシェアを獲得したものの、上位企業の市場支配力が強く、事業 の収益性を高めることができなかった、③上位企業の市場支配力が強まる中、
先行きのシェア向上が見込めず、事業の将来性が低いと判断した、のいずれ か、もしくはその複合だと考えられる。
Casino(仏)のタイ事業、Carrefour(仏)のインドネシア事業は、それぞれ各国 の食品小売(MT)市場において 3 位のシェアを獲得していたにも関わらず、
撤退に至っている。タイでは上位2社が食品小売(MT)市場の6割、インドネ シアでも上位2社が5割のシェアを握っている状況にある。圧倒的なシェアを
シンガポール マレーシア タイ
NTUC FairPrice
47%
Dairy Farm 31%
Sheng Siong
13%
Big Box 4%
Prime Supermarket
2%
その他 4%
43 億ドル
上位5社96% (+5%)
Dairy Farm
22%
Tesco 17%
7-Eleven Malaysia
8%
AEON 7%
Econsave Cash&Carry
6%
その他
40% 63億ドル
上位5社60% (▲6%)
CP All 33%
Tesco 26%
Big C 15%
Central 6%
Foodland 1%
その他 20%
242 億ドル
上位5社80% (+5%)
インドネシア フィリピン ベトナム
Saigon Union
39%
Central 22%
Vin Group
6%
Lotte 6%
TCT 4%
その他 23%
33 億ドル
上位5社77% (▲1%) Indoritel
Mukmur 27%
Sumber Alfaria Trijaya
24%
Trans Retail Matahari 7%
Putora Prima 5%
Dairy Farm 5%
その他
31% 174億ドル
上位5社69% (+17%)
SM 22%
Puregold 13%
JG Summit Rustan 8%
Modern 8%
5%
その他
45% 130 億ドル
上位5社55% (+9%)
欧州企業は相次 いで撤退
シェア 3 位で撤退 する事例も
Ⅵ. 台頭する ASEAN の地場コングロマリットとの向き合い方 2. 高まる域内企業の小売市場支配力 -参入市場の厳選と新たな差別化戦略を-
持つ上位企業の存在が、収益性・成長性の阻害要因となり、打開策を見出せ なかったことが撤退理由だと推察される(【図表22】)。
【図表 22】 域外スーパー・ハイパーマーケット等の ASEAN 進出の歴史
(出所)各種公開資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)白抜きは撤退済、( )内は撤退事業を買収した企業
撤退が相次ぐ一方で、英国のTesco、日本のイオン、香港のDairy Farmのよう に、ASEAN各国で高いシェアを獲得した域外企業も存在する。3社の戦略に は、①早期参入による先行者メリットの獲得、②買収の活用によるスピーディ ーな事業規模・シェアの確保、という共通点が挙げられる。
イオンはマレーシアに1985年、Dairy Farmはシンガポールに1993年、マレ ーシアに1994年に参入している。近代的な小売業態が発展する前、あるいは 発展の初期段階であれば、競合となる地場企業の存在感も比較的小さい。そ のような市場に早期参入することで、域外企業が自ら市場を開拓し、店舗網の 構築、顧客基盤の獲得、ブランドイメージの確立といった先行者メリットを獲得 していくことが可能となる。
2 点目は、買収の有効活用である。イオンは Carrefour のマレーシア事業、
Tesco は、CP との合弁事業であったタイ・Lotus を買収している。また、Dairy Farmもシンガポール、マレーシア、インドネシアにおいて、買収や資本参加等 を通じて、各国におけるシェア拡大を実現している 。さらに、2003 年には Ahold(蘭)が撤退するタイミングを捉え、同社のシンガポール、マレーシア、イ ンドネシア事業を買収し、ASEAN におけるプレゼンスを一気に高めている。
生き残った各社は、いずれも市場参入手段、もしくはシェアアップの手段とし て買収を活用し、コングロマリットに対抗可能な事業規模とシェアの獲得に成 功している。
エリア 企業名 シンガポール マレーシア タイ インドネシア フィリピン ベトナム ブルネイ カンボジア ミャンマー Tesco
(英) 2002- 1998-
Metro
(独) 2012- 2012-2016
(TCC) Wal-mart
(米) 1997-1998
Carrefour
(仏) 1997-2012 1994-2012 (イオン)
1996-2010 (Casino)
1998-2012 (CT Corp) Casino
(仏)
1999-2016 (TCC)
2003-2016 (Central) Makro
(蘭)
1993-2006 (Dairy Farm)
1989-2013 (CP)
1992-2010 (Lotte)
1995-2007 (SM) Ahold Delaize
(蘭)
1999-2003 (Dairy Farm)
1998-2003 (Dairy Farm)
1997-2004 (Central)
2002-2003 (Dairy Farm)
日本 イオン 1985- 1985- 2013- 2014- 2014- 2016-
Dairy Farm
(香港) 1993- 1994- 2005-2007 1998- 2012- 2011- 2008- 2012-
Lotte
(韓国) 2008- 2008-
欧米
東アジア
高 い シ ェ ア を 獲 得 した 域 外 企 業 の共通点
①早期参入によ る先行者メリット
②買収によるシェ アアップ