平成23年度
学位論文
小学校算数における「空間的思考カ」に関する研究
兵庫教育大学大学院 学校教育研究科
教科・領域教育学専攻 自然系コース
M10170E 上 月 幸 代
はじめに
岡崎(2003)は,次のように述べている。
《小学校教師が日常生活の為の算数指導を行うことはあっても,中学校の文字式や 図形の論証を見据えて指導することはあまりなく,中学校教師の多くも,単元の導 入に日常場面を用いることはあっても,文字式等の計算指導や論証指導に多くの時 間を費やしているのが現状である。》(岡崎,2003,p1144)
小学校6年生の担任をしたときに,ちょうど,学習指導要領改訂に向けて,カリキュラ ムの補充が行われた。今まで中学校で学習していた内容が6年生の学習内容として移行さ れたのである。その内容は,図形領域では図形の合同,縮図や拡大図,対称な図形,量と 測定領域では角柱や円柱の体積の求め方,数量関係では反比例(一部),文字を用いた式(一 部)である。これまでにも中学校での生活や学習を意識し,小・中学校の接続を考えてき たつもりであったが,十分でないと実感した。岡崎(2003)が,小学校教師が中学校の文 字式や図形の論証を見据えて指導することはあまりない,と指摘している通りである。算 数と中学校数学の系統性を考慮した算数教育が求められている,と改めて現実的に捉える ことができた1年であった。中学校数学に近づくために小学校で高めておきたい力とは何 かを考えていこう。私は,そのように考えた。
小学校において,「立体と空間図形」の学習をするとき,図から立体のイメージをつくり,
容易に解決できる児童がいる」方で,具体的操作を取り入れ,細かな説明をしたとしても なかなかイメージをつくることができない児童もいる。これは,積み木遊びや造形遊びな どの活動によって,立体を構成する,分解するといった経験をたくさんしてきたことが関 係しているのであろうか。学習経験や生活経験が,直観的な能力(立体をイメージする,
念頭で操作するなど)を培うことに影響すると考えられるならば,これは,小学校のうち に高めておかなくてならない方なのではないかと考えた。
「立体・空間図形」に関する学習において求められる力はどんなカなのかを明らかにす ること。小学生にはどのようなカがあり,さらにどんな力をつけれぱよいのか。その力を 培うために,どのような教材を用いて指導すればよいのか。私は,これらを追究する。
2011年12月
上月 幸代
目 次 はじめに
第1章立体・空間図形の意義と本研究の目的・・・・・・・… 1一 第1節立体・空間図形の意義と課題・… 11・1… 1・1・・ 1
1.立体・空間図形の意義・・・・・・・・・・・・・・・・… 1 (1)実用的意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 1 (2)文化的意義・・・・・・・・・・・… 一… .。... 2 (3)人間形成的(陶冶的)意義・・・… 一・・・・・・… 2 2.立体・空間図形の課題・・・・・・・… ・ 3
第2節本研究の目的と本論文の構成・・・・・… 1・・・・… 4
1.本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・… 一・… 4 2.本論文の構成・・・・・・… 1・・・・・・… ..... 4第2章 「空間的思考カ」についての基礎的考察・・・・・・… 16−36
第1節立体・空間図形の学習に関する児童・生徒の課題111・・…1.調査研究・・・・・・・・・… ....一H......、.
(1)久米の調査・・・・・・・・・・・・・・・・・… 1…
(2)国宗らの実験授業・・・・・・・・・・・・・・・・・・…
(3)影山の調査・・・・・・・・・・・・… .、、......
ア.図を読む・図をかく問題 イ.念頭操作する問題
(4)狭間らの調査・・・・・・・・… 11・1・・・・・… 13 第2節 先行研究におけるr空間的思考カ」のとらえ方・・・・・… 116 1.風間のとらえ方:r空間概念」・・・・・・・・・・… 一一・・16 2.影山のとらえ方1「空間的思考」・・・・・・・・・・・・・・… 16 (1)空間能力・・・・・・・・・・・… H・・・・・・… 17 (2)幾何的思考・・・・・・・・・・… 一一・・・・・・… 18 3.國本のとらえ方:「空間直観カ」・・・・・・・・・・・・・・… 21 4.狭間らのとらえ方:「空間思考」・・・・・・・・・・・・・・… 22
第3節 r空間的思考カ」とその構成要素・… 1・・・・・・・… 25
1.r空間的思考力」の概念規定・・・・・・・・・・・・・・… 一25 2.「I 直観的思考カ」について・・・・・・・・・・・・・・… 26 ①空間図形を認識する力②立体を構成する力
③空間イメージを操作する力 ④空間図形を見抜くヵ
3.「n 空間的関係をとらえるカ」について・・・・・・・・・… 30 ①立体や空間の広がりをとらえる力
②立体を図で表現したり,図から立体をイメージしたりするカ
③立体を分類する力
4.r皿 空間的位置をとらえるカ」について・・・… 一・・… 34
①位置をとらえる力
②空間白由移動能力
第3章 「空間的思考カ」に関する実証的考察・・・・・・・… 37−68
第1節 r空間的思考カ」に関する調査と考察・分析・・・・・・・… 37 1.調査の目的と概要・・・・・・・・… 一・・・・・・・・… 37 (1)調査目的(2)調査問題 (3)調査対象 (4)実施日時 (5)実施方法
2.第一次調査・・・・・・・・・・・・・・・・… 一・一・… 39 (1)調査結果・・・・・・・・・・… 一 ・・ 一 39 (2)調査問題の難易度… 一・・・・・・・・・・・・・・… 39 (3)学年間の変化… H 一 I 45 3.第二次調査・・・・・・・・・・・・・・・・・… 一・・… 48 (1)第二次調査問題における修正・・… 一・・・・・・… 一・48 (2)調査問題の難易度・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 50 (3)学年間の変化・・・・・… .53 4.第一次調査及び第二次調査に関する考察1・一・・・・・・・… 57 (1)児童に見られる困難性… 1・・・・・・・・・・・・… 57 (2)学年間の変化における特徴・・・・・・・・・・・・・・… 58 第2節 「空間的思考カ」に関する授業実践=「立体と投影図」・・・… 59 1.実験授業の目的と概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 59 (1)授業の目的・1・・・… 1・・1・・・・・・・・・… 59 (2)実験授業1「シルエットで形を伝えよう」・・・・・・・… 59 (3)実験授業2「立体推理をしよう」・・・・・・・・・・・… 63 2.考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 65 (1)児童の課題.・・・・・・・・・・・・・・… 65 (2)実験授業で用いた教材のよさと改善点・・・・・・・・・… 66
第4章 r空間的思考カ」を培うための教材例と指導例・・・… 69−88
第1節 r空間的思考カ」を培うための教材例・・・・・・… 1… 69 1.教材「ボールを入れるぴったりの箱をつくろう」・・・・・・… 69 (1)教材を通して培うr空間的思考力」・・・・・・・・・・… 6g ア.rI一②立体を構成する力」についてイ.「n一②立体を図で表現したり,図から立体をイメージしたりする力」について
(2)教材の応用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 70
2.教材「サイコロを転がすと?」・・・・・・・・・・・… 71 (1)教材を通して培う「空間的思考力」・・・・・・・・・… 一 72 ア.「I一③ 空間イメージを操作する力」について
(2)教材の応用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 72 3、教材「4つのキューブ」・・・・・・・・・・・・・・・・… 一 73 (1)教材を通して培うr空間的思考力」・・・・・・・・・・・… 74 ア.rI一④ 立体を分類する力」について
(2)教材の応用:教材「パズルをつくろう」… 一・・・・・… 74
ア、「■・一②立体を図で表現したり,図から立体をイメージしたりするカ」について
4。教材.「どのように見える? どこから見ている?」・・… 一… 76 (1)教材4①「どのように見えるでしょう」一・・・・・・・・… 76 ア.教材を通して培う「空間的思考力」
(2)教材4②「どこから見ているでしょう」・・・・・・… 一・・77 ア.教材を通して培う「空間的思考力」
第2節 「空間的思考カ」を培うための教材とその指導・11・・・… 79 1.「ボールを入れるぴったりの箱をつくろう」(3年生)・・・・・… 79 (1)教材の位置づけ・・・・・… 一 79 ア.本教材を扱う単元 rまるい形を調べよう(円と球)」
イ.単元での位置づけ
(2)本教材の指導例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 81 2.「サイコ1コを転がすと?」(4牛生)・・・・・・・・・・・・・… 83 (1)教材の位置づけ・・… 一 ・… I . 83 ア.本教材を扱う単元 「直方体と立方体」
イ.単元での位置づけ
(2)本教材の指導例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 86
第5章本研究のまとめと今後の課題・・1・1・・・・・・… 89−91
第1節本研究のまとめ・・・…
1.研究目的に即した本研究の総括 2.本研究の成果・・・・・…
第2節 今後の課題・・・… 一一 1.児童の実態と課題の把握…
2.教材の有効性の検証・・…
3.教材の展開と指導の充実…
・・・・・・・・・・・・・・…
@ 89
・・・・・・・・・・・・・・…
@ 89
・・・・・・・・・・・・・・…
@ 90
… ■・・・・・・・・・… g1
・・・・・・・・・・・・・・…
@ 91
・・・・・・・・・・・・・・…
@ 91
・・・・・・・・・・・・・・…
@ 91
おわりに 引用・参考文献 巻末資料
第1章立体・空間図形の意義と本研究の目的
第1節 立体・空間図形の意義と課題
1 立体・空間図形の意義
立体・空間図形教材の意義について,実用的,文化的,人間形成的な観点から述べる。
(1)実用的意義
我々は,身の回りの物体を空間図形として認識している。経験を通して認識された物体 や空間白体は3次元的な奥行きをもって記憶されているという。心理学では,「空間知覚
(spaceperception)」という用語を用いて,人間が空間的な認知をしていると述べている。
「空間知覚」とは,
《対象そのものの水平・垂直的広がり,奥行,方向,あるいは対象相互間の距離や 位置関係,そして自己と対象との位置関係(方向,距離など)などの空間的特性お よびその変化の認知》(空間認知の発達研究会,1995,p,276)
のことである。
例えば,部屋に学習机をおくとしよう。机の大きさと部屋の間取りを見比べて,どこに,
どのように配置するのかを頭の中でイメ」ジするであろう。また,知らない街に出かけた としよう。地図に示された日的地までの情報を読み取り,「ここから2本向こうの通りを右 折する」というような思考をするセあろう。これらは,対象相互間の距離や位置関係,自 己と対象との位置関係が,日常生活において用いられている例である。
このように,3次元空間に生きる人間にとって,立体の形状やその相対的な位置を知る こと,視点と対象の見え方や3次元図形と2次元図の関係の理解などは,欠かせない能力
である。
1
(2)文化的意義
《文学や芸術は先人の創造による優れた文化であり,こうした文化遺産は人間の知 的好奇心を刺激し,それを享受したいという欲求を喚起する。算数も,有史以来,
人間が創りあげた」つの文化といえよう。したがって,算数の美しさ,素晴らしさ を子どもに味わわせ,文化としての算数を彼らに体験させることが算数教育に要求 される。》
(数学教育学研究会,1991,p.13)
数学の美しさ,素晴らしさを味わわせる立体・空間学習の教材には何があるであろう。
例えば,ギリシアの数学者アポロニウスが円錐の断面の図形に4つの異なる図形一円,
楕円,放物線,双曲線を見つけた。また,プラトンの多面体(立体)と呼ばれる立体がある。
2次元においては,正多角形は無数に存在するが,3次元空間においては,正多面体が5 種類だけしかない。アルキメデスは,底面が等しい円錐,半球,円柱の体積比は1:2:
3になることを証明した。このような数学的事実は直接何かの役に立つというわけではな いけれども,そのこと自体が知的好奇心を喚起させる教材としての価値を有している。
また,数学における空間的な考え方が芸術の世界にも生かされている例としてM.C.エ ッシャー(1898−1972)の絵が挙げられよう。M.C.エッシャーは,数学的な知識を使っ て,数多くの作品をつくった(ブル]ノ・エルンスト,ユ983,Jo㎞ny Ba11.2006)。
(3)人間形成的(陶冶的)意義
平林(2000)は,空間・立体に関する教材について,次のように述べている。
《算数・数学科を,単なる知識の暗記,機械的技能の習得の場と見ないで,人間誰 にも基本的に必要な思考力,表現力を養う場であると考えれば,図形,とくに空間・
立体に関する教材は,極めて重要な教育的役割をもっている。》(平林,2000,p.179)
ここで言われている基本的に必要な思考カの一部は,いわゆる
「数学的な考え方」と捉えてよいであろう。「数学的な考え方」と は,例えば,類推的な考え方や発展的な考え方などがある。類推 的な考え方の例として,図1.1.1のようなL字型図形の体積を求
[図1.1.1L字型図形コ
める場面を考えよう。L字型の平面図形の面積の求積方法をもとにして同じような求め方 ができないであろうかと類推するであろう。また,発展的な考え方の例として,正多角形 によるタイリングを考えてみよう。正三角形,正方形,正六角形はタイリングできる。正 五角形は角を集めると180。や3600にならないので不可能である。では,3次元ではでき ないであろうかと発展的に考えていく。
このように数学的な考え方を導き出せる教材は,空間・立体に関する教材の中には豊富 にあると考える。さらに,空間・立体に関する教材の中には,さほど既習知識を要求しな いものがあり,それらを用いれば学力の差を気にせず,すべての児童が取り組める学習課 題を設定することができると思われる。
2.立休1空間図形の課題
小学校において,立体・空間に関する内容は他の内容に比べて扱いが少なく,空間的内 容についての児童の経験も十分とは言えないように思われる。このことに関しては,次の
ような指摘がなされている。
《これまでの算数・数学教育では,図形教材とくに空間・立体に関する教材は,新 教材に比べて著しく軽視され,その教材研究,指導法の研究もひどく遅れていた。
》(平林,2000,P.179)
《現在の図形教育では,カリキュラムにおいても学習指導においても,立体の構成 要素,性質などの理論的な側面が先行し,空間思考の側面は見落とされ,生活や通 常の学習のなかで子どもが自然に身につけるに任されている。》(狭間,2002,p.11)
つまり,算数・数学科において,空間的な思考は,意図的な教育によって身にっけさせ ていく必要があるにもかかわらず,それに関する指導が不十分であるということである。
第2節 本研究の目的と本論文の構成
1.本研究の目的
小学校において立体・空間図形を指導する際,平面図形の指導とは異なる難しさがある。
立体・空間図形の指導において,図や絵を用いて立体・空間図形を児童にイメージさせる ことが必要であるが,その過程で,どのような手立てをするか,どのような学習材を用意 するかということが難しいと感じるのである。それは,平面図形の学習において児童は,
提示された図や絵に直接操作を加えながら考えることができるが,立体・空間図形の学習 では,見取図や展開図などの図から3次元像をイメージし,念頭操作して考えることが必 要となるからである。立体・空間図形の問題は,平面図形のように図を直接操作すること だけでは解決できず,図から3次元像をつくり出し,「空間的思考力」を活かして解決する
ことが求められる。本研究では,このような立体・空間図形に関する様々な課題を解決す るために必要な能力を「空間的思考力」と呼ぶこととする。
前節第2項で述べたように,このr空間的思考力」は,意図的な教育によって培う必 要があるにもかかわらず,それに関する指導が不十分であること,そして,その指導に おいては,学習教材や指導の工夫が必要であると言える。
このことから,本研究では,「空間的思考力」を明確にすることによって,小学校におい てどのような指導が必要なのかを探ること,つまり,児童のr空間的思考力」の様相を把 握し,r空間的思考カ」を培うための教材の提案をしたいと考える。
本研究の目的は,次の3点である。
①「空間的思考力」の概念規定とその能力を明らかにすること。
②「空間的思考力」に関する児童の実態と課題を把握すること。
③「空間的思考力」を培うための新たな学習教材の提案をすること。
2.本論文の構成
本論文は,第1章から第5章までの5部構成とする。
第1章立体・空間図形の意義と本研究の目的では,立体・空間図形の意義について
4
実用的意義,文化的意義,人間形成的(陶冶的)意義の三つの観点から述べた上で,課題 を示し,本研究の日的を明らかにする。
第2章 「空間的思考力」についての基礎的考察では,本論文の骨子である「空間的 思考力」に関する先行研究を取り上げ,立体・空間図形学習における課題及び「空間的思 考力」のとらえ方を明らかにした上で,「空間的思考力」の概念規定を行う。さらに,「空 間的思考力」の構成要素を明確化する。
第3章 「空間的思考力」に関する実証的考察 では,第2章で述べた「空間的思考力」
に関する児童の実態を明らかにする。小学4〜6年生の児童を対象とした調査及び小学6 年生の児童を対象とした授業を行い,それを実証的に検証する。
第4章 「空間的思考力」を培うための教材例と指導例 では,「空間的思考力」を培う ための教材とその指導例を提案する。第3章で明らかになった児童の「空間的思考力」に 関わる困難性や様相に基づき,本章での基礎的な資料とレて,新たな教材の考案に活用す
る。
第5章 本研究のまとめと今後の課題 では,前章までの考察をふまえ,本研究のまと。
めをする。「空間的思考力」に関する研究の成果と,今後の課題を明らかにする。
5
第2章 「空間的思考カ」についての基礎的考察
第1節 立体・空間図形の学習に関する児童・生徒の課題
1 調査研究
(1)久米の調査
久米(1997)は,小学2,4,6年生,中学2年生の児童・生徒を対象にした,立方体 の見取図の描画能力の実態調査を行っている。立体模型(小学2年生のみサイコロ)を見 せ,次のような問題を提示している。
《1方体を,遠くの人にファックスで知らせたい。あなたならどのような図を送りま すか?》(久米ら,1997,p.332)
1_
ヂ㍗ へ@ {
しえ_
ギ…「
、1小{コ
「1〔コ
r二{ ド」門
廿日目止1
■ 目螂 螂n
螂口n[
「一1
ψ
1中;萎
・一門 薫⊥」一 ト
ご「7 『・一』ト、
ギー1…r
マ..。..㌧
㌔
、・…
̲
[図2.1.1 立方体の見取図描画調査結果]
図2.1.1に示したのは,調査の結果である。この結果から,次のような児童の実態を明 らかにしている(久米ら,1997,p,333)。
小2:まったくかけない。頂点や辺には着目せず,面の形・数に着目している。
小4:かける児童が非常に少ない(11%)。
小6:かける児童は半数以下である(44%)。
中2=ほぼ全員がかける(94%)。その図は,高さが用紙の縦の縁に平行な平行投影で ある。
興味深いのは,学年が上がるにつれて,見取図の描画能力の発達が見られること,個性 的な図であったものが教科書に提示されているような図に収敏しているということである。
久米らは,児童・生徒が,見取図の中に保存されている立体図形の性質や関係を理解し,
見取図と立体図形との関連を図るには,見取図指導は欠かせないこと,その指導のあり方 については,教科書等に提示する図の向きや位置が影響することを示唆しており,指導方 法の再考を促す手がかりを与えているといえよう。
(2)国宗らの実験授業
国宗ら(2007)は,《空間図形の理解の様相をとらえるための観点》として,次の4点 を設定し,その中の「ウ.空間図形の操作能力」に関する児童の実態を把握するための実 験授業を行っている。
《ア.
イ.
ウ.
工.
基本的な立体図形に関する理解 空間における直線や平面に関する理解 空間図形の操作能力
(見取図表現,展開,運動,切断,投影,視点や対象の移動等)
空間図形の活用能力》(国宗ら,2007,p.35)
小学6年生を対象とした立方体の見取図に関する授業では,次のようなステップで学習 指導が進められた。
①見取図をかく。(立方体の模型を示す)
②上手に見える見取図を選択し,その理由を考える。
・「すべての辺の長さが等しい」⇒奥行きを示す辺の長さが,縦・横の辺の長さとは 等しくないことを確認
・「平行になっている横の4本の辺の長さが等しい」→縦と横の4本の辺に対して,
奥行きを示す4本の辺は長さが短いが平行であることを確認
・「向かい合っている面の形が同じ。下にあるのは形に表すと正方形だけど,見取図 では平行四辺形。」⇒向かい合った面の合同を確認
・「角度がそろうようにかく。」⇒見取図で90。にならないところがあることを確認
③見取図の特徴をまとめる。
・保存される性質と保存されない・性質の確認
この授業において児童がかいた見取図のタイプを,国宗らは,表2−1と図2,112のよう に分類している。
[表2−1見取図のタイプ分け](国宗ら,2007,p.39)
呼び名 形の特徴
A
立方体型 辺同士の平行性が保たれ,奥行きを示す辺の長さが正面の正方形の c・横の辺の長さより短く調整されている。B
直方体型 辺同士の平行性は保たれているが,奥行きを示す辺の長さが正面の ウ方形の縦・横の辺の長さと同じか,それより長い。C
側面合同台形型 2つの側面が,互いに合同ではあるが(長方形でない)台形である。D
側面非合同四角形型 2つの側面が,互いに合同でない四角形である。E
その他A,B,C,D,Fに該当しない図 F
未完成 図が完成していない。〆 〃 ㌧
[図2.1.2タイプA〜Dの図の例](国宗ら,2007,p.39)
さらに,事後調査を行い,児童の見取図の変化が追跡された。事後調査において,まず,
児童は白紙にy方体の見取図をかき,次に,授業中に自分がかいた見取図の修正を行った。
授業時(初めて)及び事後の結果は,表2−2に示している。
[表2−2 見取図のタイプの変化(数値は人数)コ(国宗ら,2007,p,40)
A B C 事 後 D E F
計A:立方体 4 4
B:直方体 2 2
C:台形 4 4
初めて
D:非合同 2 1 1 4
E:その他 2 1 3
F:未完成 2 2
計
16
1 1 1 O 019
なお,表2−2にある「初めて」の項目は,実験授業の中で児童がかいた見取図の種類を 示し,「事後」の項目は,授業1週間後にかいた見取図の種類を示している。初めに正しい 見取図(A:立方体型)をかいた児童は4名である。事後になると19名中16名が正しい 見取図(A:立方体型)がかけるようになっている。
これらの結果から,国宗らは,見取図を見ることと表現することとは異なり,「見取図を たくさん見てきた児童でも正しくかくことは難しい」,「見取図を見ているだけではかける ようにはならない」と述べている。つまり,見取図の指導を重視した授業を行うことによ って見取図がかけるようになるし,指導しなければかけるようにはならない,ということ を指摘している。
(3)影山の調査
ア.図を読む・図をかく問題
影山(2003)は,空間的思考の水準の実証的検討として,小学3年生〜6年生(20!名)及.
び,中学1,2年生(209名)を対象に調査を行っている。図表現に関する調査内容は,次 に示すr図を読む」問題(2題)とr図をかく」問題(3題)である。ここで取り上げる
問題は,小学校高学年用の問題である(図2.1.3〜2.1.7)。
【「図を読む」問題】(2問)
①《見取図を読んで,投影図で答える》(影山,2003,p.297)
同じ大きさの立方体を5っ積んで下の図のような立体を作りました。それを 真正面,真 上,右から見た図はそれぞれ右の図のうち,どれでしょうか。「ま正面」「ま上」「右」でこ たえなさへ
@ 日日日コ
回じ大きさの立方体5つで作った立体
[図2,1.3調査問題1]
9
②《展開図を読んで,見取図で答える》(影山,2003,p297)
左の図を線でおって組み立てるとどのような立体になりますか。正しく表わしているも のを右のアから工の中から記号で答えなさい。
.・
.、!
E
㌻
答え:
[図2.1.4調査問題2]
【「図をかく」問題】(3問)
③《立体をスケッチする》(影山,2003,p.297)
下の図がクを表わしているといえるように, ク 残りの線をかき入れなさい。
図の表わし方は自由です。図の説明を付け足してもいいです。
[図2.1.5調査問題3]
④《見取図を読んで,展開図をかく》(影山,2003,p.298)
左の図で表わされている立体を辺で切り開くと右のようになりますが,これはまだ途中 までしかかいていません。のこりの線をかき入れて図を完成させなさい。
』
[図2.1.6調査問題41
⑤《立方体の切断面を作図する》(影山,2003,p.298)
図のような立方体を,3点ア,イ,ウを含むようにまっすぐ切ると,その切り口はどの ような形になりますか。切り口を図の中にかき入れ,色をつけなさい。ただし,点イ,ウ はそれぞれの辺の中点です。
[図2.1.7調査問題51
10
[表2−3図表現問題の正答率]
課題番号
小3 小4 小5 小6
中1 中2 図を読む① 69.4 80.8 93.2 84.6 87.7 76.5図を読む② 36.1 76.9 68.9 78.5 76.7 89.7
図をかく③ 75.O 92.3 83.8 93.8 87.7 92,6
図をかく④ 2.8 3.8 14.9 21.5 17.8 39.7
図をかく⑤ 0.O 0.O 2.7 O.0 1.4 3.7
*数字は百分率。問題番号は,筆者が便宜上つけたものである。(影山、2003,p.146)
影山は,表2−3の結果から分かる傾向として,次の4点を挙げている(影山,2003,p.146)。
①見取図,展開図,投影図の読みは,正答率が高い。
②見取図に基づいて展開図を作成する,また,親しみのない展開図から見取図を作成する ことは困難である。
③図を読むことよりも表現することの方が困難である。
④図をかくことに関しては,見取図よりも展開図のほうが困難である。
イ.念頭操作する問題
図2.1.8は,小学校中学年用の調査問題である(影山,2003,p.299)。この調査問題の うちの(2)の問題が,念頭操作によって,立体の全体的形状や特徴が捉えられるかどう かをみるものにあたると考えられる。この問題に関する正答率は,表2−4に示す。
さいころの 形を した 同じ 大きさの はこを 4つ つかって,面と 面を ぴったり はりあわせて できるものは,下の アから クのように ぜんぶで 8つ あります。
固亀晶監これについてつぎのしつもん ここたえなさへ
7 イ り
帯留臨晒
、 ○ ,
(1)下の あ から え のなかで,アと 同じ 形であると いえる ものは どれでしょ
う机1つだけきごうでこたえなさへ
@♂〃4σ
こたえ . , ■
(2)下の あ から え のなかで,オと 同じ 形であると いえる ものは どれでしょ
う机1つ削きごうでこたえなさへ
@甲㍉\笥
■
こたえ:
[図2.1.8調査問題1]
11
[表2−4正答率1 (影山,2003,p.172)
課題番号 1(2)
小3
96
小4
87
小5
96
小6
86
中1 97
中2
93
*数字は百分率。小数第一位四捨五入。問題番号は,筆者が便宜上っけたものである。
また,図2.1.9も,小学校中学年用の調査問題である(影山,2003,p.300)。この問題 に関する正答率は,表2−5に示す。
㌻;1;1∴1∵lll∴㌻∵財嘉
例えば,さいころの形をした箱は,面をぴったりくっつけて,上や横の方向に,どこまでもつんだり,ならべ たりすることができます。
では,下の①から ⑤のうち.上の約束を守りながら,どこまでもつんだり,ならべたりすることができるの はとれでしょうか。あてはまるもの全部を記号で答えなさい。
鰯観 日
同じ大きさの且方体を 同じ大きさの⊥方体を 円柱 2つくっつけた形 3つくっつけた形
① ② ③
立方体と,それを半分に
風
切ったものとを くっつけた形
身
正三角形4つで 囲まれている 形の上の部分を 切り取った形
⑤ [図2.1.9調査問題2コ
[表2−5正答率] (影山,2003,p.172)
小3
23
小4
18
小5
27
小6
30
中1 49
中2
57
*数字は百分率。小数第一位四捨五入。問題番号は,筆者が便宜上っけたものである。
影山は,次のように分析一している。
《[見取図を見て,似た特徴を持つ立体を判断すること]の正答率はどの学年も高い ことから,全体的な特徴から立体を判断することは早い段階でできるようになると 言える。(中略)[特徴的な立体で空間を敷き詰めること]の正答率は小学校段階で下 がることから,読み取った特徴を活かして考えることは特に小学校段階では難しい。
》(影山,2003,P.171)
12
(4)狭間らの調査
狭間ら(2000)による小・中・高校生に対する研究の調査問題のうち,中学生を対象と した問題の一部を次に示す。
①もとの立体と同定することを通して,ポリキューブ立体の回転や視点の自由な変更など の念頭操作をみる問題(狭間ら,2000,p.208)(図2.1.10)
①右のような積み木があります。この積み木を,ち幽左の
は,下の中でどれでしょうか。あてはまるものぜんぶを,○で囲んでく
ださい。
②右のような積み木があります。この積み木を,ちがう方向から見たのは,
下の中でどれでしょうか。あてはまるものぜんぶを,Oで囲んでください。
1紙
[図2.1,10 調査問題1]
○結果からの考察 小学校低学年=
小学校中学年=
中学・高校生:
全体的イメージで空間をとらえる。
全体的イメージと分析的把握の間で揺れている。
分析的に考察する。
同転や視点の自由な変更などの観点で分析する。
13
②念頭で立方体の回転と直角方向転換との連続操作が行えているかどうかをみる問題 (狭間ら,2000.p.208)(図2.1,11)
立方体を,図の(あ)から(G)
まで,1マスごとに転がします。
立方体が,①〜⑤で示された位置 にきたとき,☆がかいてある面は,
あなたから見て,立方体のどの面 にありますか。あてはまるものを,
○で囲んでください。
①立方体が(う)の位置にきたとき,☆の面は,
(上,下,右,左,手前,向こう)にある。
②立方体が(き)の位置にきたとき,☆の面は,
(上,下,右,左,手前,向こう)にある。
③立方体が(け)の位置にきたとき,☆の面は,
(上,下,右,左,手前,向こう)にある。
④立方体が(た)の位置にきたとき,☆の面は,
(上,下,右,左,手前,向こう)にある。
⑤立方体が(G)の位置にきたとき,☆の面は,
(上,下,右,左,手前,向こう)にある。
X2.1.11言口口2
○結果からの考察
小学校3〜4年=立体の回転イメージを持つことができる。見えない位置にある面を,
見えない位置へ回転させること,進路の向きを変える回転には困難がある。
小学校5〜6年=問題解決に必要とする面のみに意識を向けて,回転させることがで き,念頭思考が深まる。
中学・高校生:課題解決に必要な能力を短期間で習得することができる。正答率は女 子より男子の方が高い。
14
③机の上に置いた水の入った容器を真上から見たときの水面の形を答える問題 (狭間ら,2000,p.210)(図2.1.12)
*小学生には,水面の図形の名前のみ記入させる。
右図のような,立方体の形をしたふたのついた透明の容器に,水がち ょうど半分だけ入っています。この容器をいろいろな方向に傾けて,
真上から見ると,水面の形はいろいろに変わります。
次の質問に答え,理由も書いてください。
(1)机の上に,この容器の面をつけて置いたとき(図1),水面 の形はどんな形ですか。 次の中から選んでください。
長方形 正方形 ひし形 平行四辺形 台形
(図1)
水面の形(
選んだ理由
(2)この容器を手に持って,いろいろな方向に傾けたとき,水面の形はどんな形がで きますか。また,どんな形はできないですか。 次の中から選んでください。
三角形 四角形 五角形 六角形 七角形
できる形 ( できない形(
できない形を選んだ理由
[図2.1.12 調査問題3]
○結果
問題(1)
小学5〜中学1年1約40%の正答率。
中学2〜3年=54%。
高校生:91%
・中学1年生と2年生との間で,問題をとらえる力に差が見られる。
・理由をある程度正しく説明できた割合
中1=ユ3%,中2:30%,中3:21%,高1:47%
問題(2)
・水面の形の名前をすべて,正しく選択できた高1の正答率でさえも7%にとどまって
いる。
この結果から,狭間らは,このような空間思考を促す学習の機会を意図的に設け,自然 に任せてはならない,と指摘している。
15
第2節先行研究1こおげる「空間的思考カ」のとらえ方
空間概念の形成や空間図形の学習指導に関する研究は,これまでに多数行われている。
先行研究において,筆者の考える「空間的思考カ」がどのようにとられているかを整理し,
以下に述べる。
1.風間のとらえ方:「空間概念」
風間(1993)は,空間概念の育成にかかわる指導の困難性,生徒の空間概念の形成過程 の様相を探り,その育成のための指導内容や方法を示している。「空間」を「経験的な空間 あるいは抽象的な空間である3次元空間」とした上で,「空間概念」を《点,直線,平面な どの基礎的な概念や直線と直線,直線と平面などの関係的な概念をさすもの》(風間,1993,
p.56)と述べている。
また,空間概念の育成については,以下のように述べている。
《空間概念の育成とは,子ども連の自然な学習,自然な発達で育成されるものは それに任せ,そうでないもの,つまり,子ども連の自然な学習,自然な発達では 不十分であるものはその学習を意図した学習場面を設定し,意図的な指導を行っ ていくという基本的な指導の姿勢である。》(風間,1993,p.57)
2.影山のとらえ方:「空間的思考」
影山(2003)は,空間的思考の水準論を検討し,思考水準と思考の様相についての調査 から得られる知見をもとに,空間的思考を育成するための指導原理と学習指導の構想を提 起している。「空間的思考」とは何かを,次のように述べている。
《空間的思考を「認知的処理能力としての空間能力を働かせつつ幾何的思考を行う」
思考活動として,つまり,「空間能力」と「幾何的思考」の統合として捉えることと する。》(影山,2003,p.24)(図2.2.1)
16
空間的思考 = 空 間 能 力 十 幾何的思考
[認知的側面1 磯何的側面]
空間における関係の認 ・図形・空間の学習内容と 識.視覚化などの様々な 関連する数学的な考え方 下位能力の総称もしくは ・高次の幾何的概念の認識 統合
[図2.2.1影山「空間的思考」の概念図1
この空間的思考には,《「対象をどのように見るか(seeing itself)」》という知覚・認 知的側面と,《「対象をどのように捉えるか(Seeing aS〜)」》という理解・思考的側面 があるとし,前者を「空間能力」,後者を「幾何的思考」と呼んでいる(影山,2003,p.19)。
これら二つの思考について,影山は,次のような具体例(図2.2.2)を挙げて説明している。
1コ
(影山,2003,P.19)
[図2.2.2立方体からできる影の形]
立方体に光を当てたときにできる影の形を考える課題を与えるとする。この課題では,
単に,立方体の影の形を視覚化できるかどうかが間われるのではなく,《図形概念として 立方体が持っている諸性質が利用できるか,念頭で空間の対象をうまく構造化できるかど うか》(影山,2003,p.19)が問われると述べている。この例では,立方体を視覚的にと らえることが空間能力の側面であり,図形概念を拠り所にして立方体をとらえることが幾 何的思考の側面といえる。
(1)空間能力
まず,空間的思考力のうちの「空間能力」について,影山の見解を述べることとする。
影山によると,心理学において「空間能力」は次のように捉えられている。
《空間能力とは対象の形や大きさ,向きといった空間的な関係を認識するとともに,
それに心的な操作を施すことによって,対象を変形させたり,空間的な方向付けを 行ったりする能力である。》(影山,2003,p.!1)
17
また,空間能力の下位能力について,Eliot(1987,注1)を引用して次のように紹介してい
る。
《空間関係を認識すること(spatia1relation),視覚化(visualization)すること,
空間的な方向付けを行うこと(spatia1orientation)など様々である。》
(影山,2003,P.11)
これらを踏まえて,影山は,空間能力を次のようにとらえている。
《課題を視覚的方略によって解決するときに関与する能力で,空間関係の認識,視 覚化などの様々な下位能力を総称するものであり,これらが統合されて機能する能 力》(影山,2003,p.11)
つまり,空間能力とは,空間的な関係や位置をとらえる,視覚的な情報を適切に処理す るなどの下位能力が,相互に関わり合い,総合的に機能し,心的操作を伴って,対象への 働きかけ(変形,移動,一回転など)を行うことが可能となる能力である。
(2)幾何的思考
影山は,片桐(1988,柱2)やHershkowitz(1990,注3)の数学的な考え方と「空間的思 考」の関連について考察している(影山,2003,pp.20−24)。
表2−6は,片桐(1998)の数学的な考え方の2つの観点,「数学の方法」及び「数学の内容」
のうち,「数学の内容」に関する数学的な考え方を示している。
[表2−6数学の内容に関係した数学的な考え方1(片桐,1998)
1.構成要素(単位)の大きさや関係に着目する (単位の考え)
2.表現の基本原理に基づいて考えようとする (表現の考え)
3.ものや操作の意味を明らかにしたり,広げたり,それに基づいて考えようとする (操作の考え)
4.操作のしかたを形式化しようとする (アルゴリズムの考え)
5.ものや操作の方法を六つかみにとらえたり,その結果を用いようとする (概1括的把握の考え)
6.基本的法則や性質に着目する (基本的性質の考え)
7.何を決めれば何が決まるかということに着目したり,変数間の対応のルールを見つけたり,用いたりしようとする (開教的な考え)
8.事柄や関係を式に表したり,式をよもうとする (式についての考え)
注1〕E1iot,J.,(1987),Mode1sofpsycho1ogica1space1缶。mapsychometric,deve1opmenta1,anaanexperimentaIappmach,New
Yo王k:Springe1=・Ve1=1ag.
注2)片桐重男(1988),『数学的な考え方の具体化』,明治図書
注3〕Hershkowitz,R.,(1990),P昌ycho1ogica1AspectsofLearningGeomet期inNeshe巧Pand K皿patrick,J.(eds.),Mathematics and Cognition1A Research Synthesis by the IntemationaI Group此r the Psycho1ogy ofMathematics Eaucation,Cambridge Unive工sity P工ess,PP.70・95
18
影山は,片桐(1998)の示す数学的な考え方が,図形の学習内容に関わっているとし,
表2−6に示した8つの考え方のうち,特に,①図形認識や概念の深化,②図形に関する関 係や操作の意味の理解,③作図や証明に関する学習内容に関わりが深いものとして,以下 の5点(表2−7)に焦点を当てている(影山,2003,p.22)。
[表2−7影山の「図形・空間の学習内容に関連する数学的な考え方」1 構成要素とその関係に着目しようという考え
基本的な性質や法則に着目していこうという考え
操作の意味を理解し,それに基づいて考えようとすること ものや操作を概括的に捉えようとする考え
約束に基づいて表現したり,証明を行ったりすること
(単位の考え)
(基本的性質の考え)
(操作の考え)
(概括的把握の考え)
(表現の考え)
また,Hershkowitz(1990)が挙げる「高次の概念(Higher−Level Concepts)」(表2−8)
について,次のように述べている。
《Hershkowitz(1990)は,Logoのようなプログラムを用いて図形の概念や性質を生 徒に探求させるという学習指導において,幾何的言語を用いるプログラムの修正は 生徒にとって非常に難しいことを述べ,その原因の1つとして,(生徒たちが直観的 に捉えられるレベルよりも難しいという意味で)例えば,次のような高次の幾何的 概念や関係が理解できていないからであるという。》(影山,2003,p.22)
[表2−8Hershkowitz(1990)の「高次の概念(Higher−Level Concepts)」]
一線対称(Axial Sy㎜etry)
・測定(Measurement)
A.測定される長さや面積,体積などの量は保存されるということ (COnSerVatiOn)
B。測定の単位や単位の反復の青味
(任意の単位,決められた単位,測定の道具を正しく使うこと)
C.測定された量を計算するための公式
・相似性(Similarity)
影山は,このHershkowitz(1990)の考えを中心にして,次の表2−9に示すようにr高次 の幾何的概念」を補完している。
19
[表2−9影山の「高次の幾何的概念」コ(影山,2003,p.23)
・空間内の対象の位置関係…空間内の垂直・平行関係およびねじれの位置。個々の図形を 構成している要素どうしの位置関係だけでなく,三次元空間において図形とうしの位置 関係を考える際に求められる。
・空間概念…空間は縦・横・高さの3つの方向に広がっているということと,空間概念の 特徴である無限の広がり,連続性および楯密性。これらの概念は,思考の対象が個々の 図形のみではなく,図形を三次元空間において考えられる際に求められる。
・対称性…線対称および点対称。
・合同性…相似性の特別な場合。
影山は,「図形・空間の学習内容に関連する数学的な考え方」と「高次の幾何的概念の認識」
を「幾何的思考」ととらえているのである。表2−10に示すのは,影山が幾何的思考を整理 したものである。
[表2−10影山の「幾何的思考」1(影山,2003,p.24)
① 図形・空間の学習内容と関連する数学的な考え方
・構成要素(単位)の大きさや関係に着目する (単位の考え)
・表現の基本原理に基づいて考えようとする (表現の考え)
・ものや操作の意味を明らかにしたり,広げたり,それに基づいて考えようとする (操作の考え)
・ものや操作の方法を大づかみにとらえたり,その結果を用いようとする (概括的把握の考え)
・基本的法則や性質に着目する (基本的性質の考え)
② 高次の幾何的概念の認識
・空間内にある対象の垂直・平行関係,ねじれの位置の認識 [空間内の対象の位置関係の認識]
・三次元性や無限の広がり,連続性および緻密性の認識 [空聞概念の露醐
・線対称および点対称の認識 [対称性の認議]
・測定一量の保存,測定単位の認識など一
・合同性および相似性の認識
これまで述べてきた(1)空間能力及び(2)幾何的思考を合わせたものを,影山は「空 間的思考」と呼んでいるのである。
20
3.國本のとらえ方:「空問直観カ」
國本(1995)は,空間観念,表象能力の育成が重視されているとし,心理学的観点,数 学教育的観点に基づき,「空間直観力」を提案している。
國本によると,サーストンの知能の因子説では,「空間」能力は,《対象を2次元または 3次元で思考する能力》,《物体の空間における関係を理解する能力》であると考えられ
ている。
この「空間」能力は,「直観化」「空間的関係」「空間的方向づけ」に分けられ,それぞれ を次のように示している。
《直観化:表象内容を思考上で操作できる能力
空間的関係:対象やその部分の空間的関係を正しく把握し,表象する能力 空間的方向づけ:空間内に自分白身を正しく組み入れる能力》
(國本,1995,P.415)
國本は,図2.2.3に挙げる8つの能力をサーストンの3つの能力と対応させ,「空間直観 力」と規定している(國本,1995,pp.4!5−416)。
直観化
空間的関係
空間的方向づけ
①図形を認める力
②立体を構成する力
③操作を見通す力
④図形を見抜く力
①立体や空間の広がりをとらえる力
②立体を図で表現する力
①位置をとらえる力
②空間自由移動能力
[図2.213 「空間直観力」の8つの能カゴ
この「空間直観力」の育成のためには,具体的操作活動だけではなく,念頭操作を通し てできた《表象像(國本,1995,p.413)》を考察する能力が必要であると述べている。
21
4.狭間らのとらえ方:「空間思考」
狭間ら(2000)の研究において,r空間思考」が,次のように捉えられている。
《実在的空間および抽象的空間に関わる課題の遂行過程で,いろいろな直観的基盤
(ア.事物・立体模型,写真など;イ.見取図,展開図,投影図などの各種図,地 図,ビデオ,コンピュータの画像など;ウ.言語・記号など)をもとに,空間像を つくり操作をする知的活動》(狭間ら,2000,p.8)
狭間ら(2000)は,「空間思考」に関する児童・生徒の実態調査に基づき,数学教育にお ける「空間思考」の特性や機能を考察し,空間図形教材の開発と指導の観点を導いている。
狭間らの「空間思考」は,実在的空間と抽象的空間での課題遂行において行われる知的 活動である。思考の基盤となる対象を,抽象度の程度,直観性の機能の違いによって,三 っ(ア、実際的モデル,イ.規約的な図表示,ウ.言語・記号・式)に分類し,これらの 対象は,空間像の構成と操作によって,関連づけられるとして,次のような図(図2,214)を 示している。
〆〃帖■〆 イメージ ヘ\
一 ノ \ 、
婁粥
(狭吊 2002 .10)
[図2.2.4 空間思考]
また,狭間らは,「空間思考」の主軸(観点)として、次の6点を設定している。
《①上記ア,イ,ウ注*〕にもとづく空間像の構成
②空間像の操作のタイプ
a.像の空間的な位置の変化を必要とするもの b.像の構造の変化を必要とするもの
c.aとbの合成
22
③空間像の操作の柔軟性:上記ア,イ,ウ間の,特に図表示間の移行の可能性と 柔軟性,つまりその移行における空間像のきり換えの可能性と柔軟性
④立体・空間図形の2次元表現.
⑤空間における定位の体系の移行(身体的スキーマから他の座標系への移行)
⑥視点の変更と統合 》 (狭間ら,2000,p.8,*〕の注は著者)
この空間思考の主軸(観点)に基づく調査問題の一部を,次に紹介する。
図2.2.5に示す問題では,ポリキューブの通り抜けという課題遂行場面で,次のような 能力を見ることができると考えられている。
匹φ回11111業1機;;:llll:1も阻
み 蛸11
綱畦
このなかで,板の穴を通り抜けできるのは,どの立体ですか。
すべて選んで,番号をかいてください。
[図2I2.5 ポリキューブの通り抜け問題 ](狭間ら,2000,p.30)
・立体の回転・・・・… 主軸①②
・平面上での向きの変更・・主軸①②
・立体の投影的な見方… 主軸①③
・視点の自由な変更・… 主軸①⑥
注*)上記ア,イ,ウとは,以下のことである。
ア.事物・立体模型,写真など
イ.見取図,展開図,投影図などの各種図,地図,
ウ.言語・記号など
ビデオ,コンピュータの画像など
23
図2.2.6に示す問題は,平行四辺形をつくるという条件に合う,点の位置と高さを決定 する課題を通じて,平面や空間的な方向感覚やイメージによる構成カ(主軸①④⑤⑥)を みる問題である。
正方形のタイルでしきつめられた地面 があります。
長さが,それぞれ,4,3,2,であ
る3本の棒を,図のような位置に,ま っすぐ立てました。
そして,もう1本別の棒をまっすぐに
立てて,4本の棒の先をロープで結んで,平行四辺形をつくろうと思います。
第4の棒として,どの位置に,どんな長さの棒を立てればよいですか。下の図に,考えられる ものをすべてかきこんでください。そして,その理由も書いてください。
[図2.2.6 平行四辺形をつくる問題コ(狭間ら,2000,p.78)
24
第3節 「空間的思考カ」とその構成要素
1 「空間的思考カ」の概念規定
本章前節において先行研究における「空間的思考力」のとらえ方を整理した。その中 で,主として,國本(1995)の「空間直観力」を援用し,筆者の考える「空間的思考力」
を,次のように規定する。
r空間的思考カ」とは,r直観的思考カ、空間的関係をとらえるカ、空間的位置をとら
えるカの三つのカから構成されるカである。」
「空間的思考力」を図に表せば,図2.3.1のようになる。
空間的思考カ
I
直観的思考カ
I
空間的関係を
とらえるカ皿 空間的位置を
とらえるカ
[図2.3.1 「空間的思考力」]
さらに,これら三つの力の構成要素について,國本(1995)の「空間直観力」,狭間ら(2000)
のr空間思考」を参考にして,図2,312のように明確化した。
25
「空間的思考力」
I:直観的思考力
①空間図形を認識する力 ②立体を構成する力
③空間イメージを操作する力 ④空間図形を見抜く力 I1:空間的関係をとらえる力
①立体や空間の広がりをとらえるカ
②立体を図で表現したり,図から立体をイメージしたりする力 ③立体を分類する力
㎜:空間的位置をとらえる力 ①位置をとらえる力 ②空間自由移動能力
[図2.3.2「空間的思考力」の諸能力]
(注)以下では,例えば,「空間図形を認識するカ」を示すのに,「I一①」と表すことにする。
2.r I 直観的思考カ」1こついて
次の①から⑤の能力からなる力を「直観的思考力」と呼ぶ。
①空聞図形を團識するカ
國本(1995)は,《具体物から立体図形を抽象したり抽象的な立体図形から具体物を想起 したりすることができる力(國本,1995,p.415)》として,「図形を認める力」を提案し ている。例えば,「図形を認める力」は,図2.3.3に示しているような小学1年生の学習内 容「身の回りにあるものの形」において学習できると考えられる。具体物を手にとって操 作しながら,その概形をとらえ,立体図形の特徴や機能を知ることが期待される学習内容 である。この能力は,特に,低学齢期において,大切に培いたい力である。
(啓林館,2001,小学1年, P.26)
[図2.3.3 I一① 直観的思考力 図形を認める力]
26
筆者は,この「図形を認める力」を含めた,次のような能力が「空間図形を認識する力」
であると考える。
「空間図形を認識するカとは.具体的モデル,規約的な図、記号的モデルを基に,空間 イメージを構成するカである。」
ここで,「図形」や「立体」を認識するという表現ではなく,「空間図形」という表現を 用いた。その理由は,小学校での学習の中心は立体図形であるが,その実は,空間内の直 線,空間内の平面も考察の対象になり,また,中学校では,空間図形を扱うことになるか
らである。
②立体を構成するカ
國本(1995)は,「立体を構成するカ」を,《ひごや粘土,厚紙などを使って立体を構成 することができる力(國本,1995,p.415)》であると、規定している。筆者もこの考えに 基づき,「立体を構成する力」を次のように考える。
「立体を構成するカとは,立体の構成要素に着目しながら,立体を構成するカである。」
図2.3.4は,直方体の頂点,辺の数などの構成要素とそれらの関係を理解するための問 題である。箱の形のスケルトン模型を作るために必要な粘土圧(頂点)の数とびこ(辺)
の長さや本数を調べ,立体を構成する活動を行う。このような学習場面で活かされる力で
ある。
(東京書籍,2010,小学2年下,p.78)
[図2.3.4 1一② 直観的思考力 立体を構成する力]
また,図2.3.5は,展開図から正十二面体をつくる問題である。この問題でも,「立体を 構成する力」が必要となる。
27
図のように正五角形AB CD Eをつくり,その対角線を ひくと,正五角形P QR S Tができる。この正五角形の
対角線をのばすと,PQRSTのまわりに同じ大きさの
正五角形が5つできる。右の図の太い線で切り,点線で折りまげると,正十二面体の 半分ができる。
この方法を使って,正十二面体の模型を厚紙で作れ。(啓林館,1967,中学1年,p.204)
[図213,5 I一② 直観的思考力 立体を構成するカ1
③空聞イメージを1果作するカ
國本(1995)は,「操作を見通すカ」を,《操作を加えた後の図形の変化を見抜いたり図 形に加える操作を見通す力(國本,1995,p.415)》と捉えている。図形への操作やその変 化を見通すには,空間イメージの構成と操作が必要となる。そこで,筆者は,「空間イメー
ジを操作する力」を次のように捉える。
「空間イメージを操作するカとは、単純な操作(立体の切断,平面図形の回転等)を見 通すカ,及び,複雑な動き(立体の回転や移動、合成・分解等)を念頭操作1こよって追 跡していくカである。」
図2.3.6の問題では,長方形の紙を円筒状にした図形を切断すると,どのような形にな るかというものである。
トイレットペーパーの芯をこの線にそって切り開いて 森 ・◆
広げます。どんな形になるでしょうか。 . (東京書籍,2010,小学5年下,p.103)
[図2.3.6 I一④ 直観的思考力 空間イメージを操作する力]
図2.3.7の問題では,平面図形を直線皿を軸として回転させた後の立体を想起する能力が 求められる。空間イメージを見取図に表す能力は,後述する「lI一②立体を図で表現した
り,図から立体をイメージしたりする力」に含まれるものである。
28