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  「食」を視点にした小学校社会科授業の開発研究

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  「食」を視点にした小学校社会科授業の開発研究

一第3学年単元「加西市の農家(ゴールデンペリーA)のしごと」の場合一

平成25年2月

 教育実践高度化専攻 小学校教員養成特別コース

P10078H 平川泰海

(2)

目次

序 章 研究の目的と方法

 第1節 研究の動機と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…  1  第2節 研究の方法と対象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…  2

第1章 学校教育における「食」の位置づけ

 第1節  「食:育」関連法規における喰」の位置づけ・・・・・・・・・・…  3  第2節  「食」を教材として扱う意義・・・・・…  」・・・…  ●・● ●9

第■章  「食」を視点にした社会科授業

 第1節  「食」と小学校社会科の関連性・・・・・・・・・・・・・・・…  16  第2節 社会科授業における「食:」の意義・・・・・・・・・・・・・・…  21

第出好 地域素材「ゴールデンペリーA」を活用した社会科授業の構想

 第1節 加西市の特産物「ゴールデンペリーA」の概要・・・・・・・・…  29  第2節 第3学年単元「農家のしごと」の分析・・・・・・・・・・・・…  40  第3節 地域素材を活用した授業構想・・・・・・・・・・・・・・・・…  54

第IV章  「食」を視点にした社会科授業モデルの開発

 第1節 授業実践のエッセンス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…  62  第2節 教育実地研究における実践・・・・・・・・・・・・・・・・・…  64

終 章 研究の成果と課題

 第1節 研究の成果・・・・・・・・・・…   ●. ●●●● ●. ●133  第2節 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…  146

参考文献 謝辞 巻末資料

(3)

序章 研究の目的と方法 第1節 研究の動機と目的

 平成17年食育基本法制定後,「食育」の周知は77.50/・i)まで進んでいる。これを受け,

第2次食育推進基本計画(平成23年〜27年度)では,今後の食育の推進に当たっては,

単なる周知にとどまらず,国民が「食料の生産から消費等に至るまでの食に関する様々な 体験活動を行うとともに,自ら食紅の推進のための活動を実践することにより,食に関す る理解を深めること」(食育基本法第6条)を旨として,生涯にわたって間断なく下底を推 進する「生涯当山社会」の構築を目指すとともに,食をめぐる諸課題の解決に資するよう に推進していくことが必要としている,と示している。

 平成23年4月からは,「学校における食育の推進」と明記された学習指導要領が小学校 で全面実施となっている。そして,食に関する指導の手引き(平成22年3月)には「学 校における食育は,給食の時間,特別活動,各教科等の様々な教育内容に密接にかかわっ ており,学校教育活動全体の中で体系的な食に関する指導を計画的,組織的に行っていく ことが必要である」としている。

 しかし,小学校の実践を見ると,学習指導要領解説に「食育」と明記されている家庭科,

特別活動,体育科の実践や総合的な学習の時間,道徳での実践事例が多い。また,「食:育」

の全体計画を見ても,各教科等との関連性を示すのみに留まっている。つまり,マクロな 視点での研究は見られるが,ミクロな視点での実践研究は少ない。学校全体の教育活動で,

どの時間を使って「食育」を強調した指導を行うのか,これが課題となっている2)。

 筆者は「食育」について,「食」についての興味関心を抱かせ,知識を得ることで,望ま しい行動変容に結びつかせることが重要だと感じている。「食」が極めて個人的な生活領域 3)であることを考慮しても,学童期における「食育」のもつ力は大きい。その手立てとし て,実践事例に多い栄養教育や健康教育といった内容の単発的な指導ではなく,系統性を もった指導が必要になる。つまり,「食育」を第一とした活動ではなく,「食」と教科の関 連を示した授業研究モデルおよび学習内容の策定が必要である。

 そこで,本研究は,学校教育全体で行う「食育」との関連性を示した上で,「食」を視点 にした社会科授業の開発を行うことを目的とする。研究テーマを「食育」の視点ではなく,

「食」の視点としたのは,あくまでも,教材として「食」を扱うことを意味するためであ

る。

1

(4)

第2節 研究の方法と対象

 本研究の対象は加西市立S小学校の第3学年児童(平成23年度56名,平成24年度 34名)である。研究の方法を以下に示す(図1参照)。

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       図1 研究方法の流れ

(1) 「食」を教材として扱う意義を,「食育」の関連法規および先行研究等から論じる。

(2) 参考文献から小学校社会科地域学習における理論を設定し,教科書の比較分析か    ら,授業開発の基本骨格を策定する。

(3) 社会科の単元目標と食育の目標を照らし合わせて「食」の視点を設定する。

(4) 加西市の特産物である「ゴールデンペリーA」について分析し,ウェッビングを    作成し,それを基にした指導案の作成をする。

(5) 対象とする小学校の実態に合わし,ゴールデンベリ・一一Aを使った授業を実践,分    析する。

【注及び引用文献】

1)内閣府『食育の現状と意識に関する調査』 2012年,p.8。

2)『食育フォーラム』健一社,2011年,p.71。

3)奈須正裕『学びを深める食育ハンドブック』教育ジャーナル選書2007年,p.17。

(5)

第1章 学校教育における「食」の位置づけ

第1節 「自訴」関連法規から見るこれまでの実態

 平成17年6.月に食育基本法が制定され,平成18年3,月に食育推進基本計画が策定さ れる。これは栄養の偏り,不規則な食事,肥満や生活習慣病の増加,過度の痩身志向,食 の安全,食の海外への依存,伝統的食文化の喪失などの様々な問題が生じていることが背 景にある1)。食育基本法が制定された後,食育は広く認知されるようになってきているが、

しかし,食育基本法制定前にも食育に代わる活動は行なわれている。その中心となってい たのが食品安全委員会,文部科学省,厚生労働省,農林水産省である。また,地方公共団 体や民間団体において自発的な取り組みが行なわれていた2)。協心基本法はそれまで各自 の主体的な行動であった食立を総括し,さらに法律化することで基本理念を定め,一つの 方向性を示している。また,内閣府に食:育推進会議を置き,会長を内閣総理大臣にしたこ

とにより,政府全体(国全体)で食油に取り組むことになる。

 これを受け,学校教育にも食育が求められるようになる。食育基本法の成立以前には,

家庭科や学校給食:が中心となり,食育の多くを担っており,現在でも食育は家庭科や学校 給食の時間で行われるものとイメージされがちである。家庭を中心として行われていた食:

育を学校教育で扱う意義は逆なのか。

 ここでは,まず食育基本法を中心に,食育の基本理念を確認する。つぎに,これまでの 取り組みとこれからの展望について整理する。そして,学校教育における喰」の位置づ

けを行う。

1 食育基本法制定および第2次食育推進基本計画における食育

(1)食逸基本法に見る基本理念

 食盛基本法には明確な食育の定義づけはされていないが,

以下のように記載されている。

求められる食育の姿として

 今,改めて,食育を,生きる上での基本であって,知育,徳育および体育の基礎とな るべきものと位置付けるとともに,様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を 選択する力を習得し,健全な食生活を実践することができる人間を育てる教育を推進す

ることが求められている。(食育基本法 前文2段落目)

 この文章は3つの部分から構成されている。はじめに,喰育を,生きる上での基本」

と示している。食べるもの,食べることは生命を育むうえで無くてはならない。栄養素を

3

(6)

含んだ食材を栽培または採取し,食:べられるものを選択し,それを食べることで生きてい るのである。つまり,生きるための「手段」として食が存在し,それを食べる「行為」そ のものが生きることになる。このように,「食」は私たちの生活と切り離すことはできない。

これより,「食」を育むことが「生きる上での基本」と位置づけられたことは至極当然なの である。

 次に「知育,徳育および体育の基礎となるべきものと位置付ける」と示している。知育・

徳育・体育の意味を表1に示している。これらは教育の3本柱であり,その基礎に七宝が 位置づけられたことは大きな意味がある。それは後述する基本理念を見ても分かるように,

食盛そのものに知育・徳育・体育の要素が含まれているからである。

表1 知育・徳育・体育の意味 知育

徳育 体育

知識の習得により知能を高めることを目的とする教育。

道徳心のある,情操豊かな人間性を養うための教育。

適切な運動の実践を通して身体の健全な発達を促し,運動能力や健康な生活を営 む態度を養うことを目的とする教育。

 最後に「様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し,健全 な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進すること」と示している。これ は食育を推進する上での望ましい形であり,食青の目的と考えることができる。知識をつ けることはもちろん,選択する力(能力)を身につけ,実践していくことまでを含めた食 育が望ましい形とされている。しかし,これは全世代を対象としたものである。学校教育 における,特に小学校では発達段階に応じた食育の推進が必要とされる。

 ここからは食育の基本理念について見ていく。はじめに上記したように,食育には明確 な定義は示されていない。食育基本法では基本理念を定めている。表2に示すように,理 念は定義に比べ言葉の意味に幅を持たせていると捉えられている。

      表2 定義と理念の意味 定義

理念

物事の意味・内容を他と区別できるように言葉で明確に限定すること。

ある物事についての,こうあるべきだという根本の考え。

 理念と称し,意味に幅を持たせることで,今日の食育という言葉の乱用が起きたことは 間違いではないと考える。食育という言葉が認知される代わりに,本質がないがしろにさ れていたのでは意味がない。しかし,明確な定義付けがされず,基本理念とし,言葉の幅 を持たせることで,食育の教育内容も広がる。もちろん,どこからどこまでが食素の活動 であるかのボーダーラインが見えにくくなるので,基本理念の内容を押さえておかなけれ ばならない。では,実際に食道基本法に示されている基本理念について見ていく。

(7)

表3 食育の基本理念

第2条

国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成

第3条

食に関する感謝の念と理解

第4条

食育推進運動の展開

第5条

子どもの食下における保護者,教育関係者の役割

第6条

食に関する体験活動と食育推進運動の実践

第7条

伝統的な食文化,環境と調和した生産等への配意及び農山漁村の活性化と食 ソ自給率の向上への貢献

第8条

食品の安全性の確保等における食育の役割

 この表3から分かるように,基本理念には多様な内容が含まれていることが分かる。第 2条,第3条,第7条,第8条は食育の目指すべき形や役割について記されている。第4 条,第6条は食育の推進に関わる内容であり,第5条は食育を行う者の役割について示さ れている。食育はこれらの理念に沿った活動が求められる。特に注目すべきは第2条であ

り,食下基本法に以下のように詳しく示されている。

 二二は,食に関する適切な判断力を養い,生涯にわたって健全な食生活を実現するこ とにより,国民の心身の健康の増進と豊遡形成に資することを旨として,行わな ければならない。(食育基本法 第2条)

 ここに示されている「豊かな人間形成」とは,教育の目的である「人格の完成」と近い ものを意味する。多岐にわたる基本理念の内容も,全てはこの部分に通ずるものである。

よって,図1に示すように,食育は教育を支える基礎となるとともに,食回そのものが人 間形成に資することになるのである。

教育    レ

知育 .徳 体育

食育

人格の完成を目的としている。

教育の3本柱

人格の完成を支えるとともに,食育その ものが豊かな人間形成に資する。

図1 食言の位置づけと目的

5

(8)

 食育は、単に知識教授の栄養教育ではなく,「食」に関するあらゆることを含めた教育を 通して行動変容を促し,豊かな人間形成をするとともに,人格の完成を目的としたもので ある。そこには一次予防的な意味合いも込められ,食育基本法第13条に食育を国民の責 務とまでしたことにつながる。

(2)第2次食育推進基本計画に見る,これまでの取り組みとこれからの展望

 志野推進基本計画とは町育基本法の第16条に基づき, 「食:育の推進に関する施策の総 合的かつ計画的な推進を図るため」に,食育推進会議が作成したものである。平成18年 3,月に最初の計画を策定(平成18年度から22年度まで)し,今回は平成23年度から2 7年度までの5年間について定めている。

 これまでの取り組みとして,「国は,5年にわたり,都道府県,市町村,関係機関・団体 等多様な主体とともに島育を推進してきた。その結果,すべての都道府県における食育推 進計画の作成・実施,食育の推進に関わるボランティアの数の増加,内臓脂肪症候群(メタ ホリックシントローム)を認知している国民の割合の増加,また,家庭,学校,保育所等 における食育の進展等,北斗は着実に推進されてきている。」3)としている。しかし,そ の中でも,生活習慣病有病者の増加や子どもの朝食:欠食,家族とのコミュニケーションな

しに一人で食事をとる「孤食」の存在,あるいは高齢者の栄養不足等, 「食」をめぐる諸 課題は残されている。

 これからの展望については,「今後の食育の推進に当たっては,単なる周知にとどまら ず,国民が「食料の生産から消費等に至るまでの食に関する様々な体験活動を行うととも に,自ら食育の推進のための活動を実践することにより,食に関する理解を深めること」(逃 亡基本法第6条)を旨として,生涯にわたって間断なく食育を推進する「生涯食育社会」の 構築を目指すとともに,食をめぐる諸課題の解決に資するように推進していくことか必要 である。」4)としている。

 これより,第2次化育推進基本計画では以下のポイントを示している。

▼コンセプトとして「周知」から「実践へ」

▼ 「第1 食育の推進に関する施策についての基本的な方針」に三つの重点課題を掲  げる

①生涯にわたるライフステージに応じた間断ない食育の推進  ②生活習慣病の予防及び改善につながる食育の推進

③家庭における共食を通じた子どもへの食:育の推進

 このポイントから分かることは,コンセプトにもあるように,「周知」から「実践」に重 きを置いていることである。実際,内閣府『食育の現状と意識に関する調査』(2012年)

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によると食育の周知は77.5%まで進んでいる。基本的な方針に三つの重点課題を置き,よ りよい臥位の推進を図り,「生涯食育社:会」の構築を目指していることが分かる。

2 学校教育における食言

 学校教育における食育の現状と今後の方向性について,第2次食餌推進計画では「社会 状況の変化に伴い,子どもたちの食の乱れや健康への影響がみられることから,学校,保 育所等は,子どもへの魔睡を進めていく場として大きな役割を担っており,学校や保育所 等の関係者にはあらゆる機会とあらゆる場所を利用して,積極的に短辺の推進に努めるこ とが求められている。また,子どもへの斗組は家庭の食育への良き波及効果をもたらすこ とが期待できる。このため,家庭や地域と連携を深めつつ,学校,保育所等において十分 な食育がなされるよう,適切な取組を行うことが必要である。従来,栄養分野においては,

栄養不足の観点が強調され,栄養の過剰摂取の視点がやや欠けていたとの指摘を踏まえ,

生活習慣病の予防の立場から,適切なバランス確保に留意することが重要である。」5)と している。また,取り組むべき施策として,食に関する指導の充実・学校給食の充実,食 育を通じた健康状態の改善等の推進が示されている。食に関する指導の充実については,

食:育自書(平成24年度版)でも2点示している。

○学校における食育は,子どもが食:に関する正しい知識を身に付け,自らの食生活を  考え,望ましい食習慣を実践することができることを目指し,学校給食を活用しつ  つ,給食の時間はもとより各教科や総合的な学習の時間等における食:に関する指導  を中心として行われている。

○学習指導要領の改訂により, 「学校における食育の推進」が明確に位置付けられ,

 小学校では平成23年度から,中学校では平成24年度から全面実施され,高等学校  では平成25年度から学年進行で実施されることになっている。また,特別支援学校  については,小学校,中学校,高等学校の実施時期に準じて実施されることになつ

 ている。

 ここでは,学校における別法について,「給食の時間はもとより各教科や総合的な学習の 時間等における食に関する指導を中心として行われている」としている。つまり,従来行 われて来た栄養教育・健康教育といった学習を指すのではなく,学校教育活動全体で取り 組まれていることがわかる。

 次に指導の中心として扱われる「食に関する指導の手引き」について見ていく。食に関 する指導の手引きは平成19年3月に発行され,新学習指導要領や改正学校給食法等を踏 まえ平成22年3月に改訂版が出されている。そこには,食に関する指導の目標が示され ている。6つの目標として示す内容以外にも,各地域や学校の状況に応じて,食に関する

7

(10)

指導の目標を掲げて良いことになっている。

○食事の重要性(食事の重要性,食事の喜び,楽しさを理解する。)

○心身の健康(心身の成長や健康の保持増進の上で望ましい栄養や食事のとり方を  理解し,自ら管理していく能力を身に付ける。)

○食品を選択する能力(正しい知識・情報に基づいて,食物の品質及び安全性等に  ついて自ら判断できる能力を身に付ける。)

○感謝の心(食物を大事にし,食物の生産等にかかわる人々へ感謝する心をもつ。)

○社会性(食事のマナーや食事を通じた人間関係調整能力を身に付ける。)

O食文化(各地域の産物,食文化や食にかかわる歴史等を理解し,尊重する心をも

 つ。)

 ここまでのまとめとして,学校教育で行われる食育は,食育基本法を基にしながら,食 に関する指導の手引きを中心に展開し,学校教育全体で行われるものとして存在している ことが分かる(図2参照)。

食育基本法 食育推進計画

学習指導要領 学校給食法

都道府県の 食育計画

(努力義務)

に関する指導の手引き

教科

   6つの目標

 食事の重要性・心身の健康 食品を選択する能力・感謝の心    社会性・食文化

外国語活動  の時間

学校(地域)の状況 に応じた、学習活動

を展開していく。

特別活動

(給食)

道徳

総合的な学 習の時間

市町村の 食:育計画

(努力義務)

図2 学校教育における「食」の位置づけ

(11)

第2節  「食」を教材として扱う意義

 「食」を理解しようとするとき,「どこでっくられているのか」「どんなふうにつくられ ているのか」等,「食」そのものを対象とした疑問から,「なぜ,この価格で売られている のか」「なぜ,農薬を使わなくてはいけないのか」等といった「食」から見える社会を対象 とした疑問まで多岐にわたる問題が存在する。つまり,「食」には多様な学習問題が含まれ ているのである。そして,理解する上で消費者や生産者といった複数の視点が必要になる。

「食」について飯島敏文は,「衣食住」という言葉に示されるとおり,「食」とは極めて日 常的な事物であり行為であるゆえにかえって対象化がされにくく,その含み込む要素の多 様性ゆえに教育的考察の焦点化が難しい。6)と述べている。また,「食」はあらゆる社会 的事象と関係づけることが可能であるが,その関連性のままに「食」と取り組むことは,

生命とは何か,環境とは何かというような壮大なテーマと直接に向き合うこととほとんど 代わりがない。ア)としている。つまり,「食」は多様な社会的事象と関連できる一方で,

焦点化が難しい素材であることが分かる。

 「食」という大きな素材を教材化する方法を考えることは,学校教育全体で行う食育に とって急務である。特に,栄養教育や健康教育として展開されている家庭科や体育科では ない教科について考えなければならない。教材化について飯島は,「食」の中の具体的事物 から取り組みを始め,具体的事物との関わりにおいて追求させ,具体的:事物への考察に収 束させることによって,追求対象は明確化され,限定されるようになる。8)としている。

この具体的事物とは,食品,食材であると考えられ,小学校では学校給食という「生きた 教材」が存在している。学校給食を核として展開する食育は重要である。しかし,従来行 われてきた給食指導は狭義の食育である。体験の場として給食を活用することを含め,本 来の「生きた教材」に込められた意味を再確認しなければならない。

 ここではまず,学校給食が「生きた教材」と言われる本質に迫り,論じていく。つぎに,

「食」の教材としての意義と限界を,学習内容や学習目標と照らし合わせて論じる。尚,

研究テーマにある「食」を視点にするとは,『食 を 教える・食 で 教える』といった 2点の意味を持っている。

1 生きた教材としての存在

 「生きた教材」について記載しているのは,食に関する指導の手引である。第4章で「学 校給食を生きた教材として活用した食育の推進」について書かれている。詳しく見ると,

「1.学校給食の役割」の第1パラグラフに「学校給食は,成長期にある児童生徒の心身 の健全な発達のため,栄養バランスのとれた豊かな食:事を提供することにより,健康の増 進,体位の向上をはかることはもちろんのこと,食に関する指導を効果的に進めるための 重要な教材として,給食の時間はもとより各教科や総合的な学習の時間,特別活動等にお

9

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いて活用することができます。」9)と記載している。これは,直接的に「生きた教材」に ついて記載していない事が分かる。学校給食の存在を,「食に関する指導を効果的に進める ための重要な教材」10)として示している。

 ここで,問題になるのは「学校給食は〜」という主語である。もちろん,「食に関する指 導を効果的に進めるための重要な教材」11)の一つとして存在していることに異論はない。

しかし,学校給食 だけ が「生きた教材」として存在していると考えることはできない。

「生きた」とは,適当,最適といった意味や体験的・経験的なものを意味するものである としたら,なおさらである。学校給食:だけが「生きた教材」として捉える現状があるから こそ,食育の学習活動範囲が狭くなっていると考えられる。

 そこで,教材研究法の一例として,關浩和が提唱するウェッビング法12)を用い「食」

について考える。「食」を中心としたウェッビング法の基本的視点を以下の図3で示す。

消費者

(ニーズ)

人間

(存在)

生産者

(1決)

生活 社会的条件 文化

間係 空関

環境

歴史

時後 間化

地形 自然的条件 気候

子ども

図3 「食」を中心としたウェッビングの基本的視点

 このウェッビングでは,上述してきた「食」の多様性を見ることができる。同時に,扱 われるべき学習内容も見え,視点が明確になる。つまり,中心の「食」の部分に飯島が述 べる具体的事物をあてはめることで,教材研究の視点を明確にし,学習内容が見えてくる のである。この中心部は,学校給食だけでなく,教科で扱う「食」をあてはめることがで きる。もちろん,学校給食が最も身近であることを考慮しても,その「食」にふくまれる 地域性や独自性はこのウェッビングの範囲に収まると考えられる。今回の研究は,学校給 食ではなく,第3学年の社:会科である。このような場合においても,上記のウェッビング

(13)

に当てはめて考えることができる。そして,教科から学校給食へのアプローチが可能にな るのである。この意味でも,学校給食: だけ が「生きた教材」なのではなく,教科で扱 われる「食」も「生きた教材」として存在することが分かる。

2 学習内容と学習塾標

 「食」の教材としての意義について,その学習内容について見ていく。井上伸一は中央 教育審議会教育部会が出した現代的諸課題に対応した教育から,食育をピックアップし,

社会科と総合的な学習の時間の実践および考察をしている。そこで,加西基本法に見られ る教育内容を表4のように内用知と方法知に分けている。

表4 食育基本法に見られる教育内容13)

内容的な学力方法的な学力

・食に関わる人々の様々な活動に支えられていることについて,感謝の念

・食に関する関心

・食に関わる心々の様々な活動

・伝統ある優れた食文化

・地域の特性を生かした食生活

・環境と調柏のとれた食料の生産とその消費

・わが国の食:料の需要及び供給の状況

・食品の安全性

・食料の生産から消費等に至るまでの食に関する様々な体験活動

・農場等における実習

・食品の調理

・食:品廃棄物の再生利用

・食料の生産者と消費者との交流

・学校給食

 従来,「食育」とされてきたのは,家庭科を中心とした栄養指導であり,一方的な価値注 入型の授業であったと考えられる。また,給食指導も食べ方やマナー指導について主であ ったと考えられる。もちろん,知識あっての行動変容であるが,一方的な価値注入型であ ったことは否めない。ここで井上が,教育内容を内容知と方法知に分類したことは,「どの 時間で,何を教えるか」を明確にしたといえる。この点に関して井上は,「すでに総合的な 学習の時間や家庭科で,食育の授業実践が行われているが,社会の変化に対応した十分な 内容の実践が行われているとはいえない。社会の変化に対応し,生きて働くカを身につけ るために,学校教育の中で行われる食育は,総合的な学習の時間や社会科にこそ,その役 割を求められている。」14)としている。井上が述べているように,「食」は社会の変化に

11

(14)

しい。学童期は生活習慣の確立の時 期と言われ,身体の発育が急速に伸 びる時期である。特に神経型及びリ ンパ型は100%に達し,リンパ系に 至っては190%近くまで伸びている ことが分かる。小学校段階の五輪に おいて味覚学習の重要性が誰われる のは,神経型が100%に達してしま うことが要因として挙げられる。リ ンパ型とは主に免疫力を指し,扁桃 やリンパ組織の発達を指す。食育は 決して神経型やリンパ型を主の目標 として展開されるものではないが,

意識しておく必要はある。それは身 体発育の要素は「食」にあるからで ある。これは一般型,生殖型でも同 様である。つまり,学童期の子ども は身体発育が著しく,身体発育にか かわる「食」が重要だと言えるので ある。学童期に望ましい生活習慣が

対応した存在である。つまり,「食」は現代を映す鏡であり,過去や未来を含めた変化につ いて考えることができるのである。一方的な価値注入を行い,正しいとされる行動変容を 促すだけの学習では社会の変化には対応できないのである。学校教育全体で行う「二三」

だからこそ,「どの時間に,何を教えるか」は重要である。尚,喰」と社会科については H章で詳しく述べる。

 ここで,「食」の教材としての意義として,学んだことを活かす出場が多いことが挙げら れる。各教科で学んだ知識を,学校給食を中心に活かすことができるのである。知識は必 ずしも行動には結びつかないが,「食」は生きていく上で欠かすことのできない行為として 存在する。教科で学んだ知識を体験的に学び,行動変容を促す存在として「食」は重要な 教材であるといえる。

 次に,学習目標について見ていく。「食」は学んだ知識を活かす出場が多く,行動変容に 結び付けやすいことから,その学習目標も行動を対象としている。他の教材に比べ,行動 目標が重視されることには大きな理由がある。それは,児童の身体発育に関係している。

表5のスキャモンの発達曲線から分

かるように,学童期の身体発達は著       表5 スキャモンの発達曲線15}

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(15)

ある。学童期に望ましい生活習慣が確立されないと,その後の変容は難しいと言われる。

つまり,意識しなくても,良い生活習慣が身に付いていることが重要なのである。ここに,

教材としての意義がある。「食」を教材として扱う時に,子どもの知識,能力,態度だけで なく身体発育にも関わるからである。「食」や生活習慣といったことは,子どもの家庭環境 によること大きい。だからこそ,食育は家庭の領域であり,学校で行う必要がないとされ る。この考えは正しいが,現在の日本の環境が,学校にまで食育という生活習慣にまで踏 み入らなければいけない結果を招いたのである。小学校学指導要領に明確に食育が位置づ けられたことにも,学校側がある程度,生活習慣を教育しなければならない時代だという ことを示している。また,教師の視点で考えるならば,教師は子どもにとっての師であり,

ともに生活を共にする生活者としての一面がある。特に小学校では,教科担任制を除き,

その一面が強く出る。つまり,生活者として生活の教育をしなくてはいけないのである。

それは,教師という視点に加え,大人としての責任である。そして,食育は身体発育にも 影響を及ぼすことを考えると,教師として,大人として,子どものよりよい身体発育を望 むことは当然であるから,食育は「知識も身体も教師の教育による」という言葉が当ては まる。しかし,そこには限界がある。それは小学校が病院ではなく,教師は医者ではない

ということである。つまり,子どもの身体発育について診断的行為は許されないのである。

そして,あくまでも主体は子ども,家庭にあることが食育の限界である。

 以上,「食」の教材としての意義と限界についてである。1章では,「食」は学校教育の 中で重要なモノとして位置づけられていること,「食」の教材としての魅力は多い一方で,

学習内容の多様性や行動目標の存在があることから,上手く機能させることの困難さにつ いて述べてきている。

 1章のまとめとして,「食」を教材として扱うときの手法について,那須正裕の提言を中 心に考察していく。那須は食育において知識教授,しつけ,問題解決学習の3っのアプロ ーチ16)を提言している。知識教授とは,言葉の通り児童が知識を身につけるための方法 である。食育は単に栄養の話でないとはいえ,基礎的な知識が必要であることは言うまで もない。しかし,「分かる=できる」とは違うのである。これは食育が限りなく生活に結び 付いた学習であることを意味する。よって,基礎的な知識を学習するために知識教授は不 可欠であるが,限界があると分かる。この点において那須は「知識の教授では行動までは 変わらない」17)と指摘している。同じく「しつけでは応用が効かない」18)としている。

しっけとは「躾」と表され,礼儀作法を身につけさせることである。これは主にマナーと して給食の時間においてなされる。しかし,しつけとは行動調整であるため,一貫した考 え方が必要になり,学校と家庭や社会においての考え方が違うことに限界が表れるのであ る。これはその嘉しのぎの行動規範を身につけさせてしまい,学校と学校以外の場所で食 行動を使い分けるダブルスタンダートを作る可能性を含んでいるのである。ここにも「食」

13

(16)

の教材としての限界がある。「食:」は児童に身近であり,毎日の体験からなる「生きた教材」

である。その点で,教材としての魅力はあるが,限界もある。それは,中心は家庭にある ためであり,しつけ教育に陥りがちであることだ。教師はあくまでも教材として扱い,教 科の目標を第一とし,喰」を目的として扱うのでなく,手段として捉える事を忘れてはな らない。この点において,飯島は学校教育において「食」と取り組む際には,子どもたち に特定の思想・心情をもたらすことのないような配慮が必要であるのが当然であるが,積 極的に「食」に踏み込んで扱おうとする教師に限って批判的スタンスの育成に傾きがちで ある。19)としている。筆者も喰」に関しての研究を進める中で,個人的な価値で進め る学習ではなく,科学的,客観的に学習を進めることを意識して臨んでいく。

(17)

【注及び引用文献】

1)食育基本法研究会『Q&A早わかり食育基本法』大成出版社,2007年,p.3 2)同上p.94

3)内閣府『第2次食育推進基本計画』2011年。

4)同上 5)同上

6)飯島敏文「「食」の教育的契機への郷土教育論的アプローチ→経験される対象として  の「食」の陶冶価値と教材化の視点一」『大阪教育大学紀要』第IV部門 第53巻  第2号 2005年,pp.1〜15。

7)同上 8)同上

9)文部科学省『食に関する指導の手引き』2010年。

10)同上

1 1)同上

12)關浩和『ウェッビング法一子どもと創出する教材研究法一』明治図書,2002年。

13)井上伸一「総合的な学習における現代的テーマの扱い一一食育を例とした内容分析から  一」『日本科学教育学会』21巻,2006年,pp.31〜36。

14)同上

15)「子どもの成長について」htt:〃www bea hi・ho.ne.●1・kondoul a e 1.htm 16)那須正裕・藤本勇二『学びを深める食育ハンドブック』教育ジャーナル選書,

 2007年, p.20.

17)同上p.20。

18)同上p.20。

19)井上伸一「総合的な学習における現代的テーマの扱い一食育を例とした内容分析から  一」『日本科学教育学会』21巻,2006年,pp.31〜36。

15

(18)

第E章  「食」を視点にした社会科授業の意義

第1節 「食」と小学校社会科の関連性

 周知の通り,小学校社会科の目標は「社会生活についての理解を図り,我が国の国土と 歴史に対する理解と愛情を育て,国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者と して必要な公民的資質の基礎を養う。」1)としている。中でも前半部の「社会生活につい ての理解を図り,我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を育て」ることは小学校社会科 固有のねらいとしている2)。各学年の目標の系統を見ると,理解に関する目標,態度に関 する目標,能力に関する目標に分けて示している。つまり,社会科では,知識獲得のみを

目標とするのでなく,態度や能力までを対象とした教科であると分かる。この点において,

「食」との関連性が強いものと考えられる。1章で述べて来たように,「食」は多様な学習 内容を含み,知識を活用する出場が多い。つまり,知識獲得のみでなく,態度や能力を形 成するために有効な教材であるといえる。また,目の前にする「食」は,現在の社会産物 である。「社会を知ること」を掲げる社会科において,社会を映す喰」との関連は非常に 強いのである。

 ここではまず,小学校社会科の学習内容と学習対象を見ていく。そして,研究対象であ る小第3学年でおこなう地域学習を主として「食」と小学校社会科の関連性を述べていく。

1 「食」と小学校社会科の学習対象と内容との関わり

 各学年の学習対象をみていくと,図1に示すように,小学校社会科は中学年から始まり,

同心円状に学びを進めていくことが分かる。具体的には,身近な地域社会の観察→地域社 会の観察・調査→我が国の国土我が国の歴史→国際社会・歴史といったように,身近な所 から,拡大していく。しかし,

必ずしも同心円状に進むわけ      地域(市町村・区),県 ではない。学習内容よっては,      ・第3学年・第4学年 深化・拡大が行われる。それ

は,複雑な社会構造を理解す るとき,多様な視点が必要に なるからである。

 次に,小学校社会科の視点 で作成した「食」ウェッビン グ3)を見ていく。図2を見る と,「食べること・食べるも の」の2つに大別される。

書(日本全土)

・第5学年

社会科は,このような同心円拡 大の論理になっている。虫嬢 が  愚 にオってい

世界各国(国際社会)

・第6学年

図1 学習内容と学習対象の広がり

(19)

・家族団らん  ・核家族  ・個食

・食べ方

・話題

・食環境

コミュニケーション

倉食べ・.・

・味

・におい

・触感

\家族

食欲

 ス

子一菓ユおジ

おやつ

マナー

友達

・調職ヨ

おいしさ

学校

9[ 食べるもの]. 歴史

伝統

行事食

楽しみ

文化

日本食

・ケンハク質

・炭水化物

・脂質

.ビタミン

・ミネラル

 メタポリックシンドローム  生活習慣病

 QOLの向ヒ

5大栄養素 生活習慣

栄養 健康

運動習慣

[辮起・朝・はん

〔・ボー・

・oが    か

特産物

流通

.:.1!s!1:ISI

農業 漁業 環塊 地 域

農薬

食品表示

i深

野菜

果物

食材

麟 鰹

安全・安心

販売

・消費期限と賞味期限

・食品添加物

・遺伝子組み換え食品

・食品衛生

温暖化

魚介類 畜産類

t s

1量

地産地消

図2

フードマイレージ

食料自給串

隆三論〔搬

「食」を中心に小学校社会科を視点にしたウェッビング

坐 鯉

.:一[1.2E.k.ill;iEg2ELreEli

ト一

(20)

 小学校社会科では「食べること」より,「食べるもの」としての「食」に関係性を見るこ とができる。これは,「食」自体を学ぶのでなく,「食」を対象に社会構造を見ていくこと につながる。特に,産業面の農業・漁業や地域・国の文化等,非常に結びつきが強いと分 かる。学習目標と照らし合わせると,知識・理解について指している。

 一方,行為としての「食」はマナーや生活習慣に関わるもので,学習目標に照らし合わ せると,態度や能力面を指している。つまり,「食」と小学校社会科との関連性を見ていく と,モノとしての「食」とのつながりが重視され,学習目標は知識・理解との関わりが大 きいのである。社会科授業における,「食」を教材とし扱う意義については2節で詳しく述 べる。また,社会科との関連性について飯島は以下のように述べている4)。

 社会科からのアプローチとして考えられるのは,農産物の生産と流通,また加工食 品の流通である。現代社会における流通システムは極めて複雑になっている。その中 で,子どもの給食へと道筋がつながっているものを取り上げるのが本義であろう。低 学年中学年においては流通全体へのアプローチはかなり困難であると考えられる。だ としたら,子どもたちが流通における末端小売業もしくは農産物の生産現場について 学習し,その間に流通業が介在しているということだけは押さえておく必要があるか もしれない。

 社会科からのアプローチとして特に重視したいのは,「郷土教育的なアプローチ」で ある。ここで述べる食への郷土教育的アプロ・・一チとは,むろん地域の特産品の有効利 用という趣旨にとどまるものではない。子どもにとって直接的経験が可能な「身近な 地域」において,こどもの食に直接的なつながりを持つものを見いだし,それを食:の 指導に関連づけようとするものである。

 これより,「食」と社会科との関連性は「農産物や加工食品の生産と流通」が図りやすい と分かる。そして,流通の行き着く先として学校給食を挙げることが本義であるとしてい る。また,郷土教育的なアプローチを提唱している。それは,小学校社会科目標の「我が 国の国土と歴史に対する理解と愛情を育て」ることにつながる。具体的には,地域の特産 品を扱うことを意味している。ここまでのまとめとして,以下の図3に示す。

社会科

・食べるものとしての「食」

・農産物や加工食品の生産と流通

・地域の特産物

図3 「食」と小学校社会科との関連性

(21)

2 第3学年の学習内容との関わり

 本研究の対象である第3学年の学習内容について見ていく。学習指導要領では第3学年 および第4学年はまとめて目標と内容が記されている。これより,学習内容や指導計画を 作成する時には学年を分けて考えることが必要である。学習の系統性を意識した場合,第

3学年では「身近な地域を中心とした市」までの学習,第4学年では「市から県」の学習 と位置づける。つまり,本研究の対象学年である第3学年で扱う小学校社会科の学習は地 域学習であると分かる。

 地域学習とは,単に子どもが住む地域について知るだけではない。地域を見る目を育て,

一般化を図らなければいけない。一般化とは,ここでは自分たちの住む地域のことについ て理解したうえで,「〜だから(理由),〜は(場所・地域),〜である(結果・事象)」と 言えることである。また,地域学習を通じ「地域社会に対する誇りと愛情を育てるように すること」や「観察・調査すること,地図や各種の具体的資料を効果的に活用すること」

もねらいとしている。

 では,地域学習と「食」にどのような関係性があるのか学習指導要領に示されている目 標および内容から詳しく見ていく。

〈第3学年および第4学年の目標〉

(1)地域の産業や消費生活の様子,人々の健康な生活や良好な生活環境及び安全を守る  ための諸活動について理解できるようにし,地域社会の一員としての自覚をもつよ

  うになる。

(2)地域の地理的環境,人々の生活の変化や地域の発展に尽くした先人の働きについて  理解できるようにし,地域社会に対する誇りと愛情を育てるようにする。

(3)地域における社会的事象を観察,調査するとともに,地図や各種の具体的資料を効  果的に活用し,地域社会の社会的事象の特色や相互の関連などについて考える力,

 調べたことや考えたことを表現する力を育てるようにする。

 まず,(1)の「産業や消費生活」「健康な生活や良好な生活環境」について関連が見ら れる。特に,「産業や消費生活」は「食」とのつながりが強いことは,図2のウェッビング からも分かる。(2)では「地域の地理的環境」「生活の変化や地域の発展」について関連 が見られる。「地域の地理的環境」は「食」の生産過程を知る活動,「生活の変化や地域の 発展」では,「:食」から歴史を知る活動と関連させることが可能である。(3)は主に観察 や調査といった学習方法についての目標であるが,「食」は他の教材に比べ扱いやすいと考

える。それは,「地域における社会的事象」として「食」は現れやすいためである。この点 については,第2節で詳しく述べる。次に学習内容について見ていく。

19

(22)

〈第3学年および第4学年の内容〉 ※今回は第3学年で学習する部分のみを挙げる

(1)自分たちの住んでいる身近な地域や市(区・町・村)について,次のことを観察,

 調査したり白地図にまとめたりして調べ,地域の様子は場所によって違いがあるこ   とを考えるようにする。

  ア 身近な地域や市(区・町・村)の特色ある地形,土地利用の様子,主な公共     機関などの場所と働き,交通の様子,古くから残る建造物など。

(2)地域の人々の生産や販売について,次のことを調査したりして調べ,それらの仕事  に携わっている人々の工夫を考えるようにする。

  ア 地域には生産や販売に関する仕事があり,それらは自分たちの生活を支えて     いること。

  イ 地域の人々の生産や販売に見られる仕事の特色及び国内の他地域などとのか     かわり

内容の(1)について,「身近な地域や市(区・町・村)の特色ある地形,土地利用の様子」

との関連性が見られ,(2)については,「生産や販売に関する仕事」との関連が見られる。

 また,岸田恵津らが食文化に関する学習内容を取り入れた食育実践状況の中で,「社会で は,中学年で地域の人々の生活について,昔の暮らしの様子や地域の人々が受け継いでき た文化財や年中行事,土地の特性を生かした産物などを,また,地域の生産や販売を学習 する。」5)とし,「中学年で地産地消,郷土食,産業・人,食:の継承が食文化に関する学習 内容となる。」6)としている。つまり,中学年社会科の地域学習では食文化との関連が強

く見られると分かる。

 まとめると,「食」と第3学年における社会科学習では,地域学習の中で産業や地形との 関連や,食文化に関する内容について共通点が見られることが分かる。以下図4に第1節 のまとめを示す。

社会科

6食べるものとして、

筈学

r    へ

@ 地域学習

の「食」

1  )

・農産物や加工食品

窩容

・産業や地形

1 の生産と流通

・生産や販売

食 ・地域の特産物

・文化(食文化)

殴     ノ

曳    ノ

図4 「食」と小学校社会科の関連性及び,第3学年における内容の関連性

(23)

2節 社会科授業における「食」の意義

 小学校社会科について,岩田一彦は「社会科は内容教科である」7)としている。これは 平成10年から始まった総合的な学習の時間との差別化を図る考えである。総合的な学習 の時間と社会科は身近な地域を学習対象とする点では重なりが大きい8)。この点で,岩田 は教育内容構造として,社会科は内容知を8割とし,方法知は2割としている。(図5参照)

〈社会科〉

教育…

内容知(主)8割

方法知(副)2割

〈総合的な学習の時間〉

#astt

内容知(副)2割

方法知(主)8割 図5 社会科と総合的な学習の時間の教育内容構造

 これより,社:会科は知識獲得が重要な教科であると分かる。特に,知識の構造として,

事:実的知識,関係的知識,概念的知識がある。概念的知識の獲得を目指して行われる社会 科は,階段の目指す,よりよい生活を過ごす上で欠かすことはできないのである。つまり,

概念の獲得を目指す社会科において,「食」を扱うことは,社会科の目標とする内容を網羅 しつつ,食育が目指す正しい知識に基づく行動変容の基礎になるのである。

 これまでの由良は一方的な価値注入型であったことは前述した。もちろん,科学技術の 発展で得られた知識を教え,健康教育として行われて来たことは間違いではない。しかし,

日常の体験や経験からくる,しつけ的な教育活動では,自ら「食」を選択する場面におい て応用が効かない。つまり,社会科のように,社:会システムを客観的に学び,概念を獲得 するプロセスこそ,食育にも求められるのである。この点において社会科と「食」は理想 の関係なのである。社会科にとって,「食」は教材として扱いやすく,食育の視点からは,

「食」の概念知識を教えることができるのである。言い換えれば,学校教育全体で行う食 育において,社会科で「食」を扱った授業を展開し概念的知識を獲得した上で,家庭科や 総合的な学習の時間で「食思」を第一とした教育活動を行うのが理想的である。

 第1節では,「食」と小学校社会科の関連性について,農産物や地域の特産物とのつなが りが分かった。また,第3学年においては,地域学習との結びつきが強いことが分かった。

第2節では,小学校社会科の授業における「食」の意義について述べていく。はじめに,

「食」が社会科の教材としてどのような意義をもっているかについて学習内容から見てい く。つぎに,教育手法から「食」の教材としての意義について見ていく。尚,第3学年の 地域学習を中心に述べていく。

21

(24)

1 地域学習の教育内容から見た「食」を扱う意義

 第3学年の社会科学習は地域学習である。1節で述べたように,地域学習は子どもの身 近な地域について知るだけではない。菊池義信らは地域学習について以下のように述べて

いる9)。

 地域素材を生かして学習する地域学習は「地域そのものを学ぶ」「地域を通して学ぶ」

といった二つの側面を持つ。社会科における小学校3・4年生の地域学習では,子ども たちの発達段階からも「地域そのものを学ぶ」ことが重視されることから,「地域学習」

と呼ばれる。そこで,3・4年生の社会科学習では各学校で地域素材を選択し,独自の 指導計画を作成する必要がある。

 学習の際には,具体的な観察や具体的な資料の活用を通して学ぶことが大切であり,

五感を働かせた追求活動は,自ら学び自ら考える力などの生きる力を育てていくこと になるのである。また,地域社会の一員としての自覚や誇りや愛情を育て,観察,資 料活用の技能・表現や社会的な思考・判断を育てようとするものなのである。

 菊池が述べている「地域そのものを学ぶ」「地域を通して学ぶ」とは,社会科の知識構造 に照らし合わせると前者は事実的知識に属し,後者は関係的知識に属する。(図6参照)菊 池は中学年では「地域そのものを学ぶ」ことが重視されるとしているが,「地域を通して学 ぶ」視点を含めた指導計画が必要である。それは,社会科が概念的知識の獲得を目指す教 科だからである。つまり,身近な地域の事象を知る学習で事実的知識を獲得し,地域の事 象を通して学習指導要領に示されている「産業や地形,生産や販売,文化」についての概 念的知識の獲得を目指すことが求められるのである。

      愚・

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.L{H.@.)/ ;....一 bu,

関係的知識

事実丁丁識

地域の事象から学んだ知識を一般化 する学習

地域の事象について獲得した知識を 関係づけて地域について知る学習

身近な地域の事象を知る学習

図6 知識の階層性と地域学習の関係性

(25)

 また,菊池は地域学習において「各学校で地域素材を選択し,独自の指導計画を作成す る必要がある。」10)としている。この地域素材が具体的な観察や資料の活用に大きく影響 してくる。今回の研究では「食」を地城素材として教材化する。そこで,先行研究から,

地域学習における教材化のポイントについて見ていき,「食」の教材として意義について述 べていく。

(1)地域素材として教材化に優れている「食」

   教材化を可能にする地域素材11)        対応する「食」の内容

①地形,土地利用の様子,交通の  分布

②商業活動,生産活動の特色や工  夫,つながり

③働く人,生活している人などの  地域人材

④公民館,体育館,集会所などの  公共施設

⑤先人の教え,発祥地,町並み,

 史跡,伝統芸能,祭り,神話,

 伝説,産業,伝統工芸など

消費者

(ニーズ)

 @

関連

間舶⑤人僑③

①農産物の栽培条件や流通

②農産物や食品の販売・生産活動  についての特色や工夫

③生産者・消費者・販売者・子ど  も

④農協や営農組合の集会所

⑤地域に根付く「食」の歴史

生産者

( 11 k一)

e@

蜀③ 社会的条件

en@@

刻⑤

翻④

境④環①

搬⑤

膨① 自然的条件  ¢@

候②気① 間佃  ⑤時使

一子・ども

図7 「食」と地域学習における教材化の関連性および対応ウェッビング

23

(26)

 図7は菊池義信が述べた「教材化を可能にする地域素枷として5つのポイントにまと めたものを,「食」に対応させた場合,どのような学習内容と関連するかを示したものであ る。また,1章で示した「食」を中心としたウェッビングの基本的視点に照らし合わせた。

この図7から分かるように,「食」は教材化を可能にする地域素材として,非常に優れてい ると分かる。それは,ポイントとして掲げる5つ全てに「食」は関連し,相互につながり をもっているからである。特に,中心となる「食」の部分に具体的事物として「地域の特 産物」を教材として取り上げたとき,上記した全てのポイントを見たすことが可能である。

(2)教材化のポイントに照らし合わせて見る「食」

      教材化のポイント12>

①児童の身近WWを取り上げる

②Zのかかわから,社会的意味,関心をもって追求,把握できる

③自分のカで解決できる学習問題が含まれている

④自分なりに学習計画が立てられ,見通しをもって問題を追及できる

⑤2tlgpmffi;的猛iWiが設定できる内容が含まれている

⑥児童自らが進んで調べ,観察し,創意をもって表現できる内容が含まれている

⑦学習を通して  t士△・t  ・ え   え  U の  が・tE ltである

⑧学習問題の解決によって地域社会に関心をもち,地域社会の一員としてかかわっ  ていこうとする態度が培われる

⑨学んだ後,地域の催し,行事などに参加し,地域の一員として喜びや協力の大切  さが発表できる

⑩学習を通して地域を愛し,地域が誇れることに結びつく

 菊池が示す,この10のポイントに「地域の特産物を当てはめた場合,特に期待でき るものとして,下線部の②「自分とのかかわり」,⑤「体験的・作業的」,⑦「多様な社会 的な見方・考え方を養え,学習の発展」が挙げられる。これは,後述する教育手法に関連 している。社会科授業は資料を基に,客観的に学習を進めていく。この資料が「食」に関 連するとき,出場が多い「食」は単に客観的な資料からだけでなく,体験的・経験的な学 びを可能とする。また,⑧⑨⑩の地域に対する態度等についても,「地域の特産物」を扱う ことで関連が図りやすいと考える。

 このように,「食」(特に,地域の特産物)は第3学年における地域学習において,学習 内容を網羅していることがわかる。つまり,地域学習において学校独自の教材を作成する

とき,「食」は学習内容と密接な関わりを持ち,非常に効果的な素材であると分かる。

(27)

2 地域学習の教育手法の視点から「食」を扱う意義

 地域学習について,谷山猛は「小学校第3学年の社会科学習は,地域を基盤にしている とはいっても,単に地域を知るとか,あるいは,地域についてあれもこれも学習すればよ いのではなく,地域を基盤としながら,つまり,地域社会にある最も具体的・代表的なも のをとらえ,ねらいを達成させることが大事なことになってくる。」13)としている。

地域を基盤とし,具体的・代表的なものとして「地域の特産物」を設定した場合,学習内 容との関連性が見られ,教材としての意義があると上記してきた。ねらいを達成するため には,目標とする学習内容をどのような手法で学ぶかが重要になる。

 ここでは,地域学習の教育手法から「食」を扱う意義について述べる。地域の特産物を 教材とした場合,地域学習の教育手法の視点から見て,どのような意義をもっているのか について見ていく。まず,ウェッビングを基に,「食」に存在する多様な視点について見て いく。つぎに,地域資源の活用から「食」がつなぐ人との関係について見ていく。そして,

具体的な体験・経験の学びとしての見学学習について述べていく。

(1)多様な視点が存在する「食」

 岡崎誠司は小学校地域学習において「地域の産業は,様々な要因から成立しており,自 然的要因のみから成立するほど単純ではない」14)と述べている。これは,学習内容が「常 識と言っていいような知識にとどまる」15)原因について考察したものである。つまり,

事実的知識に偏った学習内容で学びが終了している原因に,視点の固定化を指摘している のである。岡崎は,自然的要因を前提としながらも,社会的要因・経済的要因からの追求 の重要性を指摘している。これより,概念的な知識の獲得を目指すためには多様な視点の 必要性が挙げられる。複数の社会的事象を関連づけながら仕組みを捉えていく授業を構成

していくことは,社会的な見方・考え方を拡げ,深めていくことにつながるのである16)。

 「食」について見ていくと,これまでウェッビングで示してきたように自然的条件・社 会的条件が存在している。自然的条件は「食」を地形や気候,環境等の視点が存在する。

社会的条件では「食」を生産者・消費者といった人や歴史,文化といった視点が存在する。

地域の特産物を教材として学習を進めたとき,自然的条件から見ていくことで,地域の地 形等の知識を獲得できる。これは,岡崎の述べる常識といえる知識にとどまる。社会的条 件から見ていくと,生産者や消費者の存在が明らかになる。ここで,特産物が自然的条件 のみでなく,社会的条件から成立するものだと理解できるのである。尚,生産者や消費者 の視点での学習は,単に「人々の工夫」や「人々の気持ち」を扱うものではない。岡崎が 述べる経済的視点をいれることで,概念的知識の獲得が可能になるのである。

 このように,「食」は多様な視点が存在するだけでなく,生産者や消費者といった「人」

が存在することで,身近な事柄として視点の転換を図ることができるのである。

25

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