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大学生の主観的・心理的well-beingに及ぼすスポーツドラマチック体験および経験年数の影響 [ PDF

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Academic year: 2021

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大学生の主観的・心理的 well-being に及ぼす

スポーツドラマチック体験および経験年数の影響

キーワード:運動・スポーツ参加,人間形成,媒介変数 所 属 行動システム専攻 氏 名 與田 匠 背景および目的 現代社会は,事故,災害,社会的な不安や経済的な 問題など,解決や回避が困難な出来事が身の回りに数 多く存在している (小塩ら, 2002).このようなネガティ ブなライフイベントを経験しても,それを糧に乗り越 えていくことが必要である (小塩ら, 2002).とくに,大 学生は,日常の中で多くの困難や苦痛をもたらすよう な出来事を経験する可能性があることが指摘されてい る (高比良, 1998).このことから,大学生にとって,現 代社会における様々な困難を乗り越えるための「人間 としての強さ (human strengths)」を育成することが必要 だと考えられる. 「人間としての強さ」の研究テーマの 1 つである well-being は,日本語では,幸せおよび幸福感と訳され ることが多いが (島井, 2006),近年の well-being 研究は, 個人の快状態を反映する快楽主義 (hedonism) の主観 的 well-being と , 理 性 的 成 熟 を 反 映 す る 理 性 主 義 (eudaimonism) の心理的 well-being に大別できる (Ryan & Deci, 2001).主観的 well-being は満足感の高い体験に より向上し,ひいては心理的 well-being が高まるといっ た仮説 (Lundquvist, 2011) が提示されている.つまり, 主観的 well-being は,体験と心理的 well-being の媒介変 数と考えらえるが,この仮説モデルはいまだ検討され ていない. これまで,スポーツ参加と人間形成の関係性は未だ 統一した結論が出されておらず,その関係性を明らか に す る こ と が 求 め ら れ て き た ( 梶 原 ら , 2001) . Papacharisis et al. (2005) は,スポーツそのものではなく スポーツ体験によって人間形成が促進される可能性が あると述べており,スポーツに取り組む中での体験に 注目することが重要である.さらに,運動・スポーツ の経験年数と人間形成についても,一貫した結果が得 られていない (鈴木・中込, 1998).このことから,経験 年数と人間形成の関連を検討することも重要である. 近年,運動・スポーツ場面における「体験」を捉え る 1 つの指標として,スポーツドラマチック体験 (橋本, 2006) が注目されている.これは,練習や試合の中で体 験される,人生の転機ともなるような心に残るエピソー ドと定義され,自己変容を促す環境・時間・人・行動な どのダイナミックな関係性を含んでいる (内田・橋本, 2013). 本研究では,満足な「体験」の変数としてスポーツド ラマチック体験を位置づけ,運動・スポーツ場面におけ るスポーツドラマチック体験および経験年数が,主観的 well-being と関連し,ひいては主観的 well-being が心理 的 well-being を規定するか検証することを目的とした. Ⅰ.スポーツドラマチック体験,主観的 well-being,お よび心理的 well-being の各下位尺度における男女差の 検討 (第 1 章) 1.目的 スポーツドラマチック体験,主観的 well-being,およ び心理的 well-being における各下位尺度の男女差を検 討することを目的とした. 2.方法 1) 調査対象者 福岡県の K 大学および佐賀県の N 大学の大学生 241 名 (男性 195 名,女性 46 名; 平均年齢 19.4±.09 歳) を 分析の対象とした. 2) 調査時期 すべての調査は,2014 年 6 月下旬に実施された. 3) 調査方法 体育・スポーツ・健康関連の講義および実技の授業に おいて,質問紙調査を実施した. 4) 調査項目 (1) フェイスシート 性別,年齢,これまでの運動・スポーツ経験 (種目名 および経験年数) について調査した. (2) 心理学的尺度 ① スポーツドラマチック体験尺度 阿南 (2010) によって作成された改訂版スポーツド ラマチック体験尺度 (Inventory of Dramatic Experience for Sports-form:RIDES-2) を用いた.

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WHO が 作 成 し た 心 の 健 康 自 己 評 価 質 問 紙 (Subjective Well-Being Inventory) の 項 目 を 伊 藤 ら (2003) が整理・作成した主観的幸福感尺度 (Subjective Well-Being Scale) を用いた.

③ 心理的 well-being の指標

Ryff (1989) の心理的 well-being の概念を踏まえて作 成された心理的 well-being 尺度 (Scale of Psychological Well-Being; Ryff & Keyes, 1995) に準拠し,西田 (2000) が作成した心理的 well-being 尺度を用いた. 5) 統計処理 スポーツドラマチック体験,主観的 well-being,およ び心理的 well-being における男女差を検討するために, それぞれの下位尺度得点を従属変数,男女を独立変数 とした一要因分散分析を行った. 3.結果および考察 激励体験〔F (1, 239) = 12.91, p<.001〕,フロー体験〔F (1, 239) = 4.99, p<.05〕,およびチーム内問題解決体験〔F (1, 239 )= 16.22, p<.001〕 にそれぞれ有意差が認められ, これらの下位尺度において,女子は男子に比べて有意 に得点が高かった.女子は男子よりもソーシャルサポ ートを受けやすく (片受・大貫, 2014; 和田, 1989),集 団の中で発揮される社会的スキルが高い (橋本, 2000; 庄司, 1991) ことが報告されている.したがって,激励 体験とチーム内問題解決体験の得点は,女子が男子よ りも有意に高いことが推察される.フロー体験では, 常 に 明 確 な 目 標 を 有 す る こ と が 条 件 で あ り , 徳 永 (2005) は,男子に比べ,女子の心理的競技能力診断検 査 (Diagnostic Inventory of Psychological-Competitive Ability for Athletes: DIPCA.3) の目標の達成を含む自己 実現意欲の得点が高いことを報告していることから, 女子は目標達成に向けた自己実現意欲が高いため,常 に目標が明確化しており,フロー体験に入りやすいと いえる. 心理的 well-being の各下位尺度得点では,人格的成長 〔F (1, 239) = 10.14, p<.01〕と積極的な他者関係〔F (1, 239) = 8.06, p<.01〕にそれぞれ有意差が認められ,女子 の得点は男子よりも高かった.徳永ら (2000) は,女子 における心理的競技能力診断検査 (Diagnostic Inventory of Psychological-Competitive Ability for Athletes: DIPCA.2) の自己実現意欲が男子よりも高いことを報 告していることから,可能性への挑戦や主体性を高く 有する女子において,人格的成長の得点が有意に高く なったといえる.また,女子は男子に比べて,ストレ ッサーを引き起こす可能性のある対人関係に対して, 積極的にその関係を改善し,より良い関係を築こうと 努 力 す るポ ジ ティ ブ 関係コ ー ピ ング が 高い (加 藤, 2000; 加藤; 2003) ことが報告されている.このことか ら,本研究においても,女子における積極的な他者関係 の得点は男子に比べ,高くなったといえよう. Ⅱ.スポーツドラマチック体験および経験年数と主観 的 well-being および心理的 well-being との関連 (第 2 章) 1.目的 運動・スポーツ参加における体験および経験年数と, 「人間としての強さ」の 1 つである well-being (主観的 well-being および心理的 well-being) との関連について 検討することを目的とした.なお,第 1 章の結果を踏ま えて,ここでは男女別に検討を行った. 2.方法 調査対象者,調査時期,調査方法および調査項目は, 第 1 章と同様であった.分析方法は,主観的 well-being および心理的 well-being の下位尺度得点を従属変数,ス ポーツドラマチック体験の下位尺度得点と経験年数を 独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析を 行った. 3.結果および考察 男子および女子におけるスポーツドラマチック体験 および経験年数から主観的 well-being への規定力を検 討した結果を Figure 1 と Figure 2 に示し,心理的 well-being への規定力を検討した結果を Figure 3 と Figure 4 に示した.男女ともにスポーツドラマチック体 験が主観的 well-being および心理的 well-being に関連し, 経験年数は男子のみ主観的 well-being および心理的 well-being に関連した. 男子の主観的 well-being における「人生に対する前向 きな気持ち」には,フロー体験が正の規定力を示した. フロー体験は,人生に楽しさや生きがいを与える有力な 概念である (石村, 2008) ため,試合中にうまくいくよ うなフロー体験をすることで,これからの人生もうまく いくだろうという考え方を身につけたといえる. 女子の主観的 well-being における「自信」には,チー ム内問題解決体験が正の規定力を示した.島本・米川 (2014) は,相手との親密な関係を促進する「自己開示」 が,ライフスキルにおける「自尊心」に最も強い規定力 を示したことを明らかにしている.チーム内問題解決体 験には,メンバー同士で話し合いを行う内容も含んでい る.このことから,チームにおける人間関係などの問題 を解決するために,自分の考えや意見を主張し,解決の ために貢献する中で自己開示が促進され,言葉や行動に 対して自信が得られると推察される. 男子の心理的 well-being において,「人格的成長」に は経験年数が正の規定力を示した.平野 (2013) は,高 校生のセーリング選手に対し,経験年数が 3 年以上の

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者は,3 年未満の者に比べもっとうまくなりたいという 動機に関係していると報告している.したがって,経 験年数が増えることによって,成長している感覚を獲 得できる可能性が示唆された. 女子の心理的 well-being において,「自己受容」には, 自己貢献体験が負の規定力を与えていた.相関分析の 結果,関係が無相関にもかかわらず,影響の強さを示 す標準偏回帰係数が有意を示した.その理由として, 自己貢献体験は抑制変数としての役割を持っているこ とが考えられる (秦葉, 2010).独立変数間における相関 分析の結果から,激励体験 (r =.62, p<.001) とチーム 内問題解決体験 (r=.60, p<.001) は自己貢献体験と高 い相関を示していた.そのため,激励体験とチーム内 問題解決体験が自己受容に及ぼす影響に対して,自己 貢献体験がその影響を高めてしまう働きをした.この 影響を抑制するために,自己貢献体験が自己受容に対 して負の影響を及ぼした可能性がいえる. 抑制変数が働く理由として,自己貢献体験,激励体 験,およびチーム内問題解決体験それぞれの項目に, チームという言葉が頻出していることが考えられる. 例えば,自己貢献体験は,試合においての自身のプレ イが好結果に結び付いた内容を表すが,中には「重要 な試合で自分に与えられた役割をこなしたことで,チ ーム全体の流れが変わり,貢献できたと感じたことが ある」という項目もあり,自分がチームのために貢献で きたかどうかを尋ねている.激励体験は,危機的な状況 での他者の言葉によるパフォーマンスの発揮に関する 項目を多く含み,チーム内問題解決体験もまた,チーム における人間関係の問題の解決に関する項目を多く含 んでいる.このため,自己貢献体験と共通して,チーム をより良い方向に導く文章を含んだ項目がある.その結 果,自己貢献体験と激励体験,自己貢献体験とチーム内 問題解決体験それぞれの下位尺度間における相関係数 が高い値を示し,自己貢献体験が抑制変数として働いた 可能性がある. Ⅲ. 主観的 well-being を媒介変数とした仮説モデルの 構築 (第 3 章) 1.目的 満足な「体験」の変数としてスポーツドラマチック体 験を位置づけ,運動・スポーツ場面におけるスポーツド ラマチック体験および経験年数が,人間形成の重要な要 素である主観的 well-being と心理的 well-being に関連す るプロセスについて検討することを目的とする. 2.方法 調査対象者,調査時期,調査方法,および調査項目は 第 1 章と同様であった.主観的 well-being がスポーツド ラマチック体験および経験年数と心理的 well-being の

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間の媒介変数となるかを検討するために, Baron & Kenny (1986) が提唱する 3 つの条件に沿って分析を行 った. 3.結果および考察 スポーツドラマチック体験の合計得点および経験年 数を独立変数,主観的well-beingの合計得点を媒介変数, 心理的well-beingの合計得点を従属変数とする仮説モデ ルを検証した (Figure 5およびFigure 6).その結果,Baron & Kenny (1986) が示した媒介変数となるための3つの 条件が満たされず,男女ともに仮説モデルを支持する ことができなかった. スポーツドラマチック体験は,運動・スポーツにおけ る体験量を尋ねており,ケガからの立ち直り体験など は,頻繁に体験する機会がないと推察される.そのた め,スポーツドラマチック体験の一部の下位尺度得点 では,得点が低い値を示すことがいえる.本研究では, 下位尺度得点を総計した合計得点を用いて媒介モデル を検証したため,規定力が弱まった可能性がある.こ の た め , ス ポ ー ツ ド ラ マ チ ッ ク 体 験 か ら 主 観 的 well-beingへの関連が,男女ともに認められなかったと 推察される. Ⅳ.今後の課題と展望 本研究では,これまでの運動・スポーツ参加における 過去のスポーツドラマチック体験と,現在の主観的 well-being および心理的 well-being との関連を横断研究 によって検討したため,明確な因果関係を検証したとは いえない.そのため,スポーツドラマチック体験が,運 動・スポーツ活動に取り組む者の人間形成にどのように 影響するのかを縦断的に検討することが,今後の課題と して残された. また,尾崎・上野 (2001) は,過去に起きた出来事に 対する現在の心理的側面への影響は,学業領域や運動領 域など,どの生活領域に重きを置くかにより異なること を指摘している.今後は,運動・スポーツに対する重要 度の度合いを考慮し,スポーツドラマチック体験と well-being との関連について検討する必要がある. さらに,上野 (2008) は,発達段階を考慮した上で, 運動部活動における体験が,生涯発達においてどのよう な役割を果たすのか,ライフサイクルの視点から検討す る必要があると述べている.このことから,大学生のみ ならず,小学生,中学生,および高校生など,その時々 のスポーツドラマチック体験による人間形成がどのよ うに変化するのかを検討する必要がある.これは,どの 年代でどのような体験をすれば,どのような人間形成が できるのかという,運動・スポーツ参加による人間形成 の方略を明らかにするとともに,いまだ検討の余地があ る運動・スポーツ参加における人間形成に関する研究の エビデンスの蓄積を促すであろう. 本研究では,運動・スポーツにおける様々な体験が人 の主観的・心理的 well-being に関連することを検討した. ポジティブ心理学の発展で,その研究は増加傾向にあり, 国外では,運動・スポーツにおける well-being 向上の 研 究 が 多 く さ れ て い る (Baltatescu & Kovács, 2013; Ferguson, 2014; Maledo et al., 2007; Ruseski et al., 2014) が,我が国では運動・スポーツにおける主観的・ 心理的 well-being の向上を示した研究は皆無である.そ のため,本研究で明らかとなった運動・スポーツにおけ る主観的・心理的 well-being への寄与は,様々な困難が 待ち受けている将来に対する「人間としての強さ」を育 成する観点からも意義があり,日本における初の試みで あると同時に,さらなる研究の蓄積が必要である. Ⅴ.主要参考文献

Lundqvist, C., & Sandin, F. (2014): Well-being in elite sport: Dimensions of hedonic and eudaimonic well-being among elite orienteers. The Sport psychologist, 28(3): 245-254.

参照

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