物理学者でない人 のための統計力学
東京工業大学 渡辺澄夫
1.物理学につい て
統計力学
統計力学 = 確率微分方程式
作用素代数・非可換幾何 無限次元の確率論
統計力学の深化と展開
無限は有限と違う = 無限次元の確率論
このチュートリアルでは・・・
このチュートリアルでは、
有限次元の平衡状態から無限次元へ移行する
問題について、物理学を習ったことが無い人に 本当に基本的かつ基礎的なことを解説します。
2.平衡統計力 学
カノニカル分布
x R∈ n とする。
ハミルトニアン H(x) によって記述される 逆温度 β の平衡状態とは
p(x|β) = exp( -βH( 1 x ) ) Z(β)
という確率分布のこと
例
x=(p1,q1,p2,q2,…pn,qn) R∈ 2n
H(x)=(1/2) Σ (pn i2+qi2)
i=1
n 個の互いに自由なバネ
⇒ 平衡状態 p(x|β) は正規分布
例
x=(p1,q1,p2,q2,…pn,qn) R∈ 2n
H(x)=(1/2) Σ pn i2 + U(q1,q2,…,qn)
i=1
相互作用 U を持つ多体系
研究課題:平衡状態をコンピュータで作るには
例
x=( s 1,s2,…,sn) 2∈ n H(x|w) = - Σ wij Si Sj
(i,j)
スピンシステム
研究課題: w が確率変数のときに何が?
例
x=( x 1, x 2,…xn) R∈ n
H(x|a)= - Σ log p(ai|x) – log φ(x)
N i=1
確率モデル p(a|x) 事前確率 φ(x)
平衡状態=事後分布
休憩:量子統計力学
x=(p1,q1,p2,q2,…pn,qn) は非可換代数の生成元 H(x)=(1/2) Σ pn i2 + U(q1,q2,…,qn)
i=1
CCR: [pi,qj]= √ δ-1 ij
平衡状態は、非可換代数から複素数への 線型写像 (KMS 状態という)になる
平均値
確率分布 p(x|β) により、任意の関数の平均が
定義される
E[ f(x)|β] = ∫ f(x) p(x|β) dx
平均と確率分布
E[ |β] = ∫ p(x|β)
は f(x) C[xdx ∈ 1,..,xn] から複素数への線型写像
C[x1,..,xn] から複素数への線型写像(自然なもの)
があれば、有限次元のヒルベルト空間とその上の 確率分布が(実質的に)ユニークに再構成される
休憩:量子統計力学
無限次元のヒルベルト空間上の作用素 Xi と (∂xi) を (p1,q1,p2,q2,…pn,qn,…) と考えるとある非可換 代数が生成される。 逆に
CCR を満たす無限個 (p1,q1,p2,q2,…pn,qn,…) が 生成する非可換代数上に KMS 状態があると、
ヒルベルト空間上の表現が作れる( GNS 再構成)。
3.心の準備
目標:無限次元
x を無限次元のベクトルとする。
ハミルトニアン H(x) が与えられたとき平衡状態
Exp(-βH(x)) を定義して解析するための方法を
与えよ。
心の準備(1)
x = (x1,x2,…,xn,…)
R∞ : = {x ; - ∞ < xi < ∞ } ヒルベルト空間
E= {x R∈ ∞; Σ x∞ i2 < ∞}
i=1
は R∞ の中のほんの一部分である。
心の準備(2)
ヒルベルト空間
E= {x R∈ ∞; Σ x∞ i2 < ∞}
i=1
lim xi = 0
正規直交系 { ei } について lim (u,ei)=0 しばしば物理学にとって狭すぎる
心の準備(3)
x=( x 1, x 2,…, x n,…) 2∈ ∞ x, y 2∈ ∞ が弱同値であるとは
無限個のスピン
Σ |(xi,yi) -1| < ∞
集合 2∞ =無限個の同値類の和集合
異なる同値類は、異なる物理状態に対応
∞ i=1
心の準備( 4 )確率分布の収束
有限次元の場合でもいろいろな問題がある
p(x|a) exp( - x∝ 2/a) +exp(-(x-1)2/a) (x R)∈
1
→δ(x)+δ(x-1)
→δ(x-1)
→δ(x)
心の準備( 5 )平均の収束
平均値の極限 ≠ 極限による平均値
p(x|a) = (1/(a+1))(aδ(x)+δ(x-a)) (x R)∈
p(x|a) → p(x|∞)=δ(x)
E[x|a] = a/(a+1) → 1 ≠ E[x|∞] =0
無限次元では 日常茶飯事 しかも物理的現象と
4.有限から無限 へ
例による説 明
pn(x) exp( - |x|∝ 2) x = (x1,x2,…,xn)
x = (x1,x2,…,xn,…)
p(x) p∝ n(x1,x2,…,xn)φ(xn+1,…) p∞(x) exp( - |x|∝ 2)
無限次元の正規分布
p∞(x) exp( - |x|∝ 2) に従う x について x = (x1,x2,…,xn,…)
| Σ xi |
(n log log n)½
n
P( limsup n→∞ i=1 =1 )=1
重複対数の法則
無限次元の正規分布
p∞(x) exp( - |x|∝ 2) のサポートは、
H(0) に含まれている。
x = (x1,x2,…,xn,…)
|Σ (xi –a)|
(n log log n)½
n
limsup i=1
H(a)={x ; ≦ n→∞ 1}
例による説 明
pn(x) exp( - |x|∝ 2) +exp(-|x-1|2) x = (x1,x2,…,xn)
x = (x1,x2,…,xn,…)
p(x) p∝ n(x1,x2,…,xn)φ(xn+1,…) p (x) = ?
1 = (1,1,…,1)
例による説 明
p∞(x) ∝
exp( - |x|2) exp(-|x-1|2)
a exp( - |x|2) + (1-a) exp(-|x-1|2)
H(0) で極限を取ったとき H(1) で極限を取ったとき
H(0)+H(1) で極限を取ったとき
pn(x) exp( - |x|∝ 2) +exp(-|x-1|2)
例による説 明
exp( - |x|2) exp(-|x-1|2)
H(0) で極限を取ったとき H(1) で極限を取ったとき
0 1
無限次元への移行
「有限次元→無限次元」の極限は、定義域に
依存して、同値でない平衡状態が複数存在しうる
◎ 極限の取り方が違うのだから、
数学的な矛盾ではない
◎ 物理学的に起こる現象を調べたいときは
どうするべきか・・・物理学のセンスが必要
◎ 物理学で起こる現象と情報学で起こる現象は
同じセンスで捉えてもよいか・・・今のところまだわからない
休憩:スピンシステム
x=( x 1, x 2,…, x n,…) 2∈ ∞ x, y 2∈ ∞ が弱同値であるとは
無限個のスピン
Σ |(xi,yi) -1| < ∞
X を含むヒルベルト空間を H(x) と書くと 弱同値でないとヒルベルト空間は異なり
物理学的に違う現象が起こりうる
∞ i=1
5.自由エネルギ ー
例による説 明
pn(x) = { n exp( - |x|2) +exp(-|x-1|2/2)}
x = (x1,x2,…,xn) 1
Z
例による説 明
Z =∫ { n exp( - |x|2) +exp(-|x-1|2/2)} dx
∝ n + 2n/2
分配関数は、平衡状態において割り振られる
確率に対応し、これが1になる状態が実現される pn(x) ∝ { n exp( - |x|2) +exp(-|x-1|2/2)}
→ exp(-|x-1|2/2)
例による説 明
Z =∫ { n exp( - |x|2) +exp(-|x-1|2/2)} dx
= Z1+Z2
F= -log Z = - log (exp(-F1)+exp(-F2)) F min(F≒ 1,F2)
自由エネルギー最小が実現される
例による説 明
0 1
エネルギー最小
自由エネルギー最小
無限に離れている
情報学への応用
y が与えられたときの x の分布 p(x|y)
p(x|y) を最大にする x と
∫ p(x’|y) dx’ を最大にする x は全く違う
|x-x’|<ε
自由エネルギー
エネルギーと自由エネルギーの違い
物理学と情報学の認識が最も乖離している所 本当は深い関連がある
平衡状態の安定性は自由エネルギー によって調べられる
休憩:変分原理
F = E - S
F(p) = ∫ H(x)p(x)dx + ∫p(x)logp(x)dx
p(x) が温度 1 の平衡状態
を最小化
6.相転移
例による説 明
pn(x|α)∝ { exp( - |x|2) +exp(-|x-1|2/α)}
x = (x1,x2,…,xn)
α =1で入れ替わる
例による説 明
p∞(x) ∝
exp( - |x|2)
exp(-|x-1|2/α)
a exp( - |x|2) + (1-a) exp(-|x-1|2) (α<1)
pn(x) exp( - |x|∝ 2) +exp(-|x-1|2/α)
(α>1)
(α=1)
例による説 明
p∞(x|α)
制御変数 α が変化するとき
確率分布(サポートも)が急激に 変化することがある
温度、外場、・・・
相転移
有限次元で相転移がなくても 無限次元では相転移が起こる
実問題では無限次元だと考える方が 正確な場合がある
p∞(x|α) p n (x|α)
p∞(x|α’) p n (x|α’)
α 変化 α 変化
普遍性
無限次元空間上の KMS 状態の集合は 数学的に普遍的な性質を持つ
無限次元空間では、個々の物質ではなく 数理によって現象が決まることがある
(ユニバーサリティ)
7.まとめ
まとめ
無限次元空間上の確率分布の挙動を 考える問題では、統計力学が長年の 知恵と方法を持っている
情報学、統計学において
俯瞰的な視点と、強力な手段とを与える 可能性がある