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4.評価実験

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4.評価実験

4.1 方法

 本章では,3章で設計したディジタル教材について評価する.その方 法として,ディジタル教材を操作する前と後で形楡の使い方を比較する ものである.被験者A〜D(全てH大学の学生4名)にディジタル教材を 操作させる前と,操作させた後の2回,同一のテストを受けさせ,その 結果を比較した.テストの内容は,用意されたイラストに形楡を書き込 み,テーマに沿った表現ができているかをみるものである.本研究では,

描画力は問題としないため,このように,あらかじめ元となるイラスト を提供することにより,純粋に形楡の使い方と,それによる表現力を評 価する.この結果,操作前と後でイラストによる伝達力の向上が見られ れば,設計したディジタル教材のシステムに効果があったといえる.ま た,被験者に対して半構造化面接を実施した.ディジタル教材を操作す る前と後とでは自分の表現力に違いが現れたか,以前より表現できるこ とが増えたと思うか,など自分自身で評価させた.この結果から,テス トには表れにくい成長や認識の違い,もしくはかわらないことなど詳細 を評価できる.

 また,被験者がディジタル教材を操作する様子を録画・録音し,分析 をおこなった.この結果から,どの作業が被験者に影響をあたえ,どの ようにして学習しているのかを抽出し,ディジタル教材のよる学習のプ ロセスの検証をおこなう.

 評価実験の詳細

手順1:ディジタル教材の使用前に事前テストを実施、

 ディジタル教材で形楡について学習する前に,被験者が一体どの程度,

形楡を用いて表現することができているのかテストをおこなう.このテ ストは,ディジタル教材の使用前後でどのように変化したか比較するた めのもののため,使用後も同じ内容のテストをおこなう.テストは,与 えられたテーマに沿った状況のイラストになるように元となるイラスト に形楡を書き足すもので,表情をつくる課題と,場面をつくる課題の2 つからなる.表情からは「楽しい」と「痛い」の2つ,場面はできるだ

(2)

出題する.なお,回答が終わってもこのテストに関する解答例は見せな

い.

手順2:ディジタル教材を用いて学習する.

 ディジタル教材の操作の仕方を一通り説明し,実験に移る.被験者に 与えた課題は3種類あり,3章2節の教材の使用方法に基づいた手順で 進めていく.各々の形楡の使い方,表現に関する説明や助言などは基本 行わないこととする.また,作成したイラストは全て保存する.

【課題1】

 イラストの中から,形楡を見つけマークしていく課題.教材用に筆者 が描いたイラスト4間と,実際のマンガを用いたもの1間の計5問を用 意した.課題1の問いの解答後,解答を提示し,課題1を振り返ると共 に,形楡を認識させる.

【課題2】

 素材用のイラストに形職を付け足して,テーマにあった表情をつくる 課題と動きをつくる課題.表情に関しては「楽しい」「怒り泣き」「焦る」

の3間あり,それぞれにふさわしいと思う表情の土台を選び,そこに形 楡を貼り付けていく.動きに関しては,「速いスピ』ドで飛んでいったボ ール」「ゆっくり転がるボール」の2間あり,それぞれをテーマに,丸の 描かれた素材に形楡を貼り付けていく.

 必ずこう配置しなければならないという解答はないため,自由に試行 錯誤しながらテーマに沿ったイラストをつくらせる.また,このディジ タル教材では,作業する中で,形楡の使い方を自分で見つけていくこと を目指している為,試行錯誤という行為が最も重要になる.そのため,

表情の課題も動きの課題も,テ』マに縛られずテ」マ以外に,自分の試 したい表情や動きを自由につくらせることもおこなう.変だと思う形楡 の組み合わせても積極的に試すことで,複雑な表現の発見に繋がると考

える.

【課題3】

 素材用のイラストに形楡を付け足して,テーマにあった場面表現をつ くる課題、「問題がわからなくて悩む女の子と,元気に回答する男の子」

「ボールで植木鉢を割ってしまい,怒られて泣きそうな男の子と,怒る 男性」「転んで痛がって泣いている男の子と,そこに駆け寄り心配する女 の子」「ドッヂボールで勢いよくボールを当てられアウトになった様子」

の4問おこなう.同じ素材のイラストでも,つける形楡の種類や組み合

(3)

と同様に,決められたテ』マ以外にも,自由なテーマでイラストをつく

らせる.

 形楡はその記号単体でみることと,実際にイラストに挿入してみるこ とでは,印象や見え方も違う、イラストに挿入してこそ,形職の学習に なると考える.そのため,課題2,3を通して,使わなかった形楡がない ようにするという意識でディジタル教材を操作してもらう.また,実際 に使われている使用例をみることも学習にとって大事なことである.そ のため,課題2,3では,解答例をいつでも見られるようにしておく・し かし,常に並べておくことはできないように徹底する.正解不正解にこ だわらず,実際に教材を操作して,形楡に親しむことが重要だと考える.

手順3:ディジタル教材の使用後に事後テストを実施.

 使用したテスト用紙は使用前に用いたものと同様のもので実施する.

その後,「形楡で表現したいことは表現できたか」「形楡を用いることに より表現力は高まったと思うか」「複雑な表情をつくるのは難しいか」「形 楡は教育場面で使用できると思うか」「表現する上で困難な点はあった か」「形楡を習得できたと思うか」r課題1の意図はなんだと思うか」の 以上7点の観点から,半構造化面接を実施した.

4.2 結果と考察

 被験者A〜Dの4人について,一人ひとりの結果と考察を述べた後,

全体の考察をおこなう.

4.2.1 被験者^のケース

(課題1)

 課題1に関しては,比較的スム』ズに進めており,形楡も56個中53 個抽出できている点から,形楡の抽出に関しては問題なく出来たといえ

る.

 音声データに注目すると,実際のマンガから形楡を抽出する作業(図 18)の直前に,「え,どうしよう.こんなにあるの」と反応するなど,

形楡が想像以上に使用されていることに驚く様子がみられた.また,「(形 楡が)あるとないとでは全然印象が違うんじゃないか…」と発言す一驍ネ

(4)

性について気づきを獲得している.

習一続1■〈 口●を榊  畳にI■可 I一観からやり■し 書■枷す モート

目区蔓困

日由樹艶倣

Φ物フζきを泌芒ください.

暁け・・…一一一一・ 未

②棚色を遷んτく着きい。

    雌9

⑳左の白地位省工冗く崖乱、.

・マウス■,ゆうくり嚇してね,

㌔..^ .㌔ID

・. .z

一一

生一

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ろ●辻舳1いて18 1、

†ホ臭かよ一言ち一 I

也。

ォ.、一

ュ・〈い士

ぺI i

橋イヨ

A、・ .し 1

一  I止一一   一一  一 一一一一

図18 マンガのイラストにマークしている様子

(課題2)

 課題2の開始時,被験者Aがシステムを使用する際に「なんか(形喩 が)いっぱいある」と,種類の多さに対して驚く様子が見られた.これ は調査開始以前に被験者Aが有している形楡のレパートリーが限定され ていることを示すものである.

 最終的に完成したイラストを図19に示す.被験者Aは形楡の種類や 大きさ,角度の調整,挿入する位置について試行錯誤を繰り返すものの,

比較的短時間で作業を終えている.要因として,普段目にしているマン ガやイラスト等から,形楡の使用方法や配置の仕方については既有知識 として存在するものの,表現したい内容との対応付けが出来ていなかっ たためと想定される.これは,図19において使用されている形楡の種 類や配置が,事後テスト(図20)においても同様の組み合わせで用いられ ていることからも推測できる.従って,被験者Aにとっては限定されて いた表現したい内容と形喩を対応付ける点で効果があったと考えられる

(5)

 被験者Aにあらかじめ用意された4種類の表情素材を何度も比較し,

どの素材を使用するかについて悩む様子が見られた.これは【怒り泣き】

が形楡を用いない表情のみで表現することが難しく,また【怒り泣き】

を表現するための方法について,既有知識を有していなかったためであ ると推測される.

 次に,形楡を挿入する作業において,被験者Aはrどうやったら泣い てくれるんやろ?」と発言している.これは「怒る」を想起させる表情 素材を選択したためであり, 怒る という表情から 泣く という感情

を表現する点に困惑していると考えられる.

 被験者Aの作業プロセスを図21に示す.被験者Aは作業を進める中 で,当初  怒る という感情の方に気をとられてしまい, 泣いている

という感情から意識が薄まったことに気づき,「これじゃあ,ただ怒って るだけやん」と発言し,涙を表す形楡を挿入している.しかし,表情が

「わざとらしい」と削除し,形楡素材の一覧を眺めながら,【焦煙】や【吹 きだし】(動きや怒りなどを表す時に用いる形楡)等,別の形楡を用いた表 現を試みている.それでも怒っているようにしか表現できず,涙の形楡

を再び挿入し,大きさや配置について試行錯誤を行った.最終的に,直 接 泣く を表現する【涙1から離れ,【斜線】(頬を染めた表現をする

ときなどに用いる形楡)の挿入を試みたところ,被験者Aが想起したイ メ』ジと合致したため,形楡【斜線1の位置を微調整して完成としてい

る.

 調査後の半構造化面接において「赤面とかの時に使う形楡がおもった よりいろんな表情につかえるってわかった」と発言していることから,

既に形成されている表情と形楡の対応付け以外の組み合わせについて試 行錯誤する中で発見している点が示唆された.さらに,図22は被験者A が実験の中で斜線の形楡を使用して作成したイラストであり,様々な感 情を表現するのに形楡【斜線1を使用していることが分かる.これは表 情と形職の組み合わせを新たに発見したことから,形楡で表現できる内 容が限定的でない点について気づきを獲得したため,可能性を模索すべ

く,形楡を用いて試行錯誤した結果であると推測される.

(6)

♪ ・

ψしψ.。・,

図19 課題2で作成したイラスト

留&

!!!/

 /

  /    !

/〃/

  少

図20 事後テストで作成したイラスト

(7)

●一

■●一

図21 試行錯誤しながら表情を作る様子

(8)

ρρ

ρ

 一

、9   マ

 ●

㌔ ρ、 牽・一・

しψ 第

図22 Aが【斜線】の形喩を使用したイラスト(部分)

 問いにかける時間が平均4分程度だったところを,最大9分間もかか り,一番表現の仕方に悩んでいたのは, 速い動き の表現だった.「速 いってどうやったらいいんだ…」と発言するなどかなり悩む様子がみら

(9)

有していなかったためであると推測される.被験者Aの作業プロセスを 図23に示す.形楡をつける作業においては,何度も,【斜線】と【曲線】

(斜線,曲線ともに動きを表すときなどに用いる形楡)の形楡を挿入して は外し,①〜④のような配置を繰り返し,試行錯誤を行っていた.しか

し,被験者Aの想起するイメージとは合致せず,r動きは難しい」と発 言するなど 速い動き の表現が形成されなかった.そこで,筆者が「課 題1のイラストを再度確認し,動きの表現の参考にしても構わない」と 助言した.被験者Aはマンガから抽出したコマのボールの描写のされ方 を見て,「おおお,速い!バシィって感じにしたい」と発言し,表現の仕 方についてイメージが想起された様子がみられた.図23の⑤や⑥のよ

うに,先ほどとは異なる形楡を挿入して試みていたが,「なんか違うなあ」

と発言している様子から,被験者Aがイメージする内容と,実際の形楡 での表現の対応付けができなかったと考えられる.ここで,筆者はこの 課題自体の解答例をみせることにした.解答例を見た被験者Aは,「速 いのは直線にすればいいのか」と,直線を用いた形楡を探すが,イメー ジしたものに合致する形職が見つからず困惑する様子がみられた.そこ で,図23の⑦のように,鉛筆モードを使用して,書くことを試みるが,

すぐ諦めてしまった.「自分で書くのはちょっといいや…」と発言して いるところから,コンピュ』タ上でフリーハンドの線を引くということ に抵抗があると考えられる.しかし,事後テストでは,この速い動きを 表す表現を使用していることから,表現の仕方のイメージの形成は出来 ており,それを獲得することができたと考えられる.また, 速い動き の表現イメ』ジを獲得するまでに,試行錯誤して配置した曲線や斜線等 の動きを表す形楡は,課題3でも使用されており,ここでの試行錯誤に 効果があったと推測される.

(10)

〆.

図23 「速いスピードで移動するボール」を表現する試行錯誤の様子

(11)

 形楡を挿入したボール(図24)に対して「なんか臭そう」と発言し楽し そうに笑う様子がみられた.これは本来被験者Aが動きを表すつもりで 挿入された形楡であったが,この形楡で表現できる別の意味を発見し,

また,似た形の【波線】の形職も同じような意味をもつ点について気づ きを獲得したためであると推測される.

 被験者Aは上の【ゆっくり転がるボール】課題と同様に,使用したこ とのなかった,螺旋の形楡を顔の素材に挿入し,「ばかっぽい」と発言す るなど,表情に付加されるイメージの発見を楽しんでいる様子がみられ

た.(図25)

 また,既有知識を有していなかった形楡を積極的に使用することで,

「ああ,こういうものなのか!」と形楡の使用方法をひらめき,レパー トリーが増えていく様子がみられた.(図26)

図24 Aが新たな形喩の意味を獲得した表現

(12)

動、

図26 知らない形喩の使い方の発見

(課題3)

 課題3に関しては,比較的スムーズに進めており,形楡の種類や大き さ,角度の調整,挿入する位置について試行錯誤を繰り返すものの,比 較的短時間で作業を終えている.図27では,被験者Aの自分なりの表 現ができているのだが,ボールの転がる様子の表現において,形楡の向 きが反対に挿入されており割れた植木鉢との対応がとれてないことがわ かる.しかし,図28では,男の子が転ぶ原因となった石に注目させる

目的で,【集中線】の形楡を使用しており,「石につまずいてこける」と いうストーリーと,r痛がって泣いている」という表現したい内容の関係 性について表現されている.しかし,女の子が男の子を心配して駆け寄 るという動きに関しては表現しきれていないことから,動きの方向の表 現は習得できておらず,動きの向きに関する表現について手だての検討 が必要である.

(13)

ψδ1つ、

 一

・9 v

ミ       、

    ノ

∪1 ぺ

図27 課題3で被験者Aが作成したイラスト

β

弔・  o

 o

2 z  。。,

.m

\\

、戯

図28 石に注目させた被験者Aの解答

(14)

(事前テスト,事後テストの結果)

それぞれの結果を図29〜31に示す.

 使用されている形楡が2種類から,4種類に増えている.ディジタル 教材を使用することで,自分の表現したいイメージと,形職が対応づけ

られたことで図29のような結果が表れたと示唆される.

 使用されている形楡が,1種類から6種類に増えている.(図30)これ は,形楡の種類のレパートリ』を獲得したことにより,怪我の表現がで きるようになったためと考えられる.事前テストのイラストの表情は,

他の意味の表情にも見えるが,事後テストのイラストでは,怪我によっ て,【痛い】という感情が説明されている.

 使用されている形楡が,2種類から4種類に増えている.(図31)事後 テストのイラストでは,全体的に形楡が書き込まれているため,リレー の走っている雰囲気が増している.また,バトンパスの手元に注目させ るなど,効果に関わる形楡のレパートリーの獲得に効果が現れている.

(15)

●    ○

〜     い

♪ 昭島

!//

 !

/〃/

図29 表情【楽しい】 左:事前テスト 右:事後テスト

/ ト

////!/

t

φ

図30 表情【痛い】 左=事前テスト 右:事後テスト

(16)

〃二

6

c   二

 〃

 \ L\

1ノ

図31 場面【バトンパスの状況】

㌧ ㌧

   く

上=事前テスト 下1事後テスト

(17)

4.2.2被験者Bのケース

(課題1)

 被験者Aと同様に課題1に関しては,比較的スムーズに進めており,

形楡も56個中47個抽出できている点から,形楡の抽出に関してはさほ ど問題なく出来たといえる.しかし,図32が示すように,怪我を表す 形楡に関しては,【絆創膏1の形楡は形楡であるのか,そうでないのか,

マークする際,かなり悩んでいる様子がみられた.【たんこぶ】の形楡に もマークをしていないところから,形楡に関する既有知識がないため,

実際に見ることができるような,【絆創膏】や【接ぎ】【たんこぶ】など 具体物が描かれている形楡は,描写の一部であると考えたと推測される.

解答を確認した際の音声データに注目すると,rああ,絆創膏はいるんや

〜」と発言していて,形楡の認識がなされたことが確認できた.

また,実際のマンガから形職を抽出する課題の解答を見ながら「マンガ が好きで普段よく読んだりしてるのに(形楡がこんなに使われているこ とに)気がつかなかった」と発言しており,ここから,マンガを普段読ん でいても,形職などの表現技法に意識を向けないと,認識はされないこ とが示唆され,課題1の作業を通して,形楡を認識させることが,効果 的であったと考えられる.

。、町

o・ 0 9

η ρ

図32 課題1の被験者Bの解答

(18)

      ・1〉

○へび ○・いう

図33 課題2で形喩の配置に試行錯誤する様子

(課題2)

 被験者Aと同様に,被験者Bもこの動きを表現することにとても悩ん でいる様子がみられた.「速いってことは直線的な感じだ」と発言してい るように,頭の中には表現のイメージは想起されていると推測されたが,

被験者Aと同様に,「自分で書くのはいいかな」と,鉛筆モードで線を 書くことに若干抵抗がある様子が見られ,別の表現方法を模索していた、

そこで,使用したのが【吹きだし】の形楡である.形楡の大きさに差を つけながら複数並べていたのだが,ボ』ルが速く移動しているように見 えるのは,ボ』ルから離れるごとに形楡を大きくした時なのか,小さく した時なのか,何度も配置を入れ替えながら確認し,自分の中の想起さ れたイメージに対応させていた.(図33)この作業は,被験者Bにとって,

形楡の大きさや配置と与える印象の対応という点で効果があったと考え

られる.

(課題3)

 イメ』ジ相互の関係性については,形楡で適切に表現されていない部 分が散見された.

場面 転んで泣いている男の子と駆け寄り心配する女の子】を作成する

 最終的に完成したイラストを図34に示す.被験者Bには,言葉のイ

(19)

膏】の形楡が,多く挿入されているのがわかる.その要因として,課題 1で,【絆創膏】は 怪我を表す形楡である という印象が強く残ったか らだと推測される.それは,音声データに注目してみるとわかる.被験 者Bは図34を作成時,男の子の怪我を表現する際,「ここを怪我して,

ここも怪我して,足と手と一・・転んだ時手をついてここも怪我して〜」

と発言していた、テーマの状況を想像し,その状況をそのまま形楡で説 明するように,怪我をしているというところに【絆創膏】の形楡を挿入

していく様子がみられた、

 調査後の半構造化面接において「今まで言葉で書いて説明していたこ とも,形楡を使用して説明すれば,子どもにもっとわかりやすく伝えら れそう.」と発言していることから,Bは,形楡を,言葉の修飾語のよう な役割として,絵に付属することで,表現しようとしていたと推察され る.そのため,形楡は説明的に使われ,表す感情や動作の強さが形楡の 数に比例しているようにも見える.(図35)形楡の使い方としては間違っ ておらず,使用にも積極的であったが,形楡の組み合わせやレパートリ

』が,既有知識の枠から出ることが出来ず,限定的な使用になっていた 点は否めない.新しい組み合わせの発見などを,促す手立てが,必要で

あったと考えられる.

場面 ドッヂボールで いよくボールを当てられアウトになった様子】

を作成する課題

 動きの表現があまり習得できていないため,他の被験者の解答に比べ 基本的に動きに関する形楡が少ない.動きがないため,表現がそれぞれ の人物内で完結しており,人物相互の関係性が表現されず,テーマの状 況の表現が難しくなっている(図36).このことから,イメージ相互の関 係性については,形楡を画面上で試行錯誤する作業のみでは習得するこ とが難しい点が示唆された.動きの表現を苦手としていることから,相 互の関係性については,形楡の認識や形楡での表情や動きの表現など基 本となる技法について一定程度習得させた上で,課題3に取り組むこと が望ましいと考えられる.そのため,イメージ相互の関係性を表現する スキル獲得の手法については今後検討していく必要がある.

(20)

弔・

8

図34 課題3でBが作成したイラスト

七 十

謬.

拶Q

 十

_  ♪

  図35 Bが課題2で作成したイラスト

左:「楽しい」 右:自由課題(とても楽しいイメージ)

(21)

ρ 1 右

一・

・と)

図36 課題3でBが作成したドッヂボールの様子

(事前テスト,事後テストの結果)

それぞれの結果を図37〜39に示す.

 使用されている形楡が2種類から,6種類に増えている.ディジタル 教材を使用することで,自分の表現したいイメージと,形楡が対応づけ

られたことで図37のような結果が表れたと考えられる.

 使用されている形楡が,1種類から5種類に増えている.(図38)これ は,被験者Aと同様に,形楡の種類のレパートリーを獲得したことによ

り,怪我の表現ができるようになったためと考えられる.事前テストの イラストの表情は,【涙】のみが使われていることで, 悲しい などの 表情にも見えるが,事後テストのイラストでは,怪我によって,【痛い】

という感情が説明されている.

場面 バトンパスの 況

(22)

テストのイラストでは,走っている流れが,動きの形楡で表現され,リ レーの走っている雰囲気が増している.矢印で,バトンの動きを表現し ようと試み,場面に合った形楡の使用方法を獲得できたと考えられる.

○埼 叙つ ρ、 つフ

○●●

Cノ 一

傘・邑川/〃

夕■

図37 表情【楽しい】

 々

●  /     楽しい  1

 !  /

 炊ノ

   _/

上:事前テスト 下:事後テスト

       (/フ

    ハハ フ

        イ

   3 τ・つ

    _4⑰フ

       

(23)

グI

1/

  7

ノー

戸 一

!一

 /

」__、\_、、

 一 \

一、。

=べ.

、\

図39 場面【バトンパスの状況】

  、十。凹

    1     ■     一     」

   ■      ハ       4  \

 一一メ     業 )

\、

    \

上:事前テスト

   \

下:事後テスト

(24)

4.2.3被験者Cのケース

 被験者Cはイラストを描くことが好きな熟達者であった.そのため,

イラストを描くことに関しては抵抗があまりない.

(課題1)

 課題1に関しては,他の被験者に比べて56個中28個の抽出と少ない

(図40).その要因として, 形楡 という言葉を始めて聞いたこと,具 体的に何が形職にあたるのか,イメージができなかったことが,解答を 確認時の被験者Cの「これも形楡やったんか」という発言から推測され る.形楡という被験者にとって新しい言葉と,今まで無意識に使用して きた形楡の知識を対応付ける点において,課題1は被験者Cにとって効 果的であったと考えられる.

 また,調査後の半構造化面接において,課題1について「(形楡に)こ ういう使い方ができたんや,これもそう(形楡)なんか,これ使ってみよ う,みたいに新しい発見や,自分の知らない使い方を知ることができた」

と発言していることから,既有知識と対応付ける他に,自分の限定的な イメージ以外の使い方の発見,ひらめきを促し,形楡の効果について考 える点で課題1は効果があったと示唆される.

         、・

         ○.

       〆 、   台7        {

  . 、・蝪・ ;

!   Q◎

.   ・

  ■  ■ 0

一nl・

i

b

図40 課題1での被験者Cの解答(14個中4個にマーク)

(25)

(課題2)

 被験者Cに特徴的だったのは,形喩の角度や大きさ,位置の微妙な違 いに多くのこだわりをもっている様子がみられた点である.要因として,

イラストを描くことが好きだという被験者Cは,普段目にしているマン ガやイラスト等から,形楡の使用方法や配置の仕方については既有知識 として存在しており,それらが,少しの大きさや位置の違いで見る者に 与える印象が異なることを理解していたからだと推測される.実際にド

ラッグ&ドロップをして形楡を挿入し,様子をみるという行為は,他の 被験者に比べ少なく,位置を決めて一度挿入してしまうと,そのまま変 えないことが多かったのだが,形楡を挿入するまでに至る微調整や,位 置の確認は他の被験者よりも比較的多くみられた.ひとつの形職を何度 も回転させたり反転させたりしながら調整し,ドラッグしてイラスト上 に調整した形楡を運び,合わせてみては,ドロップせずに元に戻して調 整する,という行為を繰り返しおこなって,試行錯誤している様子がみ られた(図41).これは,調査後の半構造化面接において,「とてもこだ わりがあるから」と,発言していることにも示されるように,自分の想 起したイメージと形楡を使用して作成するイラストのイメージが合致さ せるために,必要な作業であり,この作業において,課題2は効果があ

ったと考えられる.

自由に表情または動きを作成する課題

 自分の知らない形楡,使い方がわからない形楡の使用に関しても積極 的で,被験者Aと同様に,実際に使用してみることにより,形職の使い 方を学習しようとする様子が見られ(図42),形楡のレパートリーの獲得 に関して効果があったと考えられる.

(26)

□■■■  ㎜  元白≡す ■oか与,oiし 伽 モイ

国1困重国

縦0く i●書■, 1師 O醐自臼りiし 嘗巳壷ヨ■

モ→.

1⑦国回国

口         〃一

同?同璽.つ」区周「司「1到.」吐.「三f三

「1ア      1{1蛎

図41 形喩の位置や向きの試行錯誤する様子

(27)

図42 知らない形喩を積極的に使用する様子

ξ n

ρ

z

ρ

         図43 膝の怪我の表現

左=課題1の問いのイラスト 右:課題3でCが作成したイラスト

(課題3)

課題3についても,課題2と同様に試行錯誤する様子がみられた.また,

課題1で「こんな使い方があるのか」と発言していた,怪我の表現とし て用いられた【斜線】の形喩については,実際にアレンジして使用して みるなど試行錯誤をおこなう様子がみられた(図43).これは,既有知識 にある形職の使い方以外の組み合わせや使用方法についての獲得を示し

(28)

(事前テスト,事後テストの結果)

それぞれの結果を図44〜46に示す.

 事前事後テストとも形楡は4種類であるが,事後テストでは顔の中に 形楡を書き込み,表情をつくっている(図44).調査後の半構造化面接に おいて「【斜線】の形楡が色々な表現に使えるとわかった」と発言してい るように,既に形成されている表情と形楡の対応付け以外の組み合わせ について試行錯誤する中で発見している点と考えられる.

 使用されている形楡は4種類と変わらないが,事前テストでは,怪我 の表現のみであったが,事後テストでは,その怪我の原因まで表現され た(図45).この要因として,被験者Cは,事前テストの時点では,動き を表現する【直線】は形楡だと知らなかったが,教材を通して形楡につ いて学習し,また,動きの表現について試行錯誤し獲得した効果が現れ たためであると示唆される.

 使用されている形楡が,2種類から3種類に増えている(図46).事後 テストのイラストでは,他の被験者と同様に,動きを表す直線の形楡が イラスト全体的に書き込まれ,走っている様子が表現された.また,こ こでも,【斜線】の形楡を用いることで,人物の感情を表現しようとする 様子がみられる.

ケ  ⑬

営少

  楽

ノ〆令

  や 蒔

,、

(29)

φ

ソ.

6

バ!

@痛い

図45 表情【痛い】 上:事前テスト 下:事後テスト

(30)

ρ

一」

A\

一、も\

1

㌧ ・

一二 、、

へ\

\.

、一.\

 ○ へ

   ..・)

\、\

図46 場面【バトンパスの状況】 上:事前テスト 下:事後テスト

(31)

4.2.4被験者Dのケース

(課題1)

 被験者A,Bと同様に課題1に関しては,比較的スムーズに進めてお り,形楡も56個中48個抽出できている点から,形楡の抽出に関しては さほど問題なく出来たといえる.マークする作業中の音声データに注目 すると,課題のイラストや,実際のマンガのコマを見ながら,「難しいで すね」「むっちゃ多いけど…」と反応するなど,形楡が普段目にするよう なイラストやマンガに想像以上に使用されていることに驚く様子がみら れた.これは調査開始以前に被験者Dが有している形楡のレパートリー が限定されていることを示すものであると推測される.

 また,解答を確認時,割れた植木鉢を表現するために用いた【ツキ】

も形楡だと知り,「これ,迷ってたんですよ」と,マークする際に迷った 形楡に注目している.他にも,図47に示すように,全く意識になかっ た【たんこぶ】が形職であると解答で確認した際には,「あ!ああ!うん,

確かに!」と,発言しながら,【たんこぶ】の形楡をマウスのポインタで ぐるぐると囲うなど,被験者Dの申で【たんこぶ】と形楡が合致し,納 得している様子がみられた(図48).これは被験者Dにとって,認識して いた,限定された形楡のレパートリー以外の形楡を獲得するとともに,

自分の既有知識の表現と形職の認識を合致させる上で効果があったと考

える.

 被験者Aと同様に,「マンガとかは普段,一枚の絵というか,形楡を 含め,こういうものだ,としてみているので,(形楡)を意識をしたこと がなかったけど,改めてみてみると,こんなにあるんだなあ,と思った」

や「形楡があるのとないのでは,全然イメージが違うんやろうなあ」と 発言するなど,日常的に目にするイラストやマンガにおける形楡の効果 および重要性について気づきを獲得している.

(32)

図47 課題1のDの解答

蔓.1如岬{.二_._

フF4拙F三. 到■例, ○予■一高司 ●幽岬. 1Iく吟〕I

図48 解答を確認して【たんこぶ】の形喩を認識する様子

(課題2)

  最終的に作成したイラストを図49に示す.この課題に関しては,

初めは 速い =直線的という,被験者Dの既有知識から想起されるイ メージを表現しようと,【斜線】の形楡を用いの作成を試みている様子が

(33)

みられた.形楡表に用意されている形楡では,拡大などの調整をおこな っても,自分のイメージする形楡の形とは合致しないため,図50や図 51のように,形楡を丁寧につなげて,長く見せるなど,使用する上で工 夫をする様子もみられた.この様子から,被験者Dの中では, 速い 動きの表現については,ある程度の表現方法のイメージを保持している

と推測される.

 しかし,図50のような表現では,納得できず,図51のように,【曲 線】や【集中線1等の形楡の挿入を試みたり,配置や数を変えたりする などの,被験者Aと同様の試行錯誤がみられた.ところが,最終的に完 成したイラストは,直線は使われず,【曲線】と【集中線】の二つの形楡 で表されたシンプルで全く別の表現に落ち着いていた.要因として,図 50で【集中線】を使用した際,被験者Dは絵に挿入された【集中線】

の効果を見たことで,  パッと消えたように見えるほど速く移動した という今までとは別の表現のイメージを獲得したと推測される.

さw〃

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図49 被験者Dのr遠いスピードで移動するボール』

(34)

同側句1困

毅麗匿曙 量田翌

図50 形喩をつなげて長くする工夫をする様子

「言川

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     蹴..  9q吋■

図51課題2の試行錯誤の様子

(35)

●    ●

図52 課題2の自由に操作する問いでDが作成したイラスト

ついては,【たんこぶ】の形楡を用いていることから,被験者Dは課題 1で【たんこぶ】が形楡であると知ったことが印象的であったと推測さ れる.しかし,【たんこぶ】の形楡の上に同じく怪我を表す【絆創膏】の 形楡を重ねて挿入している様子から,怪我の表現に対する,被験者Dの イメージ形成の試行錯誤が示唆される.課題1で獲得した形楡を自分の 既有知識の表現イメージに組み込む作業として,この課題は効果があっ

たと考える.

(課題3)

場面 転んで泣いている男の子と駆け寄り心配する女の子 をイ  する

 この課題でも,怪我の表現が用いられる.課題2で使用した【絆創膏】

の形楡に【斜線】を加えることを試みている.数度に渡り,怪我の表現 をおこなったことにより,被験者Dは形楡を用いた怪我の表現の方法を 自分で試行錯誤により学習し,獲得したと考えられる.その獲得した表 現が図53の表現である.これは,事後テストにおいても同様の組み合 わせで用いられていることからも推測できる.

場面 ドッヂボールで いよくボールを当てられアウトになった様子  図54において被験者Dは「ボールを投げる動き」「ボールが移動する

(36)

の一連の動きの表現により,イメージ相互の関係性が表現されていると 考える.また,鉛筆モ ドを使用しての積極的な形楡表現から,形楡に よる動きの表現が獲得できていると推測される.被験者A,Bの結果と総 合して考察すると,課題1,2で一定程度表現スキルが習得することが できていれば,課題3はイメージの相互関係性について効果があると考 えられる.しかし,形喩の挿入方向に関して助言機能などの実装の検討

も必要である.

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図53 課題3でDが作成したイラスト

一つ。

(37)

(事前テスト,事後テストの結果)

それぞれの結果を図55〜57に示す.

 使用されている形楡が2種類から,4種類に増えている.ディジタル 教材を使用することで,自分の表現したいイメージと,形楡が対応づけ られたことで図55のような結果が表れたと示唆される.また,音符の 数白体が減っていることについては,「他の形職と組み合わせることで,

数が少なくても十分表現できることがわかった」と発言し,被験者Dの 中では,効果的な表情と形楡の組み合わせの形成ができたと考えられる.

 使用されている形楡が,2種類から4種類に増えている(図56).これ は,形楡の種類のレパートリーを獲得したことにより,怪我の表現がで きるようになったためと考えられる.事前テストのイラストの表情は,

他の意味の表情にも見えるが,事後テストのイラストでは,怪我と,震 えの表現によって,より複雑な【痛い】という感情が説明されている.

 使用されている形楡が,3種類から5種類に増えている(図57).事後 テストのイラストでは,全体的に形楡が書き込まれているため,リレー の走っている雰囲気が増している.また,走者の状況にも注目し,動き を表す【曲線】や,焦りの【水滴(汗)】が効果的に使用されている.動 きの表現に関しては,ディジタル教材で学習した効果が現れている.

(38)

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  夕

図55 表情【楽しい】 左:事前テスト 右:事後テスト

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図56 表情【痛い】 左:事前テスト 右1事後テスト

(39)

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回57 場面【バトンパスの状況】 上:事前テスト 下:事後テスト

(40)

4,3 全体を通した考察

 事前テストと事後テストの結果を比較すると,ひとりひとり差はある ものの,被験者全員に共通して形職の種類に増加が見られた.実際に形 楡の使用をすることにより,被験者の形楡に対する既有知識や,形楡を 用いた表現のイメージと,マンガ表現スキルとのギャップを埋められた ためだと考えられる.また,全員ディジタル教材に対して「楽しい」と 好意的であった.

 試行錯誤の過程において,被験者Aは首をかしげる,両面から顔を離 して見るなどしながら,何度も操作を繰り返す様子が見られた.紙に書 く作業とは異なり,形愉を挿入した後に,自己のイメージと異なると判 断すれば,すぐにReword機能を用いて元に戻すことが可能である.試 行錯誤するための負担が低く,実際,事後の半構造化面接において「さ

くさくできた」とAは発言している.

 また,「鉛筆で書くことはまだ少し難しい」と発言している.しかし,

「(このディジタル教材を)使ったら,かなり自分の表現したいことは表 現できるようになった」と発言していることから,1時間程の作業で目

に見える結果が現れたので,使用の回数を重ねると,形楡の使用方法が 更に定着し,紙に書く作業でも同様に形楡を扱えるようになることを期

待する.

 被験者に共通して困難が見られた点として,動きの表現が ある.動き を表す形職は,怒りマークや,音符などの形楡と違い,形のある記号で はなく,直線や曲線で表すことが多い.向きや長さ,大きさなど,表現 したいものに合わせて書くのが最も効果的であるため,システムの都合 上大きさや角度などユーザーのイメージどおりに貼り付けることが難し い仕様になっており,その点は直線ツールをつくるなど,改善しなけれ ばならない.しかし,被験者は,形楡を想起できなかったり,使い方を 理解していなかったりした訳ではなく,「こういう形楡を使いたい」とい

う,イメージは形成されていた.このことは,教材を操作する過程で学 習した成果であり,教材デザインの妥当性が示されたと考えられる.

 被験者Bはディジタノレ教材を操作している間,「わからない」と咳く ことが何度かあった.その内容には テーマをどのように表現すればい いのかわからない というものと この形楡はどのような使われ方,使 い方をするのかわからない という2種類があった.両者とも,実際に

(41)

しかし,使ってみてもわからないと感じるものもあり,何度か使う内に,

使い方が自分の中で定着するものもあれば,わからないまま終わるもの もあった.今回の実験では,どう表現すればいいのかわからない,どう 使うのかわからない,という時のために操作中に見られる解答例を用意

し,声をかけたりもしたのだが,Bの場合,「解答例を見ずに自分で頑張 る」と,答えた.事後の半構造化面接において,Bは「使用例のような ものがあって,すぐ確認できたらよかった」と発言しており,今回,解 答例の中には使用例と同じ意味のものも用意されてはいたが,はっきり

と役割を分けて用意しておくべきであった.

 使用例については,本研究では,試行錯誤に意味があると考えるため,

作業に本当に行き詰ったりしていた際に見ることを促していた程度だっ たのだが,ディジタル教材を操作するユーザーにとっては,使用例のあ る方が,安心感を抱く可能性がある.被験者Dも事後の半構造化面接に おいて,「形楡は沢山あるので,使い方がわからなかったり,ひとつの形 愉で色々な意味をもっている形楡があったり,どれをつかえばいいのか な一とかいうことにはなる」と発言しているように,形職の種類や,そ れらが表す意味は複数ある.本研究では形楡で独創的な表現を行うこと が目的ではないため,全ての形楡において,使用例を用意した方が,ユ

」ザーの理解を促した可能性もある.

 一方で,「意味はわからなくても,実際につかってみて,こういうふう に使えばいいのかな,っていう発見はある.」ともDが発言しているよ

うに,使い方を理解していないものを実際に使っでみることにより新た な発見が生じ,その発見によって,使用例を見るより使い方が定着しや すい可能性も考えられるため,このことに関しては今後検討していく必

要がある.

 今回の実験では,形楡の学習に効果があるか調べるためのものだった ので,素材の表情については,修正しない制約を与えてあった.しかし,

もともとイラストを描くことが好きで描写力やこだわりのある被験者C は,表情の表現を変えられないことや,細かな角度や大きさの調整がで きないことに大きなもどかしさを感じ,「自分の手で描く方が表現でき る」と発言していた.つまりは,この教材の試行錯誤により,形楡の使 い方を獲得てきたので,実際自分が紙に描いて,自由に表情も表現可能 な条件の場合,効果的に形楡を使用することができるということである.

本来,本研究は,教師はちょっとした時にイラストで表現できる力があ

(42)

することにより,絵が苦手な人でも,表現できる幅が広がることにより,

自分のイメージに近いイラストが描けるのではないかという考えの下,

ディジタル教材を設計している.今回,実験のため制限をかけたが,形 楡は描写力の補助的役割で用いることが前提であり,Cが表情を描き変 えたいと言った様な使用の仕方は可能である.

 また,紙に描く方がいいということは,形楡の一覧があればすぐ形楡 は使えそうかと,Cに,事後の半構造化面接において質問してみると,

初めは「描ける」と回答していたのだが,ディジタル教材でおこなった 自分の作業を思い出し,「試しに使用してみたり,大きさや角度を変えて 実際のイラストに配置してみたりと試行錯誤は必要だった、使ってみる ことで習得できる」と発言した.被験者Dも同様に,「(紙に書いた形楡 表だけ渡された場合)ある程度はできるとは思うが,このシステムのい いところは,この形職を使ってみよう,と思った時に,実際イラストの 上でイメージすることができるところ.」だと発言しており,「表を与え られただけだと,形楡単体を,(頭の中でイラストに合うように調整して)

イメージをイラストにもっていくことが難しい」「実際に(イラストに)

つけたり,はずしたりの試行錯誤が大事」だと振り返っていた.以上の 発言から,マンガ表現スキル(形楡を用いた表現方法)の獲得には試行錯 誤をおこなうことが必要不可欠であり,被験者がそれらを獲得できたと

自覚している点も示された.

 被験者Dが,事後の半構造化面接において「(表現力が)高まったと いうよりは,頭の中のイメージをずっと出せるようになった」「どうやっ て表現していいのかな,というもやもやがなくなり,スムーズに表現で きた」と発言しているように,本教材は,美術的な表現力を高めるもの ではないが,伝えたいイメージの表出を支援する役割を担うものとして 期待される.本論文では,形楡が,絵を描くことは苦手だという教師の 支援ツールとしての有効性が示され,また筆者が想定したマンガ表現ス

キル獲得プロセスは妥当であったと,考える.

(43)

5.まとめ

 本論文ではマンガ表現スキルの獲得に特化したディジタル教材の設計 過程について述べた.

 2章では,経験者と,初心者が,同じテーマで描いた4コママンガを 比較し,両者のマンガ表現スキルの特徴を整理することにより,ディジ タル教材のデザインについて検討する予備実験をおこなった.調査結果 から,初心者がマンガを表現する際の困難さとして,表現技法を記号単 位で認識することが困難な点,形楡を認識していても,自己のイメージ にあった使用をすることが困難な点,表現するイメージが複数ある場合,

それぞれの関係性を表現することが困難な点の3点が抽出された.

 3章では,ディジタル教材をデザインした.実装したディジタル教材 を用いた学習は,第2章の考察で抽出された3点を踏まえ,①形楡の認 識②イメージにあった形楡の使用③形楡の関係性の表現の手順で行うこ

とを想定している.

 4章では,被験者(H大学の学生4名)にディジタル教材を操作させる 前と,操作させた後の2回,同様のテストを受けさせ,その結果を比較 する評価実験をおこなった.事前テストと事後テストの結果を比較する と,個々に差はあるものの,被験者全員に共通して形楡の種類に増加が

見られた.

 一方,被験者に共通して困難が見られた点として,動きの表現がある.

動きを表す形楡は,怒りマークや,音符などの形楡と違い,形のある記 号ではなく,直線や曲線で表すことが多い.向きや長さ,大きさなど,

表現したいものに合わせて書くのが最も効果的であるため,システムの 都合上大きさや角度などユーザーのイメージどおりに貼り付けることが 難しい仕様になっており,その点は直線ツールをつくるなど,改善しな ければならない.また,今回は試行錯誤を重視していたため,使用例が 充実しておらず最低限の機能しか実装していない.今後の課題として,

使用例の提示や,ユーザーに助言する機能などを実装し,教材をパッケ ージとして開発することが挙げられる.

(44)

1謝辞

本研究でご指導いただいた高木厚子准教授には度重なるスケジュ』ル の変更など多大な迷惑をおかけして心苦しい毎日でしたが,快く懇切丁 寧なご指導をいただき,本当にありがとうございました.深く感謝し,

御礼を申し上げます.

 また,ソフトを開発していただいた小川修史助教,評価実験にご協力 いただいた学生の皆様,研究を支えてくれた全ての人々に心からの感謝 の意を表します.

2011年12月 今村愛美

(45)

・参考文献

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赤堀侃司,御園真史,柳沢昌義「Webを活用した授業改善の実践と考察」

『リメディアル教育研究』1(1),2006,118・125.

向後千春「ストーリーべ一スのWeb教材を使った入門統計学のeラーニ ングコース」『日本計算機統計学会大会論文集』(19),2005,169−174.

鈴木栄幸,加藤浩「マンガ表現法による社会的ネットワーキング訓練が プレゼンテ』ションメッセージの説得性に与える効果の検討」『メディア 教育研究』5(2),2008,137−144.

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布施泉,岡部成文「情報倫理教育における学習教材:ビデオとマンガの有 利・不利」『電子情報通信学会技術研究報告.SITE,技術と社会・倫理』

109(330),2009,65−70.

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竹内俊彦,加藤由樹,加藤尚吾「プレゼンテ』ション用ソフトによる物 語教材作成支援ソフトの開発」『教育情報研究:日本教育情報学会学会誌』

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(46)

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三原鉄也,杉本重雄「ディジタル環境を指向したマンガの制作プロセス のモデル化とそれに基づく制作支援」『情報処理学会研究報告.情報学基

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菅谷充「マンガ初学者のための4コママンガeラーニングコースの設計 と実践」『日本教育工学会研究報告集』1O(2),2010,87−94.

竹熊健太郎「ひと目でわかる「形職」図鑑!」『マンガの読み方(別冊宝 島EX)』宝島杜1995,pp.78・105.

(47)

資料目次

事前調査の調査用紙....................................

評価実験で用いたテスト.............................

評価実験の際配布した資料..........................

.1

.2

.3

(48)

事前調査の調査用紙

四コママ>がを描いて(たさい

       舖(        )

①Aは腹ぺこで倒れそう。

そんな跨、膿へ物』を 発見する。

※喉へ物」は自由に握写(たさい

②これは幸運と、その 膿へ物」を愚ぺてし泰う・皿 が.、その現場をBぴ目撃する。

③膿へ伽を貧べたことに

Bはご立腹。

Aは素知ら偽顔。

④8から知らされる

順へ物」は貢肺期限切れ

という事実1こ^は驚曙。

ご協力ありがとうございました

(49)

ムK

lト

田…

記号(形喩)を描き足して 題に沿った表情にして下さい

楽しい

痛い

題の状況に沿ったイラストになるように、

形喩を描き足してください。

題:リレーのバトンを渡すシーン

 (1周走ってきた走者か次の走者ヘパトンを渡す)

(50)

評価実験の際配布した資料

実験手順

①形楡を見つけてください。

課題1フォルダの中のイラストを順番に進めてください  絵の中から形楡を見つけて、○印をいれてください。

課題2フォルダの中のイラストでテーマにあったものを選び土台にしてください

②形楡を足して、絵を完成させてください。(完成したイラストは保存してください)

問1 楽しい・怒り泣き・焦る それぞれをテーマに、

   女の子のイラストまたは、顔の素材に形楡をっけたしてください。

問2 速いスピードで移動するボール・ゆっくり転がるボール

   それぞれをテーマに、丸の描かれた素材に形楡をっけたしてください。

間3 自由に表情を作ってください。

   変かな?と思うような組み合わせでもどんどん試してください。

課題3フォルダの中のイラストを順番に進めてください

問4 テーマの状況に沿ったイラストになるように、形楡をっけたして下さい。

  ・問題がわからなくて悩む女の子と、元気に回答する男の子

  ・ボールで植木鉢を割ってしまい、怒られて泣きそうな男の子と、怒る男性   ・転んで痛がって泣いている男の子と、そこに駆け寄り心配する女の子   ・ドッヂボールで勢いよくボールを当てられアウトになった様子

間5 自由に操作して遊んでください。

 全ての形楡を1度は使ってみる気持ちで、イラストをつくってみてください。

参照

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