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本刊行物は, 農林水産政策研究所における研究成果をまとめたものですが, 学術的な審査を経たものではありません 研究内容の今後一層の充実を図る ため, 読者各位から幅広くコメントをいただくことができれば幸いです

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食料供給プロジェクト【食料品アクセス】 研究資料 第3号

食料品アクセス問題の現状と課題

-高齢者・健康・栄養・多角的視点からの検討-

平成29年3月

農林水産政策研究所

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本刊行物は,農林水産政策研究所における研究成果をまとめたものですが,

学術的な審査を経たものではありません。研究内容の今後一層の充実を図る

ため,読者各位から幅広くコメントをいただくことができれば幸いです。

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まえがき

我が国の高齢化は急速に進んでおり,平成28 年 10 月 1 日現在で 27.3%(総務省「人口 推計」)と4 人に 1 人以上が 65 歳以上となっている。このような我が国社会の高齢化の急 速な進展と食料品店の販売店舗の減少を背景に,特に高齢者等が食料品の買い物に不便や 苦労がある状況が顕在化している。 このような状況の中で,農林水産政策研究所では,平成22 年度からこれら問題を「食料 品アクセス問題」として位置づけ,その現状や対応方向について検討を行ってきた。 まず,平成22 年度には,食料品の買い物における不便や苦労の現状について把握すると ともに,全国的な食料品アクセスマップを作成した。このアクセスマップは,全国を500m メッシュで区切り,その中で食料品店までの距離が 500m 以上の人口と割合を算出したも のであり,新聞等各種メディアにも取り上げられ,買い物難民,フードデザート問題とし て社会から注目を浴びた研究成果となった。また,平成23 年度は,東日本大震災の発生に より三陸沿岸部の食料品の販売店舗が減少したことから,岩手県,宮城県の沿岸部におけ る 500m メッシュのアクセスマップを作成し,震災前後におけるアクセス状況の変化を整 理した。さらに,食料品の買い物における不便や苦労を解消するための対策について,そ の必要性,具体的な対策の内容や方向性等について先進事例も踏まえながら検討を行った。 以上については,平成24 年 3 月に刊行した「食料品アクセス問題の現状と対応方向」につ いてまとめられている。 その後,従来の研究成果を踏まえながら,平成26 年度から 28 年度まで,「安定的かつ効 率的な食料供給システムの構築に関する研究」(食料供給プロ)においては,食料品の買い 物の不便や苦労の影響が比較的大きく現れると考えられる高齢者を主な対象として,食料 品アクセスの状況と食品摂取や健康・栄養との関連について,都市近郊の団地内住民,農 山村地域の住民等の事例に基づく分析や,全国を対象とした『国民健康・栄養調査』の大 規模個票データに基づく分析,さらには将来(20 年後)に高齢者となる現役世代を対象と した調査を基にした分析を行った。 また,食料品アクセス問題に係る対策については,農林水産省で実施した全国市町村調 査をベースに,地方自治体における対策の実施,継続,中止等の状況や今後の対策を実施 する上での課題等について分析,検討を行った。 さらに,今回は新たな試みとして,高齢者の食料品アクセスに大きな影響を与える自動 車の利用状況について,『全国消費実態調査』をベースに年齢階層別の自動車所有率等につ いての推計を行った。 いずれの内容についても詳細は本編及び要旨をご覧頂きたいが,食料品アクセスの状況 が食品摂取と栄養や健康に及ぼす影響や,アクセス対策の課題や今後の方向性等について は,今後,更に研究を深めていきたいと考えている。 平成29 年 3 月

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食料品アクセス問題の現状と課題

-高齢者・健康・栄養・多角的視点からの検討-

目 次 ページ 要 旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 第1章 食料品アクセス問題と高齢者への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 -都市近郊地域の住民調査による分析- 池川 真里亜 1. はじめに 2. 調査対象地域の概要 3. 調査概要 4. 調査結果 5. 分析のまとめ 第2章 食料品アクセスと高齢者の健康・栄養 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 -農山村地域での住民調査から- 山口 美輪 1. 調査背景 2. 調査方法 3. 結果 4. 考察 第3章 市町村における食料品アクセス対策の動向 ・・・・・・・・・・・・・・ 31 -「食料品アクセス問題に関する全国市町村アンケート調査」より- 大橋 めぐみ 1. はじめに 2. 分析結果 3. おわりに 第4章 食料品アクセス問題と健康・栄養 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47 -大規模個票データを用いた分析- 菊島 良介 1. はじめに 2. 分析の枠組み 3. 食料品アクセス困難者の特徴 4. 結論

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第5章 現役世代の食料品アクセス問題と食品摂取 ・・・・・・・・・・・・・・・ 57 -50 代を対象にしたネット調査による- 高橋 克也 1. はじめに 2. 調査の概要 3. 集計結果 4. 分析のまとめ (参考)通販・宅配の利用について 第6章 店舗までの距離が主観的アクセスに及ぼす影響 ・・・・・・・・・・・・・ 73 -農林水産情報交流ネットワーク事業・全国調査モニター調査による- 高橋 克也 1. はじめに 2. 調査・分析手法 3. 集計結果 4. 主観的アクセス指標に影響する要因 5. 分析のまとめ 第7章 高齢者の自動車利用状況の推計 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 87 薬師寺 哲郎 1. はじめに 2. 推計の考え方 3. データと推計の具体的方法 4. 推計結果の概要 (付属資料) ・住民調査・集計概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117 ・住民調査票 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121 ・全国市町村アンケート調査結果・概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 135 ・全国市町村アンケート調査票 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 145 5. おわりに

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池川 真里亜 農林水産政策研究所 食料・環境領域研究員 山口 美輪 国立国際医療研究センター 臨床研究センター 疫学・予防研究部 上級研究員 大橋 めぐみ 農林水産政策研究所 農業・農村領域主任研究官 菊島 良介 農林水産政策研究所 食料・環境領域研究員 高橋 克也 農林水産政策研究所 食料・環境領域主任研究官 薬師寺 哲郎 農林水産政策研究所 食料・環境領域上席主任研究官(平成27年度まで) 中村学園大学流通科学部流通科学科 教授(平成28年度) (執筆順) 【執筆分担】

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要 旨

第 1 章では,都市近郊地域の住民を対象に,団地内の食料品スーパーの閉店前後の主観 的な食料品アクセス指標と食品摂取や健康・栄養指標の関連について明らかにした。調査 地は 2010 年より継続的に住民調査を実施しているが,周辺団地と比較しても一層高齢化が 進行しており,徒歩圏内にあった食料品スーパーの閉店の影響は極めて大きいものとみら れた。2回にわたる住民調査の結果から,買い物に不便・苦労を感じる住民は活動能力指 標(手段的自立)が低い傾向にあるとともに各食品の摂取頻度は低いことが示されており, 主観的な食料品アクセス指標が食品摂取や健康に関係性があることが示唆された。 第2章では,農山村地域の住民調査において食品摂取頻度調査を実施し,主観的な食料 品アクセスとともに総エネルギー摂取量や詳細な栄養素摂取量との関連を明らかにした。 その結果,60 歳以上の男性において不便・苦労がある場合,脂質量や脂質エネルギー比が 低い反面,炭水化物エネルギー比が高いという結果が示された。また,男女ともに不便・ 苦労ありでは主観的健康感の悪さの割合が有意に高かったことがあげられる。すなわち, 女性においては主観的な食料品アクセスが身体的,社会的要素に何らかの影響を及ぼす可 能性が示された。 第3章では,農林水産省食品流通課が 2011 年より継続的に実施している「食料品アクセ ス問題に関する全国市町村アンケート調査」を基に,地域によってどのような対策が実施・ 継続されているかといった具体的な対策の動向について検討した。食料品アクセス問題と は,単に小売や流通上の問題だけでなく住民自身の生活に直結するという地域問題の側面 を備えた多面的な拡がりを持つが,なかでも住民に最も近い自治体での対策が重要となる。 分析では対策において,行政だけでなく民間事業者を含めた役割分担と連携が不可欠であ るとともに,事業の継続性や公益性,食生活の改善など長期的視点が重要であることが示 唆された。 第4章では,全国規模のミクロデータから食料品アクセス問題と健康・栄養の関連につ いて接近している。ここでは『国民健康・栄養調査』と『国民生活基礎調査』のリンケー ジから,食料品アクセス困難者の特徴として 65 歳以上,低所得であることが確認された。 一方で,高齢者の栄養摂取状況には偏りがみられたが,身体的特徴としては男性の腹囲の 他,食料品アクセス困難であることによる差異はみられなかった。また,食料品価格によ

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第5章では,高齢者が主体となりやすい食料品アクセス問題において,将来的に高齢と なる 50 代の現役世代の住民を対象にネットアンケート調査を実施し,現在及び将来の主観 的な食料品アクセスの状況とともに問題点や対応策,食事の準備や食品摂取の関連につい て分析している。その結果,現在の買い物の不便・苦労は全体の3割弱に過ぎないものの, 20 年後といった将来では逆転し 7 割が不便になるとみている。不便・苦労の内容を確認す ると,現在では品揃えや店までの遠さといった店舗に関する事柄に対し,将来では自身の 身体や運転の不安など内容が大きく異なっていた。将来の不便・苦労を被説明変数とした 分析では,現在の不便・苦労とともに主観的健康感(健康でない),性別(男性)など変数 が有意に影響していることが示されている。 第6章では,買い物の不便・苦労という主観的な食料品アクセス指標は,店舗までの距 離や時間といった要因によって強く影響されるとみられるが,ここでは多様な属性や社会 経済指標を含んだ全国的な調査から買い物の不便・苦労と距離の関連について検証した。 その結果,65 歳未満の女性において,店舗までの距離が買い物の不便・苦労に対して大き く影響していることがわかった。また,その影響度は距離が大きくなるほど強くなるとい った傾向を持つことが推計値から確認され,主観的アクセス指標に対して客観的アクセス 指標が影響するといった仮説が支持されるとともに,全国的な調査の重要性があらためて 確認されている。 第7章では,高齢者の買い物における不便・苦労には店舗までの移動手段,なかでも自 動車の利用が大きな影響を及ぼすことがあきらかになっているが,これら高齢者の自動車 利用の実態について複数の調査統計より推計している。その結果,高齢者の自動車の利用 率の向上が確認されており,これは高齢者の自動車所有率が高まったことの影響が大きい とみられる。推計の結果,自動車に依存する 75 歳以上の高齢者は 2005 年から 2015 年でお よそ 3 倍に増加しており,今後このような高齢者が自動車を運転できなくなった場合の対 応が重要になるとみられる。

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第1章 食料品アクセス問題と高齢者への影響

―都市近郊地域の住民調査による分析―

池川 真里亜

1. はじめに

高齢化の進展に伴い,日常的な食料品の買い物に不便や苦労を感じる住民が増加すると いう,食料品アクセス問題が各地でより顕在化している。中山間地域や農山村地域,地方都 市のみならず東京都内においても,23 区外の都市近郊地域では,店舗の閉店や住民の高齢 化により,食料品アクセス問題は深刻化している。 これまでの薬師寺ら(2015)の研究から,食品摂取の前段階である買い物において不便 があると,住民の食生活や栄養摂取に影響を与える可能性が指摘されており,買い物におい て不便がある高齢者では食品摂取の多様性を示す得点が低く,主観的健康感や活動能力指 標(後述)が有意に低い結果が示されている。本研究では,都市近郊地域にある東京都八王 子市 A 団地において,食料品アクセスに関する調査を実施し,高齢化が進む都市近郊地域 において,徒歩圏内の近隣店舗が閉店した場合と店舗が開店した場合で,買い物の不便や苦 労が減少した住民と両時点で不便や苦労がある住民の特徴を把握することを目的とした。

2. 調査対象地域の概要

食料品アクセス問題は,中山間地域や農山村地域,地方都市など(以下,地方部とする) で問題とされることが多いが,都市部や都市近郊部(以下,都市近郊地域とする)でも顕在 化している。また,都市近郊地域における食料品アクセス問題は,地方部でのそれとは質が 異なる。都市近郊地域における特有の背景としては,自動車の保有率が低いことが挙げられ る。一方,地方部では,店舗までの距離は遠いものの,高齢者でも自動車の保有率が高かっ たり,子供世代の家族と同居していることが多く,都市近郊地域における高齢単身世帯の住 民とは不便や苦労を感じる要因が異なってくる(薬師寺ら(2015),浅川ら(2016)等)。 本研究では都市近郊地域における高齢者について,買い物に対する不便や苦労の内容を把 握することとした。 本研究で対象とするA 団地は,東京都八王子市に位置する。最寄り駅は JR 線・京王線高 尾駅だが,駅までは直線距離でおよそ2.7km あり,バスで 15~20 分ほどかかる。八王子 市内の同規模の団地の中でも高齢化率が高い団地であり,2014 年から 2016 年の 2 年弱で

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を利用して高尾駅周辺まで買い物に行く住民が多い。日中間利用できるバス停は 2 街区 8 号棟前の「T 中学校前」,4 街区 6 号棟前の「A 団地」の 2 か所のみで,その他週に数日の 夜間のみ3 街区 3 号棟前の「3 号棟前」が利用できる(第 1 図)。 これまで団地内にはスーパーマーケットが1 軒と鮮魚店等の個人商店が数店舗あったが, 2016 年 7 月末に団地内スーパーマーケット(全国チェーンスーパーマーケット)が閉店し た。2016 年 11 月上旬にその跡地に新店舗(食品ディスカウントストア)が開店するまでの 約 3 か月間,団地は一時的なフードデザート状態となり,食料品をはじめとする日用品の 買い物に不便や困難を感じる住民が急増した。 第1 表に,同じ八王子市内の同規模の団地における高齢化率の時系列変化を示した。A 団地においては,2014 年 6 月から比べると,2016 年 3 月時点では高齢化率は 4.5 ポイン ト上昇している。八王子市全体に比べても非常に高いが,高齢化率の高い都営長房アパー トと並んで,直近2 年間における A 団地の増加率は高い。 第2 表には,調査対象における年齢別の回答率を示した。比較のため,他の地域で行った 調査の回答率も示した。今回の調査では,回答者の平均年齢が約70 歳であり,特に 75 歳 以上の割合が 40%以上と非常に高くなっている。他の地域でも平均年齢は 60 歳を超えて いるが,75 歳以上の割合は高くとも 35%程度で,A 団地はその割合が飛び抜けて高い。 第 3 表に調査対象における世帯類型別の回答率を示した。特に他の地域と比べて,A 団 地については高齢単身世帯の割合が44%と非常に高くなっている。また,2010 年調査時点 と比較しても,その割合は年々増加している。 第1図 対象団地 団地内地図 資料:筆者作成. T 中学校前 バス停 3 号棟前 バス停 団地内店舗 A 団地 バス停

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第1表 八王子市内の団地における高齢化率の時系列変化 資料:八王子市オープンアクセスデータベース. 第2表 年齢別回答率の他地域間比較(参考) 資料:筆者作成. 第3表 世帯類型別回答率の他地域間比較 2014年6月 2015年3月 2016年3月 八王子市 23.7% 25.2% 25.2% A 団 地 46.5% 48.8% 51.0% 都営長房アパート 47.1% 49.2% 51.0% 松が谷団地 (賃貸住宅のみ) 33.5% 35.7% 38.2% 横川町住宅 29.6% 31.9% 34.2% 都営多摩ニュータウン  南大沢団地 26.0% 27.7% 30.3% 都営中野山王  三丁目アパート 44.4% 45.8% 46.0% 65歳以上割合 2010年 2013年 2016年 2015年 2015年 東京都 東京都 東京都 福島県 鳥取県

A団地 A団地 A団地 B市 C町

全体 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 99.9% 40歳未満 5.6% 2.7% 2.4% 7.0% 3.4% 40歳代 6.7% 5.0% 6.1% 8.9% 3.4% 50歳代 13.6% 7.9% 7.8% 14.4% 18.1% 60-64歳 13.4% 11.4% 8.5% 11.7% 15.7% 65-69歳 17.7% 19.0% 14.9% 16.9% 13.3% 70-74歳 15.6% 21.6% 19.4% 14.6% 11.4% 75歳以上 27.4% 32.5% 40.9% 26.5% 34.6% 平均年齢 69.0 70.0 64.4 67.6 2010年 2013年 2016年 2015年 2015年 東京都 東京都 東京都 福島県 鳥取県

A団地 A団地 A団地 B市 C町

全体 100.0% 100.0% 100.0% 96.3% 100.0% 高齢単身世帯 33.7% 42.3% 44.3% 19.1% 19.5% 単身世帯 15.0% 12.5% 10.6% 9.4% 6.8% 高齢夫婦世帯 21.4% 24.3% 19.5% 18.8% 20.5% 二人(夫婦)世帯 12.9% 8.7% 5.5% 17.7% 16.1% その他の世帯 17.0% 12.3% 20.2% 31.3% 37.1%

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3. 調査概要

第1 回目調査は,2016 年 10 月(団地内スーパーマーケット閉店後 3 か月後)に A 団地 の全世帯(2,200 戸)に調査票を郵送で送付し回収した。調査対象は,世帯内で普段買い物 を主に行う人とし,買い物頻度や店舗までの交通手段と時間,買い物での不便とその理由な ど,買い物行動に関する項目を主に確認した。65 歳以上の高齢者については,活動能力指 標(手段的日常生活動作:以下,活動能力指標とする)も併せて確認している。第1 回目調 査の最終的な有効回答数は659 名(回収率 30.0%)で,このうち 65 歳以上の割合は 72.8% であった。また,第 2 回目調査への協力意向を示したものは 377 名(有効回答数のうち 57.2%)で,これらの対象者に第 2 回目調査票を郵送で送付した。 第2 回目調査は,主に普段の食事や栄養摂取に関する調査で,2017 年 2 月(新店舗開店 後3 か月後)に調査票を郵送で送付し回収した。調査対象は第 1 回目調査に回答した人と し,買い物に関する項目の他に,簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ:Brief-type self-administered Diet History Questionnaire)による食事・栄養摂取について確認した。第 2

回目調査の最終的な有効回答数は347 名(回収率 92.0%)で,このうち 65 歳以上は 269 名

(有効回答数のうち 77.5%)であった。本研究ではこれら 65 歳以上高齢者 269 名のうち

BMI(Body Mass Index: kg/m2)や BDHQ の結果に欠損がある場合,第 1 回目調査と第 2

回目調査の回答者が異なる場合などを除き,さらに第 1 回目調査で買い物に不便があると 回答した回答者166 名(男性:75 名,女性:91 名) を主な分析の対象とした。 また,店舗が近隣にない状態で行った第 1 回目調査については,自由記入欄への記入率 が 47.2%であったことが特徴的であった。さらに,書き切れずに別用紙を添付してくださ った方や枠外に記入された方も多く,ここからも,いかに近隣に店舗がなく,買い物に対し て不便や苦労を感じていたかを窺い見ることができた。記入内容としては大きく分けて,閉 店した店舗への意見や団地の環境への意見,閉店後の生活についての意見,自身の普段の生 活や健康のために普段から気をつけていること,新しくできる店舗についての意見や期待, 若い世代の子育てについての意見などが見られた(第5 表,第 6 表)。 第4表 調査概要 資料:筆者作成. 第1回目調査 第2回目調査 調査時期 2016年10月 2017年2月 調査票配布数 2,200通 377通 回答方式 郵送 郵送 有効回答数 659名 347名 回収率 30.0% 92.0% 有効回答のうち 65歳以上回答者 480名 (72.8%) 269名 (77.5%) 有効回答のうち 第2回調査協力者 377名 (57.2%)

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第5表 自由記入欄(一部抜粋) 資料:第 1 回目調査時の自由記入欄より一部抜粋.原文まま. 注.店舗名に関しては,特定されないよう筆者が改変した.改変部分は[ ]で囲んだ.  閉店した店舗について  スーパーがあるときはあまり感じなかったが、 なくなると不便。(70代・男性)  4街区は閉店したスーパーに行くには不便でした(80代・女性)  団地内のスーパーは肉魚の品揃えがよくなく、 質がよくないので  駅前のスーパーで 買い物を済ませる人が多い。(60代・女性)  この団地に住んで30年になりますが、 当初から[旧店舗]の品揃え、清潔さ、接客等に 多大な不満があり、  ほとんど利用していません。 あればいいというものではないのでは。(50代・女性)  週一日、娘との買い物の日を決めて まとめ買いをしているため、 団地内では不足を補う程度でした。  これからは自分の健康状態と娘家族の状況が変わってくると 頼れるかどうかと考えられます。  団地内のスーパーなど協力しなかった事は反省しています。(70代・女性)  団地の環境について  駐車場が無いので身内のものがあまり来なくなりました。(80代・女性)  団地内にスーパーがあり、 買い物の便が良いのでこの団地に引っ越しました。  スーパーが閉店したことで団地に住む価値、 あるいは団地の価値が半減したように思います。(30代・男性)  団地内の手すりの設置(バス停まで)。  ヘルパーさんと一緒に買い物へ行き、 自分に合った食べ物を選びたい。(90代・女性)  年齢と共に買い物の荷物が重く、バス停が遠く感じます。  夜間だけでなく昼間もバスを中道りに通していただけたら、 ありがたいと思っています。(80代・女性)  閉店後の生活について  大きな荷物を持ってバスに乗ること、 お店が遠いと重い物を買って来ることがとても大変です。(60代・女性)  買い物をするのにバス代で1ヶ月9,000円は大変(60代・女性)  距離等の関係で配達してくれるところがありませんので残念です。(70代・男性)  最近買い物に行くと食品がこんなに重かったのかと思います。 自分の持てる範囲で買い物しようとつい考えて  欲しい物も買わずに帰ってくるときが多いです。(60代・女性)  缶詰を利用することが多くなった(70代・女性)  過日荷物もってバスに急いだため転倒してしまいました。  なんとか団地内のスーパー開店してくれることを願ってます。(80代・女性)  スーパーのお総菜は便利で1食の内一品は利用するが、味が濃かったり、 調理方法があわなかったりと  手軽さだけでは満足な食生活にはならず、それで1人分を3食手作りするには、日々悩まされる。(60代・女性)  まとめ買いをするので余分に買ってしまい破棄することが多い(70代・男性)  以前スーパーがあったので、買い忘れをしてもすぐに買いにゆけた。 今では食べない。(60代・女性)  少し不便だからと言って苦情を言ってもはじまらない。  身近にあるときは知らない顔で、閉店したら困ると言うのは虫が良すぎる。(60代・男性)

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第6表 自由記入欄(一部抜粋)(続き) 資料:第 1 回目調査時の自由記入欄より一部抜粋.原文まま.  普段の生活について  私は今80才ですが、いつも健康に気をつけて、食卓の段取りとか調理は 頭脳にもいいのでいつも自分で考え、  いつも3~4品作り、肉料理が多いですし野菜も。  今週5日健康を保つため、筋力をつける様教室に行き、 8000歩以上はだいたい歩きますので、  皆さん80才にしては若いといってくれます。(80代・女性)  高齢のため、火力を使うことに臆病になり(ガスの消し忘れ等) 検査の結果、認知症は未だ該当無いとのことでしたが、  眼もかすみ毎日の新聞からの吸収がせい一杯のため、水と火の始末は心配です(80代・女性)  現在は車の運転が出来るので、問題ないが 車が運転できなくなったときを考えると不安がある。(60代・男性)  歩行器を利用しているが買い物は自分の目で確かめ買っていたが それもできずヘルパーに頼んでいるが、  買いたい物を我慢することもある。(80代・女性)  足がビッコでやっと歩いてバスに乗っているので、雨のときは出歩けない。  これから冬に雪が降ったら杖を突いて歩けないので、不安が一杯だ。(60代・男性)  現在は何とか1人で頑張っておりますが・・・・  年とともにお友達を作り少しでも誰かの役に立てたらと願っております。(80代・女性)  近所とのつきおいが無いので不安、淋しい。情報が無い。 (50代・女性)  自治会(フラットを含む)の高齢者への積極的配慮により、 日常生活を支えられ、はげまされ暮らしてます。  私も支えられるだけでなく出来ることは微かですが努めて参りたいと思います。(80代・男性)  あまり重い物がもつのが大変です。 でも人に迷惑は掛けたくないので出来るだけ自分でこなしています。(80代・女性)  一人暮らしは初めてなので大変です。女房の有りがたさ感じる(80代・男性)  自分が行っている食事がバランスがとれているのかを知りたい(70代・男性)  新しくできる店舗について  家族も食べる量が少なくなっていきますので、 少量販売の種類が増えると助かります。(60代・女性)  カロリー表示、高血圧、糖尿病など 持病のある人が安心して食べられる表示が欲しい。(70代・女性)  高齢なので食料品などの配達があればありがたい。 電話で注文を受け付けてほしい。(80代・女性)  団地内は坂が多いので、 買い物して一休みしてから帰宅したいです。(70代・女性)  揚げ物以外の商品を多く販売して欲しい。  団地内に昼夜利用できる 普通のレストランが一軒あればなと思います。(70代・女性)  家庭料理が食べたい(60代・男性)  又団地内のスーパーが開店されると思うのですが、  以前より品数をもう少し豊富において欲しいと思います。(80代・男性)  バスの増便(最近混むようになった。)(80代・男性)  子育てについて  たまたま今の時期に出産をし、 乳児がいるためスーパーが団地になくなり大変不便を感じている。(30代・女性)  もうすぐ1歳になる子供がいるのですが できるかぎり新鮮で安全なものを食べさせたいのに、 スーパーが閉まってしまって  駅まで子供をだっこでバスに乗っていく日々です。 本当に大変です。高齢の方のフォローも大事かと思いますが、  私たちのような世帯はコンビニもカフェもスーパーも何もない団地は とても住みにくいです。(30代・女性)  家に車がないので2才の子供連れて自転車で駅前スーパーまで行って 買い物するのがとても不便であり、  団地内に小さいスーパーでもいいので、 あれば毎日使うので良いと思います。(30代・女性)  年配の方中心に考えていくのはわかるが、 もう少し若い子育て世代についても考えていかないと  団地に住む若い世代がいなくなると思う。 皆子育てしながら働き、若いからといって車に乗れる人ばかりではない。  仕事で疲れて帰ってきて、家の近くに寄るスーパーが無いのはキツイ。  それなら、もっと便利なところにと考えることもある。 今までのようにスーパーがあれば、助かるのに。(40代・女性)

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4. 調査結果

本研究では第 1 回目調査と第 2 回目調査を個人単位で接続し,そのどちらの調査にも回 答している住民を分析対象とした。そのうち特に65 歳以上の住民だけを抽出し,買い物に 不便や苦労を感じる住民の割合を示したものが第 2 図である。特に近隣に店舗のない状態 であった第1 回目調査については,少なくとも 60%以上もの住民が,買い物について何か しらの不便や苦労を感じていたことが明らかになった。一方で,団地内に新たに店舗ができ た後に行った第 2 回目調査では,不便や苦労を感じる住民の割合は大きく減少した。それ でもなお,30%以上の住民は,買い物について何かしらの不便や苦労を感じていることも明 らかになった。 さらに,買い物に利用する主な交通手段(単回答)について,第3 図に示した。第 1 回目 調査では10%に満たなかった徒歩で買い物に行く住民の割合が,第 2 回目調査では 20%以 上にまで増加した。一方でバスや電車を利用する住民の割合は減少したが,第 2 回目調査 時点でも依然としておよそ 40%の住民はバスや電車などを利用して買い物に行っているこ とも明らかになった。 第2図 買い物に不便や苦労を感じる住民の割合 資料:筆者作成. 注.第 1 回目調査と第 2 回目調査で接続できた住民のみを対象とした. 69.9% 67.1% 73.1% 62.9% 35.0% 41.8% 37.3% 38.2% 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 65歳以上男性 65歳以上女性 うち75歳以上男性 うち75歳以上女性 第1回目調査 第2回目調査 n=123 n=146 n=67 n=89

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第3図 買い物に利用する主な交通手段 資料:筆者作成. 注.第 1 回目調査と第 2 回目調査で接続できた住民のみを対象とした. 次に,食品摂取の多様性を評価するために,各個人について「食品摂取の多様性得点」を 算出した。食品摂取の多様性得点(以下,多様性得点とする)とは,0 点から 10 点満点で 表す指標であり,得点が高いほど食品摂取に多様性があることを示す。具体的には,最近一 週間のあいだに食べた食品について,特に主菜,副菜を構成する①魚介類②肉類③卵④牛乳 ⑤大豆・大豆製品⑥緑黄色野菜⑦海藻類⑧いも類⑨果物類⑩油脂類の10 食品群のそれぞれ に対して,その摂取頻度を聞き,「ほとんど毎日」摂取したと回答した場合に 1 点を与え, その合計点を得点とする(熊谷ら,2003)。この多様性得点の特徴として,概して女性の方 が男性よりも得点が高く,年齢が高くなるほど得点が高くなる傾向があることが指摘され ている(薬師寺ら,2015)。 第4 図に,第 1 回目調査時点と第 2 回目調査時点における,多様性得点の平均を示した。 いずれの区分においても,店舗ができた後の第 2 回調査時点では,団地内に店舗がない状 態での第1 回目調査時点よりも多様性得点は高くなる傾向となった。 7.8% 5.8% 17.9% 4.6% 57.9% 6.1% 25.9% 5.5% 15.9% 4.9% 44.1% 3.7% 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 第1回目調査 第2回目調査 n=347

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第4図 多様性得点の変化 資料:筆者作成. 注.第 1 回目調査と第 2 回目調査で接続できた住民のみを対象とした. また,65 歳以上の住民に対しては第 1 回目調査で,活動能力指標に関する設問にも回答 していただいた。これは,高齢者の生活の自立度を測る指標であり,第7 表に示した 13 の 設問に対する「はい」の個数で表される,0 点から 13 点満点の指標である。当然ながら, 年齢が高くなるほど,活動能力指標は低下する傾向がある。特にこのうち,設問①から設問 ⑤までは「手段的自立(0~5 点)」を表し,食事の準備,金銭の管理など,様々な手段を自 由に選択して日常生活を自己完結する能力を示す。設問⑥から設問⑨までは「知的能動性(0 ~4 点)」を表し,探索,余暇活動などの知的活動の能力を示す。設問⑩から設問⑬までは 「社会的役割(0~4 点)」を表し,人を思いやる,相談に乗る,若い世代との積極的な交流 など,地域社会で利他的に行動できる能力を示す。 さらに将来低栄養になるリスクを示す「低栄養リスク得点」がある。これは,前述の①「手 段的自立」得点が5 点未満の場合に 1 点,②過去 1 年間の入院歴がある場合に 1 点,③過 去1 年間の転倒歴がある場合に 1 点,④「趣味や稽古事」を「しない」あるいは「時々す る」程度の場合に1 点を加算して点数を与えた指標で,0 点から 4 点で表される。この指標 は多様性得点や活動能力指標と異なり,点数が高いほど将来低栄養になるリスクが高いこ とを表す(第7 表下段)。 活動能力指標(0~13 点)について,年齢階層別に平均点を示したのが第 8 表である。ま た,全体での四分位25%点(10 点)を下回ったものを「低群」とし,その割合を表中右に 示した。特に75 歳以上男性では 45%以上もの住民が低群になることが明らかになった。同 2.00 2.20 2.40 2.60 2.80 3.00 3.20 3.40 3.60 3.80 4.00 全体 65 歳以上 75 歳以上 65 歳以上男性 65 歳以上女性 75 歳以上男性 75 歳以上女性 第1回目調査 第2回目調査 n=123 n=146 n=67 n=89 n=156 n=269 n=347

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第7表 活動能力指標 資料:古谷野ら(1987),熊谷ら(2005)より筆者作成. 第8表 活動能力指標 資料:筆者作成. 注.第 1 回目調査で回答のあった住民を対象とした. ここで第1 回目調査と第 2 回目調査のどちらにも回答している 65 歳以上の住民のうち, 団地内に店舗のない状態で行った第 1 回目調査で「買い物に対する不便や苦労がある」と 回答した住民だけを抽出し,第1 回目と第 2 回目調査ともに不便・苦労を感じている回答 者(不便→不便)と,第2 回目調査時点では不便・苦労を感じなくなった回答者(不便→な し)とを区分した。その上で,年齢や体重,BMI などの身体的特徴と,前述の多様性得点, 活動能力指標,うち手段的自立,知的能動性,社会的役割,および低栄養リスク得点,買い 物にかかる所要時間(1の増減について,不便や苦労が減少した住民と変わらない住民の二 群間に差があるかを確認した(第9 表)。 男性について見ると,団地内に店舗ができた後にも買い物に不便や苦労を感じる住民は, 店舗ができた後には不便や苦労を感じなくなった住民に比べて,活動能力指標,うち手段的 自立,社会的役割について有意に得点が低く,低栄養リスク得点が有意に高い傾向があるこ ① バスや電車を使って一人で外出できますか ② 日用品の買い物ができますか ③ 自分で食事の用意ができますか ④ 請求書の支払ができますか ⑤ 銀行預金・郵便貯金の出し入れが自分でできますか ⑥ 年金などの書類が書けますか ⑦ 新聞を読んでいますか ⑧ 本や雑誌を読んでいますか ⑨ 健康についての記事や番組に関心がありますか ⑩ 友達の家を訪ねることがありますか ⑪ 家族や友達の相談にのることがありますか ⑫ 病人を見舞うことができますか ⑬ 若い人に自分から話しかけることがありますか ① 上記「手段的自立」の得点が5点未満 ② 過去一年間に入院したことがありますか ③ 過去一年間に転倒したことがありますか ④ 趣味や稽古事をしていますか 手段的自立 知的能動性 社会的役割 低栄養リスク得点 対象人数 平均点 低群 (9点以下) 全体 478 10.69 25.8%  うち75歳以上 259 10.39 31.4% 男性 173 10.13 37.6%  うち75歳以上 88 9.89 45.5% 女性 302 11.02 19.1%  うち75歳以上 168 10.66 24.1% 第1回目調査

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とが明らかになった。また,体重やBMI などの身体的特徴と,多様性得点,買い物にかか る所要時間については差がなかった。女性については同様に,活動能力指標,うち手段的自 立について有意に得点が低く,低栄養リスク得点が有意に高いことが明らかになった。また, 女性については身体的特徴にも差があり,特にBMI に関しては不便を感じなくなった住民 の方が,より標準値(22)(2に近い値となった。さらに買い物にかかる所要時間(平均時 間)については,近隣に店舗がない状態の第1 回目調査では,不便→不便の住民では約 21.4 分,不便→なしの住民では約26.0 分となっているが,団地内に店舗が開店した後では不便 →不便の住民で約 17.3 分,不便の減少した住民で約 16.5 分と値が逆転している。すなわ ち,店舗ができても依然として不便を感じる住民の所要時間は約4 分の短縮に過ぎないが, 不便を感じなくなった住民では約 8 分短縮されており,両者には統計的に有意な差があっ た。ここから女性の場合は,近隣に店舗ができたことによって不便が減少した住民(不便→ なし)は,不便の主な要因は店舗が近くにないこと,すなわち買い物先までの所要時間がか かることに起因すると考えられる。一方で,近隣に店舗があってもなお不便を感じる住民 (不便→不便)では,買い物の不便・苦労が時間以外の要因に起因すると考えられる。具体 的には,手段的自立度が低いことや体重やBMI などの身体的要因が考えられるが,その因 果関係については引き続きより詳細な分析と検証が必要である。食品摂取の多様性につい ては,女性の場合も多様性得点に差がなかった。 第9表 買い物に不便や苦労のある住民の活動能力指標 資料:筆者作成. 注1)第 1 回目調査と第 2 回目調査で接続できた 65 歳以上の住民のうち,第 1 回調査で 「不便あり」と回答した住民のみを対象とした. 注2)表中の**,*はそれぞれ有意水準 5%および 10%で統計的有意差をもつことを示す. 注3)比較は t 検定による. 不便→不便 不便→なし 不便→不便 不便→なし 対象人数 (人) 35 40 50 41 年齢 (歳) 76.1 74.9 75.2 77.5 ** 体重 (kg) 59.3 60.5 52.6 49.0 ** BMI (kg/m2) 24.1 22.8 23.1 21.7 * 活動能力指標 (0~13点) 9.7 10.6 * 10.5 11.3 *  手段的自立 (0~5点) 4.5 4.9 * 4.7 4.9 *  知的能動性 (0~4点) 3.5 3.3 3.6 3.6  社会的役割 (0~4点) 2.0 2.6 ** 2.9 2.8 低栄養リスク得点 (0~4点) 1.3 1.0 * 1.2 0.9 ** 多様性得点(平均点) (0~10点)  (1回目) 2.7 2.6 3.5 3.7  (2回目) 2.9 2.6 3.4 3.8 所要時間(平均時間) (分)  (1回目) 19.4 17.4 21.4 26.0 **  (2回目) 14.3 14.3 17.3 16.5 所要時間(増減) (分) -5.1 -3.1 -4.0 -8.0 ** 男性 女性

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買い物に対する不便や苦労に影響を与えると考えられる活動能力指標について,低群と そうでない群に区別し,それぞれの店舗開店前(以下,閉店中とする)と店舗開店後の各食 品群の摂取頻度(3の変化を比較したものが第5 図である。 男女ともに,低群と比較すると低群以外の群の方が各食品群の摂取頻度が高く,バランス もある程度取れている。ただし,全体としていも類の摂取頻度は低い。緑黄色野菜について は閉店中の方が開店後よりも摂取頻度が高い傾向にあるが,これは住民からの要請で,近隣 の青果店が閉店中の期間に団地内への移動販売を行っていたことと関連する可能性がある。 男性の結果を見ると,特に低群はすべての食品群について摂取頻度が低い。低群の閉店中, 開店後を比較すると,魚介類と油脂類の摂取頻度が有意に低下した。また,低群以外につい ては,牛乳の摂取頻度が有意に増加し,油脂類の摂取頻度が有意に低下した。 女性の結果でも,低群は低群以外と比較してすべての食品群について摂取頻度が低い傾 向がある。低群の閉店中,開店中を比較すると,店舗ができた後は大豆・大豆製品と海藻類 の摂取頻度が有意に増加している。一方で低群以外の場合は,牛乳と油脂類の摂取頻度が有 意に低下したことが明らかになった。 特に閉店中と比較して,開店後に各食品群の摂取頻度が増加しているのは,活動能力指標 低群の女性で,近隣に店舗がない状態は,65 歳以上の女性でかつ活動能力指標の低い住民 の食品の摂取頻度を低下させる可能性があると考えられる。

5. 分析のまとめ

本研究では,都市近郊地域にある東京都八王子市 A 団地において行った,食料品アクセ スに関する調査から,高齢化が進む都市近郊地域において,徒歩圏内の近隣店舗が閉店した 場合と店舗が開店した場合で,買い物の不便や苦労が減少した住民と,両時点で不便や苦労 がある住民の特徴を把握することを目的とした。 まず,近隣に店舗が開店したことにより買い物の不便や苦労が減少した住民と比較する と,両時点で不便や苦労を感じる住民は,相対的に活動能力指標の低い傾向があることが明 らかになった。特にそのうち手段的自立,すなわち日常生活を自己完結する能力が低い傾向 にある住民は買い物に不便や苦労を感じやすく,また低栄養リスク得点が有意に高いこと から,将来的に低栄養になるリスクが高いことが明らかになった。女性の場合はさらに身体 的特徴にも影響が表れやすく,買い物にかかる所要時間にも,近隣の店舗の有無によって大 きく差が出ることが明らかになった。また,活動能力指標の低群とそれ以外の群でそれぞれ, 各食品群の摂取頻度を見たところ,低群は各食品群の摂取頻度が,それ以外の群と比較して 低い傾向にあることがわかり,近隣に店舗がない状態は特に活動能力指標低群の女性の食 品摂取に影響を与える可能性があることが明らかになった。 ただ,本分析では買い物の困難度と栄養摂取,健康状態について明確な因果関係は確認でき ず,食料品アクセス問題と健康の関連については,より複雑なプロセスが存在していると考 えられることに留意する必要がある。

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男性・低群(9 点以下) (n=31) 男性・低群以外(10 点以上) (n=76) 女性・低群(9 点以下) (n=17) 女性・低群以外(10 点以上) (n=114) 第5図 活動能力指標別各食品群の摂取頻度(日/週)の変化 資料:筆者作成. 注1)第 1 回目調査と第 2 回目調査で接続できた住民のみを対象とした. 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00 魚介類* 肉類 卵 牛乳 大豆・ 大豆製品 緑黄色 野菜 海藻類 いも類 果物類 油脂類* 閉店中 開店後 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00 魚介類 肉類 卵 牛乳* 大豆・ 大豆製品 緑黄色 野菜 海藻類 いも類 果物類 油脂類** 閉店中 開店後 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00 魚介類 肉類 卵 牛乳 大豆・ 大豆製品 ** 緑黄色 野菜 海藻類** いも類 果物類 油脂類 閉店中 開店後 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00 魚介類 肉類 卵 牛乳** 大豆・ 大豆製品 緑黄色 野菜 海藻類 いも類 果物類 油脂類 *** 閉店中 開店後

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第10表 店舗ができたことによる食品群の摂取頻度の変化 活動能力指標 低群 低群以外 男性 魚介類 ↓ 油脂類 ↓ 牛乳 ↑ 油脂類 ↓ 女性 大豆 ↑ 海藻類 ↑ 牛乳 ↓ 油脂類 ↓ 資料:筆者作成. 注.店舗の閉店中と開店後で統計的に有意差があったもの. 注1 ここでいう所要時間とは,自宅を出てからよく利用する店舗に到着するまでの片道の時間を表し,商品の選 択や会計など買い物自体にかかる時間は含まれない.

注2 BMI については,標準値を身長に対する標準体重を示す BMI:22 とし、BMI:18.5~24.9 を普通体重とした日 本肥満学会の肥満基準(2011)を想定している. 注3 摂取頻度については,「1.ほとんど毎日」「2.2 日に 1 回」「3.1 週間に 1~2 回」「4.ほとんど食べな い」の 4 段階で回答してもらい,「1.ほとんど毎日」を 7 日/週,「2.2 日に 1 回」を 3.5 日/週,「3.1 週 間に 1~2 回」を 1.5 日/週,「4.ほとんど食べない」を 0 日/週として換算した. [引用文献] [1] 浅川達人・岩間信之・田中耕市・駒木伸比古(2016)「地方都市におけるフードデザート問題:都市・農 村混在地域における実証研究」『日本都市社会学会年報』第 34 巻,pp.1-13。 [2] 岩間信之・浅川達人・田中耕市・駒木伸比古(2015)「高齢者の健康的な食生活維持に対する阻害要因の 分析─GIS およびマルチレベル分析を用いたフードデザート問題の検討─」『フードシステム研究』第 22 巻第 2 号,pp55-69。 [3] 熊谷修・渡辺修一郎・柴田博ほか(2003)「地域在宅高齢者における食品摂取の多様性と高次生活機能低 下の関連」『日本公衆衛生雑誌』第 50 巻第 12 号,pp.1117-1124。 [4] 熊谷修・柴田博・湯川晴美(2005)「地域在宅高齢者の身体栄養状態の低下に関連する要因」『栄養学雑 誌』第 63 巻第 2 号,pp.83-88。 [5] 古谷野亘・柴田博・中里克治ほか(1987)「地域老人における活動能力の測定-老研式活動能力指標の開 発-」『日本公衆衛生雑誌』第 34 巻第 3 号,pp.109-114。 [6] 高橋克也・薬師寺哲郎(2013)「食料品アクセス問題の実態と市町村の対応-定量的接近と全国市町村意 識調査による分析から-」『フードシステム研究』第 20 巻第 1 号,pp.26-39。 [7] 八王子市,オープンアクセスデータベース http://www.city.hachioji.tokyo.jp/hachiouji/jinko/005/index.html (2017 年 7 月 19 日アクセス) [8] Russell, S.E., Heidkamp, C.P. (2011)“Food Desertification: The Loss of a Major Supermarket

in New Heaven, Connecticut” Applied Geography, vol. 31, pp.1197-1209. [9] 薬師寺哲郎編(2015)『超高齢社会における食料品アクセス問題』 ハーベスト社。

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第2章 食料品アクセスと高齢者の健康・栄養

-農山村地域での住民調査から-

山口 美輪

1.

調査背景

居住地での食料入手が困難な食料品アクセスの問題は,これまで「フードデザート問題」 として欧米で取り上げられ,低所得層の住む地域において健康的な食料品入手の困難さと 肥満の増大との関連が問題となり,食料品アクセスと肥満との関連について研究が進めら れている(White M 2007)。一方で,日本では社会的弱者になりやすい高齢者を中心に食料 品入手の困難さと健康への影響について,欧米とは異なる状況下で社会問題として提起さ れ始めた(岩間ら 2011)。 栄養・食生活に関する生活習慣および社会環境の改善は,「健康日本 21(第二次)」(厚 生労働省 2013)において ,国民の健康の増進に関する基本的な目標の中でも重要項目の ひとつとしてあげられている。超高齢社会を迎える日本において健康寿命の延伸と社会的 決定要因(1) の違いによる集団間,または個人間の健康格差の縮小,健康を支えるための社 会環境の整備は,生活の質の向上と医療費削減を目指すうえで重要である。食料品アクセ スと健康に関する研究の課題は,住民が健康な食行動をとるために食環境の整備について 実践的な政策の提言へつなげるための科学的エビデンスを蓄積することである。 イギリスの先行研究では,地理情報システム(GIS)を用いて所得や地域別に居住地か ら果物・野菜の販売をする食料品店の距離を推定したところ,農村部では所得が低いほど 食料品の入手が困難であることが報告された(Smith DM et al. 2010)。日本では,高齢層に おいて住居の周辺(500m 圏内)に生鮮食品店の店舗数が多いほど肥満と関連し,独居の 場合はファストフード店の店舗数が多いほど肥満と関連していた報告がある(Hanibuchi T et al. 2011)。 これまでの報告を受けて,食料品アクセスに関する更なるエビデンスの蓄積が必要な点 がいくつかある。ひとつめは,食生活と食料品アクセスとの関連を評価する指標について, 国内外ともに野菜・果物などの生鮮食品や,食品摂取頻度に焦点をあてており,国内にお いては高齢者を対象に食料品アクセスと栄養素摂取量との関連を調べた報告はまだ少ない (Aggarwal A et al. 2014; Pearce J et al. 2008; 吉葉ら 2015)。Caspi CE らは GIS を用いた食料 品アクセスの客観的指標だけでなく,主観的な食料品アクセスの指標を用いた食事や健康 との関連研究の重要性を主張している(Caspi CE et al. 2012)。ふたつめは,食料品アクセ

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の困難さと,過疎化が進む農山村地域の食料品店舗の絶対数が少ない食料品アクセスの困 難さの社会的,または地理的背景が異なるため(薬師寺ら 2011),日本の農山村部特有の 食料品アクセスと食事との関わりを調べる必要がある。そこで本稿では,2010 年より継続 的な住民調査を行っている鳥取県C 町の農山村地域において,食料品アクセスに関連する 調査項目に加えて栄養素摂取量を推定する項目を加え,高齢者における総エネルギー摂取 量や各栄養素摂取量を推定し,主観的な食料品アクセスと栄養素摂取量との関連を調べた 結果を報告する。

2. 調査方法

(1) 対象者 調査地の鳥取県C 町は,2010 年の総人口 5,460 人,65 歳以上人口(割合)は 2,556 人(46.8%), 2005 年前と比較して人口増減率は-10.7%と県内でも人口減少の進んだ地域である(第 1 表)。 2015 年 11 月に C 町の住民 2,113 世帯(全戸)の調理を主に行う住民を対象に,「食生活に ついてのアンケート調査」と題して郵送調査を行った。このうち回答を得たのは520 名(回 答率24.6%)で,ここから性,年齢のデータの欠損者それぞれ 11 名,7 名を除き,さらに 60 歳未満の者 125 名,総エネルギー摂取量の 500kca/日未満の者 3 名,買い物の苦労の情 報が不明の者6 名を除外した。よって最終的に 368 名(男性 106 名,女性 262 名)を対象 者として分析を行った。 第1表 鳥取県 C 町,鳥取市の人口統計または食料品店関連統計 C 町 鳥取市 2010 年人口総数(人) 5,460 197,449 65 歳以上人口(人,割合%) 2,556, 46.8 45,373, 23.0 人口増減率(%) -10.7% -2.1% 可住地面積(ha) 3,666 21,271 課税対象所得(万円) 411 2,113 販売農家数(戸) 848 5,033 小売事業所数(所) 63 2,053 飲食料品小売店数(所) 23 461 資料:総務省 統計局「政府統計の総合窓口(e-Stat)」 https://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/eStatTopPortal.do(2017 年 2 月有効). 注1)人口増減率は,2010 年度人口総数/2005 年度人口総数の比とした. 注2)課税対象所得は千円以下を四捨五入した.

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(2) 主観的な食料品アクセスの指標 主観的な食料品アクセスの指標として,「あなたは普段,食料品の買い物で不便や苦労が ありますか」の問いに対して「不便や苦労がある」または「不便や苦労を感じることがあ る」を『買い物苦労あり』とし,「不便や苦労はあまりない」または「不便や苦労は全くな い」を『買い物苦労なし』とした。 (3) 栄養素摂取量の推定 対象者の 1 日の栄養素摂取量を推定するために,食事摂取頻度調査(Food frequency questionnaire(FFQ)を行った。FFQ の調査には BDHQ(簡易型自記式食事歴法質問票: brief-type self-administered diet history questionnaire)を用いた(Kobayashi S et al. 2011)。BDHQ

は過去1 か月の平均的な食習慣より,以下の 5 つの構成からなっている。1)食品・飲み 物46 種,2)米飯および味噌汁の1日あたりの頻度,3)飲酒の頻度と 5 種のアルコール 飲料の飲酒量,4)よく食べる料理の調理法(和食,洋食,焼き物,揚げ物,炒め物,煮 物など),5)食習慣(例:しょうゆ,ソースの量,食べる速さ,主食・副食の量など)。 これらの要素から,総エネルギー摂取量(kcal/日)と三大栄養素(蛋白質,脂質,炭水化 物)の摂取量(g/日),総エネルギー摂取量に対する栄養素エネルギー比(% energy)を算 出した。その他,食塩相当量(g/日),食物繊維(g/日),微量栄養素のカルシウム,マグ ネシウム,ビタミンC,ビタミン D,カリウム,鉄(mg/日)については総エネルギー摂取 量を調整した残差法による値を用いた。また,食品群の摂取量については,魚介類,(鳥獣) 肉類,野菜類,穀類(米,パン,麺類)の4 種を用いて密度法による摂取量(g/1000kcal) を算出した。 (4) 食料品アクセス,栄養素摂取量に関連する変数

体格指数に体重(kg)を身長(cm)の二乗で割る Body mass index (BMI) (kg/m2

を用いた。また,へそ周りの腹囲(cm)は,紙製メジャーを同封して対象者に計測を依頼 した。高齢者の自立度を評価する目的として,主に手段的自立(交通機関を使っての外出, 買い物,食事の準備,請求書の支払いなど),知的能動性(書類を書く,新聞を読む,本・ 雑誌を読むなど),社会的役割(友人への訪問,家族や友人からの相談,病人のお見舞いな

ど)の 13 項目からなる老研式活動能力指標を用いて手段的日常生活動作 (Instrumental

Activities of Daily Living(IADL)を 65 歳以上の対象者について評価した(Koyano W, et al. 1991)。IADL は,得点が高いほど日常生活動作の自立度が高いことを意味する。余暇の運 動習慣については,ウォーキング,ジョギング,ゴルフなど軽度-中程度の運動の頻度(ほ

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対象者の健康・疾患に関わる項目として,食事療養の有無(している,していない)や, 主観的健康感(普通-良い,やや悪い-悪い)を用いた。主観的健康感は死亡との強い関 連が言われており,心理的,または社会経済的な状況や日常生活要因と関連すると報告さ れている(Idler EL et al. 1997; Molarius A et al. 2007)。社会経済的特徴を示す変数には,食 費(万円/月/人),就業状況(フルタイム・パートタイム,自営業(農業など),退職また はその他)を採用した。また食事する相手(誰かと一緒,ひとり),家族構成(ひとり暮ら し,ふたり,3人以上)のふたつは,世帯構成を把握する変数として用いた。日常的な買 い物の状況を調べるためには,店舗までの移動時間(分/片道),店舗までの交通手段(歩 行・自転車,自動車・バイク,バス・その他)を用いた。我々は栄養素摂取量以外に食生 活の状況を調べるため,食事の準備(生鮮食品など食材を調理する,冷凍食品など加工品 を利用する,惣菜を購入する,弁当を購入する,外食を利用する)について「ほとんどな い」,「週1 回以上」の利用頻度を変数に設定した。買い物苦労がある者のみ,苦労の理由 を「居住地から店舗までの遠さ」,「身体的理由」,「交通アクセスの悪さ」,「サポートがな い」,「店の品揃えの悪さ」,「その他」の複数回答で回答を得た。なお,IADL は中央値未 満と以上で,食費と店舗までの移動時間は三分位でカテゴリー化した。 (5) 統計分析 カテゴリー変数について,買い物苦労の有無に分けた時の割合の違いは chi-square test で検定した。年齢(歳),BMI(kg/m2),腹囲(cm),IADL(得点),食費(万円/月/人), 店舗までの移動時間(分/片道)の連続変数については,分布の偏りから買い物苦労ありと

苦労なしとの差をWilcoxon rank sum test で検定した。

食事摂取量・割合について変数は,正規分布に近似させるために対数変換して分析した。 結果の値は幾何平均(幾何平均 — 幾何標準誤差, 幾何平均 + 幾何標準誤差)で示した。 買い物苦労の有無を独立変数に各栄養摂取量や栄養素エネルギー比との関連について共分 散分析を行った。Model 1 では,年齢(60–64, 65–74, 75–79, 80 +歳)のみを共変量に使用し た。Model 2 では,年齢に加えて BMI(kg/m2(<18.5, 18.5–24.9, 25 +),食費(万円/人/月) (男性<2.5, 2.5–4.9, 5.0 +; 女性 <2.2, 2.2–3.2, 3.3 +),食事療養(している,していない), 余暇の運動頻度(回/週)(ほとんどない, 1 – 4, 5 +)を共変量に加えた。 共変量の欠損値はひとつの変数として用い,すべてカテゴリー変数として用いた。有意 水準は両側検定の0.05 とした。15 項目の栄養素量と栄養素エネルギー比と 6 種の食品群を 用いて買い物苦労との関連を分析したため,Bonferroni 補正した際の有意水準は 0.002 (α = 0.05/21)とした。

3. 結果

第2 表は,主観的な食料品アクセスを買い物苦労ありと苦労なしで分けた,身体的・社

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会経済的特徴を男女別に示す。男女ともに,主観的健康感,店舗までの移動時間に買い物 苦労の有無の間で有意な割合の違いがみられた。主観的健康感は「やや悪い―悪い」の割 合が買い物の苦労を感じる者に多かった。店舗までの移動時間は,割合,連続変数ともに 有意な違いがみられ,男女とも買い物苦労ありの20 分の方が苦労なしの 15 分よりも 5 分 長かった。統計的有意差はみられなかったが,食費(万円/月/人)について買い物苦労あ りの中央値(男性3.0,女性 2.5)の方が,苦労なしよりも男性では 0.5 万円高く,女性で は0.2 万円高かった(男性 P-value = 0.084, 女性 P-value = 0.465)。 男性においては,就業状況に買い物苦労の有無の間で有意な割合の違いがみられ,「退職 またはその他」の割合が買い物苦労なしの約4 割に対し,買い物苦労ありは約 7 割と高か った。女性では,年齢は買い物苦労ありの中央値75 歳が苦労なしよりも 5 歳年齢が有意に 高かった。女性における買い物苦労ありのIADL の中央値 12 は,苦労なしよりも 1 有意に 低かった。食事する相手や家族構成の割合が買い物苦労の有無で有意に異なり,買い物苦 労ありのひとりで食べること(37.4%)や,ひとり暮らしの割合(33.8%)が苦労なしの割 合(それぞれ 17.9%)よりも高かった。女性における店舗までの交通手段について,買い 物苦労の有無で割合が有意に異なり,公共交通機関のバスやその他を利用している者の割 合が23.0%であり,買い物苦労なしの 2.4%よりも高かった。 第3表では,主観的な買い物苦労ありと苦労なしで分けた食生活と買い物苦労の理由を 示す。女性における食事の準備について,惣菜を購入することや弁当を購入することが週 1 回以上である割合が買い物苦労ありではそれぞれ 47.8%,9.4%に対し,苦労のない者は それぞれ38.2%,4.1%であり,弁当の購入では買い物苦労の有無で割合が有意に異なって いた。買い物苦労がある者のその理由として,男性においてはどの項目も同等の割合であ った(18.0 – 20.5%)。一方女性では,身体的理由の 23.0%が最も割合が高く,サポートが ない(18.3%),交通アクセスの悪さ(18.0%),そして居住地から店舗までの遠さ(16.6%), 店の品ぞろえの悪さ(13.7%),その他(10.1%)の順に続いた。 第4,5表では,栄養素摂取量,栄養素エネルギー比,そして6 つの食品群別の摂取量 の買い物苦労の有無との違いを男女別に示す。男性におけるすべての調整因子を加えた Model 2 の結果では,買い物苦労ありの総エネルギー摂取量の調整平均(kcal/日)は 1,665 (調整平均±標準誤差 1,562, 1,775),苦労なしでは 1,911(1,811, 1,994)であり,統計的有 意性はみられなかったが,苦労ありの方が苦労なしより総エネルギー摂取量が少ない傾向 にあった(第4表,第1 図)。脂質(g/日)について,買い物苦労ありの 35.0(31.8, 38.4) は,苦労なしの46.2(43.1, 49.6)よりも有意に少なかった(P-value = 0.022)。脂質エネル ギー比(% energy)においても,買い物苦労ありの 18.9(17.9, 19.9)は,苦労なしの 21.9 (21.1, 22.8)よりも有意に低かった(P-value = 0.026)。一方で,炭水化物エネルギー比(% energy)においては,買い物苦労ありの 59.6(58.1, 61.1)は,苦労なしの 54.0(53.0, 55.0) よりも有意に高かった(P-value = 0.002)。食品群別にみると,男性における買い物苦労あ

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0.003)。男性において買い物苦労がある者は苦労がない者と比べて脂質量,脂質エネルギ ー比が有意に低かった。 女性では,買い物苦労ありの総エネルギー摂取量(kcal/日)は 1,677(1,630, 1,726),苦 労なしでは1,714(1,662, 1,767)で有意な差はみられなかったが,男性と同様に苦労ありの 方が苦労なしよりも総エネルギー摂取量は少ない傾向にあった(P-value = 0.616)(第5表)。 その他の栄養素摂取量においても買い物苦労ありと苦労なしとの間に有意な差はみられな かった。食品群については,買い物苦労ありの麺類(g/1000kcal)1.7(1.6, 1.9)が苦労な し2.4(2.2, 2.6)より有意に少なかった(P-value = 0.010)。 食塩相当量(g/日),食物繊維(g/日),微量栄養素(mg/日)については,男女とも買い 物苦労ありと苦労なしとの間に有意な差は認められなかった(第4,5表)。

4. 考察

本調査により,農山村地域の60 歳以上の男性において主観的な食料品アクセスを評価し た買い物苦労の有無と栄養素摂取量との間に関連がみられる事が明らかになった。具体的 には,脂質摂取量(g/日),脂質エネルギー比(% energy)が買い物苦労ありの方が苦労な しより有意に低く,反対に炭水化物エネルギー比(% energy)は買い物苦労ありの方が苦 労なしより有意に高かった。 本結果から,買い物苦労の有無で分けた時の対象者の身体的,社会経済的特徴や食習慣 についての特徴が男女とも異なることが分かった。まずは買い物苦労の有無と身体的項目 との関連について,今回買い物苦労の有無と BMI や腹囲など体格指標や,余暇の運動や 30 分以上の歩行の頻度など身体活動量との間に男女とも有意な関連はみられなかったが, 女性ではIADL が買い物苦労ありの方が苦労なしよりも有意に低下していた。加えて買い 物苦労ありの高齢層の割合が高く,女性における高齢層のフレイル(虚弱)が主観的な食 料品アクセスの困難さに関わっている可能性がある。男女共通の特徴のひとつに,買い物 苦労のありの主観的健康感の悪さの割合が苦労なしより高かった事があげられる。主観的 な食料品アクセスの評価は心理的,社会経済的特徴や日常生活要因の中に含まれ,主観的 健康感を決定する重要な項目のひとつと考えられ,健康障害のリスクに寄与する可能性が ある。男性においては,買い物苦労ありに退職者(またはその他)の割合が高く,有意な 関連はなかったが,男女とも買い物苦労ありが苦労なしより食費の負担が大きい傾向があ った。これらより,社会経済的な困難さは主観的な食料品アクセスの悪さと関連する可能 性が考えられる。 買い物苦労と社会経済的特徴との関連については,買い物苦労ありの移動時間の違いは 苦労なしより約5 分長く,特に女性においては交通手段が公共交通機関の利用の割合が買 い物苦労ありの者において高く,自動車・バイクの利用が低かったことを加味すると,限 られた交通手段と移動時間の長さは買い物苦労を感じる原因のひとつになっている可能性 がある。

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食事摂取量と主観的な食料品アクセスとの関連について,60 歳以上の男性において買い 物の苦労がある場合,苦労がない方と比較して脂質を含む食品が多い副菜の摂取量や割合 が低く,さらに米飯を中心とした主食の割合が高いことが本結果から読み取れる。米の入 手のし易さ,価格の安さ,長期保存が可能な事や保存管理も簡易で,さらに調理が簡単な ために,主食は買い物苦労ありの高齢男性において主なエネルギー源となり,炭水化物エ ネルギー比の高い主な要因と考えられる。統計的有意性は認められなかったが,男性にお ける総エネルギー摂取量は買い物苦労ありの場合が苦労なしより低く,これらは脂質や蛋 白質,炭水化物の摂取量の低さが総エネルギー摂取量の低さに反映していると考えられ, 健康への影響について観察を行う必要がある。 一方で女性においては,購入する惣菜や弁当の献立内容は今回の調査では不明であるが, 惣菜や弁当を週1回以上購入することで,男性よりも三大栄養素の摂取量や割合が買い物 苦労なしの者と同様な食事バランスになり,買い物苦労の有無で有意な違いがみられなか ったかもしれない。しかし,女性における買い物苦労ありの総エネルギー摂取量が苦労な しより低い事は男性の傾向と同様であり,女性の買い物苦労ありの特徴でみられたフレイ ルの進行や食費のさらなる負担,交通手段の不便を伴いソーシャルサポートが受けられな い状況になった場合,栄養素摂取量や健康にどのような影響が起きるか長期的観察が必要 である。 18–70 歳以上の三大栄養素の栄養素エネルギー比(% energy)の目標値は,男女とも蛋 白質は13–20 (中央値 16.5),脂質は 20–30 (中央値 25.0),炭水化物は 50–65 (中央値 57.5)となっている(厚生労働省 2015)。買い物苦労ありの者,なしの者の調整平均値は, 双方とも目標値を下回ることや上回ることはなかったため,今回の横断調査では買い物苦 労ありと苦労なしの双方とも疾患リスクの高い食事を摂っている可能性は低いと考えられ る。 結語に,本調査によって我々は,60 歳以上の男性において主観的な食料品アクセスの悪 さは,食料品アクセスがよい者に比べて脂質量と脂質エネルギー比が低く,反対に炭水化 物エネルギー比は高くなることを明らかにし,女性においては主観的な食料品アクセスの 悪さは特に身体的,社会的要素に何らかの問題がある可能性を示した。 注1 健康の社会的決定要因とは,健康や疾病が生活習慣や遺伝要因だけでなく,社会的あるいは経済 的要因によって強く影響されるとする考え方であり,集団や個人間での健康格差をもたらす大きな 要因とされている。

参照

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