• 検索結果がありません。

Taro-14Chapter10_Angiol_DF

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Taro-14Chapter10_Angiol_DF"

Copied!
16
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

第10章

心血管系

循環器系は、体の内部における様々な物質を運ぶ運搬系としての役割があります。 じゅんかんきけい 循環器系には、管腔を流れる体液の違いによって、血液を流すための心血管系cardiovascular system と、 かんくう たいえき リンパが流れるリンパ系lymphoid system とがあります。 心血管系は、血液を押しだす心臓と、血液を体の隅々まで運ぶ血管とから構成されます。

第1節 血液

血液blood は、血管のなかを流れる体液で、組織や細 胞に酸素や栄養を供給し、逆に、二酸化炭素や老廃物を ろうはいぶつ 除去します。さらに、血液は、熱や水分などを運ぶこと で体温や水分量を調節します。また、血液に存在する免 疫系の働きで病原性微生物や毒素などから体を守ります。 血液の量は体重の1/13~1/12で、体重が60kg のヒトで は約4.8㍑あります。 血液は、液体成分と細胞成分とに分けられます。 図10-1 血液を構成する成分を模式的に示す

1.液体成分(血漿)

血液の液体成分を血 漿plasma と呼び、通常では血 けっしょう 液の約55%を占めています。血漿の約92%が水分で、残 りの約8%は固形物です。 健康なヒトの血液のpH は、7.34~7.45の間に維持さ れています。 血漿からフィブリノーゲンfibrinogen を除いたもの を血清serum といいます。 けっせい

1)血漿タンパク質

血漿タンパク質は、健康な成人では100mL の血漿に 約7g 存在し(ヒトの体全体としては約200g)、アルブ 表10-1 血液の標準値 男 性 女 性 単 位 ヘマトクリット値 45 40 % 血液量 75 65 mL/kg体重 比重 1.057 1.053 浸透圧 275~290 mOsm ミンalbumin やグロブリン globulin、フィブリノーゲ ンfibrinogen などがあります。 血漿タンパク質のなかで一番多いアルブミン(約4 g/dL)は、肝細胞で合成され、血管の中に水分を保持すかん る働き(膠質浸透圧)や血液のこうしつしんとうあつ pH の緩衝作用があります。 アルブミンが減少すると、毛細血管などから漏れる液体 も が増加し、間質液が増え、浮腫がおこります。アルブミ ふ し ゅ ンは、血漿浸透圧を約25mmHg(3.3kPa)に維持します。 注)1mmHg =1.333hPa =0.1333kPa グロブリンは、体の防御機構や脂質の輸送などに関与 します。グロブリンは、電気泳動でα-グロブリンやβ-グロブリン、γ-グロブリンなどに区分されます。γ-グ ロブリンは、形質細胞で合成され、免疫グロブリン immunoglobulin (抗体を含む)とも呼びます。こうたい フィブリノーゲンは、肝細胞で合成され、血液の凝固 に関係します。血漿の粘度(粘性)は、主にアルブミンと ねん ど フィブリノーゲンの濃度で決まります。

2)血糖(血液中のグルコース)

血液中のグルコースglucose を血糖といいます。 健康な成人では、空腹時、100mL の血漿中に80~100 mg のグルコースが存在し、食後には増加します。 健康なヒトでは、血液中の過剰なグルコースは、イン スリンinsulin などの働きで肝細胞や骨格筋細胞、脂肪 細胞などに取り込まれ、グリコーゲンglycogen として

(2)

貯蔵されます。逆に、血液中のグルコース値が下がれば、 グルカゴンglucagon などの作用で、肝細胞に貯蔵して いるグリコーゲンを分解し、血液中にグルコースが放出 されます。

3)電解質

血漿中の電解質は、細胞質と異なり、ナトリウムが多 く、カリウムが相対的に少なくなっています。その他の 重要なものとしては、カルシウムやマグネシウム、リン、 塩素などがあります。これらの電解質は、一定の濃度に 保つように様々な機構で調節されています。各種の電解 質の濃度は、血液のpH にも大きな影響をおよぼします。 表10-2 健康な成人での血漿における濃度 酸素(動脈血) 83~108mmHg 二酸化炭素(動脈血) 男性:35~48mmHg 女性:32~45mmHg ナトリウム 136~146mEq/L カリウム 3.5~5.1mEq/L カルシウム 8.6~10.0mEq/L 塩化物 97~106mEq/L グルコース 74~106mg/dL コレステロール 140~260mg/dL 尿素 6~20mg/dL 尿酸 男性:3.5~7.2mg/dL 女性:2.6~6.0mg/dL

2.細胞成分

血液の細胞成分(血球)には、赤 血 球や白 血 球、 せっけっきゅう はっけっきゅう 血 小 板があります。 けっしょうばん 成人では、血球の形成は赤色骨髄でおこなわれます。 ただし、胎児では、肝臓や脾臓でも血球が形成されます。 ひ ぞ う すべての血球は、赤色骨髄に存在する血球幹細胞から かん 形成されます。この幹細胞から発育しながら分化がおこ り、各種の血球がつくられることになります。

1)赤血球

赤血球erythrocyte は酸素を運搬する役目があります。 赤血球は、ほかの血球と異なり、成熟した細胞では、 核が細胞質に存在しません。 赤血球は、内部に存在するヘモグロビンhemoglobin (鉄を含んだヘムheme とタンパク質のグロビン globin 図10-2 赤血球の産生に必要な栄養素を示す とが結合した化合物)に酸素を結合させ、酸素を運ぶこと ができます。 赤血球は、中央がくぼんだ円盤の形をしており、直径 が約8mm です。 赤血球は、1mm3 の血液に、健康な男性では約500 万個、健康な女性では約450万個存在します。赤血球数が 女性よりも男性で多いのは、テストステロンがエリスロ ポイエチン(赤血球産生を促進)の生成を増やすためです。 赤血球は、赤色骨髄に存在する前赤芽球から形成され ます。前赤芽球は、数回分裂を繰り返し、ヘモグロビン を産生する細胞に変わります。赤色骨髄では、最終的に 網状赤血球に発育し、核を失い、ドーナツ状の細胞に変 わりますが、いくつかのミトコンドリアやリボソーム、 小胞体などを保持しています。 網状赤血球が血管のなかに入ると、1~2日以内にリ ボソームなどを消失し、赤血球に発育します。 赤血球の形成には、鉄やタンパク質、ビタミンB12(1 日の必要量は1~2mg)、葉酸(1日の必要量は100~ ようさん 200mg)などが必要です。血液中の酸素濃度が低下する と、腎臓から分泌されるエリスロポイエチンが増加し、 前赤芽球から網状赤血球への発育を速め、赤血球の数を 増やします。 図10-3 エリスロポイエチンの働きを示す

(3)

図10-4 赤血球からビリルビンが生成されるまでの過程 赤血球の寿命は100~120日で、古くなったものは脾臓ひ ぞう の赤脾髄で主に破壊されます。破壊された赤血球のヘモ せ き ひ ず い グロビンから酵素の作用でビリルビンbilirubin が合成 されます。血液に放出されたビリルビンはアルブミンと 結合し、門 脈を経由して肝臓に運ばれ、処理されます。 もんみゃく 肝細胞で抱合されたビリルビンは、胆汁色素として肝臓 から十二指腸に排泄されます。一部のビリルビンは、腸 管から吸収され血液のなかに入り、水溶性のウロビリノ ーゲンurobilinogen に変わり、腎臓から尿中に排泄さ れます。肝疾患などでビリルビンの排泄障害が起こりま すと、皮膚が黄色くなり、黄疸と呼ばれます。 おうだん また、ヘモグロビンの破壊で形成された鉄は、やはり 門脈によって肝臓に運ばれ、肝臓で貯蔵されます。 ◆血液型 赤血球の細胞膜の表面に存在する抗原の性質によって こうげん 血液型が決まります。A抗原をもつものをA型(日本人の 37%)、B抗原があるのをB型(22%)、A抗原とB抗原 とがともに存在するのをAB 型(9%)、A抗原とB抗原 との両方をもたないものをO型(32%)と呼びます。通常、 H抗原はすべての血液型のヒトに存在します。 血液型は、さらにRh 抗原の有無で分けることができ ます。Rh 抗原がある赤血球を持つヒトを Rh(+)型(日 表10-3 ABO型血液の特徴 血液型 赤血球の抗原 赤血球の抗体 日本人での比率 A型 A抗原 抗B抗体 37% B型 B抗原 抗A抗体 22% AB型 AとBの抗原 抗B抗体と抗 9% A抗体がなし O型 AとBの抗原 抗B抗体と抗 32% なし A抗体があり 本人では約99.5%)と呼び、Rh 抗原を持たないヒトを Rh(-)型(日本人では約0.5%)といいます。 もし、血液型が合わないヒトの血液を誤って輸血され ると、輸血後に受血者の赤血球が凝 集 反 応と溶血とを ぎょうしゅうはんのう ようけつ おこし、凝 集 塊が毛細血管などを塞ぎ、臓器が障害さぎょうしゅうかい れます(血液型不適合)。また、母体と胎児との間におい ても血液型不適合がおこります。 【貧血】 赤血球の数が減少し、体が要求する酸素を運べない状態 を貧血といいます。貧血には、体が要求する鉄を食べ物 として摂取しないためにおこる鉄欠乏性貧血や、ビタミ ンB12あるいは葉酸の不足による巨赤芽球性貧血、赤血 球の異常などで破壊されるのが増えるために起こる溶血 性貧血などがあります。貧血になると、疲れやすくなり、 動悸や、息切れ、めまい、耳鳴り、頭痛、失神発作など どう き しつしん がおこります。

2)血小板

血小板platelet は、他の血球と異なり、1個の巨核 球が2,000~3,000個に壊れた破片です。健康なヒトでは、 血小板は、1mm3 の血液に、25万~50万個存在します。 血小板は、血液の凝固に必要な物質を含み、血液凝固 ぎょうこ に重要な役割を担い、血管が傷ついた時には止血をおこ ないます。 血小板の寿命は5~9日で、古くなったものは脾臓や ひ ぞう 肝臓の大食細胞系の細胞によって取り除かれます。 血小板の数が減少すると、血管から血液が漏れる紫斑し はん 症になります。 ◆血液凝固 ヒトの体の内部では、血管が絶えず傷つき、血液が漏 も れやすくなっています。傷ついた血管から血液の漏れを 防ぐために(止血)、血液凝固が重要な役割を担います。 血管に障害が起こると、血小板からセロトニン

(4)

serotonin が放出され、この物質が血管を収縮し、血流 を減少させます。つぎに、血小板が傷害された部位に集 まり、小血栓をつくります(通常では3分以内に終了)。けっせん さらに、血液の凝固が始まります。血液凝固は、血小板 の小血栓の周囲に不溶性のフィブリンfibrin(線維素)のせ ん い そ 網目構造が構成され、この網目構造に血球などが引っか かり、固まり(血餅)をつくることで完成します。 けっぺい フィブリンは、血漿中の活性化されたトロンビン thrombin の働きにより、血漿タンパク質のフィブリノ ーゲンからつくられます。また、トロンビンは、外因系 や内因系の各種の因子によってプロトロンビン prothrombin から転換したものです。 図10-5 血液の凝固系を模式的に示す 主に肝臓で合成されるプロトロンビンや第Ⅶ因子、第 Ⅸ因子、第Ⅹ因子などの形成には、ビタミンK が必要 です。 一方、血餅が形成されると、それを除去する過程と血 けつぺい 管の修復とが始まります。プラスミノーゲン plasminogen から活性化されたプラスミン plasmin と いう酵素が、フィブリンを分解します(線維素溶解)。 ようかい ◆線維素溶解の模式図 活性化因子 ↓ プラスミノーゲン → プラスミン ↓ フィブリン → 老廃物 【血友病】 血友病には、第Ⅷ因子の異常による血友病Aや、第Ⅸ因 子が活性化できない血友病Bなどがあって、長引く出血 が繰り返されるとの特徴があります。特に関節での出血 が繰り返され、ひどい痛みが生じ、長い間には軟骨にも 障害が起こります。

3)白血球

白血球leucocyte は、赤血球よりもかなり数が少ない が、病原体にたいする体の防御機構などで重要な役割を 果たします。 健康なヒトでは、白血球は、1mm3 の血液に4,000 ~11,000個が存在します。 白血球の内部には、核や細胞小器官が見られます。 白血球は、体に病原体や腫瘍などによる傷害が発生す ると、血管などからはみ出し(漏出)、傷害部位に駆けつ け、特殊な物質(サイトカインcytokine など)を放出し、 体の防御にあたります。 ①顆粒白血球 白血球には、くびれた核を持ち、細胞質に特異な顆粒 を持つ顆粒白血球(白血球の50~75%)があります。顆粒 白血球には、好 中 球と好塩基球、好 酸 球が存在します。 こうちゅうきゅう こうえんききゅう こうさんきゅう 顆粒白血球の大部分は好中球です。 a)好中球 好中球は、急性炎症で数が増加し、細菌などを貪 食すどんしょく る働きがあります。さらに、好中球は、リンパ球で産生 されるインターフェロンinterferon を増やします。 b)好酸球 好酸球は、アレルギー疾患で増加し、炎症作用のある 化学物質を不活性化すると考えられています。 c)好塩基球 好塩基球は、細胞質にヘパリンheparin(抗凝固作用) やヒスタミンhistamine(血管拡張物質)を含む顆粒を有 し、炎症の部位でこれらを放出し、小血管壁の透過性をと う か せ い 高めます。また、アレルギーを引き起こす細胞です。 ②無顆粒白血球 細胞質に顆粒が無く、比較的大きな核をもつ無顆粒白 血球が存在します。無顆粒白血球は白血球全体の25~ 50%を占め、これには単球とリンパ球とが属します。 a)単球 単球は、血管から外に出て、貪 食 作用をもつ大食細胞 どんしよく や破骨細胞などとして働きます。大食細胞はインターロ イキン1interleukin 1を産生しますが、このインター ロイキン1は脳の視床下部に作用し、体温を上昇させた り、活性化されたT細胞を増加させます。

(5)

b)リンパ球 リンパ球には、骨髄由来のB細胞と胸腺由来のT細胞、 NK 細胞などがあります。B細胞は、抗体を産生する形 質細胞に変わることができます。T細胞は、体内に入っ た細菌などを殺し溶かす作用(細胞障害性の作用)(キラー T 細胞)や、B細胞が分化し抗体を産生するのを促進さ せるヘルパー作用(ヘルパーT細胞)、抗体の産生を抑制 するサプレッサー作用(サプレッサーT細胞)などに区分 することができます。NK 細胞は、リンパ球の約5~10 %を占め、ウイルスに感染した細胞や腫瘍細胞などを殺 しゆよう す働きがあります。

第2節 血管の構造

血液を運ぶ血管は、動脈artery、小(細)動脈

arteriole、毛細血管 capillary 、小(細)静脈 venule、静もうさいけっかん 脈vein などに区分されます。これらの血管の内面は内 皮で完全に被われ(いくつかの例外を除いて)、血液で満 たされています。 心臓から出ていく血液は、次々と枝分れする動脈と小 (細)動脈によって運ばれ、毛細血管に到達します。逆に 心臓に帰る血液は、合流を繰り返す小(細)静脈と静脈で 運ばれます。 ヒトの血管の長さは、実に9万km(地球の2周と四 分の一の長さ)にもなり、その内腔の面積の総和は 3,000m2 にも達します。また、その重さは、成人の場合 には、体重の約3%といわれ、体重が60kg のヒトでは 約1.8kg にもなります。

1.動脈

動脈は、心臓から出ていく血液を運び、伸張性のある 管状構造物です。 動脈の管壁は3層から構成されます。最も管腔側の内 膜は薄く、内皮でおおわれた内表面は非常に平滑です。 内皮の内表面には、単層扁平上皮を構成する内皮細胞が 存在します。内皮細胞は、生理活性物質を分泌して血液 の凝固を防いだり、血液の流れを妨げないような働きが ぎようこ あります。内膜の最外層には、内弾性膜と呼ばれる弾性 線維で構成された布状の構造物があります。内弾性膜に は、小さな穴がたくさん開き、内膜から中膜に向かって 物質が拡散するのを容易にしています。 中膜は、血圧によって血管壁が破れるのを防ぐための 働きがあって相対的に厚い中間の層で、多量の弾性線維 の層板構造と平滑筋細胞とが存在します。中膜に存在す る弾性線維は、平滑筋細胞が産生します。つぎの表層に 存在する外膜との間には、外弾性膜と呼ぶ、弾性線維の 網状組織で構成されたものがあります。 外膜は、最表層にある疎性結合組織で構成された層で、 血管を保護したり、周囲の組織に血管を固定する働きが あります。この外膜には、血管を養う栄養血管や交感神 経などが密に分布します。 動脈壁は弾性線維を含んでいるために血液の圧に受動 的に反応して伸び縮みすることができるために、血管の 抵抗を少なくして血液を流すことができます。 高齢者になれば、動脈は、弾性線維が減少し、管壁の 弾力性に不均一が生じ、曲がりくねって硬くなります。 動脈には、心臓に近い血管で弾性型動脈と呼ぶものと、 前者から分枝した筋型動脈というものがあります。 弾性型動脈は、中膜において平滑筋細胞よりも弾性線 維が多くなり、心臓から押し出す血液でしなやかに膨れ、 血液の流れを妨げず、さらに元の太さに戻る復元力が血 液の流れを強めることができます。弾性型動脈に属する ものには、肺動脈幹や上行大動脈、大動脈弓、下行大動 脈、腕頭動脈、総頚動脈、鎖骨下動脈、総腸骨動脈など があります。 前述の動脈から分枝するものは、筋型動脈に属し、中 膜では弾性線維が少なくなり平滑筋細胞が増え、血液の 流れる量を調節するために、神経などの働きによって、 拡張したり収縮したりする能力が増加します。筋型動脈 の直径は、0.1~10mm です。

2.小(細)動脈

筋型動脈からはさらに細い動脈が分枝し、最終的には 小動脈となります。 小動脈の直径は10~100mm で、細いため肉眼では観 察できず、顕微鏡で初めて観察が可能となるものです。

(6)

小動脈の血管壁の構造は、動脈と類似していますが、 中膜では弾性線維よりも平滑筋が目立って多くなります。 この血管の特徴は、能動的に直径を変えることできま す。すなわち、小動脈に分布している交感神経が中膜に ある平滑筋の弛緩・収縮を変化させることで、小動脈の 直径を変え、毛細血管に到達する血液の量を調節します。 小動脈の最後は毛細血管前小動脈となり、毛細血管に つながる先端が細くなります。また、毛細血管に続く部 位での平滑筋細胞は、毛細血管前括約筋を形成し、毛細 血管に流れる血液を調節します。

3.毛細血管

毛細血管の直径は、1個の赤血球がやっと通過できる もうさいけっかん ぐらいの太さ(直径が4~10mm)で、通常の毛細血管の長 さは1mm を越えません。 毛細血管の構造は、組織によって異なりますが、基本 的には基底板の上に並んだ単層の扁平上皮の内皮細胞の みで構成されています。 毛細血管は10~100本のものが網目構造に分布していま すが(毛細血管網)、特定の時期にはすべての通路が開い ているのではありません。 毛細血管の血液は、小動脈の水圧による力で流れ、流 れる間に血漿と間質液との間で、主に拡散で酸素や二酸 化炭素、栄養素、老廃物などの物質の交換がおこります。 毛細血管は、臓器によって構造が異なり、連続型(無窓 型)毛細血管、有窓型毛細血管、類洞型毛細血管に大別でゆうそう るいどう きます。大部分の毛細血管は内皮細胞同士が隙間無く連 結する連続型で、血液の成分が周囲に漏れにくくなって います。有窓型は、腎臓の糸球体や内分泌器官などで見 られるもので、内皮細胞に小さな穴の有窓が存在します。 この有窓から水などの低分子の物質が周囲に漏れやすく なっています。類洞型は、赤色骨髄や肝臓などで観察さ れ、基底板を欠いたり、内皮細胞の間に大きな裂け目が あり、血漿や血球が周囲に漏れやすくなっています。 連続型毛細血管などには、収縮能力がある周皮細胞が 血管の周りを取り囲んでいるものがあります。

4.小(細)静脈と静脈

毛細血管の血液は小静脈に注ぎ、小静脈のものは静脈 に流れます。 小静脈と静脈との管壁は、動脈と同じく3層構造です が、静脈壁は、動脈に比べて、特に中膜が薄く、全体と しても薄くなり、管内に血液が十分にたまっていなけれ ば、管状構造の維持が困難になります。 静脈壁が薄いのは、静脈の血圧が動脈のものに比べて かなり低く、血圧に対する備えが不要のためです。 静脈の流れは動脈のものに比較し緩やかですので、静 脈の直径は大きくなっています。しかし、直径が大きく なるだけでは十分な血液を流せませんので、1本の動脈 に2本の静脈が伴行したり(伴行静脈)、皮膚の深層に動 脈の走行と無関係な皮静脈が存在します。 また、重力に逆らって心臓に帰る静脈血を運ぶ、直径 が2mm 以上の静脈には、静脈弁(二尖弁)があります。に せ ん べ ん 静脈では、周りの骨格筋や横隔膜の収縮などによって 静脈が圧迫されることで心臓に向かう血液の流れを強め ることができます。 小静脈や静脈を流れる血液の速度が遅いため、多量の 血液がこれらの血管にたまり、安静時では全血液の約 64%を占めます。ちなみに、心臓では約7%、動脈と小 動脈で約13%、毛細血管では約7%、肺の血管で約9% です。

5.吻合

ヒトの体内の多くの組織は、1本以上の動脈から血液 の供給を受けます。2本以上の動脈からの分枝同士のつ ながりを吻合といいます。器官などに運ばれる血液は、 ふんごう 吻合によって、別の迂回路を形成することができます。 う かい ろ これを側副路と呼びます。そくふく ろ 図10-28 終動脈(左)と吻合がある動脈(右)を描く 終動脈では、動脈がつまると、その末梢側の領域が障害を受ける また、吻合は、動脈と静脈との間(動静脈吻合)や、小ふんごう 動脈と小静脈との間などでもおこります。 吻合を形成しない動脈を 終 動脈と呼び、迂回路がない しゆう ため、この動脈の閉塞によって末梢側の組織に障害が起へいそく こります(図10-28)。その代表が心筋梗塞や脳梗塞です。こうそく

(7)

第3節

心臓

1.心臓の位置と構造

心臓heart は、胸腔の中で、左右の肺の間の前縦隔に 存在しています。通常、心臓の約三分の二は、正中線よ りも左側にあります。 成人の心臓の重さは200~350㌘です。心臓の形はほぼ 円錐形です。この後上部は広くなり、心底と呼びます。 一方、心臓の下端は左前下方にとんがり、心尖といい、 しんせん 横隔膜の上に乗っています。心尖は固定されていません ので、心拍動とともに動き、前胸壁にぶつかります。そしんはくどう の時に、肋骨にあたらずに、肋間筋にあたり、皮膚を盛 り上げる現象を心尖拍動と呼びます。 ◆心臓を包む心膜 心臓は、袋状の心膜に包まれています。心膜は、線維 性心膜と漿膜性心膜とで構成されています。 表層の線維性心膜は、強靱な不規則な密性結合組織で 形成され、過剰な心臓の拡張を防ぎ、心臓を保護すると ともに、心臓を縦隔に固定しています。すなわち、線維 性心膜は、結合組織により胸骨や横隔膜に癒着していま す。 深層の漿膜性心膜は、心臓を取り囲む繊細な薄い 2層の膜構造です。線維性心膜と癒着している漿膜性心 膜を壁側板と呼び、心臓の外表面に密着している漿膜性 心膜を臓側板といいます。臓側板は、心外膜を構成する ことにもなります。 壁側板と臓側板との間の間隙を心膜腔と呼び、心膜腔 しんまくくう のなかにはわずかな漿 液が存在し、壁側板と臓側板とのしようえき 間の摩擦を軽減します。 ◆心臓の名称 心臓の外表面では、心房と心室との間に冠 状 溝が観察 しんぼう しんしつ かんじようこう され、左右の心室の間には前室間溝と後室間溝とがあり ます。 心臓の内部は空洞になっており、心房中 隔や心室中隔 ちゆうかく により左右の部屋に分けられ、左右の部屋がさらに心房 と心室とに区別されます。心房と心室は、房室口によっ て互いに交通しています。 心房の一部は前方に拡張し、心耳と呼びます。左右のし ん じ 心房の間には胎生期には、卵円孔という小さな穴があい らんえんこう ていますが、通常、出生後には閉じてしまい、成人では 卵円窩と呼ぶ窪みになって残ります。 ら ん え ん か 右心房には上大静脈と下大静脈が注ぎ、さらに冠状静 脈洞も開口します。左心房には、2本の右肺静脈と、2 本の左肺静脈とが開口します。 右心室からは肺動脈幹が出て、左心室からは上行大動 脈が出ます。 ◆逆流を防ぐ心臓の弁装置 房室口および動脈口には血液の逆流を防ぐための弁装べん 置が存在します。 右房室口の弁は、三尖弁(右房室弁)と呼びますが、3 枚の小弁から構成されています。左房室口の弁は、 僧帽弁(左房室弁)と呼び、比較的大きな2枚の弁と小さ そうぼうべん な1枚の弁とがあります。左右の房室弁はともに腱索で けんさく 心室の内腔に飛び出す乳頭筋につなぎ止められています。 房室弁は、心室の拡張期に心房より心室に流れる血流 を通すが、心室の収縮期に心室より心房に流れようとす る血液の逆流を防ぐ働きがあります。 肺動脈口の弁は肺動脈弁、大動脈口の弁は大動脈弁と 呼びますが、いづれもポケット状の3枚の半月弁で構成 はんげつべん されています。これらの弁は、心室の拡張期に血液が動 脈から心室に逆流するのを防いでいます。 【心臓の弁の病気】 心臓の弁が閉じるときに、特有の心音が発生します。と ころが、弁に障害があると、心雑音という異常な心音が 聞こえます。弁の病気には、 狭 窄 症 と閉鎖不全症とが きようさくしよう あります。 ・狭窄症 狭窄症は、弁の開きが悪くなり、弁を通過する血液の流 れを妨げる病気です。炎症などで弁の縁が凸凹になると、 弁が互いに癒着し、弁の開きが狭くなります。 ・閉鎖不全症 炎症などで弁の縁が凸凹になり、心室の拡張期に、弁が 完全に閉鎖できず、心室に血液が逆流する病気です。こ の例として、大動脈弁閉鎖不全症があります。 ・狭窄症や閉鎖不全症が発症すると、心臓の効率が悪く なり、段々と心臓が肥大し、放置すれば、体が必要と する血液量を十分に維持できずに心不全となります。 ◆心臓の壁の構造 心臓の壁は、心房も心室も血管と同じく、3層構造で す。内腔に面した深層は心内膜、真中の層は心筋層、表

(8)

層は心外膜です。心室の心筋層では、心筋細胞が帯状に 連結したものが、線維輪から始まり、心尖で反転し、他 の線維輪に向かいます。この帯状のものが、複数の層構 造を構成しています。そして、心筋層が心臓から血液を 押し出す力を生じます。。 心内膜は、単層扁平上皮の内皮と結合組織とから構成 され、心臓の内表面をなめらかにしています。心臓の弁 は心内膜が変形したものです ◆心筋細胞で生成されるホルモン 心房の心筋細胞には、心房性ナトリウム利尿ペプタイ ドを分泌するものがあります。また、心室の心筋細胞に は脳性ナトリウム利尿ペプタイドを分泌するものもがあ ります。これらのホルモンには、利尿作用や降圧作用が あります。 心不全や急性心筋梗塞、高血圧などで心臓に負担がか しんきんこうそく かると、心房からは心房性ナトリウム利尿ペプタイドが 分泌し、心室からは脳性ナトリウム利尿ペプタイドが多 量に分泌され、心臓や血管系への負担を軽減させる方向 に働きます。 急に脈が速くなったり(頻脈)、乱れたりした時(不整 脈)などに、頻 尿になることがあります。これは頻脈や ひんによう 不整脈によって心房が拡張されることが刺激となり心房 性ナトリウム利尿ペプタイドが過剰に分泌され、このホ ルモンの働きで利尿作用が強まるためです。

2.刺激伝導系

心臓のある特定の部位には、筋細線維が少なく、横紋 構造も不明瞭な心筋線維が存在します。これらの筋群は、 興奮(インパルス)を自動的に発生し、心臓全体に伝える 働きがあり、刺激伝導系と呼ばれます。し げ き でん ど う けい 刺激伝導系は、右心房の後壁にある洞房結節や、心房どうぼうけつせつ 中隔の下部の近くの右心房にある房室結節、心室中隔に ぼうしつけつせつ 存在する房室束と右脚および左脚、さらに心室の壁にあ るプルキンエ線維などから構成されています。この刺激 伝導系で発生する電気的な変化を皮膚の上から測定した ものが心電図です。し ん で ん ず ◆心電図 心筋は、興奮すると活動電位を発生します。この心臓 の活動電位を体の表面から記録すると、心臓の拍動とと もに規則正しいP 波、Q 波、R 波、S 波、T 波などの波 形が見られ、これを心電図といいます。 心臓からの活動電位は体表面で測定すると約1mV という微小な電位ですので、記録するためには測定する 装置(心電図計)が必要です。 心電図を記録するためには、電極を右手や左手、左足 につけて測定する肢誘導法と、前胸壁につけた電極からし ゆ う ど う ほ う 測定する胸部誘導法とが一般に使われています。 心電図のP波は、洞房結節からの電気的興奮が心房内に 広がる際に発生します(心房の興奮状態)。QRS波は、房室 結節から房室束、プルキンエ線維を通過し心室へと広が る電気的興奮と心室の心筋の電気的活動を表します(心室 の興奮状況)。T波は心室の心筋の弛緩(脱分極)、すなわ ち心室の興奮からの回復状態を反映します。 そのため、 狭 心 症 や心筋梗塞などの病気で、心電図きようしんしよう こうそく に特異な変化が現れることがあります。

3.心臓に分布する血管と神経

心臓の強力なポンプ活動を働かすためには、それ相応 な酸素とエネルギーとが必要になり、心臓から拍 出 され はくしゆつ る血液の5~9%のものが心臓に流れます。 心臓の壁は厚く、内腔の血液から直接に酸素や栄養物 を取ることができませんので、心臓を養う血管が存在し ます。これらは左右の冠 状動脈です。かんじよう 左右の冠状動脈は、心臓の直ぐ上の上行大動脈から分 枝し、心房と心室との間の冠状溝を通り、心臓の表面に 分布します。 右冠状動脈は右心房や右心室、心室中隔の後ろ1/3 に 供給し、左冠状動脈は主に左心房や左心室、心室中隔の 前2/3 に分布します。 冠状動脈からの血液は、毛細血管や前心臓静脈、冠状 静脈洞などを経由して、右心房に帰ります。 心臓には、環境や体内の変化に応じて働きを調節する ために、心臓の働きを促進する交感神経と、働きを抑制 する副交感神経(迷走神経の分枝)とが分布します。両者 を合せて心臓神経といいます。 興奮した時やイライラした時、怒った時、驚いた時、 緊張した時などには、交感神経の働きが強まり、交感神 経の終末からノルアドレナリンnoradrenaline を放出 し、これが心筋細胞の受容体に結合し、心筋細胞の収縮 力と心拍動数とを増やし、循環する血液量を増加させま す。

(9)

一方、休息時やゲーゲー吐いている時、排便時に力む 時などには、副交感神経の働きが強まり、神経終末から アセチルコリンacetylcholine を放出し、心拍数を抑制 します。 【狭心症と心筋梗塞】 心臓に分布する動脈は、終動脈のために、動脈に狭窄や 破綻が起こると、それよりも遠位の部位において、酸素 不足による機能不全が起こり、長引くと心筋層に障害が 発生します。 心筋における一時的な酸素不足によるものを 狭 心 症きようしんしよう といいます。狭心症では、前胸部の深層や左肩、左上腕 内側部などに激しい痛みが起こります。多くのヒトでは、 動脈硬化があり、急激な心拍出量の要求に対応した血流 が確保できず、心臓で酸素不足が起こるために発症しま す。 心筋梗塞は、心臓に分布する動脈が動脈硬化などで閉 しんきんこうそく 鎖あるいは破裂がおこり、傷害が起こった血管が分布し ている領域において、酸素不足で心筋細胞が壊死になっえ し て不可逆的な心筋の障害がおこる病気です。その結果、 心臓の壁に穴があくこともあります。

4.心拍動

心臓は、血液が休むことなく全身を循環するための強 力なポンプです。このポンプ活動は、心房の収縮期(約 0.1秒)、心室の収縮期(約0.3秒)、完全心拡張期(約0.4 秒)を繰り返すことによっておこなわれます。 このポンプは、安静時でも、1分間に60~80回、1日 で約10万回も動いています。 安静時に、心臓が1回の拍動によって拍出される血液 量(1回心拍 出 量 )は約70mL で、1分間に拍出されるしんはくしゆつりよう 量(分時心拍出量)は、およそ5㍑にもなります。この割 合で心臓から拍出される血液量は、1時間で300㍑、1日 で7,200㍑、1年で263万㍑にも達します。これだけの量 の血液を動脈の抵抗に打ち勝って拍出するときにおこな われる心臓の仕事量は、四斗だる12個を富士山の高さに よんとう 積み上げるぐらいに相当します。 心臓は、運動などの血液の需要に応じて心拍出量を 25㍑/分にも増やすことができますが、運動選手では 35㍑/分にも増加させることができます。激しい運動の 時は、1回拍出量を増加させ、心拍数も増やしますので、 1分間当たりの拍出量は著しく増加します。しかし、一 般に、心拍数が増加すると心臓の収縮期はあまり変わら ず拡張期だけが短くなり、十分に休養できないために1 回の拍出量が減少することになります。 1分間当たりの心拍動数を心拍数(脈拍数)と呼びます。しんぱくすう 個人差や年齢差もありますが、安静時の成人では約70回 /分です。60回/分以下の心拍数が継続している状態を 徐 脈(遅脈)と呼び、100回/分以上の状態を頻 脈(速 じよみやく ひんみやく 脈)といいます。 洞房結節が規則正しく活動しているときには、心臓は ほぼ一定のリズムで活動しています。しかし、いろいろ な原因で心拍リズムが不規則になることがあり、この状 態を不整脈と呼びます。ふせいみやく 眼球を強く圧迫すると心拍数が減少しますが、これを アシュネル反射Achner reflex といいます。逆に、体に 激痛がおこると心拍数は増加します。 ◆血圧 左心室が収縮し、大動脈に血液が押し出される時の血 圧は、収縮期血圧と呼ばれ、健康な成人では100~120 mmHg もしくは16kPa(キロパスカル)です。心室など の完全拡張期は心臓の休息期で、その時の大動脈の血圧 は拡張期血圧といわれ、健康な成人では60~80mmHg もしくは11kPa です。収縮期血圧と拡張期血圧との差 を脈 圧といいます。血圧は、1日の時刻や姿勢、性、年みやくあつ 齢などによって変動します。夜間就寝中には、血圧は低 下する傾向があります。また、通常、男性の血圧は、女 性よりも高い傾向があります。

(10)

第4節

動脈の分布

図10-6 ヒトの体における血液の流れを模式的に示す

1.肺動脈

右心室を出た一本の肺動脈幹pulmonary trunk は、 大動脈弓の下で、左右の肺動脈に分岐し、肺に向かいま す。肺動脈は静脈血を運搬します。 胎児期には、肺が機能しないために、肺動脈からの血 液を大動脈に運ぶ動脈管が存在します。出生後に、動脈 管の内部には結合組織が増え、一歳ぐらいまでに閉じ、 動 脈 管 索を形成します。 どうみゃくかんさく 【動脈管開存症】 通常、生後一歳ぐらいまでに動脈管が閉鎖していなけれ ば、つたい歩きなどの際に必要な酸素が全身に運ばれず、 唇などが青くなるチアノーゼを起こし、気づくことが多 い。

2.大動脈

大 動 脈aorta は、一番太い動脈で、直径が2~3 だいどうみゃく cm もあり、血管壁も強い血圧に耐えられるように一番 厚くなっています。 左心室を出た上行大動脈は、肺動脈幹の右側で、上大 静脈の左側を上行し、左肺動脈の上方を横ぎり、脊柱の 左側に向かいます。この曲がる部位を大動脈弓と呼びま す。大動脈弓の次の部位は下行大動脈といい、最初は脊 柱の左側を下降し、横隔膜の大動脈裂孔を通り、腹腔にれつこう 入り、腹腔では椎体の正面の前を下方に向かいます。 下行大動脈は、ほぼ第四腰椎の高さで、左右の 総 腸 骨動脈に分岐して終わります。 そうちようこつ

3.上行大動脈の分枝

上行大動脈からは左右の冠 状 動 脈が分枝し、これらかんじょうどうみゃく の血管は心臓の外表面に分布します(図10-43)。右冠状 動脈は主に右心房や右心室、心室中隔の後ろ三分の一に 血液を供給し、左冠状動脈は主に左心房や左心室、心室 中隔の前三分の二に血液を供給します。

4.大動脈弓の分枝

大動脈弓からは、腕頭動脈や左総頚動脈、左鎖骨下動 わんとう そうけい さ こ つ か 脈が分枝します。腕頭動脈は、右胸鎖関節の深層付近で、 右総頚動脈と右鎖骨下動脈に分かれます。通常、腕頭動 脈から分枝する動脈はありませんが、希に、甲状腺峡部 に向かう最下甲状腺動脈が、この動脈から分枝すること があります。

1)総頚動脈

総頚動脈は、頚部を上行し、通常、甲状軟骨の上縁の 高さで内頚動脈と外頚動脈とに分かれます。皮膚から押ないけい がいけい された総頚動脈が第六頚椎の横突起に当たる部位では、 この動脈の脈を触れることができます。総頚動脈自身か ら分かれる血管は、通常、見られませんが、希に、この 動脈からは、上甲状腺動脈や椎骨動脈、上喉頭動脈など が分枝することがあります。 総頚動脈が2本の血管に分かれる部位から内頚動脈に かけて中膜が薄くなり少し拡張した部位が見られますが、 図10-7 頚動脈洞と頚動脈小体を模式的に示す

(11)

この拡張した部位を頚 動 脈 洞と呼んでいます。頚動脈 けいどうみゃくどう 洞の外膜には、多数の感覚神経終末が分布し、圧受容器 として働き、血圧が上がるとこの部位に分布する神経活 動が活発になるなど、血圧の調節に関係します。 一方、この頚動脈分岐部には頚動脈小体が付いていま す。この小体には血液中の酸素濃度を監視する化学受容 器がみられ、血液中の酸素濃度が低下すると、この部位 に分布する神経活動が活発化するなど、呼吸運動の調節 に重要な役割を果たします。 圧受容器と化学受容器とからの情報は、舌咽神経の分 ぜついん 枝(頚動脈洞枝)によって延髄の孤束核に伝わります。 こ そ く か く ①内頚動脈 内頚動脈は、側頭骨の頚動脈管を通過し、頭蓋腔に入とうがいくう ります。頭蓋腔に入った内頚動脈からは、眼窩および周 が ん か 辺の領域に分布する眼 動 脈や上下垂体動脈、後交通動脈、 がんどうみやく 前 脈 絡動脈などが分枝し、その後、頚動脈サイホン ぜんみやくらく carotid syphon を形成し、脳に分布する前大脳動脈と 中大脳動脈とに分かれて終わります。これらの血管は、 椎骨動脈の最終枝である後大脳動脈とともに大脳動脈輪 ついこつ を形成します。 前大脳動脈は、大脳縦 裂に向かい、主に大脳半球の内 じゆうれつ 側面に血液を供給します。 中大脳動脈は、脳底から外側溝に向かい、視床や大脳 ししよう 基底核、大脳半球の外側面に分枝を出します。中大脳動 脈からの分枝である前外側中心動脈(線条体枝)は、破裂せんじょうたいし しやすく、脳内出血の原因となります。 ②外頚動脈 外頚動脈は、頭蓋腔と眼窩の内容物および前頭部を除 く、頭部と顔面の領域に血液を供給します。しかしなが ら、外頚動脈は頚部の高い位置から分岐しますので、頚 部の下部には、鎖骨下動脈の分枝が分布します。 外頚動脈は、上甲状腺動脈(甲状腺に血液を供給)や上 行咽頭動脈(咽頭や鼓室など)、舌動脈(舌や口腔粘膜、口 いんとう こ し つ 蓋扁桃など)、顔面動脈(顔面の表層と 唇 など)、後耳介 へんとう くちびる 動脈、後頭動脈(後頭部など)などを分枝し、浅側頭動脈 と顎動脈とに分かれて終わります。 がく 浅側頭動脈は、外耳孔の前を通過し(外耳孔の前で脈が 触れる)、耳下腺や側頭部に血液を供給します。 顎動脈は、主に顔面の深部に血液を供給します。 顎動脈から分枝する中硬膜動脈は、蝶形骨大翼に存在 する棘孔から頭蓋腔に入り、脳硬膜を養います。頭を強 く打ち、側頭骨が骨折した時には、中硬膜動脈を損傷し、 硬膜外血腫を引起こすことがあります。 また、顎動脈からは、咀嚼筋に血液を供給する動脈や、 下歯に血液を供給する下歯槽動脈などが分枝します。 2)鎖骨下動脈 鎖骨下動脈は、上肢に向かう血管です。鎖骨下動脈は、 腋窩に入れば腋窩動脈と名前が変わり、上腕に入れば上え き か 腕動脈となります。 ①鎖骨下動脈 鎖骨下動脈からは、内胸動脈や椎骨動脈、甲状頚動脈、 肋頚動脈などの血管が分枝します。 内胸動脈は、 縦 隔枝や胸腺枝(胸腺へ)、心膜横隔動脈じゆうかく し (心膜へ)などを分枝し、前胸壁の後方を胸骨枝や前肋間 枝を出しながら下行し、筋横隔動脈と上腹壁動脈とに分 かれて終わります。 椎骨動脈は、通常、第六頚椎の横突孔に入り、横突孔 を上行し、大後頭孔から頭蓋腔に入り、脳幹の腹側で左 右のものが合流し、脳底動脈となります(図10-62)。 椎骨動脈からは、前脊髄動脈や後脊髄動脈が分枝し、 頚髄などに血液を供給するとともに、延髄や小脳などに 分布する分枝を出します。 脳底動脈は、橋や中脳、小脳、内耳(迷路動脈で供給) め い ろ などに血液を供給する分枝を出した後に、左右の後大脳 動脈(大脳の後頭葉に供給)に分かれて終わります。 甲状頚動脈からは、下甲状腺動脈や上行頚動脈、肩甲 上動脈、頚横動脈などが分枝します。 肋頚動脈は、第一肋間や第二肋間などに分布する分枝 を出します。 ②腋窩動脈 腋窩動脈からは、最上胸動脈や胸肩峰動脈、外側胸動 脈、肩甲下動脈、前・後上腕回旋動脈などが分枝します。 外側胸動脈は、乳腺に向かう分枝を出し、授乳期には太 くなります。 ③上腕動脈 上腕動脈からは、上 腕 深動脈や上尺側側副動脈、下尺じようわんしん 側側副動脈などが分枝します。上腕深動脈は、橈骨神経 溝に沿って上腕骨の後方を横切り、上腕の後面および上 腕三頭筋などに血液を供給します。 上腕動脈は、肘窩で橈骨動脈と尺 骨動脈に分かれます。ちゅうか とうこつ しやつこつ 橈骨動脈からは、橈側反回動脈や橈骨栄養動脈、掌側 手根枝、浅 掌枝、背側手根枝、母指主動脈、示指橈側動せんしよう

(12)

脈、深掌動脈弓などが分枝します。橈骨茎状突起の前で 脈を触れるのは橈骨動脈です。 尺骨動脈は、尺側反回動脈や総骨間動脈などを分枝し、 前前腕の内側部を遠位に向かい、背側手根枝や掌側手根 枝、深掌枝を分枝し、浅掌動脈弓となります。 手掌では、橈骨動脈と尺骨動脈との分枝は浅掌動脈弓 および深掌動脈弓を形成し、これらの動脈弓からは指に 血液を供給する総掌側指動脈が分枝します。

5.胸大動脈の分枝

胸大動脈では、肋間動脈や気管支動脈、食道動脈、心ろつかん 膜枝、縦 隔枝などが分枝します。 じゆうかく 肋間動脈は、肋骨下縁(肋骨溝)に沿って、後方から前 方へ向かいながら、背枝や、椎間孔から脊髄に向かう脊 髄枝、側副枝、外側枝などを分枝します。 気管支動脈は、気管支や肺などに分布し、肺への栄養 血管ともなります。

6.腹大動脈の分枝

腹 大 動 脈は、大動脈裂孔を通過した後に、椎体の前面 ふくだいどうみゃく れつこう に沿い、下大静脈の左側を下行し、通常、第四腰椎の椎 体の高さで、左右の総 腸 骨動脈に分かれて終わります。 そうちようこつ 腹大動脈は、下行しながら、腹壁に供給する5対の動 脈や、腺組織に分布する3対の動脈、消化管に向かう3 本の単独の動脈などを分枝します。 ①腹壁に向かう5対の動脈 腹壁に供給する対の動脈としては、下横隔動脈や腰動 か お う か く よう 脈などがあります。1対の下横隔動脈は、横隔膜の下面 や副腎(上副腎動脈による)などに血液を供給します。腰 動脈は、通常、4対存在し、後腹壁に血液を送ります。 また、1本の正中仙骨動脈も分枝し、仙骨を含む後腹壁 に血液を供給します。 ②腺組織に向かう3対の動脈 腺組織に分布する対の動脈には、腎動脈や中副腎動脈、 精巣動脈(または卵巣動脈)があります。腎動脈は、多量 の血液を運ぶために太くなっています。また、腎動脈は、 副腎に分枝(下副腎動脈)を出し、尿管にも血液を送りま す。 ③消化管に向かう3本の動脈 消化管に向かう血管としては、腹腔動脈や上腸間膜動 ふつくう 脈、下腸間膜動脈が存在します。腹腔動脈は短く、すぐ に左胃動脈や脾動脈、総肝動脈に分かれます。ひ 左胃動脈は、胃の小 弯側と食道の下部に分枝を出しま しようわん す。脾動脈は、脾臓や膵臓に血液を供給するとともに胃 の大弯側に向かう血管を分枝します。 総肝動脈は、胃の小弯側や脾臓の頭部、十二指腸、胆 嚢などに血液を供給する分枝を出すとともに肝臓にも栄 養血管(固有肝動脈)を出します。 上腸間膜動脈は、小腸全体と虫 垂、盲 腸 、上行結 ちゆうすい もうちよう けつ 腸 、横行結腸の右半分などに血液を供給するために分枝 ちよう を出します。 下腸間膜動脈は、横行結腸の左半分や下行結腸、S 状 結腸、直腸の上部などに分枝を出します。

7.総腸骨動脈

腹大動脈から分岐した後に、総腸骨動脈は、骨盤に沿 って外側に向かい、内腸骨動脈と外腸骨動脈とに分かれ て終わります。この分岐までの間には、通常、総腸骨動 脈は分枝を出しません。右総腸骨動脈は、通常、左総腸 骨静脈の前を横切ります。そのために、左下肢の静脈の 流れが悪くなることがあります。

1)内腸骨動脈

内腸骨動脈からは、殿部(上・下殿動脈)や会陰部(内陰で ん ぶ え い ん ぶ 部動脈)、骨盤壁、骨盤内臓(子宮動脈、下膀胱動脈、中 直腸動脈)などに分布する血管が分枝します。 内陰部動脈は、大坐骨孔を通過し、骨盤の外に出ます が、再び、小坐骨孔から会陰部に入り、陰部神経とともえ いん ぶ に坐骨直腸窩の外側壁にある陰部管を通過し、その後、 か 会陰動脈と陰茎動脈(あるいは陰核動脈)とに分かれて終いんけい わります。内陰部動脈は、直腸の下部や陰茎(あるいは陰 核)などの外生殖器に血液を供給します。 内腸骨動脈から分枝した閉鎖動脈は、閉鎖孔を通過し、 大腿に向かいますが、骨盤の外側壁と大腿の内側部およ び内転筋群に血液を供給します。

2)外腸骨動脈

外腸骨動脈は、小骨盤の縁に沿って走行し、鼡径靱帯ふち そ け い じ ん た い の中央部の深層(血管裂孔)を通り、大腿に向かいます。 だいたい 外腸骨動脈からは、下腹壁動脈や深腸骨回旋動脈が分枝

(13)

します。 大腿では、外腸骨動脈は大腿動脈と名前が変わります。 だいたい 大腿動脈は、腹壁の下部(浅腹壁動脈、浅腸骨回旋動脈) や外陰部(外陰部動脈)などに分枝を出すとともに、大腿 の後面に血液を供給する大腿深動脈が分枝します。さら に、大腿深動脈からは、多くのヒトでは、内側大腿回旋 動脈や外側大腿回旋動脈が分枝します。 大腿動脈は、下行するにしたがって、内側から後方へ と移動し、内転筋管を通り、膝窩に向かい、この部位で し つ か は膝窩動脈と名前が変わります。 膝窩動脈は膝関節の周囲に分布する多数の動脈(外側上 膝動脈や内側上膝動脈、中膝動脈、外側下膝動脈、内側 下膝動脈など)を分枝し、下腿では前脛骨動脈と後脛骨動 か た い ぜんけいこつ 脈とに分かれます。 前脛骨動脈は、脛骨と腓骨との間を前方に向かい、下ひ こ つ 腿骨間膜の前方を下行しながら周囲の筋や皮膚などに血 液を供給します。その後、前脛骨動脈は、距腿関節の前きよたい 方を通過し、足背に向かい、足背動脈となります。足背そくはい 動脈の脈を足頚で触れます。足背動脈は、足背で、内側 足根動脈と外側足根動脈とに分かれて終わります。 そくこん 後脛骨動脈は、下腿の後部を走行し、周囲の筋や皮膚 などに分枝(腓骨動脈など)を出します。その後、この血 管は、内果の後方や屈筋支帯の深層を通り、足底で内側 な い か 足底動脈と外側足底動脈とに分かれます。

第5節 静脈の分布

1.肺静脈

左右の肺から始まる肺静脈pulmonary vein は、左右 に2本づつ存在し、それぞれが別々に左心房に注ぎます。 肺静脈は、肺からの酸素の多い動脈血を左心房に運びま す。

2.体循環の静脈

体循環の静脈は、皮下を走行する皮静脈と深部の静脈ひ (伴行静脈)とに大別されます。深部の静脈は、通常、同 じ名前の動脈に並んで走行し、動脈と同じ名前がついて います。たとえば、鎖骨下動脈に並ぶ(伴行する)静脈は、 鎖骨下静脈と呼びます。ここでは、皮静脈と、動脈に伴 行しない静脈について説明します。

1)上大静脈

上 大 静 脈superior vena cava は、左右の腕頭静脈

じょうだいじょうみゃく が合流し形成されたもので、長さは約7cm です。上大 静脈は、頭部や頚部、上肢、体壁などの静脈血を集めて、 右心房に注ぎます。 腕頭静脈は、内頚静脈と鎖骨下静脈とが合流してつく られます。

2)下大静脈

下大静脈inferior vena cava は、左右の総腸骨静脈の

か だ い 合流で始まり、腹腔に存在する内臓の静脈血を集め、椎 体の右側面に沿って上行し、横隔膜の大静脈孔を貫くと 直ぐに右心房に注ぎます。

3)硬膜静脈洞

脳からの静脈血は、脳表面の静脈を経由して硬膜静脈 洞dural venous sinus に注ぎます。硬膜静脈洞は2層 の脳硬膜の隙間につくられたものです(図10-79)。この 内表面は内皮でおおわれていますが、中膜は存在しませ ん。この静脈洞には弁装置はありません。 硬膜静脈洞は、最終的には、S 状静脈洞を経由して頚 静脈孔から頭蓋腔を出て、内頚静脈に続きます。

4)門脈

門 脈hepatic portal vein は、腹腔動脈や上腸間膜動

もんみゃく 脈、下腸間膜動脈などの分布区域からの静脈血を集め、 肝臓に運ぶ血管です。通常、門脈は、脾静脈と上腸間膜 静脈とが合流することによって始まります。通常、下腸 間膜静脈は脾静脈に注ぎます。 門脈には弁がありません。そのために、肝硬変や肝癌 かんこうへん かんがん などによって肝臓を流れる血液の流れが悪くなると、門 脈圧が高まり、他の側副路に血液が流れようとします。そ く ふ く ろ 門脈圧の上昇が進めば、側副路の血管が膨れます。門脈 ふく から食道に向かう静脈が膨れて 食 道 静 脈 瘤 をつくっ しよくどうじようみやくりゆう たり、臍の周囲の臍傍静脈が膨れ、「メズサ頭」と呼ぶへそ さいぼう 状態になります。

5)奇静脈

奇 静 脈azygos vein は、腹腔の後壁で腰静脈と直角 きじょうみゃく に交叉しながら腰椎の外側を上行する上行腰静脈から始 まり、腹大動脈の右側で胸椎の右側を垂直に上行し、横

(14)

隔膜右脚を貫通し、胸腔に入り、上大静脈に注ぎます。 奇静脈には、胸壁の右側壁からの右肋間静脈や食道静脈、 気管支静脈、心膜静脈、縦隔静脈、上横隔静脈などが合 流します。 胸椎の左側には半奇静脈と副半奇静脈があり、左胸壁は ん き の側壁からの肋間静脈の血液を集め、奇静脈に注ぎます。

6)皮静脈

皮 静 脈は、動脈の走行と無関係に皮下(皮膚真皮と筋 ひじょうみゃく 膜との間)を走行し、多くのヒトで、皮膚の表面から 「青筋」として観察できます。 あおすじ 頚部の皮静脈としては、前頚静脈と外頚静脈がありま す。外頚静脈は、通常、鎖骨下静脈に注ぎます。 上肢の主な皮静脈には、橈側皮静脈や肘 正 中皮静脈、 とうそく ちゆうせいちゆう 尺 側皮静脈などがあります。 しやくそく 橈側皮静脈は、前腕や上腕の外側部を近位に向かい、 最終的には腋窩静脈に注ぎます。 尺側皮静脈は、前腕や上腕の内側部を近位に向かい、 やはり腋窩静脈に合流します。 肘正中皮静脈は、肘窩で、橈側皮静脈と尺側皮静脈と を結ぶ皮静脈で、静脈注射のときによく使用します。 下肢にも小 伏 在 静 脈と大伏在静脈などの皮静脈がみしょうふくざいじょうみゃく られます。 小伏在静脈は、下腿の後面を上行し、膝窩静脈に合流 します。 大伏在静脈は、下腿や大腿の内側部を上行し、大腿三 角で大腿静脈に注ぎます。 【静脈瘤】 長く立ち仕事をしている中高年の女性では、小伏在静脈 などの静脈弁が壊れ、膨れることがあります。これを静 ふく 脈 瘤 と呼びます。静脈瘤が熱をもち、痛みがひどくな りゆう ると、外科的に取り除く必要があります。

第6節

高血圧を考える

1.血圧とは?

血圧blood pressure は、動脈のなかを流れる血液に よって動脈の壁に加わる圧力のことで、心臓が収縮する とき最大に(収縮期血圧)、拡張するとき最小に(拡張期血 圧)なります。平均血圧は動脈壁に平均してかかる血圧の ことで、下記のように計算されます。 平均血圧=(最小)十(最大-最小)÷3 また、血圧は血流(心拍出量)×血管抵抗で表されます。 運動時には血流が増えるために血圧は上がり、夏では 血管が拡張し血管抵抗が減るために血圧は下がります。

2.血圧が高いと?

血圧が高くてもすぐに病気にはなりません。しかし、 血管の壁は、流れる血液の圧に絶えずさらされて、障害 を受けることになります。血圧が高いほど、この障害が 積み重なり、動脈硬化が進行します。 疫学的研究によって、血圧が高いグループから、虚血 性心疾患(狭 心 症、心筋梗塞)や脳卒中(脳梗塞、脳出 きょうしんしょう しんきんこうそく のうこうそく 血)が多く発症することがわかっています。死因の上位を 占めるこれらの疾患を減らすためには、高血圧の対策が 必須です。

3.血圧の値は?

血圧は一日の中でかなり変動します。基準としては、 早朝安静時の基礎血圧が最適ですが、多くのヒトでは、 外来で測定する随時血圧が用いられます。 通常、上腕部を心臓の高さに合わせて測ります(心臓の 高さより10cm 低い位置で測ると血圧は約7 mmHg 上 がる)。 正確な値を得るには工夫が必要で、例えば、5分間安 静後、2分間隔で2回測定し、5mmHg 以上の差があ れば3回測って平均値を求めるなどです。 最近は、電子血圧計が普及し家庭で血圧が容易に測れ るようになり、外来診察時だけ血圧が上がる「白衣高血 圧」の存在(20~30%)や、治療の効果判定に役立ってい ます。 また、24時間連続血圧測定で、夜間に血圧が下がらな いヒト(30%)や朝に著しく血圧が上がるヒトが見つかり、 合併症を引き起こしやすい状態として注目されています。

(15)

4.血圧の分類は?

日本高血圧学会は、表10-4に示すように、予後を考慮 して血圧を7段階に分類しています。 正常域血圧を至適血圧、正常血圧、正常高値血圧とに し て き 分けております。 また、高血圧をⅠ度(軽度)高血圧、Ⅱ度(中等度)高血 圧、Ⅲ度(重症)高血圧に区分しております。 高齢者では、動脈硬化により血管の弾力性が失われ、 収縮期血圧が上がり、拡張期血圧が低下しますので、収 縮期高血圧として別に分類しています。 表10-4 成人における血圧値の分類 分 類 収縮期血圧 拡張期血圧 至適血圧 120mmHg未満 かつ 80mmHg未満 正常血圧 120~129mmHg かつ/または 80~84mmHg 正常高値血圧 130~139mmHg かつ/または 85~89mmHg I 度高血圧 140~159mmHg かつ/または 90~99mmHg II 度高血圧 160~179mmHg かつ/または 100~109mmHg III 度高血圧 180mmHg以上 かつ/または 110mmHg以上 収縮期高血圧 140mmHg以上 かつ 90mmHg未満 高血圧治療ガイドライン2014年度版から引用

5.高血圧の原因は?

高血圧の95%は原因が不明の本態性高血圧で、遺伝的 要因と環境要因とが関係しています。年齢とともに血圧 は上がり、60歳で半分以上のヒトが高血圧領域です。 環境要因としては、運動不足や飲酒、肥満、塩分の多 い食事、ストレスの多い生活などが指摘されおり、これ らは自律神経を介して末梢の血管抵抗を増大させます。 両親に高血圧のあるヒトは遺伝的素因があり、特に生活 上の注意が必要です。 若いヒトの薬剤抵抗性の高血圧のなかには、原因が特 定できる二次性高血圧があります。原因としては、腎性 (糸球体腎炎、腎血管狭 窄など)、内分泌性(副腎や甲状 きょうさく 腺などのホルモンの異常分泌)、血管性(大動脈炎症候群 など)、薬剤性(漢方薬の甘草やステロイドホルモンなど の投与)があり、それぞれ原因を除去することで治すこ とができるので、精密検査が必要です。

第7節

鉄代謝と鉄欠乏性貧血

1.鉄代謝

鉄は、成人の体内では3~5g 存在しています。体 内の鉄の約三分の二はヘモグロビン鉄として赤血球のな かにあります。さらに、500~1000mg の鉄は、貯蔵鉄 として肝臓などに貯えられます。また、鉄を含む他のタ ンパク質として、シトクロムcytochrome やキサンチン 酸化酵素、リボヌクレオチド還元酵素などがあり、細胞 の代謝に不可欠なものです。 鉄は特別の排出機構をもたないので、その喪失量は極 めて少なく、1日に0.6~1mg ぐらいで、90%以上は 再利用されます。再使用される鉄は1日に約20mg です。 体内の鉄のバランスは、トランスフェリン transferrin とフェリチン ferritin と呼ばれる二つのタ ンパク質によっておこなわれます。トランスフェリンは、 血漿中の鉄の運搬と、血漿からトランスフェリン受容体 をもつ細胞への鉄の受け渡しに関与します。一方、フェ リチンは鉄を体内で安全な形で保存し(200個の三価鉄と 結合)、欠乏時にここから動員する役割があります。 一般的な欧米人での1日の鉄の摂取量は、20mg とい われています。一方、内田ら(1981)の高校生の調査によ れば、1日の鉄の摂取量は10.8~13.4mg ぐらいです。 近年はさらに減少し、2010年の国民の平均は7.4mg/日 となっています。 鉄の体内への吸収率は3~6%で、約1 mg が吸収鉄 量です。腸管から体内への鉄の吸収は二価鉄Fe2+ が容易 ですが、多くの食事のなかのものは三価鉄Fe3+ です。鉄 源としての食事ではヘモグロビン鉄が優れており、ヘモ グロビン鉄は腸管に存在するヘム受容体によって直ちに 吸収されます。非ヘム鉄は、吸収の時に食品添加物のフ チン酸(酸味料やpH 調製剤として使用)で阻害され、胃 酸やアスコルビン酸で吸収が促進されます。鉄の吸収は

(16)

表10-5 食品に含まれる鉄の量 食 品 名 食品100㌘当たりの含有量 赤身の肉(生) 2.7mg 鶏卵の黄身(生) 6.0mg ホウレン草(生) 2.0mg 小松菜 2.8mg 乾燥ひじき 55.0mg 十二指腸から空腸上部でおこなわれます。 小腸粘膜細胞でヘム鉄は、ポルフィリン環からはずれ、 二価鉄として鉄プールにはいります。 貯蔵鉄はフェリチンあるいはヘモジデリン hemosiderin として貯蔵されます。フェリチンには2種 類の亜型があり、L-サブタイプは脾臓や肝臓、胎盤に 多く、H-サブタイプは心臓や赤血球内に多く分布しま す。ヘモジデリンは主として大食細胞(マクロファージ) 内に存在します。 高齢者では、鉄を体内に取り過ぎると、肝臓に過剰に たまり、肝細胞の傷害を引き起こすことがあります。 表10-6 70kgの成人男性における鉄の分布 トランスフェリンとしての鉄 3~4mg 赤血球のヘモグロビンの鉄 2,500mg ミオグロビンや種々の酵素の鉄 300mg 貯蔵鉄(フェリチン、ヘモジデリン) 1,000mg (女性では100~ 400mg) 1日に鉄を吸収する量 1mg 1日に鉄を失う量 1mg (女性では1.5~2mg)

2.鉄欠乏性貧血

男性と閉経後の女性における鉄欠乏性貧血は、ほとん どが消化管出血に因ります。 成人男性では、1日当たり0.6~1mg の鉄の損失が ありますが、ほぼ1mg の鉄が吸収され、バランスがと れています。 一方、女性では、月経や妊娠、分娩などにより、余分 な鉄が必要になります。 1回の月経で体外に失われる血液は30~60mL ですの で、20~30mg の鉄が体外に出ます。それを補うために、 月経期の女性では、体内に取り込む鉄量が1日に1.5 ~ 2mg ぐらい必要です。 妊婦では、特に妊娠後期になると、体内に取り込む鉄 が1日当たり5~6mg が必要となります。 さらに授乳すると1日に約1mg の鉄が余分に失われ ますので、授乳期の女性では、1日に2.5~3mg の鉄 を摂る必要があります。 鉄欠乏性貧血は、鉄が不足することによって、赤血球 に含まれるヘモグロビン合成に障害がおこるためです。 鉄欠乏性貧血の赤血球は、小球性で、低色素を示します。 表10-7 鉄欠乏性貧血の診断基準 ヘモグロビン 女性では12g/dL未満、 男性では13g/dL未満 平均赤血球容積(MCV) 80fL未満 平均赤血球血色素量(MCH) 26pg未満 血清鉄 女性では70μg/dL未満、 男性では80μg/dL未満 トランスフェリン飽和率 16%未満 血清フェリチン 12ng/mL未満 血清トランスフェリン受容体 1,200ng/mL以上 【この章の参考図書】 ・石川恭三著、「日本人の心臓」、集英社新書、2001年。 ・田辺達三著、「血管の病気」、岩波新書、1999年。

参照

関連したドキュメント

[Publications] Taniguchi, K., Yonemura, Y., Nojima, N., Hirono, Y., Fushida, S., Fujimura, T., Miwa, K., Endo, Y., Yamamoto, H., Watanabe, H.: "The relation between the

浸透圧調節系は抗利尿ホルモンが水分の出納により血

High rates of long-term renal recovery in survivors of coronavirus disease 2019–associated acute kidney injury requiring kidney replacement therapy.. Figure 1Renal outcomes

 活性型ビタミン D₃ 製剤は血中カルシウム値を上昇 させる.軽度の高カルシウム血症は腎血管を収縮さ

直流電圧に重畳した交流電圧では、交流電圧のみの実効値を測定する ACV-Ach ファンクショ

特別高圧 高圧 低圧(電力)

原子炉圧力は、 RCIC、 HPCI が停止するまでの間は、 SRV 作動圧力近傍で高圧状態に維持 される。 HPCI 停止後の

高圧ガス移動防災対策については、事業者によって組織されている石川県高圧ガス地域防災協議