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元荒川の生活誌(第二報・最終稿) ─

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(1)

元荒川の生活誌(第二報・最終稿)

─ その 1 生活観とその実態が土地・家屋の堅牢性意識に及ぼす影響 ─

Ethnographic Consideration of MOTOARAKAWA River (Final Report)

─ Effects of Life View on the Consciousness of Robustness Concerning Land and Houses ─ 佐藤 和平

・本間 正彰

**

・八藤後忠夫

***

Wahei SATO, Masaaki HOMMA, Tadao YATOUGO

要旨:埼玉県東部地区 446 人の住民(世帯)を対象に検討した結果、以下のような知見 が得られた。1)住民の多くは概して土地の良否と建物の丈夫さの両方を重視している が、比較的やや建物の丈夫さを一層重視している傾向が示唆された。2)この傾向の背 景として住環境がすでに「住宅街」であることへの安心感、家屋強度に対する自信の高 さが推察される。3)災害時における家屋倒壊や火災を心配している住民もまた土地の 丈夫さを重視している傾向が推察された。4)つまり多くの住民にとって土地の良否以 上に建物の丈夫さとその被害に関心がよせられている傾向にある。5)土地の良否への さらなる関心を惹起するためには、コミュニティ学習や学校教育における科学教育の内 容にこの点を盛り込む必要があろう。

キーワード:MOTOARAKAWARiver,Land, Houses,ConsciousnessofRobustness       元荒川、土地、家屋、堅牢性意識

Ⅰ 序 文  問題の所在と設定

 斉藤ら(2012)は本誌第 34 集(第一報、2012)において次のように報告した。1)近隣住民に とって、現在の元荒川はそれほどに意識化される存在ではないが、自然を守る市民団体の活動か ら「自然保護・環境保全・景観重視」という視点で今後の在り方への具体的な課題が確認され た。2)元荒川中流に近接する文教大学越谷校舎の学生にとって元荒川は「大学の象徴」であり、

彼らのアイデンティティ形成につながる側面を持つと判断された。つまり“記憶の中にあり”

“背景化されつつある”元荒川とその近隣文化を、大学を含んだ地域の価値として再考する必要

さとう わへい 客員研究員・埼玉県立蓮田松韻高等学校

** ほんま まさあき 客員研究員・埼玉県立川越工業高等学校

*** やとうご ただお 文教大学教育学部

(2)

性が示唆された。

 本稿その 1 では元荒川とその近隣文化に関わる具体的な側面の一部として上記の知見とは別の 観点から、元荒川沿いの住民を対象に「土地・建物の堅牢性」ならびに「洪水・地震などの災害 への意識と防備」に着目し、生活観との関連で検討する。なお生活観を構成する要素としては、

土地や建物の購入動機・立地の利便性や文化環境・経済的資力等を採用する。

 衣食住を必要条件とし、その上に諸々の文化を構築する私たちの生活は多様な価値観によって 左右されざるを得ない。土地や建物の選択や購入に関して高沢(2011)は、地震や液状化に関す る情報把握と確認の重要性を報告している。同様に若松(2011)も、購入に際して液状化の履歴 を確認することの重要性を指摘している。土地や建物の選択や購入ならびにその後の生活におい て住民(世帯)はどのような側面を優先させているのであろうか。

 本稿はそれらの側面に着眼し、図 1 のモデルによって考察・検討を行うことを目的とする。

 

土地属性の自覚 土地の洪水安全自覚 建物の地震耐性自覚 地盤強度自覚 洪水への備えや知識 地震への備えや知識 大地震時の災害予測 地震時の心配事

対象者の 関連学習 と関心度

対象者の 基本属性

対象者の 居住属性 Q7‑8

土地の良否や  建物の丈夫さに  関する考慮の度合い 周囲の文化的環境  建物のブランド 交通の利便性  建物の価格

居住地選択・購入の

根拠・理由

土地・建物に関する

居住上の実態

土地・建物に関する

堅牢性の重視度

「河川と地形」の学び

「地形と地盤」の学び その 2 つへの関心度

年齢 職業

居住地区 居住に至る経緯 建物の構造

居住年数  築年数 周辺の環境

# Q 番号は調査票の質問項目に対応している

図 1 調査と分析の枠組み Q13‑22

Q25‑28 Q23‑24 Q1‑6

Q9‑12

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Ⅱ 対象と方法 1 対象

 埼玉県東部地区に位置し、概ね元荒川の周辺に居住する住民を対象とした。具体的には元荒川 流域(北は蓮田市、南は草加市)に位置する県立高等学校 6 校に在籍する生徒の保護者である。

したがって全ての対象者が必ずしも元荒川流域の住民であることは保証されない。さらにこの調 査では住民=世帯と判断せざるを得ない。また対象者の母集団数もこの調査では特定できない。

2 方法

 調査票には自記式無記名の質問紙法を用い、機縁法(註 1)による配票留め置き法を用いた。配 票期間は 2013(平成 25)年 7 月 11 日から同年 7 月 31 日の 20 日間とした。513 人に配票し、回 収率(配票総数に対する有効回答の割合)は 446 / 513 で 86.9%であった。

 統計にあたっては解析ソフトパッケージ IBM SPSS Statistics Ver.20 を用い、推計学的有意水 準は危険率 5%をその基準とした。

3 調査項目の概要(調査票における質問順に記す)は、以下のとおりである。

1 )現在住んでいる建物の構造・築年数・居住年数・周囲の環境・建物の所有権・居住経緯 2 )その土地や建物を購入するにあたっての選択理由

3 )その土地や建物に関する堅牢性意識

4 )災害に対する備えの実態、地震時の心配事あり・なし

5 )「カスリーン台風」(註 2)「首都圏外郭放水路」(註 3)「地盤の液状化」に関する認知度 6 )回答者の基本属性(性・年齢層)

7 )学校教育における「河川と地形」「地形と地盤の良否」に関する過去の学びと現在の関心度

Ⅲ 結果と考察

1 対象者の属性(基本属性と現在の居住属性)

 対象者全体のうち、女性で 40 歳代が 168 人(62.0%)と最も多かった。次いで男性で 10 歳代 が 67 人(39.2%)と多かった。これは調査依頼の経由となった依頼校の生徒本人による回答で あるが、その内容から家族からの代弁であると判断しそのすべてを解析の対象とした。建物構造 の分布は 272 人(61.0%世帯)においてが木造であることが確認された。全体における築年数は 平均値 17.95 年(SD = 13.15)、居住年数は平均値 14.55 年(SD = 11.16)で両方とも分散値が大 きかった。なお 384 人・86.1%(世帯)が圧倒的に住宅街にあり、377 人・84.5%(世帯)が持 家であることが確認された。さらに 286 人・64.1%(世帯)が「自分の世代で選択・購入し」現 在に至っていることも確認された。

2 土地および建物の堅牢性重視度に与えていると考えられる生活の意識や実態

 1)従属変数「土地および建物の堅牢性重視度」得点(以下、「土地建物堅牢性重視得点」)」を 設定した。つまり、Q 7 土地の良否の重視度+Q 8 建物の丈夫さの重視度を加算したものを「土

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地建物堅牢性重視得点」とした。理論的な最小値は 2、最大値 10 となる。この得点の信頼性は 以下のように確認された。また 2 変量の標本統計量により、点推定的に「建物の丈夫さ重視」の 傾向が示唆された(表 1)。2)上記 2 変量の単相関係数は .569(P < .001)であった(最大ペア 数= 422)。3)土地建物堅牢性重視得点は、全体n= 422(最大ペア数)において平均値は 6.25

(SD = 2.27)と示された。同様に重回帰分析における独立変数との最大ペア数のn= 293 にお いても平均値は 6.40(SD = 2.30)と示され、多くの住民・世帯は土地の良否と建物の丈夫さの 両方を重視している傾向にあることが推測された(表 2)。

表 1 2 項目の重視度(全体)

従属変数 2 項目 平均値 標準偏差 n(人数)

Q 7 土地の良否を重視する 2.90 1.28 422 Q 8 建物の丈夫さを重視する 3.36 1.28 428

Q は調査票の質問番号 最大値 5 最小値 1

表 2 標本統計量(全体)

度数(n) 最小値 最大値 平均値 標準偏差 土地建物堅牢性重視得点 422 2.00 10.00 6.26 2.27 有効なケースの数 (リストごと) 293

5)土地建物堅牢性重視得点の信頼性・内的整合性は、Cronbach のα= .726 で保証されている と判断した。またこの標本分布における母集団への正規性は Kolmogorov-Smirnov と Shapiro- Wilk の検定により保証されなかったが、本研究における意識調査の場合には重回帰分析におけ る従属変数として採用して良いと判断した。

0 2.00 20 40 60 80 100

3.00 4.00 5.00 6.00

図2 土地建物重視得点の標本分布

正規性の検定 P<.001 で棄却 n=422(全体)

土地建物堅牢性重視得点

7.00 8.00 9.00 10.00

度数

(5)

4)独立変数(説明変数)群の選択

 順序尺度の回答の分布を確認し、1 つのカテゴリに 50%を超える対象変数は「0、1」のダミー 変数に変換し、全てを連続変量に変換した。その結果、採用した独立変数は以下の計 23 変数と なった。( )内の数値は変数数である。

住居の属性;「築年数」「居住年数」(2)、「木造であるかないか」(1)、土地・建物購入に際して の優先度;「交通利便性」「建物価格」「生活環境」(3)、土地・建物の堅牢性に対する自覚;「洪 水耐性」「地盤強度」「建物の強度」(3)、災害への対策実態;「洪水」「地震」(2)、地震時の心配 事;「地割れ」「液状化」「盛土崩落」「建物の倒壊」「家具破損」「ケガ」「火災」「ライフラインの 寸断」「家族の安否」「自身の命」(10)、地質学的関心;「河川や地形」「地盤の良否」(2)

5)重回帰分析結果 -1 土地建物堅牢性重視得点を従属変数とした場合

① 採用した独立変数のうちここでは高得点のみを記す。なお共線性の診断結果のため許容度・

VIF の確認をおこない、全ての独立変数が適合していることを確認した(表 3-1)。

表 3-1 独立変数群の各標本統計量(全体)

独立変数 平均値 標準偏差(SD) 人数

Q 2 築年数(年)……… 17.1901 10.88 293 Q 3 居住年数(年)……… 14.2123 10.07 293 Q 9 交通利便性の重視 最小値 1 最大値 5 3.3583 1.34 293 Q 10 建物価格の重視 最小値 1 最大値 5 3.8703 1.25 293 Q 11 生活環境の重視 最小値 1 最大値 5 3.5973 1.27 293 Q 13 洪水耐性の自覚 最小値 1 最大値 5 3.1843 .94 293 Q 14 地盤強度の自覚 最小値 1 最大値 5 3.0137 .86 293 Q 15 建物強度の自覚 最小値 1 最大値 5 3.2526 .93 293 Q 18 地震心配 6 ケガ(ダミー) なし= 0 あり= 1 .6109 .49 293 Q 18 地震心配 8L ライン寸断(ダミー) なし= 0 あり= 1 .6041 .49 293 Q 18 地震心配 9 家族安否(ダミー) なし= 0 あり= 1 .8430 .36 293 Q 27 河川地形関心 最小値 1 最大値 5 3.0614 1.03 293 Q 28 地盤良否関心 最小値 1 最大値 5 3.1843 1.04 293

Q は調査票の質問番号         独立変数= 23、全て連続変量または連続変量化済み

② 重回帰分析結果 -1 の従属変数「土地建物堅牢性重視得点」に対する有効な説明量

 重相関係数(R)と決定係数(R2 乗)によって説明される割合は、従属変数の分散量に対し て 35.4%であることが有意に推測された(表 3-2)。

 土地建物堅牢性重視得点に「正」の影響を及ぼしている背景要因として、「交通利便性と建物 価格の重視度の高さ」、「洪水耐性と地盤強度の自覚の高さ」、「洪水対策の実践度の高さ」「木造 であること」の 4 領域 6 項目が有意に推測された。反対に「負」の影響を及ぼしている背景要因 として、「地震時の心配・建物の倒壊あり」1 項目が有意に推測された(表 3-3)。

 交通の利便性を重視することと建物の価格を重視することが土地と建物の堅牢性重視と正の相 関を持つことが判明したが、このことは土地・建物の選択にあたっては交通利便性や経済性がま

(6)

ずもって重視されるということを意味する。この傾向は本調査を行うにあたってあらかじめ予測 されていたことの一つであり、ある意味当然の結果と言えるであろう。

表 3-2 結果の信頼性

R 重相関係数 R2 乗 調整済み R2 乗 推定値の標準誤差

.595 .354 .298 1.936

表 3-3 重回帰分析結果 -1(全体)

n= 293(最大ぺア数)

独立変数 標準偏回帰係数

t 値 有意確率 P 値 ベータ(β)

Q 9  交通利便性の重視 → 高 .160 2.371 .018 Q 10 建物価格の重視 → 高 .314 4.945 < .001 Q 13 洪水耐性の自覚 → 高 .116 1.884 .061 Q 14 地盤強度の自覚 → 高 .174 2.608 .010 Q 16 洪水対策の実践 → 高 .125 2.093 .037 Q 18 地震心配 4 建物倒壊心配あり -.114 -2.021 .044

木造ダミー  → 木造= 1 .171 3.145 .002

Q は調査票の質問番号に対応している

 しかしこれとは別に、洪水に対する耐性、地盤の強度が高いと感じている住民ほど土地建物堅 牢性重視と有意に正の相関をもつという結果は注目に値するものと思われる。地盤強度は地震時 の安全性に大きく影響し、その土地が洪水に耐性をもつか否かは地盤強度とほぼ等価の意味を持 つからである。埼玉県東部地区の沖積低地では自然堤防と後背湿地という僅かな平野微地形の違 いが決定的に洪水耐性と地盤強度の違いをもたらすが、この地区の住民が交通利便性・建物価格 に次いで洪水耐性・地盤強度を重視していることは妥当な結果であると思われる。今回の結果の みからは、洪水耐性重視・地盤強度重視という住民の意識傾向を表している可能性が推察され る。木造家屋であるということが土地建物堅牢性重視度に正の影響を及ぼしていること、洪水対 策の実践度の高さが土地建物の選択に強い影響を与えているという結果を確認した。

 一方、地震時における建物倒壊の心配が土地・建物堅牢性重視度と負の相関を持つという結果 の意味するところは、「大きな地震であれば土地・建物の堅牢性などとは無関係に建物は倒壊す るであろう」という意識の投影と考えられ、地盤の強度が高いほど土地・建物の堅牢性を重視し ているという前項の結果と相反する結果となった。この傾向は土地・建物堅牢性を重視する住民 とあまり重視しない住民とが混在しその意識が二極化していることを窺わせる。

3 重回帰分析結果 -2 「土地の良否の重視」を従属変数とした場合

 ここではさらに、表 1 の結果により「土地の良否」よりも「建物の丈夫さ」を重視している傾 向が示唆されたことを根拠に、「土地の良否を重視する」を従属変数(以下「土地重視得点」)と

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した場合の重回帰分析をおこなった。重回帰分析 -1 の場合と同様に全ての独立変数は適合して いることを確認した。またこの結果は決定係数(R2 乗)= .538 で有意に保証されていることを 確認した(表 4-1)。

表 4-1  結果の信頼性

R R2 乗 調整済み R2 乗 推定値の標準誤差

.733 .538 .436 1.00027

表 4-2  重回帰分析結果 -2(全体)

全体 n= 293(最大ペア数)

独立変数 標準化されていない係数 標準偏回帰

係数 t 値 有意確率

P 値

B 標準誤差 ベータ(β)

Q 4 住環境の重視 → 高 -.272 .139 -.129 -1.958 .052 Q 8 建物丈夫さの重視 → 高 .532 .073 .522 7.253 < .001 Q 9 交通利便性の重視 → 高 .191 .082 .194 2.324 .022 Q 14 地盤強度の自覚 → 高 .400 .129 .249 3.093 .002 Q 15 建物強度の自覚 → 高 -.312 .121 -.213 -2.584 .011 Q 18 地震心配 4 建物倒壊 あり -.373 .182 -.139 -2.047 .042 Q 18 地震心配 7 火災 あり -.389 .192 -.146 -2.028 .044 Q 18 地震心配 8L ライン寸断 あり .493 .181 .184 2.729 .007 Q 18 地震心配 10 自分の命 あり .343 .194 .121 1.774 .078

木造ダミー 木造= 1 .364 .195 .128 1.867 .064

Q は調査票の質問番号に対応している  この結果、土地重視得点に対し「正」の影響を及ぼしていると推測される背景要因として、

「建物の丈夫さ重視度の高さ」「交通利便性重視度の高さ」「地盤強度の自覚の高さ」「地震時の心 配事あり・ライフラインの寸断と自分の生命」「木造建築であること」の 4 領域 6 項目が有意に 推測された。反対に「負」の影響を及ぼしている背景要因として、「住環境重視度の高さ」「建物 強度の自覚の高さ」「地震時の心配事・建物倒壊ありと火災あり」の 3 領域 4 項目が有意に推測 された(表 4-2)。交通利便性の重視、建物丈夫さの重視、木造建築であることが土地の選択に 強く影響を与えているという結果は重回帰分析結果1とほぼ同様の傾向である。そして自分の住 んでいる住居の地盤が堅牢であるという自覚と住居を決めるにあたって土地を重視したというこ とが正の相関をもつことも整合性のある結果であると言えよう。これに対して住環境重視と土地 重視得点が有意に負の相関にあるという傾向は、住環境(住宅街であること)が土地の良否を軽 視するという住民意識の傾向を推察させる。この点に関しては、住宅街であることが即ち土地の 堅牢性を保障するものであるというある種の思い込みがその背景となっているとも推察されよう。

 また建物強度の自覚と土地重視得点も有意意な負の相関を示した。つまり、建物が丈夫であれ ば土地の良否はあまり重視しないという意識傾向を示唆させる。すでに述べた建物丈夫さの重視 と土地重視が正の相関を示していることと比較すると、建物の丈夫さと土地の良否に対する住民

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の意識は二極化しているとも考えられるが今回の調査からは断言できない。地震時のライフライ ンの寸断と自分の生命を心配している住民ほど土地の堅牢性を重視する傾向が確認された一方に おいて、地震時の建物倒壊や火災を心配しているほど土地の良否を軽視している傾向が確認され た。地震の時にライフラインの寸断や自分の命は土地の良否に直結するが、「建物が倒壊するか 否か火災が発生するか否かは建物そのものの問題であり土地の良否にはあまり関係しない」とい う意識傾向を推察させる。

4 特に“カスリン台風”に関連する災害・防災の認知度に関して

  1 )カスリーン台風(註 2)に関する認知度は、「全く知らない」が 291 人・66.6%(全体 n=

437)で半数以上を占め、低い傾向が示唆された。カスリーン台風に関する被害記憶に関しては 該当者のうち半数である 38 人・50%(全体該当者 n= 76)が「土地が水に浸かった」と回答 した。

  2 )また首都圏外郭放水路の認知度に関しては、「少し知っている」「知っている」「よく知っ ている」が全体 433 人中 222 人・51.3%でやや高い傾向が示唆された。

  3 )一方、液状化の認知度に関しては「少し知っている」「知っている」「よく知っている」が 全体 435 人中 405 人・93.0%で高い傾向が示唆された。同様に“液状化しやすい土地”に関する 認知度も高い傾向が示唆された。カスリーン台風による被害経験は現在の首都圏の洪水対策の基 本となっている。この台風の認知度が最大の被害を受けた埼玉県東部地区住民においても 1/3 と 非常に低かったことは注目しなければならない。この記憶が僅か 60 年たらずの間に風化してい ることを物語っていると思われるからである。

5 河川・地形・地盤に関する「過去の学び」と現在の関心度について

 ここでは上記 4 の結果を受け、特に土地に関する学びの記憶や現在の関心度について言及す る。

 「河川と地形に関する過去の学び」の度合いでは、全体 371 人中「少しある」と「ある」の回 答が 344 人・92.7%と示され、高い傾向が窺われた。一方「地盤と土地の良否に関する過去の学 び」の度合いでは、「全くない」と「少しある」の回答が全体 276 人中 215 人・74.3%を占めや や低い傾向が窺われた。なお、河川と地形に関する「過去の学び」と「現在の関心度」の関連に おいては Kendall の順位相関係数 .085(P < .070)で確認され、有意な関連の高さは示めされな かった。「土地の良否に関する過去の学び」と「地盤の良否への現在の関心」との関連も同様で あった。しかし「河川と地形」ならびに「地形と地盤」における現在の関心度は決して低くはな くむしろ高い傾向が窺われた(表 5-1、表 5-2)。

 「河川と地形」については義務教育の理科で取り扱っているが、「地盤の良否」については取り 扱っていない。「両者の過去の学び」についての本調査の結果はこのことを反映したものと思わ れる。しかし一方で土地の良否・地盤の良否に関する関心が高まっていることは、東日本大震災 を契機とする近年の自然災害の多発に触発された結果であるとも考えられよう。

 

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表 5-1 河川と地形に関する現在の関心(全体)

度数 パーセント 有効パーセント 累積パーセント

有効

全くなし 53 11.9 12.3 12.3

ややなし 87 19.5 20.2 32.5

どちらとも 149 33.4 34.6 67.1

ややあり 120 26.9 27.8 94.9

大変あり 22 4.9 5.1 100.0

合計 431 96.6 100.0

欠損値 -99.00 15 3.4

合計 446 100.0

表 5-2 地形と地盤の良否に関する現在の関心(全体)

度数 パーセント 有効パーセント 累積パーセント

有効

全くなし 45 10.1 10.4 10.4

ややなし 79 17.7 18.3 28.8

どちらとも 133 29.8 30.9 59.6

ややあり 146 32.7 33.9 93.5

大変あり 28 6.3 6.5 100.0

合計 431 96.6 100.0

欠損値 -99.00 15 3.4

合計 446 100.0

6 土地に関する「学び」と「関心」に対する生活科学としての科学教育への提言

 岸(2013)は、現代の人間は人間の「すみ場所」感覚に「地球忘却」、「自然忘却」があると指 摘している。大学生に「どこで暮らしているか」と発問した時、単に「家」とのみ答える学生が 多くなっているということにこの感覚が端的に表れていると報告している。本調査では「住民は 土地の良否以上に建物の丈夫さ、交通利便性も含めた住環境を重視している」という結果を得た が、この結果は岸の指摘を裏付ける結果となっている。岸はさらに「自分を地球生命圏の一員だ と意識すること、地球という自然とのつながりを意識した「すみ場所」感覚を持つことがこれか らの地球環境の危機に対応する基本だ」と提言している。自分の住む土地に対する認識、災害・

防災・減災に対するさらなる学びが今求められていると判断できよう。阪神・淡路大震災、東日 本大震災、伊豆大島洪水被害等日本列島は災害列島である。日本列島は4つのプレートが会合す る世界でもまれにみる変動帯であり、極東の島国である日本はシベリア・小笠原・オホーツク・

揚子江の4気団の接触部であり、且つ台風で代表される熱帯気団も来襲する変化の激しい気候下 にある。現在日本では防災訓練という形で学校・自治体で防災意識の涵養が図られているが、体 系だった減災・防災教育としては不十分である。カスリーン台風等の災害体験に基づく浸水被 害予想図(埼玉県南東部広域洪水ハザードマップ作成協議会 2008、国土交通省関東地方整備局 江戸川河川事務所 2006)が作成されているがその認知も全く不十分である。文部科学省(2013)

は『「生きる力」を育む防災教育の展開』を著し防災指針を明らかにした。理科の教科書で災 害・防災について積極的に取りあげるようにという指導も行われている。今後は学校教育に限ら

(10)

ず社会教育の場面でも体系的、系統的に災害・防災・減災について学んでいくことが肝要であろ う。

Ⅳ 本研究の限界と課題

 第一報以来、元荒川との関連で調査を進めてきたが本稿では必ずしも“河川”との密接な生活 調査には至らず住民一般の「土地意識」「建物意識」という観点からの検討となった。元荒川と の関連を浮き彫りにするには流域住民の聴き取り(書き)調査が必要であったと思われる。また 他の地域における住民意識との比較検討も必要となろう。その点を今後の課題とする。

【謝辞】

 まず本調査にご回答いただいた全ての方々に深謝いたします。また本研究にご理解を頂き配票 と回収にご尽力いただきました関連の公立高等学校ならびに教職員の方々に感謝いたします。な お本研究は文教大学生活科学研究所の研究プロジェクト 2『越谷の伝統と文化』の一環として行 われたことを付記する。

【註・資料・文献】 引用順に記す

(註 1)対象者の選定は、元荒川流域に位置する埼玉県東部地区の公立高等学校 6 校各々の学校長に調査の目的 を十分説明し承諾を得たのち、各教員から在籍高校生を通じて各家庭の代表者(主に保護者)に回答を依 頼した。

(註 2)カスリーン台風;昭和 22 年 9 月、関東地方を中心に日本を襲い全国で死者 1,077 名、行方不明者 853 名、罹災者 40 万人以上、耕地流失埋没 12,927ha 等の甚大な被害をもたらした台風。

(註 3)首都圏外郭放水路;埼玉県東部の中川・綾瀬川流域の中小河川の洪水を地下に取り込み、地下 50 mを貫 く総延長 6.3 kmのトンネルを通して江戸川に流す世界最大級の地下放水路。

・斉藤修平、岡本紋弥、佐藤和平、佐藤ひろみ、中林みどり、八藤後忠夫(2012):元荒川の生活誌(第一報)

─ 文化景観論的アプローチ ─、生活科学研究(34)、pp. 49-58

・高沢一基(2011):ちょっと待った!引っ越し、購入前に必ずチェック大地震、液状化……「命が助かる家・

土地」4 つの鉄則(お金に困らない生き方)、プレジデント、pp. 74-79

・若松加寿江(2011):液状化は起きる!液状化の履歴を参考に土地購入を(特集 今から手を打て!戸建て住宅 の液状化対策)、建築ジャーナル、pp. 20-23

・岸 由二(2013):「流域地図」の作り方、ちくまプリマー新書、東京

・埼玉県南東部広域洪水ハザードマップ作成協議会(2008):越谷市洪水ハザードマップ

・国土交通省関東地方整備局江戸川河川事務所(2006):利根川水系中川・綾瀬川浸水想定区域図

・文部科学省(2013):学校防災のための参考資料、「生きる力」を育む防災教育の展開

表 5-1 河川と地形に関する現在の関心(全体) 度数 パーセント 有効パーセント 累積パーセント 有効 全くなし 53 11.9 12.3 12.3ややなし8719.520.232.5どちらとも14933.434.667.1 ややあり 120 26.9 27.8 94.9 大変あり 22 4.9 5.1 100.0 合計 431 96.6 100.0 欠損値 -99.00 15 3.4 合計 446 100.0 表 5-2 地形と地盤の良否に関する現在の関心(全体) 度数 パーセント 有効パーセント 累積

参照

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